説明

成長促進剤

【課題】
遺伝子組み換えによる、植物体の矮性化の抑制作用及び植物体の成長の促進作用を有する新規の成長促進剤、及び新たな植物体の成長促進方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
熱ショックタンパク質(HSP70やDnaK)をコードする核酸を成長促進剤の有効成分として使用することで、熱ショックタンパク質以外のタンパク質をコードする核酸と共に植物体ゲノムに遺伝子を導入した際に成長促進作用を示し、また遺伝子導入によって頻出する矮性化の抑制作用を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱ショックタンパク質をコードする核酸を有効成分とする成長促進剤又は該核酸の成長促進剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein;以下「HSP」と記載する)は、高温ストレスに伴って、その発現が誘導されるタンパク質であり、分子シャペロンと呼ばれる一群のタンパク質として知られている。HSPは、原核生物から真核生物まで多くの生物種にわたって広くその存在が認められており、例えば、(1)分子量約15kDa〜約30kDaの小HSP(small HSP)、(2)分子量約60kDaのHSP60タンパク質又はGroELタンパク質(「HSP60」の名称は、真核生物における名称であり、「GroEL」の名称は、原核生物における名称である)、及び(3)分子量約70kDaのHSP70タンパク質又はDnaKタンパク質(「HSP70」の名称は、真核生物における名称であり、「DnaK」の名称は、原核生物における名称である)が知られている。
【0003】
HSPの機能に関しては、高温耐性との関連性が指摘されているものの、現在も研究途上にあり、あまり多くは解明されていない。
【0004】
植物におけるHSPの機能を研究した例としては、タバコにおいて、アンチセンス法によりHSP60タンパク質の発現を抑制すると、異常な表現型を示すことが知られており(非特許文献1)、また、シロイヌナズナにおいて、アンチセンス法によりHSP70タンパク質の発現を抑制すると、異常な表現型を示すことが知られている(非特許文献2)。また更に、シロイヌナズナにおいて、熱ショック遺伝子の転写を制御する遺伝子を抑制することにより、HSP70タンパク質の発現量が増加し、シロイヌナズナが高温耐性を獲得したことが知られている(非特許文献3)。更には、クリの木(chestnut)由来の小HSPをコードする遺伝子を大腸菌に導入し、前記タンパク質を大腸菌中で発現させると、大腸菌が高温耐性を獲得したことが知られている(非特許文献4)。
【0005】
また、高温耐性以外の環境ストレス(例えば、高塩、乾燥、又は強光)耐性と、分子シャペロンとの関連性については、たとえばDnaK及びHSP70が、耐塩性、耐乾燥性などに関与していることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
また更に、特段のストレスを植物体に対して与えない環境下において、HSP70が重要な働きをしている旨が特許文献2に記載されている。しかし、HSP70が植物の成長を促進することは記載されておらず、また示唆もされていない。
【0007】
一方、動物におけるHSPの機能を研究した例としては、哺乳動物の成長をHSPが促進した旨が知られているが、このような成長促進には、動物特有のタンパク質p53とガン化制御機能が関与していることが記載されている。しかし、動物固有のタンパク質を有しない植物においてはHSPが成長を促すという発明は記載されておらず、またその示唆もされていない。
【0008】
【特許文献1】特開2001-78603号公報
【特許文献2】米国公開特許2002/0053097号公報
【非特許文献1】Plant J., 6, 425-432(1994)
【非特許文献2】Mol. Gen. Genet., 252, 11-19(1996)
【非特許文献3】Plant J., 8, 603-612(1995)
【非特許文献4】Plant Physiol., 120, 521-528(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
遺伝子組換植物は、組換によりその成長性が悪化する問題があり、その解決策となる技術の開発が大いに望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題の解決をするために、鋭意検討を行った結果、驚くべきことにHSPを導入した組換植物は、組換を行っていない植物と比して、ストレスを与えない条件下においても優れた成長を示すことを見いだし、HSPを成長促進剤とすることにより本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
1.熱ショックタンパク質をコードする核酸を有効成分として含有する成長促進剤。
2.下記(a)〜(d)のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸を有効成分として含有する成長促進剤。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号1〜721からなるアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号116〜721からなるアミノ酸配列
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号164〜721からなるアミノ酸配列
(d)(a)〜(c)の配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位を有するアミノ酸配列
3.熱ショックタンパク質をコードする核酸の、成長促進剤としての使用。
4.更に光合成の制御に関与するタンパク質・酵素、植物体のサイズを制御するタンパク質・酵素、根の伸展を促進するタンパク質・酵素、植物体の成長を促進するタンパク質・酵素、RNAの安定性を向上させるタンパク質・酵素からなる群から選択される一以上のタンパク質をコードする核酸又はアンチセンス配列を含むことを特徴とする1〜3に記載の成長促進剤。
5.下記(a)〜(d)のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸の、成長促進剤としての使用。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号1〜721からなるアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号116〜721からなるアミノ酸配列
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号164〜721からなるアミノ酸配列
(d)(a)〜(c)の配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位を有するアミノ酸配列
6.熱ショックタンパク質をコードする核酸を、植物細胞内のゲノムに導入し、前記核酸を導入したゲノムを含む植物細胞を育種することを特徴とする植物の成長促進方法。
【0012】
なお、本明細書において、「植物」とは、生物を微生物、植物、及び動物の3つに分類した場合の前記植物を意味し、植物体(すなわち、植物全体)及びその一部(例えば、花、葉、茎、根、若しくは種子、又は組織)が含まれる。また、「植物細胞」には、既に分化した植物の細胞・組織の他、例えば、未分化な植物の細胞又は未分化な植物の組織培養物、或いはプロトプラスト、カルス(細胞集塊)、不定胚、不定芽が含まれる。
また、「育種」とは、生育させること、培養することなど、植物細胞を増殖、分化、肥大化、伸長等、成長させる行為を指称して使用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、HSPの成長促進剤としての新たな用途が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明を実施するための最良の形態により、本発明を詳説する。
1.本発明成長促進剤
本発明成長促進剤は、HSPをコードする核酸を有効成分として含有する。
本発明成長促進剤における「HSP」とは、小HSP(例えばMol. Gen. Genet., 219, 365-372(1989)記載のHSP17.4タンパク質やHSP18.2タンパク質など)、HSP60タンパク質(例えばPlant Mol. Biol., 18, 873-885記載のHSP60タンパク質など)、GroELタンパク質(例えばPlant J., 10, 1119-1125(1996)記載のCPN10タンパク質など)、HSP70タンパク質(例えばPlant Mol. Biol., 25, 577-583(1994)記載のHSC70タンパク質、Plant Physilo., 88, 731-740(1988)記載のHSP70-1タンパク質、HSP70-2タンパク質、HSP70-3タンパク質、Plant Cell Physiol., 37, 862-865(1996)記載のBiPタンパク質など)DnaKタンパク質、HSP90(Plant Physiol., 99, 383-390(1992)記載のHSP81-1タンパク質、HSP81-2タンパク質、HSP81-3タンパク質、Plant Mol. Biol., 35, 955-961(1997)記載のHSP81-4タンパク質、HSP88.1タンパク質、HSP89.1タンパク質など)、HSP100(Plant Cell, 6, 1899-1909(1994)記載のHSP101タンパク質など)のいずれも使用することが可能であるが、DnaKタンパク質及びHSP70タンパク質であることが好ましい。DnaKタンパク質であることが好ましく、特に耐塩性ラン藻又はバクテリアのDnaKタンパク質が好適である。
HSP70タンパク質としては、真核生物のHSP70タンパク質を用いることができ、例えば、動物、植物、又は真菌(例えば、カビ、酵母、又はキノコなど)のHSP70タンパク質が例示される。
【0015】
これらのタンパク質の中でも耐塩性ラン藻類のDnaKタンパク質が特に好ましい。前記耐塩性ラン藻としては、耐塩性を有するラン藻である限り、特に限定されるものではないが、例えば、NaCl濃度が0.25mol/L〜3mol/Lの条件下での生育可能な高塩耐性ラン藻、例えば、アファノティーキ・ハロフィチカを挙げることができる。耐塩性ラン藻の1種であるアファノティーキ・ハロフィチカのDnaKタンパク質は、全体として721個のアミノ酸残基からなり、耐塩性ラン藻以外の原核生物(例えば、大腸菌又は淡水性ラン藻)のDnaKタンパク質、あるいは、真核生物のHSP70タンパク質と異なり、カルボキシル基末端(C末端)に約100個のアミノ酸残基からなる余分のアミノ酸配列を有する。アファノティーキ・ハロフィチカのDnaKタンパク質は、高塩濃度においても、他のタンパク質が正しくアッセンブリーするのを介在する特性を有することが知られている。アファノティーキ・ハロフィチカのDnaKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。このようなDnaKタンパク質をコードする核酸を植物細胞のゲノムに導入すると、後述の成長促進効果の確認方法によって評価した成長促進効果が、本発明成長促進剤を用いない植物と比して50%以上増加する。本発明成長促進剤に有効成分として使用する核酸は、50%以上、好ましくは65%以上、最も好ましくは80%以上の成長促進効果を有する核酸であることが好ましい。
【0016】
ところで天然に存在するタンパク質には、それをコードするDNAの多型や変異の他、生成後のタンパク質の細胞内及び精製中の修飾反応などによってそのアミノ酸配列中にアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位等の変異が起こりうる。この様な変異にもかかわらず変異を有しないタンパク質と実質的に同等の生理、生物学的活性を示すものがあることが知られている。このように構造的に若干の差違があってもその機能については大きな違いが認められないタンパク質も、本発明成長促進剤の有効成分である核酸がコードするアミノ酸配列に包含される。人為的にタンパク質のアミノ酸配列に上記のような変異を導入した場合も同様であり、この場合にはさらに多種多様の変異体を作製することが可能である。例えば、ヒトインターロイキン2(IL-2)のアミノ酸配列中の、あるシステイン残基をセリンに置換したポリペプチドがインターロイキン2活性を保持することが知られている(Science,224,1431(1984))。また、ある種のタンパク質は、活性には必須でないペプチド領域を有していることが知られている。例えば、細胞外に分泌されるタンパク質に存在するシグナルペプチドや、プロテアーゼの前駆体等に見られるプロ配列などがこれにあたり、これらの領域のほとんどは翻訳後、又は活性型タンパク質への転換に際して除去される。このようなタンパク質は、一次構造上は異なった形で存在しているが、最終的には同等の機能を有するタンパク質である。
【0017】
同様に、DnaKタンパク質及びHSP70タンパク質には、天然体のDnaKタンパク質及びHSP70タンパク質が含まれることは勿論のこと、変異体、遺伝子工学的に得られるリコンビナントタンパク質、あるいは、アミノ酸配列が、DnaKタンパク質又はHSP70タンパク質のアミノ酸配列において1又はそれ以上(好ましくは1又は数個)のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列である変異タンパク質も含まれる。なお、本明細書における「数個」とは、アミノ酸配列全体のアミノ酸数の7%の整数個、好ましくは5%の整数個、より好ましくは3%の整数個を指称する。例えば721個のアミノ酸からなるアミノ酸配列の場合においては50個、好ましくは36個、より好ましくは21個を示す。
【0018】
ところで、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼは、フレーム内に2つのATGコドンを含むことが知られている(Nakazawa, K. et al. (1988) J.Biochem, 104, 165-168、Shaper, N. et al. (1988) J. Biol. Chem., 263, 10420-10428)。また、Shaperらは、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼは、2箇所からの翻訳開始の結果、長いものと短いものとの両方の形態が合成されることを示している。このように自然界に存在するアミノ酸には、同一遺伝子由来であっても異なる大きさのタンパク質が存在することが知られている。同様に、例えばDnaKについても、複数のATGコドンが開始コドンとして機能する可能性はある。しかし、いずれのATGコドンが開始コドンであっても、上記のDnaKタンパク質をコードする点では同じであり、第2番目、第3番目のATGコドンから始まる塩基配列を有する核酸も本発明成長促進剤に使用することができる。従って、DnaKタンパク質は配列番号2記載のアファノティーキ・ハロフィチカのアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜721からなるアミノ酸配列の他、アミノ酸番号116〜721からなるアミノ酸配列や、アミノ酸番号164〜721からなるアミノ酸配列も包含する。
【0019】
本発明成長促進剤における「核酸」とは、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)が例示されるが、本発明成長促進剤の保存安定性及び使用時の安定性が優れるためDNAであることが好ましい。また、これらの核酸は1本鎖(例えばDNAは、前記HSPのセンス鎖又はアンチセンス鎖の何れか一方)であると2本鎖(前記センス鎖及びアンチセンス鎖の対合体)であるとを問わないが、核酸の安定性が優れるため2本鎖であることが好ましい。例えば上記アファノティーキ・ハロフィチカのアミノ酸配列(配列番号2記載)をコードするDNAの塩基配列としては、配列番号1記載の塩基配列のうち、塩基番号1〜2166からなる塩基配列が挙げられる。また、配列番号2のアミノ酸番号116〜721からなるアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列としては、配列番号1記載の塩基配列のうち塩基番号345〜2166からなる塩基配列が挙げられる。さらに、配列番号2のアミノ酸番号164〜721からなるアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列としては、配列番号1記載の塩基配列のうち塩基番号490〜2166からなる塩基配列が挙げられる。なお、1つのアミノ酸に対応するコドン(アミノ酸に対応する塩基配列)は複数存在することは、当業者にとっては周知である。したがって、例えば配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号1記載の塩基配列に限定して解釈されないことは、当業者にとっては容易に理解しうることである。
【0020】
また、このような塩基配列からなる核酸(例えばDNA)は、それを構成する塩基配列に1又は複数の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有していても良い。かかる変異が起こっていても、それがコードするアミノ酸配列に与える変異の影響は小さく、本発明成長促進剤の成長促進効果が保持される限り(湿潤重量の測定による成長度が30%以上保持されることが好ましい)においてアミノ酸配列に変異を与えても良いからである。かかる塩基配列は、配列番号1記載の塩基配列からなる核酸(DNA又はRNA)に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸が例示される。
【0021】
なお、「ストリンジェントな条件」とは、例えば50%ホルムアミド、5×SSPE(20×SSPE:2.97mol/L NaCl、0.2mol/L NaH2PO4・H2O、0.025mol/L EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含むpH7.4の水溶液)、5×デンハルト溶液(100×デンハルト液:1gのフィコール400(ファルマシア社製)、1gのポリビニルピロリドン(PVP-360:シグマ社製)、1gのBSAフラクションV(牛血清アルブミン:シグマ社製)を50mlの水に溶解した水溶液)、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の存在下、42℃で16時間のインキュベート、更にその後の0.1%SDSを含む1×SSPE、0.1%SDSを含む0.1×SSPEによる55℃での順次洗浄を行う条件又はこれと核酸のハイブリダイズにおいて同等の機能の条件を指称する。このような条件下で、あるDNAにハイブリダイズする塩基配列からなるDNAは、あるDNAに対して少なくとも70%以上の相同性を有すると考えられ、たとえば2166塩基からなるDNAにおいては1527塩基以上の塩基配列が共通していることになる。
かかる核酸は、成長促進剤として使用することができる(このような使用を「本発明使用」という)。
また、上記核酸は、本発明により植物体内において糖の含有量の増加を促す働きを有することが明らかとなったため、糖蓄積促進剤の有効成分としても使用することができる。
【0022】
本発明成長促進剤は、更にHSP以外のタンパク質をコードする核酸を含んでいることが好ましい。すなわち、本発明成長促進剤は遺伝子組換植物における成長性の不良を改善(矮性化防止)するための発明であるため、HSP以外のタンパク質をコードする核酸を同時にゲノムに導入する際の使用が想定されるからである。かかる「HSP以外のタンパク質」としては、例えば光合成の促進に働く酵素等の遺伝子(例えばホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(特開平10-248419号公報)等)、不稔性を付与するアンチセンス配列(Bgpl(国際公開公報WO9413809)、MS2(米国特許第5932784号公報)等)、植物体のサイズを制御する遺伝子(BON1(米国公開2002/0194639号公報)、BAP1(米国公開2002/0194639号公報)等)、根の伸展を促進する遺伝子(プロリン輸送因子の遺伝子(ProT:例えばPlant Cell Physiol., 42(11), 1282-1289(2001)記載)、フルクトース1,6二リン酸アルドラーゼ遺伝子(米国特許第6441277号公報)等)、植物体の成長を促進する遺伝子(サイクリン遺伝子(米国特許第6166293号公報)等)、RNA(mRNA)の安定性を向上させるタンパク質の遺伝子(HVD1遺伝子(特開2002-34576号)等)等が例示されいずれも使用することが可能である。このような「HSP以外のタンパク質」はHSPとの融合タンパク質として発現する様に構築されていても良く、また別個のタンパク質として発現するように構築されていても良い。
【0023】
かかる本発明成長促進剤に含まれる上記核酸は、核酸単体の状態で存在していても良いが、核酸の安定性を高めるために、例えば本発明成長促進剤の使用に際して用いられる組換ベクターに導入した状態で存在することが好ましい。このような組換ベクターの例としては、例えばバイナリーベクターpBI121(Methods Enzymol., 118, 6270640(1986)記載)、pCIAMBIA、pE21-Ω-MCS等が挙げられ、既存の組換ベクターを使用することが可能である。かかる組換ベクターは、本発明成長促進剤により成長を促進する、対象植物のゲノムへの導入効率を考慮して適当な組換ベクターを当業者であれば適宜選択して使用することが可能である。
【0024】
組換ベクターに核酸を導入場合には、導入する核酸の上流及び下流に、それぞれ、対象とする植物細胞内で機能するプロモーター及びターミネーターを挿入することが好ましく、また、形質転換体を得る際に有効な選択マーカーとして適当なDNAを挿入することが好ましい。
【0025】
前記プロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターを挙げることができる。前記ターミネーターとしては、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)由来のターミネーターを挙げることができる。前記選択マーカーとしては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT遺伝子)等を挙げることができる。
【0026】
本発明成長促進剤の剤型は、液状、微粉状、ペースト状等が例示されるが、本発明成長促進剤に含まれる核酸の安定性を害せず、また後述する使用例に使用できる限りにおいて他の剤型も採用しうる。
【0027】
2.本発明成長促進方法
本発明成長促進方法は、HSPをコードする核酸を、植物細胞内のゲノムに導入し、前記核酸を導入したゲノムを含む植物細胞を生育させることを特徴とする。
本発明成長促進方法における、「HSP」及び「核酸」は前記「1.本発明成長促進剤」で記載したものと同様である。
【0028】
本発明成長促進方法における「植物細胞」は、被子植物又は裸子植物の細胞のいずれでもよく、双子葉植物又は単子葉植物の細胞のいずれでもよく、また、草本生殖物又は木本生殖物のいずれでもよい。例えば、草本性植物としては、例えば、穀類植物、芝草類、又は野菜類を挙げることができ、木本性植物としては、例えば、常緑広葉樹、落葉広葉樹等を挙げることができる。
【0029】
前記芝草類としては、例えば、イネ科芝草[例えば、スズメガヤ亜科(例えば、シバ類又はバーミューダーグラス類)、ウシノケグサ亜科(例えば、ベントグラス類、ブルーグラス類、フェスク類、又はライグラス類)、又はキビ亜科]、カヤツリグサ科芝草、キク科芝草、又はマメ科芝草を挙げることができる。前記穀類植物としては、例えば、イネ科植物、例えば、イネ、ライムギ、オオムギ、コムギ、キビ、モロコシ、サトウキビ、トウモロコシ・ポップコーン、又はハトムギを挙げることができる。前記野菜類としては、例えば、ナス科植物(例えば、タバコ、ナス、ジャガイモ、トマト、若しくはトウガラシ)又はゴマ科植物(例えば、ゴマ)を挙げることができる。
【0030】
前記常緑広葉樹としては、例えば、ユーカリ、アカシア、又はコーヒーを挙げることができる。前記落葉広葉樹としては、例えば、ポプラ、クヌギ、ヤナギ、シラカバ、又はコナラを挙げることができる。
【0031】
また一般に観葉植物と知られている植物(例えばリュウゼツラン科、サトイモ科、ヤシ科、ウコギ科、クワ科、ガガイモ科、キツネノマゴ科、キョウチクトウ科、クズウコン科、ヒノキ科、ミカン科、パンヤ科、タコノキ科、バショウ科、トウダイグサ科、モクセイ科、ツユクサ科、パイナップル科、ベンケイソウ科、リュウケツジュ科、ヤナギ科等の植物、シダ植物等)に対しても本発明促進方法は有用である。
【0032】
かかる植物細胞の中でも、イネ科植物、ユーカリ、アカシア、ポプラの細胞が好ましく、特にユーカリ、ポプラの細胞が好ましいが、成長を促す限りにおいてこれらの植物に特に限定はされない。
【0033】
かかる植物細胞内のゲノムへの核酸導入方法は、公知の発現ベクター(pBI121など)を用いることで、例えば目的の遺伝子を含むベクターを有するアグロバクテリウムを、植物組織に感染させる方法、ポリエチレングリコール処理法、プロトプラストに電気パルス処理して前記ベクターを導入するエレクトロポレーション法、あるいは、金粒子に前記ベクターを乗せて植物組織に導入するパーティクルガン法などの常法を用いることができる。
【0034】
前記方法により形質転換された植物細胞を、適当な培地[例えば、ムラシゲ・スクーグ(Murashige and Skoog)培地;Plant Physiol., 15, 473-497(1962)]で生育させ、再生することにより、形質転換植物を得ることができる。この際、選択マーカーに対応する適当な抗生物質(例えば、カナマイシン)を培地に加えておくと、形質転換体を選択することができる。
【0035】
例えば、イネ科芝草(例えば、ノシバ又はベントグラス)に、DnaKタンパク質又はHSP7-タンパク質をコードするDNAを導入する場合には、以下に示す手順により実施することができる。
【0036】
前記ポリエチレングリコール処理法による導入は、例えば、以下のようにして行うことができる。1〜100μg/mlのベクターと、105〜106個/mlのプロトプラストとを、浸透圧調節剤として0.4〜0.6mol/Lのマンニトール等を含む緩衝液等の液体媒体中に懸濁する。これにポリエチレングリコール溶液を最終濃度10〜30%になるように加え、室温で5〜30分間放置した後、ポリエチレングリコールを希釈することにより、遺伝子をプロトプラスト中に導入する。
【0037】
前記エレクトロポレーション法による導入は、例えば、以下のようにして行うことができる。1〜100μg/mlのベクターと、105〜106個/mlのプロトプラストとを、浸透圧調節剤として0.4〜0.6mol/Lのマンニトール等を含むバッファー等の液体媒体中に懸濁する。これに電界強度300〜600V/cm時定数10〜50msからなる電気パルスを印加して電気的刺激を加え、遺伝子をプロトプラスト中に導入する。
【0038】
前記パーティクルガン法による導入は、例えば、以下のようにして行うことができる。細胞集塊(0.3〜0.5ml程度)を、ろ紙上に均一に展開・吸着させる。そしてベクターを塩化カルシウムとスペルミジンとを用いて吸着させた直径0.1〜5μmの金属粒子を用意し、パーティクルガンで800〜1500PSIの空気圧あるいは火薬の爆発時の圧力により細胞集塊に打ち込み導入する。金属粒子には、タングステン又は金などを用いることができる。
【0039】
遺伝子導入処理後のプロトプラストは、植物の組織培養培地、例えば、N6培地、R2培地、K8p培地、又はAA培地等に植物生育調節物質、例えば、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ナフタレン酢酸等のオーキシン類及びカイネチン等のサイトカイニン類を添加した液体又は固形培地により培養する。培養は暗所で行い、温度としては20〜30℃が好ましい。前記培養により、遺伝子が導入されたプロトプラストから細胞集塊が形成される。
【0040】
遺伝子導入処理後の脱分化状態の細胞集塊を、植物の組織培養培地、例えば、N6培地、R2培地、K8p培地、又はAA培地等に植物生育調節物質、例えば、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ナフタレン酢酸等のオーキシン類及びカイネチン等のサイトカイニン類を添加した液体又は固形培地により培養する。培養は暗所で行い、温度としては20〜30℃が好ましい。更に、14〜40日間隔で新鮮培地に継代し、培養を継続する。培養は明所で行うのが好ましい。培養開始24〜48日で不定胚又は不定芽が得られる。
【0041】
前記不定胚又は不定芽を、植物体再生培地、例えば、N6培地、R2培地、MS培地、又はLS培地等に植物生育調節物質、例えば、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ナフタレン酢酸等のオーキシン類及びカイネチン等のサイトカイニン類を添加した培地により培養する。14〜40日間隔で新鮮培地に継代し、培養を継続する。培養は明所で行うのが好適である。培養開始24〜48日で形質転換植物体が得られる。
【0042】
このようにして得られた植物体は、通常の生育条件下において、本発明成長促進方法を用いないで生育させた植物体と、下記の方法により生育度を比較した場合に、生育促進効果が観察される。
【0043】
本発明成長促進方法の効果の確認は、例えば下記の手法によって行うことができ、好ましい。
すなわち、HSPを含まないベクターを組み込んだ陰性対象植物と成長促進対象の植物とを、生育させ、同一の生育期間が経過した植物体の全部又はその一部を採取してその湿潤重量を測定して対比する方法、又は植物体全部又はその一部を採取して乾燥重量を測定して対比する方法が挙げられる。
本発明促進方法によると、上記測定方法に従うと30%以上(好ましくは40%以上、最も好ましくは50%以上)の成長促進作用が得られる。
【0044】
3.本発明成長促進剤の使用方法
本発明成長促進剤は、これを植物細胞のゲノムに公知の手法により導入し、導入後のゲノムを有する植物体を培養又は生育させることにより使用することができる。
本発明成長促進剤の植物細胞のゲノムへの導入は、それ自体公知の方法により行うことができる。かかる方法としては、「2.本発明成長促進方法」に記載したアグロバクテリウムを植物組織に感染させる方法、ポリエチレングリコール処理法、エレクトロポレーション法、及びパーティクルガン法などが挙げられ、いずれも組換ベクターを用いる方法である。
【0045】
コードする核酸が組換ベクターに挿入されているHSPを本発明成長促進剤に使用する場合は、かかる核酸が組み込まれた組換ベクター又は成長促進対象の植物に併せて調製したベクター(「HSPをコードする核酸」を公知の方法で切り出して単離し、成長促進対象の植物に併せて選択した組換ベクターに公知の手法により導入して構築することができる)を用いることができる。
本発明成長促進剤の使用対象となる植物は、「2.本発明成長促進方法」に記載した植物と共通である。
【0046】
植物細胞への組換ベクターの導入は、予め組み換えベクターに組み込んでおいたマーカー遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT遺伝子)等の表現系を用いて確認することができる。例えば、NPTII等の抗生物質耐性遺伝子をマーカー遺伝子として利用した場合には、組み換え後に耐性遺伝子に対応する抗生物質を含む培地で植物細胞を培養し、かかる培地で生育する植物細胞を選択することでゲノムへの遺伝子の導入がなされた株を得ることができる。
かかる選択された株の育成は、当業者であれば適宜好適な条件下で行うことができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1:本発明成長促進剤の製造
アファノティーキ・ハロフィチカのDnaK遺伝子を有するプラスミドpEADK1[Plant Mol. Biol., 35, 763-775(1997)]から、DnaK遺伝子を含むXbaI/BamHI断片(すなわち、制限酵素XbaI及びBamHIによる消化で得られるDNA断片)を切り出し、バイナリーベクターpBI121のXbaI/BamHI認識部位に導入した。この操作により、バイナリーベクターにおけるカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターとノパリン合成酵素(NOS)由来のターミネーターとの間に、アファノティーキ・ハロフィチカのDnaK遺伝子が導入されたpBI121-ADKが得られた。このプラスミドpBI121-ADKは、前記バイナリーベクターpBI121に由来するカナマイシン耐性遺伝子(NPTII)を選択マーカーとして有している。
このようにして得られたpBI121-ADKを凍結乾燥製剤の本発明成長促進剤1とした。
【0048】
pBI121-ADKはイネ、ムギ等のイネ科植物、タバコ等のナス科植物、ノシバ等の芝植物、その他様々な植物(観葉植物等に対しても)に広く汎用的な本発明成長促進剤に利用することができる。
【0049】
また、上記pBI121に挿入する前のDnaK遺伝子の上流にXbaIの粘着末端を連結したHVD1遺伝子を常法に従って連結させ、pBI121に導入して得られるpBI121-ADKHDを凍結乾燥して本発明成長促進剤2を得ることができる。また、同様の手法を用いて、ProT遺伝子を用いた本発明成長促進剤3(得られた組換ベクターは、pBI121-ADKPT)を得ることができる。
【0050】
同様にかずさDNA研究所から入手したシアノバクテリア由来の小HSP sHSPを組み込んだpBI121-SHを含む本発明成長促進剤2を、同様にHSP60を組み込んだpBI121-H6を含む本発明成長促進剤3を調製することができる。
【0051】
実施例2:本発明成長促進剤のイネへの使用
実施例1で得られた本発明成長促進剤1を、トリペアレンタルメイティング(triparental mating)により、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)EHA101株に保持させた。この際、ヘルパープラスミドとしては、pRK2013[Nucleic Acid Res., 12, 8711-8721(1984)]を使用した。続いて、イネ(Oryza sativa L. Notohikari)の葉から切り出した円形葉片(leaf disk)に対して、本発明成長促進剤含有アグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いて形質転換処理を行った。3%スクロース及び50μg/mlカナマイシンを含有するムラシゲ・スクーグ寒天培地[Plant Physiol., 15, 473-497(1962)]上で無菌的に生長させ、合計250個の植物個体が得られた。この中から15種類の独立した形質転換体(F0)を選び、種子を採取した。15種類のF1の中から、DnaK-mRNAの発現量が多い4種類を選択し、種子を採取した。得られた4種類の形質転換体(F2)は、いずれも、基本的に同じ表現型を示した。以下、この内の1種類のイネを解析に使用した。
なお、対照としてpBI121のみを導入したイネを用いて5週間の生育後の湿潤全重量を測定した(図1)。
【0052】
その結果、本発明成長促進剤1を適用したイネは、対象の2倍以上の生育性を示すことが明らかとなった。なお、バーは標準誤差をしめす(n=7)。
また、それぞれの茎の数を比較した(図2)。
その結果、本発明成長促進剤を使用したイネは平均30%以上の茎の数の増加が観察された。なお、バーは標準誤差を示す(n=7)。
【0053】
また、下記の方法により葉の糖含量の変化を確認した。
すなわち、新鮮重0.5gの葉を2mlの抽出バッファー(15mmol/LのMgCl2、1mmol/LのEDTA、2/5mmol/Lのジチオスレイトール、及び0.1%トライトン-100(商標名)を含む50mmol/LのMOPS-NaOH(pH.7.5)緩衝液)中でホモジナイズした。10,000×gで遠心分離し、上清をセファデックス25(商標名:ファルマシア社製)で透析した。
上清40μLに、100mmol/Lフルクトース6リン酸を含む抽出バッファー10μl、400mmol/Lのグルコース6リン酸を含む抽出バッファー10μl、100mmol/Lのウリジン二リン酸-グルコースを含む抽出バッファー10μlを混合し、25℃で15分間インキュベートした。その後、30%KOHを70μl添加し、100℃で10分間煮沸した。その後反応液を氷冷し、0.14%のアンスロン試薬が入った1mlの13.4mol/L硫化水素溶液を添加し、40℃で20分間インキュベートした。この反応液の吸光度(620nm)を測定した。検量線は糖を含む標準溶液を調製して作成した。
その結果、DnaKを導入したサンプルは、対照と比して有意に糖含量の増加が観察された。このことから、本発明成長促進剤の有効成分は、糖蓄積促進剤の有効成分としても使用することができることが示唆された。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例3:本発明成長促進剤のたばこへの使用
実施例1で得られた本発明成長促進剤1を、トリペアレンタルメイティングにより、アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株に保持させた。この際、ヘルパープラスミドとしては、pRK2013[Nucleic Acid Res., 12, 8711-8721(1984)]を使用した。
【0056】
続いて、タバコ(Nicotiana tabacum PetitHavaba SR1)の葉から切り出した円形葉片に、前述の本発明成長促進剤1を保持したアグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いて処理した。3%スクロース及び50μg/mlカナマイシンを含有するムラシゲ・スクーグ寒天培地上で無菌的に生長させ、合計250個の植物個体が得られた。この中から15種類の独立した形質転換体(F0)を選び、種子を採取した。15種類のF1の中から、DnaK-mRNAの発現量が多い4種類を選択し、種子を採取した。得られた4種類の形質転換体(F2)は、いずれも、基本的に同じ表現型を示した。
このタバコと本発明成長促進剤1を作用させないタバコ(野生型タバコ)とを比較し、タバコにおける成長促進効果を確認することができる。
【0057】
実施例4:本発明成長促進剤のノシバへの使用
ノシバ(Zoysia japonica)のプロトプラストに、前記実施例1で調製した本発明成長促進剤1を使用し、処理後のノシバを生育させ、このノシバと、本発明成長促進剤1を作用させていないノシバ(野生型ノシバ)とを比較し、ノシバにおける成長促進効果を確認することができる。
【0058】
実施例5:本発明成長促進剤のベントグラスへの使用
クリーピングベントグラス(Agrostis stolonifera)のプロトプラストを、前記実施例1で調製した本発明成長促進剤2を用いて処理し、このクリーピングベントグラスを生育させる。このクリーピングベントグラスの成長と、HVD1遺伝子のみを組み込んだ発現ベクターpBI121を導入したクリーピングベントグラスの成長とを比較することで、本発明成長促進剤2の成長促進効果及び矮性化抑制効果を確認することができる。
【0059】
実施例6:本発明成長促進剤のポプラへの使用
実施例1で得られた本発明成長促進剤2を、トリペアレンタルメイティングにより、アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株に保持させた。この際、ヘルパープラスミドとしては、pRK2013[Nucleic Acid Res., 12, 8711-8721(1984)]を使用した。
【0060】
続いて、ポプラ(Populus tremula)の苗から無菌条件下で取り出した胚軸を、前述の本発明成長促進剤2を保持したアグロバクテリウム・ツメファシエンスの溶液に7分間浸漬した。その後、LS培地に置床し、2日間暗条件で生育させた。その後胚軸を取り出し、CIM培地(callus induction medium:LS培地に0.1μmol/Lの4PPU、50μg/mlのカナマイシン、300μg/mlのカルベシリン、0.3%のゲルライトを含む)で育成させた。シュートが形成した後、シュートを切り出し、RIM培地(root induction medium:LS培地に4μmol/Lのインドール酢酸、50μg/mlのカナマイシン、300μg/mlのカルベシリン、0.3%のゲルライトを含む)に移して育成させる。根が分化し、植物がある程度成長した後に、順化させて鉢に移して生育させて植物個体が得られた。この中から7種類の独立した形質転換体(F0)を選び、種子を採取した。5種類のF1の中から、DnaK-mRNAの発現量が多い4種類を選択し、種子を採取した。得られた4種類の形質転換体(F2)は、いずれも、基本的に同じ表現型を示した。
このポプラと本発明成長促進剤2を作用させないポプラ(野生型ポプラ)とを比較し、ポプラにおける成長促進効果を確認したところ、いずれのポプラにおいても矮性化が確認されず、また野生型ポプラと比して浸潤重量で30%以上の成長促進効果が確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明成長促進剤を作用させたイネの成長と対照のイネの成長とを、湿潤重量の面から比較した図である。「Sample」は本発明成長促進剤を作用させたイネを示し、「Control」は対象を示す。縦軸は1個体あたりの湿潤重量を示す。
【図2】本発明成長促進剤を作用させたイネの成長と対照のイネの成長とを、茎の数の面から比較した図である。「Sample」は本発明成長促進剤を作用させたイネを示し、「Control」は対象を示す。縦軸は、1個体あたりの茎の本数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱ショックタンパク質をコードする核酸を、有効成分として含有する成長促進剤。
【請求項2】
熱ショックタンパク質が、DnaKタンパク質又はHSP70タンパク質であることを特徴とする、請求項1記載の成長促進剤。
【請求項3】
前記DnaKタンパク質が、耐塩性ラン藻のDnaKタンパク質であることを特徴とする、請求項2に記載の成長促進剤。
【請求項4】
下記(a)〜(d)のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸を有効成分として含有する成長促進剤。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号1〜721からなるアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号116〜721からなるアミノ酸配列
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号164〜721からなるアミノ酸配列
(d)(a)〜(c)の配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位を有するアミノ酸配列
【請求項5】
更に光合成の制御に関与するタンパク質・酵素、植物体のサイズを制御するタンパク質・酵素、根の伸展を促進するタンパク質・酵素、植物体の成長を促進するタンパク質・酵素、RNAの安定性を向上させるタンパク質・酵素からなる群から選択される一以上のタンパク質をコードする核酸又はそのアンチセンス配列からなる核酸を含むことを特徴とする請求項1乃至4何れか一項記載の成長促進剤。
【請求項6】
核酸がデオキシリボ核酸であることを特徴とする請求項1乃至5何れか一項記載の成長促進剤。
【請求項7】
熱ショックタンパク質をコードする核酸の、成長促進剤としての使用。
【請求項8】
DnaKタンパク質又はHSP70タンパク質をコードする核酸の、成長促進剤としての使用。
【請求項9】
前記DnaKタンパク質が、耐塩性ラン藻のDnaKタンパク質であることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
下記(a)〜(d)のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸の、成長促進剤としての使用。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号1〜721からなるアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号116〜721からなるアミノ酸配列
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列中、アミノ酸番号164〜721からなるアミノ酸配列
(d)(a)〜(c)の配列に1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位を有するアミノ酸配列
【請求項11】
熱ショックタンパク質をコードする核酸を、植物細胞内のゲノムに導入し、前記核酸を導入したゲノムを含む植物細胞を生育させることを特徴とする植物の成長促進方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−22062(P2006−22062A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202757(P2004−202757)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(504097823)SCIVAX株式会社 (31)
【Fターム(参考)】