心筋梗塞のモニタリング及びその治療のための手段及び方法
本発明は、医療診断のための方法及びデバイスに関する。具体的には、本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスに適用すべき薬物治療を診断する方法であって、(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を測定するステップ;(b)(a)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始するステップを含む方法に関する。さらに本発明は、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングする方法であって、該リモデリングが薬物治療により支持されるものであり、前述のステップ(a)及び(b)を実施するステップと、以下を含む追加のステップ:該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を再度測定するステップ;最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するステップ;並びに、得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するステップを含む方法に関する。またさらに本発明は、上述の方法を行うための診断用デバイス及びキットに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断のための方法及びデバイスに関する。具体的には、本発明は、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングが開始する際に適用すべき薬物治療を評価(診断)する方法に関する。さらに本発明は、所与の薬物治療の投与時のリモデリングの進行のモニタリングに関する。本方法は、心筋梗塞に罹患した個体の体液中のナトリウム利尿ペプチド、オステオポンチン、GDF-15、CRP及び心筋トロポニン(特にトロポニンT)の群からの複数のペプチドのレベルを測定するステップと、各々のペプチドのレベルをモニタリングするステップとに基づいている。薬物治療の適合に関する決定は収集されたデータに基づいて行いうる。さらに本発明は、上述の方法を行うための診断用デバイス及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近代医学の目的の1つは、特定の個人向けの又は個人に合わせた治療レジメンを提供することである。それらは、ある患者個人のニーズ又はリスクを勘案して行われる治療レジメンである。特定の個人向けの又は個人に合わせた治療レジメンは、短時間のうちに可能性のある治療レジメンを決定する必要のある応急処置についても考慮する必要がある。心臓疾患は西半球においては死亡率と罹患率の主因である。この疾患は、長期にわたって無症候のままであることがある。しかし、急性心血管事象、例えば心筋梗塞などが心血管系疾患の結果として生ずると、重篤な結果となる可能性がある。
【0003】
心不全は、体全体に十分な量の血液を満たす又は排出する心臓の能力を損なう構造的又は機能的心疾患のいずれかに起因する一症状である。最良の治療をもってしても、心不全は年間約10%の死亡率と関係している。心不全は慢性疾患であり、中でも急性心血管事象(心筋梗塞など)の後に生じるか、又は、例えば心筋組織における炎症性若しくは変性変化の結果として生じうる。心不全患者は、NYHAシステムに従ってクラスI、II、III及びIVに分類される。心不全を患う患者は、治療的処置を受けずに健康を完全に回復することはできないだろう。
【0004】
心筋機能障害は、心臓の筋肉(心筋)のいくつかの病理状態を説明する総称である。心筋機能障害は、心不全とは異なり、一時的な病理状態(例えば虚血、毒性物質、アルコールなどにより引き起こされるもの)である。心筋機能障害は、根本の原因を取り除いた後は消失するだろう。しかしながら、無症候性の心筋機能障害は心不全を発症する可能性もある(これは治療で処置する必要がある)。しかし、心筋機能障害はまた、心不全、慢性心不全、さらには重篤な慢性心不全にもなりうる。
【0005】
心筋機能障害及び心不全は、特にその症状が「軽度」とみなされる場合には、診断されないことが多い。心不全の慣用的な診断法は、周知の血管容量ストレスマーカーであるNT-proBNPに基づくものである。しかしながら、いくつかの医療状況下におけるNT-proBNPに基づく心不全の診断は、全てではないがかなりの人数の患者では不正確であるようである(例えば、Beck 2004, Canadian Journal of Cardiology 20: 1245-1248;Tsuchida 2004, Journal of Cardiology, 44:1-11)。ところが、特に心不全に罹患する患者には、心不全の支持療法が緊急に必要と考えられる。一方、心不全の不正確な診断の結果、多くの患者が不十分な又は有害な副作用さえ有することのある治療レジメンを受けることになる。
【0006】
心不全を有する患者はまた、急性心疾患、一般的には急性冠症候群(ACS)を発症する可能性がある。ACSは、不安定狭心症(UAP)及び急性心筋梗塞(MI)の状態を包含する。
【0007】
MIは冠心疾患(CHD)に属するものとして分類され、MIを発症する前には、MIと同様にCHDに属するものとして分類される他の事象、例えば不安定狭心症(UAP)が起こる。UAPの症状は胸痛で、これはニトログリセリンの舌下投与により緩和される。UAPは、低酸素血症及び心筋虚血を招来する冠血管の部分閉塞により引き起こされる。閉塞が極めて重症であるか、又は全体に及ぶ場合には、(心筋梗塞の基礎をなす病理状態である)心筋壊死が生じる。MIは明らかな症状がなくても、すなわち被験体が症状を何も示さなくても生じる場合があり、この場合、MIを発症する前に、安定狭心症又は不安定狭心症は生じない。
【0008】
しかしながら、UAPはMIよりも前に起こる症候性の事象である。被験体において、CHDは無症状でも起こり得る。すなわち、被験体は不快感を感じたり、息切れ、胸痛又は当業者に公知の他の症候等のCHDの症状を何も呈さない場合がある。ところが、被験体は、MI及び/又はうっ血性心不全(CHF)(心臓が被験体の身体に必要な血液供給を確保するように機能するために必要な能力を有さないことを意味する)をもたらし得る冠血管の機能不全に病理学的に該当し、また該機能不全を患っている場合がある。このことは、重篤な合併症、一例として心臓死を招来し得る。
【0009】
胸痛のような急性心血管事象(例えば、心筋梗塞)の症状を患う患者は、現在のところ心筋トロポニン、一般的にはトロポニンTに基づいた診断に供される。この目的のために、患者のトロポニンTレベルが測定される。血中トロポニンT量が上昇している場合、すなわち約0.1ng/mLより高い場合、急性心血管事象が想定され、患者はしかるべき治療を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
心筋梗塞(MI)は、種々の程度及び種々の局在の心筋の壊死であると定義される。MIの治療は、特に侵襲的方法及び抗血小板療法による、還流の回復を目的とする。その後、臨床基準に従って、種々の薬剤の投与を伴うリモデリングを開始する。これらの薬剤のうち、ACE拮抗薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、種々の作用機構の利尿薬、Ca拮抗薬及びジキタリスを使用することができる。
【0011】
リモデリングプロセスにおいて、ナトリウム利尿ペプチド、特にBNP又はNT-proBNPのレベルを測定することが当該技術分野の技術水準である。しかしながら、得られる診断のための情報は限定的である。さらに、リモデリングにおける治療の有効なモニタリングが可能ではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の基礎となっている技術的課題は、上述のニーズに応じるための手段や方法の提供として理解することができる。技術的課題は特許請求の範囲及び本明細書下記で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【0013】
従って、本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断する方法であって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を測定するステップ、
(b)(a)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始するステップ
を含む方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングする方法であって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
前述のステップ(a)及び(b)を実施するステップと、以下の追加のステップ:
(c)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を再度測定するステップ、
(d)最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するステップ、
(e)(c)及び(d)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するステップ
を含む方法に関する。
【0015】
好ましい実施形態において、モニタリング方法のステップ(c)において測定するペプチドは、診断方法のステップ(a)で測定するものと同じである。
【0016】
前記方法は、ステップ(a)〜(e)において得られた結果に応じて治療又は薬物治療を適合させる決定を行う任意ステップ(f)をさらに含んでもよい。
【0017】
本発明の方法に役立つ適当な炎症マーカーは当業者に公知である。好ましいマーカーとしては、オステオポンチン、GDF-15及びCRPが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図2】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図3】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図4】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図5】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図6】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図7】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図8】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図9】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図10】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法は、好ましくはin vitroの方法である。さらに、前記方法は上記で明確に述べたものの他にステップを含んでもよい。例えば、別のステップは、サンプルの前処理、又は前記方法で得られる結果の評価に関連するものである。本発明の方法はまた、被験体のモニタリング、確認、及び細分類に用いることもできる。この方法は、手動で行うか、又は自動化により支援することができる。好ましくは、ステップ(a)及び/又は(b)及び/又は(c)及び/又は(d)及び/又は(e)及び/又は(f)は、その全体又は一部を自動化によって、例えば、ステップ(a)及び/又は(b)及び/又は(c)及び/又は(e)及び/又は(f)での測定のための適切なロボット及びセンサー装置、あるいはステップ(d)でのコンピュータで行う比較によって、支援することができる。
【0020】
本発明のリモデリングプロセスにおいて適用すべき薬物治療を診断する方法の好ましい実施形態において、ペプチドのレベルは、急性事象が起こった1〜3日後、好ましくは1〜2日後の時点に測定する。
【0021】
本発明の、心筋梗塞後の被験体におけるリモデリング(該リモデリングは薬物治療により支持される)のモニタリングの好ましい実施形態において、ペプチドのレベルは、患者の病状に応じて数ヶ月の期間にわたり、また患者の状態に応じた間隔で測定(モニタリング)する。ペプチドの最初の測定の日から開始して、ペプチドレベルは、2〜3日後に、続いて1、2、3及び4週間後に、続いて最大3ヶ月まで2〜4週間間隔で測定すべきである。その後、最大6ヶ月までは毎月、その後は3〜6ヶ月毎に、ペプチドレベルを測定すべきである。一般的には、そのレベルが迅速な変化を示さないペプチド(GDF-15又はオステオポンチンなど)は、そのレベルがより迅速な変化を示すペプチド(トロポニンT/I、NT-proBNP及びCRPなど)よりも大きい間隔で測定することができるといえる。
【0022】
本明細書で用いる「診断する」という用語は、心筋梗塞(MI)に罹患した被験体に、MI後のリモデリングプロセスにおいて、特定の治療又は治療の組み合わせを適用すべきであるか否かを評価することを意味する。該治療は、インターベンション(例えば手術)、及び/又は薬物治療(すなわち1若しくは複数の薬剤の投与)、あるいはそれらの任意の組み合わせ(例えば、2以上のインターベンション若しくは2以上の薬物治療、又は薬物治療とインターベンションの組み合わせ)を含みうる。治療は、以下から選択される:
【0023】
A)心臓機能に効果のある薬剤、好ましくは:β遮断薬、例えばプロプレノロール、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、ブシンドロール、ネビボロール;硝酸塩;アドレナリン作動薬、例えばドブタミン、ドーパミン、エピネフリン、イソプロテネロール(isoprotenerol)、ノルエピネフリン、フェニレフリン;陽性変力薬、例えばジゴキシン、ジギトキシン;利尿薬、特にループ利尿薬、チアジド及びチアジド様利尿薬、カリウム保持性利尿薬、I型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、炭酸脱水酵素阻害薬、昇圧(vasopressure)拮抗薬。
【0024】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、ナトリウム利尿ペプチドの測定レベルにより提供される。好適なナトリウム利尿ペプチドは、BNP、NT-proBNP、ANP、NT-proANP、好ましくはBNP又はNT-proBNP、特にNT-proBNPである。
【0025】
ナトリウム利尿ペプチドのレベルが、NT-proBNPの場合に、300 pg/ml以上、好ましくは500 pg/ml以上、より好ましくは800 pg/ml以上、よりさらに好ましくは2000 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0026】
B)抗炎症剤、好ましくは:ACE阻害薬、特にエナラプリル、カプトプリル、ラミプリル、トランドラプリル;アンギオテンシン受容体拮抗薬、特にロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン;スタチン、特にアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン;NSAIDS;選択的COX-2阻害薬。
【0027】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、炎症プロセスの指標であるGDF-15のレベルにより提供される。
【0028】
GDF-15レベルが、800 pg/ml以上、好ましくは1200 pg/ml以上、より好ましくは1500 pg/ml以上、特に2000 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0029】
C)抗炎症剤、好ましくは:ACE阻害薬、特にエナラプリル、カプトプリル、ラミプリル、トランドラプリル;アンギオテンシン受容体拮抗薬、特にロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン;アルドステロン拮抗薬。
【0030】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、抗炎症プロセスの指標であるオステオポンチンのレベルにより提供される。
【0031】
オステオポンチンのレベルが、500 pg/ml以上、好ましくは800 pg/ml以上、より好ましくは1200 pg/ml以上、特に1500 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0032】
D)抗炎症剤、好ましくは:スタチン、特にアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン。
【0033】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、抗炎症プロセスの指標であるCRPのレベルにより提供される。
【0034】
CRPのレベルが、3 pg/ml以上、好ましくは5 pg/ml以上、より好ましくは10 pg/ml以上、特に20 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0035】
E)一般的に、トロポニンI及び/又はT、特にトロポニンTは、既存の心筋壊死、及び壊死の程度の指標である。トロポニンT/Iのレベルの低下が観察されない場合には、続いてこのペプチドは、心不全及び/又は血管狭窄症を示し、これらは経皮的冠動脈インターベンションによって処置することができる。
【0036】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、心不全又は血管狭窄症の指標であるトロポニンI及び/又はトロポニンT、特にトロポニンTのレベルにより提供される。
【0037】
トロポニンTのレベルが、前記急性事象後に測定した値の80%、好ましくは60%、より好ましくは20%の値にまで低下しない場合に、上述のインターベンションを開始すべきである。該インターベンションはまた、トロポニンT/Iレベルの上昇の場合にも開始すべきである。
【0038】
本発明において、適用すべき薬物治療の可能な最良の評価を行うことができる情報を得るために、上記参照する全てのペプチドを測定してもよい。これは本発明の一実施形態である。しかしながら、いくつかの場合には、ナトリウム利尿ペプチド及び心筋トロポニンに加えて、上記炎症マーカーの2種を測定することで十分でありうる。1種の炎症マーカーを測定することで十分な場合もしばしばある。
【0039】
本発明において、上記参照した薬剤のうち1種の薬剤のみを投与してもよいし、あるいは2種又はそれ以上でさえあってもよい。2種以上の薬剤を投与する場合、薬剤は、上記の群の1つから選択してもよいし、又は2以上の群から選択してもよい。
【0040】
当業者であれば理解するように、そのような評価は通常は同定しようとする被験体の全て(すなわち100%)について正しいことを意図したものではない。しかし、この用語は被験体の統計学的に有意な一部(例えば、コホート研究における1コホート)を同定できることを要する。例えば、オステオポンチン、GDF-15及びCRPは、その診断用の値が重複しており、診断対象の個体の病状に応じてその値が変動しうる。本発明の適用においては、そのレベルが変化する場合には、CRPが最も低い特異性を有し、GDF-15は緩慢であり、オステオポンチンは迅速であり、最も有意性が高いといえる。
【0041】
一般的に、GDF-15及びCRPが本発明の最も好ましい炎症マーカーである。場合によっては、また必要とされる情報に応じて、GDF-15がCRPよりも好ましい場合もあるし、またその逆の場合もある。多くの場合、適用すべき治療又は薬物治療を診断するためにはGDF-15が最も好ましく、多くの場合、リモデリングプロセスのモニタリングにはCRPが最も好ましい。
【0042】
一部が統計的に有意かどうかは、当業者に別の手間を要することなく、様々な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等を用いて決定することができる。詳細については、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983中に見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。より好ましくは、集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%を、本発明の方法により適切に同定することができる。
【0043】
本発明の診断は、関連する疾患、症候又はそのリスクのモニタリング、確認、細分類及び予測を含む。確認は、他の指標又はマーカーを用いることによって行われる、先の診断を強化又は実証することに関する。細分類は、診断された疾患の様々なサブクラスに従って診断をさらに特定すること、例えば疾患の軽度及び重篤形態に従って特定することに関する。特に診断にはモニタリングも含まれる。モニタリングは、薬物治療又は先に診断された疾患の追跡に関する。
【0044】
本明細書で用いる「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。上記方法において意味する被験体は、好ましくは、心筋梗塞に罹患しているか、又はそれに伴う症候若しくは臨床パラメータ(例えばトロポニンTレベルの上昇)を示し、即ち少なくとも心筋梗塞に罹患している疑いがある。
【0045】
本発明において、ナトリウム利尿ペプチド又は心筋トロポニンの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するための既知の手段のいずれでも行うことができる。この手段には、様々なサンドイッチ、競合又は他のアッセイ形式で標識分子を用いることのできるイムノアッセイデバイス及び方法が含まれる。そのようなアッセイによってナトリウム利尿ペプチド又は心筋トロポニンの存在又は不在を示すシグナルが生じる。さらに、シグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接的に又は間接的に相関(例えば、反比例)することができる。別の適切な方法としては、ナトリウム利尿ペプチドに特有の物理的又は化学的性質、例えばその正確な分子量又はNMRスペクトルなどを測定することが含まれる。そのような方法としては、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと連結した光学デバイス、バイオチップ、分析デバイス、例えば質量分析装置、NMR解析装置、又はクロマトグラフィー装置が挙げられる。さらに、方法としては、マイクロプレートELISAに基づく方法、全自動又はロボット制御のイムノアッセイ(例えば、ElecsysTMアナライザーで行いうる)、CBA(酵素コバルト結合アッセイ、例えばRoche-HitachiTMアナライザーで行いうる)、及びラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTMで行いうる)が含まれる。測定方法及び手段には、Cardiac ReaderTM(Roche Diagnosticsから入手できる)のようなポイントオブケアデバイス(Point-of-care device)も含まれる。
【0046】
ポイントオブケアデバイスは、患者のベッドサイドで測定することができるデバイスとして、一般に理解される。一例は、例えばNT-proBNP用のテストストリップ(Roche Diagnosticsから「Cardiac proBNP」として入手できる)と組み合わせたCardiac ReaderTM(Roche Diagnosticsから入手できる)である。そのような試験法では、対象のペプチド(例えば、BNP型ペプチド)に対する2種類の(好ましくはモノクローナル)抗体を利用し得る。該抗体は、例えばElecsysTM又はCobasTMアッセイで使用される抗体と同一であり得る。例えば、第1の抗体はビオチンで標識され、第2の抗体は金粒子で標識される。該試験法は、少量(例えば150μl)の血液サンプルを、テストストリップに(例えばテストストリップのサンプルウェルに)加えることにより開始し得る。サンプル中の赤血球は、テストストリップに添加する前又は後に、例えばサンプルを適切なフリース(例えば、ガラス繊維フリース)に通過させることにより、残りの血漿から分離し得る。前記分離手段(例えば、フリース)は、好ましくはテストストリップの一部である。抗体(好ましくはテストストリップ上に既に存在する抗体)は、残りの血漿中に溶解している。該抗体は、対象のペプチド又はポリペプチドと結合して、三者サンドイッチ複合体を形成することができる。(結合又は非結合)抗体はストリップを通過して、検出区画へと移動する。検出区画には、結合複合体を検出するための手段が含まれ、該手段は例えばストレプトアビジンを含む。これにより複合体を固定化し、固定化された複合体は、金標識抗体により紫色のラインとして可視化される。好ましくは、残存する遊離の金標識抗体は、その後さらにストリップ内を下流に移動することにより、検出対象のBNP型ペプチドのエピトープを含む合成ペプチド又はポリペプチドを含む区画内で捕捉されて、別の紫色のラインとして可視化され得る。そのような第2のラインの存在は、サンプルが正常に作用するように通過し、該抗体がインタクトであることを示すので、対照として役立ち得る。テストストリップは、ストリップで検出することができる対象のペプチド又はポリペプチドを示す標識を含み得る。テストストリップは、検出区画内で検出することができる標識の量を光学測定するためのデバイスにより、バーコード又は判読可能な他のコードも含み得る。そのようなバーコードには、対象のペプチド又はポリペプチドをストリップで検出できることを示す情報が含まれ得る。バーコードには、テストストリップに関するロット固有の情報も含まれ得る。
【0047】
「心筋トロポニン」という用語は、心臓の細胞、好ましくは心内膜下細胞で発現されるトロポニンのアイソフォームの全てを意味する。これらのアイソフォームは当業界では十分に特性決定されており、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol.76, no.4:681-686、及びFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44:487-493に記載されている。
【0048】
好ましくは、心筋トロポニンはトロポニンT及び/又はトロポニンIを意味する。
【0049】
従って、両方のトロポニンを本発明の方法において一緒に(すなわち、同時に若しくは順次的に)、又は個々に(すなわち他のアイソフォームを全く測定せずに)測定することができる。
【0050】
ヒトトロポニンT及びヒトトロポニンIのアミノ酸配列はAnderson(上掲)及びFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44:487-493に開示されている。「心筋トロポニン」という用語は、上述の特定のトロポニン、すなわち、好ましくはトロポニンT又はトロポニンIの変異体をさらに包含する。そのような変異体はその特定の心筋トロポニンと少なくとも同一の本質的な生物学的及び免疫学的性質を有している。とりわけ、それらの変異体が本明細書中で言及している特定の同一のアッセイによって、例えば前記心筋トロポニンを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイによって検出可能であるならば、それらの変異体は同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。さらに、本発明でいう変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加により異なるアミノ酸配列を有し、該変異体のアミノ酸配列が、特定のトロポニンのアミノ酸配列と、依然として、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%同一であることは理解されるべきである。変異体は、アレル変異体又はその他の種特異的ホモログ、パラログ若しくはオーソログのいずれかであることができる。さらに、本明細書でいう変異体には、上述の本質的な免疫学的及び生物学的性質を有している限り、特定の心筋トロポニン又は上述のタイプの変異体の断片が含まれる。そのような断片は、例えばトロポニンの分解産物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化によって異なる変異体も含まれる。本発明に関して特に好ましいトロポニンTアッセイは、検出限界が0.001ng/mlであるElecsys(登録商標)2010アナライザー(Roche Diagnostics)である。
【0051】
血中トロポニンT量が上昇している場合、すなわち約0.1ng/mlより高い場合、急性心血管事象が想定され、患者はしかるべき治療を受ける。
【0052】
「増殖分化因子-15」又は「GDF-15」という用語は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-βサイトカインスーパーファミリーのメンバーであるポリペプチドに関する。ポリペプチド、ペプチド及びタンパク質という用語は本明細書全体にわたって互換的に用いられている。GDF-15はもともとはマクロファージ阻害性サイトカイン-1としてクローニングされ、後に胎盤性トランスフォーミング増殖因子-β、胎盤性骨形成タンパク質、非ステロイド系抗炎症剤活性化遺伝子-1、及び前立腺由来因子としても同定されている(Bootcov, 上掲;Hromas, 1997 Biochim. Biophys. Acta 1354:40-44;Lawton 1997, Gene 203:17-26;Yokoyama-Kobayashi 1997, J. Biochem (Tokyo), 122:622-626;Paralkar 1998, J. Biol. Chem. 273: 13760-13767)。他のTGF-β関連サイトカインと同様に、GDF-15は不活性の前駆体タンパク質として合成され、これはジスルフィド結合でホモ二量体となる。N末端プロペプチドがタンパク質分解切断されると、GDF-15は約28 kDaの二量体タンパク質として分泌される(Bauskin 2000, Embo J. 19:2212-2220)。GDF-15のアミノ酸配列はWO99/06445号、WO00/70051号、WO2005/113585号、Bottner 1999, Gene 237:105-111、Bootcov, 上掲、Tan, 上掲、Baek 2001, Mol. Pharmacol. 59:901-908、Hromas, 上掲、Paralkar, 上掲、Morrish 1996, Placenta 17:431-441、又はYokoyama-Kobayashi, 上掲中に開示されている。本明細書で使用するGDF-15は上述の特定のGDF-15ポリペプチドの変異体をも包含している。そのような変異体は、特定のGDF-15ポリペプチドと少なくとも同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有している。特に、それらの変異体は、本明細書で言及している同一の特定のアッセイ、例えば該GDF-15ポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイで検出可能な場合には、同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。さらに、本発明において意味する変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加によって異なるアミノ酸配列を有しており、該変異体のアミノ酸配列は、好ましくは、特定のGDF-15ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%同一であることを理解されたい。さらに、本発明でいう変異体は、上述の本質的な免疫学的及び生物学的特性を有するものである限り、特定のGDF-15ポリペプチド又は上述のタイプの変異体の断片を含んでいる。そのような断片は、例えばGDF-15ポリペプチドの分解産物であることができる。翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化などにより異なる変異体がさらに含まれる。本発明において好ましいGDF-15アッセイはWollert et al. Clinical Chemistry 53, No 2, 2007, p.284-291に記載されているアッセイである。
【0053】
オステオポンチン(本明細書中、OPNとも称する)は、陰性荷電の酸性親水性ポリペプチドである。ポリペプチド、ペプチド及びタンパク質という用語は本明細書全体にわたって互換的に使用される。オステオポンチンは、多機能タンパク質であり、全ての体液に分泌される。これは、骨において高発現されるが、種々の細胞型、例えばマクロファージ、内皮細胞、平滑筋細胞及び上皮細胞でも発現される。さらに、OPNの発現が、進行性心不全を有する患者の心筋において増大していることが開示されている。OPNは、タンパク質の小さなインテグリン結合リガンドN結合型糖タンパク質(SIBLING)ファミリーの酸性メンバーであり、このファミリーには骨シアロタンパク質、象牙質マトリックスタンパク質I、象牙質シアロホスホタンパク質、及びマトリックス細胞外ホスホ糖タンパク質が含まれ、ヒト4番染色体に沿ってクラスター化する5つの遺伝子の産物である。選択的スプライシングの証拠があり、この機能的重要性についてはまだ解明する必要がある。一般的に、OPNは、過剰な翻訳後修飾(リン酸化、グリコシル化及び切断など)を受けて、25〜27kDaの範囲の分子量変異体となる、264〜301アミノ酸長の単量体である。OPNをコードする遺伝子は、例えばラット、マウス、ヒト、ウシ、ニワトリ、ウサギ及びヒツジからクローニングされている(Stawowy et al.,上掲; Mazzali et al., Osteopontin - A molecule for all season. QJM 95(1):3-13; Johnson et al. 2003, Osteopontin: roles in implantation and placentation. Kohri et al. (1992) Biochem Biophys Res Commun. 1992 184(2):859-64)。オステオポンチンのアイソフォームに対する抗体が、例えばEP 1 754 719に開示されている。本発明で使用するオステオポンチンはオステオポンチンポリペプチドの変異体をも包含している。そのような変異体は、特定のオステオポンチンポリペプチドと少なくとも同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有している。特に、それらの変異体は、本明細書で言及している同一の特定のアッセイ、例えばオステオポンチンポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイで検出可能な場合には、同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。好ましいアッセイは実施例に記載している。さらに、本発明において意味する変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加によって異なるアミノ酸配列を有しており、該変異体のアミノ酸配列は、好ましくは、特定のオステオポンチンポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%又は99%同一であることを理解されたい。さらに、本明細書でいう変異体は、上述の本質的な免疫学的及び生物学的特性を有するものである限り、特定のオステオポンチンポリペプチド又は上述のタイプの変異体の断片を含んでいる。そのような断片は、例えばオステオポンチンポリペプチドの分解産物であることができる。翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化などにより異なる変異体がさらに含まれる。本発明において好ましいオステオポンチンアッセイは、IBL(Immuno-Biological Laboratories Co, Ltd, 5-1 Aramachi, Takasaki-shi, Gunma, 370-0831, Japan)のヒトオステオポンチンアッセイキットであり、IBL Gesellschaft fur Immunochemie und Immunbiologie mbH(Flughafenstr. 52a, D-22335 Hamburg)で入手可能である。
【0054】
CRP(本明細書中、C反応性タンパク質とも称する)は、75年以上も前に肺炎球菌のC多糖に結合する血液タンパク質であることが発見されている急性期タンパク質である。CRPは、5つの単一サブユニットからなり、これらは非共有結合し、分子量約110〜140kDaを有する環状五量体として集合している。好ましくは、本明細書で使用するCRPはヒトCRPに関する。ヒトCRPの配列は周知であり、例えばWoo et al.(J. Biol. Chem. 1985. 260 (24), 13384-13388)により開示されている。CRPのレベルは、正常個体において通常は低いが、炎症、感染又は損傷によって100〜200倍又はそれ以上に上昇しうる(Yeh (2004) Circulation. 2004; 109:II-11〜II-14)。CRPは心血管系リスクの独立した予測因子であることが知られている。特に、CRPは、心筋梗塞、卒中、末梢動脈疾患及び突然心臓死の予測因子として好適であることが示されている。さらに、CRP量の上昇は、急性冠症候群(ACS)を有する被験体及び冠動脈インターベンションを受けた被験体における再発性虚血及び死亡を予測しうる。冠動脈性心疾患のリスクがある患者において、専門家パネル(例えば米国心臓協会)によりCRPの測定が推奨されている(Pearson et al. (2003) Markers of Inflammation and Cardiovascular Disease. Circulation, 107: 499-511も参照のこと)。
【0055】
好ましくは、被験体のサンプル中のCRP量は、高感度のCRPアッセイを用いて測定する。そのようなアッセイにより測定されるCRPは高感度CRP(hsCRP)と呼ばれることが多い。hsCRPアッセイは現在、心疾患のリスクを予測するために使用されている。好適なhsCRPアッセイは当技術分野で公知である。本発明において特に好ましいhsCRPアッセイは、検出限界が0.1mg/lであるRoche/Hitachi CRP (Latex) HS試験である。
【0056】
本発明において、「リモデリング」という用語は、壊死領域及び結合組織が置き換えられて、その機能が非求心性肥大により回復(reestablish)する血管形成プロセスを意味する。
【0057】
上述したように診断を確立するために、本発明は、診断を確立するための、ナトリウム利尿ペプチド以外のペプチドのレベルを測定することを教示する。さらに本発明は、MI後の個体におけるリモデリングプロセスをモニタリングするため、そして場合によっては、薬物治療の投与の継続、変更又は終了について決定するために使用することができる。
【0058】
MI(ACS)の前にわずかな心筋機能障害しか示さない個体、又は心筋機能障害を全く示さない個体は、リモデリングによって、数週間又は数ヶ月(例えば3ヶ月)後に、少なくとも高い程度にまで心筋の機能性を再度生じる。対照的に、既存の著しい心筋機能障害(MI(ACS)前に)を示す個体は、数週間又は数ヶ月後に心筋の機能性を再度生じることはほとんどない。これらの場合には、MI(ACS)が起こった直後に治療を開始することができ、それには、前述の通り特定の薬剤の投与が伴う。治療は、トロポニンT若しくはI、オステオポンチン、CRP及び/又はGDF-15のレベルを測定することによってモニタリングしうる。
【0059】
多くの場合には、薬物治療の継続、変更又は終了について決定する基準とすることができる各ペプチドの値を言及することは適切ではない。CRPについては、医療処置を終了する前に約33 pg/mlのレベルに達する必要があるといえる。NT-proBNPの場合には、ペプチドレベルの低下は、心不全の度合いに依存する。トロポニンT/Iレベルの低下は、心不全及び冠動脈狭窄の度合いに依存する。GDF-15については、20%以上の低下は、一般的に、投与する薬剤の量を低下することができることの指標となる。オステオポンチンについては、40%以上の低下は、一般的に、投与する薬剤の量を低下することができることの指標となる。
【0060】
本発明に係る方法は、被験体のサンプル中のNT-proBnPの量を測定するステップと、該被験体のサンプル中の上述したペプチドの1つの量を測定するステップとを含む。これらのステップは、同時に、又は前後して行うことができる。
【0061】
既に上記で論じたとおり、閾値として用いる好ましい参照量はULNから誘導することができる。所与の被験体集団についてのULNは本明細書の他の箇所で説明したように求めることができる。
【0062】
本発明は、心疾患、好ましくは心筋機能障害及び心不全の群からの心疾患に関する。
【0063】
本明細書で使用する「心筋機能障害」という用語は、総称であり、心筋のいくつかの病理状態に関する。心筋機能障害は、一時的な病理状態(例えば虚血、毒性物質、アルコールなどにより引き起こされるもの)である。心筋機能障害は、根本の原因を取り除いた後は消失するだろう。本発明において、心筋機能障害は、無症候性の心筋機能障害であってもよい。心筋機能障害、特に無症候性の心筋機能障害は心不全を発症する可能性もある。心筋機能障害は重篤な慢性心不全にもなりうる。一般に、心筋機能障害は、心臓の収縮及び/又は拡張機能の機能不全であり、心筋機能障害は心不全に伴って又は心不全を伴わずに生じうる。上述した心不全はいずれも無症候性であってもよい。
【0064】
本明細書で用いる「心不全」という用語は、心臓の収縮及び/又は拡張機能が損われていることを意味する。好ましくは、本発明において意味する心不全はまた慢性の心不全である。心不全はNew York Heart Association(NYHA)に従って機能分類系に分類することができる。NYHAクラスIの患者は心血管系疾患の明確な症状はないが、既に機能障害の客観的証拠がある。身体活動に制限はなく、通常の身体活動を行っても過度の疲労、動悸、又は呼吸困難(息切れ)を引き起こさない。NYHAクラスIIの患者は身体活動にわずかに制限がある。これらの患者は安静時は快適であるが、通常の身体活動で疲労、動悸、又は呼吸困難を生じる。NYHAクラスIIIの患者は身体動作に著しい制限が認められる。これらの患者は安静時は快適であるが、通常以下の身体活動で疲労、動悸、又は呼吸困難が生ずる。NYHAクラスIVの患者は不快感なしにいずれの身体活動も行うことができない。これらの患者は安静時でも心臓の機能不全の症状を示す。心不全、すなわち心臓の収縮及び/又は拡張機能の障害は、例えば心エコー検査、血管造影、シンチグラフィー、又は磁気共鳴映像法により決定することも可能である。この機能障害は、上述したように心不全の症候を伴うものである(NYHAクラスII〜IV)が、一部の患者は有意な症候がないことがある(NYHA I)。さらに、心不全は左心室駆出分画率(LVEF)の低減によっても明らかである。より好ましくは、本明細書で用いる心不全は、60%未満、40%〜60%、又は40%未満の左心室駆出分画率(LVEF)を伴う。
【0065】
「急性心血管事象」という用語は、突然に現れ、すなわち先の臨床的徴候又は症状無しに現れ、かつ拡張期又は収縮期の血流速度に深刻な影響を及ぼすあらゆる事象を言う。組織病理学的には、本明細書で言う急性心血管事象には心筋細胞の突然の虚血及びそれに伴う前記細胞の深刻な壊死が伴うであろう。好ましくは、急性心血管事象を患っている被験者は典型的な症状、例えば胸、上腹部、腕、手首若しくは顎の不快又は疼痛をも患い、このとき特に胸痛が腕、背中又は肩にも広がりうる。急性心血管事象のさらなる症状は、原因不明の吐き気若しくは嘔吐、持続する息切れ、虚弱、めまい、立ちくらみ、又は失神並びにその任意の組み合わせであり得る。好ましくは、本明細書でいう急性心血管事象は、急性冠症候群(ACS)、すなわち不安定狭心症(UAP)又は心筋梗塞(MI)である。最も好ましくは、急性心血管事象は、ST上昇型MI及び非ST上昇型MIを含むMIである。さらに、心血管事象はまた卒中を含む。MIの発症に続いて、左心室機能障害(LVD)が発症することがある。最終的に、LVD患者は相当の死亡率で鬱血性心不全(CHF)を発症する。定義、症状及び臨床的兆候、例えば心電図信号に関するさらなる詳細はJoint European Society of Cardiology / American Society of Cardiology, 2000, J American College of Cardiology, Vol.36, No.3: 959-969に見出される。
【0066】
用語「サンプル」は、体液サンプル、分離細胞サンプル又は組織若しくは臓器由来のサンプルを指す。体液サンプルは、周知の技術によって得ることができ、好ましくは血液、血漿、血清又は尿のサンプル、より好ましくは血液、血漿又は血清のサンプルを含む。組織又は臓器のサンプルは、任意の組織又は臓器から、例えば生検によって得ることができる。分離細胞は体液又は組織若しくは臓器から、遠心分離又はセルソーティング等の分離技術によって得ることができる。好ましくは、細胞、組織又は臓器のサンプルは、本明細書に記載のペプチドを発現又は生成する細胞、組織又は臓器から得られる。
【0067】
本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドの量の測定は、その量又は濃度を、好ましくは半定量的又は定量的に測定することに関する。測定は、直接的又は間接的に行うことができる。直接的な測定は、ペプチド又はポリペプチド自体から得られ、その強度がサンプル中に存在するペプチド分子数と直接相関するシグナルに基づいて、ペプチド又はポリペプチドの量又は濃度を測定することに関する。(本明細書では強度シグナルと記載されることもある)そのようなシグナルは、例えばペプチド又はポリペプチドの特定の物理的又は化学的な特性についての強度値を測定することによって得ることができる。間接的な測定は、二次成分(即ちペプチド若しくはポリペプチドそれ自体ではない成分)又は生物学的な読み取り系、例えば測定可能な細胞応答、リガンド、標識又は酵素反応生成物から得られるシグナルの測定を含む。
【0068】
本発明においては、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するためのあらゆる公知の手段によって行うことができる。該手段は、サンドイッチ、競合又は他のアッセイ形式において標識した分子を利用することができる免疫アッセイのデバイス及び方法を含む。該アッセイは、ペプチド又はポリペプチドの存在又は非存在を示すシグナルを生成する。さらにシグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接的に又は間接的に(例えば反比例で)相関するものである。別の好適な方法は、正確な分子量又はNMRスペクトル等のペプチド又はポリペプチドに特有の物理的又は化学的特性を測定することを含む。該方法は、好ましくは、バイオセンサー、免疫アッセイと連結した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析器又はクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。さらに方法としては、マイクロプレートELISAに基づく法、完全に自動化又はロボット化した免疫アッセイ(例えばElecsysTM分析器を利用できる)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ法(enzymatic Cobalt Binding Assay)、例えばRoche-HitachiTM分析器を利用できる)、及びラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析器を利用できる)が含まれる。
【0069】
好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、(a)細胞応答の強度がペプチド又はポリペプチドの量を示す細胞応答を誘導することができる細胞に、該ペプチド又はポリペプチドを適切な時間接触させるステップ、(b)その細胞応答を測定するステップを含む。細胞応答を測定するためには、好ましくは、サンプル又は処理したサンプルを、培養細胞に加え、内部又は外部の細胞応答を測定する。その細胞応答は、測定可能なレポーター遺伝子の発現、又はペプチド、ポリペプチド若しくは小分子等の物質の分泌を含んでもよい。その発現又は物質は、ペプチド又はポリペプチドの量と相関する強度シグナルを生じる。
【0070】
また好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチド又はポリペプチドから得られる特有の強度シグナルを測定するステップを含む。上記のように、このようなシグナルは、質量スペクトルで観察されるペプチド若しくはポリペプチドに特有の変化量m/z又はペプチド若しくはポリペプチドに特有のNMRスペクトルで観察されるシグナル強度であってもよい。
【0071】
ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、好ましくは、(a)該ペプチドを特定のリガンドに接触させるステップ、(b)(任意に)非結合リガンドを除去するステップ、(c)結合リガンドの量を測定するステップを含んでもよい。その結合リガンドは、強度シグナルを生じる。本発明において、結合は、共有結合及び非共有結合を含む。本発明において、リガンドは、任意の化合物、例えば本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドに結合する、ペプチド、ポリペプチド、核酸又は小分子でありうる。好ましいリガンドは、抗体、核酸、ペプチド又はポリペプチド、例えば、該ペプチド又はポリペプチド及び該ペプチドの結合ドメインを含むその断片に対する受容体又は結合パートナー、並びに核酸又はペプチドアプタマー等のアプタマーを含む。このようなリガンドを調製するための方法は、当技術分野で周知である。例えば、好適な抗体又はアプタマーの同定及び生産は、市販の業者からも提供される。当業者は、より高い親和性又は特異性をもつ前記リガンドの誘導体を開発する方法に精通している。例えば、ランダム変異を核酸、ペプチド又はポリペプチドに導入することができる。これらの誘導体は、例えばファージディスプレイ法等の当技術分野で知られるスクリーニング法により、結合について試験することができる。本明細書において、抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体だけでなく、抗原又はハプテンに結合することができるFv、Fab及びF(ab)2フラグメント等のそのフラグメントも含む。本発明はまた、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列をヒトアクセプター抗体の配列と組み合わせた一本鎖抗体及びヒト化ハイブリッド抗体も含む。ドナー配列は通常、少なくともドナーの抗原結合アミノ酸残基を含むが、他の構造的及び/又は機能的に関連性のあるドナー抗体のアミノ酸残基も含んでもよい。このようなハイブリッドは、当技術分野で周知の種々の方法により調製することができる。好ましくは、リガンド又は薬剤がペプチド又はポリペプチドに特異的に結合する。本発明において、特異的な結合は、そのリガンド又は薬剤が、分析するサンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチド又は物質に、実質的に結合する(「交差反応する」)べきではないことを意味する。好ましくは、特異的に結合するペプチド又はポリペプチドは、関連のある他のどのペプチド又はポリペプチドよりも、少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合するべきである。非特異的な結合も、例えばウェスタンブロットにおけるそのサイズに従って、又はサンプル中に相対的により多量に存在することによって、明確に区別及び測定できる場合は、許容できる場合がある。リガンドの結合は、当技術分野で知られるあらゆる方法によって測定することができる。好ましくは、該方法は、半定量的又は定量的である。好適な方法は、次に記載される。
【0072】
第一に、リガンドの結合は、例えばNMR又は表面プラズモン共鳴によって、直接測定することができる。
【0073】
第二に、リガンドが、対象とするペプチド又はポリペプチドの酵素活性の基質としても作用する場合は、酵素反応生成物を測定することができる(例えばプロテアーゼの量は、例えばウェスタンブロットで、切断された基質の量を測定することによって測定することができる)。あるいは、リガンドが酵素特性自体を示す場合があり、「リガンド/ペプチド若しくはポリペプチド」複合体又はペプチド若しくはポリペプチドそれぞれによって結合するリガンドを、強度シグナルの発生によって検出可能となる好適な基質と接触させることができる。酵素反応生成物の測定のために、好ましくは基質の量は飽和している。基質は、反応前に検出可能な標識で標識化してもよい。好ましくは、サンプルを適切な時間、基質と接触させる。適切な時間は、生成する生成物の量が検出可能に、好ましくは測定可能になるために必要な時間を表す。生成物の量を測定する代わりに、特定の(例えば検出可能な)量の生成物が現れるために必要な時間を測定することができる。
【0074】
第三に、リガンドの検出及び測定を可能とする標識に、リガンドを共有結合又は非共有結合で結合させることができる。標識は、直接的又は間接的な方法により行うことができる。直接的な標識は、リガンドに標識を直接(共有結合又は非共有結合で)結合させることを含む。間接的な標識は、第一リガンドに第二リガンドが(共有結合又は非共有結合で)結合することを含む。第二リガンドは、第一リガンドに特異的に結合するべきである。第二リガンドは、好適な標識と結合する及び/又はその第二リガンドに結合する第三リガンドの標的(受容体)となることができる。第二、第三又はより高次のリガンドの使用は、シグナルを増強するために用いられる場合が多い。好適な第二及び高次のリガンドは、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)を含み得る。リガンド又は基質は、当技術分野で知られる一種以上のタグで「タグ付加」してもよい。このようなタグは、より高次のリガンドの標的となってもよい。好適なタグは、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-Tag、グルタチオン-S-転移酵素、FLAG、GFP、myc-tag、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質等を含む。ペプチド又はポリペプチドの場合は、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端にある。好適な標識は、適切な検出法によって検出可能な任意の標識である。典型的な標識は、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば、常磁性及び超常磁性標識等の「磁性ビーズ」)、並びに蛍光標識を含む。酵素活性標識は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ及びその誘導体を含む。検出のための好適な基質は、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsの既製のストック溶液として利用できる、4-ニトロブルーテトラゾリウムクロライド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート)、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)を含む。好適な酵素と基質の組み合わせによって、当技術分野で知られる方法により(例えば、感光膜又は好適なカメラシステムを用いて)測定可能な着色した反応生成物、蛍光又は化学発光が生じることになる。酵素反応の測定に関しては、上記で規定した基準を同様に適用する。典型的な蛍光標識は、蛍光タンパク質(例えばGFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン及びAlexa色素(例えばAlexa 568)を含む。別の蛍光標識は、例えばMolecular Probes(Oregon)から入手できる。蛍光標識として量子ドットの使用も想定される。典型的な放射性標識は、35S、125I、32P、33P等を含む。放射性標識は、感光膜又は蛍光体イメージャー等の適切な周知の任意の方法によって検出することができる。本発明において好適な測定法には、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気的に生成された化学発光)、RIA(放射免疫アッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチ免疫アッセイ(ECLIA)、解離増感ランタニド蛍光イムノアッセイ(dissociation-enhanced lanthanide fluoro immuno assay (DELFIA))、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法(turbidimetry)、比ろう法(nephelometry)、ラテックスにより増感される比濁法若しくは比ろう法、又は固相免疫試験も含まれる。当技術分野で知られる別の方法(例えばゲル電気泳動、二次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE))、ウェスタンブロッティング及び質量分析法)は、単独で、又は上記の標識化若しくは他の検出法と組み合わせて用いることができる。
【0075】
ペプチド又はポリペプチドの量は、好ましくは、次の通り測定してもよい:(a)上記で特定したペプチド又はポリペプチドに対するリガンドを含む固体担体を、ペプチド又はポリペプチドを含むサンプルに接触させ、(b)担体に結合するペプチド又はポリペプチドの量を測定する。好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体及びアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、好ましくは固定化形態で固相支持体上に存在する。固相支持体を製造するための材料は、当技術分野で周知であり、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス、及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェル及び壁、プラスチックチューブ等が含まれる。リガンド又は薬剤は、多くの様々な担体と結合することができる。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然の及び修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、及びマグネタイトが含まれる。担体の性質は、本発明の目的に応じて、可溶性又は不溶性のいずれかでありうる。前記リガンドを固着/固定化するための好適な方法は周知であり、これに限定されないが、イオン性、疎水性、共有結合の相互作用等が含まれる。本発明では、アレイとして「懸濁アレイ」を使用することも検討される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイでは、担体、例えばマイクロビーズ又はミクロスフェアが懸濁液中に存在する。そのアレイは、おそらく標識され、様々なリガンドを担持する異なるマイクロビーズ又はミクロスフェアから構成される。そのようなアレイの製造方法は、例えば固相化学及び光解離性保護基に基づくものが、一般的に知られている(米国特許第5,744,305号)。
【0076】
本明細書で用いられる用語「量」には、ポリペプチド又はペプチドの絶対量、該ポリペプチド又はペプチドの相対量若しくは濃度だけでなく、これに関連する又は由来するあらゆる値又はパラメータが含まれる。そのような値又はパラメータには、直接的な測定によって前記ペプチドから得られる全ての特有の物理的又は化学的な特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値が含まれる。さらに、本明細書の各所で特定される間接的な測定により得られる全ての値又はパラメータ、例えば、ペプチドに対する応答として生物学的読み取り系で測定される応答レベル又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが含まれる。上記の量又はパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的手法によっても得られることは理解されるべきである。
【0077】
本発明の方法に基づいて、心筋梗塞、特にACSの前に存在する心不全、特にMI(急性事象後にも存在する)をより効率的に診断し、処置することができる。本発明の方法は、信頼性があり、迅速なかつコストが低い診断を可能にするという利点があり、携帯用アッセイ、例えばテストストリップにおいてさえ実施することができる。従って、本方法は、特に救急患者の診断に良好に適している。本発明の知見のために、被験体の適切な治療、例えば心不全の治療を、適時にかつ信頼性をもって選択することができる。患者の遅い及び/又は誤った処置により生じる重篤な副作用も回避することができる。
【0078】
さらに本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断するデバイスであって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むデバイスに関する。
【0079】
本発明はまた、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするデバイスであって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を再度測定するための手段、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段、並びに
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段
を含むデバイスに関する。
【0080】
本明細書で用いる用語「デバイス」は、診断を可能とするために、互いが動作可能となるよう連結された少なくとも上記の手段を含む手段からなるシステムに関する。好ましい、心筋トロポニンの量を測定するための手段、及びナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段、並びに計算と被験体が心血管系疾患に罹患しているかどうか診断するための手段は、本発明の方法に関連して上記に開示されている。動作しうる様式で手段を連結する方法は、デバイスに含まれる手段の種類に応じて変わる。例えば、ペプチドの量を自動的に測定するための手段を適用する場合には、その自動的に作動する手段により得られるデータを、所望の結果を得るために、例えばコンピュータプログラムによって処理することができる。好ましくは、そのような場合、その手段は単一のデバイスによって構成される。従って該デバイスは、適用されるサンプル中のペプチド又はポリペプチドの量の測定について解析するユニット、及び評価のためにその得られたデータを処理するコンピュータユニットを含むことができる。あるいは、テストストリップのような手段をペプチド又はポリペプチドの量を測定するために使用する場合には、比較のための手段は、対照ストリップ、又は測定量を参照量に割り当てる表を含んでもよい。テストストリップは、好ましくは、本明細書で説明するペプチド又はポリペプチドと特異的に結合するリガンドと組み合わせられる。ストリップ又はデバイスは、好ましくは該ペプチド又はポリペプチドと該リガンドとの結合を検出するための手段を含む。検出のための好ましい手段は、上記の本発明の方法に関する実施形態と関連して開示されている。そのような場合、その手段は動作可能なように連結され、システムの使用者はその量の測定結果と取扱説明書に定められる指示又は解説によりその診断値又は予測値を結びつける。その手段は、かかる実施形態で個々のデバイスとして存在してもよく、好ましくはキットとして一緒にパッケージングされる。当業者は、別の手間を要することなく、その手段を連結する方法を理解することができる。好ましいデバイスは、専門の臨床医の特別な知識がなくても適用することができるものであり、例えば、単にサンプルを付加すればよいテストストリップ又は電子デバイスである。結果は、臨床医による解釈を必要とする未加工データのアウトプットとして得ることができる。しかし好ましくは、デバイスのアウトプットは、その解釈にあたり臨床医を必要としないように処理された、即ち評価された未加工データである。さらに好ましいデバイスには、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、ナトリウム利尿ペプチドを特異的に認識するリガンドと結合した固相支持体、表面プラズモン共鳴装置、NMR分析装置、質量分析装置等)、又は本発明の方法における上記の評価ユニット/デバイスが含まれる。
【0081】
最後に、本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき薬物治療を診断するキットであって、該方法を実施するための説明書と、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むキットに関する。
【0082】
また、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするキットであって、該リモデリングが薬物治療により支持されるものであり、
該方法を実施するための説明書と、
前述のステップ(a)、(b)及び(c)を実施するための手段と、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段と、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段と、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段と、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段と、
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段と
を含むキットを包含する。
【0083】
本明細書で用いられる用語「キット」は、好ましくは個別に又は単一の容器内で提供される上記手段の集合を意味する。この容器は、好ましくは本発明の方法を行うための取扱説明書を含んでいる。従って、本発明の方法を実施するために採用されるキットは、該方法を実施するために必要な構成要素の全てを、即時使用可能に、例えば測定及び/又は比較に使用される調整された濃度の構成要素を予め混合した形態で、含むものである。
【0084】
本明細書で引用される全ての参考文献は、それらの全体の開示内容及び本明細書で特別に言及された開示内容について、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0085】
以下の実施例は、本発明を例示するにすぎない。これらは、本発明の範囲を限定するものであると解釈すべきでない。
【0086】
[実施例1]
急性MIを有すると診断された202名の患者において、梗塞の2〜3日後と再度梗塞の3ヵ月後の時点において、パラメーターとしてNT-proBNP、高感度トロポニンT、CRP、GDF 15及びオステオポンチンを測定した。これらのパラメータの減少はNT-proBNPの初期レベルに依存することが示された。ペプチドのレベルは個々に低下した。パラメータ間の相関は判定することができず、このことは異なる作用形式を示す可能性があることを意味している。
【0087】
NT-proBNPレベルは、検出限界が20 pg/mLであるElecsys 2010を用いてイムノアッセイで測定した。
【0088】
この研究の結果を以下の表と図1〜10に示す。ここで、図1〜5は、表に示した値を図示するものであり、中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。図6〜10は、時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示し、これらのマーカーが依存性又は非依存性であるかを示す。
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断のための方法及びデバイスに関する。具体的には、本発明は、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングが開始する際に適用すべき薬物治療を評価(診断)する方法に関する。さらに本発明は、所与の薬物治療の投与時のリモデリングの進行のモニタリングに関する。本方法は、心筋梗塞に罹患した個体の体液中のナトリウム利尿ペプチド、オステオポンチン、GDF-15、CRP及び心筋トロポニン(特にトロポニンT)の群からの複数のペプチドのレベルを測定するステップと、各々のペプチドのレベルをモニタリングするステップとに基づいている。薬物治療の適合に関する決定は収集されたデータに基づいて行いうる。さらに本発明は、上述の方法を行うための診断用デバイス及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近代医学の目的の1つは、特定の個人向けの又は個人に合わせた治療レジメンを提供することである。それらは、ある患者個人のニーズ又はリスクを勘案して行われる治療レジメンである。特定の個人向けの又は個人に合わせた治療レジメンは、短時間のうちに可能性のある治療レジメンを決定する必要のある応急処置についても考慮する必要がある。心臓疾患は西半球においては死亡率と罹患率の主因である。この疾患は、長期にわたって無症候のままであることがある。しかし、急性心血管事象、例えば心筋梗塞などが心血管系疾患の結果として生ずると、重篤な結果となる可能性がある。
【0003】
心不全は、体全体に十分な量の血液を満たす又は排出する心臓の能力を損なう構造的又は機能的心疾患のいずれかに起因する一症状である。最良の治療をもってしても、心不全は年間約10%の死亡率と関係している。心不全は慢性疾患であり、中でも急性心血管事象(心筋梗塞など)の後に生じるか、又は、例えば心筋組織における炎症性若しくは変性変化の結果として生じうる。心不全患者は、NYHAシステムに従ってクラスI、II、III及びIVに分類される。心不全を患う患者は、治療的処置を受けずに健康を完全に回復することはできないだろう。
【0004】
心筋機能障害は、心臓の筋肉(心筋)のいくつかの病理状態を説明する総称である。心筋機能障害は、心不全とは異なり、一時的な病理状態(例えば虚血、毒性物質、アルコールなどにより引き起こされるもの)である。心筋機能障害は、根本の原因を取り除いた後は消失するだろう。しかしながら、無症候性の心筋機能障害は心不全を発症する可能性もある(これは治療で処置する必要がある)。しかし、心筋機能障害はまた、心不全、慢性心不全、さらには重篤な慢性心不全にもなりうる。
【0005】
心筋機能障害及び心不全は、特にその症状が「軽度」とみなされる場合には、診断されないことが多い。心不全の慣用的な診断法は、周知の血管容量ストレスマーカーであるNT-proBNPに基づくものである。しかしながら、いくつかの医療状況下におけるNT-proBNPに基づく心不全の診断は、全てではないがかなりの人数の患者では不正確であるようである(例えば、Beck 2004, Canadian Journal of Cardiology 20: 1245-1248;Tsuchida 2004, Journal of Cardiology, 44:1-11)。ところが、特に心不全に罹患する患者には、心不全の支持療法が緊急に必要と考えられる。一方、心不全の不正確な診断の結果、多くの患者が不十分な又は有害な副作用さえ有することのある治療レジメンを受けることになる。
【0006】
心不全を有する患者はまた、急性心疾患、一般的には急性冠症候群(ACS)を発症する可能性がある。ACSは、不安定狭心症(UAP)及び急性心筋梗塞(MI)の状態を包含する。
【0007】
MIは冠心疾患(CHD)に属するものとして分類され、MIを発症する前には、MIと同様にCHDに属するものとして分類される他の事象、例えば不安定狭心症(UAP)が起こる。UAPの症状は胸痛で、これはニトログリセリンの舌下投与により緩和される。UAPは、低酸素血症及び心筋虚血を招来する冠血管の部分閉塞により引き起こされる。閉塞が極めて重症であるか、又は全体に及ぶ場合には、(心筋梗塞の基礎をなす病理状態である)心筋壊死が生じる。MIは明らかな症状がなくても、すなわち被験体が症状を何も示さなくても生じる場合があり、この場合、MIを発症する前に、安定狭心症又は不安定狭心症は生じない。
【0008】
しかしながら、UAPはMIよりも前に起こる症候性の事象である。被験体において、CHDは無症状でも起こり得る。すなわち、被験体は不快感を感じたり、息切れ、胸痛又は当業者に公知の他の症候等のCHDの症状を何も呈さない場合がある。ところが、被験体は、MI及び/又はうっ血性心不全(CHF)(心臓が被験体の身体に必要な血液供給を確保するように機能するために必要な能力を有さないことを意味する)をもたらし得る冠血管の機能不全に病理学的に該当し、また該機能不全を患っている場合がある。このことは、重篤な合併症、一例として心臓死を招来し得る。
【0009】
胸痛のような急性心血管事象(例えば、心筋梗塞)の症状を患う患者は、現在のところ心筋トロポニン、一般的にはトロポニンTに基づいた診断に供される。この目的のために、患者のトロポニンTレベルが測定される。血中トロポニンT量が上昇している場合、すなわち約0.1ng/mLより高い場合、急性心血管事象が想定され、患者はしかるべき治療を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
心筋梗塞(MI)は、種々の程度及び種々の局在の心筋の壊死であると定義される。MIの治療は、特に侵襲的方法及び抗血小板療法による、還流の回復を目的とする。その後、臨床基準に従って、種々の薬剤の投与を伴うリモデリングを開始する。これらの薬剤のうち、ACE拮抗薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、種々の作用機構の利尿薬、Ca拮抗薬及びジキタリスを使用することができる。
【0011】
リモデリングプロセスにおいて、ナトリウム利尿ペプチド、特にBNP又はNT-proBNPのレベルを測定することが当該技術分野の技術水準である。しかしながら、得られる診断のための情報は限定的である。さらに、リモデリングにおける治療の有効なモニタリングが可能ではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の基礎となっている技術的課題は、上述のニーズに応じるための手段や方法の提供として理解することができる。技術的課題は特許請求の範囲及び本明細書下記で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【0013】
従って、本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断する方法であって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を測定するステップ、
(b)(a)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始するステップ
を含む方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングする方法であって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
前述のステップ(a)及び(b)を実施するステップと、以下の追加のステップ:
(c)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を再度測定するステップ、
(d)最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するステップ、
(e)(c)及び(d)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するステップ
を含む方法に関する。
【0015】
好ましい実施形態において、モニタリング方法のステップ(c)において測定するペプチドは、診断方法のステップ(a)で測定するものと同じである。
【0016】
前記方法は、ステップ(a)〜(e)において得られた結果に応じて治療又は薬物治療を適合させる決定を行う任意ステップ(f)をさらに含んでもよい。
【0017】
本発明の方法に役立つ適当な炎症マーカーは当業者に公知である。好ましいマーカーとしては、オステオポンチン、GDF-15及びCRPが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図2】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図3】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図4】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図5】表に示した値を図示する。中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。
【図6】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図7】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図8】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図9】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【図10】時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法は、好ましくはin vitroの方法である。さらに、前記方法は上記で明確に述べたものの他にステップを含んでもよい。例えば、別のステップは、サンプルの前処理、又は前記方法で得られる結果の評価に関連するものである。本発明の方法はまた、被験体のモニタリング、確認、及び細分類に用いることもできる。この方法は、手動で行うか、又は自動化により支援することができる。好ましくは、ステップ(a)及び/又は(b)及び/又は(c)及び/又は(d)及び/又は(e)及び/又は(f)は、その全体又は一部を自動化によって、例えば、ステップ(a)及び/又は(b)及び/又は(c)及び/又は(e)及び/又は(f)での測定のための適切なロボット及びセンサー装置、あるいはステップ(d)でのコンピュータで行う比較によって、支援することができる。
【0020】
本発明のリモデリングプロセスにおいて適用すべき薬物治療を診断する方法の好ましい実施形態において、ペプチドのレベルは、急性事象が起こった1〜3日後、好ましくは1〜2日後の時点に測定する。
【0021】
本発明の、心筋梗塞後の被験体におけるリモデリング(該リモデリングは薬物治療により支持される)のモニタリングの好ましい実施形態において、ペプチドのレベルは、患者の病状に応じて数ヶ月の期間にわたり、また患者の状態に応じた間隔で測定(モニタリング)する。ペプチドの最初の測定の日から開始して、ペプチドレベルは、2〜3日後に、続いて1、2、3及び4週間後に、続いて最大3ヶ月まで2〜4週間間隔で測定すべきである。その後、最大6ヶ月までは毎月、その後は3〜6ヶ月毎に、ペプチドレベルを測定すべきである。一般的には、そのレベルが迅速な変化を示さないペプチド(GDF-15又はオステオポンチンなど)は、そのレベルがより迅速な変化を示すペプチド(トロポニンT/I、NT-proBNP及びCRPなど)よりも大きい間隔で測定することができるといえる。
【0022】
本明細書で用いる「診断する」という用語は、心筋梗塞(MI)に罹患した被験体に、MI後のリモデリングプロセスにおいて、特定の治療又は治療の組み合わせを適用すべきであるか否かを評価することを意味する。該治療は、インターベンション(例えば手術)、及び/又は薬物治療(すなわち1若しくは複数の薬剤の投与)、あるいはそれらの任意の組み合わせ(例えば、2以上のインターベンション若しくは2以上の薬物治療、又は薬物治療とインターベンションの組み合わせ)を含みうる。治療は、以下から選択される:
【0023】
A)心臓機能に効果のある薬剤、好ましくは:β遮断薬、例えばプロプレノロール、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、ブシンドロール、ネビボロール;硝酸塩;アドレナリン作動薬、例えばドブタミン、ドーパミン、エピネフリン、イソプロテネロール(isoprotenerol)、ノルエピネフリン、フェニレフリン;陽性変力薬、例えばジゴキシン、ジギトキシン;利尿薬、特にループ利尿薬、チアジド及びチアジド様利尿薬、カリウム保持性利尿薬、I型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、炭酸脱水酵素阻害薬、昇圧(vasopressure)拮抗薬。
【0024】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、ナトリウム利尿ペプチドの測定レベルにより提供される。好適なナトリウム利尿ペプチドは、BNP、NT-proBNP、ANP、NT-proANP、好ましくはBNP又はNT-proBNP、特にNT-proBNPである。
【0025】
ナトリウム利尿ペプチドのレベルが、NT-proBNPの場合に、300 pg/ml以上、好ましくは500 pg/ml以上、より好ましくは800 pg/ml以上、よりさらに好ましくは2000 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0026】
B)抗炎症剤、好ましくは:ACE阻害薬、特にエナラプリル、カプトプリル、ラミプリル、トランドラプリル;アンギオテンシン受容体拮抗薬、特にロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン;スタチン、特にアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン;NSAIDS;選択的COX-2阻害薬。
【0027】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、炎症プロセスの指標であるGDF-15のレベルにより提供される。
【0028】
GDF-15レベルが、800 pg/ml以上、好ましくは1200 pg/ml以上、より好ましくは1500 pg/ml以上、特に2000 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0029】
C)抗炎症剤、好ましくは:ACE阻害薬、特にエナラプリル、カプトプリル、ラミプリル、トランドラプリル;アンギオテンシン受容体拮抗薬、特にロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン;アルドステロン拮抗薬。
【0030】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、抗炎症プロセスの指標であるオステオポンチンのレベルにより提供される。
【0031】
オステオポンチンのレベルが、500 pg/ml以上、好ましくは800 pg/ml以上、より好ましくは1200 pg/ml以上、特に1500 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0032】
D)抗炎症剤、好ましくは:スタチン、特にアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン。
【0033】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、抗炎症プロセスの指標であるCRPのレベルにより提供される。
【0034】
CRPのレベルが、3 pg/ml以上、好ましくは5 pg/ml以上、より好ましくは10 pg/ml以上、特に20 pg/ml以上に達した場合、上述の薬剤の1又は複数を投与すべきである。
【0035】
E)一般的に、トロポニンI及び/又はT、特にトロポニンTは、既存の心筋壊死、及び壊死の程度の指標である。トロポニンT/Iのレベルの低下が観察されない場合には、続いてこのペプチドは、心不全及び/又は血管狭窄症を示し、これらは経皮的冠動脈インターベンションによって処置することができる。
【0036】
これらの薬剤をMI後に投与すべきか否かの情報は、心不全又は血管狭窄症の指標であるトロポニンI及び/又はトロポニンT、特にトロポニンTのレベルにより提供される。
【0037】
トロポニンTのレベルが、前記急性事象後に測定した値の80%、好ましくは60%、より好ましくは20%の値にまで低下しない場合に、上述のインターベンションを開始すべきである。該インターベンションはまた、トロポニンT/Iレベルの上昇の場合にも開始すべきである。
【0038】
本発明において、適用すべき薬物治療の可能な最良の評価を行うことができる情報を得るために、上記参照する全てのペプチドを測定してもよい。これは本発明の一実施形態である。しかしながら、いくつかの場合には、ナトリウム利尿ペプチド及び心筋トロポニンに加えて、上記炎症マーカーの2種を測定することで十分でありうる。1種の炎症マーカーを測定することで十分な場合もしばしばある。
【0039】
本発明において、上記参照した薬剤のうち1種の薬剤のみを投与してもよいし、あるいは2種又はそれ以上でさえあってもよい。2種以上の薬剤を投与する場合、薬剤は、上記の群の1つから選択してもよいし、又は2以上の群から選択してもよい。
【0040】
当業者であれば理解するように、そのような評価は通常は同定しようとする被験体の全て(すなわち100%)について正しいことを意図したものではない。しかし、この用語は被験体の統計学的に有意な一部(例えば、コホート研究における1コホート)を同定できることを要する。例えば、オステオポンチン、GDF-15及びCRPは、その診断用の値が重複しており、診断対象の個体の病状に応じてその値が変動しうる。本発明の適用においては、そのレベルが変化する場合には、CRPが最も低い特異性を有し、GDF-15は緩慢であり、オステオポンチンは迅速であり、最も有意性が高いといえる。
【0041】
一般的に、GDF-15及びCRPが本発明の最も好ましい炎症マーカーである。場合によっては、また必要とされる情報に応じて、GDF-15がCRPよりも好ましい場合もあるし、またその逆の場合もある。多くの場合、適用すべき治療又は薬物治療を診断するためにはGDF-15が最も好ましく、多くの場合、リモデリングプロセスのモニタリングにはCRPが最も好ましい。
【0042】
一部が統計的に有意かどうかは、当業者に別の手間を要することなく、様々な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等を用いて決定することができる。詳細については、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983中に見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。より好ましくは、集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%を、本発明の方法により適切に同定することができる。
【0043】
本発明の診断は、関連する疾患、症候又はそのリスクのモニタリング、確認、細分類及び予測を含む。確認は、他の指標又はマーカーを用いることによって行われる、先の診断を強化又は実証することに関する。細分類は、診断された疾患の様々なサブクラスに従って診断をさらに特定すること、例えば疾患の軽度及び重篤形態に従って特定することに関する。特に診断にはモニタリングも含まれる。モニタリングは、薬物治療又は先に診断された疾患の追跡に関する。
【0044】
本明細書で用いる「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。上記方法において意味する被験体は、好ましくは、心筋梗塞に罹患しているか、又はそれに伴う症候若しくは臨床パラメータ(例えばトロポニンTレベルの上昇)を示し、即ち少なくとも心筋梗塞に罹患している疑いがある。
【0045】
本発明において、ナトリウム利尿ペプチド又は心筋トロポニンの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するための既知の手段のいずれでも行うことができる。この手段には、様々なサンドイッチ、競合又は他のアッセイ形式で標識分子を用いることのできるイムノアッセイデバイス及び方法が含まれる。そのようなアッセイによってナトリウム利尿ペプチド又は心筋トロポニンの存在又は不在を示すシグナルが生じる。さらに、シグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接的に又は間接的に相関(例えば、反比例)することができる。別の適切な方法としては、ナトリウム利尿ペプチドに特有の物理的又は化学的性質、例えばその正確な分子量又はNMRスペクトルなどを測定することが含まれる。そのような方法としては、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと連結した光学デバイス、バイオチップ、分析デバイス、例えば質量分析装置、NMR解析装置、又はクロマトグラフィー装置が挙げられる。さらに、方法としては、マイクロプレートELISAに基づく方法、全自動又はロボット制御のイムノアッセイ(例えば、ElecsysTMアナライザーで行いうる)、CBA(酵素コバルト結合アッセイ、例えばRoche-HitachiTMアナライザーで行いうる)、及びラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTMで行いうる)が含まれる。測定方法及び手段には、Cardiac ReaderTM(Roche Diagnosticsから入手できる)のようなポイントオブケアデバイス(Point-of-care device)も含まれる。
【0046】
ポイントオブケアデバイスは、患者のベッドサイドで測定することができるデバイスとして、一般に理解される。一例は、例えばNT-proBNP用のテストストリップ(Roche Diagnosticsから「Cardiac proBNP」として入手できる)と組み合わせたCardiac ReaderTM(Roche Diagnosticsから入手できる)である。そのような試験法では、対象のペプチド(例えば、BNP型ペプチド)に対する2種類の(好ましくはモノクローナル)抗体を利用し得る。該抗体は、例えばElecsysTM又はCobasTMアッセイで使用される抗体と同一であり得る。例えば、第1の抗体はビオチンで標識され、第2の抗体は金粒子で標識される。該試験法は、少量(例えば150μl)の血液サンプルを、テストストリップに(例えばテストストリップのサンプルウェルに)加えることにより開始し得る。サンプル中の赤血球は、テストストリップに添加する前又は後に、例えばサンプルを適切なフリース(例えば、ガラス繊維フリース)に通過させることにより、残りの血漿から分離し得る。前記分離手段(例えば、フリース)は、好ましくはテストストリップの一部である。抗体(好ましくはテストストリップ上に既に存在する抗体)は、残りの血漿中に溶解している。該抗体は、対象のペプチド又はポリペプチドと結合して、三者サンドイッチ複合体を形成することができる。(結合又は非結合)抗体はストリップを通過して、検出区画へと移動する。検出区画には、結合複合体を検出するための手段が含まれ、該手段は例えばストレプトアビジンを含む。これにより複合体を固定化し、固定化された複合体は、金標識抗体により紫色のラインとして可視化される。好ましくは、残存する遊離の金標識抗体は、その後さらにストリップ内を下流に移動することにより、検出対象のBNP型ペプチドのエピトープを含む合成ペプチド又はポリペプチドを含む区画内で捕捉されて、別の紫色のラインとして可視化され得る。そのような第2のラインの存在は、サンプルが正常に作用するように通過し、該抗体がインタクトであることを示すので、対照として役立ち得る。テストストリップは、ストリップで検出することができる対象のペプチド又はポリペプチドを示す標識を含み得る。テストストリップは、検出区画内で検出することができる標識の量を光学測定するためのデバイスにより、バーコード又は判読可能な他のコードも含み得る。そのようなバーコードには、対象のペプチド又はポリペプチドをストリップで検出できることを示す情報が含まれ得る。バーコードには、テストストリップに関するロット固有の情報も含まれ得る。
【0047】
「心筋トロポニン」という用語は、心臓の細胞、好ましくは心内膜下細胞で発現されるトロポニンのアイソフォームの全てを意味する。これらのアイソフォームは当業界では十分に特性決定されており、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol.76, no.4:681-686、及びFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44:487-493に記載されている。
【0048】
好ましくは、心筋トロポニンはトロポニンT及び/又はトロポニンIを意味する。
【0049】
従って、両方のトロポニンを本発明の方法において一緒に(すなわち、同時に若しくは順次的に)、又は個々に(すなわち他のアイソフォームを全く測定せずに)測定することができる。
【0050】
ヒトトロポニンT及びヒトトロポニンIのアミノ酸配列はAnderson(上掲)及びFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44:487-493に開示されている。「心筋トロポニン」という用語は、上述の特定のトロポニン、すなわち、好ましくはトロポニンT又はトロポニンIの変異体をさらに包含する。そのような変異体はその特定の心筋トロポニンと少なくとも同一の本質的な生物学的及び免疫学的性質を有している。とりわけ、それらの変異体が本明細書中で言及している特定の同一のアッセイによって、例えば前記心筋トロポニンを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイによって検出可能であるならば、それらの変異体は同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。さらに、本発明でいう変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加により異なるアミノ酸配列を有し、該変異体のアミノ酸配列が、特定のトロポニンのアミノ酸配列と、依然として、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%同一であることは理解されるべきである。変異体は、アレル変異体又はその他の種特異的ホモログ、パラログ若しくはオーソログのいずれかであることができる。さらに、本明細書でいう変異体には、上述の本質的な免疫学的及び生物学的性質を有している限り、特定の心筋トロポニン又は上述のタイプの変異体の断片が含まれる。そのような断片は、例えばトロポニンの分解産物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化によって異なる変異体も含まれる。本発明に関して特に好ましいトロポニンTアッセイは、検出限界が0.001ng/mlであるElecsys(登録商標)2010アナライザー(Roche Diagnostics)である。
【0051】
血中トロポニンT量が上昇している場合、すなわち約0.1ng/mlより高い場合、急性心血管事象が想定され、患者はしかるべき治療を受ける。
【0052】
「増殖分化因子-15」又は「GDF-15」という用語は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-βサイトカインスーパーファミリーのメンバーであるポリペプチドに関する。ポリペプチド、ペプチド及びタンパク質という用語は本明細書全体にわたって互換的に用いられている。GDF-15はもともとはマクロファージ阻害性サイトカイン-1としてクローニングされ、後に胎盤性トランスフォーミング増殖因子-β、胎盤性骨形成タンパク質、非ステロイド系抗炎症剤活性化遺伝子-1、及び前立腺由来因子としても同定されている(Bootcov, 上掲;Hromas, 1997 Biochim. Biophys. Acta 1354:40-44;Lawton 1997, Gene 203:17-26;Yokoyama-Kobayashi 1997, J. Biochem (Tokyo), 122:622-626;Paralkar 1998, J. Biol. Chem. 273: 13760-13767)。他のTGF-β関連サイトカインと同様に、GDF-15は不活性の前駆体タンパク質として合成され、これはジスルフィド結合でホモ二量体となる。N末端プロペプチドがタンパク質分解切断されると、GDF-15は約28 kDaの二量体タンパク質として分泌される(Bauskin 2000, Embo J. 19:2212-2220)。GDF-15のアミノ酸配列はWO99/06445号、WO00/70051号、WO2005/113585号、Bottner 1999, Gene 237:105-111、Bootcov, 上掲、Tan, 上掲、Baek 2001, Mol. Pharmacol. 59:901-908、Hromas, 上掲、Paralkar, 上掲、Morrish 1996, Placenta 17:431-441、又はYokoyama-Kobayashi, 上掲中に開示されている。本明細書で使用するGDF-15は上述の特定のGDF-15ポリペプチドの変異体をも包含している。そのような変異体は、特定のGDF-15ポリペプチドと少なくとも同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有している。特に、それらの変異体は、本明細書で言及している同一の特定のアッセイ、例えば該GDF-15ポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイで検出可能な場合には、同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。さらに、本発明において意味する変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加によって異なるアミノ酸配列を有しており、該変異体のアミノ酸配列は、好ましくは、特定のGDF-15ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%同一であることを理解されたい。さらに、本発明でいう変異体は、上述の本質的な免疫学的及び生物学的特性を有するものである限り、特定のGDF-15ポリペプチド又は上述のタイプの変異体の断片を含んでいる。そのような断片は、例えばGDF-15ポリペプチドの分解産物であることができる。翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化などにより異なる変異体がさらに含まれる。本発明において好ましいGDF-15アッセイはWollert et al. Clinical Chemistry 53, No 2, 2007, p.284-291に記載されているアッセイである。
【0053】
オステオポンチン(本明細書中、OPNとも称する)は、陰性荷電の酸性親水性ポリペプチドである。ポリペプチド、ペプチド及びタンパク質という用語は本明細書全体にわたって互換的に使用される。オステオポンチンは、多機能タンパク質であり、全ての体液に分泌される。これは、骨において高発現されるが、種々の細胞型、例えばマクロファージ、内皮細胞、平滑筋細胞及び上皮細胞でも発現される。さらに、OPNの発現が、進行性心不全を有する患者の心筋において増大していることが開示されている。OPNは、タンパク質の小さなインテグリン結合リガンドN結合型糖タンパク質(SIBLING)ファミリーの酸性メンバーであり、このファミリーには骨シアロタンパク質、象牙質マトリックスタンパク質I、象牙質シアロホスホタンパク質、及びマトリックス細胞外ホスホ糖タンパク質が含まれ、ヒト4番染色体に沿ってクラスター化する5つの遺伝子の産物である。選択的スプライシングの証拠があり、この機能的重要性についてはまだ解明する必要がある。一般的に、OPNは、過剰な翻訳後修飾(リン酸化、グリコシル化及び切断など)を受けて、25〜27kDaの範囲の分子量変異体となる、264〜301アミノ酸長の単量体である。OPNをコードする遺伝子は、例えばラット、マウス、ヒト、ウシ、ニワトリ、ウサギ及びヒツジからクローニングされている(Stawowy et al.,上掲; Mazzali et al., Osteopontin - A molecule for all season. QJM 95(1):3-13; Johnson et al. 2003, Osteopontin: roles in implantation and placentation. Kohri et al. (1992) Biochem Biophys Res Commun. 1992 184(2):859-64)。オステオポンチンのアイソフォームに対する抗体が、例えばEP 1 754 719に開示されている。本発明で使用するオステオポンチンはオステオポンチンポリペプチドの変異体をも包含している。そのような変異体は、特定のオステオポンチンポリペプチドと少なくとも同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有している。特に、それらの変異体は、本明細書で言及している同一の特定のアッセイ、例えばオステオポンチンポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いたELISAアッセイで検出可能な場合には、同一の本質的な生物学的及び免疫学的特性を有する。好ましいアッセイは実施例に記載している。さらに、本発明において意味する変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加によって異なるアミノ酸配列を有しており、該変異体のアミノ酸配列は、好ましくは、特定のオステオポンチンポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%又は99%同一であることを理解されたい。さらに、本明細書でいう変異体は、上述の本質的な免疫学的及び生物学的特性を有するものである限り、特定のオステオポンチンポリペプチド又は上述のタイプの変異体の断片を含んでいる。そのような断片は、例えばオステオポンチンポリペプチドの分解産物であることができる。翻訳後修飾、例えばリン酸化又はミリスチル化などにより異なる変異体がさらに含まれる。本発明において好ましいオステオポンチンアッセイは、IBL(Immuno-Biological Laboratories Co, Ltd, 5-1 Aramachi, Takasaki-shi, Gunma, 370-0831, Japan)のヒトオステオポンチンアッセイキットであり、IBL Gesellschaft fur Immunochemie und Immunbiologie mbH(Flughafenstr. 52a, D-22335 Hamburg)で入手可能である。
【0054】
CRP(本明細書中、C反応性タンパク質とも称する)は、75年以上も前に肺炎球菌のC多糖に結合する血液タンパク質であることが発見されている急性期タンパク質である。CRPは、5つの単一サブユニットからなり、これらは非共有結合し、分子量約110〜140kDaを有する環状五量体として集合している。好ましくは、本明細書で使用するCRPはヒトCRPに関する。ヒトCRPの配列は周知であり、例えばWoo et al.(J. Biol. Chem. 1985. 260 (24), 13384-13388)により開示されている。CRPのレベルは、正常個体において通常は低いが、炎症、感染又は損傷によって100〜200倍又はそれ以上に上昇しうる(Yeh (2004) Circulation. 2004; 109:II-11〜II-14)。CRPは心血管系リスクの独立した予測因子であることが知られている。特に、CRPは、心筋梗塞、卒中、末梢動脈疾患及び突然心臓死の予測因子として好適であることが示されている。さらに、CRP量の上昇は、急性冠症候群(ACS)を有する被験体及び冠動脈インターベンションを受けた被験体における再発性虚血及び死亡を予測しうる。冠動脈性心疾患のリスクがある患者において、専門家パネル(例えば米国心臓協会)によりCRPの測定が推奨されている(Pearson et al. (2003) Markers of Inflammation and Cardiovascular Disease. Circulation, 107: 499-511も参照のこと)。
【0055】
好ましくは、被験体のサンプル中のCRP量は、高感度のCRPアッセイを用いて測定する。そのようなアッセイにより測定されるCRPは高感度CRP(hsCRP)と呼ばれることが多い。hsCRPアッセイは現在、心疾患のリスクを予測するために使用されている。好適なhsCRPアッセイは当技術分野で公知である。本発明において特に好ましいhsCRPアッセイは、検出限界が0.1mg/lであるRoche/Hitachi CRP (Latex) HS試験である。
【0056】
本発明において、「リモデリング」という用語は、壊死領域及び結合組織が置き換えられて、その機能が非求心性肥大により回復(reestablish)する血管形成プロセスを意味する。
【0057】
上述したように診断を確立するために、本発明は、診断を確立するための、ナトリウム利尿ペプチド以外のペプチドのレベルを測定することを教示する。さらに本発明は、MI後の個体におけるリモデリングプロセスをモニタリングするため、そして場合によっては、薬物治療の投与の継続、変更又は終了について決定するために使用することができる。
【0058】
MI(ACS)の前にわずかな心筋機能障害しか示さない個体、又は心筋機能障害を全く示さない個体は、リモデリングによって、数週間又は数ヶ月(例えば3ヶ月)後に、少なくとも高い程度にまで心筋の機能性を再度生じる。対照的に、既存の著しい心筋機能障害(MI(ACS)前に)を示す個体は、数週間又は数ヶ月後に心筋の機能性を再度生じることはほとんどない。これらの場合には、MI(ACS)が起こった直後に治療を開始することができ、それには、前述の通り特定の薬剤の投与が伴う。治療は、トロポニンT若しくはI、オステオポンチン、CRP及び/又はGDF-15のレベルを測定することによってモニタリングしうる。
【0059】
多くの場合には、薬物治療の継続、変更又は終了について決定する基準とすることができる各ペプチドの値を言及することは適切ではない。CRPについては、医療処置を終了する前に約33 pg/mlのレベルに達する必要があるといえる。NT-proBNPの場合には、ペプチドレベルの低下は、心不全の度合いに依存する。トロポニンT/Iレベルの低下は、心不全及び冠動脈狭窄の度合いに依存する。GDF-15については、20%以上の低下は、一般的に、投与する薬剤の量を低下することができることの指標となる。オステオポンチンについては、40%以上の低下は、一般的に、投与する薬剤の量を低下することができることの指標となる。
【0060】
本発明に係る方法は、被験体のサンプル中のNT-proBnPの量を測定するステップと、該被験体のサンプル中の上述したペプチドの1つの量を測定するステップとを含む。これらのステップは、同時に、又は前後して行うことができる。
【0061】
既に上記で論じたとおり、閾値として用いる好ましい参照量はULNから誘導することができる。所与の被験体集団についてのULNは本明細書の他の箇所で説明したように求めることができる。
【0062】
本発明は、心疾患、好ましくは心筋機能障害及び心不全の群からの心疾患に関する。
【0063】
本明細書で使用する「心筋機能障害」という用語は、総称であり、心筋のいくつかの病理状態に関する。心筋機能障害は、一時的な病理状態(例えば虚血、毒性物質、アルコールなどにより引き起こされるもの)である。心筋機能障害は、根本の原因を取り除いた後は消失するだろう。本発明において、心筋機能障害は、無症候性の心筋機能障害であってもよい。心筋機能障害、特に無症候性の心筋機能障害は心不全を発症する可能性もある。心筋機能障害は重篤な慢性心不全にもなりうる。一般に、心筋機能障害は、心臓の収縮及び/又は拡張機能の機能不全であり、心筋機能障害は心不全に伴って又は心不全を伴わずに生じうる。上述した心不全はいずれも無症候性であってもよい。
【0064】
本明細書で用いる「心不全」という用語は、心臓の収縮及び/又は拡張機能が損われていることを意味する。好ましくは、本発明において意味する心不全はまた慢性の心不全である。心不全はNew York Heart Association(NYHA)に従って機能分類系に分類することができる。NYHAクラスIの患者は心血管系疾患の明確な症状はないが、既に機能障害の客観的証拠がある。身体活動に制限はなく、通常の身体活動を行っても過度の疲労、動悸、又は呼吸困難(息切れ)を引き起こさない。NYHAクラスIIの患者は身体活動にわずかに制限がある。これらの患者は安静時は快適であるが、通常の身体活動で疲労、動悸、又は呼吸困難を生じる。NYHAクラスIIIの患者は身体動作に著しい制限が認められる。これらの患者は安静時は快適であるが、通常以下の身体活動で疲労、動悸、又は呼吸困難が生ずる。NYHAクラスIVの患者は不快感なしにいずれの身体活動も行うことができない。これらの患者は安静時でも心臓の機能不全の症状を示す。心不全、すなわち心臓の収縮及び/又は拡張機能の障害は、例えば心エコー検査、血管造影、シンチグラフィー、又は磁気共鳴映像法により決定することも可能である。この機能障害は、上述したように心不全の症候を伴うものである(NYHAクラスII〜IV)が、一部の患者は有意な症候がないことがある(NYHA I)。さらに、心不全は左心室駆出分画率(LVEF)の低減によっても明らかである。より好ましくは、本明細書で用いる心不全は、60%未満、40%〜60%、又は40%未満の左心室駆出分画率(LVEF)を伴う。
【0065】
「急性心血管事象」という用語は、突然に現れ、すなわち先の臨床的徴候又は症状無しに現れ、かつ拡張期又は収縮期の血流速度に深刻な影響を及ぼすあらゆる事象を言う。組織病理学的には、本明細書で言う急性心血管事象には心筋細胞の突然の虚血及びそれに伴う前記細胞の深刻な壊死が伴うであろう。好ましくは、急性心血管事象を患っている被験者は典型的な症状、例えば胸、上腹部、腕、手首若しくは顎の不快又は疼痛をも患い、このとき特に胸痛が腕、背中又は肩にも広がりうる。急性心血管事象のさらなる症状は、原因不明の吐き気若しくは嘔吐、持続する息切れ、虚弱、めまい、立ちくらみ、又は失神並びにその任意の組み合わせであり得る。好ましくは、本明細書でいう急性心血管事象は、急性冠症候群(ACS)、すなわち不安定狭心症(UAP)又は心筋梗塞(MI)である。最も好ましくは、急性心血管事象は、ST上昇型MI及び非ST上昇型MIを含むMIである。さらに、心血管事象はまた卒中を含む。MIの発症に続いて、左心室機能障害(LVD)が発症することがある。最終的に、LVD患者は相当の死亡率で鬱血性心不全(CHF)を発症する。定義、症状及び臨床的兆候、例えば心電図信号に関するさらなる詳細はJoint European Society of Cardiology / American Society of Cardiology, 2000, J American College of Cardiology, Vol.36, No.3: 959-969に見出される。
【0066】
用語「サンプル」は、体液サンプル、分離細胞サンプル又は組織若しくは臓器由来のサンプルを指す。体液サンプルは、周知の技術によって得ることができ、好ましくは血液、血漿、血清又は尿のサンプル、より好ましくは血液、血漿又は血清のサンプルを含む。組織又は臓器のサンプルは、任意の組織又は臓器から、例えば生検によって得ることができる。分離細胞は体液又は組織若しくは臓器から、遠心分離又はセルソーティング等の分離技術によって得ることができる。好ましくは、細胞、組織又は臓器のサンプルは、本明細書に記載のペプチドを発現又は生成する細胞、組織又は臓器から得られる。
【0067】
本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドの量の測定は、その量又は濃度を、好ましくは半定量的又は定量的に測定することに関する。測定は、直接的又は間接的に行うことができる。直接的な測定は、ペプチド又はポリペプチド自体から得られ、その強度がサンプル中に存在するペプチド分子数と直接相関するシグナルに基づいて、ペプチド又はポリペプチドの量又は濃度を測定することに関する。(本明細書では強度シグナルと記載されることもある)そのようなシグナルは、例えばペプチド又はポリペプチドの特定の物理的又は化学的な特性についての強度値を測定することによって得ることができる。間接的な測定は、二次成分(即ちペプチド若しくはポリペプチドそれ自体ではない成分)又は生物学的な読み取り系、例えば測定可能な細胞応答、リガンド、標識又は酵素反応生成物から得られるシグナルの測定を含む。
【0068】
本発明においては、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチドの量を測定するためのあらゆる公知の手段によって行うことができる。該手段は、サンドイッチ、競合又は他のアッセイ形式において標識した分子を利用することができる免疫アッセイのデバイス及び方法を含む。該アッセイは、ペプチド又はポリペプチドの存在又は非存在を示すシグナルを生成する。さらにシグナル強度は、好ましくは、サンプル中に存在するポリペプチドの量と直接的に又は間接的に(例えば反比例で)相関するものである。別の好適な方法は、正確な分子量又はNMRスペクトル等のペプチド又はポリペプチドに特有の物理的又は化学的特性を測定することを含む。該方法は、好ましくは、バイオセンサー、免疫アッセイと連結した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析器又はクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。さらに方法としては、マイクロプレートELISAに基づく法、完全に自動化又はロボット化した免疫アッセイ(例えばElecsysTM分析器を利用できる)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ法(enzymatic Cobalt Binding Assay)、例えばRoche-HitachiTM分析器を利用できる)、及びラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析器を利用できる)が含まれる。
【0069】
好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、(a)細胞応答の強度がペプチド又はポリペプチドの量を示す細胞応答を誘導することができる細胞に、該ペプチド又はポリペプチドを適切な時間接触させるステップ、(b)その細胞応答を測定するステップを含む。細胞応答を測定するためには、好ましくは、サンプル又は処理したサンプルを、培養細胞に加え、内部又は外部の細胞応答を測定する。その細胞応答は、測定可能なレポーター遺伝子の発現、又はペプチド、ポリペプチド若しくは小分子等の物質の分泌を含んでもよい。その発現又は物質は、ペプチド又はポリペプチドの量と相関する強度シグナルを生じる。
【0070】
また好ましくは、ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、サンプル中のペプチド又はポリペプチドから得られる特有の強度シグナルを測定するステップを含む。上記のように、このようなシグナルは、質量スペクトルで観察されるペプチド若しくはポリペプチドに特有の変化量m/z又はペプチド若しくはポリペプチドに特有のNMRスペクトルで観察されるシグナル強度であってもよい。
【0071】
ペプチド又はポリペプチドの量の測定は、好ましくは、(a)該ペプチドを特定のリガンドに接触させるステップ、(b)(任意に)非結合リガンドを除去するステップ、(c)結合リガンドの量を測定するステップを含んでもよい。その結合リガンドは、強度シグナルを生じる。本発明において、結合は、共有結合及び非共有結合を含む。本発明において、リガンドは、任意の化合物、例えば本明細書に記載のペプチド又はポリペプチドに結合する、ペプチド、ポリペプチド、核酸又は小分子でありうる。好ましいリガンドは、抗体、核酸、ペプチド又はポリペプチド、例えば、該ペプチド又はポリペプチド及び該ペプチドの結合ドメインを含むその断片に対する受容体又は結合パートナー、並びに核酸又はペプチドアプタマー等のアプタマーを含む。このようなリガンドを調製するための方法は、当技術分野で周知である。例えば、好適な抗体又はアプタマーの同定及び生産は、市販の業者からも提供される。当業者は、より高い親和性又は特異性をもつ前記リガンドの誘導体を開発する方法に精通している。例えば、ランダム変異を核酸、ペプチド又はポリペプチドに導入することができる。これらの誘導体は、例えばファージディスプレイ法等の当技術分野で知られるスクリーニング法により、結合について試験することができる。本明細書において、抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体だけでなく、抗原又はハプテンに結合することができるFv、Fab及びF(ab)2フラグメント等のそのフラグメントも含む。本発明はまた、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列をヒトアクセプター抗体の配列と組み合わせた一本鎖抗体及びヒト化ハイブリッド抗体も含む。ドナー配列は通常、少なくともドナーの抗原結合アミノ酸残基を含むが、他の構造的及び/又は機能的に関連性のあるドナー抗体のアミノ酸残基も含んでもよい。このようなハイブリッドは、当技術分野で周知の種々の方法により調製することができる。好ましくは、リガンド又は薬剤がペプチド又はポリペプチドに特異的に結合する。本発明において、特異的な結合は、そのリガンド又は薬剤が、分析するサンプル中に存在する他のペプチド、ポリペプチド又は物質に、実質的に結合する(「交差反応する」)べきではないことを意味する。好ましくは、特異的に結合するペプチド又はポリペプチドは、関連のある他のどのペプチド又はポリペプチドよりも、少なくとも3倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合するべきである。非特異的な結合も、例えばウェスタンブロットにおけるそのサイズに従って、又はサンプル中に相対的により多量に存在することによって、明確に区別及び測定できる場合は、許容できる場合がある。リガンドの結合は、当技術分野で知られるあらゆる方法によって測定することができる。好ましくは、該方法は、半定量的又は定量的である。好適な方法は、次に記載される。
【0072】
第一に、リガンドの結合は、例えばNMR又は表面プラズモン共鳴によって、直接測定することができる。
【0073】
第二に、リガンドが、対象とするペプチド又はポリペプチドの酵素活性の基質としても作用する場合は、酵素反応生成物を測定することができる(例えばプロテアーゼの量は、例えばウェスタンブロットで、切断された基質の量を測定することによって測定することができる)。あるいは、リガンドが酵素特性自体を示す場合があり、「リガンド/ペプチド若しくはポリペプチド」複合体又はペプチド若しくはポリペプチドそれぞれによって結合するリガンドを、強度シグナルの発生によって検出可能となる好適な基質と接触させることができる。酵素反応生成物の測定のために、好ましくは基質の量は飽和している。基質は、反応前に検出可能な標識で標識化してもよい。好ましくは、サンプルを適切な時間、基質と接触させる。適切な時間は、生成する生成物の量が検出可能に、好ましくは測定可能になるために必要な時間を表す。生成物の量を測定する代わりに、特定の(例えば検出可能な)量の生成物が現れるために必要な時間を測定することができる。
【0074】
第三に、リガンドの検出及び測定を可能とする標識に、リガンドを共有結合又は非共有結合で結合させることができる。標識は、直接的又は間接的な方法により行うことができる。直接的な標識は、リガンドに標識を直接(共有結合又は非共有結合で)結合させることを含む。間接的な標識は、第一リガンドに第二リガンドが(共有結合又は非共有結合で)結合することを含む。第二リガンドは、第一リガンドに特異的に結合するべきである。第二リガンドは、好適な標識と結合する及び/又はその第二リガンドに結合する第三リガンドの標的(受容体)となることができる。第二、第三又はより高次のリガンドの使用は、シグナルを増強するために用いられる場合が多い。好適な第二及び高次のリガンドは、抗体、二次抗体、及び周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)を含み得る。リガンド又は基質は、当技術分野で知られる一種以上のタグで「タグ付加」してもよい。このようなタグは、より高次のリガンドの標的となってもよい。好適なタグは、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-Tag、グルタチオン-S-転移酵素、FLAG、GFP、myc-tag、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質等を含む。ペプチド又はポリペプチドの場合は、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端にある。好適な標識は、適切な検出法によって検出可能な任意の標識である。典型的な標識は、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば、常磁性及び超常磁性標識等の「磁性ビーズ」)、並びに蛍光標識を含む。酵素活性標識は、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ及びその誘導体を含む。検出のための好適な基質は、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsの既製のストック溶液として利用できる、4-ニトロブルーテトラゾリウムクロライド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート)、CDP-StarTM(Amersham Biosciences)、ECFTM(Amersham Biosciences)を含む。好適な酵素と基質の組み合わせによって、当技術分野で知られる方法により(例えば、感光膜又は好適なカメラシステムを用いて)測定可能な着色した反応生成物、蛍光又は化学発光が生じることになる。酵素反応の測定に関しては、上記で規定した基準を同様に適用する。典型的な蛍光標識は、蛍光タンパク質(例えばGFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン及びAlexa色素(例えばAlexa 568)を含む。別の蛍光標識は、例えばMolecular Probes(Oregon)から入手できる。蛍光標識として量子ドットの使用も想定される。典型的な放射性標識は、35S、125I、32P、33P等を含む。放射性標識は、感光膜又は蛍光体イメージャー等の適切な周知の任意の方法によって検出することができる。本発明において好適な測定法には、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気的に生成された化学発光)、RIA(放射免疫アッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチ免疫アッセイ(ECLIA)、解離増感ランタニド蛍光イムノアッセイ(dissociation-enhanced lanthanide fluoro immuno assay (DELFIA))、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、比濁法(turbidimetry)、比ろう法(nephelometry)、ラテックスにより増感される比濁法若しくは比ろう法、又は固相免疫試験も含まれる。当技術分野で知られる別の方法(例えばゲル電気泳動、二次元ゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE))、ウェスタンブロッティング及び質量分析法)は、単独で、又は上記の標識化若しくは他の検出法と組み合わせて用いることができる。
【0075】
ペプチド又はポリペプチドの量は、好ましくは、次の通り測定してもよい:(a)上記で特定したペプチド又はポリペプチドに対するリガンドを含む固体担体を、ペプチド又はポリペプチドを含むサンプルに接触させ、(b)担体に結合するペプチド又はポリペプチドの量を測定する。好ましくは、核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体及びアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、好ましくは固定化形態で固相支持体上に存在する。固相支持体を製造するための材料は、当技術分野で周知であり、特に、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス、及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェル及び壁、プラスチックチューブ等が含まれる。リガンド又は薬剤は、多くの様々な担体と結合することができる。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然の及び修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、及びマグネタイトが含まれる。担体の性質は、本発明の目的に応じて、可溶性又は不溶性のいずれかでありうる。前記リガンドを固着/固定化するための好適な方法は周知であり、これに限定されないが、イオン性、疎水性、共有結合の相互作用等が含まれる。本発明では、アレイとして「懸濁アレイ」を使用することも検討される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイでは、担体、例えばマイクロビーズ又はミクロスフェアが懸濁液中に存在する。そのアレイは、おそらく標識され、様々なリガンドを担持する異なるマイクロビーズ又はミクロスフェアから構成される。そのようなアレイの製造方法は、例えば固相化学及び光解離性保護基に基づくものが、一般的に知られている(米国特許第5,744,305号)。
【0076】
本明細書で用いられる用語「量」には、ポリペプチド又はペプチドの絶対量、該ポリペプチド又はペプチドの相対量若しくは濃度だけでなく、これに関連する又は由来するあらゆる値又はパラメータが含まれる。そのような値又はパラメータには、直接的な測定によって前記ペプチドから得られる全ての特有の物理的又は化学的な特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値が含まれる。さらに、本明細書の各所で特定される間接的な測定により得られる全ての値又はパラメータ、例えば、ペプチドに対する応答として生物学的読み取り系で測定される応答レベル又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが含まれる。上記の量又はパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的手法によっても得られることは理解されるべきである。
【0077】
本発明の方法に基づいて、心筋梗塞、特にACSの前に存在する心不全、特にMI(急性事象後にも存在する)をより効率的に診断し、処置することができる。本発明の方法は、信頼性があり、迅速なかつコストが低い診断を可能にするという利点があり、携帯用アッセイ、例えばテストストリップにおいてさえ実施することができる。従って、本方法は、特に救急患者の診断に良好に適している。本発明の知見のために、被験体の適切な治療、例えば心不全の治療を、適時にかつ信頼性をもって選択することができる。患者の遅い及び/又は誤った処置により生じる重篤な副作用も回避することができる。
【0078】
さらに本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断するデバイスであって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むデバイスに関する。
【0079】
本発明はまた、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするデバイスであって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を再度測定するための手段、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段、並びに
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段
を含むデバイスに関する。
【0080】
本明細書で用いる用語「デバイス」は、診断を可能とするために、互いが動作可能となるよう連結された少なくとも上記の手段を含む手段からなるシステムに関する。好ましい、心筋トロポニンの量を測定するための手段、及びナトリウム利尿ペプチドの量を測定するための手段、並びに計算と被験体が心血管系疾患に罹患しているかどうか診断するための手段は、本発明の方法に関連して上記に開示されている。動作しうる様式で手段を連結する方法は、デバイスに含まれる手段の種類に応じて変わる。例えば、ペプチドの量を自動的に測定するための手段を適用する場合には、その自動的に作動する手段により得られるデータを、所望の結果を得るために、例えばコンピュータプログラムによって処理することができる。好ましくは、そのような場合、その手段は単一のデバイスによって構成される。従って該デバイスは、適用されるサンプル中のペプチド又はポリペプチドの量の測定について解析するユニット、及び評価のためにその得られたデータを処理するコンピュータユニットを含むことができる。あるいは、テストストリップのような手段をペプチド又はポリペプチドの量を測定するために使用する場合には、比較のための手段は、対照ストリップ、又は測定量を参照量に割り当てる表を含んでもよい。テストストリップは、好ましくは、本明細書で説明するペプチド又はポリペプチドと特異的に結合するリガンドと組み合わせられる。ストリップ又はデバイスは、好ましくは該ペプチド又はポリペプチドと該リガンドとの結合を検出するための手段を含む。検出のための好ましい手段は、上記の本発明の方法に関する実施形態と関連して開示されている。そのような場合、その手段は動作可能なように連結され、システムの使用者はその量の測定結果と取扱説明書に定められる指示又は解説によりその診断値又は予測値を結びつける。その手段は、かかる実施形態で個々のデバイスとして存在してもよく、好ましくはキットとして一緒にパッケージングされる。当業者は、別の手間を要することなく、その手段を連結する方法を理解することができる。好ましいデバイスは、専門の臨床医の特別な知識がなくても適用することができるものであり、例えば、単にサンプルを付加すればよいテストストリップ又は電子デバイスである。結果は、臨床医による解釈を必要とする未加工データのアウトプットとして得ることができる。しかし好ましくは、デバイスのアウトプットは、その解釈にあたり臨床医を必要としないように処理された、即ち評価された未加工データである。さらに好ましいデバイスには、分析ユニット/デバイス(例えば、バイオセンサー、アレイ、ナトリウム利尿ペプチドを特異的に認識するリガンドと結合した固相支持体、表面プラズモン共鳴装置、NMR分析装置、質量分析装置等)、又は本発明の方法における上記の評価ユニット/デバイスが含まれる。
【0081】
最後に、本発明は、心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき薬物治療を診断するキットであって、該方法を実施するための説明書と、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むキットに関する。
【0082】
また、心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするキットであって、該リモデリングが薬物治療により支持されるものであり、
該方法を実施するための説明書と、
前述のステップ(a)、(b)及び(c)を実施するための手段と、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段と、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段と、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段と、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段と、
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段と
を含むキットを包含する。
【0083】
本明細書で用いられる用語「キット」は、好ましくは個別に又は単一の容器内で提供される上記手段の集合を意味する。この容器は、好ましくは本発明の方法を行うための取扱説明書を含んでいる。従って、本発明の方法を実施するために採用されるキットは、該方法を実施するために必要な構成要素の全てを、即時使用可能に、例えば測定及び/又は比較に使用される調整された濃度の構成要素を予め混合した形態で、含むものである。
【0084】
本明細書で引用される全ての参考文献は、それらの全体の開示内容及び本明細書で特別に言及された開示内容について、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0085】
以下の実施例は、本発明を例示するにすぎない。これらは、本発明の範囲を限定するものであると解釈すべきでない。
【0086】
[実施例1]
急性MIを有すると診断された202名の患者において、梗塞の2〜3日後と再度梗塞の3ヵ月後の時点において、パラメーターとしてNT-proBNP、高感度トロポニンT、CRP、GDF 15及びオステオポンチンを測定した。これらのパラメータの減少はNT-proBNPの初期レベルに依存することが示された。ペプチドのレベルは個々に低下した。パラメータ間の相関は判定することができず、このことは異なる作用形式を示す可能性があることを意味している。
【0087】
NT-proBNPレベルは、検出限界が20 pg/mLであるElecsys 2010を用いてイムノアッセイで測定した。
【0088】
この研究の結果を以下の表と図1〜10に示す。ここで、図1〜5は、表に示した値を図示するものであり、中央値の上下にNT-proBNP値に応じて部分的に範囲を示し、初期NT-proBNP値に応じた変化(%)を示す。図6〜10は、時点=0における初期バイオマーカーの相関を図示し、これらのマーカーが依存性又は非依存性であるかを示す。
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断する方法であって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を測定するステップ、
(b)(a)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始するステップ
を含む方法。
【請求項2】
ナトリウム利尿ペプチドが、ANP、NT-proANP、BNP及び/又はNT-proBNP、特にNT-proBNPである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
300 pg/ml以上のNT-proBNPレベルは、心臓機能に効果のある薬剤、好ましくはβ遮断薬、ナトリウム利尿薬、ループ利尿薬、硝酸塩、陽性変力薬を投与すべきことの指標となる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
炎症マーカーが、GDF-15、CRP及びオステオポンチンから選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
炎症マーカーがGDF-15である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
800 pg/ml以上のGDF-15レベルは、抗炎症剤、好ましくはACE阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、スタチン、NSAIDS、選択的COX-2阻害薬を投与すべきことの指標となる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
炎症マーカーがC反応性タンパク質(CRP)である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
3 pg/ml以上のCRP-15レベルは、抗炎症剤、好ましくはスタチンを投与すべきことの指標となる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
炎症マーカーがオステオポンチンである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
500 pg/ml以上のオステオポンチンレベルは、抗炎症剤、好ましくはACE阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、アルドステロン拮抗薬を投与すべきことの指標となる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
心筋トロポニンがトロポニンT及び/又はトロポニンIである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
トロポニンTレベルが前記事象後に測定したレベルの80%又はそれ未満の値に低下しない場合に、経皮的インターベンションを行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
1又は複数の各ペプチドのレベルを、前記急性事象が起こった1〜3日後、好ましくは1〜2日後の時点に測定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングする方法であって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
請求項1〜13のいずれか1項に記載のステップ(a)及び(b)を実施するステップと、以下の追加のステップ:
(c)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を再度測定するステップ、
(d)最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するステップ、
(e)(c)及び(d)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するステップ
を含む方法。
【請求項15】
炎症マーカーがオステオポンチンであり、40%以上の低下は、薬剤の投与を低減することができることを示す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
炎症マーカーがGDF-15であり、20%以上の低下は、薬剤の投与を低減することができることを示す、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
マーカーがCRPであり、33 pg/mlへのCRPレベルの低下は、各薬剤の投与を低減することができることを示す、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
被験体がヒトである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断するデバイスであって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むデバイス。
【請求項20】
心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするデバイスであって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を再度測定するための手段、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段、並びに
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段
を含むデバイス。
【請求項21】
心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき薬物治療を診断するキットであって、該方法を実施するための説明書と、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むキット。
【請求項22】
心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするキットであって、該リモデリングが薬物治療により支持されるものであり、
該方法を実施するための説明書と、
前述のステップ(a)、(b)及び(c)を実施するための手段と、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段と、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段と、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段と、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段と、
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段と
を含むキット。
【請求項1】
心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断する方法であって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を測定するステップ、
(b)(a)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始するステップ
を含む方法。
【請求項2】
ナトリウム利尿ペプチドが、ANP、NT-proANP、BNP及び/又はNT-proBNP、特にNT-proBNPである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
300 pg/ml以上のNT-proBNPレベルは、心臓機能に効果のある薬剤、好ましくはβ遮断薬、ナトリウム利尿薬、ループ利尿薬、硝酸塩、陽性変力薬を投与すべきことの指標となる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
炎症マーカーが、GDF-15、CRP及びオステオポンチンから選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
炎症マーカーがGDF-15である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
800 pg/ml以上のGDF-15レベルは、抗炎症剤、好ましくはACE阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、スタチン、NSAIDS、選択的COX-2阻害薬を投与すべきことの指標となる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
炎症マーカーがC反応性タンパク質(CRP)である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
3 pg/ml以上のCRP-15レベルは、抗炎症剤、好ましくはスタチンを投与すべきことの指標となる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
炎症マーカーがオステオポンチンである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
500 pg/ml以上のオステオポンチンレベルは、抗炎症剤、好ましくはACE阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、アルドステロン拮抗薬を投与すべきことの指標となる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
心筋トロポニンがトロポニンT及び/又はトロポニンIである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
トロポニンTレベルが前記事象後に測定したレベルの80%又はそれ未満の値に低下しない場合に、経皮的インターベンションを行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
1又は複数の各ペプチドのレベルを、前記急性事象が起こった1〜3日後、好ましくは1〜2日後の時点に測定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングする方法であって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
請求項1〜13のいずれか1項に記載のステップ(a)及び(b)を実施するステップと、以下の追加のステップ:
(c)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、心筋トロポニン及び少なくとも1種の炎症マーカーの量を再度測定するステップ、
(d)最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するステップ、
(e)(c)及び(d)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するステップ
を含む方法。
【請求項15】
炎症マーカーがオステオポンチンであり、40%以上の低下は、薬剤の投与を低減することができることを示す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
炎症マーカーがGDF-15であり、20%以上の低下は、薬剤の投与を低減することができることを示す、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
マーカーがCRPであり、33 pg/mlへのCRPレベルの低下は、各薬剤の投与を低減することができることを示す、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
被験体がヒトである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき治療又は治療の組み合わせを診断するデバイスであって、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むデバイス。
【請求項20】
心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするデバイスであって、該リモデリングが治療又は治療の組み合わせにより支持されるものであり、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15及び/又はCRPの量を再度測定するための手段、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段、並びに
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段
を含むデバイス。
【請求項21】
心筋梗塞後の被験体のリモデリングプロセスにおいて適用すべき薬物治療を診断するキットであって、該方法を実施するための説明書と、
(a)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を測定するための手段、
(b)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段、
(c)場合により、(a)及び(b)で測定したペプチドのレベルに従ってリモデリングにおいて適用すべき薬物治療を選択し、該被験体においてリモデリングを開始すべきであるかどうかを診断するための手段
を含むキット。
【請求項22】
心筋梗塞後の被験体においてリモデリングをモニタリングするキットであって、該リモデリングが薬物治療により支持されるものであり、
該方法を実施するための説明書と、
前述のステップ(a)、(b)及び(c)を実施するための手段と、
(d)該被験体のサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチドの量及び心筋トロポニンの量を再度測定するための手段と、
(e)該被験体のサンプル中の、炎症マーカー、好ましくはオステオポンチン、GDF-15、CRPの量を測定するための手段と、
(f)場合により、最初の測定値と2回目の測定値との差を計算するための手段と、
(g)場合により、(d)、(e)及び(f)で得られたデータから、リモデリングが成功しているか否かを評価するための手段と、
(h)場合により、ステップ(a)〜(g)で得られた結果に応じて薬物治療を適合させる決定を行うための手段と
を含むキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2011−501112(P2011−501112A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528391(P2010−528391)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063514
【国際公開番号】WO2009/047283
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063514
【国際公開番号】WO2009/047283
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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