説明

患者用寝巻ジャケット

【課題】患者が寝巻を着用したままでもドレーン及びチューブの屈曲による閉塞をなくし、胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出、および薬剤や輸液の送入を、円滑に行うことができる患者用寝巻ジャケットを提供する。
【解決手段】本発明の患者用寝巻ジャケットは1、襟部3から袖口5に向けて設けた第1スリット10と、前記第1スリットによって分離された前記前面部のそれぞれに設けられた、前記前面部同士を係止可能にする第1ボタン部材と、脇線から正中線15に向けて脇線―正中線距離の略1/3の位置に、胸部6から裾部8に向けて設けられた第2スリット12と、前記第2スリットによって分離された前記前面部のそれぞれに設けられた、前記前面部同士を係止可能にする第2ボタン部材とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者用寝巻ジャケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着脱が容易にできるように、寝巻の一部が開閉できるものが知られている。図7を参照して、特許文献1では、左右の前面部101を左右に開閉することができ、これら左右の前面部101を係止手段102によって係止できる寝巻において、襟部103から袖部104の先端開口部105に至るまで切り込み106を設けて、この切り込み106を開閉自在とし、この切り込み106によって分離された部分のそれぞれに止めホック107を設けて、切り込み106によって分離された部分同士を係止可能としたことを特徴とする介護用寝巻が開示されている。
【0003】
また、図8を参照して、特許文献2では、縦長の略十字状に裁断した1枚の不織布を2つに折り返して、周辺を接合して形成する病人用寝巻であって、前記略十字状の縦長の上下部分に前みごろ201と後みごろ202を折り返して重合できるように形成し、且つ前記後みごろ202は裾が広い台形状とし、前記折り返し部分を肩線203とする両袖204を形成すると共に、前記肩線の中央近傍に略円形の首穴を設け、該首穴の左右の肩線のうちいずれか一方の肩線を切開して切開部205を設け、更に前記前みごろと後みごろとの脇部201a,201b,202a,202b近傍と、前記袖204の袖下206近傍と、前記一方の肩線203の切開部205の近傍とに、それぞれ面ファスナー207を複数個間隔を有して固着したことを特徴とする病人用寝巻が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−130917号
【特許文献2】特開平8−060415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外科手術に関連して、胸腔、腹腔等に管状器材(以下、ドレーンと言う)を挿入して、体腔内に貯留した血液や膿等を体外に誘導し排出する処置が行われる場合がある。
【0006】
また、鎖骨周辺に、中心静脈栄養法(IVH療法)や中心静脈栄養法及び薬剤投与(Vポート療法)の際に用いられる、皮下埋め込み式ポート(以下、ポートと言う)を埋め込み、ポートを体外から針で穿刺して、輸液や薬剤等を輸液チューブ(以下、チューブと言う)を介して体内に送入する処置が行われる場合がある。
【0007】
上記の処置を受けた場合、従来の寝巻によれば、ドレーン及びチューブが、着用した寝巻により圧迫されたり患者が動いた時に屈曲することがある。ドレーン及びチューブが屈曲により閉塞すると、胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出が阻害され患者が合併症を引き起こしたり、創傷治癒が妨げられる問題、および薬剤や輸液の送入が円滑に行われず治療に影響を及ぼす問題があった。
【0008】
また、上記事情を回避するために、ドレーン及びチューブ挿入部において、寝巻を捲り上げておく必要があり、患者に不快感を与える問題があった。
【0009】
本発明では、患者が寝巻を着用したままでもドレーン及びチューブの屈曲による閉塞をなくし、胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出、および薬剤や輸液の送入を、円滑に行うことができる患者用寝巻ジャケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の患者用寝巻ジャケットは、左右に開閉可能な前面部を係止手段によって係止できる患者用寝巻ジャケットあって、襟部から袖口に向けて設けた第1スリットと、前記第1スリットによって分離された前記前面部のそれぞれに設けられた、前記前面部同士を係止可能にする第1ボタン部材と、脇線から正中線に向けて脇線―正中線距離の略1/3の位置に、胸部から裾部に向けて設けられた第2スリットと、前記第2スリットによって分離された前記前面部のそれぞれに設けられた、前記前面部同士を係止可能にする第2ボタン部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、患者が寝巻を着用したままでも、ドレーン及びチューブの屈曲による閉塞をなくし、胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出及び薬剤や輸液の体内への送入を、円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明に係る患者用寝巻ジャケットの全体正面図である。
【図2】同ジャケットの第1スリットの拡大図である。
【図3】同ジャケットを患者が着用時の、第1スリット部における胴体長手方向断面の拡大図である。
【図4】同ジャケットの第2スリットの拡大図である。
【図5】患者の仰臥位腹部におけるドレーン挿入部位を示す図である。
【図6】同ジャケットを患者が着用時の、第2スリット部における胴体短手方向断面の拡大図である。
【図7】従来例の、介護用寝巻の全体正面図である。
【図8】別の従来例の、病人用寝巻の全体正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本願の実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
図1を参照して、患者用寝巻ジャケット1を説明する。本発明の患者用寝巻ジャケット1は、前面部2を閉じ、襟部3を正し、袖部4を広げて、前面部2を上面にして患者用寝巻ジャケット1を広げた状態(以下、展開状態と言う)において、表面になる部分を前面部2、裏面になる部分を後面部9(図6参照)、左右の襟が交差した点から胴体方向に伸ばした垂線を正中線15、前面部2の脇のラインを脇線20、正中線15と脇線20との距離を脇線―正中線距離16、と言うことにする。また、肩のラインを肩線27、と言うことにする。患者用寝巻ジャケット1は、前面部2、後面部9、第1スリット10、第1ボタン部材11(図2参照)、第2スリット12、第2ボタン部材13(図4参照)、および係止手段14、を備える。前面部2は、襟部3、袖部4、肩部26、胸部6、および腹部7から構成される。患者用寝巻ジャケット1は、着用者が両袖部5に両腕を通し、係止手段14で開放した前面部2を閉じて使用される。
【0015】
図2は、第1スリット10を開放した図である。図2を参照して、第1スリット10及び第1ボタン部材11について説明する。
【0016】
前面部2には、襟部3から袖口5に向けて、着用者の肩幅方向と略平行に第1スリット10が形成されている。第1スリット10によって分離された前面部2のそれぞれの部分には、分離された前面部2同士を係止可能にする第1ボタン部材11が設けられており、前面部2の第1スリット10部分が開閉できるように構成されている。第1スリット10によって分離された肩側の一方の前面部2が、胸部の他方の前面部2に上方から重なり、第1ボタン部材11により係止される。
【0017】
前面部2同士を係止する第1ボタン部材11同士の間に、鎖骨周辺に埋め込んだポート23(図3参照)を体外から穿刺して薬剤や輸液等を体内に送入するチューブ22(図3参照)を、通し固定することができる。第1ボタン部材11同士の間隔は、チューブ22を通すことができ、同時に固定することができる間隔であれば良い。チューブ22は後述するドレーン17よりも外径が小さいので、ドレーン17の外径に合わせて第1ボタン部材11同士の間隔は決定される。具体的に、第1ボタン部材11同士の間隔は、2cm以上6cm以下であれば良く、更には2cm以上4cm以下が最適である。
【0018】
図3は、患者18が患者用寝巻ジャケット1を着用したときの、第1スリット10部分の胴体長手方向断面の拡大図である。図3を参照して、チューブ22の取り回しについて説明する。なお、符号18aは、胸側体表面を表し、符号18bは、背中側体表面を表す。また、胴体を頭から足の方向を「長手方向」と呼び、胴体を右手から左手に水平に横断する方向を「短手方向」と呼ぶ。
【0019】
ポート23は、鎖骨の中央を通る鎖骨中線の外側略1.5〜3.0cmであって、さらに下半身方向へ略1.0〜2.0cmの位置の皮下に埋め込まれる。ポート23は、皮膚の上からチューブ22を接続した針24で穿刺して、輸液等を患者18の体内へ注入する。上述したように、第1スリット10を閉じた状態では、第1スリット10によって分離された肩側の一方の前面部2が、胸部の他方の前面部2に上方から重なっている。チューブ22は、ポート23の接続部から患者18の頭部方向へ一端延出し、その後前面部2同士を係止する第1ボタン部材11同士の間から、患者脚部方向に延出する。つまり、図3に示されたように、チューブ22は緩やかな曲線形状になり屈曲がないので、薬剤や輸液の体内への送入を、円滑に行うことができる。
【0020】
言い換えると、患者用寝巻ジャケット1からチューブ22を取り出す際には、胸側体表面18aとジャケットの間で、一度取り出し方向と逆方向にチューブ22を取り回すことで、穏やかな曲線形状を可能にできる。
【0021】
再度図1を参照して、チューブ22がこのような形状に配置されるには、第1スリット10の位置が、ポート23よりも上半身側に設けられることが必要である。ここで、展開状態における肩部26及び胸部6と、袖部4との接続部を接続部29と言うことにする。具体的には、肩線27から、該接続部29における袖部幅の1/3の長さの範囲内に、第1スリット10が設けられていればよい。最適には、肩線27から、該接続部29における袖部幅の1/3の長さの位置に、第1スリット10を設けることが望ましい。
【0022】
図4は、第2スリット12を開放した図である。図4を参照して、第2スリット12及び第2ボタン部材13について説明する。
【0023】
前面部2には、脇線20から正中線15に向けて、脇線―正中線距離16の略1/3の位置に、胸部6から裾部8に向けて、着用者の胴体方向と略平行に第2スリット12が形成されている。第2スリット12によって分離された前面部2のそれぞれの部分には、前面部2同士を係止可能にする第2ボタン部材13が設けられており、前面部2の第2スリット12部分が開閉できるように構成されている。第2スリット12によって分離された正中線15側の一方の前面部2が、脇線20側の他方の前面部2に上方から重なり、第2ボタン部材13により係止される。
【0024】
第2ボタン部材13同士の間に、胸腔、腹腔等に挿入した体腔内に貯留した血液や膿を体外に排出するドレーン17(図6参照)を通し、固定することができる。第2ボタン部材13同士の間隔は、ドレーン17を通すことができ、同時に固定することができる間隔であれば良い。一般的なドレーンの17の外径は0.8〜1.0cmであるので、第2ボタン部材13同士の間隔は、具体的には2cm以上6cm以下であれば良く、更には2cm以上4cm以下が好適である。
【0025】
図5を参照して、患者18の胸腔、腹腔等にドレーン17が挿入される位置を説明する。図5は、患者18の仰臥位における腹部を示す。患者正中線21から、患者正中線21―腰部末端25間隔の2/3の部位には、腹壁動静脈が走行するため、この範囲にはドレーン17は挿入されることはほとんどない。つまり、腰部末端25から、患者正中線21―腰部末端25間隔の1/3の長さの範囲内(図5斜線部)にドレーン17は挿入される。該部分を、ドレーン挿入部位19と言うことにする。ドレーン挿入部位19において、ドレーン17は体表面から略脊椎28(図6参照)方向へと挿入される。
【0026】
体型に応じたサイズの患者用寝巻ジャケット1は患者の体にフィットしているので、患者用寝巻ジャケット1と患者18の体の該当部分とは略相似関係にある。つまり、患者用寝巻ジャケット1の、脇線20、正中線15、及び脇線―正中線距離16の位置関係は、患者18の、腰部末端25、患者正中線21、及び患者正中線21―腰部末端25間隔の位置関係に、対応する。
【0027】
従って、患者用寝巻ジャケット1の第2スリット12が設けられる、脇線20から正中線15に向けて脇線―正中線距離16の略1/3の位置は、ドレーン17の挿入位置である、腰部末端25から、患者正中線21―腰部末端25間隔の1/3の長さの位置に略対応すると言える。
【0028】
図6は、患者18が患者用寝巻ジャケット1を着用したときの、第2スリット12部の胴体短手方向断面の拡大図である。上述したように、第2スリット12を閉じた状態では、第2スリット12によって分離された正中線15側の一方の前面部2が、脇線20側の他方の前面部2に上方から重なっている。体表面から略脊椎28方向へと挿入されたドレーン17は、体内への挿入部から正中線15方向へ一端延出し、その後前面部2同士を係止する第2ボタン部材13同士の間から、側臥位方向または下半身方向に延出する。つまり、図6に示されたように、ドレーン17の挿入部位は、緩やかな曲線形状になり屈曲がないので、胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を円滑に行うことができる。
【0029】
言い換えると、患者用寝巻ジャケット1からドレーン17を取り出す際には、胸側体表面18aと患者用寝巻ジャケット1との間で、一度取り出し方向と逆方向にドレーン17を取り回すことで、穏やかな曲線形状を可能にできる。
【0030】
したがって、第2スリット12の位置は、脇線20から正中線15に向けて脇線―正中線距離16の1/3の位置に設けられていることが必要である。ドレーン17の挿入部位は、ドレーン挿入部位19にほぼ限定されるので、第2スリット12が脇線20から正中線15に向けて脇線―正中線距離16の1/3の位置に設けられていれば、ドレーン17の取り回しは必然的に上記のような形状になるからである。
【0031】
図5、および図6を参照して、より具体的には、第2スリット12は、脇線20から正中線15に向けて脇線―正中線距離16の略1/3の位置より正中線15側に、胸部6から裾部8に向けて設けられていればよい。
【0032】
好適には、脇線20から正中線15に向けて脇線―正中線距離16の1/3の位置に、胸部6から裾部8に向けて設けられていればよい。
【0033】
本実施形態によれば、ドレーン17が屈曲せず閉塞しないので、ドレーン17内に溜まった血液や膿等が滞留しないので、合併症の誘発、及び創傷治癒の阻害をなくすことができる。
【0034】
また、ドレーン17の閉塞により生じる、ドレーン17の患者18の挿入部位に滞留した血液や膿などの漏出がなくなり、ガーゼ交換等の処置の回数を軽減することができ、医療現場の作業効率を向上することができる。
【0035】
また、ドレーン17が屈曲せず閉塞しないように固定されており、ドレーン17を挿入したまま患者が寝起きしたり、歩行しても胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を阻害しないので、患者の動作の自由度を大きくすることができる。
【0036】
また、ドレーン17が側腹部から出ないので、患者が側臥位になっても体に接触せず痛みがないとともに、ドレーン17が閉塞することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、患者用寝巻ジャケットに関して有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 患者用寝巻ジャケット
2 前面部
3 襟部
4 袖部
5 袖口
6 胸部
7 腹部
8 裾部
9 後面部
10 第1スリット
11 第1ボタン部材
12 第2スリット
13 第2ボタン部材
14 係止手段
15 正中線
16 脇線―正中線距離
17 ドレーン
18 患者
18a 胸側体表面
18b 背中側体表面
19 ドレーン挿入部位
20 脇線
21 患者正中線
22 チューブ
23 ポート
24 針
25 腰部末端
26 肩部
27 肩線
28 脊椎
29 接続部

101 前面部
102 係止手段
103 襟部
104 袖部
105 先端開口部
106 切り込み
107 止めホック

201 前みごろ
201a,201b 前みごろの脇部
202 後みごろ
202a,202b 後みごろの脇部
203 肩線
204 両袖
205 切開部
206 袖下
207 面ファスナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に開閉可能な前面部を係止手段によって係止できる患者用寝巻ジャケットあって、
襟部から袖口に向けて設けた第1スリットと、
前記第1スリットによって分離された前記前面部のそれぞれに設けられた、前記前面部同士を係止可能にする第1ボタン部材と、
脇線から正中線に向けて脇線―正中線距離の略1/3の位置に、胸部から裾部に向けて設けられた第2スリットと、
前記第2スリットによって分離された前記前面部のそれぞれに設けられた、前記前面部同士を係止可能にする第2ボタン部材と
を備えた患者用寝巻ジャケット。
【請求項2】
請求項1記載の患者用寝巻ジャケットにおいて、
肩線から、接続部における袖部幅の略1/3の長さの位置に、第1スリットが設けられていることを特徴とする患者用寝巻ジャケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−256498(P2011−256498A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133330(P2010−133330)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(398012443)ニッカ工業株式会社 (4)
【出願人】(596137841)
【Fターム(参考)】