説明

情報記録方法、情報記録装置および記録媒体

【課題】構成が簡単で多値記録が可能な情報記録方法、情報記録装置および記録媒体を提供する。
【解決手段】層状分子結晶からなる記録媒体に多値情報を記録する情報記録装置において、記録媒体を載置するステージと、載置される記録媒体に対向して配置される熱プローブと、熱プローブを加熱する加熱機構と、記録媒体と熱プローブの相対位置を移動させる移動手段と、熱プローブの撓み量を検出する検出機構と、加熱機構により熱プローブを加熱しながら押圧し、熱プローブが陥入する層の数を制御することで深さを制御した細孔を記録層に形成し、検出機構によって検出された熱プローブの撓み量の階段状変化の出現回数をカウントすることにより、多値情報の記録を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多値記録が可能な情報記録方法、情報記録装置および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報容量の増大に伴い、記録媒体上への単位体積当たりの記録情報量の増大が図られている。その中で、記録媒体へ情報を記録する装置として走査型プローブ顕微鏡(以下「SPM」という)装置を用いる方法が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、加熱可能なプローブを用いて記録媒体表層を局所的に熱融解させ、深さ一定の穴をあけて記録ビットを作製する装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、記録媒体表面に機械強度の異なる多層の記録層を用いることで多値記録を可能とする情報処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−315434号公報
【特許文献2】特開平8−194974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている装置では、記録ビットの有無のみで情報を記録するため、記録密度を高くすることは出来ない。
【0007】
また、特許文献2に開示されている装置では、多値記録を行うために機械的強度の異なる多層の記録層を記録媒体表面に作製する必要があり、構造が複雑となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高密度で多値記録が可能であり、かつ構造が簡単な情報記録方法、情報記録装置および記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、層状分子結晶からなる記録媒体に多値情報を記録する情報記録方法において、前記記録媒体の面内の任意の点を熱プローブにより加熱および押圧し、前記熱プローブの陥入する記録層の数を制御することにより、深さの異なる細孔を前記記録媒体に形成し、多値の情報を記録することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、層状分子結晶からなる記録媒体に多値情報を記録する情報記録装置において、前記記録媒体を載置するステージと、載置される記録媒体に対向して配置される熱プローブと、前記熱プローブを加熱する加熱機構と、前記記録媒体と前記熱プローブの相対位置を移動させる移動手段と、前記熱プローブの撓み量を検出する検出機構と、前記加熱機構により前記熱プローブを加熱しながら、前記検出機構によって前記熱プローブの撓み量を検出し、検出された前記熱プローブの撓み量の階段状変化の出現回数をカウントすることにより、多値情報の記録を行う制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の記録媒体は、層状分子結晶からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明によれば、高密度で多値記録が可能であり、かつ構造が簡単な情報記録方法、情報記録装置および記録媒体を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の情報記録方法の記録原理を示す図である。
【図2】本発明の情報記録装置の構成を示す図である。
【図3】パラフィン上での投入電力に対する熱プローブの撓み量の変化を示す図である。
【図4】パラフィン上に形成された記録ビットを示す図である。
【図5】図4の記録ビット303の書き込み深さを測定した結果である。
【図6】図4の記録ビット304の書き込み深さを測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明の要旨を越えない限り、以下に示す形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は本発明の情報記録方法の記録原理を示した図である。
【0016】
以下に本発明の原理について説明する。
【0017】
熱プローブを記録媒体である層状分子結晶(記録層)に接触させた後、熱プローブを加熱する。この際、熱プローブは層状分子結晶に対して所定の接触圧を保つように配置される。次に、熱プローブへの投入熱量を時間とともに増やしていくと、熱プローブの撓み量は緩やかな第一の曲線101で大きくなる。撓み量が大きくなるのは熱プローブおよび層状分子結晶の熱膨張による。投入熱量が大きくなると層状分子結晶の熱プローブと接する第一層目が融解温度に達する。この時、第一層目の層内の熱伝達速度に対し、第一層と第二層間の熱伝導速度が遅いために第二層目は融解温度に達していない。したがって、第一層目が融解し熱プローブは層状分子結晶に陥入するが第二層目で止まることになる。その結果、投入熱量−撓み量曲線に層状分子結晶の層間距離に対応する階段状変化102が生じる。さらに投入熱量を増やすと第二の曲線103のように撓み量は再び緩やかに増加する。このように熱プローブへの投入熱量を増加していくと層状分子結晶は一層毎に軟化をし、熱プローブは層状分子結晶内へ陥入していく。この原理を用いて、多値情報に応じて熱プローブの投入熱量を制御することにより、熱プローブが陥入する総数を制御できる。結果、多値情報を熱プローブが陥入する深さの変化として記録することができる。
【0018】
図2は本発明の情報記録装置の概略構成図を示す。
【0019】
熱プローブ201は、記録媒体203に対向するように、プローブホルダ202に固定し用いる。熱プローブ201としては、U字型カンチレバーに通電し抵抗加熱する熱プローブ、金属ワイヤをV字型に曲げて通電加熱する熱プローブ、レーザーなどにより間接的に加熱する熱プローブなどを用いることができる。
【0020】
記録媒体203はステージ204に載置する。記録媒体203は基板上に記録層を有する構造とする。記録層は有機物の層状分子結晶からなるものとする。記録層の材料としては、パラフィン、螺旋形ポリアセチレン、ポリカプロラクトン等が挙げられる。基板は記録層を構成する材料とは異なる材料からできており、融点が記録層よりも高い材料からなるものとする。
【0021】
熱プローブ201と記録媒体203とは、記録媒体203の面内方向において、移動手段205を用いて相対的に移動される。この図では移動手段は記録媒体203の位置を変える構成となっているが、移動手段を熱プローブ201と一体化することで記録媒体203は固定し、熱プローブ201の位置を変える構成としてもよい。熱プローブ201と記録媒体203を接触させるときは、制御装置207を用いて移動手段205を制御して熱プローブ201と記録媒体203の接触圧(押圧)を一定に保つことが望ましい。
【0022】
熱プローブ201の加熱は加熱機構208を用いて行う。加熱機構208は制御装置207と接続されており、制御装置207からの信号に従い投入熱量を制御する。投入熱量に対する熱プローブ201の撓み量変位は検出機構206を用いて検出し、制御装置207に送られる。
【0023】
制御装置207は、加熱機構208の投入熱量に対する熱プローブ201の撓み量の変化曲線において、層間距離に対応する階段状変化102の出現回数をカウントし、カウント値が記録すべき多値情報に応じた所定の回数になった時点で加熱機構208からの熱の投入を停止する。
【0024】
以上の構成とすることで、深さを制御した細孔を記録層に形成することにより多値情報を記録することができる。
【実施例1】
【0025】
記録媒体203は、ガラス基板にパラフィンをのせ、ホットプレートで100℃まで加熱してパラフィンを融解させた後、室温まで徐冷することで作製した。記録層が層状構造を持つことはSPMで確認した。また、SPMの形状像から1層分の高さが約2.5nmであることを確認した。
【0026】
情報記録装置を構成するSPM装置にはエスアイアイ・ナノテクノロジー社製のS−imageを用いた。熱プローブ201はアナシス・インスツルメンツ社製のEXP−AN2−300を用いた。
【0027】
熱プローブ201が記録媒体203に接触したときの熱プローブ201の押しつけ圧が一定値になるように制御装置207(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、NanoNavi II)でコントロールして熱プローブ201を記録媒体203の表面の任意の点に接触させた。
【0028】
次に、熱プローブ201を加熱し記録媒体203上へ情報記録を行った。熱プローブ201の加熱は加熱装置208(アナシス・インスツルメンツ社製、nano−TA2)を用い、熱プローブ201への直接通電方式にて行った。
【0029】
図3は、情報記録時の熱プローブ201への投入電力に対する熱プローブ201の撓み量の変化を記録した図で、第一の記録点で行った情報記録の制御曲線301と第二の記録点で行った情報記録の制御曲線302とを記してある。横軸が投入電力となっているが、熱プローブ201は直接通電方式で加熱しているので、投入熱量に相当する。第一の記録点では階段状変化102が2回現れた時点で加熱装置208からの加熱を停止し、第二の記録点では階段状変化102が4回現れた時点で加熱装置208からの加熱を停止した。
【0030】
記録ビットの確認はSPM装置を用いて形状観察により行った。図4は第一の記録点で形成された記録ビット303および第二の記録点で形成された記録ビット304のSPMの形状像である。図4の形状像から記録ビット303での記録深さを測定したラインプロファイル305を図5に、記録ビット304での記録深さを測定したプロファイル306を図6に示す。ラインプロファイル305より記録ビット303での書き込み深さは約5.2nm、ラインプロファイル305より記録ビット303での書き込み深さは約10.5nmであった。記録ビット303の書き込み深さ約5.2nmは記録層であるパラフィンの2層分の高さに相当し、記録ビット303の書き込み深さ約10.5nmは記録層であるパラフィンの4層分の高さに相当する。
【0031】
以上実施例により、陥入する層の数を制御することにより深さを制御した細孔を記録層に形成することができた。
【符号の説明】
【0032】
101 第一の曲線
102 階段状変化
103 第二の曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状分子結晶からなる記録媒体に多値情報を記録する情報記録方法において、前記記録媒体の面内の任意の点を熱プローブにより加熱および押圧し、前記熱プローブの陥入する記録層の数を制御することにより、深さの異なる細孔を前記記録媒体に形成し、多値の情報を記録することを特徴とする情報記録方法。
【請求項2】
層状分子結晶からなる記録媒体に多値情報を記録する情報記録装置において、前記記録媒体を載置するステージと、載置される記録媒体に対向して配置される熱プローブと、前記熱プローブを加熱する加熱機構と、前記記録媒体と前記熱プローブの相対位置を移動させる移動手段と、前記熱プローブの撓み量を検出する検出機構と、前記加熱機構により前記熱プローブを加熱しながら、前記検出機構によって前記熱プローブの撓み量を検出し、検出された前記熱プローブの撓み量の階段状変化の出現回数をカウントすることにより、多値情報の記録を行う制御手段と、を備えることを特徴とする情報記録装置。
【請求項3】
多値情報記録用の記録媒体において、記録層が層状分子結晶からなることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45479(P2013−45479A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182545(P2011−182545)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)