説明

恒温槽

【課題】内タンクと外タンクとの間の隙間部分について無駄なスペースを無くし、且つこの隙間をなるべく狭くするようにして、液体温度を高い精度で制御できる恒温槽を提供する。
【解決手段】多角筒状の頂点部分が曲線Aiで形成された内タンク36と、内タンク36の多角筒状の曲線状の部分Aiの数と同じ数の頂点部分Aoを有する多角筒状の外タンク38とを有し、内タンク36の曲線状の部分Aiと外タンク38の頂点部分Aoとが一致するように配置されて成る二重壁構造のタンク38が設けられ、内タンク36と外タンク38との間は、流路40として設けられ、内タンク36内の液体を、内タンク36の底部から流路40内を上昇して内タンク36の上部から再度内タンク36内に流入するように循環させる羽根車51を有する循環手段48が設けられ、流路40を流通する液体を所定の温度となるように維持するサーモモジュール52が外タンク38の外壁面の平面部分に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温槽に関し、さらに詳細にはタンク内部の液体を所定の温度に保つ恒温槽に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造時において用いられる洗浄用等の液体を、所定の温度に維持する恒温槽が従来から知られている(例えば特許文献1参照)。
図6に基づいて、従来の恒温槽について説明する。
恒温槽9を構成するタンク10内には、所定の温度に保つべき液体11が貯留されている。このタンク10内には、内部を冷媒液が流通する冷却用蛇管12が配置されている。タンク10内の液体は、この冷却用蛇管12を介して冷媒液と熱交換されており、タンク10内の液体の温度が一定に保たれるように設けられている。
【0003】
また、図7に他の恒温槽の例を示す。
この恒温槽13のタンク14の上部および下部のそれぞれには、ヒータ15およびサーモモジュール16に接続される配管17a、17bが設けられている。各配管17a,17bは、タンク14内の液体11を直接ヒータ15やサーモモジュール16へ循環させるように設けられており、配管17aの途中には液体11を循環させるためのポンプ18が設けられている。
【0004】
上述の図6に示したような恒温槽では、タンク10内の液体を循環させずに、冷媒液を循環させており、冷却蛇管12に接触している部分と冷却蛇管12から離れている部分の液体に温度差がでてきしまっていた。また、このようなタンク10にタンク10内の液体を撹拌させるための撹拌手段(スターラー等)を設けた場合であっても、タンク10の隅々まで十分に撹拌することは難しく、タンク内にどうしても温度差が生じてしまっていた。
【0005】
さらに、図7に示したような恒温槽では、タンク14から液体を取り出して循環させる方式であるので、タンク14内の液体としてフッ素系不活性液体を用いた場合、フッ素性不活性液体は電気的な絶縁性が極めて高いので、配管内を液体が流通することで配管と液体との摩擦により静電気が発生してしまう。静電気の発生を防止するには、配管を金属製にする必要があるが、金属製配管では恒温槽全体が重量化・大型化してしまい、またコスト的にも不利であった。
【0006】
そこで、本願出願人は、図8に示すように、内タンク19と外タンク20とから構成される二重壁構造のタンク21を採用し、内タンク19と外タンク20との間の隙間22を利用してタンク内部で液体を流通させる構成を提案した(例えば、特許文献2参照)。
この特許文献2に開示されている恒温槽によれば、外タンク20の形状を多角筒状とし、この多角筒状の外壁面の平面部分にサーモモジュール24を設けることにより、サーモモジュール24の外タンク20への取り付けが容易になると共に、サーモモジュール24と外タンク20との接触面積を最大限に取ることができ、温度制御を確実なものとした。
また、外タンク20は多角形状であっても内タンク19は円筒状であるので、内タンク19内には液体の流通を妨げるようなデッドスペースを作らずに済み、内タンク19内部における温度差の解消にさらに寄与することができた。
【0007】
【特許文献1】特開平4−213103号公報(図1、図6等)
【特許文献2】特開2006−309418号公報(図2、図3等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示されているように、二重壁構造のタンクの内タンクを円筒状とし、外タンクを多角筒状とすることにより、サーモモジュールの取付が容易になるなどの効果を奏することはできる。
しかし、内タンクが円筒状で外タンクが多角筒状であると、内タンクと外タンクとの隙間として、広い部分と狭い部分とができてしまうので、無駄なスペースが生じているという課題がある。
一方、外タンクの外壁面にサーモモジュールが設けられているので、内タンクと外タンクとの隙間はなるべく狭い方が効率よく温度制御可能であるが、従来のような構造であると、外タンクの頂点部分に該当する位置では平面部分と比較して内タンクと外タンクとを接近させることができないという課題もある。
【0009】
そこで、本発明者は、内タンクの形状を変更することで、上記課題を解決することができると考え、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、内タンクと外タンクとの間の隙間部分について無駄なスペースを無くし、且つこの隙間をなるべく狭くするようにして、液体温度を高い精度で制御できる恒温槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる恒温槽によれば、対象となる液体を所定の温度に維持する恒温槽において、多角筒状の頂点部分が曲線で形成された内タンクと、該内タンクの多角筒状の曲線状の部分の数と同じ数の頂点部分を有する多角筒状の外タンクとを有し、該外タンクは、内タンクを内部に収納するようにして内タンクの外壁面から所定の距離をおき、内タンクの曲線状の部分と頂点部分とが一致するように配置されて成る二重壁構造のタンクが設けられ、前記内タンクと前記外タンクとの間は、前記液体が流通する流路として設けられ、前記内タンクの上部および底面には、内タンクの内部と前記流路とを連通させる上部連通孔および底部連通孔が設けられ、前記内タンク内の液体を、前記内タンクの底部連通孔から前記流路内を上昇して前記内タンクの上部連通孔から再度前記内タンク内に流入するように循環させる、回転軸の軸線方向と直交する方向に液体を移動させるような形状に羽根が設けられた羽根車を有する循環手段が、内タンクの底部連通孔の下方の外タンクの底面に設けられ、前記流路を流通する液体を所定の温度となるように維持するサーモモジュールが前記外タンクの外壁面の平面部分に設けられていることを特徴としている。
【0012】
この構成による作用は以下の通りである。
すなわち、外タンクを多角筒状に形成したことにより、サーモモジュールの外タンクへの取り付けが容易になると共に、サーモモジュールと外タンクとの接触面積を最大限に取ることができるので、温度制御が確実なものとなる。また、外タンクの内底面に設けられた羽根車の回転により、内タンク内の液体を遠心方向に流すようにしているので、外タンクの多角形の内壁面に液体がぶつかることで流路内で液体がほどよく撹拌され、より全体の温度を均一にできる。
そして、内タンクの形状を多角筒状の頂点部分が曲面状に形成されたものとしたことで、内タンクの内部にはデッドスペースを作らず、且つ、外タンクの頂点部分と内タンクの曲線状の部分とを一致させるように配置したことにより、外タンクと内タンクとの間の隙間をなるべく狭くすることが可能となった。このため、液体温度の制御をさらに高精度に行うことができる。
【0013】
また、前記内タンクの曲面状の部位は、円弧状であることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の恒温槽によれば、内タンク内のいずれの場所においても液体の温度差が無く液体温度を高精度に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1に、恒温槽の全体構成を示す。
本実施例における恒温槽30は、タンク31が内蔵された本体33に、温度制御用の制御装置34が接続されて設けられている。
恒温槽30は、フッ素系不活性液体を所定の温度に保つ機能を有するものであり、タンク31内にフッ素系不活性液体(以下、単に液体と称する場合がある)を貯留させている。タンク31内で所定の温度に維持された液体は、例えば半導体製造時の洗浄等に用いられる。
【0016】
図2に本体の平面図を、図3はタンクの側面図を、図4にタンクの断面図を示す。
本体33には、内タンク36と、内タンク36を内部に収納するように内タンク36の外周に配置された外タンク38とからなる二重壁構造のタンク31が設けられている。このタンク31に、液体が所定の温度となるように貯留される。
【0017】
内タンク36は、上部が開口した八角形筒状の頂点部分を、所定の曲率半径を有する円弧Aiで形成した形状に形成されている。8箇所の頂点部分の円弧Aiの曲率半径はすべて同一の曲率半径であるとする。したがって内タンク36は、平面視すると直線部分Liが曲線Aiで連結された閉じた図形として現れる。
一方、外タンク38は上部が開口した八角形筒状に形成されている。
そしてこのような二重壁構造のタンク31は、平面視すると、内タンク36の直線部分Liは、外タンク38の直線部分Loと一致するように配置されている。すなわち、言い換えると外タンク38の頂点部分Aoと、内タンク36の円弧状の部分Aiとが一致するように二重壁構造のタンク31形成されている。
【0018】
内タンク36と外タンク38との間には所定間隔の隙間が形成されている。この隙間が、内タンク36と外タンク38との間で液体が循環するための流路40として構成される。
そして、上述したように、八角形筒状の外タンク38と、八角形筒状の頂点部分を所定の曲率半径を有する円弧で形成した形状の内タンク36を外タンク38の頂点部分と、内タンク36の円弧状の部分とが一致するように配置したので、従来の構造と比較しても(図8参照)流路40がいずれの場所においてもほぼ同じ間隔となるように構成できる。
【0019】
内タンク36の底面36aには、流路40と内タンク36の内部とを連通させるための底部連通孔42が形成されている。また、内タンク36の上部には、流路40と内タンク36内部とを連通させるための上部連通孔44が形成されている。
【0020】
また、外タンク38の底面であって内タンク36の底部連通孔42の下方には、液体を内タンク36から外タンク38へ循環させるための循環手段48が設けられている。循環手段48として具体的には、マグネット式の遠心ポンプを用いている。マグネット式の遠心ポンプは、外タンク38の外底面に配置され、回転軸にマグネット(図示せず)が設けられたモータ49と、該モータ49と分離して設けられ、底部にマグネット50を有する羽根車51とを具備している。羽根車51は、回転軸の軸線方向と直交する方向に流体を移動させるような形状に羽根が設けられている。このようにして羽根車51とモータ49との間には、タンク31を貫通する回転軸を設けなくともよいので、回転軸を貫通させる場合に必要となる軸受けやシール機構などを設けずにすみ、加工コストの削減に寄与できる。
【0021】
モータ49が回転駆動することによって、羽根車51が回転し、内タンク36内の液体を内タンク36底面の底部連通孔42から流路40へ流入させる。このとき羽根車51は、液体を内タンク36の底部から遠心方向に流し、外タンク38の内壁面に液体をぶつけさせる。外タンク38は上述したように、八角形筒状でありその頂点部分が形成されているので、液体は外タンク38の内壁面に当接してほどよく撹拌される。
そして、内タンク36と外タンク38との間隙である流路40に流入した液体は羽根車51の回転により流路40内を上昇し、内タンク36の上部連通孔44から内タンク36の内部へ流入する。
こうして液体はタンク31内を撹拌されつつ上下方向に循環する。
【0022】
液体が流路40を上昇している最中に、外タンク38の外壁面に設けられたサーモモジュール52によって液体は所定の温度に設定される。
すなわち、サーモモジュール52は、外タンク38の外壁面に取り付けられており、外タンク38を直接加熱または冷却しており、外タンク38に接触しつつ通過する液体を加熱または冷却することができる。
【0023】
このように、流路40を移動中に所定の温度にされた液体は、内タンク36の上部連通孔44から内タンク36内に流入して内タンク36の底面に向けて流れるので、内タンク36内では常に上下方向に流動することとなり、内タンク36内部における液体の温度差を無くすことができる。また、内タンク36は角が円弧状に形成された形状であるから、液体の流通がスムーズに行え、液体が滞留等してしまうことがなく、特に均一な温度分布に設定することができる。
【0024】
次に、サーモモジュールの構成について説明する。
サーモモジュール52は、制御装置34に接続されたペルチェ素子56と、ペルチェ素子56の一方の面側と外タンク38の外壁面との間に配置される熱伝導板58と、ペルチェ素子56の他方の面側に設けられた熱交換器59とを有している。
【0025】
ペルチェ素子56は、2種類の金属が貼り合わされて構成されており、電圧を印加する
ことによって一方の金属から他方の金属へ熱が移動して温度を調節することが出来る素子である。
また、熱伝導板58は、ペルチェ素子56を確実に外タンク38の外壁面に取り付けると共に、ペルチェ素子56の熱を均一に外タンク38へ伝導させるために設けられており、ペルチェ素子56の表面積よりも大きい表面積の銅板等が用いられる。
【0026】
熱交換器59は、水冷式であり、内部を冷媒が通過する流路60が形成されたブロック体61から構成されている。
例えば、ペルチェ素子56において、外タンク38を冷却する際には、ペルチェ素子56の他方側の面は高温になるが、この高温となった他方側の面の温度を下げることによって、さらにペルチェ素子56の性能を引き出すことができるようになる。
なお、冷媒としては、チラー水等を採用することができ、冷媒がポンプ62によって循環可能となるように配管63を設け、冷媒の熱交換を行なう熱交換器(図示せず)を設けても良い。
【0027】
また、制御装置34は、ペルチェ素子56に印加する電流を制御するための回路が内蔵されており、ユーザが指定する温度に液体が短時間で到達するように制御がなされる。
制御装置34は、ペルチェ素子56へ印加する電圧の極性切換を行なうことによって、タンク31内の液体の温度を加熱および冷却の双方を実行することができる。
【0028】
なお、上述した実施例においては、外タンク38の形状としては平面視八角形の筒状のものを採用した。しかし、外タンクの形状としてはこのようなものに限定されることはない。サーモモジュール52が取り付けられる平面部分が形成されていれば、平面視四角形や平面視六角形、あるいは平面視十角形以上のものであってもよい。ただし、四角形や六角形では、内タンク36の外壁面との間の距離が場所によって大きく異なるものとなってしまい、液体の流路40におけるスムーズな流通が妨げられるおそれがある。また、十角形以上の角数になってしまうと製造上手間がかかり且つ平面部分の面積が小さくなってサーモモジュールの取り付けに支障をきたすおそれがある。このため、外タンク38の形状は、平面視八角形程度の多角形状が好ましいと考えられる。
【0029】
また、内タンク36の形状も外タンク38の形状と同一の角数を有する多角形の頂点を曲線で形成したものであれば、八角形状に限定されることはない。さらに、内タンク36の頂点部分も円弧状に限定するものではなく、液体の流通がスムーズに行えるような曲線であればよい。
【0030】
以上本発明につき好適な実施例を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の恒温槽の全体構成を示すブロック図である。
【図2】二重壁構造のタンクの平面図である。
【図3】タンクの側面図である。
【図4】タンクの断面図(内タンクの側面図)である。
【図5】サーモモジュールの分解図である。
【図6】液体を循環させない従来の恒温槽の構成について説明する説明図である。
【図7】液体を循環させる従来の恒温槽の構成について説明する説明図である。
【図8】二重壁構造のタンクを有する従来の恒温槽の構成について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0032】
30 恒温槽
31 タンク
33 本体
34 制御装置
36 内タンク
38 外タンク
40 流路
42 底部連通孔
44 上部連通孔
48 循環手段
49 モータ
50 マグネット
51 羽根車
52 サーモモジュール
56 ペルチェ素子
58 熱伝導板
59 熱交換器
60 流路
61 ブロック体
62 ポンプ
63 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる液体を所定の温度に維持する恒温槽において、
多角筒状の頂点部分が曲線で形成された内タンクと、該内タンクの多角筒状の曲線状の部分の数と同じ数の頂点部分を有する多角筒状の外タンクとを有し、該外タンクは、内タンクを内部に収納するようにして内タンクの外壁面から所定の距離をおき、内タンクの曲線状の部分と頂点部分とが一致するように配置されて成る二重壁構造のタンクが設けられ、
前記内タンクと前記外タンクとの間は、前記液体が流通する流路として設けられ、
前記内タンクの上部および底面には、内タンクの内部と前記流路とを連通させる上部連通孔および底部連通孔が設けられ、
前記内タンク内の液体を、前記内タンクの底部連通孔から前記流路内を上昇して前記内タンクの上部連通孔から再度前記内タンク内に流入するように循環させる、回転軸の軸線方向と直交する方向に液体を移動させるような形状に羽根が設けられた羽根車を有する循環手段が、内タンクの底部連通孔の下方の外タンクの底面に設けられ、
前記流路を流通する液体を所定の温度となるように維持するサーモモジュールが前記外タンクの外壁面の平面部分に設けられていることを特徴とする恒温槽。
【請求項2】
前記内タンクの曲線状の部位は、円弧状であることを特徴とする請求項1記載の恒温槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−208016(P2009−208016A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54658(P2008−54658)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(391015926)千代田電機工業株式会社 (17)
【出願人】(392014933)株式会社ラスコ (16)
【Fターム(参考)】