応力腐食割れ評価方法および応力腐食割れ評価システム
【課題】原子炉構造物などの複雑な残留応力・K分布条件下においても、応力腐食割れ進展速度の予測を可能とする。
【解決手段】き裂先端のひずみ速度ε'ctを、応力拡大係数Kと、応力拡大係数の対き裂長さ変化率dK/daとの関数で表わし、き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度da/dtを予測する。き裂先端のひずみ速度ε'ctの算出は、き裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除することによって行なう。さらに、き裂先端の開口速度dδ/dtを、応力拡大係数Kと、応力拡大係数の対き裂長さ変化率dK/daとの関数で表すことにより、き裂の進展速度da/dtを予測する。
【解決手段】き裂先端のひずみ速度ε'ctを、応力拡大係数Kと、応力拡大係数の対き裂長さ変化率dK/daとの関数で表わし、き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度da/dtを予測する。き裂先端のひずみ速度ε'ctの算出は、き裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除することによって行なう。さらに、き裂先端の開口速度dδ/dtを、応力拡大係数Kと、応力拡大係数の対き裂長さ変化率dK/daとの関数で表すことにより、き裂の進展速度da/dtを予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子炉構造物などの腐食環境下における構造物の応力腐食割れ(SCC)を評価するための応力腐食割れ評価方法および応力腐食割れ評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉内環境である高温純水など腐食環境にさらされる構造材料においては、応力腐食割れによる損傷の発生が懸念される。したがって、万が一これらの構造物にき裂状の欠陥が発生した場合、その破損を未然に防ぐには、き裂の進展量を的確に把握し、機器の残余寿命を精度よく予測することが必要となる。
【0003】
沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉内構造材料のSCC進展特性は、原子炉水を模擬した高温水中にき裂付き試験片を浸漬し、ほぼ一定の荷重を負荷した際のき裂進展特性を実測して得ている。さらに、得られたき裂進展速度について、応力拡大係数(き裂先端の応力・ひずみ場の強さを表す線形破壊力学パラメータ、K値)や腐食電位、導電率との相関についてまとめられたものが、各種材料のき裂進展速度の参照線図として提案あるいは報告されてきている(非特許文献1〜4参照)。
【0004】
これらの報告のうち、非特許文献2および3は、き裂が進展しようとする領域の応力・ひずみ状態からSCCき裂の進展速度を予測する技術について提案している。これらはいずれもSCCき裂の進展速度が、き裂先端部の保護皮膜の破壊頻度と、その修復に費やされる金属溶出量の積で求められるとするすべり酸化・溶解モデルに基づいて検討されており、保護皮膜の破壊頻度を決定するき裂先端部のひずみ速度の取り扱いにそれぞれ特徴を有する。
【0005】
非特許文献2では、き裂先端のひずみ速度が応力拡大係数Kのn乗に比例するとして表現している。非特許文献3では、き裂先端のひずみ速度は、関数「f(1/K・dK/dt+1/r・da/dt)・ln{(K/σy)^2/r}」に比例するとしている。このような線図とあらかじめ測定・解析等によって評価した対象部位の力学条件・環境条件を用いることにより、構造物中の欠陥の進展速度およびその積算としてのき裂進展量を予測することができるとしている。
【非特許文献1】(社)火力原子力発電技術協会編,BWR炉内構造物点検評価ガイドライン
【非特許文献2】P.Ford et al., EPRI NP-5064S(1987)
【非特許文献3】T.Shoji et al., 7th Int. Symp. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systemswater reactors(1995),881-891
【非特許文献4】伊藤他,第48回材料と環境討論会講演集(2001),103−106
【非特許文献5】J.Rice et al.,“Fracture Mechanics Twelfth Conference, ASTM STP700(1980),189-221
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の公知技術において紹介したSCC進展速度の予測方法は、基本的には実験室において一方向荷重条件下で取得されたSCC進展速度を予測可能であるとしている。一方、実機構造物では、溶接などの影響により複雑な残留応力分布を有することがわかっている。このような残留応力分布下をき裂が進展していく場合、上述のき裂進展速度予測方法の主要パラメータである応力拡大係数(K値)もまた、残留応力分布に影響されて、増加・減少の組み合わせとなる複雑な分布を有することが予測されている。
【0007】
このような複雑な残留応力・K分布下においてのき裂進展挙動は、実験的に再現するのが難しく、定量的にき裂進展速度を得る方法が確立されていない。また、予測モデル式においても、非特許文献2では、予測式中にK分布の影響を反映する項がないこと、非特許文献3では、予測式中にK分布の影響を反映する項が含まれるもののK変化率を対時間の変化率としているため、このままでは構造物中のき裂進展予測に用いることができない上に、予測式の形状進展速度解を容易に得ることができないことの点から、現状では、予測モデル式においても、複雑な残留応力・K分布下におけるき裂進展挙動を、的確に予測することは難しいと考えざるを得ない。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、原子炉構造物などの複雑な残留応力・K分布条件下においても、SCC進展速度の予測を可能とする応力腐食割れ評価方法および応力腐食割れ評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表わし、前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測すること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の態様は、腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂時間変化率との関数で表すことにより、き裂の進展速度を予測すること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明のさらに他の態様は、腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価システムにおいて、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表す手段と、前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測する手段と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子炉構造物などの複雑な残留応力・K分布条件下においても、SCC進展速度を予測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る応力腐食割れ評価方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
ここで、本発明に係る応力腐食割れ評価方法の実施形態では以下の機能を含むこととする。
【0015】
(1)SCC進展機構に基づく予測方法とする。
【0016】
(2)残留応力によるK値の変化に対応可能なように、力学パラメータの項を構造物中におけるK変化挙動を反映可能な構成とする。
【0017】
(3)予測モデル式をda/dt=f( )の形になるようにして(右辺にda/dtを残さないようにして)、簡便に解けるようにする。
【0018】
[第1の実施形態]
図1ないし図5を用いて本発明の第1の実施形態を説明する。この実施形態では、図3に示すき裂1の先端2のひずみ速度ε'ctを、応力拡大係数Kと、応力拡大係数変化率dK/daで表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項1)。また、き裂先端2のひずみ速度ε'ctを、き裂先端2の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して得ることを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項2)。さらに、き裂先端2の開口速度dδ/dtを応力拡大係数Kとその変化率dK/daで表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項3)。
【0019】
この第1の実施形態では、SCCき裂進展速度da/dtを、すべり酸化・溶解モデルに基づき、かつ応力拡大係数Kと、その変化率dK/daを用いて予測する方法である。図3、図4および図5に示したように、すべり酸化・溶解モデルは、SCCがき裂1の先端2の酸化皮膜3の破壊と新生面溶解の繰り返しによって進展するとしたモデルであり、BWR環境など高温水中のSCC挙動をよく説明できることが知られている。図5は、この機構における腐食電流変化の模式図とこれから得られるSCC進展速度の基礎式(式(7))を示す図である。図3、図4および図5で、
da/dt
=M・i0/{zρF・(1−n)}・(t0/εf)n・(ε'ct)n (7)
ただし、nは腐食環境・材料感受性の指数、Mは溶出金属の原子量、zは反応荷数、ρは密度、Fはファラデー数、i0は電流減衰曲線最大値、t0は電流減衰開始時間、εfは皮膜破壊ひずみを表わす。
【0020】
SCC進展速度da/dtは、き裂先端の皮膜破壊・修復時の消費電気量から求めた腐食溶出量Qiの時間平均と、皮膜破壊頻度1/tfから求められ、き裂先端のひずみ速度ε'ctに依存することが指摘されている。式(7)の中のひずみ速度ε'ctは、き裂先端の応力・ひずみ分布から得られる値であり、これらは、評価対象き裂の応力拡大係数とその変化率を用いて表すことができる。
【0021】
これらの関係から本発明の第1の実施形態として、式(1)に示したSCC進展速度の予測方法を得る。
【0022】
図1で、
da/dt
=M・i0/{zρF・(1−n)}・(t0/εf)n
・{f(K,dK/da)}n (1)
式(1)は、き裂先端のひずみ速度を算出する項と、腐食溶出量を算出する項と腐食環境・材料感受性を表す指数nから構成され、図3、図4および図5に示したすべり酸化溶解モデルに基づくSCC進展速度の予測式を基に求められている。さらにき裂先端のひずみ速度およびこれを用いたSCC進展速度の予測方法の例を示す。図2に示したように、ひずみ速度を定義する位置がき裂先端近傍の微小距離である場合、式(2)のように、ひずみ速度とき裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して得た値が同等とみなせる。
【0023】
図2で、き裂先端開口速度dδ/dtを定義する位置rδが微小の場合、ひずみ速度ε'ctは、き裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して式(2)により得られる。
【0024】
ε'ct=dδ/dt/δ0 (2)
式(2)におけるdδ/dtにRiceらによる評価式(非特許文献5参照)を用いると、式(3)を得る。
【0025】
dδ/dt
=α・(dJ/dt)/σy
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln(R/r) (3)
ただし、Jは評価対象き裂のJ積分値、Rは評価対象き裂先端の塑性変形領域寸法である。
【0026】
ここで、J、Rを、Kを用いて表すと、
dδ/dt
=α・(1−ν2)・2K・(dK/dt)/(E・σy)
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln{λ・(K/σy)2/r} (4)
ここで、Eは弾性定数、νはポアソン比である。
【0027】
式(4)を変形して、
dδ/dt
={α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)
+β・(σy/E)・ln{λ・(K/σy)2/r}}・(da/dt) (5)
を得る。この式(5)は、微小距離rδにおけるdδ/dtをKおよびK変化率を用いて表した式となっている。
【0028】
式(2)および式(5)より
ε'ct
=(1/δ0)・[{α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)
+β・(σy/E)・ln{λ・(K/σy)2/r}}
・(da/dt)] (6)
次に図3において、式(6)および式(7)より、
da/dt
=[M・i0/{zρF・(1−n)}
・(t0/εf)n・(1/δ0)n]1/(1−n)
・[α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)
+β・(σy/E)・ln{λ・(K/σy)2/r}]n/(1−n) (8)
式(7)では、
dK/da=0の場合:
λ・(K/σy)2/r}=1 (9)
dK/da≠0の場合:
α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)+β・(σy/E)
・ln{λ・(K/σy)2/r}
=0
dK/da
=−(β/α)・{(σy2)/(1−ν2)}・ln{λ・(K/σy)2/r}
/2K (10)
の場合、式(8)の右辺[ ]内が0となりda/dt=0となる。
【0029】
この第1の実施形態では、SCC進展速度をKおよびdK/daを用いて予測する。KおよびdK/daは残留応力分布とき裂形状が既知であれば容易に算出できる値であることから、本実施の形態によれば、複雑な残留応力分布を有する構造物中を進展するき裂についてもそのSCC進展速度を予測することができ、構造物の寿命構造物のSCC損傷による寿命を適切に予測することができる。
【0030】
[第2の実施形態]
次に図2を用いて本発明の第2の実施形態を説明する。この実施形態では、き裂先端のすべり速度(ひずみ速度ε'ct)を、応力拡大係数Kと応力拡大係数変化率dK/dtで表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項4)。き裂先端のひずみ速度ε'ctを、き裂先端のひずみ量の算出式を変形し、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数Kと、応力拡大係数の対時間変化率(dK/dt)で表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項5)。腐食疲労など、時間に依存した外荷重が評価対象き裂に負荷される場合、第1の実施形態の方法に加えて、SCC進展速度やひずみ速度をKおよびdK/dtで表すことが望ましい。
【0031】
図2に示したように、ひずみ速度ε'ctを定義する位置が、き裂先端近傍の微小距離である場合、第1の実施形態と同様に、ひずみ速度ε'ctとき裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して得た値が同等とみなせる(式(2))。式(2)におけるdδ/dtにRiceらによる評価式(非特許文献5参照)を用いると、式(3)を得る。式(3)のJ、Rを応力拡大係数Kに変換して式(4)を得る。これを式(2)に挿入し、き裂先端のひずみ速度ε'ctを、KおよびdK/dtを用いて求める式(11)を得る。
【0032】
ε'ct
=(1/δ0)・[α・(1−ν2)・2K・(dK/dt)/(E・σy)
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln{λ・(K/σy)2/r}] (11)
さらに式(7)と式(11)を組み合わせ、KおよびdK/dtを用いてSCC進展速度を予測する式(12)を得る。
【0033】
da/dt
=M・i0/{zρF・(1−n)}・(t0/εf)n・(1/δ0)n
・[α・(1−ν2)・2K・(dK/dt)/(E・σy)
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln{λ・(K/σy)2/r}]n (12)
この第2の実施形態では、SCC進展速度を、KおよびdK/dtを用いて予測する。
【0034】
dK/dtはき裂形状と残留応力分布の時間依存性が既知であれば算出できる値であることから、本実施の形態によれば、残留応力分布が時間依存性を有する構造物中を進展するき裂についてもそのSCC進展速度を予測することができ、構造物のSCC損傷による寿命を適切に予測することができる。
【0035】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態を、図6ないし図10を用いて説明する。この実施形態では、あらかじめ求めておいたさまざまな腐食環境におけるSCC進展速度から、腐食環境を表す指数nと腐食環境を表すパラメータ(腐食電位、導電率)との関係を定める方法を提供する(請求項6)。また、あらかじめ同一の鋼種で材料の腐食感受性を表すパラメータ(鋭敏化度など)の異なる材料を用いて求めておいたSCC進展速度da/dtから、材料の腐食感受性を表す指数である腐食感受性を表すパラメータ(鋭敏化度など)との関係を定める(請求項7)。さらに、あらかじめ評価対象材料の材料強度を表すパラメータと、SCC進展速度の関係を求めておき、評価対象材料の材料強度とひずみ速度ε'ctとの関係を求め、この関係から任意の材料強度を有する材料におけるSCC進展速度da/dtを予測する(請求項8)。
【0036】
式(7)の両辺の対数から式(13)を得る。
【0037】
log(da/dt)
=n・log{(t0/εf)・(ε'ct)}
+log[M・i0/{zρF・(1−n)}] (13)
この式(13)では、き裂進展速度da/dtの対数は、他の条件がすべて既知の場合、nを変数とした一次式で表される。nは、腐食環境を表すパラメータ(腐食電位、導電率)と材料の腐食感受性を表すパラメータの影響を示す指数であることから、いずれか一方のみを変数として図6のようにSCC進展速度da/dtを得ることにより、図7および図8のように指数nと腐食環境を表すパラメータ、および指数nと腐食感受性を表すパラメータの関係を得ることができる。
【0038】
これらの関係から、任意の腐食環境あるいは材料についても腐食環境を表すパラメータ、腐食感受性を表すパラメータを得ることにより、評価対象き裂のSCC進展速度を予測することができる。
【0039】
式(6)における基準距離δ0は、静的な荷重がき裂周辺に負荷された場合のき裂先端の開口量と置き換えて考えることができる。き裂先端開口量(CTOD;Crack Tip Opening Displacement)は材料の耐力σyと式(14)の関係を有することが知られている。
【0040】
CTOD∝(K/σy)^2 (14)
したがって、同一の鋼種で材料の耐力を変数にSCC進展速度をあらかじめ求めておくことにより、図10のように材料の耐力とひずみ速度との関係を得ることができる。これらの関係から、任意の耐力を有する部位についてもひずみ速度を算出することができ、評価対象き裂のSCC進展速度を予測することができる。
【0041】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態の応力腐食割れ評価方法を、図11を用いて説明する。この方法は、原子炉溶接構造物に対する健全性評価方法の例である。評価対象部の供用継続可能性は次のように評価される。初めに、欠陥のモデル化を行なう(ステップS1)。ここで、残留応力・運転応力を入力し(ステップS2)、応力拡大係数K値分布を計算する。そして、SCC進展量の予測を行なう(ステップS3)。ここで、SCC進展量の予測(ステップS3)にあたっては、K値分布を評価し(ステップS4)、Kが増加しているか減少しているかによってKとSCC進展速度の関係式(参照線図)を使い分ける(ステップS5)。これによって、より実機に近い進展評価を実現できる。
【0042】
SCC進展量予測(ステップS3)の後に、その結果に基づいて、破壊裕度を評価する(ステップS6)。その評価の結果に基づいて継続使用を許容するか否か判定する(ステップS7)。破壊裕度が十分に大きい場合には、継続使用が許容される(ステップS8)。破壊裕度が不十分の場合には、補修、取替えが指示される(ステップS9)。
【0043】
このような手順により。実機構造物のように応力拡大係数が複雑な分布を有する場合においても、任意のき裂寸法に対し適切なSCC進展速度を精度良く予測でき、精度の高い進展挙動予測が可能となる。
【0044】
また、評価対象き裂の先端において応力拡大係数が増加/減少いずれかの過程を判断し、これに基づいて、上記の応力拡大係数を計算し、き裂進展速度を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態における残留応力の影響によって増加・減少する応力拡大係数とSCC進展速度予測式(1)の例を示すグラフであって、(a)はき裂進行方向位置に対する残留応力のグラフ、(b)は内表面から板厚方向の位置に対する応力拡大係数のグラフ。
【図2】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態におけるき裂先端ひずみ速度予測式の例を説明するための図であって、き裂先端のようすを示す図。
【図3】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態におけるSlip-Oxidation/Dissolution SCC modelにおけるき裂進展の様相とSCC進展予測基礎式を説明するための図であって、き裂先端のようすを示す図。
【図4】図3のき裂先端部におけるSCC進展の様子を拡大して順に示す図であって、(a)は酸化被膜がすべり線に沿ってすべる状況を示す図、(b)は被膜が破壊される状況を示す図、(c)はSCCが進展する状況を示す図。
【図5】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態における電流減衰曲線を示すグラフ。
【図6】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態におけるひずみ速度とき裂進展速度の関係を示すグラフ。
【図7】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における腐食電位と腐食環境・材料感受性の指数nの関係を示すグラフ。
【図8】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における鋭敏化度と腐食環境・材料感受性の指数nの関係を示すグラフ。
【図9】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における耐力とき裂進展速度の関係を示すグラフ。
【図10】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における耐力とひずみ速度の関係を示すグラフ。
【図11】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第4の実施形態の手順を示す流れ図。
【符号の説明】
【0046】
1…き裂
2…き裂先端
3…酸化皮膜
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子炉構造物などの腐食環境下における構造物の応力腐食割れ(SCC)を評価するための応力腐食割れ評価方法および応力腐食割れ評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉内環境である高温純水など腐食環境にさらされる構造材料においては、応力腐食割れによる損傷の発生が懸念される。したがって、万が一これらの構造物にき裂状の欠陥が発生した場合、その破損を未然に防ぐには、き裂の進展量を的確に把握し、機器の残余寿命を精度よく予測することが必要となる。
【0003】
沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉内構造材料のSCC進展特性は、原子炉水を模擬した高温水中にき裂付き試験片を浸漬し、ほぼ一定の荷重を負荷した際のき裂進展特性を実測して得ている。さらに、得られたき裂進展速度について、応力拡大係数(き裂先端の応力・ひずみ場の強さを表す線形破壊力学パラメータ、K値)や腐食電位、導電率との相関についてまとめられたものが、各種材料のき裂進展速度の参照線図として提案あるいは報告されてきている(非特許文献1〜4参照)。
【0004】
これらの報告のうち、非特許文献2および3は、き裂が進展しようとする領域の応力・ひずみ状態からSCCき裂の進展速度を予測する技術について提案している。これらはいずれもSCCき裂の進展速度が、き裂先端部の保護皮膜の破壊頻度と、その修復に費やされる金属溶出量の積で求められるとするすべり酸化・溶解モデルに基づいて検討されており、保護皮膜の破壊頻度を決定するき裂先端部のひずみ速度の取り扱いにそれぞれ特徴を有する。
【0005】
非特許文献2では、き裂先端のひずみ速度が応力拡大係数Kのn乗に比例するとして表現している。非特許文献3では、き裂先端のひずみ速度は、関数「f(1/K・dK/dt+1/r・da/dt)・ln{(K/σy)^2/r}」に比例するとしている。このような線図とあらかじめ測定・解析等によって評価した対象部位の力学条件・環境条件を用いることにより、構造物中の欠陥の進展速度およびその積算としてのき裂進展量を予測することができるとしている。
【非特許文献1】(社)火力原子力発電技術協会編,BWR炉内構造物点検評価ガイドライン
【非特許文献2】P.Ford et al., EPRI NP-5064S(1987)
【非特許文献3】T.Shoji et al., 7th Int. Symp. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systemswater reactors(1995),881-891
【非特許文献4】伊藤他,第48回材料と環境討論会講演集(2001),103−106
【非特許文献5】J.Rice et al.,“Fracture Mechanics Twelfth Conference, ASTM STP700(1980),189-221
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の公知技術において紹介したSCC進展速度の予測方法は、基本的には実験室において一方向荷重条件下で取得されたSCC進展速度を予測可能であるとしている。一方、実機構造物では、溶接などの影響により複雑な残留応力分布を有することがわかっている。このような残留応力分布下をき裂が進展していく場合、上述のき裂進展速度予測方法の主要パラメータである応力拡大係数(K値)もまた、残留応力分布に影響されて、増加・減少の組み合わせとなる複雑な分布を有することが予測されている。
【0007】
このような複雑な残留応力・K分布下においてのき裂進展挙動は、実験的に再現するのが難しく、定量的にき裂進展速度を得る方法が確立されていない。また、予測モデル式においても、非特許文献2では、予測式中にK分布の影響を反映する項がないこと、非特許文献3では、予測式中にK分布の影響を反映する項が含まれるもののK変化率を対時間の変化率としているため、このままでは構造物中のき裂進展予測に用いることができない上に、予測式の形状進展速度解を容易に得ることができないことの点から、現状では、予測モデル式においても、複雑な残留応力・K分布下におけるき裂進展挙動を、的確に予測することは難しいと考えざるを得ない。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、原子炉構造物などの複雑な残留応力・K分布条件下においても、SCC進展速度の予測を可能とする応力腐食割れ評価方法および応力腐食割れ評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表わし、前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測すること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の態様は、腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂時間変化率との関数で表すことにより、き裂の進展速度を予測すること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明のさらに他の態様は、腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価システムにおいて、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表す手段と、前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測する手段と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子炉構造物などの複雑な残留応力・K分布条件下においても、SCC進展速度を予測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る応力腐食割れ評価方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
ここで、本発明に係る応力腐食割れ評価方法の実施形態では以下の機能を含むこととする。
【0015】
(1)SCC進展機構に基づく予測方法とする。
【0016】
(2)残留応力によるK値の変化に対応可能なように、力学パラメータの項を構造物中におけるK変化挙動を反映可能な構成とする。
【0017】
(3)予測モデル式をda/dt=f( )の形になるようにして(右辺にda/dtを残さないようにして)、簡便に解けるようにする。
【0018】
[第1の実施形態]
図1ないし図5を用いて本発明の第1の実施形態を説明する。この実施形態では、図3に示すき裂1の先端2のひずみ速度ε'ctを、応力拡大係数Kと、応力拡大係数変化率dK/daで表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項1)。また、き裂先端2のひずみ速度ε'ctを、き裂先端2の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して得ることを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項2)。さらに、き裂先端2の開口速度dδ/dtを応力拡大係数Kとその変化率dK/daで表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項3)。
【0019】
この第1の実施形態では、SCCき裂進展速度da/dtを、すべり酸化・溶解モデルに基づき、かつ応力拡大係数Kと、その変化率dK/daを用いて予測する方法である。図3、図4および図5に示したように、すべり酸化・溶解モデルは、SCCがき裂1の先端2の酸化皮膜3の破壊と新生面溶解の繰り返しによって進展するとしたモデルであり、BWR環境など高温水中のSCC挙動をよく説明できることが知られている。図5は、この機構における腐食電流変化の模式図とこれから得られるSCC進展速度の基礎式(式(7))を示す図である。図3、図4および図5で、
da/dt
=M・i0/{zρF・(1−n)}・(t0/εf)n・(ε'ct)n (7)
ただし、nは腐食環境・材料感受性の指数、Mは溶出金属の原子量、zは反応荷数、ρは密度、Fはファラデー数、i0は電流減衰曲線最大値、t0は電流減衰開始時間、εfは皮膜破壊ひずみを表わす。
【0020】
SCC進展速度da/dtは、き裂先端の皮膜破壊・修復時の消費電気量から求めた腐食溶出量Qiの時間平均と、皮膜破壊頻度1/tfから求められ、き裂先端のひずみ速度ε'ctに依存することが指摘されている。式(7)の中のひずみ速度ε'ctは、き裂先端の応力・ひずみ分布から得られる値であり、これらは、評価対象き裂の応力拡大係数とその変化率を用いて表すことができる。
【0021】
これらの関係から本発明の第1の実施形態として、式(1)に示したSCC進展速度の予測方法を得る。
【0022】
図1で、
da/dt
=M・i0/{zρF・(1−n)}・(t0/εf)n
・{f(K,dK/da)}n (1)
式(1)は、き裂先端のひずみ速度を算出する項と、腐食溶出量を算出する項と腐食環境・材料感受性を表す指数nから構成され、図3、図4および図5に示したすべり酸化溶解モデルに基づくSCC進展速度の予測式を基に求められている。さらにき裂先端のひずみ速度およびこれを用いたSCC進展速度の予測方法の例を示す。図2に示したように、ひずみ速度を定義する位置がき裂先端近傍の微小距離である場合、式(2)のように、ひずみ速度とき裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して得た値が同等とみなせる。
【0023】
図2で、き裂先端開口速度dδ/dtを定義する位置rδが微小の場合、ひずみ速度ε'ctは、き裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して式(2)により得られる。
【0024】
ε'ct=dδ/dt/δ0 (2)
式(2)におけるdδ/dtにRiceらによる評価式(非特許文献5参照)を用いると、式(3)を得る。
【0025】
dδ/dt
=α・(dJ/dt)/σy
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln(R/r) (3)
ただし、Jは評価対象き裂のJ積分値、Rは評価対象き裂先端の塑性変形領域寸法である。
【0026】
ここで、J、Rを、Kを用いて表すと、
dδ/dt
=α・(1−ν2)・2K・(dK/dt)/(E・σy)
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln{λ・(K/σy)2/r} (4)
ここで、Eは弾性定数、νはポアソン比である。
【0027】
式(4)を変形して、
dδ/dt
={α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)
+β・(σy/E)・ln{λ・(K/σy)2/r}}・(da/dt) (5)
を得る。この式(5)は、微小距離rδにおけるdδ/dtをKおよびK変化率を用いて表した式となっている。
【0028】
式(2)および式(5)より
ε'ct
=(1/δ0)・[{α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)
+β・(σy/E)・ln{λ・(K/σy)2/r}}
・(da/dt)] (6)
次に図3において、式(6)および式(7)より、
da/dt
=[M・i0/{zρF・(1−n)}
・(t0/εf)n・(1/δ0)n]1/(1−n)
・[α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)
+β・(σy/E)・ln{λ・(K/σy)2/r}]n/(1−n) (8)
式(7)では、
dK/da=0の場合:
λ・(K/σy)2/r}=1 (9)
dK/da≠0の場合:
α・(1−ν2)・2K・(dK/da)/(E・σy)+β・(σy/E)
・ln{λ・(K/σy)2/r}
=0
dK/da
=−(β/α)・{(σy2)/(1−ν2)}・ln{λ・(K/σy)2/r}
/2K (10)
の場合、式(8)の右辺[ ]内が0となりda/dt=0となる。
【0029】
この第1の実施形態では、SCC進展速度をKおよびdK/daを用いて予測する。KおよびdK/daは残留応力分布とき裂形状が既知であれば容易に算出できる値であることから、本実施の形態によれば、複雑な残留応力分布を有する構造物中を進展するき裂についてもそのSCC進展速度を予測することができ、構造物の寿命構造物のSCC損傷による寿命を適切に予測することができる。
【0030】
[第2の実施形態]
次に図2を用いて本発明の第2の実施形態を説明する。この実施形態では、き裂先端のすべり速度(ひずみ速度ε'ct)を、応力拡大係数Kと応力拡大係数変化率dK/dtで表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項4)。き裂先端のひずみ速度ε'ctを、き裂先端のひずみ量の算出式を変形し、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数Kと、応力拡大係数の対時間変化率(dK/dt)で表すことを特徴とする構造物のSCC寿命予測方法を提供する(請求項5)。腐食疲労など、時間に依存した外荷重が評価対象き裂に負荷される場合、第1の実施形態の方法に加えて、SCC進展速度やひずみ速度をKおよびdK/dtで表すことが望ましい。
【0031】
図2に示したように、ひずみ速度ε'ctを定義する位置が、き裂先端近傍の微小距離である場合、第1の実施形態と同様に、ひずみ速度ε'ctとき裂先端の開口速度dδ/dtを基準距離δ0で除して得た値が同等とみなせる(式(2))。式(2)におけるdδ/dtにRiceらによる評価式(非特許文献5参照)を用いると、式(3)を得る。式(3)のJ、Rを応力拡大係数Kに変換して式(4)を得る。これを式(2)に挿入し、き裂先端のひずみ速度ε'ctを、KおよびdK/dtを用いて求める式(11)を得る。
【0032】
ε'ct
=(1/δ0)・[α・(1−ν2)・2K・(dK/dt)/(E・σy)
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln{λ・(K/σy)2/r}] (11)
さらに式(7)と式(11)を組み合わせ、KおよびdK/dtを用いてSCC進展速度を予測する式(12)を得る。
【0033】
da/dt
=M・i0/{zρF・(1−n)}・(t0/εf)n・(1/δ0)n
・[α・(1−ν2)・2K・(dK/dt)/(E・σy)
+β・(σy/E)・(da/dt)・ln{λ・(K/σy)2/r}]n (12)
この第2の実施形態では、SCC進展速度を、KおよびdK/dtを用いて予測する。
【0034】
dK/dtはき裂形状と残留応力分布の時間依存性が既知であれば算出できる値であることから、本実施の形態によれば、残留応力分布が時間依存性を有する構造物中を進展するき裂についてもそのSCC進展速度を予測することができ、構造物のSCC損傷による寿命を適切に予測することができる。
【0035】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態を、図6ないし図10を用いて説明する。この実施形態では、あらかじめ求めておいたさまざまな腐食環境におけるSCC進展速度から、腐食環境を表す指数nと腐食環境を表すパラメータ(腐食電位、導電率)との関係を定める方法を提供する(請求項6)。また、あらかじめ同一の鋼種で材料の腐食感受性を表すパラメータ(鋭敏化度など)の異なる材料を用いて求めておいたSCC進展速度da/dtから、材料の腐食感受性を表す指数である腐食感受性を表すパラメータ(鋭敏化度など)との関係を定める(請求項7)。さらに、あらかじめ評価対象材料の材料強度を表すパラメータと、SCC進展速度の関係を求めておき、評価対象材料の材料強度とひずみ速度ε'ctとの関係を求め、この関係から任意の材料強度を有する材料におけるSCC進展速度da/dtを予測する(請求項8)。
【0036】
式(7)の両辺の対数から式(13)を得る。
【0037】
log(da/dt)
=n・log{(t0/εf)・(ε'ct)}
+log[M・i0/{zρF・(1−n)}] (13)
この式(13)では、き裂進展速度da/dtの対数は、他の条件がすべて既知の場合、nを変数とした一次式で表される。nは、腐食環境を表すパラメータ(腐食電位、導電率)と材料の腐食感受性を表すパラメータの影響を示す指数であることから、いずれか一方のみを変数として図6のようにSCC進展速度da/dtを得ることにより、図7および図8のように指数nと腐食環境を表すパラメータ、および指数nと腐食感受性を表すパラメータの関係を得ることができる。
【0038】
これらの関係から、任意の腐食環境あるいは材料についても腐食環境を表すパラメータ、腐食感受性を表すパラメータを得ることにより、評価対象き裂のSCC進展速度を予測することができる。
【0039】
式(6)における基準距離δ0は、静的な荷重がき裂周辺に負荷された場合のき裂先端の開口量と置き換えて考えることができる。き裂先端開口量(CTOD;Crack Tip Opening Displacement)は材料の耐力σyと式(14)の関係を有することが知られている。
【0040】
CTOD∝(K/σy)^2 (14)
したがって、同一の鋼種で材料の耐力を変数にSCC進展速度をあらかじめ求めておくことにより、図10のように材料の耐力とひずみ速度との関係を得ることができる。これらの関係から、任意の耐力を有する部位についてもひずみ速度を算出することができ、評価対象き裂のSCC進展速度を予測することができる。
【0041】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態の応力腐食割れ評価方法を、図11を用いて説明する。この方法は、原子炉溶接構造物に対する健全性評価方法の例である。評価対象部の供用継続可能性は次のように評価される。初めに、欠陥のモデル化を行なう(ステップS1)。ここで、残留応力・運転応力を入力し(ステップS2)、応力拡大係数K値分布を計算する。そして、SCC進展量の予測を行なう(ステップS3)。ここで、SCC進展量の予測(ステップS3)にあたっては、K値分布を評価し(ステップS4)、Kが増加しているか減少しているかによってKとSCC進展速度の関係式(参照線図)を使い分ける(ステップS5)。これによって、より実機に近い進展評価を実現できる。
【0042】
SCC進展量予測(ステップS3)の後に、その結果に基づいて、破壊裕度を評価する(ステップS6)。その評価の結果に基づいて継続使用を許容するか否か判定する(ステップS7)。破壊裕度が十分に大きい場合には、継続使用が許容される(ステップS8)。破壊裕度が不十分の場合には、補修、取替えが指示される(ステップS9)。
【0043】
このような手順により。実機構造物のように応力拡大係数が複雑な分布を有する場合においても、任意のき裂寸法に対し適切なSCC進展速度を精度良く予測でき、精度の高い進展挙動予測が可能となる。
【0044】
また、評価対象き裂の先端において応力拡大係数が増加/減少いずれかの過程を判断し、これに基づいて、上記の応力拡大係数を計算し、き裂進展速度を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態における残留応力の影響によって増加・減少する応力拡大係数とSCC進展速度予測式(1)の例を示すグラフであって、(a)はき裂進行方向位置に対する残留応力のグラフ、(b)は内表面から板厚方向の位置に対する応力拡大係数のグラフ。
【図2】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態におけるき裂先端ひずみ速度予測式の例を説明するための図であって、き裂先端のようすを示す図。
【図3】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態におけるSlip-Oxidation/Dissolution SCC modelにおけるき裂進展の様相とSCC進展予測基礎式を説明するための図であって、き裂先端のようすを示す図。
【図4】図3のき裂先端部におけるSCC進展の様子を拡大して順に示す図であって、(a)は酸化被膜がすべり線に沿ってすべる状況を示す図、(b)は被膜が破壊される状況を示す図、(c)はSCCが進展する状況を示す図。
【図5】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第1の実施形態における電流減衰曲線を示すグラフ。
【図6】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態におけるひずみ速度とき裂進展速度の関係を示すグラフ。
【図7】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における腐食電位と腐食環境・材料感受性の指数nの関係を示すグラフ。
【図8】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における鋭敏化度と腐食環境・材料感受性の指数nの関係を示すグラフ。
【図9】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における耐力とき裂進展速度の関係を示すグラフ。
【図10】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第3の実施形態における耐力とひずみ速度の関係を示すグラフ。
【図11】本発明に係る応力腐食割れ評価方法の第4の実施形態の手順を示す流れ図。
【符号の説明】
【0046】
1…き裂
2…き裂先端
3…酸化皮膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、
き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表わし、
前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測すること、
を特徴とする応力腐食割れ評価方法。
【請求項2】
き裂先端の開口速度を基準距離で除することによって前記き裂先端のひずみ速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項3】
き裂先端の開口速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表すことにより、き裂の進展速度を予測すること、を特徴とする請求項2に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項4】
腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂時間変化率との関数で表すことにより、き裂の進展速度を予測すること、を特徴とする応力腐食割れ評価方法。
【請求項5】
き裂先端の開口速度を基準距離で除することによって前記き裂先端のひずみ速度を算出することを特徴とする請求項4に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項6】
あらかじめ、腐食環境を表すパラメータと応力腐食割れき裂進展速度との関係を求めておき、
腐食環境を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係を求め、
この腐食環境を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係に基いて、任意の評価対象環境下における指数nを予測し、
この環境下の応力腐食割れき裂進展速度を予測すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項7】
あらかじめ、評価対象材料の腐食感受性を表すパラメータと応力腐食割れき裂進展速度との関係を求め、
評価対象材料の腐食感受性を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係を求め、
この評価対象材料の腐食感受性を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係に基いて、任意の評価対象材料における指数nを予測し、
この材料の応力腐食割れき裂進展速度を予測すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項8】
あらかじめ、評価対象材料の材料強度を表すパラメータと応力腐食割れき裂進展速度との関係を求め、
評価対象材料の材料強度とひずみ速度との関係を求め、
この評価対象材料の材料強度とひずみ速度との関係に基いて、
任意の材料強度を有する材料の応力腐食割れき裂進展速度を予測すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項9】
評価対象欠陥のモデル化を行なうステップと、
前記モデル化の結果に基いて残留応力および運転応力を入力するステップと、
前記モデル化および入力の結果に基いて応力拡大係数を計算するステップと、
前記モデル化、入力の結果および応力拡大係数に基いてき裂進展速度を予測するステップと、
前記き裂進展速度を積分して任意時間経過後のき裂寸法を計算するステップと、
き裂寸法と評価対象部の限界き裂寸法を比較し、評価対象部が供用可能であるか否かを判断するステップと、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項10】
対象き裂の先端における応力拡大係数が増加か減少かを判断し、これに基づいてき裂進展速度を予測すること特徴とする請求項9に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項11】
腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価システムにおいて、
き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表す手段と、
前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測する手段と、
を有すること、を特徴とする応力腐食割れ評価システム。
【請求項1】
腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、
き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表わし、
前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測すること、
を特徴とする応力腐食割れ評価方法。
【請求項2】
き裂先端の開口速度を基準距離で除することによって前記き裂先端のひずみ速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項3】
き裂先端の開口速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表すことにより、き裂の進展速度を予測すること、を特徴とする請求項2に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項4】
腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価方法において、き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂時間変化率との関数で表すことにより、き裂の進展速度を予測すること、を特徴とする応力腐食割れ評価方法。
【請求項5】
き裂先端の開口速度を基準距離で除することによって前記き裂先端のひずみ速度を算出することを特徴とする請求項4に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項6】
あらかじめ、腐食環境を表すパラメータと応力腐食割れき裂進展速度との関係を求めておき、
腐食環境を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係を求め、
この腐食環境を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係に基いて、任意の評価対象環境下における指数nを予測し、
この環境下の応力腐食割れき裂進展速度を予測すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項7】
あらかじめ、評価対象材料の腐食感受性を表すパラメータと応力腐食割れき裂進展速度との関係を求め、
評価対象材料の腐食感受性を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係を求め、
この評価対象材料の腐食感受性を表すパラメータと腐食環境を表す指数nとの関係に基いて、任意の評価対象材料における指数nを予測し、
この材料の応力腐食割れき裂進展速度を予測すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項8】
あらかじめ、評価対象材料の材料強度を表すパラメータと応力腐食割れき裂進展速度との関係を求め、
評価対象材料の材料強度とひずみ速度との関係を求め、
この評価対象材料の材料強度とひずみ速度との関係に基いて、
任意の材料強度を有する材料の応力腐食割れき裂進展速度を予測すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項9】
評価対象欠陥のモデル化を行なうステップと、
前記モデル化の結果に基いて残留応力および運転応力を入力するステップと、
前記モデル化および入力の結果に基いて応力拡大係数を計算するステップと、
前記モデル化、入力の結果および応力拡大係数に基いてき裂進展速度を予測するステップと、
前記き裂進展速度を積分して任意時間経過後のき裂寸法を計算するステップと、
き裂寸法と評価対象部の限界き裂寸法を比較し、評価対象部が供用可能であるか否かを判断するステップと、
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項10】
対象き裂の先端における応力拡大係数が増加か減少かを判断し、これに基づいてき裂進展速度を予測すること特徴とする請求項9に記載の応力腐食割れ評価方法。
【請求項11】
腐食環境下における構造物の応力腐食割れを評価する応力腐食割れ評価システムにおいて、
き裂先端のひずみ速度を、応力拡大係数と、応力拡大係数の対き裂長さ変化率との関数で表す手段と、
前記き裂先端のひずみ速度に基いてき裂の進展速度を予測する手段と、
を有すること、を特徴とする応力腐食割れ評価システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−218826(P2007−218826A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42035(P2006−42035)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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