説明

情報記録装置とその情報記録再生方法

【課題】情報の記録密度の向上および情報のアクセス等の必要な多数かつ複雑な配線の作成や発熱等の問題を低減し、情報を記録する密度の増大を図る。
【解決手段】配列端部の金属ナノ粒子2と隣接して振動モード変換素子3と検光子4を配置し、発光素子の光を、近接場光プローブ13を用いて振動モード変換素子3の1粒子に近接場光の局在プラズモンを励起する。局在プラズモンは、近接場光を介して金属ナノ粒子2の配列を次々にプラズモン・ポラリトン波が伝播し、配列の端にある検光子4を励起する。この検光子4の近接場光強度を、近接場光プローブ14を用いて測定、同様に、近接場プローブ13で別の振動モード変換素子3を励起、近接場光プローブ14で複数の検光子4の近接場光強度を測定する。この繰り返しで近接場光プローブ14を通して検出される光量データにより各金属ナノ粒子2のスピンの向きを特定でき配列から情報として読み出しができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光学とナノ構造の強磁性体金属を含む微粒子を用いた磁気記録素子による記録媒体に係り、特に大容量の情報記録が可能となる情報記録装置とその情報記録再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報量の増大に伴い情報記録装置,メモリシステムの情報記録密度は飛躍的に増大しており、磁気記録媒体では、磁気ディスクにおいてTB/inchの記憶容量の開発が想定されるまでになっている。
【0003】
また、世界の情報量はすでにエクサ(10の18乗)バイトに達し、2020年代にはそれがパーソナルレベルでも身近なものとなりつつある。そして、これに対応して2020年代後半には、1ペタbpsiの記録密度とペタバイト級ストレージが実用化されていると考えられる。実際、現在(2005年)すでにHDD(ハードディスクドライブ)とDVD(デジタルバーサタイルディスク)を組み合わせた1テラバイト級の家庭用録画器が登場しているので、20年後のマイルストーンとして現実的な値である。
【0004】
1ペタバイト級の記録容量は、現在のDVDが4.7ギガバイトで2時間とすると、一人の人生50年分を撮り続けることができる容量である。また、単純に2次元で1平方インチの記録密度を計算すると、単位記録サイズは、1テラbpsiで25.4×25.4nmであるのに対して、1ペタbpsiでは0.8×0.8nmとなる。原子の大きさを0.1nm径とすると原子64個分に相当する大きさである。1ペタbpsiの記録密度を実用化する上でナノ加工技術が基盤技術の一つとなる。光メモリ分野では現在近接場光技術開発の一環としてナノ加工技術の開発が進んでいて、ナノ加工技術のこの分野における役割は今後一層重要になる。さらに新規なナノ構造から発現する新機能材料の開発も見込める。
【0005】
情報記録は材料,デバイス,メカニクス,システムをすべて含んだ総合技術で、これらすべてを総合的に考慮した上で開発する必要がある。材料のみ、デバイスのみの議論では実用につながらず、ナノからマイクロの系へいかに信号を取り出すかというシステム上の本質的検討(再生速度も含む)とブレークスルーが必要である。すなわち、ペタバイト級ストレージの開発では、例えばコンセプトテクノロジとして、高感度の情報読みだし、電子・電界入力光再生方式、微少領域での状態安定化、ナノセル化、マイグレーション防止、保護層等の要素技術が、また、ファンクショナルテクノロジとして、微細加工、転写形成、アクセス制御等の要素技術が必須である。
【0006】
ペタバイト級の情報記録媒体において、ナノフォトニクスの概念に基づいたナノフォトニックデバイスおよびその集積回路との組み合わせにより光メモリの固体化(例えば、半導体フラッシュメモリによる情報記録再生装置)を検討すべきである。また、半導体メモリも大容量になれば、発熱などのために限界があるが、半導体メモリを電子ではなく、近接場光で動作させるナノフォトニクス型半導体メモリと融合することでこれを解決することができる。
【0007】
このペタバイト級の超高密度記録媒体の実現に向け、ノイズや不安定動作の要因となる磁壁を排除したナノサイズの単磁区磁性結晶粒(スピンナノクラスタ)を整然と並べた超テラbpsi級の記録密度の媒体を端緒とし、段階的に粒子サイズを低減すると共に読み出し/書き込み技術の高空間分解能、超高速化への移行を念頭とした新規媒体を構築することでサブペタbpsiまでの高密度化を図る。最終的には、光−電子スピン相互作用を利用した新原理に基づく一原子スピンの制御によりさらに大容量化を目指している。
【0008】
また、これまでの情報記録装置,メモリシステムとして、半導体デバイスを用いて作成する論理素子で構成される半導体メモリ,磁気ディスク,磁気テープ,磁気バブルメモリ等の磁気を用いたメモリ、あるいはCD,DVD等の光ディスクや光カード等の光を用いたメモリなど様々なメモリ技術が開発されている。例えば、磁気を用いた固体メモリとしてはMRAM(Magnetic Random Access Memory)が提案されている(非特許文献1参照)。また、スピントランスファートルクを用いた磁化反転に関する技術が知られている。これを用いたMRAMも提案されている(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】松山公秀 「磁性ランダムアクセスメモリ(MRAM)の課題と可能性」応用物理 第69巻 第9号2000年 p1074〜1079
【非特許文献2】屋上公二郎、鈴木義茂 「スピン注入磁化反転の研究動向」 日本応用磁気学会誌 Vol.28 No.9 2004年 p937〜948
【非特許文献3】内藤勝之「有機分子の自己組織化ナノ構造を利用した2.5インチディスク状パターンドメディアの作製」日本応用磁気学会誌 第27巻 3号 2003年 p101〜105
【非特許文献4】Koji Asakawa and Akira Fujimoto 「Fabrication of subwavelength structure for improvement in light-extraction efficiency of light-emitting devices using a self-assembled pattern of block copolymer」 Appl. Opt. Vol.44 No.34 2005 p7475〜7482
【非特許文献5】B. ジャヤデワン、田路和幸、久野誠一、小川智之、高橋研 「高保磁力ナノ粒子の化学合成−酸化物および金属ナノ粒子について−」日本応用磁気学会誌 第28巻 8号 2004年p896〜905
【非特許文献6】竹本一矢、佐久間芳樹、廣瀬真一、臼杵達哉、横山直樹、宮澤俊之、高津求、荒川泰彦 「InAs/InP単一量子ドットからの1.3μm帯非古典光放出」 J. J. Appl. Phys. Vol.43 No.7B 2004,pp. L993〜L995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の磁気記録メモリ、例えばMRAM等では、磁区を持つ強磁性体を含む磁気記録材料中に形成された磁化の方向を制御することで情報を記録する方式であり、より記録密度の増大を目指す時には、磁区の大きさをより小さくすることが必要となる。従来のMRAMでは、情報の記録および再生のために電流を流す必要があり、このため記録信号の読み出しには磁化反転による磁気抵抗の変化を検出することになるが、素子の微細化に伴い抵抗変化が小さくなって検出が困難になると予想される。
【0010】
また、記録密度の増大に付随して情報のアクセス等のために多数かつ複雑な配線が必要になる。その集積度の向上に伴い配線を流れる電流やリーク電流による発熱の問題も無視できない問題となり記録密度の増大を図る上での障害となっている。
【0011】
本発明は、前記従来技術の問題を解決することに指向するものであって、情報の記録密度の向上および情報のアクセス等に係り、必要な多数かつ複雑な配線の作成や発熱等の問題を低減し、情報を記録する密度の増大を図った情報記録装置およびその情報記録再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載した情報記録装置は、平面上に至近距離で配列した強磁性体金属を含む複数の微粒子と、近接場光を励起するための発光素子と、微粒子を伝播した近接場光を検出するための光電変換素子とを備えたことによって、発光素子により近接場光を励起し、微粒子の一部に特定の近接場光とプラズモンの振動モードを励起して複数の微粒子間を伝播させ、微粒子の磁気モーメントの向きによる近接場光とプラズモンの振動モードの変化を生じさせて、配列終端部付近の微粒子に生じる近接場光とプラズモンの振動モード変化を検出することが可能となり、微粒子の磁気モーメントの向きにより情報を記録している粒子配列からの記録情報の読み出しができる。
【0013】
また、請求項2に記載した情報記録装置は、請求項1記載の情報記録装置において、微粒子の配列端部に近接して、微粒子の配列端部に到達したプラズモンあるいは近接場光の振動モードを識別する検光子を備えたことによって、配列終端部付近の微粒子に生じる近接場光とプラズモンの、特定の電界方向の振動モードを選択して検光子に励起することで振動モードの強度変化を検出でき、請求項1の作用効果に加えて、情報を記録している粒子配列からの記録情報の読み出しがより安定かつ容易にできる。
【0014】
また、請求項3に記載した情報記録装置は、請求項1,2記載の情報記録装置において、微粒子の配列の一部に近接して、特定の振動モードの近接場光を微粒子の配列の一部に励起する振動モード変換素子を備えたことによって、発光素子により振動モード変換素子に特定の電界方向の振動モードを励起し、近接場光とプラズモンの特定の振動モードを近接する微粒子の配列の一部に励起でき、請求項1,2の作用効果に加えて、発光素子により直接あるいは近接場プローブ等を用いて外部から振動モード変換素子を励起することで、近接場光とプラズモンの特定の電界方向の振動モードを微粒子の配列の一部により容易に励起できる。
【0015】
また、請求項4に記載した情報記録装置は、請求項1〜3の情報記録装置において、導電性基板の上に設けた絶縁体薄膜と、この絶縁体薄膜の上に微粒子を配列し、微粒子の上方に近接して配置する強磁性体を含む材料からなる微小針と、この微小針を微粒子上に移動するための微小針駆動部とを備えたことによって、導電性基板との間に電界を印加して微粒子に電流を流しスピントランスファートルクを用いて強磁性体の磁気モーメントの向きを制御することができ、請求項1〜3の作用効果に加えて、各微粒子に印加する電流の向きにより個別に磁気モーメントの向きを設定でき、各微粒子への情報の書き込みが可能になる。
【0016】
また、請求項5に記載した情報記録装置は、請求項1〜4の情報記録装置において、強磁性体を含む導電性基板の上に設けた絶縁体薄膜と、この絶縁体薄膜の上に微粒子を配列し、微粒子の上方に近接して配置する導電性微小針と、この微小針を微粒子上に移動するための微小針駆動部とを備えたことによって、導電性基板との間に電界を印加して微粒子に電流を流しスピントランスファートルクを用いて強磁性体の磁気モーメントの向きを制御することができ、請求項1〜4の作用効果に加えて、各微粒子に印加する電流の向きにより個別に磁気モーメントの向きを設定でき、各微粒子への情報の書き込みが可能になる。
【0017】
また、請求項6に記載した情報記録装置は、請求項1〜3の情報記録装置において、絶縁体基板の上に設けた線状の複数の第1の電極と、この第1の電極上に設けた第1の絶縁体薄膜と、この第1の絶縁体薄膜の上に微粒子を配列し、微粒子の上に設けた第2の絶縁体薄膜と、第2の絶縁体薄膜の上に第1の電極と交差する方向に配列した複数の線状の第2の電極とを備え、第1の電極あるいは第2の電極のいずれか一方あるいは両方の電極が強磁性体を含むことによって、第1の電極と第2の電極の間に電界を印加して各微粒子に絶縁性極薄膜を介してトンネル電流を流し、スピントランスファートルクを用いて各微粒子の磁気モーメントの向きを制御することができ、請求項1〜3の作用効果に加えて、各微粒子に印加する電流の向きにより個別に磁気モーメントの向きを設定でき、各微粒子への情報の書き込みが可能になり、さらに微小針と微小針駆動部を備えたものに比べ、第1,第2の電極を他の構成要素と共に一体化して形成でき、装置の信頼性をより高めることが可能になる。
【0018】
また、請求項7に記載した情報記録装置は、請求項1〜6の情報記録装置において、微粒子の配列端部にある微粒子あるいは検光子に近接して、微小な光電変換素子を備え、この光電変換素子に接触させて導電性の材料からなる電極を配置したことによって、微粒子の磁気モーメントの向きにより生じる、微粒子の配列を伝播する近接場光とプラズモンの振動モードの変化を、近接場光の変化として光電変換素子と電極を用いて電流変化として検出し、記録情報を読み出すことができ、請求項1〜6の作用効果に加え、近接場プローブ等を用いて外部から配列端部の微粒子あるいは検光子の近接場光強度を検出する場合に比べ、微粒子からの情報の読み出しがより高速にでき、また光光電変換素子を他の構成要素と共に一体化できるため装置の信頼性をより高めることが可能になる。
【0019】
また、請求項8に記載した情報記録装置は、請求項1〜7の情報記録装置において、微粒子の配列の一部にある微粒子あるいは振動モード変換素子に近接して、微小な発光素子を備え、この発光素子に接触させて導電性の材料からなる電極を配置したことによって、電極間に電圧を印加して発光素子から近接場光を発光させ、配列の一部の微粒子あるいは振動モード変換素子に近接場光とプラズモンを励起し、微粒子の配列に近接場光とプラズモンの振動モードを伝播させることができ、請求項1〜7の作用効果に加えて、近接場プローブ等を用いて外部から微粒子あるいは振動モード変換素子を励起する場合に比べてより高速に各発光素子を選択して近接場光を発光でき、さらに微小な発光素子を他の構成要素と共に一体化できるため装置の信頼性をより高めることが可能になる。
【0020】
また、請求項9に記載した情報記録装置は、請求項1〜8の情報記録装置において、微粒子が、強磁性体を核としてその周囲に貴金属を被覆した構造からなることによって、外部の電界変動に対して移動する電子の数を微粒子全体で増加させ、微粒子に励起されるプラズモンあるいは近接場光の強度や電場の形状を調節することができ、請求項1〜8の作用効果に加えて、微粒子の設計のパラメータや適用範囲を広げることができる。
【0021】
また、請求項10に記載した情報記録再生方法は、平面上に至近距離で配列した強磁性体金属を含む微粒子の一部にプラズモンあるいは近接場光の振動モードを励起して微粒子間を伝播させ、強磁性体金属の磁気モーメントの向きによるプラズモンの振動モードの変化を生じさせ、配列端部付近で微粒子のプラズモンと近接場光の振動モードの変化を検出し、記録情報として読み出すことによって、微粒子の磁気モーメントの向きにより情報を記録している微粒子の配列からの記録情報を読み出すことができる。
【0022】
また、請求項11に記載した情報記録再生方法は、請求項10の情報記録再生方法において、微粒子の配列端部に近接して配置した検光子を用いて、微粒子の配列端部に到達したプラズモンあるいは近接場光の振動モードを識別することによって、微粒子の配列端部付近で微粒子のプラズモンと近接場光の振動モードの変化をより高い感度で検出することができ、記録情報の読み出しが容易にできる。
【0023】
また、請求項12に記載した情報記録再生方法は、請求項10〜11の情報記録再生方法において、微粒子の配列の一部に近接して配置した振動モード変換素子を用いて、特定のプラズモンあるいは近接場光の振動モードを微粒子の配列の一部に励起することによって、より効率よく励起することができ、記録情報の読み出しが容易にできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、発光素子により微粒子の一部に特定の近接場光とプラズモンの振動モードを励起して複数の微粒子間を伝播させ、微粒子の磁気モーメントの向きによる近接場光とプラズモンの振動モードの変化を生じさせて、配列終端部付近の微粒子に生じる近接場光とプラズモンの振動モード変化を検出して、微粒子の磁気モーメントの向きにより情報を記録している粒子配列からの記録情報の読み出しができ、情報の記録密度の向上および情報のアクセス等に必要な多数かつ複雑な配線による発熱等の問題を低減し、かつ情報記録密度の増大を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施形態1における情報記録装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、導電性基板1a上には絶縁性薄膜1bが形成され、その上に強磁性体を含む微粒子である金属ナノ粒子2が配列されている。また、本実施形態を含め、本発明では強磁性体には狭義の強磁性体の他に、フェリ磁性体を含むものとする。各々の粒子間隔は、おおよそ金属ナノ粒子2の直径かその数倍程度とする。また、各金属ナノ粒子2の間は、何もないかあるいは誘電率の小さい媒質で埋められている。このため各金属ナノ粒子2は電気的に絶縁されている。
【0027】
次に、金属ナノ粒子2の配列端部にある金属ナノ粒子2と隣接して、略棒状あるいは回転楕円体形状の金属ナノ粒子からなる振動モード変換素子3と検光子4が配置されている。ここで光ファイバの先端をエッチング等で突起状に加工し、金属をコーティングした近接場光プローブ13,14を用い、発光素子からの光を光ファイバに導入し近接場光プローブ13を用いて金属ナノ粒子からなる振動モード変換素子3の中で特定の1粒子に近接場光による局在プラズモンを励起させる。これにより、振動モード変換素子3の金属ナノ粒子中に長軸方向に電界の方向が向いた局在プラズモンが励起される。この局在プラズモンは、近接場光を介して強磁性体を含む金属ナノ粒子2の配列を次々にプラズモン・ポラリトンの波として伝播して行き、配列の端にある検光子4を構成する金属ナノ粒子を励起する。
【0028】
ここで、強磁性体を含む金属ナノ粒子2の大きさは約4nm〜50nm程度であり、このサイズでは強磁性体の部分は単一ドメインとなりスピンの向きが揃う。強磁性体を含む金属ナノ粒子2は面心立方晶系あるいは面心正方晶系の材料からなり、そのスピンの向きは導電性基板1aに対してほぼ垂直に向いており、導電性基板1aに平行かつプラズモン・ポラリトン波の進行方向に向いた電界が励起された場合に、導電性基板1aに対して平行かつプラズモン・ポラリトン波の進行方向に対して垂直な電界を持つ横方向の電界成分が生じる。
【0029】
これに関しては図2を用いて説明する。図2は強磁性体を含む金属ナノ粒子2の直線状の配列を(1)〜(4)まで4通り示している。この金属ナノ粒子2のサイズが小さいため、粒子の内部までほぼ一様な電界を持つモードが励起される。図2(1)でスピンSが上向きの時に縦方向(プラズモン・ポラリトン波の進行方向)電界ELが強磁性体を含む金属ナノ粒子2に励起されたとする。ここでバルクの1軸性結晶の磁気光学効果による誘電率テンソルとほぼ同様な誘電率テンソルを、強磁性体を含む金属ナノ粒子2の大きさでは保持していると考えられる。このため、磁気光学効果によりスピンSおよび縦方向電界ELに対して垂直な横方向電界ETが図2(1)の矢印の方向に発生する。ここでスピンSの方向とはスピン角運動量の方向を意味し、強磁性体を含む金属ナノ粒子2の磁気モーメントの方向と同じである。
【0030】
この横方向電界ETの発生する方向は、強磁性体を含む金属ナノ粒子2のスピンSの方向によりその方向が変化する。図2(2)にその例を示す。配列された3つの金属ナノ粒子2のうち、2番目の強磁性体を含む金属ナノ粒子2のスピンSの方向が下向きである。このためその前後の金属ナノ粒子2に比べ、この粒子の中では、反対方向に横方向電界ETが生じる。このため、図2(2)で縦方向に伝播する横方向電界ETは金属ナノ粒子2のスピンSの方向が下向きである粒子を通過する際に反対方向の電界により打ち消し合い電界強度が低下する。
【0031】
この強磁性体を含む金属ナノ粒子2のスピンSの向きにより、横方向電界ETの方向すなわち位相が異なる成分を足し合わせた電界成分が、検光子4を励起することになる。すなわちスピンSの向きが互いの異なる金属ナノ粒子2を伝播する横方向電界ETの強度は打ち消し合って減少し、反対にスピンSが同じ向きの場合は横方向電界ETの強度が増強されることになる。
【0032】
長軸方向を導電性基板1aに平行かつプラズモン・ポラリトン波の進行方向に対して垂直になるように検光子4を配置すれば、強磁性体を含む金属ナノ粒子2のスピンSにより生じる進行方向に対して垂直な横方向電界ETを選択して検光子4の金属ナノ粒子を励起させることができる。
【0033】
図2(3),(4)は縦方向電界ELが、金属ナノ粒子2により異なる成分を持つような振動モードの例を示している。このような場合でも、横方向と縦方向モードの位相が大きく異ならない限り、強磁性体を含む金属ナノ粒子2のスピンSの向きにより縦方向電界ELに対する横方向電界ETの方向が異なるため、図2(1),(2)と同様に位相が異なる成分を足し合わせることができる。
【0034】
また、図1に示すもう一つの近接場光プローブ14を用いて複数の検光子4の近接場光強度を測定する。さらに、近接場プローブ13を用いて別の振動モード変換素子3を励起し、同様にもう一つの近接場光プローブ14を用いて複数の検光子4の近接場光強度を測定する。この作業を繰り返すことにより、近接場光プローブ14を通して検出される光量データにより各金属ナノ粒子2のスピンの向きを特定することができる。
【0035】
各金属ナノ粒子2のスピンの上下の向きを記録情報の1と0に対応させれば、記録情報を読み出すことができる。また情報の記録は、先端が各金属ナノ粒子2に近い大きさに小さくした針(微小針)付のカンチレバー12を各金属ナノ粒子2に近接させ、カンチレバー12と導電性基板1aの間に電界を印加してトンネル電流をカンチレバー12から金属ナノ粒子2を通って導電性基板1aに垂直方向に流すことにより行う。
【0036】
ここでカンチレバー12の下にある微小針の先端は、数十nm以下の大きさにエッチング等で加工されている。また、針を構成する材料は強磁性体を含む導電性材料で構成されている。さらに、この強磁性体のスピンの方向は導電性基板1aに垂直方向に揃えてある必要がある。これにより微小針を導電性基板1aに垂直な方向に流れる電流で金属ナノ粒子2のスピンの方向を揃えることができる。ここで電流の向きに応じて生じるスピントランスファートルクにより金属ナノ粒子2のスピンの向きを上下のどちらかに向けさせることができる。すなわち情報の記録が可能になる。
【0037】
なお、カンチレバー12の下にある微小針として強磁性体を含む導電性材料を用いたが、導電性基板1aとして強磁性体を含む導電性基板1aを用いることもできる。このとき、強磁性体を含む導電性基板1aのスピンの方向を基板に垂直方向に揃える必要があり、この場合にはカンチレバー12の下にある微小針として非磁性の導電性材料を用いることができる。また強磁性体の微小針および強磁性体を含む導電性基板1aを用いることもでき、この場合は両方の強磁性体のスピンの向きを導電性基板1aと垂直方向に揃え、かつスピンの向きを180度反対に向けると、電流によりさらに効率よく金属ナノ粒子2のスピン方向を変換させることができる。
【0038】
また、図1では略棒状あるいは回転楕円体形状の金属ナノ粒子からなる振動モード変換素子3を用いているが、近接場プローブ13により波の進行方向(縦方向)に平行な方向の電界成分を励起できれば振動モード変換素子3の代わりに金属ナノ粒子2を用いることができ、この場合振動モード変換素子3は不要となる。同様に検光子4がなくても、横方向と縦方向の成分が合わさった形になり検出はより難しくはなるが、金属ナノ粒子2を伝播する光量の変化は近接場プローブ14により検出することができる。
【0039】
次に、図1に示す素子構造の作製方法を具体的に示して本発明の作用効果を明確にする。ただし、本発明は以下の方法に限定されるものではない。
【0040】
基板上に、スパッタリング法や真空蒸着法あるいはめっき法などの薄膜形成手法を用いて、強磁性導電性薄膜(導電性基板1a)を形成する。その材質は、前述のスピントランスファートルク磁化反転を効率的に起こさせるため、伝導電子のスピン分極率が高い材料が適している。Co-Fe合金を始めとする3d遷移金属合金、CrO、FeOなどの導電性強磁性酸化物、CoMnAl、Co2MnGe、Co2CrGaなどのいわゆるホイスラー合金などが、スピン分極率の高い材料として例示できる。(Ga,Mn)As、GeFeなどの強磁性半導体材料も、利用できる。
【0041】
形成した強磁性導電性薄膜(導電性基板1a)上に、Al-O、Al-N、SiO、Si、MgO、ZnSe、(Ga、Al)As、AlHfなどの絶縁性薄膜1bを同様の薄膜形成手法を用いて形成する。絶縁性薄膜1bの形成に当たっては、酸化物・窒化物薄膜を直接堆積させる方法に加えて、一旦Al、Si、Mg、Hf、Zr、Taなどの金属薄膜を形成した後に、酸化、窒化などの方法を用いて形成しても良い。この絶縁性薄膜の厚みは、伝導電子がトンネル伝導できるように極薄にする必要があり、その範囲はおよそ0.2nm〜5nmとすることが好ましい。
【0042】
形成された絶縁層(絶縁性薄膜1b)上に、2次元配列した金属ナノ粒子2の層を形成する。先ず、FePt、CoPt、希土類系合金などの磁気異方性エネルギーの大きな強磁性材料の薄膜を、0.5nm〜50nm程度の厚みで絶縁層上に堆積させる。磁気異方性エネルギーの大きな強磁性材料を選定する理由は、ナノ粒子とした場合にも、熱エネルギーによる磁気モーメント向きの擾乱に打ち勝って、磁気モーメントの方向を磁化容易方向に保持し、記録情報の不揮発性を得るためである。この際、強磁性材料の磁気異方性磁化容易軸を基板面に対して垂直にすることも肝要であり、FePtであれば、L10型結晶のc軸を、基板面に垂直になるように、薄膜結晶成長制御を行う。
【0043】
堆積させた強磁性薄膜上に、ポリスチレン(PS)−ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのジブロックコポリマーをスピンコートなどの手法を用いて均質に塗布し、適切な温度・環境下で熱処理を行う。この処理により、ジブロックコポリマー膜中でPSとPMMAの相分離に伴う海島構造が自己組織的に形成される。海島構造の島の大きさや2次元配列周期性は、PSとPMMAの濃度比、ジブロックコポリマー膜の厚さ、ポリマー膜塗布形状、熱処理温度などによって制御が可能であり、正方格子や、六方格子など、所望の2次元規則配列構造を有する0.5nm〜50nm程度の径の海島構造を得ることができる。
【0044】
海島構造に相分離したジブロックコポリマー膜をマスクとして強磁性金属膜のパターンニングを行う。具体的には、ジブロックコポリマー膜上から、Arイオンなどによるイオンミリングを絶縁性薄膜直上まで行う。ジブロックコポリマーの島部分と海部分のイオンミリング耐性の違いにより、島構造直下部分を残して強磁性金属膜がエッチング除去される。その後、残留したポリマー膜を剥離することによって、2次元規則配列した0.5nm〜50nm程度の径の円筒状金属強磁性ナノ粒子が得られる(非特許文献3,4参照)。
【0045】
この他、2次元規則化したナノ粒子の形成方法としては、湿式化学合成によって作製した、FePt等の強磁性ナノ粒子を、前述の絶縁性薄膜まで形成した基板上に、自己組織化配列させても良い(非特許文献5参照)。
【0046】
そして、得られた2次元配列強磁性金属ナノ粒子列の上に、誘電率の小さい絶縁性の薄膜をスパッタリング法や真空蒸着法などの手法を用いて堆積させ、ナノ粒子の間隙を埋め、最後に表面を複合電界研磨(CMP)などの手法によって平坦化させることで、素子構造を得る。
【0047】
図3は本発明の実施形態2における情報記録装置の概略構成を示す図である。本実施形態2は前述の実施形態1とほぼ同一構成であるが、図3に示すように、半導体ナノ粒子からなる発光素子5および半導体ナノ粒子からなる光電変換素子6が、金属ナノ粒子の配列の両端に配置されているところが、図1の実施形態1の場合と異なっている。ここで各金属ナノ粒子2の間は誘電率の低い材料で充填されていることは実施形態1の場合と同様である。さらに図3で導電性基板1a、絶縁性薄膜1b上に各発光素子5に接触して電極7、また各光電変換素子6に接触して電極9が設けられている。また、各発光素子5および各光電変換素子6の上部に接触するように電極10および電極11が設けられている。
【0048】
このため、図3に示すように各電極7と電極10の間に電流を流すことで対応する各発光素子5を個々に発光させることができる。また各電極9と電極11の間の電流を検出することで各光電変換素子6の光量を測定することができる。すなわち、図1の近接場光プローブ13,14の光量検出の代わりに各電極間を流れる電流量を検出する方法により伝播光量の変化を検出し、記録情報を得ることができる。
【0049】
各発光素子5および各光電変換素子6はPN接合を持つ半導体ナノ粒子からなる。材料としてはSi,Ge等および化合物半導体等の材料からなるナノ粒子あるいは同等サイズのナノ構造体が適用できる。このような発光素子に関しては、PN接合を持ったナノサイズの量子ドットを持つ電流駆動のLEDが近年作製されている(非特許文献6参照)。図3に示す電極ではない絶縁体8として、ストライプ状の構造を形成しているが、これはなくても構わない。その他の構成および情報記録を含めた作用は実施形態1の場合と同様である。
【0050】
この装置構造の作製方法は以下の通りである。発光素子5や光電変換素子6は、光露光描画や電子ビーム描画とイオンミリングや反応性イオンエッチングを組み合わせた、いわゆるフォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーの手法を用いて形成する。発光素子5ならびに光電変換素子6を形成する基板上の該当部分に、P型半導体薄膜ならびにN型半導体薄膜を順次堆積させ、PN接合薄膜を形成する。このPN接合薄膜をフォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーなどの手法で、ナノ粒子形状に加工する(非特許文献4参照)。その他の構造の作成方法は実施形態1の場合と同様である。
【0051】
図4は本発明の実施形態3における情報記録装置の概構成を示す図である。本実施形態3は、図4に示すように実施形態2と一部類似しているが、異なる点として絶縁性の材料からなる絶縁性基板1を用いている。さらに、その上に各発光素子5に接触してストライプ状の電極7、また各光電変換素子6に接触してストライプ状の電極9が設けられている。ここで各金属ナノ粒子2の間は誘電率の低い材料で充填されていることは実施形態1,2の場合と同様である。
【0052】
さらに、図4に示すように各発光素子5および各光電変換素子6の上部に接触するように共通な電極13が設けられている。ここで電極13と各金属ナノ粒子2、振動モード変換素子3および検光子4の上部との間には絶縁性の材料が設けられており各電極13と各金属ナノ粒子2、振動モード変換素子3および検光子4との間は電気的には絶縁されている。
【0053】
同様に各金属ナノ粒子2、振動モード変換素子3および検光子4の下部にはその間に絶縁性の材料が設けられたストライプ状の電極14が設けられている。このような各電極の配置により、電極7と電極13の間に電流を流し対応する各発光素子5を個々に発光させることができる。また電極9と電極13の間の電流を検出することで各光電変換素子6の光量を個々に測定することができる。このため実施形態2と同様に伝播光量の変化を検出し、記録情報を得ることができる。
【0054】
次に、本実施形態3における情報の記録方法は、図4に示したように各金属ナノ粒子2の上下に絶縁性材料を介してストライプ状の電極13,14が設けられている。この電極13,14間に電位差をかけて、各金属ナノ粒子2を通して絶縁性基板1に対して垂直方向にトンネル電流を流すことができる。このときに、電流の向きによるスピントランスファートルクの違いを用いて特定の金属ナノ粒子2のスピンの向きを制御することができる。すなわち、特定の金属ナノ粒子2への情報の記録が可能になる。その他の構成および情報記録を含めた作用は実施形態1,2の場合と同様である。
【0055】
そして、この装置構造の作製方法は以下の通りである。光露光描画や電子ビーム描画とイオンミリングや反応性イオンエッチングを組み合わせた、いわゆるフォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーの手法を用いて、ストライプ状の強磁性導電性薄膜(電極13,14)を形成する。ストライプ上の強磁性導電性電極の材質は、実施形態1と同様に伝導電子のスピン分極率が高い材料が適している。その他の構造の作成方法は実施形態1の場合と同様である。
【0056】
図5は本発明の実施形態4における情報記録装置の概略構成を示す図である。本実施形態4は、図5に示すように実施形態3とほぼ同じ構成であるが、図4に示す検光子4の上部に相当する部分において、電極13が2分割され、図5の電極13および13’のように2つの電極が配置されている。ここでは、1本の電極が2つに分離している構造を示しているが、電気的に2つが絶縁されていれば良く、間に絶縁性の材料が充填されていても良い。
【0057】
同様に絶縁性基板1上に形成された電極14’に関しても、電極14と電気的に絶縁され検光子4の下部付近で分割されている。その他の構成および作用は実施形態3とほぼ同じである。
【0058】
本発明の実施形態5について説明する。前述した実施形態1〜4においては、例えば図3に示すように、各金属ナノ粒子2の配列の両端部に振動モード変換素子3と検光子4の組、あるいは各発光素子5と振動モード変換素子3および各光電変換素子6と検光子4の組が設けられていたが、これは各金属ナノ粒子2の配列において、プラズモン・ポラリトンの波が図中の振動モード変換素子3側から検光子4の方向に伝播させることを仮定している。しかし各図において明示していないが、各金属ナノ粒子2の配列の図示していない両端部にも振動モード変換素子3と検光子4の組、あるいは各発光素子5と振動モード変換素子3および各光電変換素子6と検光子4の組を設けることができる。
【0059】
これにより実施形態1〜4で説明した場合と直角の方向にもプラズモン・ポラリトンの波を伝播させることができ、より多数の光電変換素子を用いて実施形態1〜4の場合よりも詳しく記録情報の検出を行うことが可能になる。なお、その他の構成および情報記録を含めた作用は実施形態1〜4の場合と同様である。
【0060】
また、前述した情報記録装置においては、プラズモンあるいは近接場光の散乱または拡散によって、隣接する金属ナノ粒子2と相互作用しながら伝播することになるので、隣接する金属ナノ粒子2のスピン情報を同時に読み取ることができる。
【0061】
情報記録装置に記録した情報と、この情報を総括した情報を別の記録領域に記録し、記録した総括情報を読み出して所望の情報である場合に、さらに詳細に情報の読み出しを行うことで該当する情報選択がより速く処理でき、情報記録装置の記録密度の向上に伴って、記録情報の読み出し時に生じる課題の検索性、アクセス性を解決し、情報の高速読み出しを実現できる。
【0062】
図6は本発明の実施形態6における情報記録装置に用いる金属ナノ粒子の概略を示す図である。本実施形態6は、これまでに説明した各実施形態1〜5と同様に構成した情報記録装置であるが、強磁性体を含む金属ナノ粒子2として、図6に示した、Fe-Pt合金の強磁性体のナノ粒子2aの周囲に、金(Au)あるいは銀(Ag)の薄層2bを形成した強磁性体を含む金属ナノ粒子2を用いているところが異なる。このような金属ナノ粒子2を用いることにより、周囲の薄層(金属層)2bの層厚を変えて、プラズモンの共振特性を変化させることができ、設計の自由度を広げることができる。その他の構成および情報記録を含めた作用は実施形態1〜5の場合と同様である。
【0063】
図7は本発明の実施形態7における情報記録装置の概略構成を示す図である。本実施形態7は前述の実施形態1における図1に示す振動モード変換素子3および検光子4を省略した構成である。図7において、導電性基板1aの上に、絶縁性薄膜1bが形成され、その上に強磁性体を含む金属ナノ粒子2が配列されている。この金属ナノ粒子2はその磁気モーメントが導電性基板1aに対して垂直方向になるように配列する。ここで強磁性体を含む導電性材料からなる微小針を含むカンチレバー12がその配列の上方に配置される。カンチレバー12は、ピエゾ素子等の圧電素子からなる駆動部15により金属ナノ粒子2の配列上を3次元方向に移動させることができる。
【0064】
次に、偏波保存ファイバ16,17の端部に金属で被覆し、先端に微小開口を持つテーパー状の近接場光プローブ13,14を形成させた光励起および光検出手段を用いる。近接場光プローブ13,14をそれぞれ金属ナノ粒子2にその上部から近接させる。ここで偏波保存ファイバ16,17の他端には集光レンズ18,19および半導体レーザ等の発光素子20、フォトダイオード等の光電変換素子21が配置される。ここで発光素子20からの射出光は集光レンズで偏波保存ファイバ16の端面に集光する。これにより近接場光プローブ13の先端に電界方向が基板に平行な近接場光を励起することができる。
【0065】
また、図7のように偏波保存ファイバ16を導電性基板1aに対して垂直に配置している場合、偏波保存ファイバ16軸を中心に回転させれば、励起される近接場光の基板に平行な電界の方向を回転させることができる。この方法で図7中の金属ナノ粒子2の一つあるいは複数に同時に電界方向が基板に平行かつその面内で任意の電界方向のプラズモンと近接場光の振動モードを励起させることができる。
【0066】
さらに金属ナノ粒子2の周囲に生ずる近接場光の電界方向に従い近接場光プローブ14の先端に電界方向が基板に平行かつ特定の方向を向いた近接場光が励起され、伝播光に結合して偏波保存ファイバ17中を伝播して行く。このとき、偏波保存ファイバ17が検光子の役割を果たし、特定の偏光方向の導波モードのみを伝播させるため、金属ナノ粒子2の周囲に生じる特定の電界方向の近接場光からの光を強く検出することができる。このため集光レンズ19および光電変換素子21により伝播光の光量変化を電流変化として検出することができる。
【0067】
なお、図7には示していないが近接場光プローブ13,14はカンチレバー12と同様に駆動部を持たせることにより、金属ナノ粒子2の上部を稼動させることができるため、近接場光プローブ13,14は任意の金属ナノ粒子2を選択して励起したり、近接場光の電界方向を選択してその強度を検出することができる。これ以外の構成および作用・効果は他の実施形態と同様であり、装置構造の作製方法もほぼ同様である。
【0068】
図8(a),(b)は本発明の実施形態8における基板の平面状に2次元配列した金属ナノ粒子の動作を説明する図である。以下に本実施形態8について説明する。
【0069】
本実施形態8は前述した各実施形態の図に示したようなに、金属ナノ粒子2を基板の平面状に2次元配列し、さらに振動モード変換素子3および検光子4(図1参照)を図8(a),(b)に示したように2次元的に配列した例を説明している。図8(a)において、金属ナノ粒子2の7行×7列の配列があり、その周囲に振動モード変換素子3a,3bおよび検光子4a,4bが各2辺に配列されている。しかし各金属ナノ粒子2の配列の規模は7行×7列に限定されず振動モードが伝播できる範囲で任意に設定可能である。
【0070】
ここで、図1,図7で示した近接場光プローブ13により、あるいは図3〜図5で示した発光素子5を振動モード変換素子3に隣接して配置することにより、振動モード変換素子3aの1つ(図8(a)中の太い矢印部分)に電界の振動方向があるプラズモンと近接場光の振動モードを励起する。この時の振動モードは図8(a)中の実線の矢印方向に電界の振動方向が向いているとする。振動モードは図8(a)中で振動モード変換素子3aの右側に隣接する金属ナノ粒子2に伝播し、さらにその右および上下を含む各金属ナノ粒子2に伝播してゆく。
【0071】
この様子を模式的に示したのが図8(a)である。図8(a)中の破線の矢印は、各金属ナノ粒子2の磁気モーメントにより生じる、振動モード変換素子3aに励起された振動モードと垂直な方向に電界方向を持つ振動モードを示している。各金属ナノ粒子2の磁気モーメントの向きにより実際の振動方向は異なるが、この振動モードも各金属ナノ粒子2を上下左右に伝播して行き、配列端部の検光子4a,4bの配列に達し、検光子4a,4b中に破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードを励起することになる。
【0072】
実際には図8(b)に示すように、振動モード変換素子3aの1つ(図8(b)中の太い矢印部分)に電界の振動方向があるプラズモンと近接場光の振動モードを励起すると、すべての金属ナノ粒子2が励起される。また破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードもほぼすべての金属ナノ粒子2に励起され、検光子4aの配列がこの振動モードと同じ電界方向の振動モードで励起される。さらに振動モード変換素子3bも同じ電界方向の振動モードで励起される。さらに検光子4bおよび励起しなかった残りの振動モード変換素子3aには、実線の矢印で示した電界方向の振動モードが励起される。
【0073】
ここで検光子4aの配列および振動モード変換素子3bの配列の各素子の振動モードの強度を近接場光プローブ14(図1,図7参照)により、あるいは図3〜図5で示した光電変換素子6を検光子4aあるいは振動モード変換素子3bに隣接して配置することにより、電流変化として検出することができる。また同様に検光子4bおよび励起しなかった残りの振動モード変換素子3aの強度も検出することが可能である。さらに振動モード変換素子3aの別の1つに電界の振動方向があるプラズモンと近接場光の振動モードを励起すると、前述と同様に検光子4aの配列が破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードと同じ電界方向の振動モードで励起される。さらに振動モード変換素子3bも同じ電界方向の振動モードで励起される。前述と同じ方法により各素子のプラズモンと近接場光の振動モードの強度を得ることができる。
【0074】
同様この操作を繰り返すことにより、振動モード変換素子3aの各素子を励起した場合の条件に応じて、検光子4aあるいは振動モード変換素子3bの各素子の振動強度情報が得られる。この情報を元に各金属ナノ粒子2の磁気モーメントの向きを推定することが可能になる。この方法の実際の例をさらに詳しく説明する。図8(b)に示す振動モード変換素子3aの太い矢印で表した上からI番目の素子により、それに隣接する特定の金属ナノ粒子2に強度EIの実線矢印の方向に電界の振動方向を持つプラズモンと近接場光の振動モードを励起させたとする。前述のごとく、この振動モードは図8(a)の中でその右および上下を含む各金属ナノ粒子2に伝播してゆく。この振動モードと各金属ナノ粒子2の磁気モーメントにより生じる、図8(a)中の破線の矢印で示した振動モードも各金属ナノ粒子2を上下左右に伝播して行き、配列端部の検光子4a,4bの配列に達し、検光子4a,4b中に破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードを励起することになる。
【0075】
ここで、検光子4aの各素子に隣接する金属ナノ粒子2の列の上からi番目の金属ナノ粒子2に励起された破線の矢印で示した振動モードの強度をDiとする。また、隣接する金属ナノ粒子2間の振動モードの伝播率を、電界の振動方向と平行な方向の一方向に伝播する場合をL、電界の振動方向と垂直な方向の一方向に伝播する場合をTとする。このとき金属ナノ粒子2の配列の実線矢印で示した励起用の振動モードから、それに垂直な振動モードへの変換効率の行列Aを(数1)
【0076】
【数1】

で表し、規格化した破線の矢印で示した振動モードの強度diを(数2)
【0077】
【数2】

で表すとする。この場合規格化した破線の矢印で示した振動モードの強度diは一般に行列Aの各要素Aji、L、Tの関数fである。すなわち、(数3)
【0078】
【数3】

と表すことができる。
【0079】
ここで、振動モード変換素子3aの太い矢印で表した上からI番目の素子により、それに隣接する特定の金属ナノ粒子2に強度EIの振動モードが励起された場合、検光子4aの各素子に隣接する金属ナノ粒子2の列の上からi番目の金属ナノ粒子2に励起された破線の矢印で示した振動モードの規格化した強度diは、特定のIに対してi個存在する。すなわち(数3)の個数はi×i=i2個存在する。このため最大で、i2個の数の(数3)を得ることができ、L,Tを既知の値とした場合、これらの各(数3)を連立させ、行列Aのj×i=ij個の個々の要素Ajiに関して連立方程式を解くことにより行列Aの各要素の値Ajiを数値的に求めることができる。ただしi≧jとする。ここで、各要素Ajiの数より得られる方程式の数を多く得ることが可能なため、測定の都合で選択することが可能である。
【0080】
図8(b)の場合、具体的には、I番目の規格化した強度dIは(数4)、I+1番目の規格化した強度dI+1 は(数5)、I+2番目の規格化した強度dI+2は(数6)…
【0081】
【数4】

【0082】
【数5】

【0083】
【数6】

となる。
【0084】
また、同様に … 、I−2番目の規格化した強度dI-2、I−1番目の規格化した強度dI-1、に関しても同様の手法で式を求めることができる。下方向の振動モードに比べて強度が小さいことと、振動モードの減衰のため進行方向に対してここの計算では励起される破線の矢印で示した方向の振動モードは、励起を行う実線の矢印で示す回り道をするような経路での振動モードの励起が無視できることを前提としている。
【0085】
前述の各数式のように、それぞれの規格化した強度dIは各行列の要素Ajiの関数として表すことができる。これらの各数式を連立させて各行列の要素Ajiに関して数値解析することにより、値と符号を求めることができる。この値の符号により、対応する記録情報の0、1を判定することができる。実際には電子回路等で構成される論理計算手段によりこの判定を行う。
【0086】
この実施形態8の場合は、さらに振動モード変換素子3bの1つに破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードを励起することもできる。この場合前述の場合とは反対に、破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードを各金属ナノ粒子2に励起し、各金属ナノ粒子2の磁気モーメントにより実線の矢印で示した電界方向にと同じ方向に電界方向を持つプラズモンと近接場光の振動モードが生じる。このため前述の検出方法と同様な手法で検光子4bの配列および振動モード変換素子3aの配列の各素子の振動モードの強度も検出することが可能である。この情報も同様に各金属ナノ粒子2の磁気モーメントの向きを推定することに用いることができる。これ以外の構成および作用・効果は他の実施形態と同様であり、装置構造の作製方法もほぼ同様である。
【0087】
図9は本発明の実施形態9における基板の平面状に2次元配列した金属ナノ粒子の動作を説明する図である。以下に本実施形態9について説明する。
【0088】
本実施形態9は前述した図8(b)に示した実施形態8と構成が似ているが、金属ナノ粒子2の7行×7列の配列端部に隣接して、検光子4a,4b,4c,4dが各配列に配置されている。これらの検光子4a,4b,4c,4dは、図9に示したように各金属ナノ粒子2に励起された破線の矢印で示したプラズモンと近接場光の振動モードと同じ電界方向の振動モードが励起されるように形状や配置がなされている。
【0089】
ここで金属ナノ粒子2の中の1つ、あるいは複数に同時に図9中の実線矢印で示した電界方向を持つプラズモンと近接場光の振動モードを、前述の実施形態8と同様に近接場プローブ13で励起する。この振動モードも各金属ナノ粒子2を上下左右に伝播して行き、すべての金属ナノ粒子2が同じ振動モードで励起される。さらに配列端部の検光子4a,4b,4c,4d各配列に達し、検光子4a,4b,4c,4d中に破線の矢印で示した電界方向のプラズモンと近接場光の振動モードを励起することになる。各素子の振動モードの強度を近接場光プローブ14により、あるいは図3〜図5で示した光電変換素子6を検光子4a,4b,4c,4dに隣接して配置することにより、電流変化として検出することができる。
【0090】
同様に別の金属ナノ粒子2を励起して同様な方法で検光子4a,4b,4c,4dの各素の振動強度情報が得られる。この操作を繰り返すことで、各金属ナノ粒子の励起に対応した検光子4a,4b,4c,4dの各素の振動強度情報が得られる。これらの情報を元に各金属ナノ粒子2の磁気モーメントの向きを推定することが可能になる。さらに本実施形態9では各金属ナノ粒子2の一部を振動モード変換素子3に置き換え、これらを励起することにより、前述の場合とほぼ同様の作用・効果を得ることもできる。さらにその振動モード変換素子3に隣接して発光素子5を配置し振動モード変換素子3を励起することも可能である。この場合も前述の場合と同様な作用・効果が得られる。また、これ以外の構成および作用・効果は他の実施形態と同様であり、装置構造の作製方法もほぼ同様である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る情報記録装置とその情報記録再生方法は、発光素子により微粒子の一部に特定の近接場光とプラズモンの振動モードを励起して複数の微粒子間を伝播させ、微粒子の磁気モーメントの向きによる近接場光とプラズモンの振動モードの変化を生じさせて、配列終端部付近の微粒子に生じる近接場光とプラズモンの振動モード変化を検出して、微粒子の磁気モーメントの向きにより情報を記録している粒子配列からの記録情報の読み出しができ、情報の記録密度の向上および情報のアクセス等に必要な多数かつ複雑な配線による発熱等の問題を低減し、かつ情報記録密度の増大を図ることができ、近接場光学とナノ構造の強磁性体金属を含む微粒子を用いた磁気記録素子による記録媒体に係り、特に大容量の情報記録が可能となる情報記録と再生を行う装置および方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施形態1における情報記録装置の概略構成を示す図
【図2】本実施形態1の金属ナノ粒子の電界方向を示す図
【図3】本発明の実施形態2における情報記録装置の概略構成を示す図
【図4】本発明の実施形態3における情報記録装置の概略構成を示す図
【図5】本発明の実施形態4における情報記録装置の概略構成を示す図
【図6】本発明の実施形態5における情報記録装置の概略構成を示す図
【図7】本発明の実施形態7における情報記録装置の概略構成を示す図
【図8】本発明の実施形態8における基板の平面状に2次元配列した金属ナノ粒子の動作を説明する図
【図9】本発明の実施形態9における基板の平面状に2次元配列した金属ナノ粒子の動作を説明する図
【符号の説明】
【0093】
1 絶縁性基板
1a 導電性基板
1b 絶縁性薄膜
2 金属ナノ粒子
3 振動モード変換素子
4 検光子
5,20 発光素子
6,21 光電変換素子
7,9,10,11,13,13’,14,14’ 電極
8 絶縁体
12 カンチレバー
15 駆動部
16,17 偏波保存ファイバ
18,19 集光レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に至近距離で配列した強磁性体金属を含む複数の微粒子と、近接場光を励起するための発光素子と、前記微粒子を伝播した近接場光を検出するための光電変換素子とを備えたことを特徴とする情報記録装置。
【請求項2】
前記微粒子の配列端部に近接して、前記微粒子の配列端部に到達したプラズモンあるいは近接場光の振動モードを識別する検光子を備えたことを特徴とする請求項1記載の情報記録装置。
【請求項3】
前記微粒子の配列の一部に近接して、特定の振動モードの近接場光を前記微粒子の配列の一部に励起する振動モード変換素子を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の情報記録装置。
【請求項4】
導電性基板の上に設けた絶縁体薄膜と、該絶縁体薄膜の上に前記微粒子を配列し、前記微粒子の上方に近接して配置する強磁性体を含む材料からなる微小針と、該微小針を前記微粒子上に移動するための微小針駆動部とを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項5】
強磁性体を含む導電性基板の上に設けた絶縁体薄膜と、該絶縁体薄膜の上に前記微粒子を配列し、前記微粒子の上方に近接して配置する導電性微小針と、該微小針を前記微粒子上に移動するための微小針駆動部とを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項6】
絶縁体基板の上に設けた線状の複数の第1の電極と、該第1の電極上に設けた第1の絶縁体薄膜と、該第1の絶縁体薄膜の上に前記微粒子を配列し、前記微粒子の上に設けた第2の絶縁体薄膜と、前記第2の絶縁体薄膜の上に前記第1の電極と交差する方向に配列した複数の線状の第2の電極とを備え、前記第1の電極あるいは前記第2の電極のいずれか一方あるいは両方の電極が強磁性体を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項7】
前記微粒子の配列端部にある微粒子あるいは検光子に近接して、微小な光電変換素子を備え、該光電変換素子に接触させて導電性の材料からなる電極を配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項8】
前記微粒子の配列の一部にある微粒子あるいは振動モード変換素子に近接して、微小な発光素子を備え、該発光素子に接触させて導電性の材料からなる電極を配置したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項9】
前記微粒子が、強磁性体を核としてその周囲に貴金属を被覆した構造からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の情報記録装置。
【請求項10】
平面上に至近距離で配列した強磁性体金属を含む微粒子の一部にプラズモンあるいは近接場光の振動モードを励起して微粒子間を伝播させ、前記強磁性体金属の磁気モーメントの向きによるプラズモンの振動モードの変化を生じさせ、配列端部付近で前記微粒子のプラズモンと近接場光の振動モードの変化を検出し、記録情報として読み出すことを特徴とする情報記録再生方法。
【請求項11】
前記微粒子の配列端部に近接して配置した検光子を用いて、前記微粒子の配列端部に到達したプラズモンあるいは近接場光の振動モードを識別することを特徴とする請求項10記載の情報記録再生方法。
【請求項12】
前記微粒子の配列の一部に近接して配置した振動モード変換素子を用いて、特定のプラズモンあるいは近接場光の振動モードを前記微粒子の配列の一部に励起することを特徴とする請求項10〜11記載の情報記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−272997(P2007−272997A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97583(P2006−97583)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)