説明

感熱記録材料

【課題】耐熱性、滑り性及び非粘着性に優れた耐熱保護層を有する感熱記録材料でありながら、二酸化炭素を原料とし得る、温暖化ガス削減の観点からも有用な環境対応製品である感熱記録材料の提供。
【解決手段】基材シート、該基材シートの少なくとも一方の面に設けた感熱記録層及び他の面のサーマルヘッドと当接する背面に耐熱保護層が設けられた感熱記録材料において、耐熱保護層が、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を少なくとも含む樹脂組成物によって形成されている感熱記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録材料に関し、さらに詳しくは、背面の耐熱保護層がポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を少なくとも有する樹脂組成物からなる、熱溶融型熱転写方式や昇華型熱転写方式に有用である感熱記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステルフィルムなどの基材シートの一方の面に、染料又は顔料をバインダー樹脂などで担持させて感熱記録層(インク層)を形成し、その裏面からパターン状に加熱してインク層を被転写材に転写する熱溶融型感熱記録材料や、さらには染料として加熱昇華性の染料を使用し、同様に染料のみを被転写材に昇華転写する昇華転写記録材料が公知である。
【0003】
このような方法は、いずれも基材シートの裏面からサーマルヘッドにより熱エネルギーを付与する方式であるため、使用する感熱記録材料の基材シートの裏面がサーマルヘッドに対して充分な滑り性、剥離性及び非粘着性などを有し、さらに、サーマルヘッドが裏面に粘着(スティッキング現象)しないことが要求されている。そのために、例えば、感熱記録材料の基材シートの裏面に、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、変性セルロース樹脂あるいはこれらの混合物からなる背面層を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0004】
上記した感熱記録材料において、耐熱性を有する背面の耐熱保護層を形成する目的で、前記の樹脂に各種架橋剤を使用して熱架橋させたり、これらの樹脂に無機フィラーやフッ素樹脂の粉末などを添加することなどが試みられている。しかし、これらの方法によって耐熱性は得られるが、サーマルヘッドに対する滑り性や非粘着性の向上への対応としては不十分である。唯一、上記に挙げた樹脂中のシリコーン樹脂は、滑り性と非粘着性とを具備しているが、該樹脂を完全に架橋させるために行う加熱工程で、通常2〜5μm厚程度の薄膜の基材シートに損傷を与えてしまうという別の問題がある。一方で、該基材シートに損傷を与えないように、不完全な架橋をすると、感熱記録材料をロール状に巻いた場合に、基材シートの背面に形成した耐熱保護層中の未反応の低分子のシリコーンが、該耐熱保護層面に接しているインク層に移行してしまう。その結果、このような感熱記録材料を用いて形成した画像が不鮮明になるなどの問題が生じる。
【0005】
また、耐熱保護層にシリコーングラフト又はブロックアクリル系共重合体を利用することも知られている。しかしながら、この方法によって感熱記録材料を製造した場合は、耐熱性は多少改善されるが、アクリル成分の成膜性が不十分であり、耐熱保護層が基材から剥離することがある。また、耐熱保護層が摩耗し易く、サーマルヘッドに摩耗した保護層が堆積してしまい、感熱記録媒体の走行不良や印字不良、更にはサーマルヘッドの寿命低下といった新たな課題を引き起こすという欠点がある。
【0006】
本発明者らは、これらの諸問題を解決する方法を検討し、種々のシリコーンポリウレタン共重合樹脂を使用することにより、耐熱性、滑り性及び非粘着性などを兼ね備えた優れた耐熱保護層を有する感熱記録材料が得られることを、提案してきた(特許文献2〜特許文献4参照)。しかしながら、これらは、近年、世界的な問題となってきている地球環境保全の観点からの検討は何もなされていないと言え、このような新たな視点からの技術の見直しが要望されている。特に、近年、地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素が大きな問題となっている。
【0007】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは、従来から知られている上記の樹脂は、その特性面で、従来の石化系の高分子化合物(石化プラスチック)であるポリウレタン系樹脂に比べて特性面で明らかに劣るからである(特許文献5〜6参照)。
【0008】
一方、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられる地球の温暖化現象が、近年、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題となっており、二酸化炭素を製造原料とできる技術は待望されている。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0009】
上記のような背景下、再び、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能で、かつ、持続可能な炭素資源であり、さらに二酸化炭素を原料とするプラスチックは、温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段であると言えるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−13359号公報
【特許文献2】特開昭61−227087号公報
【特許文献3】特開昭62−202786号公報
【特許文献4】特開平2−102096号公報
【特許文献5】米国特許第3,072,613号明細書
【特許文献6】特開2000−319504号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(11),2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、その一方で、近年の印字の高速化に伴うサーマルヘッドの高温化や基材シートの薄膜化に伴い、背面の耐熱保護層には、さらなる耐熱性、滑り性及び非粘着性、更にはフィルム剥離時などに発生する静電気対策などが求められる。それとともに、従来の感熱記録媒体(材料)は、使用後の商品のリサイクルも難しく、大量の廃棄物となっていた点について改善する必要がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、耐熱性、滑り性及び非粘着性に優れた耐熱保護層を有する感熱記録材料でありながら、二酸化炭素を原料とし得る、地球環境の観点からも有用な、環境対応製品を提供し得る技術を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、基材シート、該基材シートの少なくとも一方の面に設けた感熱記録層及び他の面のサーマルヘッドと当接する背面に耐熱保護層が設けられた感熱記録材料において、耐熱保護層が、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を少なくとも含む樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする感熱記録材料を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、背面の耐熱保護層を、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を用いて形成することにより、耐熱性、滑り性、非粘着性、及び基材シートに対する接着性、更に帯電防止効果などにも優れる感熱記録材料が提供される。上記の樹脂は、このように優れた感熱記録材料を提供できるものであると同時に、二酸化炭素を製造原料とし得、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができるので、温暖化ガス削減に寄与する環境対応製品としての感熱記録材料の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エポキシ化合物(エピコート828)の赤外吸収スペクトル。
【図2】5員環環状カーボネート化合物の赤外吸収スペクトル。
【図3】5員環環状カーボネート化合物のGPC溶出曲線(移動相:THF、カラム:TSK−Gel GMHXL+G2000HXL+G3000HXL、検出器:IR)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の感熱記録材料は、基材シートの一方の面に感熱記録層が設けられ、そして他方の背面に耐熱保護層が形成されているが、該耐熱保護層を構成する高分子化合物は、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂(以下、単に「本発明で使用する樹脂」或いは「本発明の樹脂」とも呼ぶ)からなる、或いは該樹脂を含む樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0018】
本発明で使用する5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。更に詳しくは、エポキシ化合物を、有機溶媒の存在下又は不存在下及び触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で、常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間、二酸化炭素と反応させることによって得られる。
【0019】

【0020】
本発明で使用するエポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0021】


【0022】
以上に列記したエポキシ化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0023】
本発明で用いる5員環環状カーボネート化合物は、前記したように、エポキシ化合物と二酸化炭素の反応によって得られる。この反応において使用される触媒としては、下記のような塩基触媒及びルイス酸触媒が挙げられる。塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン、ピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0024】
また、ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0025】
これらの触媒の使用量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、多過ぎると最終樹脂の諸性能を低下させるおそれがあるので好ましくない。従って、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して残留触媒を除去してもよい。
【0026】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応において、使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0027】
本発明で使用する樹脂は、下記[式−B]で示されるように、例えば、上記反応で得た5員環環状カーボネート化合物と、アミン変性ポリシロキサン化合物とを有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0028】

【0029】
上記反応に使用するアミン変性ポリシロキサン化合物としては、例えば、次のような化合物が例示できる。下記式中の低級アルキレン基とは、炭素数が1〜6、より好ましくは1〜4のものを意味する。
【0030】

【0031】
ここで列記したアミン変性ポリシロキサン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0032】
上記のようにして得られたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、樹脂中におけるポリシロキサンセグメントの占める割合が、樹脂分子に対する該セグメントの含有量で、1〜75質量%となるものであることが好ましい。すなわち、1質量%未満ではポリシロキサンセグメントに基づく表面エネルギーに伴う機能の発現が不十分となるので好ましくない。また、75質量%を超えると、ポリヒドロキシウレタン樹脂の機械強度、耐摩耗性などの性能が不十分となるので好ましくない。より好ましくは、2〜60質量%であり、さらには5〜30質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明で使用するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)が、2,000〜100,000程度であることが好ましい。さらには、5,000〜70,000程度のものであることがより好ましい。
【0034】
本発明で使用する樹脂は、前記5員環環状カーボネート化合物と、アミン変性ポリシロキサン化合物の反応から誘導される。このため、該樹脂の構造中の5員環環状カーボネート基がアミン変性ポリシロキサン化合物と反応して生成する水酸基が、本発明の感熱記録材料に対して更なる性能の向上をもたらすことになる。すなわち、水酸基は親水性を有しているため、該樹脂を用いて形成された耐熱保護層の基材シートに対しての接着性を格段に向上させ、更には、従来品では達成できなかった帯電防止効果を得ることができる。また、樹脂の構造中の水酸基と、該樹脂に添加した架橋剤などとの反応を利用すれば、更なる耐熱性の向上を図ることができ、より優れた耐熱保護層の形成が可能になる。
【0035】
本発明で使用する上記樹脂は、その水酸基価が20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基含有量が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が十分に得られるとは言い難く、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての機械物性などの諸物性不足となるので好ましくない。
【0036】
本発明の感熱記録材料を構成する耐熱保護層は、上記したポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜として形成できるが、架橋剤を用いて架橋被膜とすることもできる。この際に使用可能な架橋剤としては、樹脂構造中の水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用できる。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられる。従来、ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知のポリイソシアネート化合物であれば特に限定されない。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0037】

【0038】
また、本発明の感熱記録材料を構成する基材シート背面の耐熱保護層の形成に際しては、基材シートに対するコーティング適正や、成膜性の向上及びポリシロキサンセグメントの含有量を調整などのために、上記した樹脂に加えて従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することができる。この際に使用するバインダー樹脂としては、上記したポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも本発明では使用することができる。
【0039】
これらのバインダー樹脂としては、感熱記録材料を構成する背面の耐熱保護層の形成に従来から用いられているバインダー樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、これらの樹脂をシリコーンやフッ素で変性した樹脂なども使用可能である。バインター樹脂を併用する場合、その使用量は、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して5〜90質量部、より好ましくは、10〜60質量部程度の範囲で用いるとよい。
【0040】
本発明の感熱記録材料を構成する耐熱保護層の形成方法は特に限定されない。例えば、上述したポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を適当な有機溶剤に溶解又は分散させ、これを、例えば、ワイヤーバー方式、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法などの形成手段により塗工し、乾燥することで形成できる。この際の乾燥温度としては50〜100℃の範囲が好ましい。また、耐熱保護層の厚さは0.001〜2.00μmが好ましく、特に0.05〜0.7μmが好ましい。
【0041】
本発明の感熱記録材料に使用される基材シートとしては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルスルフィド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などのフィルムの他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミドなどのフィルムが使用でき、2軸配向性を有するフィルムが好ましい。また、基材の厚さは感熱記録における感度の観点から6μm以下、更には、2.5μm〜4.5μmで表せる範囲のものが好ましい。
【0042】
本発明の感熱記録材料におけるインク層としては、従来公知のインク層がそのまま用いられ、特に制限されない。すなわち、本発明で用いるインク層は、着色剤、ワックス類、樹脂、滑剤及び界面活性剤などの添加剤などから構成される。また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック、弁柄、レーキレッドC、ベンジジンイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、直接染料、油性染料、塩基性染料などの顔料や染料が使用される。本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、現在、熱溶融型熱転写方式や昇華型熱転写方式で使用されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0043】
本発明の感熱記録材料は、基材シートの背面に設けられた耐熱保護層を形成する樹脂組成物に、特有のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を用いているため、該樹脂のポリシロキサンセグメントが保護層表面に配向することとなる。このため、形成された耐熱保護層には、該ポリシロキサンセグメントの持つ、耐熱性、滑り性、サーマルヘッドへの非粘着性が付与される。さらに、これと共に、耐熱保護層を形成しているポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中にある水酸基が基材シートと界面で強く相互作用することにより、基材に対する優れた接着性や可とう性、及び帯電防止効果が付与される。このため、感熱記録材料をより優れた性能のものとできる。また、本発明で使用する樹脂を構成する5員環環状カーボネート化合物は、二酸化炭素を製造原料とすることで、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができる。このため、本発明によって、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境対応材料製品としての感熱記録材料の提供が可能になる。
【実施例】
【0044】
次に、具体的な製造例、重合例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0045】
<製造例1>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.5部を加え均一に溶解させた。その後、これに、炭酸ガスを、0.5リッター/分の速度でバブリングしながら、80℃で30時間加熱攪拌した。上記で使用した2価エポキシ化合物は、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート828(エポキシ当量187g/mol)である。その赤外吸収スペクトルを図1に示した。
【0046】

【0047】
反応終了後、得られた溶液を300部のn−ヘキサン中に300rpmで高速攪拌しながら徐々に添加し、生成した粉末状生成物をフィルターでろ過、更にメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。その後、粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)118部(収率95%)を得た。
【0048】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)では、図2に示したように、910cm-1付近のエポキシ基由来のピークが生成物ではほぼ消滅し、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は、図3に示したように、414(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素が固定化されている。
【0049】
<製造例2>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
本製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Bで示される2価エポキシ化合物B(東都化成(株)製、YDF−170;エポキシ当量172g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−B)121部(収率96%)を得た。得られた生成物(1−B)を、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。また、得られた5員環環状カーボネート化合物(1−B)中には、20.3%の二酸化炭素が固定化されている。
【0050】

【0051】
<製造例3>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
本製造例では、先の製造例1で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Cで示される2価エポキシ化合物C(ナガセケムテックス(株)製、EX−212;エポキシ当量151g/mol)を用いた。そして、これ以外は、製造例1と同様に反応させて、無色透明の液状5員環環状カーボネート化合物(1−C)111部(収率86%)を得た。得られた生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。また、得られた5員環環状カーボネート化合物(1−C)中には、22.5%の二酸化炭素が固定化されている。
【0052】

【0053】
<重合例1〜3>(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに、先の製造例1〜3で得られた5員環環状カーボネート化合物を加え、更に固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、表1に記載のアミン変性ポリシロキサン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン変性ポリシロキサン化合物が確認できなくなるまで反応させた。
上記で得られた実施例1〜3の3種類のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は、表1に記載の通りである。
【0054】
<比較重合例1>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに、先の製造例1で得られた5員環環状カーボネート化合物を加え、更に固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、ヘキサメチレンジアミンを所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られたポリシロキサンセグメントを有さないポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は、表1に記載の通りである。
【0055】

【0056】
<比較重合例2>(ポリエステルポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、ポリエステルとジオールとジアミンとから従来の比較例2のポリエステルポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと、50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら、62部の水添加MDIを、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0057】
<比較重合例3>(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、ポリオールとジアミンとから従来のポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂を合成した。具体的には、下記式(D)で表され、且つ平均分子量が約3,200であるポリジメチルシロキサンジオール150部及び1,4−ブタンジオール10部を、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶媒を加え、又、40部の水添加MDIを、120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0058】

【0059】
<実施例1〜6及び比較例1〜6>
(耐熱保護層の形成)
先に調製した重合例1〜3及び比較重合例1〜3の各ポリウレタン樹脂(固形分35%)をそれぞれ用い、基材シート表面に耐熱保護層をそれぞれ形成した。具体的には、乾燥後の厚みが0.2μmになるように上記樹脂溶液を溶剤で希釈して、表2に示したように必要に応じて架橋剤を添加して塗料組成物(樹脂組成物)を得、該組成物を、厚み3.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製)の表面に、グラビア印刷により塗布し、乾燥機中で乾燥して基材シート表面に耐熱保護層を形成した。さらに、形成した耐熱保護層の反対側の基材フィルム(シート)面に、感熱記録層(転写インキ層)を形成して実施例1〜6及び比較例1〜6の各感熱記録材料を作製した。転写インキ層の形成については後述する。
【0060】

【0061】
<比較例7>
本発明の感熱記録材料を評価するための比較として、従来のシリコーン樹脂を用いて耐熱保護層を作製した。具体的には、シリコーン樹脂(信越化学工業(株)製、KS−841)100部と触媒(信越化学工業(株)製、PL−7)1部とを、トルエン1,000部に溶解してシリコーン樹脂の塗料組成物を作製した。そして、実施例と同様に基材シート上に塗布し、一方の表面に耐熱保護層を形成した。さらに、形成した耐熱保護層の反対側の基材フィルム(シート)面に、後述のようにして感熱記録層(転写インキ層)を形成して比較例10の感熱記録材料とした。
【0062】
(転写インキ層の形成)
以上のようにしてそれぞれ基材シートの一方の面(背面)に形成した耐熱保護層の反対側の基材フィルム(シート)面に、下記の組成のインキ組成物を100℃に加熱して、ホットメルトによるロールコート法にて塗布厚みが5μmになるように塗布して、感熱記録層(転写インキ層)を形成した。これらを実施例1〜6及び比較例1〜7の感熱記録材料とした。
【0063】
[インキ組成物]
・パラフィンワックス 10部
・カルナバワックス 10部
・ポリブテン(日本石油製) 1部
・カーボンブラック 2部
【0064】
<評価>
以上ようにして得られた実施例及び比較例の各感熱記録材料を用いて、下記の条件で印字を行い、感熱記録の実装試験を行った。さらに、特に、その耐熱保護層について、スティッキング性、サーマルヘッド汚染性、基材への接着性、静止摩擦係数、帯電性、環境対応度などを、それぞれ以下の方法で測定し、下記の基準で評価した。結果を表3にまとめて示した。
【0065】
[感熱記録の実装試験の印字条件]
プリンター;Zebra社100XiIIIPlus
サーマルヘッド;京セラ製 KPA−106−12TA(フラット)
印字エネルギー;25mJ/mm2
印字スピード;100mm/sec
プラテン押圧;350gf/cm
受容紙;キャストコート紙(リンテック社製)
印字パターン;コード巾30mm長さ約40mmの印字条件において、CODE39タテバーコード
【0066】
[サーマルヘッド汚染性]
サーマルヘッドの汚れは、感熱記録の実装試験に各感熱記録材料を供した後のサーマルヘッドの汚れの状態を目視で観察して評価した。評価基準は、最も汚れの少ないものを5とし、最も汚れのひどいものを1とし、相対的に5段階評価した。
【0067】
[接着性]
接着性試験は、各感熱記録材料の耐熱保護層に対して、10×10個の碁盤目セロハンテープ剥離試験を行って、剥離後の残った個数で評価した。
【0068】
[静止摩擦係数]
静止摩擦係数は、各感熱記録材料の耐熱保護層について、表面性試験機(新東科学製)を用いて測定し、評価した。
【0069】
[帯電性(ブロッキング性)、環境対応度]
更に、帯電性は、フィルム(シート)状の各感熱記録材料を、巻物の状態から急激に剥離した時に発生する静電気によるフィルム同士のブロッキング性を目視で観測し、ブロッキングが発生した場合を×、発生しない場合を○として評価した。環境対応度は、「耐熱保護層」の形成材料の各樹脂中における二酸化炭素の固定化の有無で、○×判断した。
【0070】

【産業上の利用可能性】
【0071】
以上の本発明によれば、感熱記録材料を構成する耐熱保護層を、特有のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を用いて形成することによって、該樹脂中のポリシロキサンセグメントが表面に配向し、これによりポリシロキサンセグメントの持つ耐熱性、滑り性、サーマルヘッドへの非粘着性が付与される。これと共に、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の有する水酸基が基材シートと界面で強く相互作用することにより、耐熱保護層の基材に対する優れた接着性や可とう性、及び帯電防止効果が付与され、優れた性能を示す耐熱保護層を有する感熱記録材料を得ることができる。また、本発明で使用する樹脂は二酸化炭素を製造原料に利用できるため、本発明によれば、温暖化ガスである二酸化炭素削減に寄与し得る地球環境対応製品としての感熱記録材料の提供が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート、該基材シートの少なくとも一方の面に設けた感熱記録層及び他の面のサーマルヘッドと当接する背面に耐熱保護層が設けられた感熱記録材料において、耐熱保護層が、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を少なくとも含む樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする感熱記録材料。
【請求項2】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られたものである請求項1に記載の感熱記録材料。
【請求項3】
前記耐熱保護層を形成するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、原料由来の二酸化炭素を1〜25質量%含有するものである請求項2に記載の感熱記録材料。
【請求項4】
前記耐熱保護層を構成するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の分子中に占めるポリシロキサンセグメントの含有量が1〜75質量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、さらに他の樹脂を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項6】
前記耐熱保護層が、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に存在する水酸基と、該水酸基と反応する架橋剤との反応によって架橋してなる皮膜である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項7】
前記基材シートの厚みが、2.5μm〜4.5μmで表せる範囲のものである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感熱記録材料。
【請求項8】
前記耐熱保護層の厚みが、0.001〜2.00μmの範囲である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の感熱記録材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate