説明

微細繊維からなるシート

【課題】従来の抄造法による製造では困難な、微細繊維からなるシート。及び、その効率的な生産方法を提供する。
【解決手段】微細繊維のスラリーを基材上に塗布し、これを乾燥して形成された微細繊維層を基材から剥離することにより、微細繊維からなるシートを得ることができる。塗工装置と長尺の基板シートを用いることで、微細繊維から成るシートを連続的に生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙パルプ、繊維、食品、医薬品、化成品、土木、建築、電気・電子材料等の各種産業分野において種々の目的、用途で利用可能な、微細繊維からなるシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維をシート状に成型したものとして、紙、布、不織布、繊維板等が挙げられるが、それぞれ様々な特性を有し、様々な用途で利用されているのは周知の通りである。
【0003】
紙や一部の不織布は、天然繊維や有機、無機の各種合成繊維等を水等の媒体に分散し、これを網等の多孔性の基材上で、ろ過することによる脱水で基材上に水を含む繊維層を形成させ、その後、残った水分等を加熱蒸発させて乾燥したシートを得るいわゆる抄造で作られている。この抄造においては、液体を繊維の分散媒体として用いることにより均一な繊維層を形成できるといった利点があるが、使用する繊維が微細になると、網の目から抜け落ちたり、逆に緻密な繊維層を形成してろ過による脱水が困難になる等の問題が生じるため、抄造による繊維シートの製造には、実用的に使用できる繊維の大きさに限界があるのが実情であり、微細な繊維は補助的な材料として原料の一部に混合して使用することしかできなかった。
【0004】
一方、繊維同士に結合力や絡み合いが生じる繊維の場合、一般に繊維を微細化するに従い、シート化した際の均質性や強度等の特性が向上することが期待され、微細な繊維を主体としたシートの効率的な製造が可能となれば、新たな機能や特性を有する繊維シートの創出が可能になる。
【0005】
抄造によるシート化が困難な微細繊維からなるシートの製造方法は、これまでいくつか提案されている。例えば、微細な穴の開いたワイヤーメッシュ上に微細繊維化パルプのスラリーを流延し、真空脱水することによる微細繊維化パルプシートの製造方法が開示されている(特許文献1)。また、微細セルロース繊維とキトサン、ポリグリセリンの混合物をガラス基板上に流延、乾燥することによるフィルムが開示されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、特許文献1のワイヤーメッシュを用いる方法の場合、使用可能な繊維の長さは0.3〜2.1mm程度とあり、それより微細な繊維では適用が困難になるものと想定される。また、特許文献2のガラス基板を用いる方法の場合、得られるシートの大きさはガラス基板の大きさに制限されてしまい、巻き取りが可能な長尺シートの製造は実際上不可能であるため、使用用途を限定せざるを得ない。
【特許文献1】特開平8−188981号公報(第1〜6頁)
【特許文献2】特開平5−148387号公報(第1〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実状を鑑みたものであって、塗工による方法で、連続的に効率よく製造された、微細繊維からなるシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため検討した結果、塗工により微細繊維のスラリーを基材上に塗布し、これを乾燥して形成された微細繊維層を基材から剥離することにより、良好な微細繊維シートを得ることができることを見出した。原料となる微細繊維は、合成高分子、天然高分子いずれの繊維でも良く、抄造では困難な太さ1μm以下、長さ0.5mm以下の大きさの繊維であってもシート化が可能であることを見出した。
【0009】
本発明における微細繊維とは、製紙用途で通常用いられる各種パルプ繊維よりも細く短い繊維であり、光学顕微鏡や電子顕微鏡による直接観察で任意の20本の繊維の太さの測定値の平均値が10μm以下であり、かつ繊維長測定装置(例えば、FS−200、KAJAANI社製)で測定した長さ加重平均繊維長が1mm以下の繊維である。
【0010】
本発明における微細繊維の素材としては天然繊維、合成繊維のいずれでも良い。また、微細繊維のスラリー化にあたっては、媒体は水以外の成分でも良いが、微細繊維を溶解せず、微細繊維の溶融もしくは分解温度以下の温度で乾燥が可能な液体を用いなければならない。また、微細繊維をスラリーとする際には、各種特性や機能を付与する目的で、有機、無機の微細繊維以外の各種成分を適宜添加することができる。但し、塗工に支障をきたすような成分を添加することはできないことは言うまでもない。
【0011】
本発明における基材とは、微細繊維スラリーを塗布するための支持体であり、スラリーの媒体に溶けず、乾燥温度域での変形等が無く、可とう性を有しており、連続したシート形成が可能となるものであれば良い。表面は平滑であっても、所望のシート形状に合わせ、凹凸や立体的なパターンがあっても良い。基材の材質は、微細繊維スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択しなければならない。中でも紙、布、樹脂板、セラミック板、金属板の中で、適当なものを単独、または積層して使用するのが好適である。
【0012】
本発明における塗工とは、様々な基材の表面に、各種高分子や粒子等の溶液やスラリーを塗布する技術であるが、本発明では塗工方法、塗工装置を利用して少なくとも微細繊維を含有するスラリーを、様々な材質、形状からなる基板に塗布するものである。
【0013】
本発明における連続したシートは、各種塗工装置を用いて、装置に適した幅、長さの巻き取り状の基材を用い、塗布、乾燥、剥離を連続的に行うことにより製造するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来の抄造では製造が困難であった、微細繊維からなるシートを製造することが可能となり、さらに連続的に製造することにより種々の特性を有する微細繊維からなるシートを各種産業分野で広範囲に利用することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、微細繊維はアラミド繊維を微細化したもの(ティアラ、ダイセル化学工業社製)や、アクリル繊維(ボンネル、三菱レイヨン社製)を微細化加工したもの、ポリアリレート繊維(ベクトラン、クラレ社製)を微細化加工したもの、ポリフェニレンサルファイド繊維(トルコン、東レ社製)を微細化加工したもの、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(ザイロン、東洋紡績社製)を微細化加工したもの、ポリイミド繊維(P84、東洋紡社製)を微細化加工したもの、ポリエチレンテレフタレート繊維(テイジンテトロンテピルス、帝人ファイバー社製)を微細化加工したもの、ポリエチレン繊維(ダイニーマ、東洋紡績社製)を微細化加工したもの、パルプ等のセルロース繊維を微細化加工したもの(セリッシュ、ダイセル化学工業社製)、キチン繊維(クラビオン、オーミケンシ社製)を微細化加工したもの等を用いればよい。十分に微細化されていない繊維については、各種ホモジナイザーや粉砕機により繊維にせん断力を作用させて、所定の繊維サイズになるまで微細化加工して用いればよい。繊維サイズの評価には、光学顕微鏡や電子顕微鏡での直接観察による繊維の太さの測定値、パルプ用の繊維長測定装置(例えば、FS−200、KAJAANI社製)による、長さ荷重平均繊維長の測定値を用いる。
【0016】
上記微細繊維をスラリーにする際には、微細繊維を変質させない範囲で、水やアルコール類、ケトン類等の液体を単独或いは混合し、微細繊維濃度が0.1〜10質量%となるように繊維を分散させれば良い。微細繊維は、2種類以上のものを混合して用いてもよい。さらに、単独では微細繊維同士の結合力が無く、シート化が困難な微細繊維を用いた場合には、各種バインダーを添加したり、シートの特性や機能を調整する目的で各種資材を添加しても良い。
【0017】
本発明において、微細繊維を含むスラリーを基材上に塗工するには、例えば紙や布、テフロン(R)板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリカーボネート板、塩化ビニル板、アルミ板、ステンレス板等を基材として用い、所定のスラリー量を基材上に塗布することが可能な各種塗工装置を使用すれば良い。中でも基板には樹脂板や金属板を用いるのが、塗布性、剥離性等の点で好適である。また、塗工装置としてはロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター等が使用できるが、中でもダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアドクターコーター等の塗工方式によるものが均一な塗布には有効である。また、乾燥には熱風乾燥や赤外線乾燥、真空乾燥等が有効である。基板上で形成した乾燥シートは基板と共に巻き取り、使用時に基板から剥離して使用しても良いし、基板の巻取り前にシートを剥離し、基板とシートそれぞれを巻き取りとしても良い。
【0018】
微細繊維より製造したシートは、太い繊維で製造したシートよりも、緻密で高強度であることから、各種フィルターやセパレーター、支持基板や補強材、音響振動板等に使用することができる。
【0019】
以下に実施例、比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中に記載の濃度は、すべて質量濃度である。
【実施例1】
【0020】
微小繊維状アラミド(ティアラ、ダイセル化学工業社製)、を0.1質量%濃度で水に懸濁した。高圧ホモジナイザー(MG3、BOS社製)を用いて、100Lの懸濁液を50MPaの圧力で60分間循環処理した。処理後の繊維を走査型電子顕微鏡で観察して測定した繊維の太さは、450nm、繊維長測定器(FS−200、KAJAANI社製)で測定した長さ加重平均繊維長は0.48mmであった。得られたスラリーにバインダーとして0.01質量%濃度となるようにポリアクリルアミドを溶解、撹拌し、幅50cm、長さ20mのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板の上に連続的にカーテンコーティングした。80℃の熱風乾燥後に形成されたアラミド微細繊維シートを基板であるPTFE板より剥離し、幅50cm、長さ20mのアラミド微細繊維シートを得た。単位面積当りの坪量は10g/mの設計値に対し、シートの実測値は、9.3g/mであり、使用したアラミド微細繊維のほとんどがロス無く、シート中に存在することが明らかであった。
【0021】
(比較例1)
実施例1で塗工したアクリルアミドを含むアラミド微細繊維のスラリー5Lを、0.5mの面積で70メッシュのワイヤーメッシュ上で抄造した。しかしながら、アラミド微細繊維の大部分がワイヤーメッシュから抜け落ち、ワイヤーメッシュ上に残存した僅かなアラミド微細繊維ではシートを形成するには到らなかった。
【0022】
実施例1、比較例1より、抄造でのシート化が困難であるアラミド微細繊維において、本発明による方法でシート化が可能となった。
【実施例2】
【0023】
微小繊維状セルロース(セリッシュ、ダイセル化学工業社製)、を0.1質量%濃度で水に懸濁した。高圧ホモジナイザー(BOS社製)を用いて、100Lの懸濁液を50MPaの圧力で60分間循環処理した。処理後の繊維を走査型電子顕微鏡で観察して測定した繊維の太さは、550nm、繊維長測定器(FS−200、KAJAANI社製)で測定した長さ加重平均繊維長は0.40mmであった。得られたスラリーを撹拌し、幅50cm、長さ20mの、陽極酸化により表面に酸化アルミニウムの皮膜を形成させたアルミ板の上に連続的にカーテンコーティングした。80℃の熱風乾燥後に形成されたセルロース微細繊維シートを基板である酸化アルミ板より剥離し、幅50cm、長さ20mのセルロース微細繊維シートを得た。単位面積当りの坪量は10g/mの設計値に対し、シートの実測値は、9.2g/mであり、セルロース微細繊維のほとんどがロス無く、シート中に存在することが明らかであった。
【0024】
(比較例2)
木材を原料とした晒しクラフトパルプ繊維(アルパック社製)を5質量%濃度で水に懸濁した。懸濁液をギャップ0.1mmに設定した叩解機(KRK高濃度ディスクレファイナー、熊谷理機工業社製)を用いて繰り返し処理し、繊維の太さが13μm、長さ加重平均繊維長が1.2mmであるセルロース繊維を調製した。0.1質量%のスラリー100Lを実施例2と同様の方法で塗工、乾燥してシートを得た。塗工時に基板上でスラリーが均一にならず、シート中の随所にセルロース繊維が凝集して密になっている箇所や逆に繊維が少なく疎になっている箇所が目視で認められた。シートの坪量は平均9.2g/mであった。さらに、比較例1に従って、抄造によるシート化を行ったところシートが得られ、坪量は9.0g/mであった。
【0025】
実施例2、比較例2より、本発明によるシートは、微細繊維を原料として製造した場合に有効であり、抄造でもシート化が可能な大きさの繊維を原料とした場合にはかえって良好なシートが得られないことが明らかである。
【実施例3】
【0026】
実施例2と同じセルロース微細繊維のスラリーを、エンボス加工したポリエチレン板を基材として実施例2と同様に塗工、乾燥、剥離してシートを形成した。得られたシートは、基材のエンボス加工表面の凹凸を忠実に再現したセルロース微細繊維シートとなった。
【実施例4】
【0027】
実施例1に従い、微細化加工したアクリル繊維(ボンネルM.V.P、三菱レイヨン社製)、ポリアリレート繊維(ベクトランHHA、クラレ社製)、ポリエチレンテレフタレート繊維(テイジンテトロン テピルス、帝人ファイバー社製)、ポリエチレン繊維(ダイニーマ、東洋紡績社製)、ポリフェニレンサルファイド繊維(トルコン、東レ社製)、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維(ザイロンAS、東洋紡績社製)、ポリイミド繊維(P84、東洋紡社製)、キチン繊維(クラビオン、オーミケンシ社製)についてもそれぞれスラリーを調製後、塗工、乾燥してシートを形成した。いずれのシートも基板からの剥離性は良好であり、シート製造が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、従来の抄造では製造が困難であった、微細繊維からなるシートを製造することが可能となり、さらに連続的に製造することにより種々の特性を有する微細繊維からなるシートを効率的に製造することができ、各種産業分野で広範囲に利用することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維を含むスラリーを基材上に塗工し、スラリー中の液体成分を蒸発させることにより基材上に形成される乾燥した微細繊維層を、基材から剥離することにより得られる微細繊維シート。
【請求項2】
請求項1において、微細繊維が太さ1μm以下、長さ0.5mm以下であることを特徴とする微細繊維シート。
【請求項3】
請求項1または2において、微細繊維がアクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリパラフェニレンビスオキサゾール繊維、ポリオレフィン繊維、セルロース繊維、キチン繊維から選ばれる少なくとも1つの微細繊維であることを特徴とする微細繊維シート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、基材が紙、布、樹脂板、セラミック板、金属板のいずれか1種、若しくは2種類以上を積層したものであることを特徴とする微細繊維シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項において、長尺の巻き取り基材を用い、スラリーの塗工、液体成分の蒸発、微細繊維層の基材からの剥離を連続的に行うことにより、連続したシートとして得られたことを特徴とする微細繊維シート。

【公開番号】特開2007−23219(P2007−23219A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210083(P2005−210083)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】