説明

慢性関節リウマチの診断における抗CCPおよび抗核抗体

本発明は、慢性関節リウマチの評価を補助する方法に関する。該方法は、特にインビトロにおける慢性関節リウマチの鑑別診断に用いられる。該方法は、例えば、試料中の抗CCPと抗核抗体(ANA)の両方の濃度を測定し、測定された濃度を慢性関節リウマチの診断と相関させることを含む生化学的マーカーの解析により行なわれる。本発明の方法におけるRAの評価を更に改善するために、一つ以上のさらなるマーカーのレベルが、抗CCPおよびANAとともに測定され得、RAの有無と相関され得る。本発明はまた、慢性関節リウマチの診断における抗CCPおよびANAを含むマーカーパネルの使用に関し、本発明の方法を実施するためのキットを教示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性関節リウマチの評価を補助する方法に関する。該方法は特に、インビトロにおける慢性関節リウマチの差異的な診断に使用される。例えば該方法は、測定される濃度と慢性関節リウマチの診断を関連付ける試料中の抗CCP抗体および抗核抗体(ANA)の両濃度を測定することを含む、生化学マーカーの分析により実施される。本発明の方法においてRAの評価をさらに向上させるために、抗CCPおよびANAと共に1つ以上のさらなるマーカーのレベルを測定し得、RAの有無に関連付け得る。本発明はまた、慢性関節リウマチの診断における抗CCPおよびANAを含むマーカーパネルの使用に関し、本発明を実施するためのキットを教示する。
【背景技術】
【0002】
慢性関節リウマチ(「RA」)は、罹患した関節、特に手および足の関節に最も顕著な発現を生じる慢性、炎症性で、全身性の疾患である。慢性関節リウマチの始まりは数週間から数ヶ月にわたり徐々に起こり得るか、または該状態は急性の方式で急速に表面化し得る。
【0003】
RAは世界規模の分布を有し、全ての民族集団に関わる。該疾患はどのような年齢においても発症し得るが、加齢に伴い罹患率は上昇し、ピーク発病率は40〜60代にある。北アメリカでの推定患者数は0.3%から1.5%に変化している。今日、アメリカ合衆国だけで2,500,000人より多くが慢性関節リウマチであると診断されているが、650万〜800万人が該疾患に罹患している可能性があると示す統計がある。女性は男性の2〜3倍の頻度で罹患している。
【0004】
慢性関節リウマチの初期症状は、ほとんどが、関節の腫脹または圧痛を伴う有痛関節など関節特異的であるが、むしろ硬直、発熱、皮下結節、および疲労のような非特異的な症状発現も含み得る。左右対称の関節の関与が非常に特徴的である。臀部、肘および肩の実際の関与を伴って、手、足、膝および手首の関節が最も一般的に罹患する。該疾患が進行すると、どのような種類の行動も非常に苦痛で困難になり、実際に関連する関節の機能の消失がもたらされる。より深刻な慢性関節リウマチの症状は、激しい痛みおよび関節の破壊をもたらし得る。関節炎に関する関節破壊により生じる痛みおよび運動性の消失を緩和するための試みにおいて、一年間に骨および関節を置き換える300,000例の外科的手術が実施されている。
【0005】
RAを分類するために最も広く使用されているシステムは、1987年に改訂された、米国リウマチ学会のRAの分類基準である(Arnett, F.C., et al., Arthritis Rheum. 31 (1988) 315-324)。この基準(ARAとして公知)に従い、以下の7つの基準、1)朝少なくとも1時間硬直、2)3箇所以上の関節領域の関節炎、3)腕関節の関節炎、4)対称性関節炎、5)リウマチ結節、6)血清リウマチ因子(「RF」)および7)X線写真の変化のうち少なくとも4つを満たす場合、患者はRAを有するものとされるが、ここで基準1〜4は少なくとも6週間存在しなければならない。これらの基準はおよそ90%の感度および特異性を有する。
【0006】
一般に承認され(前記ARA基準参照)、RAの診断を補助する唯一の生化学マーカーは、血清中に検出されるリウマチ因子(RF)である。
【0007】
RAの組織学的変化は疾患特異的ではないが、関与する器官に大きく依存している。最初の炎症性の関節の病変は滑膜に関与する。電子顕微鏡で詳細に記録した際の、最も早い変化は、管腔の閉塞、内皮組織の腫脹、および内皮細胞間の間隙を伴う滑膜微小血管の障害である。この段階は、通常皮相に配列している細胞層の緩やかな増殖に関係している。マクロファージの特徴を有するA型滑膜細胞由来の骨髄、間葉性B型滑膜細胞の2種類の細胞型が滑膜の配列を構成している。両方の細胞型は滑膜過形成に寄与しており、これら2つの細胞型の間のパラクリン相互作用が示唆される。炎症のこの段階は鬱血、水腫およびフィブリン滲出に関与する。疾患初期に細胞浸潤が起こり、最初これは主にTリンパ球からなる。炎症の結果として、滑膜は血管および滑膜線維芽細胞の増殖、ならびに滑膜配列層の増殖および拡大により肥大化する。
【0008】
肉芽組織は軟骨にまで広がり、パンヌスとして知られる。該組織は、びらん性RAとして公知のように、滑膜と骨の間の縁で特定の骨および軟骨を活動的に侵襲および破壊する。
【0009】
RAの関節での発現は、炎症性滑膜炎に関する可逆的徴候および症状ならびに滑膜炎によって生じる不可逆的な構造的損傷の2つの種類に分類され得る。この考えは疾患の段階付けおよび予後の決定のみでなく、医学的または外科的処置にも有用である。
【0010】
典型的な患者における構造的損傷は、通常該疾患の1〜2年の間に数回起こる(Van der Heijde, D. M., Br. J. Rheumatol. 34 (1995) 74-78)。滑膜炎の後に変動パターンが起こることがあるが、構造的損傷は以前の滑膜炎の量の一連の機能として進行する。
【0011】
RAの初期の事象の原因は依然としてわかりにくい。今日、自己免疫疾患要素が広く受け入れられているが、他の因子は依然として議論されている。細菌またはウイルスの感染の可能性が激しく追及されている。単離、電子顕微鏡または分子生物により感染因子とRAを関連付けるための全ての試みが失敗している。RAの原因は単一の主要なものではないことおよび異なるメカニズムにより最初の組織損傷がもたらされ得、滑膜の炎症が促進され得ることの可能性がある。
【0012】
滑膜炎の臨床的徴候は微妙であり得、しばしば主観的である。熱を持ち、腫れて明らかに炎症を起こしている関節は、通常炎症性滑膜炎の最も活発な段階でのみ見られる。軟骨の消失および特定の骨の侵食は、構造的損傷の特徴的な特徴である。構造的損傷に関する臨床的特徴は、機能的および解剖学的に進行性の悪化によって特徴付けられる。関節の構造的特徴は不可逆的で相加的である。
【0013】
慢性関節リウマチの効果的な処置は、通常薬物療法、運動、安静および適切な関節の保護治療の組合せを含む。特定の患者の治療は、疾患および関与する関節の重症度に依存する。非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイド、金の塩、メトトレキサートおよび全身性免疫抑制剤が、炎症および関節の破壊を減少させるために広く使用される。しかしながら、ステロイドおよび免疫抑制剤の使用は致死状態を引き起こし得る毒性および脆弱性の両方に関して大きな危険および副作用を有する。ごく最近、「生物学製剤」に基づく治療約がRA治療に導入されている。かかる治療薬とは、例えば、炎症を有意に減少させるTNF-αに対する可溶性レセプターまたは抗体である。非常に有望ではあるが、生物学製品は高価であるため依然として使用が限られている。
【0014】
長期的な臨床的かつ疫学的な研究からのデータにより処置のガイドラインが提供される。これらの研究は、1)初期診断の必要性、2)予後因子の同定および3)早期の積極的な処置を強調する。好ましくは徴候の開始から最初の数ヶ月以内のより早期的な診断および処置は、不可逆的な関節損傷の回避を補助し得る。
【0015】
しかしながら、慢性関節リウマチならびに、例えば全身性エリテマトーデス(SLE)および混合結合組織病(MCTD)のような他のリウマチ性疾患は互いに容易に区別されないという大きな問題がある。生物マーカーの測定と合わせた病歴、臨床的徴候、X線および他の医学的な検査の単調な評価は、例えばRAの明確なカット診断を確立するために実施されなければならない。結局、医師は、自身がすぐに使用できる全ての基準と組み合わせに基づいて診断する。臨床医は常に、任意の生物マーカーまたは生物マーカーの任意の組合せを用いて最終的に診断を確立する。しかし生物マーカーは、確立、例えばRAの診断の過程において、有意な補助となると見なされる。
【0016】
従って、特に生化学的パラメータに基づいた、慢性関節リウマチの評価を補助する方法の必要性がある。本発明は、インビトロにおいて慢性関節リウマチの有無を評価するかかる方法および試薬を提供する。
【0017】
本発明は、試料中の抗CCPおよび抗核抗体の濃度を測定し、慢性関節リウマチの有無について決定された濃度と相関することを含む、生化学的マーカーによるインビトロにおける慢性関節リウマチの評価方法に関する。
【0018】
本発明はまた、RAの診断において、少なくとも抗CCPおよび抗核抗体を含むマーカーパネルの使用に関する。
【0019】
本発明はまた、抗CCPおよび抗核抗体のそれぞれの特異的な測定に必要な少なくとも試薬ならびに任意に該測定を実施するための補助試薬を含む本発明の方法を実施するためのキットを提供する。
【0020】
第一の好ましい態様において本発明は、試料中の抗CCPおよび抗核抗体の濃度を測定し、診断について測定した濃度と慢性関節リウマチの有無を相関する工程を含む生物マーカーによるインビトロでの慢性関節リウマチの評価方法に関する。好ましくはこのマーカーの組合せはRAの存在を確かめるために使用される。
【0021】
本明細書で使用する場合、以下の用語のそれぞれはこのセクションに関連のある意味を有する。
【0022】
冠詞「a」および「an」は、本明細書で使用する場合1つまたは1つより多い(即ち少なくとも1つの)冠詞の文法上の目的語のことをいう。例えば、「a marker」は一つのマーカーまたは一つのマーカーより多いマーカーを意味する。
【0023】
用語「マーカー」または「生化学的マーカー」は、本明細書で使用する場合、患者試験試料の分析用の標的として使用される分子のことをいう。かかる分子標的の例とは、タンパク質またはポリペプチドそれ自身、および試料中に存在する抗体である。本発明においてマーカーとして使用されるタンパク質またはポリペプチドは、任意の前記タンパク質のバリアントおよび前記タンパク質または前記バリアントのフラグメント、特に免疫学的に検出され得るフラグメントを含むことを意図する。当業者は、細胞に放出されるタンパク質、または例えば炎症の際に損傷を受ける細胞外マトリックス中に存在するタンパク質がかかるフラグメントに分解または切断され得ることを理解し得る。特定のマーカーは不活性の形態で合成され、その後タンパク質分解により活性化され得る。当業者が理解し得るように、タンパク質またはそのフラグメントは複合体の一部としても存在し得る。かかる複合体はまた、本発明の意味においてマーカーとして使用され得る。マーカーポリペプチドのバリアントは同一の遺伝子にコードされるが、そのPIもしくはMWまたはその両方において異なり(例えばオルタナティブmRNAまたはmRNAプロセッシング、例えばオルタナティブスプライシングまたは限定的タンパク質分解の結果として)、さらに、またはあるいは、異なる翻訳後修飾(例えば糖化、アシル化および/またはリン酸化)によって生じ得る。
【0024】
本発明により上記に示す用語マーカーはまた、試料中に存在する抗体に関する。RAの場合において、これらの抗体は自己抗体、即ち患者自身の細胞中または細胞上に存在するか、または該細胞に産生される抗原に結合する患者試料中の抗体である。
【0025】
本明細書中に使用されるように、用語「試料」はインビトロでの評価のために得られる生物試料についていう。本発明の方法において、試料または患者試料は、好ましくは任意の体液を含み得る。好ましい試験試料としては、血液、血清、血漿、尿、唾液および滑液が挙げられる。好ましい試料は全血、血清、血漿または滑液であり、血漿または血清を有するものが最も好ましい。
【0026】
当業者が理解し得るように、任意のかかる診断はインビトロでなされる。患者試料は使用後廃棄される。患者試料は本発明のインビトロ診断法のためだけに使用され、患者試料の物質は患者の体内に戻されない。典型的に、該試料は液体試料である。
【0027】
用語「慢性関節リウマチの評価」は、本発明による方法が(他の種々のもの例えばARAにより示される基準の組(上記)と共に)医師によるRAの診断の確立を補助し得ることを示すために使用される。当業者が理解し得るように、生化学的マーカーは、所定の疾患について100%の特異性と同時に100%の感度を備えた診断用であり、むしろ生化学的マーカーは、ある程度の可能性または予想値により疾患の有無を評価するために使用される。好ましくは、本発明による方法はRAの存在の評価を補助する。
【0028】
当業者が理解するように、マーカーレベルとRAの有無を相関する工程は種々の方法で実施され達成され得る。一般的に、参照集団が選択され正常範囲が設定される。適当な参照集団を使用して抗CCPおよび抗核抗体についての正常範囲を設定することは、常套的な実験を超えるものではない。程度は限定されるが、一定の正常範囲は正常範囲が設定される参照集団に依存するということは一般的に許容される。理想的な参照集団の数は例えば100〜1000と高く、年齢、性別および目的の任意の他の変数に一致している。絶対値についての正常範囲は、所定の濃度のように、使用されるアッセイおよび該アッセイの作製に使用される標準化にも依存する。
【0029】
抗CCPおよび抗核抗体のレベルは、実施例のセクションで提示されるアッセイ手順により測定され設定され得る。異なるアッセイは異なるカットオフ値を生じるということが理解されるはずである。
【0030】
RAを有する患者の血清に見られるように、シトルリン化(citrullinated)ペプチドはより重要な自己抗体に対する抗原である。それらは、いくつかの研究グループにより過去何年間も重点的に研究されてきた(例えばWO 98/08946; WO 98/22503; WO 99/28344; WO 99/35167, WO 01/46222およびWO 03/050542参照)。最近Schellekensおよび共同研修者等(Schellekens, G. A. et al., Arthritis Rheum. 43 (2000) 155-163)は、特異的な環状シトルリン化ペプチド(CCP)に基づくELISA試験が、直鎖状ペプチドを用いた同じアッセイと比較してRAの診断精度に関して優れた診断特性を示すということを報告した。
【0031】
CCPに対する自己抗体、即ち患者血清中を循環するシトルリン化ポリペプチドに最も反応しやすく、インビトロアッセイにおいてCCPに結合する抗体が「抗CCP」と呼ばれる。Venrojiら(WO 98/22503)の特許出願には特定のシトルリン化ペプチドが記載され、環状化によりそれぞれのペプチドの改善された反応性が生じることが示される。具体例において、一般式HQCHQESTXGRSRGRCGRSGS(配列番号:1)で、式中X鎖がシトルリンのペプチドが2つのシステイン残基間でジスルフィド結合により環状化される場合、直鎖状ペプチドに相当する36%と比較して、感度が63%まで増加することが示される。患者の血清中の自己抗体が異なる環状ペプチドとはわずかに異なる反応性を有するように、WO 98/22503においてアッセイをさらに向上させるペプチドの組合せが示された。
【0032】
好ましい態様において、抗CCPはWO 03/050542においてvan Venroijらにより記載されるように測定される。簡潔に、エピトープ部位を含むタンパク質と一般式X-GおよびX-nonGで、式中X鎖がシトルリンで、GがグリシンでnonGが任意のアミノ酸H、I、W、S、R、K、Y、M、F、V、P、Citまたはそのアナログであるポリペプチドとの組合せを、試料中の抗CCP抗体(抗CCP)のレベルを評価するために使用する。かかる評価に有用な具体的なペプチドはWO 03/050542に開示される。当業者が容易に理解し得るように、抗CCPを測定するアッセイに使用される環状シトルリン化ペプチド抗原に関してさらなる改善および改良が可能であり、それにより例えば環状シトルリン化ペプチド配列の改変された配列が生じ得る。しかしながら、かかる改変は本発明の精神からは逸脱し得ない。
【0033】
CCPに結合する抗体、即ち抗CCPは血清学的アッセイにおいて測定される。好ましくは、かかるアッセイは、抗原として1つ以上のCCPを用いること、および試料に含まれる抗CCP抗体のCCP抗原への結合を適切な手段により検出することにより確立される。
【0034】
検出の好ましい手段は特異的結合アッセイ、特に免疫アッセイである。免疫アッセイは当業者に周知である。かかるアッセイを実行する方法ならびに実施応用および手順は関連のある教本に要約される。関連のある教本の例とは、Tijssen, P., In: Practice and theory of enzyme immunoassays, Burdon, R.H. and v. Knippenberg, P.H. (編), Elsevier, Amsterdam (1990), pp. 221-278, ならびに免疫学的検出法を扱うMethods in Enzymology, Colowick, S.P. and Caplan, N.O. (編)の種々の巻, Academic Pressの特に70, 73, 74, 84, 92および121である。
【0035】
抗CCP抗体は、同種(homogeneous)アッセイフォーマット、例えばCCPでコートしたラテックス粒子の凝集反応により検出され得る。
【0036】
好ましくは、抗CCPを測定するために異種(heterogeneous)免疫アッセイを使用する。かかる異種測定は、直接または間接的にCCPを固相にコーティングして、該固相を、抗CCP抗体を含むことが知られているかまたは含むと疑われる試料と、抗CCP抗体がCCPに結合し得る条件下でインキュベートし、直接または間接的に抗CCP抗体の結合を検出することに基づく。さらなるアッセイ形式は、いわゆる二重抗原架橋アッセイであり、抗CCP測定の場合に、CCPはこの免疫アッセイの固相面および検出面の両方で使用され、患者試料中の自己抗体はこれらの「二重」抗原間で架橋を形成する。必要または適切である場合、異種免疫アッセイの実施の間に洗浄工程が含まれる。
【0037】
用語「抗核抗体」(=ANA)が示すように、ANAは種々の核抗原に指向され、多くのリウマチ性および非リウマチ性の疾患を有する患者の血清ならびに非限定的な臨床的症候群を有する患者で検出される。ANAを検出する免疫学的なアッセイの使用のガイドラインに基づく証拠が利用可能である(Solomon D.H., Arthritis and Rheumatism 47 (2002) 434-444)。
【0038】
ANAは、例えばげっ歯類の腎臓もしくは肝臓の細胞、ヒト上皮-2(HEp-2)細胞を使用する免疫組織化学のような種々の方法、または酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)もしくは蛍光ベースの異種免疫アッセイのような異種免疫アッセイにより測定され得る。
【0039】
好ましい態様において、ANAは免疫組織化学法により測定される。
【0040】
近年、異種免疫アッセイ法によりANAの検出において大きな進歩がなされた。ここでは、例えば異なる特異性を持つ種々の抗核抗体について個々の高度に精製された抗原を含むので、ANA相当物を特異的に検出することが可能である。例えば、ここでは二本鎖DNAまたはSSA、SSB、Sm/RNP、セントロメア等と呼ばれる抗原に対する抗体が特異的に検出され得る。
【0041】
本発明のさらに好ましい態様において、ANA試験は、異種免疫アッセイ法により実施される。好ましくは、かかる試験に使用されるANA抗原は、少なくともSSA60、SSA52、SSB、Jo-1、Scl70、Sm/RNP、二本鎖DNAおよびセントロメアBペプチドに対する自己抗体の測定用抗原を含む。RAの異なる診断において、少なくとも一つの自己抗原SSA60、SSA52、SSB、Jo-1、Scl70、Sm/RNP、二本鎖DNAおよびセントロメアBペプチドに対する陽性の値はANA陽性であると見なされる。
【0042】
上記の自己抗原のいくつかを、ある程度詳細に以下に記載する。
【0043】
SSAまたはRo(SSA)抗原
Ro(SSA)抗原に対する自己抗体は、リウマチ性疾患における自己免疫の最も頻度の高い血清マーカーの1つである(Tan, E.M., Adv. Immunol. 44 (1989) 93-151; McCauliffe, D.P. およびSontheimer, R.D., J. Inv. Dermatol. 100 (1993) 73S-79S)。これはシェーグレン病(SS)の患者の50〜80%、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者の30〜40% 、および慢性関節リウマチの患者の3〜5%の血清中に存在する(Harley, J.B. et al., Arthritis Rheum. 29 (1986) 196-206; Reichlin, M., J. Clin. Immunol. 6 (1986) 339-348)。Ro(SSA)抗体はhY-RNAとして知られる小RNA分子に関連するタンパク質抗原を標的とする。これらのタンパク質-RNA複合体はRo-リボヌクレオプロテイン(Ro-RNP)と呼ばれ、その生物学的機能はまだ解明されていない。
【0044】
抗-Ro(SSA)陽性血清は、二種類の異なる自己抗体、60kDaポリペプチド成分に対するものおよび52kDaポリペプチド成分に対するもの(それぞれRo60およびRo52、またはSSA60およびSA52と呼ばれる)を含有し得る(Chan, E.K.L. およびBuyon, J.P., Man. Biol. Markers Dis. (Kluwer Acad. Publ.) (1994) B4.1/1-18)。Ro(SSA)陽性血清のほぼ大部分はこれらの両方の成分と反応するが、抗Ro60抗体はSLE血清においてのみ抗Ro52抗体を伴わずに生じることが報告されており(Ben-Chetrit, E. et al., Arthritis Rheum. 33 (1990) 349-355; Slobbe, R.L. et al., Clin. Exp. Immunol. 86 (1991) 99-105)、抗Ro52抗体は特発炎症性のミオパシー、皮膚筋炎および強皮症において抗Ro60抗体の非存在化で生じることが報告されている(Frank, M.B. et al., J. Autoimmun. 12 (1999) 137-142; Peene, I. et al., Ann. Rheum. Dis. 61 (2002) 1090-1094)。Ro52は三部分(tripartite)モチーフ(TRIM)ファミリーのタンパク質の一員である。TRIMモチーフは、3つの亜鉛結合ドメイン、RINGフィンガー、1型B-boxおよび2型B-box、ならびに中心コイルドコイル領域(ロイシンジッパー)を含む。TRIMタンパク質は、ホモ多重体化のプロセスを通じて特異的な細胞画分を認識すると考えられている(Reymond, A. et al., EMBO J. 20 (2001) 2140-2151)。
【0045】
SSBまたはLa(SSB)抗原
La(SSB)抗原に対する自己抗体は、一次または二次SSの患者の87%までの血清中で検出され得る。抗La(SSB)自己抗体の存在は、通常抗Ro(SSA)自己抗体の存在と同時に生じるが、抗Ro自己抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)および混合結合組織病(MCTD)などの他のリウマチ学的状態においてかなり頻繁に存在するという事実により、抗Laは抗Roよりも一次及び二次SSに特異的であるということが示唆される(St. Clair, E.W., Rheum. Dis. Clin. N. America 18 (1992) 359-376; Harley, J.B., J. Autoimmun. 2 (1989) 383-394)。La(SSB)抗原は、発生期(nascent)のRNAポリメラーゼIII転写物のオリゴ(U)3'末端に結合し、この酵素による転写終結及び再開を容易にする(Stefano, J.E., Cell 36 (1984) 145-154; Gottlieb, E. および Steitz, J.A., EMBO J. 8 (1989) 841-850)。RNA-DNAハイブリッドを解き得るATP依存性ヘリカーゼとして機能することが報告されている(Bachmann, M. et al., Cell 60 (1990) 85-93)。
【0046】
Jo1抗原
多発性筋炎および皮膚筋炎において最も良く見られる自己抗体は抗Jo-1であり、全筋炎患者の15〜20%および成人PM患者の約30%で生じる(Nishikai, M. およびReichlin, M., Arthritis Rheum. 23 (1980) 881-888; Targoff, I.N., Rheum. Dis. Clin. North Am. 18 (1992) 455-482)。Jo-1抗原は、1983年にMathewsおよびBernstein(Mathews, M.B.およびBernstein, R.M., Nature 304 (1983) 177-179)によって、タンパク質合成中にポリペプチド鎖に組み込まれてリボソームに輸送される前に、ヒスチジンが特異的なtRNAにカップリングすることを触媒する酵素であるヒスチジルtRNAシンテターゼ(HRS)であることが報告された。
【0047】
RNP/Sm抗原
RNPおよびSmと呼ばれるSnRNP(小核リボヌクレオプロテイン)自己抗原に対する自己抗体は、最初、全身性エリテマトーデス(SLE)患者の血清で検出された(Tan, E.M. およびKunkel, H.G., J. Immunol. 96 (1966) 464-471; Mattioli, M. およびReichlin, M., J. Immunol. 107 (1971) 1281-1290)。その後、抗RNP抗体は混合結合組織病(MCTD)患者の血清で発見された(Sharp, G.C. et al., Am. J. Med. 52 (1972) 148-159)。
【0048】
snRNPは、小核RNA分子に結合するいくつかのポリペプチドを構成する核粒子の集団である。最も多く存在するsnRNPは、プレmRNAスプライシングに関連する(Luehrmann, R. et al., Biochim. Biophys. Acta 1087 (1990) 265-292)。
【0049】
Scl70抗原
およそ20〜28%の強皮症患者はScl-70と呼ばれる核タンパク質に対する自己抗体を有する(Douvas, A.S. et al., J. Biol. Chem. 254 (1979) 10514-10522)。Scl-70抗原は、1986年にSheroらによって、超らせんDNA弛緩酵素トポイソメラーゼIであると同定された(Shero, J.H. et al., Science 231 (1986) 737-740)。
【0050】
二本鎖DNA(dsDNA)
二本鎖DNAに対する抗体は健常個体にはめったに見られず、全身性エリテマトーデス(SLE)の特徴であると見なされている。それらは通常、クリチジアルシリエ(Crithidia lucilliae)のDNA含有オルガネラに基づく蛍光アッセイ、放射免疫アッセイ(RIA)またはELISAによって測定される。未処理SLE患者の50〜90%が抗dsDNA抗体について陽性であると試験されたことが報告されている(Griesmacher, A. およびPeichl P., Clin. Chem. Lab. Med. 39 (2001) 189-208)。SLEの患者の臨床的な改善は、しばしば抗dsDNA抗体の減少または完全な消失に関連している。
【0051】
抗セントロメア抗体の検出のためのセントロメアBペプチド
抗セントロメア抗体(ACA)は、全身性硬化症の皮膚限定的(CREST)異型の患者の80〜90%で見られる。これらは染色体の限られた領域に指向する(Barland, P. およびLipstein, E., Am. J. Med. 100 (1996) 16S-23S)。組換えCENP-Bペプチドに基づくELISA法は、ACAの同定において免疫蛍光アッセイよりも感度が高いことが報告されている(Parveen, S., et al., J. Gasteroenterol. Hepatol. 10 (1995) 438-445)。
【0052】
上述される個々の自己抗体のほとんどは自己免疫患者の特異的な部分集団についてある程度示されているので、一つ以上の特異的ANAに対するかかる値は、好ましくは、RA以外のリウマチ性疾患の部分集団が従属する可能性のある評価アルゴリズムを示すために、該アルゴリズムに包含される。
【0053】
本発明によるさらに好ましい態様において、抗CCP抗体の試験およびANAの試験は、プロテインチップを使用することで一回のアッセイ手順で同じ試料で実施される。かかるプロテインチップ中で、抗CCPの測定用の抗原およびANAの測定用の種々の抗原は、個々の領域において固相支持体上にコートされ、試料中の自己抗体がその対応する自己抗原に結合し、結合した全ての自己抗体はUS 6,815,217に記載の通りに検出される。
【0054】
診断についての理想的なシナリオは、単一の事象またはプロセスが、例えば感染性の疾患におけるように、それぞれの疾患を引き起こす状態である。他の全ての場合において、特にRAの場合のように疾患の病因が完全には理解されない場合、正確な診断は非常に困難であり得る。従って、RAの診断について、一般的に多様な臨床的症候および生物マーカーが一緒に考慮される。いずれにしても、マーカーは個々に決定され得るか、または本発明の好ましい態様においてアレイ技術に基づいたチップもしくはビーズを用いることにより同時に測定され得る。従って、生物マーカーの濃度は、それぞれのマーカーについての個々のカットオフを用いて独立的に解釈されるか、または解釈のために組み合わせられる。
【0055】
本発明による方法において、少なくとも生物マーカー抗CCPおよびANAそれぞれの濃度が測定され、該マーカーの組合せがRAの有無に相関され、ここで、抗CCPおよびANAの測定に相関する好ましい様式において、抗CCPについて陽性で、ANAについて陰性である試料はRAであることを示す。抗CCPについて陽性で、ANAについて陰性であると試験される要件を満たす試料は、RAの患者由来のものである可能性が非常に高い。従って、二種類のマーカー抗CCPおよびANAの単なる組合せはRAについての陽性予測値を有意に改善する。
【0056】
この発見は、RAの種々の診断を改善するために使用され得る。当業者が知るように、例えばSLE、MCTDおよびRAなどの種々のリウマチ性疾患を区別することは非常に難しい。臨床性症候群および生物マーカーの両方に関して、患者はある程度の重複を有し得る。本発明は、医師が自己免疫疾患有することが疑われる患者をRAに罹患している可能性がある1つの集団に分類すること、即ちANAではなく抗CCPを有する患者を、明らかな診断を確立するためにさらなる診断測定を行う必要がある患者、つまり抗CCPおよびANAの両方について陽性であると試験された患者に分類することを補助し得る。
【0057】
当業者が理解し得るように、調査中の診断的疑問を改善するために、二つ以上のマーカーの測定法を使用する多くの方法がある。全く単純に、しかしながら、しばしば効果的なアプローチにおいて、調査された少なくとも一つのマーカーについて試料が陽性である場合、陽性の結果が仮定される。このことは、例えばエイズのような感染性の疾患の診断の場合であり得る。しかし、頻繁にマーカーの組み合わせは検証される。好ましくは、マーカーパネルのマーカー、例えば抗CCPおよびANAについての測定値は、数学的に組み合わされ、組み合わされた値は診断的疑問下に相関される。マーカー値は、本技術分野の数学的方法の任意の適切な状態により組み合わされ得る。マーカーの組み合わせと疾患を相関する周知の数学的方法には、識別分析(DA)(即ち、一次、二次、標準化DA)、Kernel法(即ちSVM)、ノンパラメトリック法(即ちk-Nearest-Neighbor Classifiers)、PLS(Partial Least Squares)、Tree-Based Methods(即ち論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング/バギング(Boosting/Bagging)法)、汎用直線モデル(即ちロジスティック回帰)、主成分ベース法(即ちSIMCA)、汎用付加モデル、ファジー理論ベース法、ニューラルネットワークおよび遺伝的アルゴリズムベース法などの方法を用いる。当業者は、本発明のマーカーの組み合わせを評価するための適切な方法の選択において何の問題も持たない。好ましくは、本発明のマーカーの組み合わせを、例えばRAの有無と相関することに用いられる方法は、DA(即ち一次、二次、標準化識別分析)、Kernel法(即ちSVM)、ノンパラメトリック法(即ちk-Nearest-Neighbor Classifiers)、PLS(Partial Least Squares)、Tree-Based Methods(即ち論理回帰、CARTランダムフォレスト法、ブースティング法)、または汎用直線モデル(即ちロジスティック回帰)から選ばれる。これらの統計的方法に関する詳細は、以下の参照、Ruczinski, I., et al., Logic regression, J. of Computational and Graphical Statistics, 12 (2003) 475-511; Friedman, J. H. , Regularized Discriminant Analysis, J. of the American Statistical Association, 84 (1989) 165-175; Hastie, T., et al., The Elements of Statistical Learning, Springer Series in Statistics (2001); Breiman, L., et al., Classification and regression trees, California, Wadsworth (1984); Breiman, L., Random Forests, Machine Learning 45 (2001) 5-32; Pepe, M. S., The Statistical Evaluation of Medical Tests for Classification and Prediction, Oxford Statistical Science Series, 28 (2003); ならびにDuda, R. O., et al., Pattern Classification, Wiley Interscience, 第2版 (2001)中に見られる。
【0058】
生物学的マーカーの潜在的な(underlying)組合せに対して最適な多変量カットオフ(cut-off)を使用し、状態Aを状態Bと、例えば、疾患状態を健常と区別することは、本発明の好ましい態様である。この型の解析では、マーカーは、もはや独立的ではなくマーカーパネルを形成する。抗CCPおよびANA の測定を組み合わせることで、健常対照と比べた場合、または同様に評価される他のリウマチ性疾患を有する患者と比べた場合のいずれかで、診断の精度、特に、RA陽性の予測値を有意に改善することが確立され得る。特に、後者の所見は、RA以外のリウマチ性疾患を有する患者が、全く異なる様式の処置を必要とし得るため非常に重要である。
【0059】
診断方法の精度は、その受信者動作特性(ROC)によって最もよく示される(特にZweig, M. H.およびCampbell, G., Clin. Chem. 39 (1993) 561-577参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって判定閾値を連続的に変えることにより得られる全ての感度/特異性の組のプロットである。
【0060】
実験室試験の臨床成績は、その診断の精度または被験体を臨床的に関連する亜群へと正確に分類する能力に依存している。診断の精度は、検査を受けた被験体の2つの異なる状態を正確に区別する試験の能力を評価するものである。かかる状態は、例えば健常と疾患または良性疾患対悪性疾患である。
【0061】
各場合において、ROCプロットは、判定閾値の全範囲で1−特異性に対して感度をプロットすることにより2つの分布間の重複を示す。Y軸上は感度、または真陽性の割合[(真陽性試験結果の数)/(真陽性の数+偽陰性試験結果の数)として定義される]である。これはまた、疾患または症状の存在下において陽性と称されている。それは罹患した亜群単独から算出される。X軸上は偽陽性の割合、すなわち1−特異性[(偽陽性結果の数)/(真陰性の数+偽陽性結果の数)として定義される]である。これは特異性の指標であり、罹患していない亜群単独から算出される。真陽性および偽陽性の割合は、2つの異なる亜群由来の試験結果を用いて全く別々に算出されるため、ROCプロットは試料中の疾患の罹患率から独立している。ROCプロット上の各点は、特定の判定閾値に対応する感度/1−特異性の組を表している。完全な区別を伴う試験は(結果の2つの分布に重複がない)、左上の角を通るROCプロットを有し、この場合、真陽性の割合は1.0または100%(完全な感度)であり、偽陽性の割合は0(完全な特異性)である。区別を伴わない試験の理論的プロット(2つの群の結果の分布が同一)は、左下の角から右上の角に向かって45度の斜め線となる。ほとんどのプロットはこれらの両極間に含まれる。(ROCプロットが45度の斜め線の下方に完全に含まれる場合、これは「陽性度(positivity)」についての基準を「より大きい」から「より少ない」に入れ換えることにより容易に修正される。逆も同じ)。定性的には、プロットが左上の角に近づくにしたがって、試験の全体的な精度は高くなる。
【0062】
実験室試験の診断の精度を定量化するためのある都合のよい最終目標は、単独の数によりその成績を表すことである。最も一般的な世界的尺度はROCプロットの下の面積である。慣例により、この面積は常に≧0.5である(もしそうでなければ、そうなるように決定基準を入れ換え得る)。数値は1.0(2群の試験値の完全な分離)と0.5(2群間の試験値に明らかな分布の差が無い)の間の範囲である。該面積は、該斜め線に最も近い点または90%特異性における感度などのプロットの特定の部分だけでなく、全プロットにも依存する。これは、ROCプロットが完全なもの(面積=1.0)にどれだけ近いかということの定量的で説明的な表現である。
【0063】
好ましい態様において、本発明は、試料中において少なくとも抗CCPおよび抗核抗体の濃度を測定し、測定された濃度を慢性関節リウマチの有無と相関させることにより、健常対照および/または他のリウマチ性疾患に苦しむ患者に対する慢性関節リウマチの診断の精度、特に陽性の予測値を改善するための方法であって、該改善により、抗CCP単独に基づく分類と比較すると、健常対照および/または他のリウマチ性疾患に苦しむ患者に対してより多くの患者がRAを患うと正確に分類される方法に関する。抗CCPおよびANAを含むRAマーカーパネルもまた、RAを患う患者の疾患の重症度の評価に使用され得る。
【0064】
当業者には認識されるように、RAの評価をさらに改善するため、1つ以上のさらなるバイオマーカーが使用され得る。RAの評価のためのマーカーのパネルの重要なマーカーとしての抗CCPおよびANAの使用のこの更なる可能性を示すため、添付の特許請求の範囲において用語「少なくとも」を使用した。換言すると、1つ以上のさらなるマーカーについて測定されたレベルが、RAの評価において抗CCPおよびANAの測定値と組み合わされ得る。
【0065】
抗CCPおよびANAと一緒に使用される1つ以上のさらなるマーカーは、RAマーカーパネル、すなわちRAの評価をさらに精密にするのに適切な一連のマーカーの一部とみなされ得る。RAマーカーパネルにおけるマーカーの総数は、好ましくは20未満のマーカー、より好ましくは15未満のマーカーであり、また、10未満のマーカーが好ましく、8以下のマーカーがさらにより好ましい。全部で3、4、5または6つのマーカーを含むRAマーカーパネルが好ましい。
【0066】
したがって、好ましい態様において、本発明は、試料において、抗CCP、抗核抗体の濃度、およびさらに1つ以上の他のマーカーの濃度を測定すること、ならびに抗CCP、ANAの濃度および1つ以上のさらなるマーカーの濃度を慢性関節リウマチの有無と相関させることを含む、生化学的マーカーによって慢性関節リウマチの有無をインビトロで評価するための方法に関する。
【0067】
抗CCPおよびANAの測定は、好ましくは、より大きな自己免疫試験パネルの一部である。かかるパネル試験は、好ましくは、抗CCP、ANAならびにCRP、SAA、IL-6、S100、オステオポンチン、RF、MMP-1、MMP-3、ヒアルロン酸、sCD14、新脈管形成マーカーおよび骨、軟骨または滑膜の代謝の産物からなる群より選択される少なくとも1つのさらなるマーカーを測定することを含む。
【0068】
好ましくは、1つ以上の他のマーカーは、血清アミロイドA(SAA)、C-反応性タンパク質(=CRP)、インターロイキン6(=IL-6)、S100、オステオポンチン、RF、マトリックスメタロプロテアーゼ1(=MMP-1)、マトリックスメタロプロテアーゼ3(=MMP-3)、ヒアルロン酸、sCD14、新脈管形成マーカーおよび骨、軟骨または滑膜の代謝の産物からなる群より選択される。
【0069】
血清アミロイドA(=SAA)は、11.7kDaの低分子量の急性期タンパク質である。それは主にIL-1、IL-6またはTNF-αの刺激に応答して肝臓により合成され、T細胞依存型免疫反応の調節に関与する。急性の事象が起こるとSAAの濃度は、1000倍にまで上昇し、1ミリグラム/ミリリットルに達する。それは嚢胞性線維症、腎移植片回復、外傷または感染症と同程度に多様な炎症の観察に用いられる(Mozes, G., et al., J. Trauma 29 (1989) 71-74)。慢性関節リウマチにおいて、ある場合にはCRPの代用品として用いられるが、SAAは依然広くは受け入れられていない(Chambers, R.E., et al., Ann. Rheum. Dis. 42 (1983) 665-667)。
【0070】
C反応性タンパク質(=CRP)は、宿主の防御に関与する21kDaのサブユニットを有したホモ5量体Ca2+結合急性期タンパク質である。CRPの合成はIL-6により、およびIL-1が肝臓の洞様血管内のクッパー細胞によるIL-6の合成の起因となり得るため間接的にIL-1により誘導される。健常集団の90%においてはCRPの通常の血漿濃度は<3μg/ml(30nM)であり、健常個体の99%において<10μg/ml(100nM)である。血漿CRP濃度は、例えば同種アッセイ形式またはELISAにより測定され得る。C反応性タンパク質は、全身性の炎症中に存在するマーカーである。
【0071】
インターロイキン-6(IL-6)は、造血に関与するものおよび自然免疫反応の活性化に関与するものに分類され得る、無数の生物活性を有する21kDaの分泌型タンパク質である。IL-6は急性期反応物であり、接着分子を含む様々なタンパク質の合成を刺激する。その主機能は、肝臓タンパク質の急性期の産生を仲介し、その合成はサイトカインIL-1およびTNF-αにより誘導される。IL-6は通常はマクロファージおよびTリンパ球により産生される。IL-6の通常の血清中濃度は<5pg/mlである。
【0072】
オステオポンチン(=OPN)は分泌型の、高度に酸化された、カルシウム結合型、リン酸化された糖タンパク質である。遊離または細胞外基質に結合している選択的スプライシング由来の三種類のイソフォームが公知である。32kDaペプチドの主鎖のRDGモチーフにより、OPNはavβ3等のインテグリンに結合し得る。それは本来骨マトリックスより精製されるのであるが、乳、尿、活性化T細胞、マクロファージ、線維芽細胞、平滑筋細胞、腎組織およびある腫瘍細胞を含む無数の体液および組織中に発現する。その発現は数個のサイトカイン、成長因子または炎症メディエーターに応じて刺激される。上昇したOPNの濃度は結核における敗血症、転移性の癌、大脳虚血、アテローム性動脈硬化斑、肉芽腫形成および多発性硬化症等の自己免疫疾患(Chabas, D., et al, Science 294 (2001) 1731-1735)またはRA(Petrow, P.K., et al, Arthritis Rheum. 43 (2000) 1597-1605)に関連する。
【0073】
リウマチ因子(=RF)は、免疫グロブリンG分子の定常Fc-領域に指向される自己抗体である(Waaler, E., Acta Pathol. Microbiol. Scand. 17 (1940) 172-188;Moore, T. L.および Dorner, R. N., Clin. Biochem. 26 (1993) 75-84)。RFは、ある程度の制限はあるが、現在、ARA基準に含まれる慢性関節リウマチの唯一の免疫学的マーカーである。RAの他に、これは、他の炎症性リウマチ疾患、非リウマチ疾患において、および60歳を超える健常人においてさえ見られる(Bartfeld, H., Ann. NY Acad. Sci. 168 (1969) 30-40)。RF自己抗体は、すべての免疫グロブリンクラスに属し、今日使用されているほとんどのアッセイでは、イソタイプIgM、IgGおよびIgAが区別されない。このようなRFアッセイ(全RFアッセイとも呼ばれる)では、主にIgMが測定されるが、IgGまたはIgAもまた、アッセイ形式および供給業者に応じて、ある程度含まれる(Bas, S., et al, Ann. Rheum. Dis. 61 (2002) 505-510)。ここ最近、RF-イソタイプIgGおよびIgAがRAの診断に注目されてきた。3種類のRF-イソタイプすべてが高められると、RFアッセイの診断値は改善されよう(Swedler, W., et al, J. Rheumatol 24 (1997) 1037-1044)。さらに、一部の予後値は、これらのRF-イソタイプのある特定のものに帰属する。特に、高濃度のIgA型RFは、重篤な疾患の進行の指標であることがわかった(Jorgensen, C., et al, Clin. Exp. Rheum. 14 (1996) 301-304)。本発明によるマーカーの組合せにおいて、マーカーRFは、RF測定の任意の形態のであり得、全RF、単一の特定のRF-イソタイプまたはRF-イソタイプの任意の組合せが挙げられる。
【0074】
マトリクスメタロプロテイナーゼ(=MMP)のファミリーは、細胞外マトリクスのほとんどすべての成分を分解する。したがって、MMPは、種々の型の癌だけでなく、RAにおける炎症性プロセスにも関連している。MMP-1およびMMP-3は、炎症性促進サイトカイン(IL-1またはTNF-αなど)によって刺激されると、線維芽細胞、骨芽細胞および内皮細胞によって産生される。一般的に、MMPは、血液循環中に不活性な前形態(pro-form)として見られ、本発明において使用するマーカーMMP-1およびMMP-3もまた、それぞれ、かかる不活性な前形態にも関連する。MMP-1およびMMP-3は、RA患者の滑液中で検出され、そのレベルは、抗TNF-α療法に対して応答性がある。本発明によるRAマーカーパネルに使用するのに最も好ましいメタロプロテアーゼはMMP-1である。
【0075】
前記メタロプロテイナーゼの代わりに、それらの対応するインヒビターを使用することも可能であり、このインヒビターは、集合的にマトリクスメタロプロテイナーゼの組織インヒビター(=TIMP)と呼ばれ、例えば、MMP-1およびMMP-3は、TIMP-1(MMPと1:1化学量論的複合体を形成する29.5 kDのシアロ糖タンパク質)によりインビボで不活化される。TIMP-1およびTIMP-2と軟骨の破壊との関係は、RAにおいて詳しく調べられた(Ishiguro, N., et al, Arthritis Rheum. 44 (2001) 2503-2511)。
【0076】
S100タンパク質は、常に増加しているCa2+結合性タンパク質の一ファミリーを構成し、これは、現在、20より多い構成要素を含む。S100タンパク質の生理学的に関連性のある構造はホモ二量体であるが、一部はまた、互いにヘテロ二量体を形成し得る(例えば、S100A8およびS100A9)。細胞内機能は、タンパク質リン酸化の調節、酵素活性の調節または細胞骨格の動力学の調節から、細胞増殖および分化における関与に及ぶ範囲にわたる。また、一部のS100タンパク質は細胞から放出されるので、細胞外機能、例えば、ニューロン生存、星状細胞増殖、アポトーシスの誘導および炎症プロセスの調節もまた記述されている。S100A8、S100A9、ヘテロ二量体S100A8/A9およびS100A12は炎症において見られるが、S100A8は慢性炎症に応答するのに対し、S100A9、S100A8/A9およびS100A12は急性炎症において増加する。S100A8、S100A9、S100A8/A9およびS100A12は、炎症成分を伴う異なる疾患、例えば、ある種の癌、同種腎移植片拒絶、大腸炎と関連しており、RAに対しては最も重要に関連している(Burmeister, G. および Gallacchi, G., Inflammopharmacology 3 (1995) 221-230;Foell, D., et al, Rheumathology 42 (2003) 1383-1389)。本発明によるRAマーカーパネルにおける使用のために好ましいS100マーカーは、S100A8、S100A9、S100A8/A9ヘテロ二量体およびS100A12である。
【0077】
CD14は、前単球、単球、マクロファージおよび活性化顆粒球の膜タンパク質であり、これらにおいて、リポ多糖のレセプターとしての機能を果たす。これは、細胞傷害性因子および免疫調節因子(反応性酸素(02)、腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン(IL-1、IL-6およびIL-8)ならびに血小板活性化因子(PAF)など)の分泌を誘導する。膜結合CD14が流出すると、IFNγまたはTNF-αなどの活性化または分化因子に応答して可溶性CD40 (=sCD14)が生成される。sCD14の生理学的機能はまだ完全に明らかではない。炎症プロセスおよび免疫プロセスがRAおよび他の自己免疫疾患と関与しているため、sCD14は、かかる疾患においても詳しく調べられた。抗CD14療法がRAの新たな治療の選択肢として評価されると、これまで高かったsCD14濃度が速やかに低下され、滑膜炎が低減された(Horneff, G., et al, Clin. Exp. Immunol. 91 (1993) 207-213)。
【0078】
グリコサミノグリカンヒアルロン酸は、関節の機能に必須の巨大分子の1つである。これは、線維芽細胞および他の特定の結合組織細胞によって合成される。ヒアルロン酸は、細胞外マトリクスの形成および細胞と細胞との接触に関与する。滑液中に高濃度で見られ、ここでは、水分の保持を担い、それにより関節の潤滑に寄与する。RAにおいて、ヒアルロン酸の合成は、炎症性メディエーターIL-1およびTNF-αによって刺激され、血清/血漿レベルの増大がもたらされる(Sawai, T.および Uzuki, M., Connective Tissue 33 (2001) 253-259)。
【0079】
慢性関節リウマチの特徴は、増殖性滑膜組織による関節の浸潤(パンヌスとしても知られる)である。パンヌスの主要部分は、血管からなり、成長している組織に栄養分を供給する。したがって、新脈管形成に関与する分子は、RAにおいても、RAマーカーとしてだけでなく治療用標的として詳しく調べられた(Brenchley, P.E.C., Clin. Exp. Immunol. 121 (2000) 426-429)。これらの中でも、血管内皮成長因子(=VEGF)は、より詳細に評価されている。VEGFは分泌糖タンパク質であり、スプライシングされて4種の異なるイソフォームになる。これらのイソフォームのうち2つは、容易に拡散し得るが、残りのイソフォームは、ヘパリンと強固に結合し、ほとんどは、プロテオグリカン含有ヘパリンと会合した状態で見られる。VEGFは、内皮細胞、単球および骨芽細胞に対してケモカインとして作用し、最終的に、新生血管形成および微小血管の透過性増大をもたらす。VEGFは、RA患者の滑液および血清において検出された(Lee, S.S., et al, Clin. Exp. Rheumathology 19 (2001) 321-324;Ballara, S., Arthritis Rheum. 44 (2001) 2055-2064)。好ましくは、脈管形成のマーカーはVEGFである。
【0080】
最も膨隆する(prominent)関節組織は、骨、軟骨および滑膜である。慢性関節リウマチは破壊性疾患であるため、これらの組織は最も影響を受ける。これらは、おそらく、RAの分野における潜在的な生物学的マーカーの供給源である。原則的には、これらのマーカーは、それぞれの組織の破壊だけでなく、調節されていない、および/または有効でない修復プロセスにも由来し得る。当業者には、骨、軟骨または滑膜の代謝のマーカーが、これらの組織の合成または破壊のいずれかに由来し得ることが理解されよう。骨、軟骨および/または滑膜代謝の種々のマーカーは、2種類の異なるタンパク質の群に大別(delineate)され得る。これらは、無数の型のコラーゲンまたは非コラーゲン性タンパク質のいずれかに由来する。非コラーゲン性タンパク質は、多くの場合、細胞外マトリクスの形成に関与する。これらのマーカーのいくつかは、3つのすべての組織において種々の量で見られ得る。
【0081】
骨および/または軟骨代謝のマーカーおよび産物には、骨および/または軟骨崩壊のマーカーと、骨および/または軟骨形成のマーカーの両方が含まれる。コラーゲン代謝に由来する好ましいマーカーは、以下のマーカーなどである。
【0082】
1.ピリジノリン(=PYD)、デオキシ-ピリジノリン(=DPD)およびGlc-Gal-PYD:ピリジノリン(=PYD)は、コラーゲン三重らせんの鎖を架橋することによりコラーゲンを安定化する。PYDの化学構造は非常に安定であり、血清および尿中にコラーゲン分解の最終生成物として見られ得る(Knott, L.および Bailey, A.J., Bone 22 (1998) 181-187)。これは、関節炎と関連している(Kaufmann, J., et al, Rheumatology 42 (2003) 314-320)。PYDは、軟骨から放出され、骨からはある程度しか放出されないが、その近縁種であるデオキシ-ピリジノリン(=DPD)はほとんどが骨に由来するため、関節破壊の軟骨関与をモニターする。3種類のマーカーはすべて関節炎と関連している(Kaufmann, supra)。グリコシル化形態Glc-Gal-PYDは、ほとんどが滑膜組織に見られる(Gineyts, E., et al, Rheumatology 40 (2001) 315-323)。
【0083】
2.架橋テロペプチド:CTX-I、CTX-II、NTX-IおよびLQ-エピトープは、それぞれ、コラーゲンI型またはII型のCまたはN末端のいずれかに由来する架橋テロペプチドであり、そのうち、β-CTX-Iはまた、β-CrossLaps(登録商標)として知られている(Bonde, M., et al, Clin. Chem. 40 (1994) 2022-2025)。I型コラーゲンカルボキシ末端テロペプチド(=ICTP)は、もともとはシアノブロミド(cyanobromide)切断によりI型コラーゲンから生成されたI型コラーゲンの断片およびマーカーをいう。
【0084】
3.コラーゲン由来の線状ペプチド:Cartilaps(登録商標)と呼ばれるアッセイにより、コラーゲンII型のC-末端領域に由来する線状ペプチドを測定する。
【0085】
4.修飾アミノ酸:コラーゲンは、コラーゲン分解のマーカーとして使用され得る、ヒドロキシプロリンおよびガラクトシルヒドロキシリシンなどの修飾アミノ酸を含む(Al-Dehaimi, A.W., et al, Clin. Chem. 45 (1999) 676-681)。
【0086】
5.コラーゲンネオエピトープ:Col2-3/4およびCIINは、コラゲナーゼによるコラーゲンII型の初期切断により生成されるネオエピトープである(Billinghurst, R.C., et al, J. Clin. Invest. 99 (1997) 1534-1545)。
【0087】
6.骨形式を反映するとみなされるコラーゲンマーカー:I型コラーゲンのN-末端およびC-末端プロペプチド(=PINPおよびPICP)は、それぞれ、合成中/合成後の前駆体ポリペプチド(プロコラーゲン)から切断(clip)され、骨形成のマーカーとみなされている。PIICPは、対応するコラーゲンII型由来プロペプチドであるが、PIIINPはコラーゲンIIIに由来する。
【0088】
好ましくは、骨および/または軟骨代謝のマーカーはまた、非コラーゲン性マーカー、例えば:CS846、これは、アグレカン合成中に生成されるコンドリオチン(chondriotin)硫酸エピトープである;軟骨オリゴマーマトリクスタンパク質(=COMP)、これは、軟骨において架橋機能を有する(Saxne, T.および Heinegard, D., Br. J. Rheumatol. 31 (1992) 583-591);軟骨中間層タンパク質(cartilage intermediate layer protein)(=CILP)、これは、軟骨のマトリクスタンパク質である(Lorenzo, P., et al, J. Biol. Chem. 273 (1998) 23463-23468);軟骨マトリクスタンパク質1〜3(マトリリンとしても知られる);コンドロモジュリン(chondromodulin)、これは、軟骨においてシグナル伝達分子として機能する(Suzuki, F., Connect. Tissue Res. 35 (1996) 303-307);軟骨由来レチノイン酸感受性タンパク質(=CD-RAP)またはMIA、これは、軟骨細胞モジュレーションにおける機能がまだ明確でない(Mueller-Ladner, U., et al, Rheumatology 38 (1999) 148-154);オステオカルシン、これは、骨芽細胞により合成され、骨の主要な非コラーゲンマトリクスタンパク質に属し、骨ターンオーバーをモニターするために使用される(Gundberg, C. M., et al, J. Clin. Ligand Assay 21 (1998) 128-138);および骨シアロタンパク質、これは、骨の主な非コラーゲンマトリクスタンパク質であり、例えば、骨シアロタンパク質II(現在、骨シアロタンパク質として知られている)は、例えば、骨ターンオーバーのマーカーとして評価されている(Saxne, T., et al, Arthritis Rheum. 38 (1995) 82-90)などであり得る。
【0089】
RAの評価においてマーカーとして使用され得る滑膜内での代謝の産物としては、CTX-III(これは、コラーゲンIII型由来テロペプチドである)、YKL40(後者は細胞外マトリクスのキチナーゼ3様タンパク質である)(Johansen, J. S., et al, Scand. J. Rheumatol. 30 (2001) 297-304)およびアグレカン(これは、プロテオグリカンおよびその分解生成物ケラタン硫酸のビルディングブロックである)が挙げられる。
【0090】
好ましくは、RAマーカーパネルは、少なくとも3種類のマーカーを含み、これは、抗CCPと、ANAと、CRP、IL-6、S100、オステオポンチン、RF、MMP-1、MMP-3、ヒアルロン酸およびコラーゲン代謝の産物からなる群より選択される第3のマーカーとを含む。
【0091】
RAの評価において、抗CCP、ANAおよびS100、特に、S100A12を含むマーカーパネルが好ましい。
【0092】
RAマーカーのさらに好ましいパネルは、抗CCP、ANAおよびヒアルロン酸を含む。
【0093】
先に詳述したように、(ARA基準を参照)、かなりの制限にもかかわらず、リウマチ因子(RF)は、現在、RA診断の確立を補助するための一般に認められた唯一の生化学的マーカーである。本発明のマーカーの組合せは、RAの診断をかなり改善し、RFアッセイを補完するであろうこと、または最終的にはこれに取って代わり得ることが明らかに期待される。少なくとも抗CCPおよびANAを含むマーカーパネルのRAの診断における使用は、したがって、本発明のさらに好ましい態様を表す。
【0094】
当業者には認識されるように、診断精度をさらに改善するため、または特異性を犠牲にして診断感度の増大が必要とされる場合(その逆も同様)、1種類以上のさらなるマーカーを使用し得る。一部の診断領域において、例えば、HIV感染の検出では、感度が最高に重要である。必要とされる高感度は、特異性を犠牲にして達成され得るが、偽陽性症例の増加を導く。他の場合において、例えば、単純な例として、血液型抗原を評価する場合、特異性が最高に重要である。
【0095】
さらに好ましい態様は、RAの診断におけるマーカーパネルの使用に関し、該パネルは、抗CCP、抗核抗体、ならびにSAA、CRP、IL-6、S100、オステオポンチン、RF、MMP-1、MMP-3、ヒアルロン酸、sCD14、脈管形成マーカーおよび骨、軟骨または滑膜の代謝の産物からなる群より選択される少なくとも1つのさらなるマーカーを含む。
【0096】
本発明の方法はまた、疾患の経過のモニターにおいても非常に役立ち得る。これは、患者試料中の抗CCPおよびANAならびに任意のさらなるマーカーを種々の時点で測定し、これらの異なる時点におけるマーカーの絶対および/または相対レベルを比較することにより、達成される。したがって、本発明による方法をRAの患者の疾患の経過をモニターするために使用することは、さらに好ましい。
【0097】
また、本発明がRAの任意の処置の効力の評価に非常に役立つことは、認識されよう。処置の効力は、マーカーレベルの変化に反映される。処置が所望の効果を有する場合、抗CCPまたはANAの2つのマーカーレベルの少なくとも一方は減少する。このように、本発明による方法は、処置の効力を評価するためにも好ましく使用される。同じ現象、すなわち、抗CCPまたはANAの少なくとも一方のマーカーレベルの低下は、RAにおいて、正しい薬物の選択および薬物の最も適切な投薬に容易に適用され得る。正しい薬物の選択および/または最も適切な投薬における本発明の方法の使用もまた好ましい。
【0098】
また、本発明の方法は、RAの領域における新規薬物の選択および同定を可能にする。この適用は、さらに好ましい態様を表す。
【0099】
また、臨床試験のために、および臨床試験において、抗CCPおよびANAのレベルが異なる患者の亜群を識別し、このマーカーレベルの差を試験下の薬物の効力と相関させることができるようになったことは、非常に好都合である。
【0100】
本発明はまた、抗CCPおよび抗核抗体をそれぞれ特異的に測定するのに必要な試薬を含む、本発明の方法を行なうためのキットに関する。該キットは、任意に、抗CCPおよびANA両方の測定を行なうための補助試薬を含み得る。
【0101】
以下の実施例は、本発明の理解を補助するために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載される。引用した文献の完全な開示は、参照により含まれる。本発明の精神から逸脱せずに、記載された手順において変形がなされ得ることを理解されたい。
【実施例】
【0102】
実施例1
免疫学的多パラメータチップ技術IMPACT − 一般手順
約2.5×6mmの表面積を有する黒色ポリスチレンチップを、ストレプトアビジン層で完全に被覆する。このストレプトアビジン表面上に、インクジェット技術を用いて同一の試薬スポットを直線状に(線1本および試薬1つあたり約20スポット)適用する。各スポットは、直径が約150μmであり、試料中で解析物(例えば、抗原または抗体)と特異的に結合し得るビオチン化された結合試薬を含む。
【0103】
各試料を試料希釈バッファーを用いて1:10に希釈し、40μlの希釈試料をチップごとに適用し、インキュベートする。自動プレプロトタイプ(pre-prototype)機器においてアッセイを行なう。
【0104】
希釈試料を6分間37℃でインキュベートする。このインキュベーション中、試料中に含まれる各解析物は、その特異的結合試薬に結合する。次いで、試料を吸引し、チップを洗浄バッファーを用いて洗浄する。その後、チップを3分間37℃で、ジゴキシゲニンを結合(digoxigenylate)し、ビオチン化された結合試薬を介してスポットに結合された解析物に特異的に結合する抗体-コンジュゲートとともにインキュベートする。さらなる洗浄工程後、蛍光標識された、ジゴキシンに対する抗体-コンジュゲートとともにチップを3分間37℃でインキュベートする。さらなる洗浄工程および余分な試薬の吸引後、蛍光標識を励起し、CCD-カメラによって光を検出し、光強度を解析物濃度に変換する。
【0105】
実施例2
抗CCPおよびANA測定のための特異的アッセイ
抗CCPの測定のため、WO 03/050542に開示されたCCP-ペプチドをビオチン化し、使用する。
【0106】
ANAの測定のため、個々のビオチン化された抗原、すなわち、SSA60、SSA52、SSB、Jo-1、Scl70、RNP、Sm;二本鎖DNA、動原体(centromer)Bペプチドなどの天然ANA抗原を使用する。試験でこれらの自己抗原の少なくとも1つについて陽性である場合、試料をANAについて陽性と記録する。
【0107】
試料を試料希釈バッファー 中で1:10に希釈し、40μlの希釈試料を6分間 37℃でインキュベートする。試料からの自己抗体はその特異的抗原に結合する。試料を吸引し、チップを洗浄バッファーを用いて洗浄する。その後、チップを3分間37℃で、ジゴキシゲニンを結合し、スポット中に位置する抗原に結合された試料からのヒトIgG抗体に特異的に結合する抗体-コンジュゲートとともにインキュベートする。さらなる洗浄工程後、蛍光標識された、ジゴキシンに対する抗体-コンジュゲートとともにチップを3分間37℃でインキュベートする。さらなる洗浄工程および余分な試薬の吸引後、蛍光標識を励起し、CCD-カメラによって光を検出し、光強度を解析物濃度に変換する。
【0108】
試料希釈バッファー:
50 mM Tris、pH7.6、
150 mM NaCl、
0.1% 洗剤(ポリドカノール)、
0.6% ウシ血清アルブミン(BSA)、
0.2% 保存料(オキシピリオン(Oxypyrion)+塩酸メチルイソチアゾール(MIT) 1:1)
【0109】
洗浄バッファー:
10 mM Tris pH 8.2、
0.01% ポリドカノール、
0.001% オキシピリオン、
0.001% MIT
【0110】
結果:
調査した患者の群に応じて、抗CCPについて陽性の試料の割合ならびに抗CCPおよびANAの両方について陽性の患者の割合は異なる。RAについて陽性の予測値(PPV)は、そのANA状態とは無関係に、試験で抗CCPについて陽性であったすべての患者のPPVと比べ、陽性の抗CCPおよび陰性のANAを有する患者の亜群のPPVで改善され得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 試料中の抗CCPおよび抗核抗体(ANA)の両方を測定する工程、ならびに
b) 工程a)で測定された濃度を慢性関節リウマチの診断と相関させる工程
を含む、生化学的マーカーによる慢性関節リウマチのインビトロでの診断を補助する方法。
【請求項2】
工程a)で測定された濃度を用い、抗CCPについて陽性でありANAについて陰性である試料を同定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記診断がRAの鑑別診断である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
CRP、SAA、IL-6、S100、オステオポンチン、RF、MMP-1、MMP-3、ヒアルロン酸、sCD14、新脈管形成マーカーおよび骨、軟骨または滑膜の代謝の産物からなる群より選択される少なくとも1つのさらなるマーカーの測定をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
RAの診断における、少なくとも抗CCPおよびANAを含むマーカーパネルの使用。
【請求項6】
抗CCPおよびANAをそれぞれ特異的に測定するのに必要な試薬ならびに、任意に、測定を行なうための補助試薬を含む、請求項1記載の方法を行なうためのキット。


【公表番号】特表2009−510464(P2009−510464A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533924(P2008−533924)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009584
【国際公開番号】WO2007/039280
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT