情報処理装置、交通指標推定装置及びコンピュータプログラム
【課題】 待ち行列に関する交通指標(待ち行列の末尾位置等)の推定を正確に行うためのイベントを含むプローブ情報を生成する。
【解決手段】 本発明は、走行中のプローブ車両5に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理装置(車載装置2)に関する。この装置は、交差点Jの流入路に設置された車両感知器3に対するプローブ車両5の通過時刻を検出する検出手段(制御部209)と、プローブ車両5の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、車両感知器3の識別情報と検出されたプローブ車両5の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報S3を生成する情報生成手段(制御部209)と、生成されたプローブ情報を外部に送信する送信手段(光通信部204)と、を備える。
【解決手段】 本発明は、走行中のプローブ車両5に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理装置(車載装置2)に関する。この装置は、交差点Jの流入路に設置された車両感知器3に対するプローブ車両5の通過時刻を検出する検出手段(制御部209)と、プローブ車両5の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、車両感知器3の識別情報と検出されたプローブ車両5の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報S3を生成する情報生成手段(制御部209)と、生成されたプローブ情報を外部に送信する送信手段(光通信部204)と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中のプローブ車両に生じたイベントを生成してプローブ情報に含めるイベント記録方式の情報処理装置と、生成されたプローブ情報を用いて交通指標を推定する交通指標生成装置と、その情報処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が存在しないのに青が表示される無駄青時間の発生や、車両が存在するのに青時間が不足するような状況に陥らないように、適切な信号制御を実現するためには、処理すべき交通需要と処理できる交通容量を正確に把握することが重要である。
この場合、交通需要は、「前回の制御対象周期で捌け残った車両台数(待ち行列台数)と、今回の制御対象周期に新たに到着する車両台数の和」として記述される。また、交差点の処理容量は、「青1秒あたりの通過最大可能台数を表す飽和交通流率×青時間」として記述される。
【0003】
しかし、現在普及している超音波感知方式の車両感知器は、その設置場所の直下を通過する車両台数をスポット的に計測するものであるから、車両感知器が検出する時系列の感知信号(パルス信号)から、連続的に任意の位置に変動する待ち行列の末尾位置や待ち行列台数(以下、「待ち行列に関する交通指標」ということがある。)を直接的に求めることは困難である。
また、車両感知器では車両が飽和流か否かを判断することが困難であるため、時系列の感知信号から飽和交通流率を直接的に計測することも困難である。
【0004】
そこで、近年、車両が計測した自車両の走行状態に関する情報を、無線通信システムを通じて路側の交通情報処理装置(中央装置等)に送信し、この情報を用いて上記の交通指標を推定することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
上記の情報は「プローブ情報」と呼ばれ、このプローブ情報の記録方式としては、時系列に変化する車両の位置、進行方向、速度等の走行軌跡情報を所定の周期で記録する、「軌跡記録方式」がある。
【0005】
この軌跡記録方式としては、データの記録周期が比較的短い(例えば、0.1〜1秒)短周期方式と、比較的長い(例えば、数十秒)長周期方式とがある。
このうち、前者の短周期方式では、走行経路にほぼ沿った正確な走行軌跡が得られる反面、多数のプローブ車両を運用するシステムでは、データ通信やデータの蓄積に多大なコストがかかるという欠点がある。逆に、後者の長周期方式では、データ量が少なくシステムを安価に構築できる反面、所定時間内に得られるデータ数が少ないため、地点間を繋いだ傾きが実際の経路や速度を反映せず、交通指標の推定に適さないという欠点がある。
【0006】
そこで、本出願人は、車両の走行軌跡そのものではなく、走行中の車両に生じる代表的なイベント(走行挙動)ごとにデータを纏めたプローブ情報を生成する方式(以下、「イベント記録方式」という。)を採用した、情報処理装置を既に提案している(例えば、特許文献2参照)。
この従来の情報処理装置では、プローブ情報に記録する代表的なイベントの種別として、次の1)〜3)の種別が含まれている。
【0007】
1) 信号待ちや渋滞末尾への到達による停止と推定される「単独停止」
2) 曲率半径が小さい大きな走行方向の変動(交差点での右折や左折を含む。)である「方向変動」
3) 車両が一定距離以上の走行を継続する「一定距離走行」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−241429号公報
【特許文献2】特開2010−244315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記軌跡記録方式にしてもイベント記録方式にしても、プローブ情報は、路側に無線送信できる車載装置を搭載した車両(プローブ車両)から得られる、限定的なサンプル情報であるため、待ち行列が最終的にどの程度まで延伸しているかをプローブ情報だけから推定するのは困難である。
そこで、プローブ車両の通過に対応する車両感知器の感知信号(マッチング信号)を抽出し、このマッチング信号以後に検出された感知信号の数を用いて、待ち行列に関する交通指標を推定すれば、その推定を正確に行うことができる(例えば、特願2010−176292号、特願2010−176454号参照)。
【0010】
しかし、従来のイベント記録方式の情報処理装置では、短周期方式のような時間差が短い走行軌跡ではなく、単独停止、方向変動及び一定距離走行といった、イベント間の距離差や時間差が大きいイベントがプローブ情報に含まれているので、プローブ車両に対応する感知信号であるマッチング信号を正確に抽出できない場合がある。
このため、従来のイベント記録方式の情報処理装置では、プローブ情報と感知信号とのマッチングを利用した、待ち行列に関する交通指標の推定が不正確になる可能性がある。
【0011】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑み、待ち行列に関する交通指標の推定を正確に行うためのイベントを含むプローブ情報を生成できる、イベント記録方式の情報処理装置を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、プローブ情報に含まれるイベントを用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定できる、交通指標推定装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 本発明の情報処理装置は、走行中のプローブ車両に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理装置であって、交差点の流入路に設置された車両感知器に対する前記プローブ車両の通過時刻を検出する検出手段と、前記プローブ車両の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、前記車両感知器の識別情報と検出された前記プローブ車両の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報を生成する情報生成手段と、生成された前記プローブ情報を外部に送信する送信手段と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の情報処理装置によれば、情報生成手段がプローブ情報に含める感知器イベントに、車両感知器の識別情報(例えば、車両感知器の設置位置や機器ID)と、検出手段で検出された車両感知器に対するプローブ車両の通過時刻とが含まれている。
従って、車両感知器が検出した時系列の感知信号の中から、感知器イベントの通過時刻とタイミングがほぼ一致する信号を探索すれば、待ち行列に関する交通指標の推定に有用な、プローブ車両に対応する感知信号(マッチング信号)を正確に抽出できる。
【0014】
このため、本発明の情報処理装置によれば、待ち行列に関する交通指標の推定を正確に行うためのイベント(停止イベントと感知器イベント)を含むプローブ情報を生成することができ、前記第1の目的が達成される。
【0015】
(2) 本発明の交通指標推定装置は、渋滞時の待ち行列に関する交通指標を推定する交通指標推定装置であって、交差点の流入路に設置された車両感知器が検出する時系列の感知信号と、上記(1)の情報処理装置が送信した前記プローブ情報と、前記交差点における信号灯器の灯色切り替えタイミングとを取得する取得手段と、前記感知器イベントの前記通過時刻と対応する前記感知信号であるマッチング信号を抽出する抽出手段と、抽出された前記マッチング信号以後に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する推定手段と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明の交通指標推定装置によれば、抽出手段が、感知器イベントの通過時刻と対応する感知信号であるマッチング信号を抽出し、推定手段が、抽出されたマッチング信号以後に検出された感知信号の数に基づいて、待ち行列に関する交通指標を推定するので、正確に抽出されたマッチング信号を用いた交通指標の推定が可能となる。
このため、上記(1)の情報処理装置から得られたプローブ情報に含まれるイベント(停止イベントと感知器イベント)を用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができ、前記第2の目的が達成される。
【0017】
(3) 具体的には、前記推定手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも上流側にある場合には、抽出された前記マッチング信号以後に検出された時間間隔が所定間隔以内である前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定すればよい。
この場合、停止イベントの停止位置が車両感知器の設置位置よりも上流側にある場合における、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【0018】
(4) また、前記推定手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも下流側にある場合に、前記マッチング信号から次の(a)又は(b)の時点までの間に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定すればよい。
(a)プローブ車両が流入する流入路の青開始時点
(b)所定速度の任意車両が車両感知器を通過してから渋滞時の停止波にぶつかる時点
この場合、停止イベントの停止位置が車両感知器の設置位置よりも下流側にある場合における、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【0019】
(5) 本発明の交通指標推定装置において、前記プローブ車両の車長を記憶する記憶部を更に備えている場合には、前記推定手段は、前記マッチング信号のオン時間と記憶された前記プローブ車両の車長とに基づいて、前記プローブ車両の速度を算出することが好ましい。
この場合、プローブ情報のイベントのデータにプローブ車両の速度を含めなくても、プローブ車両の速度を正確に算出することができる。
【0020】
(6) 本発明のコンピュータプログラムは、本発明の情報処理装置による情報処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、本発明の情報処理装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明の情報処理装置によれば、待ち行列に関する交通指標の推定を正確に行うためのイベントを含むプローブ情報を生成することができる。
また、本発明の交通指標推定装置によれば、プローブ情報に含まれるイベントを用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用可能な交通制御システムを示す道路平面図である。
【図2】交通制御のアプリケーション、交通指標及びプローブ情報の関係を示す表である。
【図3】中央装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図4】車載装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図5】停止イベントの判定方法を示すグラフである。
【図6】方向変動イベントの例を示す道路平面図である。
【図7】プローブ情報のフレームフォーマットを示す表である。
【図8】プローブ情報に記す各種情報のビット割り当てを示す表である。
【図9】交差点手前の待ち行列と車両の走行軌跡を示すグラフである。
【図10】(a)は飽和交通流率の算出方法を示す説明図であり、(b)は平均車頭距離の説明図である。
【図11】中央装置の制御部が行う交通指標の生成処理のフローチャートである。
【図12】プローブ車両の停止位置が車両感知器の設置位置より上流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両の走行軌跡を示すグラフである。
【図13】プローブ車両の停止位置が車両感知器の設置位置より下流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両の走行軌跡を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔用語の定義〕
本発明の実施形態を説明するに当たり、まず、本明細書で用いる用語の定義を行う。
「車両感知器」:道路を走行する車両の存在を定位置で1台ずつ検出する路側センサのことをいう。例えば、直下を通行する車両を超音波で感知する超音波式の車両感知器や、車両通過時の温度変化から車両の通過を感知する温度式の車両感知器や、インダクタンス変化で車両を感知する道路に埋め込まれたループコイル等がこれに該当する。
【0024】
「感知信号」:道路の所定位置に設置された車両感知器が、1台の車両を検出した時に出力するパルス信号のことをいう。従って、複数台の車両が車両感知器を通過した場合には、各車両に対応する感知信号が時系列に出力される。
「プローブ情報」:実際に道路を走行するプローブ車両の車載装置から得られる車両に関する各種情報のことをいう。車両ID、車両位置、車両方位及びこれらの発生時刻などのデータがこれに含まれる。なお、後述の通り、本実施形態のプローブ情報には、単独停止、方向変動、一定距離走行、感知器通過などのイベント単位でデータが記録される。
【0025】
「灯色切り替えタイミング」:交差点の信号灯色を切り替えるタイミングに関する情報のことをいう。信号灯色の開始時刻(青信号開始、黄信号開始、赤信号開始時刻及び右左折矢印の開始時刻)、信号灯色時間(青信号時間、黄信号時間、赤信号時間及び右左折矢印時間)、信号パラメータ(スプリット、信号サイクル及びオフセット)等がこれに含まれる。
【0026】
「待ち行列」:信号待ち等のために交差点の手前で停止している車両の行列のことをいう。
「交差点の渋滞」:交差点の手前にできた待ち行列が1回の青信号時間で捌けない状況のことをいう。従って、1回の青信号時間で信号待ち行列が捌ける場合は、当該交差点では「渋滞」が生じていない。
【0027】
「停止波」:赤信号になると信号待ち行列が発生し、行列の長さが時間とともに増大する。この待ち行列長さを長くする伝達波のことを停止波という。
「発進波」:信号待ち行列の発生中に青信号に切り替わると、交差点に近い前方の車両から順に発進し始める。この信号待ち車両が発進する時の伝達波を発進波という。
【0028】
「発進波速度」:発進波の伝搬速度のことをいう。すなわち、発進波遅れを車両停止位置の一次関数で定義した場合の、当該一次関数の傾きのことである。
「流入路」「流出路」:ある交差点から見て、当該交差点に向かって流入する方向に進む道路を流入路といい、当該交差点から流出する方向に進む道路を流出路という。
【0029】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明が適用可能な交通制御システムの一例を示す道路平面図である。
図1に示すように、本実施形態の交通制御システムは、交通信号機1、車載装置2、車両感知器3、中央装置4、車載装置2を搭載した車両5及び光ビーコン6などを含む。
【0030】
図1に示す交差点Jでは、比較的交通量の多い主道路RM1,RM2と、比較的交通量の少ない従道路RS1,RS2とが合流しており、主道路RM1の交差点Jに対する流入路に車両感知器3が設置されている。
交差点Jに向かう流入路を走行する車両5のうち、一部の車両5には光ビーコン6対応の車載装置2が搭載されているが、当該車載装置2を搭載していない車両5もある。なお、本明細書において、車載装置2を搭載した車両を「プローブ車両」といい、車載装置2を搭載していない車両を「通常車両」ということがある。
【0031】
交通信号機1は、主道路RM1,RM2及び従道路RS1,RS2のそれぞれに設置された4つの信号灯器1bと、この信号灯器1bと通信回線を介して接続された交通信号制御機1aとを備えている。
交通信号制御機1aは、電話回線等の通信回線を介して交通管制センター内の中央装置4に接続されている。中央装置4は、自身の管轄エリア内にある各交差点Jの交通信号制御機1aとローカルエリアネットワーク(LAN)を構成している。
【0032】
従って、中央装置4は、交通信号制御機1aとそれぞれ双方向通信が可能であり、交通信号制御機1aは他の交差点の同制御機1aとも双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
交通信号制御機1aは、MODERATO(Management by Origin-DEstination Related Adaptation for Traffic Optimization)制御等の交通感応制御を行った結果の出力である信号制御指令S1を、中央装置4から受信し、この信号制御指令S1に基づいて、各信号灯器1bに含まれる信号灯の点灯、消灯及び点滅を制御する。
【0033】
交通信号制御機1aは、光ビーコン6とも通信回線で繋がっており、中央装置4から受信した渋滞情報や旅行時間等を含む交通情報S2を光ビーコン6に送信する。
光ビーコン6は、プローブ車両5の車載装置2と光信号での双方向通信が可能であり、上記交通情報S2をダウンリンク情報DLに含めて送信する。また、車載装置2が光ビーコン6に送信するアップリンク情報ULには、後述のプローブ情報S3が含まれている。このプローブ情報S3は、そのアップリンク情報ULの受信時刻及びビーコンIDとともに、交通信号制御機1aを介して中央装置4に転送される。
【0034】
なお、図1の例では、光ビーコン6が交差点Jの流出路に設置されているが、この光ビーコン6を、交差点Jへの流入地点(例えば、図1の停止線位置HL)に設置することにしてもよい。
車両感知器3は、交差点Jに流入する車両5の台数や平均速度等を計測する目的で、管轄エリア内の一部の道路に設置されている。車両感知器3が検出した路側計測情報である感知信号S4は、交通信号制御機1aで中継されて、通信回線を介して中央装置4に送信される。
【0035】
〔中央装置〕
図3は、中央装置4の内部構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、中央装置4は、制御部401、表示部402、通信部403、記憶部404及び操作部405を含んでいる。
中央装置4の制御部401は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなり、交通信号制御機1aからの各種の交通情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。なお、中央装置4の制御部401は、内部バスを介して上記ハードウェア各部と繋がっており、これら各部の動作も制御する。
【0036】
中央装置4の制御部401は、自身の管轄エリアに属する交通信号制御機1aに対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を実行可能である。
すなわち、中央装置4の制御部401は、交通状況に応じて信号制御パラメータ(スプリット、サイクル長及びオフセット等)を設定する交通感応制御を行うものであり、制御部401が行う交通感応制御には、例えば、前記MODERATO制御やプロファイル制御等を含む複数種類のものが含まれる。
【0037】
中央装置4の通信部403は、通信回線を介してLAN側と接続された通信インタフェースであり、所定時間ごとの信号灯器1bの灯色切り替えタイミング等に関する信号制御指令S1と、道路リンクの旅行時間や渋滞情報等を含む交通情報S2を、各交通信号機1に送信している。
信号制御指令S1は、信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、交通情報S2は例えば5分ごとに送信される。
【0038】
また、中央装置4の通信部403は、プローブ車両5の位置及び時刻(軌跡)と車両IDとを含む移動計測情報であるプローブ情報S3と、車両感知器3による路側計測情報である感知信号S4とを交通信号制御機1aから受信する。
【0039】
中央装置4の表示部402は、自身が管理するエリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機1や車両感知器3及び光ビーコン6の位置等が表示された表示画面により構成され、中央オペレータに渋滞や事故等の交通状況を報知するものである。
中央装置4の操作部405は、キーボードやマウス等の入力インタフェースよりなり、この操作部405によって中央オペレータが上記表示部402に対する表示切り替え操作等を行えるようになっている。
【0040】
中央装置4の記憶部404は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、上記交通感応制御のための制御プログラムや、この交通感応制御等に用いる交通指標の演算プログラムを記憶しており、制御部401が生成した信号制御指令S1や交通情報S2の一時的な記憶領域も有する。
また、中央装置4の記憶部404は、プローブ用データベースDB1、路側用データベースDB2及び地図データベースDB3を備えている。
【0041】
プローブ用データベースDB1は、プローブ情報S3に含まれる各種計測値(プローブ車両5の通過位置及び時刻やそのイベント種別等)と、この計測値から推定されるリンク始終端での通過時刻等が集積されている。
路側用データベースDB2には、感知信号S4の各種計測値(リンクに対する車両の通過台数等)が集積されている。
【0042】
地図データベースDB3の道路地図データには、交差点IDと交差点の位置とを対応付けた交差点データが含まれている。
道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)のそれぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDとを対応付けた、リンクデータも含まれている。
【0043】
中央装置4の制御部401は、路側用データベースDB2に蓄積された感知信号S4に基づいて、各リンクの推定旅行時間を所定時間ごとに算出し、この推定値を地図データベースDB3に記録する。
なお、路側センサ3からの感知信号S4に基づいて中央装置4自体が各リンクの推定旅行時間を推定する代わりに、VICSセンター(「VICS」は登録商標)などの交通情報配信センターから各リンクの推定旅行時間(すなわち、「VICS旅行時間」)を取得することにしてもよい。
【0044】
中央装置4の制御部401は、管轄エリア内の所定の交差点Jについて、プローブ用データベースDB1に蓄積された、当該交差点Jに流入するプローブ車両5から得られたプローブ情報S3と、路側用データベースDB2に蓄積された、当該交差点Jの所定の車両感知器3から得られた感知信号S4とを用いて、飽和交通流率や待ち行列末尾位置などの交通指標の生成処理(図11)を行う。なお、この生成処理の詳細については後述する。
【0045】
〔中央装置による交通制御の種類等〕
図2は、中央装置4の制御部401が実行する交通制御のアプリケーションと、それに必要な入力情報である交通指標と、その交通指標の算出のために必要となるプローブ情報との関係を示す表である。
例えば、信号制御の高度化のために実施されるMODERATO制御やプロファイル制御に必要な交通指標(交通制御に対する入力情報)は、待ち行列台数と飽和交通流率であり、迂回路優先制御に必要な交通指標は、旅行時間と走行経路である。
【0046】
また、交通流分析のために実施されるボトルネック位置の検出に必要な交通指標は、走行中の車両5の停止回数である。
更に、MOCSで行われるCO2排出量の推定には、車両5の停止回数(なお、この場合には、後述する反復停止と単独停止の区別が必要。)が必要であり、MOCSで行われる動態管理に必要な交通指標は、車両5の走行経路である。
【0047】
〔車載装置〕
図4は、プローブ車両5の車載装置2の内部構成を示す機能ブロック図である。
この車載装置2は、光ビーコン6との間で双方向の光通信を行う路車間通信機能と、搭乗者が設定した目的地に案内するナビゲーション機能を有する。
図4に示すように、車載装置2は、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、光通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208及び制御部209等を含む。
【0048】
GPS処理部201は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、GPS信号に含まれる時刻情報、GPS衛星の軌道、測位補正情報等に基づいて、プローブ車両5の位置(緯度、経度及び高度)を計測する。
方位センサ202は、光ファイバジャイロなどで構成されており、プローブ車両5の方位及び角速度を計測する。車速取得部203は、車速センサ(図示せず)が車輪の角速度を検出することにより計測したプローブ車両5の速度データを取得する。
【0049】
車載装置2の光通信部204は、道路上の所定位置に設定された光ビーコン6の通信領域において、アップリンク情報ULとダウンリンク情報DLを送受信する。すなわち、車載装置2の光通信部204は、交差点Jを流出したプローブ車両5が光ビーコン6の通信領域に入ると、交通情報S2を含むダウンリンク情報DLを受信し、自身のプローブ情報S3を含むアップリンク情報ULを光ビーコン6に送信する。
車載装置2の記憶部205は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成され、ダウンリンク情報DLに含まれる交通情報S2や、アップリンク情報ULに含めるプローブ情報S3等の各種情報を記憶するための記憶領域を有する。
【0050】
また、記憶部205は、道路地図データも記憶している。
この道路地図データには、交差点IDと交差点の位置とを対応付けた交差点データが含まれている。また、道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)それぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDと、最適経路の特定に使用するリンクコストとを対応付けたリンクデータも含まれている。
【0051】
上記リンクコストは、例えば、リンクとその終点に接続するリンクの組み合わせの数だけ用意されており、リンクの始点に進入してから当該リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間が設定されている。
すなわち、リンクコストには、リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点を通過するのに要するコストが含まれている。
【0052】
車載装置2の操作部206は、タッチパネルやボタン等から構成されており、ドライバを含む車両5の搭乗者が目的地の設定等を行えるようになっている。
車載装置2の表示部207は、車両5のダッシュボード部分に取り付けられたモニタ装置(図示せず)よりなり、制御部209が後述する感応要求処理において作成した画像データを搭乗者に表示する。また、音声出力部208は、制御部209が作成した音声データをスピーカー(図示せず)から出力する。
【0053】
車載装置2の制御部209は、マイクロコンピュータ等から構成され、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、光通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208での各処理を制御する。
また、車載装置2の制御部209は、GPS処理部201が計測した車両5の位置、方位センサ202が計測した車両5の方位及び角速度、車速取得部203が取得した車両5の速度の各データ、記憶部205に記憶している道路地図データに基づいてマップマッチング処理を行い、道路地図データのリンク上におけるプローブ車両5の位置を算出することができる。
【0054】
更に、車載装置2の記憶部205には、プローブ車両5の走行中に生じる各種のイベントの発生を判定する「イベント判定処理」と、その各種のイベントの性質に応じて、当該イベントとその関連情報のうちのどれをプローブ情報S3に含めるか否かを決定し、イベントごとにデータが記録されたプローブ情報S3を生成する「情報生成処理」を、制御部209に実行させるためのコンピュータプログラムが格納されている。
【0055】
車載装置2の制御部209は、上記プログラムを記憶部205から読み出して実行することより、上記「イベント判定処理」と「情報生成処理」を実行する。以下、車載装置2の制御部209が行うこれらの処理について説明する。
なお、本実施形態では、インフラ側へのプローブ情報S3の送信手段として光ビーコン6を利用しているので、車載装置2の制御部209は、ある光ビーコン6とその次に通過する光ビーコン6との間の経路を走行中に生じた各種イベントとその関連情報を記載したプローブ情報S3を生成する。
【0056】
〔停止イベントに関する処理内容〕
本実施形態の制御部209が判定する停止イベントには、「単独停止」と「反復停止」とがある。
図5は、それら単独停止と反復停止とを停止イベントの判定方法を示すグラフである。図5のグラフにおいて、横軸は車両5の走行距離であり、縦軸は速度である。
また、図5の第1閾値V1は、車両5の停止が反復停止か単独停止かを判別するための閾値であり、例えば30km/hに設定されている。第2閾値V2は、これ未満の速度の場合に実質的に停止と見なせる値であり、例えば5km/hに設定されている。
【0057】
ここで、「単独停止」とは、非渋滞走行時からの停止のことであり、非渋滞交差点での信号待ち停止や、渋滞交差点での最初の停止がこれに該当する。また、「反復停止」とは、渋滞走行状態からの停止のことであり、渋滞等のために車両5が停止と発進を繰り返す場合(Stop & Go )を想定したイベントである。
例えば、図5の点A及び点Bのように、車両5の速度が、第1閾値V1を超えた状態から単調減少し、その速度が第2閾値V2を下回って当該車両5が停止したと判断される場合には、単独停止と判定される。
【0058】
一方、図5の点Cのように、車両5の速度が、第1閾値V1未満の範囲内において増減してから、その速度が第2閾値V2を下回って当該車両5が停止したと判断される場合には、反復停止と判定される。
以上の判定条件の下で、車載装置2の制御部209は、次の各処理(1)〜(6)を実行する。
【0059】
(1) まず、制御部209は、起動時に、反復停止の回数、単独停止の回数、再発進時刻と停止位置、及び、高速走行フラグをすべてクリアする。
(2) 制御部209は、予め設定された所定時間(例えば、1秒)ごとに、走行軌跡から特定される車両5の速度を監視しており、この所定時間ごとの速度が第1閾値V1以上になれば、高速走行フラグをオンに設定する。
【0060】
(3) 次に、制御部209は、信号5の速度が第2閾値V2未満の状態が、一定秒数(定数設定:例えば5秒)継続した場合には、車両5が停止したと判定する。
この場合、高速走行フラグがオンの場合は、車両5が図5の点A又は点Bの状態であると見なせるので、単独停止の回数をインクリメントし、高速フラグがオフの場合は、図5の点Cの状態であるともなせるので、反復停止の回数をインクリメントする。
【0061】
(4) また、制御部209は、車両5の停止を判定した後、速度が第2閾値V2を超えた場合には、車両5が再発進したと判定する。このとき、高速走行フラグがオンの場合は、単独停止の場合に該当するので、その再発進時刻、停止位置及び停止時間を記憶部205に記憶させる。
【0062】
ただし、制御部209は、停止位置付きの単独停止のイベントについて、プローブ情報S3に含めることができる限定数(定数設定:例えば5回)を予め設定している。
従って、制御部209は、前回のアップリンク情報ULからの単独停止の回数が上記限定数を超える場合には、例えば最も古いデータに上書きして、単独停止の再発進時刻、停止位置及び停止時間を更新する。また、制御部209は、最後に高速走行フラグをオフに設定する。
【0063】
(5) そして、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまで、上記(2)〜(4)の処理を繰り返す。
(6) また、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまでに、以下のイベント情報(a)を含むプローブ情報S3の生成処理を行い、その通過時に、当該プローブ情報S3をアップリンク情報ULに含めて光通信部204に送信させる。
【0064】
(a) 単独停止のイベント情報
・停止位置、再発進時刻及び停止時間
・前回のアップリンクイベントから当該単独停止の前に発生した反復停止の回数
・前回のアップリンクイベントから当該単独停止の前に発生した、データ更新によってアップリンクイベントではなくなった単独停止の回数
【0065】
ここで、上記「アップリンクイベント」とは、少なくとも位置情報を有するイベントとして、外部に送信するプローブ情報S3に含めるイベントのことであり、停止位置を有する上記(a)の単独停止イベントの他、後述する方向変動又は一定距離走行のイベントがこれに含まれる。
なお、制御部209は、光ビーコン6へのアップリンク情報ULの送信後は、アップリンクイベントとしての単独停止のイベント情報を構成する、停止位置、再発進時刻及び停止時間をすべてクリアする。
【0066】
このように、制御部209は、停止イベントが単独停止の場合には、予め定めた限定数(例えば5回)以内のものについては、停止位置、再発進時刻及び停止時間をプローブ情報S3に含めるが、限定数を超えたためデータ更新された単独停止と、すべての反復停止について、その停止位置、再発進時刻及び停止時間をプローブ情報S3に含めない。
もっとも、単独停止と反復停止の停止回数については、次のアップリンクイベントに付随するイベント情報として、プローブ情報S3に含められる。
【0067】
本実施形態の車載装置2によれば、制御部209が、信号待ち等が原因の単独停止と、停止と発進を繰り返す反復停止とを別個のイベントとして判定し、待ち行列台数や飽和交通流率の算出に必要な単独停止については、所定の限定数以下のものが停止位置、再発進時刻及び停止時間をイベント情報として含み、反復停止については、その停止回数のみが別のアップリンクイベントのイベント情報に含められる。
【0068】
従って、プローブ情報S3の記憶や送信のためのデータ量を効率的に使用しつつ、待ち行列台数や飽和交通流率等の交通指標を算出可能なプローブ情報S3を生成することができる。
また、停止回数については、単独停止と反復停止の判別が可能となるように各アップリンクイベントのイベント情報に含められるので、車載装置2からのプローブ情報S3を取得した中央装置4は、そのアップリンクイベントに含まれる停止回数を用いて、MOCSによるCO2の排出量の推定を実行することができる。
【0069】
なお、上記単独停止のイベント情報を構成する時間情報は、プローブ車両5に単独停止が発生した場合における「停止時刻」と「再発進時刻」とを特定可能な時間情報であればよい。
従って、単独停止イベントに含める時間情報は、「再発進時刻」と「停止時間」に限定されるものではなく、「停止時刻」と「停止時間」を採用してもよいし、より直接的に「停止時刻」と「再発進時刻」を採用してもよい。
【0070】
〔方向変動イベントに関する処理内容〕
図6は、方向変動イベントの例を示す道路平面図である。
図6(a)は、交差点での右折(ただし、左折でもよい。)に生じる方向変動イベントを示し、図6(b)は、比較的急カーブの単路で生じる方向変動イベントを示している。
車載装置2の制御部209は、図6に示すような、曲率半径が小さくて車両5の走行方向の変化が大きい「方向変動」をイベントとして抽出し、これに関するプローブ情報S3を生成するため、次の各処理(1)〜(6)を実行する。
【0071】
(1) まず、制御部209は、一定時間(定数設定:例えば1秒)ごとに、隣接する走行軌跡の距離を監視し、記憶部205に前回記憶させた前回軌跡から、車両5が一定距離(定数設定:例えば10m)以上走行すれば、その位置(緯度経度)及び方位(ない場合は前回との相対位置から求める。)を今回軌跡として記憶部205に記憶させる。
(2) 次に、制御部209は、前回軌跡と今回軌跡との方位差が一定(定数設定:例えば5度)以上あれば、方位変化が開始されたと見なす。
【0072】
(3) 更に、制御部209は、前回軌跡と今回軌跡との間の方位差が、一定(定数設定:例えば5度)未満の状態が一定回数(定数設定:例えば2回)になれば、方位変化が終了したとみなす。
(4) 次に、制御部209は、方位変化の開始時点の方位と、方位変化の終了時点の方位との差が一定(定数設定:例えば30度)以上であれば、「方向変動」のイベントが発生したとみなし、その方位変化の終了時点での時刻、位置及び方位を記憶部205に記憶させる。
【0073】
ただし、制御部209は、方向変動のイベントと後述する一定距離走行のイベントについては、前記単独停止とは別に、プローブ情報S3に含めることができる限定数(定数設定:例えば2回)を予め設定している。
従って、制御部209は、それらのイベントの前回のアップリンク情報ULからの合計回数がその限定数を超える場合には、例えば最も古いデータに上書して、方位変化の終了時刻、終了位置及び絶対方位をクリアする。
【0074】
(5) 制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまで、上記(1)〜(4)の処理を繰り返す。
(6) また、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまでに、以下のイベント情報(b)を含むプローブ情報S3の生成処理を行い、その通過時に、当該プローブ情報S3をアップリンク情報ULに含めて光通信部204に送信させる。
【0075】
(b) 方向変動のイベント情報
・方位変化の終了時刻、終了位置及び絶対方位
・前回のアップリンクイベントから当該方向変動の前に発生した反復停止の回数
・前記のアップリンクイベントから当該方向変動の前に発生した、データ更新によってアップリンクイベントではなくなった単独停止の回数
【0076】
なお、制御部209は、光ビーコン6へのアップリンク情報ULの送信後は、アップリンクイベントとしての方向変動のイベント情報を構成する、方位変化の終了時刻、終了位置及び絶対方位をすべてクリアする。
【0077】
〔一定距離走行イベントに関する処理内容〕
車載装置2の制御部209は、車両5が十分に長い一定距離だけ走行したか否か(一定距離走行)をイベントとして判定し、これに関するプローブ情報S3を生成するため、次の処理(1)〜(5)を実行する。
【0078】
(1) まず、制御部209は、前記停止イベント(単独停止及び反復停止)又は方向変動イベントのいずれかが発生した時に、累積走行距離をクリアする。また、制御部209は、累積走行距離が一定距離(定数設定:例えば500m)を越える前に、方向変動のイベントが発生した場合も累積走行距離をクリアする。
(2) 次に、制御部209は、一定時間(定数設定:例えば1秒)ごとに走行軌跡を監視し、前回のイベントからの走行距離を積算して行く。
【0079】
(3) また、制御部209は、累積走行距離が一定距離(定数設定:例えば500m)を越えれば、一定距離走行イベントが発生したと見なし、時刻、位置および方位を記憶部205に記憶させる。
ただし、前記した通り、方向変動と一定距離走行の合計数に限定数(定数設定:例えば2回)が設定されているので、それらのイベントの前回のアップリンク情報ULからの合計回数がその限定数を超える場合には、最も古いデータに上書きして、累積走行距離をクリアする。
【0080】
(4) 制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまで、上記(1)〜(3)の処理を繰り返す。
(5) また、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまでに、以下のイベント情報(c)を含むプローブ情報S3の生成処理を行い、その通過時に、当該プローブ情報S3をアップリンク情報ULに含めて光通信部204に送信させる。
【0081】
(c) 一定距離走行のイベント情報
・一定距離走行の終了時刻、位置および累積走行距離
・前回のアップリンクイベントから当該一定距離走行の前に発生した反復停止の回数
・前回のアップリンクイベントから当該一定距離走行の前に発生した、データ更新によってアップリンクイベントではなくなった単独停止の回数
【0082】
なお、制御部209は、光ビーコン6へのアップリンク情報ULの送信後は、アップリンクイベントとしての一定距離走行のイベント情報を構成する、当該走行の終了時刻、位置および累積走行距離をすべてクリアする。
【0083】
〔感知器イベントに関する処理内容〕
本実施形態の車載装置2は、車両感知器3の設置位置と機器IDを記憶部205に予め記憶している。
これらの情報は、DVD等の記録媒体を介して予め記憶部205に記憶させたり、光ビーコン6からのダウンリンク情報DLによって車両5周辺の車両感知器3の設置位置と機器IDを受信したりすることで、記憶部205に記録されている。
【0084】
車載装置2の制御部209は、自車両5の位置が車両感知器3の設置位置と一致した場合に、車両感知器3の直下を通過したと見なし、その通過位置が単独停止イベントとの関係で所定の条件を満たす場合に、以下のイベント情報(d)を含むプローブ情報S3を生成する。
(d) 感知器通過のイベント情報
・車両感知器の通過時刻
・プローブ車両が通過した車両感知器を中央装置が特定するための識別情報(車両感知器の設置位置又は機器ID)
【0085】
上記所定の条件は、車両5の感知器通過と単独停止のイベント発生地点が比較的近い場合に絞るための条件であり、例えば、制御部209は、単独停止の再発進時刻と車両感知器3の通過時刻との時刻差が所定時間(例えば、10秒)以内である場合に、感知器イベントを生成する。
或いは、制御部209は、単独停止の停止位置と車両感知器3の設置位置の距離差が所定長(例えば、150m)以内である場合に、感知器イベントを生成してもよいし、それらの位置が同じリンク上にある場合に、感知器イベントを生成してもよい。
【0086】
なお、プローブ車両5が、車両感知器3への通過を検出できるセンサを有する場合には、このセンサによって通過を検出した時点を車両感知器3の通過時刻とし、その検出した地点を車両感知器3の設置位置として、上記感知器通過のイベント情報を生成することにしてもよい。
上記センサの例としては、例えば、超音波式の車両感知器3が発信する超音波を検出する超音波センサや、車両感知器3を撮影可能な解像度を有する車載カメラなどがある。
【0087】
〔停止イベントに関する例外処理〕
ところで、図6(a)の点Pは、右折時における交差点内の停止位置を示している。ここで、右折車線に先行車両がない場合には、走行中の車両5が点Pにおいて第2閾値V2未満まで減速し、当該点Pにおいて単独停止又は反復停止が生じる場合がある。
しかし、交差点内の点Pは、信号待ちとは無関係であり、前記待ち行列台数や飽和交通流率の算出には不要であるため、これを停止イベントとして採用すると、無駄なプローブ情報S3を含むアップリンク情報ULがインフラ側に送出されることになる。
【0088】
そこで、車載装置2の制御部209は、記憶部205に含まれる前記道路地図データを参照することにより、車両5の走行位置が道路地図データにおけるどの位置であるかに基づいて、方位変更中の車両5の停止イベントが、図6(a)の点Pに示すような、右折時における交差点内での停止である右折停止か否かを判定し、当該右折停止の場合には、これを前記単独停止や反復停止としては採用しない。
すなわち、制御部209は、上記右折停止については、これをアップリンクイベントとせず、プローブ情報S3に含めない停止イベントとして処理する。
【0089】
これに対して、図6(b)の点Qは、比較的急カーブの単路での方位変更中における車両5の停止位置を示している。ここで、単路の下流側にある交差点の信号が赤になっている場合には、走行中の車両5が点Qにおいて第2閾値V2未満まで減速し、当該点Qにおいて単独停止或いは反復停止が生じる場合がある。
従って、このような単路での方位変更中の点Qでの停止は、図6(a)の右折時とは異なり、待ち行列台数や飽和交通流率の算出に必要であると考えられるため、プローブ情報S3に含める停止イベントとすべきである。
【0090】
そこで、車載装置2の制御部209は、記憶部205に含まれる前記道路地図データを参照することにより、車両5の走行位置が道路地図データにおけるどの位置であるかに基づいて、方位変更中の車両5の停止イベントが、図6(a)の点Qに示すような、単路での方位変更中の停止である単路停止か否かを判定し、当該単路停止の場合には、これを単独停止又は反復停止として採用する。
すなわち、制御部209は、上記単路停止については、これをプローブ情報S3に含める停止イベントとして処理する。
【0091】
〔プローブ情報のフレーム内容〕
図7は、車載装置2の制御部209が生成するプローブ情報S3のフレームフォーマットを示す表である。
図7に示すように、プローブ情報S3のデータ領域には、ヘッダ、基本項目及び属性種別が含まれており、ヘッダには、単独停止の回数と反復停止の回数とを記載することができる。
【0092】
また、基本項目には、位置と計測時刻の記載領域が含まれており、位置は、緯度と経度で記載され、計測時刻は時分秒で記載される。
更に、属性項目には、イベント種別とイベント値の記載領域が含まれている。イベント種別には、その種別或いはフラグが記載され、イベント値には、イベント種別に応じた値として、方位、停止時間及び走行距離のうちの少なくとも1つが記載される。
【0093】
〔プローブ情報のビット割り当て〕
図8は、プローブ情報S3に記す各種情報のビット割り当てを示す表である。
図8に示すように、単独停止の場合の停止時間は8ビットで表され、当初ビットの値で秒と分の場合に区分し、残りの7ビットで時間を表すようになっている。このため、1秒を最小単位として、16進数で0x01(1秒)から0xff(127分)までの時間を割り当てることができる。
【0094】
また、方向変動の場合の絶対方位は、北を「1」とし、時計回りに16単位として割り当てられている。
更に、一定距離走行や方向変動の場合の、前回イベントからの走行距離には8ビットが割り当てられており、5m単位になっている。この場合、16進数で0x01(5m)から0xff(1275m)までの走行距離を割り当てることができる。
【0095】
〔車両の走行挙動と発進波の関係〕
図9は、交差点手前の待ち行列と車両の走行軌跡を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は時刻(秒)、縦軸は交差点Jの停止線からの距離(m)を表している。
図9において、縦ハッチングで示したほぼ三角形状の領域は待ち行列を表す。この領域の上辺は、待ち行列に進入した車両5の停止位置を表し、車両5はまず赤信号(黄信号を含んでもよい。以下同じ。)の待ち行列の末尾に加わって停止する。
【0096】
他方、三角形状の領域の下辺は、青信号になって交差点から発進する車両5の発進位置を表す。青信号になると、車両5は待ち行列の先頭から発進する。
そして、図9に示すように、上記停止位置及び発進位置は、それぞれ時間とともに上流側へ延びて行くものであり、それぞれ伝搬速度を持っている。これらの伝搬速度が前記した停止波及び発進波である。
【0097】
なお、停止波と発進波が交わる時点は、待ち行列中に停止車両がなくなり、車両5が停止することなく、走行を開始した待ち行列の末尾車両に追従していくような境界時点を表す。この時点以後に交差点に進入する車両5は、待ち行列を形成していた車両5の走行車列に加わっていくことになる。
【0098】
図9に示すように、交差点で赤信号に遭遇したことによる、ある特定の車両5の走行軌跡は、車両5が待ち行列に順次到達する際の「停止波」(これは到着交通量に依存する。)と、その後、青信号になって待ち行列内の車両5が動き出す「発進波」の伝搬速度により関係づけられる。
すなわち、交差点での渋滞の程度、交通量の多さ、灯色切り替えタイミングとの関係で、自由走行していた車両5は信号待ちの待ち行列末尾に加わって停止し、所定時間だけ行列内で停止してからその行列内で走行し、交差点Jに至るという走行軌跡を描く。
【0099】
〔飽和交通流率の算出方法〕
図10(a)は飽和交通流率の算出方法を示す説明図であり、図10(b)は平均車頭距離の説明図である。
図10(a)に示すように、あるプローブ車両5の単独停止イベントが発生した停止位置をLt1とし、発進波速度をVaとし、プローブ車両5の待ち行列内での走行速度である流出速度をVbとする。また、図10(b)に示すように、交差点の手前で停止している停止車両の平均車頭距離をhとする。
【0100】
この場合、飽和交通流率(1/秒)s、各速度Va,Vb及び平均車頭距離hの間には、次式が成立する。
1/s=h×(1/Va+1/Vb)
ここで、青開始時点tgからプローブ車両5の発進時点(単独停止の再発進時刻)t1までの経過時間をT1、プローブ車両5の発進時点からプローブ車両5が交差点Jを通過するまでの経過時間をT2とすると、Va=Lt1/T1、Vb=Lt1/T2となる。
【0101】
従って、この経過時間T1,T2を用いると、上記の関係式は、以下のように変形することができる。
h×(T1/Lt1+T2/Lt1)=1/s
h×(T1+T2)/Lt1=1/s
このため、飽和交通流率sは、次の式によって求めることができる。
s=Lt1/{h×(T1+T2)}
【0102】
なお、プローブ車両5の交差点通過時刻は、例えば、光ビーコン6が停止線位置HL(図1参照)に設置されている場合には、光ビーコン6がプローブ車両5からアップリンク情報ULを受信した時刻を当該通過時刻として採用すればよい。
また、複数のプローブ車両5の単独停止のイベント情報が得られている場合には、複数の単独停止のイベント情報から、飽和交通流率sの統計的な代表値(例えば平均値)を当該交差点Jについての飽和交通流率sとして採用すればよい。
【0103】
〔交通指標の生成処理〕
図11は、中央装置4の制御部401が行う交通指標の生成処理のフローチャートを示している。
本実施形態では、中央装置4の制御部401が生成する交通指標は、交差点Jの手前の交通流が飽和している場合における「飽和交通流率」と「待ち行列の末尾位置」である。
【0104】
図11に示すように、中央装置4の制御部401は、まず、特定の車両IDのプローブ車両5について、交差点Jの上流側に単独停止の停止位置があるプローブ情報S3を取得したか否かを判定し(ステップST1)、取得している場合に限り次のステップST2に移行する。
次に、制御部401は、単独停止の位置(交差点Jの停止線を原点とした上流側の距離値)が、車両感知器3の上流側又は下流側のいずれかを判定する(ステップST2)。
【0105】
そして、制御部401は、上流側である場合には第1有効性判定処理を実行し(ステップST3)、下流側である場合には第2有効性判定処理を実行する(ステップST7)。
上記第1有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効である場合(ステップST4でYes)には、制御部401は、プローブ情報S3のイベント情報を用いて飽和交通流率を算出し(ステップST5)、待ち行列の末尾位置を推定する処理の1つである第1推定処理を実行する(ステップST6)。
【0106】
制御部401は、第1有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効でない場合(ステップST4でNo)には、飽和交通流率の算出(ステップST5)と第1推定処理(ステップST6)を行わずに処理を終了する。
【0107】
一方、第2有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効である場合(ステップST8でYes)には、制御部401は、プローブ情報S3のイベント情報を用いて飽和交通流率を算出し(ステップST9)、待ち行列の末尾位置を推定する処理の1つである第2推定処理を実行する(ステップST10)。
また、制御部401は、第2有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効でない場合(ステップST8でNo)にも、飽和交通流率の算出(ステップST9)と第2推定処理2(ステップST10)を行わずに処理を終了する。
【0108】
なお、以下において、プローブ情報S3の停止位置が車両感知器3の上流側である場合に行われる第1有効判定処理から第1推定処理までの一連の処理を、「第1処理モード」といい、プローブ情報S3の停止位置が車両感知器3の下流側である場合に行われる第2有効判定処理から第2推定処理までの一連の処理を、「第2処理モード」という。
【0109】
〔第1処理モードでの処理内容〕
図12は、プローブ車両5の単独停止の停止位置Z1が車両感知器3の設置位置Z0より上流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両5の走行軌跡を示すグラフである。以下、この図12を参照しつつ、中央装置4の制御部401が行う「第1処理モード」での処理内容を説明する。
なお、図12において、太い実線の矢印はプローブ車両5の走行軌跡を示し、破線の矢印は、車載装置2を有しない通常車両5の走行軌跡を示している。
【0110】
また、図12において、Pi(i=1,2……)は、車両感知器3が設置位置Z0において検出する感知信号(パルス信号)S4を時系列に図示したものである。
更に、図12において、時間軸の下方に付した各帯部のうち、白抜きの帯部は青信号時間を示し、黒塗りの帯部は赤信号時間を示し、ハッチングを付した帯部は黄信号時間を示している。
【0111】
また、図12において、白抜きの三角印は、単独停止の一つ前でプローブ車両5に生じた、単独停止以外のアップリンクイベントを示し、黒塗りの三角印は、プローブ車両5に生じた単独停止イベントを示し、黒丸印は、プローブ車両5に生じた感知器イベントを示している。なお、上記の図示上の摘要事項は、図13の場合も同様である。
【0112】
ここで、図12に示すように、プローブ車両5の停止位置Z1が車両感知器3の設置位置Z0の上流側にある場合、プローブ情報S3に含まれる単独停止の停止位置が正確だとすると、少なくとも設置位置Z0よりも更に上流側の停止位置Z1まで、交差点Jの流入路において渋滞が波及している。
また、一般に、渋滞から車両5が発進する場合の発進波は飽和流であり、その捌け率は飽和交通流率で安定している。
【0113】
<第1有効性判定処理>
そこで、中央装置4の制御部401は、渋滞時における上記の特性を利用して、プローブ車両5に含まれるイベント情報と感知信号S4の時系列データPiとの間の整合性を評価して、まず、プローブ情報S3が交通指標の生成用データとして有効か否かを判定する「第1有効性判定処理」(図6のステップST3)を実行する。
具体的には、制御部401は、まず、次の第1発進波速度Va1と第2発進波速度Va2とを求める。
【0114】
「第1発進波速度Va1」
プローブ車両5の停止位置Z1の交差点までの距離を、青開始時点tgからプローブ車両5の発進までの経過時間T1で割った速度
「第2発進波速度Va2」
車両感知器3の設置位置Z0の交差点までの距離を、青開始時点tg以後に最初に車両感知器3が任意の車両5を感知するまでの経過時間T0で割った速度
【0115】
そして、制御部401は、上記で定義される第1発進波速度Va1と第2発進波速度Va2を用いて、次の条件1及び2の双方を満足する場合に、プローブ情報S3を有効と判定し、いずれか一方を満足しない場合には、プローブ情報S3を無効と判定する。
(条件1)両発進波速度Va1,Va2の差分が所定の閾値内にあること。
(条件2)第1発進波速度Va1が定数設定された適正な数値範囲内にあること。
【0116】
なお、条件2における「適正な数値範囲」とは、現地で発生した実際の待ち行列に対する実測データから特定される発進波の伝搬速度の数値範囲よりなり、具体的には、4.5〜6.0m/s、好ましくは5.5〜5.7m/sの数値範囲に設定すればよい。
また、この第1有効性判定処理において、上記の条件1及び2のいずれか一方のみを、プローブ情報S3を有効と判定するための条件としてもよい。
【0117】
<第1推定処理>
次に、中央装置4の制御部401は、第1有効性判定処理を経て有効とされたプローブ情報S3がある場合には、その有効なプローブ情報S3の単独停止と感知器通過のイベント情報を用いて、前述の算出方法(図10参照)によって飽和交通流率sを算出するとともに、待ち行列の末尾位置を推定する「第1推定処理」(図11のステップST6)を実行する。
この第1推定処理には、「基本推定」と「オプション推定」の2種類の推定処理が含まれる。
【0118】
そのうち、基本推定は、有効と判定されたプローブ情報S3に含まれる単独停止イベントから特定される、プローブ車両5の停止位置Z1をそのまま待ち行列の末尾位置として採用する。この場合でも、プローブ情報S3を利用して、少なくとも車両感知器3の設置位置Z0を超えた上流側の位置まで、待ち行列の延伸を推定できるという利点がある。
しかし、上記の「基本推定」では、プローブ車両5の停止位置Z1よりも上流側に延びる待ち行列の末尾位置を推定することができない。
【0119】
そこで、「オプション推定」では、プローブ車両5の停止位置Z1以遠にまで延伸した待ち行列の末尾位置を、感知信号S4の時系列データPiを加味して推定するようになっている。
具体的には、中央装置4の制御部401は、プローブ車両5の感知器通過のイベント情報と、感知信号S4の時系列データPiを用いて次のマッチング処理を行い、プローブ車両5に対応する車両感知器3の感知信号S4であるマッチング信号を抽出する。
【0120】
すなわち、制御部401は、感知器イベントの識別情報によって特定される車両感知器3が検出した感知信号S4の時系列データPiの中から、感知器イベントの通過時刻と所定時間差以内でほぼ一致する感知信号S4を探索し、その感知信号S4をマッチング信号として抽出する。
ここで、仮に、プローブ情報S3に感知器イベント(図12の丸印)が含まれていない従来の場合を想定すると、この場合、単独停止の発進時刻以後にプローブ車両5が設置位置Z0を通過する正確な時刻は不明である。
【0121】
このため、例えば、図12に二点鎖線の矢印で示すように、プローブ車両5が予め設定した一定速度で走行したと仮定して、この矢印が設置位置Z0を横切る時点に近い時系列データP5を、マッチング信号として抽出せざるを得ない。
しかし、実際には、図12の太矢印で示すように、単独停止の発進時刻以後にプローブ車両5が一定速度で走行するとは限らず、時系列データP6の時点で設置位置Z0を横切ることもあり、このような場合には、マッチング信号を正確に抽出できない。
【0122】
この点、本実施形態では、中央装置4の制御部401が、単独停止イベントだけでなく感知器イベントを取得し、かかる感知器イベントの通過時刻とほぼ一致する感知信号S4をマッチング信号として抽出するので、単独停止の発進時刻以後のプローブ車両5の走行状態に関係なく、マッチング信号を正確に抽出することができる。
上記のようにしてマッチング信号を抽出すると、制御部401は、プローブ車両5から飽和流が継続していると見なせる車両台数(当該プローブ車両5を含む。)に平均車頭距離hを乗じた距離値を、プローブ車両5の停止位置Z1に加算することにより、待ち行列の末尾位置を推定する。
【0123】
具体的には、制御部401は、抽出したマッチング信号以後に検出された、時間間隔が所定間隔(例えば、定数設定の閾値)以内である感知信号S4の数をカウントし、この感知信号S4の数に平均車頭距離hを乗じた距離値を、プローブ車両5の停止位置Z1に加算して待ち行列の末尾位置とする。
この場合、定数設定の閾値の代わりに、プローブ車両5の単独停止のイベント情報を用いて既に算出した飽和交通流率の逆数1/s(=h×(T1+T2)/Lt1)を、所定間隔として採用することにしてもよい。
【0124】
その理由は、飽和交通流率の逆数1/sを所定間隔に採用すれば、渋滞からの発進が継続している場合の感知信号S4の数(車両感知器3の通過台数)をより正確にカウントすることができ、待ち行列の末尾位置を正確に推定できるようになるからである。また、飽和交通流率の逆数1/sに余裕を持たせた、1/s+β(補正値)を所定間隔に採用することにしてもよい。
なお、この第1推定処理において、プローブ情報S3に含まれる位置誤差を考慮して、プローブ車両5の停止位置Z1に加算する距離値に対して所定の補正係数α(<1.0)を掛けることにしてもよい。
【0125】
〔第2処理モードでの処理内容〕
図13は、プローブ車両5の停止位置Z1,Z2が車両感知器3の設置位置Z0より下流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両5の走行軌跡を示すグラフである。以下、この図13を参照しつつ、中央装置4の制御部401が行う「第2処理モード」での処理内容を説明する。
【0126】
ここで、図13に示すように、2台のプローブ車両5の停止位置Z1,Z2が車両感知器3の設置位置Z0の下流側にある場合、それらのプローブ情報S3がいすれも正確であり、かつ、2台のプローブ車両5がいずれも同じ車線を走行していたと仮定すると、2台のプローブ車両5が交差点手間で停止した場合の距離差(Z1とZ2の距離差)は、それら2台のプローブ車両5が車両感知器3を通過する間に交差点Jに流入した、他の車両5の台数分によって発生したものと考えられる。
【0127】
<第2有効性判定処理>
そこで、中央装置4の制御部401は、上記の推論を応用して、車両感知器3による2台のプローブ車両5に対応する感知信号S4であるマッチング信号を用いた「第2有効性判定処理」(図11のステップST7)を実行する。
具体的には、制御部401は、2台のプローブ車両5が同じ車線を走行していたことを前提条件として、その2台のプローブ車両5の感知器イベントの通過時刻と感知信号(パルス信号)S4の時系列データPiとを比較し、2つの通過時刻と所定時間差以内でほぼ一致する2つのマッチング信号をそれぞれ抽出する。
【0128】
例えば、図13の例では、図示左側のプローブ車両5の場合には、時系列データP2がマッチング信号として抽出されており、図示右側のプローブ車両5の場合には、時系列データP4がマッチング信号として抽出されている。
ここで、仮に、プローブ情報S3に感知器イベント(図13の丸印)が含まれていない従来の場合を想定すると、この場合、アップリンクイベントから単独停止の停止時刻までの間に、プローブ車両5が設置位置Z0を通過する正確な時刻は不明である。
【0129】
このため、例えば、図13に二点鎖線の矢印で示すように、アップリンクイベントと単独停止とを直線で結び、その直線とZ0が交わる時点における信号(図13の例では時系列データP5)をマッチング信号として抽出せざるを得ない。
しかし、実際には、図13の下流側の太矢印で示すように、アップリンクイベントから単独停止の停止時刻までの間に、プローブ車両5が一定速度で走行するとは限らず、時系列データP4の時点で設置位置Z0を横切ることもあり、このような場合には、マッチング信号を正確に抽出できない。
【0130】
この点、本実施形態では、中央装置4の制御部401が、単独停止イベントだけでなく感知器イベントを取得し、かかる感知器イベントの通過時刻とほぼ一致する感知信号S4をマッチング信号として抽出するので、アップリンクイベントから単独停止の停止時刻までのプローブ車両5の走行状態に関係なく、マッチング信号を正確に抽出することができる。
【0131】
次に、制御部401は、上記2つのマッチング信号の間の時間帯に検出された車両台数に平均車頭距離hを乗じて算出した距離値ΔZ’と、当該2台のプローブ車両5の停止位置Z1,Z2の距離差ΔZ(=Z2−Z1)とを算出する。
そして、制御部401は、上記距離値ΔZ’と距離差ΔZの差分が予め設定した所定の閾値内にある場合に、当該2台のプローブ車両5に対応する各プローブ情報S3を有効と判定し、その閾値を外れる場合には、各プローブ情報S3を無効と判定する。
【0132】
なお、この場合、2つのマッチング信号の間の時間帯に検出された車両台数と、2台のプローブ車両5の停止位置Z1,Z2の距離差ΔZを平均車頭距離hで除した台数との差が、予め設定した所定の閾値内にある場合に、当該2台のプローブ車両5に対応する各プローブ情報S3を有効と判定することにしてもよい。
【0133】
また、この第2有効性判定処理の場合も、前記した第1有効性判定処理の「条件2」、すなわち、第1発進波速度Va1が定数設定された適正な数値範囲内にあることを、各プローブ情報S3を有効と判定する条件として付加することにしてもよい。
また、この第2有効性判定処理において、第1有効性判定処理の「条件2」のみを、各プローブ情報S3を有効と判定する条件に設定してもよい。
【0134】
<第2推定処理>
次に、中央装置4の制御部401は、第2有効性判定処理を経て有効とされた2つのプローブ情報S3がある場合には、その有効なプローブ情報S3の単独停止イベントを用いて、前述の算出方法(図10参照)によって飽和交通流率sを算出するとともに、待ち行列の末尾位置を推定する「第2推定処理」(図6のステップST10)を実行する。
【0135】
具体的には、制御部401は、2台のプローブ車両5のうちいずれか一方を選択し、その選択したプローブ車両5の感知器通過時点(マッチング信号の検出時点)から青開始時点tgまでの間に車両感知器3が検出した車両台数をカウントする。
そして、制御部401は、カウントした車両台数に平均車頭距離hを乗算した距離値を、選択したプローブ車両5の停止位置Z1(又はZ2)に加算した値を、待ち行列の末尾位置として採用する。
【0136】
なお、車両台数のカウントを、上記「青開始時点tg」で止めるのではなく、所定速度(定数設定の速度値でもプローブ車両5の速度値でもよい。)の車両5が車両感知器3を通過してから渋滞時の停止波にぶつかる時点tq(図13参照)までシフトしてもよい。この場合、待ち行列の末尾位置の推定範囲をより上流側まで延ばすことができる。
【0137】
〔車載装置の効果〕
以上の通り、本実施形態の車載装置2によれば、制御部209が、単独停止イベントだけでなく感知器イベントを含むプローブ情報S3を生成可能であり、生成したプローブ情報S3を、光通信部204を通じて光ビーコン6にアップリンク送信する。そして、その感知器イベントには、車両感知器3の識別情報(設置位置又は機器ID)と、車両感知器3に対するプローブ車両5の通過時刻とが含まれている。
【0138】
従って、上記イベント情報を含むプローブ情報S3を取得した中央装置4において、車両感知器3が検出した時系列の感知信号S4の中から、感知器イベントの通過時刻とタイミングがほぼ一致する信号を探索することにより、待ち行列に関する交通指標の推定に有用な、プローブ車両5に対応する感知信号(マッチング信号)S5を正確に抽出することができる。
【0139】
〔中央装置の効果〕
また、本実施形態の中央装置4によれば、制御部401が、感知器イベントの通過時刻と対応する感知信号S4であるマッチング信号を抽出し、抽出されたマッチング信号以後に検出された感知信号S4の数に基づいて、待ち行列に関する交通指標を推定するので、正確に抽出されたマッチング信号を用いた交通指標の推定が可能となる。
このため、プローブ車両5の車載装置2から得られたプローブ情報S3に含まれるイベント(停止イベントと感知器イベント)を用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【0140】
〔第1の変形例〕
上述の実施形態において、中央装置4の制御部401のプローブ用データベースDB1に、車両IDごとの車長を記憶させることにしてもよい。
この場合、中央装置4の制御部401が、マッチング処理を行った後のプローブ車両5の車両IDの車長をデータベースDB1から読み出し、読み出した車長をマッチング信号のオン時間で除算することにより、プローブ車両5の速度を算出することができる。
【0141】
このようにすれば、上述の実施形態のように、データ通信量を削減するためにイベント情報に車両の速度を含めないシステムの場合でも、マッチング信号を利用してプローブ車両5の速度を正確に算出できるという利点がある。
【0142】
〔第2の変形例〕
上述の実施形態では、プローブ車両5の車載装置2が自車両についてのイベント情報を含むプローブ情報S3を生成しているが、このプローブ情報S3を路側の通信装置にて生成することにしてもよい。
すなわち、プローブ車両5からは走行軌跡を短周期で外部に無線送信し、交差点付近で走行軌跡を受信した路側装置(例えば、交通信号制御機1aや情報中継装置)にて、プローブ車両5ごとにイベント記録方式のプローブ情報S3に変換し、変換したプローブ情報S3を中央装置4に送信してもよい。
【0143】
〔その他の変形例〕
上述の実施形態(各変形例を含む。)は例示であって本発明の権利範囲を制限するものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
例えば、上述の実施形態では、中央装置4の制御部401が求める待ち行列に関する交通指標がその待ち行列の末尾位置になっているが、制御部401が求める交通指標は待ち行列台数であってもよい。
【0144】
上述の実施形態では、中央装置4の制御部401が、飽和交通流率や待ち行列に関する交通指標の生成処理(図11)を行っているが、交通信号制御機1aや情報中継装置の制御部(図示せず。)がその生成処理を行うことにしてもよい。
また、プローブ情報S3をインフラ側にアップリンクする手段としては、前記光ビーコン6に限らず、その他の狭域通信装置や、ITS無線機及び携帯電話機その他の通信手段によって行うこともできる。
【0145】
本発明は、中央装置4が広域制御を行う場合に限らず、LANに含まれる複数の交通信号制御機1aが、中央装置4による制御とは別個のグループ単位での系統制御又は広域制御を行う場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0146】
1 交通信号機
1a 交通信号制御機
2 車載装置(情報処理装置)
3 車両感知器
4 中央装置(交通指標推定装置)
5 プローブ車両
6 光ビーコン
204 光通信部(送信手段)
209 制御部(検出手段、情報生成手段)
401 制御部(抽出手段、推定手段)
403 通信部(取得手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中のプローブ車両に生じたイベントを生成してプローブ情報に含めるイベント記録方式の情報処理装置と、生成されたプローブ情報を用いて交通指標を推定する交通指標生成装置と、その情報処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が存在しないのに青が表示される無駄青時間の発生や、車両が存在するのに青時間が不足するような状況に陥らないように、適切な信号制御を実現するためには、処理すべき交通需要と処理できる交通容量を正確に把握することが重要である。
この場合、交通需要は、「前回の制御対象周期で捌け残った車両台数(待ち行列台数)と、今回の制御対象周期に新たに到着する車両台数の和」として記述される。また、交差点の処理容量は、「青1秒あたりの通過最大可能台数を表す飽和交通流率×青時間」として記述される。
【0003】
しかし、現在普及している超音波感知方式の車両感知器は、その設置場所の直下を通過する車両台数をスポット的に計測するものであるから、車両感知器が検出する時系列の感知信号(パルス信号)から、連続的に任意の位置に変動する待ち行列の末尾位置や待ち行列台数(以下、「待ち行列に関する交通指標」ということがある。)を直接的に求めることは困難である。
また、車両感知器では車両が飽和流か否かを判断することが困難であるため、時系列の感知信号から飽和交通流率を直接的に計測することも困難である。
【0004】
そこで、近年、車両が計測した自車両の走行状態に関する情報を、無線通信システムを通じて路側の交通情報処理装置(中央装置等)に送信し、この情報を用いて上記の交通指標を推定することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
上記の情報は「プローブ情報」と呼ばれ、このプローブ情報の記録方式としては、時系列に変化する車両の位置、進行方向、速度等の走行軌跡情報を所定の周期で記録する、「軌跡記録方式」がある。
【0005】
この軌跡記録方式としては、データの記録周期が比較的短い(例えば、0.1〜1秒)短周期方式と、比較的長い(例えば、数十秒)長周期方式とがある。
このうち、前者の短周期方式では、走行経路にほぼ沿った正確な走行軌跡が得られる反面、多数のプローブ車両を運用するシステムでは、データ通信やデータの蓄積に多大なコストがかかるという欠点がある。逆に、後者の長周期方式では、データ量が少なくシステムを安価に構築できる反面、所定時間内に得られるデータ数が少ないため、地点間を繋いだ傾きが実際の経路や速度を反映せず、交通指標の推定に適さないという欠点がある。
【0006】
そこで、本出願人は、車両の走行軌跡そのものではなく、走行中の車両に生じる代表的なイベント(走行挙動)ごとにデータを纏めたプローブ情報を生成する方式(以下、「イベント記録方式」という。)を採用した、情報処理装置を既に提案している(例えば、特許文献2参照)。
この従来の情報処理装置では、プローブ情報に記録する代表的なイベントの種別として、次の1)〜3)の種別が含まれている。
【0007】
1) 信号待ちや渋滞末尾への到達による停止と推定される「単独停止」
2) 曲率半径が小さい大きな走行方向の変動(交差点での右折や左折を含む。)である「方向変動」
3) 車両が一定距離以上の走行を継続する「一定距離走行」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−241429号公報
【特許文献2】特開2010−244315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記軌跡記録方式にしてもイベント記録方式にしても、プローブ情報は、路側に無線送信できる車載装置を搭載した車両(プローブ車両)から得られる、限定的なサンプル情報であるため、待ち行列が最終的にどの程度まで延伸しているかをプローブ情報だけから推定するのは困難である。
そこで、プローブ車両の通過に対応する車両感知器の感知信号(マッチング信号)を抽出し、このマッチング信号以後に検出された感知信号の数を用いて、待ち行列に関する交通指標を推定すれば、その推定を正確に行うことができる(例えば、特願2010−176292号、特願2010−176454号参照)。
【0010】
しかし、従来のイベント記録方式の情報処理装置では、短周期方式のような時間差が短い走行軌跡ではなく、単独停止、方向変動及び一定距離走行といった、イベント間の距離差や時間差が大きいイベントがプローブ情報に含まれているので、プローブ車両に対応する感知信号であるマッチング信号を正確に抽出できない場合がある。
このため、従来のイベント記録方式の情報処理装置では、プローブ情報と感知信号とのマッチングを利用した、待ち行列に関する交通指標の推定が不正確になる可能性がある。
【0011】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑み、待ち行列に関する交通指標の推定を正確に行うためのイベントを含むプローブ情報を生成できる、イベント記録方式の情報処理装置を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、プローブ情報に含まれるイベントを用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定できる、交通指標推定装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 本発明の情報処理装置は、走行中のプローブ車両に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理装置であって、交差点の流入路に設置された車両感知器に対する前記プローブ車両の通過時刻を検出する検出手段と、前記プローブ車両の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、前記車両感知器の識別情報と検出された前記プローブ車両の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報を生成する情報生成手段と、生成された前記プローブ情報を外部に送信する送信手段と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の情報処理装置によれば、情報生成手段がプローブ情報に含める感知器イベントに、車両感知器の識別情報(例えば、車両感知器の設置位置や機器ID)と、検出手段で検出された車両感知器に対するプローブ車両の通過時刻とが含まれている。
従って、車両感知器が検出した時系列の感知信号の中から、感知器イベントの通過時刻とタイミングがほぼ一致する信号を探索すれば、待ち行列に関する交通指標の推定に有用な、プローブ車両に対応する感知信号(マッチング信号)を正確に抽出できる。
【0014】
このため、本発明の情報処理装置によれば、待ち行列に関する交通指標の推定を正確に行うためのイベント(停止イベントと感知器イベント)を含むプローブ情報を生成することができ、前記第1の目的が達成される。
【0015】
(2) 本発明の交通指標推定装置は、渋滞時の待ち行列に関する交通指標を推定する交通指標推定装置であって、交差点の流入路に設置された車両感知器が検出する時系列の感知信号と、上記(1)の情報処理装置が送信した前記プローブ情報と、前記交差点における信号灯器の灯色切り替えタイミングとを取得する取得手段と、前記感知器イベントの前記通過時刻と対応する前記感知信号であるマッチング信号を抽出する抽出手段と、抽出された前記マッチング信号以後に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する推定手段と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明の交通指標推定装置によれば、抽出手段が、感知器イベントの通過時刻と対応する感知信号であるマッチング信号を抽出し、推定手段が、抽出されたマッチング信号以後に検出された感知信号の数に基づいて、待ち行列に関する交通指標を推定するので、正確に抽出されたマッチング信号を用いた交通指標の推定が可能となる。
このため、上記(1)の情報処理装置から得られたプローブ情報に含まれるイベント(停止イベントと感知器イベント)を用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができ、前記第2の目的が達成される。
【0017】
(3) 具体的には、前記推定手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも上流側にある場合には、抽出された前記マッチング信号以後に検出された時間間隔が所定間隔以内である前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定すればよい。
この場合、停止イベントの停止位置が車両感知器の設置位置よりも上流側にある場合における、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【0018】
(4) また、前記推定手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも下流側にある場合に、前記マッチング信号から次の(a)又は(b)の時点までの間に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定すればよい。
(a)プローブ車両が流入する流入路の青開始時点
(b)所定速度の任意車両が車両感知器を通過してから渋滞時の停止波にぶつかる時点
この場合、停止イベントの停止位置が車両感知器の設置位置よりも下流側にある場合における、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【0019】
(5) 本発明の交通指標推定装置において、前記プローブ車両の車長を記憶する記憶部を更に備えている場合には、前記推定手段は、前記マッチング信号のオン時間と記憶された前記プローブ車両の車長とに基づいて、前記プローブ車両の速度を算出することが好ましい。
この場合、プローブ情報のイベントのデータにプローブ車両の速度を含めなくても、プローブ車両の速度を正確に算出することができる。
【0020】
(6) 本発明のコンピュータプログラムは、本発明の情報処理装置による情報処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、本発明の情報処理装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明の情報処理装置によれば、待ち行列に関する交通指標の推定を正確に行うためのイベントを含むプローブ情報を生成することができる。
また、本発明の交通指標推定装置によれば、プローブ情報に含まれるイベントを用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用可能な交通制御システムを示す道路平面図である。
【図2】交通制御のアプリケーション、交通指標及びプローブ情報の関係を示す表である。
【図3】中央装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図4】車載装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図5】停止イベントの判定方法を示すグラフである。
【図6】方向変動イベントの例を示す道路平面図である。
【図7】プローブ情報のフレームフォーマットを示す表である。
【図8】プローブ情報に記す各種情報のビット割り当てを示す表である。
【図9】交差点手前の待ち行列と車両の走行軌跡を示すグラフである。
【図10】(a)は飽和交通流率の算出方法を示す説明図であり、(b)は平均車頭距離の説明図である。
【図11】中央装置の制御部が行う交通指標の生成処理のフローチャートである。
【図12】プローブ車両の停止位置が車両感知器の設置位置より上流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両の走行軌跡を示すグラフである。
【図13】プローブ車両の停止位置が車両感知器の設置位置より下流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両の走行軌跡を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔用語の定義〕
本発明の実施形態を説明するに当たり、まず、本明細書で用いる用語の定義を行う。
「車両感知器」:道路を走行する車両の存在を定位置で1台ずつ検出する路側センサのことをいう。例えば、直下を通行する車両を超音波で感知する超音波式の車両感知器や、車両通過時の温度変化から車両の通過を感知する温度式の車両感知器や、インダクタンス変化で車両を感知する道路に埋め込まれたループコイル等がこれに該当する。
【0024】
「感知信号」:道路の所定位置に設置された車両感知器が、1台の車両を検出した時に出力するパルス信号のことをいう。従って、複数台の車両が車両感知器を通過した場合には、各車両に対応する感知信号が時系列に出力される。
「プローブ情報」:実際に道路を走行するプローブ車両の車載装置から得られる車両に関する各種情報のことをいう。車両ID、車両位置、車両方位及びこれらの発生時刻などのデータがこれに含まれる。なお、後述の通り、本実施形態のプローブ情報には、単独停止、方向変動、一定距離走行、感知器通過などのイベント単位でデータが記録される。
【0025】
「灯色切り替えタイミング」:交差点の信号灯色を切り替えるタイミングに関する情報のことをいう。信号灯色の開始時刻(青信号開始、黄信号開始、赤信号開始時刻及び右左折矢印の開始時刻)、信号灯色時間(青信号時間、黄信号時間、赤信号時間及び右左折矢印時間)、信号パラメータ(スプリット、信号サイクル及びオフセット)等がこれに含まれる。
【0026】
「待ち行列」:信号待ち等のために交差点の手前で停止している車両の行列のことをいう。
「交差点の渋滞」:交差点の手前にできた待ち行列が1回の青信号時間で捌けない状況のことをいう。従って、1回の青信号時間で信号待ち行列が捌ける場合は、当該交差点では「渋滞」が生じていない。
【0027】
「停止波」:赤信号になると信号待ち行列が発生し、行列の長さが時間とともに増大する。この待ち行列長さを長くする伝達波のことを停止波という。
「発進波」:信号待ち行列の発生中に青信号に切り替わると、交差点に近い前方の車両から順に発進し始める。この信号待ち車両が発進する時の伝達波を発進波という。
【0028】
「発進波速度」:発進波の伝搬速度のことをいう。すなわち、発進波遅れを車両停止位置の一次関数で定義した場合の、当該一次関数の傾きのことである。
「流入路」「流出路」:ある交差点から見て、当該交差点に向かって流入する方向に進む道路を流入路といい、当該交差点から流出する方向に進む道路を流出路という。
【0029】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明が適用可能な交通制御システムの一例を示す道路平面図である。
図1に示すように、本実施形態の交通制御システムは、交通信号機1、車載装置2、車両感知器3、中央装置4、車載装置2を搭載した車両5及び光ビーコン6などを含む。
【0030】
図1に示す交差点Jでは、比較的交通量の多い主道路RM1,RM2と、比較的交通量の少ない従道路RS1,RS2とが合流しており、主道路RM1の交差点Jに対する流入路に車両感知器3が設置されている。
交差点Jに向かう流入路を走行する車両5のうち、一部の車両5には光ビーコン6対応の車載装置2が搭載されているが、当該車載装置2を搭載していない車両5もある。なお、本明細書において、車載装置2を搭載した車両を「プローブ車両」といい、車載装置2を搭載していない車両を「通常車両」ということがある。
【0031】
交通信号機1は、主道路RM1,RM2及び従道路RS1,RS2のそれぞれに設置された4つの信号灯器1bと、この信号灯器1bと通信回線を介して接続された交通信号制御機1aとを備えている。
交通信号制御機1aは、電話回線等の通信回線を介して交通管制センター内の中央装置4に接続されている。中央装置4は、自身の管轄エリア内にある各交差点Jの交通信号制御機1aとローカルエリアネットワーク(LAN)を構成している。
【0032】
従って、中央装置4は、交通信号制御機1aとそれぞれ双方向通信が可能であり、交通信号制御機1aは他の交差点の同制御機1aとも双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
交通信号制御機1aは、MODERATO(Management by Origin-DEstination Related Adaptation for Traffic Optimization)制御等の交通感応制御を行った結果の出力である信号制御指令S1を、中央装置4から受信し、この信号制御指令S1に基づいて、各信号灯器1bに含まれる信号灯の点灯、消灯及び点滅を制御する。
【0033】
交通信号制御機1aは、光ビーコン6とも通信回線で繋がっており、中央装置4から受信した渋滞情報や旅行時間等を含む交通情報S2を光ビーコン6に送信する。
光ビーコン6は、プローブ車両5の車載装置2と光信号での双方向通信が可能であり、上記交通情報S2をダウンリンク情報DLに含めて送信する。また、車載装置2が光ビーコン6に送信するアップリンク情報ULには、後述のプローブ情報S3が含まれている。このプローブ情報S3は、そのアップリンク情報ULの受信時刻及びビーコンIDとともに、交通信号制御機1aを介して中央装置4に転送される。
【0034】
なお、図1の例では、光ビーコン6が交差点Jの流出路に設置されているが、この光ビーコン6を、交差点Jへの流入地点(例えば、図1の停止線位置HL)に設置することにしてもよい。
車両感知器3は、交差点Jに流入する車両5の台数や平均速度等を計測する目的で、管轄エリア内の一部の道路に設置されている。車両感知器3が検出した路側計測情報である感知信号S4は、交通信号制御機1aで中継されて、通信回線を介して中央装置4に送信される。
【0035】
〔中央装置〕
図3は、中央装置4の内部構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、中央装置4は、制御部401、表示部402、通信部403、記憶部404及び操作部405を含んでいる。
中央装置4の制御部401は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなり、交通信号制御機1aからの各種の交通情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。なお、中央装置4の制御部401は、内部バスを介して上記ハードウェア各部と繋がっており、これら各部の動作も制御する。
【0036】
中央装置4の制御部401は、自身の管轄エリアに属する交通信号制御機1aに対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を実行可能である。
すなわち、中央装置4の制御部401は、交通状況に応じて信号制御パラメータ(スプリット、サイクル長及びオフセット等)を設定する交通感応制御を行うものであり、制御部401が行う交通感応制御には、例えば、前記MODERATO制御やプロファイル制御等を含む複数種類のものが含まれる。
【0037】
中央装置4の通信部403は、通信回線を介してLAN側と接続された通信インタフェースであり、所定時間ごとの信号灯器1bの灯色切り替えタイミング等に関する信号制御指令S1と、道路リンクの旅行時間や渋滞情報等を含む交通情報S2を、各交通信号機1に送信している。
信号制御指令S1は、信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、交通情報S2は例えば5分ごとに送信される。
【0038】
また、中央装置4の通信部403は、プローブ車両5の位置及び時刻(軌跡)と車両IDとを含む移動計測情報であるプローブ情報S3と、車両感知器3による路側計測情報である感知信号S4とを交通信号制御機1aから受信する。
【0039】
中央装置4の表示部402は、自身が管理するエリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機1や車両感知器3及び光ビーコン6の位置等が表示された表示画面により構成され、中央オペレータに渋滞や事故等の交通状況を報知するものである。
中央装置4の操作部405は、キーボードやマウス等の入力インタフェースよりなり、この操作部405によって中央オペレータが上記表示部402に対する表示切り替え操作等を行えるようになっている。
【0040】
中央装置4の記憶部404は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、上記交通感応制御のための制御プログラムや、この交通感応制御等に用いる交通指標の演算プログラムを記憶しており、制御部401が生成した信号制御指令S1や交通情報S2の一時的な記憶領域も有する。
また、中央装置4の記憶部404は、プローブ用データベースDB1、路側用データベースDB2及び地図データベースDB3を備えている。
【0041】
プローブ用データベースDB1は、プローブ情報S3に含まれる各種計測値(プローブ車両5の通過位置及び時刻やそのイベント種別等)と、この計測値から推定されるリンク始終端での通過時刻等が集積されている。
路側用データベースDB2には、感知信号S4の各種計測値(リンクに対する車両の通過台数等)が集積されている。
【0042】
地図データベースDB3の道路地図データには、交差点IDと交差点の位置とを対応付けた交差点データが含まれている。
道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)のそれぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDとを対応付けた、リンクデータも含まれている。
【0043】
中央装置4の制御部401は、路側用データベースDB2に蓄積された感知信号S4に基づいて、各リンクの推定旅行時間を所定時間ごとに算出し、この推定値を地図データベースDB3に記録する。
なお、路側センサ3からの感知信号S4に基づいて中央装置4自体が各リンクの推定旅行時間を推定する代わりに、VICSセンター(「VICS」は登録商標)などの交通情報配信センターから各リンクの推定旅行時間(すなわち、「VICS旅行時間」)を取得することにしてもよい。
【0044】
中央装置4の制御部401は、管轄エリア内の所定の交差点Jについて、プローブ用データベースDB1に蓄積された、当該交差点Jに流入するプローブ車両5から得られたプローブ情報S3と、路側用データベースDB2に蓄積された、当該交差点Jの所定の車両感知器3から得られた感知信号S4とを用いて、飽和交通流率や待ち行列末尾位置などの交通指標の生成処理(図11)を行う。なお、この生成処理の詳細については後述する。
【0045】
〔中央装置による交通制御の種類等〕
図2は、中央装置4の制御部401が実行する交通制御のアプリケーションと、それに必要な入力情報である交通指標と、その交通指標の算出のために必要となるプローブ情報との関係を示す表である。
例えば、信号制御の高度化のために実施されるMODERATO制御やプロファイル制御に必要な交通指標(交通制御に対する入力情報)は、待ち行列台数と飽和交通流率であり、迂回路優先制御に必要な交通指標は、旅行時間と走行経路である。
【0046】
また、交通流分析のために実施されるボトルネック位置の検出に必要な交通指標は、走行中の車両5の停止回数である。
更に、MOCSで行われるCO2排出量の推定には、車両5の停止回数(なお、この場合には、後述する反復停止と単独停止の区別が必要。)が必要であり、MOCSで行われる動態管理に必要な交通指標は、車両5の走行経路である。
【0047】
〔車載装置〕
図4は、プローブ車両5の車載装置2の内部構成を示す機能ブロック図である。
この車載装置2は、光ビーコン6との間で双方向の光通信を行う路車間通信機能と、搭乗者が設定した目的地に案内するナビゲーション機能を有する。
図4に示すように、車載装置2は、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、光通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208及び制御部209等を含む。
【0048】
GPS処理部201は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、GPS信号に含まれる時刻情報、GPS衛星の軌道、測位補正情報等に基づいて、プローブ車両5の位置(緯度、経度及び高度)を計測する。
方位センサ202は、光ファイバジャイロなどで構成されており、プローブ車両5の方位及び角速度を計測する。車速取得部203は、車速センサ(図示せず)が車輪の角速度を検出することにより計測したプローブ車両5の速度データを取得する。
【0049】
車載装置2の光通信部204は、道路上の所定位置に設定された光ビーコン6の通信領域において、アップリンク情報ULとダウンリンク情報DLを送受信する。すなわち、車載装置2の光通信部204は、交差点Jを流出したプローブ車両5が光ビーコン6の通信領域に入ると、交通情報S2を含むダウンリンク情報DLを受信し、自身のプローブ情報S3を含むアップリンク情報ULを光ビーコン6に送信する。
車載装置2の記憶部205は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成され、ダウンリンク情報DLに含まれる交通情報S2や、アップリンク情報ULに含めるプローブ情報S3等の各種情報を記憶するための記憶領域を有する。
【0050】
また、記憶部205は、道路地図データも記憶している。
この道路地図データには、交差点IDと交差点の位置とを対応付けた交差点データが含まれている。また、道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)それぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDと、最適経路の特定に使用するリンクコストとを対応付けたリンクデータも含まれている。
【0051】
上記リンクコストは、例えば、リンクとその終点に接続するリンクの組み合わせの数だけ用意されており、リンクの始点に進入してから当該リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間が設定されている。
すなわち、リンクコストには、リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点を通過するのに要するコストが含まれている。
【0052】
車載装置2の操作部206は、タッチパネルやボタン等から構成されており、ドライバを含む車両5の搭乗者が目的地の設定等を行えるようになっている。
車載装置2の表示部207は、車両5のダッシュボード部分に取り付けられたモニタ装置(図示せず)よりなり、制御部209が後述する感応要求処理において作成した画像データを搭乗者に表示する。また、音声出力部208は、制御部209が作成した音声データをスピーカー(図示せず)から出力する。
【0053】
車載装置2の制御部209は、マイクロコンピュータ等から構成され、GPS処理部201、方位センサ202、車速取得部203、光通信部204、記憶部205、操作部206、表示部207、音声出力部208での各処理を制御する。
また、車載装置2の制御部209は、GPS処理部201が計測した車両5の位置、方位センサ202が計測した車両5の方位及び角速度、車速取得部203が取得した車両5の速度の各データ、記憶部205に記憶している道路地図データに基づいてマップマッチング処理を行い、道路地図データのリンク上におけるプローブ車両5の位置を算出することができる。
【0054】
更に、車載装置2の記憶部205には、プローブ車両5の走行中に生じる各種のイベントの発生を判定する「イベント判定処理」と、その各種のイベントの性質に応じて、当該イベントとその関連情報のうちのどれをプローブ情報S3に含めるか否かを決定し、イベントごとにデータが記録されたプローブ情報S3を生成する「情報生成処理」を、制御部209に実行させるためのコンピュータプログラムが格納されている。
【0055】
車載装置2の制御部209は、上記プログラムを記憶部205から読み出して実行することより、上記「イベント判定処理」と「情報生成処理」を実行する。以下、車載装置2の制御部209が行うこれらの処理について説明する。
なお、本実施形態では、インフラ側へのプローブ情報S3の送信手段として光ビーコン6を利用しているので、車載装置2の制御部209は、ある光ビーコン6とその次に通過する光ビーコン6との間の経路を走行中に生じた各種イベントとその関連情報を記載したプローブ情報S3を生成する。
【0056】
〔停止イベントに関する処理内容〕
本実施形態の制御部209が判定する停止イベントには、「単独停止」と「反復停止」とがある。
図5は、それら単独停止と反復停止とを停止イベントの判定方法を示すグラフである。図5のグラフにおいて、横軸は車両5の走行距離であり、縦軸は速度である。
また、図5の第1閾値V1は、車両5の停止が反復停止か単独停止かを判別するための閾値であり、例えば30km/hに設定されている。第2閾値V2は、これ未満の速度の場合に実質的に停止と見なせる値であり、例えば5km/hに設定されている。
【0057】
ここで、「単独停止」とは、非渋滞走行時からの停止のことであり、非渋滞交差点での信号待ち停止や、渋滞交差点での最初の停止がこれに該当する。また、「反復停止」とは、渋滞走行状態からの停止のことであり、渋滞等のために車両5が停止と発進を繰り返す場合(Stop & Go )を想定したイベントである。
例えば、図5の点A及び点Bのように、車両5の速度が、第1閾値V1を超えた状態から単調減少し、その速度が第2閾値V2を下回って当該車両5が停止したと判断される場合には、単独停止と判定される。
【0058】
一方、図5の点Cのように、車両5の速度が、第1閾値V1未満の範囲内において増減してから、その速度が第2閾値V2を下回って当該車両5が停止したと判断される場合には、反復停止と判定される。
以上の判定条件の下で、車載装置2の制御部209は、次の各処理(1)〜(6)を実行する。
【0059】
(1) まず、制御部209は、起動時に、反復停止の回数、単独停止の回数、再発進時刻と停止位置、及び、高速走行フラグをすべてクリアする。
(2) 制御部209は、予め設定された所定時間(例えば、1秒)ごとに、走行軌跡から特定される車両5の速度を監視しており、この所定時間ごとの速度が第1閾値V1以上になれば、高速走行フラグをオンに設定する。
【0060】
(3) 次に、制御部209は、信号5の速度が第2閾値V2未満の状態が、一定秒数(定数設定:例えば5秒)継続した場合には、車両5が停止したと判定する。
この場合、高速走行フラグがオンの場合は、車両5が図5の点A又は点Bの状態であると見なせるので、単独停止の回数をインクリメントし、高速フラグがオフの場合は、図5の点Cの状態であるともなせるので、反復停止の回数をインクリメントする。
【0061】
(4) また、制御部209は、車両5の停止を判定した後、速度が第2閾値V2を超えた場合には、車両5が再発進したと判定する。このとき、高速走行フラグがオンの場合は、単独停止の場合に該当するので、その再発進時刻、停止位置及び停止時間を記憶部205に記憶させる。
【0062】
ただし、制御部209は、停止位置付きの単独停止のイベントについて、プローブ情報S3に含めることができる限定数(定数設定:例えば5回)を予め設定している。
従って、制御部209は、前回のアップリンク情報ULからの単独停止の回数が上記限定数を超える場合には、例えば最も古いデータに上書きして、単独停止の再発進時刻、停止位置及び停止時間を更新する。また、制御部209は、最後に高速走行フラグをオフに設定する。
【0063】
(5) そして、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまで、上記(2)〜(4)の処理を繰り返す。
(6) また、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまでに、以下のイベント情報(a)を含むプローブ情報S3の生成処理を行い、その通過時に、当該プローブ情報S3をアップリンク情報ULに含めて光通信部204に送信させる。
【0064】
(a) 単独停止のイベント情報
・停止位置、再発進時刻及び停止時間
・前回のアップリンクイベントから当該単独停止の前に発生した反復停止の回数
・前回のアップリンクイベントから当該単独停止の前に発生した、データ更新によってアップリンクイベントではなくなった単独停止の回数
【0065】
ここで、上記「アップリンクイベント」とは、少なくとも位置情報を有するイベントとして、外部に送信するプローブ情報S3に含めるイベントのことであり、停止位置を有する上記(a)の単独停止イベントの他、後述する方向変動又は一定距離走行のイベントがこれに含まれる。
なお、制御部209は、光ビーコン6へのアップリンク情報ULの送信後は、アップリンクイベントとしての単独停止のイベント情報を構成する、停止位置、再発進時刻及び停止時間をすべてクリアする。
【0066】
このように、制御部209は、停止イベントが単独停止の場合には、予め定めた限定数(例えば5回)以内のものについては、停止位置、再発進時刻及び停止時間をプローブ情報S3に含めるが、限定数を超えたためデータ更新された単独停止と、すべての反復停止について、その停止位置、再発進時刻及び停止時間をプローブ情報S3に含めない。
もっとも、単独停止と反復停止の停止回数については、次のアップリンクイベントに付随するイベント情報として、プローブ情報S3に含められる。
【0067】
本実施形態の車載装置2によれば、制御部209が、信号待ち等が原因の単独停止と、停止と発進を繰り返す反復停止とを別個のイベントとして判定し、待ち行列台数や飽和交通流率の算出に必要な単独停止については、所定の限定数以下のものが停止位置、再発進時刻及び停止時間をイベント情報として含み、反復停止については、その停止回数のみが別のアップリンクイベントのイベント情報に含められる。
【0068】
従って、プローブ情報S3の記憶や送信のためのデータ量を効率的に使用しつつ、待ち行列台数や飽和交通流率等の交通指標を算出可能なプローブ情報S3を生成することができる。
また、停止回数については、単独停止と反復停止の判別が可能となるように各アップリンクイベントのイベント情報に含められるので、車載装置2からのプローブ情報S3を取得した中央装置4は、そのアップリンクイベントに含まれる停止回数を用いて、MOCSによるCO2の排出量の推定を実行することができる。
【0069】
なお、上記単独停止のイベント情報を構成する時間情報は、プローブ車両5に単独停止が発生した場合における「停止時刻」と「再発進時刻」とを特定可能な時間情報であればよい。
従って、単独停止イベントに含める時間情報は、「再発進時刻」と「停止時間」に限定されるものではなく、「停止時刻」と「停止時間」を採用してもよいし、より直接的に「停止時刻」と「再発進時刻」を採用してもよい。
【0070】
〔方向変動イベントに関する処理内容〕
図6は、方向変動イベントの例を示す道路平面図である。
図6(a)は、交差点での右折(ただし、左折でもよい。)に生じる方向変動イベントを示し、図6(b)は、比較的急カーブの単路で生じる方向変動イベントを示している。
車載装置2の制御部209は、図6に示すような、曲率半径が小さくて車両5の走行方向の変化が大きい「方向変動」をイベントとして抽出し、これに関するプローブ情報S3を生成するため、次の各処理(1)〜(6)を実行する。
【0071】
(1) まず、制御部209は、一定時間(定数設定:例えば1秒)ごとに、隣接する走行軌跡の距離を監視し、記憶部205に前回記憶させた前回軌跡から、車両5が一定距離(定数設定:例えば10m)以上走行すれば、その位置(緯度経度)及び方位(ない場合は前回との相対位置から求める。)を今回軌跡として記憶部205に記憶させる。
(2) 次に、制御部209は、前回軌跡と今回軌跡との方位差が一定(定数設定:例えば5度)以上あれば、方位変化が開始されたと見なす。
【0072】
(3) 更に、制御部209は、前回軌跡と今回軌跡との間の方位差が、一定(定数設定:例えば5度)未満の状態が一定回数(定数設定:例えば2回)になれば、方位変化が終了したとみなす。
(4) 次に、制御部209は、方位変化の開始時点の方位と、方位変化の終了時点の方位との差が一定(定数設定:例えば30度)以上であれば、「方向変動」のイベントが発生したとみなし、その方位変化の終了時点での時刻、位置及び方位を記憶部205に記憶させる。
【0073】
ただし、制御部209は、方向変動のイベントと後述する一定距離走行のイベントについては、前記単独停止とは別に、プローブ情報S3に含めることができる限定数(定数設定:例えば2回)を予め設定している。
従って、制御部209は、それらのイベントの前回のアップリンク情報ULからの合計回数がその限定数を超える場合には、例えば最も古いデータに上書して、方位変化の終了時刻、終了位置及び絶対方位をクリアする。
【0074】
(5) 制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまで、上記(1)〜(4)の処理を繰り返す。
(6) また、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまでに、以下のイベント情報(b)を含むプローブ情報S3の生成処理を行い、その通過時に、当該プローブ情報S3をアップリンク情報ULに含めて光通信部204に送信させる。
【0075】
(b) 方向変動のイベント情報
・方位変化の終了時刻、終了位置及び絶対方位
・前回のアップリンクイベントから当該方向変動の前に発生した反復停止の回数
・前記のアップリンクイベントから当該方向変動の前に発生した、データ更新によってアップリンクイベントではなくなった単独停止の回数
【0076】
なお、制御部209は、光ビーコン6へのアップリンク情報ULの送信後は、アップリンクイベントとしての方向変動のイベント情報を構成する、方位変化の終了時刻、終了位置及び絶対方位をすべてクリアする。
【0077】
〔一定距離走行イベントに関する処理内容〕
車載装置2の制御部209は、車両5が十分に長い一定距離だけ走行したか否か(一定距離走行)をイベントとして判定し、これに関するプローブ情報S3を生成するため、次の処理(1)〜(5)を実行する。
【0078】
(1) まず、制御部209は、前記停止イベント(単独停止及び反復停止)又は方向変動イベントのいずれかが発生した時に、累積走行距離をクリアする。また、制御部209は、累積走行距離が一定距離(定数設定:例えば500m)を越える前に、方向変動のイベントが発生した場合も累積走行距離をクリアする。
(2) 次に、制御部209は、一定時間(定数設定:例えば1秒)ごとに走行軌跡を監視し、前回のイベントからの走行距離を積算して行く。
【0079】
(3) また、制御部209は、累積走行距離が一定距離(定数設定:例えば500m)を越えれば、一定距離走行イベントが発生したと見なし、時刻、位置および方位を記憶部205に記憶させる。
ただし、前記した通り、方向変動と一定距離走行の合計数に限定数(定数設定:例えば2回)が設定されているので、それらのイベントの前回のアップリンク情報ULからの合計回数がその限定数を超える場合には、最も古いデータに上書きして、累積走行距離をクリアする。
【0080】
(4) 制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまで、上記(1)〜(3)の処理を繰り返す。
(5) また、制御部209は、次の光ビーコン6との通信が発生するまでに、以下のイベント情報(c)を含むプローブ情報S3の生成処理を行い、その通過時に、当該プローブ情報S3をアップリンク情報ULに含めて光通信部204に送信させる。
【0081】
(c) 一定距離走行のイベント情報
・一定距離走行の終了時刻、位置および累積走行距離
・前回のアップリンクイベントから当該一定距離走行の前に発生した反復停止の回数
・前回のアップリンクイベントから当該一定距離走行の前に発生した、データ更新によってアップリンクイベントではなくなった単独停止の回数
【0082】
なお、制御部209は、光ビーコン6へのアップリンク情報ULの送信後は、アップリンクイベントとしての一定距離走行のイベント情報を構成する、当該走行の終了時刻、位置および累積走行距離をすべてクリアする。
【0083】
〔感知器イベントに関する処理内容〕
本実施形態の車載装置2は、車両感知器3の設置位置と機器IDを記憶部205に予め記憶している。
これらの情報は、DVD等の記録媒体を介して予め記憶部205に記憶させたり、光ビーコン6からのダウンリンク情報DLによって車両5周辺の車両感知器3の設置位置と機器IDを受信したりすることで、記憶部205に記録されている。
【0084】
車載装置2の制御部209は、自車両5の位置が車両感知器3の設置位置と一致した場合に、車両感知器3の直下を通過したと見なし、その通過位置が単独停止イベントとの関係で所定の条件を満たす場合に、以下のイベント情報(d)を含むプローブ情報S3を生成する。
(d) 感知器通過のイベント情報
・車両感知器の通過時刻
・プローブ車両が通過した車両感知器を中央装置が特定するための識別情報(車両感知器の設置位置又は機器ID)
【0085】
上記所定の条件は、車両5の感知器通過と単独停止のイベント発生地点が比較的近い場合に絞るための条件であり、例えば、制御部209は、単独停止の再発進時刻と車両感知器3の通過時刻との時刻差が所定時間(例えば、10秒)以内である場合に、感知器イベントを生成する。
或いは、制御部209は、単独停止の停止位置と車両感知器3の設置位置の距離差が所定長(例えば、150m)以内である場合に、感知器イベントを生成してもよいし、それらの位置が同じリンク上にある場合に、感知器イベントを生成してもよい。
【0086】
なお、プローブ車両5が、車両感知器3への通過を検出できるセンサを有する場合には、このセンサによって通過を検出した時点を車両感知器3の通過時刻とし、その検出した地点を車両感知器3の設置位置として、上記感知器通過のイベント情報を生成することにしてもよい。
上記センサの例としては、例えば、超音波式の車両感知器3が発信する超音波を検出する超音波センサや、車両感知器3を撮影可能な解像度を有する車載カメラなどがある。
【0087】
〔停止イベントに関する例外処理〕
ところで、図6(a)の点Pは、右折時における交差点内の停止位置を示している。ここで、右折車線に先行車両がない場合には、走行中の車両5が点Pにおいて第2閾値V2未満まで減速し、当該点Pにおいて単独停止又は反復停止が生じる場合がある。
しかし、交差点内の点Pは、信号待ちとは無関係であり、前記待ち行列台数や飽和交通流率の算出には不要であるため、これを停止イベントとして採用すると、無駄なプローブ情報S3を含むアップリンク情報ULがインフラ側に送出されることになる。
【0088】
そこで、車載装置2の制御部209は、記憶部205に含まれる前記道路地図データを参照することにより、車両5の走行位置が道路地図データにおけるどの位置であるかに基づいて、方位変更中の車両5の停止イベントが、図6(a)の点Pに示すような、右折時における交差点内での停止である右折停止か否かを判定し、当該右折停止の場合には、これを前記単独停止や反復停止としては採用しない。
すなわち、制御部209は、上記右折停止については、これをアップリンクイベントとせず、プローブ情報S3に含めない停止イベントとして処理する。
【0089】
これに対して、図6(b)の点Qは、比較的急カーブの単路での方位変更中における車両5の停止位置を示している。ここで、単路の下流側にある交差点の信号が赤になっている場合には、走行中の車両5が点Qにおいて第2閾値V2未満まで減速し、当該点Qにおいて単独停止或いは反復停止が生じる場合がある。
従って、このような単路での方位変更中の点Qでの停止は、図6(a)の右折時とは異なり、待ち行列台数や飽和交通流率の算出に必要であると考えられるため、プローブ情報S3に含める停止イベントとすべきである。
【0090】
そこで、車載装置2の制御部209は、記憶部205に含まれる前記道路地図データを参照することにより、車両5の走行位置が道路地図データにおけるどの位置であるかに基づいて、方位変更中の車両5の停止イベントが、図6(a)の点Qに示すような、単路での方位変更中の停止である単路停止か否かを判定し、当該単路停止の場合には、これを単独停止又は反復停止として採用する。
すなわち、制御部209は、上記単路停止については、これをプローブ情報S3に含める停止イベントとして処理する。
【0091】
〔プローブ情報のフレーム内容〕
図7は、車載装置2の制御部209が生成するプローブ情報S3のフレームフォーマットを示す表である。
図7に示すように、プローブ情報S3のデータ領域には、ヘッダ、基本項目及び属性種別が含まれており、ヘッダには、単独停止の回数と反復停止の回数とを記載することができる。
【0092】
また、基本項目には、位置と計測時刻の記載領域が含まれており、位置は、緯度と経度で記載され、計測時刻は時分秒で記載される。
更に、属性項目には、イベント種別とイベント値の記載領域が含まれている。イベント種別には、その種別或いはフラグが記載され、イベント値には、イベント種別に応じた値として、方位、停止時間及び走行距離のうちの少なくとも1つが記載される。
【0093】
〔プローブ情報のビット割り当て〕
図8は、プローブ情報S3に記す各種情報のビット割り当てを示す表である。
図8に示すように、単独停止の場合の停止時間は8ビットで表され、当初ビットの値で秒と分の場合に区分し、残りの7ビットで時間を表すようになっている。このため、1秒を最小単位として、16進数で0x01(1秒)から0xff(127分)までの時間を割り当てることができる。
【0094】
また、方向変動の場合の絶対方位は、北を「1」とし、時計回りに16単位として割り当てられている。
更に、一定距離走行や方向変動の場合の、前回イベントからの走行距離には8ビットが割り当てられており、5m単位になっている。この場合、16進数で0x01(5m)から0xff(1275m)までの走行距離を割り当てることができる。
【0095】
〔車両の走行挙動と発進波の関係〕
図9は、交差点手前の待ち行列と車両の走行軌跡を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は時刻(秒)、縦軸は交差点Jの停止線からの距離(m)を表している。
図9において、縦ハッチングで示したほぼ三角形状の領域は待ち行列を表す。この領域の上辺は、待ち行列に進入した車両5の停止位置を表し、車両5はまず赤信号(黄信号を含んでもよい。以下同じ。)の待ち行列の末尾に加わって停止する。
【0096】
他方、三角形状の領域の下辺は、青信号になって交差点から発進する車両5の発進位置を表す。青信号になると、車両5は待ち行列の先頭から発進する。
そして、図9に示すように、上記停止位置及び発進位置は、それぞれ時間とともに上流側へ延びて行くものであり、それぞれ伝搬速度を持っている。これらの伝搬速度が前記した停止波及び発進波である。
【0097】
なお、停止波と発進波が交わる時点は、待ち行列中に停止車両がなくなり、車両5が停止することなく、走行を開始した待ち行列の末尾車両に追従していくような境界時点を表す。この時点以後に交差点に進入する車両5は、待ち行列を形成していた車両5の走行車列に加わっていくことになる。
【0098】
図9に示すように、交差点で赤信号に遭遇したことによる、ある特定の車両5の走行軌跡は、車両5が待ち行列に順次到達する際の「停止波」(これは到着交通量に依存する。)と、その後、青信号になって待ち行列内の車両5が動き出す「発進波」の伝搬速度により関係づけられる。
すなわち、交差点での渋滞の程度、交通量の多さ、灯色切り替えタイミングとの関係で、自由走行していた車両5は信号待ちの待ち行列末尾に加わって停止し、所定時間だけ行列内で停止してからその行列内で走行し、交差点Jに至るという走行軌跡を描く。
【0099】
〔飽和交通流率の算出方法〕
図10(a)は飽和交通流率の算出方法を示す説明図であり、図10(b)は平均車頭距離の説明図である。
図10(a)に示すように、あるプローブ車両5の単独停止イベントが発生した停止位置をLt1とし、発進波速度をVaとし、プローブ車両5の待ち行列内での走行速度である流出速度をVbとする。また、図10(b)に示すように、交差点の手前で停止している停止車両の平均車頭距離をhとする。
【0100】
この場合、飽和交通流率(1/秒)s、各速度Va,Vb及び平均車頭距離hの間には、次式が成立する。
1/s=h×(1/Va+1/Vb)
ここで、青開始時点tgからプローブ車両5の発進時点(単独停止の再発進時刻)t1までの経過時間をT1、プローブ車両5の発進時点からプローブ車両5が交差点Jを通過するまでの経過時間をT2とすると、Va=Lt1/T1、Vb=Lt1/T2となる。
【0101】
従って、この経過時間T1,T2を用いると、上記の関係式は、以下のように変形することができる。
h×(T1/Lt1+T2/Lt1)=1/s
h×(T1+T2)/Lt1=1/s
このため、飽和交通流率sは、次の式によって求めることができる。
s=Lt1/{h×(T1+T2)}
【0102】
なお、プローブ車両5の交差点通過時刻は、例えば、光ビーコン6が停止線位置HL(図1参照)に設置されている場合には、光ビーコン6がプローブ車両5からアップリンク情報ULを受信した時刻を当該通過時刻として採用すればよい。
また、複数のプローブ車両5の単独停止のイベント情報が得られている場合には、複数の単独停止のイベント情報から、飽和交通流率sの統計的な代表値(例えば平均値)を当該交差点Jについての飽和交通流率sとして採用すればよい。
【0103】
〔交通指標の生成処理〕
図11は、中央装置4の制御部401が行う交通指標の生成処理のフローチャートを示している。
本実施形態では、中央装置4の制御部401が生成する交通指標は、交差点Jの手前の交通流が飽和している場合における「飽和交通流率」と「待ち行列の末尾位置」である。
【0104】
図11に示すように、中央装置4の制御部401は、まず、特定の車両IDのプローブ車両5について、交差点Jの上流側に単独停止の停止位置があるプローブ情報S3を取得したか否かを判定し(ステップST1)、取得している場合に限り次のステップST2に移行する。
次に、制御部401は、単独停止の位置(交差点Jの停止線を原点とした上流側の距離値)が、車両感知器3の上流側又は下流側のいずれかを判定する(ステップST2)。
【0105】
そして、制御部401は、上流側である場合には第1有効性判定処理を実行し(ステップST3)、下流側である場合には第2有効性判定処理を実行する(ステップST7)。
上記第1有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効である場合(ステップST4でYes)には、制御部401は、プローブ情報S3のイベント情報を用いて飽和交通流率を算出し(ステップST5)、待ち行列の末尾位置を推定する処理の1つである第1推定処理を実行する(ステップST6)。
【0106】
制御部401は、第1有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効でない場合(ステップST4でNo)には、飽和交通流率の算出(ステップST5)と第1推定処理(ステップST6)を行わずに処理を終了する。
【0107】
一方、第2有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効である場合(ステップST8でYes)には、制御部401は、プローブ情報S3のイベント情報を用いて飽和交通流率を算出し(ステップST9)、待ち行列の末尾位置を推定する処理の1つである第2推定処理を実行する(ステップST10)。
また、制御部401は、第2有効性判定処理を行った結果、プローブ情報S3が有効でない場合(ステップST8でNo)にも、飽和交通流率の算出(ステップST9)と第2推定処理2(ステップST10)を行わずに処理を終了する。
【0108】
なお、以下において、プローブ情報S3の停止位置が車両感知器3の上流側である場合に行われる第1有効判定処理から第1推定処理までの一連の処理を、「第1処理モード」といい、プローブ情報S3の停止位置が車両感知器3の下流側である場合に行われる第2有効判定処理から第2推定処理までの一連の処理を、「第2処理モード」という。
【0109】
〔第1処理モードでの処理内容〕
図12は、プローブ車両5の単独停止の停止位置Z1が車両感知器3の設置位置Z0より上流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両5の走行軌跡を示すグラフである。以下、この図12を参照しつつ、中央装置4の制御部401が行う「第1処理モード」での処理内容を説明する。
なお、図12において、太い実線の矢印はプローブ車両5の走行軌跡を示し、破線の矢印は、車載装置2を有しない通常車両5の走行軌跡を示している。
【0110】
また、図12において、Pi(i=1,2……)は、車両感知器3が設置位置Z0において検出する感知信号(パルス信号)S4を時系列に図示したものである。
更に、図12において、時間軸の下方に付した各帯部のうち、白抜きの帯部は青信号時間を示し、黒塗りの帯部は赤信号時間を示し、ハッチングを付した帯部は黄信号時間を示している。
【0111】
また、図12において、白抜きの三角印は、単独停止の一つ前でプローブ車両5に生じた、単独停止以外のアップリンクイベントを示し、黒塗りの三角印は、プローブ車両5に生じた単独停止イベントを示し、黒丸印は、プローブ車両5に生じた感知器イベントを示している。なお、上記の図示上の摘要事項は、図13の場合も同様である。
【0112】
ここで、図12に示すように、プローブ車両5の停止位置Z1が車両感知器3の設置位置Z0の上流側にある場合、プローブ情報S3に含まれる単独停止の停止位置が正確だとすると、少なくとも設置位置Z0よりも更に上流側の停止位置Z1まで、交差点Jの流入路において渋滞が波及している。
また、一般に、渋滞から車両5が発進する場合の発進波は飽和流であり、その捌け率は飽和交通流率で安定している。
【0113】
<第1有効性判定処理>
そこで、中央装置4の制御部401は、渋滞時における上記の特性を利用して、プローブ車両5に含まれるイベント情報と感知信号S4の時系列データPiとの間の整合性を評価して、まず、プローブ情報S3が交通指標の生成用データとして有効か否かを判定する「第1有効性判定処理」(図6のステップST3)を実行する。
具体的には、制御部401は、まず、次の第1発進波速度Va1と第2発進波速度Va2とを求める。
【0114】
「第1発進波速度Va1」
プローブ車両5の停止位置Z1の交差点までの距離を、青開始時点tgからプローブ車両5の発進までの経過時間T1で割った速度
「第2発進波速度Va2」
車両感知器3の設置位置Z0の交差点までの距離を、青開始時点tg以後に最初に車両感知器3が任意の車両5を感知するまでの経過時間T0で割った速度
【0115】
そして、制御部401は、上記で定義される第1発進波速度Va1と第2発進波速度Va2を用いて、次の条件1及び2の双方を満足する場合に、プローブ情報S3を有効と判定し、いずれか一方を満足しない場合には、プローブ情報S3を無効と判定する。
(条件1)両発進波速度Va1,Va2の差分が所定の閾値内にあること。
(条件2)第1発進波速度Va1が定数設定された適正な数値範囲内にあること。
【0116】
なお、条件2における「適正な数値範囲」とは、現地で発生した実際の待ち行列に対する実測データから特定される発進波の伝搬速度の数値範囲よりなり、具体的には、4.5〜6.0m/s、好ましくは5.5〜5.7m/sの数値範囲に設定すればよい。
また、この第1有効性判定処理において、上記の条件1及び2のいずれか一方のみを、プローブ情報S3を有効と判定するための条件としてもよい。
【0117】
<第1推定処理>
次に、中央装置4の制御部401は、第1有効性判定処理を経て有効とされたプローブ情報S3がある場合には、その有効なプローブ情報S3の単独停止と感知器通過のイベント情報を用いて、前述の算出方法(図10参照)によって飽和交通流率sを算出するとともに、待ち行列の末尾位置を推定する「第1推定処理」(図11のステップST6)を実行する。
この第1推定処理には、「基本推定」と「オプション推定」の2種類の推定処理が含まれる。
【0118】
そのうち、基本推定は、有効と判定されたプローブ情報S3に含まれる単独停止イベントから特定される、プローブ車両5の停止位置Z1をそのまま待ち行列の末尾位置として採用する。この場合でも、プローブ情報S3を利用して、少なくとも車両感知器3の設置位置Z0を超えた上流側の位置まで、待ち行列の延伸を推定できるという利点がある。
しかし、上記の「基本推定」では、プローブ車両5の停止位置Z1よりも上流側に延びる待ち行列の末尾位置を推定することができない。
【0119】
そこで、「オプション推定」では、プローブ車両5の停止位置Z1以遠にまで延伸した待ち行列の末尾位置を、感知信号S4の時系列データPiを加味して推定するようになっている。
具体的には、中央装置4の制御部401は、プローブ車両5の感知器通過のイベント情報と、感知信号S4の時系列データPiを用いて次のマッチング処理を行い、プローブ車両5に対応する車両感知器3の感知信号S4であるマッチング信号を抽出する。
【0120】
すなわち、制御部401は、感知器イベントの識別情報によって特定される車両感知器3が検出した感知信号S4の時系列データPiの中から、感知器イベントの通過時刻と所定時間差以内でほぼ一致する感知信号S4を探索し、その感知信号S4をマッチング信号として抽出する。
ここで、仮に、プローブ情報S3に感知器イベント(図12の丸印)が含まれていない従来の場合を想定すると、この場合、単独停止の発進時刻以後にプローブ車両5が設置位置Z0を通過する正確な時刻は不明である。
【0121】
このため、例えば、図12に二点鎖線の矢印で示すように、プローブ車両5が予め設定した一定速度で走行したと仮定して、この矢印が設置位置Z0を横切る時点に近い時系列データP5を、マッチング信号として抽出せざるを得ない。
しかし、実際には、図12の太矢印で示すように、単独停止の発進時刻以後にプローブ車両5が一定速度で走行するとは限らず、時系列データP6の時点で設置位置Z0を横切ることもあり、このような場合には、マッチング信号を正確に抽出できない。
【0122】
この点、本実施形態では、中央装置4の制御部401が、単独停止イベントだけでなく感知器イベントを取得し、かかる感知器イベントの通過時刻とほぼ一致する感知信号S4をマッチング信号として抽出するので、単独停止の発進時刻以後のプローブ車両5の走行状態に関係なく、マッチング信号を正確に抽出することができる。
上記のようにしてマッチング信号を抽出すると、制御部401は、プローブ車両5から飽和流が継続していると見なせる車両台数(当該プローブ車両5を含む。)に平均車頭距離hを乗じた距離値を、プローブ車両5の停止位置Z1に加算することにより、待ち行列の末尾位置を推定する。
【0123】
具体的には、制御部401は、抽出したマッチング信号以後に検出された、時間間隔が所定間隔(例えば、定数設定の閾値)以内である感知信号S4の数をカウントし、この感知信号S4の数に平均車頭距離hを乗じた距離値を、プローブ車両5の停止位置Z1に加算して待ち行列の末尾位置とする。
この場合、定数設定の閾値の代わりに、プローブ車両5の単独停止のイベント情報を用いて既に算出した飽和交通流率の逆数1/s(=h×(T1+T2)/Lt1)を、所定間隔として採用することにしてもよい。
【0124】
その理由は、飽和交通流率の逆数1/sを所定間隔に採用すれば、渋滞からの発進が継続している場合の感知信号S4の数(車両感知器3の通過台数)をより正確にカウントすることができ、待ち行列の末尾位置を正確に推定できるようになるからである。また、飽和交通流率の逆数1/sに余裕を持たせた、1/s+β(補正値)を所定間隔に採用することにしてもよい。
なお、この第1推定処理において、プローブ情報S3に含まれる位置誤差を考慮して、プローブ車両5の停止位置Z1に加算する距離値に対して所定の補正係数α(<1.0)を掛けることにしてもよい。
【0125】
〔第2処理モードでの処理内容〕
図13は、プローブ車両5の停止位置Z1,Z2が車両感知器3の設置位置Z0より下流側である場合の、交差点手前の待ち行列とプローブ車両5の走行軌跡を示すグラフである。以下、この図13を参照しつつ、中央装置4の制御部401が行う「第2処理モード」での処理内容を説明する。
【0126】
ここで、図13に示すように、2台のプローブ車両5の停止位置Z1,Z2が車両感知器3の設置位置Z0の下流側にある場合、それらのプローブ情報S3がいすれも正確であり、かつ、2台のプローブ車両5がいずれも同じ車線を走行していたと仮定すると、2台のプローブ車両5が交差点手間で停止した場合の距離差(Z1とZ2の距離差)は、それら2台のプローブ車両5が車両感知器3を通過する間に交差点Jに流入した、他の車両5の台数分によって発生したものと考えられる。
【0127】
<第2有効性判定処理>
そこで、中央装置4の制御部401は、上記の推論を応用して、車両感知器3による2台のプローブ車両5に対応する感知信号S4であるマッチング信号を用いた「第2有効性判定処理」(図11のステップST7)を実行する。
具体的には、制御部401は、2台のプローブ車両5が同じ車線を走行していたことを前提条件として、その2台のプローブ車両5の感知器イベントの通過時刻と感知信号(パルス信号)S4の時系列データPiとを比較し、2つの通過時刻と所定時間差以内でほぼ一致する2つのマッチング信号をそれぞれ抽出する。
【0128】
例えば、図13の例では、図示左側のプローブ車両5の場合には、時系列データP2がマッチング信号として抽出されており、図示右側のプローブ車両5の場合には、時系列データP4がマッチング信号として抽出されている。
ここで、仮に、プローブ情報S3に感知器イベント(図13の丸印)が含まれていない従来の場合を想定すると、この場合、アップリンクイベントから単独停止の停止時刻までの間に、プローブ車両5が設置位置Z0を通過する正確な時刻は不明である。
【0129】
このため、例えば、図13に二点鎖線の矢印で示すように、アップリンクイベントと単独停止とを直線で結び、その直線とZ0が交わる時点における信号(図13の例では時系列データP5)をマッチング信号として抽出せざるを得ない。
しかし、実際には、図13の下流側の太矢印で示すように、アップリンクイベントから単独停止の停止時刻までの間に、プローブ車両5が一定速度で走行するとは限らず、時系列データP4の時点で設置位置Z0を横切ることもあり、このような場合には、マッチング信号を正確に抽出できない。
【0130】
この点、本実施形態では、中央装置4の制御部401が、単独停止イベントだけでなく感知器イベントを取得し、かかる感知器イベントの通過時刻とほぼ一致する感知信号S4をマッチング信号として抽出するので、アップリンクイベントから単独停止の停止時刻までのプローブ車両5の走行状態に関係なく、マッチング信号を正確に抽出することができる。
【0131】
次に、制御部401は、上記2つのマッチング信号の間の時間帯に検出された車両台数に平均車頭距離hを乗じて算出した距離値ΔZ’と、当該2台のプローブ車両5の停止位置Z1,Z2の距離差ΔZ(=Z2−Z1)とを算出する。
そして、制御部401は、上記距離値ΔZ’と距離差ΔZの差分が予め設定した所定の閾値内にある場合に、当該2台のプローブ車両5に対応する各プローブ情報S3を有効と判定し、その閾値を外れる場合には、各プローブ情報S3を無効と判定する。
【0132】
なお、この場合、2つのマッチング信号の間の時間帯に検出された車両台数と、2台のプローブ車両5の停止位置Z1,Z2の距離差ΔZを平均車頭距離hで除した台数との差が、予め設定した所定の閾値内にある場合に、当該2台のプローブ車両5に対応する各プローブ情報S3を有効と判定することにしてもよい。
【0133】
また、この第2有効性判定処理の場合も、前記した第1有効性判定処理の「条件2」、すなわち、第1発進波速度Va1が定数設定された適正な数値範囲内にあることを、各プローブ情報S3を有効と判定する条件として付加することにしてもよい。
また、この第2有効性判定処理において、第1有効性判定処理の「条件2」のみを、各プローブ情報S3を有効と判定する条件に設定してもよい。
【0134】
<第2推定処理>
次に、中央装置4の制御部401は、第2有効性判定処理を経て有効とされた2つのプローブ情報S3がある場合には、その有効なプローブ情報S3の単独停止イベントを用いて、前述の算出方法(図10参照)によって飽和交通流率sを算出するとともに、待ち行列の末尾位置を推定する「第2推定処理」(図6のステップST10)を実行する。
【0135】
具体的には、制御部401は、2台のプローブ車両5のうちいずれか一方を選択し、その選択したプローブ車両5の感知器通過時点(マッチング信号の検出時点)から青開始時点tgまでの間に車両感知器3が検出した車両台数をカウントする。
そして、制御部401は、カウントした車両台数に平均車頭距離hを乗算した距離値を、選択したプローブ車両5の停止位置Z1(又はZ2)に加算した値を、待ち行列の末尾位置として採用する。
【0136】
なお、車両台数のカウントを、上記「青開始時点tg」で止めるのではなく、所定速度(定数設定の速度値でもプローブ車両5の速度値でもよい。)の車両5が車両感知器3を通過してから渋滞時の停止波にぶつかる時点tq(図13参照)までシフトしてもよい。この場合、待ち行列の末尾位置の推定範囲をより上流側まで延ばすことができる。
【0137】
〔車載装置の効果〕
以上の通り、本実施形態の車載装置2によれば、制御部209が、単独停止イベントだけでなく感知器イベントを含むプローブ情報S3を生成可能であり、生成したプローブ情報S3を、光通信部204を通じて光ビーコン6にアップリンク送信する。そして、その感知器イベントには、車両感知器3の識別情報(設置位置又は機器ID)と、車両感知器3に対するプローブ車両5の通過時刻とが含まれている。
【0138】
従って、上記イベント情報を含むプローブ情報S3を取得した中央装置4において、車両感知器3が検出した時系列の感知信号S4の中から、感知器イベントの通過時刻とタイミングがほぼ一致する信号を探索することにより、待ち行列に関する交通指標の推定に有用な、プローブ車両5に対応する感知信号(マッチング信号)S5を正確に抽出することができる。
【0139】
〔中央装置の効果〕
また、本実施形態の中央装置4によれば、制御部401が、感知器イベントの通過時刻と対応する感知信号S4であるマッチング信号を抽出し、抽出されたマッチング信号以後に検出された感知信号S4の数に基づいて、待ち行列に関する交通指標を推定するので、正確に抽出されたマッチング信号を用いた交通指標の推定が可能となる。
このため、プローブ車両5の車載装置2から得られたプローブ情報S3に含まれるイベント(停止イベントと感知器イベント)を用いて、待ち行列に関する交通指標を正確に推定することができる。
【0140】
〔第1の変形例〕
上述の実施形態において、中央装置4の制御部401のプローブ用データベースDB1に、車両IDごとの車長を記憶させることにしてもよい。
この場合、中央装置4の制御部401が、マッチング処理を行った後のプローブ車両5の車両IDの車長をデータベースDB1から読み出し、読み出した車長をマッチング信号のオン時間で除算することにより、プローブ車両5の速度を算出することができる。
【0141】
このようにすれば、上述の実施形態のように、データ通信量を削減するためにイベント情報に車両の速度を含めないシステムの場合でも、マッチング信号を利用してプローブ車両5の速度を正確に算出できるという利点がある。
【0142】
〔第2の変形例〕
上述の実施形態では、プローブ車両5の車載装置2が自車両についてのイベント情報を含むプローブ情報S3を生成しているが、このプローブ情報S3を路側の通信装置にて生成することにしてもよい。
すなわち、プローブ車両5からは走行軌跡を短周期で外部に無線送信し、交差点付近で走行軌跡を受信した路側装置(例えば、交通信号制御機1aや情報中継装置)にて、プローブ車両5ごとにイベント記録方式のプローブ情報S3に変換し、変換したプローブ情報S3を中央装置4に送信してもよい。
【0143】
〔その他の変形例〕
上述の実施形態(各変形例を含む。)は例示であって本発明の権利範囲を制限するものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
例えば、上述の実施形態では、中央装置4の制御部401が求める待ち行列に関する交通指標がその待ち行列の末尾位置になっているが、制御部401が求める交通指標は待ち行列台数であってもよい。
【0144】
上述の実施形態では、中央装置4の制御部401が、飽和交通流率や待ち行列に関する交通指標の生成処理(図11)を行っているが、交通信号制御機1aや情報中継装置の制御部(図示せず。)がその生成処理を行うことにしてもよい。
また、プローブ情報S3をインフラ側にアップリンクする手段としては、前記光ビーコン6に限らず、その他の狭域通信装置や、ITS無線機及び携帯電話機その他の通信手段によって行うこともできる。
【0145】
本発明は、中央装置4が広域制御を行う場合に限らず、LANに含まれる複数の交通信号制御機1aが、中央装置4による制御とは別個のグループ単位での系統制御又は広域制御を行う場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0146】
1 交通信号機
1a 交通信号制御機
2 車載装置(情報処理装置)
3 車両感知器
4 中央装置(交通指標推定装置)
5 プローブ車両
6 光ビーコン
204 光通信部(送信手段)
209 制御部(検出手段、情報生成手段)
401 制御部(抽出手段、推定手段)
403 通信部(取得手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中のプローブ車両に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理装置であって、
交差点の流入路に設置された車両感知器に対する前記プローブ車両の通過時刻を検出する検出手段と、
前記プローブ車両の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、前記車両感知器の識別情報と検出された前記プローブ車両の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報を生成する情報生成手段と、
生成された前記プローブ情報を外部に送信する送信手段と、
を備えていることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
渋滞時の待ち行列に関する交通指標を推定する交通指標推定装置であって、
交差点の流入路に設置された車両感知器が検出する時系列の感知信号と、請求項1に記載の情報処理装置が送信した前記プローブ情報と、前記交差点における信号灯器の灯色切り替えタイミングとを取得する取得手段と、
前記感知器イベントの前記通過時刻と対応する前記感知信号であるマッチング信号を抽出する抽出手段と、
抽出された前記マッチング信号以後に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する推定手段と、
を備えていることを特徴とする交通指標推定装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも上流側にある場合に、抽出された前記マッチング信号以後に検出された時間間隔が所定間隔以内である前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する請求項2に記載の交通指標推定装置。
【請求項4】
前記抽出手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも下流側にある場合に、前記マッチング信号から次の(a)又は(b)の時点までの間に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する請求項2に記載の交通指標推定装置。
(a)プローブ車両が流入する流入路の青開始時点
(b)所定速度の任意車両が車両感知器を通過してから渋滞時の停止波にぶつかる時点
【請求項5】
前記プローブ車両の車長を記憶する記憶部を更に備え、
前記推定手段は、前記マッチング信号のオン時間と記憶された前記プローブ車両の車長とに基づいて、前記プローブ車両の速度を算出する請求項2〜4のいずれか1項に記載の交通指標推定装置。
【請求項6】
走行中のプローブ車両に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理を、コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
交差点の流入路に設置された車両感知器に対する前記プローブ車両の通過時刻を検出するステップと、
前記プローブ車両の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、前記車両感知器の識別情報と検出された前記プローブ車両の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報を生成するステップと、
生成された前記プローブ情報を外部に送信するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項1】
走行中のプローブ車両に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理装置であって、
交差点の流入路に設置された車両感知器に対する前記プローブ車両の通過時刻を検出する検出手段と、
前記プローブ車両の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、前記車両感知器の識別情報と検出された前記プローブ車両の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報を生成する情報生成手段と、
生成された前記プローブ情報を外部に送信する送信手段と、
を備えていることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
渋滞時の待ち行列に関する交通指標を推定する交通指標推定装置であって、
交差点の流入路に設置された車両感知器が検出する時系列の感知信号と、請求項1に記載の情報処理装置が送信した前記プローブ情報と、前記交差点における信号灯器の灯色切り替えタイミングとを取得する取得手段と、
前記感知器イベントの前記通過時刻と対応する前記感知信号であるマッチング信号を抽出する抽出手段と、
抽出された前記マッチング信号以後に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する推定手段と、
を備えていることを特徴とする交通指標推定装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも上流側にある場合に、抽出された前記マッチング信号以後に検出された時間間隔が所定間隔以内である前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する請求項2に記載の交通指標推定装置。
【請求項4】
前記抽出手段は、前記停止イベントの停止位置が前記車両感知器の設置位置よりも下流側にある場合に、前記マッチング信号から次の(a)又は(b)の時点までの間に検出された前記感知信号の数に基づいて、前記待ち行列に関する交通指標を推定する請求項2に記載の交通指標推定装置。
(a)プローブ車両が流入する流入路の青開始時点
(b)所定速度の任意車両が車両感知器を通過してから渋滞時の停止波にぶつかる時点
【請求項5】
前記プローブ車両の車長を記憶する記憶部を更に備え、
前記推定手段は、前記マッチング信号のオン時間と記憶された前記プローブ車両の車長とに基づいて、前記プローブ車両の速度を算出する請求項2〜4のいずれか1項に記載の交通指標推定装置。
【請求項6】
走行中のプローブ車両に生じるイベントごとにデータを記録するイベント記録方式の情報処理を、コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
交差点の流入路に設置された車両感知器に対する前記プローブ車両の通過時刻を検出するステップと、
前記プローブ車両の停止位置とその停止時刻及び再発進時刻を特定可能な時間情報とを含む停止イベントと、前記車両感知器の識別情報と検出された前記プローブ車両の通過時刻とを含む感知器イベントと、を含むプローブ情報を生成するステップと、
生成された前記プローブ情報を外部に送信するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−88888(P2013−88888A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226502(P2011−226502)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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