説明

情報記録媒体

【課題】 記録層に微小な凸状の孤立パターンを形成した際に記録層が変質せず、所望の磁気特性を有する情報記録媒体を提供する。
【解決手段】 基板と、基板上に形成された第1金属層と、磁性材料で形成され、第1金属層上に形成された記録層と、記録層上に形成された第2金属層とを備え、記録層には複数の孤立した凸パターンで記録領域が形成されている情報記録媒体を提供することにより、記録層に微小な孤立パターンを形成する際に生じる化学的及び物理的ストレスを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度な情報記録を可能とする情報記録媒体に関し、特に、記録層に所定の孤立した凸パターンで記録領域を形成したパターンドメディアに関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の発展に伴い、膨大な情報を記憶するために、外部記憶装置においても記録密度向上が急務となっている。記録密度を向上させるためには、最短記録マーク長をより短くする必要がある。一般の磁気記録媒体に情報記録した場合における記録層内の磁性粒子の様子は、例えば、図7(a)のようになる。図7(a)は記録層内に記録マークを形成したときの磁性微粒子100の様子を概念的に示したものであり、図7(a)中では記録部をグレー部分で表わし、未記録部分は白色部分で表わした。図7(a)中の記録領域101の各磁性粒子100は記録時に磁気ヘッドからの外部磁界により所定の方向に磁化されている。一方、図7(a)中の未記録領域102の各磁性粒子100の磁化方向は、記録領域101の磁性粒子100とは逆方向となっている。磁気記録媒体では、図7(a)に示すように、記録領域と未記録領域との境界は磁化方向の異なる磁性粒子100の配列により決まるのでジグザグ状の境界となる。
【0003】
磁気記録媒体において、記録領域と未記録領域との境界(情報記録遷移領域)のジグザグ形状を小さくして、情報記録遷移領域を鮮明に形成することによりノイズを減少させて高SN比を得る。そのためには、最短記録マークを構成する磁性微粒子の径を6nm程度に揃えて情報記録遷移領域をより鮮明に形成する必要がある。しかしながら、径が6nm程度となる磁性微粒子の磁気エネルギーは室温程度の温度エネルギーで改質されるおそれがあり、記録情報を安定して確保することができなくなるおそれがある。このような課題を解決する方法の一つとして、磁性微粒子の磁気異方性エネルギーを増大させる方法がある。この方法では、磁性微粒子の磁気異方性エネルギーが増大に伴い、情報記録時の記録磁界も増大させる必要がある。しかしながら、磁気ヘッドで発生し得る記録磁界の強度が物理的限界に近い現状では、磁性微粒子の磁気異方性エネルギーが大きくなりすぎると、十分な記録ができなくなるという問題が生じる。
【0004】
上記課題を解決する別の方法として、近年、パターンドメディアと呼ばれる媒体が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。パターンドメディアは所定の孤立パターン(以下ではドットともいう)で記録領域を形成したメディアであり、各孤立パターン間は物理的に分断されている。パターンドメディアの作製方法にも様々な方法が提案されており、特許文献1及び2では、平面状の記録媒体にエッチングを施して所望の孤立パターンを形成する方法が開示されており、特許文献3にはAl層を陽極酸化して、細い穴を形成し、その中に磁性体を埋め込む方法が開示されている。
【0005】
パターンドメディアの孤立パターンは具体的には次のようにして形成される。まず、磁性膜上にレジスト等を塗布した後、所定の孤立パターンを露光する。次いで、現像処理等を経て所定の孤立パターン以外の領域のレジストを除去する。その後、RIE等のエッチングを行い、所定の孤立パターン以外の領域の磁性膜を除去することにより孤立パターンが形成される。このようにして作製されたパターンドメディアの一例を図7(b)に示す。なお、図7(b)中では情報が記録されている孤立パターン(磁性材料で形成されている)をグレーで表わし(例えば、孤立パターン104)、情報が未記録である孤立パターンを白色で表わした(例えば、孤立パターン105)。図7(b)中の孤立パターン104は記録時に磁気ヘッドからの外部磁界により所定の方向に磁化されており、孤立パターン105の磁化方向は孤立パターン104とは逆方向となっている。このようなパターンドメディアでは、図7(b)に示すように、孤立パターン間の情報記録遷移領域がより鮮明になるので、ノイズを一層低減させることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−110050号公報(第3−6頁,第1−2図)
【特許文献2】特開2002−279616号公報(第9頁,第2−3図)
【特許文献3】特開2003−217112号公報(第3−6頁,第1及び8図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したパターンドメディアの製造技術を用いることにより、磁性膜に図7(b)に示すような複数の孤立パターンを形成することができるが、このような孤立パターンは磁性膜をドライエッチングやウェットエッチング等により形成されるので、孤立パターン形成時には磁性膜に化学的及び物理的ストレスが与えられる。具体的には、RIE(Reactive Ion Etching)等で孤立パターンを形成した場合には、酸素あるいは塩素ガスを用いるので、孤立パターンの切断断面(例えば、図7(b)中の領域106)が酸化等により化学変化し、孤立パターンを腐食して変質させるおそれがある。孤立パターン形成時に孤立パターン(磁性膜)が変質すると、所望の磁気特性が得られなくなるおそれがある。しかしながら、孤立パターン形成時には、このような化学的及び物理的ストレスは必然的に伴うものであるので、これらのストレスを低減する方法が要望されている。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、磁性膜に微小な孤立パターンをドライエッチングやウェットエッチング等により形成しても磁性膜が変質せず所望の磁気特性を有する情報記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様に従えば、情報記録媒体であって、基板と、該基板上に形成された密着層と、該密着層上に形成された第1金属層と、第1金属層上に形成された磁性層と、該磁性層上に形成された第2金属層とを備え、第1金属層及び該磁性層の少なくとも一層がアモルファス状態であり、該磁性層には複数の孤立した凸パターンで記録領域が形成されていることを特徴とする情報記録媒体が提供される。
【0010】
本発明の情報記録媒体は、磁性層を2つの金属層(第1及び第2金属層)で挟み込んだ構造を有するパターンドメディアである。磁性層を第1及び第2金属層で挟み込むことにより、微小な孤立した磁性材料の凸パターン(以下、孤立パターンという)をRIE等により形成する際に生じる熱が速やかに第1及び第2金属層を介して放熱され、孤立パターン形成時に発生する熱による磁性層へのダメージを抑制することができる。それゆえ、本発明の情報記録媒体では、磁性層の上下面を第1及び第2金属層で被覆することにより、磁性層に微小な孤立パターンを形成する際に生じる物理的ストレスを低減することができ、所望の磁気特性を得ることができる。
【0011】
なお、本発明において用語「磁性層」とは、情報が磁化方向として記録される層であり、第1金属層上に連続して形成された膜状の磁性層のみならず、第1金属層上に磁性材料からなる複数の領域が互いに隔離して存在する場合も含む概念である。従って、図1に示すように、孤立パターン間が完全に分断されている場合や連続した磁性膜上に複数の孤立パターンが凸状に形成されている場合を含む。また、本発明の磁性層は単層構造であっても良いし、多層構造であっても良い。
【0012】
本発明の情報記録媒体の第1及び第2金属層としては、熱伝導率が良く、且つ、結晶粒界が形成され難い連続的な金属膜、すなわち、アモルファス的な構造を有する金属膜を用いることが好ましい。なお、本発明の第1及び第2金属層は単層構造であっても良いし、多層構造であっても良い。第1及び第2金属層の形成材料としては、AlSi、AgSi、AuSi等が用い得る。第1及び第2金属層にAlSi等を用いた場合、不導体を作り易く、孤立パターン形成時に発生する磁性層の酸化等による化学的ダメージを抑制することができる。さらに、磁性層の上下面を結晶粒界が形成され難い連続的な金属膜で形成された第1及び第2金属層で被覆した場合、第1及び第2金属層の結晶粒界を介して外部から侵入するガス等による磁性層の腐食を抑制することができる。それゆえ、磁性層の上下面を連続的な金属膜で形成された第1及び第2金属層で被覆すると、磁性層に微小な孤立パターンを形成する際に生じる化学的ストレスを低減することができる。
【0013】
上述のように、本発明の情報記録媒体では、磁性層の上下面を第1及び第2金属層で被覆することにより、孤立パターンのダメージ(物理的及び化学的ストレス)か少なくなり所望の磁化特性が得られるので、孤立パターンから再生に十分大きな磁界が発生する。しかしながら、第2金属層の膜厚が薄すぎると孤立パターン形成時の磁性層へのダメージを抑制する効果がなくなり、逆に厚すぎると磁性層とデータ記録再生ヘッドとの距離が遠くなり、情報の記録再生に支障をきたす恐れがあるので、第2金属層の膜厚としては約2nm〜10nmが好ましい。
【0014】
本発明の情報記録媒体の密着層は、基板と磁性層の密着性を高めるための層であり、SiN等の誘電体膜やCr等の金属膜で形成することが好ましい。
【0015】
また、本発明の情報記録媒体では、磁性層がアモルファス状態(アモルファス的な構造)であることが好ましい。磁性層をアモルファス状態にすることにより、磁性層中の孤立パターン内では図7(a)に示すような結晶粒界が形成され難くなる。それゆえ、孤立パターンのエッジ部分の形状は、図7(a)のように磁化方向の異なる磁性微粒子100の配列により決定されるのではなく、孤立パターン形成時の露光精度及びエッチング精度で決定される。従って、磁性層をアモルファス状態にすることにより、図7(b)に示すように、孤立パターンのエッジ部分106は、従来の磁気記録媒体(図7(a))のようにジグザク形状が形成され難く、情報記録遷移領域をより一層鮮明することができるので情報記録遷移領域のジグザグ形状により発生するノイズを減少させることができる。
【0016】
本発明の情報記録媒体では、上記磁性層がアモルファス合金で形成されていることが好ましい。また、本発明の情報記録媒体では、上記磁性層が希土類遷移金属で形成され、上記磁性層中の希土類金属の含有量が10at.%〜25at.%の範囲の値であることが好ましい。
【0017】
本発明の情報記録媒体の磁性層としては、TbFeCo等のアモルファスの希土類遷移金属膜が好ましい。TbFeCo等のアモルファス金属膜は金属膜内で磁気的に連続的な構造(結晶粒界が発生し難い構造)になるので、このような材料で磁性層中の孤立パターンを形成すると、孤立パターン内に複数存在する結晶粒間でマルチドメインが発生し難くなる。これは1つの孤立パターン(以下、1ドットともいう)を1ビット(単一磁区)に対応させるような情報記録媒体には好適である。
【0018】
しかしながら、Tb等の希土類金属は化学的に活性である(酸化し易い)ので、孤立パターン形成時に、孤立パターンの側面部(例えば、図1中の領域7)が酸化等により腐食し易い。それゆえ、TbFeCo等のアモルファス金属膜で磁性層を形成する際には、磁性層の膜厚は薄い方が好ましい。磁性層の膜厚を薄くすると、孤立パターンの側面部の面積が小さくなるので、孤立パターンの側面部からの腐食を抑制することができる。その結果、磁性層中に形成された孤立パターンの化学的ダメージを最小限に抑えることができる。具体的には、磁性層の膜厚tは、約3nm〜50nmであることことが好ましい。磁性層の膜厚tが約3nmより薄くなると、再生信号が小さくなりすぎて、再生が困難となり、磁性層の膜厚tが約50nmより厚くなると、孤立パターンの側面部の酸化が増大する。
【0019】
また、磁性層としてTbFeCo等の希土類遷移金属を用いた場合、孤立パターンの側面部からの酸化を抑制するためには、磁性層に含まれる化学的に活性な希土類金属(Tb等)の含有量は少ない方が好ましい。具体的には、希土類金属の含有量を約10at%〜25at%の範囲にすることが好ましい。磁性層中の希土類金属の含有量が約10at%より少なくなると、磁性層が垂直磁化膜になり難くなり、記録特性が劣化する。一方、希土類金属の含有量が約25at%より多くなると、孤立パターンの側面部の酸化が増大する。なお、Tb量が上記範囲内で、ある程度少なくなる(約18at.%以下)と、磁性層の保磁力も2〜6kOe程度となり通常の磁気ヘッドでも記録が可能になる。逆に、Tb量が上記範囲内で多くなると磁性層の保磁力も大きくなるが、そのような場合にはハイブリッド(熱アシスト)記録方式で情報記録すれば良い。
【0020】
本発明の情報記録媒体では、磁性層としてFePt合金、Co/Pd多層膜、Co/Pt多層膜、あるいは、CoCrPtSiO等のグラニュラー媒体を用いても良い。これらの材料は結晶性の材料であるが、磁気的に連続的な構造(結晶粒界が発生し難い構造)になるので、マルチドメインが発生し難く、本発明の情報記録媒体の磁性層として好ましい。また、これらの材料は、TbFeCo等の希土類遷移金属合金よりも化学的に安定であるので酸化による劣化も少なくなると考えられる。
【0021】
なお、本発明の情報記録媒体で、第1若しくは第2金属層と磁性層との間で化学反応が生じるおそれがある場合には、第1若しくは第2金属層と磁性層との間に、SiNなどの誘電体層を設けても良い。
【0022】
本発明の情報記録媒体では、上記磁性層の膜厚が、3nm〜50nmであることが好ましい。磁性層の膜厚tを3nm〜50nmの範囲の値にすることにより、孤立パターンから十分な大きな再生信号を得ることができる。
【0023】
本発明の情報記録媒体では、上記磁性層の膜厚tと、第2金属層の膜厚tと、上記孤立した凸パターンの高さHとの間に、t/2+t<H≦t+t+55nmの関係が成立することが好ましい。
【0024】
本発明の情報記録媒体の一例を図1に示した。図1の例では、第1金属層3上に所定の孤立パターンで磁性層4が形成されており、さらに、磁性層4上に第2金属層5が形成されている。図1の情報記録媒体は、孤立した凸パターン6の高さHが磁性層4の膜厚tと第2金属層5の膜厚tとの和に等しい(H=t+t)場合のパターンドメディアである。なお、本明細書における孤立パターンの高さHとは、孤立パターンの最表面の高さと底部(底面)の高さとの差とする。図1に示すような孤立パターン6は、第2金属層5上からエッチング等で孤立パターン6以外の領域を除去することにより形成される。図1に示した情報記録媒体は、孤立パターン6以外の領域を第1金属層3の表面までエッチング等により掘り下げた例である。
【0025】
本発明の情報記録媒体では、孤立パターンを媒体上に形成する際、孤立パターン以外の領域のエッチングが磁性層の途中で終了していても良い。すなわち、孤立パターンの高さHが磁性層の膜厚tと第2金属層の膜厚tとの和(t+t)より小さくても良い。ただし、その場合には、孤立パターンの高さHと磁性層の膜厚tとの間に、t/2+t<Hの関係が成立することが好ましい。このような関係が成立する場合、孤立パターン間の底部にも磁性層が残っているので、孤立パターン間の底部からも漏洩磁界が発生するが、孤立パターン内の磁性層の表面から信号検出ヘッドまでの距離と、孤立パターン間の底部から信号検出ヘッドまでの距離との差により生ずる検出信号の大きさの差も十分大きくなるので、検出信号の大きさの差から孤立パターンからの信号を識別して検出することができる。なお、信号の変調度を検出して信号再生を行う場合には、図1に示すように、孤立パターン以外の領域を第1金属層3の表面までエッチングして、孤立パターン間を物理的に分断することが好ましい。また、孤立パターンの高さHがt+tより小さい場合、エッチング加工が磁性層の途中までで良いので、エッチング加工の時間が短縮され、磁性層に与える加工ダメージを抑制することができる。なお、孤立パターンの高さHがt/2+t以下になると、孤立パターン間の磁気的分離が不十分となり好ましくない。孤立パターンの高さHがt/2+t以下となる場合、エッチング等による磁性層の掘り込み量が少ないので、隣接する孤立パターン間が磁気的に繋がった状態になる。そのような孤立パターンに情報を記録すると、例えば、記録した磁化状態が隣接する孤立パターンに伝播する、いわゆる、クロスライトの問題を引き起こす。
【0026】
また、本発明の情報記録媒体では、孤立パターン以外の領域をさらに第1金属層の途中までエッチングして孤立パターンを形成しても良い。すなわち、孤立パターンの高さHが磁性層の膜厚tと第2金属層の膜厚tとの和(t+t)より大きくても良い。ただし、第1金属層をエッチングで深く掘りすぎると、孤立パターンの磁性層部分が剥離し易くなる恐れもある。
【発明の効果】
【0027】
本発明の情報記録媒体では、上述のように、磁性層の上下面を第1及び第2金属層で被覆することにより、磁性層に微小な凸状の孤立パターンを形成する際に生じる化学的及び物理的ストレスを低減することができるので、所望の磁化特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の情報記録媒体について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[情報記録媒体]
この例で作製した情報記録媒体の概略断面図を図1に示した。なお、この例で作製した情報記録媒体はパターンドメディアであり、情報の記録再生はハイブリッド記録方式で行う情報記録媒体である。この例で作製した情報記録媒体10は、図1に示すように、基板1上に、密着層2、下部放熱層3(第1金属層)、記録層4(磁性層)及び上部放熱層5(第2金属層)を順次積層した構造を有する。この例では、記録層4にはTbFeCoアモルファス合金を用いた。以下に、この例で作製した情報記録媒体10の製造方法について説明する。
【0030】
まず、基板1には2.5インチのガラス基板を用意し、基板1を洗浄した。次いで、基板1をスパッタリング装置(不図示)内に設置し、導入室で予め所定の真空度まで排気した。その後、スパッタリング装置内にスパッタガスとしてArガスを導入した。
【0031】
次に、基板1上に、密着層2としてCr膜を、スパッタ法により、5nmの膜厚で形成した。この際、Arガス圧0.3Pa、Crターゲットの印加電力1kWの条件下で密着層2を形成した。
【0032】
次に、密着層2上に、下部放熱層3としてAlSi合金膜を、スパッタ法により、100nmの膜厚で形成した。この際、Arガス圧0.1Pa、AlSiターゲットの印加電力1kWの条件下で下部放熱層3を形成した。AlSiの組成はAl50Si50[at%]とした。
【0033】
次いで、下部放熱層3上に、記録層4としてTbFeCoアモルファス合金膜を、スパッタ法により形成した。この際、Arガス圧1Pa、TbFeCoターゲットの印加電力1kWの条件下で記録層4を形成した。記録層4のキュリー温度は300℃以上であった。また、この例では記録層4の膜厚が1、3、10、100及び300nmである6種類の情報記録媒体を作製した。
【0034】
次に、記録層4上に、上部放熱層5としてAlSi合金膜を、スパッタ法により、10nmの膜厚で形成した。この際、Arガス圧0.1Pa、AlSiターゲットの印加電力1kWの条件下で上部放熱層5を形成した。AlSiの組成はAl50Si50[at%]とした。
【0035】
上述のように基板1上に各層2〜5が積層した後、スパッタリング装置から媒体を取り出し、上部放熱層5上に露光用レジストを塗布した。次いで、レジストが塗布された媒体を光ディスクの作製に用いられるカッティング装置(不図示)に装着し、DeepUVで媒体上に塗布されたレジスト膜を露光し、所定のパターンを露光した。この例では、トラック方向に孤立パターン(以下、ドットという)とスペースが繰り返されたパターンを露光した。ドットの形状は角に丸みのある四角柱とし、そのサイズはトラック方向の幅が200nm、径方向の幅が200nmとした。また、トラック方向のドット間のスペースを100nmとし、トラック送り幅(トラックピッチ)を300nmとした。なお、レジストにはネガ型とポジ型があり、この例で作製した情報記録媒体のようにドットとスペースがトラック方向に同じ幅で形成されている場合にはどちらを用いても良いが、ドットエッジ(孤立パターンの側面部)をより鋭く形成するためにはポジ型の方が好ましい。それゆえ、この例ではポジ型のレジストを用いた。
【0036】
上述のような所定のドットパターンを露光した後、RIE技術を用いて、未露光部分(ドット以外の領域)のレジストを除去した。次いで、RIEにより露出した領域、すなわち、ドット以外の領域をArイオンミリングでエッチングして積層膜を掘り下げた。この例では、図1に示すように、ドット以外の領域を下部放熱層3の表面までエッチングして掘り下げた。上述のようなエッチング加工により、記録層4内に、図1に示すような凸状の孤立パターン6を複数形成した。エッチング終了後、上部放熱層5上に残存したレジストを除去して、図1に示すような本実施例の情報記録媒体10を得た。なお、この例では、上部放熱層5上に保護膜としてSiNを3nmの膜厚で形成した(不図示)。保護膜はガス圧0.1Pa、印加電力1kWの条件で形成した。
【0037】
[記録層の膜厚と酸素量との関係]
上記製造方法で作製された記録層の膜厚が異なる6種類の情報記録媒体に対して、それぞれ記録層のドットエッジ(図1中の領域7)の酸素量を、断面TEM観察装置付属の組成分析装置EDXを利用して測定した。その結果を図2に示した。図2から明らかなように、TbFeCoアモルファス合金で形成した記録層の膜厚が約30nmより厚くなると、急激に記録層のドットエッジの酸素量が増大することが分かった。すなわち、記録層の膜厚が30nmより厚くなると、急激にドットエッジが酸化されることが分かった。また、図2に示すように、記録層の膜厚が300nmの情報記録媒体では非常に酸化が進んでいることが分かった。
【0038】
また、図2から明らかなように、記録層の膜厚が薄くなると酸化の影響は非常に低減され、記録層の膜厚が約0nm〜50nmの範囲では酸素量は約5%以下となり、特に記録層の膜厚が約0nm〜30nmの範囲になると酸化量は約3%以下となり非常に酸素量が減少することが分かった。なお、記録層の膜厚が3nmより薄くなると、再生信号が急激に低下するので記録層の膜厚は3nm以上とする必要がある。すなわち、記録層の膜厚を約3nm〜50nm、特に約3nm〜30nmにすることにより、記録層の酸化による劣化が十分抑制されることが分かった。なお、ドットエッジ部分の酸素量が5%を越える情報記録媒体に対して、温度80℃、湿度80%における環境試験を行ったところ100時間でドットエッジ部分の腐食が確認された。
【0039】
なお、比較のため、下部放熱層及び上部放熱層にSiNを用いた情報記録媒体を作製してドットエッジの酸素量を調べた。その結果、記録層の膜厚が10nmでドットエッジの酸素量は5%となり、実施例1で作製した情報記録媒体に比べると、孤立パターン形成時の記録層の酸化による劣化が非常に大きいことが分かった。
【0040】
[磁気特性]
また、この例では、記録層のドットパターンの形成前後で、情報記録媒体の磁気特性を振動試料型磁束計で測定した。その結果を図3に示した。ただし、図3の測定結果は、記録層の膜厚が10nmの情報記録媒体のものである。また、図3中の黒丸の測定点で示されたヒステリシス曲線が記録層にドットパターンを形成する前の磁化曲線であり、白丸の測定点で示されたヒステリシス曲線が記録層にドットパターンを形成した後の磁化曲線である。図3から明らかなように、記録層にドットパターンを形成した後の飽和磁化が、記録層にドットパターンを形成する前の飽和磁化の約半分の値になっており、ドットパターン形成時に除去された磁性体(記録層)の体積分だけ飽和磁化が減少していることが分かった。この結果から、ドットパターン形成後も記録層の磁化特性がほとんど劣化しておらず、ドットエッジ部の腐食がほとんど無視できる程度のものであることが分かった。
【実施例2】
【0041】
実施例2では、TbFeCoアモルファス合金で形成された記録層の膜厚を10nmとし、記録層中に含まれるTbの含有量を変化させた種々の情報記録媒体を作製した。具体的には、記録層中のTb量を5〜30at.%の範囲で変化させた。記録層中のTb量を変化させた以外は、実施例1と同様にして情報記録媒体を作製した。記録層に形成されるドットパターンも実施例1と同様とした。
【0042】
[記録層中のTb量と酸素量との関係]
この例では、記録層中のTb量と、ドットパターンのエッジ部分の酸素量との関係を調べた。なお、エッジ部分の酸素量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を図4に示した。図4から明らかなように、記録層中のTbの含有量が増加するとともに、記録層のドットエッジ部分に含まれる酸素量も増加することが分かった。また、図4から明らかなように、記録層中のTb量を0〜25at.%以下とすると、ドットエッジ部分の酸素量が5%以下となり、記録層の酸化による劣化が十分抑制されることが分かった。また、Tb量が10at.%より少なくなると、記録層が垂直磁化膜になり難くなり、記録特性が劣化した。それゆえ、好適なTb量は10at.%〜25at.%であることが分かった。
【実施例3】
【0043】
この例では、記録層にドットパターンを形成する際のエッチング深さ、すなわち、ドット(孤立パターン)の高さを変化させた種々の情報記録媒体を作製した。なお、この例の情報記録媒体では、記録層の膜厚は10nmとし、記録層のTb量は14at.%とした。また、この例では、下部放熱層の膜厚t及び上部放熱層の膜厚tは実施例1と同様にそれぞれ100nm及び10nmとした。
【0044】
[ドットの高さと酸素量との関係]
この例では、記録層にドットパターンを形成する際のエッチング深さ(エッチング処理終了位置)と、ドットパターンのエッジ部分の酸素量との関係を調べた。ドットエッジ部分の酸素量の測定は、実施例1と同様の方法で行った。ただし、この例では、図1中の上部放熱層5の記録層4側表面を基準(エッチング深さ=0nm)として、エッチング深さを変化させ、各エッチング深さにおける記録層4のエッジ部分の酸素量を測定した。なお、この測定を行う際には、情報記録媒体の上部放熱層5上に媒体の押さえとして10nm程度の樹脂膜(不図示)を形成した。
【0045】
この例では、エッチング深さを−20nm〜100nmの範囲で変化させた。それゆえ、エッチング深さ−20nm〜−10nm、−10nm〜0nm、0nm〜10nm及び10nm〜100nmの範囲が、それぞれ樹脂膜、上部放熱層5、記録層4及び下部放熱層3のエッチング範囲となる。なお、上記エッチング深さの範囲を、図1中に示したドットの高さHで換算すると、−10nm〜120nmの範囲となる。
【0046】
上記測定の結果を図5に示した。図5から明らかなように、記録層にドットパターンを形成する際のエッチング深さが増加するとともに、記録層のドットエッジ部分に含まれる酸素量も増加することが分かった。これは、エッチングでドットパターン以外の領域をより深く下げることにより、エッチングにより発生する熱がドットパターンのエッジ部分により多く蓄積されるためであると考えられる。すなわち、エッチングでドットパターン以外の領域をより深く掘り下げることにより、記録層により多くの熱的なダメージが与えられることが分かった。
【0047】
また、図5から明らかなように、上部放熱層5の記録層4側表面を基準(図5中のエッチング深さ=0nm)とした場合、エッチング深さを約3nmより大きく且つ約65nm以下とすることにより、ドットパターンのエッジ部分の酸素量が約5%以下となり、記録層の酸化による劣化が十分抑制されることが分かった。特に、エッチング深さを約3nmより大きく且つ約30nm以下とすることにより、ドットパターンのエッジ部分の酸素量が約2%となり、記録層の酸化による劣化がより一層抑制されることが分かった。なお、エッチング深さが5nm以下になると、エッチングによる記録層上部からの掘り下げが浅く、ドットパターンとその周辺部(ドット間)に残存する記録層とが十分繋がっているため、ドットパターンの磁気的な孤立化が不十分となるため好ましくない。それゆえ、図5の測定結果から、記録層の酸化を十分抑制するためには、エッチング深さを約5nmより大きく且つ約65nm以下の範囲にすることが好ましく、特に、約5nmより大きく且つ約30nm以下の範囲にすることがより好ましいことが分かった。
【0048】
上述の結果から得られた記録層の酸化を十分抑制(ドットパターンのエッジ部分の酸素量が約5%以下)するための好ましいエッチング深さの範囲、すなわち、約−5nmより大きく且つ約65nm以下の範囲を、ドットパターンの高さHに換算すると(上部放熱層5の上面を基準にした場合)、ドットパターンの高さHが約15nmより大きく且つ約75nm以下の範囲となる。この結果から、上記記録層の膜厚tと、上部放熱層の膜厚tと、ドットパターンの高さHとの間の好ましい関係を一般式で表わすと、t/2+t<H≦t+t+55nmとなることが分かった。なお、ドットパターンのエッジ部分の酸素量が約2%となるより好ましいエッチング深さの範囲、すなわち、約−5nmより大きく且つ約30nm以下の範囲を、ドットパターンの高さHに換算するとドットパターンの高さHが約15nmより大きく且つ約45nm以下の範囲となる。
【実施例4】
【0049】
実施例4では、記録層として0.3nmのCo膜と0.8nmのPd膜とを交互に積層したCo/Pd多層膜を用いた。Co/Pd多層膜の作製方法は次の通りである。Co及びPdの両ターゲットを3PaのXeガス雰囲気中で同時放電させて、スパッタ装置内で両ターゲット上に基板を繰り返して配置させることによりCo/Pd多層膜を作製した。なお、Coターゲットのスパッタリングパワーを860Wとし、Pdターゲットのスパッタリングパワーを500Wとした。この例では、Co/Pd多層膜の積層数を種々(5種類)変化させた情報記録媒体を作製した。ただし、記録層以外は実施例1と同様にして情報記録媒体を作製した。
【0050】
[Co/Pd多層膜の積層数と酸素量との関係]
この例で作製したCo/Pd多層膜の積層数、すなわち、記録層の膜厚が異なる5種類の情報記録媒体に対して、それぞれ記録層に形成されたドットエッジ(側面部)の酸素量を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を図6に示した。図6と実施例1の結果(図2)を比べるとドットパターンのエッジ部分に含まれる酸素量は異なるが、図6から明らかなように、記録層にCo/Pd多層膜を用いた場合にも、実施例1と同様に、記録層の膜厚が約50nmより厚くなると急激に記録層のドットエッジ部分の酸素量が増大して、ドットエッジが酸化されることが分かった。
【0051】
また、図6から明らかなように、記録層の膜厚が薄くなると酸化の影響は非常に低減され、記録層の膜厚が約3nm〜約60nmの範囲では酸素量は約2%以下となり、特に記録層の膜厚が約3nm〜約30nmの範囲になると酸化量は約1%以下となり非常に酸素量が減少することが分かった。すなわち、記録層の膜厚を約3nm〜約60nm、特に約3nm〜約30nmにすることにより、記録層の酸化による劣化が十分抑制されることが分かった。
【0052】
図2及び図6の結果から明らかなように、記録膜材料が異なっても記録層の膜厚に対するドットエッジの酸素量の変化は同様となり、いずれの場合にも記録層の膜厚が薄い方が酸化等によるダメージが少なくなり、ある程度の膜厚(上記実施例では約50nm)を超えると急激に酸化が進むことが分かった。ある程度の膜厚を超えると急激に酸化が進む原因としては、パターンエッジの表面積が増えると急激に酸化し易くなる、あるいは、記録層がある程度の厚みになるまでは記録層を被覆している第1及び第2放熱層中の金属(Al)が不導体を作る効果で記録層へのダメージが軽減されるが、その厚みを超えると第1及び第2放熱層による酸化の抑制効果だけでは、記録層へのダメージを抑制しきれなくなるためであると考えられる。
【0053】
上記実施例1〜4では、情報記録媒体の上部放熱層上にドット及びドット間を覆うように保護膜を設けた情報記録媒体の例を説明したが本発明はこれに限定されない。例えば、ドット間に保護材料等を埋め込んでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の情報記録媒体によれば、上述のように、記録層の上下面を金属材料で形成された放熱層で被覆することにより、記録層に微小な孤立パターンを形成する際に生じる化学的及び物理的ストレスを低減することができるので、所望の磁気特性が得られる。それゆえ、本発明の情報記録媒体は、より高密度な情報記録を可能とするパターンドメディア、特に、ハイブリッド記録により情報が一層高密度記録可能であるパターンドメディアとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、実施例1で作製した情報記録媒体の概略断面図である。
【図2】図2は、実施例1で作製した種々の情報記録媒体の記録層の膜厚に対するドットパターンのエッジ部分に含まれる酸素量の変化を示した図である。
【図3】図3は、実施例1で作製した情報記録媒体における孤立パターンの形成前後の磁化特性を比較した図である。
【図4】図4は、実施例2で作製した種々の情報記録媒体の記録層中のTb含有量に対するドットのエッジ部分に含まれる酸素量の変化を示した図である。
【図5】図5は、実施例3で作製した種々の情報記録媒体のエッチング深さ(ドットの高さ)に対するドットのエッジ部分に含まれる酸素量の変化を示した図である。
【図6】図6は、実施例4で作製した種々の情報記録媒体の記録層の膜厚に対するドットのエッジ部分に含まれる酸素量の変化を示した図である。
【図7】図7は、従来の磁気記録媒体とパターンドメディアとの情報の記録状態の様子を比較した図であり、図7(a)は従来の磁気記録媒体の記録層における情報の記録状態を示した図であり、図7(b)はパターンドメディアの記録層における情報の記録状態を示した図である。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 密着層
3 下部放熱層(第1金属層)
4 記録層(磁性層)
5 上部放熱層(第2金属層)
6,104 ドット(孤立パターン)
10 情報記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録媒体であって、
基板と、
該基板上に形成された密着層と、
該密着層上に形成された第1金属層と、
第1金属層上に形成された磁性層と、
該磁性層上に形成された第2金属層とを備え、
第1金属層及び該磁性層の少なくとも一層がアモルファス状態であり、該磁性層には複数の孤立した凸パターンで記録領域が形成されていることを特徴とする情報記録媒体。
【請求項2】
上記磁性層がアモルファス合金で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体。
【請求項3】
上記磁性層の膜厚が、3nm〜50nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の情報記録媒体。
【請求項4】
上記磁性層が希土類遷移金属で形成され、上記磁性層中の希土類金属の含有量が10at.%〜25at.%の範囲の値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の情報記録媒体。
【請求項5】
上記磁性層の膜厚tと、第2金属層の膜厚tと、上記孤立した凸パターンの高さHとの間に、t/2+t<H≦t+t+55nmの関係が成立することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の情報記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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