感熱応答性ポリマーのゾル−ゲル相変化時の体積変化を用いた溶液噴出・吸引用プローブ型装置及び技術

【目的】 感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を駆動源として用いることにより、作製が容易でディスポーザブルに使用でき、微少量の溶液の噴出及び吸引が可能であるプローブ型装置を提供する。
【構成】 温度応答性のゾル−ゲル相変化を示す感熱応答性ポリマー溶液をマイクロピペット内に封入し、ヒータによる温度制御を用いることにより、感熱応答性ポリマー溶液の相変化時に伴う体積変化を駆動源として、マイクロピペット先端部分に封入した液体の微少量の噴出及び吸引を行うことができる技術及び装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロピペットによる微少量溶液の噴出及び吸引を行う技術及び装置に関する。この装置は感熱応答性ポリマー溶液を用いるものであり,感熱応答性ポリマー溶液のゾル−ゲル相変化時に伴う体積変化を駆動源として用いることで、微少量の溶液を駆動させるために用いられる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、少量の液体をピペット採取できるマイクロメカニカルピペット装置が提案された。この発明ではシリコンウエーハ上に構成されたピペットモジュール内の膜の変位によって空気または液体を吸引または排出することを特徴とする。
マイクロピペット内の溶液を駆動させる方法は、その他にも圧電素子を用いた方法が提案されている(特許文献2、3参照)。特許文献2では、圧電素子の駆動によりマイクロピペット内の流体を駆動するようにしたものである。特許文献3では、複数の圧電素子を用いてサブpl〜flオーダーの微少量の溶液の吐出する手法を提案した。
また、特許文献4では、シリンジを用いてマイクロピペット内部に正圧及び負圧与え、ミクロンサイズ以下の液滴を形成する手法を提案した。
特許文献5では、熱膨張部材を用いてダイヤフラムを駆動させ、その駆動量分だけ液体を吐き出させるように構成したマイクロピペットを提案した。
【0003】
【特許文献1】特開平10−318150号公報
【特許文献2】特開平8−290377号公報
【特許文献3】特開2007−209888号公報
【特許文献4】特開平10−314654号公報
【特許文献5】特開平9−108579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞操作・解析におけるマイクロピペットによる溶液噴出・吸引は、細胞の大きさから考え、ピコリットルからナノリットルオーダーの微少量の溶液を噴出及び吸引できることが必要である。また、培地へのコンタミネーションを防ぐために、通常マイクロピペットは使い捨てであり、そのためより容易に、かつ低コストで作製及び使用できるマイクロピペットを必要とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、次なる構成の本発明に想到した。
即ち、温度応答性のゾル−ゲル相変化を示す感熱応答性ポリマー溶液が相変化する際に発生する微小体積変化を駆動源とすることにより、ピコリットルからナノリットルオーダーの液体を噴出または吸引させることを特徴とする技術。
【発明の効果】
【0006】
上記のように作製されたマイクロピペットによれば、ヒータの電源操作のみで微少量の溶液を容易に噴出または吸引することができる。また、通常のマイクロピペットを用いて容易に、かつ低コストでの作製が可能であり、ディスポーザブルに使用が可能である。
また、マイクロピペット内に封入する感熱応答性ポリマー溶液の量を制御することにより、溶液の噴出または吸引量を制御することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を利用した溶液噴出・吸引用プローブ型装置の構成を図1に示す。駆動源となる感熱応答性ポリマー溶液は濃度の変化を避けるため、プローブ先端の溶液と油によって仕切られている。
【0008】
感熱応答性ポリマー溶液のゾル−ゲル相変化を発生させるため、感熱応答性ポリマー溶液が封入されたプローブはヒータと接続されている。
【0009】
感熱応答性ポリマー溶液への熱伝導率を高めるため、プローブ後端から同線が感熱応答性ポリマー溶液内へ挿入されている。
【0010】
プローブの後端部分をシーリングすることにより、感熱応答性ポリマー溶液の体積変化をプローブ先端部分へと伝える。
【実施例】
【0011】
次に、上記の感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を利用したプローブ型装置による溶液噴出を確認するための実施例について説明する。
感熱応答性ポリマー溶液として、実験対象物は10wt%N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)を用いた。この溶液は32℃以上でゲル化、32℃以下でゾル化する可逆性のゾル−ゲル相変化を示す感熱応答性ポリマー溶液である。
【0012】
マイクロピペットは内径約3μmのものを使用し、マイクロピペットには約2μlのPNIPAAm溶液を封入した。また、溶液の噴出を確認し易くするため、マイクロピペット先端部にはコンゴーレッドにより赤色に染色した水を封入した。
【0013】
上記のように作製したプローブ型装置を液槽内に挿入し、マイクロピペット内の感熱応答性ポリマー溶液をゲル化させるため、マイクロピペットに接続したセラミックヒータには直流電圧20Vを印加した。
【0014】
上記のプローブ型装置を液槽内に挿入したときの顕微鏡写真を図2(a)に示す。さらに、ヒータに電圧を印加した後の顕微鏡写真を図2(b)に示す。このように、液槽内に挿入したプローブ型装置から溶液が噴出された。
【0015】
感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を利用した溶液噴出・吸引用プローブ型装置を用いた溶液噴出量の計測を実施した例を説明する。
【0016】
マイクロピペットは内径約5μmのものを3本使用し、各マイクロピペットにはそれぞれ約1.4μ、2.0μl、2.8μlのPNIPAAm溶液を封入した。また、溶液の噴出速度を計測するため、マイクロピペット先端部には直径約1.5μmのマイクロビーズを混入した溶液を封入した。
【0017】
上記のように作製したプローブ型装置を液槽に挿入し、感熱応答性ポリマー溶液をゲル化させるため、セラミックヒータに直流電圧15Vプローブを印加した。
【0018】
上記のプローブ型装置について先端から噴出してくるマイクロビーズの速度を計測し、噴出量を算出した。その結果を図3に示す。
【0019】
温度応答性ポリマー溶液の体積変化を用いたプローブ型装置における温度応答性ポリマーの体積変化の計測を実施した例を示す。
【0020】
内径約5μmのマイクロピペットを用い、水約9μl、流動パラフィン約0.8μl、温度応答性ポリマー溶液PNIPAAm約2.0μlを封入し、温度応答性ポリマー溶液の体積変化を用いたプローブ型装置を作製した。
【0021】
上記のプローブ型装置について、ヒータに直流電圧15Vを180秒間印加し温度応答性ポリマー溶液PNIPAAmをゲル化させ、その後印加電圧を切り180秒間自然冷却を行い、ゲル化している温度応答性ポリマーをゾル化させる過程を3回繰り返した。温度応答性ポリマーの封入量の増加にほぼ比例して上記プローブ装置からの噴出量も増加しており、プローブ装置内に封入する温度応答性ポリマーの量を制御することにより、溶液の噴出及び吸引量の制御が可能である。
【0022】
上記の過程において、先端部分の水と流動パラフィンの境界面を顕微鏡下で観察し、図4に示すように、その境界面の変位量を計測した。
【0023】
計測した上記境界面の変位量から、温度応答性ポリマーPNIPAAmの体積変化量を計算した。その結果を図5に示す。最初の180秒間の加熱における体積変化量は後の2回の180秒間の加熱と比べ、変位量が大きいが、これは最初の加熱のみが室温からの加熱であるためである。また、加熱時に体積が増加した後減少しており、冷却時には体積が減少した後増加しているが、これはマイクロピペットの材料であるガラスの熱変形による影響である。これより、上記のプローブ型装置を用いて安定した溶液量の噴出及び吸引を行うためには、予熱を行い、60秒程度でヒータの電源を操作することが望ましい。
【0024】
感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を用いたプローブ型装置によるマイクロビーズの操作を実施した例を示す。
【0025】
内径約23μmのマイクロピペットを用い、水約9μl、流動パラフィン約0.8μl、感熱応答性ポリマー溶液PNIPAAm約2μlを封入し、感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を用いたプローブ型装置を作製した。
【0026】
直径約10μmのマイクロビーズを純水中に分散させ、このビーズが分散した溶液を液槽内に入れた。
【0027】
液槽内に上記のプローブ型装置を挿入し、マイクロマニピュレータによって操作した。図6に実験装置の構成を示す。
【0028】
マイクロビーズにプローブを接近させたら予め直流電圧15Vを印加していたヒータの電源を切り、マイクロビーズの吸引を行った。図7(a)はプローブをマイクロビーズに接近させた時の顕微鏡写真、図7(b)はマイクロビーズを吸引した後の顕微鏡写真である。
【0029】
マイクロビーズの吸引後、マイクロマニピュレータによってプローブを移動させ、吸引したマイクロビーズを噴出するためにヒータに直流電圧15Vを印加した。図7(c)はマイクロピペットを移動させた後の顕微鏡写真、図7(d)はマイクロビーズ噴出後の顕微鏡写真である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を利用した溶液噴出・吸引用プローブ型装置の構成の例である。
【図2】図2は上記のプローブ型装置を用いて溶液を噴出したときの実験結果を示す。
【図3】図3は感熱応答性ポリマー溶液封入量に対する溶液噴出量の評価実験の実験結果を示す。
【図4】図4は感熱応答性ポリマーの体積変化量の評価実験の構成の例を示す。
【図5】図5は感熱応答性ポリマーの体積変化量の評価実験の実験結果を示す。
【図6】図6はマイクロビーズの操作実験を行う実験装置の構成の例を示す。
【図7】図7はマイクロビーズ操作実験の実験結果を示す。
【符号の説明】
【0031】
1 マイクロピペット
2 液体
3 油
4 感熱応答性ポリマー溶液
5 接着剤
6 銅線
7 ヒータ
8 感熱応答性ポリマー溶液の体積変化を利用した溶液噴出・吸引用プローブ型装置
9 噴出溶液
10 境界面の変位
11 マイクロビーズ
12 液槽
13 マイクロマニピュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロピペット内に、温度応答性のゾル−ゲル相変化を示す感熱応答性ポリマー溶液を入れ、ヒータを用いて感熱応答性ポリマー溶液のゾル−ゲル相変化を起こし、マイクロピペット内の溶液の噴出及び溶液の吸引を行う装置。
【請求項2】
マイクロピペット内に、温度応答性のゾル−ゲル相変化を示す感熱応答性ポリマー溶液を入れ、ヒータを用いて感熱応答性ポリマー溶液のゾル−ゲル相変化を起こし、マイクロピペット内の溶液の噴出及び溶液の吸引を行う技術。
【請求項3】
プローブ型装置とは、マイクロピペット、マイクロピペット内に封入した感熱応答性ポリマー溶液及びヒータにより構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
プローブ型装置とは、マイクロピペット、マイクロピペット内に封入した感熱応答性ポリマー溶液及びヒータにより構成される、ことを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
請求項1に記載されたプローブ型装置であって、プローブ先端部分の溶液と感熱応答性ポリマー溶液とを油により仕切り、感熱応答性ポリマー溶液の濃度を保持することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1に記載されたプローブ型装置であって、プローブ先端部分から溶液、油、感熱応答性ポリマー溶液の順に溶液が封入されることを特徴とする装置。
【請求項7】
感熱応答性ポリマー溶液とは、ある温度を境界としてゾルからゲル、またはゲルからゾルへと可逆性の相変化を示す材料である、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
感熱応答性ポリマー溶液とは、ある温度を境界としてゾルからゲル、またはゲルからゾルへと可逆性の相変化を示す材料である、ことを特徴とする請求項2に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56489(P2011−56489A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235711(P2009−235711)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(503416892)
【出願人】(506276099)
【出願人】(509281874)
【Fターム(参考)】