説明

心因性と肺因性の急性呼吸窮迫を鑑別する手段と方法

【課題】急性呼吸窮迫(呼吸困難)を患う被験者について、(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症、または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する方法を提供する。
【解決手段】a)被験者のサンプル中のSP-Bの量を測定するステップ;b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドの量を測定するステップ;およびc) a)とb)で測定した量を参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は急性呼吸窮迫の原因を鑑別して診断する方法、装置およびキットに関する。具体的には、本発明は急性呼吸窮迫(呼吸困難)を患う被験者を(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する方法であって、被験者のサンプル中のSP-Bの量を測定するステップ、上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドの量を測定するステップ、および測定した量を参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別するステップを含む上記方法に関する。さらに、本発明は、上記方法を実施するための装置およびキットに関する。
【0002】
心臓血管複合症、そして特に急性心臓血管の異常事象(event)は、ほとんどの場合、即時処置を必要とする生命を脅かす医学的症状である。しかし、これらの症状は常に明確に診断できるわけでない。特に、急性心臓血管異常事象であるが慢性心不全などの慢性心臓機能障害を含む、様々なタイプの心臓病を伴う最も一般的な症候群のいくつかは、他の(非心臓血管性)疾患にも特徴的な症候群である。それ故に、観察される症候群の原因が心臓血管であるかまたは他であるかを鑑別することは困難であり、厄介でありかつ時間のかかることが多い。上記鑑別はまた、心臓病専門医などの専門家の助けも必要としうる。
【0003】
心臓血管複合症、特に、急性心臓血管異常事象またはさらに重症の慢性心不全の典型的な症候は呼吸窮迫(呼吸困難)である。他の症候群と同じように、呼吸困難は、心臓血管複合症および非心臓血管性の肺性疾患を含む様々な原因を有しうる。上記症候の可能性がある心臓血管の原因を照らし合わせると、所与の患者、例えば救急患者においてその原因を的確に診断することは真に当を得ている。
【0004】
WO99/13337は、サーファクタントタンパク質を急性呼吸困難症候群(ARDS)を含む、いくつかの特定の肺性疾患に対するバイオマーカーとして利用できることを開示している。
【0005】
WO2004/077056では、全身のサーファクタントタンパク質レベルを心不全に対するマーカーとして利用しうることが開示されている。しかし、開示された技法によってサーファクタントタンパク質レベルの上昇の原因を鑑別診断することはできない。特に、肺性疾患または障害も全身の上記タンパク質レベルの増加をもたらすことは公知である (Doyle 1997, Am J Respir Crit Care Med Vol. 156: 1217-1229)。従って、上記の開示された方法は誤った陽性診断結果を与え、これが順に不適当な療法をもたらしうることを避けられない(Svendstrup Nielsen, 2004, The European Journal of Heart Failure 6: 63-70)。
【0006】
さらに、サーファクタントタンパク質はN末端脳ナトリウム利尿性ペプチド(NT-プロBNP)と一緒に心不全の重症度を示すことが、the New York Hear Association(NYHA)分類(DePasquale、2004、Circulation 110:1091-1096)に記載されている。
【0007】
NT-プロBNPはまた、7種のさらなるパラメーターと一緒に呼吸困難を示す患者の急性心不全の指標として記載されている(Baggish 2005, American Heart Journal, 151:48-54)。
【0008】
それ故に、被験者における呼吸困難、特に急性呼吸困難などの症候群の原因の鑑別診断を可能にする手段と方法に対する明確な永続的ニーズがある。上記手段と方法は、信頼しうる効率的な診断を可能にしかつ現行技法の欠点を回避するものでなければならない。
【0009】
従って、本発明の根底をなす技術的問題は、上記ニーズに応じる手段と方法を提供するものでなければならない。上記技術的問題は本請求項および以下の本明細書に特徴付けられる実施形態により解決される。
【0010】
従って、本発明は、急性呼吸窮迫(呼吸困難)を患う被験者について、(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する方法であって、
a)被験者のサンプル中の肺サーファクタントタンパク質、すなわちSP-Bの量を測定するステップ;
b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドの量を測定するステップ;および
c) a)とb)で測定した量を参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別するステップ
を含む上記方法に関する。
【0011】
本発明の方法は、好ましくは、in vitroの方法である。さらに、上記方法は以上に明白に言及した方法だけでなく、さらなるサンプル前処理ステップまたは評価ステップなどのステップを含むことができる。
【0012】
本明細書に使用される用語「鑑別(differentiating)」は、(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難を患う患者を、上記疾患を患う被験者が本質的に同じ症候群、すなわち、急性呼吸窮迫を示す症状のもとで、区別することを意味する。本明細書に使用される用語には、好ましくは、肺性疾患、肺性症候群を示す心臓血管複合症、肺性疾患を伴う心臓血管複合症、または心臓血管もしくは肺が原因でない急性呼吸困難の鑑別診断が含まれる。
【0013】
本明細書に使用される診断は、被験者が本明細書で言及した疾患を患う確率を評価することを意味する。当業者は理解しうるように、かかる評価は通常、診断した被験者の100%について正しいことを意図していない。しかし、上記用語は、被験者の統計的に有意な部分が上記疾患を患うと診断できる必要である(例えば、コホート(集団)研究における1コホート)。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、当業者がさらに手間をかけることなく、様々な周知の統計的評価手法、例えば、信頼区間の決定、p値決定、Studentのt検定、Mann-Whitney検定などを用いて決定することができる。詳細は、DowdyおよびWearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0014】
本発明による診断はまた、関係疾患、症候群またはそれらのリスクのモニタリング、確認、細分類および予測も含む。モニタリングは既に診断した疾患、または複合症の追跡を続けること、例えば疾患の進行または特定の処置の疾患もしくは複合症の進行に対する影響を分析することに関する。確認は他の指標またはマーカーを用いて既に行った診断を強化するかまたは実証することに関する。細分類は診断した疾患の色々な細分類に従い診断をさらに規定すること、例えば疾患の軽度および重度の形態に従い規定することに関する。予測は他の症候群またはマーカーが明らかになるかまたは有意に変化する前に疾患または複合症の予後判定をすることに関する。
【0015】
表現「急性呼吸窮迫」または「急性呼吸困難」は、呼吸頻度の増加および/または呼吸体積の増加をもたらす呼吸障害を意味する。従って、呼吸窮迫は、好ましくは、過換気をもたらす。呼吸窮迫は、通常、正常酸素飽和レベルの少なくとも95%以下の酸素飽和レベルで起こる。本明細書に使用される急性呼吸困難は、非持続性呼吸窮迫、すなわち全て突然に起こり(急性発症呼吸困難)かつ特定の条件(例えば、ある特定のタイプのストレス下だけで起こる)に関係のない呼吸窮迫などを意味する。さらに、急性呼吸困難は急性発症後2週間以上続かない一方、慢性呼吸困難は2週間以上の期間にわたり持続することを特徴とする。さらに、急性呼吸困難は通常、進行とともに悪化する。
【0016】
用語「肺性疾患」は呼吸窮迫を生じるいずれかの疾患を意味する。さらに、本明細書で意味する肺性疾患は、サーファクタントタンパク質、特に具体的に本明細書で言及される肺サーファクタントタンパク質に対して高い浸透性を有する肺胞毛細血管膜バリアーの障害をもたらすに違いないと想像される。上記疾患は、好ましくは、急性および慢性呼吸不全、肺線維症、肺蛋白症、肺浮腫、肺炎症、肺気腫肥満、甲状腺疾患または、より好ましくは、肺動脈塞栓症である。
【0017】
本明細書に使用される用語「心臓血管複合症」は、心臓血管系のいずれかの急性または慢性障害を意味する。心臓血管系の急性障害には急性心臓血管異常事象が含まれる。従って、より好ましくは、安定狭心症(SAP)または急性冠動脈症候群(ACS)が含まれる。ACS患者は不安定狭心症(UAP)を示しうるかまたはこれらの個人は既に心筋梗塞(MI)を患っている。MIはSTの高いMIであってもまたはSTの高くないMIであってもよい。MI発症後に左心室不全(LVD)が起こりうる。上記用語はまた、慢性障害そして、好ましくは、心不全も包含する。上記用語はまた、上記急性心臓血管異常事象に加えて、先天性または後天性心臓弁疾患または障害、心筋炎、心筋障害、アミロイド症または血色素症などの心不全の原因となる医学的状態および疾患を含むことも理解されるべきである。さらなる好ましい心臓血管病は血栓症、好ましくは動脈血栓症、または血管石灰化を起こす疾患、好ましくはアテローム性動脈硬化症、ならびに脳卒中である。
【0018】
心臓血管複合症を患う個人は臨床症候群(例えば呼吸困難、胸部疼痛、また以下のNYHA分類も参照)を示しうる。具体的に、心臓血管病の症候群はthe New York Heart Association (NYHA)によって機能的分類系に分類されている。クラスIの患者は明白な心臓血管病の症候群を有しない。物理的活動は制限されず、そして通常の物理的活動は不当な疲労、動悸、または呼吸困難を起こさない。クラスIIの患者は物理的活動のわずかな制限を有する。彼らは安静時に快適であるが、通常の物理的活動は疲労、動悸、または呼吸困難をもたらす。クラスIIIの患者は物理的活動の著しい制限を示す。彼らは安静時に快適であるが、通常より低い活動が疲労、動悸、または呼吸困難を起こす。クラスIVの患者はいずれの物理的活動を行っても不快感を伴う。彼らは安静時に心臓機能不全の症候群を示す。もし物理的活動を行うと、不快感は増大する。他の心臓血管複合症の特徴は、「駆出率」としても知られる「左心室駆出率」(LVEF)である。健康な心臓をもつ人たちは通常、無障害のLVEFを有し、一般にほぼ50%を超えると記載されている。収縮期心臓病の症候を示すほとんどの人たちは40%以下のLVEFを有する。
【0019】
好ましくは、本発明による心臓血管複合症を患いかつ急性呼吸困難を示す被験者は、中間のNYHAクラス、好ましくは、NYHAクラスI、IIまたはIIIに、そして最も好ましくは、NYHAクラスIIに分類される被験者でありうる。
【0020】
「肺性疾患を伴う心臓血管複合症」は、被験者が心臓血管複合症を患いかつ肺性疾患を患うに違いないことを意味する。2つの疾患または障害は独立して、すなわち1つが他の原因になることなく現れてもよいと理解されるべきである。しかし、好ましくは、上記表現はまた、本明細書で言及される一次心臓血管複合症が二次肺性疾患の原因でありかつまた逆も真である場合を包含する。
【0021】
さらに、急性呼吸困難は、どんなものであるとしても、心臓血管複合症または肺性疾患を患ってない患者に観察されることがある。かかる場合は、本発明の目的では、用語「心臓血管または肺因性でない急性呼吸困難」に含まれるものとする。好ましい非心臓血管性および非肺因性の急性呼吸窮迫は、好ましくは、被験者の肥満、高い体重、無訓練または訓練不足の物理的状態、不安状態などの生理学的症状である。
【0022】
本発明に使用される用語「被験者」は動物、好ましくは哺乳動物、そして、より好ましくはヒトに関する。しかし、本発明では、被験者が好ましくは、急性呼吸窮迫を示すと想像されている。
【0023】
本発明によるナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の測定は、その量または濃度を、好ましくは、半定量的にまたは定量的に測定することに関する。測定は直接または間接に行うことができる。直接測定は、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質自体から得られかつその強度はサンプル中に存在するペプチドの分子数と直接相関のあるシグナルに基づいて、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の量または濃度を測定することに関する。かかるシグナル(しばしば本明細書では強度シグナルと呼ぶ)は、例えば、ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質の特定の物理的または化学的特性の強度値を測定することによって得ることができる。間接測定は、二次成分(すなわちナトリウム利尿性ペプチド自体ではない成分)または生物学的読み出し系、例えば、測定可能な細胞応答、リガンド、標識、または酵素反応生成物から得られるシグナルの測定を含む。
【0024】
本発明によれば、ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質の量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定する公知の全ての手段により達成することができる。上記手段は、標識した分子を様々なサンドイッチ、競合、またはその他のアッセイフォーマットで利用することができるイムノアッセイ装置および方法を含む。上記アッセイは、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の存在または非存在を示すシグナルを発生しうる。さらに、上記シグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接または間接に(例えば、反比例の)相関がありうる。さらなる好適な方法は、ナトリウム利尿性ペプチドに特異的な、正確な分子の質量またはNMRスペクトルなどの物理的または化学的特性を測定することを含む。上記方法には、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと結合した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析計、またはクロマトグラフィ装置などの分析装置が含まれる。さらなる方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、全自動またはロボットイムノアッセイ(例えばElecsysTM分析計で利用しうる)、CBA(例えばRoche-HitachiTM分析計で利用しうる酵素コバルト結合アッセイ)、およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析計で利用しうる)が含まれる。
【0025】
好ましくは、ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質の量を測定する方法は、(a)細胞応答の強度がペプチドの量を示す細胞応答を誘発できる細胞を、ペプチドと十分な時間接触させるステップ、(b)上記細胞応答を測定するステップを含む。
【0026】
細胞応答を測定するために、サンプルまたは処理されたサンプルを、好ましくは、細胞培養物に加え、そして内部のまたは外部の細胞応答を測定する。細胞応答としては、レポーター遺伝子の測定可能な発現、または物質、例えばペプチド、ポリペプチド、または小分子の分泌が挙げられる。発現または物質は、ペプチドの量と相関のある強度シグナルを発生しなければならない。
【0027】
また好ましくは、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の量を測定する方法は、サンプル中のナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質から得られる特異的強度シグナルを測定するステップも含む。
【0028】
以上記載した通り、かかるシグナルは、質量スペクトルで観察されたナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質に特異的なm/z変数において、またはナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質に特異的なNMRスペクトルにおいて観察されたシグナル強度であってもよい。
【0029】
ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質の量を測定する方法はまた、好ましくは、(a)ペプチドを特異的リガンドと接触させるステップ、(b)(場合により)非結合のリガンドを除去するステップ、(c)結合したリガンドステップの量を測定するステップも含む。
【0030】
結合したリガンドは強度シグナルを発生しうる。本発明による結合は、共有結合および非共有結合の両方を含む。本発明によるリガンドは、本明細書に記載のナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質と結合するいずれの化合物、例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子であってもよい。好ましいリガンドとしては、ナトリウム利尿性ペプチドに対するレセプターまたは肺サーファクタントタンパク質に対する結合パートナーなどの抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチドおよび上記ペプチドに対する結合ドメインを含むそれらの断片、ならびにアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマーが挙げられる。かかるリガンドを調製する方法は当技術分野で周知されている。例えば、好適な抗体またはアプタマーの同定と生産はまた、商業的供給業者により提供される。当業者はさらに高いアフィニティまたは特異性をもつかかるリガンドの誘導体を開発する方法に馴染みがある。例えば、ランダム突然変異を、核酸、ペプチドまたはポリペプチド中に導入することができる。次いでこれらの誘導体を、当技術分野で公知のスクリーニング手順、例えばファージディスプレイにより結合について試験することができる。本明細書で意味する抗体は、ポリクローナルとモノクローナル抗体の両方、ならびに抗原またはハプテンと結合することができるそれらのフラグメント、例えばFv、FabおよびF(ab)2フラグメントを含む。本発明はまた、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と組み合わされた、ヒト化ハイブリッド抗体も含む。ドナー配列は通常、少なくともドナーの抗原結合アミノ酸残基を含みうるが、他の構造的におよび/または機能的に関係するドナー抗体のアミノ酸残基を同様に含むこともできる。かかるハイブリッドは当技術分野で周知の複数の方法により調製することができる。好ましくは、リガンドまたは薬剤はナトリウム利尿性ペプチドと特異的に結合する。本発明による特異的結合は、リガンドまたは薬剤が分析すべきサンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチドまたは物質と実質的に結合しない(「交差反応しない」)ことを意味する。好ましくは、特異的に結合したナトリウム利尿性ペプチドはいずれの他の関係するペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍以上、より好ましくは少なくとも10倍以上、そしてさらにより好ましくは少なくとも50倍以上のアフィニティで結合すものとする。非特異的結合は、もしその結合が明白に、例えば、ウェスタンブロット上でのそのサイズ、またはサンプル中の相対的に高い存在量により、区別しかつ測定できるのであれば、許容されうる。リガンドの結合はいずれかの当技術分野で公知の方法により測定することができる。好ましくは、上記方法は半定量的または定量的なものである。好適な方法を以下に記載する。
【0031】
第1に、リガンドの結合を直接、例えばNMR、質量分析または表面プラズモン共鳴により測定することができる。
【0032】
第2に、もしリガンドも、目的のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質として作用するのであれば、酵素反応生成物を測定することができる(例えばプロテアーゼの量は、例えばウェスタンブロットで切断された基質の量を測定することにより、測定することができる)。あるいは、リガンドはそれ自体が酵素特性を示してもよく、リガンド/ナトリウム利尿性ペプチドもしくはリガンド/肺サーファクタントタンパク質複合体、またはナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質と結合したリガンドを、それぞれ、強度シグナルの発生により検出しうる好適な基質と接触させることができる。酵素反応生成物の測定ためには、好ましくは、基質の量は飽和している。基質はまた、検出可能な標識を用いて反応前に標識することもできる。好ましくは、サンプルを十分な時間、基質と接触させる。十分な時間は、検出可能な、好ましくは、測定可能な量の生成物が生成するのに必要な時間を意味する。生成物の量を測定する代わりに、所与の(例えば検出可能な)量の生成物が現れるのに必要な時間を測定してもよい。
【0033】
第3に、リガンドを共有結合または非共有結合で標識と結合して、リガンドの検出および測定を可能にすることができる。標識は直接的または間接的方法により行うことができる。直接標識は、標識を直接(共有結合または非共有結合で)リガンドと結合することに関わる。間接標識は、第2リガンドの第1リガンドとの結合に関わる。第2リガンドは第1リガンドと特異的に結合しなければならない。上記第2リガンドは好適な標識と結合していてもよく、そして/または第2リガンドと結合する三次リガンドの標的(レセプター)であってもよい。二次、三次またはさらに高次リガンドを用いてシグナルを増強することもしばしば行われる。好適な二次および高次リガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories、Inc.)が含まれる。リガンドまたは基質はまた、当技術分野で周知の1以上のタグを用いて標識することもできる。次いでかかるタグを高次リガンドの標的としてもよい。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN-末端および/またはC-末端にある。好適な標識は、適当な検出方法により検出可能であるいずれかの標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば、常磁性および超常磁性標識を含む「磁性ビーズ」)、および蛍光標識が挙げられる。酵素活性標識には、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が含まれる。検出のための好適な基質としては、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよびリン酸5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル、これらはRoche Diagnosticsから既製ストック溶液として市販されている)、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)が挙げられる。好適な酵素-基質の組合せは呈色反応生成物、蛍光または化学発光をもたらし、これは当技術分野で公知の方法により(例えば、感光フィルムまたは好適なカメラ系を用いて)測定することができる。酵素反応の測定については、上記判定基準が類似的に適用される。典型的な蛍光標識には蛍光タンパク質(GFPおよびその誘導体など)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が含まれる。さらなる蛍光標識が、Molcular Probes(Oregon)から市販されている。量子ドットの蛍光標識としての利用も見込まれる。典型的な放射性標識には、35S、125I、32P、33Pなどが含まれる。放射性標識は、いずれかの公知および適当な方法、例えば感光フィルムまたはフォスフォルイメージャー(phosphorimager)により検出することができる。本発明による好適な測定方法としてはまた、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気により生成される化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合イムノアッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、遊離増感ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、濁度分析、比濁分析、ラテックス増強濁度分析もしくは比濁分析、または固相免疫試験が挙げられる。当技術分野で公知のさらなる方法(ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウェスタンブロット、および質量分析など)を、単独でまたは、上記の標識または他の検出法と組み合せて用いることができる。
【0034】
さらに、ナトリウム利尿性ペプチドの量を測定する方法は、好ましくは、
(a)ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質に対する上記リガンドを含む固体支持体を、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質を含むサンプルに接触させるステップ、および
(b)上記支持体に結合したナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の量を測定するステップ
を含む。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、好ましくは固体支持体上に固定された形態で存在する。固体支持体を製造するための材料は当技術分野で周知であり、とりわけ、市販されるカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロース・ストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウエルおよび壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。リガンドまたは薬剤は色々な担体に結合していてもよい。周知の担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、およびマグネタイトが挙げられる。本発明の目的のための担体の性質は可溶性であってもまたは不溶性であってもよい。上記リガンドを固定するための好適な方法は周知であり、限定されるものでないが、イオン、疎水、共有結合相互作用などが含まれる。本発明によるアレイとして「サスペンジョンアレイ」を利用することも意図している(Nolan JP、Sklar LA. (2002), 「サスペンジョンアレイ技法:フラットアレイパラダイムの進化(Suspension array technology: evolution of the flat-array paradigm.)」 Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。かかるサスペンジョンアレイにおいては、サスペンジョン中に担体、例えばマイクロビーズまたはミクロスフェアが存在する。上記アレイは、恐らく標識され、色々なリガンドを保持する、色々なマイクロビーズまたはミクロスフェアからなる。かかるアレイを、例えば固相化学および光分解性保護基に基づいて作る方法は公知である(米国特許第5,744,305号)。
【0035】
本明細書に使用される用語「量」は、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の絶対量、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質の相対量または濃度ならびにそれらと相関のあるいずれかの値またはパラメーターを包含する。かかる値またはパラメーターは、ナトリウム利尿性ペプチドもしくは肺サーファクタントタンパク質から直接測定値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルの強度値により得た、全ての特異的な物理的または化学的特性からの強度シグナル値を含む。さらに、包含されるのは、本明細書の色々な所で記載した間接測定値、例えば、ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質に応答する生物学的読出し系から測定した発現レベルまたは特異的に結合したリガンドからの強度シグナルより得た、全ての値またはパラメーターである。上記の量と相関のある値またはパラメーターはまた、全ての標準の数学的操作により得られることも理解されるべきである。
【0036】
本明細書に使用される用語「肺サーファクタントタンパク質」は、肺サーファクタントタンパク質B(SP-B)に関する。上記用語は、好ましくは、ヒトタンパク質ならびにそれらの変異体、好ましくは、対立遺伝子変異体または種特異的ホモログ、パラログまたはオルソログを意味する。そのヒトタンパク質は先行技術において十分特徴付けられていて、例えば、Hawgood, 1989, Am J Physiol -Lung Cellular and Molecular Physiology, Vol 257, Issue 2:13-L22(全サーファクタントタンパク質について)、Takahashi 2006, Curr Pharm Des, 12(5):589-598(SP-AおよびSP-Dについて)、およびKurutz 2002, Biochemistry, 41(30):9627-9636、Guttentag 1998, Am J Physiol -Lung Cellular and Molecular Physiology, Vol 275, Issue 3:L559-L566(SP-Bについて)に開示されている。
【0037】
具体的には、ヒト肺サーファクタントタンパク質に対して、アミノ酸レベルで少なくとも60%同一、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である肺サーファクタントタンパク質の変異体も想定される。さらに、診断手段によりまたはそれぞれの全長ペプチドに対するリガンドにより認識されるタンパク質分解生成物も実質的に同様であり、想定される。ヒト肺サーファクタントタンパク質のアミノ酸配列と比較してアミノ酸欠失、置換、および/または付加を有する、変異体ポリペプチドもまた、前記ポリペプチドが肺サーファクタントタンパク質特性を有する限りにおいて、包含される。本明細書において言及される肺サーファクタントタンパク質特性は免疫学的および/または生物学的特性である。好ましくは、上記肺サーファクタントタンパク質変異体は、本明細書で具体的に意味する肺サーファクタントタンパク質の免疫学的特性と比較しうる免疫学的特性(すなわちエピトープ組成)を有する。従って、上記変異体は肺サーファクタントタンパク質の測定に用いる上記の手段またはリガンドにより認識可能でなければならない。上記変異体には、グリコシル化タンパク質などの翻訳後修飾された肺サーファクタントタンパク質も含まれる。
【0038】
さらに、用語はまた、上記の特定の肺サーファクタントタンパク質またはそれらの変異体のいずれかの組み合わせを包含することも理解されるべきである。例えば、SP-Bを、SP-DもしくはSP-Aとまたはそれらの両方との組み合わせで測定することができる。
【0039】
用語「ナトリウム利尿性ペプチド」は、心房ナトリウム利尿性ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide;ANP)型および脳ナトリウム利尿性ペプチド(Brain Natriuretic Peptide;BNP)型ペプチド、ならびに同じ予想能力を有するそれらの変異体を含む。本発明によるナトリウム利尿性ペプチドは、ANP型およびBNP型ペプチドおよびそれらの変異体を含む(例えば、Bonow, R.O. (1996), 「心臓のナトリウム利尿性ペプチドに対する新しい考察(New insights into the cardiac natriuretic peptides)」, Circulation 93: 1946-1950を参照)。
【0040】
ANP型ペプチドはプレ-プロANP、プロANP、NT-プロANP、およびANPを含む。
【0041】
BNP型ペプチドはプレ-プロBNP、プロBNP、NT-プロBNP、およびBNPを含む。
【0042】
プレ-プロペプチド(プレ-プロBNPの場合、134アミノ酸)は、酵素により切断されてプロペプチド(プロBNPの場合、108アミノ酸)を遊離する短いシグナルペプチドを含む。上記プロペプチドはさらにN末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-プロBNPの場合、76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合、32アミノ酸;ANPの場合、28アミノ酸)に切断される。
【0043】
好ましい本発明によるナトリウム利尿性ペプチドはNT-プロANP、ANP、NT-プロBNP、BNP、およびそれらの変異体である。ANPおよびBNPは活性ホルモンでありかつそれぞれの不活性パートナーであるNT-プロANPおよびNT-プロBNPより短い半減期を有する。BNPは血液中で代謝されるが、NT-プロBNPは血液中で不活性分子として循環し、それ自体は腎で除去される。NTプロBNPのin-vivo半減期は、20分間であるBNPの半減期より120分間長い(Smith MW、Espiner EA、Yandle TG、Charles CJ、Richards AM. 「ヒト脳ナトリウム利尿性ペプチドの代謝遅延は中性エンドペプチダーゼに対する耐性を反映する(Delayed metabolism of human brain natriuretic peptide reflects resistance to neutral endopeptidase)」. J Endocrinol. 2000; 167: 239-46.)。
【0044】
NT-プロBNPを用いる前分析はより頑強で、サンプルの中央実験室への輸送が容易である(Mueller T、Gegenhuber A、Dieplinger B、Poelz W、Haltmayer M. 「凍結血漿サンプル中の内因性B型ナトリウム利尿性ペプチド(BNP)とアミノ末端プロBNP(NT-プロBNP)の長期安定性(Long-term stability of endogenous B-type natriuretic peptide (BNP) and amino terminal proBNP (NT-proBNP) in frozen plasma samples)」, Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4.)。血液サンプルは室温にて数日間貯蔵してもよくまたは郵送してもよいし、または配送しても回収ロスはない。対照的に、BNPの室温または4℃における48時間貯蔵は、少なくとも20%の濃度低下をもたらす(Mueller T, Gegenhuber A, ら, Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4, 上記;Wu AH, Packer M, Smith A, Bijou R, Fink D, Mair J, Wallentin L, Johnston N, Feldcamp CS, Haverstick DM, Ahnadi CE, Grant A, Despres N, Bluestein B, Ghani F, 「心不全の患者における、Bayer ADVIA Centaur自動化B型ナトリウム利尿性ペプチドアッセイの分析評価と臨床評価:マルチサイト研究(Analytical and clinical evaluation of the Bayer ADVIA Centaur automated B-type natriuretic peptide assay in patients with heart failure: a multisite study)」, Clin Chem 2004; 50: 867-73.)。それ故に、時間経過または目的の特性に応じて、ナトリウム利尿性ペプチドの活性もしくは不活性型の測定のうちのいずれかが有利となりうる。
【0045】
最も好ましい本発明にかかるナトリウム利尿性ペプチドは、NT-プロBNPまたはそれらの変異体である。上記で簡単に考察した通り、本発明で言及されるヒトNT-プロBNPは、ヒトNT-プロBNP分子のN末端部分に対応する、好ましくは、長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT-プロBNPの構造は、先行技術において既に詳細に記載されていて、例えば、WO 02/089657、WO 02/083913、Bonow 1996, 「心臓のナトリウム利尿性ペプチドに対する新しい考察(New insights into the cardiac natriuretic peptides)」, Circulation 93: 1946-1950が挙げられる。好ましくは、本発明で使用されるヒトNT-プロBNPはEP 0 648 228 B1に開示されたヒトNT-プロBNPである。これらの先行技術の文献は、そこに開示されたNT-プロBNPおよびその変異体の特定の配列は、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0046】
本発明で参照されるNT-プロBNPはさらに、以上考察したヒトNT-プロBNPに対する上記特定の配列の対立遺伝子および他の変異体を包含する。具体的に想像されるのはまた、ヒトNT-プロBNPに対して、アミノ酸レベルで少なくとも60%同一、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である変異体ポリペプチドである。実質的に類似しかつまた想像されるのは、さらに、診断手段によりまたはそれぞれの全長ペプチドに対して指向するリガンドにより認識されるタンパク質分解生成物である。包含されるのはまた、上記ポリペプチドがNT-プロBNP特性を有する限りにおいて、ヒトNT-プロBNPのアミノ酸配列と比較してアミノ酸欠失、置換、および/または付加を有する変異体ポリペプチドである。本明細書において参照されるNT-プロBNP特性は免疫学的および/または生物学的特性である。好ましくは、上記NT-プロBNP変異体は、NT-プロBNPの免疫学的特性と比較しうる免疫学的特性(すなわちエピトープ組成)を有する。従って、上記変異体はナトリウム利尿性ペプチドの量の測定に用いる上記の手段またはリガンドにより特異的に認識可能でなければならない(すなわち、交差反応なしに)。生物学的および/または免疫学的NT-プロBNP特性は、Karlら(Karl 1999, 「低検出限界をもつ、新規N末端プロBNP(NT-プロBNP)アッセイの開発(Development of a novel, N-Terminal-proBNP (NT-proBNP) assay with a low detection limit)」, Scand J Clin Invest 230:177-181)、Yeoら(Yeo 2003, 「Roche NT-プロBNPアッセイのマルチセンター評価、およびBiosite Triageアッセイとの比較(Multicenter evaluation of the Roche NT-proBNP assay and comparison to the assay)」, Clinica Chimica Acta 338:107-115)、ならびに以下の実施例に記載のアッセイにより検出することができる。変異体にはまた、翻訳後修飾された、グリコシル化ペプチドなどのナトリウム利尿性ペプチドも含まれる。
【0047】
本発明による変異体はまた、サンプルの採集後に、例えば、標識、特に放射性または蛍光標識のペプチドとの共有結合または非共有結合により修飾されたペプチドまたはポリペプチドである。
【0048】
さらに、上記用語はまた、上記の特定のナトリウム利尿性ペプチドの任意の組み合わせに関することも理解されるべきである。
【0049】
用語「サンプル」は、体液のサンプル、分離した細胞のサンプル、または組織または器官からのサンプルに関する。体液のサンプルは周知の技法により得ることができ、好ましくは、血液、血漿、血清または尿のサンプルが含まれる。組織または器官サンプルはいずれかの組織または器官から生検により得ることができる。分離した細胞のサンプルは、体液または組織もしくは器官から遠心分離またはセルソーティングなどの技法により得ることができる。
【0050】
本明細書に使用される「比較する」は、分析すべきサンプルに含まれるナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質の量を、本明細書に以下に記載した好適な参照源の量と比較することを包含する。本明細書で使用される「比較する」は対応するパラメーターまたは値の比較、例えば、絶対量を絶対参照量と比較する一方、濃度を参照濃度と比較するかまたは試験サンプルから得た強度シグナルを参照サンプルの同じタイプの強度シグナルと比較することを意味すると理解されるべきである。本発明の方法のステップ(b)で言及した比較は、手作業でまたはコンピューター支援で実施することができる。コンピューター支援比較については、測定した量の値を、コンピュータープログラムによりデータベースに保存されている好適な参照に対応する値と比較することができる。コンピュータープログラムはさらに比較結果を評価し、すなわち、自動的に本明細書で言及した疾患用の鑑別診断を好適な出力フォーマットで提供する。
【0051】
本明細書で使用される用語「参照量(reference amount)」は、上記で述べた比較により、被験者が前記疾患または障害のいずれか1つを患っているかどうかを評価することを可能にする量を意味する。従って参照(reference)は、(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症、または(iv)心臓血管または肺因性でない(すなわち心臓血管複合症および肺性疾患について健常な)急性呼吸困難のいずれかを患う被験者から誘導することができる。もしある疾患または疾患の組み合わせを患う被験者からの参照を使用すれば、試験被験者のサンプル中のペプチドまたはタンパク質の量が上記参照量と本質的に同一であることは、上記疾患または疾患の組み合わせを示すに違いないことは理解されるべきである。健常な被験者からの参照を使用すれば、試験被験者のサンプル中のペプチドまたはタンパク質の量が上記参照とは(すなわち本明細書で言及したサーファクタントタンパク質およびナトリウム利尿性ペプチドの正常値から)有意に異なることは、疾患であることを示すに違いない。個々の被験者に適用する参照量は、年齢、性別、または亜集団などの様々な生理学的パラメーターに応じて変化しうる。従って、好適な参照量は、本発明の方法により、参照サンプルを試験サンプルと一緒に、すなわち同時にまたは逐次に分析することで決定することができる。
【0052】
本発明の根底をなす研究において、肺サーファクタントタンパク質の量の上昇が測定されたものの、ナトリウム利尿性ペプチドの量の上昇が全くまたは少ししか測定されない場合、被験者は単に肺性疾患を患うだけに違いないことを見出した。測定したナトリウム利尿性ペプチドとサーファクタントタンパク質の量が両方とも正常範囲に比較して上昇している場合、被験者は心臓血管複合症を患っているに違いない。もしナトリウム利尿性ペプチドの量が著しく高く上昇しかつサーファクタントタンパク質の量も上昇していれば、被験者は肺性疾患を伴う心臓血管複合症を患っているに違いない。最後に、もし測定した量のいずれも参照に対して上昇していなければ、被験者は本明細書の色々なところで記載した非心臓血管、非肺因性による急性呼吸困難を示しているに違いない。SP-Bの量に対する正常な生理学的(すなわち上昇していない)範囲は12,000〜20,000ng/ml、好ましくは20,000ng/mlである。ナトリウム利尿性ペプチド、そして特にNT-プロBNPに対する正常な生理学的(すなわち上昇していない)範囲は80〜150pg/ml、好ましくは125pg/mlである。本明細書で使用される「著しく高く上昇している」は、3,200pg/ml以上のナトリウム利尿性ペプチド、そして好ましくはNT-プロBNPの量である。上記の量は統計学および測定の誤差によって変化しうることは理解されるべきである。
【0053】
有利なことに、肺性症候群、特に急性呼吸窮迫を示す被験者のサンプル中に存在する肺サーファクタントタンパク質の量とNT-プロBNPの量との組み合せは、上記症候群の原因についての鑑別診断を可能にすることを見出した。本発明のお蔭で、上記の鑑別診断結果に従い、被験者そして特に救急患者をより容易にかつ信頼性をもって診断し、次いで治療することができる。
【0054】
上記および下記の用語の説明および定義は、従って、本明細書および請求項において特徴付けられる全ての実施形態に適用される。
以下の実施形態は特に好ましい本発明の方法の実施形態である。
【0055】
ある好ましい本発明の方法の実施形態においては、肺性疾患を伴う心臓血管複合症(上記(iii)を参照)の肺性疾患は心臓血管複合症が原因である。
【0056】
ある好ましい本発明の方法の実施形態においては、(iii)の心臓血管複合症は肺性疾患が原因である。
【0057】
他の好ましい本発明の方法の実施形態においては、(iii)の肺性疾患は心臓血管複合症に無関係である。
【0058】
さらに好ましい本発明の方法の実施形態においては、ナトリウム利尿性ペプチドについて125pg/ml以下の参照量およびSP-Bについて20,000ng/mlを超える参照量は(i)肺性疾患であることを示す。
【0059】
さらに好ましい本発明の方法の実施形態においては、ナトリウム利尿性ペプチドについて125pg/mlを超えるが3,200pg/ml以下の参照量およびSP-Bについて20,000ng/mlを超える参照量は(ii)心臓血管複合症であることを示す。
【0060】
さらなる好ましい本発明の方法の実施形態においては、ナトリウム利尿性ペプチドについて3,200pg/mlを超える参照量およびSP-Bについて20,000ng/mlを超える参照量は(iii)心臓血管複合症を伴う肺性疾患であることを示す。
【0061】
他の好ましい本発明の方法の実施形態においては、ナトリウム利尿性ペプチドについて125pg/ml以下の参照量およびSP-Bについて20,000ng/ml以下の参照量は(iv)心臓血管または肺因性でない急性慢性呼吸困難であることを示す。
【0062】
また、ある好ましい本発明の方法の実施形態においては、上記サンプルは血液、血漿、血清または尿である。
【0063】
他の好ましい本発明の方法の実施形態においては、上記ナトリウム利尿性ペプチドはNT-プロBNPである。
【0064】
さらに、ある好ましい本発明の方法の実施形態においては、上記被験者はヒトである。
【0065】
さらに、本発明は、(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する装置であって、a)被験者のサンプル中の肺サーファクタントタンパク質、すなわちSP-Bの量を測定する手段、b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドまたはその変異体の量を測定する手段、およびc)測定した量を好適な参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する手段を含む、上記装置に関する。
【0066】
本明細書に使用される用語「装置」は、お互いに機能的に連結されて予測を可能にする上記手段を少なくとも含む手段の系に関する。ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質の量を測定するための好ましい手段および比較を行うための手段は本発明の方法と関連して以上に開示されている。操作方式において上記手段を連結する方法は上記装置に含まれる手段のタイプに依存しうる。例えば、ペプチドの量を自動測定する手段を適用する場合、上記自動操作手段により得たデータを、例えば、コンピュータープログラムにより加工して、本明細書で言及した疾患がいずれであるかを診断または識別することができる。好ましくは、かかる場合、上記手段は、単一の装置内に含まれる。従って、上記装置はサンプル中のペプチドの量を測定する分析ユニットおよび色々な診断用に得られるデータを加工するコンピューターユニットを含みうる。あるいは、試験ストリップなどの手段をペプチドの量を測定するために用いられる場合、診断するための手段は、対照ストリップまたは(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管または肺因性でない急性呼吸困難または健常な対照被験者に伴うことが公知の所与の量を割り当てる表を含んでもよい。試験ストリップは、好ましくは、ナトリウム利尿性ペプチドまたは肺サーファクタントタンパク質に特異的に結合するリガンドに連結されている。上記ストリップまたは装置は、好ましくは、上記ペプチドの上記リガンドとの結合を検出する手段を含む。好ましい検出手段は、以上の本発明の方法に関する実施形態に関連して開示されている。かかる場合、上記手段はそれに機能的に連結されていて、上記系の使用者は量の測定結果およびマニュアルに与えられた指示と解釈によるその診断値を一緒に保持する。かかる実施形態において、上記手段は分離した装置であってもよく、そして好ましくはキットとして一緒にパッケージされている。当業者はさらに手間をかけることなく上記手段の連結方法を認識するであろう。好ましい装置は、専門の臨床医の特定知識なしに利用できるものであり、例えば、試験ストリップまたは単にサンプルを供給することを必要とする電子装置である。結果は、医師による解釈が必要である診断生データの出力として与えられてもよい。しかし、好ましくは、装置の出力は加工された診断生データであり、その解釈は専門の医師を必要としない。さらなる好ましい装置は、分析ユニット/装置(例えば、バイオセンサー、アレイ、ナトリウム利尿性ペプチドを特異的に認識するリガンドと結合した固体支持体、プラズモン表面共鳴装置、NMR分光計、質量分析計など)または本発明の方法に従って先に言及した評価ユニット/装置を含む。
【0067】
最後に、本発明は、本発明の方法を行うためのキットであって、
a)被験者のサンプル中の肺サーファクタントタンパク質、すなわちSP-Bの量を測定する手段、b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドまたはその変異体の量を測定する手段、およびc)測定した量を好適な参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかをお互いから鑑別することができる手段を含む、上記キットに関する。
【0068】
本明細書に使用される用語「キット」は、好ましくは、分離してまたは単一容器に入れて提供される上記手段のコレクションを意味する。上記容器はまた、好ましくは本発明の方法を行うための取扱説明書も含む。
【0069】
本明細書に引用された全ての参考文献は、本明細書に参照によりその全開示内容および本明細書に具体的に記載した開示内容が組み入れられる。
【実施例】
【0070】
次の実施例は、単に、本発明を説明するものである。これは、従って、本発明の範囲を限定すると推量してはならない。
【0071】
実施例:急性呼吸困難を患う患者の見込み研究
急性呼吸困難を患う214名の患者集団を、心不全、肺性疾患または両疾患の併発の存在について臨床的に研究した。患者の3疾患群への割り当てを臨床試験、ECGおよび心エコー図法により確証した。患者の血液サンプルを、SP-B量についてはプロトタイプSP-BELISA(Flindersアッセイプロトコル)により、そしてNT-プロBNP濃度についてはElecsysNT-プロBNPTMアッセイ(Roche Diagnostics)により分析した。
【0072】
NT-プロBNP濃度の測定結果を図1に示す。両疾患(心不全および肺性疾患)の併発を患う患者は、強く上昇したNT-プロBNPレベル、心不全を患う患者は上昇したNT-プロBNPレベルを示す。しかし、肺性疾患を患う患者は上昇の弱いまたは正常なNT-プロBNPレベルしか示さなかった。
【0073】
図2は、色々な患者群のSP-B量の測定出力を示す。肺性疾患または両方の疾患の組み合わせは上昇した量のSP-Bを示す。非心因性および/または非肺因性の急性呼吸困難を示す患者は、文献に記載された参照値と比較してSP-Bの有意な上昇を示さない。
図面の簡単な説明は下記を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】心不全(HF)、肺性疾患(LD)またはそれらの両方(HF+LD複合)を有する患者集団について測定したNT-プロBNP濃度ならびに対照集団の濃度(Ctr.)のボックスプロットを示す。Nは患者数を示す。さらに、中央値および75、95、5および25パーセンタイル値を示す。
【図2】心不全(HF)、肺性疾患(LD)またはそれらの両方(複合症HF+LD)を有する患者集団について測定したSP-B濃度ならびに対照集団の濃度(Ctr.)のボックスプロットを示す。Nは患者数を示す。さらに、中央値および75、95、5および25パーセンタイル値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性呼吸窮迫(呼吸困難)を患う被験者について、(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症、または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する方法であって、
a)被験者のサンプル中のSP-Bの量を測定するステップ;
b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドの量を測定するステップ;および
c) a)とb)で測定した量を参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別するステップ
を含む上記方法
【請求項2】
(iii)の肺性疾患は心臓血管複合症が原因である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(iii)の心臓血管複合症は肺性疾患が原因である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(iii)の肺性疾患は心臓血管複合症と無関係である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ナトリウム利尿性ペプチドについて125pg/ml以下の参照量およびSP-Bについて20,000ng/mlを超える参照量は(i)肺性疾患であることを示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ナトリウム利尿性ペプチドについて125pg/mlを超えるが3,200pg/ml以下の参照量およびSP-Bについて20,000ng/mlを超える参照量は(ii)心臓血管複合症であることを示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ナトリウム利尿性ペプチドについて3,200pg/mlを超える参照量およびSP-Bについて20,000ng/mlを超える参照量は(iii)心臓血管複合症を伴う肺性疾患であることを示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ナトリウム利尿性ペプチドについて125pg/ml以下の参照量およびSP-Bについて20,000ng/ml以下の参照量は(iv)心臓血管または肺因性でない急性慢性呼吸困難であることを示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記サンプルは血液、血漿、血清または尿である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記ナトリウム利尿性ペプチドはNT-プロBNPである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
上記被験者はヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する装置であって、a)被験者のサンプル中のSP-Bの量を測定する手段、b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドまたはその変異体の量を測定する手段、およびc)測定した量を好適な参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかを鑑別する手段を含む、上記装置。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を行うキットであって、上記方法を行うための取扱説明書、ならびにa)被験者のサンプル中のSP-Bの量を測定する手段、b)上記被験者のサンプル中のナトリウム利尿性ペプチドまたはその変異体の量を測定する手段、およびc)測定した量を好適な参照量と比較することにより(i)肺性疾患、(ii)肺性疾患を示す心臓血管複合症、(iii)肺性疾患を伴う心臓血管複合症または(iv)心臓血管もしくは肺が原因でない呼吸困難のいずれであるかをお互いから鑑別できる手段を含む上記キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−32722(P2008−32722A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−196068(P2007−196068)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】