説明

感知センサー及び感知装置

【課題】簡便に感知対象物の検出または定量を行うことができる感知センサーを提供すること。
【解決手段】一面側に凹部が形成された配線基板と、圧電片に励振電極を設けて構成され、各々前記凹部を塞ぎ且つ振動領域が凹部と対向するように前記配線基板に固定される第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子と、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子を含む配線基板の一面側の領域を覆うように設けられた流路形成部材と、前記流路形成部材に設けられ、前記試料液が貯留される廃液領域と、前記配線基板と流路形成部材との間に形成され、前記注入口から両方の圧電振動子の一面側を介して廃液領域へ毛細管現象により試料液を流通させるための流路と、前記第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子のうち一方のみに前記流路に面して設けられ、試料液中の感知対象物を吸着する吸着層と、を備えるように感知センサーを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感知対象物がその表面に設けられた吸着膜に吸着することで固有振動数が変わる圧電振動子を用いて感知対象物を感知するための感知センサー及びこの感知センサーを含む感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床分野においては患者のすぐそばで簡易な機器及び試薬を用いて迅速に結果を得るPOCT(Point of core TEST)と呼ばれる簡便な検査方法が普及しており、病院の緊急処置室やベッドサイドで行われたり、在宅の患者に利用されている。このPOCTとしては、例えば糖尿病患者が自ら行う血糖値自己モニタリングや、患者がインフルエンザウイルスに感染しているか否かを診断するために行うインフルエンザウイルス検査がある。また、食品検査の分野においても同様に簡易な機器及び試薬を用いた検査が行われており、例えば食品中に含まれるアレルゲンなどの所定の成分の有無を検出する試験が行われる。
【0003】
このような各分野で行われる簡便な検査(簡便法)としては、免疫検査法の一つであるイムノクロマト法を利用した検査が広く普及している。これは、サンドイッチ法を利用して、試料中における感知対象物の有無を検出する手法である。以下にこのイムノクロマト法の測定手順を簡単に説明すると、長細い試験紙を用意し、当該試験紙の長さ方向の一端側には抗原である感知対象物と選択的に結合する抗体を予め吸着させておき、長さ方向の他端側には、感知対象物と結合する例えば金コロイドなどの発色性物質を予め染みこませておく。
【0004】
この試験紙の長さ方向の他端側に試料液を滴下すると、試料液に感知対象物が含まれる場合、当該感知対象物は酵素反応により前記発色性物質と結合し、検査試料液の濡れ広がりに従って試験紙の一端側へと流されていく。そして、試験紙の一端側で感知対象物と抗体とが抗原抗体反応により結合し、感知対象物は抗体及び発色性物質に挟まれた状態で試験紙の一端側に固定されて、試験紙の一端側が発色する。試料液に感知対象物が含まれない場合は、各反応が起こらないので試験紙の一端側が発色しない。従って、試験紙を目視して発色の有無を確認することにより、試料液中の感知対象物の有無を検出することができる。
【0005】
しかしながら、発色の有無や発色の強度の認識には個人差があるため、この手法を用いて例えば感知対象物を定量できる程度の精度高い検査を行うことは難しい。さらに試験紙の周囲の温度及び湿度により、前記感知対象物と前記抗体との反応の度合及び感知対象物の発色性物質との反応の度合がばらつくことがある。つまり、温度及び湿度により発色の強度がばらつくことがあるので、この点からも発色に基づいて前記定量検査を行うことが難しい。また、イムノクロマト法では、感知対象物を前記抗体と発色性物質とで挟み込む必要があるため、感知対象物とすることができる物質は、比較的大きな分子量を持つ物質に限られてしまい、低分子を感知対象物とすることができないという問題があった。
【0006】
ところで、特許文献1には、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用した感知センサーが示されている。この感知センサーに含まれる水晶振動子の表面には感知対象物を抗原抗体反応により吸着する吸着膜が設けられ、当該水晶振動子に試料液を供給し、水晶振動子の周波数の変化に基づいて感知対象物の定量検査を行う。具体的には、感知対象物を含まない参照液を供給したときの前記周波数と、感知対象物の有無や濃度が未知である試料液を供給したときの前記周波数とを検出し、これらの周波数の差分が前記吸着膜に吸着された感知対象物の質量に対応するものとして感知対象物の検出や濃度の測定を行う。
【0007】
しかし、この感知センサーでは水晶振動子の表面に液体を供給すると、液体が水晶振動子の表面に貯留されたままの状態になる。従って、同じ感知センサーに前記参照液を入れて周波数測定を行った後に試料液を入れると、試料液が参照液により希釈され、感知対象物の質量に加えて試料液の質量が水晶振動子の周波数に影響を与えてしまう結果、正常に測定が行えなくなるおそれがある。そこで、参照液を供給する感知センサーと、試料液を供給する感知センサーと、を夫々用意して測定を行うが、このように複数の感知センサーを用いることで測定のコストがかさんでしまうという問題がある。また、QCMには水晶振動子の表面に試料液を連続的に流すと共にその表面から試料液を排出するフロースルーセル方式が知られているが、この方式は通常、ポンプを必要とするので装置が大掛かりになってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-206792号公報(図2、図3など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、簡便に感知対象物の検出または定量を行うことができる感知センサー及び感知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の感知センサーは、発振周波数を測定するための測定器に接続される接続端子を備えると共に一面側に凹部が形成された配線基板と、
圧電片に励振電極を設けて構成され、各々前記凹部を塞ぎ且つ振動領域が凹部と対向するように前記配線基板に固定されると共に、励振電極が前記接続端子に電気的に接続される第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子と、
第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子を含む配線基板の一面側の領域を覆うように設けられた流路形成部材と、
前記流路形成部材に開口した試料液の注入口と、
前記流路形成部材に設けられ、前記注入口から注入された試料液が貯留される廃液領域と、
前記配線基板と流路形成部材との間に形成され、前記注入口から両方の圧電振動子の一面側を介して廃液領域へ毛細管現象により試料液を流通させるための流路と、
前記流路に試料液を流通させるために、前記廃液領域に接続するように流路形成部材に開口した通気口と、
前記第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子のうち一方のみに前記流路に面して設けられ、試料液中の感知対象物を吸着する吸着膜と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
上記の感知センサーの具体的な態様の例としては、下記の通りである。
(a)前記第1の圧電振動子の励振電極及び第2の圧電振動子の励振電極は、共通の圧電片上に形成されている。
(b)注入口は、多孔質のフィルタの孔により構成される。
(c)前記フィルタは化学繊維束により構成される。
(d)前記第1の圧電振動子の励振電極、第2の圧電振動子の励振電極は、圧電片上において前記流路を注入口側から廃液領域側へ向かって見て左右対称に形成される。
また、本発明の感知装置は、上記の感知センサーと前記測定器とを含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の感知センサーによれば、試料液が毛細管現象により注入口から第1及び第2の圧電振動子の一面側を介して廃液口へ向かい、試料液中に含まれる感知対象物が第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子の一方に設けられた吸着膜に吸着される。従って、試料液を注入口から廃液口へ向けて流すためにポンプなどの機器を設ける必要が無いため、装置の大型化や複雑化を防ぎ、簡便に測定を行うことができる。また、背景技術の項目で説明した、圧電振動子の表面に液が貯まる感知センサーのように参照液に続いて供給された試料液が、当該参照液により希釈されることが抑えられるので、測定精度の低下が抑えられる。また、背景技術の項目で説明したイムノクロマト法のように、感知対象物を試験紙に固定する物質と発色させる物質とで挟み込む必要が無いので、分子量が低い物質についても感知対象物として検出または定量を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る感知装置の斜視図である。
【図2】前記感知装置を構成する感知センサーの斜視図である
【図3】前記感知センサーの縦断側面図である。
【図4】感知センサーの各部の上面側を示した分解斜視図である。
【図5】感知センサーの各部の下面側を示した分解斜視図である。
【図6】前記感知センサーを構成する水晶振動子の平面図である。
【図7】前記水晶振動子の側面の模式図である。
【図8】前記感知センサーを構成する流路形成部材の横断平面図である。
【図9】前記感知装置の構成を示すブロック図である。
【図10】前記感知装置による測定の様子を示す工程図である。
【図11】前記感知装置による測定の様子を示す工程図である。
【図12】前記感知装置による測定の様子を示す工程図である。
【図13】各チャンネルの周波数差の経時変化を示すグラフ図である
【図14】前記感知センサーのカバー体の平面図である。
【図15】前記カバー体を備えた感知センサーの縦断側面図である。
【図16】他の実施形態の感知センサーの斜視図である。
【図17】前記感知センサーの縦断側面図である。
【図18】前記感知センサーの表面側分解斜視図である。
【図19】前記感知センサーの裏面側分解斜視図である。
【図20】前記感知センサーに設けられる水晶振動子の平面図である。
【図21】前記感知センサーにて液が流通する様子を示す当該感知センサーの側面図である。
【図22】前記感知センサーにて液が流通する様子を示す当該感知センサーの側面図である。
【図23】前記感知センサーを用いた実験のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施の形態に係る感知装置1について説明する。この感知装置1は、例えば人間の鼻腔の拭い液から得られた試料液中のインフルエンザウイルスの有無を検出し、人間のインフルエンザウイルスの感染の有無を判定することができるように構成されている。図1の外観斜視図に示すように、感知装置1は測定器11をなす発振回路ユニット12と演算装置13とを備えており、発振回路ユニット12は例えば同軸ケーブル14を介して演算装置13に接続されている。演算装置13の筐体15前面に設けられた表示部16は、例えば周波数あるいは周波数の変化分等の測定結果を表示する役割を果たし、例えば液晶表示画面により構成されている。発振回路ユニット12には感知センサー20が着脱自在に接続される。
【0015】
図2は感知センサー20の斜視図であり、図3は感知センサー20の縦断側面図である。感知センサー20は、配線基板2と、水晶振動子3と、流路形成部材4とにより構成されている。図4は、感知センサー20の各部の上面側を示した分解斜視図であり、図5は感知センサー20の各部の下面側を示した分解斜視図である。これら図2〜図5を用いて感知センサー20について説明する。前記配線基板2は長さ方向の一端側が他端側よりも拡幅されて拡幅部21を形成しており、前記長さ方向の他端側は、上記の発振回路ユニット12の差し込み口17に差し込まれる差し込み部22を形成している。前記拡幅部21には貫通孔23が形成されておいる。貫通孔23を配線基板2の裏面側から塞ぐように、不図示の接着剤によりフィルム24が配線基板2に固着されている。この貫通孔23及びフィルム24によって配線基板2の表面側に開口した凹部が形成されている。
【0016】
配線基板2の表面には配線25、26、27が設けられている。これら配線25〜27は配線基板2の他端側(差し込み部22側)から貫通孔23の外縁部へ、配線基板2の長さ方向に沿って、夫々並行に伸びるように形成されている。配線25、26、27の一端側は拡幅されて夫々端子部25a、26a、27aを形成しており、配線25、26、27の他端側は拡幅されて夫々接続端子25b、26b、27bを形成している。
【0017】
続いて水晶振動子3についてその表面、裏面を夫々示した図6(a)、図6(b)も参照しながら説明する。水晶振動子3は、第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bにより構成されており、これら第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bは、共通の水晶片31を備えている。この水晶片31は、例えばATカットされた矩形状に形成され、その長さ方向の一端側、他端側が夫々第1の振動領域32a、第2の振動領域32bとして構成される。これらの振動領域32a,32bは互いに独立して振動し、夫々前記第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bを構成する。図6中には第1の振動領域32a、第2の振動領域32bを各々点線で囲って示している。第1の振動領域32aの表面側には励振電極33aが形成されており、第2の振動領域32bの表面側には励振電極33bが形成されている。これら励振電極33a、33bは互いの厚さをわずかに変えて形成され、第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bからの主モードの発振周波数を異ならせている。
【0018】
励振電極33a、33bからは、水晶片31の長さ方向の外側に向かって引き出し電極34a、34bが引き出されており、これら引き出し電極34a、34bは、水晶片31の側面を介して水晶片31の裏面の周縁部へと引き回されている。水晶片31の裏面には、その中央部に第1の振動領域32a及び第2の振動領域32bに跨って励振電極35が形成されている。この励振電極35において、振動領域32a、32bの境目から水晶片31の外方へ向かって引き出されるように引き出し電極36が形成されている。
【0019】
図7(a)、(b)は夫々第1の水晶振動子3Aの側面、第2の水晶振動子3Bの側面を模式的に示している。第1の振動領域32aの励振電極33aの表面には感知対象物であるインフルエンザウイルス10と選択的に結合する抗体により構成された吸着膜37が設けられている。第2の振動領域32bの励振電極33bの表面にはインフルエンザウイルス10と励振電極33aとの結合を阻害する阻害膜38が設けられている。
【0020】
この水晶振動子3は、励振電極35が貫通孔23に臨み、水晶片31が貫通孔23を塞ぎ、且つ引き出し電極34a、34b、36が夫々端子部25a、26a、27aに重なり、これら端子部と夫々電気的に接続されるように配線基板2の表面側に設置され、シール材39により当該配線基板2に固定される。このシール材39は、配線基板2に水晶振動子3の外形に沿って形成されたリング状のシートであり、裏面側に接着剤が塗布されている。そして、リングの内側が水晶片31の縁部に密着し、リングの外側が配線基板2の貫通孔23の外縁に密着し、水晶振動子3の裏面に供給液が回り込むことを防ぐ。ただし、シール材39を用いずに、接着剤を水晶片31の裏面の周縁部に塗布し、当該周縁部を貫通孔23の外縁に密着させることで水晶振動子3の裏面への供給液の回りこみを防いでもよい。
【0021】
続いて流路形成部材4について、その横断平面図である図8も参照しながら説明する。この流路形成部材4は角板状に形成され、前記配線基板2の拡幅部21の表面に積層される。配線基板2の前記差し込み部22が設けられる方向を後方側、前記拡幅部21が設けられる方向を前方側とすると、流路形成部材4の前方側には、試溶液の注入口41が円形に開口している。この注入口41は、水晶振動子3の流路形成部材4への投影領域の外側において、当該流路形成部材4を厚さ方向に貫通している。また、流路形成部材4の後方側には、感知センサー20に供給する供給液を貯留する廃液口42が設けられている。この廃液口42は、水晶振動子3の流路形成部材4への投影領域の外側にて開口しており、前記供給液を多く貯留することができるように注入口41よりも大きな面積を持つように、流路形成部材4を厚さ方向に貫通して形成されている。
【0022】
流路形成部材4の裏面の構成について説明する。この裏面には廃液口42よりもさらに後方側に凹部が設けられている。この凹部は水晶振動子3を覆い、当該水晶振動子3の表面側(一面側)に供給液を供給する供給流路43を形成する。また、前記裏面には注入口41と供給流路43とを接続する微細な溝が形成されており、この溝と配線基板2とに囲まれる空間は第1の線状流路44を形成する。さらに前記裏面には廃液口42と供給流路43とを接続する微細な溝が形成されており、この溝と配線基板2とに囲まれる空間は第2の線状流路45を形成する。
【0023】
注入口41に供給された供給液は、後述するように毛細管現象により廃液口42へ自動で流通するようになっている。このように供給液が流通するように図3中H1で示す第1の線状流路44の径及び第2の線状流路45の径は、例えば3μm〜300μmに形成される。また、水晶振動子3の供給流路43の高さも、例えば3μm〜300μmに形成される。
【0024】
流路形成部材4は、例えば自己吸着性が高いPDMS(ポリジメチルシロキサン)により構成されている。流路形成部材4はプラズマ洗浄されて、その表面が活性化されると共に表面の有機物が除去された状態で、図示のように配線基板2に接着される。また、このようにプラズマ洗浄を行うのは、感知センサー20に供給する供給液の第1の線状流路44及び第2の線状流路45に対する親和性を高めて、当該供給液の第1の線状流路44及び第2の線状流路45の流通を容易にすること及び流路形成部材4と配線基板2との密着性を高めて、これらの隙間から供給液の漏れ出しを防ぐことを目的とする。なお、流路形成部材4としてはPDMSの他に例えばアクリル樹脂や水晶などにより構成することができる。
【0025】
注入口41には円柱状のフィルタ46が着脱自在に設けられる。このフィルタ46は多孔質体であり、例えばポリエステルからなるストロー状の化学繊維を束ねて構成されており、ストローの側壁にも多数の小孔が形成されている。フィルタ46の上部に滴下された供給液は、フィルタ46の微細な孔を通過してフィルタ46の下方へと流れ、さらに第1の線状流路44へ導入される。このフィルタ46は、供給液中に含まれる異物を孔内に捕捉することで第1の線状流路44、第2の線状流路45及び供給流路43が詰まることを防ぐ役割を有する。また、ミクロ的に見ると、フィルタ46を通過した供給液は微細に分割された状態となっているので、フィルタ46を通過させずに注入口41に供給した供給液と比べて、表面張力により配線基板2上で凝集する傾向が抑えられる。従って、フィルタ46を通過した供給液は第1の線状流路44へ速やかに導入される。なお、フィルタ46の材質としてはポリエステルに限られないが、速やかに供給液を通過させるために、当該供給液と親和性の高い材質を選択することが好ましい。
【0026】
上記の感知センサー20の差し込み部22が、発振回路ユニット12の差し込み口17に差し込まれると、差し込み部22の接続端子25b、26b、27bが、発振回路ユニット12においてこれら接続端子25b〜27bに対応して形成された接続端子部51〜53に電気的に接続されて、図1に示した感知装置1を構成する。図9は感知装置1のブロック図であり、この図9を参照しながら感知装置1について説明する。感知装置1を構成する発振回路ユニット12には第1の発振回路54a及び第2の発振回路54bが設けられており、第1の発振回路54aは第1の水晶振動子3Aを、第2の発振回路54bが第2の水晶振動子3Bを夫々発振させる。
【0027】
続いて感知装置1を構成する演算装置13に設けられる各部について説明する。前記発振回路54a、54bの後段にはスイッチ部56が設けられており、このスイッチ部56によって2つの発振回路54a、54bからの周波数信号を時分割して後段に取り込み、各振動領域の発振周波数を並行して求めることができる。第1の発振回路54aからの出力をチャンネル1、第2の発振回路54bからの出力をチャンネル2とすると、例えば1秒間をn分割(nは偶数)し、各チャンネルの発振周波数を1/n秒の処理で順次求めることにより、1秒間に少なくとも1回以上周波数を取得しているため、実質同時に各チャンネルの周波数を取得することができる。
【0028】
スイッチ部56の後段には測定回路部57が設けられている。測定回路部57は入力信号である周波数信号をディジタル処理して、各チャンネルの発振周波数を測定する。以下、チャンネル1、2の出力を夫々F1、F2で表す。また、演算装置13はデータバス61を備えており、データバス61にはCPU62、データ処理プログラム63を格納した記憶手段、メモリ64及び既述の測定回路部57が接続されている。更にデータバス61には既述の表示部16やキーボード等の入力手段66が接続されている。
【0029】
データ処理プログラム63は、測定回路部57から出力される信号に基づいて発振周波数「F1」の時系列データ及び発振周波数「F2」の時系列データを取得し、第1のメモリ64に格納する。またこのデータ取得動作と同時に、同一の時間帯におけるチャンネル1から取得した発振周波数F1、チャンネル2から取得した発振周波数F2の各時系列データの差分「F1−F2」を夫々演算し、当該差分データの時系列データを取得してメモリ64に格納すると共に、この「F1−F2」のグラフを表示部16に表示する。
【0030】
次に感知装置1を用いて、試料液中のインフルエンザウイルスの有無を判定する工程について、図10〜図12を参照しながら説明する。この図10〜図12は、感知センサー20に供給された各供給液が流れる様子を示すために、流路形成部材4の横断平面を示したものであるが、図示の便宜上、断面であることを示すハッチングを省略している。また、図13(a)は測定中に表示部16に表示されるグラフを一例として概略的に示したものであり、このグラフも適宜参照しながら説明する。グラフの縦軸はチャンネル間の周波数差「F1−F2」を、横軸は時間を夫々表している。
【0031】
なお、感知センサー20に供給する液を総称して供給液と記載する。そして、その供給液において、感知対象物を含まずに水晶振動子3の周囲を液体雰囲気にするための液を参照液と記載し、感知対象物を含むか否か判定を行うために感知センサー20に供給する液を試料液と記載する。この例では参照液は生理食塩水とし、試料液は人間の鼻腔拭い液を生理食塩水で希釈したものを用いる。図10〜図12で、参照液には多数の点を付して、試料液には斜線を付して夫々示している。
【0032】
まず測定器11を起動し、感知センサー20を発振回路ユニット12の差込み口に差し込むと、各水晶振動子3A、3Bが発振し、夫々の周波数に対応する周波数信号F1、F2が取り出される。そして、これら周波数信号は時分割されて、測定回路部57に取り込まれ、A/D変換された後、各ディジタル値が信号処理される。そして2つのチャンネルの周波数信号から、前記周波数「F1、F2」が取り出されメモリ64に記憶され、さらに記憶された「F1、F2」に基づいて「F1−F2」が演算されてメモリ64に記憶される動作が継続される。また、表示部16に既述のグラフが表示され、周波数差「F1−F2」の変化がリアルタイムで表示される。グラフ中の時刻t0は、このように感知装置1を起動した後の所定の時刻である。具体的な発振周波数としては、例えばF1が30.834MHz、F2が30.934MHzである。
【0033】
次いで、図10(a)に示すようにユーザが感知センサー20の注入口41に設けられたフィルタ46上にスポイトにより例えば参照液(生理食塩水)を滴下する(グラフ中時刻t1)。参照液はフィルタ46に吸収され、フィルタ46内を重力により下方へと向かい、第1の線状流路44の入り口へ押し流され、毛細管現象により当該第1の線状流路44を供給流路43に向けて流れる(図10(b))。供給流路43に供給された参照液は、毛細管現象により第2の線状流路45へと向かい、それによって水晶振動子3の振動領域32a、32bの環境雰囲気が気相から液相に変わり、水圧に基づく質量負荷効果により各チャンネルの出力周波数F1、F2が低下する。
【0034】
供給流路43に流入した参照液は、続いて第2の線状流路45に進入し、廃液口42へと流れ込み、当該廃液口42に貯留される(図11(c))。フィルタ46に含まれる参照液が少なくなる一方で、廃液口42に貯留される参照液が増加してゆき、廃液口42の水圧が高くなると、注入口41から廃液口42への参照液の移動が停止する。
【0035】
続いて、試料液をフィルタ46上に滴下する(時刻t2)。試料液は、参照液と同様に重力によってフィルタ46を下方に向かい、それによってフィルタ46に残留していた参照液が下方へと押し流され、当該参照液がすべて第1の線状流路44に流れ、廃液口42へと向かう。そして、試料液は参照液と同様に第1の線状流路44を毛細管現象により供給流路43へと進入し、第2の線状流路45の入り口に向かって流れ、供給流路43の参照液が試料液に置換される(図11(d))。
【0036】
試料液にインフルエンザウイルスが含まれる場合、第1の水晶振動子3Aでは、試料液の温度や粘性により周波数が変化することに加えて、当該インフルエンザウイルスが抗原抗体反応により吸着膜37に吸着され、質量負荷効果により周波数「F1」の値がさらに低下する。その一方で、第2の水晶振動子3B側のチャンネル2からは、試料液の温度や粘性に応じて変化する周波数「F2」が出力される。このような周波数変化の結果、図13(a)に示すように周波数差「F1−F2」が低下する。試料液は、供給流路43から廃液口42へと流れて廃液口42に貯留される。図13(a)では上記の抗原抗体反応により「F1−F2」が500Hz低下した例を示している。そして、廃液口42内の液量が上昇し、水圧が高くなると、注入口41から廃液口42への試料液の移動が停止する(図12(e))。
【0037】
試料液がインフルエンザウイルスを含まない場合も、インフルエンザウイルスを含む場合と同様に流通するが、第1の水晶振動子3Aでは上記の抗原抗体反応が起こらず、チャンネル1及びチャンネル2からは試料液の温度や粘性に応じて変化する周波数「F1」、「F2」が取り出されるので、図13(b)に示すように周波数差「F1−F2」が殆ど変化しない。そして、ユーザは、時刻t1からt2までの「F1−F2」の値aと、時刻t2以降の「F1−F2」の値bとの差分値a−bを計算し、この差分値a−bが所定の許容値に収まっていれば、試料液中にインフルエンザウイルスは無いものと判定し、差分値a−bが許容値を超えていれば試料液中にインフルエンザウイルスが存在するものと判定する。
【0038】
このように感知センサー20では、供給液が毛細管現象により注入口41から水晶振動子3の供給流路43を経由して廃液口42へ向かう。従って、供給液を注入口41から廃液口42へ向けて流すためにポンプなどの機器を設ける必要が無いので、感知装置1の大型化や複雑化を防ぎ、簡便に測定を行うことができる。
【0039】
また、供給液が水晶振動子3の表面に溜まった状態のままになる特許文献1の感知センサーに比べて、供給流路43に感知対象物を含まない参照液が供給されたときの周波数差「F1−F2」を取得した後で、供給流路43に試料液が供給されたときの周波数差「F1−F2」を取得することができるので、参照液による試料液の低下を抑えることができる。また、参照液と試料液とを別々の感知センサーに供給して、夫々周波数を測定する必要が無いので、測定に使用する感知センサー20の数を少なくすることができるので、測定の低コスト化を図ることができる。また、特許文献1の感知センサーでは、溜まった試料液は静止状態に置かれ、試料液中に含まれる感知対象物の分子のブラウン運動を利用して当該分子を吸着膜37に吸着させるので、試料液の量が多いと十分に吸着させるまでに比較的多くの時間を要する。しかし、感知センサー20では、試料液が第1の線状流路44から第2の線状流路45へ向けて水晶振動子3上を流通するために、感知対象物はこの試料液の流れに従って吸着膜37に接し、速やかに反応する。その結果として測定時間の短縮を図ることができる。
【0040】
また、感知センサー20では、水晶振動子3の周囲の温度や液体の粘性などの環境が変化しても、水晶振動子3を各チャンネルで共通化しているため、各チャンネルに同様の周波数変化が現れる。従って、各チャンネルの周波数差「F1−F2」を取ることで、前記環境の変化に起因する変化(計測雑音)が相殺され、この周波数差「F1−F2」の変化量にはインフルエンザウイルスの吸着膜37への吸着量が精度高く反映される。従って、試料液中のインフルエンザウイルスの有無を精度高く判定することができる。
【0041】
さらに、上記の感知センサー20によれば、背景技術の項目で説明したサンドイッチ法のように、吸着膜37を構成する抗体に吸着された感知対象物をさらに所定の化合物と結合させ、感知対象物を前記抗体及び前記化合物で挟み込む必要が無い。従って、例えば抗生物質や抗菌剤などの低い分子量を持った化合物の感知や定量を行うことができる。ただし、測定の精度をさらに高めるために、上記のように試料液を感知センサー20に供給した後に、吸着膜37に吸着された感知対象物と結合する増感材を含んだ処理液を感知センサー20に供給してもよい。前記感知対象物と増感材とが結合することで、チャンネル1の周波数がさらに低下し、「F1−F2」がさらに低下する。即ち、試料液中の感知対象物の濃度に応じて、「F1−F2」がより大きく変化することで、感知センサーの感度が高められる。増感材を含む処理液は前記試料液と同様に注入口41に供給されて、毛細管現象により各流路を流れると共に残留する試料液を廃液口42へと押し流す。それによって供給流路43が試料液から処理液に置換される。
【0042】
上記のようにフィルタ46を装着することで、より確実に測定を行うことができるが、フィルタ46を取り外した状態で注入口41に供給液を滴下しても測定を行うことができる。また、上記の例では、試料液中の感知対象物の有無を検出しているが、上記の発振周波数差「F1−F2」の変化量(a−b)と試料液中の感知対象物の濃度との関係式(検量線)を予め取得しておき、この関係式と測定により得られた変化量(a−b)とから、試料液中の感知対象物の濃度を求めてもよい。
【0043】
上記の感知センサー20において、フィルム24により貫通孔23を塞がなくても、測定を行う際に配線基板2が床に置かれ、それによって貫通孔23が塞がれてもよい。つまり、配線基板2の凹部は貫通孔として構成されていてもよい。
また、水晶振動子3A、3Bは共通の水晶片に形成することに限られず、分割した水晶片により構成され、各水晶片を互いにごく近くに配置してもよい。
【0044】
上記の感知センサー20は、図14に示す外装ケース81により覆われた構成としてもよい。この外装ケース81は、感知センサー20の各部の強度を維持し、且つ長期に品質を維持するために設けられる。図14(a)、(b)は外装ケース81の裏面、表面を夫々示している。また図15には外装ケース81を取り付けた感知センサー20の縦断側面図を示している。外装ケース81は表面カバー82及び裏面カバー83を備え、これらカバー82,83は蝶番84に接続され、感知センサー20を挟んだ状態で閉じて、感知センサー20を覆う。表面カバー82には切り欠き85が設けられており、この切り欠き85を介して配線基板2の接続端子25b〜27bが露出する。これによって、配線基板2を発振回路ユニット12の差し込み口17に差し込んだときに上記の実施形態と同様に、水晶振動子3の各電極が発振回路54a、54bに電気的に接続できるようになっている。図中86は配線基板2の側方の位置を規制する規制部であり、87は配線基板2の裏面を支持する支持ピンである。図中88は供給液をガイドするための凹部であり、図中89は注入口41に重なるように形成された孔部である。この孔部89を介して供給液を注入口41に供給することができる。
【0045】
図16、図17はさらに他の実施形態の感知センサー100の斜視図、縦断側面図を夫々示している。この感知センサー100において、感知センサー20と同様に構成されている箇所については同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。感知センサー100は、配線基板111と、水晶振動子121と、下部側流路形成部材131と、上部側流路形成部材141と、入口側毛細管部材151と、出口側毛細管部材152とにより構成される。
【0046】
感知センサー100の各部材の表側、裏側を夫々示した分解斜視図である図18、図19も参照しながら説明する。配線基板111は直線方向に延伸された形状を有し、その外形が異なることを除いて配線基板2と同様に構成されている。図中112〜114は切り欠きであり、115は貫通孔である。
【0047】
水晶振動子121は、水晶片の形状及び電極の形状の違いを除いて水晶振動子3と同様に構成されており、第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bを含む。水晶振動子121の裏面側、表面側を夫々示した図20(a)、図20(b)も参照しながら説明する。水晶振動子121の水晶片122は円形である。水晶片122の裏面側には励振電極123、124が形成されている。この励振電極123、124は水晶片122の中心から各々同じ距離を離れるように配設され、水晶片122の直径方向に沿って互いに並行に延伸されるように形成されている。そして、励振電極123、124は、その配列方向に見て、前記水晶片122の中心に対して対称に形成されている。引出電極34a、34bは、励振電極123、124の長さ方向の中心部から、前記長さ方向と直交するように水晶片122の周縁部へ向けて引き出されるように形成されている。
【0048】
水晶片122の表面側には励振電極125が設けられている。励振電極125は、励振電極123、124に重なるように水晶片122の直径方向に沿って互いに並行に形成された二本の直線部を備える。各直線部の一端部側に挟まれると共に当該各直線部の一端部に接続されるように引出電極36の一端が形成されており、この引出電極36はその他端が前記直線部の伸長方向に沿って水晶片122の周縁部へと伸び、水晶片122の裏面側の周縁部へ引き回されるように形成されている。
【0049】
励振電極125は一体に形成されているが、便宜上励振電極123、124に対向している各領域、即ち上記の各直線部を励振電極125A、125Bとし、第1の振動領域3Aに設けられる励振電極を125A、第2の振動領域3Bに設けられる励振電極を125Bとする。励振電極125A、125Bは、水晶片122の中心に対して当該励振電極125A、125Bの配列方向に対称に形成されている。励振電極125Aの表面、励振電極125Bの表面には夫々吸着膜37、阻害膜38が形成されている。
【0050】
下部側流路形成部材131は板状に構成されており、配線基板111の長さ方向において、感知装置1への差し込み部22を構成する他端部側を露出させ、水晶振動子121が設けられる一端部側を覆うように形成されている。この下部側流路形成部材131はPDMSにより構成されているため自己吸着性が高い。つまり配線基板111への吸着性が高いので、配線基板111と下部側流路形成部材131との間からの供給液の漏れが防がれるようになっている。下部側流路形成部材131の下側には、水晶振動子121及び配線25〜27が収まるようにこれらの外形に沿って凹部132が設けられている。
【0051】
この凹部132には、水晶振動子121に夫々重なるように、下部側流路形成部材131の厚さ方向に向かって貫通孔133、134が穿孔されており、これらの貫通孔133、134を囲む枠部135が下側に突出して形成されている。貫通孔133、134は配線基板111の長さ方向に沿って配列されている。前記枠部135に囲まれる領域は、流路136を形成する。この流路136は水平な天井面を備える。また、流路136の下面は水晶振動子121により構成される。この流路136において水晶振動子121から天井面までの高さは例えば1μm〜300μmである。図18中137は切り欠きであり、138は貫通孔である。これら切り欠き137及び貫通孔138は、配線基板111の切り欠き112、貫通孔115に夫々重なるように形成される。
【0052】
ところで、水晶振動子121の引出電極36が配線基板111の配線27に重なるように設けられるため、図17では水晶片122の周縁部が配線基板111から浮いたように示されているが、実際には水晶振動子の各電極及び配線基板の各配線の厚さは極めて小さいため、水晶振動子121の周縁部は配線基板111に接し、水晶振動子121は配線基板111に略水平な状態で設けられ、前記流路136は、配線基板111の貫通孔23から区画される。
【0053】
上部側流路形成部材141は、例えばプラスチックなどの樹脂により構成された板状部材であり、下部側流路形成部材131を覆うように形成されている。上部側流路形成部材141の下面側について説明すると、当該上部側流路形成部材141を厚さ方向に貫通する貫通孔142が開口しており、この貫通孔142は前記下部側流路形成部材131の貫通孔133に重なる位置に形成されている。また、この下面には後述の廃液領域143をなすための凹部が形成されており、この凹部は、前記下部側流路形成部材131の貫通孔134に重なる位置から配線基板111の他端側へ向かって広がるように形成されている。
【0054】
図中の突起144は、下部側流路形成部材131の側方を通過し、配線基板111に進入し、突起145は、配線基板111の貫通孔115及び下部側流路形成部材131の貫通孔138に進入する。これら突起144、125によって、下部側流路形成部材131の横方向への位置ずれが防がれる。また、図中の爪部146、147は、配線基板111と上部側流路形成部材141との間に水晶振動子121及び下部側流路形成部材131が挟まれた状態で、前記配線基板111の切り欠き112、123の裏面側の縁部に係合する。このように係合することにより、下部側流路形成部材131の枠部135が水晶振動子121の縁部を配線基板111の貫通孔23の外縁に押圧した状態となり、水晶振動子121が前記貫通孔23を塞ぐように配線基板111に固定される。
【0055】
上部側流路形成部材141の上面側には、液受け部148として構成される凹部が形成されており、この凹部内に前記貫通孔142が開口している。また、この上面側には前記廃液領域143を形成する凹部に開口した通気口149が設けられており、この感知センサー100内を供給液が流通するときに各流路の気体はこの通気口149から感知センサー100の外部へ押し出される。
【0056】
入口側毛細管部材151、出口側毛細管部材152は例えば多孔質体であるセルロースにより構成されている。入口側毛細管部材151は感知センサー20のフィルタ46に相当し、下部側流路形成部材131の貫通孔133を塞ぎ、その上端側が液受け部148に露出し、その下端側が下部側流路形成部材131の流路136内に進入するように設けられている。
【0057】
出口側毛細管部材152は、下部側流路形成部材131の貫通孔134を塞ぎ、その上端側が上部側流路形成部材141の凹部143内に進入し、その下端側が下部側流路形成部材131の流路136内に進入するように設けられている。毛細管部材151、152においては、前記セルロースの繊維間の空隙を毛細管現象により供給液が流通する。図20(b)に示すように前記入口側毛細管部材151から出口側毛細管部材152に向かって見て、第1の水晶振動子3Aの励振電極125Aと、第2の水晶振動子3Aの励振電極125Bとが左右対称なレイアウトとなるように水晶振動子121が配置される。
【0058】
上部側流路形成部材141の凹部143と下部側流路形成部材131の上面とは図17に示すように廃液領域143を構成し、水晶振動子121表面を通過した供給液が貯留される。この廃液領域143を構成する壁面は、当該廃液領域143へ容易に供給液を流入させるために親水性を有する材質によりコーティングされている。
【0059】
続いて、感知センサー100を用い、上記の感知センサー20の例と同様に試料液中のインフルエンザウイルスの有無を判定する工程について説明する。この感知センサー100は、感知センサー20と同様に発振回路ユニット12に接続された後、図21(a)に示すようにインジェクタを用いて液受け部148に、例えば生理食塩水からなりインフルエンザウイルスを含まない参照液を滴下する。この参照液は毛細管現象により入口側毛細管部材151に吸収され、当該毛細管部材151内を流通し(図21(b))、流路136に流れこんで水晶振動子121の一端部側の表面に供給される。
【0060】
水晶振動子121を構成する水晶片132の表面は親水性であるため、参照液はその表面張力による凝集力に比べて水晶片132からの界面張力を強く受ける結果、下部側流路形成部材131の撥水性が比較的高い場合においても流路136内を濡れ広がろうとする作用が強く働く。その結果、毛細管現象によって参照液は流路136を水晶振動子121の他端部側へと流れ、流路136に広がった参照液に続いて入口側毛細管部材151の参照液は、表面張力により水晶片132の表面へと引き出される。このようにして液受け部148から流路136へ連続して参照液が流れていく(図21(c))。なお、ここで毛細管現象とは上記のように液体が、当該液体が接する物体がなす空間内を、前記物体との界面張力により当該液体が有する表面張力に抗して自動で濡れ広がって移動することを指し、液体が移動する方向が上下方向である場合だけでなく、横方向であっても毛細管現象という用語を使用する。
【0061】
流路136を流れる参照液が、励振電極125A、125B表面に供給されると、既述のようにこれら励振電極125A、125Bは流路126の入口側から出口側へ向かって見て対称に形成されているため、等しく水圧の影響を受ける。これによって第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bの発振周波数F1、F2が共に等しく低下する。つまりF1−F2がこの水圧の影響を受けて変化することが抑えられるので、F1−F2の測定データにノイズが発生することが抑えられる。励振電極125A、125B及び電極表面に形成される各膜37、38も比較的親水性が高いため、各電極125A、125B表面においても参照液はスムーズに流れる。
【0062】
そして、水晶振動子121表面の参照液が出口側毛細管部材152に供給されると、毛細管現象により出口側毛細管部材152に吸収され(図22(a))、当該毛細管部材152内を流れ、廃液領域143へ滲み出る。このように入口側毛細管部材151から出口側毛細管部材152までの流路が参照液で満たされることにより、毛細管現象に加えてサイホンの原理が働き、引き続き自動的に液受け部148の参照液が水晶振動子121表面を通過して廃液領域143へ流れ込む。
【0063】
液受け部148の参照液がすべて入口側毛細管部材151に流れ込むと、入口側毛細管部材151内の参照液が受ける圧力と、出口側毛細管部材152内の参照液が受ける圧力とが等しくなり、参照液の流れが一旦停止する(図22(b))。その後、参照液と同様に試料液を液受け部148へ供給すると、入口側毛細管部材151に吸収されている参照液に加わる圧力が高くなり、サイホンの原理と毛細管現象とによって当該参照液は再び廃液領域143へ向かって流れ、試料液が入口側毛細管部材151に吸収される。なお、図中試料液は参照液よりも濃いグレーで表示している。吸収された試料液は、参照液に続いて入口側毛細管部材151から流路136に流れ込み、参照液と同様に流路136を流れ、流路136が参照液から試料液に置換される(図22(c))。
【0064】
このときにも、励振電極125A、125Bが流路136の入口側から出口側に見て対称に形成されているため、これらの電極125A、125Bは流路136内の液の切り替わりによる圧力変化を均等に受け、当該圧力変化による第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bの発振周波数が互いに揃って変化する。従って、このときにもF1−F2の測定データにノイズが発生することが抑えられる。
【0065】
流路136を広がった試料液は出口側毛細管部材152に流れ、廃液領域143に流れ込み、入口側毛細管部材151から廃液領域143に至るまで試料液が流れ続ける。このときに感知センサー20と同様に試料液中に測定対象物(この例ではインフルエンザウイルス)が含まれる場合には吸着膜に当該インフルエンザウイルスが吸着され、この吸着量に応じて周波数F1が下降し、F1−F2が変化する。液受け部148の試料液がすべて入口側毛細管部材151に流れ込むと、入口側毛細管部材151内の試料液が受ける圧力と、出口側毛細管部材152内の試料液が受ける圧力とが等しくなり、試料液の流れが停止する(図22(d))。このようにF1−F2の変化に基づいて試料液中のインフルエンザウイルスの有無の判定を行うことができる。また、感知センサー20と同様に発振振周波数差F1−F2の変化量と試料液中の感知対象物の濃度との関係式を取得しておき、この関係式と測定により得られた変化量とから、試料液中の感知対象物の濃度を求めてもよい。
【0066】
この感知センサー100においては、感知センサー20と同様に供給液を流すためのポンプなどを設ける必要が無いので、装置の大型化や複雑化を防ぐことができるし、上記のように自動で供給液が流れるように流路136の高さが抑えられているため、試料液中の感知対象物は水晶振動子121の吸着膜37の近傍を流れるので、当該吸着膜37に吸着されやすい。従って、測定の感度を高くすることができ、測定に要する時間が短くなる。また、先に供給した供給液は、後から供給液を供給すると廃液領域143に流されて、流路136から除去されるため、上記の測定手法において先に供給された参照液により後から供給された試料液が希釈されることが防がれるので、このことによっても測定の感度が高くなる。
【0067】
また、この感知センサー100を用いる場合にも試料液を感知センサー100に供給した後に、吸着膜37に吸着された感知対象物と結合する増感材を含んだ供給液(増感液)を供給することができ、さらにそのように感知対象物に結合された増感材にさらに結合する増感材を含んだ増感液を供給して、増感を行うことができる。このような増感液を用いる場合にも当該増感液を流路136に供給したときに先に供給された液が流路136から排液されるので、増感液の希釈が防がれる。従って増感材の結合が速やかに起こるので、測定の感度を高くできると共に測定時間が長くなることを抑えることができる。
【0068】
また、上記の感知センサー20、100においては水晶振動子上の流路に満たされた供給液が流れるため、水晶振動子3の表面の収容空間に供給液が貯留され、静止状態で吸着膜と反応させる特許文献1の感知センサーに比べて、供給液の液面の揺れにより第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bの周波数が変動することを抑えることができる。さらに、滴下した液が毛細管を介して水晶振動子表面に供給されることにより、水晶振動子に直接供給液を滴下する場合に比べて、供給液の滴下の衝撃による周波数の変動を抑えられるため、精度高い測定を行うことができる。
【0069】
また、感知センサー100では、毛細管形成部材151の微細な孔が供給液の注入口を形成しており、さらに、廃液領域143の上側の一部の領域のみが気体の通気口として感知センサー100の外部に開放されている。これによって、感知センサー100内に進入した供給液が外部の空気に曝されて乾燥することが抑えられる結果、前記供給液の密度の変化が抑えられるので、精度高くF1−F2を検出することができる。なお、感知センサー20においては廃液口42が廃液領域及び気体の通気口を構成する。また、感知センサー100においても感知センサー20と同様に水晶振動子121の側方側から液の供給及び排出を行ってもよい。また、この感知センサー100においても、水晶振動子3A、3Bを分割した水晶片により構成し、各水晶片を互いにごく近くに配置してもよい。
【0070】
(評価試験)
感知センサー100を用いて上記の実施形態に従ってF1、F2及びF1−F2が変化する様子を調べた。この評価試験では試料液としてCRPを夫々異なる濃度に調製した溶液を注入した。各試料液のCRPの濃度は100ng/mL、1μg/mL、10μg/mLであり、この順番で注入を行った。各試料液を注入した時刻をt1、t2、t3とする。また、これら試料液の注入前に、上記の実施形態と同様に試料液の調整前にCRPを含まない参照液を注入した。この参照液を注入した時刻をt0とする。なお、第1の水晶振動子3Aの吸着膜37としてはこのCRPを吸着することができる抗体が設けられている。
【0071】
図23は、発振周波数F1、F2、F1−F2の変化を示したグラフである。グラフの縦軸は発振周波数(単位:Hz)であり、50Hz刻みで目盛りを付している。グラフの横軸は発振周波数(単位:秒)であり120秒刻みで目盛りを付している。点線のグラフ線でF1を示し、鎖線のグラフ線でF2を示し、実線のグラフ線でF1−F2を示している。各時刻t0〜t3付近において、流路136内の雰囲気が気相から液相に変わったこと、液受け部148への供給液の滴下により水晶振動子121に衝撃が加わったことによるF1、F2のピークが出現している。そして、F1−F2を見るとこれらのピークが打ち消され、供給した試料液中のCRPの濃度が高くなるに従ってF1−F2の値が低くなっている。従って、この実験から流路136内の液は液受け部148に液を供給する度に入れ替わることが示された。従って、この感知センサー100を用いることで感知測定物質の検出及び定量を行うことができることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1 感知装置
2 配線基板
3、121 水晶振動子
4 流路形成部材
11 測定器
20 感知センサー
3A 第1の水晶振動子
3B 第2の水晶振動子
31 水晶片
32a,32b 振動領域
33a,33b 励振電極
38 吸着膜
41 注入口
42 廃液口
43 供給流路
44 第1の線状流路
45 第2の線状流路
46 フィルタ
111 配線基板
136 流路
151 入口側毛細管部材
152 出口側毛細管部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振周波数を測定するための測定器に接続される接続端子を備えると共に一面側に凹部が形成された配線基板と、
圧電片に励振電極を設けて構成され、各々前記凹部を塞ぎ且つ振動領域が凹部と対向するように前記配線基板に固定されると共に、励振電極が前記接続端子に電気的に接続される第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子と、
第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子を含む配線基板の一面側の領域を覆うように設けられた流路形成部材と、
前記流路形成部材に開口した試料液の注入口と、
前記流路形成部材に設けられ、前記注入口から注入された試料液が貯留される廃液領域と、
前記配線基板と流路形成部材との間に形成され、前記注入口から両方の圧電振動子の一面側を介して廃液領域へ毛細管現象により試料液を流通させるための流路と、
前記流路に試料液を流通させるために、前記廃液領域に接続するように流路形成部材に開口した通気口と、
前記第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子のうち一方のみに前記流路に面して設けられ、試料液中の感知対象物を吸着する吸着膜と、
を備えることを特徴とする感知センサー。
【請求項2】
前記第1の圧電振動子の励振電極及び第2の圧電振動子の励振電極は、共通の圧電片上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の感知センサー
【請求項3】
前記注入口は、多孔質のフィルタの孔により構成される特徴とする請求項1または2記載の感知センサー。
【請求項4】
前記フィルタは化学繊維束により構成されることを特徴とする請求項3記載の感知センサー。
【請求項5】
前記第1の圧電振動子の励振電極、第2の圧電振動子の励振電極は、圧電片上において前記流路を注入口側から廃液領域側へ向かって見て左右対称に形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の感知センサー。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の感知センサーと前記測定器とを含んだことを特徴とする感知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−145566(P2012−145566A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254326(P2011−254326)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)