説明

懸濁粒子装置,懸濁粒子装置を用いた調光装置及びそれらの駆動方法

【課題】透過状態の保持と均一な光学変調動作を両立する懸濁粒子装置を提供する。
【解決手段】第一の基板および第二の基板と、の基板および第二の基板の間に配置された第一の電極,第二の電極,第三の電極および懸濁液と、を有する懸濁粒子装置であって、第一の基板上に第一の電極が形成され、第二の基板上に第二の電極および第三の電極が形成され、懸濁液は、光調整粒子および分散媒を含み、光調整粒子は帯電されており、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上により交流電圧が印加されることで光調整粒子の配向状態が制御され、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上により直流電圧が印加されることで光調整粒子が懸濁液中に分散する、または、第三の電極に偏在することを特徴とする懸濁粒子装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁粒子装置と懸濁粒子装置を用いた調光装置及びそれらの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1には次のような技術が開示されている。少なくとも一方は透明な基板間に、微粒子が分散された分散系が挟まれてセルを構成しており、該微粒子を電界で移動させて、該セルの基板に垂直方向の光透過性ないし光反射性を変化させる表示装置において、電界を印加するために設けられた駆動電極と共通電極の電極間ピッチpが5μ〜100μ、セル厚dがpの0.2〜1.5倍、駆動電極の電極面積率を20%以下とすることによって高透過率,高コントラスト,低電圧駆動のモノクロおよびカラー表示が薄型,軽量,高速で可能となり、超高精細の光変調素子,ポータブル機器用表示,電子ペーパ,大型モニター,大型TV,超大型の公衆ディスプレイなど多方面への適用が可能となった。
【0003】
以下の特許文献2には次のような技術が開示されている。エチレン性不飽和結合を有する樹脂及び光重合開始剤を含むエネルギー線硬化可能な高分子媒体と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液の液滴とを含有する調光材料であって、光調整懸濁液中の分散媒が高分子媒体及びその硬化物と相分離しうるものであり、エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合濃度が0.3モル/kg〜0.5モル/kgである調光材料。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−209953号公報
【特許文献2】特開2008−158040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、少なくとも一方は透明な基板間に、帯電した微粒子が透明な液体またはガス媒体中に分散された分散系が挟まれてセルを構成しており、該セル中の微粒子分散状態を該基板に垂直方向のセルの光学的遮蔽状態とし、該基板間に設けられた、共通電極と細線からなる駆動電極との間に電圧を印加して該微粒子を該基板に水平方向に移動させて該細線状駆動電極に堆積させて、分散状態の微粒子量を変調させることによって該セルの光学的遮蔽状態、即ち透過率を変調している。そのため、光学的遮蔽状態を変調する際に、該セル内において該微粒子が堆積した電極部分とその他の光学変調部分とでの該微粒子量の差異により、該セル内での光学的遮蔽状態の均一性が低くなる場合がある。更に、光学的遮蔽状態の均一性向上のため、該細線状駆動電極を微細化する場合、電極形成方法の高コスト化や、断線,電極の不均一性による動作不良といった課題が生じる場合がある。
【0006】
また、特許文献1では該微粒子を該基板に水平方向に移動させることで該セルの光学的遮蔽状態を変調しているが、高透過光量を得る駆動を実現するため電極間距離を長くした場合には、変調動作の応答性が悪化する。
【0007】
従来の懸濁粒子装置では、透過状態の保持と均一な光学変調動作を両立することが困難であった。本発明は、透過状態で懸濁粒子装置を停止及び保持させることと、懸濁粒子装置の光学動作部内で均一な光学特性を得ることを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)第一の基板および第二の基板と、第一の基板および第二の基板の間に配置された第一の電極,第二の電極,第三の電極および懸濁液と、を有する懸濁粒子装置であって、第一の基板上に第一の電極が形成され、第二の基板上に第二の電極および第三の電極が形成され、懸濁液は、光調整粒子および分散媒を含み、光調整粒子は帯電されており、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上に交流電圧が印加されることで光調整粒子の配向状態が制御され、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上に直流電圧が印加されることで光調整粒子が懸濁液中に分散する、または、第三の電極に偏在する懸濁粒子装置。
(2)上記において、第三の電極の短軸方向の幅は、第二の電極の短軸方向の幅より小さい懸濁粒子装置。
(3)上記において、光調整粒子は、光学的異方性を有し、光調整粒子は、棒状であり、光調整粒子のアスペクト比は、5以上30以下であり、光調整粒子は、ポリ過ヨウ化物,ポリマー,炭素系材料,金属材料または無機化合物のいずれか一つ以上である懸濁粒子装置。
(4)上記において、光調整粒子は、負に帯電しており、第三の電極の電位を第一の電極の電位および第二の電極の電位より大きくすることで、光調整粒子は第三の電極に偏在し、第一の電極の電位を第三の電極の電位より大きくすることで、第三の電極に偏在していた光調整粒子は懸濁液中に分散する懸濁粒子装置。
(5)上記において、懸濁液に帯電制御剤が添加され、帯電制御剤は脂肪酸の金属塩である懸濁粒子装置。
(6)上記において、光調整粒子が第三の電極に偏在している時に、第三の電極に所定の間隔で直流電圧が印加される懸濁粒子装置。
(7)上記において、光調整粒子が第三の電極に偏在している時に、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上に交流電圧が印加されることで、第三の電極に偏在していた粒子は分散媒中に分散する懸濁粒子装置。
(8)上記において、第三の電極を覆う誘電体層を有する懸濁粒子装置。
(9)上記において、第三の電極上において、誘電体層に開口部が設けられ、光調整粒子は、誘電体層の開口部に偏在する懸濁粒子装置。
(10)上記において、誘電体層の上に第二の電極が形成され、第三の電極上において、第二の電極に開口部が設けられ、光調整粒子は、第二の電極の開口部に偏在する懸濁粒子装置。
(11)上記において、第一の基板および第二の基板の間に複数の隔壁が形成され、複数の隔壁で区切られた空間毎に第二の電極および第三の電極が設けられる懸濁粒子装置。
(12)上記において、第二の電極および第三の電極はストライプ状に形成され、第二の電極および第三の電極の間に交流電圧が印加されることで光調整粒子の配向状態が制御される懸濁粒子装置。
(13)上記において、第二の電極および第三の電極の間に交流電圧が印加されているときに懸濁液に入射する光は光調整粒子によって偏光される懸濁粒子装置。
(14)上記において、懸濁粒子装置を制御する駆動装置と、を有する調光装置。
(15)第一の基板および第二の基板と、第一の基板および第二の基板の間に配置された第一の電極,第二の電極,第三の電極および懸濁液と、を有する懸濁粒子装置の駆動方法であって、第一の基板上に第一の電極が形成され、第二の基板上に第二の電極および第三の電極が形成され、懸濁液は、光調整粒子および分散媒を含み、光調整粒子は帯電されており、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上に交流電圧が印加されることで光調整粒子の配向状態が制御され、第一の電極,第二の電極および第三の電極のいずれか一つ以上に直流電圧が印加されることで光調整粒子が懸濁液中に分散する、または、第三の電極に偏在する懸濁粒子装置の駆動方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、透過状態で懸濁粒子装置を停止及び保持させることと、懸濁粒子装置の光学動作部内で均一な光学特性を得ることを両立させることができる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2(a)】図1の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図2(b)】図1の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図3】一実施形態の懸濁粒子装置を用いた調光装置の構成を示す説明図である。
【図4】一実施形態の懸濁粒子装置における駆動方法の構成の説明図である。
【図5(a)】図1及び図2の懸濁粒子装置において、遮光状態での光調整粒子の状態と入射光の光路の説明図である。
【図5(b)】図1及び図2の懸濁粒子装置において、調光状態での光調整粒子の状態と入射光の光路の説明図である。
【図5(c)】図1及び図2の懸濁粒子装置において、透過保持状態での光調整粒子の状態と入射光の光路の説明図である。
【図6(a)】一実施形態の調光装置において、遮光状態から調光状態及び調光状態から遮光状態に制御する駆動波形の説明図である。
【図6(b)】一実施形態の調光装置において、遮光状態及び調光状態から透過保持状態に制御する駆動波形の説明図である。
【図6(c)】一実施形態の調光装置において、透過保持状態から遮光状態及び調光状態に制御する駆動波形の説明図である。
【図7】一実施形態の懸濁粒子装置と補助電源を用いた調光装置の構成を示す説明図である。
【図8】図1及び図2の懸濁粒子装置及び図7の調光装置において、遮光状態及び調光状態から透過保持状態に制御する駆動波形の説明図である。
【図9】一実施形態の調光装置において、透過保持状態から遮光状態及び調光状態に制御する駆動波形の説明図である。
【図10】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図11(a)】図10の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図11(b)】図10の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図11(c)】図10の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図12】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図13(a)】図12の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図13(b)】図12の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図13(c)】図12の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図14】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図15(a)】図14の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図15(b)】図14の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図15(c)】図14の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図16】一実施形態の懸濁粒子装置を用いた調光装置の構成を示す説明図である。
【図17】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図18(a)】図17の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図18(b)】図17の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図18(c)】図17の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図19】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図20(a)】図19の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図20(b)】図19の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図20(c)】図19の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図21】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図22】図21の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図23(a)】図21及び図22の懸濁粒子装置において、遮光状態での光調整粒子の状態と入射光の光路を説明する断面図である。
【図23(b)】図21及び図22の懸濁粒子装置において、調光状態での光調整粒子の状態と入射光の光路を説明する断面図である。
【図23(c)】図21及び図22の懸濁粒子装置において、透過保持状態での光調整粒子の状態と入射光の光路を説明する断面図である。
【図24(a)】図21及び図22の懸濁粒子装置において、遮光状態での光調整粒子の状態を説明する上面構造図である。
【図24(b)】図21及び図22の懸濁粒子装置において、調光状態での光調整粒子の状態を説明する上面構造図である。
【図24(c)】図21及び図22の懸濁粒子装置において、透過保持状態での光調整粒子の状態を説明する上面構造図である。
【図25】図21及び図22の懸濁粒子装置及び図7の調光装置において、遮光状態及び調光状態から透過保持状態に制御する駆動波形の説明図である。
【図26】一実施形態の懸濁粒子装置の構成を示す分解斜視図である。
【図27】図26の懸濁粒子装置において、懸濁粒子装置の構成を示す断面図である。
【図28(a)】図26及び図27の懸濁粒子装置において、高遮光状態での光調整粒子の状態と入射光の光路を説明する断面図である。
【図28(b)】図26及び図27の懸濁粒子装置において、偏光状態での光調整粒子の状態と入射光の光路を説明する断面図である。
【図29】図1及び図2の懸濁粒子装置において、遮光状態及び調光状態での交流電圧VON=0Vから100Vの透過率変化に対する透過変動率ΔTのグラフである。
【図30】図1及び図2の懸濁粒子装置において、図29での交流電圧VON=0Vから100Vの透過率変化を基にして、Z電極8に直流電圧VC1を0Vから50V印加した時での透過率変化に関する透過変動率ΔTのグラフである。
【図31】図1及び図2の懸濁粒子装置において、交流電圧VON=0Vから100Vの透過率変化を基にして、図6の駆動波形を用いて、遮光状態,調光状態,透過保持状態に駆動させた時の透過率変化に関する透過変動率ΔTのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に具体的な実施例を示して、本願発明の内容を詳細に説明する。以下の実施例は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、実施例を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例1】
【0012】
(SPD)
本実施例の理解を容易にするために、本発明者らが検討したSPDの基本構造などについて説明する。懸濁粒子装置(SPD)1は、A板2,B板3および光調整粒子10と分散媒11からなる懸濁液9を含む。なお、本実施例において対向に配置されてSPD1を構成する2つの基板の「A板2」と「B板3」は、X電極6が配設される基板をA板2、Y電極7とZ電極8が配設される基板をB板3としている。図1は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図2(a)および図2(b)は図1に示す切断線AA′における組み立て後のSPD1に関するx−z平面の断面図である。図1においてY電極7でZ電極8を挟持、または、Z電極8でY電極7を挟持する方向をX軸方向とする。図1では、Y電極7,Z電極8の短軸方向をX軸方向としている。A板2とB板3の間には懸濁液9が挟持されている。本実施例のSPD1は、SPD1に対してZ軸方向の入射光を調光する。
【0013】
まず、導電性基材およびその形成方法について説明する。A板2とB板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるA基板4およびB基板5上に、酸化インジウムスズ(ITO)からなる透明電極のX電極6,Y電極7,Z電極8がそれぞれ形成される。A基板4上にはX電極6が一面に形成される。X電極6をYZ電極対12のようにストライプ状に配設しても構わない。X電極6を一面に形成することで、パターニングによる複雑さを簡素化できる。B基板5上にはY電極7とY電極7よりもx軸方向の幅が狭いZ電極8が形成される。つまり、A板2およびB板3の間に懸濁液9が挟持されている。なお、本実施例でのZ電極8のx軸方向の幅は、好ましくは後で示す透過保持状態での透過率を上昇させるため10μm以上100μm以下であり、さらに好ましくはZ電極8の視認性を低下させるため10μm以上50μm以下である。一方、本実施例でのY電極7のx軸方向の幅は、5μm以上1000μm以下、図2(b)のようにカプセル状の調光層27が大きくなった場合を考慮して好ましくは10μm以上1000μm以下であり、懸濁液9及び分散媒11の抵抗、粘度と光調整粒子10の濃度にもよるが、後に示す駆動方法を実現するには、5μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上300μm以下である。本実施例では、Z電極8のx軸方向の幅を10μm、Y電極7のx軸方向の幅を50μmとしている。また、Y電極7とZ電極8の間隔は後で示す調光状態での光調整粒子10の制御可能な領域を広く得るため、本実施例では10μmとしている。従って、本実施例でのx軸方向のY電極7の幅,Z電極8の幅,Y電極7とZ電極8の間隔の比は、1:5:1である。
【0014】
透明な支持基材はポリエチレンテレフタレート(PET),ポリカーボネート(PC),シクロオレフィンポリマー(COP)等の樹脂フィルムであっても構わない。X電極6,Y電極7及びZ電極8は酸化インジウム亜鉛(IZO),酸化スズ,酸化亜鉛やカーボンナノチューブ,グラフェン等の透明導電体で形成しても構わない。Z電極8は、クロム,銅,アルミニウム,銀等の金属及び合金の単層膜、または積層膜で形成したり、銅や銅合金などの金属の極細線を配設しても構わない。なお、本実施例ではX電極6を支持基材上に一面に形成し、Y電極7とZ電極8で構成されるYZ電極対12をストライプ状に配設しているが、これに限らず円などの模様や文字型の形状に合わせて配設しても構わない。
【0015】
次に、A板2とB板3を対向に配置し、両板端部(図示しない)の対辺にスペーサービーズ等を含む封着剤を塗布して両板を接着する。これにより、両板間の距離が25μmである懸濁液9の懸濁液充填空間が形成される。なお、懸濁液充填空間及び両板間の距離は3μm以上100μm以下であり、また、スペーサービーズをA板2とB板3との間に散布し、懸濁液充填空間を維持しても構わない。スペーサービーズとしては、ガラスやポリマーなどが挙げられ、接着剤に対して安定であることが望ましい。また、スペーサービーズをA板2とB板3との間に散布する場合、スペーサービーズの屈折率は分散媒11の屈折率と近い方が好ましい。
【0016】
懸濁液9およびその形成方法について説明する。懸濁液9は光調整粒子10と分散媒11を含む。分散媒11中に光調整粒子10が分散されている。
【0017】
光調整粒子10は、例えば、ポリ過ヨウ化物であり、形状に異方性があり、配向方向に起因して吸光度の異なる光学的異方性を発現し、アスペクト比が1ではない形状をしており、負に帯電している。懸濁粒子装置1の駆動期間における交流電圧の周波数及びその周波数以下の周波数において、光調整粒子10が配向分極を生じることが望ましい。その場合、光調整粒子10として導電性の低い誘電体材料を用いることが望ましい。導電性の低い誘電体材料としてはポリマー粒子,ポリマーでコートした粒子などが挙げられる。光調整粒子10として、棒状や板状などが挙げられる。光調整粒子10を棒状とすることで、電界に対する光調整粒子10の回転運動の抵抗や透過時のヘイズの上昇を抑制できる。光調整粒子10のアスペクト比は例えば、5以上30以下程度が望ましい。光調整粒子10のアスペクト比を5以上、好ましくは10以上とすることにより、光調整粒子10の形状に起因するような光学的異方性を発現できる。
【0018】
光調整粒子10の大きさは1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.6μm以下であることがさらに好ましい。光調整粒子10の大きさが1μmを超える場合には、光散乱が生じたり、電界が印加された場合に分散媒11中での配向運動が低下したりするなど、光学特性や駆動特性が低下する問題が発生することがある。なお、光調整粒子10の大きさは、電子顕微鏡観察等により計測される。
【0019】
光調整粒子10としては、カーボンブラックなどの炭素系材料、銅,ニッケル,鉄,コバルト,クロム,チタン,アルミニウムなどの金属材料、窒化ケイ素,窒化チタン,酸化アルミニウムなどの無機化合物からなる粒子が挙げられ、これらが正または負に帯電している。なお、カーボンブラック,金属等は、自身が特定の電荷を持って帯電しているのではなく、特定の電荷に帯電する性質を持ったポリマーでコートした粒子であっても構わない。
【0020】
本実施例では、懸濁液9中の光調整粒子10の濃度を1.0wt%としている。なお、光調整粒子10の濃度は、他の光調整粒子10との相互作用により回転運動,分散,凝集及び偏在動作が妨げられない濃度であり、0.1wt%以上20wt%以下であることが好ましい。0.1wt%より小さいと、遮光時の低透過率を実現するために長ギャップのセルを作製する必要があり、電界強度低下により電圧が高くなる可能性がある。
【0021】
分散媒11は、アクリル酸エステルオリゴマーからなる液状共重合体である。分散媒11として、他にポリシロキサン(シリコーンオイル)などが挙げられる。なお、分散媒11としては、光調整粒子10が浮遊可能な粘度であり、高抵抗で、A基板4,B基板5及び各電極とは親和性がなく、A基板4およびB基板5と屈折率が近く、光調整粒子10と誘電率が異なる液状共重合体を使用することが好ましい。具体的には、298Kにおいて、分散媒11の抵抗率が1012Ωm以上1015Ωm以下であることが望ましい。分散媒11と光調整粒子10に誘電率差があると、後に記す光調整粒子10の配向動作において交流電界下における駆動力として作用させることができる。本実施例では、分散媒11の比誘電率は3.5以上5.0以下としている。
【0022】
懸濁液充填空間には、封着剤で接着していない両板端部から毛細管現象により懸濁液9が充填される。A板2とB板3との間に懸濁液9を充填後、接着していない両板端部を封着剤で接着して封止する。これにより、懸濁液9は外気から隔離される。なお、本実施例では毛細管現象により懸濁液9を充填したが、懸濁液9をA板2とB板3を接着する前にバーコート法や真空下での滴下注入法(ODF)法などで塗布し、その後にA板2とB板3を貼り合わせて接着と封止をしても構わない。
【0023】
図2(b)を用いて本実施例における懸濁粒子装置(SPD)1の構造について説明する。図2(a)と異なる点について詳細に説明する。懸濁粒子装置(SPD)1に調光層27が含まれている。
【0024】
図2(b)において、調光層27はカプセル状であり、調光層27は懸濁液9と樹脂マトリックス28とを含む。調光層27の厚みは、5μm以上1,000μm以下が好ましく、20μm以上100μm以下がより好ましい。
【0025】
樹脂マトリックス28中に懸濁液9が分散されている。樹脂マトリックス28中に分散されている懸濁液9の大きさ(平均液滴径)は、通常0.5μm以上100μm以下、好ましくは0.5μm以上20μm以下、より好ましいは1μm以上5μm以下である。
【0026】
光調整粒子10が1重量%以上70重量%以下及び分散媒10が30重量%以上99重量%以下からなることが好ましく、光調整粒子10が4重量%以上50重量%以下及び分散媒11が50重量%以上96重量%以下からなることがより好ましい。
【0027】
樹脂マトリックス28は、加熱や感光により硬化する高分子であり、フィルム化におけるA基板4,B基板5および懸濁液9を保持し、X電極6,Y電極7およびZ電極8の間を絶縁する。硬化する高分子媒体としては、例えば、重合開始剤及び高分子化合物シリコーン樹脂を含む液状の高分子組成物が挙げられる。シリコーン樹脂は、例えば、両末端シラノールポリジメチルシロキサン,両末端シラノールポリジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー,両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン等の両末端シラノールシロキサンポリマー,トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン,(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物などを、2−エチルヘキサン錫等の有機錫系触媒の存在下で、脱水素縮合反応及び脱アルコール反応させて合成される。シリコーン樹脂の形態としては、無溶剤型が好ましく用いられる。すなわち、シリコーン樹脂の合成に溶剤を用いた場合には、合成反応後に溶剤を除去することが好ましい。
【0028】
樹脂マトリックス28の屈折率と分散媒11の屈折率は近い方が好ましい。具体的には、樹脂マトリックス28の屈折率と分散媒11の屈折率との差が0.002以下であることが望ましい。これにより、調光層27内での樹脂マトリックス28と分散媒11の散乱を抑制できる。分散媒11としては、電気導電性がなく、樹脂マトリックス28とは親和性がない液状共重合体を使用することが好ましい。具体的には、フルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーが好ましく、フルオロ基及び水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーがより好ましい。このような共重合体を使用すると、フルオロ基,水酸基のどちらか1つのモノマー単位は光調整粒子10に向き、残りのモノマー単位は樹脂マトリックス28中で懸濁液9が安定に維持するために働くことから、懸濁液9内に光調整粒子10が非常に均質に分散され、相分離の際に光調整粒子10が相分離される懸濁液9内に誘導される。
【0029】
調光層27の形成方法について説明する。まず、懸濁液9と高分子化合物を混合し、高分子化合物中に懸濁液9が液滴状態で分散した混合液を作製する。この混合液をA基板4またはB基板5の一方の基板の電極上に一定の厚さで塗布し、必要に応じて混合液中に含まれる溶剤を乾燥除去する。その後、もう一方の基板にある電極が塗布した混合液に接するように、もう一方の基板を一方の基板に重ねて密着させる。
【0030】
塗布する際は、必要に応じて、適当な溶剤で希釈してもよい。溶剤を用いた場合には、A基板4またはB基板5の上に塗布した後に乾燥を要する。溶剤としては、テトラヒドロフラン,トルエン,ヘプタン,シクロヘキサン,エチルアセテート,エタノール,メタノール,酢酸イソアミル,酢酸ヘキシル等を用いることができる。液状の懸濁液9が、樹脂マトリックス28中に微細な液滴形態で分散されている調光フィルムを形成するためには、本実施例の調光材料をホモジナイザー,超音波ホモジナイザー等で混合して樹脂マトリックス28中に懸濁液9を微細に分散させる方法、樹脂マトリックス28中のシリコーン樹脂成分の重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用することができる。
【0031】
(調光装置)
図3は、SPD1を備えた調光装置13の構成を示す説明図である。調光装置13は、SPD1と駆動装置14を備えている。駆動装置14は、SPD1のX電極6を駆動するためのX電極出力回路15と、Y電極7を駆動するためのY電極出力回路16、Z電極8を駆動するためのZ電極出力回路17と、これらの出力回路を制御する駆動制御回路18と、調光領域や調光状態及び光調整粒子10の分散状態を制御する入力信号の処理を行う信号処理回路19と、SPD1及び各回路に電圧を印加する駆動電源20で構成されている。SPD1端部において、SPD1の各電極と駆動装置14の各電極出力回路は相互接続素子21を介して接続される。相互接続素子21としては、導電性ゴム(ラバーコネクタ),フレキシブル配線基板(FPC),テープキャリアパッケージ(TCP),導電性テープなどが挙げられる。相互接続素子21と各電極及び各電極出力回路は挟持して樹脂やクリップ等の固定具で固定、または金属ペースト,異方性導電ペースト,異方性導電フィルム(ACF)などの導電性接着剤で導電部分が接着されることで結線される。
【0032】
なお、各電極出力回路及びその他の駆動装置14を構成する回路素子が相互接続素子21であるフレキシブル配線基板上に形成されていても構わない。また、調光装置13が入射光や温度などに関する外部環境情報信号を信号処理回路19へ入力する外部信号入力装置も備えていても構わない。また、例えば、突発的な事故に対する構成故障などに関する故障情報信号を信号処理回路19へ入力する故障自己診断装置を備えていても構わない。
【0033】
本実施例の調光装置13は、例えば、室内外の仕切り(パーティッション),建築物用の窓硝子/天窓,電子産業および映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品,光シャッター,各種室内外広告および案内標示板,航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子,自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ,眼鏡,サングラス,サンバイザー,撮像素子等の用途に好適に使用することができる。適用法としては、本実施例の調光装置13を直接使用することも可能であるが、用途によっては、例えば、本実施例の調光装置13を2枚の基材に挟持させて使用したり、基材の片面に貼り付けて使用したりしてもよい。前記基材としては、上記A基板4およびB基板5と同様に、例えば、ガラス,高分子フィルム等を使用することができる。
【0034】
(SPD駆動方法)
本実施例の駆動方法について説明する。図4は本実施例で検討した駆動方法の駆動状態に対する構成図(フロー)である。図5は図2と同様にx−z平面での断面における各駆動状態での光調整粒子10の状態であり、図6は駆動状態を変更するための駆動波形である。図4のフローに従って、本実施例の駆動波形と各駆動状態について以下で説明する。
【0035】
最初に、図4(i)の遮光(透過光吸収)状態から調光(透過光変調)状態、(ii)の調光状態から遮光状態とするときの駆動方法について示す。図5(a)はSPD1の遮光状態、図5(b)はSPD1の調光状態である。
【0036】
遮光状態では、図5(a)のように光調整粒子10が懸濁液9内でほぼ均一に分散し、光調整粒子10の配向状態はブラウン運動により無秩序状態(ランダム)であり、SPD1へ入射した光は吸収,散乱されるため、入射光30は透過することができず遮光される。
【0037】
図6(a)は、遮光状態にあるSPD1に対して、駆動状態を図4(i)の遮光状態から調光状態と図4(ii)の調光状態から遮光状態とするための駆動波形である。遮光状態から調光状態では、X電極6に周波数fON,電圧VONの交流電圧信号を印加する。なお、本実施例では交流電圧信号波形を正弦波としたが、矩形波(方形波)や三角波からなる交流波形であっても構わない。更に、1/2周期で極性の異なる交流波形をX電極6,Y電極7及びZ電極8の各々に同時に印加しても構わない。X電極6,Y電極7及びZ電極8の各々に同時に印加することにより、Y電極7及びZ電極8への印加電圧を等電位に駆動できる。1/2周期で極性の異なる交流波形をX電極6,Y電極7及びZ電極8の各々に同時に印加することにより、耐圧性の低い回路素子を使用できる。
【0038】
この駆動波形により、光調整粒子10は懸濁液9内でほぼ均一に分散した状態で、誘電分極等により電界方向に沿うように印加電圧VONに応じて図5(b)のように配向する。本実施例のように、入射光30と電界及び粒子配向方向が同じであれば、入射光30は光調整粒子10の配向度合いに応じて懸濁液9からの透過光31の透過光量が変化し、SPD1の透過率Tを変調することができる。本実施例では、SPD1の透過率が上昇する状態を開の状態であるとしている。
【0039】
ONは、光調整粒子10が分散媒11内で凝集等せずに一様に配向動作可能で配向状態を維持できる周波数範囲であり、光調整粒子10の濃度,誘電率,形状,分散媒11との親和性等、分散媒11の粘度等で決定され、好ましくは1000Hz以下である。また、fONは臨界融合周波数(CFF;Critical Flicker Frequency)以上であることが望ましく、16Hz以上1000Hz以下、望ましくは50Hz以上1000Hz以下である。なお、本実施例ではfON,VONを一定としたが、調光状態の開始時にfON,VONを変調させても構わない。
【0040】
調光状態から遮光状態では、調光状態時に印加していたX電極6への交流電圧信号を停止する。なお、本実施例ではfON,VONを一定としたが、調光状態の停止時にfON,VONを変調させても構わない。
【0041】
図29は、本実施例のSPD1について、周波数fONを50Hzとして交流電圧VON=0Vから100Vの透過率変化に対する透過変動率ΔTのグラフである。図29で示されるように、本実施例のSPD1は、VONが上昇すると透過率も上昇し、VONを制御することで所定の透過及び遮光状態に変調できる。
【0042】
次に、駆動前のSPD1の状態が遮光状態または調光状態として、図4(iii)及び(v)の遮光状態及び調光状態から透過保持状態への駆動方法について示す。図5(c)はSPD1の透過保持状態である。
【0043】
図6(b)は、図4(iii)及び(v)の遮光状態または調光状態(波線)から透過保持状態への駆動波形である。本実施例では、遮光状態及び調光状態から透過保持状態への駆動時に、Z電極8に直流電圧VC1を印加し、X電極6とZ電極8の電極間に直流電界を形成する。図6では、X電極6への交流電圧信号を停止させた後にZ電極8に直流電圧VC1を印加しているが、X電極6への交流電圧とZ電極8への直流電圧がオーバーラップしていても良い。なお、本実施例ではX電極6とZ電極8の電極間に直流電圧を印加して直流電界を形成したが、Z電極8が他の電極よりも高電位となるように、X電極6,Y電極7,Z電極8に所定の直流電圧を印加しても構わない。本実施例の光調整粒子10は負に帯電していることから、図5(c)に示すように、Z電極8がX電極6及びY電極7に対して高電位になると、遮光状態及び調光状態時に懸濁液9内でほぼ均一に分散していた光調整粒子10はZ電極8に凝集、もしくはZ電極8側に偏在する。このZ電極8への凝集及び偏在状態はVCの印加時間t1により制御される。t1は、VCとSPD1の構造や光調整粒子10の濃度,誘電率,形状,分散媒11との親和性等、分散媒11の粘度等に対して調整される。従って、X電極6とY電極7の交差部への入射光30は光調整粒子10により吸収,散乱されずに透過することができ、高透過光量を得ることができる。
【0044】
本実施例の光調整粒子10とZ電極8間に非静電的(分子間力等)及び静電的(鏡像力,電気二重層等)な相互作用により凝集状態を保持することが可能である。従って、VC1及びVC2を連続的に印加し続けなくて良い。なお、光調整粒子10とZ電極8間の前記相互作用が凝集状態を保持するのに不十分な場合、SPD1の懸濁液9に帯電制御剤を添加しても構わない。帯電制御剤としては、懸濁液9への添加により分散媒11,光調整粒子10,電極などの分解や呈色を引き起こさないことが好ましく、金属石鹸のステアリン酸,ラウリン酸,リシノール酸,オクチル酸などの脂肪酸の金属塩が挙げられる。
【0045】
図30は、本実施例のSPD1について、図29での周波数fONを50Hzとして交流電圧VON=0Vから100Vの透過率変化を基にして、Z電極8に直流電圧VC1を0Vから50V印加した時での透過率変化に関する透過変動率ΔTのグラフである。図30で示されるように、本実施例のSPD1は、VC1が上昇すると光調整粒子10のZ電極への凝集及び偏在に伴い透過光量が増大することで透過率が上昇し、VC1=50Vでは調光状態での最大透過率変化の80%程度と、高透過光量を得ることができる。また、VC1を制御することで所定の透過光量による透過保持状態を実現することができる。
【0046】
しかしながら、帯電制御剤添加でも不十分な場合には、Z電極8がX電極6及びY電極7よりも高電位となるように、Z電極8に所定の直流電圧VC2を図6(b)の破線のように印加しても構わない。帯電制御剤が添加されていない場合でも、Z電極8に直流電圧VC2印加しても構わない。なお、Z電極8への直流電圧VC2は凝集及び偏在を保持可能な電圧であり、VC2<VC1の関係にある。
【0047】
次に、駆動前のSPD1を透過保持状態として、図4(iv)の透過保持状態から遮光状態の駆動方法について示す。図6(c)は、図4(iv)の透過保持状態から遮光状態への駆動波形である。
【0048】
本実施例では、透過状態から遮光状態及び調光状態への駆動時に、X電極6に直流電圧VB1を印加し、特にX電極6とZ電極8間にX電極6がY電極7及びZ電極8に対して高電位となる直流電界を形成する。なお、本実施例ではX電極6のみに直流電圧を印加して直流電界を形成したが、Z電極8が他の電極よりも低電位となるように、X電極6,Y電極7,Z電極8に所定の直流電圧を印加しても構わない。本実施例の光調整粒子10は負に帯電しており、X電極6はZ電極8よりも高電位であることから、透過保持状態時にZ電極8に凝集している光調整粒子10はX電極6に向かって移動する。Z電極8とX電極6間の電界は、Z電極8の幅が細く、懸濁液9の分散媒11が高抵抗率の材料であるため、Z電極8からX電極6に向かって広がりを持つ。従って、光調整粒子10は懸濁液空間に広がるように移動及び分散するため、懸濁液空間においてほぼ均一な光調整粒子10の分散状態を得ることができる。X電極6へのVB1の印加は、光調整粒子10が懸濁液9中でほぼ均一に分散した状態となる時間t2後に停止する。なお、光調整粒子10の凝集から分散への状態変化はVB1とt2により制御され、VB1はSPD1の構造や光調整粒子10の濃度,誘電率,形状,帯電状態,分散媒11及び他の光調整粒子10との親和性等、分散媒11の粘度等に依存する。
【0049】
さらに、駆動状態を調光状態とするとき、図6(a)と同様にX電極6に周波数fON,電圧VONの交流電圧信号を印加する。
【0050】
図31は、本実施例のSPD1について、交流電圧VON=0Vから100Vの透過率変化を基にして、図6の駆動波形を用いて、遮光状態,調光状態,透過保持状態に駆動させた時の透過率変化に関する透過変動率ΔTのグラフである。図31中のt1は、透過保持状態とするためにZ電極8に電圧VCを印加した時間である。
【0051】
以上から、本実施例のSPD構造と駆動方法により、SPD1の光学動作域内で均一な遮光状態,調光状態,透過状態を得ることと、各状態への切り替えと保持といった駆動を実現することができる。
【実施例2】
【0052】
本実施例のSPD1の構成及び構造は基本的に実施例1と同様である。実施例1とは、調光装置が補助電源22を有しているのと、透過保持状態での駆動波形が異なる点である。なお、他の構成と構造などについて実施例1と同様の場合、その説明は省略する。
【0053】
図7は本実施例での調光装置13の構成を示す説明図である。SPD1は、実施例1と同様に相互接続素子21を介して駆動装置14と接続されており、Z電極8を接続する相互接続素子21は補助電源22とも接続している。補助電源22は、蓄電池からなる直流電源(図示しない)と蓄電池の充放電装置(図示しない)と、Z電極8及び相互接続素子21への駆動波形の出力回路(図示しない)を有している。補助電源22は外部電源23または駆動装置14の駆動電源20から有線または無線により給電され、直流電源の蓄電池は充電される。
【0054】
直流電源の電池は蓄電池である。本実施例の蓄電池はリチウムイオン二次電池である。なお、蓄電池はニッケル水素二次電池や鉛蓄電池であっても構わない。また、蓄電池の代わりにキャパシタを直流電源として用いても構わない。
【0055】
補助電源22からは、透過保持状態を制御するためのZ電極8への駆動波形が出力される。図8は、実施例1での図6(b)に対応する本実施例における透過保持状態での駆動波形である。駆動波形は、透過保持状態での光調整粒子10がZ電極8へ凝集及びZ電極8への偏在を維持するために図6(b)のように連続的にVC2を印加せず、図8に示されるts以降に補助電源22からZ電極8へ直流電圧VC3を時間t3の間隔で印加する。なお、本実施例では時間t3及びVC3を一定間隔としたが、光調整粒子10の凝集及び偏在状態から分散状態の動作に応じて変調しても構わない。Z電極8への直流電圧VC3は凝集及び偏在を保持可能な電圧であり、VC3<VC1の関係にある。
【0056】
以上から本実施例の調光装置と駆動方法を用いることにより、実施例1のようにZ電極8へVC2を印加し続けるよりも低消費電力での光調整粒子10の凝集及び偏在状態の維持及び透過保持状態の駆動を実現することができる。さらに、本実施例では蓄電池を用いていることから、商用系統電源などの外部電源23から給電されていない状態でも補助電源22からSPD1及びZ電極8に駆動波形を印加可能であるため、SPD1を移動体に用いた時や、停電時においても透過保持状態の駆動を維持できる。
【0057】
また、光調整粒子10が透過保持状態においてZ電極8と凝集保持可能な場合においても、Z電極8に凝集した光調整粒子10が衝撃や温度等の環境変化により分散した場合に、本実施例の駆動波形により光調整粒子10を再度凝集させることができる。従って、透過保持状態の保持を実現することができる。
【実施例3】
【0058】
本実施例のSPD1の構成及び構造は基本的に実施例1と同様である。実施例1とは、透過保持状態から遮光状態及び調光状態とするときの駆動方法が実施例1と異なる。なお、他のSPD構成と構造などについて実施例1から2と同様の場合、その説明は省略する。
【0059】
透過保持状態から遮光状態及び調光状態とするときの本実施例での駆動波形を図9に示す。本実施例では、Z電極8上に凝集及びZ電極8側に偏在していた光調整粒子10を分散させるため、実施例1での図6(c)のX電極6に直流電圧VB1を印加せずに、Z電極8に交流電圧VB4を印加している。
【0060】
本実施例の駆動波形により、Z電極8に凝集及び偏在していた光調整粒子10は、交流電圧により分散媒11中を移動し、更に交流電圧により光調整粒子10が配向動作するため凝集状態を解して実施例1よりも懸濁液9中に分散させることができる。なお、SPD1のx−z平面の断面図において、X電極6のZ電極8に対して最も離れた位置までほぼ均一に分散させるため、交流電圧に対するY電極7の作用を低減するため、X電極6に直流電圧VB2を、Y電極7にZ電極8と同じく交流電圧VB3を印加しても構わない。
【実施例4】
【0061】
本実施例のSPD1のA板2の構成と構成材料は、基本的に実施例1に記載のSPD1の構成と同様である。実施例1とは、Y電極7とZ電極8の配設箇所及びB板3の構造が異なる。なお、他の構成と構造などについて実施例1と同様の場合、その説明は省略する。
【0062】
図10は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図11(a)は図10に示す切断線BB′における組み立て後のSPD1に関するx−z平面の断面図である。B板3の構成と形成方法について説明する。B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、Y電極7とY電極7よりもx軸方向の幅が狭いZ電極8がストライプ状に配設される。Y電極7とZ電極8は絶縁性の透明な誘電体層24で覆われており、Z電極8上のみ誘電体層24に穴(開口部)が設けられている。これにより、誘電体層24の穴においてZ電極8は懸濁液9と接する。図11において、誘電体層24の穴の幅は、Z電極8の幅以下であってもZ電極8の幅以上であっても良い。誘電体層24の穴の幅をZ電極8穴の幅以下にすることにより、Z電極8の淵に光調整粒子10が凝集することを抑制できる。
【0063】
誘電体層24として、無機系の材料や有機系の材料が挙げられる。無機系材料としては金属酸化物薄膜が挙げられる。有機系の材料としては、テフロン(R)系,ポリエステル系などのポリマーが挙げられる。誘電体層24に有機系の材料を用いることにより、A基板4やB基板5にプラスチックを使用でき、フレキシブルを実現できる。
【0064】
なお、Z電極8上の誘電体層24の穴の形状は図10に示すような四角形状に限られず、円や多角形形状であっても構わない。また、誘電体層24の穴及び懸濁液9と接するZ電極8表面において、透過状態における光調整粒子10の凝集量と、透過状態から遮光状態とするときの誘電体層24の穴及びZ電極8からの直流電界をSPD1の光学動作域内でほぼ均一とするため、誘電体層24の穴は規則性を持って配置されることが望ましい。更に、図10に示す切断線BB′及び誘電体層24の穴におけるZ電極8のB基板5からの高さは、図11(b)のように誘電体層24と同等、または図11(c)のように誘電体層24より高くても構わない。図11(a)のように誘電体層24の穴におけるZ電極8のB基板5からの高さを誘電体層24より低くすることにより、Y電極7およびZ電極8の間を絶縁するために無効スペースが必要なくなる。
【0065】
本実施例のSPD1は、図6(b)における透過状態への直流電界形成において、電界強度が強い誘電体層24の穴及び懸濁液9と接するZ電極8表面に凝集及び偏在する。そのため、透過状態において実施例1よりも高い透過光を得ることができる。
【0066】
また、図6(a)で示されるように、調光状態における駆動波形は交流である。従って、調光状態においてX電極6とY電極とZ電極8上の誘電体層24の間に分散媒11及び懸濁液9中に交流電界が形成されるため、電界方向に沿うように印加電圧VONに応じて光調整粒子10を配向させることができる。
【実施例5】
【0067】
本実施例のSPD1のA板2の構成と構成材料は、基本的に実施例1に記載のSPD1の構成と同様である。実施例1,実施例4とは、Y電極7とZ電極8の配設箇所及びB板3の構造が異なる。なお、他の構成と構造などについて前実施例と同様の場合、その説明は省略する。
【0068】
図12は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図13(a)は図12に示す切断線BB′における組み立て後のSPD1に関するx−z平面の断面図である。B板3の構成と形成方法について説明する。B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、x軸方向の幅が狭いZ電極8がストライプ状に配設され、Z電極8は絶縁性の透明な誘電体層24で覆われている。誘電体層24上にはY電極7が形成されており、Z電極8上のみY電極7と誘電体層24に穴が設けられており、このY電極7と誘電体層24の穴においてZ電極8は懸濁液9と接する。なお、Z電極8上の誘電体層24の穴の形状は図12に示すような四角形状に限られず、円や多角形形状であっても構わない。また、誘電体層24の穴及び懸濁液9と接するZ電極8表面において、透過状態における光調整粒子10の凝集量と、透過状態から遮光状態とするときのY電極7と誘電体層24の穴及びZ電極8からの直流電界をSPD1の光学動作域内でほぼ均一とするため、Y電極7と誘電体層24の穴は規則性を持って配置されることが望ましい。更に、図12に示す切断線BB′及びY電極7と誘電体層24の穴におけるZ電極8のB基板5からの高さは、図13(b)のように誘電体層24と同等、または図13(c)のように透過保持状態での光調整粒子10を静電的に保持するため誘電体層24中に埋設しても構わない。
【0069】
本実施例のSPD1のY電極7は、実施例1と実施例4よりX電極6と重なる面積の割合が広いため、図6(a)の調光状態において、実施例1と実施例4よりもSPD1の光学動作域内で均一な調光状態を得ることができる。更に、透過状態への直流電界形成時においては、Z電極8からの電界はY電極7の穴以外ではY電極7により遮蔽されるため、実施例4よりもY電極7の穴において光調整粒子10を凝集及び偏在させることができる。そのため、透過状態において実施例4よりも更に高い透過光を得ることができる。
【実施例6】
【0070】
本実施例のSPD1のA板2の構成と構成材料は、基本的に実施例1に記載のSPD1と同様である。実施例1から5とは、B板3にストライプ状の隔壁25が形成されている点が異なる。なお、他の構成と構造などについて実施例1から5と同様の場合、その説明は省略する。
【0071】
図14は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図15(a)は図14に示す切断線CC′における組み立て後のSPD1に関するy−z平面の断面図である。B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、Y電極7とY電極7よりもy軸方向の幅が狭いZ電極8がストライプ状に形成される。また、B基板5上には懸濁液充填空間の分割と懸濁液充填空間及びA板2とB板3間の距離を維持するために、ストライプ状の隔壁25が等間隔に形成されている。Y電極7とZ電極8は隔壁25間に配設される。複数の隔壁25で区切られた空間毎に独立して光調整粒子の配向状態が制御されている。隔壁25はガラスやポリマーからなる透明な絶縁性の誘電体材料であり、実施例1でのスペーサービーズと同様に他の構成材料に対して安定で、分散媒11の屈性率と近い方が好ましい。なお、遮光状態における透過率を低下させるため、少なくとも隔壁25の頂上部分を黒色に着色したり、色度補正のために他の色に着色したりしても構わない。また、各調光動作面積を広く確保するために、隔壁25の幅は細いことが好ましく、さらに隔壁25間に配設される2本のY電極7とZ電極8の幅よりも狭いことが好ましい。
なお、隔壁25の形成場所は、図15(b)のようにY電極7上、または図15(c)のようにY電極7を覆うように形成した誘電体層24上であっても構わない。また、本実施例では、隔壁25をY電極7及びZ電極8と平行に形成しているが、隔壁25をY電極7及びZ電極8と直交または斜交として形成したり、平行と直交を組み合わせて囲むボックス型として形成したりしても構わない。
【0072】
図16はSPD1及び各電極と駆動制御回路18間の構成を示す説明図である。各電極は各電極出力回路にそれぞれ接続されている。なお、Y電極7はSPD1とY電極出力回路16間で一つの配線に接続した同一電極構造としても構わない。Z電極8が複数配設されるとき、Z電極出力回路17と駆動制御回路18間には、駆動電圧を印加するZ電極8を選択する選択回路29を有している。また、Z電極8とZ電極出力回路17間の相互接続素子21には、SPD1内のZ電極8数分のリード端子を有し、隣接するZ電極8との結線を防止して、Z電極8毎に駆動電圧を印加可能なフレキシブル配線基板を用いている。
【0073】
本実施例のSPD1では、図16の選択回路29によりSPD1内で直流電圧VCを印加するZ電極8を選択することが可能であり、SPD1の光学動作域内において、隔壁25間毎に異なる調光動作を実現することができる。
【実施例7】
【0074】
本実施例のSPD1のA板2の構成と構成材料は、基本的に実施例1に記載のSPD1と同様である。実施例6とは、実施例4と同様に、Z電極8上の誘電体層24に穴が形成されている点が異なる。なお、他の構成と構造などについて前実施例と同様の場合、その説明は省略する。
【0075】
図17は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図18(a)は図17に示す切断線CC′における組み立て後のSPD1に関するy−z平面の断面図である。B板3の構成と形成方法について説明する。B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、Y電極7とY電極7よりもy軸方向の幅が狭いZ電極8がストライプ状に配設される。Y電極7とZ電極8は絶縁性の透明な誘電体層24で覆われており、誘電体層24上にはZ電極8を挟んで隔壁25が懸濁液充填空間の維持のためストライプ状に等間隔で形成される。なお、本実施例では隔壁25を誘電体層24上に形成しているが、B基板5上またはZ電極8上に形成しても構わない。Z電極8上の誘電体層24には、実施例4と同様に穴が設けられており、誘電体層24の穴においてZ電極8は懸濁液9と接する。なお、図18(c)のように、B基板5上にY電極7を形成し、Y電極7を覆うように絶縁性の誘電体層24を形成し、誘電体層24上にZ電極8を配設した後に再び誘電体層24で覆い、Z電極8上の誘電体層24に穴のあいた構造であっても構わない。また、図17に示す切断線CC′及び誘電体層24の穴におけるZ電極8のB基板5からの高さは図18(b)のように誘電体層24と同等または誘電体層24より高くても構わない。
【0076】
本実施例のSPD1は、図6(b)における透過状態への直流電界形成において、電界強度が強い誘電体層24の穴及び懸濁液9と接するZ電極8表面に凝集及び偏在する。そのため、透過状態としたとき、実施例6よりも高い透過光を得ることができる。
【実施例8】
【0077】
本実施例のSPD1のA板2の構成と構成材料は、基本的に実施例1と実施例6に記載のSPD1と同様である。実施例6とは、実施例5と同様に、Y電極7が懸濁液空間と接しており、更にZ電極8上のY電極7及び誘電体層24に穴が形成されている点が異なる。なお、他の構成と構造などについて前実施例と同様の場合、その説明は省略する。
【0078】
図19は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図20(a)は図19に示す切断線CC′における組み立て後のSPD1に関するy−z平面の断面図である。B板3の構成と形成方法について説明する。B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、y軸方向の幅が狭いZ電極8がストライプ状に配設され、Z電極8は絶縁性誘電体層24で覆われている。誘電体層24上にはY電極7が形成されており、Z電極8上のみY電極7と誘電体層24に穴が設けられており、このY電極7と誘電体層24の穴においてZ電極8は懸濁液9と接する。Y電極7上にはZ電極8を挟んで隔壁25がストライプ状に等間隔で形成される。なお、本実施例では隔壁25をY電極7上に形成しているが、B基板5上または誘電体層24上に形成しても構わない。Z電極8上のY電極7と誘電体層24には、実施例4と同様に穴が設けられており、誘電体層24の穴においてZ電極8は懸濁液9と接する。また、図19に示す切断線CC′及び誘電体層24の穴におけるZ電極8のB基板5からの高さは、図20(b)のように誘電体層24と同等、または図20(c)のように誘電体層24に覆われていても構わない。
【0079】
本実施例のSPD1は、本実施例のSPD1のY電極7は、実施例6と実施例7よりX電極6と重なる面積の割合が広いため、図6(a)の調光状態において、実施例6と実施例7よりもSPD1の光学動作域内で均一な調光状態を得ることができる。
【実施例9】
【0080】
本実施例は、SPD1のY電極構造と駆動方法と調光状態時の透過光の光学特性が実施例1から8と異なる。SPD構造と駆動方法及び調光状態での光学特性について、以下で説明する。なお、他の構成,構造と駆動方法などについて前実施例と同様の場合、その説明は省略する。
【0081】
(SPD)
図21は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図である。図22(a)は図21に示す切断線DD′における組み立て後のSPD1に関するx−z平面の断面図であり、図22(b)は図21に示す破線Eで囲まれた部分のA板2側から見たx−y平面図である。
【0082】
次にB板3の構成と形成方法について説明する。B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、酸化インジウムスズ(ITO)からなるY電極7とZ電極8からなるYZ電極対12がストライプ状に配設されている。なお、Y電極7は実施例1よりもx軸方向の幅が狭く、Y電極7とZ電極8のx軸方向の幅は、透過保持状態での透過率を上昇させるため10μm以上100μm以下であり、さらに好ましくはZ電極8の視認性低下と後に示す調光状態で無効となるY電極7とZ電極8上のz軸方向の電界形成部面積を小さくするため10μm以上50μm以下である。Y電極7とZ電極8のx軸方向の間隔は、5μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上1000μm以下であり、駆動電圧の上昇を抑えるため、5μm以上1000μm以下好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0083】
また、本実施例ではY電極7とZ電極8を酸化インジウムスズで形成したが、酸化インジウム亜鉛(IZO),酸化スズ,酸化亜鉛やカーボンナノチューブ,グラフェン等の透明導電体で形成しても構わない。さらに、Y電極7とZ電極8は、クロム,銅,アルミニウム,銀等の金属及び合金の単層膜や積層膜、または銅や銅合金などの金属の極細線を配設して形成しても構わない。なお、本実施例ではX電極6を支持基材上に一面に形成し、Y電極7とZ電極8をストライプ状に配設しているが、これに限らず円などの模様や文字型の形状に合わせて配設しても構わない。
【0084】
(SPD駆動方法)
次に、本実施例の駆動方法について説明する。図23は各駆動状態におけるSPD1内の光調整粒子10の状態であり、図21に示す切断線DD′における組み立て後のSPD1のYZ電極対12に垂直なx−z平面の断面図である。図23(a)がSPD1の遮光状態、図23(b)がSPD1の調光状態、図23(c)がSPD1の透過状態を示す。一方、図24は図21に示す破線Eで囲まれた部分のA板2側から見たx−y平面図での各駆動状態におけるSPD1内の光調整粒子10の状態であり、図24(a)がSPD1の遮光状態、図24(b)がSPD1の調光状態、図24(c)がSPD1の透過状態を示す。各駆動方法を実現する駆動波形は、調光状態を除いて実施例1から3の図6,図8,図9と同様である。
【0085】
遮光状態では、実施例1と同様に、図23(a)及び図24(a)のように光調整粒子10が懸濁液9内でほぼ均一に分散し、光調整粒子10の配向状態はブラウン運動により無秩序状態(ランダム)であり、SPD1へ入射した光は吸収,散乱されるため、入射光20は透過することができず遮光される。
【0086】
調光状態では、図23(b)及び図24(b)のように光調整粒子10が懸濁液9内でほぼ均一に分散し、Y電極7とZ電極8間に配向動作に十分な周波数fP,交流電圧VPが印加されることにより、光調整粒子10がほぼY電極7とZ電極8間の電界方向に配向している。図25は遮光状態から調光状態とするときの駆動波形である。
【0087】
なお、本実施例では交流電圧信号波形を正弦波としたが、矩形波(方形波)や三角波からなる交流波形であっても構わない。更に、1/2周期で極性の異なる交流波形をZ電極8とY電極7の各々に同時に印加しても構わない。1/2周期で極性の異なる交流波形をY電極7とZ電極8の各々に同時に印加することにより、耐圧性の低い回路素子を使用できる。fPは、光調整粒子10が分散媒11内で凝集等せずに一様に配向動作可能で配向状態を維持できる周波数範囲であり、光調整粒子10の濃度,誘電率,形状,分散媒11との親和性等、分散媒11の粘度等で決定され、50Hz以上1000Hz以下である。なお、本実施例ではfP,VPを一定としたが、調光状態の開始時にfP,VP変調させても構わない。
【0088】
従って、SPD1への入射光20が非偏光であるならば、懸濁液充填空間は配向した光調整粒子10により電界方向と直交(YZ電極対12と平行)方向の直線偏光がSPD1から出射する。
【0089】
透過保持状態では、図23(c)及び図24(c)のように光調整粒子10は負に帯電していることから、Z電極8がX電極6及びY電極7に対して高電位として、遮光駆動時及び調光駆動時に懸濁液9内でほぼ均一に分散していた光調整粒子10は幅の狭いZ電極8に凝集、もしくはZ電極8付近に偏在させる。これにより、光調整粒子10がZ電極8に凝集及び偏在することで、SPD1への入射光は懸濁液9のZ電極8を除く領域では光調整粒子10により吸収,散乱されずに出射されるため、透過駆動時には高透過光が得られる。なお、透過保持状態での光調整粒子10の凝集,偏在方法については、図23(c)及び図24(c)のようにZ電極8を高電位としてZ電極8に凝集,偏在とせず、Y電極7を高電位としてY電極7に凝集,偏在、またはY電極7とZ電極8の両方をX電極6に対して高電位としてY電極7とZ電極8に凝集,偏在させても構わない。
【0090】
従って、本実施例のSPD1と駆動方法を用いることにより、調光状態に入射光を偏光に変調する偏光子としての機能を有する調光装置を実現することができる。
【実施例10】
【0091】
本実施例の調光装置は、実施例9とSPD1のB板3の構成及び構造が異なり、偏光子である偏光板40を備えている。なお、SPD1と駆動方法及び駆動装置14について、実施例9と同様の場合には説明を省略する。
【0092】
偏光板40は、SPD1上に透過軸がYZ電極対12と直交、即ち電界方向と平行になるように配置される。偏光板40はポリビニルアルコール(PVA)中のヨウ素錯体が一軸方向に配列し、TACなどでシート状に形成された偏光フィルタである。なお、偏光板40は、ヨウ素錯体ではなく二色性色素がポリビニルアルコール中に含まれる偏光フィルタ、または偏光板ではなく駆動装置14を備える液晶素子を偏光板40として用いても構わない。
【0093】
(SPD)
次に本実施例のSPD1の構造を説明する。図26は本発明者らが検討したSPD1の断面構造概略図であり、図27は図26に示す切断線EE′における組み立て後のSPD1に関するYZ電極対12に垂直なy−z平面である。
【0094】
A板2は実施例7と同様にガラスから成る透明な支持基材であるA基板4上に酸化インジウムスズ(ITO)からなる透明電極のX電極6が一面に形成されている。なお、X電極6はA基板4上に一面ではなく、YZ電極対12と直交し、図26に示すCLのボックス型の調光セル内に位置するようにストライプ状に配設しても構わない。
【0095】
B板3は、ガラスから成る透明な支持基材であるB基板5上に、Y電極7とZ電極8からなるYZ電極対12がx軸方向にストライプ状に形成されており、Y電極7とZ電極8の配列は隣接電極対の電極と同じ電極となる順番で配設される。B基板5上にはYZ電極対12を囲むように四角形のボックス型の隔壁25が形成されている。なお、隔壁25で囲まれている領域を調光セルとしてYZ電極対12の配設構造は偏光板40の偏光領域や電極対の間隔に対応して、四角形以外にもハニカム型などの多角形や円などの幾何模様,文字などの形状としても構わない。
【0096】
このYZ電極対12の配列順序と隔壁構造は、YZ電極対12毎での懸濁液充填空間の分割と懸濁液充填空間及びA板2とB板3間距離の保持以外に、隣り合う電極対及び調光セルとの直流電圧及び交流電圧による電界のクロストークを防止する効果が得られる。隔壁25はガラスやポリマーからなる絶縁性の誘電体材料であり所定の色に着色されている。本実施例では、隔壁25を黒色に着色している。
【0097】
(調光装置)
本実施例の駆動回路は、実施例6の図16と同様な構成であり、Z電極出力回路17と駆動制御回路18間に駆動電圧を印加する調光セル及びZ電極8を選択する選択回路29を有しており、Z電極8とZ電極出力回路17間の相互接続素子21として実施例6のフレキシブル配線基板を用いている。なお、X電極6がA基板4上に一面ではなく、分割して調光セル内に位置するように配設される場合、Z電極8と同様にX電極6とX電極出力回路15間の相互接続素子21としてX電極6の数と同じ数のリード端子を有し、隣接するX電極6との結線を防止して、X電極6毎に駆動電圧を印加可能なフレキシブル配線基板を用いても構わない。
【0098】
(SPD駆動方法)
図28は本実施例での駆動方法によるSPD1の光調整粒子動作と入射光変調の様子を示す図である。調光装置での高遮光状態を図28(a)に、偏光状態を図28(b)に示す。
【0099】
光調整粒子10がランダムに配列している実施例1から9の遮光状態では、入射光30が若干漏れることがある。このような現象が生ずると、隣接する調光セルと駆動状態が異なる場合に、コントラストが十分に取れないという場合が生ずる。
【0100】
高遮光状態では、実施例9と同様に、図25の駆動波形をSPD1の各電極に印加する。従って、光調整粒子10は、図28(a)で示すように、ほぼY電極7とZ電極8間の電界方向に配向している。この状態で、SPD1への入射光30が非偏光であるならば、懸濁液充填空間は配向した光調整粒子10により電界方向と直交(YZ電極対12と平行)方向の直線偏光がSPD1から出射する。SPD1上の偏光板40の透過軸は電界方向と平行(YZ電極対12と垂直)方向である。従って、SPD1から出射した直線偏光33は、SPD1上の偏光板40に吸収されるため、本実施例のように偏光板40を用いた場合に高遮光状態が得られる。
【0101】
偏光状態では、実施例1から9での透過保持状態での駆動波形を各電極に印加することにより、光調整粒子10は図28(b)で示すようにZ電極8に凝集及び偏在している。SPD1へ非偏光が入射すると、懸濁液9のZ電極8を除く領域では光調整粒子10により吸収,散乱されないため、SPD1は入射光に対して高透過率であり、出射光の偏光特性はほぼ入射前のままである。従って、SPD1上の偏光板へは非偏光が入射し、偏光板からは電界方向と平行(YZ電極対12と垂直)方向の直線偏光が出射することができる。
【0102】
従って、本実施例のSPD1と偏光板40からなる調光装置は、調光セルに対して高遮光状態と偏光状態での透過率差を大きくすることができ、高コントラストな調光セル制御を実現することができる。
【0103】
図28では偏光板40をSPD1のA基板4の上に配置している。しかし、偏光板40をA基板4の下に貼り付けても同様な効果を得ることができる。さらに、偏光板40を基板に貼り付ける場合に限らず、例えば、偏光板40をSPD1から離れた直線偏光を作り出す入射光源に付属させていても構わない。また、偏光板ではなく、実施例9の構造のSPD1を偏光用SPDとし、YZ電極対12が直交するように対向に配置しても構わない。
【符号の説明】
【0104】
1 懸濁粒子装置(SPD)
2 A板
3 B板
4 A基板
5 B基板
6 X電極
7 Y電極
8 Z電極
9 懸濁液
10 光調整粒子
11 分散媒
12 YZ電極対
13 調光装置
14 駆動装置
15 X電極出力回路
16 Y電極出力回路
17 Z電極出力回路
18 駆動制御回路
19 信号処理回路
20 駆動電源
21 相互接続素子
22 補助電源
23 外部電源
24 誘電体層
25 隔壁
27 調光層
28 樹脂マトリックス
29 選択回路
30 入射光
31 透過光(透過率変調光)
32 透過光(高透過率光)
33 直線偏光
40 偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の基板および第二の基板と、
前記第一の基板および前記第二の基板の間に配置された第一の電極,第二の電極,第三の電極および懸濁液と、を有する懸濁粒子装置であって、
前記第一の基板上に前記第一の電極が形成され、
前記第二の基板上に前記第二の電極および前記第三の電極が形成され、
前記懸濁液は、光調整粒子および分散媒を含み、
前記光調整粒子は帯電されており、
前記第一の電極、前記第二の電極および前記第三の電極のいずれか一つ以上に交流電圧が印加されることで前記光調整粒子の配向状態が制御され、
前記第一の電極、前記第二の電極および前記第三の電極のいずれか一つ以上に直流電圧が印加されることで前記光調整粒子が前記懸濁液中に分散する、または、前記第三の電極に偏在する懸濁粒子装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第三の電極の短軸方向の幅は、前記第二の電極の短軸方向の幅より小さい懸濁粒子装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記光調整粒子は、光学的異方性を有し、
前記光調整粒子は、棒状であり、
前記光調整粒子のアスペクト比は、5以上30以下であり、
前記光調整粒子は、ポリ過ヨウ化物,ポリマー,炭素系材料,金属材料または無機化合物のいずれか一つ以上である懸濁粒子装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記光調整粒子は、負に帯電しており、
前記第三の電極の電位を前記第一の電極の電位および前記第二の電極の電位より大きくすることで、前記光調整粒子は前記第三の電極に偏在し、
前記第一の電極の電位を前記第三の電極の電位より大きくすることで、前記第三の電極に偏在していた前記光調整粒子は前記懸濁液中に分散する懸濁粒子装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記懸濁液に帯電制御剤が添加され、
前記帯電制御剤は脂肪酸の金属塩である懸濁粒子装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記光調整粒子が前記第三の電極に偏在している時に、前記第三の電極に所定の間隔で直流電圧が印加される懸濁粒子装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記光調整粒子が前記第三の電極に偏在している時に、前記第一の電極、前記第二の電極および前記第三の電極のいずれか一つ以上に交流電圧が印加されることで、前記第三の電極に偏在していた前記粒子は前記分散媒中に分散する懸濁粒子装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記第三の電極を覆う誘電体層を有する懸濁粒子装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記第三の電極上において、前記誘電体層に開口部が設けられ、
前記光調整粒子は、前記誘電体層の開口部に偏在する懸濁粒子装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記誘電体層の上に前記第二の電極が形成され、
前記第三の電極上において、前記第二の電極に開口部が設けられ、
前記光調整粒子は、前記第二の電極の開口部に偏在する懸濁粒子装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記第一の基板および前記第二の基板の間に複数の隔壁が形成され、
前記複数の隔壁で区切られた空間毎に前記第二の電極および前記第三の電極が設けられる懸濁粒子装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかにおいて、
前記第二の電極および前記第三の電極はストライプ状に形成され、
前記第二の電極および前記第三の電極の間に交流電圧が印加されることで前記光調整粒子の配向状態が制御される懸濁粒子装置。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかにおいて、
前記第二の電極および前記第三の電極の間に交流電圧が印加されているときに前記懸濁液に入射する光は前記光調整粒子によって偏光される懸濁粒子装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかの懸濁粒子装置と、
前記懸濁粒子装置を制御する駆動装置と、を有する調光装置。
【請求項15】
第一の基板および第二の基板と、
前記第一の基板および前記第二の基板の間に配置された第一の電極,第二の電極,第三の電極および懸濁液と、を有する懸濁粒子装置の駆動方法であって、
前記第一の基板上に前記第一の電極が形成され、
前記第二の基板上に前記第二の電極および前記第三の電極が形成され、
前記懸濁液は、光調整粒子および分散媒を含み、
前記光調整粒子は帯電されており、
前記第一の電極、前記第二の電極および前記第三の電極のいずれか一つ以上に交流電圧が印加されることで前記光調整粒子の配向状態が制御され、
前記第一の電極、前記第二の電極および前記第三の電極のいずれか一つ以上に直流電圧が印加されることで前記光調整粒子が前記懸濁液中に分散する、または、前記第三の電極に偏在する懸濁粒子装置の駆動方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図11(c)】
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【図12】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図13(c)】
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【図14】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【図15(c)】
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【図16】
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【図17】
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【図18(a)】
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【図18(b)】
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【図18(c)】
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【図19】
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【図20(a)】
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【図20(b)】
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【図20(c)】
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【図21】
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【図22】
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【図23(a)】
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【図23(b)】
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【図23(c)】
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【図24(a)】
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【図24(b)】
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【図24(c)】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28(a)】
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【図28(b)】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2013−33074(P2013−33074A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167974(P2011−167974)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】