説明

恒温装置および核酸検査システム

【課題】プラスチック製の上部を連結された複数の検体チューブ等の検体容器を高温の恒温槽内に入れても変形が少ない恒温装置を提供する。また、当該恒温装置を備えた核酸検査システムを提供する。
【解決手段】各容器部の上部を該容器部の深さ方向に垂直な方向で一定の距離を隔てて並列に連結バーで連結したプラスチック製検体容器を収納できる恒温槽と、上記連結バーと上記恒温槽の表面を直接接触させないための断熱手段とを備える恒温装置を提供する。また、この恒温装置を備えてなる核酸検査システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温装置および核酸検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの熱サイクル試験機では、同時に多くの検体容器を使用するため、その自動化及びコスト効率の向上が望まれる。例えば、サイクル試験機の熱ブロックのチャンバ内に配置された複数の検体容器を、自動的に開閉できるシステムが報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−50867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
検体容器としては、プラスチック製のチューブ状のものが多く、各チューブの上部をチューブの深さ方向に垂直な方向において並列に連結させる連結バーを有し、十連チューブ(10個の検体チューブの連結物)や五連チューブ(5個の検体チューブの連結物)等が用いられる。これらは、一度に多くの検体チューブを恒温槽に挿入でき、安価である点では優れるが、連結バーが熱の影響を受けて弓状に反ってしまい、恒温槽から取り出したり、他の位置に移動したり、再び恒温槽内に戻したりする操作に不都合が生じる。
本発明は、プラスチック製の上部を連結された複数の検体チューブ等の検体容器を高温の恒温槽内に入れても変形が少ない恒温装置を提供する。また、当該恒温装置を備えた核酸検査システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、各容器部の上部を該容器部の深さ方向に垂直な方向で一定の距離を隔てて並列に連結バーで連結したプラスチック製検体容器を収納できる恒温槽と、
上記連結バーと上記恒温槽の表面を直接接触させないための断熱手段と
を備える恒温装置を提供する。
また、本発明は、この恒温装置を備えてなる核酸検査システムを提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の恒温装置は、各容器部の上部を連結バーで連結したプラスチック製検体容器をその高温の恒温槽内に入れてもわずかな変形しか発生させない。また、検体容器に過度の変形を発生させないため、検体容器を温度の異なる複数の恒温装置での処理を可能とし、核酸検査システムの恒温装置として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の恒温槽は、特に限定されないが、着脱可能な恒温ブロックと、加熱または冷却できるヒーターまたはペルチェが内臓されるものが好ましい。恒温槽は、通常、槽内を一定の温度に保持して使用されるが、所定の加熱または冷却パターンに従って使用されるものも含まれる。
恒温ブロックは、通常、金属のブロックであり、検体容器を装着できる穴が設けられている。恒温ブロックは、恒温装置内に組み込まれ恒温槽として熱を検体容器に伝え、最終的に検体容器内の検体や試薬の温度を一定に保つことができる。
【0007】
検体容器は、複数の容器部を有し、各容器部の上部を容器部の深さ方向に垂直な方向に並列に連結バーで連結したものであり、容器部の下部を恒温槽に収納できるものである。検体容器には、例えば、検体と分析用試薬等を入れることができる。各容器部は、その中身の変化を観察するために透明なものが好ましく、コスト面を考慮すると、通常、ポリエチレン、ポリプロピレン等の透明性の高いプラスチック製である。また、連結バーも、通常、容器部と一体成形されるため、同種類のプラスチック製である。
容器部の形状としては、取り扱いの点からチューブ状のものが好ましい。
【0008】
検体容器の例として、10個の容器部2と連結バー3とを備える検体容器1を図1に示す。連結バー3は、各容器を固定するために、その背面に、互いに隣接する容器を連結する9個の補強リブ4を有するのが一般的である。補強リブ4は、検体容器の一体成形において成形上の変形を抑制するためにも必要とされている。また、連結バーの両端は、通常、持ち易さ又は成形上の理由により両端の容器部を超えて、容器部の深さ方向に垂直な方向に延びている。
【0009】
図2は、検体容器1を従来の恒温装置110に設置した斜視図であり、恒温槽中の恒温ブロック111の穴112に検体容器1の容器部2を収納した図を示す。図3(A)は、この恒温槽110の平面図を示し、図3(B)は、a−a方向の断面図を示す。
例えば、恒温槽を60℃に設定すると、検体容器の連結バー3が恒温ブロック111に接触するため、連結バーの接触面も急速に60℃となる。一方、連結バーの接触面に平行な、恒温ブロックから最も離れた連結バーの面は、プラスチックの種類や肉厚にもよるが、伝熱により徐々に60℃に近づく。温度差に起因する膨張の程度の違いから、図4に示すように、連結バーは検体容器の容器部の開口部に向けて弓状に反ってしまい、各容器部の下部が放射状に広がる。特に、連結バー3中の補強リブ4の存在が、この変形を加速する。また、連結バーで連結された容器部の間隔(容器部ピッチ)も、高温度側が低温側よりも大きくなる。60℃では数分で変形するが、次の恒温槽への移動操作を最適化すれば困難ではあるが使用できないとまでは言えない。しかし、95℃では、検体容器は恒温槽に設置すると同時に変形し、使用不能である。本発明によれば、恒温槽を60℃以上に設定してもプラスチック製の検体容器の変形を抑制できるため、処理後の検体容器を安定して取り出し、移動し、他の恒温装置に設置等できる恒温装置を提供できる。特に、従来の恒温装置は全く不可能であった95℃で15〜30分間の恒温処理後の検体容器の取り出し、移動等が、安定して可能となったことにおいて、本発明の効果は顕著である。
【0010】
本発明によれば、連結バーと恒温槽の表面を直接接触させないために、断熱手段を備える。断熱手段としては、好ましくは、連結バーと恒温槽と間に空隙を設けるために、恒温槽の表面上に設けられた突起部である。突起部は、連結バーで連結された容器部と容器部の間(容器部ピッチ)に挿入するものでもよいが、取り扱いの容易さの点から、連結バーの両端を保持できるように距離を隔てた二以上の突起部が好ましい。例えば、二つの五連チューブを直線上に伸ばしてその先端と、つなぎと、末端の三箇所に突起部を設けてもよい。突起部は、さらに好ましくは、恒温槽の表面の対向する両端上に設けられる一対の突起部であり、連結バーの両端を保持できるものである。
突起部は、恒温ブロックの表面に設けてもよいし、恒温槽表面の対向する両端上に設けるときは、恒温槽の一部として恒温ブロックに外枠を設けて突起部を設けてもよい。
【0011】
図5は、本発明の恒温装置の例として、検体容器1を本発明の恒温装置10に設置した斜視図を示す。図5では、検体容器1の容器部2を恒温槽中の恒温ブロック11の穴12に収納し、検体容器1の連結バー3の両端を恒温ブロックの表面上の対向する両端に設けられた突起部13に保持する。図5では、突起部13は恒温ブロックの段差として設けている。
図6(A)は、この恒温装置10の平面図を示し、図6(B)は、a−a方向の断面図を示す。
【0012】
本発明に用いる突起部は、連結バーと恒温槽との間に一定の空隙を設けることを可能とする。この空隙の大きさは、恒温槽の設定温度、使用する検体容器の大きさや肉厚等に依存するが、95℃の使用にも可能である点から、好ましくは5mm以上、より好ましくは7mm以上である。しかし、空隙は、検体容器中の検体等を恒温に保持できなくなるほど大きくしてはならない。
【0013】
突起部は、連結バーと恒温槽の間隔を調節できるように、伸縮可能であることが好ましい。例えば、伸縮可能な棒状や、スライド可能な板状であってもよく、所定の間隔に固定するためにネジ等を用いてもよい。
【0014】
断熱手段は、恒温槽の表面上に、検体容器の恒温槽への収納を妨げないように配置された断熱シートであってもよい。断熱シートの材質としては、例えば、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。断熱シートの厚さは、恒温槽の設定温度、使用する検体容器の大きさや肉厚等を考慮して決定できる。
【0015】
本発明の恒温装置は、核酸の増幅工程を含み、複数の恒温槽間の移動が要求される核酸検査(NAT:Nucleic Acid Test)システムに特に好適である。
本発明の核酸検査システムの具体例を図7(平面図)と図8(正面図)に示す。この核酸検査システムは、恒温装置21〜24と、分注ラック25と、撹拌ラック26と、測光ラック27とを備える。恒温装置21〜24は、それぞれ95℃、60℃、42℃、20℃に設置した恒温槽を備える。
恒温装置24に検体を入れた検体容器を設置し、検体を20℃とする。検体容器を取り出し、分注ラック25で増幅試薬分注とオイル分注を行い、撹拌ラック26で撹拌を行う。その後、検体容器は、恒温装置21にて95℃で15分間放置され、検体の熱変性を行い、恒温装置23に移され、42℃で10分間放置され、検体の増幅反応温度まで冷却される。検体容器を取り出し、分注ラック25で増幅酵素分注を行い、撹拌ラック26で撹拌を行う。検体容器は、再び恒温装置23にて42℃で30分間放置され、検体の増幅反応を行う。検体容器を取り出し、分注ラック25でプローブ試薬分注を行い、撹拌ラック26で撹拌を行う。その後、検体容器は、恒温装置22にて60℃で15分間放置され、検体のハイブリダイゼーションを行う。検体容器を取り出し、分注ラック25で加水分解液分注を行い、撹拌ラック26で撹拌を行う。その後、検体容器は、恒温装置22にて60℃で15分間放置され、検体の加水分解反応を行い、恒温装置24に移され、20℃で10分間放置され、測光前の冷却を行う。検体容器を取り出し、測光ラック27で発光試薬の分注を行い、測光する。
なお、検体容器は、検体容器搬送機構を用いて、工程順に各検体容器設定箇所に搬送される。検体容器搬送機構内には、検体容器ハンドリング機構が構成されていて、検体容器ハンドリング機構で検体容器をつかみ、持ち上げて各検体容器設置箇所まで移動し、検体容器を離して各ラック又は恒温装置に設置する。各ラックに設置された後、各動作(分注、撹拌、測光)が実施される。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例を示し本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
実施例1
図7と図8に示す核酸検査システムにおいて、恒温装置として恒温ブロックの両端に突起部として段差を設け、検体容器の連結バーと恒温槽(恒温ブロック)と間に7mmの空隙を設けた装置を用いた。検体容器としては、十連チューブ(ポリプロピレン製、容器部内径10mm×高さ75mm、容器部間ピッチ2mm、連結バーの深さ方向厚さ10mm×横手方向長さ164mm)を用いたが、全ての工程で、検体容器の搬送、設置は異常なく行われ、最後まで動作することが確認された。
【0017】
比較例1
本発明の恒温装置に換えて従来の恒温装置を用いる以外は、実施例1と同様に行った。従来の恒温装置を用いたため、検体容器の連結バーと恒温槽(恒温ブロック)と間は0mm、即ち、連結バーは恒温槽に密着した。95℃に設定した恒温装置の恒温槽に15分間放置後、42℃に設定した恒温槽に検体容器を搬送、設置しようとしたとき、検体容器が恒温槽の穴に入らずに引っかかるという現象が確認された。これは、検体容器が熱により変形して、検体容器のピッチ寸法が恒温ブロックの穴のピッチ寸法と合わなくなってしまい、検体容器の下部が恒温槽の表面に突き当たってしまったためであった。
【0018】
実施例1と比較例から明らかなように、検体容器の連結バーと恒温槽(恒温ブロック)を接触させる従来の恒温装置は、95℃での処理を含む核酸検査システムには全く使用できないが、本発明の恒温装置は95℃での処理を含む核酸検査システムには無理なく使用できた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は検体容器の斜視図、(B)は検体容器の底面図を示す。
【図2】従来の恒温装置の斜視図を示す。
【図3】(A)は従来の恒温装置の平面図を示し、(B)はa−a方向の断面図を示す。
【図4】従来の恒温装置で処理後の検体容器を示す。
【図5】本発明の恒温装置の具体例の斜視図を示す。
【図6】(A)は本発明の恒温装置の具体例の平面図を示し、(B)はb−b方向の断面図を示す。
【図7】本発明の核酸検査システムの具体例の平面図を示す。
【図8】本発明の核酸検査システムの具体例の正面図を示す。
【符号の説明】
【0020】
1 検体容器
2 容器部
3 連結バー
4 補強リブ
10 恒温装置
11 恒温ブロック
12 穴
13 突起部
21〜24 恒温装置
25 分注ラック
26 撹拌ラック
27 測光ラック
110 恒温装置
111 恒温ブロック
112 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各容器部の上部を該容器部の深さ方向に垂直な方向で一定の距離を隔てて並列に連結バーで連結したプラスチック製検体容器を収納できる恒温槽と、
上記連結バーと上記恒温槽の表面を直接接触させないための断熱手段と
を備える恒温装置。
【請求項2】
上記断熱手段が、上記連結バーと上記恒温槽と間に空隙を設けるために、上記恒温槽の表面上に設けられた突起部である請求項1に記載の恒温装置。
【請求項3】
上記突起部が、上記連結バーの両端を保持できるように距離を隔てた二以上の突起部である請求項2に記載の恒温装置。
【請求項4】
上記突起部が、恒温槽の表面の対向する両端上に設けられる一対の突起部である請求項3に記載の恒温装置。
【請求項5】
上記突起部が、伸縮可能であり、上記連結バーと上記恒温槽の間隔を調節できる請求項2〜4のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項6】
上記断熱手段が、上記恒温槽の表面上に、上記検体容器の該恒温槽への収納を妨げないように配置された断熱シートである請求項1に記載の恒温装置。
【請求項7】
上記恒温装置を備えてなる請求項1〜6のいずれかに記載の核酸検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−89421(P2007−89421A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280230(P2005−280230)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【出願人】(392017303)システム・インスツルメンツ株式会社 (15)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
【Fターム(参考)】