説明

微細な炭素繊維、微細な炭素短繊維およびそれらの製造方法

【課題】本発明は導電性に優れる微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維、並びにその炭素繊維および炭素短繊維を効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】新規な微細な炭素繊維は、気相成長法により製造され、炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さく、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成している。さらに、この微細な炭素繊維を短繊維化して分散性に優れた微細な炭素短繊維が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性に優れる微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維、並びにその炭素繊維および炭素短繊維を効率良く製造する方法に関する。詳しくは、触媒を使用する気相成長法による微細な炭素繊維の製造方法、およびその後、この微細な炭素繊維にずり応力を加えて、さらに短繊維化して得られる微細な炭素短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)、トランプ状(プレートレット)等に代表される微細な炭素繊維は、その形状、形態から様々な応用が期待されている。とりわけ円筒チューブ状の微細な炭素繊維(カーボンナノチューブ)は従来の炭素材料と比較し、強度、導電性等に優れるため、次世代の導電性材料として注目を集めている。
【0003】
多層カーボンナノチューブ(多層同心円筒状)(非魚骨状)は、例えば、特公平3−64606、特公平3−77288、特表平9−502487、特開2004−299986等に記載されている。
【0004】
また、魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維〔カップ積層型炭素繊維〕は、例えば、USP4,855,091、M.EndoおよびY.A.Kimらによる文献〔Appl.Phys.Lett.,vol80(2002)1267〜〕、特開2003−073928、特開2004−360099等に記載されている。この構造は、底のないカップを積層した形状である。
【0005】
さらに、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)は、例えば、H.MurayamaおよびT.maedaによる文献〔Nature, vol345[No28](1990)791〜793〕、特開2004−300631等に記載されている。
【0006】
カーボンナノチューブに代表される微細な炭素繊維の製造方法として、従来、アーク放電法、気相成長法、レーザー法、鋳型法等が知られている。この中で触媒粒子を用いる気相成長法は、安価な合成方法として注目されているが、大量生産方法は確立されていない。また生成するカーボンナノチューブは結晶性の低い不均質な繊維となるため、高い導電性を要求される場合には黒鉛化処理が必要である。
【0007】
例えば、特表平9−502487(特許文献1)には、従来技術として、特表平2−503334又は特開昭62−500943に記載の方法で製造される炭素フィブリル原料(円筒チューブ状)のXRD(X線回折)測定におけるグラファイト面間隔(d002)が0.354nmを示し、結晶性が充分でなくそのままでは導電性が低いことが記載されている。そして、このフィブリル原料を2450℃で処理することにより、グラファイト面間隔(d002)が0.340nmとなり結晶性の改善されたフィブリル材料が得られることが記載されている。
【0008】
カーボンナノチューブ(多層同心円筒状)は、グラファイト網面が繊維軸と平行であり、これに沿って電子が流れるため、単独の繊維における長軸方向の導電性は良好である。しかしながら、隣接する繊維間での導電性に関しては、側周面が円筒状に閉じたグラファイト網面で構成されているため、π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)が期待できない。従って、カーボンナノチューブを導電性フィラーとして利用したポリマーとのコンポジットにおいては、繊維同士の接触が充分に確保されないと導電性が良好に発現されないという問題がある。
【0009】
また、この構造のカーボンナノチューブの円筒状グラファイト網面は、SP2結合の炭素円筒で構成されているため、一般的に使用される工業的な方法(ボールミル、ビーズミル等)で強固な炭素SP2結合を切断して繊維をさらに短繊維化し、繊維の表面に構造欠陥を与えることなく、工業的に利用可能な微細な炭素短繊維を得ることは困難である。
【0010】
一方、魚骨状、プレートレット型(トランプ状)の微細繊維は、側周面にグラファイト網面の開放端が露出するため、隣接する繊維間の導電性はカーボンナノチューブに比べ向上する。しかしながら、グラファイト網面のC軸が繊維軸方向に対し傾斜あるいは直交して積層した構造であるため、単独の繊維における繊維軸長軸方向の導電性は低下してしまう。
【0011】
一方、短繊維化の観点では、魚骨状(フィッシュボーン型)炭素繊維は、特開2004−241300に記載されているように、繊維軸方向に傾斜を有するコーン形状の炭素基底面が積層した構造であり、炭素基底面間の層剥離や層間のずれを生じさせることが出来るため、繊維をさらに短繊維化することは容易である。しかしながら、上述のように繊維軸方向の導電性が著しく低いため、魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維のみならず、さらに短繊維化されたものも導電材としては適さない。
【0012】
プレートレット型(トランプ状)の構造も基本的に魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維〔カップ積層型炭素繊維〕と同様に繊維軸に対し垂直に炭素基底面円盤が積層した構造であるため、さらに短繊維化することは容易であるが、プレートレット型カーボンナノファイバーのみならず、さらに短繊維化されたものも、魚骨状(フィッシュボーン)型炭素繊維の場合と同様の理由で導電材としては適さない。
【0013】
上記の構造に加え、特開2006−103996(特許文献2)では、結晶格子の中核をなす炭素原子に化学的に結合した窒素原子を含み、一端が開き他端が閉じた釣鐘型の多層物質が単位構造ユニットとなり1つのユニットの閉じた端部が他のユニットの開いた端部へ差し込まれた形態の繊維構造体とその製造方法が開示されている。しかし、この繊維は、グラファイト網面において炭素原子と化学的に結合した窒素原子が含まれるため、グラファイト網面に構造的歪みが生じ、結晶性が低い、即ち導電性が低いという問題がある。
【0014】
またApplied Physics A 2001(73)259−264(Ren Z. F. ら)(非特許文献1)においても、“bamboo−structure”と称した、前記特許文献2(特開2006−103996)類似の繊維構造が報告されている。この構造体の合成は、シリカに鉄を担持した触媒を使用し、アセチレン20vol%/アンモニア80vol%の混合ガスを使用して、750℃での気相成長法によって実施されている。この報告では、繊維構造体の化学組成分析は全く記述されていないが、原料中に含まれる不活性でない窒素分の濃度が非常に高いことから(59wt%)、該繊維構造体にも化学的に炭素原子と結合した窒素原子が含まれ、構造的乱れを生じていると考えられる。また触媒重量に対する生成物重量の比が6程度と著しく低いため、繊維成長が充分でなくアスペクト比が小さいという点も問題である。
【0015】
さらに、Carbon 2003(41)2949−2959(Gadelle P. ら)(非特許文献2)においても、繊維を構成するグラファイト網面がコーン形状で、その開放端が繊維側周面に適当な間隔で露出した構造が報告されている。この文献では、クエン酸で共沈させたコバルト塩及びマグネシウム塩の混合物0.2gをHで活性化処理した後、CO及びHから成る原料ガス(H濃度:26vol%)と反応させることにより、4.185gの生成物を得ている。しかし、この方法で得られた繊維構造では、コーン形の側周面と繊維軸のなす角は22°程度と、繊維軸に対して大きく傾斜している。このため、単独の繊維の長軸方向の導電性については、前記の魚骨状炭素繊維と同様の問題がある。また、繊維成長が不充分でアスペクト比が小さいことから、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性や補強性を付与することが困難である。更に、触媒重量に対する生成物重量が21と小さいため、製造法として効率的でないばかりでなく、不純物含量が多くなるために用途が制限される。
【0016】
上記の如く様々な構造を有する微細な炭素繊維およびその製法が提案されているが、このような微細な炭素繊維をさらに短繊維化する方法についての提案は少ない。例えば、
(1)走査型トンネル顕微鏡(STM)内で繊維に通電し切断する方法(非特許文献3)
この方法では繊維を一本一本切断するので大量生産に適さない。
(2)酸と硝酸の混酸を用いて酸化分解と超音波切断を併進させる方法(非特許文献4)
この方法では炭素壁の損傷が大きいという問題点がある。また酸化による収率低下の問題もある。
(3)ボールミル切断方法(非特許文献5)
この方法では繊維側面に大きな損傷が生じ、同時にボールミルから不純物が混入する。
(4)フッ素化後、加熱切断する方法(非特許文献6)
この方法もフッ素化部分が脱離するので収率に問題があり、装置が大掛かりになるという問題もある。
(5)高速回転分散機を用い溶媒中で切断する方法(非特許文献7)
この方法は簡便ではあるが、大量処理には問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特表平9−502487号公報
【特許文献2】特開2006−103996号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Applied Physics A 2001(73)259−264(Ren Z. F.ら)
【非特許文献2】Carbon 2003(41)2949−2959(Gadelle P.ら)
【非特許文献3】Liesbeth C.Venema etal,Appl.Phys.Lett.71,2629(1997)
【非特許文献4】J.Liu etal,Science 280,1253(1998)
【非特許文献5】N.Pierard etal,Chem.Phys.Lett.335,1(2001)
【非特許文献6】Z.Gu etal,Nano Lett.2,1009(2002)
【非特許文献7】カーボンナノチューブのポリマー・溶媒への可溶化・分散技術セミナーテキスト(田路和幸 技術情報協会 2006年3月31日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のように、従来のカーボンナノチューブ等の微細な炭素繊維は、単独の繊維における長軸方向の導電性と隣接する繊維間での導電性のバランスの点で問題があった。また、効率的かつ品質の安定した製造方法が確立されておらず、商業的な利用にはコストと技術で課題がある。一方、現行の粒状カーボンブラックは、ポリマーとのコンポジット化において、性能、機能の面で満足できる状況にあるとはいえない。
【0020】
従来のカーボンナノチューブ等の微細な炭素繊維には、さらなる問題として、分散性が悪いという点が挙げられる。例えば、大量生産に適していると考えられる気相法で合成されるカーボンナノチューブは、繊維が互いに複雑に絡まった二次構造を形成しているため、樹脂等と混合する際には、分散性が悪くなる。
【0021】
本発明は、ポリマーや粉体とのコンポジット化における分散性や混練性を改善し、コンポジットの加工性に優れ、またコンポジットの導電性、熱伝導性、摺動性、補強等の機能発現に優れる微細な炭素繊維および/または微細な炭素短繊維、及びそれら効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本出願は、以下の事項を開示している。なお、本発明において、「微細な炭素繊維」とは、後述する気相成長法により得られる、図2に模式的に示される連結した炭素繊維のことを言う。また、「微細な炭素短繊維」とは、「微細な炭素繊維」にずり応力を加えて連結がいくつか切断された、図10および図11に示される炭素繊維のことを言う。
【0023】
1. 気相成長法により製造される微細な炭素繊維であって、
炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さく、
前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体を形成し、
前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成していることを特徴とする微細な炭素繊維。
【0024】
2. 前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2から30であることを特徴とする上記1記載の微細な炭素繊維。
【0025】
3. 含有する灰分が4重量%以下であることを特徴とする上記1または2記載の微細な炭素繊維。
【0026】
4. X線回折法により測定される微細な炭素繊維の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が、2〜4であることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維。
【0027】
5. X線回折法により測定される微細な炭素繊維のグラファイト面間隔(d002)が0.341〜0.345nmであることを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維。
【0028】
6. マグネシウムが置換固溶したコバルトのスピネル型酸化物を含む触媒上に、CO及びHを含む混合ガスを供給して反応させ、微細な炭素繊維を成長させることを特徴とする微細な炭素繊維の製造方法。
【0029】
7. 前記スピネル型酸化物を、MgCo3−xで表したとき、マグネシウムの固溶範囲を示すxの値が、0.5〜1.5であることを特徴とする上記6記載の微細な炭素繊維の製造方法。
【0030】
8. 前記スピネル型酸化物のX線回折測定による結晶格子定数a(立方晶系)が0.811〜0.818nmであることを特徴とする上記6または7記載の微細な炭素繊維の製造方法。
【0031】
9. 前記混合ガス中のCO/Hの容積比が、70/30〜99.9/0.1の範囲であり、反応温度が400〜650℃の範囲であることを特徴とする上記6〜8のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維の製造方法。
【0032】
10. 気相成長法により製造される微細な炭素繊維を短繊維化した微細な炭素短繊維であって、グラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で1個ないし数十個連結していることを特徴とする微細な炭素短繊維。
【0033】
11. 前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さいことを特徴とする上記10記載の微細な炭素短繊維。
【0034】
12. 前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2から30であることを特徴とする上記10または11記載の微細な炭素短繊維。
【0035】
13. 含有する灰分が4重量%以下であることを特徴とする上記10〜12のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【0036】
14. X線回折法により測定される微細な炭素繊維の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が、2〜4であることを特徴とする上記10〜13のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【0037】
15. X線回折法により測定される微細な炭素繊維のグラファイト面間隔(d002)が0.341〜0.345nmであることを特徴とする上記10〜14のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【0038】
16. 上記1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維にずり応力を加えて短繊維化して製造される微細な炭素短繊維。
【0039】
17. 上記6〜9のいずれか1項に記載の製造方法により微細な炭素繊維を製造した後、ずり応力を加えてさらに短繊維化することを特徴とする微細な炭素短繊維の製造方法。
【0040】
18. 導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、または研磨材としての上記10〜16のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維の使用。
【発明の効果】
【0041】
本発明の微細な炭素繊維では、繊維を構成するグラファイト網面の開放端が繊維側周面に適当な間隔で露出していると共に、グラファイト網面からなる側周面と繊維軸とのなす角が小さい繊維構造を有する。この微細な炭素繊維の釣鐘状構造単位集合体の繊維軸方向の結合は連続した炭素SP2結合であり、その結合力は大きく、また良好な繊維軸方向の導電性が得られる。また、本炭素繊維は繊維軸方向に対してアスペクト比が2から150程度の頻度でグラファイト網面の開放端が繊維側周面に適当な間隔で露出している部分が存在する。このため、単独の繊維における長軸方向の導電性と隣接する繊維間での導電性とをバランスよく両立させることができる。
【0042】
また、釣鐘状構造単位集合体の開放端の部分では、繊維軸に対し傾斜を持った炭素基底面で接合部が形成されている。言い換えれば、この接合部は主として炭素基底面間の結合、即ちファンデルワールス力という緩やかな結合力で釣鐘状構造単位集合体が接合している部分といえる。したがって、この部分にずり応力が加わると、容易に炭素基底面間で滑りが生じ、釣鐘状構造単位集合体は接合部から滑り抜ける、あるいは引き抜けるように切断される。
【0043】
微細な炭素繊維を微細な炭素短繊維へ短繊維化する方法は、従来の短繊維化技術として(3)で記載したボールミル切断方法と、手段としては同一である。しかし、従来の微細な炭素繊維は、繊維のほぼ全体が炭素SP2結合で出来ているため、この結合を切断するには多大のエネルギーを要す上、切断された繊維の外壁は大きな損傷を受ける。しかしながら、本発明の微細な炭素繊維は、釣鐘状構造単位集合体がファンデルワールス力で接合した構造であるため、小さなエネルギーで接合部を分離することができ、かつ小さなエネルギーで短繊維化することによって、得られた微細な炭素短繊維は何ら損傷を受けることはない。さらに、小さなエネルギーで短繊維化することは、ボールミル容器やボールに与える衝撃が小さく、これら容器やボールが削られて発生するコンタミネーションが少ないことも特徴である。このことは、実施例の表2に記載された短繊維化前後の繊維(参考例B1と実施例B1−6)について、XRDにより測定される炭素層間隔が大きく変化しないこと、真比重がほとんど変化しないこと、および表面積が短繊維化に相当する程度以上には増加しないことから明らかである。
【0044】
また、微細な炭素繊維の製造方法によれば、不純物の少ない微細な炭素繊維を効率的に製造することができるので、これにずり応力を加えて得られる微細な炭素短繊維の純度も高く、加えて、短繊維化、すなわち接合部位間の分離に大きなエネルギーを要さないので、ボールミルなどからの不純物汚染を軽微なものとすることが出来る。さらには、本発明の微細な炭素短繊維を用いることで、樹脂や粉体と均一に混合する際に要するエネルギーが小さくなる。例えば、樹脂との混合においては、高温下で大きなせん断力を必要としないので、樹脂特性を維持した導電性を有する複合材を製造することが可能であり、また、固体との混合においては、固体の結晶性を破壊することなく固体特性を維持した導電性を有する複合材を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)微細な炭素繊維を構成する最小構造単位(釣鐘状構造単位)を模式的に示す図である。(b)釣鐘状構造単位が、2〜30個積み重なった集合体を模式的に示す図である。
【図2】(a)集合体が間隔を隔てて連結し、繊維を構成する様子を模式的に示す図である。(b)集合体が間隔を隔てて連結する際に、屈曲して連結した様子を模式的に示す図である。
【図3】実施例A1で製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。
【図4】実施例A2で製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。
【図5】実施例A3で製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。
【図6】参考例A1で製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。
【図7】評価実験結果をまとめたグラフである。
【図8】実施例A3で製造した微細な炭素繊維のTEM写真像である。
【図9】微細な炭素繊維が、ずり応力により微細な炭素短繊維に引き抜かれる様子を模式的に示す図である。
【図10】実施例B1−6で短繊維化された微細な炭素短繊維のTEM像である。
【図11】図10と同様に実施例B1−6で短繊維化された微細な炭素短繊維のTEM像である。
【図12】実施例B1−6で短繊維化された微細な炭素短繊維の炭素コートLiFePOへの分散状態を示すSEM像である。
【図13】参考例B1の短繊維化される前の微細な炭素繊維の炭素コートLiFePOへの分散状態を示すSEM像である。
【図14】比較例B2のアセチレンブラックの炭素コートLiFePOへの分散状態を示すSEM像である。
【図15】比較例B3のケッチェンブラックの炭素コートLiFePOへの分散状態を示すSEM像である。
【図16】ボールミル処理による粒度分布(繊維長分布)の変化を示す図である。 (a)ボールミル前 (b)ボールミル6時間 (a)ボールミル12時間 (a)ボールミル24時間
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維は、図1(a)に示すような釣鐘状構造を最小構造単位として有する。釣鐘(temple bell)は、日本の寺院で見られ、比較的円筒形に近い胴部を有しており、円錐形に近いクリスマスベルとは形状が異なる。図1(a)に示すように、構造単位11は、釣鐘のように、頭頂部12と、開放端を備える胴部13とを有し、概ね中心軸の周囲に回転させた回転体形状となっている。構造単位11は、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、胴部開放端の円周状部分はグラファイト網面の開放端となる。なお、図1(a)において、中心軸および胴部13は、便宜上直線で示されているが、必ずしも直線ではなく、後述する図3、図8、図10および図11のように曲線の場合もある。
【0047】
胴部13は、開放端側に緩やかに広がっており、その結果、胴部13の母線は釣鐘状構造単位の中心軸に対してわずかに傾斜し、両者のなす角θは、15°より小さく、より好ましくは1°<θ<15°、更に好ましくは2°<θ<10°である。θが大きくなりすぎると、該構造単位から構成される微細繊維が魚骨状炭素繊維様の構造を呈してしまい、繊維軸方向の導電性が損なわれてしまう。一方θが小さいと、円筒チューブ状に近い構造となり、構造単位の胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。
【0048】
本発明の微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維には、欠陥、不規則な乱れが存在するが、このような不規則性を排除して、全体としての形状を捉えると、胴部13が開放端側に緩やかに広がった釣鐘状構造を有していると言える。本発明の微細な炭素短繊維、および微細な炭素繊維は、すべての部分においてθが上記範囲を示すことを意味しているのではなく、欠陥部分や不規則な部分を排除しつつ、構造単位11を全体的に捉えたときに、総合的にθが上記範囲を満たしていることを意味している。そこで、θの測定では、胴部の太さが不規則に変化していることもある頭頂部12付近を除くことが好ましい。より具体的には、例えば、図1(b)に示すように釣鐘状構造単位集合体21(下記参照)の長さをLとすると、頭頂側から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点においてθを測定してその平均を求め、その値を、構造単位11についての全体的なθとしてもよい。また、Lについては、直線で測定することが理想であるが、実際は胴部13が曲線であることも多いため、胴部13の曲線に沿って測定した方が実際の値に近い場合もある。
【0049】
頭頂部の形状は、微細な炭素繊維(微細な炭素短繊維においても同じ)として製造される場合、胴部と滑らかに連続し、上側(図において)に凸の曲面となっている。頭頂部の長さは、典型的には、釣鐘状構造単位集合体について説明するD(図1(b))以下程度であり、d(図1(b))以下程度であるときもある。
【0050】
さらに、後述するように活性な窒素を原料として使用しないため、窒素等の他の原子は、釣鐘状構造単位のグラファイト網面中に含まれない。このため繊維の結晶性が良好である。
【0051】
本発明の微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維においては、図1(b)に示すように、このような釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体21(以下、単に集合体という場合がある。)を形成している。積層数は、好ましくは2〜25個であり、より好ましくは2〜15個である。
【0052】
集合体21の胴部の外径Dは、5〜40nm、好ましくは5〜30nm、更に好ましくは5〜20nmである。Dが大きくなると形成される微細繊維の径が太くなるため、ポリマーとのコンポジットにおいて導電性能等の機能を付与するためには、多くの添加量が必要となってしまう。一方、Dが小さくなると形成される微細繊維の径が細くなって繊維同士の凝集が強くなり、例えばポリマーとのコンポジット調製において、分散させることが困難になる。胴部外径Dの測定は、集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部外径Dを便宜上示しているが、実際のDの値は、上記3点の平均値が好ましい。
【0053】
また、集合体胴部の内径dは、3〜30nm、好ましくは3〜20nm、更に好ましくは3〜10nmである。胴部内径dの測定についても、釣鐘状構造単位集合体の頭頂側から、(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点で測定して平均することが好ましい。なお、図1(b)に胴部内径dを便宜上示しているが、実際のdの値は、上記3点の平均値が好ましい。
【0054】
集合体21の長さLと胴部外径Dから算出されるアスペクト比(L/D)は、2〜150、好ましくは2〜30、より好ましくは2〜20、更に好ましくは2〜10である。アスペクト比が大きいと、形成される繊維の構造が円筒チューブ状に近づき、1本の繊維における繊維軸方向の導電性は向上するが、構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。一方、アスペクト比が小さいと構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が高くなるため、隣接繊維間の導電性は向上するが、繊維外周面が、繊維軸方向に短いグラファイト網面が多数連結して構成されるため、1本の繊維における繊維軸方向の導電性が損なわれる。
【0055】
本発明の微細な炭素繊維および微細な炭素短繊維は、釣鐘状構造単位および釣鐘状構造単位集合体については、本質的に同じ構成を有しているが、以下ように繊維長が異なる。
【0056】
まず、本発明の微細な炭素繊維は、図2(a)に示すように、前記集合体がさらにHead−to−Tailの様式で連結することにより形成される。Head−to−Tailの様式とは、微細な炭素繊維の構成において、隣り合った前記集合体どうしの接合部位が、一方の集合体の頭頂部(Head)と他方の集合体の下端部(Tail)の組合せで形成されていることを意味する。具体的な接合部分の形態は、第一の集合体21aの下端開口部において、最内層の釣鐘状構造単位の更に内側に、第二の集合体21bの最外層の釣鐘状構造単位の頭頂部が挿入され、さらに、第二の集合体21bの下端開口部に、第三の集合体21cの頭頂部が挿入され、これがさらに連続することによって繊維が構成される。
【0057】
微細な炭素繊維の1本の微細繊維を形成する各々の接合部分は、構造的な規則性を有しておらず、例えば第一の集合体と第二の集合体の接合部分の繊維軸方向の長さは、第二の集合体と第三の集合体の接合部分の長さと必ずしも同じではない。また、図2(a)のように、接合される二つの集合体が中心軸を共有して直線状に連結することもあるが、図2(b)の釣鐘状構造単位集合体21bと21cのように、中心軸が共有されずに接合して、結果として接合部分において屈曲構造を生じることもある。前記釣鐘状構造単位集合体の長さLは繊維ごとにおおむね一定である。しかしながら、気相成長法では、原料及び副生のガス成分と触媒及び生成物の固体成分が混在するため、発熱的な炭素析出反応の実施においては、前記の気体及び固体からなる不均一な反応混合物の流動状態によって一時的に温度の高い局所が形成されるなど、反応器内に温度分布が生じ、その結果、長さLにある程度のばらつきが生じることもある。
【0058】
このようにして構成される微細な炭素繊維は、前記釣鐘状構造単位下端のグラファイト網面の開放端の少なくとも一部が、前記集合体の連結間隔に応じて、繊維外周面に露出する。この結果、1本の繊維における繊維軸方向の導電性を損なうことなく、前記π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)によって隣接する繊維間の導電性を向上させることができる。以上のような微細な炭素繊維の構造は、TEM画像によって観察できる。また、本発明の微細な炭素繊維の効果は、集合体自体の曲がり、集合体の連結部分における屈曲が存在しても、ほとんど影響がないと考えられる。従って、TEM画像の中で、比較的直線に近い形状を有する集合体を観察して、構造に関する各パラメータを求め、その繊維についての構造パラメータ(θ、D、d、L)としてよい。
【0059】
次に、本発明の微細な炭素短繊維は、このようにして構成される微細な炭素繊維をさらに短繊維化して得られる。具体的には、微細な炭素繊維にずり応力を加えることにより、集合体接合部で黒鉛基底面間の滑りを生じ、微細な炭素繊維が前記集合体接合部の一部で切断されて短繊維化される。このような短繊維化により得られる微細な炭素短繊維は、集合体が1個から数十個程度(即ち100個以下、80個程度まで、好ましくは70個程度まで)、好ましくは、1個から20個連結した繊維長さに短繊維化されている。この微細な炭素短繊維の集合体のアスペクト比は2ないし150程度である。混合に適する微細な炭素短繊維の集合体のアスペクト比は2ないし50である。ずり応力を加えても、集合体の炭素SP2結合から成る繊維直胴部分では、繊維の切断が起こらず、集合体よりも小さく切断することはできない。
【0060】
微細な炭素短繊維においても、グラファイト網の端面が露出する結果、1本の繊維における繊維軸方向の導電性を損なうことなく、前記π電子の飛び出しによるジャンピング効果(トンネル効果)によって隣接する繊維間の導電性は短繊維化前の微細な炭素繊維と同様に良好である。以上のような短繊維化後の微細な炭素短繊維の構造は、TEM画像によって観察できる(図10および図11を参照)。また、微細な炭素短繊維の効果は、集合体自体の曲がり、集合体の接合部分における屈曲が存在しても、ほとんど影響がないと考えられる。図10の微細な炭素短繊維は、釣鐘状構造単位集合体が、図に示したように4−a〜4−dの4個連結されており、それぞれのθおよびアスペクト比(L/D)は、4−a:θ=4.8°、(L/D)=2.5、4−b:θ=0.5°、(L/D)=2.0、4−c:θ=4.5°、(L/D)=5.0、4−d:θ=1.1°、(L/D)=5.5である。また、図11の微細な炭素短繊維は、釣鐘状構造単位集合体が、図に示したように5−a〜5−dの4個連結されており、それぞれのθおよびアスペクト比(L/D)は、5−a:θ=10°、(L/D)=4.3、5−b:θ=7.1°、(L/D)=3.4、5−c:θ=9.5°、(L/D)=2.6、5−d:θ=7.1°、(L/D)=4.3である。
【0061】
微細な炭素繊維および炭素短繊維の学振法によるXRDにおいて、測定される002面のピーク半価幅W(単位:degree)は、2〜4の範囲である。Wが4を超えると、グラファイト結晶性が低く導電性も低い。一方、Wが2未満ではグラファイト結晶性は良いが、同時に繊維径が太くなり、ポリマーに導電性等の機能を付与するためには多くの添加量が必要となってしまう。
【0062】
微細な炭素繊維および炭素短繊維の学振法によるXRD測定によって求められるグラファイト面間隔d002は、0.350nm以下、好ましくは0.341〜0.348nmである。d002が0.350nmを超えるとグラファイト結晶性が低くなり、導電性が低下する。一方、0.341nm未満の繊維は、製造の際に収率が低い。
【0063】
本発明の微細な炭素繊維および炭素短繊維に含有される灰分は、4重量%以下であり、通常の用途では、精製を必要としない。通常、0.3重量%以上4重量%以下であり、より好ましくは0.3重量%以上3重量%以下である。尚、灰分は、繊維を0.1グラム以上燃焼して残った酸化物の重量から決定される。
【0064】
また、本発明の炭素短繊維は、好ましくは100〜1000nm、より好ましくは100〜300nmの繊維長を有する。このような長さを有し、且つ上述の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が2〜4、且つグラファイト面間隔d002が、0.350nm以下、好ましくは0.341〜0.348nmであるような微細な炭素短繊維は従来存在しなかった新規な繊維である。
【0065】
次に、本発明の微細な炭素繊維および炭素短繊維の製造方法について説明する。本発明の微細な炭素短繊維は、微細な炭素繊維を短繊維化して製造される。
【0066】
<微細な炭素繊維の製造方法>
まず、微細な炭素繊維の製造方法は、次のとおりである。コバルトのスピネル型結晶構造を有する酸化物に、マグネシウムが固溶置換した触媒を用いて、CO及びHを含む混合ガスを触媒粒子に供給して気相成長法により、微細な炭素繊維を製造する。
【0067】
Mgが置換固溶したコバルトのスピネル型結晶構造は、MgCo3−xで表される。ここで、xは、MgによるCoの置換を示す数であり、形式的には0<x<3である。また、yはこの式全体が電荷的に中性になるように選ばれる数で、形式的には4以下の数を表す。即ち、コバルトのスピネル型酸化物Coでは、2価と3価のCoイオンが存在しており、ここで、2価および3価のコバルトイオンをそれぞれCoIIおよびCoIIIで表すと、スピネル型結晶構造を有するコバルト酸化物はCoIICoIIIで表される。Mgは、CoIIとCoIIIのサイトの両方を置換して固溶する。MgがCoIIIを置換固溶すると、電荷的中性を保つためにyの値は4より小さくなる。但し、x、y共に、スピネル型結晶構造を維持できる範囲の値をとる。
【0068】
触媒として使用できる好ましい範囲として、Mgの固溶範囲は、xの値が0.5〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.5である。xの値が0.5未満の固溶量では、触媒の活性は低く、生成する微細な炭素繊維の量は少ない。xの値が1.5を超える範囲では、スピネル型結晶構造を調製することが困難である。
【0069】
触媒のスピネル型酸化物結晶構造は、XRD測定により確認することが可能であり、結晶格子定数a(立方晶系)は、0.811〜0.818nmの範囲であり、より好ましくは0.812〜0.818nmである。aが小さいとMgの固溶置換が充分でなく、触媒活性が低い。また、0.818nmを超える格子定数を有する前記スピネル型酸化物結晶は調製困難である。
【0070】
このような触媒が好適である理由として、本発明者らは、コバルトのスピネル構造酸化物にマグネシウムが置換固溶した結果、あたかもマグネシウムのマトリックス中にコバルトが分散配置された結晶構造が形成されることにより、反応条件下においてコバルトの凝集が抑制されていると推定している。
【0071】
また、触媒の粒子サイズは、適宜選ぶことができるが、例えばメジアン径として、0.1〜100μm、好ましくは、0.1〜10μmである。
【0072】
触媒粒子は、一般に基板または触媒床等の適当な支持体に、散布するなどの方法により載せて使用する。基板または触媒床への触媒粒子の散布は、触媒粒子を直接散布して良いが、エタノール等の溶媒に懸濁させて散布し、乾燥させることにより所望の量を散布しても良い。
【0073】
触媒粒子は、原料ガスと反応させる前に、活性化させることも好ましい。活性化は通常、HまたはCOを含むガス雰囲気下で加熱することにより行われる。これらの活性化操作は、必要に応じて、HeやNなどの不活性ガスで希釈することにより実施することができる。活性化を実施する温度は、好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。
【0074】
気相成長法の反応装置に特に制限はなく、固定床反応装置や流動床反応装置といった反応装置により実施することができる。
【0075】
気相成長の炭素源となる原料ガスは、CO及びHを含む混合ガスが利用される。
【0076】
ガスの添加濃度{(H/(H+CO)}は、好ましくは0.1〜30vol%、より好ましくは2〜20vol%である。添加濃度が低すぎると円筒状のグラファイト質網面が繊維軸に平行したカーボンナノチューブ様の構造を形成してしまう。一方、30vol%を超えると釣鐘状構造体の炭素側周面の繊維軸に対する傾斜角が大きくなり、魚骨形状を呈するため繊維方向の導電性の低下を招く。
【0077】
また、原料ガスは不活性ガスを含有していてもよい。不活性ガスとしては、CO、N、He、Ar等が挙げられる。不活性ガスの含有量は、反応速度を著しく低下させない程度が好ましく、例えば80vol%以下、好ましくは50vol%以下の量である。また、HおよびCOを含有する合成ガスまたは転炉排出ガス等の廃棄ガスを、必要により適宜処理して使用することもできる。
【0078】
気相成長を実施する反応温度は、好ましくは400〜650℃、より好ましくは500〜600℃である。反応温度が低すぎると繊維の成長が進行しない。一方、反応温度が高すぎると収量が低下してしまう。反応時間は、特に限定されないが、例えば2時間以上であり、また12時間程度以下である。
【0079】
気相成長を実施する反応圧力は、反応装置や操作の簡便化の観点から常圧で行うことが好ましいが、Boudouard平衡の炭素析出が進行する範囲であれば、加圧または減圧の条件で実施しても差し支えない。
【0080】
この微細な炭素繊維の製造方法によれば、触媒単位重量あたりの微細な炭素繊維の生成量は、従来の製造方法、例えば非特許文献2記載の方法に比べて格段に大きいことが示された。この微細な炭素繊維の製造方法による微細な炭素繊維の生成量は、触媒単位重量あたり40倍以上であり、例えば40〜200倍である。その結果、前述のような不純物、灰分の少ない微細な炭素繊維の製造が可能である。
【0081】
この微細な炭素繊維の製造方法により製造される微細な炭素繊維に特有な接合部の形成過程は明らかではないが、発熱的なBoudouard平衡と原料ガスの流通による除熱とのバランスから、前記触媒から形成されたコバルト微粒子近傍の温度が上下に振幅するため、炭素析出が断続的に進行することにより形成されるものと考えられる。即ち、[1]釣鐘状構造体頭頂部形成、[2]釣鐘状構造体の胴部成長、[3]前記[1]、[2]過程の発熱による温度上昇のため成長停止、[4]流通ガスによる冷却、の4過程が触媒微粒子上で繰り返されることにより、微細な炭素繊維構造特有の接合部が形成されると推定される。
【0082】
<微細な炭素短繊維の製造方法>
以上により、本発明の微細な炭素繊維を製造することができる。次に、本発明の微細な炭素短繊維は、微細な炭素繊維を分離して短繊維とすることで製造することができる。好ましくは、微細な炭素繊維にずり応力を加えることにより製造する。具体的な短繊維化処理方法としては擂潰機、回転ボールミル、遠心ボールミル、遠心遊星ボールミル、ビーズミル、マイクロビーズミル、アトライタータイプの高速ボールミル、回転ロッドミル、振動ロッドミル、ロールミル、3本ロールミルなどが好適である。微細な炭素繊維の短繊維化は乾式でも、湿式でも行うことが可能である。湿式で行う場合、樹脂を共存させて、或は樹脂とフィラーを共存させて行うことも出来る。また短繊維化前の微細な炭素繊維は凝集した毛玉のような状態を構成しているので、このような状態を解きほぐす微小なメディアを共存させると解砕、短繊維化が進みやすい。また、微細なフィラーを共存させることで、微細な炭素繊維の短繊維化と、フィラーの混合および分散とを同時に行うことも出来る。乾式短繊維化における雰囲気は不活性雰囲気も酸化雰囲気も目的によって選択することが出来る。
【0083】
ずり応力を加えることにより容易に微細な炭素繊維が短繊維化する理由は、微細な炭素繊維の構造に由来する。つまり、微細な炭素繊維は、その釣鐘状構造単位集合体がHead−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成しているためである。繊維にずり応力が加わると、繊維は図9の矢印方向の繊維軸方向に引っ張られて、接合部を構成する炭素基底面間で滑りが生じ(図9のA:カタカナの「ハ」形部分)、Head−to−Tail接続部で釣鐘状構造単位集合体が1個から数十個の単位で引き抜かれ、短繊維化が起きる。即ち、Head−to−Tail接合部は同心円状微細炭素繊維のように繊維軸方向に連続した炭素の二重結合で形成されているのではなく、結合エネルギーの低いファンデルワールス力を主体とする結合で形成されているからである。実施例の表2において、微細な炭素繊維と、これを短繊維化した本発明の微細な炭素短繊維(参考例B1と実施例B1−1〜B1−6)の結晶性を炭素層間隔および真比重で比較すると、両者の炭素結晶性に差異は認められない。しかしながら、微細な炭素繊維と比較して、短繊維化後の本発明の微細な炭素短繊維は、2〜5%程度表面積が増加する。この程度の表面積の増加は短繊維化に起因するものと考えられ、微細な炭素繊維の短繊維化は微細な炭素繊維の釣鐘状構造単位集合体の炭素結晶性を損なうことなく、釣鐘状構造単位集合体を単にその接合部位で引き抜くように分離したものであることが分かる。
【0084】
本発明による微細な炭素短繊維は種々の樹脂あるいは無機材料の導電化および導電化補助に有効である。特に、球状、ウィスカー状、扁平状、ナノ粒子などの形態如何に関わらず、非導電性或は低導電性の半金属、酸化物、フッ化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、硫化物、および水素化物等の無機化合物、特に電池材料として用いられる固体材料の導電化および導電化補助に有効である。また、本発明による微細な炭素短繊維は、黒鉛構造を有する炭素に特有な高い熱伝導性や摺動性、さらには高い引っ張り強度と弾性率を生かして、導電化、導電化補助としての用途の他に、樹脂や無機材料と複合化することによる熱伝導材、摺動材、および補強材のフィラーとして、あるいは研磨材として有用である。
【実施例】
【0085】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0086】
<実施例A1>
イオン交換水500mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕115g(0.40モル)、硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO:分子量256.41〕102g(0.40モル)を溶解させ、原料溶液(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末220g(2.78モル)をイオン交換水1100mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、反応温度40℃で原料溶液(1)と(2)を混合し、その後4時間攪拌した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。
【0087】
これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、43gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8162nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.4:1.6であった。
【0088】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.9gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を550℃に加熱した後、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=95.1/4.9)を原料ガスとして反応管の下部から1.28L/分の流量で7時間流し、微細な炭素繊維を合成した。
【0089】
収量は53.1gであり、灰分を測定したところ1.5重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は3.156、d002は0.3437nmであった。またTEM画像から、得られた微細な炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=7nm、L=114nm、L/D=9.5、θは0から7°であり、平均すると約3°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は4乃至5であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0090】
実施例A1で得られた微細な炭素繊維のTEM像を図3に示す。
【0091】
<実施例A2>
イオン交換水900mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕123g(0.42モル)を溶解させた後、さらに酸化マグネシウム(MgO:分子量40.30)17g(0.42モル)を加えて混合し原料スラリー(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末123g(1.56モル)をイオン交換水800mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、室温で原料スラリー(1)と原料溶液(2)を混合し、その後2時間攪拌した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、48gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8150nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.2:1.8であった。
【0092】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.3gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を500℃の温度に加熱した後、反応管の下部からHを0.60L/分の流量で1時間流し、触媒を活性化した。その後、He雰囲気中で炉内温度を575℃まで上げ、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=92.8/7.2)を原料ガスとして0.78L/分の流量で7時間流し、微細な炭素繊維を合成した。
【0093】
収量は30.8gであり、灰分は0.6重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は3.141、d002は0.3433nmであった。またTEM画像から、得られた微細な炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=10nm、d=5nm、L=24nm、L/D=2.4、θは1から14°であり、平均すると約6°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は4乃至5であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0094】
実施例A2で得られた微細な炭素繊維のTEM像を図4に示す。
【0095】
<実施例A3>
硝酸マグネシウムの代わりに酢酸マグネシウム〔Mg(OCOCH・4HO:分子量214.45〕86g(0.40モル)を用いたほかは、実施例A1と同様に触媒調製を行った。得られた触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8137nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=0.8:2.2であった。
【0096】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.6gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を500℃の温度に加熱した後、反応管の下部からHを0.60L/分の流量で1時間流し、触媒を活性化した。その後、He雰囲気中で炉内温度を590℃まで上げ、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=84.8/15.2)を原料ガスとして0.78L/分の流量で6時間流し、微細な炭素繊維を合成した。
【0097】
収量は28.2gであり、灰分は2.3重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は2.781、d002は0.3425nmであった。またTEM画像から、得られた微細な炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=5nm、L=44nm、L/D=3.7、θは0から3°であり、平均すると約2°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は13であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0098】
実施例A3で得られた微細な炭素繊維のTEM像を図5に示す。
【0099】
<比較例A1>
硝酸マグネシウムを使用せず、重炭酸アンモニウム粉末とこれを溶解させるイオン交換水の量をそれぞれ110g、550mLとしたほかは、実施例A1と同様に触媒調製を行った。得られた触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8091nmであった。この触媒を使用し実施例A2と同様の手順にて合成実験を行ったところ、反応はごく僅かしか進行せず、仕込み触媒とほぼ同重量の回収物が得られたのみであった。
【0100】
<参考例A1>
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、実施例A2で調製した触媒を、その支持体上に0.6gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を500℃の温度に加熱した後、反応管の下部からHを0.60L/分の流量で1時間流し、触媒を活性化した。その後、He雰囲気中で炉内温度を650℃まで上げ、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=60/40)を原料ガスとして0.78L/分の流量で6時間流し、微細炭素繊維を合成した。
【0101】
収量は11.2gであり、灰分は6.1重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は2.437、d002は0.3424nmであった。またTEM画像から、得られた微細炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=9nm、d=6nm、L=13nm、L/D=1.4、θは9から36°であり、平均すると約19°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は5であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0102】
参考例A1で得られた微細炭素繊維のTEM像を図6に示す。
【0103】
<評価実験>
表1に示す微細な炭素繊維0.5gを直径2cmの樹脂製容器に充填し、プレス圧力を変えながら粉体抵抗を測定した。使用した触媒は次のとおりである。
【0104】
評価例1:実施例A1で製造した微細な炭素繊維
評価例2:実施例A2で製造した微細な炭素繊維
評価例3:市販の多層カーボンナノチューブ(Aldrich製試薬677248)
評価例4:参考例A1で製造した微細な炭素繊維
【0105】
【表1】

【0106】
図7から明らかなように、評価例3、4に対し、評価例1、2では、同じプレス圧力で低い体積抵抗値が得られている。これは、本発明の微細な炭素繊維が、円筒チューブ状(評価例3)や魚骨状炭素繊維に近い構造(評価例4)で使用した炭素繊維に比べ、その構造上の特徴から単独の繊維における長軸方向の導電性と隣接する繊維間での導電性をバランス良く具備することにより、導電性能が向上していることを示すものである。このため、例えばポリマーとのコンポジットにおいて、優れた導電性能を発現することができる。
【0107】
<実施例A4>
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に実施例A2で調製した触媒0.2gを散布した。原料ガスとしては、LD(Linz−Donawitz)転炉からの排出ガスの利用を想定し、CO、CO、N、Hからなる混合ガス(容積比:CO/CO/N/H=67.4/16.1/15.3/1.2)を用いた。前記原料ガスはLD転炉排出ガスから酸素と水を除去したものとし、混合比率をCarbon 1992(30)975−979(Ishioka M.ら)に準じて設定した。He雰囲気中で炉内温度を560℃に加熱した後、前記の混合ガスを反応管の下部から1.3L/分の流量で3時間流し、微細な炭素繊維を合成した。
【0108】
収量は8.4gであり、灰分は1.7重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は3.533、d002は0.3440nmであった。またTEM画像から、得られた微細な炭素繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=12nm、d=5nm、L=84nm、L/D=7.0、θは0から2°であり、平均すると約1°であった。また、集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は13であった。尚、D、dおよびθについては、集合体の塔頂から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点について測定した。
【0109】
実施例A4で得られた微細な炭素繊維のTEM像を図8に示す。
【0110】
次に、微細な炭素短繊維の製造実施例を説明する。
【0111】
<実施例B1>
イオン交換水500mLに硝酸コバルト〔Co(NO・6HO:分子量291.03〕115g(0.40モル)、硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO:分子量256.41〕102g(0.40モル)を溶解させ、原料溶液(1)を調製した。また、重炭酸アンモニウム〔(NH)HCO:分子量79.06〕粉末220g(2.78モル)をイオン交換水1100mLに溶解させ、原料溶液(2)を調製した。次に、反応温度40℃で原料溶液(1)と(2)を混合し、その後4時間攪拌混合した。生成した沈殿物のろ過、洗浄を行い、乾燥した。
【0112】
これを焼成した後、乳鉢で粉砕し、43gの触媒を取得した。本触媒中のスピネル構造の結晶格子定数a(立方晶系)は0.8162nm、置換固溶によるスピネル構造中の金属元素の比はMg:Co=1.4:1.6であった。
【0113】
石英製反応管(内径75mmφ、高さ650mm)を立てて設置し、その中央部に石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒0.9gを散布した。He雰囲気中で炉内温度を545℃に加熱した後、CO、Hからなる混合ガス(容積比:CO/H=95.5/4.5)を原料ガスとして反応管の下部から1.45L/分の流量で7時間流し、微細な炭素繊維を合成した。
【0114】
収量は56.7gであり、灰分を測定したところ1.4重量%であった。生成物のXRD分析で観察されたピーク半価幅W(degree)は3.39、d002は0.3424nmであった。
【0115】
以上により得られた微細な炭素繊維を直径2mmのセラミックボールミルで所定時間処理して微細な炭素短繊維を調製した。20時間後の微細な炭素短繊維のTEM画像を図10および図11に示す。また、図10および図11のTEM画像から、得られた微細な炭素短繊維を構成する釣鐘状構造単位及びその集合体の寸法に関するパラメータは、D=10.6〜13.2nm、L/D=2.0〜5.5、θ=0.5°〜10°であった。なお、ここに示すθはTEM画像の繊維軸中心に対して左右の炭素層傾斜の平均値を記載した。集合体を形成する釣鐘状構造単位の積層数は10〜20であった。
【0116】
炭素コート低導電性固体LiFePO:100重量部、バインダーPVDF:5重量部、導電助材として微細な炭素短繊維5重量部、溶媒NMPを110重量部混合し、日本精機製NBK−1ニーダーを用い、1200rpmで20分間混練後、混練スラリーをポリイミドフィルム上に塗工した後乾燥してフィルムを成形した。表3に、ボールミルで行った短繊維化の処理時間と、この処理時間の違いにより得られた微細な炭素短繊維(実施例B1−1〜B1−6)を利用して得られたフィルム厚さおよびフィルム表面抵抗の値を示す。また、表2に、比較のために、短繊維化を行っていない微細な炭素繊維(参考例B1)、アセチレンブラック(比較例B2)、ケッチェンブラックEC−600JD(比較例B3)を導電助材として用い、同様の操作で成形して得られたフィルム厚さおよびフィルム表面抵抗の値を示す。
【0117】
実施例、参考例および比較例に用いた導電助材の基本物性を表2に示す。なお、表2において、比較例B3の導電材炭素層積層厚みの値を記載していないのは、ケッチェンブラックのXRDプロファイルの半値幅が大きく、計算することが困難だったためであり、比較例B2および比較例B3の導電材真比重の値を記載していないのは、試料が嵩高く、信頼性のあるデータが得られなかったためである。また、実施例B1−6の粉砕時間20時間の微細な炭素短繊維、参考例B1、比較例B2、および比較例B3の各導電助材の炭素コート低導電性固体LiFePOへの分散状況をそれぞれ図12〜15に示す。図12において、本発明の微細な炭素短繊維が均一に分散して炭素コート低導電性固体LiFePO粒子に付着していることがわかる。図13では、炭素コート低導電性固体LiFePO粒子表面で、観察できる微細な炭素繊維の本数は少なかった。このことは、短繊維化前の微細な炭素繊維は分散せず、局在していることを示している。図14では、アセチレンブラックはほぼ均一に分散しているものの、アセチレンブラックが炭素コート低導電性固体LiFePO粒子表面に付着する割合は、図12の微細な炭素短繊維より低く、分散性も劣っている。図15において、ケッチェンブラックもほぼ均一に分散しているが、ケッチェンブラックはほとんどが炭素コート低導電性固体LiFePO粒子の粒子間隙に存在し、均一分散性に於いては図12の微細な炭素短繊維に劣っている。
【0118】
【表2】

【0119】
表2より、微細な炭素繊維の炭素層間隔は0.3424nmであるが、短繊維化によって、微細な炭素短繊維の炭素層間隔は、0.3432nmまで僅かながら増加した(実施例B1−1〜B1−6)。また、微細な炭素繊維の炭素層積層厚みは、2.7nmであるが、短繊維化によって、微細な炭素短繊維の炭素層積層厚みは、3.2nmまで僅かに増加した(実施例B1−1〜B1−6)。さらに、微細な炭素繊維の真比重は2.05g/cmであるのに対し、短繊維化後の微細な炭素短繊維の真比重は2.07g/cmまで僅かに増加した(実施例B1−1〜B1−6)。一般的に、短繊維化に伴い、機械的なダメージが繊維に与えられる結果、繊維の炭素結晶性は大きく低下すると予想されるが、上記の結果を総合的に判断すると、短繊維化によって、炭素の結晶性に加えられるダメージは僅かであるか、あるいは無視できるレベルにあるといえる。また、短繊維化に伴う表面積増加は、理論値として考えられる程度である。すなわち、短繊維化前の微細な炭素繊維の釣鐘状構造単位集合体の炭素結晶状態が保たれたまま短繊維化が行われ、微細な炭素短繊維が得られたといえる。
【0120】
【表3】

【0121】
表3より、従来から優れた導電助材として用いられてきたアセチレンブラックのフィルム表面抵抗1.6×10Ω/□やケッチェンブラックのフィルム表面抵抗2.2×10Ω/□に比べて、実施例B1−5およびB1−6の微細な炭素短繊維の表面抵抗は、1.0×10Ω/□および0.9×10Ω/□であり、短繊維化された微細な炭素短繊維の方が、より有効な導電助材として作用することが分かる。また、実施例B1−1〜B1−6では、粉砕処理時間(ボールミルでの処理時間)が長くなるのに伴いフィルム厚みが減少した。これは、短繊維化処理が進むことによって、絡まっていた微細な炭素繊維どうしが解砕されて嵩が小さくなり、炭素コートLiFePO粒子間に短繊維化された微細な炭素短繊維が入り込むことによる。これに比べて、参考例B1に用いた微細な炭素繊維の分散性は、充分ではなく、導電補助効果は低かった。その理由として、この炭素繊維が互いに絡み合った二次構造を形成しており、本試験の分散方法では、この二次構造を解きほぐし、分散させることができなかったためである。
【0122】
(粒度分布の測定)
ボールミル時間による繊維長の変化を粒度分布測定装置により求めた。
【0123】
粒度分布測定サンプルの作成:
分散剤Fisher Scientific社製 Triton X−100の0.015wt%水溶液に、微細な炭素繊維または微細な炭素短繊維を添加し、繊維濃度0.001wt%の希薄スラリーを調製し、超音波分散機により4分間超音波を照射して分散液を得た。
【0124】
装置:島津製作所製SALD−7000粒度分布測定装置、回分セルを使用
測定結果は、球の相対粒子量分布として示されるが、球の直径を繊維長とした。
【0125】
ボールミルの時間と粒度分布の変化を、図16(a)〜(d)に示す。ボールミル時間により次のように変化した。図16中、(a)〜(d)はそれぞれ、ボールミル前、ボールミル6時間、ボールミル12時間、ボールミル24時間のサンプルに対応する。
【0126】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0127】
ポリマーや粉体とのコンポジット化における分散性や混練性を改善し、コンポジットの加工性に優れ、またコンポジットの導電性、熱伝導性、摺動性、補強等の機能発現に優れる微細な炭素繊維および/または微細な炭素短繊維、及びそれらの効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【符号の説明】
【0128】
11 構造単位
12 頭頂部
13 胴部
21、21a、21b、21c 集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長法により製造される微細な炭素繊維であって、
炭素原子のみから構成されるグラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さく、
前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個積み重なって集合体を形成し、
前記集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成していることを特徴とする微細な炭素繊維。
【請求項2】
前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2から30であることを特徴とする請求項1記載の微細な炭素繊維。
【請求項3】
含有する灰分が4重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の微細な炭素繊維。
【請求項4】
X線回折法により測定される微細な炭素繊維の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が、2〜4であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維。
【請求項5】
X線回折法により測定される微細な炭素繊維のグラファイト面間隔(d002)が0.341〜0.345nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細な炭素繊維。
【請求項6】
気相成長法により製造される微細な炭素繊維を短繊維化した微細な炭素短繊維であって、グラファイト網面が、閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位を形成し、前記釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって集合体を形成し、前記集合体が、Head−to−Tail様式で1個ないし数十個連結していることを特徴とする微細な炭素短繊維。
【請求項7】
前記胴部の母線と繊維軸とのなす角θが15°より小さいことを特徴とする請求項6記載の微細な炭素短繊維。
【請求項8】
前記集合体胴部の端の外径Dが5〜40nm、内径dが3〜30nmであり、該集合体のアスペクト比(L/D)が2から30であることを特徴とする請求項6または7記載の微細な炭素短繊維。
【請求項9】
含有する灰分が4重量%以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【請求項10】
X線回折法により測定される微細な炭素繊維の002面のピーク半価幅W(単位:degree)が、2〜4であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【請求項11】
X線回折法により測定される微細な炭素繊維のグラファイト面間隔(d002)が0.341〜0.345nmであることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維にずり応力を加えて短繊維化して製造される微細な炭素短繊維。
【請求項13】
導電材、導電助材、熱伝導材、摺動材、または研磨材としての請求項6〜12のいずれか1項に記載の微細な炭素短繊維の使用。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図9】
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【図16】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−46864(P2012−46864A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237863(P2011−237863)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2010−501963(P2010−501963)の分割
【原出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】