説明

恒温装置およびカバー

【課題】 作業装置や保管装置などの内部に挿入されたひも状物体における結露の発生を抑制することを課題とする。
【解決手段】 複数の壁で囲まれ、少なくとも一つの壁は穴を有する内部室と、内部室における温度と湿度を制御する温湿度制御部とを備えた恒温装置に対して、壁に存在する穴を覆うように取り付けられて壁との間に空間を有し、一つまたは複数の孔部を有し、孔部は、穴を通じ内部室の外部から内部へ向けて延びるひも状物体が通せられるために使用され、さらに、壁に対して密閉性を持って接触する周囲部、孔部においてひも状物体に対して密閉性をもって接触する接触部、および穴に対して密閉性を持って接触する封体を有し、封体中をひも状物体が密閉性をもって通せられ、空間には、ひも状物体の一部が格納されるカバーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル等を作業装置、保管装置などの恒温装置の内部に通す際に壁に取り付けられて使用されるカバー、および当該カバーを使用した恒温装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のバイオテクノロジー分野などにおいて、細胞を培養するために温度や湿度などの環境条件を一定に保つ恒温装置であって、その内部の複数の壁で囲まれ例えば直方体形状をしている内部室(以下、保管室と呼ぶ)で試料等の保管を行い当該保管環境を一定に保つ事ができるインキュベータと呼ばれる保管装置などが使用されてきている。また、その内部の複数の壁で囲まれ例えば直方体形状をしている内部室(以下、作業室と呼ぶ)に通じる作業用孔を経て該作業室での作業に使用される手袋などの作業手段や、作業室内部のロボットハンドなどの作業手段を使用して、内部の作業室で実験や作業を行う事ができるアイソレータと呼ばれる作業装置において、温度や湿度などの実験環境を一定に保つ恒温状態で作業すること、すなわちアイソレータを恒温装置として使用することも考えられている。
【0003】
これらの装置の外部筐体やその内部の保管室や作業室などでは、外界からの化学的、生物学的な影響を最小限にとどめられいわゆる外界に対する密閉性を有し、また断熱構造が使用されている。それにより、その内部における温度と湿度を制御する温湿度制御部を有することで、内部環境を所望の一定状態に保つことができる。なおアイソレータでは、上記手袋などの作業手段は密閉性を有している。
【0004】
上記内部室内の環境(以下、内部環境と呼ぶ)は、例えば、通常温度は37℃前後、湿度は80%以上さらには湿度が95%である場合もあり、高湿度環境となっている。
【0005】
外部から内部室にケーブルを通す場合には外部筐体には少なくとも一つの穴を有している必要があり、その穴を通じて外部から作業室や保管室に向けて、作業室での作業や保管室での細胞培養等のために使用される測定機器や制御機器などにつながるリード線や光ファイバケーブル、チューブなどのケーブル類(以下、ひも状物体と総称する)が挿入される。
【0006】
ひも状物体は外部から作業室や保管室に挿入されているため、一般にその温度は内部環境に比べて低く、内部環境における温度低下への悪影響が懸念される。また、ひも状物体の温度が内部環境に比べて低く、内部環境が高湿度であることから作業室や保管室においてひも状物体に結露することがある。この結露による水分により、作業室や保管室内部にカビや雑菌が発生することなどがおこりうる。よって、化学的、生物学的に密閉性を保ちたいインキュベータやアイソレータにおいては、カビ・雑菌発生等を回避するため、ひも状物体での結露を回避せねばならない。また、当該水分によりひも状物体の劣化や装置の腐食等も引き起こされうるので、この点からもひも状物体での結露を回避せねばならない。
【0007】
特許文献1には、その外箱に内蔵されたヒートパイプをリード線に接触させる事でリード線の結露の発生を抑制する冷蔵庫が記載されている。
【0008】
特許文献2には、ソケット取付板の下にケーブル用室を設け、吸込口と吸出口によりケーブル用室に空気を循環させることでソケット取付板に位置する部品のソケットにつながるケーブルを温め、該ケーブルの放熱により部品の温度が低下させない機構を有する高温槽が記載されている。
【特許文献1】特開2002−39666号公報
【特許文献2】特開2002−39666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1にかかる従来技術によれば、リード線の結露の発生を抑制するためにリード線に接触させるヒートパイプを冷蔵庫に内蔵しておくといった仕組みを用意しておかねばならない。すなわち当該仕組みを用意していない冷蔵庫では、その製造後にはリード線の結露の発生を抑制できない欠点を有する。
【0010】
特許文献2にかかる従来技術によれば、ケーブル用室と恒温槽との間において吸込口と吸出口により空気が循環するので、ケーブル周りの空気の水蒸気が減少せず、ケーブル用室外部における放熱によってケーブル用室内部においてケーブル表面の温度が低下してケーブル用室において結露した場合、その結露した水分が増加し続ける欠点を有する。
【0011】
そこで本発明は、作業装置や保管装置などの内部に挿入されたひも状物体における結露の発生を抑制することを課題とする。さらに、作業装置や保管装置などにおいて結露の発生を抑制する仕組みが内蔵されていない場合であっても、それら装置の内部に挿入されたひも状物体における結露の発生を抑制する事ができる恒温装置およびカバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る恒温装置では、複数の壁で囲まれた内部室と、該内部室における温度と湿度を制御する温湿度制御部とを備えた恒温装置であって、少なくとも一つの前記壁は穴を有し、前記壁に存在する前記穴を覆うように取り付けられ前記壁との間に空間を有するカバーを備え、前記カバーは、一つまたは複数の孔部を有し、前記孔部は、前記穴を通じ内部室の外部から内部へ向けて延びるひも状物体が通せられるために使用され、さらに、前記カバーは、前記壁に対して密閉性を持って接触する周囲部、前記孔部において前記ひも状物体に対して密閉性をもって接触する接触部、および前記穴に対して密閉性を持って接触する封体を有し、前記封体中を前記ひも状物体が密閉性をもって通せられ、前記空間には、前記ひも状物体の一部が格納される。
【0013】
本発明に係るカバーでは、複数の壁で囲まれ、少なくとも一つの前記壁は穴を有する内部室と、該内部室における温度と湿度を制御する温湿度制御部とを備えた恒温装置に使用されるカバーであって、前記壁に存在する前記穴を覆うように取り付けられて前記壁との間に空間を有し、一つまたは複数の孔部を有し、前記孔部は、前記穴を通じ内部室の外部から内部へ向けて延びるひも状物体が通せられるために使用され、さらに、前記壁に対して密閉性を持って接触する周囲部、前記孔部において前記ひも状物体に対して密閉性をもって接触する接触部、および前記穴に対して密閉性を持って接触する封体を有し、前記封体中を前記ひも状物体が密閉性をもって通せられ、前記空間には、前記ひも状物体の一部が格納される。
【0014】
なお、ひも状物体とはひもの様に細長い物体であって、例えば、計測機器等における使用に代表されるケーブル(リード線や光ファイバケーブルなどを含む)や管、チューブ、などのことである。また、ひも状物体の一部を格納部に格納する際には、ひも状物体の一部を蛇行状に曲がりくねって束ねたり、巻いて束ねたりして格納する。ひも状物体は一つの孔部から出入りさせても、二つの孔部のうちの一方から入り、他方から出るようにしてもよい。
【0015】
密閉性とは、例えば、化学的、生物学的に外界から密閉されていると見做しうる状態にあること、または外界からの化学的、生物学的な影響が最小限にとどめられている状態にあることを言う。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、作業装置や保管装置などの内部に挿入されたひも状物体における結露の発生を抑制する事ができる。さらに、作業装置や保管装置などにおいて結露の発生を抑制する仕組みが内蔵されていない場合であっても、作業装置や保管装置などに本発明のカバーを取り付けることでそれら装置の内部に挿入されたひも状物体における結露の発生を抑制する事ができる
本発明の意義ないし効果は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。
【0017】
ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明の一つの実施形態であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以下の実施の形態に記載されたものに制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
【0019】
まず、図1に実施の形態に係る結露抑制カバー100がインキュベータ500に密閉性を持って取り付けられている図を示す。同図(a)はインキュベータの正面を左方から見た図であり、同図(b)はインキュベータの正面を右方から見た図であり、同図(a)では説明の上からインキュベータ前面の蓋の図示を省略している。
【0020】
すなわち、同図においてインキュベータ500の外部筐体501の内部に保管室503が存在し、本実施の形態に係る結露抑制カバー100が保管室503を囲む壁の一つである壁502上に該壁502に存在する一つの穴300を覆うように取り付けられており、ひも状物体であるケーブル200が穴300を通じて外部筐体501の外部からインキュベータ500内部の密閉性を有する保管室503に向けて導入されている。外部筐体501の内部には、保管室503が恒温である必要の上から、例えば内部の温度と湿度を一定値に保つように制御する温湿度制御部を有している。ケーブル200は、カバーの内部から外部に向けて通せられている。なお、壁502には同図には図示しないヒータが内蔵されており、温湿度制御部の制御の下、ヒータは保管室503を加熱する。
【0021】
結露抑制カバー100は本実施形態ではドーム状の外形をなし、壁502との間に空間(以下、ケーブル格納部と称する)を有しており、当該ドームの頂点に貫通する孔部を有して当該頂点の孔部からケーブル200が延びている。なお、カバーの形状はドーム状に限られず、取り付け場所等に応じて自由な形状を取る事ができる。結露抑制カバー100はそのドーム状の裾野部分を壁502に接しさせ、密閉性をもって壁502に取り付けられる。なお当該カバーは、前もって当該穴周辺に備けられた固定用のねじ穴にねじを用いて固定されたり、接着剤などで接着されたり、磁石や吸盤を用いたりして、密閉性をもって壁502に取り付けられる。ケーブル200は、計測や実験に使用される計測装置や薬剤供給装置、ヒータ等である据置機器400につながれる、測定用プローブやリード線、電源ケーブル、光ファイバケーブル、管、チューブなどである。ケーブル200とカバー100の間は密閉性を有している。
【0022】
図2に実施の形態に係る結露抑制カバー100がアイソレータ600に密閉性を持って取り付けられている図を示す。アイソレータにおいても、温度や湿度などの実験環境を一定に保つ恒温状態で作業される場合があり、その用途の場合を例に説明を行う。
【0023】
同図(a)はアイソレータの前面蓋が閉じられ作業を行う事ができる状態の図であり、同図(b)はアイソレータの前面の蓋が開かれその内部を窺い見ることが出来る状態の図である。
【0024】
すなわち、同図においてアイソレータ600の外部筐体601の内部に作業室603が存在し、本実施の形態に係る結露抑制カバー100が作業室603を囲む壁の一つである壁602上に該壁602に存在する一つの穴(図示せず)を覆うように取り付けられており、ケーブル200が該穴を通じて外部筐体601の外部からアイソレータ600内部の密閉性を有する作業室603に向けて導入されている。外部筐体601の内部には、作業室603を恒温化するために、例えば内部の温度と湿度を一定値に保つように制御する温湿度制御部を有している。ケーブル200は、カバーの内部から外部に向けて通せられている。なお、壁602には同図には図示しないヒータが内蔵されており、温湿度制御部の制御の下、ヒータは作業室603を加熱する。
【0025】
結露抑制カバー100やケーブル200は、インキュベータ500の説明で述べたのと同様である。アイソレータでは、作業室603に通じる作業用孔604を経て作業室603での作業に使用される手袋などの作業手段605を使用して、内部の作業室で実験や作業を行う事ができる。なお、当該作業手段605や作業用孔604は密閉性を有している。
【0026】
以上の図1に示されるインキュベータ500、図2に示されるアイソレータ600においては、後で述べる理由により、インキュベータやアイソレータの内部に挿入されたケーブル等のひも状物体における結露の発生を抑制する事ができる。さらに、インキュベータやアイソレータ自体に結露の発生を抑制する仕組みが内蔵されていなくても作業装置や保管装置などに上記結露抑制カバーを取り付けることで、それら装置の内部に挿入されたケーブルにおける結露の発生を抑制する事ができる。
【0027】
また、後で述べる理由により、カバーが密閉性を有する事で、該カバー内に湿気を帯びた空気が流入しなくなり、該カバーの内部における結露をある程度で停止させることができ、また該カバー内部に発生した結露による水分の内部室への流出を阻止することができる。
【0028】
なお、後で述べる理由により、上記のヒータを内蔵している壁部分を当該カバーが覆う事で、当該カバーが結露の発生を抑制するために必要な熱源を別途用意する必要がない効果も有する。
【0029】
次に、結露抑制カバーについて説明を行う。
【0030】
図3に、実施の形態に係る結露抑制カバー100の断面図を示す。結露抑制カバー100は、孔部117と周囲部116を有している。孔部117は、上述のドーム状の外形をなしている結露抑制カバー100のドームの頂点に位置する孔部であり、本実施形態では円形を成している。周囲部116は本実施形態ではリング状を成しており、当該ドーム状の裾野部分に位置する。なお、孔部の形状は円形に限られず、周囲部の形状もリング状に限られない。それらの形状はケーブル断面形状や内部室の形状、壁の形状等に応じて自由な形状をとる事ができる。周囲部116は密閉性をもって壁502に接触している。
【0031】
同図は、結露抑制カバー100がインキュベータ500に取り付けられた状態で、ドーム状の外形をしているカバー100を、孔部117の円形の中心と周囲部116のリング状の中心を結んだ線を含む面で垂直方向に切断した場合の断面図である。
【0032】
結露抑制カバー100は、断熱材112を有している。孔部117には密閉性のためのパッキン110を挟んでケーブル200が通せられている。よって、パッキン110が本発明でいう、ケーブル200に対して密閉性をもって接触する接触部である。
【0033】
なお、本実施形態では、結露抑制カバー100は孔部を一つのみ有しているが(孔部117)、複数の孔部を有していてもよい(図示せず)。結露抑制カバー100が複数の孔部を有する事で、それら複数の孔部の各々を経てかつ壁に存在する穴を通じて内部室の外部から内部へ向けて複数のケーブル200を通じさせることが出来る。
【0034】
壁502には穴300が設けられ、穴300には断熱材109を内部に有するケーブルキャップ113が密閉性を持ってはめ込まれている。なおケーブルキャップ113は、本発明で言う穴に対して密閉性を持って接触する封体である。ケーブル200は断熱材109に覆われ、穴300を通じてインキュベータ500の外部から内部の保管室503へと導入されている。
【0035】
なお本実施形態では、壁502には穴が一つのみ存在しているが(穴300)、複数の穴が存在していてもよい(図示せず)。壁502に複数の穴が存在する事で、インキュベータ外部から内部に向けて複数のケーブルを導入させる事ができる。一つの穴を通じて複数のケーブルを導入させる事も可能であるが、その分穴の直径が大きくなり、当該穴における密閉性に影響が及ぶ。更に、複数の壁に穴が存在していてもよい。このことにより、上記と同様にインキュベータ外部から内部に向けて複数のケーブルを導入させる事ができる。
【0036】
ケーブル格納部114はドーム状のカバー100と壁502とで囲まれる空間のことであり、ケーブル200の一部が蛇行状に曲がりくねった状態で束ねられたり、巻いて束ねられたりしてケーブル格納部114に格納される。その際束ねられたケーブル200の一部は、その荷重がケーブル押さえ111に支えられ、または壁方向に向けて押さえつけられる。ケーブル200の一部がケーブル押さえ111によって壁方向に向けて押さえつけられることで、その内部に存在するヒータ508によって温められた内壁507から熱が当該ケーブル200の一部に伝播する。
【0037】
なお、同図には、インキュベータ500の壁502の断面も示されており、壁502は内壁507の層、断熱材505の層、外殻506の層を含む。内壁507にはヒータ508が内蔵されており、ヒータ508と断熱材505により保管室503の内部温度が恒温に維持できる様になっている。このヒーター508からの熱伝導により、カバー100は、ケーブル格納部114内部およびケーブル格納部114内部に格納されているケーブル200の一部を加熱する別熱源を必要としない、すなわち結露の発生を抑制するための別熱源を要しない。
【0038】
図4に、ケーブル200の一部が巻いて束ねられた状態でケーブル格納部114に格納される前の状態(同図(a))と後の状態(同図(b))を表す図を、周囲部116側から見た状態で図示する。符号が表す部位は図3等において説明したものと同じである。ケーブルはストレスがかからないような曲率で巻いて束ねられる。ケーブル200の一部は、ケーブルにストレスがかからないような曲率で蛇行状に曲がりくねった状態で束ねられてもよい。
【0039】
なお、図5にカバー100に設けられた孔部と周囲部116がつながっている場合の例を図示する。同図(a)がケーブル200の一部が巻いて束ねられた状態でケーブル格納部114に格納される前の状態であり、同図(b)が後の状態を表す図である。符号が表す部位は図3等において説明したものと同じである。ケーブルはストレスがかからないような曲率で巻いて束ねられる。または、蛇行状に曲がりくねった状態で束ねられる。孔部は、例えば同図に示すように、カバー100の側面に存在する切り欠き部108と上述の周囲部116がつながった形状となっている。なお当該切り欠き部が孔部に相当する。すなわち同図において、結露抑制カバー100のドームの頂点には孔部を有しておらず、ケーブル200は当該切り欠き部108からカバー外部へと延びている。
【0040】
図3、4において、ケーブル200の一部が格納部114に格納される事を説明したが、その格納されるケーブル200の一部の部分の長さLがある一定の長さLthよりも短い場合には、結露抑制カバー100の内部でその当該ケーブル200の一部の部分の表面の温度を充分に上昇できず、結露抑制カバー100の外側のケーブル200の付け根付近において結露を起こす場合がおこりうる。そこで、結露抑制カバー100の内部に含まれているべきケーブル200の一部の部分の長さLは、ある一定の長さLthよりも長くある必要がある。以下において、インキュベータの場合を例に当該Lthの長さを計算するための一手法を例示する。なお、当該Lthの長さを計算する手法はこれに限られない。
【0041】
図6(a)に気温と飽和蒸気圧の関係の概略を表した特性図(グラフ)、同図(b)にその一部を拡大した特性図等を示す。なお、インキュベータの内部の環境を気温38℃、湿度80%とした場合を例に説明を行う。
【0042】
同図(a)は、1気圧の環境下における0℃から100℃の間の気温に対する飽和蒸気圧の特性図であり、横軸が気温で縦軸が飽和蒸気圧である。
【0043】
同図(b)の上図は、同図(a)の飽和蒸気圧特性図の25℃から38℃の範囲の気温と飽和蒸気圧の特性と結露を起こす範囲を拡大したものであり、横軸が気温であり、縦軸が飽和蒸気圧である。
【0044】
一方同図(b)の下図は、壁502からインキュベータ内部へ延びているケーブル部分の長さ方向の温度分布を表したものであり、ケーブル表面付近の気温はケーブル表面の温度に等しいと考えられる。同図において、横軸がケーブル表面付近の気温であり、縦軸が壁502からの長さL(下向き方向にインキュベータ内部におけるケーブルの長さLが増大する)である。この場合においてケーブル表面のどの部分が結露するか検討を行う。
【0045】
L=Lwetの部分をケーブルの表面温度が34℃である部分の長さの位置であるとすると、同図(b)に示されるように、0<L<Lwetの部分ではケーブル表面の温度が34℃未満である。このことから当該部分のケーブル表面近傍の空気の温度は34℃未満と考えられる。すなわち、計算の上からは当該ケーブル表面近傍の空気においてその空気中の水蒸気量が飽和水蒸気量を上回る事を意味している。しかし現実にはその空気中の水蒸気量が飽和水蒸気量を上回る事はないのだから、飽和水蒸気量を上回る水蒸気量の分だけ液化を起こす事となる、すなわちこれは、ケーブル表面の0<L<Lwetの部分において結露する事を意味している。
【0046】
よって、計算の上からはLth≧Lwetであればよい。しかしこれは、ケーブル周りの空気が、ケーブル表面の温度分布に従ってケーブル長さ方向に対して温度傾斜をしていると理想的に考えての演算であり、実際には空気は流動しているのだから通常は上で述べたような理想的な温度傾斜をしてはいない。よって、現実的にはLthはLwetよりある程度大きい値をとるのが好ましい。
【0047】
以上のように、インキュベータ内部の温度、湿度、インキュベータ外部の温度、ケーブルの表面における温度分布から、温度分布のシミュレーション等を行うなどして、Lth(Lwet)の長さを計算することができる。以下において、そのシミュレーション結果の一例を示す。
【0048】
図7に、その外部から内部に向けてケーブルが挿入されたインキュベータにおいて、ケーブルの表面およびその内部の温度分布に関するシミュレーション結果の図を示す。なお、同図にはインキュベータ内壁、インキュベータ内外の空気の温度分布のシミュレーション結果も示されている。
【0049】
また、インキュベータの外気温が25℃、インキュベータ内壁中のヒータ温度が38℃である場合である。同図(a)はシミュレーションの境界条件や保管室の寸法などシミュレーション条件が表されており、同図(b)はケーブル部分と保管室内部、インキュベータ外部の温度分布のシミュレーション結果を表したものである。なお、同図(b)は同図(a)の点線で囲まれた部分の温度分布のシミュレーション結果を拡大したものである。
【0050】
シミュレーションの前提条件は、以下のとおりである。
【0051】
ケーブルは2層構造で、芯線は直径1mmの銅の単線、被覆は厚さ1.5mmの塩化ビニル製としており、ケーブルの皮膜の熱伝導率は0.14W/mK、ケーブルの芯線の熱伝導率は420W/mKである。インキュベータ内壁中にはヒータがありその部分の温度が38℃であり、またインキュベータ内壁は断熱材として空気(熱伝導率:0.02W/mK)とステンレス(熱伝導率:41W/mK)の2重構造を内部に含むとして計算を行っている。同図(a)によると、内壁すなわち保管室の壁を厚さ2mmのステンレス製、外壁すなわちインキュベータの外部筐体を厚さ2mmのステンレス製、としている。室内の大きさは、高さ300mmで穴から見た奥行き300mmである。
【0052】
またケーブルは、同図に示すようにL字形状(全長約28cm。内壁の穴から約20cmの所で折れ曲がる)を成しており、ケーブルの一部にインキュベータ内壁に接していない部分がある。
【0053】
同図(b)に示すように、シミュレーション結果によると、ケーブルの表面およびその内部の温度分布は、インキュベータ内壁の穴に近い方から、約30.7〜32.2℃となっている部分、約32.2〜33.6℃となっている部分、約33.6〜35.1℃となっている部分となっている。なお、ケーブルの内部に比べてケーブル表面の温度は高くなっている傾向が見られる。このようにケーブルの先方の部分を除く表面の殆どの部分の温度は34℃未満であり、図6の所で述べたことより、シミュレーション結果からはインキュベータ内部のケーブルの表面の殆どの部分において結露しうる可能性がある事を示している。
【0054】
図8に、同じくその外部から内部に向けてケーブルが挿入されたインキュベータにおいて、ケーブルの表面およびその内部の温度分布に関するシミュレーション結果の図を示す。なお、同図にはインキュベータ内壁、インキュベータ内外の空気の温度分布のシミュレーション結果も示されている。
【0055】
同図では図7と異なり、インキュベータ内壁に本実施形態に係るカバーが取り付けられており、その内部でケーブルの一部がインキュベータ内壁に接する部分を有している。
【0056】
同図(a)はシミュレーションの境界条件や保管室の寸法などシミュレーション条件が表されており、同図(b)はケーブル部分と保管室内部、インキュベータ外部の温度分布のシミュレーション結果を表したものである。なお、同図(b)は同図(a)の点線で囲まれた部分の温度分布のシミュレーション結果である。同図(a)記載の条件は、結露抑制カバーが厚さ2mmのステンレス製である点以外は、図7(a)に記載した条件と同じである。
【0057】
またケーブルは、図8に示すようなクランク状形状(全長約28cm。内壁の穴から約8cmの所で折れ曲がる)を成しており、カバーの内部においてケーブルの一部(内壁の穴から8cmまでの部分)がインキュベータ内壁に接している状態である。ケーブルの形状以外のシミュレーションの前提条件は、図7と同じである。
【0058】
同図(b)によると、ケーブルの表面およびその内部の温度分布は、インキュベータ内壁の穴に近い方から、約33.6〜35.1℃となっている部分、約35.1〜36.5℃となっている部分、となっている。
【0059】
インキュベータ内壁の穴から約5cmまでの範囲のうちにはケーブル表面の温度は34℃未満の部分があると考えられ、図6(b)を用いて述べたように、シミュレーション結果からケーブルの同部分において結露する事を示している。なお、ケーブルのインキュベータ内壁に接する部分において、ケーブルがインキュベータ内壁内のヒータによって温められケーブル表面の温度が34℃以上となっている部分(インキュベータ内壁の穴から約5cmの部分より先の部分)は、ケーブル内部の芯線の温度も34℃以上となっていることもあり、ケーブル表面の温度は34℃未満となる事はないと考えられ、当該インキュベータ内壁の穴から約5cmの部分は本実施形態のカバーの内部に含まれていることから、インキュベータ内部のカバーの外においてはケーブル表面に結露する事はないと考えられる。なお、カバー内部で結露が生じた場合でも、結露抑制カバー100はそのドーム状の裾野部分を壁に接しさせ密閉性をもって壁に取り付けられているので、インキュベータ内部のカバーの外側に、水分が漏れ出す事はない。
【0060】
なお、この約5cmの部分が、上で延べたある一定の長さLwetの部分と考える事ができる。Lthの長さは先に述べたように当該5cmよりも充分長く取るのが好ましい。
【0061】
ケーブル200の一部を格納する格納部114の容積は、ケーブルの熱伝導率、インキュベータ内壁の熱伝導率などにも依存するが、少なくともケーブルの表面の温度分布に依存して定められるケーブルの長手方向における長さ、すなわち上記ある一定の長さLthと、ケーブルの長手方向に対して直交する方向の太さ(ケーブルの直径または半径)にも依存して定められる。すなわち少なくとも格納部114に収納されているケーブルの体積に依存する。
【0062】
なお、この場合の格納部114の容積は格納部114のとるべき値の最小に近い値となる。格納部114の容積は、ケーブルがストレスがかからないような曲率で巻いて束ねられる点も考慮されるべきで、また、カバー100内部の断熱材の体積やケーブル押さえ111の大きさや形状等にも依存して考えられるべきである。以上の点を考慮して、格納部114の容積は、過剰に大きくならないよう留意しつつ最適な大きさに定めるのが望ましい。
【0063】
以上により、カバー100を使用することでインキュベータ等の保管装置やアイソレータ等の作業装置などの内部に挿入されたケーブル等のひも状物体における結露の発生を抑制する事ができる。さらに、インキュベータ等の保管装置やアイソレータ等の作業装置などにおいてそれ自体に結露の発生を抑制する仕組みが内蔵されていない場合であっても、作業装置や保管装置などに上記結露抑制カバーを取り付けることでそれら装置の内部に挿入されたケーブル等のひも状物体における結露の発生を抑制する事ができる結露抑制カバーを提供することができる。
【0064】
また、壁に対して密閉性を持って接触する周囲部、ひも状物体に対して、密閉性をもって接触する接触部を有することで、カバー内に湿気を帯びた空気が流入しなくなり、カバーの内部における結露をある程度で停止させることができ、またカバー内部に発生した結露による水分の内部室への流出を阻止することができる。
【0065】
なお、ヒータを内蔵している壁部分を当該カバーが覆う事で、当該カバーが結露の発生を抑制するための別熱源を要することがない効果も有する。
【0066】
本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施の形態に係るインキュベータである。
【図2】実施の形態に係るアイソレータである。
【図3】実施の形態に係る結露抑制カバーの断面図である。
【図4】実施の形態に係る結露抑制カバーの斜視図である。
【図5】実施の形態に係る結露抑制カバーの斜視図である。
【図6】気温と飽和蒸気圧、実施の形態に係るケーブル表面付近の気温の特性を示す図である。
【図7】実施の形態に係るケーブルの表面と内部の温度分布に関するシミュレーション結果の図である。
【図8】実施の形態に係るケーブルの表面と内部の温度分布に関するシミュレーション結果の図である。
【符号の説明】
【0068】
100 結露抑制カバー
110 パッキン
113 ケーブルキャップ
114 ケーブル格納部
116 周囲部
117 孔部
200 ケーブル
300 穴
500 インキュベータ
600 アイソレータ
501、601 外部筐体(温度制御部内蔵)
502、602 壁
503 保管室
603 作業室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の壁で囲まれた内部室と、該内部室における温度と湿度を制御する温湿度制御部とを備えた恒温装置であって、
少なくとも一つの前記壁は穴を有し、
前記壁に存在する前記穴を覆うように取り付けられ前記壁との間に空間を有するカバーを備え、
前記カバーは、一つまたは複数の孔部を有し、
前記孔部は、前記穴を通じ内部室の外部から内部へ向けて延びるひも状物体が通せられるために使用され、
さらに、前記カバーは、前記壁に対して密閉性を持って接触する周囲部、前記孔部において前記ひも状物体に対して密閉性をもって接触する接触部、および前記穴に対して密閉性を持って接触する封体を有し、
前記封体中を前記ひも状物体が密閉性をもって通せられ、
前記空間には、前記ひも状物体の一部が格納される
恒温装置。

【請求項2】
複数の壁で囲まれ、少なくとも一つの前記壁は穴を有する内部室と、該内部室における温度と湿度を制御する温湿度制御部とを備えた恒温装置に使用されるカバーであって、
前記壁に存在する前記穴を覆うように取り付けられて前記壁との間に空間を有し、
一つまたは複数の孔部を有し、
前記孔部は、前記穴を通じ内部室の外部から内部へ向けて延びるひも状物体が通せられるために使用され、
さらに、前記壁に対して密閉性を持って接触する周囲部、前記孔部において前記ひも状物体に対して密閉性をもって接触する接触部、および前記穴に対して密閉性を持って接触する封体を有し、
前記封体中を前記ひも状物体が密閉性をもって通せられ、
前記空間には、前記ひも状物体の一部が格納される
カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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