説明

悪性腫瘍細胞の検出方法

【課題】悪性腫瘍細胞の表面タンパク質に特異的な抗体を含有する悪性腫瘍治療薬を提供する。
【解決手段】悪性腫瘍細胞表面のLR11に特異的な抗体を有効成分とする悪性腫瘍治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍細胞の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞の表面に特異的に発現しているタンパク質は、患者の末梢血、骨髄細胞、組織などを用いたがん診断の細胞表面マーカーとして有用であり、その発現の有無を検査することにより、がん治療の効果判定や再発のモニタリングにも応用が可能である。
さらに、近年、腫瘍細胞の表面に特異的に発現しているタンパク質を標的とした抗体医薬の開発が盛んに行われている。抗体医薬による治療法は、正常細胞に発現していないか、もしくは発現量が非常に僅かな抗原を標的として選択することで、正常細胞に与える影響が最小限で、かつ腫瘍細胞に選択性の高い治療効果が期待できる治療法として注目されている。抗体医薬の有効成分である抗体の作用機序(メカニズム)は多様であり、例えばB細胞に特異的に発現しているCD20抗原に対して作製されたモノクローナル抗体を使用するB細胞リンパ腫の治療薬であるリツキシマブ(rituximab)は、腫瘍細胞に対して、アポトーシスの誘導、抗体依存性細胞傷害(antibody−dependent cellular cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement−dependent cytotoxicity:CDC)活性などの作用を有する。また、抗CD20モノクローナル抗体に放射性同位元素を結合させたイットリウム(90Y)イブリツモマブ(iburitumomab)チウキセタンは、抗体による腫瘍細胞への攻撃に加えて放射線による治療効果を見込め、再発や難治性Bリンパ腫の治療の有用性が確認されている。
【0003】
しかしながら、腫瘍の治療に有用なモノクローナル抗体は、転移性乳癌、急性骨髄性白血病、難治性慢性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫など、いくつかの腫瘍種に限られているのが現状である。
従って、がんの診断や抗体医薬によるがん治療に応用可能な、腫瘍細胞に特異的な新しい細胞表面マーカーの探索が盛んに進められている。
【0004】
LR11(LDL receptor relative with 11 ligand−binding repeats)は、LDL受容体ファミリーに特徴的な構造を有する新規なLDL受容体類似タンパク質として同定されたものである(特許文献1、非特許文献1)。LR11は、平滑筋細胞の遊走及び増殖によって形成された血管内膜肥厚部位に、特異的に発現が亢進していることが報告されている(非特許文献2)。本発明者らは、哺乳動物の血液中に可溶性LR11が存在していること、及び動脈硬化性疾患患者血液中の可溶性LR11濃度が健常者と比較して有意に高値であること見出している(特許文献2)。さらに、本発明者らは血液や骨髄液中の可溶性LR11を簡便で正確に測定する方法(特許文献3、非特許文献4)を開発し、様々な疾患における可溶性LR11の濃度を測定した結果、悪性腫瘍、特に白血病や悪性リンパ腫のような造血器腫瘍疾患で異常高値を示すことを確認し、血液中の可溶性LR11が新たな腫瘍マーカーになることを見出した(特許文献4)。しかしながら、すべての造血器腫瘍疾患患者の血液中において可溶性LR11が異常高値を示すとは限らず、その理由はいまだ明らかではない。
【0005】
一方、非特許文献5には、広範囲のヒト由来の組織(神経組織、肝臓、脳、末梢白血球)においてLR11のmRNAが発現していることが報告されている。さらにヒト骨髄細胞中の幹細胞が存在するCD34+CD38−画分(骨髄性白血病細胞)において、LR11のmRNA発現が亢進していること、およびデータは示されていないが、一部の造血器腫瘍培養細胞にもLR11のmRNAが発現している旨の記述がある。しかし、非特許文献5は培養細胞を含めた血液前駆細胞における網羅的な遺伝子発現解析をしたのみであって、タンパク質レベルでLR11を発現している組織についての記載はなく、造血器腫瘍とLR11mRNAの発現の関係についての記載も全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−163988号公報
【特許文献2】国際公開第WO2008/155891号
【特許文献3】国際公開第WO2009/116268号
【特許文献4】特願2009−285492号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Biol.Chem.1996;271,24761−24768
【非特許文献2】Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.1999;19,2687−2695
【非特許文献3】J.Clin.Invest.2008;118,2733−2746
【非特許文献4】Clin.Chem.2009;55,1801−1808
【非特許文献5】Experimental Hematology 2000;28,1286−1296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、悪性腫瘍細胞表面に発現しているタンパク質マーカーを測定することによる悪性腫瘍細胞の検出方法を提供することにある。
また本発明の課題は、悪性腫瘍細胞の表面タンパク質に特異的な抗体を有効成分とする悪性腫瘍治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、抗LR11抗体を作製し、その反応性を検討してきたところ、造血器腫瘍細胞株溶解液中のLR11及び当該造血器腫瘍細胞株の培養上清中に分泌されたLR11をそれぞれ検出できることを見出した。また、骨髄組織を免疫染色すると、血清中の可溶性LR11濃度が高値の造血器腫瘍患者においてLR11が陽性となることだけでなく、血清中の可溶性LR11濃度が健常域(非特許文献4などによる)の造血器腫瘍患者においても、LR11が陽性となる場合があることを見出した。
さらに、本発明者らは、作製した抗LR11抗体を用いてフローサイトメトリーを行ったところ、多くの造血器腫瘍由来細胞株の表面にLR11が発現していることを初めて確認した。また、急性骨髄性白血病患者の末梢血中の未熟な単球画分にLR11が発現していること、及び急性リンパ性白血病患者の末梢血中の成熟したB細胞ではLR11は発現していないが、分化過程の未熟なB細胞画分にはLR11が発現していることを確認した。一方、上皮性悪性腫瘍由来細胞株においても、細胞表面にLR11が発現していることを確認した。かかる知見から、被験試料中の細胞表面のLR11を測定することで、血中の可溶性LR11濃度が有意に高値になっていない場合においても悪性腫瘍細胞の存在を特異的に検出できること、及び、LR11が悪性腫瘍の細胞表面に発現していることから、抗体医薬の標的分子となりうることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、被験試料中の細胞表面のLR11を測定することを特徴とする悪性腫瘍細胞の検出方法を提供するものである。
また本発明は、被験試料中の細胞表面のLR11を測定することを特徴とする悪性腫瘍の診断方法を提供するものである。
また本発明は、悪性腫瘍細胞表面のLR11に特異的な抗体を有効成分とする悪性腫瘍治療薬を提供するものである。
また本発明は、悪性腫瘍を治療するための、悪性腫瘍細胞表面のLR11に特異的な抗体を提供するものである。
さらに本発明は、悪性腫瘍細胞表面のLR11に特異的な抗体の、悪性腫瘍治療薬製造のための使用を提供するものである。
さらに本発明は、悪性腫瘍細胞表面のLR11に特異的な抗体を投与することを特徴とする悪性腫瘍の治療方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、侵襲性の低い手法によって、悪性腫瘍、特に造血器腫瘍又は上皮性悪性腫瘍が高精度に検出でき、悪性腫瘍の存在及び重篤度、治療方法の選択及び効果判定、再発の危険性及び再発の有無を判断するにあたって、有用な情報を得ることができる。また、悪性腫瘍細胞を特異的に攻撃することにより悪性腫瘍を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】各種造血器腫瘍細胞株におけるLR11の発現を、細胞溶解液を用いてウェスタンブロット法で検出した図である。
【図2】各種造血器腫瘍細胞株における細胞表面でのLR11の発現を、フローサイトメトリーで解析した結果を示した図である。
【図3】健常者及び急性骨髄単球性白血病患者の末梢血における細胞表面でのCD14とLR11の発現を、フローサイトメトリーで解析した結果を示した図である。
【図4】健常者及び急性リンパ性白血病患者の末梢血における細胞表面でのCD19とLR11の発現を、フローサイトメトリーで解析した結果を示した図である。
【図5】急性白血病患者由来骨髄組織におけるLR11の発現を、免疫染色で検出した図である。
【図6】胆嚢癌由来細胞株における細胞表面でのLR11の発現を、フローサイトメトリーで解析した結果を示した図である。
【図7】NB−4細胞株をマウス腹腔内に免疫し、マウス血清中の抗LR11抗体価を確認したグラフである。
【図8】各種上皮性悪性腫瘍細胞株における細胞表面でのLR11の発現を、膜画分溶解液を用いて、ウェスタンブロット法で検出した図である。
【図9】悪性リンパ腫患者由来リンパ節組織におけるLR11の発現を、免疫染色で検出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「LR11」とは、特にことわらない限り抗LR11抗体との反応性を有するタンパク質を指す。「全長LR11」や「可溶性LR11」として公知のタンパク質や、それらが部分的に断片化されたり、修飾されたものをいう。また、本明細書において、「測定」と「検出」の語は、同じ意味を有し、特にことわらないかぎり「定性」測定、「定量」測定、「半定量」測定のいずれの概念も含む。また、「定量」、「半定量」を総称して「定量等」ということがある。
本明細書において悪性腫瘍の診断というときは、悪性腫瘍の存在、重篤度、治療方法の選択もしくは効果判定、再発の危険性又は再発の有無を判定することを含む。
【0014】
本発明の悪性腫瘍細胞の検出方法は、被験試料中の細胞表面のLR11を測定することを特徴とする。被験試料としては、悪性腫瘍細胞の存在が疑われる生体由来試料であればよく、末梢血液、骨髄液、組織切片等が挙げられる。また被験試料は、ヒトだけでなく、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコなどの哺乳動物由来のものが挙げられる。
【0015】
本発明の検出対象となる悪性腫瘍としては、造血器腫瘍及び上皮性悪性腫瘍が挙げられる。ここで造血器腫瘍としては白血病及び悪性リンパ腫が挙げられる。白血病には急性白血病及び慢性白血病が含まれ、悪性リンパ腫には非ホジキンリンパ腫が挙げられる。一方、上皮性悪性腫瘍としては、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、膀胱癌、食道癌、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、結腸癌、大腸癌、腎臓癌、胆嚢癌、神経腫瘍(グリオーマ)、悪性黒色腫(メラノーマ)などが挙げられる。本発明による具体的な検出対象としては、造血器腫瘍においては、白血病のうち、急性白血病がより好ましく、悪性リンパ腫のうち、非ホジキンリンパ腫がより好ましい。また、上皮性悪性腫瘍においては、肝臓癌、膵臓癌、結腸癌、大腸癌、胆嚢癌が好ましい。
【0016】
細胞表面のLR11の測定方法としては、細胞表面のLR11に特異的に結合するタンパク質、例えば抗LR11抗体、LR11レセプター関連タンパク質(RAP)を用いる方法が挙げられる。このうち、抗LR11抗体を用いて、細胞表面のLR11を測定する手段が精度、特異性の点で好ましい。
【0017】
細胞表面のLR11と反応する抗LR11抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでも良いが、モノクローナル抗体が好ましく用いられる。当該抗体の作製は周知の方法にて行うことができる。例えば、ポリクローナル抗体の作製には、免疫する動物としてマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリなどが用いられる。ポリクローナル抗体としては、抗血清が好ましく、抗血清は、抗原を動物の皮下、皮内、腹腔などに一回又は複数回投与した後、免疫された動物の血清から得ることができる。タンパク質、ペプチドを抗原として用いる時は、免疫賦活効果を有する補液との混合物の免疫がより好ましい。
また、モノクローナル抗体の作製には、公知のモノクローナル抗体作製方法、例えば、長宗香明、寺田弘共著、「単クローン抗体」廣川書店(1990年)や、Jame W. Golding, ‘‘Monoclonal Antibody’ ’,3rd edition,Academic Press(1996年)に従い作製することができる。また、DNA免疫法によりモノクローナル抗体を作製することもでき、Nature 1992 Mar 12;356 152−154やJ.Immunol.Methods Mar 1;249 147−154を参考に作製することができる。
【0018】
抗体作製に用いられる抗原としては、LR11、又はその一部断片(ペプチド)、LR11を細胞表面に発現している細胞、あるいはLR11をコードするcDNAを組み込んだ発現ベクターを用いることができる。LR11の高次構造を認識するモノクローナル抗体を得るためには、ヒトLR11全長遺伝子を挿入した発現ベクターが最適であるが、そのほか、LR11配列の一部領域が挿入された発現ベクターも使用できる。DNA免疫法は、上記発現ベクターを単独又は混合して、免疫動物に対して様々な遺伝子導入法(例えば筋肉注射、エレクトロポレーション、遺伝子銃など)のいずれかを用いて、動物(マウス、ラット等)の皮下に注入し、細胞内に取り込ませることにより実施できる。
【0019】
当該モノクローナル抗体は、常法に従い作製したハイブリドーマを培養し、培養上清から分離する方法、該ハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳動物に投与し、腹水として回収する方法により製造できる。
【0020】
抗LR11抗体は、必要に応じて抗血清、培養上清あるいは腹水より精製して使用することができる。抗LR11抗体を精製・単離する手法としては、従来公知の方法、例えば、硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、セファデックスなどによるゲルろ過法、イオン交換クロマトグラフィー法、プロテインAカラムなどによるアフィニティ精製法などがある。
【0021】
抗LR11抗体を用いた被験試料中の細胞表面のLR11の具体的な測定方法は特に限定されないが、フローサイトメトリー、免疫組織染色法、細胞膜画分のウエスタンブロット法などが挙げられ、このうちフローサイトメトリーが好ましい。フローサイトメトリーを用いる場合には、蛍光色素で標識された抗LR11抗体を試料中の細胞集団と反応させ、生理食塩水やその他の培地で洗浄した後、ベクトン・ディキンソン社その他から商業的に入手可能な蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて蛍光染色パターンの解析及び細胞の選別を行う。なお、細胞表面のLR11と結合することを限度に、上記抗LR11抗体の代替として、RAP等のLR11に親和性を有する物質を使用することも可能であり、そのような態様は本発明の範囲に含まれる。
【0022】
本発明のLR11の測定においては、細胞表面のLR11の存在の有無を測定する定性的な測定のほかに、較正基準となるLR11濃度又は量と比較することにより定量測定もしくは半定量測定をすることもできる。この場合、較正基準となるLR11濃度又は量は、濃度又は量が既知のLR11発現細胞やLR11発現細胞株の溶解液、培養上清あるいはLR11高濃度血液より回収したLR11、リコンビナントLR11、あるいは抗体作製において免疫原として使用しうる合成ペプチド等を使用して設定することができる。
【0023】
本発明の方法において、例えば、被験試料中のLR11の測定結果(定性、定量等)を、予め測定しておいた健常者群や腫瘍の種類などで括られた特定のがん患者群の測定結果(定性、定量等)と対比させることにより、病態に関する詳細な情報を得ることができる。例えば、悪性腫瘍細胞が存在している場合、重篤化している場合、あるいは再発の危険性がある場合には、被験試料中の細胞表面LR11濃度又は量は、健常者群や特定のがん患者群の測定値に対して高値である場合があり、両者を対比させることにより、悪性腫瘍の存在又は重篤度、治療方法の選択又は効果判定、再発の危険性又は再発の有無を判定することができる。
【0024】
測定方法、判定方法の具体的な例として、以下の手段が挙げられる。フローサイトメトリーでの測定においては、陽性・陰性のカットオフを定め、一定の細胞集団中における陽性細胞の存在比率により上記の判定をすることができる。また、免疫組織染色での測定においては、陽性・陰性のカットオフを定め、一定の組織範囲における陽性領域が占める比率(広狭)や、陽性領域の局在状態、正常領域との境界の状態などを画像解析することにより上記の判定をすることができる。また、上記した判定において、後記するLR11以外の細胞表面マーカーと組み合わせるなど、従来公知の方法を使用して、判定精度を向上させることができる。
【0025】
前記した悪性腫瘍の重篤度とは、がんがどの程度進行しているかの指標になるものである。本発明において、「悪性腫瘍の存在又は重篤度を判定する」とは、例えば、造血器腫瘍の場合は、WHO分類で、白血病や悪性リンパ腫が詳細に分類され、悪性度も評価されていることから、腫瘍細胞表面のLR11の測定結果に基づき、これらの分類に区分することを含む。また、非ホジキンリンパ腫の場合は、WHO分類で、細胞増殖の速度により「高悪性度」、「中悪性度」、及び「低悪性度」に分類されおり、腫瘍細胞表面のLR11の測定結果に基づき、これらの分類に区分することを含む。各悪性度それぞれに区分される非ホジキンリンパ腫の代表的なものに、濾胞性リンパ腫(低悪性度)、びまん性大細胞型Bリンパ腫(中〜高悪性度)、T細胞リンパ芽球性リンパ腫(高悪性度)が挙げられている。また、上皮性悪性腫瘍に関しては、腫瘍の大きさと進展度、所属リンパ節への転移状況、及び遠隔転移の有無によるTNM分類という国際的な病期分類に関する指標が使用され、さらにこの分類をもとに、がんの進行度と広がりの程度を一度に表わすことが出来るステージ分類が使われており、腫瘍細胞表面のLR11の測定結果に基づき、これらの分類に区分することを含む。
【0026】
治療方法の選択又は効果判定は、白血病芽球の骨髄細胞中の比率の変化や発症した腫瘍の大きさの変化を見ることで評価することができる。又、再発の危険性については、治療により細胞表面LR11に関する指標(濃度、量、陽性細胞の存在比率、組織における陽性領域の比率など)が正常域に下がらない場合に再発の危険性が高いと判断すること、さらに再発の有無については、間欠期や治療による寛解の後に、前記した細胞表面LR11に関する指標が上昇あるいは増加し始めた場合に、腫瘍が再び発生している恐れが高い、と評価することができる。
【0027】
現在、白血病の診断は、末梢血を用いた血液形態検査により異常が認められた場合に骨髄穿刺して普通染色を行い診断を確定させ、さらに詳細な分類をするには細胞表面の抗原解析検査が行われている。本発明の抗LR11抗体を用いた被験試料中の細胞表面のLR11の測定方法によれば、末梢血を用いた検査において白血病細胞の検出精度を向上させることができる。また、前記の悪性腫瘍細胞の存在等を判定するにあたっては、細胞表面LR11の測定値だけでなく、他の公知の細胞表面マーカーと組み合せることによって、より精度の高い判断をすることができる。
【0028】
血液細胞では造血幹細胞が様々な系統の細胞に分化する際に、細胞分化成熟度に応じ発現する抗原基の種類や発現時期が変化する。造血器細胞の表面には抗原レセプター、細胞接着分子、サイトカインレセプター、補体レセプター、Fcレセプターなど種々の分子が存在しており、これらをマーカーとして細胞の帰属を推測することができる。また、白血病の病型診断では、細胞化学的手法が使用され、ペルオキシダーゼ反応(POD)を利用してリンパ性白血病か骨髄性白血病かの分類が行われる。急性白血病分類の1つであるFAB分類のM0は、POD 3%以下であり、従来であればリンパ系白血病に分類されていたが、現在では細胞表面抗原を検索し,マーカーのCD13もしくはCD33が陽性でCD19、CD20が陰性であれば骨髄性白血病として治療が開始される。M7もM0と同様、POD 3%以下であり,表面抗原検索が重要である。リンパ性白血病や悪性リンパ腫では,骨髄性白血病のように形態学的特徴がそれほど明確でないため、細胞表面抗原検索はさらに重要な検査項目となる。このように、細胞表面形質の検索が腫瘍細胞の帰属の決定に重要な役割を果たしており、WHO分類では、すべての造血器腫瘍の免疫表現型が記載されている。これら従来の方法に本発明のLR11を細胞表明マーカーとして組み合わせることにより、さらに詳細に病態を把握するための情報を得ることが可能になる。なお、上記した白血病の診断や分類等に関しては、例えば、浅野茂隆ら監修、「三輪血液病学」文光堂(2006年)などに詳細に記載されており、本発明の測定を実施する際、参照できる。
【0029】
本発明により、悪性腫瘍細胞表面にはLR11が発現することが確認されたので、悪性腫瘍細胞表面のLR11を標的分子とする分子標的治療、具体的には、LR11に特異的な抗体を用いた悪性腫瘍の治療が可能である。上記の分子標的治療は、抗LR11抗体を有効成分とする悪性腫瘍治療薬、いわゆる抗体医薬の投与によって行うことができる。なお、本明細書において、「悪性腫瘍治療薬」と「抗体医薬」は、特に区別せず、同義で使用している。
上記抗体医薬において当該抗LR11抗体は、放射性同位元素、抗がん剤あるいは毒素など(以下、総称して「抗がん剤等」ということがある)を担持させる担体として使用することができる。ここでは抗LR11抗体は、標的分子(LR11)が発現している悪性腫瘍細胞(標的細胞)へ抗がん剤等を運搬するキャリアーとして働く。抗LR11抗体に担持させる抗がん剤等としては放射性同位元素が好ましく、90Y(イットリウム90)、131I(ヨウ素131)が好適に使用される。
【0030】
上記抗体医薬において抗LR11抗体が細胞傷害活性を有する場合には、直接殺細胞効果を得ることができる。最近の知見によれば、抗体医薬の作用機序において細胞傷害活性が重要と考えられており、悪性腫瘍細胞表面に発現するLR11に結合し、細胞傷害活性を有する抗体が好ましい。かかる抗体は、前記のように作製された抗LR11抗体を用いて細胞傷害活性をスクリーニングすることにより得られる。なお、本発明における、「細胞傷害」とは、何らかの形で、細胞に病理的な変化をもたらすことをいい、ADCC活性やCDC活性に基づく直接的な細胞の殺傷害にとどまらず、DNAの切断や塩基の二量体の形成、染色体の切断、細胞分裂装置の損傷、各種酵素活性の低下などあらゆる細胞の構造や機能上の損傷をいう。本発明における「細胞傷害活性」とは上記細胞傷害を引き起こすことをいう。また、本発明の悪性腫瘍治療薬の対象となる悪性腫瘍は、前記の検出対象と同様である。
【0031】
本発明の悪性腫瘍治療薬(抗体医薬)に用いられる抗LR11抗体は、LR11と特異的に結合することを限度として、特に制限はない。具体的には、マスウなど免疫動物由来の抗体、治療対象とする哺乳動物と同じ動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体などを挙げることができる。これらは、投与対象である哺乳動物への投与量、投与頻度、抗原性などを考慮し、上記から適宜選択することができる。抗体医薬の投与対象がヒトである場合には、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体を用いるのが好ましい。前記キメラ化、ヒト化等は、公知の方法によって行うことができる。
【0032】
上記したADCC活性やCDC活性は、公知の方法を用いることにより、抗LR11抗体に付与あるいは増強させることができる。ADCC活性及び/又はCDC活性を抗LR11抗体に付与あるいは増強させる方法としては、例えば、抗体のFc領域のアミノ酸配列を改変する方法(Shields R.L.,et.al.;J.Biol.Chem.,276,6591−6604(2001))、Fc領域中の糖鎖を改変してFcγ受容体IIIAへの結合力を高める方法(Umana P.,et.al;Nat.Biotechnol.,17,176−180(1999)、Shields R.L.,et.al,;J.Biol.Chem.,277 26733−26740(2002)、Shinkawa T.,et.al.;J.Biol.Chem.,278,3466−3473(2003))、Fc領域をタンデムに多量体化する方法(国際公開WO2007/100083)、CDC活性を増強する能力を有するFc断片を導入する方法(国際公開WO2006/114700)などが挙げられる。
【0033】
また、抗LR11抗体の中から、腫瘍細胞におけるLR11の生物活性を中和あるいは阻害する抗体を選択すれば、例えば、悪性腫瘍細胞にアポトーシスを誘導することを作用機序とする抗体医薬とすることもできる。
【0034】
in vitroでの抗LR11抗体による腫瘍細胞におけるLR11の生物活性の中和活性は、例えば、LR11を過剰発現している細胞の培養系に、種々の濃度で抗LR11抗体を添加し、LR11が有する接着や遊走活性の抑制程度を測定することにより評価することができる。また、腫瘍細胞の抗がん剤感受性の変化を測定することよっても評価することができる。また、LR11を過剰発現している上皮性悪性腫瘍細胞を用いる場合にはフォーカス形成、コロニー形成及びスフェロイド増殖に対する抑制活性を測定することで評価することもできる。
【0035】
in vitroでの抗LR11抗体による腫瘍細胞の傷害活性は例えば、LR11を過剰発現している細胞に対して抗LR11抗体の示す抗体依存性細胞傷害活性、補体依存性細胞傷害活性又は補体依存性細胞性細胞傷害活性を測定することで評価できる。例えば、LR11を過剰発現している細胞を培養し、培養系に種々の濃度で抗LR11抗体を添加し、さらにマウス等の脾臓細胞を添加して適当時間培養後のLR11過剰発現細胞に対する細胞死誘導率を測定することで評価することができる。
【0036】
in vitroでの実験動物を利用した抗LR11抗体の腫瘍に対する治療効果は、例えば、WT1遺伝子トランスジェニックマウスなどの白血病モデル動物のうち、LR11を過剰に発現しているトランスジェニックモデル動物に抗LR11抗体を投与し、腫瘍細胞の変化を測定することで評価できる。このようにして得られたLR11の生物活性を中和する抗体又はLR11を発現する腫瘍細胞を特異的に傷害する抗体は、医薬として特にがんの治療を目的とした抗体医薬の有効成分として有用である。
【0037】
本発明は、治療に有効な量の抗LR11抗体と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。
【0038】
本発明の医薬組成物において許容される製剤に用いる物質としては好ましくは投与量や投与濃度において、医薬組成物を投与される者に対して非毒性のものが好ましい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、安定性、溶解率、徐放率、吸収率、浸透率を変えたり、維持したり、保持したりするための製剤用の物質を含むことができる。製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限されない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素、トリス−塩酸(Tris−HCl)溶液等の緩衝剤、マンニトール等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β−シクロデキストリンやヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類やグルコース、マンノースやデキストリン等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等ポリソルビテート、トリトン(Triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウムやマンニトール、ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、抗LR11抗体の重量に対して0.01〜100倍、特に0.1〜10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる。
【0040】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組成物にはpH7.0〜8.5のTrisバッファーやpH4.0〜5.5の酢酸バッファーやそれらにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。本発明の医薬組成物は選択された組成で必要な純度で適当な薬剤として、凍結乾燥品あるいは液体として準備される。抗LR11抗体を含む医薬組成物はスクロースのような適当な賦形剤を用いた凍結乾燥品として成型されることもできる。
【0041】
本発明の医薬組成物は非経口投与用に調製することもできるし、経口による消化管吸収用に調製することもできる。製剤の組成及び濃度は投与方法によって決定することができるし、本発明の医薬組成物に含まれる、抗LR11抗体のLR11に対する親和性、即ち、LR11に対する解離定数(Kd値)に対し、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、ヒトへの投与量を少なく薬効を発揮することができるので、この結果に基づいて本発明の医薬組成物の人に対する投与量を決定することもできる。投与量は、ヒト型抗LR11抗体をヒトに対して投与する際には、約0.1〜100mg/kgを1〜30日間に1回投与すればよい。
【0042】
本発明の医薬組成物の形態としては、点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などが挙げられるが、点滴を含む注射剤が好ましい。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0044】
実施例1 各種造血器腫瘍細胞株のLR11発現の確認
各種造血器腫瘍細胞株でのLR11発現を、LR11の部分アミノ酸配列を有する合成ペプチドを免疫して作製した抗LR11モノクローナル抗体(A2−2−3:特許文献3)によるウェスタンブロット法で確認した。細胞株は、急性骨髄性白血病由来3株(HL−60、ML−2、NB−4)、急性リンパ性白血病由来3株(CCRF−SB、MOLT−4、NALL−1)、悪性リンパ腫由来2株(Daudi、U937)の合計8種を用いた。これらの細胞株は、HT培地(15% fetal bovine serum HT supplement、penicillin/streptomycinを含むRPMI−1640)に懸濁し、5% 炭酸ガスインキュベーター内で37℃にて適当な時間培養し、増殖させた。それぞれの細胞株の細胞数をカウントし、1×107個となるように分取後、1% プロテアーゼインヒビター(シグマアルドリッチ社製;P8340)を含むRIPA バッファー(25mM Tris−HCl pH7.6,150mM NaCl,1% NP−40,1% Sodium deoxycholate,0.1% SDS)を、加えて溶解させた。不溶物を遠心分離にて除去した後、細胞溶解物中のタンパク質濃度を測定し、1レーン当たり20μg分をSDS含有還元条件下で煮沸処理した。該処理液をSDS−PAGE(2−15%)の各レーンにアプライし電気泳動した。泳動終了後、ゲルよりタンパク質をPVDF膜へ転写し、一次抗体として抗LR11モノクローナル抗体(A2−2−3)を反応させ、マウスIgG ABCキット(Vector社製)を用いてLR11を検出した。
その結果、各細胞株の細胞溶解液中に、分子量で230kDaより少し大きい位置に、若干大きさの異なる2本のバンドが認められた。
【0045】
実施例2 各種造血器腫瘍細胞株のフローサイトメトリー
実施例1で解析した細胞株8種について、細胞表面にLR11が発現しているか否かを、フローサイトメトリーにて解析した。各細胞株5×105個をStaining Medium(1% FBS/PBS)に浮遊させ、1500rpmで5分間遠心分離した後、上清を除去し、ペレットに1mg/mL FITC標識抗LR11モノクローナル抗体(M3:特許文献3)を3μL添加し、4℃で60分間反応させた。細胞をStaining Mediumにて2回洗浄後、使用説明書に従いJSAN(Bay bioscience社製)を用いて、フローサイトメトリー解析を実施した。FITC標識抗LR11モノクローナル抗体の陰性コントロールには、正常マウスIgG(BD pharmingen社製)を用いた。その結果を図2に示す。実施例1でLR11の発現が確認された8株の内、HL−60、ML−2、NB−4、MOLT−4、CCRF−SB、U937の6株については、強陽性から弱陽性の反応が見られたことから、これらの細胞株の表面には、LR11が発現していることが確認された。
【0046】
実施例3 急性骨髄性白血病(AML)患者の末梢血のフローサイトメトリー
急性骨髄単球性白血病患者(FAB分類:M4)の末梢血からFicoll−Paque PLUS(GEヘルスケア社製)を用いて単核球を分離し、LR11が細胞表面に発現しているか否かを、実施例2に準じて、フローサイトメトリーによる解析を行った。陰性コントロールは、健常者の末梢血を用いた。それぞれの細胞株5×105個をStaining Mediumに浮遊させ、1500rpmで5分間遠心分離した後、上清を除去し、ペレットに1mg/mL FITC標識抗LR11モノクローナル抗体(M3)並びにPE標識抗CD14抗体(BD pharmingen社製)をそれぞれ3μL添加し、4℃で60分間反応させた。細胞をStaining Mediumにて2回洗浄後、使用説明書に従いJSAN(Bay bioscience社製)を用いて、フローサイトメトリー解析を実施した。その結果を図3に示す。
健常者の末梢血中の白血球では、単球の表面マーカーであるCD14の陽性画分にLR11が発現していることがわかり、同様に、急性骨髄単球性白血病患者の末梢血中の白血病細胞でも、やはりCD14陽性の単球系の芽球でLR11が発現していることが分かった。白血病では、単芽球や前芽球などの未熟な単球が多いことから、LR11は健常者に見られる成熟した単球のみならず、白血病細胞である未熟な単球にも発現していることが分かった。
【0047】
実施例4 急性リンパ性白血病(ALL)患者の末梢血のフローサイトメトリー
急性リンパ性白血病患者(FAB分類:L2)の末梢血からFicoll−paque PLUS(GEヘルスケア社製)を用いて単核球を分離し、LR11が細胞表面に発現しているか否かを、実施例2に準じて、フローサイトメトリーによる解析を行った。陰性コントロールは、健常者の末梢血を用いた。それぞれの細胞株5×105個をStaining Mediumに浮遊させ、1500rpmで5分間遠心分離した後、上清を除去し、ペレットに1mg/mL FITC標識抗LR11モノクローナル抗体(M3)並びにPE標識抗CD19抗体(BD pharmingen社製)をそれぞれ3μL添加し、4℃で60分間反応させた。細胞をStaining Mediumにて2回洗浄後、使用説明書に従いJSAN(Bay bioscience社製)を用いて、フローサイトメトリー解析を実施した。その結果を図4に示す。
健常者の末梢血由来の白血球では、B細胞の表面マーカーであるCD19陽性画分においてLR11はほとんど陰性であったのに対して、急性リンパ性白血病患者の末梢血由来の白血球では、白血病細胞化してCD19陽性となるリンパ芽球細胞の多くでLR11が陽性となることが判明した。
【0048】
実施例5 急性白血病患者由来骨髄組織の免疫染色
急性リンパ性白血病(ALL)患者1名(血清中可溶性LR11濃度 407ng/mL)並びに急性骨髄性白血病(AML)患者3名(各血清中可溶性LR11濃度 70,6,8ng/mL)の骨髄組織に対する免疫染色を行った。陰性コントロールは、正常マウスIgGを用いた。組織切片はパラフィン包埋した病理検体を、ミクロトームを用いて、厚さ4μmに薄切し作製した。作製した切片はキシレンで脱パラフィンをして、エタノールで水和処置後、以下の方法で免疫染色を行った。組織切片をクエン酸バッファー(pH6.0)中に浸し、マイクロウェーブ処置を行うことで抗原を賦活化した。次に、内在性のペルオキシダーゼをブロックするために、切片を0.3% 過酸化水素含有メタノール液で30分間処理した。その後、Protein Block(Dako社製)ならびにAvidin/biotin blocking kit(Vector社製)を用いてブロッキング処理を行った。次に、10μg/mLの抗LR11モノクローナル抗体を(A2−2−3)切片に乗せ、4℃で一晩反応させた。TBS(50mM Tris−HCl,150mM NaCl)で洗浄後、500倍希釈(終濃度1.14ng/mL)したbiotin−conjugated rabbit anti−mouse IgG(Dako社製)と室温で30分反応させた。洗浄後、Peroxidase conjugated streptavidin(Nichirei社製)と室温で5分反応させ、TBSで洗浄し、発色液(0.3mg/mL diaminobenzidine,0.006% 過酸化水素、50mM Tris−HCl (pH7.6))で発色させた。最後に、Mayer's Hematoxylin(Muto社製)を用いて核染色を行い、エタノール処理にて脱水並びにキシレンで透徹後、Malinol(Muto社製)で封入した。その結果を図5に示す。
実施例1に記載の抗LR11モノクローナル抗体(A2−2−3)を用いた免疫組織染色結果から、血清中可溶性LR11濃度が高い患者由来の組織だけでなく、正常域の患者由来組織でも、LR11の発現が認められるという興味深い知見が得られた。実施例3及び4で示した末梢血の未分化な単球やB細胞の表面での発現検出以外に、組織切片におけるLR11の発現を検出することは、治療の効果判定や再発のモニタリングに適用できる可能性を示唆している。また、通常は末梢血にがん細胞が検出されない悪性リンパ腫などでは、腫瘍の組織切片による精密検査が行われていることから、適用の価値は高いと考えられる。
【0049】
実施例6 上皮性悪性腫瘍細胞株のフローサイトメトリー
上皮性悪性腫瘍の中から、血清中可溶性LR11を高濃度に検出する例が多い胆嚢癌について、胆嚢癌由来細胞株2種(OCUG−1、NOZ)を用い、実施例2に準じて、細胞表面にLR11が発現しているか否かを、フローサイトメトリーにて解析した。培養後トリプシン処理、ナイロンメッシュを通した細胞を用いた。各細胞株5×105個をStaining Mediumに浮遊させ、1500rpmで5分間遠心分離した後、上清を除去し、ペレットに1mg/mL FITC標識抗LR11モノクローナル抗体(M3)を3μL添加し、4℃で60分間反応させた。細胞をStaining Mediumにて2回洗浄後、使用説明書に従いJSAN(Bay bioscience社製)を用いて、フローサイトメトリー解析を実施した。FITC標識抗LR11モノクローナル抗体の陰性コントロールには、正常マウスIgG(BD pharmingen社製)を用いた。その結果、LR11陽性細胞の割合がOCUG−1では約60%、NOZでは約20%であった(図6)。
【0050】
実施例7 細胞免疫
実施例5の結果で、LR11が細胞表面に強発現している造血器腫瘍由来細胞の1つであるNB−4株をHT培地で拡大培養し、PBSにて2回洗浄後、細胞数が1〜2×107個になるようPBSに懸濁し、BALB/cマウス(メス)の腹腔内に注入し免疫した。隔週又は毎週免疫し、適切な時期に、次に示す方法によりマウス血清中の抗LR11抗体価を確認した。
マイクロプレート(NUNC社製)に、ヒト尿由来精製可溶性LR11をPBSで50ng/mLに希釈して1ウエルあたり50μL添加し室温で2時間固相化した。0.05%Tween20を含むPBS(PBST)で洗浄後、1%BSAを含むPBST(BSA−PBST)を1ウエルあたり200μL添加し室温で1時間ブロッキングした。マウスの尻尾より採血して得られた血清を、BSA−PBSTにより200〜1600倍希釈して1ウエルあたり50μL添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで洗浄後、HRP標識抗マウスIgGポリクローナル抗体(Rockland社)を10000倍希釈して1ウエルあたり50μL添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで洗浄後、次いでo−フェニレンジアミン基質液を1ウエルあたり50μL加え室温で20分間反応させ、1.5N硫酸を1ウエルあたり50μL加えて反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Abs.492nm)で測定した。
5回免疫した後のマウス血清中の抗LR11抗体価を確認した結果を図7に示す。
免疫前のマウス血清では、固相化したヒト尿由来精製LR11への反応はほとんど認められていないのに対して、NB−4細胞株を免疫した場合は、固相化したヒト尿由来精製LR11への明確な反応が認められていることから、LR11に対する抗体が産生されていることが確認された。悪性腫瘍細胞の表面に発現しているLR11に結合する抗体、更には細胞傷害性を有する抗体については、抗体価が十分高くなった時点で、常法に従い脾臓を取り出し細胞融合を実施して、抗LR11モノクローナル抗体を樹立し、その中から、腫瘍細胞表面のLR11結合活性と、LR11の生物活性の中和活性及び/又は細胞傷害性活性を有する抗体を選択することで得られる。また、細胞傷害性活性は、公知の方法により付与あるいは増強することができる。
【0051】
実施例8 各種上皮性悪性腫瘍細胞株のLR11タンパク質の確認
各種上皮性腫瘍細胞株でのLR11タンパク質発現を、実施例1で用いた抗LR11モノクローナル抗体(A2−2−3)によるウェスタンブロット法で確認した。細胞株は、HLE(肝臓癌由来)、MKN1(胃癌由来)、T.Tn(食道癌由来)、COLO201(大腸癌由来)、AsPC−1(膵臓癌由来)、Caki−1(腎臓癌由来)、Oka−C−1(肺癌由来)、PC−3(前立腺癌由来)、KMBC−2(膀胱癌由来)、HeLa(子宮頸癌由来)、OVISE(卵巣癌由来)、YMB−1(乳癌由来)、KINGS1(神経腫瘍由来)、G−361(悪性黒色腫由来)の合計14種を用いた。これら細胞株は、指定された培地(例えば、10%fetal bovine serum、penicillin/streptomycinを含むRPMI−1640)に懸濁し、5%炭酸ガスインキュベーター内で37℃にて適当な時間培養し、増殖させた。増殖した細胞は、PBSで数回洗浄した後、トリプシン−EDTA溶液(インビトロジェン社製;25200−072)を用いて回収された。それぞれの細胞株の細胞数をカウントし、1×107個となるように分取後、PBSを適当量加え懸濁させ、遠心分離で細胞を回収した。この操作を3回繰り返して細胞を洗浄した。回収した細胞に、1%プロテアーゼインヒビター(シグマアルドリッチ社製;P8340)を含むPBS100μLを加えた後、超音波振動器(ホモジナイザー)で細胞を破砕した。細胞の破砕断片を遠心分離にて除去した後、上清を超遠心分離(100,000g、10分間)にて、膜画分を沈殿させた。上清を除去し、PBSにて沈殿を洗浄した後、1%プロテアーゼインヒビター(シグマアルドリッチ社製;P8340)及び1%MEGA−9を含むPBS100μLを加え、超音波振動器(ホモジナイザー)にて、膜画分を懸濁・溶解させ、再び超遠心分離(100,000xg、10分間)にて不溶の膜画分を除去することで、可溶化膜画分溶液を得た。
1レーン当たり2μL分の各細胞株の可溶化膜画分溶液を、SDS含有還元条件下で煮沸処理し、各処理液をSDS−PAGE(2−15%)の各レーンにアプライし分離した。泳動終了後、ゲルよりタンパク質をPVDF膜へ転写し、一次抗体として抗LR11モノクローナル抗体(A2−2−3)を反応させ、その後は、Biotinylated anti−mouse IgG ポリクローナル抗体(DAKO)及びHRP標識ストレプトアビジンを組み合わせて、最終的にジアミノベンチジンで発色させて、LR11を検出した。
その結果、用いた14種すべての細胞株の膜画分溶解液で、LR11タンパク質を示すバンドが認められた(図8)。この知見は、上皮性悪性腫瘍疾患での患者病変部の細胞表面に、LR11タンパク質の発現が亢進している可能性を示唆するものである。
【0052】
実施例9 悪性リンパ腫患者由来組織の免疫染色
実施例5の方法に準じて、悪性リンパ腫で、非ホジンキンリンパ腫に分類されるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者1名(血清中可溶性LR11濃度 79ng/mL)並びに健常者のリンパ節組織に対する免疫染色を行った。陰性コントロールは、正常ラットIgG(Santa Cruz Biotechnology社製)を用いた。組織切片はパラフィン包埋した病理検体を、ミクロトームを用いて厚さ4μmに薄切し作製した。作製した切片はキシレンで脱パラフィンをして、エタノールで水和処置後、以下の方法で免疫染色を行った。内在性のペルオキシダーゼをブロックするために、切片を3% 過酸化水素含有メタノール液で5分間処理した。その後、Protein Block(Dako社製)を用いてブロッキング処理を行った。次に、10μg/mLの抗LR11モノクローナル抗体(R14;非特許文献4)及び正常ラットIgGを切片に乗せ、室温で一晩反応させた。PBSで洗浄後、3000倍希釈したbiotin−conjugated rabbit anti− rat IgG(Dako社製)と室温で30分反応させた。洗浄後、Peroxidase conjugated streptavidin(Nichirei社製)と室温で5分反応させ、PBSで洗浄し、ImmPACT DAB Peroxidase Substrate(Vector Laboratories社製)を用いて染色した。最後に、Mayer's Hematoxylin(Muto社製)を用いて核染色を行い、エタノール処理にて脱水並びにキシレンで透徹後、Malinol(Muto社製)で封入した。その結果を図9に示す。
抗LR11モノクローナル抗体(R14)を用いた免疫組織染色結果から、悪性リンパ腫の組織切片においても、LR11の発現が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性腫瘍細胞表面のLR11に特異的な抗体を有効成分とする悪性腫瘍治療薬。
【請求項2】
悪性腫瘍が、造血器腫瘍又は上皮性悪性腫瘍である請求項1記載の悪性腫瘍治療薬。
【請求項3】
造血器腫瘍が、白血病又は悪性リンパ腫である請求項2記載の悪性腫瘍治療薬。
【請求項4】
白血病が、急性白血病である請求項3記載の悪性腫瘍治療薬。
【請求項5】
悪性リンパ種が、非ホジキンリンパ腫である請求項3記載の悪性腫瘍治療薬。
【請求項6】
上皮性悪性腫瘍が、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、膀胱癌、食道癌、乳癌、
子宮頸癌、卵巣癌、結腸癌、大腸癌、腎臓癌、胆嚢癌、神経腫瘍及び悪性黒色腫からなる
群より選択される請求項2記載の悪性腫瘍治療薬。
【請求項7】
前記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト化抗体である請求項1〜6のいずれか1項記載の悪性腫瘍治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−144550(P2012−144550A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−55796(P2012−55796)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【分割の表示】特願2011−545512(P2011−545512)の分割
【原出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】