説明

微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法および本製造方法によって得られる成形体

【課題】
本発明の課題は、微細有機繊維を表面に有する構造体を得るための製造方法および本製造方法によって得られる表面が微細有機繊維で被覆された構造体を提供することにある。
【解決手段】
海成分を形成するポリマーAと、島成分を形成するポリマーBを含有する成形体を、所定の温度条件にて、ポリマーCを主成分とする成形体に接触させることにより、ポリマーBの少なくとも一部をポリマーCを主成分とする成形体の表層へ移動させる工程を含む、微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法および得られた成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法および本製造方法によって得られる成形体に関する。より詳しくは、ポリマーナノファイバーを表面に有するポリマー成形体の製造方法およびその製造方法で得られた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
平均直径がナノメーターオーダーである微細有機繊維すなわちポリマーナノファイバーの製造に関しては、ポリマーアロイ紡糸を利用する製造方法(たとえば特許文献1)、海島複合紡糸を利用する製造方法(たとえば特許文献2)、エレクトロスピニングを利用する製造方法(たとえば特許文献3)などが提案されており、比表面積が極めて大きいこと、極めて柔軟な機械特性を示すことなどの利点を活かして、近年さまざまな活用が進んでいる。
【0003】
しかし、ポリマーナノファイバーを用いた繊維構造体は、不織布として用いられることが多いため、ポリマーナノファイバーの脱落が問題となることがある。ポリマーナノファイバー不織布を実用に供するためには、ポリマーナノファイバーではない別の布帛との複合構造にすること(特許文献4)、不織布に向けてエレクトロスピニングを行い剥離を防ぐこと(特許文献5)などの工夫が行われている。しかしながらこれらの複合形式ではポリマーナノファイバーとそれ以外の構造体には直接の結合が生じ得ないため、使用環境によってはなお耐久性が不足する問題があった。
【0004】
一方、ポリマーナノファイバーではないが、カーボンナノチューブを構造体の表面に固着する方法が知られている(特許文献6、7)。これらの方法では構造体に導電性を付与することができるものの、カーボンナノチューブは有機繊維と異なり弾性率が非常に高いため、構造体表面に存在しても表面の風合いなどの改善効果は得られず、また、親水性や撥水性などポリマー特性に起因する改質効果を与えうるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−162244号公報
【特許文献2】特開2007−291567号公報
【特許文献3】特開2008−13864号公報
【特許文献4】特開2009−191435号公報
【特許文献5】特開2008−303521号公報
【特許文献6】特開2001−288626号公報
【特許文献7】特開2009−255568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述した問題点を解消し、耐久性を備えた微細有機繊維を表面に有する構造体を得るための製造方法および本製造方法によって得られる表面が微細有機繊維で被覆された構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の課題は、海成分を形成するポリマーAと、島成分を形成するポリマーBとを少なくとも含有する成形体を、ポリマーAの融点以上ポリマーBの融点以下の温度条件にて、ポリマーCを主成分とする成形体に接触させることにより、ポリマーBの少なくとも一部をポリマーCを主成分とする成形体の表層へ移動させる工程を含む、微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法によって解決が可能である。
【0008】
その際、島成分を形成するポリマーBの平均直径が10〜1000nmであることが、好適に採用できる。また、ポリマーAの融点が200℃未満であり、ポリマーBの融点が200℃以上であることが好適に採用できる。
本発明の第二の課題は、上述のいずれかの製造方法によって得られた、微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体によって解決が可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法によれば、ポリマー成形体を構成するポリマーとは異なるポリマーからなる有機繊維を表面に存在させた成形体を容易に製造することができ、ポリマー成形体の表面改質に有効である。このようにして製造された微細有機繊維で表面を被覆された成形体は、微細有機繊維と成形体との接着性が優れているため、剥離することがなく耐久性に優れた表面処理方法として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法を説明するための工程概略図
【図2】実施例1で得られたシートの表面写真
【図3】実施例3で得られたシートの表面写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法においては、海成分を形成するポリマーAと、島成分を形成するポリマーBとを少なくとも含有する成形体を用いる。ポリマーAとポリマーBはいわゆるポリマーアロイの状態を構成してなり、ポリマーAが連続相である海成分を構成し、ポリマーBが島成分を構成するものである。
【0012】
ポリマーAとポリマーBとが完全に相溶する組み合わせの場合には、全体が均一となりポリマーBが島成分として存在できなくなることがある。逆にポリマーAとポリマーBの相溶性が極端に悪い場合には、ポリマーBの平均直径が過大となって、その後の工程において不都合が生じることがある。そのため、ポリマーAの溶解度パラメーターSP(MPa1/2)とポリマーBの溶解度パラメーターSP(MPa1/2)は、両者の差の絶対値が1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましい。
【0013】
例えばポリマーAがポリプロピレンである場合、ポリプロピレンのSP値は16.2であるので、ポリマーBとしてはSP値が12.2(差の絶対値が4.0)のポリテトラフルオロエチレンや、SP値が21.4(差の絶対値が5.2)のポリエチレンテレフタレート、SP値が21.6(差の絶対値が5.4)のポリブチレンテレフタレートなどが好適な候補としてあげられる。
また、その後の熱処理の条件から、ポリマーAの融点よりもポリマーBの融点が高いことが必要である。ここで融点とは結晶性ポリマーにおいては結晶の融解温度を、非晶性のポリマーにおいては熱流動開始温度を意味している。ポリマーAの融点は200℃未満であれば加熱によって軟化しやすく、取り扱い性が良好であるため好ましい。逆にポリマーBの融点は200℃以上であればナノファイバー状となったポリマーBが溶融してしまうことがないため好ましい。
【0014】
例えばポリマーAがポリプロピレンである場合、ポリプロピレンの融点はおおよそ170℃であるため、ポリマーBとしては融点が170℃よりも高いポリマーを用いる必要がある。おおよその融点が260℃であるポリエチレンテレフタレート、融点が225℃であるポリブチレンテレフタレート、融点が230℃であるポリスチレン、融点が320℃であるポリテトラフルオロエチレンなどが好適な例としてあげられる。
【0015】
連続相であるポリマーA中に存在する島成分であるポリマーBの平均直径は、10〜1000nmのものであることが好ましい。1000nmよりも平均直径が小さい場合には、後述するポリマーCの表層への移行が進みやすくなるため好ましい。一方、平均直径が10nm以上であればポリマーCの表層に微細有機繊維が存在することによる効果が顕在化するため好ましい。ポリマーBの平均直径は、100〜900nmであることがより好ましく、200〜800nmであることがさらに好ましい。ポリマーBの平均直径は、ポリマーAを溶解可能かつポリマーBを溶解しない有機溶媒等によってポリマーAを除去した後、走査型電子顕微鏡写真を撮影し、任意の50箇所について測定したナノファイバーの直径の平均値として求めることができる。
【0016】
海成分を形成するポリマーAと、島成分を形成するポリマーBとを少なくとも含有する成形体を製造するためには、まず溶融混練によって両者を均一に混合することが必要である。溶融混練は、エクストルーダー、ニーダー、スタティックミキサーなどの既存の製造装置を用いて行うことができるが、ポリマーBの分散を良好とする観点からはエクストルーダー、特に2軸エクストルーダーが好適に用いられる。2軸エクストルーダーはベント部を有する装置を用いることもできる。
溶融混練の際の加工温度は、ポリマーAの融点よりも高い温度を採用することが必要であるので、200℃以上であることが好ましく、熱分解を抑制する観点からは300℃以下であることが好ましい。
【0017】
溶融混練されたポリマーAとポリマーBを少なくとも含む組成物は、そのまま連続して、あるいは一旦冷却固化されてペレット状あるいは粉末状等に成形された後、溶融成形を行うことによって成形体とすることができる。溶融成形は、公知のTダイ法やインフレーション法によってフィルム状、シート状などの成形体としてもよいし、公知の射出成形法、圧縮成形法によって樹脂成形品とすることもできる。または、公知の溶融紡糸法によって繊維化した後、織物状、編物状、不織布状などの繊維構造物とすることもできる。
【0018】
ポリマーAとポリマーBを少なくとも含む成形体は本発明の趣旨を損なわない範囲で別の構成物を含有することができ、たとえば熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、シリカや二酸化チタンなどの無機粒子等を含むものであってもよいし、ポリマーAおよびポリマーB以外の異種ポリマーを含んでなるものであってもよい。
ポリマーAの具体的な例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−プロピレン)共重合体、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびこれらの共重合体、ブレンド体、改質体などがあげられるが、これらに限定されるわけではない。
【0019】
ポリマーBの具体的な例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリεカプロアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール−エチレン共重合体、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートおよびこれらの共重合体、ブレンド体、改質体などがあげられるが、これらに限定されるわけではない。
【0020】
本発明においてはポリマーAとポリマーBを少なくとも含む成形体を、ポリマーCを主成分とする成形体に接触させる操作を行う。
ここでポリマーCを主成分とする成形体とは、ポリマーCを主成分とする組成物を、溶融成形によってあるいは溶液成形によって、フィルム状、シート状、板状、樹脂成形品、繊維構造物などとしたものである。組成については特に制約はないが、微細有機繊維を構成するポリマーBの融点よりもポリマーCの融点が低いことが好ましい。ここで融点とは結晶性ポリマーにおいては結晶の融解温度を、非晶性のポリマーにおいては熱流動開始温度を意味している。ポリマーCの融点は200℃未満であれば加熱によって軟化しやすく、取り扱い性が良好であるため好ましい。ポリマーCの具体的な例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン−プロピレン)共重合体、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびこれらの共重合体、ブレンド体、改質体などがあげられるがこれらに限定されるわけではない。
【0021】
本発明の製造方法には、ポリマーAの融点以上ポリマーBの融点未満の温度条件にて、ポリマーAおよびポリマーBを含む成形体と、ポリマーCを主成分とする成形体を接触させる工程が含まれる。この工程において、連続相である海成分を形成するポリマーA中に含まれる島成分を形成するポリマーBの少なくとも一部が、ポリマーCを主成分とする成形体へと移動するというきわめて特殊な現象が観察される。この島成分のポリマーBの移動によって、ポリマーCの表面にはポリマーBからなる微細有機繊維が存在することとなり、ポリマーBからなる微細有機繊維の少なくとも一部分がポリマーC中に陥入する構造となって、その結果ポリマーCからなる成形体とポリマーBからなる微細有機繊維とが強固に固着することとなる(図1参照)。
【0022】
その際の接触温度は、ポリマーAの融点以上であれば、ポリマーA中に含まれる島成分のポリマーBが移動することが可能となる。逆にポリマーBの融点以下であれば、成形体の中では島成分、成形体の外ではナノファイバー状となっているポリマーBの形態を維持することが可能である。また、同時に接触温度はポリマーCの融点以上であることも好ましい。ポリマーCの融点以上とすることによって、ポリマーBからなるナノファイバーがポリマーC中へ陥入することが容易となるからである。
【0023】
ポリマーAとポリマーBを少なくとも含有する成形体とポリマーCを主成分とする成形体を接触させる時間については特に限定はないが、3分以上であることがポリマーBのナノファイバーの移行のために好ましい。十分な移行の観点では5分以上、10分以上とすることもできる。逆に接触の時間は60分以下とすることによって成形体Aおよび成形体Cの躯体が崩壊してしまうことを予防できる。成形体の躯体維持の観点からは20分以下、15分以下とすることも好ましい態様である。
ポリマーAとポリマーBを少なくとも含有する成形体とポリマーCを主成分とする成形体を接触させる圧力については特に限定はないが、2つの成形体の接触が担保されるに足るできるだけ低い圧力であることが好ましい。上に存在する成形体の自重のみで実質的には0MPaであることも好ましく採用できる。接触時の圧力は10MPa以下であることが好ましく、5MPa以下であることがより好ましい。
ポリマーAとポリマーBを少なくとも含有する成形体とポリマーCを主成分とする成形体を接触させる方法については、例えばいずれの成形体もフィルム状、シート状、板状および織物、編物、不織布などの繊維構造物の場合、両者を積層して無荷重のままあるいは一定の圧力をかけて公知の加熱プレス機によって所定の時間加熱する方法であってもよい。また、フィルム、シート、板および織物、編物、不織布などの繊維構造物が一定長さ巻き取られたロールで供給可能な場合、両者のロールからそれらを取り出して積層させ、熱ローラーによる圧着あるいは加熱域を通過させることによる熱処理等によって連続的に加熱処理する方法であってもよい。
【0024】
ポリマーAとポリマーBを少なくとも含有する成形体とポリマーCを主成分とする成形体を接触させた後は、両者を剥離することによって、表面にポリマーBからなる微細有機繊維が存在するポリマーCを主成分とする成形体を得ることができる。ポリマーBからなる微細有機繊維は少なくとも一部分がポリマーC中に陥入している構造となっているため、固着が堅固であり、耐久性に優れた表面処理として機能する成形体となる。
このことは、ポリマーCの表面を、微細繊維のポリマーBで堅牢度の高い改質をすることが可能ということを意味しており、たとえばポリマーBが親水性を有するポリマー繊維である場合には、成形体の表面親水化を達成することができ、逆に撥水性を有するポリマー繊維である場合には、成形体の表面撥水化を達成することができる。また、ナノファイバーが多数存在する場合には起毛あるいは植毛した場合と同様の効果があり、表面風合いがピーチタッチとなって成形体の風合い改質にも有効である。
【0025】
ポリマーAとポリマーBからなる組成物成形体とポリマーCからなる成形体を接触させ、加熱することでポリマーBからなる有機微細繊維がポリマーCからなる成形体へ移動、陥入するメカニズムは明確ではないが、融点以上の状態となったポリマーA中に存在するポリマーBのナノファイバーはある程度のモビリティーを獲得することになる。その状態において近傍にポリマーCが存在する場合、特にポリマーCがポリマーAよりも、有機微細繊維であるポリマーBと親和性が高い場合には、ポリマーC中へ移動することが表面エネルギー状態が安定化することになるため、ポリマーC中への積極的な移行、すなわちポリマーCからなる成形体の内部までの侵入が可能となり、結果として耐摩耗性にも優れた有機微細繊維で被覆された成形体が得られることになるものと考えられる。
【0026】
本発明の成形体は、表面に有機微細繊維を有するものであるため、成形体本来の性質の他、表面繊維の存在による成形体の表面部の改質効果を有するものである。そのため、成形体が樹脂成形物の場合には、一般の射出成形品や押出成形品などの樹脂成型物、加飾された工業用フィルムあるいはシート等として活用が可能である。繊維構造物の場合には表面が改質された衣料用繊維構造物、産業用繊維構造物、医療用繊維構造物等として利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。各物性値は下記の方法によって測定した。
【0028】
A.ポリマーBの平均直径
ポリマーAとポリマーBのポリマーアロイ成形物を準備し、ポリマーAのみを溶解可能でポリマーBを溶解しない有機溶媒もしくはアルカリ水溶液を用いて、ポリマーAの溶解除去を行った。その後、白金−パラジウム蒸着を行ったサンプルについて、走査型電子顕微鏡を用いて電子顕微鏡写真を撮影し、ナノファイバー状のポリマーBの任意の50箇所についてその箇所における直径を測定し、平均値を求めて平均直径とした。
【0029】
B.融点
Perkin Elmaer社製 DSC−7を用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0030】
C.MFR
ポリマーの熱流動性の指標としてMFRの測定をASTM D 1238に準拠して、230℃、2160g荷重の条件で行い、10分間で流動したポリマー重量を測定し、MFR値(g/10min)を得た。ただし、対象がポリブチレンテレフタレートの場合には、荷重を5000gの条件とした。
【0031】
D.微細繊維の表面状態
微細有機繊維で被覆された成形体に白金−パラジウム蒸着したサンプルを用いて、走査型電子顕微鏡にて成形体の表面状態を観察した。成形体表面の任意の5箇所について、100μm四方に存在する微細繊維の本数を測定し、その平均値を求めた。
【0032】
E.耐摩耗性
耐フィブリル性摩擦堅牢度試験用の学振型平面摩耗試験機にて、摩擦布として綿布(カナキン)を用いて、試験サンプルを500gの加重下で500回平面摩耗し、試験サンプル状の微細繊維の残存状態を3段階評価した。微細繊維がほとんど残存しているものは「○」、微細繊維が残存しているがもとの磨耗前サンプルと比べて減少がみとめられるものは「△」、磨耗後の試験サンプル上に微細繊維が残存していないものは「×」とし、「○」と「△」を合格とした。
【0033】
[実施例1、2]
ポリマーAとして、融点が169℃であるポリ乳酸(L乳酸比率98wt%、D乳酸比率2wt%、MFR=22g/10分、以下PLA1とする)を用い、ポリマーBとして融点が320℃であるポリテトラフルオロエチレン(以下PTFE1とする)を準備した。
【0034】
それぞれ90℃で4時間真空乾燥を行ったPLA1を40gと、PTFE1を10g、抗酸化剤としてIrganox1010を0.025g、Irgafos168を0.025g準備し、東洋精機(株)製ラボプラストミルを用いて、混練温度180℃、ブレード回転速度40rpm、混練時間3分間の条件にて混練を実施してポリマーアロイ組成物を得た。
【0035】
得られたポリマーアロイ組成物は、油圧プレスを用いて、温度条件190℃、圧力10MPa、圧締時間3分の条件で熱圧し、その後ただちに30℃で冷却プレスして、PLA1とPTFE1からなる厚さ1mmのポリマーアロイ組成物シートを得た。
【0036】
このポリマーアロイ組成物シートのPLA1を4wt%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて溶解させ、電子顕微鏡観察を行ったところPTFE1がナノファイバー状となっており、その直径は平均720nmであることがわかった。
【0037】
油圧プレスを用いて、温度条件190℃、圧力10MPa、圧締時間3分の条件で作成した厚さ1mmのポリプロピレンシート(MFR10g/10分、融点165℃、以下PP1とする)を準備した。
【0038】
前述のPLA1とPTFE1からなるシートの上に、PP1のシートを積層し、圧力をかけずに、温度条件200℃、実施例1では10分、実施例2では7分の条件でアニーリング(加熱)処理を行った。冷却後、積層したシートを元の2枚に分離した。ここまでの工程は模式的に図1として示した通りである。
【0039】
PP1のシートの表面を電子顕微鏡観察したところ、実施例1,2ともにPTFE1からなる微細有機繊維が表層に多数ランダムに存在しており、繊維の端部はシート中に一部陥入している構造が認められた。100μm四方あたりの繊維の存在数は実施例1では25.2本、実施例2では18.4本であり、いずれも多数の有機微細繊維が表面に存在していることが分かった。実施例1にて得られた分離後のPP1シート表面を図2に示す。
【0040】
学振型平面磨耗試験機を用いて綿布との磨耗を500回行った後のPP1シート表面を改めて電子顕微鏡観察したところ、シート上のPTFE1からなる微細有機繊維はそのほとんどが残存しており耐摩耗性は良好であることが分かった。
【0041】
[実施例3、4]
実施例3ではポリマーAとして融点が165℃であるポリプロピレン(MFR20g/10分、PP2)を用い、実施例4ではポリマーAとして実施例1でも用いたPP1を用い、ポリマーBとしては融点が225℃であるポリブチレンテレフタレート(MFR=26g/10分、以下PBT1とする)を準備した。
【0042】
それぞれ90℃で4時間真空乾燥を行ったPP2を40gと、PBT1を10g準備し、東洋精機(株)製ラボプラストミルを用いて、混練温度200℃、ブレード回転速度30rpm、混練時間3分間の条件にて混練を実施してポリマーアロイ組成物を得た。
【0043】
得られたポリマーアロイ組成物は、油圧プレスを用いて、温度条件200℃、圧力10MPa、圧締時間3分の条件で熱圧し、その後ただちに30℃で冷却プレスして、PP2とPBT1からなる厚さ1mmのポリマーアロイ組成物シートを得た。
【0044】
このポリマーアロイ組成物シートのPP1を熱キシレンで溶解させ、電子顕微鏡観察を行ったところPBT1がナノファイバー状となっており、その直径は実施例3では平均850nm、実施例4では980nmであることがわかった。
【0045】
油圧プレスを用いて、温度条件200℃、圧力10MPa、圧締時間3分の条件で作成した厚さ1mmのポリエチレンシート(高密度ポリエチレン、融点130℃、以下HDPE1とする)を準備した。
【0046】
前述のPP1とPBT1からなるシートの上に、HDPE1のシートを積層し、圧力をかけずに、温度条件210℃、実施例3では時間4分、実施例4では時間3分の条件でアニーリング(加熱)処理を行った。冷却後、積層したシートを元の2枚に分離した。
【0047】
HDPE1のシートの表面を電子顕微鏡観察したところ、PBT1からなる微細有機繊維が表層にランダムに存在しており、実施例3の表面を図3に示したが、繊維の端部はシート中に一部陥入している構造が認められた。実施例3では表面に100μm四方あたり10.4本と多数の微細繊維が認められたが、実施例4ではやや頻度が少なく、100μm四方あたり5.2本であった。
【0048】
学振型平面磨耗試験機を用いて綿布との磨耗を500回行った後のPP1シート表面を改めて電子顕微鏡観察したところ、実施例3ではシート上のPTFE1からなる微細有機繊維はそのほとんどが残存しており耐摩耗性は良好であることが分かった。実施例4では磨耗試験後にややPTFE1からなる微細有機繊維の脱落がやや認められたが、好ましいレベルは維持していた。
【0049】
【表1】

[比較例1、2]
実施例3と同様にして、厚さ1mmのPP2とPBT1とからなるポリマーアロイ組成物シートと、HDPE1からなるシートを作成した。
【0050】
これらを積層して加熱する際に、比較例1ではPPの融点以下である100℃にて、比較例2ではPBT1の融点以上である260℃にてそれぞれ3分間の処理を行ったところ、比較例1ではPBT1からなる有機微細繊維の移行がまったく認められず、処理後のHDPEシートの表面は平滑なHDPEのままであった。比較例2においてはPBT1からなる繊維の形状が溶融によって失われており、見かけ上繊維が存在しない成形体となった。
【0051】
[比較例3]
実施例1で得られたPLA1とPTFE1からなるポリマーアロイシートを、水酸化ナトリウム1wt%の水溶液で98℃×60分の処理を行いPLAを溶解させたところ、PTFE1からなる有機微細繊維が得られた。
得られたPTFE1からなる有機微細繊維5gと、水系ウレタン樹脂(ポリエーテルウレタン、純分25%)0.8g、重炭酸ソーダ0.05g、水80gをポットに注入し2℃/分で昇温し80℃×30分間キープし、常温まで降温した。
得られた溶液を実施例3と同様にして得た厚さ1mmのHDPE1のシート状に均一に流延し、室温にて蒸発乾固させた。電子顕微鏡観察を行ったところ、HDPE1シートの表面にはPTFE1の微細繊維が82.4本と、多数存在していることが確認できた。
実施例1と同様にして耐摩耗性を評価したところ、微細繊維はすべて除去されてしまっており、耐摩耗性が不良であることが分かった。
【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
海成分を形成するポリマーAと、島成分を形成するポリマーBとを少なくとも含有する成形体を、ポリマーAの融点以上ポリマーBの融点以下の温度条件にて、ポリマーCを主成分とする成形体に接触させることにより、ポリマーBの少なくとも一部をポリマーCを主成分とする成形体の表層へ移動させる工程を含む、微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法。
【請求項2】
島成分を形成するポリマーBの平均直径が10〜1000nmであることを特徴とする請求項1記載の微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法。
【請求項3】
ポリマーAの融点が200℃未満であり、ポリマーBの融点が200℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた、微細有機繊維で被覆されたポリマー成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246641(P2011−246641A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122430(P2010−122430)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】