説明

微細粉体組成物及び該微細粉体組成物が配合されてなる熱可塑性パウダー

【課題】 溶融凝着性に優れ、金型の成形面上から取り出す際の離型性に優れる粉末成形体を与える熱可塑性パウダーを提供する。
【解決手段】 下記(A)10〜50重量%及び(B)90〜50重量%からなる微細粉体組成物。
(A):表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体(B):表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、微細粉体組成物及び該微細粉体組成物が配合されてなる熱可塑性パウダーに関するものである。更に詳しくは、本発明は特定の2種類の微細粉体からなる微細粉体組成物及び粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに該微細粉体組成物が配合されてなる熱可塑性パウダーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、表面に皮シボ、ステッチなどの複雑な凹凸模様を有するシート状の成形体は、自動車内装部品などの表皮材として用いられている。かかる成形体として、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる粉末を粉末成形して得られる成形体が提案されている(たとえば、特開平5−1183号公報、特開平5−5050号、特開平10−30036号公報などを参照)。
【0003】しかしながら、該粉末を長期保存した場合や、繰り返し粉末スラッシュ成形を行った場合、次第に粉末同士が凝集して粉体流動性が低下する結果、得られた成形体に欠肉やピンホールといった不具合が発生するという問題点があった。
【0004】このような問題点を解決するために、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる粉末の表面に微細粉体を配合して、長期保存性や粉体流動性を改良することにより、複雑形状の粉末スラッシュ成形体を製造する方法が知られている(たとえば、特開平5−70601号公報、特開平11−286578号公報などを参照)。
【0005】特開平11−286578号公報には、特定の熱可塑性エラストマー組成物の粉砕物に対して、1次粒径が300nm以下の微細粉体が配合されてなる熱可塑性エラストマー組成物パウダーが記載されている。しかしながら、このような特定の1次粒径の微細粉体を配合することにより、粉体流動特性を改良して複雑な形状の成形体を製造することはできるものの、得られた粉末スラッシュ成形体を金型の成形面上から取り出す際に、微細粉体が該金型の成形面上の複雑なしぼ模様やステッチ模様等の微細装飾部分に物理的に噛みこむため、離型性(該金型の成形面上に形成されたシートを金型から剥がす時の剥がしやすさ)に劣り、得られた粉末スラッシュ成形体に折れじわが発生したり、場合によっては該成形体が破れるといった問題が発生するという問題点があった。
【0006】また、特開平11−286578号公報には、1次粒径が300nm以下であり、かつ表面がシリコーンオイルにより処理された微細粉体を先述の粒状の熱可塑性エラストマー組成物に配合することにより、長期保存性や粉体流動性に優れる熱可塑性エラストマー組成物パウダーが記載されている。該パウダーを用いて成形される粉末成形体は、離型性に優れる。しかしながら、該パウダー同士の溶融凝着性がシリコーンオイルにより著しく阻害されるため、強度及び外観に優れる成形体が得られないという問題があった。このため、より生産性及び実用性に優れた粉末成形体を与え得る熱可塑性パウダーが求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】かかる状況の下、本発明が解決しようとする課題は、特定の2種類の微細粉体からなる微細粉体組成物及び粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに該微細粉体組成物が配合されてなる、溶融凝着性に優れ、金型の成形面上から取り出す際の離型性に優れる粉末成形体を与える熱可塑性パウダーに関するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明における第一の発明は、下記(A)及び(B)からなる微細粉体組成物に係るものである(A):表面処理されていない1次粒径が5〜300nmである微細粉体10〜50重量%(B):表面がシリコーンオイルにより表面処理されてなる1次粒径が5〜300nmである微細粉体 90〜50重量%また、本発明における第二の発明は、粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに対し、前記第一の発明の微細粉体組成物が特定量配合されてなる熱可塑性パウダーに係るものである。また、本発明における第三の発明は、さらに1次粒径が300nmを超え10μm以下である粉体が特定量配合されてなる前記第二の発明の熱可塑性パウダーに係るものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の微細粉体組成物は、下記(A)及び(B)からなる。
(A):表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体(B):表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体
【0010】(A)は、表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体である。(A)としては、無機酸化物、顔料、ペースト用塩化ビニル樹脂、脂肪酸金属塩等があげられる。また、特開2000−336219号公報や特開2001−123019号公報に記載されている、ガラス転移温度が60℃以上のアクリレート系重合体や特定の真球度の非ハロゲン系樹脂を使用することもできる。
【0011】(A)の1次粒径は300nm以下であることが必要であり、200nm以下、更には5nm〜150nmであることが好ましい。1次粒径が300nmを超えると、得られる熱可塑性パウダーの粉体流動性の改良が十分でなく、得られる粉成形体に、欠肉・ピンホール等の不具合が発生する。ここで1次粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により(A)の写真を撮影し、任意に1000個程度の粒子を選択して粒子の直径を測定し、これらの粒子の直径を粒子の個数で除した値である。
【0012】無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、アルミナシリカ等があげられる。
【0013】アルミナはそのほとんどが、化学式Al23単位で構成される微細粉体である。アルミナは種々の結晶形態を有するが、いずれの結晶形態のものを用いることができる。これらは結晶形態によって、α―アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナなどと呼ばれている。デグサ社製のアルミナC(γ−アルミナ)、住友化学工業株式会社製のAKP−G008(α−アルミナ)などがあげられる。
【0014】シリカは、そのほとんどが、化学式SiO2単位で構成される微細粉体である。天然珪草土の粉砕、珪酸ナトリウムの分解等の方法によって製造される。デグサ社製のOX50などがあげられる。アルミナシリカとは、前述のアルミナ及びシリカを主成分として含有する無機酸化物である。
【0015】また、エルカ酸アミドのような脂肪酸エステル系の有機滑剤により表面が処理されている無機酸化物を使用することもできる。
【0016】顔料としては、アゾ系、フタロシアン系、スレン系、染色レーキ等の有機顔料、酸化チタン等の酸化物系、クロモ酸モリブデン酸系、硫化セレン化合物、フェロシアン化合物、カーボンブラック等の無機顔料が用いられる。また、顔料を用いる場合は、炭酸カルシウム、金属石鹸、酸化マグネシウム等の担体に担持させたものを用いることもできる。
【0017】(A)は単独で、あるいは1次粒径が300nm以下のもの同士を複数組み合わせて使用される。たとえば、無機酸化物単独を用いることもできるし、顔料と無機酸化物とを組み合わせて用いることも可能である。
【0018】(B)は、表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体である。
【0019】(B)は、先述の微細粉体をシリコーンオイルによりその表面を処理することによって製造される。
【0020】(B)の1次粒径は300nm以下であることが必要であり、200nm以下、更には5nm〜150nmであることが好ましい。1次粒径が300nmを超えると、得られる熱可塑性パウダーの粉体流動性の改良が十分でなく、得られる粉成形体に、欠肉・ピンホール等の不具合が発生する。ここで1次粒径は、前記の方法で測定される。
【0021】シリコーンオイルは、表面処理前の微細粉体100重量部に対し、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部配合される。表面処理に用いられるシリコーンオイルが0.1重量部未満の場合は、熱可塑性パウダーを粉末成形してなる粉末成形体の離型性が劣るという問題がある。また、10重量部を超える場合は、粉末成形時の熱可塑性パウダーの溶融凝着性が低下するため、強度及び外観に優れる粉末成形体を得ることができない。
【0022】(B)を製造する方法としては、例えばヘンシェルミキサーのような高速回転型ミキサーに、表面処理される微細粉体及びシリコーンオイルを投入し攪拌する方法が挙げられる。攪拌は通常室温で行われるが、必要に応じて加温しても良い。
【0023】シリコーンオイルの25℃における粘度は、0.5〜5万センチストークスであることが好ましく、さらには1〜1万センチストークスであることが好ましい。 該粘度が5万センチストークスを超える場合は、表面処理される微細粉体にシリコーンオイルが均一に付着しないため、得られる(B)に粘着性が生じうる。
【0024】(B)としては例えば、デグサ社製のR202(表面がシリコーンオイルにより処理されているシリカ)などがあげられる。
【0025】(B)は単独で、あるいは1次粒径が300nm以下のもの同士を複数組み合わせて使用される。たとえば、表面がシリコーンオイルにより処理されている無機酸化物を単独で用いることもできるし、表面がシリコーンオイルにより処理されている顔料と組み合わせて使用することも可能である。
【0026】本発明における微細粉体組成物は、上記(A)10〜50重量%及び上記(B)90〜50重量%からなる。ここで(A)及び(B)の合計量に対する(A)の配合量は、15〜45重量%であることが好ましく、さらには20〜40重量%であることが好ましい。ここで、(A)が10重量%未満の場合は、熱可塑性パウダーの溶融凝着性が劣るため、強度及び外観に優れる粉末成形体を得ることができない。また、(A)が50重量%を超える場合は、粉末成形体の離型性が不十分となる。
【0027】本発明において、微細粉体組成物を後述する粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに配合することにより、溶融凝着性に優れ、金型の成形面上から取り出す際の離型性に優れる粉末成形体を与える熱可塑性パウダーを製造することができる。
【0028】微細粉体組成物は、後述する粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー100重量部に対し、合計0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部であり、より好ましくは0.2〜3重量部配合される。配合量が0.1重量部未満の場合は、得られる熱可塑性パウダーの流動特性が劣るため、得られる粉末成形体に欠肉及びピンホール等の不具合が発生する。また、10重量部を超える場合は熱可塑性パウダーの溶融凝着性が劣るため、得られる粉末成形体の強度が低下するという問題が発生する。
【0029】微細粉体組成物を後述する粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに配合する方法としては、微細粉体組成物が該粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー上に均一付着する方法であれば、特に限定されるものではない。たとえば、ジャケットのついたブレンダーや高速回転型ミキサーやナウターミキサー等を使用してブレンドする方法などがあげられる。中でもヘンシェルミキサーやスーパーミキサーのように、せん断力を加えることにより互着を防止して均一に分散させる方法が好ましい。また、配合は通常室温で行われる。
【0030】この時、(A)及び(B)からなる微細粉体組成物を予めブレンダー等で製造した後で粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに配合してもよいし、(A)、(B)及び粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを一括で配合しても良い。また、例えば粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー及び(A)を配合した後で残りの(B)を配合してもよいし、その逆の順序で行っても良い。
【0031】本発明に用いられる熱可塑性パウダーは、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなる。
【0032】熱可塑性樹脂としては、後述するポリオレフィン系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、ポリスチレン等から選ばれる少なくとも1種類である。
【0033】熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー又はこれらのブレンド物等が挙げられる(例えば、松崎昭二著 化学工業日報社1991年発行熱可塑性エラストマー組成物を参照)。
【0034】スチレン系熱可塑性エラストマーとは、共役ジエンとビニル芳香族化合物との共重合体又はその水添物である。
【0035】共役ジエンとしては、たとえばブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエンなどの炭素原子数4〜8の共役ジエンがあげられる。
【0036】ビニル芳香族化合物は、そのビニル基の1位又は2位がメチル基などのアルキル基などで置換されていてもよい。ビニル芳香族化合物の例としては、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレンなどの炭素原子数8〜12のビニル芳香族化合物があげられる。
【0037】スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、たとえばブタジエン−スチレン共重合体ゴム、イソプレン−スチレン共重合体ゴム、ブタジエン・イソプレン−スチレン共重合体ゴム、ブタジエン−p−メチルスチレン共重合体ゴム又はこれらの水添物などがあげられる。
【0038】これらスチレン系熱可塑性エラストマーは、少なくとも1種類の構造単位からなる。該構造単位としては、ビニル芳香族化合物重合体ブロック、ビニル芳香族化合物と共役ジエンのランダム共重合体ブロック、共役ジエン重合体ブロックが水添されてなるブロック又はこれらの共役ジエン単位が水添されてなるブロック等があげられる。
【0039】該スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン・イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−スチレン・ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−スチレン・イソプレン−スチレン共重合体又はこれらの水添物があげられる。なお、は該構造単位の境界を、は該構造単位内で二種以上の化合物が併用されて用いられていることを示す。
【0040】なお、スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるビニル芳香族化合物単位の含有量は50重量%以下、好ましくは20重量%以下であることが、柔軟性に優れた粉末成形体が得られる点で好ましい。この含有量が50重量%を超えると、得られる粉末成形体が脆くなる傾向がある。
【0041】このようなスチレン系熱可塑性エラストマーは、たとえば特開平2−36244号公報、特開平3―72512号公報、特開平7―118335号公報、特開昭56−38338号公報、特開昭61−60739号公報などに記載された方法によって容易に製造することができる。
【0042】オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリオレフィン系樹脂及びゴム質重合体からなる組成物やオレフィン系ゴム質重合体が挙げられる。該オレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば特開平5−5050号公報、特開平10−30036号公報、特開平10−231392号公報等に記載されている方法で製造することができる。
【0043】ポリオレフィン系樹脂とは、高い結晶性を有するオレフィンの単独重合体又は共重合体から選ばれる少なくとも1種類である。該オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素原子数が2〜8のオレフィンがあげられる。該ポリオレフィン系樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1−ブテン)、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンとそれ以外のα−オレフィン(たとえば1−ブテンなど)との共重合体があげられる。該ポリオレフィン系樹脂がプロピレン−エチレン共重合体樹脂又はプロピレン−1−ブテン共重合体樹脂である場合には、本発明の熱可塑性エラストマーは、耐熱性及び柔軟性に優れた粉末成形体を与えうる点で好ましい。
【0044】該ポリオレフィン系樹脂の結晶化度は50%以上であることが必要であり、60%以上であることが得られた粉末成形体の耐熱性及び強度の観点から好ましい。ここで結晶化度とはX線回折法により求められる。
【0045】また、2段階以上で、エチレン及び炭素原子数が3〜8のα−オレフィンから選ばれる2種類以上のモノマーが共重合されてなる共重合体を用いることもできる。たとえば、第一段階でプロピレンを単独重合させ、第二段階でプロピレンと、エチレン、又はプロピレン以外のα−オレフィンとを共重合させて得られる共重合体を用いることができる。なお、粉末成形法により得られる成形体の強度の観点から、該ポリオレフィン系樹脂のJIS K−7210に準拠して230℃、荷重2.16kgfで測定したメルトフローレート(MFR)は、通常は20〜500g/10分、好ましくは50〜 300g/10分、特に好ましくは100〜300g/10分の範囲内である。なお、該該ポリオレフィン系樹脂として、有機過酸化物等を用いて分解して得られて高流動化させたものを使用することもできる。
【0046】ゴム質重合体とは、エチレン−α−オレフィン系共重合体、プロピレン−α−オレフィン系共重合体、共役ジエン系重合体等のオレフィン系ゴム質重合体や、先述のスチレン系熱可塑性エラストマー等から選ばれる少なくとも1種類である。
【0047】エチレン−α−オレフィン系共重合体とは、エチレン及びα−オレフィンの共重合体、エチレン、α−オレフィン及び非共役ジエンの共重合体などであって、結晶性をほとんど有しない重合体又は結晶化度が50%未満である重合体である。ここで結晶化度とは、先述のX線回折法により求められる。
【0048】ここで、エチレン−α−オレフィン系共重合体に用いられるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素原子数が3〜8のα−オレフィンが好ましく用いられる。なお、エチレン−α−オレフィン系共重合体は、1、4−ヘキサジエン、1、6−オクタジエン、シクロペンタジエン、2−メチル−2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンや、スチレン、α−メチルスチレン、2、4−ジメチルスチレン、p−メチルスチレンなどのビニル芳香族化合物等の単量体が共重合されていてもよい。
【0049】かかるエチレン−α−オレフィン系共重合体としては、たとえばエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体及びエチレン−プロピレン−5―エチリデン2―ノルボルネン共重合体などがあげられる。かかるエチレン−α−オレフィン系共重合体は、架橋されていてもよい。
【0050】α−オレフィン単位含有量は、通常は5〜40重量%、より好ましくは10〜35重量%の範囲であり、エチレン単位含有量は、通常は60〜95重量%、好ましくは65〜90重量%である。α−オレフィン単位含有量及びエチレン単位含有量は、13C−NMR法や、赤外線吸光分光法などによって求めることができる。
【0051】なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体の強度の観点から、このエチレン−α−オレフィン系共重合体の、ASTM D−927−57Tに準じて100℃で測定したムーニー粘度{ML1+4(100℃)}は、通常は10〜350、より好ましくは15〜300の範囲内である。
【0052】プロピレン−α−オレフィン系共重合体とは、プロピレン及びα−オレフィンの共重合体、プロピレン、エチレン及びα−オレフィンの共重合体などであって、結晶性をほとんど有しない重合体又は結晶化度が50%未満である重合体である。ここで結晶化度とは、X線回折法により求められる値である。このようなプロピレン−α−オレフィン系共重合体は、例えば特開平11−323034号公報等に記載されている。
【0053】共役ジエン系重合体とは、共役ジエン重合体又は共役ジエン重合体の水添物である。
【0054】共役ジエン重合体とは、少なくとも1種の共役ジエンが重合もしくは共重合してなる重合体である。共役ジエンの例としては、たとえばブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエンなどの炭素原子数4〜8の共役ジエンがあげられる。共役ジエン重合体の例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリペンタジエン、ブタジエン−イソプレン共重合体などがあげられる。
【0055】共役ジエン重合体の水添物とは、前記共役ジエン重合体が水添されてなる水添共役ジエン重合体である。かかる水添共役ジエン重合体としては、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、水添ポリペンタジエン、水添ブタジエン−イソプレン共重合体などがあげられる。
【0056】このような共役ジエン系重合体は、たとえば特開平2−36244号公報、特開平3―72512号公報、特開平7―118335号公報、特開昭56−38338号公報、特開昭61−60739号公報などに記載された方法によって容易に製造することができる。
【0057】また、ゴム質重合体として先述のスチレン系熱可塑性エラストマーの一種である共役ジエンとビニル芳香族化合物との共重合体の水添物を用いる場合、水添された全共役ジエン単位の数に対する炭素数2以上の側鎖を有する水添された共役ジエン単位の数の割合が、重合の際に用いられる共役ジエン単量体の種類によって異なるが、通常は50%以上であり、好ましくは60〜95%、更には70〜90%であることが、得られる熱可塑性エラストマーからなる粉末成形体の柔軟性に優れ、かつ前記第四工程で金型から取り出す際に、該粉末成形体に折れじわが白化し難い点で好ましい。かかる割合は、1H−NMR測定により求めることができる。また、この場合スチレン系熱可塑性エラストマーの水添率は80%以上であることが必要であり、好ましくは90%以上、特には95%以上であることが、得られる粉末成形体の耐熱性及び耐光性の観点から好ましい。
【0058】これらゴム質重合体のMFR(JIS K−7210に準拠して230℃、荷重2.16kgfで測定)メルトフローレートは、2〜200g/10分が好ましく、更に好ましくは5〜100g/10分、特に好ましくは10〜100g/10分であることが、粉末成形法によって外観、強度に優れる成形体が得られる点で好ましい。
【0059】また、ゴム質重合体としては、他に天然ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム等のゴム質重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びそのけん化物、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0060】これらゴム質重合体の中でも、ポリオレフィン系樹脂と混練して得られる組成物の固体粘弾性測定により得られたtanδ−温度依存性曲線において、−70〜30℃の温度範囲にポリオレフィン系樹脂のtanδピーク温度及びゴム質重合体のtanδピーク温度のいずれとも異なる温度に新たな単一のtanδピークを与えるゴム質重合体が、得られる粉末成形体の柔軟性に優れ、折り曲げたときに折り曲げた部分が白化しないという性質を有する点で好ましく用いられる。また、該性質を有さないゴム質重合体であっても、配合することにより得られる粉末成形体の耐寒衝撃性が向上するという利点がある。
【0061】これらのオレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィン系樹脂、ゴム質重合体及び必要に応じて配合される各種成分を溶融混練することによって得ることができる。また、溶融混練時に有機過酸化物及び架橋助剤を配合することにより、主にゴム質重合体部が架橋された部分架橋型組成物を得ることができる。
【0062】混練には、公知の一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ロール等が使用される。なお、先述の各種成分添加剤及び各種重合体の配合は、たとえば、これらの添加剤が予め配合されたポリオレフィン系樹脂又はゴム質重合体を用いる方法や、上記成分の混練や動的架橋の際に行われる。
【0063】ポリオレフィン系樹脂及びゴム質重合体からなるオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いる場合、その重量比は、通常は5:95〜95:5、好ましくは20:80〜50:50、より好ましくは30:70〜45:55である。ポリオレフィン系樹脂の含有量が5重量%未満の場合は、得られる粉末成形体に粘着性が生じ、耐熱性及び耐寒性が不十分であるという場合がある。また、ポリオレフィン系樹脂の含有量が95重量%を超える場合は、得られる粉末成形体の柔軟性が不十分であり、触感及び耐傷付き性等に優れた粉末成形体が得られない。
【0064】また、先述のゴム質重合体のうち、エチレン−α−オレフィン系共重合体、プロピレン−α−オレフィン系共重合体、共役ジエン系重合体等のオレフィン系ゴム質重合体を、本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマーとして使用することもできる。しかし、この場合使用されるオレフィン系ゴム質重合体のパウダーが常温で粘着性を有する場合、粉末成形体の製造が困難となるため、粘着性を有さないことが必要である。
【0065】オレフィン系ゴム質重合体を、本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマーとして使用する場合、オレフィン系ゴム質重合体としては、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等のエチレン−α−オレフィン系共重合体が通常使用される。これらのX線回折法により求まる結晶化度は20〜45%であることが好ましい。
【0066】該エチレン−α−オレフィン系共重合体の通常及び好ましいα−オレフィン単位含有量及びエチレン単位含有量、ムーニー粘度{ML1+4(100℃)}は、先述に記載されている通りである。
【0067】なお、この場合、得られる粉末成形体の柔軟性及び耐傷付き性には優れるものの、該共重合体の融点が通常100℃以下と低いため、耐熱性を必要とする用途への適用は制限される。
【0068】塩化ビニル系熱可塑性エラストマーとは、ポリ塩化ビニル樹脂、可塑剤及び必要に応じて安定剤や顔料が配合されている熱可塑性エラストマーである。塩化ビニル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば住友化学工業株式会社製スミリットFLXが挙げられる。また、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーは、さらにNBR(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム)や、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム)等のゴム質重合体が配合されていてもよい。この場合、耐寒衝撃性の優れた粉末成形体を得ることができる。
【0069】ポリエステル系熱可塑性エラストマーとは、例えば芳香族ポリエステル(例えば1,4−ブタンジオールとテレフタル酸の縮合物)からなるハードセグメント及び脂肪族ポリエーテル(例えばポリテトラメチレングリコールとテレフタル酸の縮合物)又は脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントからなり、必要に応じて顔料や安定剤が配合されてなる熱可塑性エラストマーである。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、さらにNBR(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム)や、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム)等のゴム質重合体が配合されていてもよく、この場合より耐寒衝撃性の優れた粉末成形体を得ることができる。
【0070】ポリアミド系熱可塑性エラストマーとは、結晶性で溶融温度の高いポリアミドをハードセグメントとして有し、非晶性でガラス転移温度の低いポリエーテルやポリエステルをソフトセグメントとして有するブロックコポリマーである。必要に応じて顔料や安定剤が配合される。ポリアミド系熱可塑性エラストマーとは、ポリエーテルエステルアミドタイプ及びポリエステルアミドタイプの2種類に大別される。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、さらにNBR(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム)や、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム)等のゴム質重合体が配合されていてもよく、この場合より耐寒衝撃性の優れた粉末成形体を得ることができる。
【0071】ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとは、ポリウレタンをハードセグメントに、ポリオールやポリエステルをソフトセグメントに有する熱可塑性エラストマーでである。必要に応じて顔料や安定剤が配合される。ポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなるパウダーとしては、三洋化成工業株式会社製のメルテックスLA等が挙げられる。
【0072】なお、これら熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーは、鉱物油系軟化剤や、フェノール系、サルファイト系、フェニルアルカン系、フォスファイト系、アミン系、アミド系等の耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、顔料、金属石けん、ワックス、防かび剤、抗菌剤、フィラーなどの各種添加剤などを含有していてもよい。
【0073】また、本発明の熱可塑性パウダーは、微細粉体組成物のほかに、粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーの粉砕物100重量部に対して、さらに(C)1次粒径が300nmを超え10μm以下である粉体が0.1〜5重量部配合されていてもよい。この場合、該微細粉体組成物を単独で用いた場合と比較して、さらにかさ比重(パッキング性)及び耐凝集性の優れた熱可塑性パウダーを得ることができる。
【0074】粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに、先述の微細粉体及び(C)を配合する方法は特に限定されるものではない。たとえば、ジャケットのついたブレンダーや高速回転型ミキサーやナウターミキサー等を使用してブレンドする方法などがあげられる。中でもヘンシェルミキサーやスーパーミキサーのように、せん断力を加えることにより互着を防止して均一に分散させる方法が好ましい。また、配合は通常室温で行われる。
【0075】この時、粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー、先述の微細粉体組成物及び(C)をすべて一括で配合しても良いし、該粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー及び該微細粉体組成物を配合した後で、(C)を配合してもよいし、該粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー及び(C)を配合した後で、該微細粉体組成物を配合してもよい。また、該微細粉体組成物及び(C)を予め混合した後で、該粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを配合してもよい。
【0076】(C)を構成する成分としては、先述の無機酸化物、顔料、ペースト用塩化ビニル樹脂、脂肪酸金属塩等からなどがあげられる。また、特開2000−336219号公報や特開2001−123019号公報に記載されているガラス転移温度が60℃以上のアクリレート系重合体や特定の真球度の非ハロゲン系樹脂を使用することもできる。
【0077】上記の熱可塑性パウダーを粉末成形する場合、該熱可塑性パウダーを構成する熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーの250℃における複素動的粘度η*(1)は1×102〜5×104ポイズであることが好ましく、更には3×102〜8×103ポイズの範囲であることが好ましい。ここで複素動的粘度η*(ω)とは、温度250℃、振動周波数ωにおける貯蔵弾性率G’(ω)及び損失弾性率G''(ω)を用いて、下記計算式(1)によって算出される値であり、複素動的粘度η*(1)とはω=1ラジアン/秒における複素動的粘度である。
η*(ω)={〔G’(ω)〕2+〔G''(ω)〕21/2/ω (1)
η*(1)が上記の上限を超えると、熱可塑性パウダーの溶融流動性が劣り、粉末成形法のような成形時の剪断速度が通常1秒-1以下と低い値の成形方法によって粉末成形体を製造することが困難となる傾向にある。
【0078】本発明の熱可塑性パウダーを粉末成形する場合、0.28以下であることが必要であり、好ましくは0.01〜0.20の範囲が好ましく、更には0.03〜0.15の範囲であることが好ましい。ここでニュートン粘性指数nとは前記の複素動的粘度η*(1)と温度250℃、振動周波数ω=100ラジアン/秒で測定される複素動的粘度η*(100)とを用いて下記計算式(2)によって算出される値である。
n={logη*(1)−logη*(100)}/2 (2)
ニュートン粘性指数nが先述の上限を超えると、得られる粉末成形体の機械的強度が低くなる傾向にある。
【0079】なお、本発明の熱可塑性パウダーが熱可塑性エラストマーからなるパウダーである場合は、前記した複素動的粘度やニュートン粘性指数で示される物性値を満足するよう、上記の混練や動的架橋の程度、該熱可塑性エラストマーを構成する各成分の種類やその使用量、動的架橋における架橋剤や架橋助剤の種類やその使用量、添加剤の種類やその使用量などが適宜選択される。中でも混練や動的架橋における剪断速度が上記の物性値に与える影響は大きく、剪断速度1×103-1以上で混練や動的架橋することが好ましい。
【0080】熱可塑性パウダーは、前述の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを機械的に粉砕する方法、ストランドカット法、ダイフェースカット法、溶剤処理法等によって製造することができる。
【0081】熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを機械的に粉砕する方法として、冷凍粉砕法又は常温粉砕法があげられる。冷凍粉砕法は、該熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーをそのガラス転移温度以下、好ましくは−70℃以下、さらに好ましくは−90℃以下に冷却し、冷却状態を保ったまま粉砕する方法である
【0082】また、該熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーの冷却状態を保ちながら粉砕するためには、粉砕効率がよく、発熱が少ない方法で粉砕することが好ましく、たとえばボールミルなどの衝撃式粉砕機を用いる機械的粉砕法などが用いられる。この方法での該熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなるパウダーは通常、タイラー標準篩24メッシュ(目開き700μm×700μm)を通過する大きさであり、好ましくは28メッシュ(目開き590μm×590μm)を通過する大きさであり、更に好ましくは32メッシュ(目開き500μm×500μm)、特に好ましくは42メッシュ(目開き355μm×355μm)を通過する大きさである。
【0083】熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなるパウダーに微細粉体を配合する方法としては、微細粉体が熱可塑性エラストマーの粉砕物上に均一付着する方法であれば、特に限定されるものではない。たとえば、ジャケットのついたブレンダーや高速回転型ミキサー等を使用してブレンドする方法などがあげられる。中でもヘンシェルミキサーやスーパーミキサーのように、せん断力を加えることにより粉体の互着を防止して均一に分散させる方法が好ましい。また、配合は通常室温で行われる。
【0084】熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなるパウダーは、下記の方法によっても製造することができる。この場合、先述の微細粉体を配合しなくても、粉体流動性に優れたパウダーを得ることができるが、該微細粉体を配合すると更に粉体流動性を改良することもできる。
【0085】溶剤処理法:熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーをそのガラス転移温度以下(通常は−70℃以下、好ましくは−90℃以下)に冷却し、粉砕する。次いで、上記の冷凍粉砕法によって製造されたパウダーを、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーとの相溶性に劣る溶剤中で、分散剤と乳化剤の存在下に、パウダーの溶融温度以上、好ましくは該溶融温度よりも30〜50℃高い温度で攪拌した後、冷却する(たとえば、特開昭62−280226号公報参照)。溶剤処理法においては、溶剤としては、たとえばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが、パウダー100重量部あたり、通常は300〜1000重量部、好ましくは400〜800重量部の範囲で使用される。分散剤としては、たとえばエチレン−アクリル酸共重合体、無水ケイ酸、酸化チタンなどが、パウダー100重量部あたり、通常は5〜20重量部、好ましくは10〜15重量部の範囲で使用される。乳化剤としては、たとえばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ソルビタントリステアレートなどが、パウダー100重量部あたり、通常は3〜15重量部、好ましくは5〜10重量部の範囲で使用される。
【0086】ストランドカット法:溶融している熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーをダイスから空気中に押し出してストランドとし、これを冷却して切断する(たとえば、特開昭50−149747号公報参照)。前記のストランドカット法においては、ダイスの吐出口径は、通常は0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmの範囲にある。ダイスの吐出口1個あたり熱可塑性エラストマーの吐出速度は、通常は0.1〜5kg/時、好ましくは0.5〜3kg/時の範囲にある。ストランドの引取速度は、通常は1〜100m/分、好ましくは5〜50m/分の範囲にある。また、冷却されたストランドは、通常は1.4mm以下、好ましくは0.3〜1.2mmに切断される。
【0087】ダイフェースカット法:溶融している熱可塑性樹脂又は溶融している熱可塑性エラストマーをダイスから水中に押し出しながら切断する。ダイフェースカット法においては、ダイスの吐出口径は、通常は0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mmの範囲にある。ダイスの吐出口1個あたりの熱可塑性エラストマーの吐出速度は、通常は0.1〜5kg/時、好ましくは0.5〜3kg/時の範囲にある。水の温度は、通常は30〜70℃、好ましくは40〜60℃の範囲にある。
【0088】なお、熱可塑性エラストマーが、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー又はポリウレタン系熱可塑性エラストマーである場合は、球状の該熱可塑性エラストマーパウダーを重合時に一段階で得ることも可能である。
【0089】上記の熱可塑性パウダーは、粉末スラッシュ成形法、流動浸漬法、静電塗装法、粉末溶射法、粉末回転成形法などの種々の粉末成形法に適用することができる。たとえば、粉末スラッシュ成形法は次のようにして行われる。
【0090】第一工程:金型の成形面上に、フッ素系及び/又はシリコーン系離型剤を塗布する工程。
本発明の熱可塑性パウダーで粉末成形を行う際、形状によっては得られた粉末成形体の取り外し(第六工程)が難しいことがあるので、金型の成形面を予めシリコーン系スプレーやフッ素系スプレー等のスプレーでコートしておいてもよい。シリコーン系スプレーとしては、例えば信越シリコーン社製のKF96SP(有機溶剤希釈品)等が、フッ素系スプレーとしては、ダイキン社製のダイフリーGA−6010(有機溶剤希釈品)、ME−413(水希釈品)等が挙げられる。
【0091】第二工程:熱可塑性パウダーの溶融温度以上に加熱された金型の成形面上に、熱可塑性パウダーを供給する工程熱可塑性パウダーを、該組成物の溶融温度以上、通常は160〜320℃、好ましくは210〜300℃に加熱された金型の成形面上に供給する。この方法において、金型は、たとえばガス加熱炉方式、熱媒体油循環方式、熱媒体油内又は熱流動砂内への浸漬方式、高周波誘導加熱方式などによって加熱される。熱可塑性パウダーを熱融着させるための加熱時間は、目的とする成形体の大きさや厚みなどに応じて適宜選択される。
【0092】第三工程:第二工程の成形面上で熱可塑性パウダーを所定の時間加熱し、少なくともその表面が溶融したパウダーを、互いに融着させる工程該成形面上で前記パウダーを所定の時間の間加熱し、少なくとも表面が溶融したパウダーを、互いに融着させる。
【0093】第四工程:第三工程における所定時間が経過した後に、融着しなかったパウダーを回収する工程該所定時間が経過した後に、融着しなかったパウダーを回収する。
【0094】第五工程:必要に応じて、溶融した熱可塑性パウダーがのっている金型をさらに加熱する工程必要であれば、溶融した熱可塑性パウダーがのっている金型を更に加熱する。
【0095】第六工程:第五工程の後、金型を冷却して、その上に形成された成形体を金型から取り外す工程金型を冷却して、その上に形成された成形体を金型から取り外す。
【0096】なお、発泡剤を含有する本発明の熱可塑性パウダーを粉末成形し、更に発泡させることにより、発泡成形体を製造することができる。発泡剤は該パウダーの内部に予め含有されていてもよいし、前述のヘンシェルミキサー等の回転ミキサーによって、該パウダーの表面にコーティングされていてもよい。
【0097】発泡剤としては、通常は熱分解型発泡剤が用いられる。かかる熱分解型発泡剤の例には、アゾジカルボンアミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾジアミノベンゼンなどのアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼン−1,3−スルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジドなどのスルホニルヒドラジド化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミドなどのニトロソ化合物、テレフタルアジドなどのアジド化合物、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの炭酸塩類などが含まれる。中でも、アゾジカルボンアミドが好ましく使用される。発泡剤の配合は、通常は発泡剤の分解温度以下の温度で行われる。発泡剤は、前述の微細粉体組成物と同時に配合することもできるし、個別に配合することもできる。
【0098】また、本発明の熱可塑性パウダーは、発泡剤と共に、発泡助剤やセル調整剤を含有していてもよい。
【0099】本発明の熱可塑性パウダーを成形して得られる粉末成形体は表皮材として有用であるが、その一方の面側に発泡層が積層されてなる二層成形体を表皮材として用いてもよい。かかる二層成形体は、粉末成形法(特開平5―473号公報など参照)によって一体的に製造することもできるし、上記で得た粉末成形体に、別途製造した発泡体を接着剤などで接着させる方法によって製造することもできる。
【0100】更に、粉末成形法によって、非発泡層―発泡層―非発泡層からなる複合成形体とすることも可能である。この場合、非発泡層は同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0101】また、二層成形体又は複合成形体の発泡層としてポリウレタン発泡体を用いることもできる。この場合、非発泡層とポリウレタン発泡体の間の接着性が劣る場合は、塩素化ポリエチレン等のプライマーで成形体の接着面を前処理することで接着性を向上することができる。なお、ポリウレタン発泡体は、上記成形体、後述する芯材とを一定の間隙を開けて所定の位置に固定し、その間隙にポリオール、ポリイソシアナートの混合液を注入し、加圧下発泡させることにより成形される。
【0102】かかる成形体、二層成形体又は複合成形体は熱可塑性樹脂芯材に積層される表皮材として好適であり、たとえば上記成形体はその一方の面側に熱可塑性樹脂芯材が積層されてなる多層成形体に用いることができ、また二層成形体又は複合成形体はその発泡層側に熱可塑性樹脂芯材が積層されてなる多層成形体に用いることができる。
【0103】熱可塑性樹脂芯材における熱可塑性樹脂としては、たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられる。中でも、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましく使用される。かかる多層成形体は、たとえば成形体の一方の面側に熱可塑性樹脂溶融体を供給し加圧する方法又は二層成形体の発泡層側に熱可塑性樹脂溶融体を供給し、加圧する方法によって容易に製造することができる。
【0104】また、二層成形体、複合成形体又は多層成形体において、本発明の熱可塑性パウダーを粉末成形して得られる粉末成形体を塗料により塗装することにより、粉末成形体の耐傷つき性及び耐摩耗性を向上させることも可能である。塗料としては、公知のウレタン系、アクリル系等の1液型又は2液型の塗料を使用することができる。
【0105】
【実施例】以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
[1]実施例で使用したオレフィン系熱可塑性エラストマーの複素動的粘度η*(1)及びニュートン粘性指数nレオメトリックス社製ダイナミックアナライザー(RDS−7700型)を用いて貯蔵弾性率G’(ω)及び損失弾性率G''(ω)を振動周波数ω=1ラジアン/秒又は100ラジアン/秒で測定し、前記の計算式(1)によって複素動的粘度η*(1)とη*(100)とを算出した。なお、測定は平行平板モード、印加歪み5%、サンプル温度250℃で行った。また、η*(1)とη*(100)とを用いて、前記の計算式(2)によってニュートン粘性指数nを求めた。
[2]オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性パウダーを粉末スラッシュ成形してなる粉末スラッシュ成形体の離型性評価後述の方法で粉末スラッシュ成形して得られた粉末スラッシュ成形体の、金型に接している部分の幅が10cmとなるよう、粉末スラッシュ成形体の端部を剥がした。次いで、力の方向が金型面に対して水平(180°)になるように保ちながら、粉末スラッシュ成形体を該金型から取り出した。取り出しに要した、10cm幅当たりの力を、ばねばかりを用いて測定した。
[3]オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性パウダーを粉末スラッシュ成形してなる粉末スラッシュ成形体の溶融性評価後述の方法で粉末スラッシュ成形して得られた粉末スラッシュ成形体の、溶融性を下記基準で評価した。
○:粉末スラッシュ成形体の裏面が均一に溶融しており、凹凸が見られなかった。
×:粉末スラッシュ成形体の裏面が均一に溶融しておらず、凹凸が見られた。
【0106】実施例1[オレフィン系熱可塑性エラストマーパウダーの製造]プロピレン−エチレン共重合体樹脂〔住友化学工業株式会社製、エチレン単位含有量5重量%、MFR=220g/10分〕100重量部、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物〔全スチレン単位含有量15重量%、MFR=30g/10分、水添率98%〕100重量部及びエチレン・プロピレンゴム〔住友化学工業株式会社製、プロピレン単位含有量27重量%、MFR=1g/10分〕50重量部を、単軸混練機〔田辺プラスチック機械株式会社製、VS40mm エキストルーダー〕を用いて、温度170℃で混練して組成物〔η*(1)=1.2×103ポイズ、n=0.07〕を得、これを切断機で切断してペレットを得た。このペレットを、液体窒素を用いて−120℃に冷却後、冷却状態を保ったまま粉砕し、オレフィン系熱可塑性エラストマーの粉砕物〔タイラー標準篩42メッシュ(目開き355μm×355μm)を通過〕を得た。次いで、この粉砕物100重量部あたりに、1次粒径が50nmの表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体(デグサ社製シリカ、OX−50)70重量%及び1次粒径が14nmの表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体(デグサ社製微細粉体R202、シリコーンオイルにより処理されたシリカ)30重量%からなる微細粉体組成物1重量部及び1次粒径が3μnの微細粉体(水沢化学社製アルミナシリカ、JC−30)2重量部をヘンシェルミキサーで配合し、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性パウダーを得た。
【0107】[粉末成形体の製造及び離型性評価](1)表面に凹凸模様を有するニッケル製金型(15cm×15cm×3mm厚)を、砂及びガラスビーズからなる混合物を用いてホーニング処理(洗浄処理)した。
(2)該金型を、290℃に加熱された鉄板(ホットプレート)上に置き加熱した。該金型の表面温度が260℃になった時点で先述の熱可塑性パウダーをふりかけ、該熱可塑性パウダーを溶融させ、互いに融着させた。10秒後、融着しなかった該熱可塑性パウダーを払い落とすことにより回収した。該金型を先述の鉄板上に60秒間置いた後該金型を水冷し、得られた粉末スラッシュ成形体の離型性を評価した。結果を表1に示す。なお、粉末スラッシュ成形の厚みは約1mmであった。
【0108】比較例1実施例1において、粉砕物100重量部あたり、1次粒径が50nmの表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体(デグサ社製シリカ、OX−50)1重量部を配合した以外は、実施例1に準拠して離型性を評価した。結果を表1に示す。
【0109】比較例2実施例1において、粉砕物100重量部あたり、1次粒径が14nmの表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体(デグサ社製微細粉体R202、シリコーンオイルにより処理されたシリカ)1重量部を配合した以外は、実施例1に準拠して離型性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】比較例3実施例1において、粉砕物100重量部あたり、1次粒径が50nmの表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体(デグサ社製シリカ、OX−50)0.3重量部及び1次粒径が14nmの表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体(デグサ社製微細粉体R202、シリコーンオイルにより処理されたシリカ)0.7重量部とした以外は、実施例1に準拠して離型性を評価した。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】


【0112】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明により、特定の2種類の微細粉体からなる微細粉体組成物及び粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーに該微細粉体組成物が配合されてなる、溶融凝着性に優れ、金型の成形面上から取り出す際の離型性に優れる粉末成形体を与える熱可塑性パウダーを提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記(A)10〜50重量%及び(B)90〜50重量%からなる微細粉体組成物。
(A):表面がシリコーンオイルにより処理されていない微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体(B):表面がシリコーンオイルにより処理されている微細粉体であって、かつ1次粒径が5〜300nmである微細粉体
【請求項2】 粒状の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー100重量部に対し、請求項1記載の微細粉体組成物が合計0.1〜10重量部配合されてなる熱可塑性パウダー。
【請求項3】 さらに、下記(C)が0.1〜10重量部配合されてなる請求項2記載の熱可塑性パウダー(C):1次粒径が300nmを超え10μm以下である粉体

【公開番号】特開2003−34735(P2003−34735A)
【公開日】平成15年2月7日(2003.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−224065(P2001−224065)
【出願日】平成13年7月25日(2001.7.25)
【出願人】(000002093)住友化学工業株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】