説明

感圧記録体用顕色剤水分散液および感圧記録体用顕色シート

【目的】発色性等の顕色剤固有の顕色能(到達発色度等)を維持しながら、発色速度に優れ、かつ、長期保存しても、顕色剤粒子の凝集や沈降がなく、長期保存安定性に優れ、使用時の取扱い性に優れた感圧記録体用顕色剤水分散液を提供すること。
【解決手段】サリチル酸誘導体の多価金属塩(A)を、(メタ)アクリルアミド(b−1)および(メタ)アクリル酸エステル類(b−2)を含有する重合成分を共重合させた後、過酸化物(C)を作用させて得られるアクリルアミド系ポリマー(B)の存在下で乳化させることにより得られる感圧記録体用顕色剤水分散液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧記録体用顕色剤水分散液および感圧記録体用顕色シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、顕色剤としてはサリチル酸誘導体の多価金属塩が総合的に最も優れた性能を示すものとして使用されている。しかし、近年、低温条件下における発色速度や、耐候性、耐水性、耐熱性といった保存性能に対する要求が高くなりつつあり、さらなる顕色能の向上が求められている。また、顕色剤の分散水溶液の保存性能、特に、分散水溶液搬送時における容量を低減化や、使用時における作業性(コンパクト化)の向上できることから、顕色剤をより多く含有させた分散水溶液の要求が高まっている。
【0003】
そのため、これらの問題を解決すべく、種々の提案がなされており、一つの方法として、顕色剤に有機系添加剤を添加する方法が提案されている。また、サリチル酸誘導体の多価金属塩の乳化分散方法としては、顕色剤を有機溶媒に溶解してから乳化分散剤を含有する水中でホモミキサーやホモジナイザーなどの乳化分散メディアで乳化分散させた後で有機溶媒を蒸留除去する溶媒法が一般的である(特許文献1など)。しかし、一般にサリチル酸系顕色剤水分散液は沈降性があるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平3−227687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発色性等の顕色剤固有の顕色能(到達発色度等)を維持しながら、発色速度に優れ、かつ、長期保存しても、顕色剤粒子の凝集や沈降がなく、長期保存安定性に優れ、使用時の取扱い性に優れた感圧記録体用顕色剤水分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のサリチル酸誘導体と乳化分散剤として、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸エステルモノマーを特定割合で共重合させ、更に過酸化物を作用させて得られるアクリルアミド系ポリマーの存在下等で乳化させることにより得られる感圧記録体用顕色剤水分散液を用いることにより、発色速度及び保存安定性に優れたサリチル酸誘導体の顕色剤を得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、サリチル酸誘導体の多価金属塩(A)を、(メタ)アクリルアミド(b−1)および(メタ)アクリル酸エステル類(b−2)を含有する重合成分を共重合させた後、過酸化物(C)を作用させて得られるアクリルアミド系ポリマー(B)の存在下で乳化させることにより得られる感圧記録体用顕色剤水分散液;当該感圧記録体用顕色剤の水性分散液を、支持体に塗布することにより得られる感圧記録体用顕色シートに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発色性等の顕色剤固有の顕色能(到達発色度等)を維持しながら、発色速度に優れ、かつ、顕色剤粒子の凝集や沈降がなく、長期保存安定性に優れた感圧記録体用顕色剤水分散液を提供することができる。また、当該感圧記録体用顕色剤水分散液を支持体に塗布して得られた感圧記録体シートは、良好な発色を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の顕色剤はサリチル酸誘導体の多価金属塩(A)(以下、(A)成分という。)を主成分とするものである。サリチル酸誘導体の多価金属塩とは、例えば、スチレン系化合物とサリチル酸を反応させて得られるサリチル酸誘導体の多価金属塩であり、通常、サリチル酸1モルに対してスチレン系化合物が1モル付加した付加体、同2モル付加体、同3モル付加体からなる群から選ばれる少なくとも1種のサリチル酸誘導体の多価金属塩を含有してなる。前記スチレン系化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,α−ジメチルスチレン、3,α−ジメチルスチレン、4,α−ジメチルスチレン等が挙げられる。また、多価金属塩としては亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、スズ、鉛、カルシウム等の多価金属塩が挙げられる。
【0010】
前記サリチル酸1モルに対してスチレン系化合物が1モル付加した付加体は、一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R、Rはいずれか一方が、一般式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる置換基を表わし、他方が水素原子を表わす。)で表される化合物であり、具体例として、3−(α−メチルベンジル)サリチル酸、5−(α−メチルベンジル)サリチル酸、3−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸等が挙げられる。
【0015】
サリチル酸1モルに対してスチレン系化合物が2モル付加してなる、前記2モル付加体は、一般式(3):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R、Rはいずれか一方または両方が、一般式(2):
【0018】
【化4】

【0019】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる置換基または、R、Rのいずれか一方が、一般式(4):
【0020】
【化5】

【0021】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる置換基、もしくは一般式(5):
【0022】
【化6】

【0023】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる置換基であり、他方が水素原子である。)で表される化合物であり、具体例として、3,5−ビス(α−メチルベンジル)サリチル酸、3−(α−メチルベンジル)−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ビス{α−メチル(パラメチルベンジル)}サリチル酸等が挙げられる。
【0024】
サリチル酸1モルに対してスチレン系化合物が3モル付加してなる、前記3モル付加体は、一般式(6):
【0025】
【化7】

【0026】
(式中、R、Rはいずれか一方が、一般式(2):
【0027】
【化8】

【0028】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる置換基であり、他方が、一般式(4):
【0029】
【化9】

【0030】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる基、または一般式(5):
【0031】
【化10】

【0032】
(R、Rは水素原子またはメチル基を表わす。)で表わされる基である。)で表される化合物であり、具体例として、3−α−メチルベンジル−5−(1,3−ジフェニルブチル)サリチル酸、3−(1,3−ジフェニルブチル)−5−α−メチルベンジルサリチル酸、3−α,α−ジメチルベンジル−5−(1,3−ジメチル−1,3−フェニルブチル)サリチル酸、3−(1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルブチル)−5−α,α−ジメチルベンジルサリチル酸、3−{1−(4−メチルフェニル)エチル−5−{1,3−ビス(4−メチルフェニル)ブチル}サリチル酸、3−{1−(4−メチルフェニル)エチル−5−{1,3−ビス(4−メチルフェニル)ブチル}サリチル酸、3−{1,3−ビス(4−メチルフェニル)ブチル}−5−{1−(4−メチルフェニル)エチル}サリチル酸等が挙げられる。
【0033】
前記(A)成分としては、1モル付加体、2モル付加体、3モル付加体をそれぞれ単独で含有することもでき、また、任意の割合で各付加体を併用して含有することもできる。
【0034】
なお、スチレン系化合物とサリチル酸を反応させることにより、サリチル酸1モルに対するスチレン系化合物が4モル以上付加したもの(高付加体)をわずかに生成することがあり、本発明においては(A)成分として、当該高付加体を含有していてもよい。
【0035】
また、上記各種付加体は、前記サリチル酸にスチレン系化合物を反応させる方法以外にも、たとえば、2位および/または4位に、スチレン類またはスチレンダイマー類を付加した置換フェノール化合物に、コルベ・シュミット反応を適用してカルボン酸を導入する方法によっても製造できる。
【0036】
さらに、本発明においては、前記置換サリチル酸の代わりに、スチレン系化合物以外の置換基によって核置換された置換サリチル酸を用いてもよい。すなわち、本発明におけるスチレン系化合物で核置換されてなるサリチル酸誘導体は、サリチル酸の芳香核の水素原子の少なくとも1つがスチレン系化合物で置換されたものであればよい。つまり、当該スチレン系化合物で核置換されてなるサリチル酸誘導体として、スチレン系化合物とスチレン系化合物以外の置換基とによって核置換されてなるサリチル酸誘導体を含有していてもよい。このようなサリチル酸誘導体としては、具体的には、3,5−ビス(α−メチルベンジル)−6−メチルサリチル酸、3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)−6−メチルサリチル酸等が挙げられる。
【0037】
前記サリチル酸誘導体からサリチル酸誘導体多価金属塩を製造するには、例えば、サリチル酸誘導体を、重炭酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリの存在下に多価金属化合物と反応させる。多価金属化合物の多価金属としては、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、スズ、鉛、カルシウム等の2価以上の金属があげられ、多価金属化合物としてはこれら多価金属の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩及び硫酸塩等の無機多価金属塩やシュウ酸、酢酸等のカルボン酸の多価金属塩が挙げられる。なお、本発明のサリチル酸誘導体の混合物の多価金属塩は、サリチル酸誘導体の多価金属塩を混合したものでもよく、またサリチル酸誘導体の混合物を多価金属塩化したものでもよい。
【0038】
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマー(B)(以下、(B)成分という)は、(メタ)アクリルアミド(b−1)(以下、(b−1)成分という。なお、(メタ)アクリルアミドとは、メタクリルアミドおよび/またはアクリルアミドを意味するものであり、以後、(メタ)は同様の意味で用いる。)および(メタ)アクリル酸エステル類(b−2)(以下、(b−2)成分という。)を含有する重合成分を共重合させた後、過酸化物(C)を作用させて得られる
【0039】
(b−2)成分としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−1−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−3−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸−t−ブチルシクロヘキシル等の脂環式(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル等の脂環構造を有しない(メタ)アクリル酸アルキルエステルといったものが挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では取扱い性、モノマー調製の容易性という点から脂環式(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、特にシクロへキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ブチルが好ましい。
【0040】
また、必要に応じて、(b−1)成分、(b−2)成分以外のラジカル重合性モノマー(b−3)成分を用いてもよい。(b−3)成分としては、特に限定されず、(b−1)成分、(b−2)成分以外の公知のラジカル重合性モノマーを用いることができる。具体的には、例えば、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド等のN−置換アクリルアミド類、架橋性モノマー、酢酸ビニル スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系モノマー類(ビニル基を1つ有するもの)などが挙げられる。架橋性モノマーとしては、ビニル基を2つ以上含有するモノマー類であれば特に限定されず公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能アクリルアミド類、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ジビニルベンゼン、ジアリル(メタ)アクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリアクリルホルマール、ジアクリロイルイミドなどが挙げられる。これら(b−3)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。(b−3)成分としてはジメチルアクリルアミドおよび/または架橋性モノマーを用いることが、乳化性の点から好ましい。
【0041】
各成分の使用量は特に限定されないが、例えば、(b−1)成分の使用量を80〜97モル%程度、好ましくは85〜95、(b−2)成分の使用量を3〜20モル%程度、好ましくは5〜15とする。(b−3)成分を使用する場合には、例えば、0.01〜10モル%程度、好ましくは0.01〜5モル%とすればよい。なお、(b−3)成分として架橋性モノマーを用いる場合には、その使用量を0.01〜3モル%程度とすることが好ましい。
【0042】
(b−1)成分と(b−2)成分を含有する重合成分を共重合する方法としては、特に限定されず公知の重合法を採用することができる。具体的には、塊状重合、溶液重合、乳化重合、分散重合等が挙げられるが、溶液重合で調製することが好ましい。
【0043】
本発明に用いられる(C)成分としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過炭酸マグネシウム等の過炭酸塩、過ホウ酸ナトリウム等の過ホウ酸塩などの1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
(C)成分を、(b−1)成分と(b−2)成分を含有する重合成分を共重合して得られた共重合体に作用させる方法としては、例えば、(C)成分および(b−1)成分と(b−2)成分を含有する重合成分を共重合して得られた共重合体を混合した後、(C)成分が分解する温度(例えば、60〜90℃程度)まで加熱し、0.5〜3時間程度保温する方法などが挙げられる。たとえば、過硫酸カリウムの場合には、80℃程度に加熱すれば良い。(C)成分の使用量は特に限定されないが、通常、使用するモノマー類の合計重量の0.1〜3.0重量%程度(好ましくは0.1〜1.0重量%)用いる。(C)成分を、(b−1)成分と(b−2)成分を含有する重合成分を十分共重合して得られた共重合体に作用させると、水素引き抜き反応により、該共重合体同士がグラフト重合し分岐構造を形成するものと推定している。また、架橋性モノマーを併用することにより分岐構造を形成すると考えられる。
【0045】
本発明に用いられる(B)成分の平均重合度は、30〜200程度とすることが好ましい。平均重合度が、30以上とすることで、乳化性が良好となり、200以下とすることで、製品粘度が高くなりすぎず高濃度化が可能となるため好ましい。
【0046】
本発明に用いられる(B)成分以外の水溶性高分子(D)(以下、(D)成分という)としては、(B)成分以外の水溶性高分子であれば特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、ポリビニルアルコールが乳化性の点から好ましい。
【0047】
更に、前記分散剤としては界面活性剤であるアニオン性分散剤、ノニオン性分散剤などを併用しても良い。アニオン性分散剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸とホルマリンの縮合物およびその塩、ポリアクリル酸ソーダ、ポリスチレンスルホン酸ソーダ等を例示できる。なお、アルキル基としては通常炭素数2〜22のものを使用でき、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。ノニオン性分散剤としては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型のものや、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等の多価アルコール型のものを例示できる。なお、エチレンオキサイド付加モル数、アルコールのエステル化率等は特に限定されない。
【0048】
本発明の感圧記録体用顕色剤水分散液は、(A)成分を、(B)成分(または(B)成分と(D)成分の混合物)の存在下で乳化させることにより得られる。具体的には、例えば、(A)成分を有機溶媒に溶解し、溶液としたものを、(A)成分100重量部に対し(B)成分(または(B)成分と(D)成分の混合物)0.5〜10重量部程度用いて乳化分散した後有機溶剤を留去することにより得られる。
【0049】
(A)成分を溶解させる際に用いる有機溶剤としては、(A)成分を溶解し、水と均一にならないものであれば特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、シクロヘキサン等の脂環系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類などが挙げられる。なお、これら溶媒は単独で用いてもよく、複数を混合して用いても良い。また、水と自由に混合する溶媒であっても、他の有機溶媒と混合することによって水層と有機層に分かれるように調製できるものであれば、そのような混合溶媒も用いることができる。
【0050】
乳化分散させる方法としては、(A)成分を分散させることができる公知の方法を採用することができるが、例えば、ホモジナイザー等により機械的に乳化分散させる方法等が挙げられる。本方法により分散させることにより、得られる水性分散液の放置安定性等を向上させることができる。具体的には、例えば、(A)成分を有機溶剤に溶解させ、水と、(B)成分(または(B)成分と(D)成分の混合物)の存在下、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーなどで強制攪拌することにより機械的に乳化させ、0.2〜2μm程度まで微粒子化した後、有機溶剤を留出除去する方法等が挙げられる。
【0051】
有機溶媒を留去する場合には、加熱および/または減圧をすればよい。加熱をする場合には、通常、40〜80℃程度とすることが好ましい。40℃以上することで、有機溶剤を効率的に除去することができ、80℃以下とすることで、粒子の融着を防止することができるため好ましい。また、減圧をする場合には、通常、1〜50kPa程度とすることが好ましい。
【0052】
なお、本発明の顕色剤組成物には、必要により従来から公知の消泡剤、増粘剤、添加剤などの助剤を配合することもできる。
【0053】
消泡剤としては、炭素数1〜36のアルコール類、油脂類(油脂および界面活性剤)、鉱物油類、ポリエーテル類およびシリコーン類などが挙げられる。消泡剤の添加量は、本発明の顕色剤組成物の重量に基づいて通常1%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0054】
増粘剤としては、ポリエチレンオキサイド(MW:100,000〜6,000,000)、ポリ(メタ)アクリルアミド(MW:10,000〜1,000,000)、カルボキシメチルセルロース(塩)(MW:500,000〜1,500,000)などが挙げられる。増粘剤の添加量は、本発明の顕色剤組成物の重量に基づいて、通常10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0055】
添加剤としては、例えば、スチレン重合体(MW:200〜3,000)、ジアミンとモノカルボン酸を反応させて得られるジアミド化合物(MW:100〜1,000)、ジカルボン酸とモノアミンを反応させて得られるジアミド化合物(MW:200〜2,000)、ロジン系化合物が挙げられる。なお、ロジン系化合物としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、重合ロジン、水素化ロジン、不均化ロジンなどのロジン類、当該ロジン類をフマル酸、マレイン酸等の不飽和酸により変性した不飽和酸変性ロジン、ロジン類とカルシウム、マグネシウム、亜鉛等の金属類と反応させることにより得られるロジン金属塩類、ロジン類とフェノールやアルキルフェノールなどのフェノール類および/またはこれらフェノール類から得られるフェノール樹脂を反応させて得られるもの、ロジン類とフェノールやアルキルフェノールなどのフェノール類および/またはこれらフェノール類から得られるフェノール樹脂と、多価アルコールを反応させて得られるものなどが挙げられる。なお、添加剤の添加量はそれぞれの目的により適宜決定されるが、通常20%以下、好ましくは10%以下である。
【0056】
前記の各種方法により得られた感圧記録体用顕色剤の水性分散液を、水性塗料として紙などの支持体に塗布することにより、本発明の感圧記録体用顕色シート(下用紙)を製造することができる。
【0057】
上記支持体としては、特に制限されないが、例えば、紙(上用紙など)、合成紙、セロファン、合成樹脂フィルムなどが挙げられる。合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル、ナイロン、エチレン−酢酸ビニルフィルム、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどが挙げられる。
【0058】
なお、上記水性分散液の塗布方法としては、公知の方法によれば良く、例えばエアーナイフコ−タ−、ブレードコータ−、ロ−ルコ−タ−、カーテンフローコーターなどにより、支持体に水性分散液を塗布し、通常80〜120℃程度で乾燥する方法などが挙げられる。また支持体上への塗布量は特に限定されるものではないが、通常0.5〜20g/m2程度、好ましくは2〜10g/m2である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
合成例1
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を備えた2リットル容のフラスコに、水542g、イソプロピルアルコール361g、アクリルアミド120.9g、アクリル酸ブチル38.5g(アクリルアミド:アクリル酸ブチル=85:15mol%)を仕込み、攪拌、溶解した。硫酸を少量添加し、液のpHを4.5とした。液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素濃度を1ppm以下とした後、液温を40℃に保った。この温度にて、過硫酸アンモニウム1.6gを水5g溶解した水溶液、亜硫酸水素ナトリウム0.4gを水5g溶解した水溶液を順に投入した。加熱を行い約85℃にて還流状態とし、このまま3時間還流状態を継続した。その後、冷却管を蒸留器と取替え、液温が100℃となるまで加熱を継続した。その後、冷却することにより液温を80℃とし、過硫酸アンモニウム0.8gを水5g溶解した水溶液を投入、約80℃にて1時間保温後に同様に過硫酸アンモニウム0.8gを水5g溶解した水溶液を投入し更に同温度で1時間保温した。その後冷却し、反応液の濃度を20%に調整し、透明な乳化分散剤797gを得た。得られた乳化分散剤の組成(モル%)と平均重合度を表1に示す。なお、当該重合体の平均重合度は120であった。
【0061】
合成例2
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を備えた2リットル容のフラスコに、水575g、イソプロピルアルコール290g、アクリルアミド133.0g、アクリル酸シクロヘキシル21.7g(アクリルアミド:アクリル酸シクロヘキシル=93:7mol%)を仕込み、攪拌、溶解した。硫酸を少量添加し、液のpHを4.5とした。液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素濃度を1ppm以下とした後、液温を40℃に保った。この温度にて、過硫酸アンモニウム1.6gを水5g溶解した水溶液、亜硫酸水素ナトリウム0.6gを水5g溶解した水溶液を順に投入した。加熱を行い約85℃にて還流状態とし、このまま3時間還流状態を継続した。その後、冷却管を蒸留器と取替え、液温が100℃となるまで加熱を継続した。その後、冷却することにより液温を80℃とし、過硫酸アンモニウム0.8gを水5g溶解した水溶液を投入、約80℃にて1時間保温後に同様に過硫酸アンモニウム0.8gを水5g溶解した水溶液を投入し更に同温度で1時間保温した。その後冷却し、反応液の濃度を20%に調整し、透明な乳化分散剤785gを得た。得られた乳化分散剤の組成(モル%)と平均重合度を表1に示す。なお、当該重合体の平均重合度は150であった。
【0062】
合成例3
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を備えた2リットル容のフラスコに、水542g、イソプロピルアルコール361g、アクリルアミド120.9g、アクリル酸ブチル38.5g、メチレンビスアクリルアミド1.5g(アクリルアミド:アクリル酸ブチル:メチレンビスアクリルアミド=85:15:0.5mol%)を仕込み、攪拌、溶解した。硫酸を少量添加し、液のpHを4.5とした。液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素濃度を1ppm以下とした後、液温を40℃に保った。この温度にて、過硫酸アンモニウム1.6gを水5g溶解した水溶液、亜硫酸水素ナトリウム0.4gを水5g溶解した水溶液を順に投入した。加熱を行い約85℃にて還流状態とし、このまま3時間還流状態を継続した。その後、冷却管を蒸留器と取替え、液温が100℃となるまで加熱を継続した。その後、冷却することにより液温を80℃とし、過硫酸アンモニウム0.8gを水5g溶解した水溶液を投入、約80℃にて1時間保温後に同様に過硫酸アンモニウム0.8gを水5g溶解した水溶液を投入し更に同温度で1時間保温した。その後冷却し、反応液の濃度を20%に調整し、透明な乳化分散剤797gを得た。得られた乳化分散剤の組成(モル%)と平均重合度を表1に示す。なお、当該重合体の平均重合度は90であった。
【0063】
合成例4
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を備えた2リットル容のフラスコに、水542g、イソプロピルアルコール361g、アクリルアミド120.9g、アクリル酸ブチル38.5g(アクリルアミド:アクリル酸ブチル=85:15mol%)を仕込み、攪拌、溶解した。硫酸を少量添加し、液のpHを4.5とした。液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素濃度を1ppm以下とした後、液温を40℃に保った。この温度にて、過硫酸アンモニウム1.6gを水5g溶解した水溶液、亜硫酸水素ナトリウム0.4gを水5g溶解した水溶液を順に投入した。加熱を行い約85℃にて還流状態とし、このまま3時間還流状態を継続した。その後、冷却管を蒸留器と取替え、液温が100℃となるまで加熱を継続した。その後冷却し、反応液の濃度を20%に調整し、透明な乳化分散剤797gを得た。得られた乳化分散剤の組成(モル%)と平均重合度を表1に示す。なお、当該重合体の平均重合度は40であった。
【0064】
【表1】

【0065】
表中、AMは、アクリルアミド、BAは、アクリル酸ブチル、APSは、過硫酸アンモニウム、CHAは、シクロヘキシルアクリレート、MBAMは、メチレンビスアクリルアミドを表す
【0066】
実施例1(感圧記録体用顕色剤水分散液の調製)
攪拌機、冷却管、温度計を備えた1リットル容のフラスコに、3,5−ジ−(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩150g、トルエン150gを仕込み、溶解させた。次いで、攪拌しながら60℃まで加熱し、合成例1で得られた乳化分散液37.5g、水262.5gを加えて30分予備乳化した後、高圧乳化機(マントンガウリン社製)で乳化した。その後、減圧蒸留によりトルエンを除去し不揮発分50%、25℃での粘度は120mPa・s、平均粒子径は0.7μmの感圧記録体用顕色剤の水性分散液を得た。
【0067】
実施例2
実施例1の乳化分散液を合成例2で得られたものとした以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%、25℃での粘度は150mPa・s、平均粒子径は0.8μmの感圧記録体用顕色剤の水性分散液を得た。
【0068】
実施例3
実施例1の乳化分散液を合成例3で得られたものとした以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%、25℃での粘度は275mPa・s、平均粒子径は0.8μmの感圧記録体用顕色剤の水性分散液を得た。
【0069】
実施例4
攪拌機、冷却管、温度計を備えた1リットル容のフラスコに、3,5−ジ−(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩150g、トルエン150gを仕込み、溶解させた。次いで、攪拌しながら60℃まで加熱し、合成例1で得られた乳化分散液37.5g、PVA205の10%水溶液((株)クラレ製)25.0g、水237.5gを加えて30分予備乳化した後、高圧乳化機(マントンガウリン社製)で乳化した。その後、減圧蒸留によりトルエンを除去し不揮発分50%、25℃での粘度は350mPa・s、平均粒子径は0.7μmの感圧記録体用顕色剤の水性分散液を得た。
【0070】
比較例1
攪拌機、冷却管、温度計を備えた1リットル容のフラスコに、3,5−ジ−(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩150g、トルエン150gを仕込み、溶解させた。次いで、攪拌しながら60℃まで加熱し、合成例4で得られた乳化分散剤37.5g、水262.5gを加えて30分予備乳化した後、高圧乳化機(マントンガウリン社製)で乳化した。その後、減圧蒸留によりトルエンを除去し不揮発分50%、25℃での粘度は80mPa・s、平均粒子径は1.0μmの感圧記録体用顕色剤の水性分散液を得た。
【0071】
比較例2
攪拌機、冷却管、温度計を備えた1リットル容のフラスコに、3,5−ジ−(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩150g、トルエン150gを仕込み、溶解させた。次いで、攪拌しながら60℃まで加熱し、PVA205の10%水溶液((株)クラレ製)100.0g、水200gを加えて30分予備乳化した後、高圧乳化機(マントンガウリン社製)で乳化した。その後、減圧蒸留によりトルエンを除去し不揮発分50%、25℃での粘度は500mPa・s、平均粒子径は1.3μmの感圧記録体用顕色剤の水性分散液を得た。
【0072】
調製例1
実施例1〜4、比較例1〜2で得られた感圧記録体用顕色剤の水性分散液20部に、さらに50%炭酸カルシウムスラリー200部、スチレン−ブタジエンラテックス(不揮発分48%)21部、ポリビニルアルコール(商品名:PVA110、(株)クラレ製)の10%水溶液100部、脱イオン水86部を加え、ペイントシェーカーにて90分間練肉して濃度30%の塗料とした。これをバーコーターで上質紙に固形分重量が5.0g/mとなるように塗布し、顕色シートを得た。該シートを用いて下記各種の試験を行った。結果を表2に示す。
【0073】
(発色性試験)
調製例1で得られたそれぞれの顕色シートに市販の上用紙を重ね、ロールカレンダーを用いて3MPaの圧力で加圧発色させ、1分後および24時間経過後の発色率を色差計(商品名:SE−2000、日本電色工業(株)製)によりY値を測定して求めた。数値が小さい方が発色良好であることを示す
【0074】
(安定性(沈降性))
直径3cm、高さ20cmの透明な容器に、高さ18cmとなるように顕色剤エマルジョンを入れる。これを密閉し23℃にて静置保管し、沈降物が堆積し始めるまでの日数を記載した。
【0075】
【表2】

【0076】
表中、PVAはポリビニルアルコール(商品名PVA−205、(株)クラレ製)を表す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸誘導体の多価金属塩(A)を、(メタ)アクリルアミド(b−1)および(メタ)アクリル酸エステル類(b−2)を含有する重合成分を共重合させた後、過酸化物(C)を作用させて得られるアクリルアミド系ポリマー(B)の存在下で乳化させることにより得られる感圧記録体用顕色剤水分散液。
【請求項2】
サリチル酸誘導体の多価金属塩(A)をアクリルアミド系ポリマー(B)およびアクリルアミド系ポリマー(B)以外の水溶性高分子(D)の存在下で乳化させることにより得られる請求項1に記載の感圧記録体用顕色剤水分散液。
【請求項3】
アクリルアミド系ポリマー(B)が、(メタ)アクリルアミド(b−1)を80〜97モル%および(メタ)アクリル酸エステル類(b−2)を3〜20モル%含有する重合成分を共重合させた後、過酸化物(C)を作用させて得られたアクリルアミド系ポリマーである請求項1または2に記載の感圧記録体用顕色剤水分散液。
【請求項4】
アクリルアミド系ポリマー(B)の重合成分中にジメチルアクリルアミドおよび/または架橋性モノマーを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の感圧記録体用顕色剤水分散液。
【請求項5】
アクリルアミド系ポリマー(B)またはアクリルアミド系ポリマー(B)およびアクリルアミド系ポリマー(B)以外の水溶性高分子(D)をサリチル酸誘導体の多価金属塩(A)100重量部に対し、0.5〜10重量部用いる請求項1〜4のいずれかに記載の感圧記録体用顕色剤水分散液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の感圧記録体用顕色剤の水性分散液を、支持体に塗布することにより得られる感圧記録体用顕色シート。


【公開番号】特開2008−238619(P2008−238619A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83401(P2007−83401)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】