説明

感熱型平版印刷版

【課題】十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性(耐地汚れ性)が改善された、感熱型平版印刷版を提供することを目的とする。
【解決手段】耐水性支持体上に水溶性高分子化合物と熱可塑性樹脂を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高いことを特徴とする感熱型平版印刷版によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型平版印刷版に関し、従来のアブレーション方式や機上現像方式等の層除去処理を必要としない、感熱型平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター及びその周辺機器の発展により各種デジタルプリンタを用いた平版印刷版の製版方法が各種提案されている。例えば、特開平6−138719号公報、特開平6−250424号公報には、乾式電子写真法レーザープリンタにより製版するもの、特開平9−58144号公報には、熱溶融型インクを用いたオンデマンドインクジェットプリンタにより製版するもの、更に、特開昭63−166590号公報には熱転写インクリボンを用いたサーマルプリンタにより製版するもの等が知られている。
【0003】
上記のようなプリンタを用いた製版方法は、従来の可視光レーザー等を用いた光モードタイプとは大別され、取り扱い上において安全光の制約を受けないと言う利点を持つ。また、従来の光モードタイプにおいて通常用いられる露光後の現像処理を必要としない点から、これらの製版方式で製版される印刷版はプロセスレス印刷版と総称されている。
【0004】
しかし上記プロセスレス印刷版は、いずれも保水性付与層が設けられた支持体表面に感脂性(即ち、平版印刷インク着肉性)の記録画像を転写付与することにより印刷版を形成する方式であるため、次のような問題点があった。
【0005】
1)画像を形成する層が親水性であるためトナーやインク等の付着が十分ではなく、例えば転写トナー画像濃度が不足したり、転写画像に白抜けが発生したりするような問題。
2)転写画像の定着が十分ではなく、耐刷性が低下し、特に小ポイント文字の一部や低網点画像に欠落が生じるような問題。
3)非画像部に少量のトナーが不規則に転写されたり、熱転写インクリボンが擦れたりすること等によって、全体的に薄い地汚れが発生する等の問題。
【0006】
一方、支持体上に熱可塑性樹脂あるいは熱溶融性物質を含有する画像形成層を設け、サーマルヘッドや赤外線レーザー等で加熱印字することで親油性の画像部が得られるプロセスレス印刷版等も提案されている。
【0007】
例えば、特開昭58−199153号公報(特許文献1)、あるいは特開昭59−174395号公報(特許文献2)には、画像形成層に熱転写リボン等を介さずサーマルヘッド等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。特開2000−190649号公報(特許文献3)、特開2000−301846号公報(特許文献4)には、赤外線レーザー等で加熱描画することで親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。通常の平版印刷では、上記のように得られた親油性の画像部に水とインキの両方が同時に供給され、該画像部は着色性のインキを受理、他の非画像部は親水性のため水を選択的に受け入れ、該画像上に受理したインキを、例えば、紙等の被印刷体に転写させることによって印刷がなされている。
【0008】
しかし、これらの感熱型平版印刷版は一般に、画像部と非画像部との親油性/親水性の差が十分でなかったため、鮮明な印刷画像を得難く、耐刷性が不十分であったり、地汚れが発生しやすいという問題を有していた。
【0009】
鮮明な高い画像濃度が得られる感熱型平版印刷版として、画像形成層に無機顔料、熱可塑性樹脂及び熱溶融性物質を含有する方法が特開昭63−64747号公報(特許文献5)で提案されている。また前述の特許文献3、特許文献4に記載される感熱型平版印刷版は、画像部の親油性と非画像部の親水性のバランスを改善するため、親油性を発現する熱溶融性物質を特定の熱伝導率を有する物質でコーティングする方法や、熱によるキレート反応を利用して親水性ポリマーの親水基を疎水化する技術も合わせて開示されている。しかしながら、いずれも反応の制御が難しく、画像部と非画像部との親油性/親水性の差が十分でないため、やはり耐刷性が不十分であったり、地汚れが発生しやすいという問題が残った。
【0010】
また、耐刷性や地汚れといった問題に対しては、特開平11−95417公報(特許文献6)では、画像形成層にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の親水性樹脂を架橋して用いることで耐刷性や保水性を改善されることが記載されているが、親水性樹脂自体の相変換を利用するものであるので、画像部の親油化のレベルが低く、親油性/親水性の差が十分ではなかった。特開2000−75471号公報(特許文献7)では、疎水性発生物質に熱可塑性樹脂、ワックス分散物、撥水剤等を用い、親水性物質にゼラチンやポリビニルアルコール等を用いることで、特に耐水性、印刷再現性等を向上させたとあるが、これも親油性/親水性の差が十分ではなかった。
【0011】
一方、特開2000−238451号公報(特許文献8)では、支持体上に光熱変換物質、熱可塑性樹脂粒子及び樹脂粒子隔離物質を含有する画像形成層を有し、該光熱変換物質の含有比率が膜厚方向に勾配を有することで、耐刷性を高める技術が紹介されているが十分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭58−199153号公報
【特許文献2】特開昭59−174395号公報
【特許文献3】特開2000−190649号公報
【特許文献4】特開2000−301846号公報
【特許文献5】特開昭63−64747号公報
【特許文献6】特開平11−95417号公報
【特許文献7】特開2000−75471号公報
【特許文献8】特開2000−238451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性(耐汚れ性)が改善された、アブレーション方式や機上現像方式等の層除去処理を必要としない、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は下記の手段によって解決された。
(1)耐水性支持体上に水溶性高分子化合物と熱可塑性樹脂を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版。
(2)前記画像形成層(A)と画像形成層(B)の、水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率の差が、0.5以上である(1)記載の感熱型平版印刷版。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性(耐地汚れ性)が改善された感熱型平版印刷版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において上記した解決手段によって、良好な耐刷性と耐地汚れ性が得られるという理由については定かではないが、以下のように推測している。
【0017】
本発明の感熱型平版印刷版は、耐水性支持体上に熱による相変換を利用し疎水性に変換する画像形成層を有している。ここで疎水性へ変換する層とは、熱が加わるとその層の一部が溶融し疎水性へと変換するもので、熱が与えられない部分は元の層が有する親水性を保持している。より具体的には、熱が加わると画像形成層の一部が溶融し疎水性へと変換する際に、水溶性高分子化合物に埋もれている熱可塑性樹脂が層の表面に滲出することで疎水性が発現する。一方、印字されなかった部分、即ち非画像部の熱可塑性樹脂は水溶性高分子化合物に埋もれたままであるので疎水性を発現しない。このようにして画像部と非画像部の疎水性/親水性の差が生じる感熱型平版印刷版の耐刷性と耐地汚れ性の改善には、印刷中においてもこの差を十分に維持することが重要である。本発明は、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率を少なくする事によって、表面の親水性が増し印刷時の保水性の向上が改善されると同時に、これにより低下した親油性を、画像形成層(B)よりも熱可塑性樹脂の比率が高く、且つ耐水性支持体に近い画像形成層(A)を設けることによって、画像形成時に熱可塑性樹脂を十分に表面に滲出させることが可能となり、高い耐刷性と耐地汚れ性が両立できるものと推測される。
【0018】
本発明の耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版を作製する方法に制限はないが、例えば、画像形成層(A)を塗布し、次に画像形成層(B)を順次塗布して重ねていく方法や、スライドホッパー方式で多層を同時に塗布する方法等がある。
【0019】
本発明において耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高くなるように構成すればどのような比率でも良いが、画像形成層(A)の比率と画像形成層(B)の比率との差が0.5以上であることが好ましい。
【0020】
本発明において画像形成層を3層設ける場合、画像形成層(A)と画像形成層(B)の間に位置する画像形成層(C)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率は、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)よりも高くても低くても良いが、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の比率よりも低く、画像形成層(B)の比率よりも高いことが好ましい。
【0021】
耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率(熱可塑性樹脂の質量/水溶性高分子化合物の質量)には好ましい範囲があり、0.01〜10であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜3である。また耐水性支持体に近い画像形成層(A)における比率にも好ましい範囲があり、0.1〜50であることが好ましく、更に好ましくは1〜20である。
【0022】
本発明の感熱型平版印刷版の画像形成層には、熱可塑性樹脂を含有する。かかる熱可塑性樹脂としては、鎖状ポリマーからなり加熱によって可塑性を示す固体状の有機高分子化合物であって、有機高分子化合物の水分散体を指す。代表例はスチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体、スチレンメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた合成ゴムラテックスが好ましく用いられるが、スチレン無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル/アクリル酸エステル共重合体、及び低融点ポリアミド樹脂等の水分散体も使用可能である。これら熱可塑性樹脂は単独もしくは2種以上併用して用いることができる。印刷インクのビヒクル(バインダー成分)との親和性から、かかる熱可塑性樹脂としては合成ゴムラテックスが好ましく、特にスチレンブタジエン共重合体とその変性物が望ましい。好ましい熱可塑性樹脂の配合量としては、全ての画像形成層の固形分量に対して5〜50質量%とすることが好ましい。
【0023】
また熱による溶融、融着効果を発現しやすくするためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50〜150℃、更に好ましくは55〜120℃のものを使用するのが良い。ガラス転移温度が50℃未満では製造工程中に液状に相変化を起こし、非画像部にも親油性が発現するため印刷地汚れの原因となる場合がある。また150℃を超える場合はポリマーの熱溶融が起こりにくく、比較的小出力のレーザーや小型サーマルプリンタでは強固な画像を形成するのが困難となる場合がある。
【0024】
本発明の感熱型平版印刷版の画像形成層には、水溶性高分子化合物を含有する。かかる水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉及びその誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、スチレン・マレイン酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独使用でも2種類以上の併用でも良く、特に皮膜形成に富むゼラチンやポリビニルアルコールとその変性物が非画像部の親水性保持に好ましく選択される。かかる水溶性高分子化合物の配合量は画像形成層の全固形分量に対して0.5〜50質量%が好ましい。
【0025】
また非画像部の耐水性及び機械的強度を向上させるため、画像形成層は前記水溶性高分子化合物の種類に応じて硬膜剤(耐水化剤)を含有することが好ましい。硬膜剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等、樹脂の架橋を促すことによって耐水性を付与するものを用いることができるが、特に好ましい硬膜剤はゼラチンの場合ジビニルスルホンが、ポリビニルアルコールの場合グリオキザールが好ましく用いられる。硬膜剤の配合量は全画像形成層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量に対して、0.01〜30質量%とすることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。
【0026】
本発明の画像形成層には熱溶融性物質を含有することができ、耐刷性の観点からより、好ましい形態の1つである。含有する熱溶融性物質としては、融点が50〜150℃の有機化合物であることが好ましく、熱溶融性物質の融点が50℃未満では製造工程中に溶融してしまい印刷物の地汚れの原因となる場合があり、一方150℃を超えるとサーマルヘッド等の熱印加で溶融しにくく、親油性の発現が乏しい場合がある。好ましく使用される熱溶融性物質としては、例えば、カルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどのワックス類、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸などの脂肪酸、及びそのエステル、アミド類が挙げられ、その他、1−(1−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン、1−(2−ナフトキシ)−4−フェノキシブタン、1−(2−イソプロピルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン、1−(4−メチルフェノキシ)−3−(2−ナフトキシ)プロパン、1−(2−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン、1−(3−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン、1−(2−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン、1−(2−ナフトキシ)−6−フェノキシヘキサン、1−フェノキシ−2−(2−フェニルフェノキシ)エタン、1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−フェニルフェノキシ)エタン、1,4−ジフェノキシブタン、1,4−ビス(4−メチルフェノキシ)ブタン、1,2−ジ(3,4−ジメチルフェノキシ)エタン、1−フェノキシ−3−(4−フェニルフェノキシ)プロパン、1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン、1,2−ジフェノキシエタン、1−(4−メチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン、1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン、1−(3,4−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン、1−(4−エチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン、1−(4−イソプロピルフェノキシ)−2−フェノキシエタン、1,2−ビス(2−メチルフェノキシ)エタン、1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン、1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−(2−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン、1−(3−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン、1−(4−エチルフェノキシ)−2−(3−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ビス(4−メチルフェノキシ)エタン、1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン、1−(2,5−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン、フェノキシ酢酸−2−ナフチル、2−ナフトキシ酢酸−4−メチルフェニル、2−ナフトキシ酢酸−3−メチルフェニル、1−ベンジルオキシナフタレン、2−ベンジルオキシナフタレン、2−p−クロロベンジルオキシナフタレン、2−p−イソプロピルベンジルオキシナフタレン、2−ドデシルオキシナフタレン、2−デカノイルオキシナフタレン、2−ミリストイルオキシナフタレン、2−p−tert−ブチルベンゾイルオキシナフタレン、2−ベンゾイルオキシナフタレン、2−ベンジルオキシ−3−N−(3−ドデシルオキシプロピル)カルバモイルナフタレン、2−ベンジルオキシ−3−N−オクチルカルバモイルナフタレン、2−ベンジルオキシ−3−ドデシルオキシカルボニルナフタレン、2−ベンジルオキシ−3−p−tert−ブチルフェノキシカルボニルナフタレン、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)、シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)、シュウ酸ビス(2−フェノキシエチル)、シュウ酸ビス(2−o−クロロフェノキシエチル)、シュウ酸ビス(2−p−クロロフェノキシエチル)、シュウ酸ビス(2−p−エチルフェノキシエチル)、シュウ酸ビス(2−m−メトキシフェノキシエチル)、シュウ酸ビス(2−p−メトキシフェノキシエチル)、シュウ酸ビス(4−フェノキシブチル)、1,2−ジフェノキシメチルベンゼン、1,3−ジフェノキシメチルベンゼン、1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(4−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(2,6−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼン、1,2−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン、1,2−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を併用して用いても良い。
【0027】
これらの熱溶融性物質は、常温で固体の物質であるが、熱による反応性を高めるために、微分散処理を行って使用されることが好ましい。微分散処理の方法は、一般に塗料製造時に用いられる湿式分散法であるロールミル、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等のビーズミル等を使用することができる。ビーズミルでは、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のセラミックビーズや、クロム、スチール等の金属ビーズ、ガラスビーズ等が使用できる。分散粒径はメジアン径で0.1〜1.2μmが望ましく、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。なお、メジアン径とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)であり、粒度分布を評価するパラメータの一つとしてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA920((株)堀場製作所製)等を用いて測定することができる。
【0028】
本発明の感熱型平版印刷版では、視認性確保のため一般的な感熱記録紙、感圧記録紙に使用されるフェノール誘導体や芳香族カルボン酸誘導体等の顕色剤や発色剤(電子供与性染料前駆体)を含有させることができる。
【0029】
顕色剤の具体的な例としては、4−クミルフェノール、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4,4′−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(4−ヒドロキシフェニルチオエトキシ)メタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィン、4−ヒドロキシ−4′−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシフェニル−4′−ベンジルオキシフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−3′,4′−テトラメチレンビフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシフェニル−p−トリルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、N,N′−ジ−m−クロロフェニルチオ尿素、N−(フェノキシエチル)−4−ヒドロキシフェニルスルホンアミド等のフェノール性化合物、4−〔3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ〕サリチル酸亜鉛、4−〔2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ〕サリチル酸亜鉛、5−〔p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル〕サリチル酸亜鉛、p−クロロ安息香酸亜鉛等の芳香族カルボン酸の亜鉛塩、更にはチオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体等の有機酸性物質等が例示される。
【0030】
また、発色剤(電子供与性染料前駆体)の具体的な例としては、(1)トリアリールメタン系化合物として3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(クリスタル・バイオレット・ラクトン)、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−フェニルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−p−ジメチルアミノフェニル−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等:(2)ジフェニルメタン系化合物として、4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等:(3)キサンテン系化合物として、ローダミンB−アニリノラクタム、ローダミンB−p−ニトロアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタム、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−オクチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(3,4−ジクロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(2−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−フェニチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(4−ニトロアニリノ)フルオラン等:(4)チアジン系化合物として、ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等:(5)スピロ系化合物として、3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3′−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチルナフト−(3−メトキシ−ベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等が挙げられる。また、これらは単独でも2種以上を併用して用いても良い。
【0031】
更に、本発明では光熱変換物質を配合することもできる。光熱変換剤を用いることで、サーマルヘッドだけでなく赤外線レーザー等の活性光による書き込みも可能となる。光熱変換物質の例としては、効率よく光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合には、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えば、カーボンブラック、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物や、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等の金属化合物類等が挙げられる。
【0032】
本発明の感熱型平版印刷版が有する画像形成層は、画像部の耐刷性、非画像部の耐水性及び機械的強度の観点から、乾燥固形分として0.5〜30g/mであることが好ましい。
【0033】
本発明の感熱型平版印刷版に用いる耐水性支持体としては、プラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙等が使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムとこれらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂等の湿潤紙力剤によって耐水化された紙を好適に用いることができる。
【0034】
次に、上述した本発明の感熱型平版印刷版を用いた製版方法について説明する。本発明の感熱型平版印刷版は、感熱型の画像形成層を有するため、画像形成層中に光熱変換物質を配合することにより例えば760nmから1200nmの赤外光を含む光を照射することで画像部を形成することが可能であり、更に赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーにより画像部を形成することが好ましい。特にレーザー露光によれば、コンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。またサーマルヘッドやヒートブロック等により画像形成層を直接熱により描画し画像部を形成することも可能であるが、サーマルヘッドによればコンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。
【0035】
サーマルヘッドを使用する場合は、厚膜または薄膜のラインヘッドを用いたラインプリンタや薄膜のシリアルヘッドを用いたシリアルプリンタ等が使用できる。記録エネルギー密度は、10〜100mJ/mmであることが好ましく、また比較的高品質な出力画像を得るためにはヘッドの画像記録密度が300dpi以上であることが好ましい。
【0036】
本発明の感熱型平版印刷版は、従来の平版印刷版で好適に用いられてきた任意公知の表面処理剤でインキ受容性に変換ないしは受容性を改善させることも可能である。印刷方法、あるいは使用する不感脂化液、給湿液等は普通に良く知られた方法により施すこともできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。なお、以下の記述中、%や部は特に示さない限り質量比を示すものである。
【0038】
(実施例1)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン被覆紙の片面に、下記画像形成層塗工液a処方で表1の如く1層目(画像形成層(A))、2層目(画像形成層(B))の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量1層目30g/m、2層目10g/mとなるように同時塗布した後、乾燥し画像形成層を作製し、サンプルNo.1〜13の感熱型平版印刷版を得た。
<画像形成層塗工液a>
水溶性高分子化合物
ゼラチン X kg
熱可塑性物質
カルボキシル化SBR樹脂:ラックスター7132C 固形分として Y kg
(DIC(株)製、固形分45%水分散体)
界面活性剤
NIKKOL OTP−75 固形分として 0.25g
(日光ケミカルズ(株)製)
硬膜剤
1,3−ビス(ビニルスルホニル)−2−プロパノール 固形分として 0.15kg
発色剤混合スラリー 固形分として 2.1kg
水で全量を50kgに調製した。
【0039】
上記画像形成層塗工液に用いる発色剤混合スラリーは予め下記構成により調製した。
<発色剤混合スラリーの調製>
材料a:1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(三光(株)製:KS−232)
材料b:4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン
(日本曹達(株)製:D−8)
材料c:3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン
(山本化成(株)製:ODB2)
【0040】
材料a、b、cを予め、個々に小型ダイノーミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて任意の粒径まで微分散処理を施し、固形分濃度約30%に調製された分散液をそれぞれ作製し、分散液a、分散液b、分散液cとした。分散液a、b各々3部に対し、分散液c1部を常温下で混合することで発色剤混合スラリーを調製した。
【0041】
【表1】

【0042】
また比較として、両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン被覆紙の片面に、下記画像形成層塗工液b処方の如く作製した塗工液を、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量60g/mで塗布し乾燥して、サンプルNo.14の感熱型平版印刷版を得た。
【0043】
<画像形成層塗工液b>
水溶性高分子化合物
ゼラチン 1.25kg
熱可塑性物質
カルボキシル化SBR樹脂:ラックスター7132C 固形分として 1.8kg
(DIC(株)製、固形分45%水分散体)
界面活性剤
NIKKOL OTP−75 固形分として 0.25g
(日光ケミカルズ(株)製)
硬膜剤
1,3−ビス(ビニルスルホニル)−2−プロパノール 固形分として 0.15kg
発色剤混合スラリー 固形分として 2.1kg
水で全量を50kgに調製した。
【0044】
このように作製した感熱型平版印刷版に、ダイレクトサーマルプリンタ(東芝テック(株)製バーコードプリンタB−433:ライン型サーマルヘッド300dpi)のテスト印字モード(印刷速度2インチ/sec、印加エネルギー18.6mJ/mm)で画像を記録し、印刷版を作製した。
【0045】
印刷評価として耐刷性については、印刷機はHAMADAH234C(ハマダ印刷機(株)製オフセット印刷機の商標)を使用し、インキはニューチャンピオンFグロス墨N(DIC(株)製の商標)、給湿液はSLM−OD(三菱製紙(株)製給湿液の商標)の12%水溶液を使用し、印刷開始前に給湿液にて版面をくまなく拭き与えた後、強制条件で評価をするために、版胴と版の間に0.1mmのゲージフィルムを挟み、印圧を上げた状態で印刷を開始した。印刷物の画像に欠落を生じ印刷できなくなった枚数を下記評価基準で評価した。
<耐刷性>
◎:5,000枚以上
○:3,000〜5,000枚未満
△:1,000〜3,000枚未満
×:1,000枚未満
結果を表2に示す。
【0046】
保水性(地汚れ性)についての印刷評価は、印刷機はRyobi3200CD(リョービイマジクス(株)製の商標)を使用し、インキはニューチャンピオン紫68N(DIC(株)製の商標)、給湿液はSLM−OD(三菱製紙(株)製給湿液の商標)2%水溶液を使用し印刷開始前に給湿液にて版面をくまなく拭き与えた後印刷を開始した。印刷物の非画像部に汚れ(地汚れ)が発生した枚数を下記評価基準で評価した。
<地汚れ性>
◎:2,000枚以上
○:1,500〜2,000枚未満
△:1,000〜1,500枚未満
×:1,000枚未満
結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示す結果から判るように、本発明は比較例と比べて十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性が改善された感熱型平版印刷版であることが判る。
【0049】
(実施例2)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン被覆紙の片面に、下記画像形成層塗工液c処方で表3の如く1層目の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量20g/mで塗布し乾燥後、更に画像形成層塗工液c処方で表3の如く2層目の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量20g/mで塗布、乾燥し、更に画像形成層塗工液c処方で表3の如く3層目の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量20g/mで塗布、乾燥して画像形成層を作製し、サンプルNo.15〜18の感熱型平版印刷版を得た。このとき使用した発色剤混合スラリーは、前記したサンプルNo.1のものと同じものを使用した。比較として、前記サンプルNo.14の感熱型平版印刷版を使用した。このように作製した感熱型平版印刷版を、実施例1と同様にして印刷・評価を行った。結果を表4に示す。
<画像形成層塗工液c>
水溶性高分子化合物
ゼラチン X kg
熱可塑性物質
カルボキシル化SBR樹脂:ラックスター7132C 固形分として Y kg
(DIC(株)製、固形分45%水分散体)
熱溶融物質
モンタン酸エステルワックス:ハイドリンJ−537 固形分として 0.45kg
(中京油脂(株)製、固形分30%水分散体)
界面活性剤
NIKKOL OTP−75 固形分として 0.25g
(日光ケミカルズ(株)製
硬膜剤
1,3−ビス(ビニルスルホニル)−2−プロパノール 固形分として 0.15kg
発色剤混合スラリー 固形分として 2.1kg
水で全量を50kgに調製した。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表4に示す結果から判るように、本発明は比較例と比べて十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性が改善された感熱型平版印刷版であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性支持体上に水溶性高分子化合物と熱可塑性樹脂を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版。
【請求項2】
前記画像形成層(A)と画像形成層(B)の、水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率の差が、0.5以上である請求項1記載の感熱型平版印刷版。

【公開番号】特開2011−88386(P2011−88386A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244670(P2009−244670)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】