説明

感熱記録材料

【課題】耐熱性、滑り性、非粘着性、および基材シートに対する接着性、帯電防止効果などに優れるとともに、地球環境の観点からも二酸化炭素分を取り入れることにより温暖化ガス削減に寄与することによる環境対応製品としての感熱記録材料を提供すること。
【解決手段】基材シートと、該基材シートの一方の面に設けた感熱記録層と、サーマルヘッドが当接する他方の面に設けた耐熱保護層とからなる感熱記録材料において、上記耐熱保護層が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、ワックス類、高級脂肪酸のアミドまたはエステル、高級アルコールおよびリン酸エステルから選ばれる、加熱により溶融して滑性または離型性を発現する物質とを含む組成物からなることを特徴とする感熱記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録材料に関し、さらに詳しくは背面に形成された耐熱保護層が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、ポリエチレンワックス、パラフィンワックスのようなワックス類、高級脂肪酸のアミドまたはエステル、高級アルコールおよびリン酸エステルから選ばれる、加熱により溶融して滑性または離型性を発現する物質を配合した組成物からなり、熱溶融型熱転写方式や昇華型熱転写方式に有用である感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムなどの基材シートの一方の面に染料または顔料をバインダー樹脂などで担持させて感熱記録層(インク層)を形成し、その裏面からパターン状に加熱してインク層を被転写材に転写する熱溶融型感熱記録材料や、さらには染料として加熱昇華性の染料を使用し、同様に染料のみを被転写材に昇華転写する昇華転写記録材料が公知である。
【0003】
このような記録材料を用いる転写方法は、いずれも基材シートの裏面からサーマルヘッドにより熱エネルギーを付与する方式であるため、使用する感熱記録材料の基材シートの裏面がサーマルヘッドに対して充分な滑り性、剥離性および非粘着性などを有し、サーマルヘッドが裏面に粘着(スティッキング現象)しないことが要求されている。そのために、例えば、感熱記録材料の基材シートの裏面に、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、変性セルロース樹脂あるいはこれらの混合物からなる背面層を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0004】
上記感熱記録材料において耐熱性を有する背面の耐熱保護層を形成するために、前記の樹脂に各種架橋剤を使用して熱架橋させたり、これらの樹脂に無機フィラーやフッ素樹脂の粉末などを添加することなどが試みられている。これらは、耐熱性は得られるが、サーマルヘッドに対する滑り性や非粘着性が不十分である。唯一、シリコーン樹脂は滑り性と非粘着性とを具備しているが、該樹脂を完全に架橋させるための加熱工程は、薄膜(通常;2〜5μm厚)である基材シートに損傷を与えてしまうし、不完全な架橋では、感熱記録材料をロール状に巻いた場合には、背面の耐熱保護層中の未反応の低分子のシリコーンが、該耐熱保護層面に接しているインク層に移行して、その結果、形成される画像を不鮮明にするなどの問題が生じる。
【0005】
また、耐熱層の形成にシリコーングラフトまたはブロックアクリル系共重合体を利用することも知られている。このものは、耐熱性は多少改善されるが、アクリル成分の成膜性が不十分で、耐熱保護層が基材から剥離することがあり、また、耐熱保護層が磨耗し易く、サーマルヘッドに磨耗した保護層が堆積し、感熱記録媒体の走行不良や印字不良、さらにはサーマルヘッドの寿命低下を引き起こすという欠点がある。
【0006】
本発明者らはこれらの諸問題を解決する方法を検討し、種々のシリコーンポリウレタン共重合樹脂を使用することにより、耐熱性、滑り性および非粘着性などを兼ね備えた優れた耐熱保護層を有する感熱記録材料が得られることを、特許文献2〜4などにおいて提案してきた。
【0007】
しかし、一部の分野、特に半導体分野においてはシリコーン共重合を含め、シリコーン系樹脂中の低分子ポリシロキサン成分が気化することにより、気化した成分が各部品に付着することにより汚染を発生し、部品の性能低下を招くため使用できないという面がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−13359号公報
【特許文献2】特開昭61−227087号公報
【特許文献3】特開昭62−202786号公報
【特許文献4】特開平2−102096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、近年印字の高速化に伴うサーマルヘッドの高温化や基材シートの薄膜化に伴い、背面の耐熱保護層にはさらなる耐熱性、滑り性および非粘着性、さらにはフィルム剥離時などに発生する静電気対策などが求められるとともに、従来、感熱記録媒体は、使用後はリサイクルも難しく大量の廃棄物となり、地球環境の観点からも環境対応製品の開発が要望されている。
【0010】
従って本発明の目的は、背面の耐熱保護層を特定の構成とすることで、耐熱性、滑り性、非粘着性、および基材シートに対する接着性、帯電防止効果などに優れるとともに、地球環境の観点からも二酸化炭素分を取り入れることにより温暖化ガス削減に寄与することによる環境対応製品としての感熱記録材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、基材シートと、該基材シートの一方の面に設けた感熱記録層と、サーマルヘッドが当接する他方の面に設けた耐熱保護層とからなる感熱記録材料において、上記耐熱保護層が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、ワックス類、高級脂肪酸のアミドまたはエステル、高級アルコールおよびリン酸エステルから選ばれる、加熱により溶融して滑性または離型性を発現する物質とを含む組成物からなることを特徴とする感熱記録材料を提供する。
【0012】
上記本発明においては、前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された樹脂であること;前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素分を反応させて得られる化合物であること;前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、二酸化炭素分を1〜25質量%含有することが好ましい。
【0013】
また、上記本発明においては、前記耐熱保護層を形成する組成物が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、ワックス類、高級脂肪酸のアミドまたはエステル、高級アルコールおよびリン酸エステルから選ばれる物質が1〜100質量部の割合で配合された組成物であること;前記耐熱保護層が、さらに他の樹脂を含むこと;前記耐熱保護層が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基と反応する架橋剤で架橋された被膜であること;前記基材シートの厚みが、2.5μm〜4.5μmであること;前記耐熱保護層の厚みが、0.001〜2.00μmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明によれば、背面の耐熱保護層を前記の如き構成とすることで、耐熱性、滑り性、非粘着性、および基材シートに対する接着性、帯電防止効果などに優れるとともに、地球環境の観点からも二酸化炭素分を取り入れることにより温暖化ガス削減に寄与することによる環境対応製品としての感熱記録材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エポキシ化合物(エピコート828)の赤外吸収スペクトル。
【図2】5員環環状カーボネート化合物の赤外吸収スペクトル。
【図3】5員環環状カーボネート化合物のGPC溶出曲線。移動相:THF、カラム:TSK−Gel GMHXL+G2000HXL+G3000HXL、検出器:IR
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の感熱記録材料は、基材シートの一方の面に感熱記録層が、そして他方の面に耐熱保護層が形成され、上記耐熱保護層を構成する高分子化合物が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導されたポリヒドロキシポリウレタン樹脂からなることが特徴である。
【0017】
本発明で使用する5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]に示すように、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。さらに詳しくは、エポキシ化合物を有機溶媒の存在下または不存在下および触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で常圧または僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得られる。
【0018】

[参考文献]N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(12),2765
【0019】
本発明で使用するエポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0020】

【0021】

【0022】
以上列記したエポキシ化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0023】
前記エポキシ化合物と二酸化炭素との反応において使用される触媒としては塩基触媒およびルイス酸触媒が挙げられる。上記塩基触媒として、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの三級アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0024】
ルイス酸触媒としては、例えば、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0025】
上記触媒の量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜50質量部、好ましくは0.3〜20質量部である。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、50質量部を越えると最終樹脂の諸性能を低下させる。
【0026】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応においては使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤は、他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどとの混合系で使用してもよい。
【0027】
次に得られた5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物とを有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で、下記[式−B]に示すように反応させて本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂が得られる。
【0028】


【0029】
本発明で使用するアミン化合物としては、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。
【0030】
以上列記したアミン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0031】
また、本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂の数平均分子量(GPCで測定し、標準ポリスチレン換算)は、2,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜70,000である。以上の如き本発明で用いるポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その合成過程において1〜25質量%の二酸化炭素分を吸収する。
【0032】
上記のようにして得られたポリヒドロキシポリウレタン樹脂に配合する、加熱により溶融して滑性または離型性を発現する物質としては、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックスのようなワックス類、レシチンのような高級脂肪酸のアミド、エステルまたは塩類、高級アルコールおよびリン酸エステル類である。なお、これらの滑剤または離型剤に加えて、他の離型剤、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、グアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂粉末のいずれかを併用すればさらに高い効果が得られる。
【0033】
背面の耐熱保護層を形成する組成物は、前記のポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対し、上記の滑剤または離型剤を1〜100質量部、好ましくは5〜60質量部の割合で配合して形成する。滑剤または離型剤の配合量が1質量部未満では滑性が充分でなく、また、滑剤または離型剤の配合量が100質量部を越えると、巻き取った時などに滑剤または離型剤がブロッキングしたり表面に移行しやすくなるので好ましくない。
【0034】
本発明のポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物がアミン化合物と反応して生成する水酸基が、本発明の感熱記録材料に対してさらなる性能の向上をもたらすことになる。水酸基は親水性を有しているため、基材シートに対しての接着性を格段に向上させるとともに、さらには、従来品では達成できなかった帯電防止効果を得ることができる。そして、水酸基と架橋剤などとの反応を利用してさらなる耐熱滑性層の耐熱性の向上を図ることができる。
【0035】
本発明で使用するポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基含有量は、約3〜30質量%(水酸基価25〜300mg/KOH)であることが好ましい。水酸基含有量が上記範囲未満であると二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、水酸基含有量が上記範囲を超えると高分子としての諸物性不足である。
【0036】
本発明においては、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と滑剤または離型剤とからなる組成物の被膜は、そのままで使用することができるが、架橋剤を用いて架橋被膜として使用することもできる。使用可能な架橋剤としては、水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用できる。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられる。従来ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知のポリイソシアネート化合物が好ましいが特に限定されない。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0037】

【0038】

【0039】


【0040】

【0041】
また、背面の耐熱保護層の形成に際しては、基材シートに対するコーティング適性や、成膜性の向上のために、従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することができる。バインダー樹脂は上記のポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも本発明では使用することができる。
【0042】
これらのバインダー樹脂としては、背面の耐熱保護層の形成に従来から用いられているバインダー樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、これらのバインター樹脂を併用する場合、その使用量は本発明のポリヒドロキシポリウレタン樹脂組成物に対して5〜90質量%である。
【0043】
本発明の感熱記録材料を構成する耐熱保護層の形成には、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂組成物を適当な有機溶剤に溶解または分散させ、これを、例えば、ワイヤーバー方式、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法などの形成手段により塗工し、乾燥して形成することができる。乾燥温度としては50〜100℃の範囲が好ましい。また耐熱保護層の厚さは0.001〜2.00μmが好ましく、特に0.05〜0.7μmが好ましい。
【0044】
本発明の感熱記録材料に使用される基材シートとしては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルスルフィド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などのフィルムの他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミドなどのフィルムが使用でき、2軸配向性を有するフィルムが好ましい。また、基材の厚さは感熱記録における感度の観点から6μm以下、好ましくは2.5〜4.5μmである。
【0045】
本発明の感熱記録材料におけるインク層としては、従来公知のインク層がそのまま用いられ、特に制限されるものではない。すなわち、本発明で用いるインク層は、着色剤、ワックス類、樹脂および滑剤、界面活性剤などの添加剤などから構成される。着色剤としては、例えば、カーボンブラック、弁柄、レーキレッドC、ベンジジンイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、直接染料、油性染料、塩基性染料などの顔料や染料が使用される。
【0046】
本発明は、これらの例示の染顔料に限定されるものではない。従って、上述の例示の染顔料のみならず、現在、熱溶融型熱転写方式や昇華型熱転写方式で使用されており、市場から容易に入手し得る染顔料は、いずれも本発明において使用することができる。
【0047】
本発明の感熱記録材料における基材シートの背面の耐熱保護層には、滑剤または離型剤の持つ滑り性、サーマルヘッドへの非粘着性が付与されるとともに、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基が基材シートと界面で強く相互作用することにより、基材に対する優れた接着性や可とう性、および帯電防止効果が付与されるという優れた性能を得ることができる。また、温暖化ガス削減の観点からも二酸化炭素分を樹脂中に取り入れたことにより従来品では到達できなかった環境対応の感熱記録材料が提供される。
【実施例】
【0048】
次に参考例、具体的な重合例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0049】
参考例1(5員環環状カーボネート化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828;エポキシ当量187g/mol[図1])100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.5部を加え均一に溶解させた後、炭酸ガスを0.5リッター/min.の速度でバブリングしながら80℃で30時間加熱攪拌させた。
【0050】
反応終了後、得られた溶液を300部のn−ヘキサン中に300rpmで高速攪拌しながら徐々に添加し、生成した粉末状生成物をフィルターでろ過、さらにメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドンおよびヨウ化ナトリウムを除去した。粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)118部(収率95%)を得た。
【0051】
得られた生成物の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)は、910cm-1付近のエポキシ基由来のピークが生成物ではほぼ消滅し、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された([図2])。また、生成物の数平均分子量は414(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった([図3])。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素分が固定化されている。
【0052】

【0053】
参考例2(5員環環状カーボネート化合物の製造)
参考例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式B(東都化成(株)製、YDF−170;エポキシ当量172g/mol)を使用した以外は参考例1と同様に反応させ白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−B)121部(収率96%)を得た。
【0054】
生成物は赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−B)中には、20.3%の二酸化炭素分が固定化されている。
【0055】

【0056】
参考例3(5員環環状カーボネート基化合物の製造)
参考例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式C(ナガセケムテックス(株)製、EX−212;エポキシ当量151g/mol)を使用した以外は参考例1と同様に反応させ無色透明の液状5員環環状カーボネート化合物(1−C)111部(収率86%)を得た。
【0057】
生成物は赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート基化合物(1−C)中には、22.5%の二酸化炭素分が固定化されている。
【0058】

【0059】
重合例1〜3(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに参考例1〜3で得られた5員環環状カーボネート化合物、さらに固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に表1に記載のアミン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られた3種類のポリヒドロキシポリウレタン樹脂、および該樹脂からなるフィルムの性状は表1に記載の通りである。
【0060】

【0061】
比較重合例1(ポリウレタン樹脂)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と1,4−ブタンジオール15部とを200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解し、60℃でよく攪拌しながら62部の水素添加MDIを171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0062】
比較重合例2(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂)

【0063】
上記式(D)で表され、かつ平均分子量が約3,200であるポリジメチルシロキサンジオール150部および1,4−ブタンジオール10部を、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶媒を加え、また、40部の水素添加MDIを120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0064】
実施例1
下記の組成による耐熱保護層用塗料を調製した。
・重合例1の樹脂溶液(固形分35%) 10質量部
・ポリエチレンワックス(旭電化(株)製;固形分30%) 2質量部
【0065】
実施例2
下記の組成による耐熱保護層用塗料を調製した。
・重合例2の樹脂溶液(固形分35%) 10質量部
・レシチン 2質量部
【0066】
実施例3
下記の組成による耐熱保護層用塗料を調製した。
・重合例3の樹脂溶液(固形分35%) 10質量部
・リン酸エステル(第一工業製薬(株)製) 0.1質量部
・ポリイソシアネート(固形分75%) 1質量部
【0067】
比較例1
下記の組成による耐熱保護層用塗料を調製した。
・重合例1の樹脂溶液(固形分35%) 10質量部
【0068】
比較例2
下記の組成による耐熱保護層用塗料を調製した。
・比較重合例1の樹脂溶液(固形分35%) 10質量部
・ポリイソシアネート(固形分75%) 1質量部
【0069】
比較例3
下記の組成による耐熱保護層用塗料を調製した。
・比較重合例2の樹脂溶液(固形分35%) 10質量部
・ポリイソシアネート(固形分75%) 1質量部
【0070】
実施例1〜3および比較例1〜3で調製した耐熱保護層用塗料をそれぞれ用い、グラビア印刷により、厚み3.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製)の表面に、乾燥後の厚みが0.2μmになるように溶剤で希釈後塗布し乾燥機中で乾燥して基材シート表面に耐熱保護層を形成した。
【0071】
次に、以上のようにして形成した背面の耐熱保護層の反対側の基材フィルム面に、下記の組成のインキ組成物を100℃に加熱して、ホットメルトによるロールコート法にて塗布厚みが5μmになるように塗布して、転写インキ層を形成し、実施例1〜3および比較例1〜3の塗液を用いた本発明および比較例の感熱転写材料を得た。
【0072】
(インキ組成物)
・パラフィンワックス 10部
・カルナバワックス 10部
・ポリブテン(日本石油製) 1部
・カーボンブラック 2部
【0073】
以上ようにして得られた感熱記録材料を用いて印字を行い、スティッキング性、サーマルヘッド汚染性、基材への接着性、静止摩擦係数、帯電性、環境対応度の評価を行った。
【0074】
印字条件
プリンター;Zebra社100XiIIIPlus
サーマルヘッド;京セラ製 KPA−106−12TA(フラット)
印字エネルギー;25mJ/mm2
印字スピード;100mm/sec
プラテン押圧;350gf/cm
受容紙;キャストコート紙(リンテック社製)
印字パターン;コード巾30mm長さ約40mmの印字条件においてCODE39タテバーコード
【0075】
スティッキング性は、感熱記録の実装試験に供した場合のサーマルヘッドとの間の押圧操作時における、感熱記録材料のサーマルヘッドからの離脱性を目視で評価し、最も離脱性の良いものを5とし、最も離脱性の悪いものを1とする5段階評価を行った。
【0076】
また、サーマルヘッドの汚れは、感熱記録の実装試験に供した場合のサーマルヘッドの汚れの状態を観測し、最も汚れの少ないものを5とし、最も汚れのひどいものを1とする5段階評価を行った。
【0077】
接着性試験は背面の耐熱保護層の碁盤目セロハンテープ剥離試験を行って評価した。また、静止摩擦係数は背面の耐熱保護層を表面性試験機(新東科学製)で評価した。さらに、帯電性は感熱記録材料フィルムを急激に感熱記録材料の巻物から剥離した時に発生する静電気によるフィルム同士のブロッキング性を観測し、ブロッキング発生を×、発生しないを○とした。環境対応度は、二酸化炭素分の固定化の有無で○×判断した。
【0078】

【産業上の利用可能性】
【0079】
以上の本発明によれば、基材シートの背面の耐熱保護層を、前記構成とすることで、滑剤または離型剤の持つ滑り性、サーマルヘッドへの非粘着性が付与されるとともに、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基が基材シートと界面で強く相互作用することにより、基材に対する優れた接着性や可とう性、および帯電防止効果が付与されるという優れた性能を得ることができる。また、温暖化ガス削減の観点からも二酸化炭素分を樹脂中に取り入れたことにより従来品では到達できなかった環境対応の感熱記録材料が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、該基材シートの一方の面に設けた感熱記録層と、サーマルヘッドが当接する他方の面に設けた耐熱保護層とからなる感熱記録材料において、上記耐熱保護層が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と、ワックス類、高級脂肪酸のアミドまたはエステル、高級アルコールおよびリン酸エステルから選ばれる、加熱により溶融して滑性または離型性を発現する物質とを含む組成物からなることを特徴とする感熱記録材料。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応から誘導された樹脂である請求項1に記載の感熱記録材料。
【請求項3】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる化合物である請求項2に記載の感熱記録材料。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、二酸化炭素分を1〜25質量%含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項5】
前記耐熱保護層を形成する組成物が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、ワックス類、高級脂肪酸のアミドまたはエステル、高級アルコールおよびリン酸エステルから選ばれる物質が1〜100質量部の割合で配合された組成物である請求項1〜4の何れか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項6】
前記耐熱保護層が、さらに他の樹脂を含む請求項1〜5の何れか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項7】
前記耐熱保護層が、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基と反応する架橋剤で架橋された被膜である請求項1〜6の何れか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項8】
前記基材シートの厚みが、2.5μm〜4.5μmである請求項1〜7の何れか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項9】
前記耐熱保護層の厚みが、0.001〜2.00μmの範囲である請求項1〜8の何れか1項に記載の感熱記録材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−102005(P2011−102005A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258339(P2009−258339)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】