説明

急硬性混和材及び急硬性セメント組成物

【課題】 例えば30〜40℃の高温環境でも、瞬結することなく長い可使時間の確保が可能であって、可使時間経過後は急硬性が減退することなく短時間に硬化し、高い短時間強度発現性を示すことができる急硬性混和材及び急硬性セメント組成物を提供する。
【解決手段】 CaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が0.9以上1.5未満のカルシウムアルミネート、凝結遅延剤、二水石膏及び炭酸リチウムを含有してなる急硬性混和材並びに該急硬性混和材とセメントを含有してなる急硬性セメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にセメントペースト、モルタル、コンクリートなどの水硬性組成物に混和して短時間に硬化せしめるための急硬性混和材及び急硬性のセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの硬化を急速に進行させるために、急硬成分や硬化促進成分などが加えられている。急硬成分として最も頻繁に使用されているのはカルシウムアルミネート類であるが、凝結後のセメント硬化を短時間に行わすには有効であるものの、水和反応活性が高く、凝結が瞬結したり5分以内の短時間に完結され易い。このため、注水後は極めて短時間に施工・打設・製造使用を行わねばならず、作業上必要とされるような可使時間(セメントへの注水から凝結開始までの時間で、施工に適した流動性状を有している時間)が殆ど確保できない。また、硬化促進成分としては石膏類や無機アルカリ金属塩などがあり、カルシウムアルミネート類と併用することで、主に硬化中期以降に於ける急硬化作用を補い、短時間での硬化の完結を十分遂行できることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)一方、セメント系組成物の可使時間を確保する方法として、例えばグルコン酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸やその塩などの凝結遅延剤の使用が挙げられ、石膏、リチウム塩などの硬化促進成分やカルシウムアルミネート類と併用しても急硬性状に殆ど支障を及ぼすことなく可使時間の確保が可能となることが知られている。(例えば、特許文献2〜3参照。)
【特許文献1】特開2001−39761号公報
【特許文献2】特開昭61−155239号公報
【特許文献3】特開2000−281410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、セメント系組成物の可使時間をより長く確保するには凝結遅延剤をより多く配合すれば良いが、凝結遅延剤の配合量を増すほど、硬化時の短時間強度発現性が低下し、過剰に配合すると急硬成分と併用しても急硬性が得られなくなる虞がある。一方、セメント質ペーストや固化剤、モルタル、コンクリートなどのセメント系組成物を使用する施工・打設・製造環境は必ずしも一定のものではなく、夏場や直射日光に曝される現場など高温環境での使用も頻繁に見られる。高温になる程水硬性物質の水和反応活性が増大するため、比較的低温下で可使時間を長く確保する場合と比べ、高温環境下では可成り大量の凝結遅延剤の配合が必要となる。このため、急硬性が要求されるセメント系組成物の高温下での施工・打設・製造使用では、作業上長い可使時間を確保しようとすると所望の短時間強度が発現されなかったり、急硬性が十分発現され難かった。本発明は、このような問題を解決するためのもので、比較的低温環境での使用は勿論、例えば30〜40℃の高温環境でも、瞬結することなく、例えば120分程度の長い可使時間の確保が可能で、可使時間経過後は急硬性を減退させることなく短時間で硬化し、高い短時間強度発現性が得られる急硬性混和材及び急硬性セメント組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題解決のため検討を重ねた結果、化学成分でアルミナを高含有するカルシウムアルミネートを急硬成分に用いれば、水和反応活性を低減でき、大量の凝結遅延剤を用いることなく長い可使時間の確保が可能となること。また溶解度の温度変化が無水石膏などと比較して格段に低い二水石膏を併用することで、高温でも硬化促進作用が減退することなく発揮され、長い可使時間を確保する場合でも高い急硬性を安定して発現できること。また、炭酸リチウムも併用することで凝結調整作用が強化されて可使時間が確保し易くなる他、高温下で可使時間を長くするために遅延剤を増加させても短時間強度の低下を抑制できること。更に、カルシウムアルミネートを特定の比表面積とすることで、カルシウムアルミネート表面に吸着できる遅延剤密度が高くでき、可使時間の延長化が効率良く行え、遅延剤量を低減できること、等の知見から、このような成分を配合することで、本発明の高温でも硬化性状に支障を及ぼさずに長い可使時間を確保できる急硬性混和材及び急硬性セメント組成物を得ることができた。
【0005】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(4)で表す急硬性混和材及び(5)で表す急硬性セメント組成物である。(1)CaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が0.9以上1.5未満のカルシウムアルミネート、凝結遅延剤、二水石膏及び炭酸リチウムを含有してなる急硬性混和材。(2)前記(1)の凝結遅延剤が酒石酸またはそのアルカリ金属塩である急硬性混和材。(3)更にリグニンスルホン酸系の分散剤を含有してなる前記(1)又は(2)の急硬性混和材。(4)カルシウムアルミネートのBET比表面積が1.2〜2.0m2/gである前記(1)〜(3)何れかの急硬性混和材。(5)前記(1)〜(4)何れかの急硬性混和材とセメントを含有してなる急硬性セメント組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の急硬性混和材を混和させたセメント系のペースト、固化剤、モルタル、コンクリート等のセメント組成物は、常温は勿論、例えば30〜40℃の高温環境下での施工・打設・製造使用でも高い急硬性を安定して付与することができ、且つ強度発現性などの硬化性状に何等支障を及ぼすことなく例えば120分を超えるような長い可使時間を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の急硬性混和材は、急硬性を付与させるための成分に化学成分でCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が0.9以上1.5未満のカルシウムアルミネートを用いる。好ましくは含有モル比(CaO/Al23)が1.1以上1.4以下のカルシウムアルミネートを用いる。含有モル比(CaO/Al23)が0.9未満では急硬性が発現され難くなるので好ましくなく、1.5以上では可使時間の確保が困難になるので好ましくない。本発明で用いるカルシウムアルミネートは、CaOとAl23以外の化学成分の含むものでも良いが、好ましくは12重量%以下の含有とする。これらの条件を充当するものならば、アルミナセメントであっても良い。また、カルシウムアルミネートは、化合物、固溶体、ガラス質若しくはこれらの何れかが混合した物の何れでも良い。好ましくは過激な水和活性を呈さず、高温環境下でも可使時間確保が行い易いことからガラス化率が30%未満、より好ましくは結晶質からなるカルシウムアルミネートが良い。また、使用するカルシウムアルミネートはBET比表面積が1.2〜2.0m2/gであることが好ましい。この比表面積のカルシウムアルミネートを用いることで水和反応活性を低減でき、またカルシウムアルミネートに吸着する凝結遅延成分の密度が高められ、大量の凝結遅延成分を使用することなく可使時間の伸長を図ることが容易になる。BET比表面積が1.2m2/g未満では急硬性が発現され難くなり、2.0m2/gを超えると特に高温での可使時間の伸長を行う上で大量の凝結遅延成分が必要になり、強度発現性や硬化時間等の硬化性状に支障を及ぼすことがある。
【0008】
本発明の急硬性混和材は、可使時間を確保するための成分として凝結遅延剤を使用するものである。凝結遅延剤はセメント系の水硬性組成物に使用できるものなら特に限定されず、例えばグルコン酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸またはこれらのアルカリ金属塩等を挙げられる。好ましくは、他のオキシカルボン酸を使用した際に見られるような遅延剤量の増加に伴う短時間強度の低下が起り難いことから酒石酸またはそのアルカリ金属塩を使用する。急硬性混和材中の凝結遅延剤の含有量はカルシウムアルミネートの含有量100重量部に対し、3〜20重量部が好ましい。3重量部未満では可使時間の確保が困難になり、また20重量部を超えると硬化が遅延したり、強度発現性が低下することがある。
【0009】
また、本発明の急硬性混和材は前記の成分に加えて、二水石膏と炭酸リチウムを必須含有する。二水石膏は、他の石膏類と比べ溶解度の温度変化が小さく、高温環境下でも安定して硫酸イオンとカルシウムイオンを供給できるため、特に高温で可使時間を確保する際に起こる硬化遅延の抑制に有用である。使用する二水石膏は特に限定されず、また急硬性混和材中の二水石膏の含有量はカルシウムアルミネート100重量部に対し、50〜150重量部が好ましい。50重量部未満では可使時間が短くなると共に短時間強度発現性も低下し、150重量部を超えると硬化時に膨張亀裂を生じる虞がある。
【0010】
また、本発明の急硬性混和材で炭酸リチウムを必須含有するのは、一般にアルカリ金属炭酸塩は凝結促進作用が見られ、凝結遅延剤使用に伴う硬化遅延や硬化強度低減を抑制できるが、高温で長い可使時間の確保に必用とされる遅延剤量に対処するには炭酸リチウム以外のアルカリ金属炭酸塩では実質的な効果が得られないことによる。急硬性混和材中の炭酸リチウムの含有量はカルシウムアルミネート100重量部に対し、3〜10重量部が好ましい。3重量部未満では含有効果が殆ど得られず、10重量部を超えると硬化中長期の強度発現性が低位な水準に留まり易い。
【0011】
本発明の急硬性混和材は、本発明の効果を喪失しない限り、前記以外の成分を含むことができる。このような成分として例えば、何れもセメント系のモルタルやコンクリート等に使用できる分散剤(減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤でも良い。)や材料分離防止剤等を挙げることができる。また、例えば高温環境下で特に長い可使時間が必要なときは、高い凝結遅延作用が加算されることからリグニンスルホン酸系の分散剤を併用することが推奨される。
【0012】
また、本発明の急硬性セメント組成物は、前記急硬性混和材とセメントを必須成分として含むものである。セメントは水硬性のものなら特に限定されず、例えば普通ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメントやスラグセメントなどの各種混合セメントを挙げることができる。急硬性混和材とセメントの含有量はセメント100重量部に対し、急硬性混和材5〜25重量部が好ましい。急硬性混和材が5重量部未満では急結性が発現し難く、また25重量部を超えると可使時間の確保が極めて難しくなる。また、本発明の急硬性セメントでは、急硬性混和材とセメント以外の成分の含有は、急硬性が発現され、高温でも可使時間が確保できる限り、制限されない。このような成分として例えば、細骨材、粗骨材、減水剤(高性能減水剤、高性能AE減水剤を含む。)、分散剤、収縮低減剤、膨張材、防錆剤、空気連行剤、ブリージング防止剤、材料分離抑制剤、増粘剤、ポリマー樹脂、繊維、顔料、増量材、珪石粉、石炭灰、粘土鉱物粉、潜在水硬性物質等の他、水を挙げることができる。
【0013】
また、本発明の急硬性セメント組成物の作製方法は、好適な方法を例示すると、水以外の成分を一括又は任意の順序で例えばパン型やホバート型の混合機などに投入して適宜混合した後に、セメント100重量部に対し、概ね30〜80重量部の量の水を注水して混練すれば良いが、この方法や他の特定の作製方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
[混和材の製造]
化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)、CaOとAl23の合計含有率、ガラス化率及びBET比表面積が表1に表わされるカルシウムアルミネートと次に記す原料を表2に表す配合量となるようレディゲミキサに一括投入し、約2分間混合して混和材(本発明品1〜8及び参考品11〜14)を作製した。尚、カルシウムアルミネートは何れもCaOとAl23以外の化学成分としてSiO2、Fe23、MgOと、含有率が0.1重量%以下の他の不可避不純物を含むものである。また、カルシウムアルミネートのガラス化率はX線回折により結晶相の生成量を算出し、カルシウムアルミネート全体の量から結晶相の生成量を減じてガラス相の生成量を得、カルシウムアルミネート全体の量に占める該ガラス相生成量からガラス化率を算出した。
酒石酸(市販試薬)
酒石酸ナトリウム(市販試薬)
クエン酸(市販試薬)
二水石膏(市販品、ブレーン比表面積2500cm2/g)
無水石膏(市販品、ブレーン比表面積7000cm2/g)
炭酸リチウム(市販試薬)
炭酸ナトリウム(市販試薬)
水酸化カリウム(市販試薬)
リグニンスルホン酸系減水剤(エヌエムビー株式会社製No.70を105℃で乾燥した粉末)
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
[モルタルの製造]
前記製造の混和材(本発明品2を除く。)を何れも140g、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)1350g、リグニンスルホン酸系減水剤(エヌエムビー株式会社製No.70)を固形分換算で27g及び細骨材(北海道上磯産砕砂、F.M.=2.82)1350gをレディゲミキサに一括投入し、約1分間混合した後、900gの水(水道水)を加えて35℃の屋内で約2分間混練した。また、本発明品2に係わる混和材150g、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)1350g及び細骨材(北海道上磯産砕砂、F.M.=2.82)1350gをレディゲミキサに一括投入し、約1分間混合した後、900gの水(水道水)を加えて35℃の屋内で約2分間混練した。得られたモルタルの可使時間及び強度を以下の方法で測定した。使用混和材種と測定結果を表3に表す。
【0018】
[可使時間の測定方法]
JIS R 5201に準じた方法で、20℃及び35℃の屋内で注水直後からモルタルの凝結性を調べ、何れも注水時から凝結始発までの時間を可使時間とした。
【0019】
[強度の測定方法]
注水から35℃の屋内で60分間ミキサ撹拌(回転数100rpm)したモルタルを撹拌終了後直ちに40×40×160mmの型枠に充填し、型枠充填した状態で35±1℃の恒温室内で6時間及び1週間放置した。所定放置時間到達時に脱型し、脱型直後のモルタル成形物の圧縮強度を測定した。但し、撹拌中に凝結したモルタル(比較例2及び5)については強度測定対象外とした。
【0020】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が0.9以上1.5未満のカルシウムアルミネート、凝結遅延剤、二水石膏及び炭酸リチウムを含有してなる急硬性混和材。
【請求項2】
請求項1記載の凝結遅延剤が酒石酸またはそのアルカリ金属塩である急硬性混和材。
【請求項3】
更にリグニンスルホン酸系の分散剤を含有してなる請求項1又は2記載の急硬性混和材。
【請求項4】
カルシウムアルミネートのBET比表面積が1.2〜2.0m2/gである請求項1〜3何れか記載の急硬性混和材。
【請求項5】
請求項1〜4何れか記載の急硬性混和材とセメントを含有してなる急硬性セメント組成物。

【公開番号】特開2006−62888(P2006−62888A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243869(P2004−243869)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】