慢性全腸炎の治療のための、抗−TNFα産生乳酸菌
本発明は、慢性全腸炎の新規な治療法に関する。より具体的には、本発明は、抗−TNFα抗体産生乳酸菌を含む薬剤の生産、およびこの薬剤の慢性全腸炎の治療における使用、に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性全腸炎の新規な治療法に関する。より具体的には、本発明は、抗−TNFαを産生する乳酸菌を含む薬剤の生産、およびこの薬剤の慢性全腸炎の治療における使用、に関する。炎症性腸疾患(IBD)とは、胃腸管の一部の慢性非特異的炎症によって特徴づけられる胃腸障害の群を指す。ヒトのIBDの最も顕著な例は、潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)である。IBDの病因または病因群は不明確である。IBD疾患は、腸管における炎症反応の無制限の活性化に起因するように見える。この炎症カスケードは、炎症誘発性サイトカインの作用およびリンパ球サブセットの選択的活性化を通じて存続すると考えられている。UCおよびCDは、小児の成長遅延、直腸脱、血便、消耗、鉄分欠乏および貧血を含む多くの症状および合併症に関連している。UCとは、主として結腸粘膜中に現れる、慢性、非特異的、炎症性および潰瘍性の疾患を指す。それはしばしば、血性下痢、腹部仙痛、便中の血液および粘液、不快感、発熱、貧血、食欲不振、体重減少、白血球増多、低アルブミン血、および赤沈亢進によって特徴づけられる。
【0002】
クローン病は、潰瘍性大腸炎と共通の多くの特徴を共有する。クローン病は、かなり拡散している潰瘍性大腸炎の病変とは対照的に、病変が隣接する正常な腸からはっきり区別される傾向がある点によって識別することができる。さらに、クローン病は、主に回腸(回腸炎)ならびに回腸および結腸(回結腸炎)を冒す。ある場合には結腸のみが罹患し(肉芽腫性大腸炎)、またある場合には全小腸が含まれる。
【0003】
結腸癌は慢性IBDの公知の合併症である。それは、長年IBDを有する患者中で、次第に頻度が高くなる。癌の危険性はIBDの8〜10年後に著しく上昇し始め、速くて効率的なIBDの治療をさらに重要にする。IBDを治療するために最も一般的に使用される薬剤には、コルチコステロイドなどの抗炎症薬、ならびにスルファサラジンなどのサルチル酸およびその誘導体が含まれる。これらの薬に応答しない人々のために、シクロスポリンA、メルカプトプリン、およびアザチオプリンなどの免疫抑制剤が用いられる。しかし、これらの薬剤はすべて重い副作用を有する。IBDの治療における最近の成功した進展は、TNFまたはそのレセプターの働きを遮断する化合物の使用である。その点で最も有望な新しい治療法の一つは、TNF抗体の使用である。腫瘍壊死因子α(TNFα)は、単球およびマクロファージを含む多数の細胞型によって産生されるサイトカインであり、最初は、あるマウス腫瘍の壊死を引き起こす能力に基づいて同定された(例えば、Old, L. (1985) Science 230:630-632を参照のこと)。TNFαは、敗血症、感染、自己免疫性疾患、移植拒絶反応、および移植片対宿主病を含む、様々な他のヒトの疾患および障害の病態生理に関連することが示唆されている(例えば、Moeller, A. et al. (1990) Cytokine2: 162-169; MoellerらへのU.S. Patent No. 5,231,024 ; Moeller, A.らによるEuropean Patent Publication No. 260 610 (B1); Vasilli. P.(1992) Annu. Rev.Immunol. 10:411-452; Tracey, K.J. and Cerami, A. (1994) Annu. Rev. Med. 45:491-503を参照のこと)。様々なヒトの障害におけるヒトTNFα(hTNFα)の有害な役割のために、hTNFα活性を阻害するかまたは中和する治療戦略が立案された。hTNFα活性を阻害する手段として、特に、hTNFαに結合し中和する抗体が探索された。
【0004】
いくつかの抗体製剤が、IBDの治療のためにテストされた。ポリクローナル抗体が第II相臨床試験においてテストされたが、モノクローナル抗体が明白に好ましい。インフリキシマブは、IgG1Kサブクラスの、キメラヒト−マウスモノクローナル抗体であり、それは細胞膜上および血液中のTNFαを特異的に標的とし、非可逆的に結合する。5〜20mg/kgの範囲の抗体インフリキシマブの一回の静脈内投与が、活動的なクローン病の大幅な臨床的改善をもたらし;それは、1998年にクローン病を治療するために市場に出された。
【0005】
キメラ抗体に関連して起こり得る問題を解決するために、ヒトモノクローナルTNFαアダリムマブが開発され、それは現在クローン病治療の第III相臨床試験でテストされている。患者中の抗体の半減期を改善するために、Celltech社は、セルトリズマブ・ペゴールを開発した、それはヒト化モノクローナルPEG化抗−TNFα抗体であり、現在クローン病の治療の第III相臨床試験でテストされている。
【0006】
しかし、それらのすべての場合において、抗体は全身性に、主として皮下注射によって投与される。抗−TNFα抗体の全身性投与は、頭痛、膿瘍、上気道感染症、および疲労を含む、かなり重大な望ましくない影響をもたらす可能性がある。
【0007】
全身性送達に関連する望ましくない影響を、炎症箇所への局所的送達によって解決することができよう。腸の中へ生物学的活性化合物を送達するための有望なシステムが、WO97/14806に開示されており、それによれば、乳酸菌のような非侵襲性のグラム陽性細菌が、生物学的活性化合物を消化管へ送達するために用いられる。WO00/23471は、このシステムを回腸にIL−10を送達するために用いることができ、それによってIBDを治療するためにこの菌株を用いることができることを開示する。WO01/98461は、酵母を用いる腸への送達のための代替法を開示する。しかし、生物学的活性化合物の送達については記述されているが、これらの文書は抗体の腸への送達については教示しない。抗体の折り畳みおよび分泌の両方が決定的に重要であるので、活性を有する抗体の腸中でのインサイチューの産生は、決して簡単ではない。特に、硫黄架橋による構造の安定化が、細菌または酵母中での抗体の産生について、問題を引き起こす可能性がある。さらに、IL−10のようなサイトカインは触媒機能を果たすが、TNF抗体は、産生された内因性TNFを不活性化するのに十分な量が産生される必要がある。驚くべきことに、我々は、遺伝子操作した微生物による抗−TNFα抗体の局所的送達を、IBDを治療するために効率的な形で用いることができることを見出した。
【0008】
本発明の第1の局面は、抗−TNFα抗体を産生する遺伝子操作された微生物の、IBDを治療する薬剤の調製のための使用である。本明細書で用いる用語、抗体には、VHHなどの抗体フラグメントも含む、普通の抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二機能性抗体、二価抗体、二特異性抗体およびラクダ科動物抗体が非限定的に含まれる。好ましくは、前記抗体はラクダ科動物抗体フラグメント(VHH;以下ナノボディと呼ぶ)であり、さらに好ましくは前記抗体は二価抗−TNFαナノボディである。二価抗体は、TNFのそのレセプターへの結合を、一価抗体よりも著しく効率的に阻害するという長所を有する(それぞれ、EC50=16pMおよび6.7nM)。驚いたことに、我々は、Lactococcus中の二価抗体の産生が一価抗体と同程度か、またはさらに高くさえなることを見出した。
【0009】
好ましくは、前記遺伝子操作された微生物は、乳酸菌または酵母である。乳酸菌による、生物学的活性を有するポリペプチドの動物体内への送達が、WO9714806に開示されており;酵母によるペプチドの腸への送達が、WO0198461に記述されている。しかし、これらの文書のいずれも、腸中への抗体またはナノボディの送達には言及しない。抗体の正確な折り畳みおよび分泌が必要であり、中和活性を得るためには十分な抗体が必要であるので、生物学的活性を有する抗体またはナノボディのインビボの産生、分泌および送達は決して明白ではない。
【0010】
一つの好ましい実施態様では、前記遺伝子操作された微生物は、Lactococcus lactis株であり、好ましくは前記遺伝子操作菌株は、Lactococcus lactis ThyA突然変異株である。特に好ましい実施態様は、TNF−α抗体をコードする遺伝子がTHYA遺伝子を破断するために用いられた、Lactococcus lactis ThyA突然変異株の使用である。
【0011】
別の好ましい実施態様では、酵母が抗−TNFα抗体を送達するために用いられる。好ましくは前記酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、さらに好ましくは、前記酵母はSaccharomyces cerevisiaeの亜種Boulardiiである。
【0012】
本明細書で用いるIBDには、慢性大腸炎、潰瘍性大腸炎およびクローン病が非限定的に含まれる。好ましくは、IBDは慢性大腸炎である。
【0013】
本発明の別の局面は、少なくとも一つの遺伝子操作抗−TNFαVHH産生微生物を含む経口投与用の医薬組成物である。好ましくは、前記抗−TNFαVHHは二価抗体である。医薬組成物は、生物活性を有する微生物を含む液体であってよいし、またはそれは適当な環境に入れられたときに再活性化できる、乾燥微生物を含む固体であってもよい。微生物を、凍結乾燥および噴霧乾燥を含む任意のシステムによって乾燥させてよい。本明細書で用いる「抗−TNFαVHHを産生する」とは、微生物が医薬組成物中でVHHを生成していることを意味するのではなく、微生物が適当な環境に置かれたときに、生存可能で、VHHを産生することができることを意味する。胃腸管への送達を促進するために、微生物を被覆してもよい。そのような被覆はその当業者には公知であり、それはとりわけ、Huyghebaert et al. (2005)によって記述された。医薬組成物は、さらにトレハロース(しかしそれに限定されない)などの微生物の生存度を改善する試薬を含んでもよい。好ましくは、微生物は乳酸菌および酵母からなる群より選ばれる。一つの好ましい実施態様は、VHH産生微生物がLactococcus lactis、好ましくはThyA突然変異株である、医薬組成物である。別の好ましい実施態様は、VHH産生微生物がLactobacillus種であり、好ましくはThyA突然変異株である医薬組成物である。好ましくは、前記ThyA突然変異株は、VHHをコードするコンストラクトを挿入として用いて、遺伝子破断によって得られる。さらに別の好ましい実施態様は、VHH産生微生物が、Saccharomyces cerevisiae、好ましくはS. cerevisiae亜種boulardiiである医薬組成物である。
【0014】
本発明の別の局面は、有効量の抗−TNFαVHH産生微生物を胃腸管へ投与する工程を含む、少なくとも1つの胃腸管の疾患または障害を予防し、治療し、および/または緩和する方法である。好ましくは、前記抗−TNFαVHHは二価抗体である。投与する方法は、当業者に公知の任意の方法でよく、経口および直腸内投与を非限定的に含む。好ましくは、投与方法は経口投与である。好ましくは、前記疾患または障害は、TNFα産生の不均衡によって特徴づけられる疾患または障害であり、TNFα抗体などのTNFαを不活性化する化合物によって治療することができる。さらにより好ましくは、前記疾患は、慢性大腸炎、潰瘍性大腸炎およびクローン病を非限定的に含む、過敏性腸疾患である。最も好ましくは、前記疾患または障害は慢性大腸炎である。
【0015】
好ましくは、前記遺伝子操作微生物は、乳酸菌または酵母である。一つの好ましい実施態様では、前記遺伝子操作微生物はLactococcus lactis株、好ましくは前記遺伝子操作微生物はLactococcus lactis ThyA突然変異株である。特に好ましい実施態様は、TNF−α抗体をコードする遺伝子がTHYA遺伝子を破断するために用いられた、Lactococcus lactis ThyA突然変異株である。別の好ましい実施態様では、遺伝子操作微生物はLactobacillus種菌株であり、好ましくは前記遺伝子操作微生物は、Lactobacillus ThyA突然変異株である。特に好ましい実施態様は、TNF−α抗体をコードする遺伝子がTHYA遺伝子を破断するために用いられた、Lactobacillus ThyA突然変異株である。別の好ましい実施態様では、酵母が、抗−TNFα抗体産生微生物である。好ましくは前記酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、さらに好ましくは前記酵母はSaccharomyces cerevisiae亜種Boulardiiである。
【0016】
実施例
実施例の材料と方法
【0017】
細菌およびプラスミド
この研究の全体に亘ってL. lactis菌株MG1363を用いた。細菌を、GM17培地、即ち0.5%グルコースを補填したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)中で培養した。すべての菌株のストック懸濁液を、GM17中の50%グリセロール中で、−20℃で保存した。胃内接種のために、ストック懸濁液を、新鮮なGM17で200倍薄め、30℃でインキュベーションした。それらは、16時間以内に1ml当たり2×109コロニー形成単位(CFU)の飽和密度に達した。細菌を遠心分離により収穫し、BM9培地中で10倍濃縮した(Schotte, Steidler et al. 2000)。処理については、マウスがそれぞれ、胃内カテーテルによって毎日この懸濁液100μlを投与された。
【0018】
抗−マウスTNFナノボディの同定および構成
抗−マウスTNFナノボディの生成を、本質的にWO2004041862に述べられているように実行した。mTNFでラマを免疫し、それに続くVHHレパートリーのクローニングおよび選別の後に、ナノボディNANO3F(MW約15kDa)を単離した。スペーサーとしてラマIgG2a上端ヒンジ配列の12のアミノ末端残基を用いて、マウスTNF特異的ナノボディを二価のフォーマット(NANO3F−3Fとよぶ、MW約30kDa)に変換した。3’端部がHisGおよびMycタグをコードする配列によって伸張された、NANO3FおよびNANO3F−3FのcDNAを、乳酸菌P1プロモーター(Waterfield, Le Page et al. 1995)の下流のUsp45分泌シグナル(van Asseldonk, Rutten et al. 1990)に融合し、MG1363中に発現させた(著者らからプラスミドコンストラクションの詳細を得ることができる)。NANO3FまたはNANO3F−3Fのコード配列を所持するプラスミドで形質転換されたMG1363菌株を、それぞれLL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fと名付けた。空ベクターpTREX1を含むMG1363であるLL−pTREX1が、対照となった。
【0019】
L. lactis培地中のナノボディの定量化
Mycタグを付けたLL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fを、L. lactisの粗上清液のELISAプレートへの直接の吸着(Maxisorp F96, Nunc, Rochester, NY)、およびそれに続くMycエピトープに対する特異的マウスmAb(Sigma, St. Louis, MO)による検出によって定量した。インビボで結腸組織に分泌された3F−3Fナノボディの定量化のために、全結腸を、1%BSAを含むPBS中でホモジナイズし、超音波処理した。3F−3Fナノボディを、ナノボディ定量化プロトコルにより、結腸上清中で測定した。
【0020】
マウス血清中の抗−ナノボディ抗体レベルの測定
14日の間毎日、マウスに、100μgのナノボディを腹腔内に、またはLL−NANO3F−3Fを胃内に注入し、続いて瀉血した。我々は、10μg/mlの濃度のナノボディを、4℃で終夜、マイクロタイタープレート(NUNC Maxisorb)にコートした。プレートをPBS−Tweenで5回洗浄し、室温でPBS−1%カゼインによって2時間ブロックした。試料をPBSで1/50稀釈して、室温で2時間適用した。プレートを5回洗浄し、ウサギポリクローナル抗マウス免疫グロブリンHRP(DAKO、3,000倍希釈)と、室温で1時間インキュベーションし、洗浄の後、ABTS/H2O2でプレートを染色して、検出を行なった。OD405nmを測定した。
【0021】
抗−可溶性および膜結合型TNFのバイオアッセイ
NANO3FおよびNANO3F−3Fナノボディの、可溶性mTNF(20IU/ml)に対する阻害効果を、マウス繊維芽WEHI164cl13細胞を1μg/mlのアクチノマイシンDの存在下で用いる16時間の細胞毒性分析で、記述されたようにして(Espevik and Nissen-Meyer 1986)、測定した。膜結合型TNFの細胞毒性を打ち消すNANO3FおよびNANO3F−3Fの効果を、WEHI164cl13細胞について、切断されない膜結合型のTNFを発現しているL929細胞を細胞培養液に加えた後に測定した(Decoster et al. 1998)。
【0022】
LPSによるマクロファージの刺激
LPSによる炎症誘発性サイトカインの誘導に対するNANO3F−3Fの効果を測定するために、MF4/4マクロファージ(Desmedt et al. 1998)をNANO3F−3F(100μg/ml)とインキュベーションした。1時間後に細胞を十分な体積のPBSで十分に(3回)洗浄して、溶液中に存在する全てのナノボディを完全に除去した。細胞を再懸濁し、LPS存在下または不存在下で、4時間インキュベーションした。細胞をPBSで洗浄し(1回)、また4時間のインキュベーションの後、上清と細胞を遠心分離によって分離した。可溶性TNFの放出を測定するために、WEHI164cl13細胞バイオアッセイを用いた。
【0023】
動物
11週齢の雌BALB/cマウスを、Charles River Laboratories (Sulzfeld, Germany)から得た。それらを、SPF条件下に収容した。IL−10ノックアウトマウス(129Sv/Ev IL−10-/-)(Kuhn, Lohler et al. 1993)を、SPF条件下に収容し繁殖させた。IL−10-/-マウスを20週齢で用いた。その週齢で慢性大腸炎が完全に発病していた。全てのマウスは、標準的実験室食料および水道水を好きなだけ与えられた。動物研究は、ゲント大学分子生体医学研究部門の倫理委員会によって承認された(ファイル番号04/02)。
【0024】
DSSによる慢性大腸炎の誘導
体重およそ21gのマウスが、飲料水中の5%(w/v)DSS(40kDa、Applichem, Darmstadt, Germany)の、正常な飲料水による回復の10日の期間と交互の、4サイクルの投与によって、慢性大腸炎を誘起された(Okayasu, Hatakeyama et al. 1990; Kojouharoff, Hans et al. 1997)。DSSの第4サイクル後の21日目に、任意に治療を開始した。
【0025】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)分析
中央結腸組織中のMPO活性を、記述されているように(Bradley, Priebat et al. 1982)測定した。純粋なヒトMPO(Calbiochem, San Diego, CA)を標準として用いた。データをμgMPO/mm2結腸組織として表す。
【0026】
組織学的分析
組織学的分析のために、結腸を取り出し、洗浄し、縦に開いた。結腸の中央部から1cmの分画を取り出して、パラフィンに包埋し、縦に切片にした。3つの4μm切片を200μm間隔で切り出し、ヘマトキシリン/エオシンで染色した。結腸切片にランダムに番号を付け、それを病理学者が盲検法で半定量的に解釈した。組織学的スコアは、記述されているように各々が0〜4の範囲の(Kojouharoff, Hans et al. 1997)、上皮の損害およびリンパ浸潤の合計である。
【0027】
統計的分析
全てのデータを平均値±SEMとして表す。パラメトリックデータを、一元配置分散分析および続くダネットの多重比較ポストテストにより分析した。ノンパラメトリックデータ(スコアリング)を、マン・ホイットニー検定で解析した。
【0028】
実施例1:L. lactisによる抗−TNFαVHHのインビトロでの産生
L. lactisを、NANO3FおよびNANO3F−3Fをコードするプラスミドで形質転換した。空のプラスミドpTREXで形質転換された菌株およびIL10産生菌株を参照として用いて、ウエスタンブロットおよびELISAにより、抗体の産生を検査した。結果を図1に示す。L. lactisによってNANO3F−3Fが、NANO3Fと同程度またはより高い量で産生される。産生された量は、IL10よりも有意に多い。
【0029】
実施例2:LL−NANO3F−3Fは生物活性を有し、可溶性および膜結合TNF−αの双方を阻害する。
L. lactisによって産生されたNANO3FおよびNANO3F−3Fナノボディの可溶性mTNFに対する阻害効果を、Espevik and Nissen-Meyer (1986)によって記述されたように、マウス繊維芽WEHI164cl13細胞を用いる細胞毒性分析により測定した。E.coliが産生したNANO3FおよびNANO3F−3Fを、正の参照として用いた。精製されたナノボディおよびL. lactisによって産生されたナノボディの双方が、可溶性TNFを中和することができる(図2A)。膜結合型TNFの細胞毒性を中和するNANO3FおよびNANO3F−3Fの効果を、切断されない膜結合型TNFを発現するL929細胞を細胞培養液に加えた後に、WEHI164cl13細胞について測定した(Decoster et al. 1998)。NANO3Fの効果は、精製されたものおよびL. lactisが産生したもの、の両方で、それほど明白ではないが、NANO3F−3Fナノボディの効果は、両方の場合において明白である(図2B)。
【0030】
実施例3:確立したDSS誘起慢性大腸炎に対する、インビボでのLL−NANO3F−3Fの効果
慢性大腸炎が、材料および方法に述べたようにDSSにより誘起された。マウスを毎日2×109コロニー形成単位(CFU)のLL−pTREX1、LL−NANO3F−3F、またはLL−mIL10のいずれかで処理した。擬処理および健康なマウス(「水対照」)を、追加の対照として用いた。L. lactisにより送達されるNANO3F−3Fナノボディの効果は、インサイチューで産生されたIL−10によって得られる保護に匹敵する(図3)。
【0031】
実施例4:確立されたIL−10-/-全腸炎に対する、インビボでのLL−NANO3F−3Fの効果
IL−10-/-全腸炎における保護を評価するために、20週齢の処理されたまたは未処理の129Sv/Ev IL−10-/-マウスの病的状態。各群は、擬処理群以外は、14日間、毎日2×109CFUのLL−pTREX1(ベクター対照)、LL−NANO3F−3F、またはLL−mIL10のいずれかを投与された。図4に結果を要約する。ミエロペルオキシダーゼ分析ならびに組織学的スコアの両方が、LL−NANO3F−3F処理マウスでの有意な保護を示す。
【0032】
実施例5:NANO3F−3Fの免疫原性
LL−NANO3F−3Fのあり得る有害な免疫原性効果を評価するために、マウスを14日間に亘ってLL−NANO3F−3Fで胃内処理し、対照として精製されたナノボディの腹腔内注射を用いた。抗−ナノボディ抗体のレベルをマウス血清中で測定した。結果を図5に示す。NANO3F−3Fの腹腔内注射が明らかな免疫応答を与えている一方で、LL−NANO3F−3Fによる処理には免疫原性がなく、その点で安全であることを証明している。
【0033】
実施例6:LPSによる炎症誘発性サイトカインの誘導に対するNANO3F−3Fの効果
LPSによる炎症誘発性サイトカインの誘導に対するNANO3F−3Fの効果を測定するために、MF4/4マクロファージ(Desmedt et al., 1998)をNANO3F−3Fとインキュベーションした。細胞を洗浄し、次にLPSとインキュベーションした。可溶性TNFの放出を、WEHI164cl13細胞毒性分析を用いて測定した。結果を図6に示す。NANO3F−3Fナノボディによるマクロファージの前処理が、LPSによって誘起される可溶性TNF産生に対して明確な保護を与える。
【0034】
実施例7:二価抗体は一価抗体より驚くほど高性能である。
二価抗体は一価抗体より大きいが、それは乳酸菌中での産生に影響を与えない。二価抗体の産生は、一価抗体よりも良いことはないとしても、少なくとも同程度には良い(図1)。しかし、さらに重要なのは、二価抗体の有効性である。インビボの実験から、一価の抗−TNF抗体は、組織学的スコアのわずかであって有意でない改良をもたらすのみであるが、一方で二価抗体を分泌するL. lactisの投与は有意な改良をもたらすことが明白である(図7)。確かに、二価抗体の中和作用は、同程度のタンパク質濃度について、一価抗体よりも顕著である。完全な中和が達成されないうちは、改良は2倍を越えており、それは単にナノボディの2倍の価数によるものではないことを示している(図8)。
【0035】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】遺伝子操作されたL. lactisによる異種の一価および二価のナノボディNANO3F(LL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3F)産生の時間経過。LL−pTREX1:ベクター対照;LL−mIL10:マウスインターロイキン10を分泌するL. lactis株。(A)抗−Myc抗体によって示された、様々な菌株から分泌されたタンパク質のウエスタンブロット解析。ブロットの各レーンは、種々の増殖期間の後に得られた250μlのL. lactis培養液上清である(時間ゼロで、2×107CFU)。E.coliの精製された一価NANO3F(+)および二価NANO3F−3F(++)を、正の対照として用いた。(B)LL−pTREX1(◇)、LL−NANO3F(■)、LL−NANO3F−3F(▲)およびLL−mIL10(○)の培養液上清中に分泌された、異種のMycタグ付きタンパク質の濃度(ELISAによって測定した)。
【図2A】L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製された一価および二価のナノボディNANO3Fは、可溶性のおよび膜結合性のTNFを効率的に中和することができる。(A)可溶性TNF(20IU/ml)が、1μg/mlのアクチノマイシンD存在下でWEHI164cl13細胞を用いる16時間の細胞毒性分析において、NANO3FおよびNANO3F−3Fによって中和された。(B)L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製されたナノボディ、NANO3FおよびNANO3F−3Fは、切断されない膜結合型TNFを発現するL929の細胞毒性効果を阻害することができた。灰色のバーは、精製されたNANO3FまたはNANO3F−3F(総濃度250ng/ml)を加えたウエルを表わす。黒いバーは、濾過した(0.22μm)乳酸菌上清50μlを加えたウエルを表わす。LL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fの最終濃度は、各設定中で250ng/mlであった。
【図2B】L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製された一価および二価のナノボディNANO3Fは、可溶性のおよび膜結合性のTNFを効率的に中和することができる。(A)可溶性TNF(20IU/ml)が、1μg/mlのアクチノマイシンD存在下でWEHI164cl13細胞を用いる16時間の細胞毒性分析において、NANO3FおよびNANO3F−3Fによって中和された。(B)L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製されたナノボディ、NANO3FおよびNANO3F−3Fは、切断されない膜結合型TNFを発現するL929の細胞毒性効果を阻害することができた。灰色のバーは、精製されたNANO3FまたはNANO3F−3F(総濃度250ng/ml)を加えたウエルを表わす。黒いバーは、濾過した(0.22μm)乳酸菌上清50μlを加えたウエルを表わす。LL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fの最終濃度は、各設定中で250ng/mlであった。
【図3】慢性DSS大腸炎の病的状態の分析。(A〜E)健康な対照マウス(A)、および擬処理された(B)、あるいはLL−pTREX1(C)、LL−NANO3F−3F(D)またはLL−mIL10(E)で処理された、慢性のDSS大腸炎を有するマウスの中央結腸の代表的な組織構造。(F)中央結腸の組織学的スコアの統計的評価。バーは、平均値±SEMを表わす。白いバーは、健康な対照群を表わす。DSSによって誘起された慢性大腸炎を有するマウスが、擬処理された(斜線バー)か、あるいはLL−pTREX1(黒バー)、LL−NANO3F−3F(赤バー)またはLL−mIL10(灰色バー)を投与された。***および**は、擬処理群およびベクター対照群と比較した、それぞれP<0.001およびP<0.01の統計的有意差を表わす。
【図4】20週齢の129Sv/Ev IL−10-/-マウスの病的状態の分析。擬処理群を除いて、各群は、14日間毎日2×109CFUのLL−pTREX1(ベクター対照)、LL−NANO3F−3F、またはLL−mIL10を投与された。(A〜D)擬処理された(A)、あるいはLL−pTREX1(B)、LL−NANO3F−3F(C)、またはLL−mIL10(D)で処理された、IL−10-/-マウスの中央結腸の代表的な組織像(ヘマトキシリン−エオシン染色)。結腸組織のmm2当たりのMPOレベル(A)および遠位結腸の組織学的スコア(B)、の統計的評価。バーは、平均値±SEMを表す。斜線付きバーは、擬処理された129Sv/Ev IL−10-/-マウスを表し、黒バーは、ベクター対照LL−pTREX1を投与された129Sv/Ev IL−1O-/-マウスを表し、赤バーはLL−NANO3F−3Fを投与された129Sv/Ev IL−10-/-マウスを表し、および灰色バーはLL−mIL10で処理された129Sv/Ev IL−10-/-マウスを表わす。*および**は、それぞれベクター対照群と比較したP<0.05およびP<0.01の統計的有意差を表す。
【図5】ナノボディ特異抗体の存在を、ELISAにより評価した。
【図6】NANO3F−3Fによる前処理が、Mf4/4マクロファージをLPS無応答にする。WEHI164cl13細胞は、依然として5IU TNFで殺される。
【図7】慢性DSS大腸炎を有するマウスの遠位結腸の組織学的スコアの統計的評価。バーは、平均値±SEMを表す。白バーは健康な対照群を表す。DSS誘起慢性大腸炎を有するマウスが、種々のL. lactis培養液を28日間投与され、その後直ちに殺され、解析された。黒バーは、ベクター対照のLL−pTREX1処理群、斜線付きバーは、LL−NANO3F(L. lactisが分泌する一価の3F)を投与された群、灰色バーは、LL−NANO3F−3F(L. lactisが分泌する二価の3F−3F)を投与された群を表す。**は、ベクター対照LL−pTREX1処理群およびLL−NANO3F処理群と比較した、P<0.01の統計有意差を表わす。
【図8】L. lactis が分泌した一価および二価のナノボディ3E(抗−ヒトTNFナノボディ)は、可溶性ヒトTNFを効率的に中和することができる。可溶性ヒトTNF(30〜3.3IU/mlの範囲の種々の濃度)が、1μg/mlアクチノマイシンDの存在下でL929細胞を用いた、16時間の細胞毒性分析において、3Eおよび3E−3Eによって中和された。細胞生存率を正常細胞と比較して計算した。白バーは、濾過した(0.22μm)ベクター対照LL−pTREX1の乳酸菌上清50μLを加えたウエルを表す。黒および灰色バーは、それぞれL. lactisが分泌した3Eまたは3E−3Eを含む、濾過した(0.22μm)乳酸菌上清50μLを加えたウエルを表す。L. lactisが分泌した3Eまたは3E−3Eの最終濃度は、各設定において、250ng/mlであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性全腸炎の新規な治療法に関する。より具体的には、本発明は、抗−TNFαを産生する乳酸菌を含む薬剤の生産、およびこの薬剤の慢性全腸炎の治療における使用、に関する。炎症性腸疾患(IBD)とは、胃腸管の一部の慢性非特異的炎症によって特徴づけられる胃腸障害の群を指す。ヒトのIBDの最も顕著な例は、潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)である。IBDの病因または病因群は不明確である。IBD疾患は、腸管における炎症反応の無制限の活性化に起因するように見える。この炎症カスケードは、炎症誘発性サイトカインの作用およびリンパ球サブセットの選択的活性化を通じて存続すると考えられている。UCおよびCDは、小児の成長遅延、直腸脱、血便、消耗、鉄分欠乏および貧血を含む多くの症状および合併症に関連している。UCとは、主として結腸粘膜中に現れる、慢性、非特異的、炎症性および潰瘍性の疾患を指す。それはしばしば、血性下痢、腹部仙痛、便中の血液および粘液、不快感、発熱、貧血、食欲不振、体重減少、白血球増多、低アルブミン血、および赤沈亢進によって特徴づけられる。
【0002】
クローン病は、潰瘍性大腸炎と共通の多くの特徴を共有する。クローン病は、かなり拡散している潰瘍性大腸炎の病変とは対照的に、病変が隣接する正常な腸からはっきり区別される傾向がある点によって識別することができる。さらに、クローン病は、主に回腸(回腸炎)ならびに回腸および結腸(回結腸炎)を冒す。ある場合には結腸のみが罹患し(肉芽腫性大腸炎)、またある場合には全小腸が含まれる。
【0003】
結腸癌は慢性IBDの公知の合併症である。それは、長年IBDを有する患者中で、次第に頻度が高くなる。癌の危険性はIBDの8〜10年後に著しく上昇し始め、速くて効率的なIBDの治療をさらに重要にする。IBDを治療するために最も一般的に使用される薬剤には、コルチコステロイドなどの抗炎症薬、ならびにスルファサラジンなどのサルチル酸およびその誘導体が含まれる。これらの薬に応答しない人々のために、シクロスポリンA、メルカプトプリン、およびアザチオプリンなどの免疫抑制剤が用いられる。しかし、これらの薬剤はすべて重い副作用を有する。IBDの治療における最近の成功した進展は、TNFまたはそのレセプターの働きを遮断する化合物の使用である。その点で最も有望な新しい治療法の一つは、TNF抗体の使用である。腫瘍壊死因子α(TNFα)は、単球およびマクロファージを含む多数の細胞型によって産生されるサイトカインであり、最初は、あるマウス腫瘍の壊死を引き起こす能力に基づいて同定された(例えば、Old, L. (1985) Science 230:630-632を参照のこと)。TNFαは、敗血症、感染、自己免疫性疾患、移植拒絶反応、および移植片対宿主病を含む、様々な他のヒトの疾患および障害の病態生理に関連することが示唆されている(例えば、Moeller, A. et al. (1990) Cytokine2: 162-169; MoellerらへのU.S. Patent No. 5,231,024 ; Moeller, A.らによるEuropean Patent Publication No. 260 610 (B1); Vasilli. P.(1992) Annu. Rev.Immunol. 10:411-452; Tracey, K.J. and Cerami, A. (1994) Annu. Rev. Med. 45:491-503を参照のこと)。様々なヒトの障害におけるヒトTNFα(hTNFα)の有害な役割のために、hTNFα活性を阻害するかまたは中和する治療戦略が立案された。hTNFα活性を阻害する手段として、特に、hTNFαに結合し中和する抗体が探索された。
【0004】
いくつかの抗体製剤が、IBDの治療のためにテストされた。ポリクローナル抗体が第II相臨床試験においてテストされたが、モノクローナル抗体が明白に好ましい。インフリキシマブは、IgG1Kサブクラスの、キメラヒト−マウスモノクローナル抗体であり、それは細胞膜上および血液中のTNFαを特異的に標的とし、非可逆的に結合する。5〜20mg/kgの範囲の抗体インフリキシマブの一回の静脈内投与が、活動的なクローン病の大幅な臨床的改善をもたらし;それは、1998年にクローン病を治療するために市場に出された。
【0005】
キメラ抗体に関連して起こり得る問題を解決するために、ヒトモノクローナルTNFαアダリムマブが開発され、それは現在クローン病治療の第III相臨床試験でテストされている。患者中の抗体の半減期を改善するために、Celltech社は、セルトリズマブ・ペゴールを開発した、それはヒト化モノクローナルPEG化抗−TNFα抗体であり、現在クローン病の治療の第III相臨床試験でテストされている。
【0006】
しかし、それらのすべての場合において、抗体は全身性に、主として皮下注射によって投与される。抗−TNFα抗体の全身性投与は、頭痛、膿瘍、上気道感染症、および疲労を含む、かなり重大な望ましくない影響をもたらす可能性がある。
【0007】
全身性送達に関連する望ましくない影響を、炎症箇所への局所的送達によって解決することができよう。腸の中へ生物学的活性化合物を送達するための有望なシステムが、WO97/14806に開示されており、それによれば、乳酸菌のような非侵襲性のグラム陽性細菌が、生物学的活性化合物を消化管へ送達するために用いられる。WO00/23471は、このシステムを回腸にIL−10を送達するために用いることができ、それによってIBDを治療するためにこの菌株を用いることができることを開示する。WO01/98461は、酵母を用いる腸への送達のための代替法を開示する。しかし、生物学的活性化合物の送達については記述されているが、これらの文書は抗体の腸への送達については教示しない。抗体の折り畳みおよび分泌の両方が決定的に重要であるので、活性を有する抗体の腸中でのインサイチューの産生は、決して簡単ではない。特に、硫黄架橋による構造の安定化が、細菌または酵母中での抗体の産生について、問題を引き起こす可能性がある。さらに、IL−10のようなサイトカインは触媒機能を果たすが、TNF抗体は、産生された内因性TNFを不活性化するのに十分な量が産生される必要がある。驚くべきことに、我々は、遺伝子操作した微生物による抗−TNFα抗体の局所的送達を、IBDを治療するために効率的な形で用いることができることを見出した。
【0008】
本発明の第1の局面は、抗−TNFα抗体を産生する遺伝子操作された微生物の、IBDを治療する薬剤の調製のための使用である。本明細書で用いる用語、抗体には、VHHなどの抗体フラグメントも含む、普通の抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二機能性抗体、二価抗体、二特異性抗体およびラクダ科動物抗体が非限定的に含まれる。好ましくは、前記抗体はラクダ科動物抗体フラグメント(VHH;以下ナノボディと呼ぶ)であり、さらに好ましくは前記抗体は二価抗−TNFαナノボディである。二価抗体は、TNFのそのレセプターへの結合を、一価抗体よりも著しく効率的に阻害するという長所を有する(それぞれ、EC50=16pMおよび6.7nM)。驚いたことに、我々は、Lactococcus中の二価抗体の産生が一価抗体と同程度か、またはさらに高くさえなることを見出した。
【0009】
好ましくは、前記遺伝子操作された微生物は、乳酸菌または酵母である。乳酸菌による、生物学的活性を有するポリペプチドの動物体内への送達が、WO9714806に開示されており;酵母によるペプチドの腸への送達が、WO0198461に記述されている。しかし、これらの文書のいずれも、腸中への抗体またはナノボディの送達には言及しない。抗体の正確な折り畳みおよび分泌が必要であり、中和活性を得るためには十分な抗体が必要であるので、生物学的活性を有する抗体またはナノボディのインビボの産生、分泌および送達は決して明白ではない。
【0010】
一つの好ましい実施態様では、前記遺伝子操作された微生物は、Lactococcus lactis株であり、好ましくは前記遺伝子操作菌株は、Lactococcus lactis ThyA突然変異株である。特に好ましい実施態様は、TNF−α抗体をコードする遺伝子がTHYA遺伝子を破断するために用いられた、Lactococcus lactis ThyA突然変異株の使用である。
【0011】
別の好ましい実施態様では、酵母が抗−TNFα抗体を送達するために用いられる。好ましくは前記酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、さらに好ましくは、前記酵母はSaccharomyces cerevisiaeの亜種Boulardiiである。
【0012】
本明細書で用いるIBDには、慢性大腸炎、潰瘍性大腸炎およびクローン病が非限定的に含まれる。好ましくは、IBDは慢性大腸炎である。
【0013】
本発明の別の局面は、少なくとも一つの遺伝子操作抗−TNFαVHH産生微生物を含む経口投与用の医薬組成物である。好ましくは、前記抗−TNFαVHHは二価抗体である。医薬組成物は、生物活性を有する微生物を含む液体であってよいし、またはそれは適当な環境に入れられたときに再活性化できる、乾燥微生物を含む固体であってもよい。微生物を、凍結乾燥および噴霧乾燥を含む任意のシステムによって乾燥させてよい。本明細書で用いる「抗−TNFαVHHを産生する」とは、微生物が医薬組成物中でVHHを生成していることを意味するのではなく、微生物が適当な環境に置かれたときに、生存可能で、VHHを産生することができることを意味する。胃腸管への送達を促進するために、微生物を被覆してもよい。そのような被覆はその当業者には公知であり、それはとりわけ、Huyghebaert et al. (2005)によって記述された。医薬組成物は、さらにトレハロース(しかしそれに限定されない)などの微生物の生存度を改善する試薬を含んでもよい。好ましくは、微生物は乳酸菌および酵母からなる群より選ばれる。一つの好ましい実施態様は、VHH産生微生物がLactococcus lactis、好ましくはThyA突然変異株である、医薬組成物である。別の好ましい実施態様は、VHH産生微生物がLactobacillus種であり、好ましくはThyA突然変異株である医薬組成物である。好ましくは、前記ThyA突然変異株は、VHHをコードするコンストラクトを挿入として用いて、遺伝子破断によって得られる。さらに別の好ましい実施態様は、VHH産生微生物が、Saccharomyces cerevisiae、好ましくはS. cerevisiae亜種boulardiiである医薬組成物である。
【0014】
本発明の別の局面は、有効量の抗−TNFαVHH産生微生物を胃腸管へ投与する工程を含む、少なくとも1つの胃腸管の疾患または障害を予防し、治療し、および/または緩和する方法である。好ましくは、前記抗−TNFαVHHは二価抗体である。投与する方法は、当業者に公知の任意の方法でよく、経口および直腸内投与を非限定的に含む。好ましくは、投与方法は経口投与である。好ましくは、前記疾患または障害は、TNFα産生の不均衡によって特徴づけられる疾患または障害であり、TNFα抗体などのTNFαを不活性化する化合物によって治療することができる。さらにより好ましくは、前記疾患は、慢性大腸炎、潰瘍性大腸炎およびクローン病を非限定的に含む、過敏性腸疾患である。最も好ましくは、前記疾患または障害は慢性大腸炎である。
【0015】
好ましくは、前記遺伝子操作微生物は、乳酸菌または酵母である。一つの好ましい実施態様では、前記遺伝子操作微生物はLactococcus lactis株、好ましくは前記遺伝子操作微生物はLactococcus lactis ThyA突然変異株である。特に好ましい実施態様は、TNF−α抗体をコードする遺伝子がTHYA遺伝子を破断するために用いられた、Lactococcus lactis ThyA突然変異株である。別の好ましい実施態様では、遺伝子操作微生物はLactobacillus種菌株であり、好ましくは前記遺伝子操作微生物は、Lactobacillus ThyA突然変異株である。特に好ましい実施態様は、TNF−α抗体をコードする遺伝子がTHYA遺伝子を破断するために用いられた、Lactobacillus ThyA突然変異株である。別の好ましい実施態様では、酵母が、抗−TNFα抗体産生微生物である。好ましくは前記酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、さらに好ましくは前記酵母はSaccharomyces cerevisiae亜種Boulardiiである。
【0016】
実施例
実施例の材料と方法
【0017】
細菌およびプラスミド
この研究の全体に亘ってL. lactis菌株MG1363を用いた。細菌を、GM17培地、即ち0.5%グルコースを補填したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)中で培養した。すべての菌株のストック懸濁液を、GM17中の50%グリセロール中で、−20℃で保存した。胃内接種のために、ストック懸濁液を、新鮮なGM17で200倍薄め、30℃でインキュベーションした。それらは、16時間以内に1ml当たり2×109コロニー形成単位(CFU)の飽和密度に達した。細菌を遠心分離により収穫し、BM9培地中で10倍濃縮した(Schotte, Steidler et al. 2000)。処理については、マウスがそれぞれ、胃内カテーテルによって毎日この懸濁液100μlを投与された。
【0018】
抗−マウスTNFナノボディの同定および構成
抗−マウスTNFナノボディの生成を、本質的にWO2004041862に述べられているように実行した。mTNFでラマを免疫し、それに続くVHHレパートリーのクローニングおよび選別の後に、ナノボディNANO3F(MW約15kDa)を単離した。スペーサーとしてラマIgG2a上端ヒンジ配列の12のアミノ末端残基を用いて、マウスTNF特異的ナノボディを二価のフォーマット(NANO3F−3Fとよぶ、MW約30kDa)に変換した。3’端部がHisGおよびMycタグをコードする配列によって伸張された、NANO3FおよびNANO3F−3FのcDNAを、乳酸菌P1プロモーター(Waterfield, Le Page et al. 1995)の下流のUsp45分泌シグナル(van Asseldonk, Rutten et al. 1990)に融合し、MG1363中に発現させた(著者らからプラスミドコンストラクションの詳細を得ることができる)。NANO3FまたはNANO3F−3Fのコード配列を所持するプラスミドで形質転換されたMG1363菌株を、それぞれLL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fと名付けた。空ベクターpTREX1を含むMG1363であるLL−pTREX1が、対照となった。
【0019】
L. lactis培地中のナノボディの定量化
Mycタグを付けたLL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fを、L. lactisの粗上清液のELISAプレートへの直接の吸着(Maxisorp F96, Nunc, Rochester, NY)、およびそれに続くMycエピトープに対する特異的マウスmAb(Sigma, St. Louis, MO)による検出によって定量した。インビボで結腸組織に分泌された3F−3Fナノボディの定量化のために、全結腸を、1%BSAを含むPBS中でホモジナイズし、超音波処理した。3F−3Fナノボディを、ナノボディ定量化プロトコルにより、結腸上清中で測定した。
【0020】
マウス血清中の抗−ナノボディ抗体レベルの測定
14日の間毎日、マウスに、100μgのナノボディを腹腔内に、またはLL−NANO3F−3Fを胃内に注入し、続いて瀉血した。我々は、10μg/mlの濃度のナノボディを、4℃で終夜、マイクロタイタープレート(NUNC Maxisorb)にコートした。プレートをPBS−Tweenで5回洗浄し、室温でPBS−1%カゼインによって2時間ブロックした。試料をPBSで1/50稀釈して、室温で2時間適用した。プレートを5回洗浄し、ウサギポリクローナル抗マウス免疫グロブリンHRP(DAKO、3,000倍希釈)と、室温で1時間インキュベーションし、洗浄の後、ABTS/H2O2でプレートを染色して、検出を行なった。OD405nmを測定した。
【0021】
抗−可溶性および膜結合型TNFのバイオアッセイ
NANO3FおよびNANO3F−3Fナノボディの、可溶性mTNF(20IU/ml)に対する阻害効果を、マウス繊維芽WEHI164cl13細胞を1μg/mlのアクチノマイシンDの存在下で用いる16時間の細胞毒性分析で、記述されたようにして(Espevik and Nissen-Meyer 1986)、測定した。膜結合型TNFの細胞毒性を打ち消すNANO3FおよびNANO3F−3Fの効果を、WEHI164cl13細胞について、切断されない膜結合型のTNFを発現しているL929細胞を細胞培養液に加えた後に測定した(Decoster et al. 1998)。
【0022】
LPSによるマクロファージの刺激
LPSによる炎症誘発性サイトカインの誘導に対するNANO3F−3Fの効果を測定するために、MF4/4マクロファージ(Desmedt et al. 1998)をNANO3F−3F(100μg/ml)とインキュベーションした。1時間後に細胞を十分な体積のPBSで十分に(3回)洗浄して、溶液中に存在する全てのナノボディを完全に除去した。細胞を再懸濁し、LPS存在下または不存在下で、4時間インキュベーションした。細胞をPBSで洗浄し(1回)、また4時間のインキュベーションの後、上清と細胞を遠心分離によって分離した。可溶性TNFの放出を測定するために、WEHI164cl13細胞バイオアッセイを用いた。
【0023】
動物
11週齢の雌BALB/cマウスを、Charles River Laboratories (Sulzfeld, Germany)から得た。それらを、SPF条件下に収容した。IL−10ノックアウトマウス(129Sv/Ev IL−10-/-)(Kuhn, Lohler et al. 1993)を、SPF条件下に収容し繁殖させた。IL−10-/-マウスを20週齢で用いた。その週齢で慢性大腸炎が完全に発病していた。全てのマウスは、標準的実験室食料および水道水を好きなだけ与えられた。動物研究は、ゲント大学分子生体医学研究部門の倫理委員会によって承認された(ファイル番号04/02)。
【0024】
DSSによる慢性大腸炎の誘導
体重およそ21gのマウスが、飲料水中の5%(w/v)DSS(40kDa、Applichem, Darmstadt, Germany)の、正常な飲料水による回復の10日の期間と交互の、4サイクルの投与によって、慢性大腸炎を誘起された(Okayasu, Hatakeyama et al. 1990; Kojouharoff, Hans et al. 1997)。DSSの第4サイクル後の21日目に、任意に治療を開始した。
【0025】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)分析
中央結腸組織中のMPO活性を、記述されているように(Bradley, Priebat et al. 1982)測定した。純粋なヒトMPO(Calbiochem, San Diego, CA)を標準として用いた。データをμgMPO/mm2結腸組織として表す。
【0026】
組織学的分析
組織学的分析のために、結腸を取り出し、洗浄し、縦に開いた。結腸の中央部から1cmの分画を取り出して、パラフィンに包埋し、縦に切片にした。3つの4μm切片を200μm間隔で切り出し、ヘマトキシリン/エオシンで染色した。結腸切片にランダムに番号を付け、それを病理学者が盲検法で半定量的に解釈した。組織学的スコアは、記述されているように各々が0〜4の範囲の(Kojouharoff, Hans et al. 1997)、上皮の損害およびリンパ浸潤の合計である。
【0027】
統計的分析
全てのデータを平均値±SEMとして表す。パラメトリックデータを、一元配置分散分析および続くダネットの多重比較ポストテストにより分析した。ノンパラメトリックデータ(スコアリング)を、マン・ホイットニー検定で解析した。
【0028】
実施例1:L. lactisによる抗−TNFαVHHのインビトロでの産生
L. lactisを、NANO3FおよびNANO3F−3Fをコードするプラスミドで形質転換した。空のプラスミドpTREXで形質転換された菌株およびIL10産生菌株を参照として用いて、ウエスタンブロットおよびELISAにより、抗体の産生を検査した。結果を図1に示す。L. lactisによってNANO3F−3Fが、NANO3Fと同程度またはより高い量で産生される。産生された量は、IL10よりも有意に多い。
【0029】
実施例2:LL−NANO3F−3Fは生物活性を有し、可溶性および膜結合TNF−αの双方を阻害する。
L. lactisによって産生されたNANO3FおよびNANO3F−3Fナノボディの可溶性mTNFに対する阻害効果を、Espevik and Nissen-Meyer (1986)によって記述されたように、マウス繊維芽WEHI164cl13細胞を用いる細胞毒性分析により測定した。E.coliが産生したNANO3FおよびNANO3F−3Fを、正の参照として用いた。精製されたナノボディおよびL. lactisによって産生されたナノボディの双方が、可溶性TNFを中和することができる(図2A)。膜結合型TNFの細胞毒性を中和するNANO3FおよびNANO3F−3Fの効果を、切断されない膜結合型TNFを発現するL929細胞を細胞培養液に加えた後に、WEHI164cl13細胞について測定した(Decoster et al. 1998)。NANO3Fの効果は、精製されたものおよびL. lactisが産生したもの、の両方で、それほど明白ではないが、NANO3F−3Fナノボディの効果は、両方の場合において明白である(図2B)。
【0030】
実施例3:確立したDSS誘起慢性大腸炎に対する、インビボでのLL−NANO3F−3Fの効果
慢性大腸炎が、材料および方法に述べたようにDSSにより誘起された。マウスを毎日2×109コロニー形成単位(CFU)のLL−pTREX1、LL−NANO3F−3F、またはLL−mIL10のいずれかで処理した。擬処理および健康なマウス(「水対照」)を、追加の対照として用いた。L. lactisにより送達されるNANO3F−3Fナノボディの効果は、インサイチューで産生されたIL−10によって得られる保護に匹敵する(図3)。
【0031】
実施例4:確立されたIL−10-/-全腸炎に対する、インビボでのLL−NANO3F−3Fの効果
IL−10-/-全腸炎における保護を評価するために、20週齢の処理されたまたは未処理の129Sv/Ev IL−10-/-マウスの病的状態。各群は、擬処理群以外は、14日間、毎日2×109CFUのLL−pTREX1(ベクター対照)、LL−NANO3F−3F、またはLL−mIL10のいずれかを投与された。図4に結果を要約する。ミエロペルオキシダーゼ分析ならびに組織学的スコアの両方が、LL−NANO3F−3F処理マウスでの有意な保護を示す。
【0032】
実施例5:NANO3F−3Fの免疫原性
LL−NANO3F−3Fのあり得る有害な免疫原性効果を評価するために、マウスを14日間に亘ってLL−NANO3F−3Fで胃内処理し、対照として精製されたナノボディの腹腔内注射を用いた。抗−ナノボディ抗体のレベルをマウス血清中で測定した。結果を図5に示す。NANO3F−3Fの腹腔内注射が明らかな免疫応答を与えている一方で、LL−NANO3F−3Fによる処理には免疫原性がなく、その点で安全であることを証明している。
【0033】
実施例6:LPSによる炎症誘発性サイトカインの誘導に対するNANO3F−3Fの効果
LPSによる炎症誘発性サイトカインの誘導に対するNANO3F−3Fの効果を測定するために、MF4/4マクロファージ(Desmedt et al., 1998)をNANO3F−3Fとインキュベーションした。細胞を洗浄し、次にLPSとインキュベーションした。可溶性TNFの放出を、WEHI164cl13細胞毒性分析を用いて測定した。結果を図6に示す。NANO3F−3Fナノボディによるマクロファージの前処理が、LPSによって誘起される可溶性TNF産生に対して明確な保護を与える。
【0034】
実施例7:二価抗体は一価抗体より驚くほど高性能である。
二価抗体は一価抗体より大きいが、それは乳酸菌中での産生に影響を与えない。二価抗体の産生は、一価抗体よりも良いことはないとしても、少なくとも同程度には良い(図1)。しかし、さらに重要なのは、二価抗体の有効性である。インビボの実験から、一価の抗−TNF抗体は、組織学的スコアのわずかであって有意でない改良をもたらすのみであるが、一方で二価抗体を分泌するL. lactisの投与は有意な改良をもたらすことが明白である(図7)。確かに、二価抗体の中和作用は、同程度のタンパク質濃度について、一価抗体よりも顕著である。完全な中和が達成されないうちは、改良は2倍を越えており、それは単にナノボディの2倍の価数によるものではないことを示している(図8)。
【0035】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】遺伝子操作されたL. lactisによる異種の一価および二価のナノボディNANO3F(LL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3F)産生の時間経過。LL−pTREX1:ベクター対照;LL−mIL10:マウスインターロイキン10を分泌するL. lactis株。(A)抗−Myc抗体によって示された、様々な菌株から分泌されたタンパク質のウエスタンブロット解析。ブロットの各レーンは、種々の増殖期間の後に得られた250μlのL. lactis培養液上清である(時間ゼロで、2×107CFU)。E.coliの精製された一価NANO3F(+)および二価NANO3F−3F(++)を、正の対照として用いた。(B)LL−pTREX1(◇)、LL−NANO3F(■)、LL−NANO3F−3F(▲)およびLL−mIL10(○)の培養液上清中に分泌された、異種のMycタグ付きタンパク質の濃度(ELISAによって測定した)。
【図2A】L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製された一価および二価のナノボディNANO3Fは、可溶性のおよび膜結合性のTNFを効率的に中和することができる。(A)可溶性TNF(20IU/ml)が、1μg/mlのアクチノマイシンD存在下でWEHI164cl13細胞を用いる16時間の細胞毒性分析において、NANO3FおよびNANO3F−3Fによって中和された。(B)L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製されたナノボディ、NANO3FおよびNANO3F−3Fは、切断されない膜結合型TNFを発現するL929の細胞毒性効果を阻害することができた。灰色のバーは、精製されたNANO3FまたはNANO3F−3F(総濃度250ng/ml)を加えたウエルを表わす。黒いバーは、濾過した(0.22μm)乳酸菌上清50μlを加えたウエルを表わす。LL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fの最終濃度は、各設定中で250ng/mlであった。
【図2B】L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製された一価および二価のナノボディNANO3Fは、可溶性のおよび膜結合性のTNFを効率的に中和することができる。(A)可溶性TNF(20IU/ml)が、1μg/mlのアクチノマイシンD存在下でWEHI164cl13細胞を用いる16時間の細胞毒性分析において、NANO3FおよびNANO3F−3Fによって中和された。(B)L. lactisから分泌された、またはE.coliから精製されたナノボディ、NANO3FおよびNANO3F−3Fは、切断されない膜結合型TNFを発現するL929の細胞毒性効果を阻害することができた。灰色のバーは、精製されたNANO3FまたはNANO3F−3F(総濃度250ng/ml)を加えたウエルを表わす。黒いバーは、濾過した(0.22μm)乳酸菌上清50μlを加えたウエルを表わす。LL−NANO3FおよびLL−NANO3F−3Fの最終濃度は、各設定中で250ng/mlであった。
【図3】慢性DSS大腸炎の病的状態の分析。(A〜E)健康な対照マウス(A)、および擬処理された(B)、あるいはLL−pTREX1(C)、LL−NANO3F−3F(D)またはLL−mIL10(E)で処理された、慢性のDSS大腸炎を有するマウスの中央結腸の代表的な組織構造。(F)中央結腸の組織学的スコアの統計的評価。バーは、平均値±SEMを表わす。白いバーは、健康な対照群を表わす。DSSによって誘起された慢性大腸炎を有するマウスが、擬処理された(斜線バー)か、あるいはLL−pTREX1(黒バー)、LL−NANO3F−3F(赤バー)またはLL−mIL10(灰色バー)を投与された。***および**は、擬処理群およびベクター対照群と比較した、それぞれP<0.001およびP<0.01の統計的有意差を表わす。
【図4】20週齢の129Sv/Ev IL−10-/-マウスの病的状態の分析。擬処理群を除いて、各群は、14日間毎日2×109CFUのLL−pTREX1(ベクター対照)、LL−NANO3F−3F、またはLL−mIL10を投与された。(A〜D)擬処理された(A)、あるいはLL−pTREX1(B)、LL−NANO3F−3F(C)、またはLL−mIL10(D)で処理された、IL−10-/-マウスの中央結腸の代表的な組織像(ヘマトキシリン−エオシン染色)。結腸組織のmm2当たりのMPOレベル(A)および遠位結腸の組織学的スコア(B)、の統計的評価。バーは、平均値±SEMを表す。斜線付きバーは、擬処理された129Sv/Ev IL−10-/-マウスを表し、黒バーは、ベクター対照LL−pTREX1を投与された129Sv/Ev IL−1O-/-マウスを表し、赤バーはLL−NANO3F−3Fを投与された129Sv/Ev IL−10-/-マウスを表し、および灰色バーはLL−mIL10で処理された129Sv/Ev IL−10-/-マウスを表わす。*および**は、それぞれベクター対照群と比較したP<0.05およびP<0.01の統計的有意差を表す。
【図5】ナノボディ特異抗体の存在を、ELISAにより評価した。
【図6】NANO3F−3Fによる前処理が、Mf4/4マクロファージをLPS無応答にする。WEHI164cl13細胞は、依然として5IU TNFで殺される。
【図7】慢性DSS大腸炎を有するマウスの遠位結腸の組織学的スコアの統計的評価。バーは、平均値±SEMを表す。白バーは健康な対照群を表す。DSS誘起慢性大腸炎を有するマウスが、種々のL. lactis培養液を28日間投与され、その後直ちに殺され、解析された。黒バーは、ベクター対照のLL−pTREX1処理群、斜線付きバーは、LL−NANO3F(L. lactisが分泌する一価の3F)を投与された群、灰色バーは、LL−NANO3F−3F(L. lactisが分泌する二価の3F−3F)を投与された群を表す。**は、ベクター対照LL−pTREX1処理群およびLL−NANO3F処理群と比較した、P<0.01の統計有意差を表わす。
【図8】L. lactis が分泌した一価および二価のナノボディ3E(抗−ヒトTNFナノボディ)は、可溶性ヒトTNFを効率的に中和することができる。可溶性ヒトTNF(30〜3.3IU/mlの範囲の種々の濃度)が、1μg/mlアクチノマイシンDの存在下でL929細胞を用いた、16時間の細胞毒性分析において、3Eおよび3E−3Eによって中和された。細胞生存率を正常細胞と比較して計算した。白バーは、濾過した(0.22μm)ベクター対照LL−pTREX1の乳酸菌上清50μLを加えたウエルを表す。黒および灰色バーは、それぞれL. lactisが分泌した3Eまたは3E−3Eを含む、濾過した(0.22μm)乳酸菌上清50μLを加えたウエルを表す。L. lactisが分泌した3Eまたは3E−3Eの最終濃度は、各設定において、250ng/mlであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IBD治療用薬剤の調製のための、抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項2】
前記抗−TNFαVHHが二価抗体である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記微生物が乳酸菌である、請求項1または2記載の抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項4】
前記乳酸菌がLactococcus lactisである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記乳酸菌がLactobacillus種である、請求項3記載の使用。
【請求項6】
前記微生物が酵母である、請求項1または2記載の抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項7】
前記酵母がSaccharomyces種である、請求項6記載の抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項8】
前記IBDが慢性大腸炎である、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
前記IBDがクローン病である、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
前記IBDが潰瘍性大腸炎である、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
少なくとも一種の抗−TNFαVHH産生微生物を含む、経口投与のための医薬組成物。
【請求項12】
前記抗−TNFαVHHが二価抗体である、請求項11記載の経口投与のための医薬組成物。
【請求項13】
前記微生物が乳酸菌および酵母からなる群より選ばれる、請求項11または12記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記乳酸菌がLactococcus lactisである、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記乳酸菌がLactobacillus種である、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項17】
有効量の抗−TNFαVHH産生微生物を胃腸管へ投与する工程を含む、少なくとも一つの胃腸管の疾患または障害を予防、治療、および/または緩和する方法。
【請求項18】
前記抗−TNFαVHHが二価抗体である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記投与が経口投与である、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
前記疾患または障害が過敏性腸疾患である、請求項17〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記過敏性腸疾患が、慢性大腸炎、クローン病、および潰瘍性大腸炎からなる群より選ばれる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記微生物が乳酸菌および酵母からなる群より選ばれる、請求項17〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記乳酸菌がLactococcus lactisである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記乳酸菌がLactobacillus種である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記酵母がSaccaromyces cerevisiaeである、請求項22記載の方法。
【請求項1】
IBD治療用薬剤の調製のための、抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項2】
前記抗−TNFαVHHが二価抗体である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記微生物が乳酸菌である、請求項1または2記載の抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項4】
前記乳酸菌がLactococcus lactisである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記乳酸菌がLactobacillus種である、請求項3記載の使用。
【請求項6】
前記微生物が酵母である、請求項1または2記載の抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項7】
前記酵母がSaccharomyces種である、請求項6記載の抗−TNFαVHH産生微生物の使用。
【請求項8】
前記IBDが慢性大腸炎である、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
前記IBDがクローン病である、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
前記IBDが潰瘍性大腸炎である、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
少なくとも一種の抗−TNFαVHH産生微生物を含む、経口投与のための医薬組成物。
【請求項12】
前記抗−TNFαVHHが二価抗体である、請求項11記載の経口投与のための医薬組成物。
【請求項13】
前記微生物が乳酸菌および酵母からなる群より選ばれる、請求項11または12記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記乳酸菌がLactococcus lactisである、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記乳酸菌がLactobacillus種である、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項17】
有効量の抗−TNFαVHH産生微生物を胃腸管へ投与する工程を含む、少なくとも一つの胃腸管の疾患または障害を予防、治療、および/または緩和する方法。
【請求項18】
前記抗−TNFαVHHが二価抗体である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記投与が経口投与である、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
前記疾患または障害が過敏性腸疾患である、請求項17〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記過敏性腸疾患が、慢性大腸炎、クローン病、および潰瘍性大腸炎からなる群より選ばれる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記微生物が乳酸菌および酵母からなる群より選ばれる、請求項17〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記乳酸菌がLactococcus lactisである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記乳酸菌がLactobacillus種である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記酵母がSaccaromyces cerevisiaeである、請求項22記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2009−506095(P2009−506095A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528509(P2008−528509)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065803
【国際公開番号】WO2007/025977
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(507055501)アクトジェニックス・エヌブイ (11)
【氏名又は名称原語表記】Actogenix NV
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065803
【国際公開番号】WO2007/025977
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(507055501)アクトジェニックス・エヌブイ (11)
【氏名又は名称原語表記】Actogenix NV
【Fターム(参考)】
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