説明

応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法

【課題】異方質の材料でも応力腐食割れ亀裂進展速度の評価ができる応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法は、異方質の試験片10に亀裂11を与え、この亀裂11に負荷用手段12からの荷重を加えるとともに、腐食環境下に収容し、前記異方質の試験片11の亀裂進展速度を求めて亀裂度合を評価する応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法において、前記試験片10において予め定められた荷重と亀裂11の長さの変位から荷重−変位線PVを求める一方、前記予め定められた荷重と試験荷重の100%荷重までの荷重−変位線Pを外挿法で求め、この外挿法で求めた荷重−変位線Pと前記予め定められた荷重で求められた荷重−変位線PVとから試験荷重100%に対応する変位を算出し、算出した変位を試験片に付与して試験荷重の100%荷重から応力拡大係数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方質材料の応力腐食割れ亀裂進展特性を評価する際、適正な応力拡大係数を用いて評価を行う応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料の応力腐食割れ(以下、SCCと記す)進展特性の評価を行うときには、予め亀裂を持った試験片を腐食環境に晒し、荷重を加えたときの材料の亀裂がどのように進展するのかの挙動を観察してデータを得ている。
【0003】
また、得られたデータを基に亀裂進展特性を評価する場合、応力拡大係数(以下、K値と記す)と腐食電位、導電率等の腐食データとの相関について評価し、種々の環境条件における材料の亀裂進展速度の参照線図(マスターカーブ)が作成されている。
【0004】
特に、沸騰水型原子炉(BWR;Boiling Water Reactor)に使用する材料のSCC進展速度を評価する場合には、主に小型引張(CT;Compact Tension)試験片を用いた定荷重の負荷の下、SCC進展試験によって採取したデータが使用されていた。
【0005】
また、上述亀裂進展速度の参照線図も、一定の荷重を加えた負荷の下、つまりK値増加条件の下で得られた試験結果により構築されたものが多い。
【0006】
このような理由には、荷重制御型試験における試験条件把握の容易性が挙げられる。例えば、原子炉の炉水を模擬し、SCC進展速度を評価するには、高温・高圧の純水に試験片を収容する必要がある。この場合、荷重伝達のための連絡軸の取出し部を備える、例えばオートクレーブ等の耐熱・耐圧性の圧力容器中に試験片が収容される。
【0007】
このような試験装置においては、亀裂付き試験片を用い、この試験片の開口変位量などを容器外から確認することが難しい。
【0008】
その一方、荷重条件について、従来の試験装置では、荷重伝達のための連結軸に設けたロードセルによって比較的精度が高いので、荷重を制御するときに適している。
【0009】
ところで、実際の構造物である炉心シュラウドやシュラウドサポート等の原子炉内の非耐圧部材として適用する炉内構造物の欠陥を想定する場合、応力面では、溶接による残留応力が支配的になり、より定変位に近付き、残留応力分布によってはSCC進展に伴いK値が増加する場合、あるいは逆に減少する場合もあることが指摘されてきている。
【0010】
最近のSCC試験では、WOL(Wedge Operating Lord)型の試験片が用いられている。この試験片は、亀裂開口部に予め一定変位を与えておき、亀裂進展に伴いK値を減少させることができるようになっている。
【0011】
すなわち、図4は、WOL型試験装置を示す概念図である。
【0012】
このWOL型試験装置は、試験片1に形成した亀裂2の開口変位を調整する負荷用ボルト3と、亀裂2の開口変位値を電気的に検出する開口変位計測センサ(クリップゲージ)4と、この開口変位計測センサ4で検出した電気信号を開口変位(寸法値)に変換する電圧モニタ5とを備えている。
【0013】
このような構成を備えるWOL型試験装置から計測したデータを基に、予測K値を算出する亀裂2の開口変位寸法値を測定する場合、図5に示すように、試験片1を、予め定められた形状に加工切断するとともに、亀裂2を形成させた後、負荷用ボルト3を装着させる(ステップ1)。
【0014】
次に、WOL型試験装置は、負荷用ボルト3を、例えば、矢印ARで示す回転方向に増締めし、亀裂2の先端を矢印AR方向に向って拡開させるとともに、亀裂2の開口入口Qまたは荷重線PLの位置での開口変位Vを開口変位計測センサ4と電圧モニタ5とで計測し(ステップ2)、計測した開口変位Vを下記に示す予測K値を求める際、式(1)に代入して予測K値の初期値を設定する(ステップ3)。
【0015】
予測K値の初期値が設定されると、WOL型試験手法は、SCC割れを起す環境にした溶液に浸漬し、負荷用ボルト3の荷重を維持したまま予測K値の減少の下、SCC割れの長さの進展状況を観察し、SCC割れを評価する(ステップ4)。
【0016】
一方、試験片から予測K値を算出する場合、FEM解析等によって求められており、K値は、
[数1]
K=V×E/√a×f(a・W)/f(a・W) ……(1)
として表わされている。
【0017】
ここに、Vは試験片の荷重線の変位、Eは試験材料の縦弾性率、aは亀裂長さ、Wは試験片厚さである。
【0018】
上式(1)を要約すると、試験時のK値は、開口変位量、縦弾性率と亀裂長さで表わされる。このうち、縦弾性率は材料に依存して一定値を採り、開口変位量も設定時から緩和しないと仮定すると、結局、K値は亀裂長さaの関数である。
【0019】
ここで、f(a・W)/f(a・W)は亀裂長さaの増加に連れてK値は減少を示すことが知られており、この試験片によりK値減少条件を設定できることが分かる。
【0020】
なお、WOL型試験片を用い、K値減少条件を設定できる技術には、例えば特許文献1が開示されている。
【特許文献1】特開2004−340571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、上述開口変位タイプのSCC用の試験片を用いてK値を設定する場合、上式(1)に示されているように、材料の変形特性については、縦弾性率Eのみが、これを代表するパラメータ(因子)になっている。
【0022】
その一方、溶接金属による施工冷間圧延などを含めて金属組織に異方質を持つ材料では、試験片の採取方向、切欠きの設定方向によっては、試験片の荷重−変位線(応力−ひずみ線)が異なる可能性がある。
【0023】
しかし、上式(1)からも確認されているように、従来のWOL試験におけるK値評価式では、材料の異方質の影響を考慮しておらず、異方質を持つ材料の予測K値設定の誤差が大きくなり、SCC試験を行っても実際の状況から大きく懸け離れることが多かった。
【0024】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、異方質を持つ材料であっても、適正なK値を用いて材料のSCC亀裂進展速度の評価ができる応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法は、上述の目的を達成するために、異方質の試験片に亀裂を与え、この亀裂に負荷用手段からの荷重を加えるとともに、腐食環境下に収容し、前記異方質の試験片の亀裂進展速度を求めて亀裂度合を評価する応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法において、前記試験片において予め定められた荷重と亀裂長さの変位から荷重−変位線を求める一方、前記予め定められた荷重と試験荷重の100%荷重までの荷重−変位線を外挿法で求め、この外挿法で求めた荷重−変位線と前記予め定められた荷重で求められた荷重−変位線とから試験荷重100%に対応する変位を算出し、算出した変位を試験片に付与して試験荷重の100%荷重から応力拡大係数を算出することを特徴とする応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法は、変形異方性を有する素材においても、精度の高い応力腐食割れ亀裂進展速度を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法の実施形態を図面および図面に付した符号を引用して説明する。
【0028】
図1に示す本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法に適用するSCC試験機は、試験片10に形成された亀裂11の開口変位を調整する負荷用ボルト12と、亀裂11の開口変位値を電気的に検出する開口変位計測センサ(クリップゲージ)13と、この開口変位計測センサ13で検出した電気信号を開口変位に変換する電圧モニタ14とを備えている。
【0029】
次に、このような構成を備えるSCC試験機を用いて本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法を図2を引用して説明する。
【0030】
図2は、本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法を示す手順ブロック図である。
【0031】
本実施形態に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法は、まず、試験片10を予め定められた形状に加工、切断するとともに、亀裂11を強制的に設けた後、負荷用ボルト12を装着させる(ステップ11)。
【0032】
次に、本実施形態は、負荷用ボルト12を、例えば、矢印ARで示す回転方向に増締めし、荷重線PLを基点に亀裂11の先端を矢印ARの方向に向って拡開させるとともに、亀裂11の開口変位Vを開口変位計測センサ13と電圧モニタ14とで計測する。
【0033】
その後、試験片10は、負荷用ボルト12によって荷重が加えられ、原子炉炉水に模擬した溶液に浸漬される。
【0034】
他方、本実施形態では、図3に示すように、試験片10の荷重−変位線(応力−ひずみ線)PVを、例えば、疲労試験機(引張試験機)を用いてデータを採り、線図化する(ステップ12)。
【0035】
この場合、荷重−変位線PVは、荷重(P)が材料にも影響するが試験荷重P:(0.8〜0.9)×Pを超えると、以下に示す予測K値に誤差があらわれ、実施と大きく懸け離れることもあるため、試験荷重Pから試験荷重の100%荷重Pまで破線で示す荷重−変位線Pを外挿法で求め、実験近似式として作成する(ステップ13)。ここで試験荷重Pは予め試験等で大きく懸け離れる可能性のある範囲を定め、通常材料においては試験荷重の100荷重Pの0.8〜0.9と定めておく。
【0036】
なお、荷重−変位線PVは、荷重間または変位間を求めるときに内挿法で求めてもよい。
【0037】
図3に示すように、実験近似式線Pと疲労試験機からの荷重−変位線PVが作成されると、図1で示したSCC試験機から求めた変位Vを設定し(ステップ14)、設定した変位Vから図3に示す荷重Pを算出する。
【0038】
例えば、SCC試験機からの変位の計測値がVであるとき、試験荷重の100%荷重はPになる。
【0039】
このように、図3から示した荷重−変位線PVから荷重Pが求められると、本実施形態では、以下に示す(2)式の実験式からK値が算出される(ステップ15)。
[数2]
K=P×[√W×{F(a/W)}]/B ……(2)
ここに、Pは荷重、Bは試験片の厚み、Wは試験片の長さ、aは亀裂の長さ、F(a/W)は試験片の形状に依存するa/Wの関数である。
【0040】
なお、上式(2)は、縦弾性係数Eに無関係であるから、異方質の材料にも十分適用することができる。
【0041】
このように、本実施形態は、強制的に与えた亀裂11を備えた試験片の荷重P以下の試験荷重Pを例えば(0.8〜0.9)PをPと定めてこの試験荷重Pまでの荷重変位PV値のデータを採って荷重−変位線PVとして線図化するとともに(ステップ11,12)、試験荷重P((0.8〜0.9)P)から荷重Pまでの荷重−変位線Pを外挿法で求め(ステップ13)、外挿法で求めた荷重−変位線Pと実験データから求められた荷重−変位線PVとから、試験荷重100%に対応する変位Vを求め(ステップ14)、この変位Vを試験片に付与して荷重Pを求め、求めた荷重Pを式(2)に与えてK値を算出する(ステップ5)ので、異方質を持つ材料であっても適正なK値を用いて精度のより一層高いSCC亀裂進展速度の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法に適用する応力腐食割れ試験機を示す概念図。
【図2】本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法の手順を示すブロック図。
【図3】本発明に係る応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法に適用する荷重−変位線図。
【図4】従来の応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法に適用する応力腐食割れ試験機を示す概念図。
【図5】従来の応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法の手順を示すブロック図。
【符号の説明】
【0043】
1 試験片
2 亀裂
3 負荷用ボルト
4 開口変位計測センサ
5 電圧モニタ
10 試験片
11 亀裂
12 負荷用ボルト
13 開口変位計測センサ
14 電圧モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方質の試験片に亀裂を与え、この亀裂に負荷用手段からの荷重を加えるとともに、腐食環境下に収容し、前記異方質の試験片の亀裂進展速度を求めて亀裂度合を評価する応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法において、前記試験片において予め定められた荷重と亀裂長さの変位から荷重−変位線を求める一方、前記予め定められた荷重と試験荷重の100%荷重までの荷重−変位線を外挿法で求め、この外挿法で求めた荷重−変位線と前記予め定められた荷重で求められた荷重−変位線とから試験荷重100%に対応する変位を算出し、算出した変位を試験片に付与して試験荷重の100%荷重から応力拡大係数を算出することを特徴とする応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法。
【請求項2】
前記予め定められた荷重と亀裂長さに基づく荷重−変位線は疲労試験機から求めることを特徴とする請求項1記載の応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法。
【請求項3】
腐食環境下に置かれた試験片は、負荷用手段によって荷重が加えられたまま原子炉炉水に模擬した溶液に浸漬させることを特徴とする請求項1記載の応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法。
【請求項4】
応力拡大係数Kは、下記式から算出することを特徴とする請求項1記載の応力腐食割れ亀裂進展速度の評価方法。
[数1]
K=P×[√W×{F(a/W)}]/B
ここで、Pは荷重、Bは試験片の厚み、Wは試験片の長さ、aは亀裂の長さ、F(a/W)は試験片の形状に依存するa/Wの関数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−51513(P2008−51513A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225050(P2006−225050)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】