説明

感温磁性体を用いた温度計測システム及び温度計測方法

【課題】感温磁性体が配置された被計測部が磁気センサや磁場発生源に対して相対的に移動する場合であっても、ワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測できる温度計測システムを提供する。
【解決手段】被計測部に配置される、任意のキュリー点を有する感温磁性体と、被計測部から離れた場所で磁場を発生させる磁場発生源と、感温磁性体の温度に依存して変化する磁場の磁束ベクトルを検知する、複数の磁気センサと、を備えており、複数の磁気センサは、感温磁性体と磁場発生源との間に備えられるとともに、計測時には磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定されており、複数の磁気センサによって、少なくとも2軸方向で磁束ベクトルの変化を検知することができる、温度計測システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温磁性体を用いた温度計測システム及び温度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍を治療する手段の一つに、マイクロ波および高周波電流をエネルギー源とした温熱療法がある。この温熱療法を行う際には、患部の温度が目標温度に達したことを確認しなければならない。温度計測技術としては、赤外線を利用したサーマルカメラが存在するが、これは主として表面温度の測定の利用に限られており、赤外線が透過できない生体内部の温度を測ることはできない。そのため、患部の温度を計測するためには、サーミスタや熱電対等の温度プローブを侵襲的に体内に差し込むことが考えられるが、かかる方法では患者へ苦痛を与えることになるといった問題や、感染症を招くなど衛生的にも問題があった。
【0003】
このような問題を解決するものとして、これまでに、ワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測できる技術が考えられ、開示されている。例えば、特許文献1には、永久磁石と、その永久磁石の周囲を覆う、キュリー点の異なる複数の感温磁性体と、を有する温度計測素子を被計測部に配置し、温度計測素子から温度に依存して漏洩する漏洩磁束を、温度計測素子から離れた位置に配置した磁気センサで検出し、その出力に基づいて被計測部の温度を計測する温度計測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−33317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に開示されている温度計測方法では、被計測部に配置する温度計測素子(温度プローブ)が、永久磁石及び複数の感温磁性体からなる複層構造をしているため、各層を薄膜化したとしても小型化には限界があるという問題が残っていた。
【0006】
そこで、本発明者らは上記問題を解決すべく、ワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測でき、かつ、小型化することが容易な温度プローブを用いる温度計測方法及び温度計測システムを発明し、特許出願(特願2008−163226、以下、「先の出願」という。)した。先の出願にかかる発明によって、上記問題は解決できたと考えられる。
【0007】
しかしながら、先の出願にかかる発明では、被計測部が温度計測中に移動する場合には、被計測部の温度を正確に計測できなくなる虞があった。より具体的には、先の出願にかかる発明は、感温磁性体を被計測部に配置し、該感温磁性体の温度に依存して変化する磁場の磁束ベクトルを検知するものであるが、被計測部が温度計測中に移動した場合、磁束ベクトルの変化が、感温磁性体がキュリー点に達したことに因るものであるのか、磁気センサや磁場発生源に対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを判別することが容易ではなかった。
【0008】
そこで本発明は、感温磁性体が配置された被計測部が磁気センサや磁場発生源に対して相対的に移動する場合であっても、ワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測できる温度計測システム及び該システムを用いた温度計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の本発明は、被計測部に配置される、任意のキュリー点を有する感温磁性体と、被計測部から離れた場所で磁場を発生させる磁場発生源と、感温磁性体の温度に依存して変化する磁場の磁束ベクトルを検知する、複数の磁気センサと、を備えており、複数の磁気センサは、感温磁性体と磁場発生源との間に備えられるとともに、計測時には磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定されており、複数の磁気センサによって、少なくとも2軸方向で磁束ベクトルの変化を検知することができる、温度計測システムを提供することによって上記課題を解決する。
【0010】
第一の本発明および以下に説明する第二の本発明(これらをまとめて、単に「本発明」ということがある。)において、「感温磁性体」とは、組成比の変更、添加物の添加、熱処理などによってキュリー点を任意に設定できる磁性材料からなる磁性体を意味する。本発明に用いることができる磁性材料の具体例としては、Ni−Zn系フェライト、Mn−Cu−Zn系フェライトなどを挙げることができる。温熱療法を行う際の患部温度計測のために本発明を用いる場合は、キュリー点を43度程度に設定できる磁性材料を選択することが好ましい。そのような磁性材料の具体例としては、Ni−Zn系フェライト、Mn−Cu−Zn系フェライトなどを挙げることができる。
また、「磁場発生源」とは、磁場を発生させられるものであれば特に限定されず、具体例として、コイル、超伝導コイル、永久磁石などを挙げることができる。そして、「離れた場所」とは、好ましくは20cm以下であり、より好ましくは、10cm以下であり、最も好ましくは、5cm以下である。被計測部(感温磁性体)と磁場発生源とが離れ過ぎると、磁気センサによって磁束ベクトルの変化を検知することが困難になる。
さらに、「磁気センサ」とは、磁場の磁束ベクトルの変化を検出できるものであれば特に限定されず、具体例として、コイル、ホール素子、磁気抵抗効果素子、フラックス・ゲートセンサ、ファラデー素子、超伝導量子干渉素子などを挙げることができる。
さらに、「磁気センサは、・・・計測時には磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定」とは、少なくとも本発明の温度計測システムを用いて温度計測を行う際には磁気センサと磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定されていることを意味し、温度計測時以外には磁気センサと磁場発生源との相対的な位置および姿勢を変更できても良いことを意味する。
さらに「複数の磁気センサによって、少なくとも2軸方向で磁束ベクトルの変化を検知することができる」とは、1つの磁気センサでは所定の1軸方向について磁束ベクトルの変化量を検知することができるため、少なくとも2つの磁気センサを用いて2軸方向以上について磁束ベクトルの変化量を検知することを意味する。
【0011】
本発明では、磁場発生源は交流電流を流したコイルであることが好ましく、磁気センサもコイルであることが好ましい。かかる形態とすることによって、システムの耐久性の向上とコストの低減が可能になる。また、半導体素子において生じるcross‐axis effectを完全に除去できるというメリットもある。
【0012】
上記第一の本発明において、磁場発生源から発生される磁場の磁束の方向と、磁気センサが検知できる磁束ベクトルの変化の方向とが、直交するように磁場発生源および複数の磁気センサが配設されていることが好ましい。
【0013】
本発明において、「磁場の磁束の方向」とは、感温磁性体やその他の周囲の物からの影響を受けていない状態で、磁場発生源から発生される磁場の磁束の方向を意味する。また、「磁気センサが検知できる磁束ベクトルの変化の方向」とは、磁気センサが磁束ベクトルの変化量を検知することができる特定の方向を意味する。磁束ベクトルの方向が変化した際、磁気センサは、特定の方向に変化した磁束ベクトルの量を検知することができる。例えば、磁気センサがコイルである場合、磁気センサは、そのコイルの中心軸の方向に変化した磁束ベクトルの量を検知することができる。さらに、「磁場発生源から発生される磁場の磁束の方向と、磁気センサが検知できる磁束ベクトルの変化の方向とが、直交する」とは、磁気センサが設置されたそれぞれの場所において、(感温磁性体を配置しない状態における)磁場発生源から発生される磁場の磁束に対して磁気センサが検知できる磁束ベクトルの変化の方向がほぼ直交することを意味する。磁場発生源から発生される磁場の磁束の方向と、磁気センサが検知できる磁場の磁束ベクトルの変化の方向とを直交させることにより、磁場発生源から発生される磁場の磁束ベクトルの変化を磁気センサによって検知しやすくなる。
【0014】
上記第一の本発明において、複数の磁気センサが、磁場の中心磁束の方向に対して直交する方向の面内に配置されていることが好ましい。本発明において、「中心磁束」とは、磁場発生源の中心軸にほぼ平行な磁束を意味する。すなわち、磁場発生源がコイルの場合は、該コイルの中心軸にほぼ平行な磁束を意味し、磁場発生源が磁石の場合は、該磁石のN極(またはS極)からS極(またはN極)に向かう方向にほぼ平行な磁束を意味する。かかる形態とすることによって、複数の磁気センサが配置される面を横切る磁束ベクトルの変化を検知しやすくなる。
【0015】
上記第一の本発明において、複数の磁気センサが、それぞれ磁場発生源から等距離になるように配置されていることが好ましい。
【0016】
上記第一の本発明において、電気的に直列に接続された2つの磁気センサを有する第1磁気センサ対と、電気的に直列に接続された他の2つの磁気センサを有する第2磁気センサ対と、を備えていることが好ましい。
【0017】
上記第一の本発明において、第1磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサは、対向して設けられるとともに、それぞれ検知できる磁束ベクトルの変化の方向が磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢であり、第2磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサは、対向して設けられるとともに、それぞれ検知できる磁束ベクトルの変化の方向が磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢であり、第1磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサの配列方向と、第2磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサの配列方向とが直交していることが好ましい。
【0018】
上記第一の本発明において、第1磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち一方と、第2磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち一方とが、検知できる磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置され、第1磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち他方と、第2磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち他方とが、検知できる磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置されていることが好ましい。
【0019】
上記第一の本発明において、複数の磁気センサからの信号を検出するロックインアンプと、該ロックインアンプに参照信号を入力するリファレンスコイルと、を備えていることが好ましい。かかる形態とすることによって、例えば、磁場発生源に印加される電流や電圧が不明な場合であっても、磁場発生源から発生する磁束の変化をリファレンスコイルで検知することで、ロックインアンプへの参照信号として利用できる。かかる形態では、温度計測中はリファレンスコイルと磁場発生源との相対的な位置を固定することが好ましい。
【0020】
上記第一の本発明において、少なくとも磁場発生源と複数の磁気センサとが一体の装置であることが好ましい。さらに、リファレンスコイルなどが一体とされていても良い。かかる形態とすることによって、温度計測中における磁場発生源と複数の磁気センサとの相対的な位置および姿勢を固定することなどが容易になる。
【0021】
第二の本発明は、任意のキュリー点を有する感温磁性体を被計測部に配置するとともに、被計測部から離れた場所に設置された磁場発生源から磁場を発生させ、感温磁性体および磁場発生源の間に、磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定された複数の磁気センサを配置し、感温磁性体の温度に依存して変化する磁場の磁束ベクトルの変化を、複数の磁気センサによって、少なくとも2軸方向で検知することにより、被計測部の温度を計測する温度計測方法を提供することによって上記課題を解決する。
【0022】
上記第二の本発明において、磁気センサとしてコイルを用いることが好ましい。
【0023】
上記第二の本発明において、磁場発生源から発生される磁場の磁束の方向と、磁気センサが検知できる磁束ベクトルの変化の方向とが、直交するように磁場発生源および複数の磁気センサを配置することが好ましい。
【0024】
上記第二の本発明において、磁場の中心磁束の方向に対して直交する方向の面内に複数の磁気センサを配置することが好ましい。
【0025】
上記第二の本発明において、複数の磁気センサが、それぞれ磁場発生源から等距離になるように配置することが好ましい。
【0026】
上記第二の本発明において、電気的に直列に接続された2つの磁気センサを有する第1磁気センサ対と、電気的に直列に接続された他の2つの磁気センサを有する第2磁気センサ対とを用いることが好ましい。
【0027】
上記第二の本発明において、第1磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサを、対向させるとともに、それぞれ検知できる磁束ベクトルの変化の方向が磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢となるように設け、第2磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサを、対向させるとともに、それぞれ検知できる磁束ベクトルの変化の方向が磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢となるように設け、第1磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサの配列方向と、第2磁気センサ対に備えられる2つの磁気センサの配列方向とが、直交するように第1磁気センサ対および第2磁気センサ対を配置することが好ましい。
【0028】
上記第二の本発明において、第1磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち一方と、第2磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち一方とを、検知できる磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置し、第1磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち他方と、第2磁気センサ対が有する2つの磁気センサのうち他方とを、検知できる磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置することが好ましい。
【0029】
上記第二の本発明において、複数の磁気センサからの信号の検出にロックインアンプを用い、該ロックインアンプの参照信号として、リファレンスコイルからの信号を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、磁場発生源から発生される磁場の磁束ベクトルの変化が、被計測部に設置された感温磁性体の温度変化に因るものであるのか、磁気センサに対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを見極め、磁気センサや磁場発生源に対して被計測部が相対的に移動する場合であってもワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】感温磁性体を用いた温度計測の原理を説明するための図である。
【図2】本発明の温度計測システムの一例について、各構成の位置関係を概略的に示す斜視図である。
【図3】図2に示した矢印IIの方向から本発明の温度計測システムの一例を見た様子に、温度計測に用いる電源やロックインアンプなどを加えて示した概略図である。
【図4】本発明の温度計測システムの一例について、各構成の位置関係を概略的に示す斜視図である。
【図5】図4に示した矢印IVの方向から本発明の温度計測システムの一例を見た様子に、温度計測に用いる電源やロックインアンプなどを加えて示した概略図である。
【図6】本発明の温度計測システムの一例について、各構成の位置関係を概略的に示す斜視図である。
【図7】図6に示した矢印VIの方向から本発明の温度計測システムの一例を見た様子に、温度計測に用いる電源やロックインアンプなどを加えて示した概略図である。
【図8】本発明の温度計測システムのその他の形態について説明するための図である。
【図9】測定対象内での感温磁性体の温度とピックアップコイルの出力電圧の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0033】
本発明は、磁場発生源から発生された磁場の磁束ベクトルが、被計測部に配置された感温磁性体の温度に依存して変化することを利用している。まず、このような感温磁性体を用いた温度計測の原理について説明した後、本発明について説明する。
【0034】
<感温磁性体を用いた温度計測の原理>
図1は、感温磁性体を用いた温度計測の原理を説明するための図である。図中の破線矢印は交流磁場の磁束線を示している。図1(a)は、感温磁性体1の温度がキュリー点未満のときの状態を示しており、図1(b)は、感温磁性体1の温度がキュリー点以上のときの状態を示している。
【0035】
感温磁性体1は、目標とする任意の温度にキュリー点を設定した磁性材料からなる磁性体である。また、磁場発生源2は、電源4から交流電流を流すことによって交流磁場を発生させるコイル(以下「駆動コイル」という。)である。さらに、磁気センサ3は、後に説明するように、駆動コイル2から発生する交流磁場の磁束ベクトルの変化を検知するコイル(以下「ピックアップコイル」という。)である。ピックアップコイル3は、感温磁性体1と駆動コイル2との間に配置されることが好ましく、駆動コイル2とピックアップコイル3は互いの軸方向が直交するように配置されることが好ましい。かかる形態とすることによって、後に説明するように、駆動コイル2から発生され、感温磁性体1の温度に依存して変化する磁束ベクトルの変化を、ピックアップコイル3によって検知しやすくなる。
【0036】
感温磁性体1の温度が感温磁性体1のキュリー点より低ければ、感温磁性体1は高い誘磁率を有する。そのため、図1(a)に示すように、駆動コイル2から発生した交流磁場の磁束が感温磁性体1に引き付けられ、磁束ベクトルが曲げられる。このとき、駆動コイル2とピックアップコイル3とが互いの軸方向が直交するように配置されていると、磁束ベクトルの直交成分の変位に比例してピックアップコイル3に発生する誘導起電力が大きくなり、電圧計5で検知される電位が大きくなる。
【0037】
一方、感温磁性体1の温度が感温磁性体1のキュリー点以上となった場合には、感温磁性体1の磁性は空気と同程度になっている。そのため、図1(b)に示すように、駆動コイル2から発生した交流磁場の磁束は感温磁性体1に引き付けられずにほぼ直進する。このとき、駆動コイル2とピックアップコイル3とが互いの軸方向が直交するように配置されていると、磁束ベクトルとピックアップコイル3の軸はほぼ直交する。そのため、ピックアップコイル3に発生する誘導起電力は、感温磁性体1の温度がキュリー点未満である場合に比べて減少する。
【0038】
このように、感温磁性体1の温度を上昇させていくと、キュリー点の付近でピックアップコイル3に発生する誘導起電力が急激に変化し、その変化はピックアップコイル3に接続された電圧計5で確認することができる。つまり、感温磁性体1を被計測部に配置して、感温磁性体1から離れた場所で交流磁場を発生させ、感温磁性体1の温度に依存するその交流磁場の磁束ベクトルの変化を検知することによって、感温磁性体1の周辺(被計測部)の温度が任意の温度(感温磁性体1のキュリー点)以上になっていることを確認することができる。
【0039】
<本発明の温度計測システム>
本発明の温度計測システムは、上記した感温磁性体を用いた温度計測を利用するものである。上記した温度計測の原理の説明では、温度計測中に被計測部(感温磁性体)が磁気センサに対して相対的に移動する場合を考慮していない。したがって、磁場発生源から発生された磁場の磁束ベクトルの変化が、被計測部に配置された感温磁性体の温度変化に因るものであるのか、磁気センサや磁場発生源に対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを判別できず、被計測部の温度を正確に計測できない場合があった。これは、磁束ベクトルの変化を1つの磁気センサによって1軸方向でしか検知していないことに因る。本発明では、以下に説明するように、複数の磁気センサを用いて少なくとも2軸方向で磁束ベクトルの変化を検知することによって、感温磁性体を設置した被計測部が磁気センサや磁場発生源に対して相対的に移動する場合であっても、ワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測することができる。
【0040】
以下に、具体的な実施形態を例示して、本発明の温度計測システムについて説明する。本発明の温度計測システムでは、磁気センサは磁場発生源から離れ過ぎていないことが好ましい。磁場発生源と磁気センサとが離れ過ぎていると、磁場発生源から発生する磁場の磁束ベクトルの変化を磁気センサで検知することが困難になるためである。したがって、以下に説明する実施形態では、磁場発生源(駆動コイル)から発生されて磁気センサ(ピックアップコイル)を横切る磁場の磁束が、駆動コイルの中心軸に対して平行であると見なせる程の近い位置に、駆動コイル及び磁気センサが設置されているとする。
【0041】
1.第1実施形態
図2は、本発明の温度計測システムの一例について、各構成の位置関係を概略的に示す斜視図である。なお、図2では、各構成の位置関係を見やすくするため、導線などは省略している。図3は、図2に示した矢印IIの方向から本発明の温度計測システムの一例を見た様子に、温度計測に用いる電源やロックインアンプなどを加えて示した概略図である。図2及び図3において、図1と同様の構成のものには同じ符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0042】
本発明の温度計測システムは複数の磁気センサを備えている。図2及び図3に示した温度計測システム10の場合は、ピックアップコイル3a、3b、3c、3dがそれぞれ磁気センサを構成している。
【0043】
温度計測システム10では、図3に示すように、対向して設けられたピックアップコイル3a、3bが電気的に直列に接続されている。以下、このように電気的に直列に接続されたピックアップコイル(磁気センサ)を「磁気センサ対」という。ピックアップコイル3a、3bは第1磁気センサ対を構成している。ピックアップコイル3aの温度計測中の姿勢とピックアップコイル3bの温度計測中の姿勢とは同一であり、ピックアップコイル3aが検知できる磁束ベクトルの変化の方向(ピックアップコイル3aの中心軸方向)とピックアップコイル3bが検知できる磁束ベクトルの変化の方向(ピックアップコイル3bの中心軸方向)とが重なるように配置されている。このようにピックアップコイル3a、3bを配置することによって、ピックアップコイル3a、3bの間を横切る磁束の変化を検知することができる。
【0044】
ピックアップコイル3a、3bと同様に、対向して設けられるとともに電気的に直列に接続されたピックアップコイル3c、3dは、第2磁気センサ対を構成している。ピックアップコイル3cの温度計測中の姿勢とピックアップコイル3dの温度計測中の姿勢とは同一であり、ピックアップコイル3cが検知できる磁束ベクトルの変化の方向(ピックアップコイル3cの中心軸方向)とピックアップコイル3dが検知できる磁束ベクトルの変化の方向(ピックアップコイル3dの中心軸方向)とが重なるように配置されている。このようにピックアップコイル3c、3dを配置することによって、ピックアップコイル3c、3dの間を横切る磁束の変化も検知することができる。
【0045】
ピックアップコイル3a、3b、3c、3dは、温度計測中において、互いに相対的な位置および姿勢が固定されており、駆動コイル2とピックアップコイル3a、3b、3c、3dとの相対的な位置および姿勢も固定されている。そのため、実際に温度計測システム10を作製する際には、駆動コイル2とピックアップコイル3a、3b、3c、3dとを一体化させた装置を用いることが好ましい。ただし、感温磁性体の大きさなど、温度計測毎の条件に応じて、ピックアップコイル3a、3b、3c、3dの互いの相対的な位置および姿勢や、駆動コイル2とピックアップコイル3a、3b、3c、3dとの相対的な位置および姿勢を変更することが好ましい場合があるため、駆動コイル2およびピックアップコイル3a、3b、3c、3dの位置および姿勢は、計測時以外に変更できる構成にしておくことが好ましい。
【0046】
また、ピックアップコイル3a、3b、3c、3dは、感温磁性体1と駆動コイル2との間に配置されていることが好ましい。かかる形態とすることによって、駆動コイル2から発生される磁場の磁束ベクトルの変化をピックアップコイル3a、3b、3c、3dによって検知しやすくなる。
【0047】
さらに、感温磁性体1などの影響を受けていないときの駆動コイル2から発生される磁場の磁束の方向と、温度計測中のピックアップコイル3a、3b、3c、3dのそれぞれの中心軸の方向は直交していることが好ましい。すなわち、図2に示すように、駆動コイル2の中心軸(一点鎖線x)と、ピックアップコイル3a、3bの中心軸(一点鎖線y)が直交しており、駆動コイル2の中心軸(一点鎖線x)と、ピックアップコイル3c、3dの中心軸(一点鎖線z)も直交していることが好ましい。かかる形態とすることによって、駆動コイル2から発生される磁場の磁束ベクトルの変化をピックアップコイル3a、3b、3c、3dによって検知しやすくなる。
【0048】
また、第1磁気センサ対に備えられるピックアップコイル3a、3bの配列方向と、第2磁気センサ対に備えられるピックアップコイル3c、3dの配列方向とが直交していることが好ましく、ピックアップコイル3a、3b、3c、3dが同一面内に配置されていることが好ましい。すなわち、一点鎖線yと一点鎖線zは直交していることが好ましい。さらに、ピックアップコイル3a、3b、3c、3dは、同一面内において、それぞれ駆動コイル2から等距離の位置に設置されることが好ましい。このようにピックアップコイル3a、3b、3c、3dを配置することによって、ピックアップコイル3a、3bの配列方向の軸(Y軸)とピックアップコイル3c、3dの配列方向の軸(Z軸)で構成される面を横切る磁束の変化を検知することが容易になる。
【0049】
Y軸とZ軸とで構成される面を横切る磁束の変化を検知することによって、駆動コイル2から発生される磁場の磁束ベクトルの変化が、被計測部に設置された感温磁性体1の温度変化に因るものであるのか、第1磁気センサ及び第2磁気センサに対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを見極めやすくなる。すなわち、被計測部が第1磁気センサ対及び第2磁気センサ対に対して相対的に移動した場合、第1磁気センサ対及び第2磁気センサ対での測定結果(電圧)を経時的に見ると、振動成分として現れるが、感温磁性体1がキュリー点に達した場合、第1磁気センサ対及び第2磁気センサ対での測定結果(電圧)は0に近づく。したがって、第1磁気センサ対及び第2磁気センサ対の電圧の波形を動的に見れば、駆動コイル2から発生される磁場の磁束ベクトルの変化が、被計測部に設置された感温磁性体1の温度変化に因るものであるのか、第1磁気センサ対及び第2磁気センサ対に対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを見極めることができる。
【0050】
磁気センサからの信号の検出には、ロックインアンプを用いることが好ましい。温度計測システム10では、図3に示すように、ピックアップコイル3a、3b(第1磁気センサ対)からの電気信号はロックインアンプ7aに入力されるように、ピックアップコイル3a、3bとロックインアンプ7aとが接続されている。また、ピックアップコイル3c、3d(第2磁気センサ対)からの電気信号はロックインアンプ7bに入力されるように、ピックアップコイル3c、3dとロックインアンプ7bとが接続されている。
【0051】
さらに、温度計測システム10にはリファレンスコイル6が備えられており、リファレンスコイル6は、ロックインアンプ7a、7bにそれぞれ電気的に接続されている。駆動コイル2に流れる電流や電圧がわからない場合であっても、駆動コイル2から発生する磁束をリファレンスコイル6で検知することで、リファレンスコイル6からの電気信号をロックインアンプ7a、7bへの参照信号として利用することができる。したがって、第1磁気センサ対に発生する誘導起電力はロックインアンプ7aで同期検波することによって周囲のノイズを低減させ、検出感度を向上させることができる。第2磁気センサ対に発生する誘導起電力はロックインアンプ7bで同期検波することによって周囲のノイズを低減させ、検出感度を向上させることができる。
【0052】
なお、リファレンスコイル6の設置位置および姿勢は、リファレンスコイル6が駆動コイル2からの磁束を安定して検知できれば特に限定されない。ただし、リファレンスコイル6は駆動コイル2から発せられる高周波磁場を検知して同期することを目的として設置されるため、磁束ベクトルが変わったときにロックインアンプ7a、7bへ送る参照信号が減衰しにくい位置であることが好ましい。したがって、リファレンスコイル6は、図2に示すように、駆動コイル2と感温磁性体1との間に備えられることが好ましい。また、リファレンスコイル6は駆動コイル2やピックアップコイル3a、3b、3c、3dと一体の装置として構成することが可能であり、かかる観点からは、リファレンスコイル6は駆動コイル2の中心軸上に備えられていることが好ましい。
【0053】
上記したように、本発明の温度計測システムによれば、磁場発生源から発生される磁場の磁束ベクトルの変化が、被計測部に設置された感温磁性体の温度変化に因るものであるのか、磁気センサに対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを見極めることができる。そのため、磁気センサや磁場発生源に対して被計測部が相対的に移動する場合であってもワイヤレスで離れた位置から被計測部の温度を計測することができる。
【0054】
また、本発明の温度計測システムは殆ど全ての温熱療法に適用可能なため、既存の誘導加熱、マイクロ波による温熱療法機器に組み込むことが可能である。そして、本発明の温度計測システムによれば、腫瘍温度を非接触・非侵襲でモニターできるため、患者に与える負担および感染リスクを軽減することができる。
【0055】
本発明の温度計測システムを温熱療法に適用する場合には、感温磁性体に、誘導加熱しやすい発熱材料を併用することが好ましい。誘導加熱しやすい発熱材料の具体例としては、Fe、Au、Ti、Ptなどの金属や、これらの金属のうち一種又は複数種を主成分とした合金などを挙げることができる。特に温熱療法の際に用いる場合は、人体への影響などを考慮して、上記金属及び合金のうち、Auなどの金属やそれら金属からなる合金を選択することが好ましい。このように、感温磁性体に誘導加熱しやすい発熱材料を併用することによって、体外から高周波磁場を印加する温熱療法の発熱効率を向上させることが可能になり、低出力の電源による低磁束密度での治療が可能になるため、電源設備の小型化が可能となる。
【0056】
本発明の温度計測システムで温度計測できる場所は生体内に限らず、非磁性体の対象であれば適用できる。したがって、磁場を透過する材料であれば固体、液体、気体に対して適用が可能であるため、従来はサーミスタや熱電対を用いて有線で計測せざるを得なかった物体内部の温度をワイヤレスで計測することができる。
【0057】
これまでの本発明の説明では、ピックアップコイルが駆動コイル及び感温磁性体の間に配置され、駆動コイルとピックアップコイルの軸方向が直交するように配置される形態を例示しているが、本発明はかかる形態に限定されない。駆動コイル及びピックアップコイルは温度計測時に互いの相対的位置および姿勢が固定されており、感温磁性体、駆動コイル、及びピックアップコイルは互いに影響を受ける程度に近い位置に配置されていれば良い。ただし、感温磁性体と駆動コイルとの間にピックアップコイルを配置することが好ましく、さらに駆動コイルとピックアップコイルとの軸方向を互いに直交させることがより好ましい。かかる形態とすることによって、温度計測中にピックアップコイルに生じる誘導起電力の変化(磁束ベクトルの変化)を検知しやすくなる。
【0058】
また、これまでの本発明の説明では、磁気センサ対が2対備えられる形態について説明したが、本発明はかかる形態に限定されず、さらに多くの磁気センサ対を用いることも可能である。多くの磁気センサ対を用いた場合、感温磁性体の移動を高感度に検知することができると考えられる。ただし、磁気センサ対の数を増やせば、それに応じて必要となる検出器(ロックインアンプ)の数も増える。
【0059】
また、これまでの本発明の説明では、1つの感温磁性体を用いた形態を例示しているが、本発明では複数の感温磁性体を用いることができる。キュリー点が異なる複数の感温磁性体を被計測部に設置することによって、複数の目標温度を検知することが可能である。すなわち、本発明は上述した温熱療法への利用に限定されない汎用的な非接触温度計測技術であり、異なる任意のキュリー点を有する複数の感温磁性体を用いることで、連続的な温度計測が可能になる。
【0060】
また、本発明では、温度プローブとして用いている感温磁性体を粉体にすることができる。例えば、感温磁性体(温度プローブ)を、平均粒径150μm以下程度の粉体にすることによって、生理食塩水等の液体中に分散等させ、注射針を用いて生体内に注射して利用することが可能になる。また、感温磁性体をこのような粉体にすることによって、感温磁性体の熱容量が低下するため、キュリー点付近での温度を高感度に検出することができる。ただし、感温磁性体を生体内に配置する場合に、該感温磁性体がリンパ管を通って移動しない様にするためには、感温磁性体の大きさはある程度大きいことが好ましい。
【0061】
感温磁性体を生体内の被計測部に配置するその他の方法としては、固形製剤の注入器を用いる方法が考えられる。この方法用いる場合、感温磁性体の粒径は2mm以下であることが好ましい。
【0062】
さらに、感温磁性体を被計測部に配置するその他の方法としては、感温磁性体をカプセルに封入して被計測部に配置する方法が考えられる。カプセルの粒径が2mm以下であれば、上記した注入器を用いて生体内に配置することができる。また、カプセルを用いれば、感温磁性体を上記したような誘導加熱しやすい発熱材料とともに封入して被計測部に配置することも容易にできる。さらに、カプセルを用いて感温磁性体などを生体内に配置する場合、感温磁性体などが生体内で拡散することを防止できるという効果や、感温磁性体などが生体に悪影響を及ぼすものであっても、それらを生体から隔離して用いることができるという効果を奏する。カプセルを生体内に配置する場合、カプセルの材質は生体に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、例えば、シリコーンや樹脂やチタンなどを用いることができる。
【0063】
また、図2及び図3に示した温度計測システム10では、2つのピックアップコイルが対になって構成する磁気センサが2つ備えられる形態を例示したが、本発明はかかる形態に限定されない。少なくとも2軸方向で磁束ベクトルの変化を検知できるように複数の磁気センサを備えていれば、磁場発生源から発生される磁場の磁束ベクトルの変化が、被計測部に設置された感温磁性体の温度変化に因るものであるのか、磁気センサに対して被計測部が相対的に移動したことに因るものであるのかを見極め得る。以下において、本発明の温度計測システムのその他の形態を例示して説明する。
【0064】
2.第2実施形態
図4(a)は、本発明の温度計測システムの一例である温度計測システム20について、各構成の位置関係を概略的に示す斜視図である。図4(b)は、温度計測システム20に備えられるピックアップコイル3e、3gを拡大して示す斜視図である。図4(b)は、温度計測システム20に備えられるピックアップコイル3f、3hを拡大して示す斜視図である。なお、図4では、各構成の位置関係を見やすくするため、導線などは省略している。図5は、図4に示した矢印IVの方向から本発明の温度計測システムの一例を見た様子に、温度計測に用いる電源やロックインアンプなどを加えて示した概略図である。図4及び図5において、図1〜図3と同様の構成のものには同じ符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0065】
図4及び図5に示すように、温度計測システム20はピックアップコイル3a、3b、3c、3dにかえてピックアップコイル3e、3f、3g、3hを備える以外は、温度計測システム10と同様の構成である。
【0066】
温度計測システム20は、ピックアップコイル3e、3f、3g、3hがそれぞれ磁気センサを構成している。また、ピックアップコイル3e、3fは電気的に直列に接続され、第1磁気センサ対を構成している。同様に、電気的に直列に接続されたピックアップコイル3g、3hは、第2磁気センサ対を構成している。ピックアップコイル3e、3f、3g、3hは、温度計測中において、互いに相対的な位置および姿勢が固定されており、駆動コイル2とピックアップコイル3e、3f、3g、3hとの相対的な位置および姿勢も固定されている。
【0067】
また、ピックアップコイル3e、3f、3g、3hは、感温磁性体1と駆動コイル2との間に配置されていることが好ましい。かかる形態とすることによって、駆動コイル2から発生される磁場の磁束ベクトルの変化をピックアップコイル3e、3f、3g、3hによって検知しやすくなる。
【0068】
さらに、感温磁性体1などの影響を受けていないときの駆動コイル2から発生される磁場の磁束の方向と、温度計測中のピックアップコイル3e、3f、3g、3hのそれぞれの中心軸の方向とは、直交していることが好ましい。すなわち、図4に示すように、駆動コイル2の中心軸(一点鎖線x)とピックアップコイル3fの中心軸(一点鎖線f)が直交しており、駆動コイル2の中心軸(一点鎖線x)とピックアップコイル3gの中心軸(一点鎖線g)も直交している。ピックアップコイル3eの中心軸(一点鎖線e)はピックアップコイル3fの中心軸(一点鎖線f)に平行であり、ピックアップコイル3hの中心軸(一点鎖線h)はピックアップコイル3gの中心軸(一点鎖線g)に平行である。かかる形態とすることによって、駆動コイル2から発生される磁場の磁束ベクトルの変化をピックアップコイル3e、3f、3g、3hによって検知しやすくなる。
【0069】
また、ピックアップコイル3e、3gは、検知できる磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置され、ピックアップコイル3f、3hも、検知できる磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置されており、ピックアップコイル3e、3f、3g、3hは、同一面内に配置されている。すなわち、一点鎖線eと一点鎖線gが直交しており、一点鎖線fと一点鎖線hが直交している。ただし、ピックアップコイル3eとピックアップコイル3gとの短絡、ピックアップコイル3fとピックアップコイル3hとの短絡は防止するようにして、ピックアップコイル3e、3f、3g、3hが配置されている。このようにピックアップコイル3e、3f、3g、3hを配置することによって、ピックアップコイル3e、3f、3g、3hが備えられる面を横切る磁束の変化を検知することが容易になる。
【0070】
温度計測システム20は、温度計測システム10と同様の効果を奏することができる。また、温度計測システム10に比べてピックアップコイルを密集して配置しているため、ピックアップコイル3e、3f、3g、3hと磁場発生源2などを一体の装置とする場合、該装置を小型化することができると考えられる。
【0071】
3.第3実施形態
図6は、本発明の温度計測システムの一例について、各構成の位置関係を概略的に示す斜視図である。なお、図6では、各構成の位置関係を見やすくするため、導線などは省略している。図7は、図6に示した矢印VIの方向から本発明の温度計測システムの一例を見た様子に、温度計測に用いる電源やロックインアンプなどを加えて示した概略図である。図6及び図7において、図1〜図5と同様の構成のものには同じ符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0072】
図6及び図7に示すように、温度計測システム30は、ピックアップコイル3a、3b、3c、3dおよびロックインアンプ7a、7bにかえてピックアップコイル3i、3j、3kとそれらに接続された3つのロックインアンプ7i、7j、7kを備える以外は、温度計測システム10と同様の構成である。
【0073】
図6及び図7において、一点鎖線iはピックアップコイル3iの中心軸を示しており、一点鎖線jはピックアップコイル3jの中心軸を示しており、一点鎖線kはピックアップコイル3kの中心軸を示している。なお、一点鎖線i、j、kは全て同一面内にあり、一点鎖線i、j、kを含む面は一点鎖線xに直交している。すなわち、ピックアップコイル3i、3j、3kは、駆動コイル2から発生する磁場の磁束と直交する面内に配置されている。また、ピックアップコイル3i、3j、3kは、互いに等距離になるように配置されていることが好ましい。すなわち、ピックアップコイル3i、3j、3kは、隣り合うピックアップコイルの中心軸が120°間隔となるように配置されていることが好ましい。かかる形態とすることによって、磁束ベクトルの変化の検出感度が大きくなる。
【0074】
温度計測システム30では、ピックアップコイル3i、3j、3kからの電気信号がロックインアンプ7i、7j、7kに入力され、ピックアップコイル3i、3j、3kを含む面内を横切る磁束ベクトルの変化を検知することができる。
【0075】
温度計測システム30は、温度計測システム10と同様の効果を奏することができる。また、温度計測システム10に比べてピックアップコイル(磁気センサ)の配置が容易であると考えられる。しかしながら、ロックインアンプを3台必要とすることから、コストの面では温度計測システム10に比べて好ましくない。
【0076】
温度計測システム30の説明では、3つの磁気センサを用いる形態を例示して説明したが、4つ以上の磁気センサを備える形態も可能である。具体的には、図2に示した形態と同様にピックアップコイルを4つ配置し、その4つのピックアップコイルを互いに電気的に接続せずに、それぞれ別個のロックインアンプに繋いでも本発明の温度計測システムを構成することもできる。このような形態であっても、温度計測システム10と同様の効果を奏することができる。しかしながら、かかる形態とした場合、ロックインアンプの台数が増えることによってコストが上がるなど、温度計測システム10に比べて不利な点が多くなる。
【0077】
これまでの本発明の説明では、ロックインアンプに入力する参照信号としてリファレンスコイルからの電気信号を用いる形態について説明したが、本発明はかかる形態に限定されない。図8は、本発明の温度計測システムのその他の形態例を説明するための図である。図8において、3本の破線矢印は駆動コイル2から発生する交流磁場の磁束線を示している。また、図1〜図7に示したものと同様の構成のものには同じ符号を付し、適宜、説明を省略する。なお、図8では、ピックアップコイル3およびロックインアンプ7を1つずつ示しているが、実際には図2〜図7に示したように、本発明の温度計測システムには複数のピックアップコイルおよびロックインアンプが備えられる。
【0078】
図8に示した形態では、発信器8から電力増幅器9へと電気信号が入力され、電力増幅器9から駆動コイル2へと交流電流が流されると、駆動コイル2から交流磁場が発生する。発信器8から電力増幅器9へと電気信号を入力すると同時に、ピックアップコイル3に接続されたロックインアンプ7にも発信器8から電気信号(参照信号)を入力し、ピックアップコイル3に発生する誘導起電力をロックインアンプ7で同期検波することによって周囲の磁場ノイズを低減させ、検出感度を向上させることができる。
【0079】
これまでの本発明の説明では、磁場発生源及び磁気センサとしてコイルを用いる形態について説明してきたが、本発明はかかる形態に限定されるものではない。本発明の温度計測方法は、磁場発生源から磁場を発生させ、温度に依存する感温磁性体の磁性の影響を受けて変化するその磁場の磁束ベクトルの変化を検出することができれば良い。したがって、本発明に用いることができる磁場発生源のコイル以外の具体例としては、超伝導コイル、永久磁石などを挙げることができる。また、磁気センサとしては、コイル以外に、ホール素子、磁気抵抗効果素子、フラックス・ゲートセンサ、ファラデー素子、超伝導量子干渉素子などを挙げることができる。ただし、システムの耐久性の向上、コストの低減、半導体素子において生じるcross‐axis effectの除去などの観点からは、磁場発生源及び磁気センサとしてコイルを用いることが好ましい。
【0080】
<本発明の温度計測方法>
本発明の温度計測方法は、上記した本発明の温度計測システムを用いることによって行う。本発明の温度計測方法の概要については、本発明の温度計測システムの説明で既に行っているため、より具体的な場合についてのみ以下に説明する。
【0081】
計測対象内における感温磁性体の分量や配置された位置が不明確な場合について説明する。まず、測定対象が無い状態で、ピックアップコイルの出力電圧が最小となるように駆動コイルとピックアップコイルとの相対的位置および相対的姿勢を調整し、固定する。この姿勢でのピックアップコイルの出力電圧をVminとする。以後の計測において、駆動コイルとピックアップコイルとの相対的な位置・姿勢を変えない。したがって、もし周囲に磁性体や金属が存在すると、駆動コイルから出る磁束ベクトルが変化し、ピックアップコイルの電圧値はVminより大きくなる。
【0082】
次に、感温磁性体を測定対象の測定したい部位(被計測部)に配置し、ピックアップコイルの出力電圧が最大となるように、感温磁性体を内部に配置した測定対象の位置及び姿勢を調整する。この姿勢でのピックアップコイルの出力電圧をVmaxとする。この作業により、測定対象内に配置された感温磁性体の位置・姿勢・質量に依存することなく、被計測部が目標温度に到達したことを検知できるようになる。
【0083】
感温磁性体の周囲の温度が上昇すると、感温磁性体も同様に温められる。やがて感温磁性体の温度はキュリー点に到達し、感温磁性体の透磁率は減少する。その結果、磁束ベクトルの変化量は減少し、ピックアップコイルの出力はVminに近づくことになる。
【0084】
被計測部が目標温度に到達したことを検知する計測アルゴリズムの一例を以下に示す。上記したVmin及びVmaxを用いることで、図9に示す様に、任意の定数kを用いた下記計算式から、感温磁性体がキュリー点(Tc)に達したときのピックアップコイルの電圧値(V)を求めることができ、ピックアップコイルの電圧値を計測することで、被計測部が目標温度に到達したことを検知できる。
計算式:V=(Vmax−Vmin)×k+Vmin
ここで、定数k(0<k<1)は、被計測部(及びその周囲)の熱容量、感温磁性体の量、駆動コイルとピックアップコイルの相対的な位置および姿勢によって決まる値であるが、実験的に求めることも可能である。また、加熱過程におけるピックアップコイルの電圧値をリアルタイムに時間微分することで、ピックアップコイルの電圧値の変化量の最大値から、被計測部が目標温度に到達したことを検知することもできる。
【0085】
感温磁性体と一緒に他の磁性材料または金属材料を併用することで、誘導加熱による発熱効率を向上させた状態で、被計測部が目標温度に到達したことを検知することもできる。この場合、併用した他の材料により磁束ベクトルが曲げられるためピックアップコイルの電圧値にバイアスが生じ、被計測部が目標温度に到達して感温磁性体のキュリー点に到達しても、ピックアップコイルの電圧値はVminまで低下しない。しかし、感温磁性体の透磁率の低下による磁束ベクトルの変化分、つまりピックアップコイルの電圧値の変化量は(駆動コイル、ピックアップコイルおよび他の材料との相対的な位置および姿勢が一定であれば)常に一定であるため、ピックアップコイルの電圧値の変化量から被計測部が目標温度に到達したことを検知することができる。
【0086】
以上、現時点において実践的で好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではない。請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能である。そのような変更を伴う温度計測システム及び温度計測方法も本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0087】
1 感温磁性体
2 駆動コイル(磁場発生源)
3 ピックアップコイル(磁気センサ)
4 交流電源
5 電圧計
6 リファレンスコイル
7 ロックインアンプ
8 発振器
9 電力増幅器
10、20、30 温度計測システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測部に配置される、任意のキュリー点を有する感温磁性体と、
前記被計測部から離れた場所で磁場を発生させる磁場発生源と、
前記感温磁性体の温度に依存して変化する前記磁場の磁束ベクトルを検知する、複数の磁気センサと、を備えており、
前記複数の磁気センサは、前記感温磁性体と前記磁場発生源との間に備えられるとともに、計測時には前記磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定されており、
前記複数の磁気センサによって、少なくとも2軸方向で前記磁束ベクトルの変化を検知することができる、温度計測システム。
【請求項2】
前記磁気センサがコイルである、請求項1に記載の温度計測システム。
【請求項3】
前記磁場発生源から発生される前記磁場の磁束の方向と、前記磁気センサが検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向とが、直交するように前記磁場発生源および前記複数の磁気センサが配設されている、請求項1または2に記載の温度計測システム。
【請求項4】
前記複数の磁気センサが、前記磁場の磁束の方向に対して直交する方向の面内に配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の温度計測システム。
【請求項5】
前記複数の磁気センサが、それぞれ前記磁場発生源から等距離になるように配置されている、請求項1〜4のいずれかに記載の温度計測システム。
【請求項6】
電気的に直列に接続された2つの前記磁気センサを有する第1磁気センサ対と、電気的に直列に接続された他の2つの前記磁気センサを有する第2磁気センサ対と、を備えている、請求項1〜5のいずれかに記載の温度計測システム。
【請求項7】
前記第1磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサは、対向して設けられるとともに、それぞれ検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が前記磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢であり、
前記第2磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサは、対向して設けられるとともに、それぞれ検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が前記磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢であり、
前記第1磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサの配列方向と、前記第2磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサの配列方向とが直交している、請求項6に記載の温度計測システム。
【請求項8】
前記第1磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち一方と、前記第2磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち一方とが、検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置され、前記第1磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち他方と、前記第2磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち他方とが、検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置されている、請求項6に記載の温度計測システム。
【請求項9】
前記複数の磁気センサからの信号を検出するロックインアンプと、前記ロックインアンプに参照信号を入力するリファレンスコイルと、を備えている、請求項1〜8のいずれかに記載の温度計測システム。
【請求項10】
少なくとも前記磁場発生源と前記複数の磁気センサとが一体の装置である、請求項1〜9のいずれかに記載の温度計測システム。
【請求項11】
任意のキュリー点を有する感温磁性体を被計測部に配置するとともに、前記被計測部から離れた場所に設置された磁場発生源から磁場を発生させ、
前記感温磁性体および前記磁場発生源の間に、前記磁場発生源との相対的な位置および姿勢が固定された複数の磁気センサを配置し、
前記感温磁性体の温度に依存して変化する前記磁場の磁束ベクトルの変化を、前記複数の磁気センサによって、少なくとも2軸方向で検知することにより、前記被計測部の温度を計測する温度計測方法。
【請求項12】
前記磁気センサとしてコイルを用いる、請求項11に記載の温度計測方法。
【請求項13】
前記磁場発生源から発生される前記磁場の磁束の方向と、前記磁気センサが検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向とが、直交するように前記磁場発生源および前記複数の磁気センサを配置する、請求項11または12に記載の温度計測方法。
【請求項14】
前記磁場の磁束の方向に対して直交する方向の面内に前記複数の磁気センサを配置する、請求項11〜13のいずれかに記載の温度計測方法。
【請求項15】
前記複数の磁気センサが、それぞれ前記磁場発生源から等距離になるように配置する、請求項11〜14のいずれかに記載の温度計測方法。
【請求項16】
電気的に直列に接続された2つの前記磁気センサを有する第1磁気センサ対と、電気的に直列に接続された他の2つの前記磁気センサを有する第2磁気センサ対と、を用いる、請求項11〜15のいずれかに記載の温度計測方法。
【請求項17】
前記第1磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサを、対向させるとともに、それぞれ検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が前記磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢となるように設け、
前記第2磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサを、対向させるとともに、それぞれ検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が前記磁場の磁束の方向に対して直交する姿勢となるように設け、
前記第1磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサの配列方向と、前記第2磁気センサ対に備えられる2つの前記磁気センサの配列方向と、が直交するように前記第1磁気センサ対および前記第2磁気センサ対を配置する、請求項16に記載の温度計測方法。
【請求項18】
前記第1磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち一方と、前記第2磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち一方とを、検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置し、
前記第1磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち他方と、前記第2磁気センサ対が有する2つの前記磁気センサのうち他方とを、検知できる前記磁束ベクトルの変化の方向が直交する姿勢で略同位置に配置する、請求項16に記載の温度計測方法。
【請求項19】
前記複数の磁気センサからの信号の検出にロックインアンプを用い、前記ロックインアンプの参照信号として、リファレンスコイルからの信号を用いる、請求項11〜18のいずれかに記載の温度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−27527(P2011−27527A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173062(P2009−173062)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)