説明

心臓再同期療法の最適化方法

左心室及び両心室がペーシングする前、及びペーシングしている間の心臓の収縮及び弛緩のパターンは、外科医が心臓再同期療法を適用するために患者を選別し、最適なAVあるいは右心室左心室間ディレイを設定し、最適な心機能をもたらすペーシングの部位を選択するのを手助けするために、リアルタイムモードで分析され、表示される。本システムは、加速度計センサ(40)、プログラム可能なペースメーカー(35、41)、コンピュータデータ解析モジュール(32)を含み、さらに分析結果を表示する2D及び3Dヴィジュアルグラフィックディスプレイ(43、44)、例えば、心室収縮マップを含んでいてもよい。フィードバックネットワーク(32)は、最適なペーシングリードの配置のための指示を提供する。本方法は、心臓ペーシング装置のリードを配置する位置を選択するステップと、患者の心臓がペーシングされているときの心臓の動きに対応する振動心臓記録計(SCG)データを収集するステップと、SCGデータに基づき血行動態パラメータ及び電気生理学的パラメータを求めるステップと、他のリードの配置位置を求めるために先に行ったステップを繰り返すステップと、各々異なるリード配置位置について血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを比較することにより心機能を最良にするリード配置位置を選択するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、同発明者が2002年7月29日に提出した米国仮出願番号60/399,028について優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、心臓再同期療法(CRT)に使用される心臓ペーシング装置の植込みに関する。詳しくは、CRTが有効と考えられる患者の選別をリアルタイムに行い、一本またはそれ以上のリードの配置を最適化し、心臓ペーシング装置の最適な設定を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心不全を患う人は世界中で約2,500万人おり、毎年約200万人の人が新たに心不全と診断されている。米国では、心不全による入院日数は1年あたり延べ680万日、治療費の総額は年間380億ドルを越え、これは高齢化とともに増加を続けている。また、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、β遮断薬、ジゴキシン等の薬物治療による心筋梗塞および高血圧症からの生存率の向上により、うっ血性心不全の患者数も増加している。多くの患者が最大限の内科的治療にもかかわらず依然として顕著な症状を示している。さらに、左室不全患者は進行性心不全または突然死の危険がより大きい。
【0004】
心臓病患者においては、うっ血性心不全が心室の同期拍動に影響を及ぼしていることがあり、そのために左心室は効率的に血液を拍出して体内に必要な酸素および栄養分を供給することができない。心不全患者の約30パーセントは心室内伝導遅延または脚ブロックと呼ばれる心臓の電気伝導系の異常であり、これは左心室の非同期拍動を引き起こす。これにより、すでに心臓に損傷を受けている患者の左心室の効率は大きく低下し、さらに、左右両心室は同時に拍動しているにも関わらず、その位相がわずかにずれ始める。
【0005】
また数はかなり少ないが、心電図(ECG)形におけるQRS群の延長を示したうっ血性心不全患者もいる。このQRS群は心室脱分極にかかる時間を表しているが、その延長は心室内伝導異常を示すものであり左室収縮機能の低下と関連している。新たにQRS延長が見られるということは左室機能の低下と関係している。
【0006】
通常、電気的活性はヒス束およびプルキンエ系を経由して伝達され、刺激が中隔から複数の傍隔壁域に隔壁を貫いて広がり、心室の同期収縮が起こる。心不全患者の場合、多くは心臓の電気伝導がうまくいかないために左脚ブロック(LBBB)または心室内伝導遅延と呼ばれるパターンになる。このような患者のQRS群の持続時間は、正常値が100ミリ秒未満であるのに対し、130ミリ秒(ms)を越えることもある。LBBBの場合、左心室は、右心室側から前壁中隔に続いて下壁中隔へと中隔全体が活性化される。そして最後に、心底から離れている場合が多い左心室の後部下面が活性化される。
【0007】
さらにLBBBの患者においては、左右の心室収縮期開始の遅れが85msほど続き、大動脈弁開放および大動脈弁閉鎖、僧帽弁開放が著しく遅くなることもある。LBBBは右室イベントのタイミングには影響しないため、左室イベントの遅れによって左右心室の収縮順序が通常とは逆になる。さらにLBBB患者の等容性収縮時間の幅は広く(20〜100ms)、左室の活性化が不均一であることを示唆している。大動脈弁閉鎖の遅れにより、左心室の拡張期の持続時間は比較的短くなる。LBBB患者の脱分極延長または脱分極異常は、局部的な心筋収縮から早期拡張を招き、これにより僧帽弁開放が遅れるとともに左室の等容性弛緩期が300パーセントまで延び、左室充満時間が短くなる。またLBBBは、ドップラー心エコー検査で診断される心臓拡張機能異常とも関係している。さらに、特に虚血性心疾患の場合、左心室内の伝導遅延により非同期性が非常に高くなる。
【0008】
心室内伝導障害またはLBBBの患者においては、心臓再同期療法(CRT)によりQRS群の持続時間が短縮され患者の症状に明らかな改善が見られた。CRTでは、左心室の収縮協調を改善するため専用ペースメーカーを使用する。この専用ペースメーカーは、左心室を個別にペーシングして右心室の拍動に合わせるかまたは両心室を同時にペーシングすることによって、両心室の拍動を協調させるようにプログラムされているものであってもよい。異常な心室内非同期および心室間非同期を左室ペーシングまたは両室ペーシングによって再同期することで、重度の心室不全患者の臨床症状が改善される可能性があることが分かっている。だが、良い結果が出ている一方で、患者の約30パーセントについてはこの療法からは目立った改善が見られないということも多くの検査で明らかになっている。現在は、この療法で寿命が延びるかどうかの試験がなされているところである。
【0009】
両室ペーシングは、1本のワイヤまたはカテーテルを右心室に植込み、別のワイヤまたはカテーテルを右心房に流れこむ静脈である冠状静脈洞に通して左心室をペーシングする。この冠状静脈洞カテーテルは左心室の側部または後部に導かれる。または左室リードを開胸手術によって植込む(肋骨間に小さな切開を加えて左心室表面にリードを植込む)ことも可能であり、心房中隔を横断して左心室内にリードを挿入することでも左室リードを植込むことが可能である。しかし、各カテーテルの正確な最適位置を挿入時に決定するのは難しい。実際、リード配置時に最適部位を決定する生理学的手段は心エコーを使う可能性以外にないが、時間がかかるうえに術野を無菌に保つ上で問題がある。
【0010】
また心臓ペーシング装置の挿入前にCRTの有効性を予測するのは難しい。現在、医師は両室ペーシング後のQRS持続時間の減少を測定することでCRTの評価を行うことが多い。しかし、患者によってはQRS持続時間の減少が心機能の改善と関連していない場合もあり、ニューヨーク心臓学会(NYHA)の分類レベルや6分間の廊下歩行テストの結果等の改善といった他のパラメータを併用することでCRTの有効性が判断されている。ところが、これらのパラメータはリアルタイムで評価することができないので、リードおよび装置植込みの際、医師が患者にとってCRTが有効かどうか判断するために知る必要がある情報が得られない。そのため結局、冠状静脈洞に1本リードを植込むことが左右の両心室に2本のリードを植込むのと同じように良いかどうかは不明である。
【0011】
また特にデュアルチャンバー型ペースメーカーの使用にあたっては、いわゆる「AVディレイ間隔」の適切な設定という点で別の問題が生じる。基本的に、このAVディレイ間隔とは心室刺激用パルスとそれに先行する心房脱分極との時間間隔を指す。心房心室ペーシングの一連の流れはポンプとしての心臓の効率に極めて重要であるため、AVディレイ間隔が最適でないと心臓の働きに重大な影響を及ぼす可能性がある。実際、AVディレイ間隔の最適値からのずれが比較的小さくても、うっ血性心不全患者の心房の血行動態効果を大きく低下させることがある。
【0012】
現在のところ、AVディレイ間隔は医師が経験的に選択およびプログラムしている。心房脱分極の血行動態効果が心拍出量に影響を与えることは周知であるため、その患者に最適のAVディレイ間隔を選択するのにあらゆる努力がなされている。しかし、AVディレイの最適値は、患者の加齢や病状の変化とともに経時的に変動する可能性がある。そのため、患者に心臓再同期療法が有効かどうかを確実に予測し、心臓ペーシング装置を体内に植込んでいる際にリアルタイムでペーシング装置のリードの最適位置を決定し、デュアルチャンバー型ペースメーカーを最初に配置する際でもその後の評価時においても最適なAVディレイ間隔を選択できる方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、概して、CRTが有効であると考えられる患者の選別、ペースメーカーのリード配置の最適化、心臓ペーシング装置の最適設定の判定をリアルタイムに行う方法に関する。本発明の装置は、加速度計センサ、プログラム可能なペースメーカーまたはその他の心臓ペーシング刺激手段、コンピュータ・データ解析モジュールおよび解析結果の2D/3Dグラフィックディスプレイ、すなわち心室収縮マップを含む。この方法は、心臓ペーシング装置のリードを配置し、患者の心臓が通常(非ペーシング)伝導状態のときおよび心拍がペーシングされているときの心臓の動きに対応する振動心臓記録計(SCG)データを収集し、SCGデータに基づき血行動態パラメータを求め、これらのデータによってCRTの患者を選別しリードの最適配置を決定することを含む。
【0014】
したがって、本発明の主たる目的は、電気生理学的検査において患者が再同期療法を受けるのに適切な患者かどうかをリアルタイムで判断することである。
【0015】
本発明の別の目的は、心臓再同期療法のリード植込みに最適な部位を判定し、それによりこの療法の効率を高めることである。
【0016】
本発明のまた別の目的は、電気生理学的検査において、患者が両室ペーシングではなく左室のみのペーシングを必要としているかどうかをリアルタイムに判定することである。
【0017】
好適な実施形態によれば、ペーシング用リード挿入時に患者の胸部上に配置された加速度計は上記最適部位を特定するのに役立つ。コンピュータ・アルゴリズムにより、振動心臓記録計の計測値の処理を行い、前駆出および駆出のレート、前駆出期の持続時間、収縮期の持続時間、等容性弛緩期の持続時間を表示する心室収縮マッピングを生成する。異なるリード位置における関連データの変化を調べることで最適なリード配置部位を判定することができる。例えば、最適位置を示す挙動としては、前駆出期の短縮や左心室の収縮率の増加が含まれる。さらに、胸壁の動きのパターンを変える僧帽弁逆流の度合いは、最適部位においては目立って低下するはずである。
【0018】
加速度計が僅かな脱同期(この場合CRTは有効でないと思われる)または顕著な脱同期(この場合にはCRTが最も有用と思われる)といった目に見えるパターンを示すことで、CRTの効果がありそうな患者の識別をしやすくする可能性もある。
【0019】
したがって、本発明は、電気生理学的検査(EPS)時に特定の患者にとってCRTが効果的な治療であるかどうかの判断を助けるために使用されてもよい。EPSの間、心臓の伝導系の異常を識別するため心臓にカテーテルが挿入されて様々な場所が電気的に刺激される。本発明によれば、加速度計が様々な刺激場所における振動心臓記録計の挙動を測定し、その結果として得られるデータを解析することで、患者が左室ペーシングまたは両室ペーシングを必要としているだけなのか、またそもそもCRTが有効なのかどうかが判断される。CRTが効果的な治療だと判明した場合、最適位置へのリード配置処置と並行して心臓ペーシング装置を植込むことができる。左室ペーシングまたは両室ペーシングを受けている患者の3分の1はこの処置を行っても改善が見られないことから、加速度計誘導型心室ペーシングで、そうした効果が出ない確率の高さを下げることができる可能性もある。このように、本発明の方法および装置によれば、患者にCRTが有効であるかどうかを確実に予測するとともにペーシング用リードの最適配置位置を植込み中に知ることができる。また、右室収縮の開始と左室収縮の開始との間の遅延についても、最適な設定を判断することができる。
【0020】
さらに、本発明の方法により、いくつかのディレイ間隔における心機能指標の比較に基づいて患者に最適なAVディレイ間隔を選択することができる。好適な実施形態では、様々なAVディレイ間隔とペーシングレートの候補値がペースメーカーにプログラムされており、リアルタイムの振動心臓記録計(SCG)データと心電図検査(ECG)データが収集される。収集されたデータは基本SCG波形を表すように処理される。次に、SCG波形上のいくつかの特徴が識別され、これを用いて心房脱分極イベントと心室刺激パルスイベントの時間間隔が求められる。この時間間隔情報を用いて心機能指数が求められるが、この指数は、いくつかの異なるペースメーカーのAVディレイ間隔を示す別の指数と比較することができるものである。
【0021】
本発明の様々な他の目的やメ利点は、以下明細書中の説明から明らかになるであろう。したがって、上記の目的を達成するため、本発明は、以下好適な実施形態の詳細な説明で十分に説明し特許請求の範囲において特に示す特徴を含む。しかしながら、その説明は、本発明を実施する数々の方法のほんの一部を開示するものである。
【好適な実施形態の詳細な説明】
【0022】
本発明は、概して、患者が心臓再同期療法が有効な患者かどうかを確実に予測し、心臓ペーシング装置を患者の体内に植込む際に最適なリードの配置および装置の設定をリアルタイムで判断する方法に関する。一実施例において、本発明による方法は、好ましくは、加速度計を用いて患者の心臓の動きに対応する血行動態パラメータを検出し、検出されたパラメータをデジタルデータに変換して心室収縮マッピングを計算・表示するための解析モジュールに入力し、異なるペースメーカーのリード配置から得られた結果を比較してリードの最適位置を提供することを含む。また別の実施例においては、血行動態パラメータを検出して、ペーシングを行っていない心臓から得られた血行動態パラメータと比較し、それによりCRTがその患者にとって適切な選択肢かどうか予測する。
【0023】
また本発明はペースメーカーを使用する患者のAVディレイ間隔を選択する方法に関するものであり、AVディレイの初期値を選択および設定し、患者の心拍がペーシングされているときの心臓の動きに対応するSCGデータを収集し、そのSCGデータの中で僧帽弁閉鎖点および心房弁開放点、心房弁閉鎖点を特定し、上記各点間の時間間隔を計算し、上記各点に基づいた心機能の指数を演算し、その心機能指数を最適化するAVディレイ値を選択することを含む。
【0024】
図2は、ペースメーカー患者31、ペースメーカープログラマ41、SCG/ECG解析システム32の各種接続を示した模式図である。この図は、デュアルチャンバー型ペースメーカー35がペースメーカー患者31に植込まれ、適切なリード36を介して患者の心臓33に結合されているところを表している。なお、図に示されているリードは1本であるが、本発明にはリードが2本以上であるペースメーカー(例えば、心房用リードが1本と心室用リードが1本以上のペースメーカー)を使用してもよい。ペースメーカープログラマ41と植込まれたペースメーカー35とは、ペースメーカー35の植込み部位上に示されたプログラミングヘッド42を介して連通している。このペースメーカープログラマ41を使用して、植込まれたペースメーカー35のAVディレイ間隔、右室左室間ディレイ、ペーシングレート、およびペーシングモードを、テレメトリを介して変更することができる。
【0025】
SCG/ECG解析システム32はペースメーカー患者31に連結されており、患者の胸部34上に並べられた表面電極37、38、39からECGデータをリアルタイムに収集するのに使用される。表面ECGは患者の心臓33から生じる電気的活動とペースメーカー35から生じるペーシング・アーチファクトの両方を反映している。SCG/ECGシステム32は、センシングおよびペーシングされた心臓イベントを検出し識別することができる。
【0026】
一般に、ペーシングによる心臓イベントで患者の表面ECG上に狭いパルス・アーチファクトが生成される。またペーシングによって関連する生理学的波形の反転も生じる。そのため、狭いペーシング・アーチファクトや立ち下がり・立ち上がり波形を認識するECG「QRS」検出アルゴリズムを使用することが好ましい。これは各種の周知の技術のいずれかを使用することで可能であるが、心房心室ペーシング・アーチファクトをその高スルーレートによって区別し、生理的波形を振幅のサインよりも振幅の絶対値によって認識するのが好ましい。
【0027】
SCG/ECGシステム32は、データリンク30を介してペースメーカープログラマ41に連結されることにより、植込まれたペースメーカー35からマーカーチャネル診断テレメトリを受けることができるようになっていてもよい。診断テレメトリによって、ペースメーカープログラマ41は植込まれたペースメーカー35からのセンシングおよびペーシング情報にほぼリアルタイムでアクセスできるようになる。このような心臓イベントとしては、例えば、心房イベントのセンシング(AS)およびペーシング(AP)ならびに心室イベントのセンシング(VS)およびペーシング(VP)の発生などが含まれる。
【0028】
またSCG/ECGシステム32は、患者の胸部34上に置かれた適切な振動センサ40からリアルタイムのSCGデータを収集する。振動心臓記録図は、心周期における患者の心臓の壁部の加速を反映する。SCG/ECGシステム32は、この入力データを評価し基本波形と他の出力データをビデオディスプレイ43およびプリンタ44に出す。
【0029】
本発明を実施するために適切なSCG/ECGシステム32は、マサチューセッツ州ローウェルのBard Electrophysiology社やGE Medical Systems社、EPMED社が製造しているものである。また機器は、表面心電図および心内心電図、血行動態データ(動脈圧など)といった生理信号とともに蛍光透視、超音波、MRIおよび/またはCTイメージを取得できるマルチチャネルの生理学的記録解析システムが好適である。これらの信号はアナログとデジタルのどちらの形式で取得することも可能である。そしてSCG信号は加速度計(40)によって取得され生理学系に送られることになっている。その後SCG信号は特殊なコンピュータ・アルゴリズムによって処理され、血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータが生成または補間されることになる。例えば、患者のdp/dt(心室内圧変化率)、駆出分画(EF、心室機能の指標)などを求めることが可能である。基本的には、先に構築したアルゴリズムによって、収縮時の左心室圧曲線のSCG信号からdp/dtを算出することができる。EFについては、任意の値を補間してもよい。
【0030】
このようにして、ペーシングの有効性とリードの最適配置を評価するため、基礎SCGパラメータが収集され解析されるようになっている。そして、試験部位においてペーシング中に収集されたSCGパラメータが集約され解析される。これらの重要パラメータの変化が1回拍出係数としてペーシングの最適部位および/または最適設定(AVディレイ間隔、右室左室間ディレイ間隔)を決定することになる。
【0031】
さらに、リアルタイムの基礎SCGパラメータ、すなわちPEP、LVET、PEP/LVETを表示、解析することもできる。リアルタイムのデータは後で比較に使用するテンプレートとして保存される。そして、リアルタイムの時間的SCGパラメータ一式が収集されテンプレートと比較されて、これらのパラメータの変化および相関係数rが生成される。このSCGパラメータの変化の大きさと相関係数に基づき、リードを配置するのに最適な部位が求められることになる。
【0032】
装置は、本発明のプロセスを実施することができるものであればどのような装置を使用してもよい。本発明による方法がどのように実施できるかを表した例を図3に示す。
【0033】
プロセス50にはペースメーカーの初期化が含まれるので、AVディレイ間隔の初期候補値の選択が必要となる。この値とそれに続く数値は医師がペースメーカープログラマ41を使用して設定することが好ましい。しかし、プロセス50は、ペースメーカーによって自動的に行われたり、SCG/ECGシステムによりデータリンク30を介して実行されたりしてもよい。
【0034】
プロセス50を実施するために好適な方法を、ペースメーカーのマーカーチャネルテレメトリ波形10(図1)に示す。ここでは、患者の本来の心拍数を超えるレートでの房室順次ペーシング(DVI)が示されている。また、テレメトリ波形10には、その患者用に選択されたVV低レート補充収縮間隔19およびAVディレイ間隔18が示されている。連続した低レート補充収縮によりテレメトリ波形10に示すペーシングされた心拍が連続して起こるが、このペーシング療法に対する心臓33の応答は基本ECG波形12として表される。また、これに対応する心臓の動きは基本SCG波形14に示され、対応する心臓弁の状態は心臓ピクトグラフパネル16に示される。
【0035】
より具体的には、最初の心房ペーシング(AP)イベントは、波形12における心房ペーシングイベント13および波形10における心房イベント11として表される。また心房を連続してペーシングする方法により、心室ペーシング(VP)イベントが生じるが、これは波形12においては心室ペーシングイベント15として、波形10においては心室ペーシングイベント17として表される。この心室ペーシングイベントは、テレメトリ波形10に示すプログラムされたAVディレイ18間隔の後に発生する。2番目の心房ペーシングイベント20および22は、対応する心室ペーシングイベント21および23とともに図1に示される。
【0036】
ペーシングの方法およびペーシングレートの幅は様々であってよいが、このプロセス50の目的は連続して心室ペーシングイベントを発生させることである。好適なペーシングレートは、約60bpmから115bpm(運動時には後者のレートが適切なレートとなる)の範囲である。それぞれのペーシングレートに対するAVディレイ間隔18は、公称最小値の約100ms未満から最大公称値の約250msの範囲あれば、様々であってよい。当業者には認識されていることであるが、ペーシングレートは患者の本来の心拍より速くなければならない。そうでない場合、ペースメーカーが禁止モードに設定されていればペーシングされた心拍が見られず、禁止モードに設定されていなければペーシングされた心拍が見られる。また、ペースメーカーは心房をペーシングするように設定されていてもよいが、この場合AVディレイを患者の通常のAVディレイよりも短く設定し、それにより心室がペーシングされ捕捉される。
【0037】
プロセス51は、アレイ電極37、38、39からのリアルタイムECGデータの収集および振動センサ40からのリアルタイムSCGデータの収集を示す。これらのリアルタイムの信号は、適切なアイソレーションの後、プロセス52において帯域通過フィルタにかけられノイズが除去される。プロセス52のフィルタリング機能およびスケーリング機能は、引用文献にあるようにアナログハードウェア内で実行されてもよいし、あるいはSCG/ECG計器32の一部をなす専用プロセッサまたはその他のソフトウェアによってデジタルドメイン内で実行されてもよい。リアルタイムの信号にとってカットオフ周波数が低いことが最も重要な帯域通過特性であり、可能な限り低いコーナー周波数がECGおよびSCG双方の信号に好適であることが確認されている。
【0038】
プロセス53では、ECGおよびSCGのリアルタイムの信号がデジタル化され、SCGデータセットとECGデータセットという2つのデータセットが生成される。これら2つのデータセットの時間的関係は処理中保持されるので、SCGデータセットとECGデータセットは「コンパニオン」であると考えてよい。その後のソフトウェアプロセスは、一般的に、ECGデータセットからポインタを生成してコンパニオンSCGデータセットを参照し、コンパニオンSCGデータのセグメントを収集して更に解析を進めるものである。
【0039】
プロセス54では、ECGデータセットを解析してQRS群の位置を割り出す。このアルゴリズムは、自然に発生する脱分極とともにペーシングされたQRS群を、単極および双極ペースメーカーから検出しなければならない。現在のところ、好適な検出ルールでは、振幅が大きく急上昇するときのペースメーカー・アーチファクトを探して心室および心房のペーシングイベントを特定しているが、本発明の範囲を逸脱しない限り、他の検出技術を代用することは自由である。このプロセスの基本目的は、QRS基準点を割り出し更なるSCGデータ解析を促進するである。
【0040】
任意のプロセス55では、ECGデータにおけるQRS群の位置に基づいて設定されたECGデータセットに対してリズム解析が実行される。ECGデータのリズム解析の主たる目的は、電気的な心拍異常から起こるコンパニオンSCGデータのセグメントをその先のプロセスから除外することである。このプロセスは、心拍を過剰に除外する傾向になっていて基本SCG波形の破損を防いでいる。適切な除外リズム解析プロセスについての詳細は引用文献を参照してもよい。しかし当然のことながらこのプロセスの実行については自由度が高い。また、患者の本来の心拍レートよりも高いレートでペーシングが行われた場合、心室期外収縮(PVC)の症状が見られない患者も多い。本ステップは任意で行えばよく、図4に示される例としてのデータはリズム解析にはかけられない。
【0041】
任意のプロセス56では、プロセス55のリズム解析によってコンパニオンSCGデータセットを参照し、その先の処理のためのコンパニオンSCGデータのセグメントを選択する。選択されたSCGデータは、「縮小SCGデータセット」と呼ばれる。この任意のプロセスの主たる目的は、その先の解析から非洞性心拍や非ペーシング心拍を除外することであり、これはこうしたデータを除外しなかった場合基本SCGの形成がうまくいかなくなるためである。
【0042】
プロセス57では、QRS群の位置を利用してSCGデータセットに変換する基準点一式を定める。この基準点を用いてSCGデータは「ウェーブレット」に分割される。
【0043】
プロセス58では、瞬間心拍数を用いて所定数の比較点と比較ウィンドウを定める。比較ウィンドウはこのとき測定された心拍間隔の80パーセントに設定し、約100の比較点を用いることが好ましい。
【0044】
プロセス59では、プロセス57で定めた基準点についてプロセス58で定めた比較点を当てはめることにより、SCGデータセットが比較ウェーブレットに分割される。一般に、基準点は一式の比較点の分布起点を定めるものである。比較点のうち、20パーセントをQRS基準点前に収集されたSCGデータに使用し、80パーセントをQRS基準点後に収集されたSCGデータセットに使用するのが好ましい。本プロセスにおいて比較点を使用することにより、異なる心拍数において記録されたSCGウェーブレットを、心拍によってSCG波形の変形が誘発されることなく、互いに比較することができるようになる。本プロセスの目的は、その後の相互相関のために、SCGデータセットを比較ウェーブレットにセグメント化することである。
【0045】
プロセス60では、個々のウェーブレットを相互相関することによってその類似度を見きわめる。各ウェーブレットは、他のすべてのウェーブレットと順次比較される。相関係数が0.9以上のウェーブレットは一つのファミリに分類される。相互相関を繰り返した後には、通常一つの主要ファミリが形成されるが、通常全ウェーブレットの90パーセント以上がここに含まれる。このとき自己相似性が高いウェーブレットによる主要ファミリが現れれば、前プロセスにおいて解析から不良データが除去されたと考えられる。
【0046】
プロセス62では、対応するコンプリメンタリまたはコンパニオンECGデータが合算または平均化され、図1に波形12として図4に波形77としてそれぞれ示される基本ECG波形が形成される。従って、図1および図4は処理データを表すものであり、特定のリアルタイム波形を表すものではない。
【0047】
プロセス63において、基本ECGデータセットから特定のイベントが抽出される。図1に戻ると、心臓内で基礎となる電気的イベントにより、基本波形12として示された表面ECG上に特定できる反復的な特徴が発生する。心房ペーシングイベント13は、波形12において「P波」80として示される心房脱分極を引き起こす。その後に続く心室ペーシングイベント15により、Q波81、R波82およびS波83を含むQRS群が発生する。また心室細胞の再分極は、波形12にT波79という特徴を発生させる。ECGデータセットには形態検出アルゴリズムが用いられ、R波82と心室ペーシングイベント15に関連するペーシングスパイクが抽出される。デジタル化されたECGデータセットにピーク/バレー決定規則が適用される。この「縮小データ」を評価することで、個々の心拍サイクルにおけるQ波とT波の位置を求める。続く再同期プロセスには、Q波81の位置および心室ペーシング(VP)イベント15が用いられるが、基本SCG波形をさらに解析していくには追加イベントも有効である。
【0048】
プロセス64においては、SCG記録から特定の反復的な特徴が抽出される。これらのイベントは、図1において、AS(心房収縮)イベント91、MC(僧帽弁閉鎖)イベント92、IM(等尺性収縮)イベント93、AO(大動脈弁開放)イベント94、RE(急速排出)イベント96、AC(大動脈弁閉鎖)イベント97、MO(僧帽弁開放)イベント98、RF(急速充填)イベント99、のように2文字のコードによって識別される。基本SCG波形14のこれらの特徴は、心臓において基礎をなす機械的動作に関連している。ASイベントは心臓ピクトグラフ90で示されるように心房収縮期のピークに対応し、AOイベント94は心臓ピクトグラフ87に示すように大動脈弁の開放に対応する。ACイベント97は心臓ピクトグラフ88に示されるように大動脈弁の閉鎖に対応し、MCイベント92は心臓ピクトグラフ86に示されるように僧帽弁の閉鎖に対応する。
【0049】
したがって、心室の心拍サイクルは心室ペーシングイベント15から開始し、これによりQ波81が示す心室の収縮が起こる。そして短時間の電気機械的遅延85の後、SCG波形14はMCイベント92を示す。MCイベント92が示す僧帽弁閉鎖からAOイベント94が示す大動脈弁開放までの時間が、図1のPEP24に示す前駆出期に含まれる等尺性収縮期である。この心臓の収縮期は、MCイベント92から大動脈弁の閉鎖を示すACイベントまで続く。
【0050】
ACイベント97の示す大動脈弁閉鎖点は、収縮期の終了とともに拡張期の開始を表しており、心臓サイクルにおけるこの位相はMCイベント84に示す次の僧帽弁閉鎖点まで続く。
【0051】
これらの波形特徴の特定は、傾斜情報と振幅情報に基づいて行われる。代表的な波形に適用される好適な判定規則は次のように定められる。
MCイベントはECGのR波におけるピークの後の期間に発生する最初のピークであり、
AOイベントはMC後最初のバレーであり、
REイベントはAO後すぐ次のピークであり、
ACイベントはECGのT波終了後最初のピークであり、
MOイベント点はACイベントに続く2番目のバレーであり、
RFイベントはMO後すぐ次のピークであり、
ASイベントはECGにおいてQ波が到来する前の最後のピークとする。
なお、T波は傾斜が緩やかで振幅も小さいため、その位置を特定するのが難しいことは周知のことである。傾斜情報に基づくT波検出がうまくいかない場合には、計測されたQRS−QRS間の間隔に基づいてT波のおよその位置が特定され、対応するAC位置が補間され、結果として特定される。
【0052】
プロセス65では、特定された点に基づいて時間間隔の演算が行われる。例えば、MCイベント92とAOイベント94との間の時間間隔24を計測してこれを前駆出期とし、AOイベント94およびACイベント97間の時間間隔を計測してこれを左室駆出時間とする。計測された特定の間隔は、最適化のために選択された特定の心機能指数と関連する。
【0053】
プロセス66において、好ましい心機能指数とは左室駆出時間(LVET)に対する前駆出期(PEP)の比率で、これはPEP/LVETとして表される。例えば、任意の心拍数における最大心拍出量は、左室駆出時間に対する前駆出期の比率を最小化するAVディレイ間隔によって最大化されるので、この比率を最適化することが望ましい。ペースメーカーを使用する患者の大半にとっては、LVETの最大化のほうがPEPの最小化よりも重要なようである。同様に、心機能を示す他の指数は、((Q〜MC)/LVET)および((VP〜MC)/LVET)のように定められる。ペースメーカーを使用する患者の中には、こうした従来とは違う指数のほうが心機能指数としてより適切な場合もある。
【0054】
これらの比率には、すぐに検出できるペーシングイベントが含まれ、電気的および電気機械的遅延要素が含まれている。なお、心臓の正常な洞脱分極にはペーシングされた心拍とは異なる活性化フローがあるので、測定されたPEPはペーシングされた心拍と洞性心拍の間で変動することがある。このため、こうした従来とは異なる心機能指数に基づいてAVディレイを最適化することが好ましい場合もある。従って、好適なPEP−LVET比率については詳細に説明するが、本発明の方法については、前記またはその他の、従来とは異なる心機能指数まで拡大してもよい。
【0055】
プロセス67では、最適な再同期をもたらすリード配置とペースメーカー設定が求められる。CRTが有効と思われる患者の選別方法を提供するため、CRTが有効であった患者からSCGデータを取得し、CRTが有効でなかった患者のデータと比較する。ペースメーカーのリード配置に関しては、医師が例えばPEP/LVET比率の極小値を与えるようなリードの最適位置を探す。また電気生理学的検査の中で、特定の患者に対してCRTの成果を示すより良い指標となる他のパラメータを見つけてもよい。
【0056】
図4は、プリンタ44からのハードコピー出力45を分割してパネル表示している。上部パネル70にはSCGおよびECGイベント位置の注釈をつけた基本SCG波形と基本ECG波形が示されている。図4の表72にはAVディレイ間隔セットとそれに対応する時間間隔測定値が演算された比率とともに示されている。
【0057】
プロセス67では、PEP/LVET比率の最小値が選択され、表72にアスタリスク74を置いて極小値を示す。この値を医師が検討し、ペースメーカープログラマ41を介してペースメーカーにプログラムすることができる。またはこの値を自動的に選択しデータリンク30を介してペースメーカープログラマ41に送信し、自動的にペースメーカー35をこの値でプログラムすることもできる。
【0058】
図5は心臓再同期におけるリードの最適配置方法を模式的に説明したものである。本発明の方法を実現する装置は、加速度計センサ、ペーシング用リード、プログラム可能な電気シミュレータ(ペースメーカー)、心周期における数々のパラメータ(前収縮期の持続時間、心室駆出期の持続時間およびパターンならびに拡張期弛緩期間を含むがこれに限定されない)を計算する独自のアルゴリズムを持つコンピュータ解析モジュール、心室収縮の詳細を示す心室収縮マッピングを含むコンピュータ化された2D/3Dディスプレイから成る。
【0059】
一般に、まずペーシング用リードを冠状静脈洞経由で右室心尖部および左室後壁部または左室側壁部に配置する。次に、患者の胸部に配置されコンピュータ・アルゴリズムで処理された加速度計から振動計信号を求める。この振動計信号の結果を解析して、前駆出期、収縮期の持続時間、等尺性拡張期の持続時間その他を含む複数のパラメータとともに心室収縮マップとして表示する。そして、こうしたペーシング中の血行動態パラメータと非ペーシング中(および異なる部位でのペーシング)の血行動態パラメータを比較することにより、医師は最適なペーシング部位を決定しCRTが有効であると思われる患者の選別を行うことができるようになる。
【0060】
本発明は、左室または両室ペーシング療法の最適な再同期を実現するため、ペーシング植込み処置時のデータを提供するものである。数々の研究により、左脚ブロックでQRS持続時間が130msを超えるうっ血性心不全の患者のほとんどが、左室または両室ペーシングによるCRTによって著しい改善を見せる可能性があると報告されている。さらに、最適なペーシング部位が植込み時に分かれば、効果が期待できる患者の選択および植込み処置の結果が大きく改善されるはずである。また、同期療法が右脚ブロックの患者に対しても治療的有用性があると判明した場合には、その患者に対しても本発明を適用することができる。
【0061】
最近発表された論文に、選ばれた患者グループにおけるうっ血性心不全治療のための再同期療法についての背景情報が述べられている。William Abraham博士は、Reviews of Clinical trails and Criteria for Identifying the Appropriate Patient, 2003 Vol. 4 (Supplement 2): S30−S37において、この心不全治療を評価した臨床試験について書いている。計12回の臨床試験がすでに行われ、今も患者の登録を行っている。登録の基準は通常、ニューヨーク心臓学会の機能分類で2から4レベルのうっ血性心不全の患者、QRS持続時間120ms以上(100ms未満が正常)の患者、および洞律動の患者である。患者の大半は心室内伝導遅延また左脚ブロックである。この治療法の評価を行った患者の中で心房細動または右脚ブロックの患者は比較的少数である。これらの研究により、心臓再同期療法の結果として、クオリティ・オブ・ライフの改善および心機能分類のレベル改善、6分間歩行で歩ける距離の増加、運動中の最高酸素消費量の増加などが示されている。さらに、「コンパニオン・トライアル」という臨床試験が行われ、原因を問わない死亡・入院の減少が明らかにされた。
【0062】
しかし、この治療法は前述の基準で選ばれた患者の約30パーセントに対しては目立った効果がないということは多くの研究で明らかになっている。これは大きな課題である。効果がないのは、患者の選別基準が不正確および/またはペーシングの最適部位の特定ができていないためという可能性もある。Reviews in Cardiovascular Medicine 2003: Vol. 4 (Supplement 2: S3− S 13) の Ventricular Resynchronization: Pathophysiology and Identification of Responders というDavid A Cassの論文では、QRS持続時間は両室ペーシング後常に短くなるわけではなく、変化が見られないかまたはQRS持続時間の延長が見られる被験者も多いことが述べられている。
【0063】
このため、QRSの持続時間は心室機能の低下を引き起こすもととなる機械的な脱同期と間接的な相関関係にある、という程度しか言えない。したがって、基礎QRS持続時間と両室ペーシングの効果との一般的な相関関係を示しながらも、治療が有効な患者とそうでない患者を識別するための予測値については芳しくないことを示す初期の結果が、データによって裏付けられている。治療有効患者を予測する能力については今のところ不明である。しかし、心エコーによって最初に検討および評価される要素には、心室間同期不全、心室内同期不全、リード配置の成功、十分な早期興奮、および生理学的な心房心室間遅延が含まれる。Cassは、左室圧の最大上昇量(最大dp/dt)の22パーセントを超える改善が、偽陰性患者がほとんどなく有効患者の数が安定していることと大きく関連していることを示す文献の中でそのデータを検証している。有効患者を特定するには、心室間遅延よりも心室内遅延のほうが重要であるように見える。心室内伝導遅延により、中隔壁と側壁との間で動きの機械的分散が起こることがある。これを検出するための最も一般的な手段は、心エコーを使用することである。脱同期を検出し定量化するため、Mモードエコー撮像法や各種細胞のドップラー撮像法を含め、心エコーを使用する各種の技術が活用されている。これらの技術は、心臓再同期療法が有効であるかもしれない患者の識別を助けるのに役立つ可能性があるが、心臓再同期療法の効果が期待できる患者の割合を推定できるほど大規模な評価は行われていない。
【0064】
さらに、リード挿入処置中にリードの最適配置部位を調べるのに非実用的でないとすれば、心エコー評価は難しい。European Heart Journal 2003, Vol. 24 pp. 977−986 に掲載のSululche T. B., Henein N. Y. and Surton R. A によるPacing and Heart Failure: Patient and Pacing Mode Selection という論文で述べられているように、両室ペーシングまたは心室再同期療法の目的は、局部電気刺激、収縮タイミング、弛緩の最適化、ひいては周期効率の最適化であり、それが本発明の目的でもある。Sululd1eらは、両室ペーシングが有効である患者の予測因子を特定しようとした遡及調査のデータを検証した。その結果、両室ペーシングが有効な患者とそうでない患者の間で左室リード配置部位に大きな差はなかったが、症状や運動耐久力が改善した患者においては左室側部と左室前部でより数値が大きくなる傾向があった。
【0065】
それでも、植込み中に最適な再同期を識別する実用的な方法がなかったため、最適なペーシング部位を植込み時に比較する研究はなかった。現在のリード配置技術では、最適部位にいつもアクセスできるわけではなく、静脈の構造上も配置が制限されるため、冠状静脈を経由して左心室にペーシング用リードを配置することは技術的に難しいと考えられている。しかし、近年、オーバー・ザ・ワイヤ法などを含むリード配置技術にも進歩が見られ、これらの技術は冠状静脈洞用リードの配置についてかなり融通をきかすことができるものである。
【0066】
改めていうと、本発明の目的は、心臓脱同期を反映する胸壁の動きのパターンを求めることにより、治療が有効であると思われる患者を選択するのを助けるとともに、この治療を実現するのに最適なリード部位をリード配置時に特定することである。また、異なるAVディレイにおける効果の特定を助けるため、最適な心臓効率と心拍出量の最適なパターンの特定に関するデータの収集も行われる。このようなパラメータの他、心室間伝導遅延の変化なども評価することができる。その他、本発明により評価できるパラメータとしては、前駆出期の持続時間、前駆出期に影響を及ぼす僧帽弁逆流の有無、加速度計によって求められる左室駆出の上昇率、収縮期の持続時間、加速度ピークおよび収縮期ピーク後の減速率、収縮期の持続時間、および拡張期の持続時間がある。
【0067】
以上に述べた詳細および構成要素については、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された本発明の原則および範囲内であれば、当業者によるさまざまな変更が行われてもよい。したがって、ここでは本発明は最も実用的で好適な実施形態と思われるもので示し説明してきたが、発明の範囲内での逸脱は可能であり、本発明の範囲は、同等のプロセスおよび製品をすべて含ませるためにも、ここで述べた詳細に限定されず、特許請求の範囲全体と一致するものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ペースメーカーイベント、心電図(ECG)イベント、振動心臓記録計(SCG)イベント、および心臓の物理的動きの関係を示す模式図である。
【図2】患者の体内のワイヤまたはカテーテルに接続されたSCG/ECG解析システムおよびペースメーカーのリード配置試験装置を模式的に図示するものである。
【図3】図1のECG波形およびSCG波形を収集し解析するための方法を説明するフローチャートである。略称は、詳細な説明で定義されている。
【図4】SCG/ECG解析システムにより生成されたスクリーン表示の一部である。
【図5】心臓再同期療法における最適なリード配置方法の概要を示したブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気生理学的検査の間に患者の心臓の様々な位置で刺激を行いつつ心臓再同期療法の効果を判定する方法であって、
(a) 前記患者の心拍がペーシングされているときの心臓の動きに対応する振動心臓記録計(SCG)データを収集し、
(b) 前記患者の心拍がペーシングされていないときの心臓の動きに対応する振動心臓記録計(SCG)データを収集し、
(c) 前記ステップ(a)および(b)のSCGデータに基づいて血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを求め、
(d) ステップ(a)によって生成された前記血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータとステップ(b)によって生成されたパラメータを比較することにより、心機能が改善したかどうかを判断するステップからなる方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)および(b)のSCGデータを加速度計によって検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)の血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを、前駆出期、左心室の収縮率、収縮期の持続時間、等容性弛緩期の持続時間、心室圧の変化率および駆出分画の一つ以上からなるグループから選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)および(b)で収集されたSCGデータから心室収縮マッピングが生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆出期を心室収縮マッピングから求める、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記左心室の収縮率を心室収縮マッピングから求める、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記収縮期の持続時間を心室収縮マッピングから求める、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記等容性弛緩期の持続時間を心室収縮マッピングから求める、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記心室圧の変化率を心室収縮マッピングから求める、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
(e) 前記ステップ(a)で生成された血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを前記ステップ(b)で生成されたパラメータと比較することにより、左室ペーシングおよび両室ペーシングのどちらが前記患者にとってより有効であるかを判断するステップをさらに含む方法。
【請求項11】
心臓再同期療法用心臓ペーシング装置のリードの最適配置を植込み時に選択する方法であって、
(a) 前記心臓ペーシング装置のリードを配置するためのリード配置位置を選択し、
(b) 患者の心拍がペーシングされているときの心臓の動きに対応する振動心臓記録計(SCG)データを収集し、
(c) 前記ステップ(b)のSCGデータに基づいて血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを求め、
(d) 前記心臓ペーシング装置の他のリードの配置位置を求めるためにステップ(a)から(c)を繰り返し、
(e) 各々異なるリード配置位置について前記ステップ(c)の血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを比較することにより、心機能を最良にするリード配置位置を選択する、
ステップからなる方法。
【請求項12】
前記ステップ(b)のSCGデータを加速度計によって検出する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(c)の血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータは、前駆出期、左心室の収縮率、収縮期の持続時間、等容性弛緩期の持続時間、心室圧の変化率および駆出分画の一つ以上からなるグループから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(b)で収集されたSCGデータから心室収縮マッピングが生成される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記前駆出期を心室収縮マッピングから求める、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記左心室の収縮率を心室収縮マッピングから求める、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記収縮期の持続時間を心室収縮マッピングから求める、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記等容性弛緩期の持続時間を心室収縮マッピングから求める、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記心室圧の変化率を心室収縮マッピングから求める、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
患者の心臓に植込まれるリード付き心臓ペーシング装置と、
前記患者の心拍がペーシングされているときの心臓の動きに対応する振動心臓記録計(SCG)データを収集する手段と、
前記SCGデータに基づいて血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを求める手段と、
前記血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを比較する処理装置
からなる心臓再同期療法用心臓ペーシング装置のリードの最適配置を植込み時に選択する装置であって、
前記心臓ペーシング装置のリードの最適配置を、様々なリード配置位置についての前記血行動態パラメータおよび電気生理学的パラメータを比較することによって求める装置。
【請求項21】
前記SCGデータを収集する手段は加速度計からなる、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記血行動態パラメータは、前駆出期、左心室の収縮率、収縮期の持続時間、等容性弛緩期の持続時間、心室圧の変化率および駆出分画の一つ以上からなるグループから選択される、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記SCGデータから心室収縮マッピングが生成される、請求項20に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−500550(P2007−500550A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522061(P2006−522061)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/024469
【国際公開番号】WO2005/011475
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(506030697)
【氏名又は名称原語表記】MARCUS, Frank, I.
【住所又は居所原語表記】4949 E. Glenn, Tucson, AZ 85712 (US)
【出願人】(506030701)
【氏名又は名称原語表記】HE, Ding, Sheng
【住所又は居所原語表記】377 Westford Road, Tyngsboro, MA 01879 (US).
【Fターム(参考)】