説明

感知方法

【課題】感知対象物の分子量が小さい場合であっても当該感知対象物を感度高く、さらに簡便に検出することができる技術を提供すること。
【解決手段】その表面に感知対象物が吸着するように構成された圧電振動子を発振させる工程と、前記感知対象物と競合して前記圧電振動子の表面に吸着し、感知対象物よりもその分子量が大きい競合物質を含んだ試料液を、当該圧電振動子の表面に供給する工程と、前記試料液がその表面に供給される前後の前記圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、測定された各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、を行うことで、感知対象物を簡便に検出することができ、検出感度を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を用いて感知対象物を検出する感知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品衛生分野では食品中のカビ毒や抗生物質などの比較的分子量が低い物質の検出や定量が行われる。特にカビ毒は僅かな量でも人体に毒性を示すことからカビ毒検査には高感度な測定法が必須である。また、医薬品開発の分野でも低分子物質の検出や定量を行う場合がある。従来、これら低分子物質の測定にはクロマトグラフィー分析やELISA法が用いられている。このELISA法では、低分子物質である感知対象物に結合する抗体などを予めプレートに結合させておき、感知対象物と、発色性タンパク質が結合した所定の化合物とを競合させて前記抗体に反応させる。その後、試薬を加えて前記抗体に結合した発色性タンパク質を発色させ、発色に基づいて感知対象物の検出または定量を行う。しかし、前記クロマトグラフィー分析は、カラムによる感知対象物の分離に時間がかかるし、ELISA法では複数段階の化学反応を行うため煩雑かつ測定に時間を要する。なお、一般的にELISA法として用いられるサンドイッチ法は、低分子物質が複数の物質と結合しにくいため適さない。
【0003】
そのようなことから、特許文献1に示されるようなQCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用した感知手法を用いることが考えられる。この感知手法について簡単に説明すると、感知装置に設けられた水晶振動子の表面に前記試料液が供給される。そして、水晶振動子の表面に試料液中の感知対象物が吸着されると、質量付加効果により吸着量に応じて水晶振動子の発振周波数が変化する。この周波数変化量に基づいて試料液中の感知対象物の検出または定量を行う。
【0004】
ところで、このQCMによる感知方法では質量付加効果を利用していることから、感知対象物の分子量が大きいほど前記吸着量に対する周波数変化量が大きい、即ち感度が高いため、試料液に含まれる感知対象物が低濃度であっても計測が可能である。しかし、感知対象物が低分子物質である場合には前記吸着量に対する周波数変化量が小さいので、感度が低くなってしまう。従って、試料液に含まれる感知対象物の濃度が低いと計測が行えなくなる。例えば水晶振動子の表面に感知対象物を直接物理吸着させる場合、分子量が約150000の抗体は、試料液中の濃度が10ng/mL(70pM)程度であっても定量を行うことができると考えられている。しかし、分子量が約80の低分子物質、例えば2−メルカプトエタノールは、5μg/mL(50μM)が検出限界であると考えられている。
【0005】
このような問題に対して、水晶振動子に供給する試料液の希釈率を低くして感度を上げることが考えられる。ところが、一般的に低分子物質は水に対する溶解性が低く、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの有機溶媒に溶解する性質がある。そのため、上記のように試料液の希釈率を低くすると、試料液中の有機溶媒の比率が高くなるが、有機溶媒は水に比べて粘性が高い場合が多いため、この有機溶媒により水晶振動子の発振が妨げられ、正常な測定ができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-178348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、感知対象物の分子量が小さい場合であっても当該感知対象物を感度高く、簡便に検出することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の感知方法は、その表面に感知対象物が吸着する圧電振動子を発振させる工程と、
前記感知対象物と競合して前記圧電振動子の表面に吸着し、感知対象物よりもその分子量が大きい競合物質を含んだ試料液を、当該圧電振動子の表面に供給する工程と、
前記試料液がその表面に供給される前後の前記圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、
測定された各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他の発明の感知方法は、圧電振動子を発振させる工程と、
感知対象物よりもその分子量が大きく、感知対象物と結合することにより保有する前記圧電振動子の表面への吸着性が失われる結合物質を含む試料液を圧電振動子の表面に供給し、前記感知対象物に結合していない結合物質を当該圧電振動子の表面に吸着させる工程と、
前記試料液がその表面に供給される前後の前記圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、
測定された各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
前記感知対象物の検出を行う工程は、
予め設定された試料液の供給前後における圧電振動子の固有振動数と試料液中に含まれる感知対象物の濃度との対応関係に基づいて、感知対象物の濃度を特定する工程を含んでいてもよい。また、その表面に感知対象物が吸着しない参照用の圧電振動子を発振させる工程と、
前記試料液を当該参照用の圧電振動子の表面に供給する工程と、
前記試料液がその表面に供給される前後の前記参照用の圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、
測定された前記各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の感知方法によれば、感知対象物と感知対象物よりも分子量が大きい競合物質とが競合して圧電振動子の表面に吸着され、吸着前後の固有振動数の変化に基づいて感知対象物を検出する。また、試料液に感知対象物よりも分子量が大きい結合物質を添加して、感知対象物に結合せずに遊離している結合物質を圧電振動子に吸着させ、吸着前後の周波数変化に基づいて感知対象物を検出する。従って、試料液中の感知対象物の分子量が小さくても周波数変化を大きくすることができるため、感度高く感知対象物の検出を行うことができる。また、周波数の変化に基づいて感知対象物の検出を行うため、ELISA法のように感知対象物を複数段階にわたって化学反応させる必要が無く、簡便に検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る感知方法を実施する感知装置の外観構成図である。
【図2】前記感知装置を構成する感知センサーの斜視図である
【図3】前記感知センサーの縦断側面図である。
【図4】前記感知センサーを構成する水晶振動子の斜視図である。
【図5】前記水晶振動子の側面の模式図である。
【図6】前記感知装置の構成を示すブロック図である。
【図7】水晶振動子表面へのビオチン結合BSAの吸着を示す模式図である。
【図8】前記吸着による周波数変化を示すグラフ図である。
【図9】水晶振動子表面へのビオチン結合BSAの吸着を示す模式図である。
【図10】前記吸着による周波数変化を示すグラフ図である。
【図11】検量線の一例を示すグラフ図である。
【図12】測定手順を示す説明図である。
【図13】水晶振動子表面の変化を示す模式図である。
【図14】水晶振動子表面の変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、本発明の感知方法を実施するための感知装置1について説明する。この感知装置1は、例えば低分子物質であるビオチン(分子量244)を感知対象物として、その定量を行う。図1の外観構成図に示すように、感知装置1は発振回路ユニット11と演算装置12とを備えており、発振回路ユニット11はケーブル13を介して演算装置12に着脱自在に接続されている。演算装置12の筐体14前面に設けられた表示部15は、例えばLED表示画面や液晶表示画面により構成され、周波数あるいは周波数の変化分等の測定結果を表示する。
【0014】
発振回路ユニット11には、感知センサー2が着脱自在に接続される。図2には感知センサー2の斜視図を、図3には感知センサー2の縦断側面図を夫々示している。感知センサー2は、一端側が接続端子21a、21b、21cをなす基板22に設けられた孔23を塞ぐように後述の水晶片31を設け、基板22の裏面側からシート24により前記孔23を塞ぎ、基板22の表面側にてシート25、上蓋ケース26を下からこの順に積層した構成となっている。当該構成により水晶片31の下面側に気密空間27が形成されてランジュバン型の感知センサー2が構成される。また、シート24にその周縁部が押圧され、水晶片31が基板21に固定される。上蓋ケース26には試料液の注入口28と試料液の観察口29とが設けられており、注入口28から試料液を注入することによって、シート25に設けられた貫通孔により形成された水晶片31の上面側の貯留空間20に試料液が満たされる。
【0015】
その表面、裏面を夫々示した図4(a)、(b)を参照して水晶片31について説明する。水晶片31は、互いに独立して振動する第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bを構成している。水晶片31は例えば円形に構成され、その直径に沿って形成された溝32により、これら第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bが仕切られている。第1の水晶振動子3Aの上面、第2の水晶振動子3Bの上面には夫々励振電極33a、33bが設けられている。励振電極33a、33bから夫々水晶片31の側面を介して裏面に向かって電極34a、34bが引き出されている。第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bの発振周波数を互いに若干ずらすために励振電極33a,33bは厚さが互いに異なるように形成されている。
【0016】
また、水晶片31の下面には励振電極33a、33bに対向する励振電極33cが設けられており、励振電極33cから水晶片31の縁部に向かって電極34cが引き出されている。電極34a、34b、34cを介して励振電極33a、33b、33cが、基板22の接続端子21a、21b、21cに電気的に接続されている。各電極の表面は例えば金により構成される。
【0017】
図5(a)、(b)は夫々第1の水晶振動子3Aの側面、第2の水晶振動子3Bの側面を模式的に示している。第1の水晶振動子3Aの励振電極33aの表面には、吸着膜41が形成されている。この吸着膜41の表面はストレプトアビジン(SA)40からなり、ストレプトアビジン40は感知対象物であるビオチン及び後述するビオチン結合BSAと結合する。
【0018】
第2の水晶振動子3Bの励振電極33bの表面には、官能膜42が形成されている。この官能膜42の表面はアミノ基(NH基)43により構成されている。このアミノ基43は、後にBSAでブロッキングを行うためビオチン及びビオチン結合BSAに結合できない。ビオチン結合BSAの分子量は、ビオチンの分子量のおよそ270倍である。
【0019】
図6は感知装置1のブロック図であり、この図6を参照しながら感知装置1を構成する発振回路ユニット11について説明する。発振回路ユニット11には第1の発振回路51a及び第2の発振回路51bが設けられており、第1の発振回路52aは第1の水晶振動子3Aを、第2の発振回路52bが第2の水晶振動子3Bを夫々発振させる。
【0020】
続いて感知装置1を構成する演算装置12の構成について説明する。前記発振回路51a、51bの後段にはスイッチ部52が設けられており、このスイッチ部52によって2つの発振回路51a、51bからの周波数信号を時分割して後段に取り込み、各振動領域の発振周波数を並行して求めることができる。第1の発振回路51aからの出力をチャンネル1(F1)、第2の発振回路51bからの出力をチャンネル2(F2)とすると、例えば1秒間をn分割(nは偶数)し、各チャンネルの発振周波数を1/n秒の処理で順次求めることにより、1秒間に少なくとも1回以上周波数を取得しているため、実質同時に各チャンネルの周波数を取得することができる。
【0021】
スイッチ部52の後段には測定回路部53が設けられている。測定回路部53は入力信号である周波数信号をディジタル処理して、各チャンネルの発振周波数を測定する。また、演算装置13はデータバス61を備えており、データバス61にはCPU62、データ処理プログラム63を格納した記憶手段、既述の測定回路部53及び既述の表示部15が接続されている。
【0022】
データ処理プログラム63は、測定回路部54から出力される信号に基づいて第1の発振回路51aの発振周波数「F1」の時系列データ及び第2の発振回路52aの発振周波数「F2」の時系列データを取得し、メモリ64に格納する。またこのデータ取得動作と同時に、同一の時間帯におけるチャンネル1から取得した発振周波数F1、チャンネル2から取得した発振周波数F2の各時系列データの差分「F1−F2」を夫々演算し、当該差分データの時系列データを取得してメモリ64に格納すると共に、この「F1−F2」の経時変化のグラフを表示部15に表示する。
【0023】
感知装置1を用いて、試料液中のビオチンの定量を行う工程について説明する。先ず、例えば発振回路ユニット11から分離した状態にある感知センサー2の第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bの表面に上述のようにアミノ基43を有する吸着阻害膜42を形成する。続いて、ストレプトアビジンをNHS/EDC溶液で希釈して当該ストレプトアビジンのカルボキシル基を活性エステル化する。そして、この溶液を第1の水晶振動子3Aに滴下し、アミノ基43にストレプトアビジン40を結合させ、第1の水晶振動子3Aの官能膜42を吸着膜41にする。その後、発振回路ユニット11に感知センサー2を装着し、注入口28からBSAを含む試薬を供給する。これによって、BSAが第2の水晶振動子3Bの官能膜42のアミノ基43に結合し、当該アミノ基43がブロッキングされる。また第1の水晶振動子3Aにおいて、ストレプトアビジン40が吸着せずに残留したアミノ基43(不図示)も、このBSAに結合してブロッキングされる。
【0024】
感知装置1の電源をオンにすると各水晶振動子3A、3Bが発振し、夫々の周波数に対応する周波数信号F1、F2が取り出される。そして、これら周波数信号は時分割されて、測定回路部54に取り込まれ、A/D変換された後、各ディジタル値が信号処理される。そして2つのチャンネルの周波数信号から、前記周波数「F1、F2」が取り出されてメモリ64に記憶され、さらに記憶された「F1、F2」に基づいて「F1−F2」が演算されてメモリ64に記憶される動作が継続される。また、表示部16に既述のグラフが表示され、周波数差「F1−F2」の変化がリアルタイムで表示される。具体的な発振周波数としては、例えばF1が30.834MHz、F2が30.934MHzである。
【0025】
次いで、ユーザは、ビオチンの濃度が不明である所定の量の検査液と、ビオチン結合BSA(牛血清アルブミン)を例えば10μg/mL含んだ所定の量の試薬とを混合し、試料液を調製する。なお、試料液にはビオチンを溶解させるために、例えば1体積%のDMSOが含まれている。このように調製した試料液を感知センサー2の注入口28に注入し、水晶振動子3A、3Bの表面に試料液が供給されて、質量付加効果により水晶振動子3A,3Bの発振周波数が低下する。
【0026】
試料液に含まれるビオチン71及びビオチン結合BSA72は、ともに水晶振動子3Aの吸着膜41を構成するストレプトアビジン40に結合する性質を有するため、ビオチン71とビオチン結合BSA72とが、ストレプトアビジン40への結合をめぐって競合する。その結果、試料液中のビオチン71の濃度に応じた割合で、ビオチン結合BSA72とビオチン71とが吸着膜41に吸着される。そして、吸着されたビオチン結合BSA72とビオチン71との割合に応じて、質量付加効果によりチャンネル1の周波数F1がさらに低下し、F1−F2の値が変化する。つまり、試料液供給前後のF1−F2の変化量をΔFとすると、このΔFは試料液中のビオチン71の濃度に対応する。
【0027】
具体的に試料液中のビオチン71が比較的多い場合は、図7(a)、(b)に示すように比較的多くのビオチン71が吸着膜41に吸着され、ビオチン結合BSA72の吸着が抑えられる。上記のようにビオチン結合BSA72の分子量はビオチン71の分子量より大きいため、図8に示すように周波数差F1−F2の変化量ΔFは比較的小さくなる。なお、グラフ中の時刻t1は試料液を感知センサー2に注入した時刻である。
【0028】
試料液中のビオチン71が比較的少ない場合は、図9(a)、(b)に示すようにビオチン71の吸着膜41への吸着が抑えられ、代わってビオチン結合BSA72が多く吸着される。従って、図10に示すように周波数差F1−F2の変化量ΔFは比較的大きくなる。
【0029】
試料液注入後所定の時間が経過すると、ユーザは表示部15に表示されるグラフから前記変化量ΔFを読み出す。そして、ビオチンを含まない他は前記試料液と同様に調製され、予め当該試料液と同様に測定された参照液の周波数変化ΔFをΔF0とすると、読み出した試料液のΔF及び参照液のΔF0からΔF/ΔF0=Pを演算し、このPをロジット変換する。つまり、ln(P/1−P)を演算する。図11は、予め作成しておいた検量線であり、縦軸がln(P/1−P)、横軸がビオチンの濃度(ng/mL)を夫々示している。この検量線から、演算したln(P/1−P)に対応するビオチンの濃度(ng/mL)を読み出し、この読み出した濃度を試料液中のビオチンの濃度として決定する。
【0030】
図11の検量線の作成方法について説明する。既述した試料液中のビオチンの濃度を測定する場合と同様に、水晶振動子3A、3Bの表面に夫々吸着膜41、吸着阻害膜42を形成し、BSAを供給してブロッキングを行い、各水晶振動子3A、3Bを発振させた後、用意した検量線作成用の試料液を供給して、既述のようにΔFを計測する。この作業を複数の検量線作成用の試料液に対して行う。これらの検量線作成用の試料液は、上記のようにビオチン結合BSAを10μg/mL含む試薬に検査液を混合して調製するが、検査液に含まれるビオチンの濃度は既知であると共に互いに異なり、例えば0ng/mL、1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、1000ng/mL、10000ng/mLである。また、検量線作成用の試料液のDMSOの濃度は、ビオチンの濃度測定用の試料液と同じく1体積%である。
【0031】
ビオチンの濃度が0ng/mLである検査液から調製した試料液を測定して得られたΔFは、既述のΔF0である。その他の濃度のビオチンを含む検査液から調製した試料液から得たΔFについては、既述のようにΔF0を用いて、上記のようにln(P/1−P)を演算し、演算値をグラフにプロットする。このプロットから図11の検量線を作成する。
【0032】
この第1の実施形態によれば、試料液中のビオチンの濃度が小さいほど、試料液中のビオチン結合BSAが第1の水晶振動子3Aに吸着され、ビオチンとビオチン結合BSAの吸着による周波数変化に基づいてビオチンの濃度が測定される。ビオチンに比べてビオチン結合BSAは分子量が大きいため、試料液中のビオチンの濃度が小さくても第1の水晶振動子3Aの発振周波数を大きく変化させることができるので測定感度が高くなり、従ってビオチンの定量を正確に測定することができる。また、このように周波数の測定により定量を行うため、ビオチンを複数段階に渡って化学反応させる必要が無いし、クロマトグラフィー分析のようにカラムを通過させて試料液からビオチンを分離する必要が無いので、定量を簡便に行うことができる。
【0033】
また、上記の例ではビオチン結合BSAをビオチンと競合させて吸着膜41と結合させているが、競合させる物質としてはビオチン結合BSAに限られない。例えばビオチンにBSAよりも分子量が大きい金コロイドなどを結合させ、このビオチン結合金コロイドをビオチンに競合させることで、さらに感知装置1の感度を高め、より正確にビオチンの定量を行うことができる。また、上記の例では周波数差F1−F2に基づいて濃度の測定を行っているため、精度高く測定を行うことができる。なお、このようにF1とF2の差分を求める代わりに、予め試料液の水圧による周波数変化量を予測しておき、その予測した変化量と得られた周波数F1との差分を求めて、その差分に基づいて前記濃度の測定を行ってもよい。
【0034】
上記の手法で、例えば抗生物質や抗菌剤などの比較的低い分子量を持った化合物についても検出や定量を行うことができる。具体的には、ビオチン以外にも例えばストレプトマイシンを同様の方法で検出したり、その濃度を測定することができる。この場合、競合させる物質としては例えばストレプトマイシン結合BSAが用いられる。また、吸着膜41としては例えば抗ストレプトマイシン抗体が用いられる。また、その他にもアンピシリンを同様の方法で検出したり、その濃度を測定することができる。この場合、競合させる物質としては例えばアンピシリン結合BSAが用いられる。また、吸着膜41としては例えば抗アンピシリン抗体が用いられる。
【0035】
なお、感知対象物及び感知対象物に競合する競合物質がSH基を持つ場合には、これら感知対象物及び競合物質は、当該SH基により表面が金からなる励振電極33Aに吸着することができ、この励振電極33Aに対して競合するので吸着膜41を設けなくてよい。
【0036】
(第2の実施形態)
試料液中のビオチンの定量を行う第2の実施形態について、第1の実施形態との差異点を中心に説明する。この第2の実施形態の感知装置1では、第1の水晶振動子3Aの吸着膜41をビオチンにより構成する。
【0037】
続いて、検量線の作成方法を説明する。0ng/mL、1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、1000ng/mL、10000ng/mLのビオチンが夫々含まれた検査液81が注入された各チューブ80に、所定の濃度のストレプトアビジン40を含む試薬82を所定の量添加し、試料液を作成する(図12)。このように検査液81と試薬82とが混合されて構成される各試料液中では、ストレプトアビジン40がビオチン71に結合する。従って、検査液81におけるビオチン71の濃度が低いほど、試料液中では当該ビオチン71に結合せずに遊離しているストレプトアビジン40の量が多くなる。
【0038】
そして、第1の実施形態と同様に各試料液を感知センサー2に供給して、順次試料液の供給前後の周波数F1−F2の変化量ΔFを計測する。このときチューブ80内でビオチン71に結合したストレプトアビジン40は吸着膜41を構成するビオチン71に結合しない。従って、図13(a)(b)に示すように、試料液中において遊離しているストレプトアビジン40が多いほど、多くのストレプトアビジン40が吸着膜41を構成するビオチン71に吸着されるため、ΔFが大きくなる。
【0039】
逆に、図14(a)(b)に示すように試料液中において、遊離しているストレプトアビジン40が少ないほど、吸着膜41を構成するビオチン71に吸着されるストレプトアビジン40が少ないためΔFが小さくなる。つまり、ΔFは遊離しているストレプトアビジン40の濃度に対応する。遊離しているストレプトアビジン40の濃度は、試料液中のビオチン71の濃度に対応するため、ΔFは試料液中のビオチン71の濃度に対応する。
【0040】
第1の実施形態と同様に、各試料液について測定したΔFから検量線を作成する。検量線作成後、ビオチンの濃度が不明な検査液81から検量線を作成する場合と同様に試料液を調整し、ΔFを測定する。そしてこのΔFと既に作成した検量線とから試料液中のビオチンの濃度を特定する。ストレプトアビジンは、ビオチンよりも分子量が大きく、この第2の実施形態においては試料液中のビオチンの濃度が小さいほど、吸着膜41に吸着されるストレプトアビジンが多くなるため、周波数変化ΔFを大きくとることができる。従って、この第2の実施形態も第1の実施形態と同様の効果を有する。
【0041】
この第2の実施形態の手法で、例えば抗生物質や抗菌剤などの低い分子量を持った化合物についても検出や定量を行うことができる。具体的には、ビオチン以外にも例えばストレプトマイシンを同様の方法で検出したり、その濃度を測定することができる。この場合、試料液中に添加すると共に吸着膜41に吸着させる物質としては例えば抗ストレプトマイシン抗体が用いられる。また、吸着膜41は例えばストレプトマイシンにより構成される。また、その他にもアンピシリンを同様の方法で検出したり、その濃度を測定することができる。この場合、試料液中に添加する共に吸着膜41に吸着させる物質としては例えば抗アンピシリン抗体が用いられる。また、吸着膜41は例えばアンピシリンにより構成される。
【符号の説明】
【0042】
1 感知装置
2 感知センサー
3A 水晶振動子
3B 水晶振動子
31 水晶片
33a 励振電極
33b 励振電極
41 吸着膜
42 吸着阻害膜
51a 発振回路
51b 発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面に感知対象物が吸着する圧電振動子を発振させる工程と、
前記感知対象物と競合して前記圧電振動子の表面に吸着し、感知対象物よりもその分子量が大きい競合物質を含んだ試料液を、当該圧電振動子の表面に供給する工程と、
前記試料液がその表面に供給される前後の前記圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、
測定された各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、
を備えることを特徴とする感知方法。
【請求項2】
圧電振動子を発振させる工程と、
感知対象物よりもその分子量が大きく、感知対象物と結合することにより保有する前記圧電振動子の表面への吸着性が失われる結合物質を含む試料液を圧電振動子の表面に供給し、前記感知対象物に結合していない結合物質を当該圧電振動子の表面に吸着させる工程と、
前記試料液がその表面に供給される前後の前記圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、
測定された各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、
を備えることを特徴とする感知方法。
【請求項3】
前記感知対象物の検出を行う工程は、
予め設定された試料液の供給前後における圧電振動子の固有振動数と試料液中に含まれる感知対象物の濃度との対応関係に基づいて、感知対象物の濃度を特定する工程を含むことを特徴とする請求項1または2記載の感知方法。
【請求項4】
その表面に感知対象物が吸着しない参照用の圧電振動子を発振させる工程と、
前記試料液を当該参照用の圧電振動子の表面に供給する工程と、
前記試料液がその表面に供給される前後の前記参照用の圧電振動子の固有振動数を夫々測定する工程と、
測定された前記各固有振動数に基づいて、前記試料液中の感知対象物の検出を行う工程と、
を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の感知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−163472(P2012−163472A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24828(P2011−24828)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)