説明

感知装置

【課題】試料液中の感知対象物を精度高く検出することができる技術を提供すること。
【解決手段】第1の圧電振動子と第2の圧電振動子とで発振回路への接続を切り替えて当該発振回路を共用し、前記発振回路から第1の圧電振動子を構成する一面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の圧電振動子を構成する第2の一面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、が互いに揃い、且つ前記発振回路から第1の圧電振動子を構成する第1の他面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の圧電振動子を構成する第2の他面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、が互いに揃うように感知装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を用いて感知対象物を検出する感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料液中の感知対象物の検出や定量を行う装置として、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用した感知装置が知られており、図15にはこの感知装置の一例の概略を示している。図15の感知装置100は、2つの水晶振動子101、102を備え、これらの水晶振動子101、102は、共通の水晶片103に形成されている。水晶振動子101の表面には感知対象物が吸着し、水晶振動子102の表面には感知対象物が吸着しないように構成されている。各水晶振動子101、102に夫々接続された第1の発振回路104、第2の発振回路105により、これら水晶振動子101、102が個別に発振する。各水晶振動子101、102の出力は、スイッチ106により時分割されて周波数の計測部108に取り込まれ、計測部108は水晶振動子101、102の周波数の差分値を演算する。
【0003】
共通の水晶片103を備えることで、水晶振動子101、102は装置の外部の振動などの外乱の影響を互いに同じように受ける。従って演算された周波数の差分値には、感知対象物の吸着による周波数変化が反映されるので、この差分値に基づいて、感知対象物の検出や定量を行っていた。
【0004】
ところで、病院の生化学検査や試薬メーカーによる研究では比較的粘性が高い試料液中に含まれる感知対象物の測定を行いたいという要望がある。具体的には、例えば人間の唾液を採取し、この唾液に含まれる各種の疾病のマーカーの検出や定量を行うことで、患者の病気の診断を行う研究が進められている。このような検査を行うために、上記の感知装置100を用いることが考えられる。
【0005】
しかし、この感知装置100で粘性が高い試料液について測定を行うと、前記一方の水晶振動子と他方の水晶振動子とで粘性による周波数の変化量が異なってしまい、その結果として測定精度が低下してしまうおそれがあることが分かった。これは、発振回路104、105から水晶片103に形成される電極に至るまでの導電路のインピーダンスの違いが、水晶振動子を等価回路で見たときのC0の値やR1となるクリスタルインピーダンス(CI)値の差として現れるためであり、また発振回路104、105間で各回路の特性にわずかな差異があったとしても、その差異が反映されてしまうためである。
【0006】
特許文献1では1枚の水晶片に複数の振動子を設けてなる感知センサーについて示されているが、発振回路から各振動子への導電路の長さは互いに異なっており、上記の問題を解決できるものではない。また、特許文献2では、複数の振動子に対して1つの発振回路を用いて接続を時間的に切り替える旨が記載されているが、上記の問題を解決する手段については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−328022号公報
【特許文献2】特開2009−31232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、試料液中の感知対象物を精度高く検出することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の感知装置は、試料液中に含まれる感知対象物の吸着により固有振動数が変化する圧電振動子を用い、前記固有振動数の変化により感知対象物を感知する感知装置において、
圧電片に設けられた第1の振動領域の表面及び裏面のうち一方に第1の一面側励振電極を、他方に第1の他面側励振電極を夫々設けて構成され、且つ前記感知対象物が吸着するように構成された第1の圧電振動子と、
前記圧電片に設けられた第2の振動領域の表面及び裏面のうち一方に第2の一面側励振電極を、他方に第2の他面側励振電極を夫々設けて構成され、且つ前記感知対象物が吸着されないように構成された第2の圧電振動子と、
第1の一面側励振電極と、第2の一面側励振電極とを互いに切り替えて後段側に接続するための切り替え部と、
第1の他面側励振電極及び第2の他面側励振電極に接続されると共に前記切り替え部の後段に設けられ、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子を時分割で発振させるこれら第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子に共通の発振回路と、
前記発振回路の後段に設けられ、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子からの出力を取り込み、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子の固有振動数を各々測定するための測定部と、
を含み、
前記発振回路から第1の一面側励振電極、第2の一面側励振電極に向かって夫々見て、当該第1の一面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の一面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、が互いに揃い、
前記発振回路から第1の他面側励振電極、第2の他面側励振電極に向かって夫々見て、当該第1の他面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の他面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、が互いに揃うことを特徴とする。
【0010】
例えば、前記導電路のインピーダンスと、導電路のインピーダンスとが互いに揃うとは、各導電路のインピーダンスの差が3%以下であり、例えば前記スイッチは、切り替え信号出力部から出力される切り替え信号を受けて、第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の後段側への接続を互いに切り替え、前記測定部は、切り替え信号が出力されてから、予め設定した時間が経過した後の固有振動数の測定値を有効とすることを特徴とする。導電路のインピーダンスの差が3%とは、インピーダンスが大きい方の導電路の当該インピーダンスを100%とすると、インピーダンスが小さい方の導電路の当該インピーダンスが97%であることを示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明の感知装置によれば、圧電振動子間で共用される発振回路から第1の圧電振動子の電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の圧電振動子の電極を含む導電路のインピーダンスとが互いに揃うように構成されている。この構成により、発振回路から第1の圧電振動子に至るまでの回路の特性と、発振回路から第2の圧電振動子に至るまでの回路の特性とが揃うため、試料液の粘性が高い場合にも第1の圧電振動子の固有振動数の変化と、第2の圧電振動子の固有振動数の変化との間でばらつきが抑えられるため、精度高く感知対象物の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る感知装置の外観構成図である。
【図2】前記感知装置を構成する感知センサーの斜視図である
【図3】前記感知センサーの縦断側面図である。
【図4】前記感知センサーを構成する基板の平面図である。
【図5】前記感知センサーを構成する水晶振動子の平面図である。
【図6】前記水晶振動子の縦断側面図である。
【図7】前記感知装置の構成を示すブロック図である。
【図8】周波数が計測されるタイミングを示すタイムチャートである。
【図9】周波数が変化する様子を示すグラフである。
【図10】周波数が変化する様子を示すグラフである。
【図11】水晶振動子の他の構成を示す平面図である。
【図12】周波数が変化する様子を示すグラフである。
【図13】スイッチの切り替え時における周波数信号の振幅変化を示すグラフである。
【図14】周波数が変化する様子を示すグラフである。
【図15】従来の感知装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の感知方法を実施するための感知装置1について説明する。この感知装置1は、人間の唾液を試料液とし、当該唾液中に含まれ、ストレスマーカーとなるクロモグラニンを感知対象物として、その定量を行う。図1の外観構成図に示すように、感知装置1は発振回路ユニット11と計測部12とを備えており、発振回路ユニット11はケーブル13を介して計測部12に着脱自在に接続されている。計測部12の筐体14前面に設けられた表示部15は、例えばLED表示画面や液晶表示画面により構成され、周波数あるいは周波数の変化分等の測定結果を表示する。
【0014】
発振回路ユニット11には、感知センサー2が着脱自在に接続される。図2には感知センサー2の斜視図を、図3には感知センサー2の縦断側面図を夫々示している。感知センサー2を構成する基板21の一端側には貫通孔22が形成され、この貫通孔22を塞ぐように後述する水晶片31が設けられている。基板21の裏面側からシート23により前記貫通孔22が塞がれ、基板21の表面側からはシート24、上蓋ケース25を下からこの順に積層した構成となっている。当該構成により前記貫通孔22が気密空間として形成され、ランジュバン型の感知センサー2が構成される。また、シート24にその周縁部が押圧され、水晶片31が基板21に固定される。
【0015】
上蓋ケース25には試料液の注入口25aと試料液の観察口25bとが設けられており、注入口25aから試料液を注入することによって、シート24に設けられた貫通孔により形成された水晶片31の上面側の貯留空間26に試料液が満たされる。
【0016】
図4は、前記基板21の表面を示している。基板21には、長さ方向の他端から一端側に向かう直線状の電極膜27a、27b、27cが設けられており、各電極膜27a〜27cの前記他端側は拡幅されて接続端子28a〜28cとして構成されている。電極膜27a〜27cは互いに同じ幅、同じ膜厚になるように形成され、また互いに同じ材質例えば金により構成されている。また、電極膜27a、27bは、基板21の幅中心の左右に対称な形状に形成され、同じ長さを有している。それによって電極膜27a、27bは互いに同じインピーダンスを有している。
【0017】
その表面、裏面を夫々示した図5(a)、(b)を参照して水晶片31について説明する。水晶片31は例えば円形状であり、互いに独立して振動する第1の振動領域30A及び第2の振動領域30Bを備えている。第1の振動領域30Aは第1の水晶振動子3Aを構成し、第2の振動領域30Bは第1の水晶振動子3Bを構成している。水晶片31の表面にはU字状の励振電極32cが形成されている。励振電極32cから、前記U字の開口方向とは逆方向に、水晶片31の周縁部に向けて電極33cが引き出され、当該電極33cは水晶片31の側端面を介して裏面側へと引き回されている。また、図5(a)では励振電極32cにおいて、後述の励振電極32aと対向する領域を領域34a、励振電極32bと対向する領域を領域34bとして夫々鎖線で囲って示している。
【0018】
また、水晶片31の裏面において、第1の振動領域30Aには励振電極32aが設けられ、第2の振動領域30Bには励振電極32bが設けられている。各励振電極32a、32bは矩形状に形成され、励振電極32cに対向して設けられている。励振電極32a、32bから水晶片31の縁部に向かって電極33a、33bが夫々引き出されている。
【0019】
水晶片31の表側及び裏側においては、左右の電極のレイアウトが同様に構成され、また、各電極の膜厚は均一である。これによって、電極33cから励振電極32cの領域34aまでの導電路のインピーダンスと、電極33cから励振電極32cの領域34bまでの導電路のインピーダンスとが等しく構成され、電極33aから励振電極32aまでの導電路のインピーダンスと、電極33bから励振電極32bまでのインピーダンスとが等しく構成される。特許請求の範囲において、励振電極32aは第1の一面側励振電極、励振電極32bは第2の一面側励振電極、領域34aは第1の他面側励振電極、領域34bは第2の他面側励振電極に相当する。図4に示すように電極33a、33b、33cは、夫々基板21の電極膜27a、27b、27cに電気的に接続されている。
【0020】
図6(a)、(b)は夫々第1の水晶振動子3Aの側面、第2の水晶振動子3Bの側面を模式的に示している。第1の水晶振動子3Aの励振電極33cの領域34aの表面には、吸着膜41が形成されている。この吸着膜41は、感知対象物35であるクロモグラニンを例えば抗原抗体反応により吸着する。また、第2の水晶振動子3Bの励振電極33cの領域34bの表面には、吸着阻害膜42が形成されており、前記クロモグラニンが吸着されないようになっている。
【0021】
図7は感知装置1のブロック図であり、この図7を参照しながら感知装置1を構成する発振回路ユニット11について説明する。発振回路ユニット11に設けられるスロットには前記基板21の端部が着脱自在に差し込まれ、このスロット内には導電路51a、51b、51cが形成されている。基板21が当該スロットに差し込まれると、基板21の接続端子28a、28b、28cが夫々導電路51a、51b、51cに接続される。この導電路51a、51b、51cは、例えば接続端子28a〜28cと同様に基板にパターニングされた電極膜により構成されている。
【0022】
導電路51a、51bは、例えば電極膜27a、27bと同様に互いに同じ膜厚を持ち、同じ長さ、同じ幅に形成されることで、その一端から他端に至るまで同様のインピーダンスを有するように形成されている。導電路51a、51bの後段にはスイッチ52が接続されている。導電路51cは発振回路53に接続されると共に接地されている。
【0023】
スイッチ52の後段には、前記発振回路53が設けられている。スイッチ52は切り替え信号出力部54から出力される切り替え信号に応じて、励振電極32a、32b間で発振回路53への接続を切り替える。発振回路53が励振電極32aと接続されると、当該発振回路53により第1の水晶振動子3Aが発振し、発振回路53が励振電極32bと接続されると、当該発振回路53により第2の水晶振動子3Bが発振する。このように交互に第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3Bが発振し、各水晶振動子3A、3Bからの周波数信号が時分割で後段に取り込まれる。それによって、後述の計測部12が各水晶振動子3A、3Bの発振周波数を並行して求めることができる。第1の水晶振動子3Aからの出力をチャンネル1(F1)、第2の水晶振動子3Bからの出力をチャンネル2(F2)とすると、例えば1/n秒毎に接続が切り替わり、各チャンネルの発振周波数が後段に取り込まれ、実質同時に各チャンネルの周波数を取得することができるように構成されている。
【0024】
上記のように発振回路53及び発振回路53の前段側が構成されることで、発振回路53から見て、スイッチ52を介して励振電極32aに至るまでの当該励振電極32aを含む導電路のインピーダンスと、スイッチ52を介して励振電極32bに至るまでの当該励振電極32bを含む導電路のインピーダンスとが互いに等しく構成されている。また、発振回路53から見て励振電極32cの領域34aに至るまでの導電路のインピーダンスと、発振回路53から見て励振電極32cの領域34bに至るまでの導電路のインピーダンスとが互いに等しく構成されている。また、第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3B間において発振回路53が共通化されているため、各水晶振動子から見て発振回路の回路特性が揃っている。
【0025】
続いて、計測部12について説明する。計測部12は測定回路部55を備えている。測定回路部55は、発振回路53の後段に設けられ、入力信号である周波数信号をディジタル処理して後段に出力する。また、計測部12はデータバス61を備えており、データバス61にはCPU62、データ処理プログラム63を格納した記憶手段、既述の切り替え信号出力部54、測定回路部55及び既述の表示部15が接続されている。
【0026】
データ処理プログラム63は、測定回路部55から出力される信号に基づいて第1の水晶振動子3Aの発振周波数「F1」の時系列データ及び第2の水晶振動子3Bの発振周波数「F2」の時系列データを取得し、メモリ64に格納する。またこのデータ取得動作と同時に、同一の時間帯におけるチャンネル1から取得した発振周波数F1、チャンネル2から取得した発振周波数F2の各時系列データの差分「F1−F2」を夫々演算し、当該差分データの時系列データを取得してメモリ64に格納すると共に、この「F1−F2」の経時変化のグラフを表示部15に表示する。
【0027】
次に感知装置1を用いて、既述のように人間の唾液中に含まれる感知対象物の有無を判定する工程について説明する。先ず、計測部12を起動し、感知センサー20を発振回路ユニット11のスロットに差し込むと、切り替え信号の出力に応じたスイッチ52の切り替えにより、第1の水晶振動子3Aと、第2の水晶振動子3Bと発振回路53との接続が切り替えられて、発振回路53に接続された水晶振動子が発振し、夫々の周波数に対応する周波数信号F1、F2が交互に後段に出力される。そして、各周波数信号F1、F2は測定回路部57に取り込まれ、A/D変換された後、各ディジタル値が後段に出力される。
【0028】
ところで図8は切り替え信号の出力レベルと、この出力レベルに対応して接続される水晶振動子との関係を示したタイムチャートであり、出力レベルは所定の周期でLとHとの間で切り替わる。出力レベルがLのときは発振回路53に第1の水晶振動子3Aが接続され、出力レベルがHのときには発振回路53に第2の水晶振動子3Bが接続される。後述の実験に示すようにスイッチ信号レベルがLとHとの間で切り替わる時点から所定の時間例えば1m秒の間は、水晶振動子3A、3Bの発振が不安定となるため、計測部12において周波数の計測が行われない。図8ではこのように周波数の計測を行わない期間をガードタイムとして示している。そして、このガードタイムが経過すると、計測部12は各周波数信号F1、F2の周波数を測定する。なお、特許請求の範囲において、切り替え信号がLからHに切り替わる瞬間及びHからLに切り替わる瞬間を切り替え信号の出力時とする。
【0029】
測定された各チャンネルの周波数「F1、F2」はメモリ64に記憶され、さらに記憶された「F1、F2」に基づいて「F1−F2」が演算され、メモリ64に記憶される動作が継続される。また、表示部15に既述のグラフが表示され、周波数差「F1−F2」の変化がリアルタイムで表示される。
【0030】
次いで、ユーザが感知センサー2の注入口25aに試料液を滴下する。それによって、第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bの表面の環境雰囲気が気相から液相に変わり、これら第1の水晶振動子3A及び第2の水晶振動子3Bが水圧に基づく質量付加効果を受ける。このとき、既述のように発振回路53から励振電極32aまでの導電路のインピーダンスと、励振電極32bまでの導電路のインピーダンスとが等しく構成され、また、発振回路53から励振電極33cの領域34aまでのインピーダンスと、発振回路53から励振電極33cの領域34bまでのインピーダンスとが互いに等しく構成されているため、発振回路53から第1の水晶振動子3Aに向かって見た回路と、発振回路53から第2の水晶振動子3Bに向かって見た回路とで、実質的にその特性が同一となる。従って、試料液の粘性に依らず、第1の水晶振動子3Aからの発振周波数F1、第2の水晶振動子3Bからの発振周波数F2が互いに同様に低下する。
【0031】
試料液が感知対象物を含まない場合、第1の水晶振動子3Aでは上記の感知対象物の吸着が起こらず、チャンネル1及びチャンネル2からは試料液の温度や粘性に応じて変化する周波数F1、F2が取り出される。従って、図9(a)のグラフに示すように発振周波数F1、F2は互いに揃って低下し、図9(b)に示すように、周波数差F1−F2が殆ど変化しない。
【0032】
試料液に感知対象物が含まれる場合、試料液中の感知対象物が第1の水晶振動子3Aの表面に吸着されるが、当該感知対象物は第2の水晶振動子3Bの表面には吸着されないので、第2の水晶振動子3Bに比べて第1の水晶振動子3Aが受ける質量付加効果が大きくなる結果、図10(a)のグラフに示すように発振周波数F2に比べて発振周波数F1が大きく低下し、図10(b)のグラフに示すように周波数差「F1−F2」が大きくなる。なお、図9及び図10のグラフで時刻t1は、試料液を感知センサー2に注入するタイミングを示している。
【0033】
ユーザは、試料液供給前の「F1−F2」の値aと、試料液供給後の「F1−F2」の値bとの差分値a−bを計算し、この差分値a−bが所定の許容値に収まっていれば、試料液中に感知対象物は無いものと判定し、差分値a−bが許容値を超えていれば試料液中に感知対象物が存在するものと判定する。
【0034】
上記のように感知装置1では第1の水晶振動子3A、第2の水晶振動子3B間で発振回路53が共通化され、この発振回路53から第1の水晶振動子3Aの励振電極32aまでの導電路のインピーダンスと、励振電極32bまでの導電路のインピーダンスとが等しく構成され、また、発振回路53から励振電極33cの領域34aまでのインピーダンスと、発振回路53から励振電極33cの領域34bまでのインピーダンスとが互いに等しく構成されている。これによって、水晶振動子毎に発振回路53を個別に設けることによる発振回路間での特性の差異が各チャンネルの周波数に影響することが防がれ、また発振回路53から第1の水晶振動子3Aに向かって見た回路と、発振回路53から第2の水晶振動子3Bに向かって見た回路とで、特性にばらつきが生じることが抑えられる。その結果として、試料液の粘性により発振周波数F1、発振周波数F2にばらつきが生じることが抑えられるので、周波数差F1−F2に基づいて精度高く感知対象物の測定を行うことができる。
【0035】
また、この感知装置1ではスイッチ52が切り替えられた直後の発振が安定しない状態で出力される周波数を計測しないため、より精度高く発振周波数F1、F2を測定することができるので、より確実に感知対象物の測定を行うことができる。
【0036】
ところで、従来の感知装置では共通の水晶片に2つの水晶振動子が形成されるため、各水晶振動子の振動が相互に干渉して周波数安定度が悪くなることを防ぐために、水晶片に励振電極を離して設けたり、例えば水晶片や励振電極の膜厚を水晶振動子間で変えて発振周波数をずらしたり、水晶を発振させるためのドライブ電力を低減させていた。しかし、上記の感知装置1では第1の水晶振動子3Aと、第2の水晶振動子3Bとを時分割に発振させるため、一方の水晶振動子の振動が他方の水晶振動子の振動に干渉することを抑えることができる。従って、上記のように水晶片や電極の膜厚を調整する必要が無く、感知センサー2の製造工程数を減らすことができるし、水晶片における励振電極の配置についての自由度も高くなる。また、前記ドライブ電力を上げることができ、従って水晶の発振余裕度を上げることができる。さらに、発振回路が水晶振動子3A、3Bで共通化されているため、水晶振動子ごとに発振回路を設ける場合よりも感知装置1の部品点数を低減させることができるので、感知装置1の製造コストの低下及び小型化を図ることができる。
【0037】
また、上記の例では、試料液中の感知対象物の有無を検出しているが、上記の発振周波数差「F1−F2」の変化量(a−b)と試料液中の感知対象物の濃度との関係式を予め取得しておき、この関係式と測定により得られた変化量(a−b)とから、試料液中の感知対象物の濃度を求めてもよい。また、上記の例では感知センサーを所定の量の試料液を滴下後、静止状態に保つように構成しているが、ポンプなどにより試料液を連続して水晶振動子3A、3Bの表面に供給すると共に水晶振動子3A、3Bの表面から連続して試料液を排液し、それによって水晶片の一縁から他縁に向けて試料液を流通させる、いわゆるフローセル方式の感知センサーとして構成してもよい。
【0038】
上記のように発振回路53から励振電極32aまでの導電路のインピーダンスと、励振電極32bまでの導電路のインピーダンスとが等しく構成され、且つ発振回路53から励振電極33cの領域34aまでのインピーダンスと、発振回路53から励振電極33cの領域34bまでのインピーダンスとが等しく構成されることで、同一の環境で周波数F1とF2の変化を揃えることができるが、このように各インピーダンスが等しくなくても互いに近似し、揃っていれば試料液の粘性による周波数F1、F2のずれを抑えることができる。例えば、各インピーダンスの違いが3%以下に収まるのであればこのような効果を得ることができる。つまり例えば大きいほうのインピーダンスを100%とすると小さいほうのインピーダンスは97%〜100%である。
【0039】
従って、水晶片31の電極のレイアウトとしては図11(a)(b)に示すように構成してもよい。図11(a)は水晶片31の表面側、図11(b)は水晶片31の裏面側を示している。この水晶片31は既述の例と同様に基板21に載置されたときに電極33a〜33cが電極膜27a〜27cに接続されるようになっている。水晶片31における上記の例との差異点として、電極33cは励振電極32cのU字の開口方向と直交するように引き出されている。従って、発振回路53から見て励振電極32cの領域34aまでのインピーダンスと、励振電極32cの領域34bまでのインピーダンスとは互いに異なっているが、このインピーダンスの差が上記の範囲に収まっていれば、図5のように水晶片31を構成した場合と同様の効果が得られる。
【0040】
(評価試験)
本発明に関連して行われた評価試験について説明する。以下の各評価試験では感知センサーを既述したフローセル方式のセンサーとして構成して試験を行っている。
[評価試験1−1]
上記の実施形態の基板21とは異なる基板を用いて感知センサーを構成した。この基板においては電極膜27a〜27cのレイアウトが図4に示したレイアウトと異なり、それによって各電極膜27a〜27cの一端から他端までのインピーダンスが互いに異なるように構成している。この感知センサーを発振回路ユニット11に接続し、試料液として先ず純水を供給した後、純水で希釈したグリセロール30%溶液(粘性係数約3.5%)を供給して、各チャンネルの周波数F1、F2の変化及び周波数差F1−F2の変化を調べた。
【0041】
図12(a)は、この実験結果を示したグラフである。グラフ中に点線でF1、鎖線でF2、実線でF1−F2を夫々示している。このグラフでは純水が水晶片31に供給されているときの周波数F1、F2の値を0としている。なお、図を見やすくするために実際に得られた各グラフ線の波形を若干上下にずらして示している。図中t2は、前記グリセロール30%溶液が供給された時点を示している。このグラフに示されるようにグリセロール溶液供給後のF1、F2の降下量は揃っておらず、図中H1で示すF1とF2のずれ量の最大値は1000Hzとなっていた。
【0042】
[評価試験1−2]
上記の実施形態の基板21を用いた他は評価試験1−1と同様の条件で試験を行った。図12(b)は、この実験結果を示したグラフであり、周波数F1及び周波数F2が同様に変化していることが分かる。従って、評価試験1−1、1−2から、各水晶振動子3Aの降下量を揃えるためには、発振回路53から励振電極32a、32bに至るまでの各導電路のインピーダンスを等しくすることが有効であることが分かる。
【0043】
[評価試験2]
感知装置1において、発振回路53の接続がチャンネル1からチャンネル2に切り替わるときの当該チャンネル2から出力される周波数と、切り替え信号出力部54から出力される信号とをオシロスコープにより測定した。図13は、この実験結果から得られた波形を概略的に示しており、図中Cが切り替え信号の波形を、図中Aがチャンネル2の出力波形を夫々示している。図13のグラフに示されるように、切り替え信号Cの出力レベルが変化する時刻t3から、その後の時刻t4までは、チャンネル2の振幅が不安定になっている。
【0044】
発振回路53の接続をチャンネル2からチャンネル1に切り替わるときのチャンネル1の波形も同様に測定した。その結果、切り替え信号の出力レベルが切り替わった直後は、同様に波形が乱れていたことが確認された。従って、既述の実施形態のように周波数が不安定となっている時刻t3〜時刻t4については周波数を測定しないガードタイムとして設定することが、測定精度高くを行うために有効であることが分かる。
【0045】
[評価試験3−1]
評価試験1−1と同様に、電極膜27a〜27cのレイアウトが図4とは異なり、それによって各電極膜27a〜27cの一端から他端までのインピーダンスが互いに異なるように構成した基板を用いて感知センサーを形成した。そして、この感知センサーについてチャンネル1、チャンネル2の水晶等価定数であるCI(Ω)、C0(pF)、C1(fF)、L1(mH)の各値を測定し、各定数ごとにチャンネル1とチャンネル2との差分を演算した。演算結果の中で、CIの差分値は−1.36Ωであり、C0の差分値は0.17pFであった。
【0046】
[評価試験3−2]
図4に示した上記の実施形態の感知センサーについて同様にチャンネル1、チャンネル2の水晶等価定数であるCI(Ω)、C0(pF)、C1(fF)、L1(mH)の各値を測定し、各定数ごとにチャンネル1とチャンネル2との差分を演算した。感知センサー間で演算した差分値を比較すると、CIの差分値が−0.80Ω、C0の差分値が0.01pFとなっており、評価試験3−1の結果と比較して、これらについては特にチャンネル間で差異が抑えられていることが分かった。
【0047】
[評価試験4−1]
評価試験3−1の感知センサーに純水を供給し、続いて純水と当該純水よりも粘度が高い20%グリセロール溶液との混合液を供給して、評価試験1−1と同様に周波数F1、F2及び周波数差F1−F2の変化を測定した。続いて、評価試験3の感知センサー6に純水を供給し、続いて純水と30%グリセロール溶液との混合液を供給して、評価試験2と同様に周波数F1、F2及び周波数差F1−F2の変化を測定した。
【0048】
図14(a)は、評価試験4−1の結果を評価試験1−1と同様にグラフで示している。このグラフに示すように評価試験4−1では試料液の粘性により発振周波数F1、F2の差が比較的大きく現れている。なお、グラフ中時刻t5、t6は夫々20%グリセロール溶液、30%グリセロール溶液を夫々供給したタイミングを示している。
【0049】
[評価試験4−2]
評価試験3−2の感知センサー2を用いて、評価試験4−1と同様に試験を行った。図14(b)は、この実験結果を示している。この図に示すように評価試験4−1に比べて、各20%グリセロール溶液、30%グリセロール溶液供給時に発振周波数F1、F2の差が小さく、これら発振周波数が揃って変化している。評価試験3−1、3−2、4−1、4−2の結果から導電路のインピーダンスが水晶等価定数のC0値及びCI値に影響しており、これらチャンネル間でのC0値及びCI値の差により、各チャンネルの周波数の変化が揃わなくなることが分かる。また、評価試験4−1、4−2の結果から、本発明のように導電路のインピーダンスを揃えることがチャンネル間で周波数の変化を揃えるために有効であることが示された。
【符号の説明】
【0050】
1 感知装置
12 計測部
21 基板
31 水晶片
3A 第1の水晶振動子
3B 第2の水晶振動子
30A 第1の振動領域
30B 第2の振動領域
32a 励振電極
32b 励振電極
33c 励振電極
52 スイッチ
53 発振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中に含まれる感知対象物の吸着により固有振動数が変化する圧電振動子を用い、前記固有振動数の変化により感知対象物を感知する感知装置において、
圧電片に設けられた第1の振動領域の表面及び裏面のうち一方に第1の一面側励振電極を、他方に第1の他面側励振電極を夫々設けて構成され、且つ前記感知対象物が吸着するように構成された第1の圧電振動子と、
前記圧電片に設けられた第2の振動領域の表面及び裏面のうち一方に第2の一面側励振電極を、他方に第2の他面側励振電極を夫々設けて構成され、且つ前記感知対象物が吸着されないように構成された第2の圧電振動子と、
第1の一面側励振電極と、第2の一面側励振電極とを互いに切り替えて後段側に接続するための切り替え部と、
第1の他面側励振電極及び第2の他面側励振電極に接続されると共に前記切り替え部の後段に設けられ、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子を時分割で発振させるこれら第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子に共通の発振回路と、
前記発振回路の後段に設けられ、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子からの出力を取り込み、第1の圧電振動子及び第2の圧電振動子の固有振動数を各々測定するための測定部と、
を含み、
前記発振回路から第1の一面側励振電極、第2の一面側励振電極に向かって夫々見て、当該第1の一面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の一面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、が互いに揃い、
前記発振回路から第1の他面側励振電極、第2の他面側励振電極に向かって夫々見て、当該第1の他面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、第2の他面側励振電極を含む導電路のインピーダンスと、が互いに揃うことを特徴とする感知装置。
【請求項2】
前記導電路のインピーダンスと、導電路のインピーダンスとが互いに揃うとは、各導電路のインピーダンスの差が3%以下であることを特徴とする請求項1記載の感知装置。
【請求項3】
前記スイッチは、切り替え信号出力部から出力される切り替え信号を受けて、第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の後段側への接続を互いに切り替え、前記測定部は、切り替え信号が出力されてから、予め設定した時間が経過した後の固有振動数の測定値を有効とすることを特徴とする請求項1または2記載の感知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−173274(P2012−173274A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38937(P2011−38937)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)