説明

心臓および他の器官における虚血−再灌流傷害の軽減のための事後調節

【課題】虚血損傷を受けた器官または組織の損傷を最小にするシステムを提供する。
【解決手段】心臓の再灌流後の心臓に対する損傷を予防するために、被験体において心筋梗塞を処置するなど、器官または組織に対する虚血事象後の再灌流の間または再灌流後に、被験体において該器官または組織に対する損傷を予防するシステムであって、a)約5秒間〜約5分間にわたって、該器官の灌流を停止する手段;b)約5秒間〜約5分間にわたって、該器官の灌流を再開する手段;c)約2回〜約50回にわたって、工程a)およびb)を連続して繰り返す手段;ならびにd)該器官または組織の不断の灌流を可能にし、それによって、虚血事象後の該被験体における該器官または組織に対する損傷を予防する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2001年12月21日出願の米国仮特許出願第60/343,275(これは、その全体が本明細書中に参考として援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、虚血により傷害を受けた器官および組織の処置に関する。具体的には、本発明は、虚血事象に罹患した器官および組織における再灌流傷害の防止に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)
心臓疾患は、社会保障の疾病(disability)支払金の約20%を計上する、米国の労働者の間で早まった、恒久的な疾病の主な原因である。約2000万の米国人は、心臓疾患に甘んじており、600万人超の人々が、毎年心臓発作を起こしている。毎年、初めて心臓発作を経験した患者のほぼ50%が、心筋梗塞で死亡している。
【0004】
心臓は、正常かつ継続した機能のために、一定かつ絶え間ない血液供給を必要とする。患者が心臓発作を起こすと、心臓の一部への血流が停止し、その結果として虚血を生じる。心臓は、その機能的能力を失い、心臓の虚血部分は、死滅する危険があり、心臓組織の局所壊死を生じる。心臓発作は、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)またはより侵襲性の手順である冠動脈バイパス移植片手術(CABG)のいずれかによって処置され得る。両方の手順が、遮断された血管(冠動脈)を開き、心筋への血液供給を回復させ得る(再灌流といわれるプロセス)。虚血心筋の血栓崩壊治療による早期の再灌流、PTCAまたはCABGの有益な効果は、いまや十分に確立されているが、増えつつある数の研究によって、再灌流はまた、虚血心筋へのさらなる傷害(例えば、心筋壊死の拡大(すなわち、拡大された梗塞サイズならびに損なわれた収縮機能および代謝))を誘導することが示されている。再灌流傷害は、心臓発作後、すぐに拡大し得るのみならず、数日たってからも拡大し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近20年にわたり、心臓発作後の梗塞サイズの再灌流誘導性拡大を制限し得る治療を見いだすための多くの取り組みがなされてきた。多くの研究により、梗塞サイズを縮小する試みにおいて、梗塞後の病的状態および死亡率を減少させ、患者の生活様式および寿命を改善する最終的には臨床目的で、いくつかの薬理学的薬剤を標的化および探索することに焦点が当てられてきた。しかし、結局は、梗塞サイズの減少の結果は、むしろ不十分であった。前臨床研究において試験された薬物は、心筋傷害の出現を遅延させる能力を有し得るが、梗塞サイズの真の縮小を恒久的に生じることができないことが、一般に受け入れられている。
【0006】
本発明は、全体的または全体に満たない虚血を既に受けている器官または組織に対する再灌流傷害が、再灌流の開始の間に、再灌流(血流)状態を改変すること(すなわち、早期の再灌流期間の改変)によって有意に軽減され得る処置方法(事後調節)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本明細書中で提供されるのは、器官または組織に対する虚血事象後の再灌流の間または再灌流後に、被験体における器官または組織に対する傷害を防止する方法であり、この方法は、以下の工程を包含する:a)約5秒〜約5分の間、器官または組織の灌流を停止する工程;b)約5秒〜約5分の間、その器官または組織を灌流する工程;c)約2回から約50回にわたって連続的に、工程a)およびb)を反復する工程;ならびにd)その器官または組織の灌流の停止を終了し、それにより、虚血事象後の被験体における器官または組織に対する傷害を防止する工程。
【0008】
心臓の虚血事象と診断された被験体における心臓に対する傷害を防止する方法もまた提供され、この方法は、以下の工程を包含する:a)冠動脈の管腔を洗浄する工程;b)約5秒〜約5分の間、心臓を灌流する工程;c)約5秒〜約5分にわたって、心臓の灌流を停止する工程;d)約2回から約50回にわたって連続的に、工程b)およびc)を反復する工程;ならびにe)心臓の灌流を再開し、それによって、心臓の虚血事象と診断された被験体における心臓に対する傷害を防止する工程。
【0009】
器官または組織に対する虚血事象後の再灌流の間または再灌流後に、被験体における器官または組織に対する傷害を防止する方法もまた提供され、この方法は、以下の工程を包含する:a)約5秒〜約5分にわたって、器官または組織の灌流を減少させる工程;b)約5秒〜約5分にわたって、その器官または組織を灌流する工程;c)約2回から約50回にわたって連続的に、工程a)およびb)を反復する工程;ならびにd)その器官または組織の灌流の停止を終了し、それにより、虚血事象後の被験体における器官または組織に対する傷害を防止する工程。
【0010】
心臓の虚血事象と診断された被験体における心臓に対する傷害を防止する方法もまた提供され、この方法は、以下の工程を包含する:a)冠動脈の管腔を洗浄する工程;b)約5秒〜約5分にわたって、心臓を灌流する工程;c)約5秒〜約5分にわたって、心臓の灌流を減少させる工程;d)約2回から約50回にわたって連続的に、工程b)およびc)を反復する工程;ならびにe)心臓の灌流を再開し、それによって、心臓の虚血事象と診断された被験体における心臓に対する傷害を防止する工程。
より特定すれば、本発明は、以下の項目に関し得る。
(項目1)
器官または組織に対する虚血事象後の再灌流の間または再灌流後に、被験体において上記器官または組織に対する損傷を予防する方法であって、上記方法は、以下:
a)約5秒間〜約5分間にわたって、上記器官の灌流を停止する工程;
b)約5秒間〜約5分間にわたって、上記器官の灌流を再開する工程;
c)約2回〜約50回にわたって、工程a)およびb)を連続して繰り返す工程;ならびに
d)上記器官または組織の不断の灌流を可能にし、それによって、虚血事象後の上記被験体における上記器官または組織に対する損傷を予防する、工程、
を包含する、方法。
(項目2)
上記器官または組織が、心臓、脳、腎臓、腸、膵臓、肝臓、肺または骨格筋である、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記被験体が哺乳動物である、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記哺乳動物がヒトである、項目3に記載の方法。
(項目5)
上記灌流を停止する工程が、上記器官または組織に血液を供給する血管の管腔内のバルーンによってもたらされる、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記バルーンが、膨張可能かつ収縮可能である、項目5に記載の方法。
(項目7)
上記灌流を停止する工程が、上記器官または組織に血液を供給する血管の外部圧迫によりもたらされる、項目1に記載の方法。
(項目8)
薬学的に受容可能なキャリア中の、有効量の組織保護剤を、上記被験体に投与する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目9)
心臓の虚血事象を有すると診断された被験体において、上記心臓に対する損傷を予防する方法であって、上記方法は、
a)冠状動脈の管腔を清浄化する工程;
b)約5秒間〜約5分間にわたって、上記心臓を灌流する工程;
c)約5秒間〜約5分間にわたって、上記心臓の灌流を停止する工程;
d)約2回〜約50回にわたって、工程b)およびc)を連続して繰り返す工程;ならびに
e)上記心臓の不断の灌流を可能にし、それによって、上記被験体における上記心臓に対する損傷を予防する、工程、
を包含する、方法。
(項目10)
上記灌流を停止する工程が、上記冠状動脈の管腔内のバルーンによってもたらされる、項目9に記載の方法。
(項目11)
上記バルーンが、膨張可能かつ収縮可能である、項目10に記載の方法。
(項目12)
上記灌流を停止する工程が、上記冠状動脈の外部圧迫によりもたらされる、項目9に記載の方法。
(項目13)
薬学的に受容可能なキャリア中の、有効量の組織保護剤を、上記被験体に投与する工程をさらに包含する、項目9に記載の方法。
(項目14)
器官または組織に対する虚血事象後の再灌流の間または再灌流後に、被験体において上記器官または組織に対する損傷を予防する方法であって、上記方法は、以下:
a)約5秒間〜約5分間にわたって、上記器官の灌流を低減する工程;
b)約5秒間〜約5分間にわたって、上記器官の灌流を再開する工程;
c)約2回〜約50回にわたって、工程a)およびb)を連続して繰り返す工程;ならびに
d)上記器官または組織の不断の灌流を可能にし、それによって、虚血事象後の上記被験体における上記器官または組織に対する損傷を予防する、工程、
を包含する、方法。
(項目15)
上記器官または組織が、心臓、脳、腎臓、腸、膵臓、肝臓、肺または骨格筋である、項目14に記載の方法。
(項目16)
上記被験体が哺乳動物である、項目14に記載の方法。
(項目17)
上記哺乳動物がヒトである、項目16に記載の方法。
(項目18)
上記灌流を低減する工程が、上記器官または組織に血液を供給する血管の管腔内のバルーンによってもたらされる、項目14に記載の方法。
(項目19)
上記バルーンが、膨張可能かつ収縮可能である、項目18に記載の方法。
(項目20)
上記灌流を低減する工程が、上記器官または組織に血液を供給する血管の外部圧迫によりもたらされる、項目14に記載の方法。
(項目21)
薬学的に受容可能なキャリア中の、有効量の組織保護剤を、上記被験体に投与する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目22)
心臓の虚血事象を有すると診断された被験体において、上記心臓に対する損傷を予防する方法であって、上記方法は、
a)冠状動脈の管腔を清浄化する工程;
b)約5秒間〜約5分間にわたって、上記心臓を灌流する工程;
c)約5秒間〜約5分間にわたって、上記心臓の灌流を低減する工程;
d)約2回〜約50回にわたって、工程b)およびc)を連続して繰り返す工程;ならびに
e)上記心臓の不断の灌流を可能にし、それによって、上記被験体における上記心臓に対する損傷を予防する、工程、
を包含する、方法。
(項目23)
上記灌流を低減する工程が、上記冠状動脈の管腔内のバルーンによってもたらされる、項目22に記載の方法。
(項目24)
上記バルーンが、膨張可能かつ収縮可能である、項目23に記載の方法。
(項目25)
上記灌流を低減する工程が、上記冠状動脈の外部圧迫によりもたらされる、項目22に記載の方法。
(項目26)
薬学的に受容可能なキャリア中の、有効量の組織保護剤を、上記被験体に投与する工程をさらに包含する、項目22に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、虚血後(I)および再灌流後(R)の心筋層に対する事後調節(post−conditioning)における1つの可能なバリエーションの効果を決定するために使用される実験プロトコルを示す。コントロール群(n=10);Post−con(n=10);Pre−con(n=9);虚血事前調節を、それぞれ、5分の冠動脈閉塞、次いで10分の再灌流、その後の60分の左前下行冠動脈(LAD)閉塞、および30秒の再灌流、次いで30秒の閉塞、その後の3時間の再灌流の事後調節3サイクルにより誘発した。Post−conは、事後調節であり;Pre−conは、事前調節である。
【図2】図2は、塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色 対 事前調節染色により決定した場合の虚血事後調節による心筋梗塞サイズにおける減少を示す棒グラフである。危険性面積(AAR)は、左心室(LV)質量と比較して示され(AAR/LV)、そして壊死面積(AN)は、AARのパーセントとして示される(AN/AAR)。虚血事後調節は、コントロール群と比べて48%だけAN/AARを有意に低減し、従って、虚血事前調節の心臓保護と等しい心臓保護を実証した(コントロール群に対して、P<0.05)。値は、群の平均±S.E.Mである。
【図3】図3は、虚血事後調節による、LAD灌流心筋層における心筋浮腫の減少を示す棒グラフである。正常:非虚血領域;Isch−epi:虚血心外膜下;Isch−endo:虚血心内膜下。虚血事後調節は、コントロール群と比較して、組織水分含量を有意に減少した(正常領域に対してP<0.05)。コントロール群に対して†p<0.01。値は、群の平均±S.E.Mである。
【図4】図4は、冠動脈閉塞および再灌流の間の血漿クレアチンキナーゼ(CK)活性を示すグラフである。血漿CK活性は、ベースラインおよび虚血後の2つの群の間で同等であった。梗塞サイズにおける減少と一致して、虚血事後調節は、コントロール群の値と比較して、再灌流の開始2時間においてCK活性を有意に減少した。値は、平均±S.E.Mである。ベースラインおよびIsch値に対してP<0.01。コントロール群に対して†p<0.05。
【図5】図5は、虚血−再灌流心筋層における局所壁内心筋血流を示す線グラフである。ベースラインおよび虚血中の値は、2つの群の間で同等であった。15分の再灌流における充血が、虚血事前調節および事後調節により有意に阻害された。値は、平均±S.E.Mである。虚血に対してP<0.05。コントロール群に対して†P<0.05。
【図6】図6は、器官室内のアセチルコリンの漸増濃度に対する応答として評価される、非虚血性の左回旋冠動脈(LCX)冠動脈輪および虚血−再灌流(LAD)冠動脈輪の、虚血−再灌流後内皮機能を示す線グラフである。再灌流におけるアセチルコリンに対する応答は、非虚血LCX冠動脈輪の応答に対して、有意に鈍化された。虚血事後調節における応答は、有意に増加し、このことは、事後調節におけるより良好な内皮機能および虚血−再灌流傷害の回避を示唆する。値は、5匹のイヌ由来の少なくとも12の輪の平均±S.E.M.である。虚血事後調節および事前調節に対してコントロール群においてP<0.05。
【図7】血管平滑筋の血管拡張薬であるニトロプルシドに対する、非虚血LCX冠動脈輪および虚血−再灌流(LAD)冠動脈輪の応答を示す線グラフである。全ての群において群の差異は検出されず、このことは、血管平滑筋機能が正常であり、そして群間で同等であることを示唆する。
【図8】虚血事後調節 対 虚血事前調節による、冠状動脈内皮への非刺激蛍光標識好中球の付着の阻害を示す棒グラフである。付着の程度は、酸化窒素またはアデノシンの基礎生成の損失と関連して、冠動脈内皮が受ける損傷の程度と相関している。LCX:非虚血左回旋冠動脈;LAD:虚血/再灌流左前下行冠動脈;Post−LAD:虚血事後調節群におけるLAD;Pre−LAD:虚血事前調節群におけるLAD。虚血事前調節による保護と同程度の効力で、虚血事後調節は、コントロール群と比較して、冠動脈内皮への好中球の付着を有意に阻害した。値は、群の平均±S.E.M.である。LCXに対してP<0.05;コントロール群におけるLADに対して†P<0.01。
【図9】図9は、LAD虚血および再灌流後の、異なる実験群における非虚血(正常)領域および虚血領域における、好中球蓄積のマーカーとしての組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO デルタ吸光度Δ単位/分(abs/min.))活性を示す。増加したMPO活性は、コントロールAARにおける再灌流の終点において見られた。虚血事後調節は、コントロール群と比較して、MPO活性を有意に低減し、そして事前調節群におけるMPO活性と同等であった。棒の高さは、平均±SEMを表す。正常組織に対して*p<0.05;コントロール群に対してPost−con群およびPre−con群†p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないと指示しない限り、複数の指示物を含むことに留意しなければならない。従って、例えば、「薬剤(an agent)」への言及は、その薬剤の複数のコピーを含み、1つより多くの特定の薬剤の種も含み得る。
【0013】
経皮的冠動脈形成術(PTCA)および/または冠状動脈バイパス移植外科手術(CABG)に関連する虚血性心臓疾患の処置において適用される場合、防御的効果を提供することによって、虚血性/再灌流された心筋において損傷を最小限に押さえる方法が、本明細書中に提供される。この方法(事後調節(post−conditioning))は、他の臨床的状態(例えば、ドナー器官が、一時的虚血、腎血管形成、および大脳血栓または大脳辺縁血栓の剥離に罹患した場合、器官移植後)において適用される。さらに、事後調節は、薬学的治療と組み合わせて適用されるか、または事後調節に関する機構の媒介因子を利用する薬学的治療により模倣され得る。本明細書において使用される場合、「事後調節(post−conditioning)再灌流」は、以前虚血に影響された器官または組織の、灌流を停止するかまたは減じること、次いで環流を再開することの繰り返しのサイクルの適用を意味する。本明細書において使用される場合、「灌流」および「灌流する」は、器官または組織への血流、器官または組織を通る血流、あるいは器官または組織内への血流を意味する。本明細書において使用される場合、「再灌流」は、器官または組織への血流の一定期間の中断、器官または組織を通る血流の一定期間の中断または器官または組織内への血流の一定期間の中断の後、器官または組織への血流の回復(restration)または再開(resumption)、器官または組織を通る血流の回復または再開、あるいは器官または組織内への血流の回復または再開である。
【0014】
本明細書において使用される場合、「障害(損傷)」は、例えば、浮腫(腫瘍)、機能の消失および/または白血球による器官または組織の浸潤によって証明されるような、器官または組織の損傷あるいは潜在的損傷あるいは機能障害を意味する。障害は、最小(例えば、器官および組織を構成する細胞のかろうじて認識できる程度の腫瘍)になるように使用され得る。さらに、障害は、虚血(虚血性事象)の期間の間および/または後、あるいは(再灌流損傷)の期間の後に起こる器官および組織に対する損傷を含み得る。本明細書において使用される場合、「損傷した(障害を有する)」または「標的化された」器官あるいは組織は、虚血性事象または再灌流由来のいくつかの潜在的損傷を有するか、または有し得る器官または組織である。「白血球」は、好中球、リンパ球、単球、マクロファージ、好塩基球または好酸球であり得る。本明細書において使用される場合、「虚血」は、器官または組織に血液の供給を中断することを意味し、それは、例えば、動脈中の機械的閉塞(すなわち、血栓または塞栓)、動脈の外的圧迫、器官(例えば、ある被験体から外科的に取り除かれ、次に別の被験体に移植された器官)に対する動脈における血流の医原的遮断および/または低血圧(低い血圧)によって引き起こされ得る。低血圧は、不整脈、血管拡張を引き起こす不整脈神経因性反射、およびその後の低部の四肢における血液の貯留(すなわち、血管迷走神経性反射)、被験体による不適当な流体の取り込み、または外傷を負った被験体による血液の損失、による血液量減少(すなわち、血管内流体の量の減少)から生じ得。従って、「虚血性障害」は、器官または組織への血流の中断から起こる、器官または組織に対する損傷または潜在的な損傷を意味する(すなわち、虚血性事象)。本明細書において使用される場合、「再灌流中断」は、虚血性事象の間または後の器官または組織または次の虚血性事象に対する血流の再開から起こる、器官または組織に対する損傷または潜在的な損傷である。「虚血性事象」は、器官または組織に対する血液供給の中断である。本明細書において使用される場合、「全」虚血性事象は、器官または組織に対する血液供給の完全な中断である。本明細書において使用される場合、「大半の(subtotal)」虚血性事象は、器官または組織に対する血液供給の不完全な中断である。虚血性事象にさらされるか、および/または虚血性事象に罹患し得る器官または組織の例としては、心臓、脳、腎臓、腸、脾臓、肝臓、肺および骨格筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
従って、器官または組織に対する虚血性事象後の再灌流の間または後の被験体において器官または組織に対する障害を防止する方法が提供される。この方法は、以下:a)約5秒〜約5分の間、器官または組織の灌流を停止すること;b)約5秒〜約5分の間、器官または組織の灌流を再開すること;c)実質的に、工程a)および工程b)を、連続して約2〜約50回繰り返すこと;およびd)器官または組織の灌流の停止を終了すること、それによって、虚血性事象後の再灌流の間または後に、被験体中の器官または組織に対する障害を防止することを包含する。
【0016】
また、器官または組織に対する虚血性事象後の再灌流の間または後の被験体において器官または組織に対する障害を防止する方法が本明細書に提供される。以下:a)約5秒〜約5分の間、器官または組織の灌流を減らす工程;b)約5秒〜約5分の間、器官または組織の灌流を再開する工程;c)実質的に、工程a)および工程b)を、約2〜約50回連続して繰り返す工程;およびd)器官または組織に対する灌流をの減少を終了する工程、それによって、虚血性事象後の再灌流の間または後の被験体中の器官または組織に対する障害を防止することを包含する。本明細書において使用される場合、「灌流を減少する」は、器官または組織に対する障害が、防止されるように灌流の量を減少することを意味する。例えば、灌流を、期待される血流の約20%、15%、10%または5%に減少されることが、企図される。単一手順において、灌流を停止することおよび減少することの組み合わせがまた、企図される。
【0017】
本明細書において使用される場合、被験体は、家庭用動物(例えば、ネコ、イヌなど)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)およびトリ、が挙げられ得る。好ましくは、被験体は、哺乳類(例えば、霊長類)、より好ましくは、鳥類である。
【0018】
再灌流が、確立された後、虚血を起こす器官または組織に対する障害は、器官または組織の灌流を停止または減少を繰り返すこと、および次に、器官または組織の灌流を再開することによって防止され得る。灌流を減少または停止すること、および灌流を再開することのサイクルは、約2〜約50回、繰り返され得る。器官または組織の灌流
を停止または減少することは、約5秒〜約5分間続けられ得、その後の、器官または組織の灌流の再開は、約5秒〜約5分間続けられる。灌流を停止または減少すること、および開始することの最終サイクルの後、器官または組織に対する血流は、衰えずに回復するか、またはコントロールの割合以下であり得る。例えば、最後のオン−オフサイクルの後、血流は、ゆっくりと開始し、通常の血流を達成するまで、段階的に増加され得る。当業者は、再開し得る血流の速度を決定するための当該分野において公知のアルゴリズムを使用し得る。
【0019】
当業者は、血管における血流を一時的に遮断するために使用され得る機械デバイスを、器官または組織へ血液を供給する血管の管腔内へと導入することによって、器官または組織の灌流を停止または減少させ得る。選択された期間後に、このデバイスを操作して、器官または組織の灌流を回復し得る。灌流の停止または減少そして器官または組織の灌流の再開というサイクルを選択された回数で実施した後、当業者は、血管の管腔からデバイスを取り外し得、その結果、再灌流(すなわち、器官または組織への血流)が、回復される。血管は、動脈でも静脈でもよく、好ましくは、動脈であり得る。
【0020】
事後調節再灌流において使用され得る機械的デバイスの例は、医療用バルーンが装着されたカテーテルであり、このバルーンは、脈管内で膨張して、損傷した器官または組織への血流を遮断し得、そして収縮して損傷した器官または組織への血流を回復し得る。カテーテル/バルーンデバイスは、手術手順の間、脈管へ、経皮的にかまたは直接かのいずれかで、被験体の血管へと導入され得る。カテーテル/バルーンが、脈管内に入った後、当業者は、周知の方法に従って、X線透視制御下で特定の動脈にカテーテル/バルーンデバイスを案内し得る。
【0021】
本発明の別の実施形態において、中空カテーテルは、被験体の脈管へと導入され得る。カテーテルの管腔の直径は、血液、流体または血液/流体の組み合わせが、そのカテーテルを通って標的とする器官または組織へ流れるのに十分に大きいものであり得る。カテーテルは、被験体の外部にあるポンプへ結合され得る。このポンプを作動させて、カテーテルを通して標的とする器官または組織へ血流を送り込み得、そして停止させることで、標的とする器官または組織への血流を停止または減少し得る。虚血性損傷を患う器官または組織の再灌流が、確立された後、当業者は、ポンプを停止させて、標的とする器官または組織の灌流を停止または減少させ得る。選択された期間、例えば、約5秒〜約5分の後、当業者は、ポンプを作動させて、約5秒間〜約5分間標的とする器官の灌流を開始し得る。このポンプを使用して、約2〜約50サイクルの、標的とする器官または組織の灌流の停止または減少、および開始が可能になる。事後調節(post−conditioning)の処理が完了すると、このカテーテルを、被験体から取り外し得る。
【0022】
本発明の別の実施形態において、再灌流が確立された後、医師は、脈管の外部の圧力を使用して、虚血によって器官または組織への血流を停止または減少し得る。医師は、グローブ付ハンド、結紮線、または外科的器具(例えば、クランプまたは止血物質)を使用して、脈管を通る損傷した器官または組織への血流を一時的に停止または減少し得る。脈管を通る血流が、選択された期間、停止または減少された後、医師は、ハンド、結紮線、または外科的器具を脈管から取り外し、それにより、損傷した器官または組織への血流の妨害を取り除き得る。損傷した器官または組織の灌流を一時的に停止または減少、および回復する、選択された回数のサイクルの後、医師は、さらなる介在をすることなく、器官または組織への血流を回復し得る。
【0023】
虚血を以前に患った器官または組織の事後調節再灌流の間またはその後、医師は、器官または組織への損傷をさらに防止し得る薬学的に受容可能なキャリア中の有効量の組織保護剤を被験体に投与し得る。本明細書で使用される場合、本発明の薬剤の「有効量」は、当業者に公知の所望の結果を達成するのに必要とされる量である。事後調節再灌流の所望の結果を有し得る器官または組織の例は、心臓であり、ここで、梗塞の大きさの減少、心筋水腫の減少、クレアチンキナーゼの放出の減衰、早期再灌流の間の充血の抑制、内皮依存性脈管緩和の増大、虚血/再灌流した冠動脈内皮への好中球接着の減少、増加した収縮機能および虚血心筋層における好中球蓄積の減少が、モニタリングおよび達成され得る。従って、本発明の方法に従って処置された心臓は、より良好な全体の機能(例えば、増加した拍出量および重症心不全に起因するより小さい心臓のサイズ、より少ない不整脈、ならびに安定な心拍数)を提示し得る。さらに、被験体は、運動に対してより良好な耐性を提示し得、そして続く心臓発作により良好に耐え得る。
【0024】
「薬学的に受容可能なキャリア」は、生物学的に、または別の点で所望でないことがない物質を意味する。すなわち、この物質は、実質的に有害な生物学的効果を引き起こすことなく、またはそこに含まれる組成物の任意の他の成分と有害な様式で相互作用することなく、保護剤とともに個体に投与され得る。組織保護剤は、脈管が損傷した器官または組織に進入する部位付近の脈管の管腔内にあるカテーテルを介して投与され得るか、または静脈内にかまたは全身性の動脈に投与され得る。組織保護剤の例としては、限局した水腫および炎症を抑制するステロイド、アデノシン、抗酸化剤、損失した静脈内の流体を置換し、そして血液を希釈するための生理食塩水、血小板凝固のアンタゴニスト、血栓溶解剤および抗凝固剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
組織保護剤の投薬量は、使用される特定の薬剤に依存する。当業者は、組織保護剤の適切な投薬量を知っており、本明細書中の技術を考慮して、慣用に過ぎない実験を使用して、被験体の年齢、体重、性別および全体的状態に従って投薬量を変動させ得る(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Martin,E.W.(編)、最新版、Mack Publishing Co.、Easton、PAを参照のこと)。例えば、抗凝固剤であるヘパリンの投薬量は、約10単位〜約10,000単位であり得る。組織保護剤およびそのそれぞれの投薬量範囲の他の例としては、ステロイド:10nM〜10mM;アプロチニン(セリンプロテアーゼインヒビター):1U/mL〜1000/mLU冠状動脈内);アデノシン:1μM〜500mM;一酸化窒素および関連化合物(例えば、ニトロプルシドナトリウム):10−6〜10−2M;およびナトリウム水素交換インヒビター(例えば、カリポリド(cariporide):1nM〜100μM、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
心臓の虚血事象を有すると診断された被験体において、心臓に対する損傷を予防する方法もまた本明細書中に提供され、この方法は、a)冠状動脈の管腔を清浄化する工程;b)約5秒間〜約5分間にわたって心臓を灌流する工程;c)約5秒間〜約5分間にわたって心臓の灌流を停止する工程;d)約2回〜約50回にわたって、工程b)およびc)を連続して繰り返す工程;ならびにe)心臓の灌流を再開し、それによって、被験体における心臓に対する損傷を予防する工程、を包含する。
【0027】
心臓の虚血事象を有すると診断された被験体において、心臓に対する損傷を予防する方法がさらに提供され、この方法は、a)冠状動脈の管腔を清浄化する工程;b)約5秒間〜約5分間にわたって心臓を灌流する工程;c)約5秒間〜約5分間にわたって心臓の灌流を低減する工程;d)約2回〜約50回にわたって、工程b)およびc)を連続して繰り返す工程;ならびにe)心臓の灌流を再開し、それによって、被験体における心臓に対する損傷を予防する工程、を包含する。
【0028】
本明細書中で使用される場合、心臓の「虚血−再灌流事象」(心臓発作)は、心臓の筋肉(心筋)が、血流の回復(再灌流)が最終的に生じる、血液供給の中断(虚血)に罹患している場合に生じる事象である。虚血の間、筋肉は急速に機能を失い、エネルギー供給が枯渇し、そして炎症を伴う変化を受ける。第二に、炎症の増加、心臓のこの領域における白血球の活性化、組織水腫および膨潤、心臓発作に関与する領域における心臓の筋肉に供給する小血管に対する損傷、ならびにより大量の心臓組織を含むような壊死(細胞死)の拡大によって特徴付けられる、より強力または爆発的な損傷(すなわち、再灌流事象)が、再灌流の発生時に生じる。「心筋梗塞」によって、心筋の一部が壊死またはアポトーシス(プログラム細胞死)を受けた、心臓に対する虚血性損傷が意味される。それゆえ、心臓発作の間の心臓に対する損傷は、虚血および再灌流の両方の間に生じる。
【0029】
進行している心臓発作は、虚血および再灌流の両方の間の、損傷の動的な性質を反映する。従って、虚血によって開始されたかまたは虚血によって誘発された損傷は、再灌流の発生後に継続し得、再灌流の発生において、細胞機能は、さらに悪化し得、そして実際に死につつある筋肉の量は、再灌流と共に増大する。虚血損傷と再灌流損傷との間には、虚血事象が再灌流損傷についての場を設けるという点で、明確な関連性が存在する。虚血事象が重篤であるほど、引き続く再灌流損傷は重篤である。従って、これら2つの事象は、しばしば、これら2つの別個ではあるが相互に関連する事象間の緊密な関連を反映して、虚血−再灌流事象と称される。介入は、虚血損傷の減少または再灌流損傷の減少のいずれかに関し得る。
【0030】
医療施設にいる、心臓発作の徴候および症状を呈する被験体が、本明細書中に教示される方法に従って処置されるべきであると、適時に診断され得ることが企図される。被験体の冠状動脈の血管造影試験の間に、冠状動脈が、血栓、塞栓、コレステロールプラークまたは他の閉塞物によって、(部分的または完全に)遮断され、そして遮断された動脈が、PTCAによって開放され得ることを決定する場合、医師は、被験体の大腿静脈へと、バルーンカテーテルを経皮的に挿入し得、そして遮断された冠状動脈へとカテーテルを導き得る。バルーンが、冠状動脈中の血流の遮断部位またはその近傍に適切に配置された後、医師は、バルーンを操作および/または膨張させて、血管壁に対して、血栓、塞栓、コレステロールプラークまたは他の閉塞物を圧縮し、それによって、管腔を清浄化し、そして心筋を再灌流し得る。
【0031】
損傷および/または再灌流が確立された後の損傷した心筋への引き続く損傷を予防するために、事後調節(post−conditioning)が実施され得る。具体的には、医師は、バルーンカテーテルを適所に残して、約5秒間〜約5分間にわたってバルーンを再膨張させて、損傷した心筋の灌流を停止または低減し得る。選択された期間の灌流の停止または低減の後、医師は、約5秒間〜約5分間にわたってバルーンを収縮させて、心筋の灌流を再開し得る。冠状動脈の管腔内でバルーンを膨張および収縮させるこのサイクルは、例えば、約2〜約50回繰り返され得る。バルーンの最終的な収縮後、医師は、バルーンカテーテルを取り出す。
【0032】
本発明の別の実施形態において、虚血事象を有すると診断され、PTCAを受けにくい冠状動脈疾患を有すると見出された被験体は、CABG手術で処置され得る。手術手順の間、および罹患した冠状動脈がバイパスされて、心筋への血流が再開した後に、外科医は、手袋をした手、結紮糸、またはクランプもしくはヘモスタットのような外科器具で、移植した血管を圧縮することによって、損傷した心筋の灌流を停止または低減することによって、事後調節された再灌流をもたらし得る。灌流の停止または低減は、約5秒間〜約5分間にわたって維持され得る。選択された期間が経過した後、外科医は、手、結紮糸または外科器具を血管から取り外し、それによって、移植片を介して、損傷された心筋への血流を再開し得る。損傷した心筋の灌流は、約5秒間〜約5分間にわたって継続され得る。灌流の停止または低減のサイクル、および損傷した心筋の灌流の再開は、約2〜約50回繰り返され得る。最後のサイクルの終わりに、損傷した心筋の灌流が維持される。
【0033】
以下の実施例は、当業者に、本明細書中にて特許請求される組成物および/または方法をどのような作製し評価するかの完全な開示および説明を提供するために示されており、本発明の純粋な例示であることが意図され、本発明者らが本発明であると見なすものの範囲を制限することは意図されない。数量(例えば、量、温度など)に関して精度を確保するための努力を行ったが、いくらかの誤差および偏差が計上されるべきである。本発明は、以下の実施例においてより詳細に記載される。以下の実施例は、例示のみとして意図される。なぜなら、この実施例における多数の改変および変更が、当業者に明らかであるからである。
【実施例】
【0034】
事後調節の概念を、局所的心筋虚血および再灌流の開胸イヌモデルにおいて試験した。すべての動物を、以下の3つの群のうちの1つにランダムに割当てた(図1):1)コントロール:左前方下行冠動脈(LAD)を、可逆的に60分間閉塞し、その後、虚血心筋層を3時間再灌流した;2)虚血性事後調節(Post−con):60分間のLAD閉塞後、まず、虚血心筋層を、3サイクルの反復適用する、再灌流とその後の虚血(すなわち、30秒の再灌流と、その後の30秒間の閉塞を、3回連続するサイクルで反復した)を使用して再灌流した;3)虚血性前条件付け(Pre−con):5分間のLAD閉塞および10分間の再灌流を、60分間の心筋虚血前に実施した。
【0035】
図1〜9は、虚血性心臓/再灌流心臓に対する事後調節の健康効果を示す。その効果は、死後の生体染色(塩化トリフェニルテトラゾリウム)[6]により測定される梗塞サイズの減少を包含する。このことは、動脈血から分光光度法により測定したクレアチニンキナーゼの放出の減少により確認された[6]。クレアチンキナーゼは、細胞に対する重篤な致死的損傷が存在する場合にのみ、細胞から逃れる細胞内高分子である。
【0036】
さらに、事後調節は、組織乾燥により測定されたところ、以前に虚血性であった心筋層における心筋浮腫の減少と関連している。組織浮腫(水獲得)は、微小血管が重度に損傷されて脈管空間中に血液を保持できない場合に生じる。心筋層中に漏出した流体は、その損傷した毛細管を囲みかつ圧迫し得、心筋への血流をさらに減少し得る。この脈管損傷は、心筋層への不可逆的損傷(例えば、壊死)に関連する。
【0037】
事後調節はまた、標的冠動脈の周囲に配置された電気的血流プローブにより測定される初期再灌流の間に、虚血後充血を阻害する。このことは、短期間の断続的灌流の間に心筋のエネルギー需要を満たすために十分な酸素送達が存在することを、示唆する。
【0038】
事後調節は、インビトロ技術により測定されたところ、アセチルコリンに対する有意に大きな内皮依存性脈管弛緩応答に関連している。アセチルコリンは、血管弛緩剤である酸化窒素の内皮特異的刺激剤である[7]。冠動脈、細動脈、および細静脈の内皮は、再灌流損傷に対して異常に感受性であり、最初のわずかな再灌流の瞬間において閉塞する。脈管内皮の救助は、重要である。なぜなら、健常な内皮は、血流調節の異常を防ぎ、それにより、以前に虚血であった領域中への好中球の移動と、動脈中での血餅の形成との誘発とを防ぐからである。再灌流した血管における血餅は、二次虚血を引き起こし得、最終的には、心臓組織の死をもたらし得る。蛍光顕微鏡法により測定される虚血性冠状内皮/再灌流冠状内皮への好中球付着の減少もまた、事後調節を伴う虚血後内皮機能の改善を示す。
【0039】
さらに、事後調節は、再灌流後の心筋層からの組織サンプルのミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイにより測定したところ、虚血性心筋層における好中球蓄積を弱めた。このことは、事後調節が、梗塞、収縮性機能不全およびアポトーシスの病因に関連付けられている、虚血/再灌流に対する炎症応答を減少したことを示唆する。
【0040】
種々の改変および変化は、本発明の範囲からも趣旨からも逸脱することなく、本発明においてなされ得ることが、当業者に明らかである。本発明の他の実施形態は、本明細書を考慮すること、および本明細書中に開示される本発明を実施することから、当業者に明らかになる。本明細書および実施例は、例示としてのみ考慮されるべきであり、本発明の真の範囲および趣旨は、特許請求の範囲により示されることが意図される。
【0041】
本出願全体を通して、種々の刊行物が、参照される。これらの刊行物の開示全体が、本発明に関与する技術水準をより完全に記載するために、本出願において本明細書中に参考として援用される。
【0042】
(参考文献)
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
器官または組織に対する虚血事象後の再灌流の間または再灌流後に、被験体において該器官または組織に対する損傷を予防するためのシステムであって、該システムは、以下:
a)約5秒間〜約5分間にわたって、該器官の灌流を停止するための手段;
b)約5秒間〜約5分間にわたって、該器官の灌流を再開するための手段;
c)約2回〜約50回にわたって、手段a)およびb)を連続して繰り返すための手段;ならびに
d)該器官または組織の不断の灌流を可能にし、それによって、虚血事象後の該被験体における該器官または組織に対する損傷を予防するための手段、
を包含する、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−172394(P2009−172394A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70979(P2009−70979)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【分割の表示】特願2003−559431(P2003−559431)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(506055047)
【出願人】(506055058)
【Fターム(参考)】