説明

微粒状農薬組成物

【課題】本発明は、簡便な製造方法により製造でき、高温多湿条件下においても良好な散布性を有し、かつ、農薬活性成分の微粒状担体からの剥離および固型製剤自体の飛散(ドリフト)が抑制できる微粒状農薬組成物を提供すること。
【解決手段】(a)農薬活性成分、(b)微粒状担体、(c)固体結合剤、(d)水および(e)化学吸着による吸水剤を混合してなり、見掛け比重が1.0〜2.0であることを特徴とする微粒状農薬組成物および(a)農薬活性成分、(b)微粒状担体、および(c)予め水溶液化または水分散液化する前処理工程を必要としない固体結合剤の粉体混合物に、(d)水を添加後、混合して農薬活性成分を固体結合剤により微粒状担体表面に接着させ、さらに(e)化学吸着による吸水剤を添加、混合して脱水工程を行なうことを特徴とする微粒状農薬組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水で希釈することなく、散布機などを用いてそのまま散布する固型製剤であって、高温多湿条件化において良好な散布性を有し、かつ、散布時の飛散(ドリフト)が抑制された微粒状農薬組成物及びその簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、固型製剤の散布時に、他の農作物や住宅などの周辺環境への飛散(ドリフト)および農作業者への曝露が懸念されるなか、従来のDL粉剤からの代替技術として、散布時に飛散が少ない固型製剤として細粒剤F(粒度分布が180μm〜710μm)、微粒剤(粒度分布が106μm〜300μm)および微粒剤F(粒度分布が63μm〜212μm)などの微粒状農薬組成物が開発されてきた。これらの微粒状農薬組成物は、DL粉剤に劣らない散布性を維持したうえで、散布時の農薬活性成分の微粒状担体からの剥離を抑制する目的で以下に例示する多くの研究がなされてきた。
【0003】
特開昭49−13338号公報(特許文献1)では、(a)非吸収性もしくは比較的非吸収性の鉱物質微粉状物と(b)その上に展着している有効成分および酢酸ビニル重合体ないし共重合体を含む展着層からなり、機械散布において該展着層が剥離することを抑制し、更に吐出の際の流動性も改良された農園芸用粒剤組成物が提案されている。
【0004】
特開2003−12406号公報(特許文献2)では、常温で液体の農薬活性成分(但し、ダイアジノン(一般名)を除く)、常温で固体の農薬活性成分を有機溶媒に溶解させた溶液又はこれらの混合物を、平衡水分含量5%以下、平均粒径3μm以下である焼成された超微粒子非晶質二酸化ケイ素と共にを非吸収性粒状担体に含浸接着させることにより、流動性が良好で、剥離による粉立ちもなく、さらに動力散布機を用いた施用においても農薬活性成分等の剥離はほとんど認められない農薬粒状組成物および該農薬粒状組成物の簡便な製造方法が提案されている。
【0005】
特開2003−12423号公報(特許文献3)では、一般名ダイアジノンを平衡水分含量5%以下、且つ平均粒径3ミクロン以下の焼成された超微粒子非晶質二酸化ケイ素と共に非吸油性粒状担体に含浸接着させることにより、流動性が良好で剥離による粉立ちもなく、更に動力散布機を用いた施用においても農薬活性成分等の剥離は殆ど認められない改良された農薬粒状組成物及び該農薬粒状組成物の簡便な製造方法が提案されている。
【0006】
特開2009−84183号公報(特許文献4)では、ミキサー内で、次の(1)〜(3)を少なくとも行う農薬粒剤又は農薬粉粒剤の製造方法
(1)担体とバインダー液を混合し、該担体の表面にバインダー層を形成する。
(2)前記バインダー層を介して少なくとも農薬有効成分を固着させる。
(3)脱水乾燥剤(半水石膏など)を混合して乾燥処理を行う。
が提案されており、熱風乾燥工程を全く行うことがなくても、農薬有効成分の剥離及び飛散の少ない特性を有する農薬粒剤又は農薬粉粒剤を製造可能とすることが記載されている。
【0007】
しかしながら、微粒状農薬組成物は、高温多湿となる夏季での散布が一般的であり、散布するまで高温多湿条件下で保管する必要がある。この様な条件下で保管された場合、微粒状農薬組成物の吸湿による流動性の低下が散布不良を引き起こし、散布機械に負荷がかかり、故障のおそれがある。また、農薬活性成分の剥離が抑制された微粒状農薬組成物であったとしても、高温多湿条件下でも同様に農薬活性成分の剥離が抑制できるとは限らず、さらに微粒状農薬組成物自体の飛散(ドリフト)も懸念される。これらの問題について、上記した特許文献1〜4には何ら記載されていない。
したがって、簡便、かつ低コストの製造方法により、高温多湿条件下でも散布性が良好であり、なおかつ、同条件下においても農薬活性成分の剥離および微粒状農薬組成物自体の飛散を抑制可能とする技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭49−13338号公報
【特許文献2】特開2003−12406号公報
【特許文献3】特開2003−12423号公報
【特許文献4】特開2009−84183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、簡便な製造方法により、高温多湿条件下においても良好な散布性を有し、かつ、同条件化においても農薬活性成分の剥離および固型製剤自体の飛散(ドリフト)が抑制された微粒状農薬組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した。その結果、微粒状農薬組成物の粒度を63〜710μm、かつ、見掛比重を1.0〜2.0に設定することにより、微粒状農薬組成物自体の飛散(ドリフト)が抑制され、さらに化学吸着により水を吸収する吸収剤を採用することにより、高温多湿条件下においても良好な散布性を維持することが可能となり、また製造コスト面でも有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
(1)(a)農薬活性成分、(b)微粒状担体、(c)固体結合剤、(d)水および(e)化学吸着による吸水剤を混合してなり、見掛け比重が1.0〜2.0であることを特徴とする微粒状農薬組成物。
(2)上記化学吸着による吸水剤(e)が無水硫酸マグネシウムであることを特徴とする(1)に記載の微粒状農薬組成物。
(3)(a)農薬活性成分、(b)見掛け比重が1.0〜2.0である微粒状担体、および(c)予め水溶液化または水分散液化する前処理工程を必要としない固体結合剤の粉体混合物に、(d)水を添加後、混合して農薬活性成分を固体結合剤により微粒状担体表面に接着させ、さらに(e)化学吸着による吸水剤を添加、混合して脱水工程を行なうことを特徴とする微粒状農薬組成物の製造方法。
(4)上記化学吸着による吸水剤(e)が無水硫酸マグネシウムであることを特徴とする(3)に記載の微粒状農薬組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微粒状農薬組成物は、製造時に熱風乾燥工程を要しないため、簡便な製造方法により低コストで得られる。また、高温多湿条件下で散布した場合でも、良好な散布性を有するだけでなく、農薬活性成分の剥離および微粒状農薬組成物自体の飛散が抑制できることからドリフト面でも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の微粒状農薬組成物についてより詳細に説明する。
<農薬活性成分について>
本発明で使用可能な農薬活性成分は、殺虫剤、殺菌剤、除草剤および植物生長調節剤などの一般的に農薬の活性成分として使用されるものであれば特に限定されず、このような農薬活性成分としては次のものが挙げられる。
例えば、殺虫剤として有機リン系(MEP(O,O−ジメチル−O−4−ニトロ−m−トリル−6−メチルピリミジン−4−イルチオホスフェート)、ピリダフェンチオン(O,O−ジエチル−O−(3−オキソ−2−フェニル−2H−ピリダジン−6−イル)ホスホロチオエート)など)、カーバメート系(BPMC(2−セコンダリーブチルフェニル−N−メチルカーバメート)など)、ピレスロイド系(ペルメトリン((R,S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル(1RS,3RS)−(1RS,3SR)−3−(2、2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレート)など)、ベンゾイルヒドラジド系、ネオニコチノイド系、トリアジン系、チオウレア系、オキサダイアジン系、フェニルピラゾール系、ネライストキシン系およびベンゾイルフェニル尿素系の殺虫剤、昆虫成長制御剤(テブフェノジド(2‘−tert−ブチル−N’−(4−エチルベンゾイル)−3,5−ジメチルベンゾヒドラジド)、ブプロフェジン(2−tert−ブチルイミノ−3−イソプロピル−5−フェニル−1,3,5−チアジアジナン−4−オン)など)天然殺虫剤、生物農薬、殺ダニ剤および殺線虫剤などが挙げられる。
【0013】
殺菌剤としては、例えば、無機銅類、有機銅類、無機硫黄剤、有機硫黄剤や、有機リン系(IBP(O,O−ジイソプロピル−S−ベンジルチオホスフェート)など)、ベンゾイミダゾール系、ジカルボキシイミド系、酸アミド系(フルトラニル(α,α,α−トリフルオロ−3‘−イソプロポキシ−o−トルアニリド)など)、トリアゾール系(テトラコナゾール((±)−2−(2,4-ジクロロフェニル)−3−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)プロピル=1,1,2,2−テトラフルオロエチル=エーテル))、イミベンコナゾール(4−クロロベンジル=N−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(1H−1,2、4−トリアゾール−1−イル)チオアセトイミダート)など)、イミダゾール系、ピペラジン系、メトキシアクリレート系、オキサゾリジンジオン系、ストロビルリン系、アニリノピリミジン系、ジチオラン系、キノキサリン系、アミノピリミジン系、フェニルピロール系、トリアジン系、シアノアセトアミド系、グアニジン系、フタリド系(フサライド(4,5,6,7−テトラクロロフタリド)など)の殺菌剤、抗生物質系殺菌剤(カスガマイシン([5−アミノ−2−メチル−6−(2,3,4,5,6‐ペンタヒドロキシ−シクロへキシロキシ)テトラヒドロピラン−3−イル]アミノ−α−イミノ酢酸)など)、天然物殺菌剤および生物農薬などが挙げられる。
【0014】
除草剤としては、例えば、フェノキシ酸系(MCPAチオエチル(S−エチル=2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)チオアセタート)、MCPBエチル(2−メチル−4−クロロフェノキシ酪酸エチル)など)、カーバメート系、酸アミド系(テニルクロール(2−クロロ−N−(3−メトキシ−2−テニル)−2’,6’−ジメチルアセトアニリド)、ブタクロール(2−クロロ−2’,6’−ジエチル−N−(ブトキシメチル)アセトアニリド)など)、アセトアニリド系、尿素系、スルホニル尿素系、ピリミジルオキシ安息香酸系、トリアジン系(シメトリン(2−メチルチオ−4,6−ビス(エチルアミノ)−S−トリアジン)など)、ダイアジン系、ダイアゾール系(ピラゾレート(4−(2,4−ジクロロベンゾイル)−1,3−ジメチルピラゾール−5−イル−トルエン−4−スルホネート)など)、ビピリジリウム系、ジニトロアニリン系、芳香族カルボン酸系、イミダゾリノン系、脂肪酸系、有機リン系、アミノ酸系、ジフェニルエーテル系(ビフェノックス(5−(2,4−ジクロロフェノキシ)−2−ニトロ安息香酸メチル))など)、ニトリル系、シクロヘキサンジオン系、フェニルフタルイミド系、シネオール系、インダンジオン系、ベンゾフラン系、トリアゾロピリミジン系、オキサジノン系、アリルトリアゾリノン系、イソウラゾール系、ピリミジニルチオフタリド系、トリアゾリノン系、無機除草剤、生物農薬などが挙げられる。
植物生長調節剤としては、例えば、エチレン系、オーキシン系、サイトカイニン系、ジベレリン系などが挙げられる。
【0015】
上記農薬活性成分は、1種で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
なお、これらに含まれる個々の具体的な農薬活性成分は、例えば「農薬ハンドブック2005年版」(財団法人 日本植物防疫協会、平成17年10月11日発行)、「SHIBUYA INDEX 9th Edition」(SHIBUYA INDEX研究会、平成13年12月15日発行)、「The Pesticide Manual Eleventh Edition」(British Crop Protection Council 発行)などに記載されている。
また、本発明において使用される農薬活性成分としては、本発明と同様の目的を果たし、微粒状農薬組成物として適用されるものであるならば、上記以外の従来公知の農薬活性成分も適用することができる。
上記農薬活性成分の添加量は、微粒状農薬組成物中に、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.05〜20重量%である。
【0016】
<微粒状担体について>
本発明で使用できる微粒状担体としては、クレー、炭酸カルシウム、タルク、珪砂、ベントナイト、軽石、ゼオライト、セピオライト、珪藻土およびアタパルジャイトなどが挙げられる。
本発明の微粒状農薬組成物は、動力散布機を装着した多口ホースによる散布が一般的であり、生物効果、散布性およびドリフト等の観点から該組成物の粒度は63〜710μm、見かけ比重は1.0〜2.0が好ましい。さらに好ましくは粒度63〜300μm、見かけ比重は1.4〜1.8である。このような微粒状農薬組成物の粒度および見掛け比重が調整可能となるような微粒状担体であれば特に限定されないが、特に珪砂が好ましい。また、2種以上の微粒状担体を併用してもなんら問題はない。
本発明で使用できる微粒状担体の添加量は、微粒状農薬組成物中に通常40.0〜99.9重量%、好ましくは70.0〜99.8重量%である。
【0017】
<固体結合剤について>
水の介在により接着力を発現する固体結合剤は、微粒状担体の表面に農薬活性成分を接着し、その後、水分を除去することにより微粒状担体と農薬活性成分が強固に架橋され、農薬活性成分の微粒状担体からの剥離を抑制することができる。したがって、グリセリン、ポリブテン、流動パラフィンなどの液体結合剤を使用すると、農薬活性成分と微粒状担体の架橋部分が液体であるため、固体結合剤と比較して弱い強度の架橋となり、農薬活性成分の微粒状担体からの剥離によるドリフト抑制には不十分である。
本発明に使用可能な固体結合剤としては、天然系、半合成系および合成系の水溶性高分子類が挙げられる。
例えば、天然系の水溶性高分子としては、デンプン、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、マンナン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール、ローカストビーンガム、キサンタンガム、デキストラン、カードラン、プルラン、ゼラチンおよびカゼインなどが挙げられる。
また、半合成系の水溶性高分子としては、デキストリン、サイクロデキストリン、可溶性デンプン、α化デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
また、合成系の水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
これらのなかで好ましいのはデンプン、デキストラン、デキストリン、サイクロデキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシドであり、さらに好ましいのはサイクロデキストリン、ポリエチレンオキシド、カルボキシメチルセルロースである。
なお、本発明に使用可能な固体結合剤は、予め水溶液化または水分散液化する前処理工程を必要とせず、農薬活性成分と微粒状担体とを混合粉体化後、水を添加し、混合することにより農薬活性成分と微粒状担体との間に十分な接着力を発現させることができる。
本発明に使用可能な固体結合剤の添加量は、微粒状農薬組成物中に通常0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%である。添加量が0.1重量%未満になると微粒状農薬組成物の表面に付着している農薬活性成分が剥離しやすくなることより生ずるドリフトが問題となり、また、10重量%を超えても奏される効果に影響はないので、10重量%を超えるとコスト的に不利である。
【0018】
<水について>
固体結合剤による農薬活性成分の微粒状担体への接着および架橋部分形成には、水が必須成分である。前述の通り、固体結合剤は水の存在下で接着能を発現し、農薬活性成分を微粒状担体表面に接着後、水分除去により架橋部分が形成される。したがって、水が存在しないと固体結合剤は接着能が発現されず、架橋部分も形成されないため、農薬活性成分自体の飛散(ドリフト)が懸念される。
なお、本発明に使用可能な水の添加量は、微粒状農薬組成物中に通常0.1〜15重量%、好ましくは0.3〜10重量%である。添加量が0.1重量%未満になると固体結合剤の接着能が不十分なため、微粒状担体からの農薬活性成分の剥離により生ずるドリフトが問題となり、また、15重量%を超えても奏される効果に影響はないので、15重量%を超えるとコスト的に不利である。
【0019】
<吸水剤について>
本発明の微粒状農薬組成物において、化学吸着による吸水剤は、製造上の簡便性および高温多湿条件下における良好な散布性を維持するために重要である。すなわち、製造時には、遊離水分の吸着により熱風乾燥工程を省略することができるので簡便であり、コスト的に有利である。そして、高温多湿条件下では、湿気を吸収することにより該組成物の流動性低下を防ぐ作用を有するので良好な散布性を維持するために重要である。したがって、吸水剤に求められる性質は、吸水機構が水との化学吸着(水との化学反応による脱水)であること、および吸水後に固結しないか僅かな固結にとどまることがあげられる。吸水機構が物理吸着になると、水は吸着されているものの遊離状態で存在しているため、製剤の流動性低下による散布不良が発生する。また、化学吸着による吸水剤であっても、半水石膏などのように吸水後に固結してしまうと、製造時に固結部位の解砕工程が必要となり、コスト面で不利となるだけでなく、高温多湿保管時の吸湿により生じた固結塊が散布不良の原因となる。
本発明に使用可能な化学吸着による吸水剤としては、有機酸の塩類、無機酸の塩類、酸無水物および酸化カルシウムなどが挙げられる。
有機酸の塩類および無機酸の塩類は、結晶水として水を捕捉可能であればよく、水和物でもなんら構わないが、製造面およびコスト面から結晶水の取込量が多い無水物が好ましい。
有機酸の塩としては、クエン酸三ナトリウム(無水物)、コハク酸二ナトリウム(無水物)、酢酸カルシウム(無水物および1水和物)、シュウ酸カルシウム(無水物)、酒石酸カリウムナトリウム(無水物)、L−酒石酸ナトリウム(無水物)、乳酸カルシウム(無水物)、およびリンゴ酸ナトリウム(0.5水和水物)などが挙げられる。
また、無機酸の塩としては、塩化カルシウム(無水物、1水和物、2水和物および4水和物)、塩化マグネシウム(無水物、6水和物および8水和物)、炭酸ナトリウム(無水物、1水和物および7水和物)、ピロリン酸ナトリウム(無水物、6水和物、10水和物および16水和物)、硫酸アルミニウム(無水物および1水和物)、硫酸アルミニウムアンモニウム(無水物)、硫酸アルミニウムカリウム(無水物)、硫酸アルミニウムナトリウム(無水物)、硫酸銅(II)(無水物、6水和物、10水和物および16水和物)、硫酸ナトリウム(無水物、2水和物および7水和物)、硫酸マグネシウム(無水物、1水和物、6水和物および7水和物)、リン酸一水素カルシウム(無水物)、リン酸ナトリウム(無水物、0.5水和物、6水和物および8水和物)、リン酸水素二ナトリウム(無水物、2水和物および7水和物)、リン酸二水素ナトリウム(無水物、1水和物および2水和物)、リン酸一水素カルシウム(無水物)およびリン酸二水素カルシウム(無水物)などが挙げられる。
また、酸無水物としては、無水コハク酸、無水フタル酸などが挙げられる。
これら化学吸着による吸水剤の中では、無水乳酸カルシウム、無水シュウ酸カルシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸アルミニウムカリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸一水素カルシウム、無水コハク酸が好ましいが、吸水速度および吸水量、水和物時の形状、流動性、作物薬害に対する安全性、並びにコスト面から、特に無水硫酸マグネシウムが好ましい。
本発明に使用可能な吸水剤の添加量は、製造時の加水量に依存し、製造工程の簡便性および高温多湿条件下での散布性の観点から、水と化学量論的に吸着する量以上に添加することが好ましい。微粒状農薬組成物中の含有量としては、通常0.1〜25重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。
【0020】
<その他の成分について>
本発明の微粒状農薬組成物には、補助剤として、上記の必須成分のほかに、必要に応じて、界面活性剤、粉状担体(ホワイトカーボン、珪藻土、ガラス質粉末、酸性白土、尿素、乳糖、グラニュー糖など)、流動性改良剤(イソプロピルアシッドホスフェート(PAP)など)、およびpH調整剤(リン酸、クエン酸など)などを、本発明が有する効果を失わない範囲内で添加することができる。
【0021】
<見掛け比重について>
本発明では、微粒状農薬組成物の見掛け比重を1.0〜2.0に調整することが重要である。微粒状農薬組成物の見掛け比重が1.0未満となると微粒状農薬組成物自体が風などの影響で飛散しやすくなる。一方、見掛け比重が2.0を超えてしまうと、微粒状農薬組成物の体積が小さくなるために、動力散布機を装着した多口ホースなどの散布器具からの散布では、微粒状農薬組成物の吐出時間が短くなり、該組成物を均一に散布しにくくなる等の問題が生じる。
よって、微粒状農薬組成物の飛散性および散布性維持の観点からは、見掛け比重を1.0〜2.0に調整することが必須であり、さらに好ましくは1.4〜1.8に調整することである。
なお、微粒状農薬組成物の見掛け比重は、以下の方法で測定した。
(見掛け比重測定方法)
内径50mmの100mL容金属製円筒容器の上部から20cm上に、内径200mm、深さ45mmの目開き710μmの篩をおき、篩上に微粒状農薬組成物を適当量入れ、ハケで軽くはき落としながら金属製円筒容器内を満たす。その後、スライドガラスを用いて、金属製円筒容器の上部を水平にならし、余剰分の微粒状農薬組成物を除き、金属製円筒容器内の内容物の重量(Ag)を測定し、下記式より微粒状農薬組成物の見掛け比重を求めた。
【0022】
【数1】

【0023】
<微粒状農薬組成物の製造方法>
本発明の微粒状農薬組成物は、以下に示すような工程で製造できる。
農薬活性成分、見掛け比重が1.0〜2.0である微粒状担体、予め水溶液化または水分散液化する前処理工程を必要としない固体結合剤、および必要があればその他の補助成分を混合機内で混合(約5分〜2時間)し、水を添加後、さらに約5分〜1時間混合する。その後、化学吸着による吸水剤を添加し、約10分〜1時間混合して脱水工程を行なった後、必要に応じて篩別し、見掛け比重が1.0〜2.0の微粒状農薬組成物を得た。なお、農薬活性成分は、固体成分については予めJet粉砕や湿式粉砕などで微粒子化したものを用いてもよく、液体成分については吸油剤等に吸着させて使用してもよい。
本発明の微粒状農薬組成物の製造方法では、化学吸着による吸水機構を有し、かつ、吸水後も固結しないか、わずかな固結にとどまる吸水剤を使用することから、熱風乾燥工程および解砕工程を必要とせず、また、一つの混合機のみで製造できるので、簡便な製造方法であり、エネルギーおよびコスト面において、従来の製造方法よりも有利である。また、固体結合剤についても、農薬活性成分、微粒状担体および水との単純な混合工程により十分な接着力が発揮され、予め結合剤を水溶液化や水分散液化する工程がないため、より省略化された製造方法である。さらに、本製造方法に使用可能な混合機は、粉体混合可能なものであればよく、温度可変や解砕等の機能を要しないため、従来の、粉剤製造に使用してきた混合機をそのまま使用することが可能であり、経済的である。例えば、レーディゲミキサー、ハイスピードミキサー、コンクリートミキサー、ニーダー、リボンミキサーおよびパグミキサー等が挙げられる。
【0024】
<微粒状農薬組成物の使用態様>
上記により製造した微粒状農薬組成物は、動力散布機を装着した多口ホースや直噴管などを用いて作物に散布、または航空機、有人ヘリコプター、或いはラジコンヘリコプターなどを用いて空中から作物に散布、もしくは手や人力散布機で作物に散布して使用することができる。また、作物の植え穴や株元に処理、土壌混和や土壌表面に処理、または育苗箱に処理して使用することができる。
なお、本技術により得られた2種以上の微粒状農薬組成物を予め混合した後、散布してもなんら問題ない。また、多口ホースや直噴管を用いて水田に散布する場合の微粒状農薬組成物の10アール当たりの施用量は、通常0.5〜5kgであり、好ましくは1〜4kgである。園芸用の用途として作物の植穴や株元に処理する場合、または土壌混和処理に使用する場合の微粒状農薬組成物の10アール当たりの施用量は、通常0.5〜50kgであり、好ましくは1〜30kgである。
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例中の「部」とあるのは、すべて重量部の意味である。
【実施例1】
【0026】
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)97.2部、およびサイクロデキストリン(固体結合剤)0.8部をレーディゲミキサー内に添加後、約5分間混合した。次に、この混合物に水0.8部を添加して約15分間混合後、無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)0.9部を添加して、混合物の流動性が良好になるまで約20分間混合した。その後、レーディゲミキサーから混合物を取り出し微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.7であった。
【実施例2】
【0027】
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)97.0部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)0.8部、水0.8部、および無水硫酸アルミニウムカリウム(化学吸着による吸水剤)1.1部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【実施例3】
【0028】
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)97.8部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.2部、水0.8部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)0.9部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【実施例4】
【0029】
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)95.8部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)0.8部、水0.8部、および無水乳酸カルシウム(化学吸着による吸水剤)2.3部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.5であった。
【実施例5】
【0030】
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)90.8部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.2部、水0.8部、および無水フタル酸(化学吸着による吸水剤)7.9部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.3であった。
【実施例6】
【0031】
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)91.3部、サイクロデキストリン(固体結合剤)0.8部、水0.8部、および無水シュウ酸カルシウム(化学吸着による吸水剤)6.8部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【実施例7】
【0032】
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部をホワイトカーボン(補助剤)2.5部に吸油させ、さらに珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)89.3部、およびポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.8部をレーディゲミキサー内に添加して約15分間混合した。この混合物に水2.5部を添加し約15分間混合後、さらに無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.9部を添加して、混合物の流動性が良好になるまで約20分間混合した。その後、レーディゲミキサーから混合物を取り出し微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【実施例8】
【0033】
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)83.7部、デンプン(固体結合剤)2.0部、水2.5部、無水乳酸カルシウム(化学吸着による吸水剤)7.3部、およびホワイトカーボン(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.5であった。
【実施例9】
【0034】
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)87.4部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.0部、水2.5部、無水硫酸アルミニウムカリウム(化学吸着による吸水剤)3.6部、および珪藻土(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.0であった。
【実施例10】
【0035】
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)89.3部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.8部、水2.5部、無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.9部、およびホワイトカーボン(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【実施例11】
【0036】
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)79.7部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.0部、水2.5部、無水リン酸一水素カルシウム(化学吸着による吸水剤)11.3部、およびホワイトカーボン(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【実施例12】
【0037】
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)91.7部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.0部、水2.0部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.3部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【実施例13】
【0038】
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)91.7部、デンプン(固体結合剤)2.0部、水2.0部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.3部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.5であった。
【実施例14】
【0039】
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)91.7部、デンプン(固体結合剤)2.0部、水2.0部、および無水リン酸二水素ナトリウム(化学吸着による吸水剤)2.3部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【実施例15】
【0040】
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)92.3部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.8部、水2.0部、および無水硫酸アルミニウムカリウム(化学吸着による吸水剤)2.9部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.8であった。
【実施例16】
【0041】
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)85.6部、デンプン(固体結合剤)2.5部、水2.5部、無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.9部、および珪藻土(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【実施例17】
【0042】
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)84.4部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.5部、水2.5部、無水塩化カルシウム(化学吸着による吸水剤)4.1部、およびホワイトカーボン(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【実施例18】
【0043】
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)86.9部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)1.2部、水2.5部、無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.9部、およびホワイトカーボン(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【実施例19】
【0044】
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)81.2部、サイクロデキストリン(固体結合剤)2.5部、水2.5部、無水乳酸カルシウム(化学吸着による吸水剤)7.3部、およびホワイトカーボン(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【0045】
[比較例1]
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)97.8部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.2部、水0.8部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)0.9部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は0.9であった。
【0046】
[比較例2]
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)98.0部、水0.8部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)0.9部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【0047】
[比較例3]
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)98.7部、およびポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.2部をレーディゲミキサー内に添加し、約5分間混合した。この混合物に水0.8部を添加後、約15分間混練した混合物を流動層乾燥機に移し、55℃で30分間、通風乾燥処理し微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【0048】
[比較例4]
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)97.1部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)0.8部、水0.8部、およびホワイトカーボン(物理吸着による吸水剤)1.0部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.5であった。
【0049】
[比較例5]
カスガマイシン(抗生物質系殺菌剤)0.3部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)99.5部、およびポリブテン(液体結合剤)0.2部をレーディゲミキサー内に添加後、約10分間混合し微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.3であった。
【0050】
[比較例6]
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)87.4部、デンプン(固体結合剤)2.0部、水2.5部、無水硫酸アルミニウムカリウム(化学吸着による吸水剤)3.6部、およびホワイトカーボン(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は0.9であった。
【0051】
[比較例7]
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)88.2部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.0部、水2.5部、ホワイトカーボン(物理吸着による吸水剤)2.8部、および珪藻土(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【0052】
[比較例8]
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)92.2部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.8部、水2.5部、および珪藻土(補助剤)2.5部とした以外は比較例3と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.5であった。
【0053】
[比較例9]
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)89.4部、無水硫酸アルミニウムカリウム(化学吸着による吸水剤)3.6部、水2.5部、およびホワイトカーボン(補助剤)2.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【0054】
[比較例10]
IBP(有機リン系殺菌剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)95.0部、グリセリン(液体結合剤)0.5部、およびホワイトカーボン(補助剤)2.5部とした以外は比較例5と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.1であった。
【0055】
[比較例11]
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)91.5部、デンプン(固体結合剤)2.0部、水2.0部、および珪藻土(物理吸着による吸水剤)2.5部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【0056】
[比較例12]
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)93.7部、水2.0部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.3部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.0であった。
【0057】
[比較例13]
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)95.2部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.8部、および水2.0部とした以外は比較例3と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【0058】
[比較例14]
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)91.7部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.0部、水2.0部、および無水硫酸マグネシウム(化学吸着による吸水剤)2.3部とした以外は実施例1と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は0.9であった。
【0059】
[比較例15]
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、および珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)85.0部をレーディゲミキサー内にて約5分間混合後、さらに10%ポリビニルアルコール水溶液(結合剤)3.0部を添加し、約15分間混合した。この混合物に半水石膏(化学吸着による吸水剤)10.0部を添加し、約15分間混合を続けたところ、ミキサー内部に固結付着物を確認したため、一旦混合を停止し、固結付着物を掻き落とした後に混合を再開し、微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.3であった。
【0060】
[比較例16]
ピリダフェンチオン(有機リン系殺虫剤)2.0部、および珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)80.0部をレーディゲミキサー内にて約5分間混合後、さらに10%ポリビニルアルコール水溶液(結合剤)3.0部を添加し、約15分間混合した。この混合物に半水石膏(化学吸着による吸水剤)15.0部を添加後、約15分間混合を続けたところ、ミキサー内部に固結付着物を確認したため、一旦混合を停止し、固結付着物を掻き落とした後に混合を再開し、微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【0061】
[比較例17]
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)83.7部、水2.5部、無水乳酸カルシウム(化学吸着による吸水剤)7.3部、およびホワイトカーボン(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.4であった。
【0062】
[比較例18]
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)88.5部、カルボキシメチルセルロース(固体結合剤)2.5部、水2.5部、およびホワイトカーボン(補助剤)3.5部とした以外は比較例3と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【0063】
[比較例19]
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、軽石(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)85.5部、デンプン(固体結合剤)2.5部、水2.5部、ホワイトカーボン(物理吸着による吸水剤)3.0部、および珪藻土(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は1.2であった。
【0064】
[比較例20]
MEP(有機リン系殺虫剤)3.0部、珪砂(粒度:63〜300μm)(微粒状担体)82.9部、ポリエチレンオキシド(固体結合剤)0.8部、水2.5部、無水乳酸カルシウム(化学吸着による吸水剤)7.3部、およびホワイトカーボン(補助剤)3.5部とした以外は実施例7と同様にして微粒状農薬組成物を得た。
なお、得られた微粒状農薬組成物の見掛け比重は0.9であった。
【0065】
次に、試験例により、本発明の微粒状農薬組成物の有用性を示す。
本試験は、高温多湿条件化に曝された状態でのドリフト性(剥離率および飛散率で算出)、並びに散布性(吐出性および散布機への付着性を目視により確認)を評価する目的で行なった。
【0066】
<ドリフト性試験(剥離率の算出)>
35℃、湿度80%の条件下に設定したビニールハウス内に、ミゼットダスターを設置した(吐出部の地上からの高さが1mとなるように設置)。次に、ミゼットダスター吐出部の後方2mに工場扇を設置し、ミゼットダスター吐出部の風速が3m/秒となるように工場扇を稼動させた。また、ミゼットダスター吐出部の前方10mの位置にポールを立て、ポールの高さ1.5mの位置にシャーレ(直径9cm)を設置した。本装置に予め35℃、湿度80%の条件で1週間保存しておいた試料組成物(実施例1〜19および比較例1〜20で製造した微粒状農薬組成物)500gを投入し、散布後、シャーレに回収された農薬活性成分(有効成分)量を測定した。また、散布後の微粒状農薬組成物を回収し、散布後の農薬活性成分(有効成分)含有率(%)を測定した。そして、散布前の農薬活性成分含有率(%)との比較により剥離率(%)を下記式から算出した。
なお、農薬活性成分(有効成分)量は、カスガマイシンについては「農薬公定検査法注解」(昭和47年10月31日第2版、南江堂発行)第221頁の「カスガマイシンを主成分とする製剤」の分析法に従い測定し、IBP、ピリダフェンチオン、およびMEPについては高速液体クロマトグラフィー法により測定した。
その試験結果を表1(実施例)および表2(比較例)に示した。
【0067】
【数2】

【0068】
<ドリフト性試験(飛散率の算出)>
実施例1〜6および比較例1〜5の飛散率(%)は、比較例21(カスガマイシン(0.3%)粉剤)のカスガマイシン回収量との比較(カスガマイシン(0.3%)粉剤のシャーレに回収されたカスガマイシン量を100としたときの割合)により下記式から算出した。また、同様に、実施例7〜11および比較例6〜10の飛散率(%)は、比較例22のIBP(2%)粉剤を散布した場合との比較、実施例12〜15および比較例11〜16の飛散率(%)は、比較例23のピリダフェンチオン(2%)粉剤を散布した場合との比較、並びに実施例16〜19および比較例17〜20の飛散率(%)は、比較例24のMEP(3%)粉剤を散布した場合との比較により下記式から算出した。
なお、農薬活性成分(有効成分)量は、カスガマイシンについては「農薬公定検査法注解」(昭和47年10月31日第2版、南江堂発行)第221頁の「カスガマイシンを主成分とする製剤」の分析法に従い測定し、IBP、ピリダフェンチオン、およびMEPについては高速液体クロマトグラフィー法により測定した。
その試験結果を表1(実施例)および表2(比較例)に示した。
【0069】
【数3】

【0070】
<散布性試験>
散布時のミゼットダスターからの微粒状農薬組成物の吐出性および散布後の散布機内部への微粒状農薬組成物の付着性を目視により観察し、各試料組成物の散布性について下記のように評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0071】
吐出性の評価基準:
「○」は良好で実用上問題なし、
「△」は吐出ムラがあり実用上問題あり、
「×」は全量吐出せず実用上問題あり
【0072】
付着性の評価基準:
「A」はなし、
「B」は極微量、
「C」は明瞭、
「D」は多量であり、
「A」および「B」は実用上問題ないが、「C」および「D」は実用上問題ありと判定
結果を表1(実施例)および表2(比較例)に記載した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
<表の説明>
(1)ドリフト性について
表1、2から明らかなように、剥離率および飛散率から評価したドリフト性は、固体結合剤の有無および見掛け比重により影響をうけた。表1、2において、固体結合剤を使用し、見掛比重が1.4〜1.8である実施例1、4、6、8、10、13、15、17および18、並びに比較例3、4、8および11は、剥離率および飛散率ともに低い値を示し、ドリフト性は良好であった。また、固体結合剤を使用し、見掛け比重が1.0以上1.4未満である実施例2、3、5、7、9、11、12、14、16および19、並びに比較例7、13、15、16、18および19は、低い剥離率を示したが、飛散率は若干高くなったものの実用上問題ない水準であった。一方、固体結合剤を使用しているが、見掛け比重が1.0未満である比較例1、6、14および20は、農薬活性成分の剥離率は低かったものの、飛散率が高い値を示し、微粒状農薬組成物自体のドリフトが懸念される結果となった。また、見掛け比重が1.0〜2.0の範囲内であるものの、固体結合剤を使用しない比較例2、9、12および17、並びに固体結合剤の代替として液体結合剤を使用した比較例5および10は、剥離率および飛散率共に顕著に高い値を示し、農薬活性成分の剥離によるドリフトおよび微粒状農薬組成物自体のドリフトが懸念される結果となった。
【0076】
(2)散布性について
表1、2の高温多湿条件下における微粒状農薬組成物の散布性は、化学吸着による吸水剤の有無およびその種類によって影響をうけた。実施例1〜19、並びに比較例1、2、6、9、12、14、17および20の微粒状農薬組成物は、高温多湿条件下で保管後、同条件で散布を行っても実用上問題ない散布性(吐出性および付着性)を示した。特に、吸水剤に無水硫酸マグネシウムを使用した実施例1、3、7、10、12、13、16および18、並びに比較例1、2、12および14の微粒状農薬組成物は、散布後の散布機内の付着性の点ですぐれた結果を示した。一方、化学吸着による吸水剤を使用しない比較例3、5、8、10、13および18は、高温多湿条件下での保管により流動性が悪くなり、吐出ムラおよび散布機内の明瞭な付着が認められた。また、化学吸着による吸水剤として、半水石膏を使用した比較例15は、流動性が悪く、吐出ムラおよび散布機内の多量付着が認められ、散布不良となった。なお、比較例15よりもさらに半水石膏を5部増量した比較例16については、製剤中に半水石膏由来と思われる固結物が生じ、吐出ムラ及び散布機内の明瞭な付着が認められ、散布不良であった。さらに、物理吸着による吸水剤を使用した比較例4、7、11および19は、吸水剤によりある程度遊離水分を吸収しているものの流動性が悪く、全量吐出が不可能であると共に散布機内に多量の付着が認められ、散布不良となった。
【0077】
以上より、固体結合剤を使用すると共に、吸水機構が化学吸着であり、かつ吸水後も固結しないか、または僅かな固結にとどまる吸水剤を使用し、見掛け比重が1.0〜2.0である実施例1〜18の微粒状農薬組成物は、高温多湿条件下でのドリフト性および散布性のいずれについても良好な結果を与えた。一方、比較例1〜20は、ドリフト性または散布性のいずれかにおいて問題を生じており、ドリフト性については、固体結合剤を使用しない比較例2、5、9、10、12および17が剥離率および飛散率の面から不良であり、見掛け比重が1.0未満である比較例1、6、14および20は、飛散率の面からドリフト性が不良であった。また、高温多湿条件下での散布性については、化学吸着による吸水剤を使用しない比較例3、5、8、10、13および18、化学吸着による吸水剤として半水石膏を使用した比較例15および16、並びに物理吸着による吸水剤を用いた比較例4、7、11および19ともに高温多湿条件下における流動性不良から散布不良であった。
【0078】
したがって、製造方法の簡便性を有しつつも、農薬活性成分の剥離抑制および微粒状農薬組成物自体の飛散からみたドリフト性、並びに高温多湿条件下における散布性の維持には、農薬活性成分、微粒状担体および固体結合剤の粉体混合物に水、化学吸着による吸水剤の順に添加混合する工程により製造され、見掛比重を1.0〜2.0とすることが有効な手段であり、さらには化学吸着による吸水剤として無水硫酸マグネシウムを用い、見掛け比重を1.4〜1.8に調整することがより効果的な手段であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)農薬活性成分、(b)微粒状担体、(c)固体結合剤、(d)水、および(e)化学吸着による吸水剤を混合してなり、見掛け比重が1.0〜2.0であることを特徴とする微粒状農薬組成物。
【請求項2】
上記化学吸着による吸水剤(e)が無水硫酸マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載の微粒状農薬組成物。
【請求項3】
(a)農薬活性成分、(b)見掛け比重が1.0〜2.0である微粒状担体、および(c)予め水溶液化または水分散液化する前処理工程を必要としない固体結合剤の粉体混合物に、(d)水を添加後、混合して農薬活性成分を固体結合剤により微粒状担体表面に接着させ、さらに(e)化学吸着による吸水剤を添加、混合して脱水工程を行なうことを特徴とする微粒状農薬組成物の製造方法。
【請求項4】
上記化学吸着による吸水剤(e)が無水硫酸マグネシウムであることを特徴とする請求項3に記載の微粒状農薬組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−157322(P2011−157322A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21717(P2010−21717)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】