説明

心疾患の診断のためのNT−プロANPおよびNT−プロBNPの使用

本発明は、急性心臓代償不全の症状を示す患者において心疾患、特に急性心臓事象を診断するための方法であって、(a)該患者からのサンプル中のNT-プロBNP(N-末端脳ナトリウム利尿ペプチド)またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(b)該患者からのサンプル中のNT-プロANP(N末端心房性ナトリウム利尿ペプチド)またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(c)NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの情報を組み合せる工程を含んでなる方法であって、ここで、増加していないかもしくは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、急性心臓事象の存在を示し、または非常に増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、慢性心疾患の存在を示す、方法に関する。本発明はまた、急性心臓事象を慢性心疾患の代償不全と区別することを可能にする。本発明はまた、対応キットの使用および心疾患の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心疾患、特に急性心臓事象(acute cardiac event)および慢性心疾患の診断のためのバイオマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心疾患は北半球における罹患および死亡の最も一般的な原因の1つである。心疾患の患者は通常、心不全または更には心臓代償不全の症状を一旦示して、一般医を訪れ、または病院の緊急処置室へ運ばれる。
【0003】
心臓代償不全は通常、迅速かつ適切な治療応答を要する。特に、心筋梗塞のような急性心臓事象においては、血管再生のような治療を可能な限り早く行った場合に予後は最良となる。しかし、心電図検査および心エコー法のような現在の診断手段は、広く用いられてはいるものの、心疾患の信頼しうる診断を得るには不十分である。したがって、心疾患は一般医により誤診されることが多い(Svendstrup Nielsen, L.ら, (2003). N-terminal pro-brain natriuretic peptide for discriminating between cardiac and non-cardiac dyspnea. The European Jounal of Heart Failure)。
【0004】
さらに、心臓代償不全は種々のタイプの疾患により引き起こされうる。例えば、急性心臓代償不全は急性心臓事象により引き起こされうるが、慢性心疾患の代償不全によっても引き起こされうる。最良の治療方法を選択するためには、心臓代償不全の原因に関する情報を迅速に入手することが好都合である。しかし、急性心臓事象の臨床症状は、根底にある慢性心疾患のため、急性心臓代償不全のものに非常に類似していることがある。
【0005】
したがって、簡便で迅速で信頼しうる診断ツールが、特に一般医および/または内科医に必要とされている。
【0006】
診断目的にバイオマーカーを使用すること自体は公知である。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)および脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)はナトリウム利尿または心臓ホルモンのファミリーの2つのメンバーである。in vivoにおいては、ANPおよびBNPは、活性ホルモン(ANPまたはBNP)とN末端断片(それぞれNT-プロANPおよびNT-プロBNP)とをもたらすそれぞれの前駆体分子のタンパク質分解切断により生成される。
【0007】
ナトリウム利尿ホルモンアッセイは、心不全の追跡において心血管疾患の予後マーカーとして、および更なる心臓検査の必要性を軽減しうるものとして論じられている(Clerico, A., Emdin, M. (2004). Diagnostic Accuracy and Prognostic Relevance of the Measurement of Cardiac Natriuretic Peptides: A Review. Clinical Chemistry 50:1, 33-50)。
【0008】
しかし、異なる分子であるANP、BNP、NT-プロANPおよびNT-プロBNPの相対的な診断上の価値は尚も議論の的となっている。最近の総説によると、「比較データは限られているが、N-ANP、BNPおよびN-BNPは定性的に類似した情報を提供するようである」。したがって、「心不全の診断において、ANPおよびBNP(またはN-ANPおよびN-BNP)の同時測定が、ANPまたはBNP(N-ANPまたはN-BNP)のみによりもたらされるものを超えた付加価値を有するかどうかは依然として立証されていない。BNPは、より長期的な心臓過負荷の後に活性化されるため、ANPが、急性容積負荷血行動態変化、および貯蔵された心房ANPの急速な放出による心不全の良好なマーカーとなろう」(Ruskoaho, H. (2003). Cardiac Hormones as Diagnostic Tools in Heart Failure. Endocrine Reviews 24(3): 341-356)。
【0009】
ANPが、BNPと比べて、あるいは特にNT-プロANPまたはNT-プロBNPと比べて、急性過負荷および/または急速な心血管血行動態変化のより良好なマーカーだと考えられることは唱えられてきている(Clerico, A., Emdin, M. (2004)、前記で引用)。ごく最近の総説は、BNPおよびNT-プロBNPが、A型ナトリウム利尿ペプチドよりも(診断に関して)より有用であると記載している(McMurry, J.J.V.およびPfeffer, M.A. (2005). Heart failure. Lancet, vol. 365:1877-89, 1879頁を参照されたい)。
【0010】
それらの異なるナトリウム利尿ペプチドの分子特性は全く異なるため、状況は更に複雑となる。例えば、ANPは非常に不安定な分子(2〜5分の血漿中半減期を有する)である。信頼性のある結果を得るためには、担当者の特別な訓練および相当な努力を要する。したがって、ANPの測定は通常の臨床実施には有用でないと思われる。
【0011】
1つの実際の研究は、急性心筋梗塞に罹患している患者において入院時にBNPおよびANPが共に増加していたことを示した(Morita, E., Yasue, H., Yoshimura, M.ら, (1993). Increased plasma levels of brain natriuretic peptide in patients with acute myocardial infarction. Circulation, vol. 88(1): 82-91)。
【0012】
しかし、この研究は、急性心筋梗塞に罹患している選択された患者におけるANPおよびBNPの血漿中濃度に関するものに過ぎず、臨床的に現実的な雑多な患者群に関するものではなかった。特に、分析された患者は、壊死のマーカーであるCK-MBの既に上昇したレベルに基づいて選択された。壊死マーカーは、心筋梗塞が重篤で通常は不可逆的な損傷を既に引き起こしていることを示す。
【0013】
このように、現在のところ、最新技術においても、好ましくは壊死が明白になる前に、急性心臓事象の早期診断および/または急性心不全と慢性心不全との区別を可能にするバイオマーカーは存在しない。
【0014】
したがって、心疾患の改良された早期診断のための、特に、急性心臓事象の診断のための方法および手段を提供することは、本発明の目的である。本発明のもう1つの目的は、急性心臓事象を慢性心疾患から区別するための方法および手段を提供することである。
【発明の開示】
【0015】
第1の態様において、急性心臓代償不全の症状を示す患者において心疾患を診断するための方法であって、
a)その被験者からのサンプル中のNT-プロANPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、
b)その被験者からのサンプル中のNT-プロBNPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、
c)NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの情報を組み合せる工程であって、ここで、増加していないかもしくは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、急性心臓事象の存在を示し、および/または非常に増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、慢性心疾患の存在を示す工程を含む、上記方法により、該目的は達成される。
【0016】
この方法はまた、急性心臓代償不全の症状を示す患者において、急性心臓事象を慢性心疾患と、特に慢性心疾患の代償不全と区別することを可能にする。
【0017】
同様に、本発明はまた、急性心臓代償不全の症状を示す患者において、心疾患、特に急性心臓事象および/または慢性心疾患を診断するための、好ましくは早期診断するための、NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定レベルの組み合された情報の使用に関する。そのような使用は、本明細書および実施例に開示されている全ての他の特徴および好ましい実施形態に同様に適合化されうる。
【0018】
本方法は、サンプル、例えば体液または組織サンプルを患者から採取する工程をも含みうる。本発明においては、体液または組織サンプルの採取は、好ましくは非医療従事者(すなわち、医師の職業の実施に必要な教育を受けていない者)により行われうる。これは、特にサンプルが血液の場合に当てはまる。
【0019】
急性心臓代償不全の初期において、NT-プロANPおよびNT-プロBNPは、それらの血漿中濃度について異なる時間経過を示すことが、本発明において見出された。これらの時間経過は、患者に存在する心臓の基礎疾患の種類によって決まる。患者が慢性心疾患に罹患している場合には、NT-プロANPとNT-プロBNPのレベルの時間経過が定性的に類似している。患者が急性心臓事象に罹患している場合には、NT-プロBNPはよりゆっくりと増加し、総レベルは慢性心疾患の場合より低い。これとは対照的に、NT-プロANPはNT-プロBNPより急速に増加し、ついで、慢性心疾患の場合より低いレベルに減少する(実施例1を参照されたい)。
【0020】
本発明はまた、心疾患に罹患している患者の診断における、改善された安全性を提供する。前記のとおり、NT-プロBNPは急性心臓事象後の相当な時間的ずれ(タイムラグ)を伴ってのみ増加することが、本発明において見出された。したがって、急性心臓事象から短時間の間に行うNT-プロBNPの測定は、偽陰性診断または心機能不全の程度の過小評価につながる可能性があり、心臓の治療の開始を遅らせる可能性がある(実施例1も参照されたい)。しかし、心臓の治療の遅れは心不全の患者の予後に著しい悪影響を及ぼしうる。一方、NT-プロANPのレベルはピークレベルに達した後の数時間以内に減少しうるため、NT-プロANPのみの測定は心不全または心疾患の程度の過小評価につながる可能性があることが、本発明において見出された。
【0021】
したがって、NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定の組み合わせは、特に緊急の状況において、誤診または診断の遅れを避けるのに役立ちうる。
【0022】
実施例3に示すとおり、本発明の方法は、単なる虚血が存在するが心機能の重篤な障害は存在しない場合には、急性心臓事象の存在を示すことはないであろう。
【0023】
本発明は、所定の「バイオマーカー」(または単に「マーカー」)、より詳しくは生化学または分子マーカーを利用するものである。「バイオマーカー」、「生化学マーカー」および「分子マーカー」なる用語は当業者に公知である。具体的には、生化学マーカーまたは分子マーカーは、所定の状態、疾患または合併症の存在下または非存在下で差次的に発現(すなわち、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)される遺伝子発現産物である。通常、分子マーカーは核酸(例えば、mRNA)として定義され、一方、生化学マーカーはタンパク質またはペプチドである。好適なバイオマーカーのレベルはその状態または疾患の存在または非存在を示すことができ、したがってそれは診断を可能にする。
【0024】
本発明は特に、バイオマーカー、特に生化学マーカーとして、NT-プロANPおよびNT-プロBNPを利用する。
【0025】
NT-プロANPおよびNT-プロBNPはナトリウム利尿ペプチドのグループに属する(例えば、Bonow, R.O. (1996). New insights into the cardiac natriuretic peptides. Circulation 93: 1946-1950を参照されたい)。既に記載したとおり、NT-プロANPおよびNT-プロBNPは、活性ホルモン(ANPまたはBNP)および対応するN末端断片(それぞれNT-プロANPおよびNT-プロBNP)をもたらす、プレプロペプチドである前駆体分子からのタンパク質分解切断により生成される。
【0026】
該プレプロペプチド(プレプロBNPの場合には134アミノ酸)は短いシグナルペプチドを含み、これは酵素的に切断されてプロペプチド(プロBNPの場合には108アミノ酸)を遊離する。該プロペプチドは更にN末端プロペプチド(NT-プロペプチド;NT-プロBNPの場合には76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合には32アミノ酸、ANPの場合には28アミノ酸)へと切断される。
【0027】
それらの異なる切断産物はいくつかの異なる特性を示す。BNPは心室において優勢に(それだけではないが)生成され、壁張力の上昇に際して遊離される。これとは対照的に、ANPは心房から専ら生成され、遊離される。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それらのそれぞれの不活性対応物であるNT-プロANPおよびNT-プロBNPよりも短い半減期を有する。BNPは血中で代謝されるが、一方、NT-プロBNPは無傷の分子として血中を循環し、そのまま腎臓で排泄される。NT-プロBNPのin vivo半減期は、20分であるBNPの半減期より120分長い(Smith MW, Espiner EA, Yandle TG, Charles CJ, Richards AM. Delayed metabolism of human brain natriuretic peptide reflects resistance to neutral endopeptidase. J Endocrinol. 2000; 167: 239-46)。
【0028】
NT-プロBNPを用いた予備分析性は頑健であり、このため、中核的研究施設へのサンプルの容易な輸送が可能となる(Mueller T, Gegenhuber A, Dieplinger B, Poelz W, Haltmayer M. Long-term stability of endogenous B-type natriuretic peptide (BNP) and amino terminal proBNP (NT-proBNP) in frozen plasma samples. Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4)。血液サンプルは室温で数日間貯蔵でき、あるいは回収時の損失なしに郵送または出荷しうる。これに対して、BNPの室温または4℃で48時間の貯蔵は少なくとも20%の濃度減少を招く(Mueller T, Gegenhuber Aら, Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4, 前掲; Wu AH, Packer M, Smith A, Bijou R, Fink D, Mair J, Wallentin L, Johnston N, Feldcamp CS, Haverstick DM, Ahnadi CE, Grant A, Despres N, Bluestein B, Ghani F. Analytical and clinical evaluation of the Bayer ADVIA Centaur automated B-type natriuretic peptide assay in patients with heart failure: a multisite study. Clin Chem 2004; 50: 867-73)。
【0029】
同様に、NT-プロANPの予備分析性はANPの場合よりも頑健である。ANPは血漿または血清中で不安定である。ANPは約2〜5分の血漿中半減期を示し、それと比較して、NT-プロANPの血漿中半減期は約40〜50分である。
【0030】
したがって、本発明は、日常の臨床業務に有用な頑健なバイオマーカーを提供する。
【0031】
NT-プロANPまたはNT-プロBNPの「変異体」なる用語は、NT-プロANPまたはNT-プロBNPに実質的に類似したペプチドに関連する。「実質的に類似」なる語は当業者に十分に理解されている。特に、変異体は、ヒト集団における最も優勢なペプチドアイソフォームのアミノ酸配列と比較してアミノ酸変化を示すアイソフォームまたは対立遺伝子でありうる。好ましくは、そのような実質的に類似したペプチドは該ペプチドの最も優勢なアイソフォームに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列類似性を有する。該診断手段によりまたはそれぞれの完全長ペプチドに対するリガンドにより尚も認識される分解産物、例えばタンパク質分解産物も実質的に類似している。
【0032】
「変異体」なる用語は、グリコシル化ペプチドのような翻訳後修飾ペプチドをも意味する。「変異体」はまた、サンプルの回収後に、例えばペプチドへの標識、特に放射性標識または蛍光標識の共有結合または非共有結合により修飾されたペプチドである。サンプルの回収後に修飾されたペプチドのレベルを測定することは、元の非修飾ペプチドのレベルを測定するものとして理解される。
【0033】
NT-プロANPおよびNT-プロBNPの個々の変異体の具体例ならびにそれらの測定方法は公知である(Ala-Kopsala, M., Magga, J., Peuhkurinen, K.ら (2004): Molecular heterogeneity has a major impact on the measurement of circulating N-terminal fragments of A-type and B-type natriuretic peptides. Clinical Chemistry, vol. 50(9), 1576-1588)。
【0034】
「診断」なる用語は当業者に公知である。診断は、何らかの医学的状態、特に心疾患に気づくことであると理解される。診断はまた、「鑑別診断」、すなわち、同じまたは類似した症状を有する異なる病的状態を区別することに関連する。特に、鑑別診断は、急性心臓事象を慢性心疾患から区別することを含む。その場合、その同じまたは類似した症状は急性心臓代償不全のものでありうる。
【0035】
好ましくは、本発明の手段および方法により得られた診断情報は訓練された医師により解釈される。好ましくは、個々の被験者における更なる治療に関するいずれの決定も訓練された医師によってなされる。適当と思われる場合には、医師は他の診断尺度に関しても決定するであろう。
【0036】
本発明における「患者」なる用語は、好ましくは、疾患に罹患している個体を意味する。患者は、心血管疾患の、判明している病歴を有していなくてもよい。好ましくは、「患者」なる語は、心不全の症状、より詳しくは急性心臓代償不全の症状を示す個体に関連する。心不全または心臓代償不全の症状は心疾患または急性心臓事象により引き起こされうる。
【0037】
本発明は、広く心疾患の診断に関する。「心疾患」なる語は当業者に公知である。それは、任意の種類の心臓機能不全、より詳しくは、ポンピング(pumping)能力に影響を及ぼす心臓機能不全に関連し、より詳しくは、それは「急性心臓事象(acute cardiac event)」および「慢性心疾患」に関連する。
【0038】
心疾患に罹患している患者は、安定狭心症(SAP)に罹患している個体、および急性冠状動脈症候群(ACS)を有する個体でありうる。ACS患者は不安定狭心症(UAP)を示しうる。あるいはこれらの個体は心筋梗塞(MI)に既に罹患している。MIはST上昇性MIまたは非ST上昇性MIでありうる。MIの発生に続いて左室機能不全(LVD)が生じうる。最終的に、LVD患者は、約15%の死亡率を伴ううっ血性心不全(CHF)になる。本発明における心疾患は冠状動脈心疾患、心臓弁欠損(例えば、僧帽弁欠損)、拡張性心筋症、肥大性心筋症および心臓律動欠陥(不整脈)をも含みうる。
【0039】
「急性」および「慢性」なる語の意味は当業者によく知られている。これらの語は反対の意味を有する。すなわち、「急性」は、好ましくは、急に現れる状態、または一時的に重篤な状態、または急速に危機へと進む状態に関連し、一方、「慢性」は、好ましくは、ゆっくりと発症する状態、またはゆっくりと進行する状態、または根深い(deep-seated)もしくは長期的に持続する状態に関連する。しかし、慢性状態は長期間の安定状態またはゆっくりとした進行の後に急性状態へと進みうる。急性または慢性状態の原因は異なることがあり、あるいはそれらは類似していてそれらの程度または重症度においてのみ異なることもある。
【0040】
本発明においては、「急性心臓事象」は「慢性心疾患」から区別される。これらの語は当業者によく知られている。好ましくは、「急性心臓事象」は急性の心臓の病的状態、疾患または機能不全、特に急性心不全、例えば心筋梗塞または不整脈に関連する。MIの程度に応じて、その後にLVDおよびCHFが生じうる。
【0041】
好ましくは、「慢性心疾患」は、例えば心臓の虚血、冠状動脈疾患、または以前の特に小さな心筋梗塞(おそらくその後にLVDを進行させる)による、心機能の衰弱である。それはまた、炎症性疾患、心臓弁欠損(例えば、僧帽弁欠損)、拡張性心筋症、肥大性心筋症、心臓律動欠陥(不整脈)および慢性閉塞性肺疾患(COPD;これは、肺の気道を冒し肺胞の数を減少させ二次的に心臓を冒す疾患である)による衰弱でありうる。したがって、慢性心疾患は、急性冠状動脈症候群(例えば、MI)に罹患したことがあるが現在では急性心臓事象を示していない患者をも含みうることは明らかである。
【0042】
症状としては、心疾患は「心不全」を引き起こしうる。「心不全」なる語は当業者によく知られている。好ましくは、心不全は、特に酸素供給の必要性が増大した条件下、例えば運動中に、心臓が血液を十分に循環させることができない状態に関連する。心不全は、血液を十分に拍出するのが不安定であること(前方不全)および血液の静脈還流を心臓へ十分に取り込むことができないこと(後方不全)の両方を含んでいた。
【0043】
心不全は、New York Heart Association(NYHA)により心血管疾患に関して確立された機能分類系に従い分類されうる。クラスIの患者は心血管疾患の明白な症状を示さない。身体活動は制限されず、日常的な身体活動は過度な疲労、動悸または呼吸困難(息切れ)を引き起こさない。クラスIIの患者は身体活動の若干の制限を有する。彼らは安静時は快適であるが、日常的な身体活動が疲労、動悸または呼吸困難を引き起こす。クラスIIIの患者は身体活動の著しい制限を示す。彼らは安静時には快適であるが、日常活動に満たない活動が疲労、動悸または呼吸困難を引き起こす。クラスIVの患者は、不快症状を伴わずにはいかなる身体活動も行うことができない。彼らは安静時に心不全の症状を示す。何らかの身体活動を行えば、不快症状が増大する。
【0044】
心不全のもう1つの指標は、「駆出分画率」としても知られる「左室駆出分画率」(LVEF)である。健康な心臓を有する者は通常、損なわれていないLVEFを有し、これは一般には50%を超えると記載されている。症候性の収縮性心不全を有するほとんどの者は40%以下のLVEFを有する。
【0045】
「心臓代償不全(cardiac decompensation)」は当業者によく知られている。「心臓代償不全」は一般には、心不全の最も重篤なレベルと関連する。心臓代償不全においては、心臓が血液を十分に循環させる能力の喪失が、身体のストレス反応によりポンピング能の欠損を代償し得ないレベルに至る。心臓代償不全の症状は当業者に公知である。特に、「心臓代償不全」の症状を示す患者はNYHA クラスII、III、IVの症状またはそれより悪い症状を示している。より詳しくは、該患者はNYHAクラスIII、IVの症状またはそれより悪い症状を示す。更に詳しくは、該患者はNYHAクラスIVの症状またはそれより悪い症状を示す。最も詳しくは、該患者は、循環を安定化または維持するための臨床的補助を要する。
【0046】
測定されたレベルの「情報を組み合せる」なる語は当業者によって容易に理解される。本発明の2以上のバイオマーカーのレベルを一旦測定したら、測定されたレベルの情報を評価する。「組み合せる」とは、バイオマーカーの情報を、好ましくは、互いに独立に評価するのではなく、情報を1つの、好ましくは診断用の情報に構築することを意味する。前記のとおり、NT-プロANPおよびNT-プロBNPのレベルの組み合された評価が、各マーカー単独よりも多くの情報を、あるいは更にはそれらのマーカーの総和よりもさらに多くの情報を提供しうることが、本発明において見出された。例えば、増加していないかまたは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPは、心疾患、特に急性心臓事象の存在を示す。情報を組み合せることは、測定されたレベルに対する数学的またはブール演算(例えば、測定されたレベル間の比を計算すること)によっても行われうる。好ましくは、そのような数学的演算においては、絶対的なレベルをも考慮する。したがって、情報を組み合せることは、好ましくは、2以上のバイオマーカーの測定されたレベルを評価することに関する。「評価」なる語は当業者に公知である。好ましくは、評価は、測定されたレベルを判断し、見積もりし、または解釈すること、より好ましくは、個々の測定されたレベルが何を示しているのかを判断し、見積もりし、または解釈することと理解される。
【0047】
「増加していない」、「増加した」、「僅かに増加した」または「非常に増加した」レベルなる語は、心疾患の非存在、特に急性心臓事象または慢性心疾患の非存在を示す既知レベルと比較した場合の、患者において測定されたバイオマーカーのレベルを意味する。
【0048】
当業者であれば、既知のレベル(または例えば比率;実施例1も参照されたい)を決定することが可能である。例えば、既知レベルは、心疾患に罹患していない個体の集団における、測定されたレベルの中央値または平均値として決定されうる。さらなる個体または患者における該レベルの評価(例えば、コホート研究でのもの)は、該既知レベルまたは比率を精緻化するのに役立ちうる。同様に、急性心臓事象または慢性心疾患の存在を示す基準レベルを定義および/または精緻化することも可能である(例えば、実施例1を参照されたい)。
【0049】
該既知レベルは「基準値」でもありうる。バイオマーカーに関する基準値(または「正常値」)の概念は当業者によく知られている。特に、基準値なる語は1以上の対照サンプル中の実際のレベル値に関しうる。あるいはそれは、1以上の対照サンプル中の実際のレベルから導き出された値に関する。基準値を決定するためには、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも50、より好ましくは少なくとも100、最も好ましくは少なくとも500の被験者を分析する。
【0050】
最も単純な場合、基準値は、対照サンプルにおいて測定されたレベル、または多数の対照サンプルにおいて測定されたレベルの平均値と同一である。しかし、基準値は2以上の対照サンプルから計算されうる。例えば、基準値は、対照状態(例えば、健康な状態、特定の病的状態または特定の疾病状態)を表す対照サンプル中のレベルの算術平均でありうる。好ましくは、基準値は、複数の同等の対照サンプル(同一または類似の疾病状態を表す対照サンプル)において見出されうる一連の値に関連し、例えば、平均値±1×または2×標準偏差である。同様に、基準値は他の統計パラメータまたは方法により計算することも可能であり、例えば複数の対照サンプルにおいて見出されたレベルの一定のパーセント点、例えば90%、95%、97.5%または99%のパーセント点として計算されうる。個々の基準値の選択は、所望の感度、特異性または統計的有意性(一般には、感度がより高く、特異性がより低いことおよびその逆)に応じて決定されうる。計算は、当業者により適当とみなされた公知の統計的方法により行われうる。
【0051】
「対照」または「対照サンプル」なる語は当業者に公知である。好ましくは、「対照」は、実験結果(例えば、患者における測定されたレベル)を評価する際の標準を得るために行う実験または試験に関する。この場合、標準は、好ましくは、個々の健康状態または疾病状態に関連した目的とするバイオマーカーのレベルに関する。したがって、「対照」は、好ましくは、そのような標準を得るために採取されたサンプルである。例えば、対照サンプルは、1以上の健康な被験者、または個々の疾病状態を示す1以上の患者に由来するものでありうる。本発明において、個々の疾病状態を示す患者には、特に、急性心臓事象または慢性心疾患に罹患している患者、より詳しくは、急性心臓代償不全の症状の存在下のそのような患者が含まれる。また、対照サンプルは、より早期の同一の被験者または患者に由来するものでありうる。
【0052】
既知レベルまたは比率の具体例については、後記において更に詳しく説明する。そのようなレベルまたは比率を更に精緻化することが可能であろう。本明細書に記載の個々の既知レベルまたは比率は診断のための指針として役立ちうる。当技術分野において公知であり十分に受け入れられているとおり、個々の被験者における実際の診断は、好ましくは、例えば個々の被験者の体重、年齢、全身健康状態および既往歴に応じて、医師による個々の分析を経て行われる。
【0053】
前記のとおり、急性心臓代償不全の根本原因は以前の慢性心疾患の急性事象または急性代償不全でありうる。しかし、慢性心疾患に罹患している患者は更に急性事象にも罹患しうる。例えば、以前の梗塞または虚血により心機能が既に損なわれている患者は急に別の心筋梗塞に罹患しうる。慢性心疾患に罹患している患者においては、小さな急性心臓事象(例えば、小さな心筋梗塞)でさえも急性心臓代償不全につながりうることに注意すべきである。
【0054】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、急性心臓代償不全の症状を示す以下の3群の患者に対処することが可能である:急性心臓事象に罹患している患者(1)、追加的な急性心臓事象に現在罹患している、慢性心疾患に罹患している患者(2)、および急性代償不全性である慢性心疾患に罹患している患者。
【0055】
本発明において、急性心臓事象により引き起こされる急性代償不全の症状を示す患者(前記の患者群1)は、入院時に、NT-プロBNPに関しては増加していないかまたは僅かに増加したレベルを示すに過ぎないが、NT-プロANPに関しては非常に増加したレベルを示すことが見出された。さらに、これらの患者においては、NT-プロANPのレベルは入院の最初の12時間以内に急速に低下する。
【0056】
さらに、本発明において、慢性疾患に罹患しているが追加的な急性心臓事象に現在罹患している、急性代償不全の症状を示す患者(前記の患者群2)は、入院時に、NT-プロBNPに関しては増加していないかまたは僅かに増加したレベルを示すに過ぎないが、NT-プロANPに関しては非常に増加したレベルを示すことが見出された。さらに、これらの患者においては、NT-プロANPのレベルは入院の最初の12時間以内に急速に低下する。このパターンは、慢性心疾患に罹患していない患者(患者群1)で観察されるパターンに非常に類似している。
【0057】
さらに、本発明において、慢性心疾患により引き起こされる急性代償不全の症状を示す患者(前記の患者群3)は、入院時に既に、NT-プロBNPおよびNT-プロANPについて非常に増加した値を示すことが見出された。両方のバイオマーカーのレベルの時間経過は最初の24時間にわたりほぼ平行に進行する。注目すべきことに、NT-プロBNPの値は入院時に既に非常に増加している。さらに、慢性心疾患の場合には、NT-プロANPおよびNT-プロBNPのレベルは、急性心臓事象の場合のような入院初日をはるかに超える変化は示さない(実施例も参照されたい)。
【0058】
本発明における知見によれば、NT-プロANPの測定レベルは心疾患の重症度に左右されうる。心疾患が重症になればなるほど、NT-プロANPのレベルは高くなる。さらに、急性事象の終息はNT-プロANPの減少と関連している。これとは対照的に、NT-プロBNPは(主として)慢性心疾患を反映し、ゆっくりとした変化を示すに過ぎない。該測定レベルは心疾患(特に急性心臓事象または慢性心疾患)の存在または非存在を示しうるだけでなく、該疾患の程度または重症度をも示しうる。したがって、該測定レベルは、軽度なまたはそれより重篤な心疾患に罹患している患者の間の臨床的連続性を反映する。例えば、非常に高いレベルのNT-プロANPはより重篤な急性心臓事象の存在を示す。
【0059】
慢性心疾患に罹患しているが追加的な急性心臓事象に現在罹患している患者(前記の患者群2)におけるNT-プロANPおよびNT-プロBNPのレベルは、患者群1(慢性心疾患を伴わない急性心臓事象)におけるレベルに類似している。したがって、本発明は、患者が慢性心臓疾患に以前に罹患したことがあるか否かに無関係に急性心臓事象の診断を可能にすると考えられる。
【0060】
注目すべきことに、本発明は、必ずしも客観的時間尺度(objective time scale)(例えば、症状の発症から経過した時間)に従った場合でなく主観的時間尺度(subjective time scale)(すなわち、時間ゼロが入院時)に従った場合でさえも臨床的に妥当なデータを与えることが示された。この筋書きは、最初の測定を入院時に行い症状の発症からの一定の経過時間に従わない実際の臨床状況に緊密に対応している。この時間は非常に様々でありうる。通常、急性心臓代償不全の症状を示す患者は、症状の発症後30分〜24時間以内に医師、特に病院を訪れる。
【0061】
本発明において、「増加していないレベルのNT-プロBNP」なる語は、好ましくは、125pg/ml未満、特に76pg/ml未満、より詳しくは50pg/ml未満のNT-プロBNPの血漿中濃度に相当する。
【0062】
本発明において、「僅かに増加したレベルのNT-プロBNP」なる語は、好ましくは、125〜1000pg/ml、特に125〜900pg/ml、より詳しくは125〜750pg/mlのNT-プロBNPの血漿中濃度に相当する。
【0063】
本発明において、「非常に増加したレベルのNT-プロBNP」なる語は、好ましくは、3000pg/mlを超えるNT-プロBNPの血漿中濃度に相当する。
【0064】
本発明において、「増加したレベルのNT-プロANP」なる語は、好ましくは、3000pg/mlを超える、より詳しくは4000pg/mlを超える、より一層詳しくは7000pg/mlを超える、最も詳しくは10000pg/mlを超えるNT-プロANPの血漿中濃度に相当する。更に好ましいレベルは、実施例2に記載の基準範囲の上限から導き出されうる。
【0065】
また、NT-プロANPおよびNT-プロBNPからの組み合された情報は種々に表されうることが明らかである。例えば、NT-プロANPとNT-プロBNPとの間の関係は「比率」としても表されうる。一般に、急性心臓代償不全の症状を示す患者のサンプル中のNT-プロBNPに対するNT-プロANPの測定された比率が高くなればなるほど、該患者が急性心臓事象に罹患している(そして前記の患者群1または2に属する)可能性が高くなる。特に、35を超える比率、より詳しくは50を超える比率、最も詳しくは70を超える比率は急性心臓事象の存在を示す。
【0066】
NT-プロANPおよびNT-プロBNPの記載されているレベルは当業者に対する最初の指針を提供するものであると考えられる。臨床研究の臨床実践において得られた更なるデータに従い該レベルを更に精緻化することは当業者の能力の範囲内である。例えば、該レベルは患者の体重、年齢および性別に応じて更に精緻化されうる。例えば、見掛け上は健康なより高齢の被験者は、典型的には、見掛け上は健康なより若い被験者より、高いレベルのNT-プロANPまたはNT-プロBNPを示すであろう(実施例2も参照されたい)。データの統計解析を含む、適当なレベルを定めるための方法は、当技術分野でよく知られている。明らかに、当業者は、pg/mlで表された前記で定められたレベルに相当するモル濃度を困難なく計算するであろう(実施例2も参照されたい)。
【0067】
更に、当業者であれば、血漿以外のサンプルに関する対応レベルを定めることが可能である。
【0068】
実施例から認められうるとおり、少なくとも1つの追加的な時点におけるNT-プロANPおよび/またはNT-プロBNPのレベルの測定は追加的な診断情報を提供しうる。例えば、入院から12時間以上後の、NT-プロANPのみの測定と比較した場合のNT-プロBNPの測定は、心疾患の程度を過小評価するのを回避するのに役立ちうる。したがって、好ましい実施形態においては、NT-プロANPおよび/またはNT-プロBNPのレベルは少なくとも1つの追加的なサンプルにおいて測定されうる。好ましくは、該サンプルは最初の測定後の短い時間間隔以内に採取される。適当な時間は、例えば、最初のサンプルの採取後2〜12時間以内、好ましくは4〜12時間以内である。
【0069】
NT-プロANPおよび/またはNT-プロBNPのレベルの時間経過を確立するためには、サンプルの採取および測定を、より頻繁に行うことが可能である。そのような時間経過は追加的な診断情報を提供しうる。例えば、NT-プロBNPの測定は疾患の進行または治療の影響をモニターするのに役立ちうる。したがって、本発明はまた、NT-プロANPおよびNT-プロBNPの時間経過を測定することに関する。好ましくは、該時間経過は短い間隔により決定される。例えば、サンプルは12時間ごと、好ましくは6時間ごと、より好ましくは4時間ごと、最も好ましくは2時間ごとに採取される。短い間隔での測定は、症状の発症後または患者の入院後の数日間、例えば最初の4日間、3日間または2日間に行うことが特に好ましい。
【0070】
もう1つの好ましい実施形態においては、特に、(a)左室駆出分画率(LVEF)、(b)心エコー図、(c)既往歴(病歴)、特に狭心症に関するもの、(d)心電図、(e)甲状腺機能または腎機能のパラメータ、(f)血圧、特に動脈高血圧、(g)タリウムシンチグラム、(h)血管造影、(i)カテーテル検査よりなる群から選ばれる、心疾患の追加的な診断パラメータを測定する。
【0071】
これらの追加的な診断パラメータは、NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定の前、後またはそれと並行して測定されうる。該追加的診断パラメータは心疾患の存在の疑いを確定しうる。あるいはそれらは、測定された個々のレベルまたは比率の診断妥当性を更に評価するのに役立ちうる。
【0072】
心不全の症状は心疾患以外の他の疾患の症状に類似している可能性があることに注目すべきである。例えば、呼吸困難および疲労は、肺陥入、貧血、脂肪過多、運動不足、またはそれらの組み合せからも生じうる。前記のとおり、本発明の教示は、心疾患に関する偽陰性診断を回避するのに役立つ。さらに、自動化システムを用いて、1時間以内の時間でNT-プロANPおよびNT-プロBNPを測定することが可能である。例えば、Elecsys(商標)分析計を使用した場合、NT-プロBNPの分析時間は約18分である(Ruskoaho, H. (2003), 前記で引用)。したがって、本発明は、心疾患の標準的な診断方法、例えば心電図検査、心エコー法、または侵襲法、例えば冠状動脈造影法もしくは血行動態モニタリングよりも早期に、信頼性のある貴重な診断情報を提供しうる。サンプル、例えば血液サンプルの採取後、他の診断法を並行して行いながら、NT-プロANPおよびNT-プロBNPを分析することが可能である。
【0073】
したがって、もう1つの好ましい実施形態においては、本発明は、症状の発症後の医師(特に心臓病専門医)への最初の訪問時または入院時に、NT-プロANPおよびNT-プロBNPを測定する、急性心臓代償不全の症状を示す患者における心疾患の診断方法に関する。入院時とは、好ましくは、症状の発症後24時間以内、より好ましくは12時間以内、より一層好ましくは30分以内を意味する。
【0074】
「入院時に測定する」なる語は、入院後4時間以内、好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内に、測定用のサンプルを採取することを意味する。入院は、好ましくは、症状の発症後の医師(好ましくは心臓病専門医)への最初の訪問の時点または病院もしくは診療所への最初の入院を意味する。好ましくは、それは、病院または診療所への最初の入院、最も好ましくは、該病院または診療所の緊急処置施設への搬入を意味する。「症状の発症後」は、好ましくは、急性心臓代償不全の症状の発症に関するものである。該サンプルは、例えば現場での緊急治療中、あるいは患者を医師、診療所または病院へ搬送する間に、入院前に手短に採取されうる。
【0075】
NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定は並行してまたは連続的に行われうる(例えば、NT-プロBNPはNT-プロANPの前に測定されてもよく、その逆もありうる)。好ましくは、測定は並行して行われる。この場合の「並行して」なる語は、同時に採取され、好ましくは2時間以内の間隔で採取され、より好ましくは1時間以内の間隔で採取されたサンプルを使用することに関する。最も好ましくは、この場合の「並行して」は同一サンプルを使用することに関する。好ましくは、サンプル中のペプチドの量または濃度の測定を同時に行う。
【0076】
もう1つの好ましい実施形態においては、更に、壊死の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する。壊死、特に心臓壊死に関するバイオマーカーは当業者に公知である。そのようなマーカーは心筋梗塞の存在を示す。壊死のバイオマーカーの具体例には、トロポニンT、CK(クレアチンキナーゼ)、CK-MB(クレアチンキナーゼ筋-脳)およびミオグロビンが含まれる。例えば、本発明はまた、急性心臓代償不全の症状を示す患者における心疾患、特に急性心臓事象の診断方法であって、(a)該患者からのサンプル中のNT-プロANPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(b)該患者からのサンプル中のNT-プロBNPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(c)該患者からのサンプル中の壊死のバイオマーカーまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(d)NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの情報を組み合せる工程であって、ここで、増加していないかまたは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下および増加していないかまたは僅かに増加したレベルの壊死のバイオマーカーの存在下の、増加したレベルのNT-プロANPが、心疾患、特に急性心臓事象の存在を示す、工程、を含む方法に関する。有利には、この実施形態は、壊死のバイオマーカーの測定されたレベルが増加していない(または依然として増加している)場合であっても、心疾患、特に急性心臓事象の早期診断を可能にする。
【0077】
前記の方法は本発明の全ての他の実施形態に同様に適合化されうることは明らかである。例えば、もう1つの好ましい実施形態においては、本発明はまた、急性心臓代償不全の症状を示す患者における、心疾患(特に急性心臓事象および/または慢性心疾患)の診断、好ましくは早期診断のための、NT-プロANP、NT-プロBNPおよび壊死のバイオマーカーの測定されたレベルの組み合された情報の、好ましくはin vitroでの、使用に関する。
【0078】
生化学または分子マーカーのレベルは、該タンパク質(ペプチドまたはポリペプチド)または対応する転写産物の濃度を測定することにより決定されうる。この場合、「測定」なる語は、好ましくは、該レベルの定量的または半定量的決定を意味する。
【0079】
該レベルは、該ペプチドまたはポリペプチドの量または濃度を測定することにより測定されうる。好ましくは、該レベルは、与えられたサンプル中の濃度として決定される。本発明の目的においては、絶対レベルを測定する必要はないかもしれない。適当な対照中のレベルに対する相対レベルを測定することで十分でありうる。測定は、目的のペプチドまたはポリペプチドに特異的な誘導体または断片(例えば、核酸またはタンパク質消化産物中に含まれる特異的断片)を測定することによっても行われうる。
【0080】
核酸、特にmRNAの測定は、当業者により適当と考えられる公知の任意の方法により行われうる。
【0081】
RNAの測定の具体例には、ノーザンハイブリダイゼーション、RNアーゼプロテクションアッセイ、in situハイブリダイゼーションおよびアプタマー、例えばセファデックス結合性RNAリガンド(Srisawat, C., Goldstein I.J.およびEngelke, D.R. (2001). Sephadex-binding RNA ligands: rapid affinity purification of RNA from complex RNA mixtures. Nucleic Acids Research, vol. 29, no. 2 e4)が含まれる。
【0082】
さらに、RNAはcDNAに逆転写されうる。したがって、例えば以下のようなDNAの測定方法はRNAの測定にも用いられうる:サザンハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)(例えば、Cao, W. (2004) Recent developments in ligase-mediated amplification and detection. Trends in Biotechnology, vol. 22 (1), p. 38-44を参照されたい)、RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、定量的RT-PCRおよびマイクロアレイハイブリダイゼーション(例えば、Frey, B., Brehm, U.およびKubler, G.ら (2002). Gene expression arrays: highly sensitive detection of expression patterns with improved tools for target amplification. Biochemica, vol. 2, p. 27-29を参照されたい)。
【0083】
DNAおよびRNAの測定は、例えば分子ビーコン、ペプチド核酸(PNA)またはロックド(locked)核酸(LNA)(例えば、Demidov, V.V. (2003). PNAおよびLNA throw light on DNA. Trends in Biotechnology, vol. 21(1), p. 4-6を参照されたい)を使用して、溶液中でも行われうる。
【0084】
タンパク質またはタンパク質断片の測定は、目的のペプチドまたはポリペプチドの測定のための公知の任意の方法により行われうる。当業者であれば、適当な方法を選択することが可能である。
【0085】
ペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための種々の方法が当業者によく知られている。「レベル」なる語はサンプル中のペプチドまたはポリペプチドの量または濃度を意味する。
【0086】
測定は直接的または間接的に行われうる。間接的測定は、細胞応答、結合リガンド、標識または酵素反応産物の測定を含む。
【0087】
測定は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば細胞アッセイ、酵素アッセイ、またはリガンドの結合に基づくアッセイにより行われうる。典型的な方法を以下に説明する。
【0088】
1つの実施形態においては、目的のペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための方法は、(a)該ペプチドまたはポリペプチドを適当な時間にわたり適当な基質と接触させる工程、(b)産物の量を測定する工程を含む。
【0089】
もう1つの実施形態においては、目的のペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための方法は、(a)該ペプチドまたはポリペプチドを特異的結合性リガンドと接触させる工程、(b)(所望により)非結合リガンドを除去する工程、(c)結合リガンドの量を測定する工程を含む。
【0090】
もう1つの実施形態においては、目的のペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための方法は、(a)(所望により)サンプルの該ペプチドまたはポリペプチドを断片化する工程、(b)(所望により)該ペプチドもしくはポリペプチドまたはそれらの断片を1以上の生化学的または生物物理的特性(例えば、固体表面への結合性またはクロマトグラフィー装置におけるそれらの移動時間)に従って分離する工程、(c)該ペプチド、ポリペプチドまたは断片の1以上の量を決定し、(d)工程(c)のペプチド、ポリペプチドまたは断片の1以上の実体(identity)を質量分析により決定する工程を含む。質量分析法の概観は例えばRichard D. Smith (2002). Trends in mass spectrometry instrumentation for proteomics. Trends in Biotechnology, Vol. 20, No. 12 (Suppl.), pp. S3-S7に記載されている。
【0091】
他の典型的な測定方法は、目的のペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドの量を測定することを含む。本発明における結合は共有結合および非共有結合の両方を含む。
【0092】
本発明におけるリガンドは、目的のペプチドまたはポリペプチドに結合する任意のペプチド、ポリペプチド、核酸または他の物質でありうる。ペプチドまたはポリペプチドは、ヒトまたは動物の身体から入手または精製された場合、例えばグリコシル化により修飾されている場合があることが、よく知られている。本発明における安定なリガンドは、そのような部位を介することによっても該ペプチドまたはポリペプチドに結合しうる。
【0093】
好ましくは、該リガンドは、測定するペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合すべきである。本発明における「特異的(に)結合」は、該リガンドが、被検サンプル中に存在する別のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合しない(それらと交差反応しない)ことを意味する。好ましくは、該特異的結合タンパク質またはアイソフォームは、任意の他の関連ペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、より一層好ましくは少なくとも50倍高いアフィニティで結合すべきである。
【0094】
被検ペプチドまたはポリペプチドが例えばそのサイズに応じた分離(例えば電気泳動)により、またはサンプル中のその相対的に高い含有量により、尚も明らかに識別され測定されうる場合には、非特異的結合は許容されうる。
【0095】
リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法により測定されうる。好ましくは、該方法は半定量的または定量的である。適当な方法を以下に説明する。
【0096】
第1に、リガンドの結合は例えばNMRまたは表面プラズモン共鳴により、直接的に測定されうる。
【0097】
第2に、リガンドが、目的のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても機能する場合には、酵素反応産物が測定されうる(例えば、切断された基質の量を例えばウエスタンブロット上で測定することにより、プロテアーゼの量を測定することが可能である)。酵素反応産物の測定のためには、好ましくは、基質の量は飽和している。また、基質は、反応前に、検出可能な標識で標識されうる。好ましくは、サンプルを適当な時間にわたり基質と接触させる。適当な時間は、検出可能な、好ましくは測定可能な量の産物が産生されるのに必要な時間を意味する。産物の量を測定する代わりに、所定の(例えば検出可能な)量の産物の出現に必要な時間を測定することが可能である。
【0098】
第3に、リガンドは、リガンドの検出および測定を可能にする標識に共有結合または非共有結合されうる。標識化は直接的または間接的な方法により行われうる。直接的な標識化は、標識をリガンドへ直接的に結合(共有結合または非共有結合)させることを含む。間接的な標識化は、一次リガンドへ二次リガンドを結合(共有結合または非共有結合)させることを含む。二次リガンドは一次リガンドへ特異的に結合すべきである。二次リガンドは適当な標識と結合されてもよく、および/または二次リガンドへ結合する三次リガンドの標的(受容体)であってもよい。シグナルを増強するために、二次、三次または更にはより高次のリガンドが使用されることが多い。適当な二次およびより高次のリガンドには、抗体、二次抗体、およびよく知られたストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が含まれうる。
【0099】
リガンドまたは基質はまた、当技術分野で公知の1以上のタグで「タグ付け」されうる。そして、そのようなタグはより高次のリガンドに対する標的である。適当なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-Tag、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合性タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端に存在する。
【0100】
適当な標識は、適当な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁性標識(例えば、常磁性および超磁性標識を含む「磁性ビーズ」および蛍光標識が含まれる。
【0101】
酵素的に活性な標識には、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼおよびそれらの誘導体が含まれる。検出のための適当な基質には、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsの既製ストック溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適当な酵素-基質の組み合せは発色反応産物、蛍光または化学発光をもたらすことが可能であり、これは、当業者に公知の方法により(例えば、感光フィルムまたは適当なカメラシステムを使用して)測定されうる。酵素反応を測定する場合と同様、前記の基準が同様に適用される。
【0102】
典型的な蛍光標識には、蛍光性タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセインおよびAlexa(アレキサ)色素(例えば、Alexa 568)が含まれる。他の蛍光標識は例えばMolcular Probes(Oregon)から入手可能である。蛍光標識としての量子ドットの使用も意図される。
【0103】
典型的な放射性標識には、35S、125I、32Pなどが含まれる。放射性標識は、公知であり適当な任意の方法、例えば、感光フィルムまたは蛍光体イメージャー、により検出されうる。
【0104】
本発明の適当な測定方法には、沈降(特に、免疫沈降)、電気化学発光(電気的に生成する化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、タービジメトリー(turbidimetry;比濁法)、ネフェロメトリー、ラテックス増強タービジメトリーまたはネフェロメトリー、固相免疫試験、および質量分析、例えばSELDI-TOF、MALDI-TOFまたはキャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)も含まれる。当技術分野で公知の他の方法(例えば、ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウエスタンブロット法)を単独でまたは標識化もしくは前記の他の検出方法と組み合せて用いることが可能である。
【0105】
さらに、適当な方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化またはロボット化イムノアッセイ(例えばElecsys(商標)分析装置上で利用可能)、CBA(例えばRoche-Hitachi(商標)分析装置上で利用可能な酵素コバルト結合アッセイ)およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-Hitachi(商標)分析装置上で利用可能)が含まれる。
【0106】
好ましいリガンドには、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、およびアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドに関する方法は当技術分野でよく知られている。例えば、適当な抗体またはアプタマーの同定および製造は商業的供給業者によっても行われうる。より高いアフィニティーまたは特異性を有するそのようなリガンドの誘導体を開発するための方法は当業者によく知られている。例えば、ランダム突然変異を核酸、ペプチドまたはポリペプチド内に導入することが可能である。ついでこれらの誘導体を、当技術分野で公知のスクリーニング法(例えば、ファージ提示法)に従い、結合に関して試験することが可能である。
【0107】
本明細書中で用いる「抗体」なる語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびにそれらのフラグメント、例えば、抗原またはハプテンに結合しうるFv、FabおよびF(ab)2フラグメントを含む。
【0108】
もう1つの実施形態においては、好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチドよりなる群から、より好ましくは、核酸、抗体またはアプタマーよりなる群から選ばれるリガンドが、アレイ上に存在する。
【0109】
該アレイは、目的のペプチド、ポリペプチドまたは核酸に対するものでありうる少なくとも1つの追加的なリガンドを含有する。その追加的なリガンドは、本発明において特に目的のものでないペプチド、ポリペプチドまたは核酸に対するものであってもよい。好ましくは、少なくとも3個、好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも8個の、本発明において目的のペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドが該アレイ上に含有される。
【0110】
アレイ上のリガンドの結合は、任意の公知の読取りまたは検出方法、例えば、光学(例えば、蛍光)、電気化学もしくは磁気シグナル、または表面プラズモン共鳴を伴う方法により、検出されうる。
【0111】
本発明においては、「アレイ」なる語は、少なくとも2つの化合物が一次元、二次元または三次元の配置で付着または結合している固相またはゲル様担体を意味する。そのようなアレイ(「遺伝子チップ」、「タンパク質チップ」、抗体アレイなどを含む)は当業者に一般に公知であり、典型的には、顕微鏡スライドガラス、特殊コーティングされたスライドガラス、例えばポリカチオン-、ニトロセルロース-またはビオチン-コートスライド、カバーガラス、および膜、例えば、ニトロセルロースまたはナイロンに基づく膜の上に生成される。該アレイは結合リガンド、またはそれぞれが少なくとも1つのリガンドを発現する少なくとも2つの細胞を含みうる。
【0112】
また、本発明におけるアレイとして「懸濁アレイ」を使用することも意図される(Nolan JP, Sklar LA. (2002). Suspension array technology: evolution of the flat-array paradigm. Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイにおいては、担体、例えばマイクロビーズまたはミクロスフェアが懸濁状態で存在する。該アレイは、種々のリガンドを担持する恐らくは標識された種々のマイクロビーズまたはミクロスフェアよりなる。
【0113】
本発明は更に、少なくとも1つのリガンドを他のリガンドと共に担体物質に結合させる、前記のアレイの製造方法に関する。
【0114】
そのようなアレイの製造方法、例えば、固相化学および光不安定性保護基に基づく製造方法は、一般に公知である(米国特許第5,744,305号)。また、そのようなアレイを物質または物質ライブラリーと接触させ、さらに、相互作用に関して、例えば、結合またはコンホメーション変化に関して試験することが可能である。したがって、前記のペプチドまたはポリペプチドを含むアレイを使用して、該ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドを同定することが可能である。
【0115】
ペプチドおよびポリペプチド(タンパク質)は、組織、細胞および体液サンプル中で、すなわち、好ましくはin vitroで測定されうる。好ましくは、目的のペプチドまたはポリペプチドは体液サンプル中で測定される。
【0116】
本発明における組織サンプルは、死んでいるまたは生きているヒトまたは動物の体から得られる任意の種類の組織を意味する。組織サンプルは、当業者に公知の任意の方法、例えば生検または掻爬術により得られうる。
【0117】
本発明における体液には、血液、血清、血漿、リンパ液、脳液、唾液、硝子体液および尿が含まれうる。特に、体液には、血液、血清、血漿および尿が含まれる。体液のサンプルは、当業者に公知の任意の方法により得られうる。
【0118】
該サンプルのいくつか、例えば尿サンプルは、目的のペプチドまたはポリペプチドの分解産物、特に断片しか含有していないかもしれない。しかし、前記のとおり、該断片が、目的のペプチドまたはポリペプチドに特異的である限り、該レベルの測定は尚も可能でありうる。
【0119】
必要に応じて、サンプルは測定前に更に処理されうる。特に、核酸、ペプチドまたはポリペプチドは、濾過、遠心分離または抽出法(例えば、クロロホルム/フェノール抽出)を含む当技術分野で公知の方法によりサンプルから精製されうる。
【0120】
更に、サンプルを入手し、目的のペプチドまたはポリペプチドを測定するために、いわゆるポイント・オブ・ケア(point-of-care)またはラボ・オン・ア・チップ(lab-on-a-chip)装置を使用することが意図される。そのような装置は、血糖測定において使用される装置と同様に設計されうる。したがって、患者は、訓練された医師または看護師の直接の援助無しにサンプルを入手し、目的のペプチドまたはポリペプチドを測定することが可能であろう。
【0121】
もう1つの好ましい実施形態においては、本発明は、(a)患者からのサンプル中のNT-プロANPのレベルを測定するための手段または装置、および(b)患者からのサンプル中のNT-プロBNPのレベルを測定するための手段または装置を含むキットに関する。(a)における手段は、NT-プロANPに特異的に結合するリガンドであり、および/または(b)における手段は、NT-プロBNPに特異的に結合するリガンドである。また、該キットは、患者からのサンプル中の壊死のバイオマーカーのレベルを測定するための手段または装置、特に、特異的結合性リガンドを含みうる。
【0122】
もう1つの好ましい実施形態においては、本発明は、急性心臓代償不全の症状を示す患者における、急性心臓事象のin vitro診断のための、特に、急性心臓事象を慢性心疾患から区別するための、そのようなキットの使用に関する。
【0123】
もう1つの好ましい実施形態においては、本発明は、急性心臓代償不全の症状を示す患者における、特に急性心臓事象を慢性心疾患から区別するための、心疾患(例えば、急性心臓事象または慢性心疾患)の診断用、特に早期診断用の診断キットの製造のための、NT-プロANPに特異的に結合するリガンドおよび/またはNT-プロBNPに特異的に結合するリガンドの使用に関する。また、そのようなキットの製造のために、壊死のバイオマーカーに特異的に結合するリガンドが使用されうる。
【0124】
本発明はまた、心疾患の治療方法に関する。一旦患者が診断されると、続いて治療が行われることになるかもしれない。本発明の方法が患者に心疾患が存在することを示した場合、次いで治療が開始され、または適合化されうる。被験者におけるNT-プロANPおよびNT-プロBNPのレベルおよび/または比率は一定の間隔を空けてモニターされうる。そのようなモニター期間中も、本発明は、心疾患、特に急性心臓事象を検出しうる。さらに、被験者は、熟練した心臓病専門医に公知の方法(例えば、本明細書中に前記のもの、例えば、心電図検査または心エコー法)による更なる診断により集中的に検査されうる。治療は、心機能の改善または回復に一般に関連している任意の手段を含みうる。例えば、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、Cox-2インヒビターまたは選択的Cox-2インヒビター、例えば、セレコキシブ(celecoxib)またはロフェコキシブ(rofecoxib))での治療は中断され、あるいはいずれかのそのような薬物の投与量が低減されうる。他の考えられうる手段としては、塩分摂取の制限、定期的な適度の運動、インフルエンザおよび肺炎球菌の免疫付与、外科的処置(例えば、血管再生、バルーン拡張、ステント留置法、バイパス手術)、薬物の投与、例えば利尿薬(2以上の利尿薬の共投与を含む)、ACE(アンジオテンシン変換酵素)インヒビター、βアドレナリン作動性ブロッカー、アルドステロンアンタゴニスト、カルシウムアンタゴニスト(例えば、カルシウムチャネルブロッカー)、アンジオテンシン受容体ブロッカー、ジギタリス、ならびに当業者により適当とみなさる公知の任意の他の手段が挙げられる。
【0125】
急性心臓事象の治療は慢性心疾患の治療とは異なりうる。本発明の方法が急性心臓事象の存在を示す場合には、治療はループ利尿薬(例えば、フロセミド(furosemide)、ツロセミド(turosemide)またはエタクリン酸(ethacrynic acid))、カテコールアミンの投与および早期血管再生に照準を合わせうる。
【0126】
本発明の方法が慢性心疾患の存在を示すが追加的な急性心臓事象を示さない場合には、続く治療はむしろ、循環の補助、例えば心肺装置またはバルーンカテーテル挿入に照準を合わせうる。
【0127】
当業者が利用可能な他の治療選択肢はMcMurray, J.J.V.およびPfeffer, M.A. (2005). Heart failure. Lancet vol. 365, pp. 1877-89に記載されており、特にそのpp. 1879-1885を参照されたい。
【0128】
より詳しくは、もう1つの実施形態においては、本発明は、心疾患に対する患者の実施可能な治療を決定するための方法であって、該患者が、急性心臓代償不全の症状を示し、該方法が、(a)該患者からのサンプル中のNT-プロANPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(b)該患者からのサンプル中のNT-プロBNPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、(c)NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの情報を組み合せる工程であって、ここで、増加していないかもしくは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、急性心臓事象の存在を示し、あるいは非常に増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、慢性心疾患の存在を示す、工程、(d)所望により、心臓病専門医による該患者の検査を開始する工程、(e)該治療の開始または治療を見合わせることを勧めることを、所望により該心臓病専門医による患者の検査の結果を考慮して、行う工程を含む、方法に関する。
【0129】
好ましくは、心臓病専門医による検査の開始および/または治療の開始は、該方法が心疾患の存在を示した場合に勧められる。該方法は、本明細書中に前記で挙げた全ての疾患および状態に関連しており、特に、急性心臓事象または慢性心疾患の治療の開始に関連している。好ましくは、急性心臓事象または慢性心疾患の治療は、工程(c)における評価がいずれかの事象または疾患の存在を示した場合に開始されまたは勧められる。該方法は本明細書に記載の本発明の全ての実施形態または好ましい態様に応じて適合化されうることは明らかである。
【0130】
実施例
【実施例1】
【0131】
この試験の研究集団は、過去24時間以内に虚血および非虚血由来の急性非代償性心不全を示した患者から構成されるものであった。後記のとおりの欧州心臓専門医学会(European Society of Cardiologists)の指針に基づく非代償性心不全および心原性ショックの診断が、バイオマーカーの血漿中濃度について盲験状態の心臓病専門医により評価された。すべての患者は、虚血または非虚血由来の心不全の徴候を示した。ランダム化の前に、すべての患者に利尿薬の投与または抗狭心症療法を行った。本研究の重要なエンドポイントは追跡の最初の30日以内の死亡率であった。地方倫理委員会は該研究を承認した。全ての参加被験者または近縁者から書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0132】
生化学的分析
この試験に登録された114名の患者において、心臓マーカーの測定のための血漿サンプルをベースライン(n=117)、12時間(n=105)、24時間(n=103)および48時間(n=102)の時点で集めた。Elecsys 2010分析装置(測定範囲, 5〜35 000pg/mL; アッセイ内変動係数は474pg/mLの平均値で0.9%、8005pg/mLの平均値で1.1%、および13 682pg/mLの平均値で0.9%である)で化学発光イムノアッセイキット(Roche Diagnostics)を用いてNT-プロBNPを測定した。分析まで全てのサンプルを-80℃で保存し、解凍サイクルを1回のみ行ったサンプルにおいてバイオマーカーの測定を行った。
【0133】
生化学分析を以下のとおりに行った。解凍後、同じ抗ラットプロANPポリクローナル血清、標準としてのPeninsula Laboratories(Bachem, St. Helene, UK)からのヒトプロANP(1-30)、および放射性標識のためのHPLC精製したヨウ化プロANP(1-30)を使用することにより、Sundsfjordら(Sundsfjord, J.A., Thibault, G., Larochelle, P.およびCantin, M. (1988). Identification and plasma concentration of the N-terminal fragment of proatrial natriuretic factor in man. J. Clin Endocrinol Metab 1988, vol. 66, pp. 605-610)の変法での磁気固相技術を用いる競合結合ラジオイムノアッセイにより、血漿をNT-プロANPに関して分析した。高感度かつ良好な精度を得るために、固相および二次抗体として、ヒツジ抗ウサギIgGを有するDynabeads M280(Dynal Biotech, Oslo, Norway)を使用した。アッセイ間変動係数は7.5%以下であった。
【0134】
結果
以下の表2〜5は、前記のとおりの患者の亜集団に属するデータを示す。
【0135】

【0136】
該患者のさらなるデータは以下のとおり:

【0137】
患者番号005および019は、完全に正常な(患者019)または125pg/mlのカットオフより低いNT-プロBNP値を示したことに注目すべきである。また、両方の患者におけるトロポニンTレベルは入院時に正常であった。これらの値は、両方の患者が心疾患に罹患していなかったことを示すものであろう。しかし実際には、両方の患者は重篤な急性心臓事象に罹患していた。さらに、患者019の場合には、それは死を招いた。一方、両方の患者は、入院時に、増加したレベルのNT-プロANPを示し、これは、本発明の教示によれば、急性心臓事象の存在を示していたことになろう。
【0138】


【0139】

【0140】
それらの患者のさらなるデータは以下のとおり:

【0141】


【0142】


【0143】
それらの患者のさらなるデータは以下のとおり:

【0144】








【0145】
より良い総括のために、表2、3および4の患者において測定されたレベルの算術平均を求めた。それを以下の表5に示す。
【0146】

【実施例2】
【0147】
RIA法:磁気固相技術(前記で引用したSundsfjordらの変法)による競合結合ラジオイムノアッセイでのNT-プロBNP。
【0148】
測定範囲, 未希釈:60〜10 000pmol/L。
【0149】
機能的感度:100pmol/L(=350pg/ml)。
【0150】
1pmol/L NT-プロANPは3.506pg/ml NT-プロANPに相当する。
【0151】

【0152】
表6中の値は、見掛け上健康な被験者の97.5%において見出されるNT-プロANP値の上限を示す。しかし、経験上、この範囲は尚も、心疾患に罹患している数名の患者を含みうる。
【実施例3】
【0153】
冠状動脈心疾患を有する疑いのある患者に、薬物(血管拡張薬であるジピリダモール)により惹起される人工的心臓負荷または運動負荷を与えた。冠状動脈心疾患を有する患者では、該負荷は疼痛および/または心電図における変化を引き起こす。この研究においては、該患者をタリウムシンチグラフィによっても分析した。タリウムシンチグラムは、負荷が虚血を引き起こすかどうかを認識することを可能にする。結果を、検出不能な虚血、持続的な虚血または可逆的な虚血として分類した。表8に示すとおり、虚血を有さない被験者は、有意により低いNT-プロBNPおよびNT-プロANPレベルを示した。
【0154】

【0155】
更に、NT-プロBNPに対するNT-プロANPのレベルの比率は、虚血を有さない患者においては、虚血を有する患者の場合よりも有意に高かった。
【0156】
前記試験において虚血を示す患者は、より早い時期の心臓損傷による心機能の障害を有する。タリウムシンチグラムにおいて虚血を示さない患者は、顕著な動脈硬化症を有さず、したがって通常は顕著な心機能障害を有さない。
【0157】
注目すべきことに、前記のデータは、虚血が、(例えば、急性心筋梗塞および/または重篤な心臓律動欠陥とは異なり)急性心臓事象または慢性心疾患による急性心臓代償不全の症状を示す患者において観察された増加に匹敵するNT-プロANPおよびNT-プロBNPの迅速かつ強力な増加を惹起するのには不十分であることを示している。
【実施例4】
【0158】
以下のデータは、慢性心不全の患者および急性心筋梗塞の患者におけるNT-プロANPおよびNT-プロBNPの時間経過を示す。該データは、急性心筋梗塞の患者においては、NT-プロBNPとNT-プロANPとの比較で観察される値の、顕著に逆行性の時間経過が認められることを示している。
【0159】

【実施例5】
【0160】
急性冠状動脈症候群(ACS):
急性冠状動脈症候群および最近の急性事象が見られた合計19名の患者を調べ、血液サンプルを時間ゼロ(胸痛の開始後2時間以内)、4時間後およびその後のいくつかの時点で採取した。全患者でトロポニンTの値は最初は陰性であった。該患者のうちの12名は、4時間の時点で、測定可能なレベルのトロポニンTを示した(表11を参照されたい)。
【0161】
彼らの症状およびECGの形状から判断して、すべての患者に対して血管造影法を行った。ほとんどの患者において、ステントを移植する必要があった(表11を参照されたい)。
【0162】
NT-プロBNPを時間ゼロおよび3〜4時間後(何名かの患者では更に1時間および2時間の時点)に測定した。該患者のサブグループでは、トロポニンT陰性群およびトロポニンT陽性群の両方において、NT-プロANPの増加が認められた。
【0163】
NT-プロANPの増加はNT-プロBNPの増加と関連していた。これとは対照的に、NT-プロANPのレベルが減少しまたは不変のままの場合には、NT-プロBNPのレベルは不変のままであるか、または若干増加したに過ぎなかった(表10を参照されたい)。
【0164】
ACSの場合、NT-プロANPのレベルの顕著な変化が認められ、一方、NT-プロBNPの変化は全く明らかではないと結論づけられうる。更に、NT-プロANPおよびNT-プロBNPのレベルはトロポニンTのレベルにはほとんど無関係である。トロポニンT陽性患者だけでなくトロポニンT陰性患者にも治療的介入が必要であったことも明らかである。後者の事実は、NT-プロANPおよび/またはNT-プロBNPを単独でまたはトロポニンTのレベルの測定に加えて測定する利点を強調するものである。
【0165】

【0166】
入院時の臨床観察の際、急性冠状動脈症候群の診断を明白に可能にしたであろう症状またはECG変化の確かな徴候は認められなかった。最終的診断は後に行われ、以下の表に挙げられている。
【0167】


【0168】
診断およびその後の介入は、トロポニンTの初期レベルが陰性である患者も、治療を要する心臓障害を有することを示した。特に、不安定狭心症(UAP)に罹患していると後に診断された患者の少なくとも一部では、検出不可能であったものの、血栓が存在していたに違いない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性心臓代償不全の症状を示す患者において心疾患を診断するための方法であって、
a)該患者からのサンプル中のNT-プロANPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、
b)該患者からのサンプル中のNT-プロBNPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、
c)NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの情報を組み合せる工程であって、ここで、増加していないかもしくは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、急性心臓事象の存在を示し、または非常に増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、慢性心疾患の存在を示す、工程、
を含む方法。
【請求項2】
該方法が、急性心臓事象を慢性心疾患と区別するためのものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程c)によって、増加していないかもしくは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、急性心臓事象の存在を示し、かつ非常に増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、慢性心疾患の存在を示す、請求項1〜2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定を並行して行う、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
該サンプルが血液サンプル、好ましくは血漿または血清である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
入院後の4時間以内または急性心臓代償不全の症状の発症後の24時間以内に測定を行う、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
NT-プロANPの増加したレベルが、3000pg/mlを超える、特に4000pg/mlを超える、さらにとりわけ7000pg/mlを超える血漿中濃度に相当する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
NT-プロBNPの僅かに増加したレベルが1000pg/ml未満の血漿中濃度に相当する、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
NT-プロBNPの増加していないレベルが125pg/ml未満の血漿中濃度に相当する、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
NT-プロBNPの非常に増加したレベルが、3000pg/mlを超えるレベルに相当する、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
NT-プロANPおよび/またはNT-プロBNPのレベルを少なくとも1つの追加的なサンプルにおいて測定する、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
NT-プロANPおよび/またはNT-プロBNPの時間経過を定める、請求項11記載の方法。
【請求項13】
NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの組み合された情報を比率として表す、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
更に少なくとも1つの、好ましくはトロポニンT、CK、CK-MBおよびミオグロビンよりなる群から選ばれる、壊死のバイオマーカーを測定する、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
心疾患の追加的な診断パラメータ、特に
a)左室駆出分画率、
b)心エコー図、
c)既往歴、特に狭心症に関するもの、
d)心電図、
e)甲状腺機能または腎機能のパラメータ、
f)血圧、特に動脈高血圧、
g)タリウムシンチグラム、
h)血管造影、
i)カテーテル検査
よりなる群から選ばれるものを測定する、請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
(a)患者からのサンプル中のNT-プロANPまたはその変異体のレベルを測定するための手段または装置、および(b)患者からのサンプル中のNT-プロBNPまたはその変異体のレベルを測定するための手段または装置を含むキットの、心疾患のin vitro診断のための、特に、急性心臓事象を慢性心疾患と区別するための、使用。
【請求項17】
NT-プロANPまたはその変異体に特異的に結合するリガンドおよびNT-プロBNPまたはその変異体に特異的に結合するリガンドの、急性心臓代償不全の症状を示す患者における心疾患を診断するための、特に、急性心臓事象を慢性心疾患と区別するための、診断キットの製造のための使用。
【請求項18】
心疾患に対する患者の実施可能な治療を決定するための方法であって、該患者が、急性心臓代償不全の症状を示し、該方法が、
a)該患者からのサンプル中のNT-プロANPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、
b)該患者からのサンプル中のNT-プロBNPまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで測定する工程、
c)NT-プロANPおよびNT-プロBNPの測定されたレベルの情報を組み合せる工程であって、ここで、増加していないかもしくは僅かに増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、急性心臓事象の存在を示し、または非常に増加したレベルのNT-プロBNPの存在下での、増加したレベルのNT-プロANPが、慢性心疾患の存在を示す、工程、
d)場合により、心臓病専門医による該患者の検査を開始する工程、
e)工程c)による評価が心疾患の存在を示した場合には該治療の開始を勧める工程、
を含む、方法。

【公表番号】特表2008−542778(P2008−542778A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515210(P2008−515210)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062957
【国際公開番号】WO2006/131529
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】