説明

応力観察装置

【課題】 血管等の体腔部分の動特性を再現可能な立体モデルを提案する。
【解決手段】 被検体の断層像データに基づき形成された血管などの体腔を再現した腔所をその内部に有する膜状モデルが生体組織に類似した物理特性を有する基材に埋設されている。基材にはシリコーンゲル等の柔軟かつ弾性のある材料が採用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は応力観察装置に関する。更に詳しくは、被検体の血管などの体腔を再現した立体モデルの応力を観察する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、被検体の血管などの体腔を再現したブロック状の立体モデルを提案している(非特許文献1)。この立体モデルは被検体の断層像データに基づき血管などの体腔モデルを積層造形し、該体腔モデルの周囲を立体モデル成形材料で囲繞して該立体モデル成形材料を硬化させ、その後体腔モデルを除去することにより得られる。
更に、膜状の立体モデル(非特許文献2)を提案している。
更には、本件発明に関連する文献として特許文献1〜特許文献5を参照されたい。
【0003】
【特許文献1】特開2003−11237号公報
【特許文献2】特開平11−73096号公報
【特許文献3】WO 03/096309 A1
【特許文献4】特開平10−33253号公報
【特許文献5】特開平3−111726号公報
【非特許文献1】脳血管内腔を再現した手術試行用医療モデル、第20回ロボット学会学術講演会予稿集、2002.
【非特許文献2】脳血管内手術を対象とした生体情報に基づく手術シミュレータに関する研究、ロボティクス・メカトロニクス講演会予稿集、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の各立体モデルによれば脳血管等の体腔の複雑かつ微妙な立体形状が正確に再現されるので、患部の確認やカテーテル挿入シミュレーション用として好適なものとなる。しかしながら、ブロック状の立体モデルでは、血管の膜状構造と血管周囲領域の構造が個別に再現されないためにモデル内部の血管形状は拘束されており、医療機器や流体の挿入シミュレーションに対して、手術時に認められるような血管の動的な変形を表現することはできない。
また、膜状立体モデルは保形性に劣るので、取り扱いが不便である。
なお、この明細書で、膜状立体モデルを「膜状モデル」、「中空部を有する観察対象」と表現することがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の第1の局面は上記課題を解決すべくなされたものであり、その構成は、
血管などの体腔をその内部に再現する膜状モデルと、
該膜状モデルを囲繞する透光性の基材であって、弾性を有しかつ前記膜状モデルに対して密着性のある基材と、
を備えてなる立体モデル。
【発明の効果】
【0006】
このように構成された立体モデルによれば、生体血管の有する膜状構造と血管周囲の軟組織の構造が物理特性も含めて個別に再現される。これにより、血管等の柔軟性を有する膜状構造のモデルが、血管周囲組織の弾性特性を有する基材に埋設された状態となる。このため、医療器具や流体の挿入シミュレーションに際して、立体モデル内部の膜状構造の血管モデルが基材内で生体内における血管と同様に柔軟に変形することができ、生体血管の変形特性を再現するのに好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、発明の各構成要素を詳細に説明する。
(膜状モデル)
膜状モデルは次のようにして形成される。
被検体は人体の全体若しくは一部を対象とするが、動物や植物を断層撮影の対象とすることができる。また、死体を除くものではない。
断層像データは積層造形を実行するための基礎となるデータをいう。一般的に、X線CT装置、MRI装置、超音波装置などによって得られた断層撮影データから三次元形状データを構築し、当該三次元形状データを二次元に分解して断層像データとする。
以下、断層像データ生成の一例を説明する。
【0008】
ここでは、体軸方向に平行移動しながら等間隔に撮影することによって得られた複数の二次元画像を入力データ(断層撮影データ)として使用する場合について説明するが、他の撮影方法によって得られた二次元画像、或いは三次元画像を入力画像とする場合でも同様な処理を行うことによって腔所の三次元形状データを得ることができる。入力された各二次元画像は、まず撮影時の撮影間隔に基づいて正確に積層される。次に、各二次元画像上に、画像濃度値に関しての閾値を指定することにより、体腔モデルの対象とする腔所領域のみを各二次元画像中より抽出し、一方で他の領域を積層された二次元画像中より削除する。これにより腔所領域に相当する部分の三次元形状が二次元画像を積層した形で与えられ、この各二次元画像の輪郭線を三次元的に補間し、三次元曲面として再構成することにより対象とする腔所の三次元形状データが生成される。尚、この場合は濃度値に関しての閾値を指定することによって、まず入力画像中より腔所領域の抽出を行ったが、この方法とは別に、腔所表面を与える特定濃度値を指定することによって入力画像中より腔所表面の抽出し、三次元補間することによって直接的に三次元曲面を生成することも可能である。また、閾値指定による領域抽出(或いは特定濃度値指定による表面抽出)を行った後に入力画像の積層を行ってもよい。また、三次元曲面の生成はポリゴン近似によって行ってもよい。
【0009】
尚、前記三次元形状データには、該三次元形状データの生成中、或いは生成後において、形状の修正や変更を施すことが可能である。例えば、断層撮影データ中には存在しない構造を付加することや、サポートと呼ばれる支持構造を付加することや、或いは断層撮影データ中の構造を一部除去することや、腔所の形状を変更することなどが可能であり、これによって、立体モデルの内部に形成される腔所の形状を自由に修正或いは変更することができる。さらには、腔所の内部に非積層造形領域を設けることも可能であり、後に説明する内部を中空の構造とし、非積層造形領域を設けた体腔モデルを作製する場合には、そのような非積層造形領域を腔所の内部に設けた三次元形状データを生成しておく。尚、これらの処理は、積層造形システム、或いは積層造形システムに対応したソフトウェアにおいて行ってもよい。
【0010】
次に、生成した腔所の三次元形状データを、必要に応じて体腔モデルの積層造形に使用する積層造形システムに対応した形式に変換し、使用する積層造形システム、或いは使用する積層造形システムに対応したソフトウェアへと送る。
積層造形システム(或いは積層造形システムに対応したソフトウェア)では、積層造形時の体腔モデルの配置や積層方向などの各種設定項目の設定を行うと同時に、積層造形中における形状保持などの目的で、サポート(支持構造)をサポートが必要な箇所に付加する(必要なければ付加する必要はない)。最後に、このようにして得られた造形用データを積層造形時の造形厚さに基づいてスライスすることによって、積層造形に直接利用されるスライスデータ(断層像データ)を生成する。尚、上記の手順とは逆に、スライスデータの生成を行った後にサポートの付加を行ってもよい。また、スライスデータが使用する積層造形システム(或いは積層造形システムに対応したソフトウェア)によって自動的に生成される場合には、この手順を省略することができる。但し、この場合でも積層造形厚さの設定を行っても良い。サポートの付加についても同様であり、積層造形システム(或いは積層造形システムに対応したソフトウェア)によってサポートが自動的に生成される場合には、手動で生成する必要はない(手動で生成してもよい)。
【0011】
上記の例では、断層撮影データから三次元形状データを構築しているが、データとして最初から三次元形状データが与えられた場合もこれを二次元に分解して次の積層造形工程に用いる断層像データを得ることができる。
【0012】
この発明では血管などの体腔を対象としており、ここに体腔とは諸器官(骨格、筋、循環器、呼吸器、消化器、泌尿生殖器、内分泌器、神経、感覚器など)に存在する腔所、並びに、これらの諸器官や体壁などの幾何学的配置によって構成される腔所を指す。したがって、心臓の内腔、胃の内腔、腸の内腔、子宮の内腔、血管の内腔、尿管の内腔などの諸器官の内腔や、口腔、鼻腔、口峡、中耳腔、体腔、関節腔、囲心腔などが「体腔」に含まれる。
【0013】
上記の断層像データから上記体腔を形成する。
形成の方法は特に限定されるものではないが、積層造形が好ましい。ここに積層造詣とは、断層像データに基づき薄い層を形成し、これを順次繰り返すことにより所望の造形を得ることをいう。即ち、被検体の断層像データに基づき、被検体の腔所領域を抽出して該腔所領域に相当する体腔モデルを積層造形する。
積層造形された体腔モデルは後の工程で分解除去されなければならない。除去を容易にするため、積層造形に用いる材料を低い融点の材料とするか、若しくは溶剤に容易に溶解する材料とすることが好ましい。かかる材料としては低融点の熱硬化性樹脂若しくはワックス等を用いることができる。いわゆる光造形法(積層造形に含まれる)において汎用される光硬化性樹脂においてもその分解が容易であれば、これを用いることができる。
【0014】
前記体腔モデルは、次の工程において膜状モデル成形材料で囲繞する際に外部から付加される圧力等の外力に耐え得る強度を有する範囲であれば、その内部を中空構造とし薄肉化することができる。これによって、積層造形に所要される時間や造形に伴うコストが低減されるだけでなく、後の溶出行程において体腔モデルの溶出を簡素化できる。
具体的な積層造形の方式として、例えば粉末焼結方式、溶融樹脂噴出方式、溶融樹脂押出方式等を挙げることができる。
【0015】
尚、積層造形によって作製された体腔モデルには、積層造形の後に、表面研磨や、表面コーティングの付加など各種の加工(除去加工及び付加加工)を加えることが可能であり、これによって体腔モデルの形状を修正或いは変更することが可能である。これらの加工の一環として、体腔モデルの作製にあたって、積層造形後の除去が必要なサポートを付加した場合には、サポートの除去を行っておく。
体腔モデルの表面を他の材料でコーティングすることにより、体腔モデルの材料の一部の成分又は全部の成分が膜状モデル成形材料中に拡散することを防止することができる。その他、体腔モデルの表面を物理的に処理(熱処理、高周波処理等)、若しくは化学的に処理することにより、当該拡散を防止することもできる。
【0016】
表面処理することにより体腔モデルの表面の段差を円滑化することが好ましい。これにより、膜状モデルの内腔表面が円滑になり、より実際の血管等の体腔内表面を再現できることとなる。表面処理の方法として、体腔モデルの表面を溶剤に接触させること、加熱して表面を溶融すること、コーティングすること及びこれらを併用することが挙げられる。
【0017】
体腔モデルの一部又は全部を膜状モデル成形材料で薄く囲繞してこれを重合若しくは加硫等により硬化する。体腔モデルを除去することにより膜状モデルが形成される。
【0018】
膜状モデル成形材料は当該モデルの用途に応じて適宜選択される。例えば、シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)や熱硬化性のポリウレタンエラストマー等のエラストマーの他、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂を単独で、或いは複数組み合わせて使用することができる。これらの材料を塗布、吹き付け、若しくはディッピング等の方法で体腔モデルの表面へ薄く積層し、その後周知の方法で加硫若しくは硬化させる。
膜状モデルの対象を脳血管モデルとするときには、透明でかつ生体組織に近い弾力性及び柔軟性を備える材料を採用することが好ましい。かかる材料としてシリコーンゴムを挙げることができる。また、シリコーンゴムは生体組織と同等の接触特性を有するので、カテーテル等の医療器具を挿入し手術の試行に適したものとなる。ウレタン樹脂やウレタンエラストマーも好適に使用できる。
膜状モデル形成材料を複数層から形成することができる。その厚みも任意に設定できる。
【0019】
(基材)
基材は透光性材料製として膜状モデルの変形を観察可能とする。
基材は弾性を有するものとする。好ましくは、縦弾性係数が2.0kPa〜100kPaの低弾性とする。更に好ましくは、基材は充分な伸びを有する。これにより、膜状モデルが大きく変形しても、膜状モデルから基材が剥離することがない。例えば、無負荷時を1として、膜状モデルに対する接着性を確保した状態で引っ張ったときに基材は無付加時の2〜15倍の伸び率を有することが好ましい。ここで伸び率とは、基材が元に戻ることの出来る最大変形量を指す。また、荷重を加えて変形させた基材から荷重を除去したときに基材が元に戻る速度は比較的緩やかであることが好ましい。例えば、粘弾性パラメータである損失係数tanδ(1Hz時)は0.2〜2.0とすることができる。
これにより、血管等の周囲に存在する組織と同等若しくは近い特性を基材が持ち、膜状モデルの変形がより実際に近い環境で行われることとなる。即ち、カテーテル等の挿入感をリアルに再現可能となる。
基材は膜状モデルに対して密着性を有するものとする。これにより、膜状モデルへカテーテル等を挿入して膜状モデルを変形させも基材と膜状モデルとの間にズレの生じることがない。両者の間にズレが生じると、膜状モデルにかかる応力に変化が生じるので、例えばカテーテルの挿入シミュレーションをする場合に支障をきたし、その挿入時に違和感を生じるおそれがある。
膜状モデルとして脳血管モデルを対象としたとき、基材と膜状モデルとの密着性(接着強度)は1kPa〜20kPaとすることが好ましい。
かかる基材として実施例ではシリコーンゲル及びグリセリンゲルを用いているが、その材質が特に限定されるものではない。なお、ケーシングに気密性を確保できれば高粘度の液体を基材として用いることもできる。これは特に、弾性を有さない生体組織に囲まれる血管を再現した膜状モデルに対する基材として好適である。これら複数種類の流動体を混合し、さらにはこれらへ接着性の薬剤を混合することにより、好適な基材を調製することもできる。
基材の材料としてゲルを用いた場合、物理特性の異なる複数の材料を用いて基材をより生体組織に近づけることができる。
膜状モデルの動的な挙動を観察するため、基材は透光性とすることが好ましい。膜状モデルと基材との境界を明確にするため、膜状モデル若しくは基材の少なくとも一方を着色することができる。また、膜状モデルの動的挙動をより正確に観察できるように、膜状モデルの材料の屈折率と基材の材料の屈折率とを実質的に等しくすることが好ましい。
膜状モデルの全部が当該基材内に埋設される必要はない。即ち、膜状モデル一部は空隙部内に位置していてもよい(図8参照)。また、膜状モデルの一部はソリッド基材(生体組織と非類似の物理特性を有する)内又は流体内にあってもよい。
【0020】
(ケーシング)
ケーシングは基材を収容するものであり任意の形状をとることができる。膜状モデルの動的挙動を観察できるように全体若しくはその一部が透光性材料で形成される。かかるケーシングは透光性の合成樹脂(アクリル板等)やガラス板で形成することができる。
ケーシングには膜状モデルの腔所に連通する穴が空けられている。この穴からカテーテルを挿入することができる。
立体モデルは全体として透光性であることが好ましい。カテーテルの挿入状態を観察する点からいえば、少なくともその膜状モデルの内部が視認できればよい。
ケーシングと膜状モデルとの間には充分な距離を設ける。これにより、弾性を有する基材に充分なマージン(厚さ)が確保され、カテーテル挿入等により膜状モデルへ外力がかけられたときその外力に応じて膜状モデルは自由に変形できることとなる。なお、このマージンは立体モデルの対象、用途等に応じて任意に選択できるものであるが、例えば膜状モデルの膜厚の10倍〜100倍以上とすることが好ましい。
【0021】
(立体モデルの製造方法)
体腔モデルを膜状モデルで被覆した状態の中子をケーシング中にセットし、該ケーシングへ基材材料を注入し、ゲル化する。その後、体腔モデルを除去すると膜状モデルが基材中に残された状態となる。
【0022】
或いは、基材材料の注入に先んじて体腔モデルを除去し、膜状モデルを得た後に、該膜状モデルをケーシング内にセットし、その後、該ケーシング内に基材材料を注入し、これをゲル化させることによっても、膜状モデルが基材中に埋没された状態を実現することができる。
【0023】
体腔モデルの除去の方法は体腔モデルの造形材料に応じて適宜選択され、立体モデルの他の材料に影響の出ない限り、特に限定されない。体腔モデルを除去する方法として、(a) 加熱により溶融する加熱溶融法、(b) 溶剤により溶解する溶剤溶解法、(c) 加熱による溶融と溶剤による溶解とを併用するハイブリッド法等を採用することができる。これらの方法により体腔モデルを選択的に流動化し、立体モデルの外部へ溶出してこれを除去する。
【0024】
(拡散除去工程)
体腔モデルの材料の成分の一部が膜状モデルの内部へと拡散し、膜状モデルに曇りが生じて、その視認性が低下するおそれがある。この曇りを除去するため、体腔モデルを除去した後に試料を再度加熱することが好ましい。この加熱は体腔モデル除去の途中で実行することもできる。
【0025】
この発明の立体モデルは、また、次のようにして形成することもできる。
体腔モデルを中子としてゲル状の基材へ埋設し、当該体腔モデルを除去する。これにより、基材中に体腔を再現した腔所が形成される。その後、腔所の周壁へ膜状モデルの形成材料を付着させ重合若しくは加硫等により硬化する。膜状モデル形成材料を基材の腔所へ流すこと、若しくは基材を膜状モデル形成材料にディッピングすることにより、膜状モデル形成材料を基材の体腔周壁へ付着させることができる。
【0026】
また、当該腔所の周壁へ膜状モデル形成材料を付着する代わりに当該腔所の周壁を親水化処理することができる。これにより、立体モデルの腔所へ水若しくは水溶液を充填したとき周壁に水膜が形成され、カテーテルの挿入抵抗が緩和される。即ち、この水膜が膜状モデルに対応することとなる。
当該腔所の周壁を疎水化処理(親油化処理)した場合も同様に、腔所へ油を充填したとき周壁に油膜が形成され、カテーテルの挿入抵抗が緩和される。即ち、この油膜が膜状モデルに対応する。
【0027】
腔所の周壁は周知の方法で親水化若しくは疎水化される。例えば基材としてシリコーンゲルを採用した場合、界面活性剤等の極性基を有する膜を当該周壁に形成することによりその腔所の周壁を親水化することができる。同様に、オイルやワックス等の油性膜を腔所の周壁に形成することによりその腔所の周壁を疎水化することができる。
【0028】
本発明者らは膜状モデルの内部応力が光弾性効果により観察可能であることを見出した。即ち、本発明の他の局面によれば、既述の第1の局面の立体モデルにおいて、前記膜状モデルは透光性材料からなり、これに外力が加えられたときその厚さ方向には実質的に内部応力が発生せず、その表面に沿う方向に第1の内部応力が発生し、
前記基材は実質的に内部応力を生じない材料からなり、
光弾性効果の観察に用いられる。
【0029】
このように構成された立体モデルによれば、膜状モデルが三次元的な形状であっても、そこで生じる光弾性効果が専ら第1の内部応力(膜状モデルの周壁の表面に沿った方向の応力)に起因するものとなり、観察された光弾性効果(光の波長)から当該周壁における応力を特定することができる。
かかる応力観察装置は、その観察対象を膜状モデル(体腔を再現した腔所を有する透光性のモデル)としたとき、その腔所の周囲領域の物理特性を観察することに有効である。即ち、カテーテルや液体の挿入シミュレーションにおいて膜状モデルの周壁に応力がかかったとき、光弾性効果が生じてその応力状態を観察することができる。これにより、カテーテルや液体を血管等の体腔へ挿入したときの生体組織に与える影響をシミュレートすることができる。
【0030】
上記において、周壁は弾性材料からなる薄膜として、これに外力が掛かったときその厚さ方向には拘束されず、その表面に沿う方向にのみ強制変位が生じるようにする。これにより、周壁に生じる応力が第1の内部応力のみとなり、光弾性効果から膜状周壁の応力を特定可能となる。勿論、光弾性効果を得るために周壁は透光性を有する。
周壁の厚さは、上記の特性が維持できれば、特に限定されるものではないが、本発明者らの検討によれば、0.1〜5.0mmとすることが好ましい。更に好ましくは0.1〜1.0mmである。
また、周壁に厚さ方向の応力を生じさせないためには、当該周壁はその厚さ方向から物理的な規制がない状態とする。具体的には、周壁の外側はゲル、流体(水等)の容易に変形可能な基材に直接、若しくは空間を介して、接しており、周壁がその厚さ方向へ変形したときに基材から実質的な抵抗を受けないものとする。周壁へ物理的な抵抗を与えないためには、基材には所定のマージン(厚さ)が必要となる。この基材は容易に変形するため、当該所定のマージンを確保するためにはその周囲がケーシングで囲繞されることとなる。また、周壁の成形材料と基材の成形材料との間には高い密着性のあることが好ましい。両者の間にすべりが生じると摩擦抵抗が生じて不規則な内部抵抗の生じるおそれがあるからである。かかる周壁の形成材料としてウレタン樹脂又はウレタンエラストマーを、基材の形成材料としてシリコーンゲルを挙げることができる。
また、基材から光弾性効果が生じると、周壁の光弾性効果のノイズとなるので好ましくない。よって、基材はゲルや流体(水等)のような実質的に内部応力を生じさせない材料とすることが好ましい。
なお、周壁の内側、即ち中空部には、光弾性効果の観察時に任意のものを挿入可能である。例えば、膜状モデルの場合、カテーテルや液体を挿入可能である。
【0031】
中空部の周壁は実質的に同一の厚さの円環状断面に形成されることが好ましい。これにより、周壁をどの方向から観察しても同じ光弾性効果(光の波長)を得ることができる。また、周壁において第1の内部応力に関係する材料の幅が一定となるので、応力を容易に特定可能となる。
【0032】
膜状モデルの応力状態を光弾性により観察するには、膜状モデルにおいて少なくとも応力状態の観察が必要な部位を等方性材料で形成する。膜状モデルは透光性を有するものとする。
かかる光弾性を有する材料として、例えば、シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)や熱硬化性のポリウレタンエラストマー等のエラストマーの他、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂を単独で、或いは複数組み合わせて使用することができる。
カテーテルや液体を膜状モデルの腔所へ挿入したとき、当該周壁における応力状態が光弾性効果として観察されるためには、少なくとも当該周壁が弾性変形可能な材料で形成される必要がある。勿論、膜状モデルを全体的に弾性変形可能な材料で形成することができる。
かかる膜状モデルの形成材料として、カテーテル等の挿入にともなって変形しやすく(即ち、縦弾性係数が小さく)、かつ僅かな変形でも大きな光弾性効果の変化を観察できる(即ち、光弾性係数が大きい)材料が好ましい。かかる材料としてポリウレタンエラストマーを挙げることができる。また、ゼラチン(植物性かんてん)、植物性かんてん、カラギーナン、ローカストビーンガムのような多糖類のゲル化剤を採用することもできる。
基材は内部応力を生じさせない材料から形成される。生体組織を再現するためには適当な弾性と膜状モデルに対する密着性が要求される。
膜状モデルと基材との最も好ましい組合せは膜状モデルをポリウレタンエラストマーで形成し、基材としてシリコーンゲルを採用する。
【0033】
(光弾性効果)
光弾性効果とは、透光性材料において内部応力が生じると、一時的に複屈折性をおび、最大主応力と最小主応力の方向で屈折率が異なるため、入射光が2つの平面偏光に分かれて進むことをいう。当該2つの波の位相差により干渉縞が生じ、この干渉縞を観察することにより透光性材料の内部応力の状態を知ることができる。
この光弾性効果を生じさせるには、図1に示すように、光源からの光を第1の偏光板(偏光フィルタ)に通して偏光させ、立体モデルにこの直線偏光を通す。立体モデルにおいて内部応力が生じていると内部応力に強さに応じて複屈折が生じ、最大主応力(acosφsinωt)と最小主応力(acosφsin(ωt−A))が生成する。これらの光は速度が異なるため位相差を生じ、第2の偏光板(偏光フィルタ)を通して観察すると、干渉縞が現れる。なお、この第2の偏光板の偏光方向は第1の偏光板の変更方向と実質的に直交している。
一対の偏光板に間に立体モデルを介在させ、立体モデルを透過する光に生じる光弾性効果を観察する方法として、直交ニコル法、平行ニコル法、鋭敏色法等が知られている。また、偏光板と立体モデルとの間に1/4偏光板を介在させることにより光弾性効果を検出する方法として、円偏光法やセナルモン法等が知られている。
【0034】
この発明では、図2Bに示すように、観察対象100が中空部101を有し、該中空部101の周囲領域103が光弾性効果を有する弾性材料で薄膜状(膜厚:0.1〜5.0mm)に形成されている。周囲領域103はゲル等の透光性の基材105に囲繞されている。基材105は変形容易であり、光弾性効果を実質的に奏しない。また、基材105に充分な厚み(マージンを)を確保することにより周囲領域103の変形に対して無抵抗となる。かかる基材105の厚さはその材質により任意に選択されるものであるが、周囲領域103の厚さの10倍以上、好ましくは100倍以上とすることが好ましい。かかる肉厚の基材105は型崩れし易いので、透光性のケース107で覆うことが好ましい。ケース107の形状は任意である。
【0035】
図2Bの観察対象100において、図中矢印で示すように外力(カテーテルに対応)が加えられたとき周囲領域103が変形する。このとき、変形部には周囲領域103の厚さ方向の内部応力σ3が殆ど生じない。これは、外力に対して基材から105からの反発力が実質的に無いからである。従って、変形部には実質的に周囲領域103の表面に沿う方向の内部応力σp(第1の内部応力)のみが生じることとなる。
【0036】
かかる観察対象100に偏光を透過すると、第1の内部応力σpに起因する光弾性効果が生じて、当該第1の内部応力σpの大きさに応じた波長光が観察される。
【0037】
本発明者らは、光弾性効果により入射光に生じた波長、換言すれば、観察された光の色変化を利用して、上記第1の内部応力σpを特定する方法について鋭意検討を重ねてきた結果、周囲領域103上の内部応力σpを、観察時において中空部101の輪郭領域に存在する部分(輪郭領域)と、観察時において中空部101の手前に存在する部分(前面領域)とに分けて、それぞれ異なる方法により特定できることを見出した。
【0038】
(前記輪郭領域の応力観察方法)
周囲領域103の内、前記輪郭領域の観察時には、第1の内部応力σpの方向は、観察方向、即ち入射光の方向に平行となるため、周囲領域103の材料が内部応力σpの方向に広幅に存在することになる。この場合、前記輪郭領域に観察される第1の内部応力σpに起因する光弾性効果は、当該幅Wに存在する材料上の波長変化の総和となる。従って、図2Bに示すように、単位幅wを有する特定領域1031(単位領域)の波長変化は、観察された光弾性効果から得られた波長変化を幅Wで除すことにより得られる。
【0039】
ここに、周囲領域103が実質的に同一の厚さで円環状に形成されていれば、当該幅Wが固定されるので、観察された光弾性効果から、単位領域の波長変化を求めることができ、これによって前記輪郭領域の内部応力を容易に求めることができる。具体的には、周囲領域の内径又は外径に応じた換算表(観察光の波長(色)と単位領域の内部応力との関係を示す)を準備しておけば、観察された光弾性効果の光の波長(色)から単位領域に生じている内部応力を把握できる。
周囲領域103を表す三次元的なデータがあれば、当該データより周囲領域の幅Wを特定することもできる。
【0040】
次に膜状モデルの前記輪郭領域における内部応力の三次元的な解析方法について説明する。
図3は、この解析方法を説明するための模式図である。上記の内部応力σp(ベクトルもしくはテンソル)は、本発明の対象とする平面応力問題においては、その構成要素である内部主応力σ1とσ2により記述される。そして、それぞれの観察方向に応じて得られる膜状モデルの前記輪郭領域107上の各点108(即ち、膜状モデルの輪郭をなす周壁上の各点)について、観察方向、即ち偏光の入射方向に平行な接平面を仮定すると、この方法で求められる内部応力、即ち内部主応力σ1及びσ2は該接平面上の応力として定義され、当該接平面上で直行している。従って、これらの内部主応力σ1及びσ2はそれぞれ膜状モデルの表面に沿う方向にあり、この明細書で規定する第1の内部応力に相当する。なお、膜状モデルの厚さ方向の内部応力はこの発明の特性上無視できるものとする。
光弾性効果を生じさせる位相差Rは次の式で表される。
R=α(σ1cos2θ + σ2sin2θ)D
(但しDは偏光の通過長さである)

従って、観察される光弾性効果は上記の内部主応力σ1とσ2の影響が含まれたものとなる。
【0041】
そこで本発明者らは、上記内部主応力σ1とσ2を独立して求めるべく鋭意検討を重ねてきた結果、下記の方程式を解くことにより内部主応力σ1とσ2の値を得られること見出した。
【数1】

上記式を解くに当たり、偏光を3つの異なる入射角度で入射し、そのときの偏光の通過長さをD1,D2、D3とする。観察された光弾性効果より位相差R1,R2及びR3を求める。なお、R2はθ=90度のときの位相差である。
上記式を解くことにより、内部主応力σ1及びσ2を独立かつ容易に求めることができる。
【0042】
(前記前面領域の応力観察方法)
観察対象100の背後から偏光を投光し、観察対象100の手前にて光弾性効果の観測を行った場合に、前記前面領域に観測される波長(色)変化は、図2Aに示す空洞部101の背面に存在する膜(空洞背膜)上の光弾性効果と、該空洞部101の前面に存在する膜(空洞前膜)上の光弾性効果の総和となり、前記前面領域(即ち、空洞前膜)上における波長変化を独立して求めることはできない。
【0043】
そこで本発明者らは、前記前面領域上の波長変化を独立して求めるべく鋭意検討を重ねてきた結果、次の方法により前記前面領域上の波長変化を得られること見出した。
即ち、この場合には、観測対象100の手前から偏光を投光し、前記空洞前膜を透過した光を、空洞部101の前面にて反射させ、再び該空洞前膜を透過して手前に戻ってきた光を、観察対象100の前面で観測することによって、前記前面領域上における波長変化を独立して求めることができ、
そのような空洞部101の前面における反射は、空洞部101の内部を反射率の高い液体、或いは反射率の高い材料を混入させた液体で満たすか、或いは、空洞部101の表面(少なくとも前面)に反射率の高い材料からなる層を形成することによって実現することができる。
【0044】
この場合、前記輪郭領域に観察される第1の内部応力σpに起因する光弾性効果は、前記空洞前膜の膜厚上の波長変化の総和の2倍となる。従って、当該膜厚内の単位幅w’に対する波長変化は、観察された光弾性効果から得られた波長変化を膜厚の2倍の幅W’で除すことにより得られる。
【0045】
より厳密には、前記前面領域は曲面をなすため、観察方向の膜厚は、曲面上の各点で異なるが、ここに、周囲領域103が実質的に同一の厚さで円環状に形成されていれば、当該幅W’の分布が固定されるので、観察された光弾性効果から、単位幅w’の波長変化を即座に求めることができ、これによって前記前面領域の内部応力を容易に求めることができる。具体的には、前記前面領域内の位置に応じた換算表(観察光の波長(色)と単位領域の内部応力との関係を示す)を準備しておけば、観察された光弾性効果の光の波長(色)から単位領域に生じている内部応力を把握できる。
周囲領域103を表す三次元的なデータがあれば、当該データより前記前面領域内の各点における幅W’を特定することもできる。
【0046】
次に膜状モデルの前記前面領域における内部応力の三次元的な解析方法について説明する。
図23は、この解析方法を説明するための模式図である。それぞれの観察方向に応じて得られる膜状モデルの前記前面領域109上の各点110(即ち、膜状モデルの前面をなす周壁上の各点)について接平面を仮定すると、この方法で求められる内部主応力(内部応力σp(ベクトルもしくはテンソル)の構成要素)σ1及びσ2は該接平面上の応力として定義され、当該接平面上で直行している。従って、これらの内部主応力σ1及びσ2はそれぞれ膜状モデルの表面に沿う方向にあり、この明細書で規定する第1の内部応力に相当する。なお、膜状モデルの厚さ方向の内部応力はこの発明の特性上無視できるものとする。
【0047】
前記前面領域109は、空洞部101表面に存在するため曲面をなし、光弾性効果は当該曲面上に観察される。同曲面上の光弾性分布を、平面上に投影した場合、該平面状の各点における位相差Rは、次の式で表される。
R=α(σ1−σ2)D
(但しDは、各点における偏光の通過長さである)
従って、観察される光弾性効果は上記の内部主応力σ1とσ2の影響が含まれたものとなるが、この場合には、内部主応力σ1とσ2は観測方向に垂直な平面内にあるので、光弾性効果を検出するための偏光板の向きを調整することによって、一方を光学的に消去でき、内部主応力σ1とσ2の値を得ることができる。
【0048】
この発明の他の局面について説明する。
中空部を有する観察対象であって、該中空部の周囲領域は透光性の弾性材料からなる薄膜状であって、前記周囲領域に外力が加えられたときその厚さ方向には実質的に内部応力が発生せず、その表面に沿う方向に第1の内部応力が発生する観察対象と、
該観察対象の周囲領域を通過する光に生じる光弾性効果を検出する手段と、
を備えてなり、前記光弾性効果は専ら前記第1の内部応力に起因するものである、ことを特徴とする被検体の応力観察装置。
【0049】
このように構成された応力観察装置によれば、中空部の周囲領域はこれが三次元的な形状であっても、そこで生じる光弾性効果が専ら第1の内部応力(周囲領域の表面に沿った方向の応力)に起因するものとなり、観察された光弾性効果(光の波長)から当該周囲領域における応力を特定することができる。
かかる応力観察装置は、その観察対象を立体モデル(体腔を再現した腔所を有する透光性のモデル)としたとき、その腔所の周囲領域の物理特性を観察することに有効である。即ち、カテーテルや液体の挿入シミュレーションにおいて立体モデルの腔所の周囲領域に応力がかかったとき、光弾性効果が生じてその応力状態を観察することができる。これにより、カテーテルや液体を血管等の体腔へ挿入したときの生体組織に与える影響をシミュレートすることができる。
【0050】
上記において、周囲領域は弾性材料からなる薄膜として、これに外力が掛かったときその厚さ方向には拘束されず、その表面に沿う方向にのみ強制変位が生じるようにする。これにより、周囲領域に生じる応力が第1の内部応力のみとなり、光弾性効果から膜状周囲領域の応力を特定可能となる。勿論、光弾性効果を得るために周囲領域は透光性を有する。
周囲領域の厚さは、上記の特性が維持できれば、特に限定されるものではないが、本発明者らの検討によれば、0.1〜5.0mmとすることが好ましい。更に好ましくは0.1〜1.0mmである。
また、周囲領域に厚さ方向の応力を生じさせないためには、当該周囲領域はその厚さ方向から物理的な規制がない状態とする。具体的には、周囲領域の外側はゲル、流体(水等)の容易に変形可能な基材に直接、若しくは空間を介して、接しており、周囲領域がその厚さ方向へ変形したときに基材から実質的な抵抗を受けないものとする。周囲領域へ物理的な抵抗を与えないためには、基材には所定のマージン(厚さ)が必要となる。この基材は容易に変形するため、当該所定のマージンを確保するためにはその周囲がケーシングで囲繞されることとなる。また、周囲領域の成形材料と基材の成形材料との間には高い密着性のあることが好ましい。両者の間にすべりが生じると摩擦抵抗が生じて不規則な内部抵抗の生じるおそれがあるからである。かかる周囲領域の形成材料としてウレタン樹脂又はウレタンエラストマーを、基材の形成材料としてシリコーンゲルを挙げることができる。
また、基材から光弾性効果が生じると、周囲領域の光弾性効果のノイズとなるので好ましくない。よって、基材はゲルや流体(水等)のような実質的に内部応力を生じさせない材料とすることが好ましい。
なお、周囲領域の内側、即ち中空部には、光弾性効果の観察時に任意のものを挿入可能である。例えば、立体モデルの場合、カテーテルや液体を挿入可能である。
【0051】
中空部の周囲領域は実質的に同一の厚さの円環状断面に形成されることが好ましい。これにより、周囲領域をどの方向から観察しても同じ光弾性効果(光の波長)を得ることができる。また、周囲領域において第1の内部応力に関係する材料の幅が一定(周囲領域の径から当該幅を特定可能)となるので、周囲領域の単位領域(単位幅を有する)の応力を容易に特定可能となる。
【0052】
この発明の他の局面は次のように規定される。即ち、
検出手段により第1の内部応力に起因して生じた光弾性効果を取得し、
前記周囲領域における第1の内部応力の発生方向の幅を求める手段と、取得された光弾性効果と前記周囲領域の幅とから前記周囲領域の単位領域における応力を演算する手段とが更に備えられる。
【0053】
このように構成された応力観察装置によれば、周囲領域における第1の内部応力の発生方向の幅が求められるので、検出手段により取得された光弾性効果(光の波長変化)を当該幅で除算することにより、周囲領域における単位領域(単位幅を有する)の波長変化を特定可能となる。これにより、周囲領域に生じる応力状態をより正確に特定可能となる。
【0054】
この発明の他の局面は次のように規定される。即ち、
少なくとも体腔を再現した腔所の周囲領域の少なくとも一部が光弾性効果を有する膜状の弾性材料で形成され、該膜状の弾性材料の周囲が、実質的に光弾性効果を生じないゲルからなり前記周囲領域の厚さ方向に対して実質的に無抵抗の基材で囲繞される透光性の立体モデルと、
該立体モデルを通過する光に生じる光弾性効果を検出する手段と、
を備えてなる立体モデルの応力観察装置。
【0055】
このように構成された応力観察装置によれば、膜状の弾性材料の周囲がゲル状基材で囲繞されている。したがって、当該立体モデルにおいて光弾性効果は専ら弾性材料部分から生じてゲル状基体部分から光弾性効果が生じない。よって、膜状弾性材料の応力状態を正確に観察することができる。
【0056】
さらに他の局面によれば、積層造形により体腔の周囲領域の第一次モデルを作成し、
該第一次モデルを型材料で囲繞してめす型を形成し、
前記第一次モデルを前記めす型から除去し、
前記めす型のキャビティへポリウレタンエラストマーを注入してこれを硬化し、
前記めす型を除去してポリウレタンエラストマーからなる膜状モデルを得て、
該膜状モデルの周囲をシリコーンゲルからなり前記膜状モデルの厚さ方向に対して実質的に無抵抗の基材で囲繞する、ことにより光弾性効果の観察に適した立体モデルを製造する。
【実施例】
【0057】
(第1実施例)
立体モデル化の対象とする脳血管及び患部である脳動脈の形状に関する三次元データを得るため、撮影領域の血管内部へ造影剤を投与しながら、患者の頭部に対して、0.35×0.35×0.5mmの空間分解能を持つヘリカルスキャン方式のX線CT装置により撮影を行った。撮影により得られた三次元データは、3次元CADソフトへの受け渡しのため、体軸方向に等間隔に配列された500枚の512×512の解像度をもつ256階調の二次元画像(断層撮影データ)に再構成した後、各二次元画像に対応する画像データを撮影方向に一致する順序で前記X線CT装置に内蔵されたドライブにより5.25インチ光磁気ディスクへ保存した。
【0058】
次に、パーソナルコンピュータに外部接続した5.25インチ光磁気ドライブによって、前記画像データをコンピュータ内部の記憶装置へ取り込み、この画像データから、市販の三次元CADソフトを利用して、積層造形に必要とされるSTL形式(三次元曲面を三角形パッチの集合体として表現する形式)の三次元形状データを生成した。この変換では、入力された二次元画像を撮影間隔に基づいて積層することによって、濃度値をスカラー量とする三次元のスカラー場を構築し、そのスカラー場上に血管内表面を与える特定の濃度値を指定することによって、アイソサーフェス(特定スカラー値の境界面)として血管内腔の三次元形状データを構築した後、構築されたアイソサーフェスに対して三角形ポリゴン近似のレンダリングが行われる。
なお、この段階で、三次元形状データに付加データを加え、体腔モデルの端部からガイド部13を膨出させた。このガイド部13は、図4に示すように、中空柱状の部材である。中空部31を備えることにより、積層造形時間の短縮を図っている。このガイド部13の先端は拡径されており、この部分が立体モデル表面に表出して、大径な開口部25(図7参照)を形成することとなる。
【0059】
生成したSTL形式の三次元形状データを、次に溶融樹脂噴出方式の積層造形システムへと転送し、造形システム内でのモデルの配置や積層方向、積層厚さを決定すると同時にモデルに対してサポートを付加した。
このようにして生成された積層造形用のデータをコンピュータ上で所定の積層造形厚さ(13μm)にスライスして多数のスライスデータを生成した。そして、このようにして得られた各スライスデータに基づいて、p−トルエンスルホンアミドとp−エチルベンゼンスルホンアミドを主成分とした造形材料(融点:約100度、アセトンに容易に溶解)を加熱により溶融して噴出することにより、各スライスデータに一致する形状を有する指定厚さの樹脂硬化層を一面ずつ積層形成することよって積層造形を行った。最終層の形成の後にサポートを除去することによって、脳血管内腔領域の積層造形モデル(体腔モデル12)を作成した。
更に、この体腔モデル12の表面を処理して円滑にする。
【0060】
この体腔モデル12の全表面へシリコーンゴム層15をほぼ1mmの厚さに形成した(図6参照)。このシリコーンゴム層15は、体腔モデル12をシリコーンゴム槽へディッピングし取出した体腔モデルを回転させながら乾燥させることにより得られる。このシリコーンゴム層が膜状モデルとなる。
この実施例では、体腔モデル12の全表面をシリコーンゴム層15で被覆したが、体腔モデル12の所望の部分を部分的にシリコーンゴム層15で被覆することも可能である。
【0061】
体腔モデル12をシリコーンゴム層15からなる膜状モデルで被覆してなる中子11を直方体のケーシング24にセットする。このケーシング24は透明なアクリル板からなる。ケーシング内に基材22の材料を注入して、これをゲル化する。
基材22の材料として、2液混合型のシリコーンゲルを用いた。このシリコーンゲルは透明であり、かつ血管周囲の軟組織に極めて近い物理特性を有している。縮合重合型のシリコーンゲルを用いることもできる。
【0062】
基材22の材料の物理特性は、膜状モデルの対象である血管等の周囲の組織の物理特性に適合するように、調整される。
なお、この実施例では針入度、流動性、粘着性、応力緩和性などを指標にして、最終的にはオペレータの手触り(カテーテルの挿入感覚)によりその物理特性を生体組織に近づけるようにしている。
シリコーンゲルの場合、そのポリマーの骨格を調製することはもとより、シリコーンオイルを配合することにより当該物理特性を調整することができる。
この実施例では膜状モデルの成形材料にシリコーンエラストマー(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、商品名:RT601)を選択し、基材にシリコーンゲル(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、商品名:SilGel612)を選択した。このシリコーンゲルの縦弾性係数は約5.0kPa、損失係数tanδ(粘弾性パラメータ)は約1.0であり、およそ1000%の伸びを有する。またシリコーンエラストマに対する密着力(接着強度)は約8kPaである。
【0063】
シリコーンゲルの外に、グリセリンゲルを用いることもできる。このグリセリンゲルは次のようにして得られる。即ち、ゼラチンを水に浸漬して、これにグリセリンと石炭酸を加え、加熱溶解する。温度が高い間に濾過し、中子に影響の出ない温度になったらケーシング内に注入し、放冷する。
【0064】
その後、中子11内の体腔モデル12を除去する。除去の方法としてハイブリット法を採用した。即ち、試料を加熱して開口部25から体腔モデルの材料を外部へ流出させ、更に、空洞部へアセトンを注入して体腔モデルの材料を溶解除去する。
その後、試料を120℃に設定された恒温層内で約1時間加熱して、膜状モデル(シリコーンゴム層15)の曇りをとった。
【0065】
このようにして得られた立体モデル21は、図7及び図8に示すように、シリコーンゲルからなる基材22中に膜状モデル15が埋設された構成となる。シリコーンゲルが生体組織に近い物理特性を有するので、膜状モデル15は血管と同等の動的挙動を示こととなる。
【0066】
(第2実施例)
図9に他の実施例の立体モデル41を示す。なお、図7と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この例では、実際の脳の組織に対応するように、基材を多層構造として、脳の各部位に応じて異なる物理特性の基材42、43、44を積層した。基材42は大脳動脈部の周囲のくも膜下腔の物理特性に対応し、基材43は交通動脈部の周囲の軟組織の物理特性に対応し、基材44は頚動脈部の周囲の海綿静脈筒の物理特性に対応する。
他の部分の基材46、47は図7と同一の基材とした。また、当該他の部分46、47の基材はこれをゲル以外(固体等)とすることもできる。
【0067】
(第3実施例)
図8に他の実施例の立体モデル51を示す。
この立体モデル51では、基材52中に空隙部53が設けられており、膜状モデル55の一部は当該空隙部53内に存在している。当該空隙部53はくも膜下腔に対応している。
この空隙部53は、中子(体腔モデル+膜状モデル)へ空隙部53に対応するカバーを被せ、その周りにシリコーンゲルからなる基材52を充填する。そして、体腔モデルと当該カバーを除去することにより図9に示した構成を得ることができる。
図11は、図10のC−C線断面図であり、膜状モデル55がシリコーンゲルからなる基材51に埋設されていることを示す。
なお、空隙部53には基材52と異なる物性(好ましくは、くも膜下腔を構成する生体組織と等しい物性を有する(ゲル等))の材料を充填してもよい。この充填物質は基材52と実質的に等しい屈折率を有することが好ましい。
空隙部の形状は任意に形成することができる。
【0068】
図12はこの発明の実施例の応力観察装置60の構成を示す。
この実施例の応力観察装置60は、光源61、一対の偏光板62及び63、図7に示した立体モデル21、受光部70から大略構成される。
光源61には白色光源を用いることが好ましい。太陽光を光源として用いることもできる。また、単色光源を用いることも可能である。第1の偏光板62及び63は相互に直交した偏光方向を有する。これにより、図1に説明したように、前記輪郭領域における立体モデル21の内部応力に起因する光弾性効果を第2の偏光板63側において観察することができる。
例えば立体モデル21の腔所へカテーテルを挿入したとき、カテーテルと腔所の周壁とが干渉すると、当該腔所周壁に応力が生じそこに光弾性効果(干渉縞)が現れる。また、コイル塞栓時の動脈瘤の変形に伴う当該動脈瘤周囲領域の応力状態も光弾性効果からシミュレートすることができる。
なお、この立体モデルにおいて膜状モデルはポリウレタンエラストマーで形成され、機材にはシリコーンゲルを採用する。これにより膜状モデルの内部応力変化が光弾性効果として観察可能となる。
【0069】
この実施例では光源61、第1の偏光板62、立体モデル21及び第2の偏光板63を直線上に配置させたが、第2の偏光板63を偏移して(即ち、直線上からずらして)配置することができる。立体モデル21の腔所において光が乱反射するので、腔所の形状においては第2の偏光板63を偏移して配置したほうが、光弾性効果をより鮮明に観察できる場合があるからである。
【0070】
図19には、図12に示す応力観察装置60に関連する他の実施例の応力観察装置360(図12に示す要素と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する)を示す。この実施例では、光源61と第1の偏光板62、及び第2の偏光板63と受光部70をそれぞれ一組にして立体モデル21の片側に移動させて、並列させて配置している。これにより、立体モデル21の前記前面領域上における内部応力に起因する光弾性効果を第2の偏光板63側において観察することができる。
光源61から発せられた光は、第1の偏光板62を通過して立体モデル21に入射し、立体モデル21(膜状モデル)の膜部分をさらに通過した後に、膜状モデル内の空隙部表面で反射され、再び立体モデル21(膜状モデル)の膜部分を通過して、偏光板63と第2の1/4偏光板83を経由して受光部70にて観測される。この方法によれば、前記空隙部表面上の光源61による投影面上の光弾性効果を観察することができる。なお当該実施例においては、空隙部内部を反射率の高い液体、或いは反射率の高い材料を混入させた液体で満たすか、或いは、空隙部表面に反射率の高い材料からなる層を形成することにより、空隙部表面において光源61からの入射光を反射させる。
【0071】
これらの2つの実施例(図12に示す応力観察装置60、及び図19に示す応力観察装置360)において、受光部70は、CCD等からなる撮像装置71と当該撮像装置71で撮像した光弾性効果の画像を処理する画像処理装置70、並びに画像処理部70の処理結果を出力するディスプレイ75及びプリンタ77を備えてなる。
画像処理装置73では次のような処理が行われる(図13参照)。
まず、立体モデル21へ何ら外力を加えていない初期状態の画像をバックグラウンド画像として取り込む(ステップ1)。立体モデル21が高い光弾性係数の材料で形成されている場合、自重で光弾性効果を生じる場合がある。従って、光源61から光を照射し、更に外力を加えたとき(例えばカテーテルを挿入したとき)の光弾性効果による干渉縞画像を取り込んだ後(ステップ3)、これからバックグランド画像を差分処理する(ステップ5)。
【0072】
立体モデル21が高い光弾性係数の材料で形成されている場合、内部応力の如何によっては細かい干渉縞が繰返しパターンで現れる。画像処理装置73は単位面積あたりの当該パターンの数をカウントすることにより、当該内部応力を数値化する(ステップ7)。そして、第2の偏光板63を介して得られる立体モデル21の形状に関する画像において、内部応力の生じた部分に当該数値に対応した色を与えて外部表示する(ステップ9)。
この実施例では受光部70により光弾性効果による干渉縞を画像処理しているが、当該干渉縞を観察者が直接若しくは撮像装置71を介して観察してもよい。
【0073】
図14に他の実施例の応力観察装置80を示す。図12に示す要素と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この実施例では第1の偏光板62と立体モデル21との間に第1の1/4偏光板82を介在させ、立体モデル21と第2の偏光板63との間に第2の1/4偏光板83を介在させている。これにより、前記輪郭領域における光弾性効果を、円偏光法により観察することができる。円偏光法に基づく光弾性効果の観察によれば、干渉縞に、偏光板と内部主応力間の相対方向の影響が現れないので、立体モデルの姿勢制御が容易になる。
図20に示す他の実施例の応力観察装置380(図12に示す要素と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する)では、光源61と第1の偏光板62、及び第2の偏光板63と受光部70をそれぞれ一組にして立体モデル21の片側に並列して配置させ、さらに第1の1/4偏光板82を第1の偏光板62と立体モデル21との間に介在させ、第2の1/4偏光板83を立体モデル21と第2の偏光板63との間に介在させている。これにより、立体モデル21の前記前面領域上における内部応力に起因する光弾性効果を、円偏光法により、第2の偏光板63側において観察することができる。
この実施例では、光源61から発せられた光は、第1の偏光板62と第1の1/4偏光板82を通過して立体モデル21に入射し、立体モデル21(膜状モデル)の膜部分をさらに通過した後に、膜状モデル内の空隙部表面で反射され、再び立体モデル21(膜状モデル)の膜部分を通過して、偏光板63と第2の1/4偏光板83を経由して受光部70にて観測される。この方法によれば、前記空隙部表面上の光源61による投影面上の光弾性効果を、応力方向の影響を受けることなく観察することができる。なお当該実施例においては、空隙部内部を反射率の高い液体、或いは反射率の高い材料を混入させた液体で満たすか、或いは、空隙部表面に反射率の高い材料からなる層を形成することにより、空隙部表面において光源61からの入射光を反射させる。
【0074】
図15に他の実施例の応力観察装置90を示す。図12に示す要素と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この実施例では、立体モデル21を回転・傾斜ステージ91に保持させ、立体モデル21を回転及び/又は傾斜可能としたものである。これにより、立体モデル21に対する光の入射方向を変更し、立体モデル21の前記輪郭領域における応力分布を三次元的に観察可能となる。もって、立体モデルにおけるシミュレーションをより詳細に行えることとなる。
なお、図15の例の立体モデル21にこの回転・傾斜ステージ91を適用することもできる。
この実施例では立体モデル21を回転及び/又は傾斜させているが、立体モデル21の姿勢は固定しておいて、周囲の要素を回転及び/又は傾斜させても同様の作用・効果が得られる。
また、図21に示す他の実施例の応力観察装置390(図12に示す要素と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する)は、図15に示す応力観察装置90と同じく、立体モデル21を回転・傾斜ステージ91に保持させ、立体モデル21を回転及び/又は傾斜可能としたものである。当該装置によれば、立体モデル21に対する光の入射方向を変更することで、立体モデル21の前記前面領域における応力分布を三次元的に観察可能となる。この実施例では立体モデル21を回転及び/又は傾斜させているが、立体モデル21の姿勢は固定しておいて、周囲の要素を回転及び/又は傾斜させても同様の作用・効果が得られる。
【0075】
図16に他の実施例の応力観察装置200の構成を示す。図12と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
前記輪郭領域の応力分布を可能にする、この応力観察装置200の画像処理装置273は、図2に示す周囲領域103を表現するデータ(周囲領域データ)205を備える。
また、図22に示す他の実施例の応力観察装置400(図12に示す要素と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する)は、図16に示す応力観察装置200と同じく、図2に示す周囲領域103を表現するデータ(周囲領域データ)205を備え、前記前面領域の応力分布を可能にする。
これらの2つの実施例(すなわち、図16に示す応力観察装置200と、図22に示す応力観察装置400)では、撮像装置71で撮像した光弾性効果を含んだ画像を取り込み、画像メモリ201へ保存する。位置特定装置203において、取り込んだ画像を解析して周囲領域データ205と関連つける。これにより、得られた光弾性効果の位置並びに観察方向が特定される。例えば、立体モデル中にマーカを設けておいて、このマーカの位置を基準に撮像画像と周囲領域データとを関連つけることができる。内部応力演算装置207では、周囲領域データ205から当該光弾性効果を生じさせた第1の内部応力方向の周囲領域材料幅W(図2参照)を求める。そして、撮像装置により得られた光弾性効果の値(みかけ上の内部応力)を当該材料幅Wで除することにより、周囲領域の単位領域における内部応力を演算する。
【0076】
これにより、図17に示したステップ200の処理が完了する。即ち、ステップ7で数値化された内部応力を周囲領域の幅Wに基づいて補正し、周囲領域の単位領域毎に内部応力を特定可能とする。図17において、図13と同一のステップには同一の要素を付してその説明を省略する。
【0077】
図18に光弾性効果を観察するのに適した膜状モデルの製造方法を示す。
プロセスIで体腔モデルを準備し、浸漬法により体腔モデルの全表面へPVAを被覆する(プロセスII)。プロセスIIIではプロセスIIで得られた試料へ浸漬方によりポリウレタンエラストマーを被覆する。その後、ポリウレタンエラストマー皮膜との親和性を考慮して、二度に分けて浸漬法によりPVAを被覆する(プロセスV,VI)。これによって、ポリウレタンエラストマー皮膜をPVA皮膜により上下から完全に被覆する。
その後、有機溶剤へ浸漬して体腔モデルを選択的に溶解し、溶出させた後(プロセスVII)、最後に水中でPVAを溶解して(プロセスVIII)、ポリウレタンエラストマーからなる膜状モデルを得る。
このように、体腔モデルの表面を水溶性材料膜で被覆し、この膜の表面へポリウレタンエラストマー層を形成し、該ポリウレタンエラストマー層の表面を水溶性材料層で被覆し、体腔モデルを有機溶剤で溶解し、その後。水溶性材料膜を水で溶解し、もってポリウレタンエラストマーからなる膜状モデルを得ることにより、全ての工程を浸漬法により行うことができる。よって、製造方法が簡単になり、ひいては製造コストを引き下げることができる。
【0078】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0079】
以下、次の事項を開示する。
(1)
透光性材料からなり、被検体の断層像データに基づき形成された血管などの体腔を再現した腔所をその内部に有する膜状モデルと、
該膜状モデルを囲繞する基材と、
該基材を収納する透光性のケーシングと、を備えてなる、ことを特徴とする立体モデル。
(2) 前記膜状モデルと前記基材の屈折率が実質的に等しい、ことを特徴とする(1)に記載の立体モデル。
(3) 前記基材はシリコーンゲル若しくはグリセリンゲルからなる、ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の立体モデル。
(4) 被検体の断層像データに基づき形成された血管などの体腔を再現した腔所をその内部に有する膜状モデルがゲル状の基材に埋設され、前記膜状モデルの腔所を視認できる、ことを特徴とする立体モデル。
(5) 前記基材はシリコーンゲル若しくはグリセリンゲルからなる、ことを特徴とする(4)に記載の立体モデル。
(6) 透光性ゲル状の第1の材料からなる基材に体腔を再現した腔所が設けられ、腔所の周壁に透光性の第2の材料が膜状に形成されている、ことを特徴とする立体モデル。
(7) 前記第1の材料はシリコーンゲル若しくはグリセリンゲルである、ことを特徴とする(6)に記載の立体モデル。
(8) 透光性ゲル状の第1の材料からなる基材に体腔を再現した腔所が設けられ、腔所の周壁が親水性処理若しくは疎水性処理されている、ことを特徴とする立体モデル。
(9) 被検体の断層像データに基づき血管などの体腔モデルを積層造形する工程と、
該体腔モデルの周囲をモデル成形材料で膜状に囲繞して中子を形成する工程と、
該中子をケーシング内にセットして、該ケーシングへ基材材料を注入しゲル化する工程と、
該基材材料がゲル化した後に前記体腔モデルを除去する工程と、
を含むことを特徴とする立体モデルの製造方法。
(10) 透光性ゲル状の第1の材料からなり、被検体の断層像データに基づき形成された血管などの体腔を再現した腔所をその内部に有する基材を形成し、
前記腔所の内周面に透光性の第2の材料を膜状に形成する、ことを特徴とする立体モデルの製造方法。
(11) 透光性ゲル状の第1の材料からなり、被検体の断層像データに基づき形成された血管などの体腔を再現した腔所をその内部に有する基材を形成し、
前記腔所の内周面を親水性処理し若しくは疎水性処理する、ことを特徴とする立体モデルの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は光弾性効果の説明図である。
【図2】図2はこの発明の作用を示す概念図である。
【図3】図3は内部応力と入射光との関係を示す模式図である。
【図4】図4は実施例の中子11を示す斜視図である。
【図5】図5はガイド部を示す斜視図である。
【図6】図6は図2のA−A線断面図であり、中子の構成を示す。
【図7】図7はこの発明の実施例の立体モデルを示す。
【図8】図8は図7のB−B線断面図であり、基材中に膜状モデルが埋設された状態を示す。
【図9】図9は他の実施例の立体モデルを示す。
【図10】図10他の実施例の立体モデルを示す。
【図11】図8は図10のC−C線断面図であり、基材中に膜状モデルが埋設された状態を示す。
【図12】図12はこの発明の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図13】図13は実施例の応力観察装置の受光部の動作を示すフローチャートである。
【図14】図14はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図15】図15はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図16】図16はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図17】図17は同じく応力観察装置の動作を示すフローチャートである。
【図18】図18は光弾性観察をするのに好適な膜状モデルの製造方法を示すフローチャートである。
【図19】図19はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図20】図20はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図21】図21はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図22】図22はこの発明の他の実施例の応力観察装置の構成を示す模式図である。
【図23】図23はこの発明の作用を示す概念図である。
【符号の説明】
【0081】
11 中子
12 体腔モデル
15、55 シリコーンゴム層(膜状モデル)
21、41、51 立体モデル
22、42,43、44、46、47、52 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形により体腔の周囲領域の第一次モデルを作成し、
該第一次モデルを型材料で囲繞してめす型を形成し、
前記第一次モデルを前記めす型から除去し、
前記めす型のキャビティへポリウレタンエラストマーを注入してこれを硬化し、
前記めす型を除去してポリウレタンエラストマーからなる膜状モデルを得て、
該膜状モデルの周囲をシリコーンゲルからなり前記膜状モデルの厚さ方向に対して実質的に無抵抗の基材で囲繞する、ことを特徴とする光弾性効果の観察に適した立体モデルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−113520(P2006−113520A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13496(P2005−13496)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【分割の表示】特願2004−302790(P2004−302790)の分割
【原出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(591240157)
【出願人】(595112823)
【出願人】(502213612)
【出願人】(502212718)
【Fターム(参考)】