慢性肺疾患の治療
羊膜組織由来の複能性上皮幹細胞(AEC)の投与を含む、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療方法を開示する。本方法は特定の用途として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む慢性肺疾患、急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性肺疾患、及び人工呼吸関連肺損傷(VALI)等の肺疾患及び肺症状の治療に使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羊膜組織由来の複能性上皮幹細胞の投与を含む、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の方法に関する。本発明は特定の用途として、かかる方法が慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む慢性肺疾患、急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性肺症状及び人工呼吸関連肺損傷(VALI)等の肺疾患及び肺症状の治療に使用される。
【0002】
[参考文献による組込み]
本特許出願は、2007年5月28日に出願された「慢性肺疾患の治療」という名称の豪州特許第2007902844号により優先権を主張する。この出願の内容全体は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)及び特発性肺線維症(IPF)等の慢性肺疾患は世界的に深刻な問題である。特にCOPDは、2020年までに、人口に占める一般的な疾病率及び死亡率の上位5位に入るであろうと予測されている。疾患の1グループとして、前記疾患は1又は複数の次の活動により特徴付けられている;肺への白血球の浸入、間質性肺炎症、炎症促進性サイトカインの産生の増大、肺胞隔膜の肥厚、出血性肺炎、正常な肺構造の変形及び改変されたプロテアーゼ活性が結合したコラーゲン沈着の増加により引き起こされた線維症。さらに、疾患の進行は、肺組織の重大な喪失及び瘢痕をもたらし、最終的にこれらの慢性肺疾患に関連した、著しい疾病率及び死亡率に導く。
【0004】
現在、慢性肺疾患の治療は症状の緩和及び/又は予防に限定されているため(例えば、β2−作用薬及びテオフィリン等の気管支拡張剤、及び/又はプレドニゾン等の抗炎症性コルチコステロイドを使用し、肺活量を向上させる)、疾患の進行の阻止、又は好ましくは回復させる薬剤又は治療の開発が大いに待望される。この点における1つの可能性として、肺の損傷部位に「移動(traffic)」し、内生の肺組織に分化する適当な幹細胞を使用して肺に回復をもたらすことが考えられる。この目的に向けて、本出願人は慢性肺疾患の治療に使用するための複能性ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)(Parolini, O., et al., 2008に掲載)の可能性を研究し、末梢気道成長培地(Small Airway Growth Media)(SAGM)での培養時に、かかる細胞が、肺特異的マーカー及び細胞内の層状体の発現によって証明されるように、肺細胞表現型を呈することを初めて明示した。さらに、本出願人はhAECを肺線維症のマウス・モデル(すなわち、ブレオマイシン損傷マウス)の全身投与した時に、4週間後hAECは肺に局在し、肺胞上皮細胞の形態及びマーカーを発現させたことを見い出した。また、複能性hAECが、マクロファージ抑制遊走因子(MIF)の発現の増加及びマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)のダウンレギュレ−ションを通して、マクロファージの動員を抑制することにより炎症も軽減させたことが観察された。このことは、炎症性サイトカインインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターフェロン−γ(IFN−γ)及び線維化形質転換成長因子−β(TGF−β)の発現の低下をもたらした。加えて、治療されたマウスの肺のコラーゲン濃度が、マトリクス・メタロプロティナーゼ(MMP−2及びMMP−9)による分解の増大、及びそれらの内因性阻害剤、すなわちMMPの組織阻害剤(TIMP)、のダウンレギュレ−ションにより顕著に低下した。総合すると、hAECを使用しての治療は肺損傷の原因におけるいくつかの経路に対処するもののようであり、その結果、慢性肺疾患等の肺疾患及び肺症状の有効な細胞治療の根拠として相当の可能性を提示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Parolini, O., et al., Isolation and characterization of cells from human term placenta: outcome of the first international workshop on placenta derived stem cells. Stem Cells 26:300−311 (2008).
【発明の概要】
【0006】
第1の態様によれば、本発明は、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の方法を提供する。
【0007】
本発明の方法に使用されるAECは、ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)が好ましい。さらに、本発明の方法に使用されるAECは、分娩時又は分娩間近の胎盤の羊膜由来のAECが好ましい。
【0008】
本発明の方法を使用して治療される肺疾患又は肺症状は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)等の慢性肺疾患、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性肺症状、又は化学療法及び/又は放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子(例えば、熱煙)への暴露に起因する障害である。或いは、かかる肺疾患又は肺症状は、人工呼吸器の使用に起因する肺症状(すなわち、VALI)である。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞療法のための組成物の調製における複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の使用を提供し、かかる組成物は薬学的に許容される担体と組み合わせて前記AECを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】定量PCR(quantitative polymerase chain reaction)による、hAECによる多能性マーカー発現の評価を示す。示された結果は、Octamer−4(Oct−4)、Nanog、SRY関連HMG−box遺伝子2(Sox−2)及び甲状腺転写因子−1(TTF−1、Nkx2.1としても知られている)の発現を明示しており、後者は、発達段階における呼吸器系統のマーカーとして最初に知られたマーカーである。SAGMでの培養後、肺特異的サーファクタントタンパク質C(SPC)や上皮マーカークアポリン−5(AQ−5)の発現が増加する一方で、これらマーカーの発現が低下した。
【図1b】SAGMでの分化に続き、SPC及びアクアポリン−5(AQ−5)産生細胞の割合が増加したことを示す。
【図1c】SAGMで培養されたhAECも、層状体(矢印)等のII型肺胞上皮細胞の形態学的特徴を呈したことを示す。
【図1d】hAECが、SAGMにおけるインビトロでの分化後、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIA及びクラスIIタンパク質の両方を、新たに単離された細胞において低レベルで発現させることを示す。
【図2a】ブレオマイシンで鼻腔内を処置し、その24時間後に尾静脈へhAECを注入した後に、マウスから採取した肺切片の免疫組織染色を示す。かかる切片は肺内部のhAECの存在を明示する。前記hAECはまた、I型(扁平)肺胞上皮細胞及びII型(立方体)肺胞上皮細胞(下のパネル)の両方に近似する形態を得た。
【図2b】マウスへのhAECの注入が、ブレオマイシン誘導性肺損傷後の肺の炎症及び線維症のスコアの減少をもたらした結果をグラフで示す。
【図2c】ブレオマイシン誘導性肺損傷後、マウスへのhAECの注入により、肺の転写物から炎症促進性サイトカイン(例えば、IL−1、IL−6及びTNF−α)の発現が顕著に減少した結果をグラフで示す(*p<0.05 ブレオマイシン単独とブレオマイシン+HAECとを一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較);
【図3a】hAECの治療(ブレオマイシン投与の24時間後)が、ブレオマイシン治療のみのマウスと比較してコラーゲン沈着の顕著な減少をもたらした結果をグラフで示す。
【図3b】hAECの治療(ブレオマイシン投与の2週間後)がまた、ブレオマイシン治療のみのマウスと比較して沈着したコラーゲン量の顕著な減少をもたらした結果をグラフで示す。
【図3c】ザイモグラフィによるMMP−2及びMMP−9の評価を示し、ブレオマイシン及びhAECを使用して治療されたマウスのMMP活性にさらなる顕著な増加があった結果を示す。
【図3d】hAECの治療の後、肺の転写物において、MMPの組織阻害剤(TIMP)、MMPの内因性阻害剤の発現が減少したことを表す結果をグラフで示す(*p<0.05 健常対照群と比較、+p<0.05 ブレオマイシン単独とブレオマイシン+hAECとを比較、一元配置分散分析による)。
【0011】
[発明の詳細な説明]
羊膜及び絨毛膜は、外層を含む母性由来の脱落膜と共に胎盤の胚由来の内層の一部を形成する。絨毛膜が栄養膜に由来する一方で、羊膜は胚盤葉上層から生じ(すなわち、ヒトの受精8日後)、胚盤葉上層が胚の3種の胚葉の起源でもあるため、羊膜上皮細胞が多能性/複能性幹細胞の直接の供給源である可能性が示唆されてきた(すなわち、幹細胞は多様な細胞型に分化し得る)(Ilancheran, S., et al., 2007)。
【0012】
本発明を導いた研究において、出願人は、先ず羊膜上皮細胞の少なくとも一部が多分化能マーカーを発現することを見い出し、全ての胚葉を示す組織にインビトロで無事分化することを証明した。次に、出願人はその細胞が慢性肺疾患の状態において機能転帰にポジティブに影響することを見い出し、特に肺炎症及び線維症を軽減することができることを見い出した。
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、対象の肺疾患又は肺症状の細胞治療の方法を提供しており、その方法はかかる対象に治療有効量の複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)を投与することを含む。
【0014】
本発明の目的上、AECは少なくとも1又は複数の肺細胞型に分化できる細胞である(例えば、II型肺胞上皮細胞等の肺上皮細胞)。
【0015】
本発明の方法に使用されるAECが、ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の方法に使用されるAECが、分娩時又は分娩間近の胎盤の羊膜由来のAECであることが好ましい。分娩間近のヒトの胎盤は、受胎から約34週間後に採取した胎盤(例えば、救急若しくは選択的な帝王切開、又は分娩予定間近の出産)であるとみなすことができる。
【0017】
本発明の方法により治療できる肺疾患又は肺症状は、肺の炎症及び/又は肺線維症によって特徴付けられるものから選択することができる。
【0018】
特に、本発明の方法は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)及び特発性肺線維症(IPF)等の慢性肺疾患、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性疾病、又は化学療法及び/又は放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子(例えば、熱煙)への暴露に起因する障害を治療するのに使用することができる。
【0019】
さらに、呼吸器不全の重病の対象の処置に一般的に使用される人工呼吸器は、ARDS及び急性肺損傷(ALI)の重大な共同因子であると
報告されている。特に、人工呼吸器は細菌感染症に反応して肺の炎症を悪化させることが確認された(Dhanireddy, S., et al., 2006)。したがって、本発明の方法は、人工呼吸器の使用から生じる肺症状(すなわち、人工呼吸関連肺損傷(VALI))の治療にも使用することができる。
【0020】
さらに、本発明の方法は、胎児の呼吸促迫症候群(RDS)の治療及び/又は予防と同様に、II型肺胞上皮細胞が欠如する早産児の治療に使用することができる。胎児の肺は、妊娠後期まで十分な発育はしていないため、早産児は一般的に自力で呼吸することができない(その結果、人工呼吸器の使用が必要となる)。早産児及び/又は人工呼吸器を使用しての呼吸補助の結果、RDS特有の症状である肺炎症の発症、肺胞への損傷の拡散及び肺機能の深刻な変化をもたらす。現在、胎児のRDSは、合成又は動物由来のサ−ファクタントを出産時に投与することを特徴とする「サ−ファクタント療法」を使用して治療及び/又は予防をする(Morley, C.J., et al., 1978)。しかしながら、早産児のケアにおいて前記治療が極めて重要な進歩であった一方で、本発明の方法は、特に合成又は動物由来のサ−ファクタント(さらに以下で検討する)との組合せで使用される時に、サ−ファクタント療法単独の治療よりもより大きな治療効果の可能性をもたらすと考えられる。本願の出願人は理論に制約されることを望まないが、このより大きな治療効果は、肺の炎症を軽減し、線維症を予防し、サ−ファクタントを分泌するII型肺胞上皮細胞に分化するAECの確認された能力を組み合わせて、合成又は動物由来のサ−ファクタントを投与する公知の効果を通じて得られると考える。
【0021】
また、本発明の方法は、喫煙又は毒性化合物若しくは毒性微粒子(例えば、熱煙)への産業的暴露に関連する肺の炎症治療に使用することができる。
【0022】
本方法は、複能性AECの治療有効量を対象に投与することを含む。
【0023】
複能性AECの投与形態は全身注入、気管支又は鼻腔内点滴注入で行われるのが一般的であるが、AEC(移植可能なゲル又は固形の骨格材料等の支持基質と共に、又は用いずに)を肺損傷部位(例えば、炎症及び/又は線維症の部位)又は肺損傷部位近辺に直接注入してもよい。複能性AECは、一般的に薬学的に許容される担体(例えば、生理食塩水)と組み合わせて投与されるであろう。
【0024】
全身注入を使用する際は、少なくとも注入された複能性AECの一部が肺、具体的には肺損傷部位に移動することができ、投与後4週間経過しても肺に局在することを見い出した。一度肺損傷部位に存在すれば、複能性AECは肺の上皮細胞に分化し、肺組織の修復及び再生を始める。
【0025】
「治療有効量」という用語は、少なくとも治療されている肺疾患又は肺症状の進行を阻止する複能性AECの量(すなわち、細胞数)に言及すると理解される。前記の量は、投与様式、対象の年齢及び/又は体重、及び治療される肺疾患又は肺症状の重症度等の種々の因子によって大きく異なる。しかしながら、一般的には、かかる量は約1×105から1×1010で、より好ましくは1×108から1×1010の範囲の複能性AECである。
【0026】
複能性AECは1又は複数の活性薬剤と組み合わせて対象に投与することができる。例えば、かかるAECを、肺疾患又は肺症状の症状を緩和及び/又は予防するために、現在使用している1又は複数の薬剤(例えば、気管支拡張剤又は抗炎症性コルチコステロイド)と共に投与することができる。もう1つの方法として、1又は複数の炎症促進性サイトカインIL−1、IL−2、IL−6、IFN−γ及びTNF−α(例えば、特異的阻害剤若しくは拮抗薬又は特異抗体)の発現又は活性、及び/又は線維化サイトカインTGF−β(例えば、特異的TGF−β阻害剤若しくは拮抗薬又は特異的抗TGF−β抗体)の発現又は活性を軽減する薬剤と共にAECを投与することができる。AECはまた、肺の環流しない箇所を開き、損傷部位にAECが到達することを助ける合成又は動物由来の肺サ−ファクタント(例えば、パルミチン酸コルホスセリルベ−スの製品(GlaxoSmithKline plc社(英国ミドルセックス州ブレントフォード)から市販されているExosurf(登録商標)等)及びウシの肺洗浄液から抽出されるサ−ファクタント(Boehringer Ingelheim GmbH社(ドイツIngelheim)から市販されているAlveofact(登録商標)等))と共に投与することができる。
【0027】
複能性AECは、下記の表1に記載されている1又は複数のマーカー発現により特徴付けられることが好ましい。より好ましくは、複能性AECは、1又は複数の多能性幹細胞マーカーの発現により特徴付けられることである。hAECに関しては、多能性マーカーは一般的にOct−4、Nanog及びSox−2から選択される。
【0028】
さらに、複能性のhAECはMHCクラスIA及びIIのタンパク質の低発現を示すことにおいて特徴付けられることが好ましい。好ましい理由は、組織適合性が相違する対象におけるhAECの使用可能性を示しているからである。しかしながら、本発明の方法において使用される複能性hAECは自己由来である(及び凍結保存されたサンプル等の保存されたサンプルから調達される)。
【0029】
複能性AECは、標準的な方法により羊膜組織を由来とすることができる。例えば、分娩時胎盤から採取された羊膜組織は、適したタンパク質分解酵素(例えばトリプシン)を使用して処理され、AEC中に見い出した上皮細胞骨格タンパク質であるサイトケラチン7、及び/又は1又は複数のOct−4、Nanog及びSox−2の一定分量をフロ−分析(例えば、FACS法)にかけ、分散細胞の純度を評価する。もう1つの方法として、分散細胞を1又は複数の関連する細胞表面マーカー(例えば、SSEA−4)のフロ−分析により選別/評価してもよい。分散/選別された細胞は標準的な方法に従って、後日使用するために保存できる。分散/選別された細胞はまた、細胞の分化を回避する条件下での培養により(例えば、ダルベッコMEM培地(DMEM)/動物質を含まない血清又は血清代替物を追加したF12等の基礎培地において培養することにより)増殖させることもできる。必要時には、対象に即座に投与するために、例えばAECを培養/保存の培地から単離し、薬学的に許容される担体に前記AECを再懸濁することによって、分散/選別及び任意で増殖させた細胞を調製することができる。
【0030】
さらに、複能性AECは部分的に派生細胞;すなわち、AECから少なくとも部分的に分化された細胞と置換することができる(すなわち、本発明は「分化前の」細胞を使用することができる)。前記の派生細胞は、例えば市販のSAGM(例えば、Lonza Group Ltd社(スイスBasel)から市販されているSAGM製品)において、適切な条件下でAECを培養することによって製造することができる。本発明が派生細胞を使用する場合、AEC:派生細胞が約5:1から約1:5まで、好ましくは約4:1から約1:1までの範囲の割合で、かかる細胞を投与することができる。
【0031】
また、複能性AECは部分的に、1又は複数の他の幹細胞型を含む1又は複数の他の(すなわち、非派生の)細胞型に置換することができる。本発明が他の細胞型を使用する場合、AEC:他の細胞が約5:1から約1:5まで、好ましくは約4:1から約1:1までの範囲の割合でかかる細胞を投与することができる。
【0032】
しかしながら、派生細胞又は他の細胞型を共に投与することができる一方で、本発明の方法で最も好ましいのはAECのみを使用することである。
【0033】
第2の態様では、本発明は、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療のための組成物の調製における複能性の羊膜上皮幹細胞(AEC)の使用を提供し、かかる組成物は薬学的に許容される担体と組み合わせて前記AECを含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の使用において用いる複能性AECは、ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)が好ましい。さらに、本発明の方法に使用されるAECは、分娩時又は分娩間近の胎盤の羊膜由来のAECが好ましい。
【0035】
かかるAECに加え、組成物はまた、1又は複数の他の幹細胞型及び/又は1又は複数の全体的又は部分的に分化された細胞型(例えば、AECの派生細胞;すなわち、少なくとも部分的にAECから分化した細胞)を含む1又は複数の他の細胞型に属する細胞を含むことができる。
【0036】
組成物はまた、さらに1又は複数の活性薬剤(例えば、気管支拡張剤又は抗炎症性コルチコステロイド)を含むことができる。
【0037】
本発明の細胞治療は、今までは症状を緩和及び/又は予防する薬の使用により治療されてきただけであった、肺疾患又は肺症状の軽減又は少なくとも進行阻止の可能性をもたらす。これらの薬の長期間の使用はまた、深刻な副作用につながる可能性があるので(例えば、コルチコステロイドの長期間の使用は糖尿病、骨粗しょう症及び白内障形成を含むいくつかの衰弱性疾患及び衰弱性症状の進行に関連する)、本発明の細胞治療等、肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の特定及び開発が大いに期待される。
【0038】
本発明の細胞治療は肺の炎症の軽減をもたらし、線維症を予防し、肺損傷後の肺のコラーゲン濃度を薄めることができる。
【0039】
したがって、第3の態様では、本発明は対象の肺の炎症を軽減する方法を提供し、かかる方法は前記対象に複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を投与することを含む。
【0040】
第4の態様では、本発明は対象の肺の線維症を予防する方法を提供し、かかる方法は前記対象に複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を投与することを含む。
【0041】
さらに第5の態様では、本発明は対象の肺のコラーゲン濃度を低下させる方法を提供し、かかる方法は前記対象に複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を投与することを含む。
【0042】
上記第1から第5までの態様に特定された発明に、多くの変更及び/又は修正を加えることができることは当業者に理解されるであろう。
【0043】
さらに、全身注入、気管支又は鼻腔内点滴注入により投与されたAECの肺に移動する能力により、治療薬(例えば、治療タンパク質又はペプチド、遺伝子治療剤又は遺伝子抑制剤)を肺に送達するための手段又は「ベクタ−」が提供される。例えば、嚢胞性線維症(CF)の治療のために、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)をコードする外因性ポリヌクレオチド分子を自己のAEC(すなわち、機能性CFTR遺伝子が欠如)に導入し、その後、CFの遺伝子治療を提供するために、CFに罹患した対象に投与することができる。
【0044】
したがって、本発明は、上記の治療薬を含む複能性の羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の肺疾患又は肺症状の細胞治療方法、そのための組成物(すなわち、薬学的に許容される担体と組み合わせる、上記治療薬を含むAECを含む組成物)、さらに、薬学的に許容される単体と組み合わせて前記AECを含むことを特徴とする、対象の肺疾患又は肺症状の細胞治療のための組成物の調製における、上記の治療薬を含むAECの使用に及ぶものと理解される。
【0045】
本発明の本質がより明瞭に理解されるように、この発明の好ましい形を、以下の制限されることのない、実施例を参照して記載する。
[実施例]
【実施例1】
【0046】
ヒト羊膜上皮細胞による線維症の阻止及び肺修復の増強
材料と方法
hAECの単離及び培養
分娩時、帝王切開を選択した女性から羊膜を得た。hAECは単離され、以前記載された方法(Ilancheran, S., et al., 2007)を使用して特徴付けした。すなわち、組織を0.25%のトリプシン:EDTA溶液(Invitrogen Corporation社製(米国CA州Carlsbad))中で2回、20分間消化させた。トリプシンを、ウシ胎仔血清(FCS、 Invitrogen社製)を使用して不活性化し、分散細胞はM199培地(Invitrogen社製)で洗浄した。次にhAECで見い出された上皮細胞骨格タンパク質であるサイトケラチン7(Dako Denmark A/S社製(デンマ−クGlostrup))についてフローサイトメトリーで細胞を分析した。サイトケラチン7陽性細胞を99%より多く有するバッチをIV型コラーゲン(Roche Diagnostics社製(スイスBasel))でコーティングした容器の上にプレーティングし、末梢気道上皮基底培地(SABM)(Clonetics社製(米国MD州Walersville))において培養し、補充物(すなわち、レチノイン酸、上皮細胞増殖因子1(EGF−1)、エピネフリン、トランスフェリン、インスリン、トリヨ−ドサイロニン、ウシ下垂体抽出液、ウシ血清アルブミン(BSA)、無脂肪酸血清及びヒドロコルチゾン)を加えた。対照培養物を10%ヒト血清又はFCSを有するDMEM/F−12培地(Invitrogen社製)で培養した。培養は4週間維持された(n=12)。
【0047】
定量RT−PCR
全RNAをRNeasy column(Qiagen社製(ドイツHilden))を使用してhAEC(n=6)から単離した。全RNAの1μgを、High−Capacity cDNA Archive Kit (Applied Biosystems社製(米国CA州Foster City))を使用してcDNAに変換した。このcDNAを20倍に希釈し、試薬(TaqMan Universal PCR Master Mix、Applied Biosystems社製)、PCRプライマ−、及びOct−4、Sox−2、Nanog、Nkx2.1、SPC、AQ−5及びβ−アクチン(Applied Biosystems社製、各々#Hs01895061_u1、#Hs00602736_s1、#Hs02387400_g1、#NM_003317.3、#Hs00161628_m1、#Hs00387048_ml)用のプローブと混合した。
【0048】
Oct−4は、内細胞塊(ICM)の細胞内及び多能性胚性ガン細胞株内において高度に発現する転写因子である。この転写因子Oct−4の高発現が胚幹(ES)細胞を胚組織及び胚外組織への分化に導く一方で、Oct−4の低発現は栄養膜細胞のみの成長を生じさせる。Nanogはホメオドメイン因子であり、桑実胚及び胚盤葉上層のICM内でインビボに発現する。それ自体は、多能性細胞のマーカーである。Sox−2は、ES細胞内と同様にICM内でOct−4と共発現し、Oct−4の機能に必須の転写因子である。Nkx−1はまた、甲状腺転写因子1(TTF−1)として知られ、呼吸器系統のマーカーとして初めて知られたマーカーである。SPCはII型肺胞上皮細胞に対して非常に特異的であり、アクアポリン5(AQ−5)は肺(肺胞)の上皮細胞マーカーである。
【0049】
PCRパラメ−タは以下の通りである:95℃、7秒間及び60℃、20秒間を40サイクル。デ−タを、ヒト胚幹細胞株ES−1(Oct−4、Nanog、Sox−2及びNkx2.1)と比較して、β−アクチン及び発現レベルに対して正規化し、ヒト成人肺(SPC及びAQ−5)はΔΔCt法を使用して測定した。
【0050】
透過電子顕微鏡法(TEM)
細胞を、2.5%のグルタルアルデヒドを含む0.1Mのカコジル酸塩緩衝液中に2時間室温(RT)にて固定化し、4℃で一晩放置した。その後、細胞を1%の四酸化オスミウムに後固定化し、段階的にアセトン内で脱水し、浸漬し、60℃で24時間スパ−樹脂に包埋した。極薄の部分(80nm)をその後3%の酢酸ウラニル及びRenoylds 染色剤で染色した。
【0051】
フロ−サイトメトリ−
hAEC(2.5×105)を、カベオリン(1:100)、AQ−5 (1:50)、SPC(1:50)、ヒト白血球抗原(HLA)−DP、−DQ、−DR(10μg/ml)又はアロフィコシアニン(allophytocyanin)(APC)と共役したHLA−A、−B、−C(10μl)に対する抗体と共に室温で1時間インキュベートした。幾度かの洗浄の後、細胞を1:10に希釈されたAPCと共役したロバ抗ウサギ(カベオリン)、ロバ抗ヤギ(AQ−5、SP−C)又はヤギ抗マウス(HLA−DP、−DQ、−DR)二次抗体と共に30分間室温でインキュベートした。細胞を余剰分の二次抗体を取り除くため洗浄し、フロ−サイトメトリ−によって分析した。カベオリン、AQ−5及びSPCのための一次抗体はSanta Cruz Biotechnology, Inc.社(米国CA州Santa Cruz)から、HLA抗体及び二次抗血清はBecton, Dickinson and Company社(米国NJ州Franklin Lakes)から購入した。さらに、ヒト骨髄間葉幹細胞(hMSC)と比較した、下記の表2に記載されている細胞表面マーカー(Becton, Dickinson and Company社製)に対するのと同様の手法及びモノクローナル抗体を使用して、hAEC(5回継代培養された集団(P5)を含む)のフロ−サイトメトリ−分析を行った。各マーカーに対して「陽性の」細胞型の細胞の割合を記録した。
【0052】
SCIDマウスへのhAECの注入
生理食塩水(0.15mg)に溶解した硫酸ブレオマイシンを弱いエ−テル麻酔下で鼻腔内に投与し、生後8週間の重症複合免疫不全(SCID)マウス(n=30)に肺線維症を誘発させた。対照マウスに0.2mlの生理食塩水を注入する一方で、ブレオマイシン注入24時間後、前記マウスにhAEC(0.2ml中1×106)を尾静脈経由で注入した。生理食塩水をマウスのもう1つのグループ(n=15)の鼻腔内に投与したが、これらマウスにはこれ以上の処置を行わなかった。hAECの代わりにヒト肺線維芽細胞(1×106)を使用する平行実験も実施した。さらに、hAECを健康なマウス(n=12)にも注入した。また、ブレオマイシン投与2週間後に、他のSCIDマウスにhAEC(0.2mlの生理食塩水中1×106)を尾から注入した。これら後者の動物の対照には、ブレオマイシン投与2週間後に、hAECの代わりに肺切除術により単離した肺線維芽細胞(0.2mlの生理食塩水中1×106)をSCIDマウスに(尾から)注入した。動物は処置の2週間後及び4週間後に殺処分された(4週間後に殺処分されたマウスは、ブレオマイシン投与の2週間後にhAEC又は肺線維芽細胞を注入されたマウスのみである)。肺組織は瞬間冷凍され、−80℃にて保管され、パラフィン包埋のために10%のホルマリンで固定した。
【0053】
肺組織の免疫組織化学分析
5μmの厚さでパラフィン包埋された組織切片は、脱蝋され、再水和された。クエン酸塩緩衝液の加熱により抗原回復が実行された。内因性ペルオキシダ−ゼ活性をクエンチングし、非特異的結合を阻止した後、ヒトミトコンドリア内膜(IMM;1:10、AbD Serotec社製(英国Oxfordshire州Kidlington))及びヒトSPC(1:50、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社製)に対する抗体と共に、1時間37℃にて切片を培養した。イソタイプが一致したマウスIgG2a及びヤギIgGが陰性対照としての切片に適用された。西洋ワサビペルオキシダ−ゼで標識されたビオチン−ストレプトアビジン二次抗体(LSABキット、Dako社製)を使用して抗体結合を検出し、3,3′−ジアミノベンジジン色原体を使用して免疫染色を視覚化した。IMM及びSPCの共局在化を、連続組織切片を試験することにより評価した。炎症及び線維症については、アシュクロフト法(Ashcroft, T., et al., 1988)により切片を点数化した。
【0054】
サイトカインmRNA発現
生理食塩水、ブレオマイシン及びブレオマイシン+hAEC(n=5/グループ)が注入されてから2週間後及び4週間後のSCIDマウスの肺から全RNAを抽出した。DNAse処理に続いて、1μgのRNAをSuperscriptIII(Invitrogen社製)を使用してcDNAに変換した。かかるcDNA(1:20に希釈)は、IL−1、IL−2、インターロイキン4(IL−4)、IL−6、インターロイキン−10(IL−10)、インターフェロン−γ(INF−γ)、TNF−α、TGF−β、MIF及びMIPに対してPCRプライマ−を使用して増幅した。定量PCRに使用されるサイクルパラメ−タは以下の通りであった:変性95℃、7秒間、アニ−リング60℃、7〜15秒間、及び伸長72℃、15秒間で40サイクル行った。β−アクチンにデ−タを標準化した後、生理食塩水で処理した対照マウスに対する発現を、ΔΔCt法によって計算した。
【0055】
コラーゲン含有量
生理食塩水、ブレオマイシン及びブレオマイシン+hAEC(n=6/グループ)を注入したマウスの肺のコラーゲン含有量を、以前に記載されたように(Hewitson,T.D., et al., 2007)、ヒドロキシプロリンアッセイを使用して測定した。すなわち、肺を凍結乾燥し、HCIにて加水分解し、558nmでの吸光度を測定した。コラーゲン含有量はヒドロキシプロリンの測定結果に6.94を乗じることによって計算され、組織の乾燥重量の比率で示される(Gallop,P.M. and M.A.Paz, 1975)。
【0056】
MMP活性及びTIMP発現
MMPをマウスの3つのグループ(n=6/グループ)から得た組織から抽出した。MMP−2及びMMP−9活性は、以前記載された(Woessner, J.F.Jr, 1995)ゼラチンザイモグラフィにより評価した。ザイモグラフは密度計(Gel Scan−710、Bio−Rad Laboratories, Inc.,社製(米国CA州Hercules)で走査され、Quantity−Oneソフトウエア(Bio−Rad社製)を使用してゼラチナ−ゼ活性を定量化した。かかるデ−タは平均値±標準誤差にて示された。
【0057】
肺組織中のTIMP−1、TIMP−2、TIMP−3及びTIMP−4のmRNA発現を、上記のように定量RT−PCRにより測定した。試薬、プライマ−及びTaqManプロ−ブはApplied Biosystems社より購入した(#Mm00441818_ml、#Mm00441825_ml、#Mm00441826_ml、#Mm00446568_ml)。β−アクチンにデ−タを標準化した後、生理食塩水が注入されたマウスに対する発現がΔΔCt法により計算された。
【0058】
統計分析
異なるグループ間の処理効果を、一元配置分散分析を使用して分析した。P<0.05は統計的に有意であると考えられた。
【0059】
結果及び考察
hAECを、細胞膜を剥離し、hAECを細胞培養にて培養することにより胎盤から得た。これらの細胞はクロ−ンを明示し、胚盤葉上層の派生(Chambers I., et al., 2003及びMitsui K., et al., 2003)に一致して、いくつかの多能性マーカー、すなわち、Oct−4、Nanog、Sox−1及びc−kit(図1a及び表1)を発現した。CD31、CD34及びCD45マーカー(表1参照)に対して「陰性」であるため、かかる細胞は血管内皮又は造血系統ではなかった。比較フロ−サイトメトリ−分析において、HAECによる細胞表面マーカーの発現はhMSCのそれとはかなり相違し(hMSCの特徴であるCD90マーカーにおいて最も顕著である)、その結果hAECは異なる表現型を有することが示された。
【0060】
hAECによる肺の分化及び修復に焦点を合わせることの一環として、発達過程の肺の最も初期の系統マーカー(図1a)であるNkx2.1(TTF−1としても知られている)を単離されたhAECが発現させたことも定量PCRにより示した。Nkx2.1は、肺の発達時に形態形成を分け、II型肺胞上皮細胞を形成する重要な転写因子である。
【0061】
hAECによるNkx2.1の発現を確認した後、細胞をSAGMで培養した。かかるSAGMは、胚及び臍帯血由来の幹細胞の肺におけるII型肺胞上皮細胞への分化を誘導することが以前示された(Berger, M.J., et al, 2006及びAli, N.N., et al., 2002)。SAGMは主として培養中の気道上皮細胞の維持に使用され、肺の発達過程において存在する因子でもあるヒドロコルチゾン、ヒト上皮細胞増殖因子(hEGF−1)及びレチノイン酸を含む。2週間及び4週間SAGMにて培養されたHAECは、肺特異的サーファクタントタンパク質C(SPC)遺伝子の発現の増加を示した(図1a参照)。FACS分析で示されるように、mRNA発現の増加によりSPCのタンパク質発現の翻訳量が増加した(図1b)。
【0062】
Ultra-structural分析により、4週間SAGMにおいて培養されたhAECは、II型肺胞上皮細胞の分化を示す層状体、脂質充填液胞及び微絨毛の表面形成を含む細胞質小器官を明示する独特な細胞集団を含むことが明らかになった。これらの特徴は、Dubelcoの修飾イ−グル培地(DMEM)/F12において培養したhAECには存在しなかった。II型肺胞上皮細胞は肺の表面部分の3分の1を構成するが、肺の遠位末梢においては細胞の66%を構成し、表面張力を減少させるサーファクタントタンパク質の分泌を担っている。さらに、II型肺胞上皮細胞は肺修復の間、ガス交換に関与するI型肺胞上皮細胞に分化する。特に、hAECは、単離されたばかりでインビトロでの分化後には、MHC抗原の低発現を示し、これらの細胞を臨床応用に使用する可能性を拡大している(図1c及び1d参照)。
【0063】
肺の修復に重要な細胞型にインビトロで分化するhAECの可能性を示したので、hAECがインビボで損傷した肺組織を修復する能力を調べた。
【0064】
肺の炎症及び線維症のブレオマイシン誘導モデルは、十分に特徴付けられ、ヒト対象の肺損傷の段階を反映する。本出願人は以前SCIDマウスでモデルを構築し、肺修復の増強におけるヒト細胞の機能的役割の評価を可能にした。特に、鼻腔内に投与されたブレオマイシンは、2週間目及び4週間目の両時点において、組織構造における炎症及び線維症の両方のスコアの増加を誘導した(図2b参照)。さらに、最大の損傷及び炎症が生じる2週間の時点で、線維化サイトカインTGF−βと同様に、炎症促進性のサイトカインIL−1、IL−2、IL−6、IFN−γ及びTNF−αの増加があった。
【0065】
肺の損傷を治療するために、ブレオマイシンの鼻腔内投与の24時間後にhAECを尾静脈へ注入し、2週間及び4週間の両方の時点で、細胞に抗ヒトミトコンドリア内膜(IMM)タンパク質のポジティブ染色を行ったところ、肺におけるhAECが示された。抗ミトコンドリア染色はマウスの肺組織において陰性であったが、ヒトの対照においてのみ存在し(デ−タは示さず)、その結果、マウスの肺におけるヒト細胞を同定するための抗体の特異性及び感受性が確認された。また、健康なマウスにhAECを注入した時、細胞は注入2週間後の肺組織において検出されず、hAECが損傷のない肺に「移動」しないことを示した。hAECが注入された、損傷のない健康な対照マウスにおいては細胞が確認されなかったことと比較して、免疫組織化学によりhAEC細胞が肺の線維化及び肺胞上皮領域に位置することが示された(高倍率視野で細胞100個あたり1IMM陽性細胞、n=8)。さらに、ヒト特異抗体を使用するポジティブ染色法によって証明されるように、肺の肺胞においてhAECの55±5%が、SPCも発現させた。注入されたhAECがSPCを発現させなかったため、かかるデータはhAECが肺の呼吸器系統に対して分化したことを示している。重要なことに、いくつかの多能性マーカーが発現したにもかかわらず、注入後4週間までのマウスにhAECが奇形腫又は腫瘍を形成しなかった。
【0066】
特に、注入によるhAECの投与は、2週間後及び4週間後の両方で炎症及び線維症のスコアを減少させた(図2c)。さらに、ブレオマイシンで処理されたマウス、並びにブレオマイシン及びhAECで処理されたマウスの肺においてマクロファージ数が顕著な減少を示した。マクロファージ数の減少が生じる機構を解明するため、MIF及びMIPの役割を調べた。これらのタンパク質は、hAECがダメージを受けた角膜上皮の修復に使用される時に、拒絶反応の欠如に中心的役割を担うことが知られている(Hori, J.et al., 2006;及びWang, M.et al., 2006)。
【0067】
ブレオマイシン対照と比較して、hAECを使用して処理された肺ホモジネ−トにおいて、MIF発現を増加させ、MIP発現を減少させたことが見い出され、損傷部位に対するマクロファージの動員の減少を説明していると考えられる。さらに、マクロファージの動員が減少することによって、2週間後にhAECによるサイトカインIL−1、IL−2、IL−6、IFN−γ及びTNF−αがダウンレギュレ−ションされることが説明できる(図2C)。IL−1はブレオマイシン肺損傷時に増加し、通常は単球及びマクロファージにより分泌され、繊維芽細胞の増殖及びコラーゲンの産生を増加させることにより線維症を進行させる。確かに、ブレオマイシン肺損傷時のナイアシン及びタウリンによるIL−1の減少は、肺線維症の症状の改善と一致する(Gurujeyalakshmi, G., et al., 2000)。本実施例において観察されたIL−1の抑制はさらに、肺上で抗線維化効果をもたらすhAECの能力を示している。
【0068】
特に、Balb/C等の耐性マウス株と比較して、損傷を発症させる傾向があるマウス株(C57/B16)ではブレオマイシンに応答して、サイトカインであるIL−2、TNF−α及びIFN−γは顕著に増加した。その結果、肺線維症の進行においてこれらサイトカインの役割が裏付けられた。そのため、hAECの投与によるこれらサイトカインの抑制は、さらに線維症の発症を減少させる役目を果たすであろう。加えて、これまでのいくつかの研究が、内因性の肺のIFNγの減少及びIFNγノックアウトマウスは、ブレオマイシン損傷に対して耐性があることを示している。さらに、TNFR欠損マウスは、TGF−βの活性化を抑制することでブレオマイシン線維症から守られている。そのため、HAECの投与によるTNF−αの顕著な減少は、hAECの抗線維化の役割をさらに裏付けている。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
IL−6について検討すると、このサイトカインは線維芽細胞、上皮細胞及びマクロファージにより分泌され、ブレオマイシン肺損傷時に顕著に増加することが見い出されている。IL−6が、MIPのレベルを上げるためにTNF−αと相乗作用すると仮定され、その結果、マクロファージの動員が増強されて、炎症及び線維症を長引かせることとなる。
【0072】
TGF−βは、肺線維症の原因として中心的なサイトカインである。ブレオマイシン肺損傷の14日後、TGF−βはマクロファージ、上皮細胞、線維芽細胞及び筋線維芽細胞中で増加する。実際、TGF−βは線維芽細胞の増殖において二相性の効果を有し、サイトカインによる単球の産出を刺激し、コラーゲン沈着の強力な刺激物質として作用することをいくつかの研究が明らかにしている(Kang, H.R., et al., 2007)。さらに、いくつかの研究は、ブレオマイシン線維症の改善がTGF−βの抑制に依存していることを明確に示している。したがって、TGF−βの顕著なダウンレギュレ−ションはまた、hAECが抗線維化の役割を有していることを示している。この実施例において、hAECが肺の細胞浸潤を減少させ、炎症促進性サイトカインであるIL−1、TNF−α及びIL−6を減少させることを明示している。
【0073】
hAECの抗炎症効果に加えて、コラーゲン沈着及びブレオマイシン肺損傷に続く線維症におけるhAECの役割について調べた。ブレオマイシンは、損傷14日後に過剰なコラーゲン沈着及び線維症を誘導し、その結果、線維芽細胞様の病巣を発症させる。これら病巣は、肺構造の歪曲、線維芽細胞及び筋線維芽細胞の増殖、コラーゲンの沈着及び肺機能の低下により特徴付けられる。これら全ては全臓器における線維症の「包括的な」特徴であり、ヒト対象間における病理に高い相同性をもって示される。
【0074】
コラーゲン沈着は、ヒドロキシプロリンアッセイを使用して測定された。ブレオマイシン単独で処理されたマウスのコラーゲン沈着の増加が予期された通り示されたが、ブレオマイシン及びhAECを注入された群では顕著な減少が示された(図3a及び3b参照)。特に、コラーゲン沈着に関して健康なマウスにhAECを注入した影響はなかった。さらに、ブレオマイシンに暴露させたマウスに初代ヒト肺線維芽細胞を注入してもコラーゲン量に影響しなかったため、コラーゲンの減少はhAECに特異的であることを見い出した。ブレオマイシン処理の2週間後に注入されたマウスで得られた結果(図3b)は、hAECは線維症を阻止することを示している。ブレオマイシン誘発マウスモデルでは、2〜4週間で線維症が最大レベルになるので、これは重要である。この結果から、線維化の最大時に注入されたhAECは、ブレオマイシン肺損傷後の最初の2週間で最大となる先行炎症を必ずしも抑制せずに、コラーゲン沈着を減少又は逆行させることができることが示される。
【0075】
マトリクス・メタロプロテイナ−ゼ(MMP)は、コラーゲン等の細胞外基質(ECM)タンパク質の分解の主な原因であるため、肺組織のホモジネ−トにおけるMMPの発現及びMMPの内因性阻害物質(TIMP)についても評価した。ザイモグラフィによる分析は、ブレオマイシン及びhAECの肺ホモジネ−ト中のMMP−2及びMMP−9が、ブレオマイシン単独の場合より顕著に増加したことを明示した(図3c)。hAECを注入された健康な対照からの肺サンプル中のMMPに増加がなかった(デ−タの記載なし)ことから、これは肺損傷に対する独特な反応と考えられる。さらに、ブレオマイシン単独の場合と比較して、初代肺線維芽細胞の注入後のMMPレベルに追加的な増加はなかった(デ−タは示さず)。
【0076】
MMP−2はほとんどのECMタンパク質の分解の原因であり、肺胞の再生にも関係している。さらに、ヒト対象における以前の研究により、MMP−2のアップレギュレ−ションは過敏性肺炎を患う対象の線維症の減少の強力な予測因子であることが明らかになった(Selman, M. 及びA. Pardo, 1991)。その結果、MMP−2の顕著なアップレギュレ−ションは肺内のコラーゲン濃度の低下の原因であると考えられる。
【0077】
さらに、ブレオマイシン単独とブレオマイシン及びhAECで処理したマウスとの間には、MMP−9発現において顕著な相違があった。MMP−9は、いくつかのECMタンパク質を開裂するのに有用であるが、MMP−9のダウンレギュレ−ションがブレオマイシンで処理したマウスのコラーゲン量に影響を与えなかったので、活性化された線維症には直接関与していない。しかしながら、MMP−9のアップレギュレ−ションは、コラーゲン沈着中に付加的な分解分子になることができる。MMPの組織阻害剤(TIMP)はMMPの主要内因性阻害剤であり、1:1の化学量論においてこれら分子を結合させる。各々が特定の機能を有するTIMPの4つのホモログ、TIMP−1〜4がある。TIMP−1を抑制すると、ブレオマイシンに対する炎症反応を増大させたが、線維症においての増大はみられなかった。同様に、TIMP−2及びTIMP−3もまたブレオマイシンに反応して増加する。ブレオマイシン肺損傷28日後にhAECで処理したマウスにおけるTIMP−1、TIMP−3及びTIMP−4のダウンレギュレ−ションがあったことが、肺転写物から明示された(図3d)。さらに、損傷14日後から28日後のブレオマイシンマウスモデルにおいて、コラーゲン沈着段階の前にTIMPの濃度が増加したため、TIMPの増加と線維症との間には因果関係がある。また、ブレオマイシン線維症に耐性を有するマウス株は、損傷後にTIMP−1レベルの増加を示さなかった。したがって、MMPの増加に伴われたTIMPレベルの減少は、hAECの注入に反応してECM分解を促すミクロ環境の存在を示し、その結果、線維症を減少させる。
【0078】
以上より、hAECが肺の回復を直接増大させる機構がいくつか存在する。hAECのII型肺胞上皮細胞への分化、マクロファージの動員の減少及びサイトカイン発現の抑制が肺へのダメージを制限する。さらに、MMPの増加は、その結果としてTIMPの抑制を伴うが、線維症を阻止する。
【0079】
本明細書を通して使用された用語「含む(comprise)」又は「comprises」や「comprising」等の変化形は、記載された要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップのグループを包含することを示すと理解されるが、その他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップのグループを排除するわけではない。
【0080】
本明細書に記載されている全ての刊行物は参照することにより、本明細書に組み込まれている。本明細書に含まれる文献、法令、資料、機器、論文等を検討しているのは、本発明の背景を提供することだけが目的である。これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術の基礎の一部を形成する、又は本願の各請求項の優先日前に豪州又は他のどこかで存在し、本発明に関係する分野において一般常識であったと了解していると解釈されるためではない。
【0081】
広範に記載されている本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく具体的な実施例に示された本発明に対し、数々の変更及び/又は修正を加えられることを当業者は理解するであろう。したがって、本実施例は全ての点において説明のためであり、限定するものではないと解するべきである。
【0082】
参考文献
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2. Ashcroft, T., et al., Simple method of estimating severity of pulmonary fibrosis on a numerical scale. J Clin Pathol 41:467−470 (1988).
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13. Morley, C.J., et al., The biochemistry and physiology of fetal pulmonary surfactant. In "Pre−term labour". Proc. V study group of Royal College of Obstetrics and Gynaecology. Eds. Anderson, A.B., Berad, R., Brundenell, J.M. and Dunn, P.M., pp 261−272.
14. Parolini, O., et al., Isolation and characterization of cells from human term placenta: outcome of the first international workshop on placenta derived stem cells. Stem Cells 26:300−311 (2008).
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17. Woessner, J.F. Jr, Quantification of matrix metaloproteinases in tissue samples. Methods in Enzymology 248:510−528 (1995).
【技術分野】
【0001】
本発明は、羊膜組織由来の複能性上皮幹細胞の投与を含む、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の方法に関する。本発明は特定の用途として、かかる方法が慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む慢性肺疾患、急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性肺症状及び人工呼吸関連肺損傷(VALI)等の肺疾患及び肺症状の治療に使用される。
【0002】
[参考文献による組込み]
本特許出願は、2007年5月28日に出願された「慢性肺疾患の治療」という名称の豪州特許第2007902844号により優先権を主張する。この出願の内容全体は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)及び特発性肺線維症(IPF)等の慢性肺疾患は世界的に深刻な問題である。特にCOPDは、2020年までに、人口に占める一般的な疾病率及び死亡率の上位5位に入るであろうと予測されている。疾患の1グループとして、前記疾患は1又は複数の次の活動により特徴付けられている;肺への白血球の浸入、間質性肺炎症、炎症促進性サイトカインの産生の増大、肺胞隔膜の肥厚、出血性肺炎、正常な肺構造の変形及び改変されたプロテアーゼ活性が結合したコラーゲン沈着の増加により引き起こされた線維症。さらに、疾患の進行は、肺組織の重大な喪失及び瘢痕をもたらし、最終的にこれらの慢性肺疾患に関連した、著しい疾病率及び死亡率に導く。
【0004】
現在、慢性肺疾患の治療は症状の緩和及び/又は予防に限定されているため(例えば、β2−作用薬及びテオフィリン等の気管支拡張剤、及び/又はプレドニゾン等の抗炎症性コルチコステロイドを使用し、肺活量を向上させる)、疾患の進行の阻止、又は好ましくは回復させる薬剤又は治療の開発が大いに待望される。この点における1つの可能性として、肺の損傷部位に「移動(traffic)」し、内生の肺組織に分化する適当な幹細胞を使用して肺に回復をもたらすことが考えられる。この目的に向けて、本出願人は慢性肺疾患の治療に使用するための複能性ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)(Parolini, O., et al., 2008に掲載)の可能性を研究し、末梢気道成長培地(Small Airway Growth Media)(SAGM)での培養時に、かかる細胞が、肺特異的マーカー及び細胞内の層状体の発現によって証明されるように、肺細胞表現型を呈することを初めて明示した。さらに、本出願人はhAECを肺線維症のマウス・モデル(すなわち、ブレオマイシン損傷マウス)の全身投与した時に、4週間後hAECは肺に局在し、肺胞上皮細胞の形態及びマーカーを発現させたことを見い出した。また、複能性hAECが、マクロファージ抑制遊走因子(MIF)の発現の増加及びマクロファージ炎症性タンパク質(MIP)のダウンレギュレ−ションを通して、マクロファージの動員を抑制することにより炎症も軽減させたことが観察された。このことは、炎症性サイトカインインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン−6(IL−6)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターフェロン−γ(IFN−γ)及び線維化形質転換成長因子−β(TGF−β)の発現の低下をもたらした。加えて、治療されたマウスの肺のコラーゲン濃度が、マトリクス・メタロプロティナーゼ(MMP−2及びMMP−9)による分解の増大、及びそれらの内因性阻害剤、すなわちMMPの組織阻害剤(TIMP)、のダウンレギュレ−ションにより顕著に低下した。総合すると、hAECを使用しての治療は肺損傷の原因におけるいくつかの経路に対処するもののようであり、その結果、慢性肺疾患等の肺疾患及び肺症状の有効な細胞治療の根拠として相当の可能性を提示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Parolini, O., et al., Isolation and characterization of cells from human term placenta: outcome of the first international workshop on placenta derived stem cells. Stem Cells 26:300−311 (2008).
【発明の概要】
【0006】
第1の態様によれば、本発明は、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の方法を提供する。
【0007】
本発明の方法に使用されるAECは、ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)が好ましい。さらに、本発明の方法に使用されるAECは、分娩時又は分娩間近の胎盤の羊膜由来のAECが好ましい。
【0008】
本発明の方法を使用して治療される肺疾患又は肺症状は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)等の慢性肺疾患、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性肺症状、又は化学療法及び/又は放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子(例えば、熱煙)への暴露に起因する障害である。或いは、かかる肺疾患又は肺症状は、人工呼吸器の使用に起因する肺症状(すなわち、VALI)である。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞療法のための組成物の調製における複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の使用を提供し、かかる組成物は薬学的に許容される担体と組み合わせて前記AECを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】定量PCR(quantitative polymerase chain reaction)による、hAECによる多能性マーカー発現の評価を示す。示された結果は、Octamer−4(Oct−4)、Nanog、SRY関連HMG−box遺伝子2(Sox−2)及び甲状腺転写因子−1(TTF−1、Nkx2.1としても知られている)の発現を明示しており、後者は、発達段階における呼吸器系統のマーカーとして最初に知られたマーカーである。SAGMでの培養後、肺特異的サーファクタントタンパク質C(SPC)や上皮マーカークアポリン−5(AQ−5)の発現が増加する一方で、これらマーカーの発現が低下した。
【図1b】SAGMでの分化に続き、SPC及びアクアポリン−5(AQ−5)産生細胞の割合が増加したことを示す。
【図1c】SAGMで培養されたhAECも、層状体(矢印)等のII型肺胞上皮細胞の形態学的特徴を呈したことを示す。
【図1d】hAECが、SAGMにおけるインビトロでの分化後、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIA及びクラスIIタンパク質の両方を、新たに単離された細胞において低レベルで発現させることを示す。
【図2a】ブレオマイシンで鼻腔内を処置し、その24時間後に尾静脈へhAECを注入した後に、マウスから採取した肺切片の免疫組織染色を示す。かかる切片は肺内部のhAECの存在を明示する。前記hAECはまた、I型(扁平)肺胞上皮細胞及びII型(立方体)肺胞上皮細胞(下のパネル)の両方に近似する形態を得た。
【図2b】マウスへのhAECの注入が、ブレオマイシン誘導性肺損傷後の肺の炎症及び線維症のスコアの減少をもたらした結果をグラフで示す。
【図2c】ブレオマイシン誘導性肺損傷後、マウスへのhAECの注入により、肺の転写物から炎症促進性サイトカイン(例えば、IL−1、IL−6及びTNF−α)の発現が顕著に減少した結果をグラフで示す(*p<0.05 ブレオマイシン単独とブレオマイシン+HAECとを一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって比較);
【図3a】hAECの治療(ブレオマイシン投与の24時間後)が、ブレオマイシン治療のみのマウスと比較してコラーゲン沈着の顕著な減少をもたらした結果をグラフで示す。
【図3b】hAECの治療(ブレオマイシン投与の2週間後)がまた、ブレオマイシン治療のみのマウスと比較して沈着したコラーゲン量の顕著な減少をもたらした結果をグラフで示す。
【図3c】ザイモグラフィによるMMP−2及びMMP−9の評価を示し、ブレオマイシン及びhAECを使用して治療されたマウスのMMP活性にさらなる顕著な増加があった結果を示す。
【図3d】hAECの治療の後、肺の転写物において、MMPの組織阻害剤(TIMP)、MMPの内因性阻害剤の発現が減少したことを表す結果をグラフで示す(*p<0.05 健常対照群と比較、+p<0.05 ブレオマイシン単独とブレオマイシン+hAECとを比較、一元配置分散分析による)。
【0011】
[発明の詳細な説明]
羊膜及び絨毛膜は、外層を含む母性由来の脱落膜と共に胎盤の胚由来の内層の一部を形成する。絨毛膜が栄養膜に由来する一方で、羊膜は胚盤葉上層から生じ(すなわち、ヒトの受精8日後)、胚盤葉上層が胚の3種の胚葉の起源でもあるため、羊膜上皮細胞が多能性/複能性幹細胞の直接の供給源である可能性が示唆されてきた(すなわち、幹細胞は多様な細胞型に分化し得る)(Ilancheran, S., et al., 2007)。
【0012】
本発明を導いた研究において、出願人は、先ず羊膜上皮細胞の少なくとも一部が多分化能マーカーを発現することを見い出し、全ての胚葉を示す組織にインビトロで無事分化することを証明した。次に、出願人はその細胞が慢性肺疾患の状態において機能転帰にポジティブに影響することを見い出し、特に肺炎症及び線維症を軽減することができることを見い出した。
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、対象の肺疾患又は肺症状の細胞治療の方法を提供しており、その方法はかかる対象に治療有効量の複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)を投与することを含む。
【0014】
本発明の目的上、AECは少なくとも1又は複数の肺細胞型に分化できる細胞である(例えば、II型肺胞上皮細胞等の肺上皮細胞)。
【0015】
本発明の方法に使用されるAECが、ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の方法に使用されるAECが、分娩時又は分娩間近の胎盤の羊膜由来のAECであることが好ましい。分娩間近のヒトの胎盤は、受胎から約34週間後に採取した胎盤(例えば、救急若しくは選択的な帝王切開、又は分娩予定間近の出産)であるとみなすことができる。
【0017】
本発明の方法により治療できる肺疾患又は肺症状は、肺の炎症及び/又は肺線維症によって特徴付けられるものから選択することができる。
【0018】
特に、本発明の方法は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)及び特発性肺線維症(IPF)等の慢性肺疾患、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)等の急性疾病、又は化学療法及び/又は放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子(例えば、熱煙)への暴露に起因する障害を治療するのに使用することができる。
【0019】
さらに、呼吸器不全の重病の対象の処置に一般的に使用される人工呼吸器は、ARDS及び急性肺損傷(ALI)の重大な共同因子であると
報告されている。特に、人工呼吸器は細菌感染症に反応して肺の炎症を悪化させることが確認された(Dhanireddy, S., et al., 2006)。したがって、本発明の方法は、人工呼吸器の使用から生じる肺症状(すなわち、人工呼吸関連肺損傷(VALI))の治療にも使用することができる。
【0020】
さらに、本発明の方法は、胎児の呼吸促迫症候群(RDS)の治療及び/又は予防と同様に、II型肺胞上皮細胞が欠如する早産児の治療に使用することができる。胎児の肺は、妊娠後期まで十分な発育はしていないため、早産児は一般的に自力で呼吸することができない(その結果、人工呼吸器の使用が必要となる)。早産児及び/又は人工呼吸器を使用しての呼吸補助の結果、RDS特有の症状である肺炎症の発症、肺胞への損傷の拡散及び肺機能の深刻な変化をもたらす。現在、胎児のRDSは、合成又は動物由来のサ−ファクタントを出産時に投与することを特徴とする「サ−ファクタント療法」を使用して治療及び/又は予防をする(Morley, C.J., et al., 1978)。しかしながら、早産児のケアにおいて前記治療が極めて重要な進歩であった一方で、本発明の方法は、特に合成又は動物由来のサ−ファクタント(さらに以下で検討する)との組合せで使用される時に、サ−ファクタント療法単独の治療よりもより大きな治療効果の可能性をもたらすと考えられる。本願の出願人は理論に制約されることを望まないが、このより大きな治療効果は、肺の炎症を軽減し、線維症を予防し、サ−ファクタントを分泌するII型肺胞上皮細胞に分化するAECの確認された能力を組み合わせて、合成又は動物由来のサ−ファクタントを投与する公知の効果を通じて得られると考える。
【0021】
また、本発明の方法は、喫煙又は毒性化合物若しくは毒性微粒子(例えば、熱煙)への産業的暴露に関連する肺の炎症治療に使用することができる。
【0022】
本方法は、複能性AECの治療有効量を対象に投与することを含む。
【0023】
複能性AECの投与形態は全身注入、気管支又は鼻腔内点滴注入で行われるのが一般的であるが、AEC(移植可能なゲル又は固形の骨格材料等の支持基質と共に、又は用いずに)を肺損傷部位(例えば、炎症及び/又は線維症の部位)又は肺損傷部位近辺に直接注入してもよい。複能性AECは、一般的に薬学的に許容される担体(例えば、生理食塩水)と組み合わせて投与されるであろう。
【0024】
全身注入を使用する際は、少なくとも注入された複能性AECの一部が肺、具体的には肺損傷部位に移動することができ、投与後4週間経過しても肺に局在することを見い出した。一度肺損傷部位に存在すれば、複能性AECは肺の上皮細胞に分化し、肺組織の修復及び再生を始める。
【0025】
「治療有効量」という用語は、少なくとも治療されている肺疾患又は肺症状の進行を阻止する複能性AECの量(すなわち、細胞数)に言及すると理解される。前記の量は、投与様式、対象の年齢及び/又は体重、及び治療される肺疾患又は肺症状の重症度等の種々の因子によって大きく異なる。しかしながら、一般的には、かかる量は約1×105から1×1010で、より好ましくは1×108から1×1010の範囲の複能性AECである。
【0026】
複能性AECは1又は複数の活性薬剤と組み合わせて対象に投与することができる。例えば、かかるAECを、肺疾患又は肺症状の症状を緩和及び/又は予防するために、現在使用している1又は複数の薬剤(例えば、気管支拡張剤又は抗炎症性コルチコステロイド)と共に投与することができる。もう1つの方法として、1又は複数の炎症促進性サイトカインIL−1、IL−2、IL−6、IFN−γ及びTNF−α(例えば、特異的阻害剤若しくは拮抗薬又は特異抗体)の発現又は活性、及び/又は線維化サイトカインTGF−β(例えば、特異的TGF−β阻害剤若しくは拮抗薬又は特異的抗TGF−β抗体)の発現又は活性を軽減する薬剤と共にAECを投与することができる。AECはまた、肺の環流しない箇所を開き、損傷部位にAECが到達することを助ける合成又は動物由来の肺サ−ファクタント(例えば、パルミチン酸コルホスセリルベ−スの製品(GlaxoSmithKline plc社(英国ミドルセックス州ブレントフォード)から市販されているExosurf(登録商標)等)及びウシの肺洗浄液から抽出されるサ−ファクタント(Boehringer Ingelheim GmbH社(ドイツIngelheim)から市販されているAlveofact(登録商標)等))と共に投与することができる。
【0027】
複能性AECは、下記の表1に記載されている1又は複数のマーカー発現により特徴付けられることが好ましい。より好ましくは、複能性AECは、1又は複数の多能性幹細胞マーカーの発現により特徴付けられることである。hAECに関しては、多能性マーカーは一般的にOct−4、Nanog及びSox−2から選択される。
【0028】
さらに、複能性のhAECはMHCクラスIA及びIIのタンパク質の低発現を示すことにおいて特徴付けられることが好ましい。好ましい理由は、組織適合性が相違する対象におけるhAECの使用可能性を示しているからである。しかしながら、本発明の方法において使用される複能性hAECは自己由来である(及び凍結保存されたサンプル等の保存されたサンプルから調達される)。
【0029】
複能性AECは、標準的な方法により羊膜組織を由来とすることができる。例えば、分娩時胎盤から採取された羊膜組織は、適したタンパク質分解酵素(例えばトリプシン)を使用して処理され、AEC中に見い出した上皮細胞骨格タンパク質であるサイトケラチン7、及び/又は1又は複数のOct−4、Nanog及びSox−2の一定分量をフロ−分析(例えば、FACS法)にかけ、分散細胞の純度を評価する。もう1つの方法として、分散細胞を1又は複数の関連する細胞表面マーカー(例えば、SSEA−4)のフロ−分析により選別/評価してもよい。分散/選別された細胞は標準的な方法に従って、後日使用するために保存できる。分散/選別された細胞はまた、細胞の分化を回避する条件下での培養により(例えば、ダルベッコMEM培地(DMEM)/動物質を含まない血清又は血清代替物を追加したF12等の基礎培地において培養することにより)増殖させることもできる。必要時には、対象に即座に投与するために、例えばAECを培養/保存の培地から単離し、薬学的に許容される担体に前記AECを再懸濁することによって、分散/選別及び任意で増殖させた細胞を調製することができる。
【0030】
さらに、複能性AECは部分的に派生細胞;すなわち、AECから少なくとも部分的に分化された細胞と置換することができる(すなわち、本発明は「分化前の」細胞を使用することができる)。前記の派生細胞は、例えば市販のSAGM(例えば、Lonza Group Ltd社(スイスBasel)から市販されているSAGM製品)において、適切な条件下でAECを培養することによって製造することができる。本発明が派生細胞を使用する場合、AEC:派生細胞が約5:1から約1:5まで、好ましくは約4:1から約1:1までの範囲の割合で、かかる細胞を投与することができる。
【0031】
また、複能性AECは部分的に、1又は複数の他の幹細胞型を含む1又は複数の他の(すなわち、非派生の)細胞型に置換することができる。本発明が他の細胞型を使用する場合、AEC:他の細胞が約5:1から約1:5まで、好ましくは約4:1から約1:1までの範囲の割合でかかる細胞を投与することができる。
【0032】
しかしながら、派生細胞又は他の細胞型を共に投与することができる一方で、本発明の方法で最も好ましいのはAECのみを使用することである。
【0033】
第2の態様では、本発明は、対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療のための組成物の調製における複能性の羊膜上皮幹細胞(AEC)の使用を提供し、かかる組成物は薬学的に許容される担体と組み合わせて前記AECを含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の使用において用いる複能性AECは、ヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)が好ましい。さらに、本発明の方法に使用されるAECは、分娩時又は分娩間近の胎盤の羊膜由来のAECが好ましい。
【0035】
かかるAECに加え、組成物はまた、1又は複数の他の幹細胞型及び/又は1又は複数の全体的又は部分的に分化された細胞型(例えば、AECの派生細胞;すなわち、少なくとも部分的にAECから分化した細胞)を含む1又は複数の他の細胞型に属する細胞を含むことができる。
【0036】
組成物はまた、さらに1又は複数の活性薬剤(例えば、気管支拡張剤又は抗炎症性コルチコステロイド)を含むことができる。
【0037】
本発明の細胞治療は、今までは症状を緩和及び/又は予防する薬の使用により治療されてきただけであった、肺疾患又は肺症状の軽減又は少なくとも進行阻止の可能性をもたらす。これらの薬の長期間の使用はまた、深刻な副作用につながる可能性があるので(例えば、コルチコステロイドの長期間の使用は糖尿病、骨粗しょう症及び白内障形成を含むいくつかの衰弱性疾患及び衰弱性症状の進行に関連する)、本発明の細胞治療等、肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の特定及び開発が大いに期待される。
【0038】
本発明の細胞治療は肺の炎症の軽減をもたらし、線維症を予防し、肺損傷後の肺のコラーゲン濃度を薄めることができる。
【0039】
したがって、第3の態様では、本発明は対象の肺の炎症を軽減する方法を提供し、かかる方法は前記対象に複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を投与することを含む。
【0040】
第4の態様では、本発明は対象の肺の線維症を予防する方法を提供し、かかる方法は前記対象に複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を投与することを含む。
【0041】
さらに第5の態様では、本発明は対象の肺のコラーゲン濃度を低下させる方法を提供し、かかる方法は前記対象に複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を投与することを含む。
【0042】
上記第1から第5までの態様に特定された発明に、多くの変更及び/又は修正を加えることができることは当業者に理解されるであろう。
【0043】
さらに、全身注入、気管支又は鼻腔内点滴注入により投与されたAECの肺に移動する能力により、治療薬(例えば、治療タンパク質又はペプチド、遺伝子治療剤又は遺伝子抑制剤)を肺に送達するための手段又は「ベクタ−」が提供される。例えば、嚢胞性線維症(CF)の治療のために、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)をコードする外因性ポリヌクレオチド分子を自己のAEC(すなわち、機能性CFTR遺伝子が欠如)に導入し、その後、CFの遺伝子治療を提供するために、CFに罹患した対象に投与することができる。
【0044】
したがって、本発明は、上記の治療薬を含む複能性の羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を対象に投与することを含む、対象の肺疾患又は肺症状の細胞治療方法、そのための組成物(すなわち、薬学的に許容される担体と組み合わせる、上記治療薬を含むAECを含む組成物)、さらに、薬学的に許容される単体と組み合わせて前記AECを含むことを特徴とする、対象の肺疾患又は肺症状の細胞治療のための組成物の調製における、上記の治療薬を含むAECの使用に及ぶものと理解される。
【0045】
本発明の本質がより明瞭に理解されるように、この発明の好ましい形を、以下の制限されることのない、実施例を参照して記載する。
[実施例]
【実施例1】
【0046】
ヒト羊膜上皮細胞による線維症の阻止及び肺修復の増強
材料と方法
hAECの単離及び培養
分娩時、帝王切開を選択した女性から羊膜を得た。hAECは単離され、以前記載された方法(Ilancheran, S., et al., 2007)を使用して特徴付けした。すなわち、組織を0.25%のトリプシン:EDTA溶液(Invitrogen Corporation社製(米国CA州Carlsbad))中で2回、20分間消化させた。トリプシンを、ウシ胎仔血清(FCS、 Invitrogen社製)を使用して不活性化し、分散細胞はM199培地(Invitrogen社製)で洗浄した。次にhAECで見い出された上皮細胞骨格タンパク質であるサイトケラチン7(Dako Denmark A/S社製(デンマ−クGlostrup))についてフローサイトメトリーで細胞を分析した。サイトケラチン7陽性細胞を99%より多く有するバッチをIV型コラーゲン(Roche Diagnostics社製(スイスBasel))でコーティングした容器の上にプレーティングし、末梢気道上皮基底培地(SABM)(Clonetics社製(米国MD州Walersville))において培養し、補充物(すなわち、レチノイン酸、上皮細胞増殖因子1(EGF−1)、エピネフリン、トランスフェリン、インスリン、トリヨ−ドサイロニン、ウシ下垂体抽出液、ウシ血清アルブミン(BSA)、無脂肪酸血清及びヒドロコルチゾン)を加えた。対照培養物を10%ヒト血清又はFCSを有するDMEM/F−12培地(Invitrogen社製)で培養した。培養は4週間維持された(n=12)。
【0047】
定量RT−PCR
全RNAをRNeasy column(Qiagen社製(ドイツHilden))を使用してhAEC(n=6)から単離した。全RNAの1μgを、High−Capacity cDNA Archive Kit (Applied Biosystems社製(米国CA州Foster City))を使用してcDNAに変換した。このcDNAを20倍に希釈し、試薬(TaqMan Universal PCR Master Mix、Applied Biosystems社製)、PCRプライマ−、及びOct−4、Sox−2、Nanog、Nkx2.1、SPC、AQ−5及びβ−アクチン(Applied Biosystems社製、各々#Hs01895061_u1、#Hs00602736_s1、#Hs02387400_g1、#NM_003317.3、#Hs00161628_m1、#Hs00387048_ml)用のプローブと混合した。
【0048】
Oct−4は、内細胞塊(ICM)の細胞内及び多能性胚性ガン細胞株内において高度に発現する転写因子である。この転写因子Oct−4の高発現が胚幹(ES)細胞を胚組織及び胚外組織への分化に導く一方で、Oct−4の低発現は栄養膜細胞のみの成長を生じさせる。Nanogはホメオドメイン因子であり、桑実胚及び胚盤葉上層のICM内でインビボに発現する。それ自体は、多能性細胞のマーカーである。Sox−2は、ES細胞内と同様にICM内でOct−4と共発現し、Oct−4の機能に必須の転写因子である。Nkx−1はまた、甲状腺転写因子1(TTF−1)として知られ、呼吸器系統のマーカーとして初めて知られたマーカーである。SPCはII型肺胞上皮細胞に対して非常に特異的であり、アクアポリン5(AQ−5)は肺(肺胞)の上皮細胞マーカーである。
【0049】
PCRパラメ−タは以下の通りである:95℃、7秒間及び60℃、20秒間を40サイクル。デ−タを、ヒト胚幹細胞株ES−1(Oct−4、Nanog、Sox−2及びNkx2.1)と比較して、β−アクチン及び発現レベルに対して正規化し、ヒト成人肺(SPC及びAQ−5)はΔΔCt法を使用して測定した。
【0050】
透過電子顕微鏡法(TEM)
細胞を、2.5%のグルタルアルデヒドを含む0.1Mのカコジル酸塩緩衝液中に2時間室温(RT)にて固定化し、4℃で一晩放置した。その後、細胞を1%の四酸化オスミウムに後固定化し、段階的にアセトン内で脱水し、浸漬し、60℃で24時間スパ−樹脂に包埋した。極薄の部分(80nm)をその後3%の酢酸ウラニル及びRenoylds 染色剤で染色した。
【0051】
フロ−サイトメトリ−
hAEC(2.5×105)を、カベオリン(1:100)、AQ−5 (1:50)、SPC(1:50)、ヒト白血球抗原(HLA)−DP、−DQ、−DR(10μg/ml)又はアロフィコシアニン(allophytocyanin)(APC)と共役したHLA−A、−B、−C(10μl)に対する抗体と共に室温で1時間インキュベートした。幾度かの洗浄の後、細胞を1:10に希釈されたAPCと共役したロバ抗ウサギ(カベオリン)、ロバ抗ヤギ(AQ−5、SP−C)又はヤギ抗マウス(HLA−DP、−DQ、−DR)二次抗体と共に30分間室温でインキュベートした。細胞を余剰分の二次抗体を取り除くため洗浄し、フロ−サイトメトリ−によって分析した。カベオリン、AQ−5及びSPCのための一次抗体はSanta Cruz Biotechnology, Inc.社(米国CA州Santa Cruz)から、HLA抗体及び二次抗血清はBecton, Dickinson and Company社(米国NJ州Franklin Lakes)から購入した。さらに、ヒト骨髄間葉幹細胞(hMSC)と比較した、下記の表2に記載されている細胞表面マーカー(Becton, Dickinson and Company社製)に対するのと同様の手法及びモノクローナル抗体を使用して、hAEC(5回継代培養された集団(P5)を含む)のフロ−サイトメトリ−分析を行った。各マーカーに対して「陽性の」細胞型の細胞の割合を記録した。
【0052】
SCIDマウスへのhAECの注入
生理食塩水(0.15mg)に溶解した硫酸ブレオマイシンを弱いエ−テル麻酔下で鼻腔内に投与し、生後8週間の重症複合免疫不全(SCID)マウス(n=30)に肺線維症を誘発させた。対照マウスに0.2mlの生理食塩水を注入する一方で、ブレオマイシン注入24時間後、前記マウスにhAEC(0.2ml中1×106)を尾静脈経由で注入した。生理食塩水をマウスのもう1つのグループ(n=15)の鼻腔内に投与したが、これらマウスにはこれ以上の処置を行わなかった。hAECの代わりにヒト肺線維芽細胞(1×106)を使用する平行実験も実施した。さらに、hAECを健康なマウス(n=12)にも注入した。また、ブレオマイシン投与2週間後に、他のSCIDマウスにhAEC(0.2mlの生理食塩水中1×106)を尾から注入した。これら後者の動物の対照には、ブレオマイシン投与2週間後に、hAECの代わりに肺切除術により単離した肺線維芽細胞(0.2mlの生理食塩水中1×106)をSCIDマウスに(尾から)注入した。動物は処置の2週間後及び4週間後に殺処分された(4週間後に殺処分されたマウスは、ブレオマイシン投与の2週間後にhAEC又は肺線維芽細胞を注入されたマウスのみである)。肺組織は瞬間冷凍され、−80℃にて保管され、パラフィン包埋のために10%のホルマリンで固定した。
【0053】
肺組織の免疫組織化学分析
5μmの厚さでパラフィン包埋された組織切片は、脱蝋され、再水和された。クエン酸塩緩衝液の加熱により抗原回復が実行された。内因性ペルオキシダ−ゼ活性をクエンチングし、非特異的結合を阻止した後、ヒトミトコンドリア内膜(IMM;1:10、AbD Serotec社製(英国Oxfordshire州Kidlington))及びヒトSPC(1:50、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社製)に対する抗体と共に、1時間37℃にて切片を培養した。イソタイプが一致したマウスIgG2a及びヤギIgGが陰性対照としての切片に適用された。西洋ワサビペルオキシダ−ゼで標識されたビオチン−ストレプトアビジン二次抗体(LSABキット、Dako社製)を使用して抗体結合を検出し、3,3′−ジアミノベンジジン色原体を使用して免疫染色を視覚化した。IMM及びSPCの共局在化を、連続組織切片を試験することにより評価した。炎症及び線維症については、アシュクロフト法(Ashcroft, T., et al., 1988)により切片を点数化した。
【0054】
サイトカインmRNA発現
生理食塩水、ブレオマイシン及びブレオマイシン+hAEC(n=5/グループ)が注入されてから2週間後及び4週間後のSCIDマウスの肺から全RNAを抽出した。DNAse処理に続いて、1μgのRNAをSuperscriptIII(Invitrogen社製)を使用してcDNAに変換した。かかるcDNA(1:20に希釈)は、IL−1、IL−2、インターロイキン4(IL−4)、IL−6、インターロイキン−10(IL−10)、インターフェロン−γ(INF−γ)、TNF−α、TGF−β、MIF及びMIPに対してPCRプライマ−を使用して増幅した。定量PCRに使用されるサイクルパラメ−タは以下の通りであった:変性95℃、7秒間、アニ−リング60℃、7〜15秒間、及び伸長72℃、15秒間で40サイクル行った。β−アクチンにデ−タを標準化した後、生理食塩水で処理した対照マウスに対する発現を、ΔΔCt法によって計算した。
【0055】
コラーゲン含有量
生理食塩水、ブレオマイシン及びブレオマイシン+hAEC(n=6/グループ)を注入したマウスの肺のコラーゲン含有量を、以前に記載されたように(Hewitson,T.D., et al., 2007)、ヒドロキシプロリンアッセイを使用して測定した。すなわち、肺を凍結乾燥し、HCIにて加水分解し、558nmでの吸光度を測定した。コラーゲン含有量はヒドロキシプロリンの測定結果に6.94を乗じることによって計算され、組織の乾燥重量の比率で示される(Gallop,P.M. and M.A.Paz, 1975)。
【0056】
MMP活性及びTIMP発現
MMPをマウスの3つのグループ(n=6/グループ)から得た組織から抽出した。MMP−2及びMMP−9活性は、以前記載された(Woessner, J.F.Jr, 1995)ゼラチンザイモグラフィにより評価した。ザイモグラフは密度計(Gel Scan−710、Bio−Rad Laboratories, Inc.,社製(米国CA州Hercules)で走査され、Quantity−Oneソフトウエア(Bio−Rad社製)を使用してゼラチナ−ゼ活性を定量化した。かかるデ−タは平均値±標準誤差にて示された。
【0057】
肺組織中のTIMP−1、TIMP−2、TIMP−3及びTIMP−4のmRNA発現を、上記のように定量RT−PCRにより測定した。試薬、プライマ−及びTaqManプロ−ブはApplied Biosystems社より購入した(#Mm00441818_ml、#Mm00441825_ml、#Mm00441826_ml、#Mm00446568_ml)。β−アクチンにデ−タを標準化した後、生理食塩水が注入されたマウスに対する発現がΔΔCt法により計算された。
【0058】
統計分析
異なるグループ間の処理効果を、一元配置分散分析を使用して分析した。P<0.05は統計的に有意であると考えられた。
【0059】
結果及び考察
hAECを、細胞膜を剥離し、hAECを細胞培養にて培養することにより胎盤から得た。これらの細胞はクロ−ンを明示し、胚盤葉上層の派生(Chambers I., et al., 2003及びMitsui K., et al., 2003)に一致して、いくつかの多能性マーカー、すなわち、Oct−4、Nanog、Sox−1及びc−kit(図1a及び表1)を発現した。CD31、CD34及びCD45マーカー(表1参照)に対して「陰性」であるため、かかる細胞は血管内皮又は造血系統ではなかった。比較フロ−サイトメトリ−分析において、HAECによる細胞表面マーカーの発現はhMSCのそれとはかなり相違し(hMSCの特徴であるCD90マーカーにおいて最も顕著である)、その結果hAECは異なる表現型を有することが示された。
【0060】
hAECによる肺の分化及び修復に焦点を合わせることの一環として、発達過程の肺の最も初期の系統マーカー(図1a)であるNkx2.1(TTF−1としても知られている)を単離されたhAECが発現させたことも定量PCRにより示した。Nkx2.1は、肺の発達時に形態形成を分け、II型肺胞上皮細胞を形成する重要な転写因子である。
【0061】
hAECによるNkx2.1の発現を確認した後、細胞をSAGMで培養した。かかるSAGMは、胚及び臍帯血由来の幹細胞の肺におけるII型肺胞上皮細胞への分化を誘導することが以前示された(Berger, M.J., et al, 2006及びAli, N.N., et al., 2002)。SAGMは主として培養中の気道上皮細胞の維持に使用され、肺の発達過程において存在する因子でもあるヒドロコルチゾン、ヒト上皮細胞増殖因子(hEGF−1)及びレチノイン酸を含む。2週間及び4週間SAGMにて培養されたHAECは、肺特異的サーファクタントタンパク質C(SPC)遺伝子の発現の増加を示した(図1a参照)。FACS分析で示されるように、mRNA発現の増加によりSPCのタンパク質発現の翻訳量が増加した(図1b)。
【0062】
Ultra-structural分析により、4週間SAGMにおいて培養されたhAECは、II型肺胞上皮細胞の分化を示す層状体、脂質充填液胞及び微絨毛の表面形成を含む細胞質小器官を明示する独特な細胞集団を含むことが明らかになった。これらの特徴は、Dubelcoの修飾イ−グル培地(DMEM)/F12において培養したhAECには存在しなかった。II型肺胞上皮細胞は肺の表面部分の3分の1を構成するが、肺の遠位末梢においては細胞の66%を構成し、表面張力を減少させるサーファクタントタンパク質の分泌を担っている。さらに、II型肺胞上皮細胞は肺修復の間、ガス交換に関与するI型肺胞上皮細胞に分化する。特に、hAECは、単離されたばかりでインビトロでの分化後には、MHC抗原の低発現を示し、これらの細胞を臨床応用に使用する可能性を拡大している(図1c及び1d参照)。
【0063】
肺の修復に重要な細胞型にインビトロで分化するhAECの可能性を示したので、hAECがインビボで損傷した肺組織を修復する能力を調べた。
【0064】
肺の炎症及び線維症のブレオマイシン誘導モデルは、十分に特徴付けられ、ヒト対象の肺損傷の段階を反映する。本出願人は以前SCIDマウスでモデルを構築し、肺修復の増強におけるヒト細胞の機能的役割の評価を可能にした。特に、鼻腔内に投与されたブレオマイシンは、2週間目及び4週間目の両時点において、組織構造における炎症及び線維症の両方のスコアの増加を誘導した(図2b参照)。さらに、最大の損傷及び炎症が生じる2週間の時点で、線維化サイトカインTGF−βと同様に、炎症促進性のサイトカインIL−1、IL−2、IL−6、IFN−γ及びTNF−αの増加があった。
【0065】
肺の損傷を治療するために、ブレオマイシンの鼻腔内投与の24時間後にhAECを尾静脈へ注入し、2週間及び4週間の両方の時点で、細胞に抗ヒトミトコンドリア内膜(IMM)タンパク質のポジティブ染色を行ったところ、肺におけるhAECが示された。抗ミトコンドリア染色はマウスの肺組織において陰性であったが、ヒトの対照においてのみ存在し(デ−タは示さず)、その結果、マウスの肺におけるヒト細胞を同定するための抗体の特異性及び感受性が確認された。また、健康なマウスにhAECを注入した時、細胞は注入2週間後の肺組織において検出されず、hAECが損傷のない肺に「移動」しないことを示した。hAECが注入された、損傷のない健康な対照マウスにおいては細胞が確認されなかったことと比較して、免疫組織化学によりhAEC細胞が肺の線維化及び肺胞上皮領域に位置することが示された(高倍率視野で細胞100個あたり1IMM陽性細胞、n=8)。さらに、ヒト特異抗体を使用するポジティブ染色法によって証明されるように、肺の肺胞においてhAECの55±5%が、SPCも発現させた。注入されたhAECがSPCを発現させなかったため、かかるデータはhAECが肺の呼吸器系統に対して分化したことを示している。重要なことに、いくつかの多能性マーカーが発現したにもかかわらず、注入後4週間までのマウスにhAECが奇形腫又は腫瘍を形成しなかった。
【0066】
特に、注入によるhAECの投与は、2週間後及び4週間後の両方で炎症及び線維症のスコアを減少させた(図2c)。さらに、ブレオマイシンで処理されたマウス、並びにブレオマイシン及びhAECで処理されたマウスの肺においてマクロファージ数が顕著な減少を示した。マクロファージ数の減少が生じる機構を解明するため、MIF及びMIPの役割を調べた。これらのタンパク質は、hAECがダメージを受けた角膜上皮の修復に使用される時に、拒絶反応の欠如に中心的役割を担うことが知られている(Hori, J.et al., 2006;及びWang, M.et al., 2006)。
【0067】
ブレオマイシン対照と比較して、hAECを使用して処理された肺ホモジネ−トにおいて、MIF発現を増加させ、MIP発現を減少させたことが見い出され、損傷部位に対するマクロファージの動員の減少を説明していると考えられる。さらに、マクロファージの動員が減少することによって、2週間後にhAECによるサイトカインIL−1、IL−2、IL−6、IFN−γ及びTNF−αがダウンレギュレ−ションされることが説明できる(図2C)。IL−1はブレオマイシン肺損傷時に増加し、通常は単球及びマクロファージにより分泌され、繊維芽細胞の増殖及びコラーゲンの産生を増加させることにより線維症を進行させる。確かに、ブレオマイシン肺損傷時のナイアシン及びタウリンによるIL−1の減少は、肺線維症の症状の改善と一致する(Gurujeyalakshmi, G., et al., 2000)。本実施例において観察されたIL−1の抑制はさらに、肺上で抗線維化効果をもたらすhAECの能力を示している。
【0068】
特に、Balb/C等の耐性マウス株と比較して、損傷を発症させる傾向があるマウス株(C57/B16)ではブレオマイシンに応答して、サイトカインであるIL−2、TNF−α及びIFN−γは顕著に増加した。その結果、肺線維症の進行においてこれらサイトカインの役割が裏付けられた。そのため、hAECの投与によるこれらサイトカインの抑制は、さらに線維症の発症を減少させる役目を果たすであろう。加えて、これまでのいくつかの研究が、内因性の肺のIFNγの減少及びIFNγノックアウトマウスは、ブレオマイシン損傷に対して耐性があることを示している。さらに、TNFR欠損マウスは、TGF−βの活性化を抑制することでブレオマイシン線維症から守られている。そのため、HAECの投与によるTNF−αの顕著な減少は、hAECの抗線維化の役割をさらに裏付けている。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
IL−6について検討すると、このサイトカインは線維芽細胞、上皮細胞及びマクロファージにより分泌され、ブレオマイシン肺損傷時に顕著に増加することが見い出されている。IL−6が、MIPのレベルを上げるためにTNF−αと相乗作用すると仮定され、その結果、マクロファージの動員が増強されて、炎症及び線維症を長引かせることとなる。
【0072】
TGF−βは、肺線維症の原因として中心的なサイトカインである。ブレオマイシン肺損傷の14日後、TGF−βはマクロファージ、上皮細胞、線維芽細胞及び筋線維芽細胞中で増加する。実際、TGF−βは線維芽細胞の増殖において二相性の効果を有し、サイトカインによる単球の産出を刺激し、コラーゲン沈着の強力な刺激物質として作用することをいくつかの研究が明らかにしている(Kang, H.R., et al., 2007)。さらに、いくつかの研究は、ブレオマイシン線維症の改善がTGF−βの抑制に依存していることを明確に示している。したがって、TGF−βの顕著なダウンレギュレ−ションはまた、hAECが抗線維化の役割を有していることを示している。この実施例において、hAECが肺の細胞浸潤を減少させ、炎症促進性サイトカインであるIL−1、TNF−α及びIL−6を減少させることを明示している。
【0073】
hAECの抗炎症効果に加えて、コラーゲン沈着及びブレオマイシン肺損傷に続く線維症におけるhAECの役割について調べた。ブレオマイシンは、損傷14日後に過剰なコラーゲン沈着及び線維症を誘導し、その結果、線維芽細胞様の病巣を発症させる。これら病巣は、肺構造の歪曲、線維芽細胞及び筋線維芽細胞の増殖、コラーゲンの沈着及び肺機能の低下により特徴付けられる。これら全ては全臓器における線維症の「包括的な」特徴であり、ヒト対象間における病理に高い相同性をもって示される。
【0074】
コラーゲン沈着は、ヒドロキシプロリンアッセイを使用して測定された。ブレオマイシン単独で処理されたマウスのコラーゲン沈着の増加が予期された通り示されたが、ブレオマイシン及びhAECを注入された群では顕著な減少が示された(図3a及び3b参照)。特に、コラーゲン沈着に関して健康なマウスにhAECを注入した影響はなかった。さらに、ブレオマイシンに暴露させたマウスに初代ヒト肺線維芽細胞を注入してもコラーゲン量に影響しなかったため、コラーゲンの減少はhAECに特異的であることを見い出した。ブレオマイシン処理の2週間後に注入されたマウスで得られた結果(図3b)は、hAECは線維症を阻止することを示している。ブレオマイシン誘発マウスモデルでは、2〜4週間で線維症が最大レベルになるので、これは重要である。この結果から、線維化の最大時に注入されたhAECは、ブレオマイシン肺損傷後の最初の2週間で最大となる先行炎症を必ずしも抑制せずに、コラーゲン沈着を減少又は逆行させることができることが示される。
【0075】
マトリクス・メタロプロテイナ−ゼ(MMP)は、コラーゲン等の細胞外基質(ECM)タンパク質の分解の主な原因であるため、肺組織のホモジネ−トにおけるMMPの発現及びMMPの内因性阻害物質(TIMP)についても評価した。ザイモグラフィによる分析は、ブレオマイシン及びhAECの肺ホモジネ−ト中のMMP−2及びMMP−9が、ブレオマイシン単独の場合より顕著に増加したことを明示した(図3c)。hAECを注入された健康な対照からの肺サンプル中のMMPに増加がなかった(デ−タの記載なし)ことから、これは肺損傷に対する独特な反応と考えられる。さらに、ブレオマイシン単独の場合と比較して、初代肺線維芽細胞の注入後のMMPレベルに追加的な増加はなかった(デ−タは示さず)。
【0076】
MMP−2はほとんどのECMタンパク質の分解の原因であり、肺胞の再生にも関係している。さらに、ヒト対象における以前の研究により、MMP−2のアップレギュレ−ションは過敏性肺炎を患う対象の線維症の減少の強力な予測因子であることが明らかになった(Selman, M. 及びA. Pardo, 1991)。その結果、MMP−2の顕著なアップレギュレ−ションは肺内のコラーゲン濃度の低下の原因であると考えられる。
【0077】
さらに、ブレオマイシン単独とブレオマイシン及びhAECで処理したマウスとの間には、MMP−9発現において顕著な相違があった。MMP−9は、いくつかのECMタンパク質を開裂するのに有用であるが、MMP−9のダウンレギュレ−ションがブレオマイシンで処理したマウスのコラーゲン量に影響を与えなかったので、活性化された線維症には直接関与していない。しかしながら、MMP−9のアップレギュレ−ションは、コラーゲン沈着中に付加的な分解分子になることができる。MMPの組織阻害剤(TIMP)はMMPの主要内因性阻害剤であり、1:1の化学量論においてこれら分子を結合させる。各々が特定の機能を有するTIMPの4つのホモログ、TIMP−1〜4がある。TIMP−1を抑制すると、ブレオマイシンに対する炎症反応を増大させたが、線維症においての増大はみられなかった。同様に、TIMP−2及びTIMP−3もまたブレオマイシンに反応して増加する。ブレオマイシン肺損傷28日後にhAECで処理したマウスにおけるTIMP−1、TIMP−3及びTIMP−4のダウンレギュレ−ションがあったことが、肺転写物から明示された(図3d)。さらに、損傷14日後から28日後のブレオマイシンマウスモデルにおいて、コラーゲン沈着段階の前にTIMPの濃度が増加したため、TIMPの増加と線維症との間には因果関係がある。また、ブレオマイシン線維症に耐性を有するマウス株は、損傷後にTIMP−1レベルの増加を示さなかった。したがって、MMPの増加に伴われたTIMPレベルの減少は、hAECの注入に反応してECM分解を促すミクロ環境の存在を示し、その結果、線維症を減少させる。
【0078】
以上より、hAECが肺の回復を直接増大させる機構がいくつか存在する。hAECのII型肺胞上皮細胞への分化、マクロファージの動員の減少及びサイトカイン発現の抑制が肺へのダメージを制限する。さらに、MMPの増加は、その結果としてTIMPの抑制を伴うが、線維症を阻止する。
【0079】
本明細書を通して使用された用語「含む(comprise)」又は「comprises」や「comprising」等の変化形は、記載された要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップのグループを包含することを示すと理解されるが、その他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップのグループを排除するわけではない。
【0080】
本明細書に記載されている全ての刊行物は参照することにより、本明細書に組み込まれている。本明細書に含まれる文献、法令、資料、機器、論文等を検討しているのは、本発明の背景を提供することだけが目的である。これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術の基礎の一部を形成する、又は本願の各請求項の優先日前に豪州又は他のどこかで存在し、本発明に関係する分野において一般常識であったと了解していると解釈されるためではない。
【0081】
広範に記載されている本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく具体的な実施例に示された本発明に対し、数々の変更及び/又は修正を加えられることを当業者は理解するであろう。したがって、本実施例は全ての点において説明のためであり、限定するものではないと解するべきである。
【0082】
参考文献
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2. Ashcroft, T., et al., Simple method of estimating severity of pulmonary fibrosis on a numerical scale. J Clin Pathol 41:467−470 (1988).
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17. Woessner, J.F. Jr, Quantification of matrix metaloproteinases in tissue samples. Methods in Enzymology 248:510−528 (1995).
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
AECがヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
hAECがOct−4、Nanog及びSox−2から選択される1又は複数のマーカーの発現により特徴付けられていることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
AECが分娩時又は分娩時間近の胎盤の羊膜由来であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
AECが自己由来であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
治療される肺疾患又は肺症状が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)、又は、化学療法及び/若しくは放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子への暴露に起因する障害であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
治療される肺疾患又は肺症状が、急性呼吸促迫症候群(ARDS)又は急性肺損傷(ALI)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
治療される肺疾患又は肺症状が、人工呼吸関連肺損傷(VALI)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
治療される肺疾患又は肺症状が、胎児の呼吸窮迫症候群(RDS)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
AECが合成又は動物由来のサーファクタントと組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞療法のための組成物の調製における複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の使用であって、前記組成物が薬学的に許容される担体と組み合わせて前記AECを含む使用。
【請求項12】
AECがヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
hAECがOct−4、Nanog及びSox−2から選択される1又は複数のマーカーの発現により特徴付けられていることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
AECが分娩時又は分娩時間近の胎盤の羊膜由来であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
AECが自己由来であることを特徴とする、請求項11〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
治療される肺疾患又は肺症状が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)、又は、化学療法及び/若しくは放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子への暴露に起因する障害であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
治療される肺疾患又は肺症状が、急性呼吸促迫症候群(ARDS)又は急性肺損傷(ALI)であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
治療される肺疾患又は肺症状が、人工呼吸関連肺損傷(VALI)であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
肺疾患又は肺症状が、胎児の呼吸窮迫症候群(RDS)であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
組成物がさらに合成又は動物由来のサーファクタントを含むことを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
対象の肺の炎症を軽減させる方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項22】
対象の肺線維症を予防する方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項23】
対象の肺のコラーゲン濃度を低下させる方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項24】
AECがヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることを特徴とする、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
hAECがOct−4、Nanog及びSox−2から選択される1又は複数のマーカーの発現により特徴付けられていることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
AECが分娩時又は分娩時間近の胎盤の羊膜由来であることを特徴とする、請求項21〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
AECが自己由来であることを特徴とする、請求項21〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞治療の方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
AECがヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
hAECがOct−4、Nanog及びSox−2から選択される1又は複数のマーカーの発現により特徴付けられていることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
AECが分娩時又は分娩時間近の胎盤の羊膜由来であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
AECが自己由来であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
治療される肺疾患又は肺症状が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)、又は、化学療法及び/若しくは放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子への暴露に起因する障害であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
治療される肺疾患又は肺症状が、急性呼吸促迫症候群(ARDS)又は急性肺損傷(ALI)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
治療される肺疾患又は肺症状が、人工呼吸関連肺損傷(VALI)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
治療される肺疾患又は肺症状が、胎児の呼吸窮迫症候群(RDS)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
AECが合成又は動物由来のサーファクタントと組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
対象の肺疾患又は肺症状に対する細胞療法のための組成物の調製における複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の使用であって、前記組成物が薬学的に許容される担体と組み合わせて前記AECを含む使用。
【請求項12】
AECがヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
hAECがOct−4、Nanog及びSox−2から選択される1又は複数のマーカーの発現により特徴付けられていることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
AECが分娩時又は分娩時間近の胎盤の羊膜由来であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
AECが自己由来であることを特徴とする、請求項11〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
治療される肺疾患又は肺症状が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)、又は、化学療法及び/若しくは放射線療法、労働災害、又は毒性化合物若しくは毒性微粒子への暴露に起因する障害であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
治療される肺疾患又は肺症状が、急性呼吸促迫症候群(ARDS)又は急性肺損傷(ALI)であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
治療される肺疾患又は肺症状が、人工呼吸関連肺損傷(VALI)であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
肺疾患又は肺症状が、胎児の呼吸窮迫症候群(RDS)であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
組成物がさらに合成又は動物由来のサーファクタントを含むことを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
対象の肺の炎症を軽減させる方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項22】
対象の肺線維症を予防する方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項23】
対象の肺のコラーゲン濃度を低下させる方法であって、複能性羊膜上皮幹細胞(AEC)の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項24】
AECがヒト羊膜上皮幹細胞(hAEC)であることを特徴とする、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
hAECがOct−4、Nanog及びSox−2から選択される1又は複数のマーカーの発現により特徴付けられていることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
AECが分娩時又は分娩時間近の胎盤の羊膜由来であることを特徴とする、請求項21〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
AECが自己由来であることを特徴とする、請求項21〜26のいずれかに記載の方法。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【公表番号】特表2010−528055(P2010−528055A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509623(P2010−509623)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000753
【国際公開番号】WO2008/144820
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(501249191)モナッシュ ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000753
【国際公開番号】WO2008/144820
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(501249191)モナッシュ ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】
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