説明

急性冠症候群の疑いを除外するinvitro診断方法

【課題】急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断方法の提供。
【解決手段】本発明は、サンプル中の、トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの濃度の定量、並びに、D−二量体の濃度の定量に関与する、急性冠症候群(ACS)の疑いを除外するin vitro診断方法、並びに、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断のための、少なくとも1つの上記心臓病マーカーの濃度を定量するための試薬及びD−二量体の濃度を定量するための試薬の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸痛を呈しかつ危険性があると疑われる患者における、一般的には心筋梗塞(MI)と呼ばれる急性冠症候群(ACS)の疑いを除外するin vitro診断方法に関し、この方法には、サンプルに基づいた、トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの濃度の定量、並びに、D−二量体の濃度の定量が関与する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞は、突然の心筋の閉塞血栓によるものである場合が最も多く、これによって、冠状動脈の広範囲に乏血性壊死が生じる。血栓によるこの急性冠動脈閉塞は、粥腫(プラーク)の裂又は破裂に関連する場合が最も多い。
【0003】
心筋梗塞は、短期又は中期で死に至る危険性が大きい疾患であり、心臓にとっては実に緊急事態であって、その発病率は世界中で依然として非常に高い。心筋梗塞は、夜又は休息中に生じることが最も多く、胸の胸骨の後ろ側が突然激しく痛む。この痛みは、狭心症の痛みに似ている。実際には、急性の胸痛を訴える患者は、できるだけ迅速に救急科又はEDに搬送する必要があり、そこで患者が受け入れられてから、患者の病歴に関する調査、心電図、並びに、トロポニン及び/又はCK−MB及び/又はミオグロビン等の心臓病マーカーの分析を含めた一連の検査並びに試験を行う。しかし、心筋酵素(CK−MB及びミオグロビン)の分析には病状特異的ではないという欠点があり、医師は、診断を下す前に、連続心電図、又は、心臓ドップラー超音波検査及びコロナグラフ(coronography)等の画像技術等の他の専門的検査を行う必要がある。このような専門的検査はすべての病院でできるわけではなく、1日24時間利用できることはまれである。トロポニンの分析については、心筋梗塞においてトロポニン濃度が上昇するのに数時間かかる場合があり、かつ、胸痛が始まって6時間経過しないと血液中で検知できないという理由から、心電図の正常な患者において心筋梗塞の疑いを除外するためには、NACBガイドラインに従って一回目のトロポニン分析の4〜6時間後に更にトロポニン(tropinin)分析を実施する必要がある(非特許文献1)。
【0004】
従って、今日では、急性冠症候群が疑われる患者が救急科に受け入れられた際に、この患者から急性冠症候群の疑いを除外するための非常に初期の方策の確立が実際に求められている。新しい方策によれば、コスト増となる追加の酵素アッセイ及び/又は追試験を減らすことができ、時間を節約でき、患者の快適さを改善でき、恐らくは病状に応じて患者を適切な科に割り当てることができるであろう。実際、診断が早いほど、患者のケアも良好なものになるであろう。このようなアプローチにおいては、陰性の予測値及び感度は最も重要なパラメータである。
【0005】
特許文献1において、(1)第一のマーカー(マロンジアルデヒド修飾LDL等)(これが所定量より多く存在する場合には、急性段階ACSとの診断の正確性が非常に高いことを示す)(すなわち、ROC又は「受信者操作特性」曲線の下の表面積が少なくとも0.875である)、続いて(2)第二のマーカー(酸化LDL等)(これが所定量より多く存在する場合には、ACSとの診断の正確性が非常に高いことを示す)、(2’)又は第三のマーカー(トロポニンI等)(これが所定量より多く存在する場合には、急性段階ACSとの診断の正確性が非常に高いことを示す)(すなわち、ROC又は「受信者操作特性」曲線の下の表面積が少なくとも0.70である)、(2”)又は上記に定義する第二及び第三のマーカーを調べることによって、冠症候群が急性段階又は非急性段階のいずれであるかを識別することが提案されている。
【特許文献1】米国特許出願US6,309,888号
【非特許文献1】“NACB Laboratory Medicine Practice Guidelines: Characteristics and Utilization of Biochemical Markers in ACS and Heart Failure, CLINICAL: ACUTE CORONARY SYNDROMES − Chapter 1, 2004”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予想外にも、本出願人は、胸痛を呈する患者からの液体サンプルに基づいて、トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの濃度を定量し、かつ、D−二量体の濃度を定量することによって、高感度でかつ高い陰性適中率(約100%に達し得る)で急性冠症候群の診断の疑いを除外でき、従って、調査費用及び時間を削減でき、また、鑑別診断を明確にするためのアプローチを迅速に実施できるということを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明の主題は、危険性があると疑われる患者からの液体サンプルに基づいた、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断方法に関し、この方法において、
−トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの上記サンプル中における濃度が定量される、
−上記サンプル中におけるD−二量体の濃度が定量される、
−上記サンプル中における上記心臓病マーカー濃度と所定の限界濃度とが比較される、
−上記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−上記サンプル中における上記心臓病マーカーの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定の上記心臓病マーカー限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される。
上記心臓病マーカーの濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量は、以下に詳しく説明されるように、連続的かつ独立して又は同時に、トロポニンの濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量の例に基づいて実施されるものとする。
【0008】
従って、本発明の方法によれば、心臓病マーカー及びD−二量体の濃度が所定の限界濃度未満であると、患者が急性冠症候群患者である場合が除外される。
【0009】
本発明の一実施形態において、
−上記サンプル中におけるトロポニンの濃度が定量される、
−上記サンプル中におけるD−二量体の濃度が定量される、
−上記サンプル中におけるトロポニンの濃度と所定のトロポニン限界濃度とが比較される、
−上記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−上記サンプル中におけるトロポニンの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定のトロポニン限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される。
【0010】
本発明の方法によれば、胸痛を呈する患者からの液体サンプルに基づいて、患者が救急科にいる際に、トロポニン等の心臓病マーカーを単独で初期分析する際の操作水準より高い感度及び陰性適中率で、ACSの診断の疑いを除外できる。
【0011】
新たなトロポニン分析の操作水準は改善されたが、実際には、現在までのところ、感度及び陰性適中率は100%の領域には達していない。
【0012】
上記心臓病マーカーの及びD−二量体の濃度の定量は、液体サンプル中のマーカーの濃度の決定するための当業者に公知の任意の方法によって実施することができる。この定量は、好ましくは、上記心臓病マーカー若しくはD−二量体に特異的な少なくとも1つの抗体、又は、上記心臓病マーカーに特異的な少なくとも1つの抗体断片を使用することによって実施される。好ましくは、少なくとも1つのモノクローナル抗体、例えば抗トロポニンモノクローナル抗体が使用される。D−二量体の定量は、好ましくは、少なくとも1つの抗D−二量体抗体又は少なくとも1つの抗D−二量体抗体断片を使用することによって実施される。好ましくは、少なくとも1つの抗D−二量体モノクローナル抗体が使用される。
【0013】
用語「抗体断片」は、特に、天然抗体のF(ab)2、Fab、Fab’又はsFv断片(Blazarら,1997,Journal of Immunology 159:5821−5833、及び、Birdら,1988,Science 242:423−426)を意味するものとする。
【0014】
以下に続く記載及び特許請求の範囲において、総称「抗体」は、モノクローナル抗体、単一特異的なポリクローナル抗体又は抗体断片を区別せずに示すこととする。
【0015】
本発明の方法の一実施形態において、サンプル中の心臓病マーカー(好ましくはトロポニン)の濃度が定量され、次にサンプル中のD−二量体の濃度が定量される。
【0016】
本発明の方法の別の実施形態において、サンプル中のD−二量体の濃度が定量され、次にサンプル中のトロポニン等の心臓病マーカーの濃度が定量される。
【0017】
本発明の方法の第三の実施形態において、サンプル中のトロポニン等の心臓病マーカーの濃度及びD−二量体の濃度は同時に定量される。この実施形態において、(i)上記の定義に対応する、少なくとも1つの抗心臓病マーカー抗体(例えば抗トロポニン)及び少なくとも1つの抗D−二量体抗体は、同じ1つの固体相に付着していてよく、この固体相はチューブ、小片又は円錐からなるものであってよい(例えば、本出願人が市販するVIDAS(登録商標) HIV DUO test(品番:30114)の原理を参照)、又は、(ii)少なくとも1つの抗心臓病マーカー抗体(例えば抗トロポニン)が1つの固体相に付着していてよく、かつ、少なくとも1つの抗D−二量体抗体が別の固体相に付着していてよく(上記抗体は上記の定義に対応するものである)、この固体相はチューブ、小片、円錐又は粒子からなるものであってよい。
【0018】
本発明の主題は、トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの液体サンプル中における濃度を定量するための試薬、並びに、液体サンプル中におけるD−二量体の濃度を定量するための試薬の使用でもあり、上記試薬は、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断用のものである。
【0019】
本発明の一実施形態において、上記心臓病マーカーの濃度を定量するための上記試薬は、上記の定義に対応する少なくとも1つの抗体であり、D−二量体の濃度を定量するための上記試薬は、上記の定義に対応する少なくとも1つの抗体である。好ましくは、上記試薬のうちの1つは抗トロポニン抗体であり、別の試薬は抗D−二量体抗体である。
【0020】
液体サンプルは、心臓病マーカー及びD−二量体を含む可能性のある、人体に由来する任意の液体サンプルである。好ましくは、これは血清、血漿及び血液から選択される。
【0021】
トロポニンは、横紋筋のタンパク質成分のうちの1つである。これは、筋収縮に関与する3つのサブユニット、I、T及びCから構成される。トロポニンI及びトロポニンTから、心筋壊死と骨格筋の発作とを区別することができる。トロポニンの3つのアイソフォームのうちの1つ、トロポニンIcは、心臓に特異的であり、交差反応がない。本発明の方法において、トロポニンTの濃度又はトロポニンIの濃度、好ましくはトロポニンIcの濃度が定量される。
【0022】
クレアチニンキナーゼ(CK)はM及びBで示される2つのサブユニットからなる二量体であり、これらが一緒になって3つのイソ酵素(CK−BB、CK−MB及びCK−MM)ができる。これらの3つのイソ酵素は細胞質中にあり、分子量はそれぞれ約82000ダルトンである。正常な成人の血清中のCKは主としてイソ酵素CK−MMからなり、CK−MBはごく微量である。通常、血清中のイソ酵素CK−BB量は、多くのCKアッセイの検出限界量より小さい。血清中に多量のCK−MBが検出される場合、通常はACSを示す。しかし、CK−MBは、ACS以外の障害を示す患者の血清中にもみられる。
【0023】
ミオグロビンは、筋細胞のヘムに由来する低分子量のタンパク質である。これは、不可逆な細胞壊死のマーカーの構成要素であり、その血清濃度は、梗塞開始後の早い時期に増加する。その半減期は非常に短く、梗塞の進行を厳密に反映できる。正常人において、血中ミオグロビン濃度は6〜85ng/mlである。診断の限界値は、70〜90ng/mlに設定される。MIにおいて、ミオグロビンは2〜4時間であらわれ、ピークは9〜12時間である。ピーク後、7〜20時間分析できる状態が続く。偽陰性の割合は、認定と胸の痛みの始まりの間の時間に依存し、4時間までで45%〜67%である。ミオグロビンは、生体のあらゆる横紋筋に存在する。従って、偽陽性は、心臓の蘇生、外部からの電気ショック、筋肉注射及び特定の筋疾患に対して起こる。その増加は通常、実質的でない場合が比較的多く、その範囲によってこれらを区別できる場合が多い。また、ミオグロビン濃度は腎不全が生じた場合、及び、重度の心不全等の糸球体ろ過の減少が引き起こされる任意の状況においても増加する。年齢、体重及び性別は、血中ミオグロビン濃度にほとんど影響を及ぼさない。同様に、血中ミオグロビン濃度は通常、運動後も正常のままである。
【0024】
D−二量体は繊維素が分解されて生じる産物であり、2つの現象:
− トロンビン及びXIIIa因子の作用後の、安定化繊維素へのフィブリノーゲンの凝集、
− プラスミンによる繊維素塊の可溶性小片への消化、及び、その小片の血中への放出(この塊が分解された最終産物がD−二量体である):
が同時に起こった場合に生じる、異種混合度のきわめて高い組成物の可溶性小片である。
【0025】
全ての血栓症状マーカーのうち、安定化繊維素の存在を実際に証明するのはD−二量体のみである。
【0026】
上記心臓病マーカー(特にトロポニン)及びD−二量体は、ELISA、ELFA、ラテックス凝集反応、濁度測定、粒子の濁度測定、比濁分析、粒子の比濁分析、又は、他の適切な方法等の、当業者に公知の様々なイムノアッセイ原理によって定量することができる。これらの原理及び他の方法は、例えば“Labor und Diagnose”中に記載されている(L.Thomas編, TH−Books Verlagsgesellschaft mbH, Frankfurt, 1998, chapter 60 or in “Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, − An introduction to Radioimmunoassay and Related Techniques”T.Chard編, Elsevier, Amsterdam, 1987)。
【0027】
従って、サンプル中の上記心臓病マーカー(特にトロポニン)の濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量は、ELISA、ELFA、濁度測定、比濁分析、粒子の濁度測定、粒子の比濁分析及びラテックス凝集反応から選択されるアッセイに基づいて、イムノアッセイでそれぞれ単独で実施される。
【0028】
当業者であれば、トロポニン等の心臓病マーカー及びD−二量体のそれぞれについて、公知の方法に基づいて限界濃度値を定義することができる。一例としては、D−二量体については下記の方法を適用することができる:ACS陽性と診断された多くの患者に由来するサンプルについて例えば画像診断によって、また、ACS陰性の患者に由来する多くのサンプルについて、D−二量体の濃度を調べる;得られた結果を種々の限界値に基づいて評価し、ACS陰性の疑いは除外できるがACS陽性の疑いは除外できないような限界濃度値を選択する。限界濃度値は、D−二量体アッセイに使用される技術及びキットに応じて異なっていてもよい。また、この方法は心臓病マーカーにも適用できる。
【0029】
トロポニンについての特定の場合においては、限界値は国際勧告に従って決定され、対照コントロール母集団の99%に一致していなければならない(“NACB Laboratory Medicine Practice Guidelines: Characteristics & Utilization of Biochemical Markers in ACS and Heart Failure, CLINICAL: ACUTE CORONARY SYNDROMES − Chapter 1, 2004”)。また、限界濃度値は、トロポニンアッセイに使用される技術及びキットに応じて異なっていてもよい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態は、上述したように、危険性があると疑われる患者における、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断方法であって、トロポニン(好ましくはトロポニンIc)を、VIDAS(登録商標)器具等の装置上を用いて、限界濃度値を0.1μg/lとしてサンドイッチ免疫酵素法に従い試験することを特徴とする方法であるが、これに限定されない。
【0031】
本発明の別の好ましい実施形態は、上述したように、危険性があると疑われる患者における、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断方法であって、D−二量体を、VIDAS(登録商標)器具等の装置上を用いて、限界濃度値を250ng/mlとしてサンドイッチ免疫酵素法に従い試験することを特徴とする方法であるが、これに限定されない。
【0032】
上記に記載された、ACSの疑いを除外するin vitro診断方法は、胸痛を訴える救急科の患者119人に対して6か月間実施された予測試験によって実証された。本発明の方法によって、患者が救急科にいる際に、トロポニンを単独で分析する際の操作水準より非常に高い感度及び高い陰性的中率で、心筋壊死の診断の疑いを除外することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の方法を、以下、並びに、トロポニンIcとD−二量体の併用を評価する際、及び、患者からACSの疑いを除外するよう診断する際に使用されるアルゴリズムを表す1つの図面に詳しく記載する。これらの詳細はいずれも、本発明をなんら制限するものではない。
【0034】
<材料及び方法>
胸痛を呈する患者119人(男性88人、女性31人)を、救急科で連続して選定した。試験における平均年齢は、59歳(前後13歳)であった。患者全員に対して心電図を実施した。これらの患者から集めた新鮮な血漿サンプルを、VIDAS(登録商標)器具(ビオメリュー社)を用いて、VIDAS(登録商標)D−Dimer New kit(ビオメリュー社)、及び、VIDAS(登録商標)トロポニンI(TNI)キット(ビオメリュー社)を異なる回数で使用して試験した。
【0035】
試験中において、時間T0は胸痛があらわれた時間に相当し、時間T1は患者が救急科に到着して第一のサンプルを採取した時間に相当し、時間T2はT1に6時間を加えたものに相当する。トロポニンIについては、心筋梗塞の疑いを除外するための新しい国際勧告(正規母集団の99%)に従って、限界値0.1μg/lを設定した。心筋梗塞の疑いを除外するために、D−二量体について最適な限界値を決定した。心筋梗塞を予測するための、D−二量体についてのROC(「受信者操作特性」)曲線は、Analyse−Itプログラムを使用して確立された。心筋梗塞の疑いを除外するためのD−二量体についてのROC曲線は、最適限界値が250ng/mlである(ヨーデンの指標(Youden index):14.3%、感度:88.5%、及び、特異性:25.8%、曲線下面積:0.60)。
【0036】
トロポニンIcとD−二量体の併用を評価する歳に使用されるアルゴリズムが、図面中に記載される(図面中、DDi=D−二量体、TnI=トロポニンI、MI=心筋梗塞、UA=不安定狭心症、SA=安定狭心症)。
【0037】
この図面において、トロポニンIcの濃度が時間T1において0.1μg/lを越える場合、及び、D−二量体の濃度が時間T1において250ng/ml未満である場合、心筋梗塞の疑いを除外できないということがわかるであろう。トロポニンIcの濃度が時間T1において0.1未満μg/lである場合、かつ、D−二量体の濃度が時間T1において250ng/ml未満である場合、本発明の方法に従って心筋梗塞が除外される。
【0038】
表1:感度及び特異性
【0039】
【表1】

【0040】
<ディスカッション>
患者26人(22%)がMI陽性と診断された。これらの患者のうち、時間T1においてトロポニン陰性かつD−二量体陰性であるのは1人のみである。しかし、これ以外で、T1においてトロポニン陰性かつD−二量体陰性であった患者25人については、トロポニンはT2においても陰性であった。上記に定義したアルゴリズムにより、母集団の21%(25/119)を、MIについて、救急科において、時間T1において実施されたトロポニン及びD−二量体についての分析結果が得られた直後に除外することができる。
【0041】
トロポニン陰性結果に関連したD−二量体陰性結果(<250ng/ml)により、時間T1における診断の感度が、トロポニン単独について得られた結果と比較して、46.2%〜96.2%改善される。2つの試験を併用することによって、時間T1において得られた感度は、時間T2においてトロポニンアッセイ単独で得られた結果と等しくなる。
【0042】
トロポニン及びD−二量体アッセイの併用することによって、救急科においてMIの危険性があると疑われる患者を、非常に高い感度及び非常に高い陰性予測値で、非常に早く除外できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】トロポニンIcとD−二量体の併用を評価する際、及び、ACSから除外された患者を診断する際に使用されるアルゴリズムを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
危険性があると疑われる患者からの液体サンプルに基づいた、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断方法であって、
−トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの前記サンプル中における濃度が定量される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度が定量される、
−前記サンプル中における前記心臓病マーカー濃度と所定の限界濃度とが比較される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−前記サンプル中における前記心臓病マーカーの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定の前記心臓病マーカー限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度が定量される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度が定量される、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度と所定のトロポニン限界濃度とが比較される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定のトロポニン限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度が定量される、次に、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度が定量される、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度と所定のトロポニン限界濃度とが比較される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定のトロポニン限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度が定量される、次に、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度が定量される、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度と所定のトロポニン限界濃度とが比較される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定のトロポニン限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度及びD−二量体の濃度が同時に定量される
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度と所定のトロポニン限界濃度とが比較される、
−前記サンプル中におけるD−二量体の濃度と所定のD−二量体限界濃度とが比較される、並びに、
−前記サンプル中におけるトロポニンの濃度及びD−二量体の濃度がそれぞれ、所定のトロポニン限界濃度及び所定のD−二量体限界濃度よりも小さいかどうかが決定される
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
液体サンプルは、血清、血漿及び血液から選択される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプル中における前記心臓病マーカーの濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量は、イムノアッセイでそれぞれ単独で実施される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプル中におけるトロポニンの濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量は、イムノアッセイでそれぞれ単独で実施される
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
サンプル中の前記心臓病マーカーの濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量は、ELISA、ELFA、濁度測定、比濁分析、粒子の濁度測定、粒子の比濁分析及びラテックス凝集反応から選択されるアッセイに基づいて、それぞれ単独で実施される
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
サンプル中のトロポニンの濃度の定量及びD−二量体の濃度の定量は、ELISA、ELFA、濁度測定、比濁分析、粒子の濁度測定、粒子の比濁分析及びラテックス凝集反応から選択されるアッセイに基づいて、それぞれ単独で実施される
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
トロポニン、CK−MB及びミオグロビンから選択される少なくとも1つの心臓病マーカーの液体サンプル中における濃度を定量するための試薬、並びに、液体サンプル中におけるD−二量体の濃度を定量するための試薬の使用であって、
前記試薬は、急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断用のものである
ことを特徴とする使用。
【請求項12】
急性冠症候群の疑いを除外するin vitro診断用の、液体サンプル中におけるトロポニンの濃度を定量するための試薬、及び、液体サンプル中におけるD−二量体の濃度を定量するための試薬の、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記試薬の少なくとも1つは、少なくとも1つの心臓病マーカーに対する少なくとも1つの抗体であり、前記試薬の別のものは、少なくとも1つの抗D−二量体抗体である
ことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記試薬の少なくとも1つは、少なくとも1つの抗トロポニン抗体であり、前記試薬の別のものは、少なくとも1つの抗D−二量体抗体である
ことを特徴とする請求項12に記載の使用。
【請求項15】
液体サンプルは、血清、血漿及び血液から選択される
ことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−516218(P2008−516218A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535224(P2007−535224)
【出願日】平成17年10月10日(2005.10.10)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050835
【国際公開番号】WO2006/040494
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)