説明

成形ハロゲン化物吸収剤の製造方法および成形ハロゲン化物吸収剤

【課題】 アルミン酸アルカリ、例えばアルミン酸ナトリウムを反応成分とした高性能な成形ハロゲン化物吸収剤を簡易に効率よく製造する。
【解決手段】 アルミナゾルとアルカリ物質、好ましくは炭酸ナトリウムを含有する混合物に成形加工を施し、その後、該成形混合物を乾燥・焼成することによって、アルミナゾルとアルカリ物質を反応させアルミン酸アルカリを生成させると同時に成形物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温のガスに含まれるハロゲン化物を除去する成型ハロゲン化物吸収剤を製造する方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、高温の還元性ガスに含まれる塩化水素、フッ化水素などのハロゲン化物を除去するシステムに適用するためのハロゲン化物吸収剤の成形製造技術ならびに極低濃度にまで除去可能な成形ハロゲン化物吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭や重質油などを直接ガス化して得られたガスを発電に利用する様々な方法が提案されている。例えば石炭等をガス化したガス(以下、単にガス化ガスという)を燃焼させガスタービンを駆動すると共に、ガス化工程や燃焼工程で発生する熱を利用して蒸気タービンを駆動する石炭ガス化複合発電がその典型例である。またガス化ガスを溶融炭酸塩形燃料電池などによって直接電力に高効率に変換する発電方法も盛んに研究されている。
【0003】
ところで、ガス化ガスには通常数十ないし数百ppmのハロゲン化物、すなわち塩化水素、フッ化水素などが含まれており、公害防止の観点から、また、ガス化ガスを利用する機器等の性能劣化防止の観点から、当該ガス化ガスからハロゲン化物を除去することが要求される。特に、ガス化ガスを燃料電池の燃料に用いる際には、電池の発電性能維持のために、ガス化ガスに含まれるハロゲン化物を1ppm以下にまで除去することが必須である。
【0004】
そして、この場合のハロゲン化物除去には、乾式法のシステムが望まれる。乾式法とは、ハロゲン化物が酸性物質であることを利用して、アルカリ性の固体物質との化学反応によってハロゲン成分を固体化してガスから除去する手法である。水スクラバを利用する湿式法と比較して、乾式法は高温のままでガスを処理するためガス温度の上げ下げに伴うエネルギー効率の低下がなく、また、ガス/ガス熱交換器、排水処理設備などの機器が不要となり簡素なシステムとなる特長がある。
しかし、乾式法は化学反応を利用したものであり、その除去性能はハロゲン化物と反応する物質の反応特性に依存する。よって、乾式法のハロゲン化物除去システムには、対象とするガス化ガスの組成、温度、圧力、ならびにハロゲン化物の除去濃度レベルに応じた吸収物質を含有する吸収剤の開発が不可欠である。
【0005】
これまで、ガス中のハロゲン化物を除去する吸収剤に関する技術としては、アルカリ金属を助触媒として用いた活性化アルミナ(例えば特許文献1)、酸化ナトリウムを含有するアルミナ(例えば特許文献2、3)、アルカリ水溶液に含浸させた無機珪酸塩(例えば特許文献4)が報告されている。しかし上記の技術は、室温あるいは150℃以下の温度で使用することを念頭に置いたものである。
【0006】
ガス化ガスをガスタービンや燃料電池の高温発電機器の燃料に適用する際には、供給するガスの温度は200℃以上、望ましくは400℃以上とすることが必要である。乾式ガス精製は、供給するガス温度以上の条件で運転できることが、エネルギー効率的にもシステム構成的にも有利である。しかし、実際には反応温度が高くなるとハロゲン化物の平衡濃度も上昇してしまうことから、一般的に高い温度条件ほど低濃度除去が難しくなると予想される。
【0007】
この状況の中で、200℃以上、さらには400℃以上の温度条件において、ガス化ガスに含まれるハロゲン化物を乾式法で極低濃度まで除去することが提案されている。同提案は、ガス化ガスを燃料電池に適用することを目的として、高温のガスに含まれるハロゲン化物を低濃度まで除去するアルミン酸アルカリを反応成分とする粉末状の吸収剤の生成方法に関し、特にアルミン酸ナトリウムが優れた除去性能を有することを示している(特許文献5)。ここでは、アルミニウム源にアルミナゾルを使用し、ナトリウム源である炭酸ナトリウムを水溶液として混合することによって、原料の炭酸ナトリウムは全てアルミン酸ナトリウムに転化することを可能にしている。アルミン酸ナトリウム(NaAlO)は例えばガス化ガス中の塩化水素(HCl)と
2NaAlO+2HCl→2NaCl+Al+HO 反応式(1)
の反応が起こり、ガス化ガス中の塩化水素を固体の塩化ナトリウム(NaCl)として吸収する。その結果、200℃以上の高温条件で1ppm以下の低濃度まで除去するという、従来の吸収剤にはなかった高い性能が発揮されることとなる。
【特許文献1】特表平7-506048号公報
【特許文献2】特表平9-508855号公報
【特許文献3】特開平6-190274号公報
【特許文献4】特開昭60-187335号公報
【特許文献5】特開2000-15091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ガス化ガス中のハロゲン化物を吸収する際には、ハロゲン化物吸収搭に除去対象のガスを流通するため、吸収剤充填層の圧力損失を考慮する必要がある。すなわち、粉末状の吸収剤を用いる場合には、そこを通過するガスの流れに与える抵抗が大きくなり、ガス化ガスの圧力が降下してしまう。この現象は、ガスの圧力も利用する発電システムにおいてエネルギー効率の低下を引き起こすのに加え、反応器の目詰まりや閉塞をも引き起こしかねない。そのため、ハロゲン化物吸収剤を発電プラントなどの大規模な反応器に適用する場合には、粒状、球状、ペレット状、ハニカム状などの成形体として使用する必要がある。
【0009】
上記のアルミン酸アルカリを反応成分とする吸収剤は、その調製過程において塊状生成物を粉砕処理している。その結果、従来の技術では粉砕して細かな粉末状の吸収剤が得られることとなる。そのため、このようなハロゲン化物吸収剤を実際に使用するには、アルミン酸アルカリ含有の粉末状吸収剤を原料に、成形体を製造する必要がある。
粉末試料から成形体を製造する技術は、各種セラミックス関連で既に利用されており、その主なものとしては、(1)粉末試料を型枠に入れ圧力を加える方法(金型プレス成形法)、(2)粉末試料に熱可塑性の有機材料を加熱混練し、型枠に注入した後に焼成する方法(射出成形法)、(3)粉末試料に少量の水分と成形剤を混練し、口金から押し出す方法(押出成形法)などが挙げられる。ハロゲン化物吸収剤においても、これらの技術を適用することによって成形した吸収剤を製造できると考えられる。しかし、これらの技術は、粉末状のハロゲン化物吸収剤を調製した後に成形加工を施すことから、成形吸収剤を製造するのには多くの手間、労力、設備、エネルギー、時間を要するという欠点があった。
【0010】
一方、既往のガス中のハロゲン化物を除去する吸収剤に関し、アルミナ粉末を加工することによって成形吸収剤を合成するという手法がある。例えば酸化ナトリウムを含有するアルミナ(特許文献3)においては、(1)再水和性アルミナ粉末とアルカリ金属塩を所定の割合で混合後、該混合粉を成形し、次いで再水和処理し、その後乾燥、焼成する、(2)再水和性アルミナを湿式成形するときに、バインダーとしての液体中にアルカリ金属塩を溶解または懸濁しておき、これを用い成形し、次いで再水和処理後、乾燥、焼成する、(3)再水和性アルミナ粉末を成形後、アルカリ金属塩またはその溶液あるいは懸濁物を付着せしめ、再水和処理後、乾燥もしくは焼成する、(4)再水和性アルミナ粉末を成形、再水和処理後、アルカリ金属塩またはその溶液あるいは懸濁物を付着せしめ、乾燥もしくは焼成する、(5)再水和性アルミナ粉末を成形、焼成後のアルミナ担体にアルカリ金属を含浸等の方法で被着せしめ、その後乾燥もしくは焼成する方法、が述べられている。
しかし、これらの方法は粉末状のアルミナ担体上にアルカリ金属塩を酸化物の形態で担持させることを目的としている。アルカリ金属塩のごく一部がアルミナ粉末の表面と反応してアルミン酸ナトリウムになる可能性もあるが、アルカリ金属塩がアルミナ粉末と完全に反応して全量がアルミン酸ナトリウムになることはあり得ず、また既往の吸収剤の技術はそれを目的としてはいない。
【0011】
以上のように、アルミン酸アルカリ、例えばアルミン酸ナトリウムを反応成分とした高性能な成形ハロゲン化物吸収剤を簡易に効率よく製造する技術はなく、発電プラントなどの大規模な反応器に適用するためのアルミン酸アルカリを含むハロゲン化物吸収剤の成形製造手法と成形ハロゲン化物吸収剤の開発が求められていた。
そこで、本発明は、ガスに含まれるハロゲン化物を乾式で除去する成形吸収剤を簡易に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。更には、本発明は、石炭等をガス化したガスを燃料電池などの精密な発電機器の燃料として利用するために、高温還元性ガスに含まれるハロゲン化物の濃度を1ppm以下のレベルまで低減可能とする成形ハロゲン化物吸収剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ガス化ガスなどの還元性ガス中に微量含まれるハロゲン化物を乾式にて高効率で除去する目的で、アルカリ金属と酸化アルミニウムの複合酸化物であるアルミン酸アルカリを含む吸収剤の成形調製法の研究・検討を行った結果、本発明に至ったものである。
すなわち、上記目的を達成するため、本発明は、アルミナゾルとアルカリ物質を含有する混合物に成形加工を施し、その後、該成形混合物を蒸発乾固・焼成することによって、アルミナゾルとアルカリ物質を反応させアルミン酸アルカリを生成させると同時に成形物を得ることを特徴とする。
【0013】
ここで、アルミナゾルに直接アルカリ物質を混合し混合物を得ることが、好ましい。
また、アルミナゾルおよびアルカリ物質に、更に耐熱性基材を混合した混合物を用いることが好ましい。
更に、本発明は上記の方法により得られる成型ハロゲン化物吸収剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、アルミン酸アルカリ、例えばアルミン酸ナトリウムを反応吸収成分とした高性能な成形ハロゲン化物吸収剤を簡易に効率よく製造することができる。
また、本発明の手法により製造した成形ハロゲン化物吸収剤を使用すれば、ハロゲン化物吸収搭の圧力損失が低減されることから、発電プラントなどの大規模なハロゲン化物吸収システムに適用することが可能となる。このような成形ハロゲン化物吸収剤は、石炭等をガス化したガスに含まれるハロゲン化物を充分低濃度に低減することが可能であり、しかもその効果は長時間維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、ハロゲン化物を除去する成分であるアルミン酸アルカリを合成する過程で、吸収剤の成形化も同時に行うことを特徴とする。
本発明の方法において、アルミン酸アルカリを合成するためのアルミナとしては、アルミナゾルが用いられる。アルミナゾルでなく、粉末のものでは、アルミナとアルカリ物質との反応が充分進まない。アルミナゾルとしては、通常、入手可能な市販のものを用いることができ、その水分量も限定されるものではない。
本発明の方法において、用いることができるアルカリ物質としては、カリウム、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属類、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属類が挙げられ、それらの水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の塩が適用可能であるが、より好ましくは炭酸ナトリウムの使用である。ハロゲン化物吸収剤を合成する際に使用するアルミナゾルとアルカリ物質の割合は、通常、アルミン酸アルカリの組成比、すなわちアルカリ金属類の場合はモル比で1:1、アルカリ土類金属類の場合はモル比で2:1とする。しかし、この割合に限定されるものではなく、アルミニウムの量が多い場合には過剰のアルミニウムはアルミナ担体として作用することが可能であり、逆にアルミニウムの量が少ない場合には過剰のアルカリ物質はその塩としてハロゲン化物除去成分の一部として作用することが可能である。
【0016】
アルミン酸アルカリとしてアルミン酸ナトリウム(NaAlO)を例に詳述すると、炭酸ナトリウム(NaCO)とアルミナゾル(Al)を混合したものを蒸発乾固、焼成することによって
NaCO+Al →2NaAlO+CO 反応式(2)
の化学反応によりアルミン酸ナトリウム(NaAlO)が合成されるが、本発明は炭酸ナトリウムとアルミナゾルを混練した段階で、未反応の状態において成形加工を実施することを特徴とする。炭酸ナトリウムとアルミナゾルの混合物は、スラリー状あるいはゾル状であるため、この混合物を型充填あるいは押し出し成形などを施すことによって容易に成形することが可能となる。この段階では炭酸ナトリウムとアルミナゾルの反応は進まず、単なる成形混合物に過ぎないが、これを蒸発乾固、焼成すると反応式(2)のアルミン酸ナトリウム生成反応が進行し、目的物であるアルミン酸ナトリウムを含有する成形吸収剤を得ることが可能となる。この技術によって、ハロゲン化物を吸収するアルミン酸ナトリウムの合成と、吸収剤を発電プラントなどで使用するための成形加工を同一工程で行うことを可能とする。
【0017】
アルミナゾルとアルカリ物質を含む混合物は、水分量が多いと、混合物の粘度が低くなりすぎ、成形することが難しく、また、成形できても、蒸発乾固の段階で成形物が砕けるという問題がおきることがあり、一方、水分量があまり少ないと、必要量のアルカリ物質を溶解することができず、また、攪拌が困難となり、好ましくない。アルカリ物質を充分溶解し、かつ、用いられる成形方法に適した粘度となるように、混合物の水分量を調整することが好ましい。混合しただけでは水分が多い場合には、混合物を空気中20〜120℃で水分調整してゲル化を進めて粘度を高めた後、成形することが好ましい。乾燥温度が20℃未満では水分調整に時間がかかり、一方、120℃を超えると混合物にムラが生じ、好ましくない。また、水分調整時間は、混合物の水分量、ならびに処理条件(温度、ヒーター容量、空気循環量、混合物の量および形状など)により、適宜、選択されるが、通常、1〜24時間程度である。
アルミナゾルとアルカリ物質の混合は、どのような方法で、行ってもよい。炭酸ナトリウムを水溶液としてアルミナゾルと混合してもよいし、アルミナゾル自体が水分を含有しているため、溶液化せずに直接加えて混合することも可能である。
【0018】
例えば市販のアルミナゾル(日産化学工業株式会社製)のアルミナ含有量は約10重量%であり、その他の成分の大半は水分である。炭酸ナトリウムの溶解度(飽和溶液中の重量%)は25℃の条件で22.7重量%であることから、市販のアルミナゾル(水分量約90重量%)1,000gには理論上264g溶解できる計算になる(1000×0.90÷0.227/(1−0.227)=264g)。この量は標準的な(これまでの特許の実施例として示している)アルミン酸ナトリウムを合成する際の炭酸ナトリウム添加量(アルミナゾル1,000gあたり104g)に比べて十分に大きいことから、アルミナゾルに炭酸ナトリウムを直接加えた場合でも均質な混合物を得ることができる。
混合後は、均一になるまで充分に攪拌する。均一に攪拌できるのであれば、攪拌方法は限定されるものではない。この混合物を、必要により、乾燥し、ゲル化して粘度を高めた後、型充填あるいは押し出し成形などにより成形した後、蒸発乾固、焼成することによって、アルミン酸ナトリウムを含む成形吸収剤を得ることが可能である。
【0019】
アルカリ物質を直接アルミナゾルに加える方法では、アルカリ物質を溶解するための水分を加えていないことから、粘性の高い混練物が得られる。そのため、ゲル化をするための乾燥時間が短縮されることとなり、条件によっては、乾燥、ゲル化しなくても、混合物を直接、成形することもできる。炭酸ナトリウムを水溶液として加えた場合に比べ、水分調整し、ゲル化して粘度を高めたとしても、そのエネルギー、時間は少なくてすみ、型充填あるいは押し出し成形などによる成形化を施しやすい。さらに、蒸発乾固、焼成によるアルミン酸ナトリウムの合成過程で水分を蒸発させるための熱量が少なくなることから、製造に要するエネルギーおよび時間が軽減されるという大きな利点もある。
【0020】
成形方法としては、上記のような型充填、押し出し成形などが挙げられるが、特に限定されるものではなくどのようなものであってもよい。成形物の形状も、特に限定されないが、球状、粒状、ペレット状、ハニカム状等が挙げられる。大きさは、例えば球状、粒状あるいはペレット状では100μm〜5mm程度のもの、ハニカム状では3〜10mm□程度のピッチのものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、ガス吸収塔に充填して用いられる通常の吸収剤と同程度のものでよい。
【0021】
成形物の蒸発乾固は、通常20〜120℃、好ましくは50〜100℃で行えばよく、蒸発乾固時間は、成形乾固物の水分量、ならびに処理条件(温度、ヒーター容量、空気循環量、成形物の量および形状など)により、適宜、選択されるが、通常、1時間〜24時間程度である。また、成形乾固物の焼成は、通常200〜900℃、好ましくは400〜800℃で行えばよく、焼成時間は、成形乾固物の水分量、ならびに処理条件(温度、ヒーター容量、空気循環量、成形乾固物の量および形状など)により、適宜、選択されるが、通常、1時間〜24時間程度である。
【0022】
また、製造される成形ハロゲン化物吸収剤の粒子強度を調節し、また塩化水素との反応性を高めるためのアルミン酸アルカリの微粒子化高分散化を目的として、吸収剤に耐熱性基材を添加することが有効である。
ここで、耐熱性基材としては高温ガスに対して化学的に安定な物質であれば特定物質に限定されるものではないが、ハロゲン化物吸収反応時の温度で壊れないもの、すなわち200℃以上、好ましくは900℃程度のガスと接しても化学的安定性を損なわない物質、たとえば酸化物系セラミックス、好ましくはアルミナ(Al)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、シリカ−アルミナのいずれかを添加することが好ましい。
この耐熱性基材の大きさや形状は特定の粒径や形状に限定されるものではないが、細かい粒子ほど好ましいと考えられる。例えば、アルミナの場合、アルミナゾル中に含まれるような大きさ(10nm〜100nm)からアルミナ粒子(平均粒径50μm程度)までの範囲での使用が好ましく、また、より細かい粒子(10nm〜100nm)と比較的大きな粒子(平均粒径50μm)とを組み合わせて使用してもよい。なお、これらのセラミックス群は、コスト面および取り扱い面においても有利である。
【0023】
このような耐熱性基材は、成形ハロゲン化物吸収剤中のハロゲン化物を吸収する成分の量が10重量%以上100重量%未満となる量を加えることができる。吸収成分の量が10重量%未満では、ハロゲン化物を吸収する能力が充分ではない。
これら耐熱性基材はアルカリ物質とアルミナゾルを混合する段階で直接添加でき、これらを混練することによって均質な混合物を得ることができる。この混合物を成形し蒸発乾固・焼成することによって、耐熱性基材上に微粒子化、高分散化したアルミン酸アルカリの成形吸収剤が得られる。すなわち、耐熱性基材の添加についても、ハロゲン化物を吸収するアルミン酸アルカリの合成と同一工程で行うことが可能となる。
【0024】
耐熱性基材そのものはハロゲン化物の吸収性能を有していないが、その添加によって吸収物質が微粒子化、高分散化される。ハロゲン化物吸収反応は固体の吸収物質と気体のハロゲン化物の接触により進行するため、吸収物質の微粒子化高分散化は反応性の向上をもたらし、その結果吸収剤の性能が向上する。
【0025】
本発明の製造方法により得られる成型ハロゲン化物吸収剤において、生成するハロゲン化物吸収物質は、アルカリ物質として炭酸ナトリウムを用いた場合には、アルミン酸ナトリウム(NaAlO2 )(別称:酸化ナトリウムアルミニウム(Na2 O・Al2 3 ))であることが、X線回折による分析で確認できた。原料であるアルカリとアルミニウムの割合を変化させるとアルミン酸アルカリ以外の化学形態が含まれる場合もあるが、前記アルミン酸アルカリのハロゲン化物に対する除去能を大きく阻害しない範囲内において含みうる。
【0026】
本発明に係る成形ハロゲン化物吸収剤は、概略200℃以上の温度でガス化ガス中のハロゲン化物と反応し、吸収成分である、例えば、アルミン酸ナトリウム、場合により共存する未反応の炭酸ナトリウムはハロゲン化ナトリウムに転化する。ガス化ガス中のハロゲン化物が塩化水素、フッ化水素の場合、反応により塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化ナトリウム(NaF)が生成する。この化学反応の進行により、ガス化ガス中のハロゲン化物を、長期間にわたり、例えば1ppm以下まで除去することが可能となる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1:水溶液混合、成形)
ナトリウムおよびアルミニウムを含む成形ハロゲン化物吸収剤を以下の方法により製造した。
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製炭酸ナトリウム)106gを蒸留水に溶かして全量を400mlとした水溶液に、アルミナを10重量%含むアルミナゾル(日産化学工業株式会社製アルミナゾル:商品名アルミナゾル-200)1020gを撹拌しつつ少量ずつ添加した。混合物を空気中60℃で4時間水分調整してゲル化を進めて粘度を高めた後、混合物を直径3mmφの貫通孔を多数設けた厚さ3mmのポリプロピレン製のプレートに充填した。貫通孔に充填したゲル状混合物をプレートごと60℃で24時間蒸発乾固し、得られた成形乾固物を700℃で4.5時間焼成することによって、直径2.6mmφ、高さ2.6mmのアルミン酸ナトリウムから成るハロゲン化物吸収剤ペレットを得た。
【0029】
(実施例2:直接混合、成形)
ナトリウムおよびアルミニウムを含む成形ハロゲン化物吸収剤を以下の方法により製造した。
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製炭酸ナトリウム)106gを、アルミナを10重量%含むアルミナゾル(日産化学工業株式会社製アルミナゾル:商品名アルミナゾル-200)1020gに撹拌しつつ少量ずつ添加した。撹拌は、混合物中に白色粒子がなくなり、均一なゾル状になるまで実施した。混合物を直径3mmφの貫通孔を多数設けた厚さ3mmのポリプロピレン製のプレートに充填した。貫通孔に充填したゲル状混合物をプレートごと60℃で24時間蒸発乾固し、得られた成形乾固物を700℃で4.5時間焼成することによって、直径2.2mmφ、高さ2.2mmのアルミン酸ナトリウムから成るハロゲン化物吸収剤ペレットを得た。
【0030】
(実施例3:水溶液混合、耐熱性基材添加、成形)
ナトリウムおよびアルミニウム、さらに耐熱性基材としてアルミナ(Al)を含む成形ハロゲン化物吸収剤を以下の方法により製造した。
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製炭酸ナトリウム)106gを蒸留水に溶かして全量を400mlとした水溶液に、アルミナを10重量%含むアルミナゾル(日産化学工業株式会社製アルミナゾル:商品名アルミナゾル-200)1020gを撹拌しつつ少量ずつ添加し、更にアルミナ粒子(和光純薬工業株式会社製アルミナ、平均粒径50μm)102gを添加し、均一なゾル状になるまで撹拌した。混合物を空気中60℃で4時間水分調整してゲル化を進めて粘度を高めた後、混合物を直径3mmφの貫通孔を多数設けた厚さ3mmのポリプロピレン製のプレートに充填した。貫通孔に充填したゲル状混合物をプレートごと60℃で24時間蒸発乾固し、得られた成形乾固物を700℃で4.5時間焼成することによって、直径2.6mmφ、高さ2.6mmのアルミン酸ナトリウムと耐熱性基材(アルミナ)から成るハロゲン化物吸収剤ペレットを得た。
【0031】
(成形ハロゲン化物吸収剤の含有物質評価)
上記、実施例1、2、3に示した方法で製造した成型ハロゲン化物吸収剤について、X線回折分析により含有物質の化合物形態を同定した。図1に測定結果を示す。この回折像には、アルミン酸ナトリウム(NaAlO)のピーク(図中◆)が確認された。他の物質については、実施例3の成型ハロゲン化物吸収剤において耐熱性基材として加えたアルミナ(Al)のピーク(図中△)が確認されたのみであった。原料の炭酸ナトリウム(NaCO)は2θ=30、35、38、41degなどにピークを有する物質であるが、いずれのX線回折像にも顕著なピークが確認されないことから、原料の炭酸ナトリウムは全て反応してアルミン酸ナトリウムに変化したことがわかる。すなわち、本発明のハロゲン化物吸収剤の成形製造手法により、アルミン酸ナトリウムから成る成型ハロゲン化物吸収剤が製造されることを確認した。
【0032】
(ハロゲン化物除去性能評価)
上記、実施例で得られたアルミン酸ナトリウム主成分のハロゲン化物吸収剤の性能を、固定床流通式反応装置にて表1の条件で評価した。図2に評価結果を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1のアルミン酸ナトリウムから成る成型ハロゲン化物吸収剤は、反応開始後約30分間にわたって石炭ガス化を想定した高温のガス化ガスに含まれる200ppmの塩化水素を1ppm以下まで除去できることがわかる。その後、次第に塩化水素濃度が上昇するが、この現象は反応の進行に伴って吸収剤の反応速度が低下し、ガス中の塩化水素が十分に反応する前に吸収剤層を通過するためである。
【0035】
実施例3の耐熱性基材を添加した成形ハロゲン化物吸収剤では、実施例1に比べて塩化水素除去性能が向上し、反応開始後約450分間にわたって石炭ガス化を想定した高温のガス化ガスに含まれる200ppmの塩化水素を1ppm以下まで除去した。評価試験では固定床反応管に充填したナトリウム量を揃えたので、この性能向上は吸収剤中のアルミン酸ナトリウムが塩化水素の低濃度除去により有効に作用したことを意味する。耐熱性基材を調製時に添加することによって、成形ハロゲン化物吸収剤が多孔質かつ微粒子化した構造となり、反応物質であるアルミン酸ナトリウムがガス中の塩化水素と反応しやすくなった効果によるものである。その結果、耐熱性基材を添加した成形ハロゲン化物吸収剤は反応速度が大きくなり、ガスが吸収剤層を通過する際にアルミン酸ナトリウムと塩化水素との反応が十分に進行したと考えられる。
このように、アルミン酸ナトリウムを反応成分とする成形ハロゲン化物吸収を製造することができ、得られた成形ハロゲン化物吸収剤が石炭ガス化ガスなどの高温還元性ガス中のハロゲン化物をきわめて低濃度まで吸収除去する事が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法により得られる成形ハロゲン化物吸収剤は、発電プラントなどの大規模な反応器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の成形ハロゲン化物吸収剤の含有物質を同定するためのX線回折像を示す図である。
【図2】本発明の成形ハロゲン化物吸収剤の性能を評価する試験における反応器出口ガス中の塩化水素濃度の時間変化を示す図である。
【図3】本発明の成形ハロゲン化物吸収剤の製造フローを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナゾルとアルカリ物質を含有する混合物に成形加工を施し、その後、該成形混合物を蒸発乾固・焼成することによって、アルミナゾルとアルカリ物質を反応させアルミン酸アルカリを生成させると同時に成形物を得ることを特徴とするアルミン酸アルカリを含有する成型ハロゲン化物吸収剤の製造方法。
【請求項2】
アルミナゾルに直接アルカリ物質を混合し混合物を得る請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルミナゾルおよびアルカリ物質に更に耐熱性基材を混合した混合物を用いる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる成型ハロゲン化物吸収剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−95423(P2006−95423A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284467(P2004−284467)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】