説明

所望の活性を有する酵素を進化させるシステムおよび方法

本発明は、望ましい特徴を有するように酵素を作製するか、または進化させる新しい方法を提供する。これらの望ましい特徴の中に、工学過程中に導入される触媒部位の欠陥を救出するトリガー分子の使用を通して触媒活性を調節する能力がある。本方法は、触媒活性の非存在下で基質結合活性を保持するか、または改善するために共進化させる酵素および基質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年9月23日に出願された米国仮特許出願第61/244,917号の出願日の利益を信頼し、請求するもので、それによって、その開示全体は参照により本明細書に組込まれる。
【0002】
政府の利益についての記載
本発明は、部分的に米国政府の支援を受け、米国国立衛生研究所の助成金/契約番号NIH R44GM076786により行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関する。より具体的には、本発明は、小分子のエフェクターまたはトリガーによって制御できる触媒活性を有する酵素を作製する(engineering)方法、それらの方法によって作られた人工酵素(engineered enzyme)、およびこれらの人工酵素の使用法に関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
過去20年間わたるバイオテクノロジーおよびタンパク質生化学の進歩により、酵素の発現および活性を研究するための強力なツールが研究者にもたらされた。詳細な知識は、今や、全ての種類および活性のある酵素の細胞産生のための分子基盤、ならびに酵素の触媒活性の分子機構に利用できる。特有のまたは有益な性質を有する種々の酵素が発見され、単離され、精製され、研究されている。酵素を研究するために広く用いられる多くの技術の中に変異誘発の技術があり、これを用いて、アミノ酸レベルで酵素を分析および解析し、酵素の機能的および物理的特性を決定する。
【0005】
酵素機能に重要であるアミノ酸残基および残基の組み合わせを特定するために、ランダムまたは部位特異的な方法のいずれかで行われる変異誘発が広く用いられている。分子生物学、タンパク質生化学の技術によってもたらされる力と調節により、変異を酵素に導入し、これらの変異を正確にマッピングして、酵素の構造および機能に対するこれらの変異の効果を決定することができる。通常、酵素機能に影響を与える変異は酵素の活性部位(複数可)に集中しており、基質結合および触媒作用に対するこれらの変異の効果が検出される。
【0006】
初期の変異誘発の研究は、酵素活性に関与する特定の残基を同定することに焦点を当てていた。最近、研究者は、例えば、基質の結合を改善することにより、基質特異性を改善することにより、または触媒活性を改善することによって、触媒機能を変更するために変異誘発を用いて、酵素に変異を導入している。これらの酵素工学スキームは、大まかに、酵素の「インビトロ進化」と呼ばれている。様々な「進化した」人工酵素が当該技術分野で知られており、多くが商業的価値を有する。
【0007】
酵素が由来する野生型酵素が所有しない有益な特質を有する酵素を作製する技術は、堅牢で、広く実践され、予測可能であるが、所望の特性を有する酵素を得るために、酵素を作製するか、または「進化させる」ための改善された方法に対するニーズが、未だ当該技術分野において存在する。本発明は、所望の特性を有し、さらに、精巧に調節することができる触媒活性を有する酵素を作製する新しい方法を提供する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は酵素を作製する方法を提供する。これらの方法は、例えば、酵素をコードする核酸配列を経て、検出可能な触媒活性を有し、既知のアミノ酸配列を有する全ての酵素に適用できる。一般に、酵素を作製する方法は、酵素の触媒部位もしくはその近くなどの酵素の触媒機能に関与する1つまたは複数の残基に変異導入し、触媒機能を実質的に低下させるか、または除去することを含む。目的の基質の結合は著しく減少せず、好ましく改善されるが、触媒機能は低下するか、または除去されるように変異(複数可)を施す。本明細書中で使用する、特定の機能に対して「実質的な」活性を有する酵素は、目的の特定の機能について当該技術分野で認められるアッセイを用いて測定した時、野生型の活性の少なくとも約70%、好ましくは、野生型活性の少なくとも約80%、より好ましくは、野生型活性の少なくとも約90%、最も好ましくは、野生型活性の少なくとも約99%を有する酵素である。いくつかの実施形態において、これらの酵素は野生型の触媒活性の100%または100%を超える触媒活性を有する。他の実施形態において、この触媒活性を、酵素の「天然」基質とは異なる構造を有する基質に対して改善する。限定されないが、この活性は、野生型活性の最高で200%、300%、500%、1000%、またはそれ以上であり得る。例えば、活性は、野生型の活性よりも10倍を超える、20倍を超える、50倍を超える、100倍を超える、500倍を超える、または1000倍を超え得る。同様に、「実質的に低下する」活性は、目的の特定の機能について当該技術分野で認められるアッセイを用いて測定した時、野生型活性の少なくとも約30%、好ましくは、少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約75%、および最も好ましくは、少なくとも約90%の活性の低下を示すものである。本明細書で使用する、「実質的」および「著しく」という用語を、活性に関して同義的に使用する。さらに、本明細書で使用する「本質的」という用語は、活性に関して用いた時、比較される活性の約98%〜約100%のレベルを示す。「本質的」という用語は、活性の小さな、重要ではない変化の概念を捉えるために用いられ、この概念は、実験的アッセイが本質的にそれらと関係するエラーのレベルを有するということである。もちろん、これらの範囲内の活性の任意の特定レベルは本発明によって企図されており、当該技術者は、これらの範囲に包含される全ての特定値の具体的な開示を必要とせずにこの概念を認識するであろう。作製された変異は、小分子などの外部からもたらされた物質によって補完されるか、または「救出」され得るものである。本発明によれば、これらの外部からもたらされた物質は、もたらされた時に、変異酵素の触媒機能を再現し、したがって、触媒活性酵素を作製する「トリガー」と呼ばれる。これらの方法は、実質的に野生型レベルまたは野生型レベルに等しい基質結合活性を有するが、固有の触媒活性がほとんどまたはまったくない人工酵素の作製を可能にする。
【0009】
酵素に施された特有の性質を、酵素を作製する方法において、酵素を単離するか、または精製する方法において、および酵素を使用する方法において有利に用いることができる。より具体的には、本発明による酵素を「進化させる」工程は、通常、1つまたは複数の変異を酵素に施す反復工程であり、これらの変異酵素は、1つまたは複数の活性(例えば、トリガーの存在下での触媒作用)についてアッセイされる。これらの方法は、変異酵素を精製することも含み得る。その後、最終的な人工酵素が進化するまで、所望の特性を有する酵素は、さらに1ラウンドまたは複数ラウンドの変異および選択にかけられる。外因的に供給されるトリガーの非存在下で、人工酵素が選択反応を触媒することができないことは、選択されたトリガーによって制御される触媒活性または触媒活性のレベルを有するそれらの酵素のみの選択を可能にすることによってこれらの酵素を作製する方法、および所定の基質に対する所望のレベルの特異性を有するそれらの酵素のみの選択に用いることができる。以下に詳述するとおり、人工酵素の選択を可能にするファージディスプレイシステムを、人工酵素を作製する方法の一部として利用する。
【0010】
本発明は、これらの人工酵素の複数の用途も提供する。本発明の人工酵素は高度に特異的であり、それらの触媒活性および基質特異性に関して厳密に制御されるので、本発明の人工酵素を、酵素活性の時間的調節の恩恵を受ける任意の数の設定で用いることができる。酵素活性が、酵素の環境を調節することによって調節することができることは当該技術分野で知られている。例えば、酵素活性は、酵素の周囲の塩濃度を上げるか、または下げることにより、酵素の温度を上げるか、または下げる(通常は下げる)ことにより、キレート金属または他の補助因子などにより抑制することができる。このように、酵素を不活性化し、不活性状態で維持し、その後、選択された時間にて再活性化することができる。本発明は、一時的に酵素活性を制御する新しい方法を提供する。しかし、当該技術分野で周知の他の多くの方法とは異なり、本使用法は、不活化酵素の選択基質への結合を可能にする。この特性は、例えば、精製スキーム、酵素反応速度アッセイ、結晶構造解析、検体検出アッセイにおいて、および病原体の重要なタンパク質を不活性化する治療用「制限プロテアーゼ」の作製において高度に有利であり得る。本質的に、本発明の進化させた酵素は、進化していない対応する酵素(例えば、野生型酵素)を使用することができる任意の工程または組成物において用いることができる。例えば、本発明の進化させた酵素は、有用な生成物の産生のための酵素触媒合成反応において用いることができる。さらに、酵素を進化させる方法を用いて、新規活性を有する酵素を作製することができる。例えば、酵素を、追加基質または代替基質に対する触媒活性を可能にする変更された特異性を有するように進化させることができる(例えば、高エネルギー補酵素−A基質を必要とする酵素の、ATPを利用することができる酵素への変換)。
【0011】
本発明は、本明細書に開示される方法を用いて作製した酵素を提供する。酵素を作製するか、または進化させる方法は、検出可能な活性を有する全ての酵素に適用できるので、本発明に包含される酵素は特に限定されない。以下で説明する例示的な実施形態において、これらの酵素は既知の基質切断部位を有するプロテアーゼか、または特定の基質切断部位を持つように作製されたプロテアーゼである。本発明による人工酵素は、触媒活性に関して厳密に制御され、規定の基質に対する検出可能な触媒活性がほとんどないか、本質的にないか、または全くない。これらの酵素は、触媒活性に影響を与える規定の変異を有するが、それと同時に、これらの酵素は、実質的な(野生型に近似するか、達するか、または野生型を上回る)基質結合活性を有する。好ましくは、これらの人工酵素は、野生型の特異性に近似するか、達するか、またはそれを上回る高度な特異性を有する。これらの酵素は、基質結合の能力のある同族結合パートナーを有するが、外因的に供給されるトリガーによって救出されるか、または再現されるまで触媒作用に欠陥がある。
【0012】
本発明の人工酵素は、単離物質もしくは精製物質として、組成物の一部として、またはキットの一部として提供することができる。組成物の一部として提供される場合には、これらの組成物には、酵素および少なくとも1つの他の物質が含まれる。この他の物質は特に限定されないが、好ましくは、組成物中の酵素の安定性および機能と相性がよい物質である。従って、組成物は、例えば、水または水溶液、混合物などを含み得る。酵素の貯蔵および活性と相性がよい時に、当該技術分野で周知の緩衝液、塩、有機溶媒、および他の物質が、同様にこれらの組成物中に含まれ得る。例示的な実施形態において、これらの組成物は、人工酵素の活性を測定するために必要な物質の一部または全てを含む。実施態様において、これらの組成物は、基質および/またはトリガーとの組み合わせで酵素を含む。キットの一部として提供された時に、好ましくは、このキットは、酵素のトリガー分子も含む。本発明の酵素の様々な多岐にわたる用途により、本発明によるキットは、任意の数の異なる成分を含み得る。一般的に、本発明によるキットは、特定の適用においてこの酵素を使用するために、1つまたは複数の人工酵素、必需品のいくつかまたは全て、および試薬を含む。キットは、一般に、酵素、反応試薬、および/またはトリガーを含む1つまたは複数の容器を含む。キットは、本発明の方法を実施するために酵素もしくは基質、または他の試薬を結合させるための固体支持体も含み得る。
【0013】
本明細書の一部に組込まれ、その一部を構成し、本発明の実施形態を図解する添付図、および書面による記載は、本発明の特定の原理を支持するデータを説明し、提供するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プロドメイン−SBT189(スブチリシン)界面、および本発明による誘発されたスブチリシンを作製する方法におけるその使用を示す模式図である。
【図2】スブチリシン変異体SBT189による基質「G−LFRAL−SA GFP」のプロセシングの成功を示すタンパク質ゲルの写真である。
【図3】本発明の人工酵素のその基質に対する活性を示す相対蛍光強度と時間のプロットである。
【図4】本発明による変異体スブチリシンの結晶構造を示す画像である。
【図5】「G−P同族」と複合した放出ファージがHSA−セファロースに結合するスブチリシンファージディスプレイにおける放出ステップを表す画像である。
【図6】スブチリシンのS1およびS4サブサイトを含むアミノ酸を示す画像である。
【図7】P4〜P2’サブサイトを占める基質を示すアニオンサイトライブラリー(anion site library)を示す画像である。結合アニオンを球で表す。活性部位残基は32、64、および221である。ランダム変異誘発の部位を矢印で示す。
【図8】パネルAは、蛍光によって観察されたRSUB1(AF350)による「G−PLFRAL−S−G」の結合および切断の速度のプロットを示すグラフであり、パネルBおよびCは、「G−PLFRAL−S−G」−RSUB1(AF350)の事前に形成された複合体の切断速度のプロットである。
【図9】本発明の一実施形態による活性化カスケードを示す画像である。同族アミノ酸配列LFRAL−S(配列番号1)に特異的で、亜硝酸誘発性プロテアーゼを示す。同族配列を、異なる同族特異性を有する第2のプロテアーゼを特異的に阻害するプロドメインのループの中に操作して入れる。プロテアーゼ2によって切断された時に、第2の同族配列を有するFRETペプチドは蛍光を発する。第2のプロテアーゼが第2のアニオンによって誘発される場合、シグナルは両方のアニオンの存在下でのみ生成する。
【図10】タンパク質分解カスケード反応を経た活性プロテアーゼの生成の結果として蛍光強度が増加することを示す折れ線グラフである。
【図11】活性化されたプロテアーゼが検出レベルにおける直接作用により検出可能なシグナルを生成することができるだけでなく、他のプロテアーゼに対する直接作用によりさらに活性化されたプロテアーゼを生成することもできる機構を経て活性プロテアーゼが産生されることを示す相互カスケードスキームを示す模式図である。
【図12】活性プロテアーゼが他の活性プロテアーゼの生成を引き起こし、その後、別のプロテアーゼに対する作用により検出可能なシグナルを生成することを示す一連の活性化スキームを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これから、本発明の種々の例示的な実施形態に対して詳細に言及し、それらの例を添付図で説明する。以下の詳述は本発明の例示的な実施形態に焦点を当て、読者が本発明の特定の特徴をさらに理解できるように提供される。このように、これは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。例えば、以下の詳述は、モデル酵素としてプロテアーゼに焦点を当てるが、本発明は、既知の触媒機能を有する全ての酵素に適用できるものとして理解されるべきである。
【0016】
本発明の実施形態を詳細に記載する前に、本明細書で使用する専門用語は特定の実施形態のみを説明する目的のためであり、限定することを意図しないことが理解されるべきである。さらに、値の範囲が提供される場合、文脈が特にはっきり指示しない限り、その範囲の上限と下限の間にある、下限の単位の10分の1までの各介在値もまた具体的に開示されると理解される。規定範囲内の任意の規定値または介在値とその規定範囲内の任意の他の規定値または介在値との間の各々のより小さい範囲は、本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、その範囲に含まれ得るかまたはその範囲から除かれ得るものであり、そのより小さい範囲に限界値のうちの一方が含まれるか、いずれも含まれないか、両方が含まれる各範囲も本発明に包含され、その規定範囲内の任意の具体的に除かれる限界値に従属する。その規定範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それらの含有される限界値のいずれかまたは両方を除く範囲も本発明に含まれる。
【0017】
特に定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、この用語が属する技術分野の技術者が通常理解するものと同一の意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に用いることができるが、より好ましい方法および材料を今から記載する。本明細書で言及する全ての刊行物は、それらの刊行物が引用されることに関連する方法および/または材料を開示し、記載するために、参照により本明細書に組込まれる。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「この(the)」は、文脈が特にはっきり指示しない限り、複数の参照対象を含む。したがって、例えば、「1つの変異酵素または人工酵素」に対する言及には複数のかかる酵素が含まれ、「試料」に対する言及には、当該技術者に周知のそれらの1つまたは複数の試料および同等物に対する言及が含まれる。同様に、「1つの変異」の言及は、単一変異または複数変異を示す。本開示の文脈は、単一または複数の項目が想定されるか否かを明らかにするであろう。
【0019】
プロテアーゼの特異性を変更する能力は、変換技術であると長い間認識されている。したがって、1980年代半ば以来、これはタンパク質工学の取り組みの目標である。概念は単純であるが、それらの特異性を変更するために必要なプロテアーゼ機構の知識は非常に複雑であり、多数の要因により、現在知られている人工プロテアーゼの配列特異性は天然のプロセシングプロテアーゼで観察される特異性に達しない。本明細書に記載するブレークスルーは、タンパク質分解を誘発する小分子補助因子の結合によるタンパク質分解を行うことによって、基質結合エネルギーおよび遷移状態の安定化を関連づける方法の理解である。これを理解することによって、基質ポリペプチド内の規定配列パターンに高度に特異的であり、かつ特定の小分子で触媒活性のために厳密に制御されるプロテアーゼを作製する能力がもたらされる。
【0020】
特異性が高く、厳密に制御されるプロテアーゼを作製する能力は、酵素ベースのナノマシンを構築するための大きな可能性を作り出す。このプロテアーゼは、電子デバイスにおけるトランジスタの役割に類似したこれらのナノマシンの中心的な役割を担う。より具体的には、トランジスタが電流の小さな変化を使用して、電圧、電流、または電力の大きな変化を生みだすことにより、トランジスタが回路のアンプまたはスイッチとして機能することが可能になる。同様に、本発明の制御可能なプロテアーゼは、タンパク質カスケードのスイッチまたはアンプのいずれか一方として機能することができ、複雑な出力が単純な化学的シグナルに連結することを可能にする。これらのプロテアーゼベースのデバイスは、以下の単純なスキームに照らして理解することができる。
【0021】
【化1】

【0022】
トリガー分子がそうであるように、基質タンパク質は適用ごとに変化する。本明細書に記載するプロテアーゼベースのナノマシンの例として、3つの主な使用領域:1)タンパク質の精製および分析;2)医療診断および生体防御のための小分子検出器、ならびに、3)病原体の重要なタンパク質を不活性化する治療用「制限プロテアーゼ」が挙げられる。
【0023】
スブチリシンは枯草菌のセリンプロテアーゼであり、その天然機能は、土壌生息細菌にアミノ酸を提供するために、細胞外環境でタンパク質を分解することである。この酵素は重要な工業用酵素でもあり、酵素の速度増強を理解するためのモデルでもある。これらの理由から、適時の遺伝子クローニングおよび初期の原子分解能構造の有効性と共に、スブチリシンは、タンパク質工学の研究のための初期のモデルシステムになった。枯草菌のセリンプロテアーゼはタンパク質工学の人気モデルとなっているが、高い特異性への変更は問題があることが証明されている。
【0024】
スブチリシンを用いたこれまでの研究により、触媒アミノ酸を変異させると必ず急激に触媒活性が減少することが示されている。他の酵素を用いた研究により、変異させた触媒アミノ酸の化学的性質を模倣する小分子を追加することによって、触媒活性を、時には、これらの変異体において部分的に復活させることができることも示されている。本発明者は、これら2つの観察を合わせて、フッ化物に対するプロト結合部位(proto−binding site)を有するスブチリシンを作製した。この変異体は有用な性質を有し、同時係属米国特許出願公開第2006/0134740号に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0025】
以前の技術と同様に、本発明も変異させた触媒アミノ酸から始まるが、本発明は、さらに、追加の所望の性質を生み出すために、活性部位の再配置を提供する。例えば、本発明の先行技術と比べて、本発明は完全に有能な基質結合領域を有する人工酵素を提供し、これらの酵素を所定の基質と共に進化させ、その基質の許容可能な結合を確実にし、その基質に追加変更を行うことなく、活性部位への基質結合を支援する。本発明は、本質的に野生型レベルの基質特異性を維持するのと同時に、化学的に救出され得る変異活性部位を有する人工酵素の最初の開示を提供する。特定の実施形態において、基質特異性は、この酵素の「天然」基質または「正常な」基質に対するものであるが、他の実施形態において、この特異性は別の基質に対するものである。別の基質が関与する実施形態において、人工/変異酵素の触媒活性は、本質的に「天然」基質に対するものと同一であり、別の基質に対する特異性は、本質的に、「天然」基質に対するものと同一である。いくつかの実施形態において、別の基質に対する人工酵素の触媒活性および/または特異性は、「天然」基質に対するものよりも高い。
【0026】
本開示は、特異性が高く、厳密に制御される酵素を産生する方法を教える。この工程の最初の2つのステップは当該技術分野で開示されている(例えば、Craik et al.,1987;Ruan et al.,2004;Toney and Kirsch,1989参照)。第1のステップは、標的酵素の活性部位の重要なアミノ酸を変異させることである。重要なアミノ酸の変異は、変異酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させる。突然変異誘発ステップと共に、第2のステップを、変異酵素および同族基質に加えた時に、触媒活性を増加させる補助因子を同定するために行う。適切な補助因子は、変異させた重要なアミノ酸の化学的性質を模倣する分子である。つまり、この補助因子は、重要な残基を異なる残基に変えることにより失われた触媒部位の化学的および物理的性質を置き換える化学的および物理的性質を提供する。変異酵素は本明細書で「誘発される酵素」と呼ばれ、補助因子は本明細書で「トリガー」と呼ばれる。本発明は、補助因子依存性が高い特異性を作り出すことができる方法を示すことによって、かつ酵素、トリガー、および基質を共進化させて、堅牢で、非常に特異的で、厳密に制御される酵素を作製する方法を教えることによってこの基本的な方法で改善する。この概念を、セリンプロテアーゼスブチリシンを用いて以下の実施例で説明する。
【0027】
本発明は、酵素工学への取り組みに多くの利点をもたらす。これらの利点の中でも、タンパク質精製および分析における使用;医療診断および生体防御のための小分子検出器の作成;治療用の「制限プロテアーゼ」の作製についての言及が行われ得る。
【0028】
第1の一般的な態様において、本発明は、酵素を作製するか、または進化させる方法を提供する。本方法は、酵素の触媒部位における、もしくはその近くの1つまたは複数の残基に変異導入し、触媒機能を実質的に低下させるか、または除去することを含む。通常、酵素の触媒活性に必要である1つまたは複数の残基を変異させて、事前に選択した基質に対する触媒活性を消失させるか、または実質的に低下させる。いくつかの実施形態において、触媒活性に必要であると以前に明らかにされた1つまたは複数の特定の残基を変異させる。例示的な実施形態において、酵素の触媒機能に関与する単一残基を変異させる。実施形態において、部位特異的変異誘発法を用いて、特定の、事前に選択した残基を変更させる。他の実施形態において、ランダムまたは擬似ランダムな変異誘発を行い、酵素の1つまたは複数の残基を変異させ、変異酵素の触媒活性を分析して、触媒活性を欠く変異体を同定する。好ましくは、単一残基を変異させる。
【0029】
既知の酵素工学的方法と同様に、本発明による酵素を作製する方法には、所望の特性を有する変異株(例えば、触媒機能の欠如)を同定し、他の変異体または野生型酵素から分けて精製する選択ステップが含まれる。しかし、本発明は、目的の変異体を同定し、単離するのに必要な作業量を著しく低下させる強力な工程である新たな選択工程(以下で説明する)を利用する。酵素工学の他の方法と同様に、本発明の方法は、通常、選択された変異体の配列決定またはPCR/制限解析を経て、それらのアミノ酸配列について選択した変異体を分析することを含み得る。かかる分析は、酵素工学の分野において決められた方法であり、不当なまたは過度の実験を意味するものではない。実際に、本発明は強力な選択ステップを提供するので、目的の変異体を同定するために行う分析量は、先行技術の方法に比べて、実質的に減少する。
【0030】
本発明による酵素を作製する方法は、通常、変異、選択、および特性評価を少なくとも2ラウンド含む反復法である。このように、実施形態において、本方法は目的の変異酵素を単離すること、ならびに変異、選択、および単離を1ラウンドまたは複数ラウンド行うことを含む。変異、選択、および単離のその後のラウンドは、触媒作用に重要であると明らかにされた特定の残基をさらに変異させるために行うことができる。しかし、好ましい実施形態において、その後のラウンドを、もう1つの方法として、または追加的に、この酵素の非触媒残基を変異させるために行う。典型的な工学過程において、触媒分解は、基質の結合および/または特異性を保持するか、または改善するために、酵素プロドメインの他の残基の変異を伴う。この共進化は、酵素進化における先行技術の試みから離れ、触媒部位の変異にのみ焦点を当てる。本質的には、本発明による酵素を作製する方法は、触媒作用に重要な残基に変異を施し、所定の基質の触媒活性を低下させるか、または消失させ、かつ1つまたは複数の追加変異を施して、人工酵素の所定の基質に対する特異性を改善させることを含む。
【0031】
触媒機能および基質特異性の両方に対する触媒変異体の共進化は、外来物質によって触媒制御される能力を有する人工酵素を提供するための強力な手段を提供し、それと同時に、野生型のまたはそれ以上の基質特異性を有する酵素を提供することが明らかになった。さらに、この工程によって作製された変異体を、変異のそれぞれのラウンドで単離し、分析しなければならないので、同一酵素内の2つ以上の変異についてのスクリーニングは、たとえあったとしても、追加作業をほとんど必要としない。酵素工学における以前の試みは、外来分子によって触媒制御できる変異酵素を開発することができた。しかし、これらの酵素は野生型よりも基質結合活性が低かったので、商業目的または研究目的に対するそれらの有用性を損ねている。本発明はこの欠点を克服する。
【0032】
酵素を作製する方法によると、酵素プロドメイン内の1つまたは複数の変異をこの変異酵素に導入して、基質結合および/または基質特異性を維持するか、または改善する。通常、この変異(複数可)は、触媒残基(複数可)の変異によって引き起こされる基質結合ポケットの構造変化を克服するために、基質結合ポケットを改善させる変異である。より具体的には、基質結合部位は、それが触媒作用のために配置されるように、基質を収容する三次元構造を提供すると当該技術分野で理解されている。結合部位残基の破壊は、一般的に、基質結合、基質特異性、触媒作用、またはこれらのうちの2つまたは全3つが低下するように、結合部位の三次元構造を変更すると考えられている。本発明による方法は、触媒部位残基の変異の不安定化効果を打ち消す酵素プロドメイン内の1つまたは複数のアミノ酸を変更することを含む。このように、この人工酵素は触媒的に欠損または欠陥があるが、十分な基質結合活性および特異性を保有している。もちろん、技術者が、基質結合および基質特異性の両方を保有するように選択してもよく、または、これらの特徴の1つのみを保有するように選択してもよい。本発明によると、本方法は、好ましくは、少なくとも酵素の基質結合活性を保有するように実施される。当業者であれば、いくつかの状況で、基質特異性が野生型よりも低い触媒制御可能な酵素の利点をすぐに認識するであろう。例えば、時として、酵素のその野生型基質に対する特異性を保有するか、または改善することよりも、同じ一般的クラスの2つ以上の基質(例えば、RNAおよびDNAの両方の結合、一本鎖核酸および二本鎖核酸の両方の結合など)に対する一般的な特異性を有する人工酵素を作製することが望ましいことがあり得る。当業者は、酵素のその「天然」基質に対する特異性が別の基質に対する特異性によって低下させられる、特異性が変更した変異酵素を作製することの有用性が増したことも認識するであろう。
【0033】
本発明の方法によると、酵素を、低下したか、または好ましくは消失した触媒機能を有するように変更する。この触媒機能は、第2の物質(トリガー)によって助けられる。本発明にしたがって、任意の数のトリガーを用いることができ、非限定的な例として、フッ化物などのイオン、ならびに亜硝酸、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、およびメチルホスホン酸などの小分子が挙げられる。機能を助けることができる他のクラスの分子には、求核剤(例えば、ヒドロキシルアミン)、一般的な塩基(例えば、イミダゾール)、および金属が含まれる。一般的には、アスパラギン酸またはグルタミン酸などの酸性アミノ酸の欠失は、フッ化物、硝酸塩、乳酸などの小さい弱酸によって埋め合わせることができると期待され得る。(セリン、システインまたはスレオニンなどの)酵素反応の求核剤として働くアミノ酸の変異は、ヒドロキシルアミン(および多くの他の例)などの外来性求核剤によって埋め合わせることができることも合理的に期待され得る。同様に、ヒスチジンなどの一般的な塩基は、おそらく、イミダゾールなどの一般的な塩基によって埋め合わせることができる。トリガー分子の適切な候補は、化学の確立された原則に基づいて予想することができる。任意のトリガー分子が活性を復活させる程度は、その酵素構造がトリガーを収容する能力、およびそのトリガーに対する親和性をもたらす酵素に導入される変異によっても決まるであろう。正しい方法でトリガー分子に結合するのに必要な変異を、本明細書に記載する方法を用いて同定することができる。しかし、本発明は強力な選択工程を提供するので、適切な変異−トリガーの組み合わせの特定は、全ての以前の試行錯誤実験を行うことなく、容易に行うことができる。一般に、本発明は、野生型の触媒残基の機能を提供するために、変異体残基と共に機能することができる任意のトリガー分子を企図する。したがって、このトリガーは、正電荷の変異させたリジンまたはアルギニンと置換することができる正荷電の小分子であり得る。同様に、このトリガーは負荷電の小分子であり得、負電荷の変異させたグルタミン酸またはアスパラギン酸と置換することができる。さらに、フェニル基を含むトリガーは、変異させたフェニルアラニンまたはチロシンと置換することできる。特定の変異残基を再現する小分子および対応する変異残基の例示的な組み合わせを、以下の実施例に提供する。
【0034】
本発明は、酵素および基質を共進化させる方法に関すると理解されるべきである。より具体的には、本発明は、既知の基質に基づいて酵素を作製する強力な方法であって、その際、所定に基質に結合し、その基質が関与する反応を触媒する能力に基づいて、変異酵素を作製し、洗練させる。触媒作用は、トリガーを用いる触媒的に欠陥のある酵素の救出に基づいて制御されるか、または調節される。しかし、本発明の特定の実施形態において、特定の基質は、酵素を進化させる重要因子ではない。むしろ、特定の実施形態において、人工酵素のトリガーの存在を検出する能力が本方法の焦点である。このように、実施形態において、酵素および基質を共進化させて、事前に選択したトリガーに対して特異性が高く、感受性が高い組み合わせを開発することができる。これらの実施形態は、一般的に、特定の化学物質または生物製剤を示す小分子の検出に関する。例えば、毒物としてまたは化学兵器に使用することができる特定の化学物質は、化学物質の生成または分解の結果である小分子の試料中の存在によって直接的または間接的に検出することができる。共進化させる酵素/基質の組み合わせを用いて、これらの特徴的小分子を高感度で検出することができる。同様に、病原性細菌などの生物剤は、感染時に小分子を産生するか、または小分子の産生をもたらす。これらの小分子は、共進化させる酵素/基質の組み合わせを用いて検出することができる。また、細胞および体液中に見られる天然代謝産物の検出を用いて、健康状態または特定の疾患状態を示す代謝プロファイルを作成することができる。化学物質または生物製剤についてのかかるアッセイの非限定的な例として、人工酵素に対する基質として働く標識基質の使用が挙げられ、その際、この標識基質は、この化学物質または生物製剤の非存在下でこの酵素に結合する。この酵素を固体支持体に結合させることができるか、またはこの標識を、酵素および/または基質とのその関連によって消光させることができる。化学物質または生物製剤に曝露すると、酵素の触媒活性が復活し、標識は酵素によるタンパク質分解の結果として基質から切断される。その後、この標識は、溶液中で検出できる。
【0035】
酵素を作製する方法は、目的の変異体を同定するための新たな手順を含む。酵素工学の先行技術の方法は、一般的に、酵素の変異型の発現、酵素の個体基質への結合、その後、特性評価のため変異酵素を遊離させること、ならびに任意に、さらなる変異を含む。先行技術の方法は、一つには、複数の変異体をスクリーニングし、目的の変異体を同定する必要があるため、時間がかかり、大きな労働力を要する。さらに、以前の方法は、化学変換(例えば、結合の切断または形成)を行う能力を直接選択することによるのではなく、結合相互作用を破壊させることによって変異酵素を遊離する。この違いを、以下にさらに詳細に記載する。先行技術の方法とは対照的に、本発明は、目的の変異体をスクリーニングするための強力なキャッチアンドリリースファージディスプレイシステムを含む選択工程を用いる。
【0036】
この技術が触媒作用よりもむしろ結合について選択するので、ファージディスプレイによる酵素の進化は困難である。この問題の回避を試みるために、通常、遷移状態の類似体または自殺基質を酵素機能の選択に用いる。その選択はあまり直接的でないため、酵素機能の進化は、結合活性の選択よりもはるかに成功しない。本発明は、結合および触媒作用の組み合わせを用いて、変異酵素について選択するキャッチアンドリリースファージディスプレイシステムを用いることによって、この欠点に対処する。ファージ粒子の表面上に基質または人工酵素のいずれかを提示する能力と組み合わせて、補助因子(すなわち、トリガー)の必要性を介して基質の加水分解から結合基質を分離する能力は、定向進化により新たな酵素の性質を作り出すための前例のない機会を提供する。本発明の方法は、選択的結合に基づいて所望の配列のみを増幅する通常のファージディスプレイ法とは根本的に異なる。現在のキャッチアンドリリースシステムでは、変異体の結合は許容され、所望の活性を有する変異体の増幅が、規定の誘発条件下で、選択的触媒作用(例えば、融合タンパク質基質の加水分解)によって達成される。基質結合/特異性を改善させるためにこれらの酵素をさらに変異させることによって、本発明は、さらに、触媒活性でなく、特異性のレベルに基づいて選択を可能にすることにより、先行技術を改善させる。
【0037】
より具体的には、本発明は、酵素の基質に結合する能力だけでなく、酵素の反応を触媒する能力に基づいて酵素の選択を可能にするファージディスプレイシステムを提供する。特に、本発明は、酵素の特定の基質に結合する能力に基づいて、目的の酵素を同定するファージディスプレイシステムを提供する。しかし、他のファージ・ディスプレイ・システムで見られるような、酵素の基質からの単純な遊離よりもむしろ、本システムは、調節されたまたは誘発された触媒活性を利用して、酵素および基質を互いから解放する。
【0038】
本発明のキャッチアンドリリースファージディスプレイシステムの特定の特徴を、これからプロテアーゼ工学を参照して説明する。この議論は酵素のファージディスプレイに焦点を当てているが、プロテアーゼに関連する本発明にしたがって、人工酵素または基質のいずれかを、ファージディスプレイ技術を用いて発現させることができると理解されるべきである。ファージディスプレイの最初の工程は、酵素のコード領域をファージコートタンパク質のコード領域に融合させること、ならびに適切な宿主での組換えファージを産生することが含まれる。したがって、ファージは、その表面に人工酵素を発現する。酵素を産生するファージは、通常、固体支持体に取り付けられている変異酵素に対する基質とファージ表面上の変異酵素の間の相互作用を介して捕獲される。非結合ファージは除去される。このステップにおいて、洗浄条件を調節して、弱い結合変異酵素も除去することができる。必要に応じて、洗浄のストリンジェンシーを調整することができる。この特徴は、変異を施して、基質に対する酵素の特異性または結合を改善する選択ラウンドで特に有用である。次のステップにおいて、変異酵素の触媒活性は、酵素−基質複合体のトリガーへの曝露によって救出される。トリガーは変異触媒部位を再現し、酵素に基質を切断させ、固体支持体からファージを放出する。その後、ファージを回収し、単離する。単離したファージを分析して、変異酵素に存在する変異を決定することができる。目的のファージを選択して、変異誘発、捕獲、および任意に、分析をさらに1ラウンドまたは複数ラウンド行う。
【0039】
酵素を基質と共進化させると、標的基質に対して高い親和性を有し、その基質にほとんどまたは全く触媒活性を示さない人工酵素の作製が可能になる。これらの人工酵素は、複数の適用において使用される。例えば、人工酵素を用いて、任意の数のタンパク質を精製することができる。人工酵素を精製スキームで使用する実施形態において、これらの人工酵素は、通常、固体支持体に結合しているプロテアーゼである。共進化させた基質ペプチドを、精製のために目的のタンパク質と融合させる。目的のタンパク質のこの人工酵素への結合は、共進化させたペプチド部分を介して起こる。非結合物質または低結合物質を固体支持体複合体から洗浄し、その後、トリガーを供給する。このトリガーが、ペプチド基質を切断する進化させた酵素を活性化し、目的のタンパク質を遊離する。
【0040】
他の実施形態において、これらの人工酵素を用いて、目的の化学物質または生物学的物質を示す分子などの目的の小分子を検出することができる。これらの実施形態において、共進化させた酵素/基質の組み合わせは、酵素を基質(固体支持体に結合することができるもの)に結合させて、複合体を形成させることによって作り出すことができる。目的の物質を含むと思われる試料への複合体の曝露は、酵素の触媒活性を活性化し、基質の切断を引き起こす。基質の切断は、当該分野で周知の任意の数の方法で監視することができる。例えば、この基質を標識することができ、この基質の切断は、固体支持体に結合した酵素/基質からこの標識を遊離させることができ、支持体結合実体としてよりも、溶液中での標識の検出を可能にする。あるいは、切断は、事前に標識のシグナルを遮断した基質の一部を遊離させ、検出を可能にすることができる。様々な酵素活性の多数の他の検出方法を使用することができる。プロテアーゼを用いる場合、切断が、試料中の目的物質の存在の指標となる。これらの実施形態は、化学兵器、毒物、および感染病原体によって産生されるか、またはそれらによって産生させられる生物学的または生化学的分子から誘導される小分子の検出に特に有用である。したがって、これらの実施形態は、化学兵器およびバイオテロの保護における適用を有する。
【0041】
いくつかの実施形態において、共進化させた酵素−基質の組み合わせは、治療用制限プロテアーゼの作製に用いられる。これらの実施形態において、プロテアーゼを、特定の感染病原体の指標である生物学的に誘導されたペプチド基質に対して誘発されたプロテアーゼ活性を有するように変更する。例えば、プロテアーゼを、ペプチド毒素(例えば、コレラ毒素、ジフテリア毒素、クロストリジウム・ディフィシルの毒素Aまたは毒素Bなど)に対して高い特異性を有するように変更することができる。これらの進化させた酵素を用いて、とりわけ、制御された条件下でペプチド基質を破壊することができる。
【0042】
実施形態において、このプロテアーゼは、特定の病原体タンパク質を不活性型および良性型に変換するために生体内で用いられるナノマシンである。人工制限プロテアーゼは、特定のバクテリオファージによる細菌の侵入を「制限」するそれらの能力によって発見された制限エンドヌクレアーゼに似ている。制限エンドヌクレアーゼは、特に外来DNAを切断することによって感染を防ぐ。制限プロテアーゼは、病原性に関与する病原体のタンパク質を選択的に切断することによって作用する。究極の目標は、新しいクラスの治療用分子を作製することである。原則として、特定の制限プロテアーゼを進化させて、任意の感染病原体の特定の病原体タンパク質を破壊することができる。この分子は、標的タンパク質内の特定のエピトープを標的とするという点で、従来の抗体と同じように働く。化学量論的結合によって機能する抗体とは異なり、制限プロテアーゼは触媒的に働き、それぞれのプロテアーゼ分子は何千もの標的タンパク質を破壊することができる。制限プロテアーゼは、(抗体または小分子薬のような)標的タンパク質に対して高い親和性を必要としないが、標的タンパク質内の同族配列に対して高度に特異的である必要がある。
【0043】
さらに再び、これらの人工酵素は、プロテオーム解析に有用であり得る。高い特異性であるが、異なる頻度で切断する部位特異的な一連のプロテアーゼは、プロテオーム解析のための強力なツールである。基本的な考え方は、特異的な配列モチーフを含むタンパク質の亜集団を切断し、切断されたタンパク質集団を切断されていないタンパク質から分離することである。これは、プロテオームの配列フィルタリングスライス(sequence−filtered slice)をもたらす。このサブセットのタンパク質の識別情報は、同族モチーフのタンパク質データベースの検索により決定することができる。本発明のこの適用において、インプットは生体抽出物(例えば、プロテオーム)である。アウトプットは、同族の配列モチーフを含むそのプロテオーム中の切断タンパク質である。調節因子は、本明細書で論じる小さなトリガー分子などのいずれかであり得る。
【0044】
2つの基本的な特性が、この種のプロテオーム解析のプロテアーゼの有効性を決定する:
1)頻度−同族モチーフがプロテオーム中に生じる発生頻度;および2)特異性−他のモチーフと比較した同族モチーフに対するプロテアーゼの活性。頻度は分解能を決定する。全タンパク質が切断されると、配列の次元での解決方法はない。フィンガープリント法に理想的なトリプシンなどのプロテアーゼは、それが実質的に全タンパク質内を切断するため、分解能がない。切断頻度が低いほど、プロテアーゼの分解能が高い。最終的に、プロテアーゼを改変して、所定のプロテオーム内の単一のタンパク質(例えば、バイオマーカー)のみを切断し、分画しないでその検出を可能にすることができる。プロテアーゼの特異性は、それがもたらす背景を決定する。特異性が高いほど、複雑な混合物中の豊富でないタンパク質を検出するプロテアーゼの能力は高い。
【0045】
プロテオミクスプロテアーゼの追加の必要条件は、変性条件下での安定性である。変性により標的タンパク質中の構造要素が取り除かれるので、プロテアーゼは一次配列のみに基づいて作用することができる。本発明は、キャッチアンドリリース技術によって選択されるプロテアーゼが熱安定性であり、0.1%SDS中で活性が高いことをすでに確立している。
【0046】
本発明の特定の実施形態は、少ない数の目的の分子を検出することを可能にする検出スキームにおいて1つまたは複数の人工プロテアーゼを共に使用することを含み、その中で、1つのプロテアーゼによるタンパク質分解は複数の他のプロテアーゼを活性化し、その全てはシグナルを生成することができる。強力な検出システムは、4つの基本成分で構築することができる:1)結合分子に結合したプロテアーゼ、2)結合していないプロテアーゼ、3)タンパク質分解切断部位を含む阻害タンパク質、および4)その切断の際、シグナルを生成するプロテアーゼ基質。このシステムの種類を図19から12に示し、以下で詳細に説明する。
【0047】
本発明は、酵素工学の分野における未解決の問題に対処し、少なくとも部分的に、補助因子の結合および酵素活性の活性化が、制御されるかまたは少なくとも選択され得る特異性をもたらすという理解による。基底状態の酵素との複合体中の基質の高次構造は類似しているが、遷移状態のその高次構造は同一ではない。その結果、基底状態で最も良く結合する基質が、化学変換中最速である必要はない。基質の酵素結合ポケットとの相互作用は、基質結合と遷移状態の安定化の間で最適なバランスを達成しなければならない。さらに、酵素は、一般的に、生産性の高い基質の相互作用において非常にストリンジェントな幾何学的制約を課す。その結果、変異によって引き起こされる小さな構造変化は、触媒活性に大きな(通常は、有害な)影響を及ぼす。活性部位残基と補助因子の置換によって、酵素が生産的に基質と相互作用することができる方法で、構造および機構の制約が緩和される。補助因子は、(主鎖への付着によって制約される)アミノ酸の官能基よりも自由に、新しい活性部位に適応することができる。適切に進化させるか、または作製する場合に、補助因子の位置を調節して、新しい基質に合わせることができ、基質−酵素相互作用は補助因子に依存的な活性部位に調整することができる。これは、非常に制約のある野生型活性部位に照らして、可能ではなかった特異性の変更をもたらすことができる。
【0048】
タンパク質工学における以前の試みは、限られた成功を収めている。酵素触媒作用は、理解するにはわずかで複雑であり、まして作製することはできないので、タンパク質工学におけるかかる試みは、一般的に、高度に機能する酵素をもたらさない。この事実は、スブチリシンの作製を分析することによって例示することができる。標的基質配列内のアミノ酸サブサイトに適合する見かけの鍵と鍵穴の関係で十分に繋がった結合ポケットを作ることは可能である(例えば、図4を参照)。しかし、このように作られたスブチリシンの配列特異性は、天然のプロセシングプロテアーゼで観察される特異性とは程遠い。基本的な問題は、所望の同族配列が他の配列よりも優れて結合することができるということであるが、非同族配列よりもはるかに速い代謝回転はしない。スブチリシンを進化させ、P1位においてホスホチロシンを有する基質を加水分解した最近の例(Knight,2007)を考えてみよう。天然のスブチリシンは、P1でホスホチロシンをほとんど加水分解しないが、進化させた酵素は非常によくそれを加水分解する。これは印象的な成果である。問題は、人工酵素において非同族P1アミノ酸に対する活性が高いままであり、人工酵素の有用性を損ねることである。
【0049】
酵素工学の一般的な想定は、基質結合が速い平衡にあり、最初の化学ステップ(セリンプロテアーゼのアシル化)が律速であるということである。これらの想定は、スブチリシンについても自明であると考えられる場合が多いが、実際には、多くの基質配列に対して真ではない。基質結合が向上するにつれて、これらの想定は崩れる。特異性を効果的に変更するためには、アシル化が律速段階であり、基質結合が動力学的にアシル化から切り離されるような反応経路を介して、種の流速のバランスを取る必要がある。一般的に、タンパク質の設計者は考慮していないが、この事実の基本的機構は複雑ではない。基質、遷移状態、中間体、および生成物に対する相対的親和性を調節する必要性は、スブチリシンにおいて特異性を作り出すことについてのルアンら(2008)の中で詳細に取り組まれている。
【0050】
セリンプロテアーゼの特異性を作り出すことに対する第2の必要条件は、アシル化率を所望の同族配列に強く依存させることである。これは明らかに本当のことであるが、作り出すことは難しい。本発明は、活性部位残基を変異させ、変異させた活性部位に最適である同族配列を選択することにより、両方の問題に対して驚くべき解決法を提供する。明らかに、活性部位残基を変異させることは、酵素の構成的活性を徹底的に減少させるが、置換アミノ酸を模倣する外来性小分子を介して失われた活性を復活させることが可能になり得る(例えば、Toney,1989;Harpel,1994;およびTakahashi,2006参照)。スブチリシンにおいて、発明者とその共同研究者は、以前に触媒D32を変異させ、特定の小さなアニオン(例えば、アジドまたは亜硝酸塩)で活性を救出した。酵素機構を調べるために化学物質による救出はよく知られているが、人工補助因子依存性の人工高機能酵素は新しい。一般的なしかし誤った想定は、結果として得られる人工酵素が遅いであろうということである。これは、高い特異性にとって必ずしも望ましいことではないが、アニオンおよびその濃度に応じて、野生型のアシル化率を達成することができる。作製における問題は、所望の同族配列の最大加水分解速度を維持することではない。この問題は、類似配列間の区別である。アニオン補助因子を利用して加水分解を誘発することは3つの利点をもたらす:1)アニオンの非存在下で、実質的にオフ状態でプロテアーゼを維持する能力;2)結合ステップに対する化学的ステップを適切に調節する(したがって、アニオン濃度による反応経路を介した種の流速を制御する)能力;3)(本明細書に記載の)基底状態の安定化ではなく遷移状態の安定化に対する基質配列の効果を最適化する能力。
【0051】
定向進化により良好なプロテアーゼを選択する際の3つの基本的な課題がある。第1に、配列空間に深く入り込まなければならない。エラープローンPCRで変異を導入し、分子育種法でそれらを再び組換えることにより、一般的に、酵素(例えば、Bloom,2009参照)、特に、プロテアーゼ(例えば、Varadarajan,2005参照)を進化させる洗練された方法がある。酵素機能についてこれらのライブラリーをスクリーニングする、洗練さが増した方法もある。これらの方法は、安定性を進化させるのに十分機能し(例えば、Bryan,1986;Pantoliano,1989参照)、元の野生型活性と比較して、所望の基質に対する触媒活性を改善するのに適度によく機能する。しかし、彼らは、プロテアーゼの特異性を進化させることにとても落胆している(Pogson、2009)。求められる関連する問題は、所望の特性が、単一の変異事象の増大により徐々に改善することができるか否かである(Bloom,2009)。多くの相互依存性変異事象が、特異性の難題を適切に解決するのに必要とされるので、特異性を高くするように進化させるためには、変異誘発およびスクリーニングの一般的な方法で可能になることよりも、配列空間により深く入り込む必要がある。
【0052】
第2の基本的な課題は、基質結合親和性を最大にする方法は生産性が高くないということである。プロテアーゼとの基底状態の複合体におけるペプチド基質の高次構造は類似しているが、遷移状態におけるその高次構造と同一ではない。これは、それ自体切断可能な結合について明らかに正しいが、これらの違いは、側鎖のサブサイトのアミノ酸鎖に沿って広がる。その結果、基底状態で最適に結合する配列は、化学変換で最速ではない(例えば、Hedstrom,2002参照)。効率的な加水分解を実現するために、基質の切断可能な結合、酵素の触媒残基(スブチリシンについてH64、N155およびS221)、およびアニオンを正確に登録しなければならない。基質の側鎖は、基質結合と遷移状態の安定化の間で最適なバランスを達成するように、酵素結合ポケットとの相互作用を介して骨格の位置を調節しなければならない。スクリーニング方法は、このわずかな区別を行わなければならない。これはジレンマをもたらす。ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイなどのディスプレイ方法において、1e10以上の変異体をスクリーニングすることができる。結合ポケットなどの明確に定義された領域における変異を目的とする場合、これは配列空間の深い調査を可能にする。問題は、正常なファージディスプレイ法が、結合のみに基づいて所望の配列を増幅することである。本発明は、オン・オフスイッチを使用してペプチド加水分解を制御する能力を提供するので、選択がトリガー(例えば、アニオン)に反応する融合タンパク質の加水分解に基づく方法が、今や利用可能になった。基質の結合は必要であるが、選択には十分ではない。選択システムは、膨大な配列空間を解析する洗練されたアナログコンピュータとして動作し、極端にわずかな、コンピューター技術の状態を十分に超える酵素的解決策を見つける。
【0053】
第3の基本的な課題は、所望の酵素が細胞に対して毒性があるかもしれないという事実に対処することである。所望の表現型は毒性があり得るので、プロテアーゼの進化は特有の問題を提示する。これは十分な証拠書類があり、それ自体が、制限プロテアーゼの潜在的な生物学的効果の指標である。負の選択は、プロテアーゼが緩和した特異性を有している間に進化の中間段階で特に問題がある。本発明は、トリガーの使用を介してこの課題に取り組む。トリガーは、選択のファージ増殖段階中にプロテアーゼ活性をオフにし、この工程のインビトロ段階中にのみオンに変えることを可能にする。
【0054】
したがって、本発明は、既知の基質に対して所望の活性を有する酵素を作製する特有で、強力な方法を提供する。好ましい実施形態において、これらの方法は、選択基質に対する酵素の触媒機能に関与する残基に変異を施し、この基質に対する酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させることを含み、その際、この変異酵素のその基質に対する触媒活性は、外来性トリガー分子によって復活させることができる;かつ酵素に別の変異を施すことを含み、その際、他の変異は、外来性トリガー分子の存在下で事前に選択した基質に対する変異酵素の触媒活性および特異性を増加させる。例示的な実施形態は、スブチリシンを含むがこれに限定されない、十分に研究されたセリンプロテアーゼなどのプロテアーゼに関する。本方法のいくつかの実施形態において、選択基質および事前に選択した基質は異なる基質であり、本方法が特定基質に対する酵素を作製する方法であり得るか、または酵素および基質を共に作製する方法であり得ることを示す。本方法の強力な実施形態は、以下のようなファージキャッチアンドリリース工程を含む:ファージ表面上で変異酵素を発現させること、固体支持体に結合している基質にファージを結合させること、非結合ファージを除去すること、およびこのトリガー分子に酵素−基質複合体を曝露し、この基質からファージを放出すること。本方法は、さらに、変異酵素を発現するファージを回収し、かつ/またはファージキャッチアンドリリース工程をさらに1回または複数回実行することを含み得る。あるいは、本方法のステップのそれぞれを、1回または複数回実行することができる。
【0055】
本発明の方法は、目的の基質に結合し、その基質が関与する反応を触媒する能力を有する人工酵素を同定し、単離する方法とみなすこともでき、本方法は、以下のステップを含む:(a)選択基質に対する酵素の触媒機能に関与する残基に変異を施し、その基質に対する酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させるステップで、その際、この変異酵素の選択基質に対する触媒活性は、外来性トリガー分子によって復活させることができる;(b)この変異酵素に別の変異を施すステップで、その際、この他の変異は、事前に選択した基質に対するこの変異酵素の触媒活性および特異性を増加させる;(c)ファージの表面上で変異酵素を発現させるステップ;(d)固体支持体に結合している事前に選択した基質にファージを結合させるステップ;(e)酵素−基質複合体をトリガーに曝露し、この事前に選択した基質からファージを放出させるステップ;(f)この変異酵素を発現するファージを回収するステップ。本方法は、1つまたは複数の他の変異を施すために出発配列として前のサイクルのステップ(f)で得られた変異酵素の配列を用いて、ステップ(b)〜(f)を1回または複数回繰り返す実施形態、またはステップ(c)〜(f)を1回または複数回繰り返す実施形態で実施することができる。
【0056】
本発明の方法は、目的物質の検出に使用するための酵素を作製する方法とみなすこともでき、本方法は以下のステップを含む:選択物質に対する酵素の触媒機能に関与する残基に変異を施し、その基質に対する酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させるステップで、その際、この変異酵素のその基質に対する触媒活性は、目的の物質によって復活させることができる;かつ、この酵素に別の変異を施すステップで、その際、この他の変異は、目的物質の存在下で、この変異酵素の事前に選択した基質に対する触媒活性および特異性を増加させる。本方法の実施形態において、選択基質および事前に選択した基質は異なる基質である。いくつかの実施形態において、本方法は、さらに、ファージ表面上でこの変異酵素を発現させるステップ;固体支持体に結合している事前に選択した基質にファージを結合させるステップ;この酵素−基質複合体をトリガーに曝露し、事前に選択した基質からこのファージを放出させるステップ;ならびに、この変異酵素を発現するファージを回収するステップを含む。
【0057】
本発明の実施形態において、試料中の目的物質の存在を検出するための方法を提供する。本質的に、この実施形態は、事前に定義された基質に特異的である人工酵素を用いて、試料中のその基質の存在を検出する。一般的に、本方法には、以下のステップが含まれる:人工酵素とこの酵素の基質と間で複合体を形成させるステップ;例えば、これら2つを混合することによって、この複合体を試料に曝露するステップ;試料の存在下で酵素の触媒活性の増加を検出することにより、この試料が目的の物質を含むか否かを決定するステップ。実施形態において、本方法は、化学兵器、毒の指標となる分子、または有害生物の指標となる生物学的または生化学的な産物の試料中の存在を検出する方法である。例えば、本方法は、細菌によって産生されるポリペプチド毒素である生物学的または生化学的な産物を検出する方法であり得る。同様に、本方法は、化学兵器または毒の分解産物である荷電分子を検出する方法であり得る。
【0058】
本発明の強力な工学的手法を用いて、外来性トリガー分子の非存在下で基質結合に適するが、基質触媒を欠く人工(変異)酵素を得ることができ、その際、この酵素は以下の特徴を有する:酵素の触媒活性に関与し、選択基質に対する酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させる残基の変異であって、この変異酵素の触媒活性は外来性トリガー分子によって復活させることができる;この変異酵素内の別の変異であって、この他の変異は、このトリガー分子の存在下で変異酵素の事前に選択した基質に対する触媒活性および特異性を増加させた。本発明の方法の説明から明らかなように、選択基質および事前に選択した基質は異なる基質であり得る。例示的な実施形態において、この人工酵素は、スブチリシンを含むがこれに限定されないセリンプロテアーゼなどのプロテアーゼである。
【0059】
この人工酵素は単離物質または精製物質として存在することができるか、または人工酵素の触媒活性と相性のよい少なくとも1つの他の物質も含む組成物の一部であり得る。例示的な実施形態において、この他の物質は、この人工酵素の触媒活性を復活させるトリガー分子である。もちろん、この精製/単離人工酵素および組成物はキットの一部として提供することができ、好ましくは、このキットの特定の人工酵素の触媒活性を復活させる適切なトリガー分子も含む。
【0060】
本発明は、以下の特徴を有するプロテアーゼ−阻害タンパク質複合体も提供する:この阻害タンパク質は、タンパク質分解切断部位を含む;このタンパク質分解切断部位における阻害タンパク質の切断は遊離プロテアーゼの放出をもたらす;遊離プロテアーゼは、タンパク質分解切断部位において、プロテアーゼ−阻害剤複合体の別の分子を切断することができる。この複合体は、このプロテアーゼに結合した結合要素も含むことができる。あるいはまたはさらに、この複合体はプロテアーゼの基質を含むことができ、この基質は、プロテアーゼによる切断の際に、検出可能なシグナルを生成する。
【実施例】
【0061】
本発明は、本発明の純粋な例となることが意図される以下の実施例によってさらに説明され、決して本発明を制限するものと考えられるべきではない。
【0062】
実施例1:スブチリシンプロテアーゼおよび基質の共進化
基質がそれ自体タンパク質であるという点で、酵素の中で、プロテアーゼは独特である。したがって、補助因子部位の最適化は、理想的にはプロト部位近傍にプロテアーゼのアミノ酸および基質のアミノ酸の両方を作製することを含む。最適化酵素において、補助因子結合は遷移状態の安定化に必要とされ、基質結合は補助因子部位の形成に必要とされる。この結合は高い基質特異性を生み出す。
【0063】
トリガー酵素および基質を共進化させる方法を、セリンプロテアーゼスブチリシンを用いて説明する。スブチリシンの32番目の触媒アスパラギン酸をグリシンに変異させ、小さいアニオンのプロト結合部位を作り出す。その後、基質およびスブチリシンのアミノ酸を最適化して、配列FRAM−S(配列番号2)に特異的で、亜硝酸アニオンによって誘発される酵素を作製する。
【0064】
逆に、特異性の高い酵素を作製する方法は、触媒機構を損傷させることから始まる。スブチリシンにおいて、全てのセリンプロテアーゼのように、ペプチド結合切断は、切断可能なペプチド結合のカルボニル炭素を攻撃する求核セリンによって触媒されることは当該技術分野で示されている。セリンは、その求核特性を高めるために、一般的な塩基によって支援される。ほとんどのセリンプロテアーゼにおいて、一般的な塩基は、アスパラギン酸と結合したヒスチジンである。スブチリシンにおいて、D32は、H64を分極させるH64のΝδ1に非常に強い水素結合を形成し、アシル化反応および脱アシル化反応中に、Νε2が触媒S221のプロトンシャトルとして作用することを可能にする。以前から当該技術分野で周知のプロトタイプ誘発性スブチリシンにおいて、D32は、アラニン、バリン、またはセリンに置換された(Ruan et al.,2004)。D32の変異は、ほとんどの条件下で実質的に不活性であるプロテアーゼを作製する。触媒アスパラギン酸の機能を模倣した小さいアニオンであるフッ化物が、スブチリシンのいくつかのD32変異体においてある程度触媒活性を救出できることが以前に示された。以前の研究において、これらのスブチリシン変異体を、フッ化物による誘発に反応してアミノ酸配列パターンVFKAM−SG(配列番号3)のメチオニンとセリン間を切断するそれらの能力について試験した。しかし、この配列に対するこれらの変異体の活性は比較的低い。例えば、D32A変異体は、VFKAM(配列番号4)の後を、100mMフッ化物中0.6/分の速度で切断する。配列VFKAM−SG(配列番号3)を当該技術分野で周知の最高の原則によって慎重にデザインし、個々の基質アミノ酸とスブチリシンの酵素サブサイト間の相互作用を最適化する。しかし、このアプローチには重大な欠陥がある。基質、遷移状態および生成物の結合様式の違いはわずかであり、単純なタンパク質工学を介して操作するには困難である(Hedstrom、2002;Ruan et al.,2008)。同族配列もトリガー酵素のいずれも互いに対して最適化されるので、これらの酵素は低速である。本実施例は、以前に行われた研究を拡大して変更し、非常に活性のある酵素−基質−アニオンの組み合わせを作製することが可能であることを示す。これは、以下で詳述し、図1に大まかに描く「キャッチアンドリリース」ファージディスプレイである非常に強力な定向進化法を用いて行うことができる。本質的には、現在開示されている本発明は先行技術の試みにおける欠陥を認識し、それを認識することにより、活性を減少させるか、または消失させるように酵素を変異させることにより、誘発酵素を作製し、この酵素の元の基質に対する特異性も変更し、通常、低下させるか、または消失させる。この欠陥を克服するために、本発明は、共進化や共選択工程を経て、この変異酵素に最適な基質を同定する選択法を用いる。この共進化のスキームは、誘発する補助因子の周囲の活性を変えた変異体の変更および選択を可能し、これは、未発達の補助因子結合部位を洗練された補助因子結合部位に変更/進化させることを可能にし、新しいトリガー補助因子で酵素活性を変更/進化させること、および誘発する補助因子を用いて、変更した特異性を進化させることを可能にする。
【0065】
この実施例において、SBT189と示されるスブチリシンのD32A変異体の最適な同族配列を開示する。化学物質トリガーで結合反応および切断反応を分離する能力は、ファージディスプレイを用いて、アジドの切断に最適化されたSBT189のために同族配列を選択することを可能にする。この選択を実行するために、スブチリシンの変更プロドメインを、既知のファージディスプレイ手順に従ってファージミド粒子の表面で提示させるように、大腸菌ファージfdの遺伝子IIIコートタンパク質との融合タンパク質として合成した。
【0066】
本方法において、プロドメインのP5からP2’残基をランダム化し、M13のg3pタンパク質との融合体として発現させる。ランダムP1〜P5残基をプロドメインに組込むことにより、ベースラインの高い結合親和性を確実にする。この工程は、本質的に、エキソ認識シグナルとしてプロドメインの球状面を用い、基質結合ポケットから結合シグナルを増幅させる。このプロドメインの使用は本方法にとって必須ではないが、便利である。
【0067】
ファージ選択の「キャッチ」段階において、強力結合プロドメイン変異体でタグを付けたM13ファージ粒子を、ビオチン化SBT189への結合によって選択的に保持する。このビオチン化SBT189を、今度はストレプトアビジン被覆磁気ビーズに結合させ、これを磁性粒子コンセントレーター(magnetic particle concentrator)で回収する。プロドメインによる結合シグナルの増幅により、キャッチ段階は、選択工程においてかなり寛容なステップである。10nM以下のKで、スブチリシンファージは効率的に保持される。「リリース」段階において、最適な同族配列を、軽度のアジド処理(例えば、1mMアジド、2分)により溶出し、いくつかの変異酵素の触媒活性を再現し、結合したプロドメイン/ビオチンからのこの酵素の切断をもたらす。放出されたファージミドをプールし、大腸菌内で増幅させる。これを3サイクル行う。この選択で同定されたコンセンサスモチーフは以下である:
P5 P4 P3 P2 P1 P1’ P2’
L F R A L S A (配列番号5)
【0068】
最適な同族配列は一番強い結合配列と同じではないことに留意されたい。強力な基質結合配列は、上記のように選択のキャッチ段階を実行することにより同定することができるが、その後、誘発切断よりも酸で結合ファージを溶出する。結合のみの選択のコンセンサスモチーフは以下である:
P5 P4 P3 P2 P1 P1’ P2’
L F Y T L M S (配列番号6)
【0069】
ファージディスプレイによって同定される同族配列に対するSBT189の配列特異性を評価するために、連鎖球菌プロテインGの56個のアミノ酸Bドメイン(G)と同族配列LFRAL−SA(配列番号5)を含みその後にGFPが続くリンカーとの融合体の合成を指示する遺伝子を構築した。したがって、このタンパク質を、「G−LFRAL−SA−GFP」と示す。大腸菌抽出物中の融合タンパク質を特異的に消化するSBT189の能力を図2に示す。
【0070】
より具体的には、図2は、消化産物のタンパク質ゲルを示す。示されている時点で回収した。融合タンパク質(20μM)を、22℃、pH7.2、10mMアジド、0.1M KPi中50nMのSBT189と混合した。この融合タンパク質は、MALDI−MSにより確認されるとおり、正確に、かつ特異的にプロセシングされ、「G−LFRAL」および「SA−GFP」を遊離させる。
【0071】
17個の追加のG−GFP融合タンパク質を作製し、反応速度に対するこの同族の配列の小さい変化の効果を試験した。特異性に関する詳細な機構情報を取得するために、RSUB1のN末端に遊離システインを導入し、ダブシル−マレイミドとの反応によって産生したSBT189−ダブシル複合体を用いて、反応速度分析を行った。
【0072】
図3に示すとおり、RSUB(ダブシル)は、酵素−基質複合体の形成および崩壊の定量を可能にする。G−GFP基質がSBT189(ダブシル)に結合する時、GFP蛍光は、近位ダブシル基によって消光される。GFPが複合体から切断されると、GFP蛍光は増加する。図3のプロットは、5mMアジド中0.5μMの「G−LFRAL−S−GFP」と3μMのRSUB1(ダブシル)との反応速度を示す。535nmの蛍光(励起=485nm)は、酵素−基質複合体が形成するにつれ減少し、その複合体が切断されて遊離GFPが放出されるにつれ増加する。
【0073】
この反応の急速相は酵素への基質の結合を測定し、低速相は切断されたGFPの放出を測定する。酵素濃度の関数としての全ての基質変化の単一代謝回転実験を行うことにより、基質親和性とアシル化率の値をそれぞれについて収集する。検出可能な切断速度との融合蛋白質についての結果を以下にまとめる。
【0074】
【表1】

【0075】
測定を22℃で、0.1M KPO、pH7.2、5mMアジド中で行った。選択により最適化した同族配列(LFRAL−SA;(配列番号5))に対するSBT189の活性は、設計した同族配列(VFKAM−SG;(配列番号3))に対する活性よりも250倍高い。
【0076】
この変異体をその構造についてさらに分析した。アジドと活性部位にまたがる基質と複合した誘発スブチリシン(触媒Ser 221をアラニンと置換した)の不活性型の結晶構造を、1.8Åの分解能で測定した。図4はアジドアニオン、His64側鎖、および基質の切断可能な領域を示す。このアニオン部位は、切断可能なペプチドから8Åの変異Ala32に隣接した基質下に埋まっている。この切断可能な結合は、触媒求核剤のSer221OG(S221A変異ではない場合)が存在する位置から2.5Åである。P1’Ser78’およびP2’Ala79’の両方はβ構造中にあり、Ala79’は、標準的な逆平行βシートの相互作用で、この酵素のSer218と2H結合を形成する。この構造は、アニオン結合が比較的弱い(50mm、下記参照)理由を説明するのに役立つ。「触媒三連構造」(Ala221、His64、およびAla32)、オキシアニオン配位子のAsn155、およびアジドアニオンが示されている。触媒求核剤221 OGは、野生型の構造に基づいてモデル化されている。白線は、3.3Aの下での選択された相互作用を表す。
【0077】
実施例2:キャッチアンドリリースファージディスプレイ法
実施例1において、ランダム化基質を、特定のトリガー酵素の最適化同族配列を見つけるために、ファージ粒子の表面に提示させた。キャッチアンドリリースファージディスプレイのさらに強力な適用は、基質およびトリガー周囲の酵素を進化させるために、ファージ粒子上に変異酵素ライブラリーを提示することである。
【0078】
スブチリシンのファージディスプレイにおいて、この基質は、アルブミン結合ドメイン(G)、同族系列(P同族)を含む人工スブチリシンプロドメイン、およびIgG結合ドメイン(G)を含む融合タンパク質である。この基質のプロドメイン構成成分は、結合を増幅するエキソ認識シグナルと考えることができる。この基質は、サブサイトの相互作用およびエキソ認識表面の両方を介して結合し、1nM未満の基質解離定数(K)を有する。このスキームにおいて、スブチリシンは、M13ファージの表面上の融合タンパク質として合成される。スブチリシンファージのランダムライブラリーは、G−P同族−G基質と混合される。誤ってフォールディングされたスブチリシンを提示するファージまたは標的配列にほとんど結合しないサブサイトを有するファージを、非結合に基づいて排除する。基質に結合するファージは、次に、キャッチステップにおいてGドメインによりIgGセファロースに結合する。プロドメインによる結合シグナルの増幅により、キャッチ段階は、選択工程においてかなり許容的なステップである。10nM以下のKを有するスブチリシンファージは、効率的に保持される。トリガーなしで基質を切断するスブチリシンファージを、選択のキャッチステップでは保持されない。これは、厳しい規制および特異性を進化させるのに重要である。
【0079】
ファージを亜飽和アニオン濃度によって放出する。この工程を図5におおまかに描く。その後、G−P同族と複合した放出ファージをHSAセファロース上で回収する。特定のスブチリシンファージの放出速度は、アニオンに対するその親和性およびアシル化の遷移状態を安定にするアニオンの能力の両方を反映する。基質結合はプロドメインによって増幅されるにもかかわらず、三元複合体中の生産的基質相互作用は、それらの熱力学的結合により結合するアニオンに反映される。したがって、このシステムを用いて、特異性に寄与する2つの主要なエネルギー成分を選択することができる。
【0080】
以下の実施例3〜4は、実施例1および2で提供された一般概念に基づくファージディスプレイスブチリシン選択法の有用な変形を説明する。
【0081】
実施例3:誘発されるスブチリシンのS1結合ポケットの洗練
ほとんどのスブチリシン接触は、切断可能な結合のアシル側の最初の4つの基質残基で行われる。スブチリシンに結合する基質の側鎖構成成分は、主にP1およびP4アミノ酸に起因する(例えば、図4参照)。スブチリシンディスプレイ法を試験するために、166番目の位置にランダム変異を有するスブチリシンファージライブラリーを構築した(図6も参照)。
【0082】
fd遺伝子III融合ファージミドpHENlを用いて、その表面上にSBT−g3p融合タンパク質を提示する融合ファージ粒子を産生する。1.8×1011SBT−g3pファージ粒子および1.5×1011ヘルパーファージを10ピコモルのG−PFRAL−S−Gに加える対照選択を行った。ファージのインプットは、約0.2ピコモルの融合タンパク質に相当する。20mMアジドを用いた1ラウンドのキャッチアンドリリース選択は、ヘルパーファージに対して350倍のファージミド濃縮をもたらした。
【0083】
166ライブラリーの変異誘発を、dut、ung変異誘発の標準的手順に従って、1本鎖ウラシル含有DNA鋳型を用いて行った。コドン166をランダム化する縮重オリゴヌクレオチドを用いて、ランダムライブラリーを構築した。変異誘発ステップ後の二本鎖DNAの形質転換は、1μgから10個のコロニー形成単位をもたらした。配列決定により、標的部位において比較的ランダムな配列分布が明らかになった。
【0084】
アジドに反応して基質G−PFRAL−S−Gを切断する変異体を選択した。ファージをG−PFRAL−S−G基質に結合させ、IgGセファロース上で回収した。融合タンパク質を加水分解する能力を、放出ステップにおいて、5分間、1mMアジドでビーズを洗浄することによって選択した。したがって、ファージは、それらが誘発条件下でGからG−PFRALを切断する速度論に基づいて樹脂から放出されるか、または保持される。放出されたファージをHSA−セファロース上で回収し、酸で溶出し、中和し、それを用いて新鮮な大腸菌細胞に感染させ、プレートから取り除いて、コロニー数を数えた。3サイクルの選択を行った。3ラウンドの選択後、位置166のコンセンサスアミノ酸はスレオニンであった。T166変異体の速度論的性質を、166番目にセリンを有する親酵素(SBT189)と比較した。T166変異体は、1mMアジド中SBT189よりも1.5倍速くG−PFRAL−S−Gを加水分解した。さらに重要なことには、アジド非存在下におけるT166の切断速度は、SBT189よりも3.3倍遅かった(0.035/分対0.12/分)。したがって、固有速度に対する誘発速度の比は、S1サブサイト内の単一アミノ酸位を最適化することにより5倍増加した。この比は、この酵素がどれくらい強くトリガーによって制御されるかの定量的尺度である。
【0085】
実施例4;異なるアニオントリガーで強く制御されるプロテアーゼの進化
ランダムライブラリーの設計理論は、隣接残基の適切な配列が、基質アミノ酸および特定のアニオンに対する選択的結合ポケットを作製することができることである。アニオン部位ライブラリーにあるランダム化のために選択されたアミノ酸は、30、32、33、62、68、123、および125であった(図7参照)。7つの位置の変異(1.28×10変異体)によって生成された巨大配列空間は、所望の誘発特性を有する酵素を高確率で産生する。典型的なライブラリーは、10を超える独立クローンを示す。最高の酵素はおそらくまれであるため、配列空間の徹底的な探査が望ましく、強力な選択法を必要とする。
【0086】
亜硝酸塩に反応して基質G−PFRAL−S−Gを切断する変異体を、本発明のキャッチアンドリリースファージディスプレイシステムを用いて選択した。ファージをG−PFRAL−S−G基質に結合させ、IgGセファロース上で回収した。融合タンパク質を加水分解する能力を、放出ステップにおいて、5分間、1mM亜硝酸塩でビーズを洗浄することによって選択した。したがって、ファージは、それらが誘発条件下でGからG−PFRALを切断する速度論に基づいて樹脂から放出されるか、または保持される。放出されたファージをHSA−セファロース上で回収し、酸で溶出し、中和し、それを用いて新鮮な大腸菌細胞に感染させ、プレートから取り除いて、コロニー数を数えた。3サイクルの選択を行った。
【0087】
3ラウンドのキャッチアンドリリース選択後、インプットファージに対するコロニー形成単位の濃縮は約1000倍増加した。各ラウンドの選択から24個のクローンの配列を決定した。11個の異なるアミノ酸配列が、第3ラウンドの24個の配列中に観察された。ほとんどの位置では強い保存が示された。68位のみ著しい変化を許した(24クローン中7個の異なるアミノ酸が見つかった)。第3ラウンドの11個のプロテアーゼ変異体をサブクローニングし、大腸菌で発現させた。これらの変異体の3つは、5分で、0.1mM亜硝酸塩でG−PFRAL−S−Gを完全に切断した。これらの配列は以下のとおりである。
【0088】
【表2】

【0089】
実施例5:逐次選択を行うことによる新たな特異性の進化
一方の部位における結合が他方の部位での相互作用に影響を与えるような結合部位の相互接続ネットワークの基質結合ポケットおよび補助因子部位(図6参照)。さらに、最適な基質−酵素の組み合わせの側鎖は、酵素の結合ポケットとのそれらの相互作用を介して骨格の位置を調節して、基質結合と遷移状態の安定化の間で最適なバランスを達成する。その結果、反復工程における酵素の特異性および誘発特性を組織的にシフトすることができる。この工程は、pT1001と表されるスブチリシン変異体のS4サブサイト内のランダム変異体の選択によって説明される。pT100l内の変異を、実施例3および4に記載の選択で同定した。
【0090】
【表3】

【0091】
ランダムP4ライブラリーを、親ファージミド内のスブチリシン遺伝子として変異体pT1001を用いて構築した。このP4ライブラリーは、104、107、128、130、132および135の位置においてランダムアミノ酸を含む(図6を参照)。このファージライブラリーを、基質配列(例えば、G−PXRAL−S−G)を用いて選択した(ここで、X=G)。亜硝酸塩を誘発アニオンとして用いた。3ラウンドの選択の統計的結果は以下のとおりである。
【0092】
【表4】

【0093】
HSA樹脂から溶出した数がIgG樹脂から放出されるファージの数に収束することは、高率の選択ファージが、G−PGRAL−S−G基質に結合し、かつ亜硝酸塩添加の際、GRAL(配列番号13)配列の後ろの基質を切断することができる酵素を提示していることを示した。3ラウンドの選択後、このファージミドのうちの10個の配列を決定した。変異部位における配列を以下に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
第3ラウンドの10個の変異体を発現させ、精製し、G−PLGRAL−S−Gに対する活性について測定した。選択条件(1mM亜硝酸塩、5分、25℃)下で、全ての変異体は基質を完全に切断する。さらに全ての変異体は、他の18個のアミノ酸と比べてG−PLGRAL−S−G基質シリーズのP4位のグリシンまたはアラニンを強く好む。したがって、特異性は、1サイクルの選択において、親の好みの(F/Y)RAL−(配列番号14)から(G/A)RAL−(配列番号15)へ変わった。
【0096】
実施例6:安定性の進化および容易なフォールディング
前の選択の17個の変異体について、熱安定性およびフォールディング速度を測定した。全ての変異体は75℃を超える融点を有し、酸で変性した後に急速にリフォールディングし、活性のある立体構造にリフォールディングした。立体構造の安定性および容易なフォールディングは、ファージディスプレイ法において選択を必要とする。したがって、これらの方法は誘発される触媒作用に加えて、これらの性質を選択する手段を提供する。
【0097】
実施例7:理論の基本的技術
誘発されるプロテアーゼを理解するための基本的な機構の枠組みを以下に示す。ここでEは酵素であり、Sは基質であり、アニオントリガーはアジド(N)である。
【0098】
【表6】

【0099】
上記のとおり、この反応を4つの段階に分けることができる。以下に、反応経路の各ステップおよび各ステップが特異性に寄与する方法について記載する。
【0100】
三元複合体形成:ステップ1は、基質およびアニオンの酵素への結合について説明する。これらの結合反応は熱力学的に関連し、最初の化学ステップ(アシル化)に対して急速な平衡状態にある。基質の非存在下で、H64が活性部位から離れて回転し(chi1=−60°回転異性体)、アニオンとの水素結合に利用できない時、酵素に結合するアニオンは弱い。基質結合は、基質のP1’アミノ酸およびP2アミノ酸の下に埋葬されている活性部位にH64を押し込み、基底状態のアニオンと水素結合を形成する。活性部位にH64を押し込むコストは、基質結合エネルギーでまかなわれる。このアニオンの結合は、いくつかの基質配列に対するこのコストの一部を償還することができる。ES複合体へのアニオンの結合親和性は、特にΡ1’アミノ酸およびP2アミノ酸によって決まる。したがって、関連する平衡により、基質配列は基底状態のアニオン親和性に対して効果を発揮し、配列の区別の最初の層を作製する。
【0101】
アシル化反応:ステップ2は、この三元複合体のアシル−酵素への変換およびそれに付随する基質のC末端部分への放出について説明する。ファージディスプレイに用いられる基質により、Gドメインはアシル化ステップに付随して放出される。蛍光レポーター基がスブチリシンに付着している場合は、エネルギー移動の減少はアシル化の時間依存的定量を可能にする。アニオンおよび基質1を反応に同時に加える場合、酵素基質複合体の形成および崩壊の両方の速度を観察する(図8A参照)。この複合体が、アニオンの導入前に基質1と事前に形成される場合、速度論は、三元複合体の生成物への一次変換を明らかにする(図8B−Cを参照)。0.1M KPO、pH7.2、アジド非存在下で、G放出の速度は、22℃で0.0019/秒である。飽和アジドの放出速度は6.4/秒であり、約3300倍のアジド依存的速度上昇に相当する。アジドのみかけのKは50mMである。比較すると、(32位にアスパラギン酸を有する)対応する野生型活性部位のアシル化ステップの速度は約20/秒である。
【0102】
機構的には、キャッチアンドリリースファージ選択は反応速度実験に似ている。基質−ファージ複合体をキャッチステップで事前に形成させる。ファージを亜飽和アニオンにより放出させる(図5参照)。その後、G−P同族と複合する放出ファージをHSAセファロースで回収する。特定のスブチリシンファージの放出速度は、アニオンに対するその親和性およびアシル化の遷移状態を安定化させるアニオンの能力の両方を反映する。基質結合がプロドメインによって増幅されるにもかかわらず、この三元複合体中の生産的基質相互作用は、それらの熱力学的結合によるアニオン結合に反映される。したがって、特異性に寄与する2つの主要なエネルギー構成成分を選択することができる。
【0103】
脱アシル化反応および生成物の放出:切断した時に高い蛍光を発する自己消光FRETペプチド(ダブシル−EEDKLFRAL−SATE(EDANS)G(配列番号16))を合成した。このペプチドは、過渡状態の速度論的パラメーターを決定するために用いられている。50mMアジド中のSBT189の脱アシル化は、野生型の対照物(1.8/秒)よりも速い(3.3/秒)。生成物(ダブシル−EEDKLFRAL;(配列番号17))の放出速度は6/秒であり、Kは1.2μMである。生成物結合はアジド濃度に影響されない。G−P同族へのスブチリシン−ファージの強力な生成物結合は、ファージ選択の放出ステップにおける活性変異体の収集に用いられる(図5参照)。しかし、結合はこのステップにおいて構成的であり、選択性を向上させるのに用いられない。
【0104】
作製され、厳密に制御されるプロテアーゼは、タンパク質に基づくナノマシンの「トランジスタ」として用いることができる。電子機器のトランジスタは、電圧および電流の増幅、検出、およびスイッチングにおける重要な要素である。プロテアーゼは、他のタンパク質を制御することができる分子装置である。この概念は生物学を通して用いられている。天然のプロテアーゼは、複雑な論理ゲートに多様な酵素機能を結びつけることにより、胚発生から細胞死への細胞過程を制御する。
【0105】
最も単純な誘発プロテアーゼマシンを検出のために用いることができる。例えば、亜硝酸塩検出器は、インプットシグナル(例えば、速度論解析に用いられる内部消光FRETペプチド)およびこのFRETペプチドに特異的な亜硝酸塩誘発プロテアーゼからなる。検体中の亜硝酸塩は制御因子であり、切断された蛍光ペプチドがアウトプットである。NOのNOへの急速分解により、このアッセイは、体液中のNO濃度を示すために、または一酸化窒素合成酵素活性のアッセイに用いられ得る。同様に、フッ化物検出を用いて、自然にフッ化物およびメチルホスホン酸に分解する有機フルオロリン酸神経ガス(例えば、サリンおよびソマン)を検出することができる。天然アニオンのギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、およびピルビン酸は中心的な代謝経路の一部であり、細胞内および体液内の代謝状態の指標として用いられ得る。検出器プロテアーゼの基準は低い固有の切断率、特定のアニオンに対する高い特異性、およびそのアニオンの存在下での高活性である。ほとんどの配列特異性は、それらが堅固な誘発特性をもたらすという条件で容認できる。
【0106】
より複雑な検出器は、順に、プロテアーゼを会合させることによって構築することができる(多重検出器)。これは、多岐にわたる特異性を有するプロテアーゼおよび異なるトリガーを必要とする。1つのプロテアーゼは、プロセシング事象のカスケードにおいて次のプロテアーゼを活性化する。これは、血液凝固のような自然のプロテアーゼカスケードに類似している。活性化カスケードは、生合成中に、スブチリシンプロドメイン阻害剤からのスブチリシンの自然放出を構築することができる。天然のプロドメインは、それらの球状領域内のプロテアーゼ感受性部位に起因する強力だが一過的な阻害剤である。この感受性配列が切断された時、プロドメインは折り畳まれず、強力な阻害は失われる。この構造を図9のプロテアーゼ活性化スキームに描き、以下の実施例で詳細に説明する。異なる配列特異性を有する2つのプロテアーゼおよび2つのトリガーは、両方のトリガーニオンが存在する場合にシグナルを生成する。論理演算子の観点から、これは「アンド(AND)」ゲートである。
【0107】
実施例8:シグナル増幅スキームでの人工プロテアーゼの使用
【0108】
この実施例は、(前の実施例で進化させたプロテアーゼなどの)1つまたは複数のプロテアーゼが結合シグナルを増幅するために使用することができる方法について説明する。強力な検出システムは、4つの基本成分:1)結合分子と結合したプロテアーゼ、2)非結合型プロテアーゼ、3)タンパク質分解切断部位を含む阻害タンパク質、ならびに4)切断の際、シグナルを生成するプロテアーゼ基質から構築することができる。
【0109】
このシステムの単純版を図9に示す。結合分子に結合したプロテアーゼをプロテアーゼ1と表し、切断可能な阻害剤と複合体を形成した非結合型プロテアーゼをプロテアーゼ2と表す。この検出器の増幅素子は、プロテアーゼ阻害剤2と阻害剤の1対1の複合体を含む。この2つの間の結合は非常に堅く、その結果、遊離プロテアーゼ2の濃度は極めて低い。微量のプロテアーゼ1のこの複合体への添加は連鎖反応を開始し、その中で、プロテアーゼ阻害剤1は阻害剤のタンパク質分解切断部位を切断し、それによってプロテアーゼ2を放出する。順に、プロテアーゼ2は、より多くのプロテアーゼ2を放出する他の阻害剤のタンパク質分解切断部位を切断する。プロテアーゼ1および2の両方は、基質ペプチドを切断し、シグナルを生成する。
【0110】
この連鎖反応の速度式を図10に見ることができる。切断基質からのシグナルの初期の誘導期が観察され、その後、この反応の過程において遊離プロテアーゼ2の濃度が指数関数的に増加するにつれ、シグナルの急増が続く。誘導期の持続時間を、連鎖反応を開始するのに用いられるプロテアーゼ1の濃度によって決定する。プロテアーゼ活性化カスケードを調節し、最終的に感度およびシグナル対ノイズ比を決定するための3つの重要な要素は、無傷の阻害剤によるプロテアーゼの非常に堅固な抑制、遊離プロテアーゼによる阻害剤の急速な切断、および切断された阻害剤からの遊離プロテアーゼの迅速な放出である。単純な活性化カスケードのメカニズムは以下のとおりである:
【0111】
【化2】

【0112】
このメカニズムにおいて、Pは遊離プロテアーゼであり、IPはプロテアーゼ阻害剤複合体であり、Cは切断された阻害剤であり、Sは基質であり、Qは切断された基質である。この単純なメカニズムにおいて、複合プロテアーゼおよび阻害剤と最初に複合体を形成したプロテアーゼは同じプロテアーゼであり得、両方とも単に遊離状態のPと表すことに留意されたい。この図において、遊離プロテアーゼの初期濃度は10−9、10−11M、および10−13Mである。
【0113】
結合分子(通常は抗体)は、通常、複雑な試料中の特定成分の濃度を測定する検出システム中の酵素と結合している。酵素免疫測定法(ELISA)は、これらの検出方法の最も一般的な例である。本検出方法は、ELISAアッセイに共通する結合分子への酵素の結合を用いることができるが、複合酵素の活性を単にアッセイする代わりに、複合プロテアーゼを用いて、プロテアーゼカスケードを誘発する。その結果、膨大なシグナル増幅になる。この潜在的な増幅は、ある意味、いくつかの出発分子の存在を用いてシグナルの指数関数的増加をもたらす能力のあるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に類似している。
【0114】
この基本概念は、感度およびシグナル対ノイズ比を潜在的に改善する多くの変化を可能にする。この変化は、同時に複数の成分の濃度を決定する可能性ももたらす。複数のプロテアーゼ阻害剤複合体を利用するこのような2つの変化を、図11および図12に示す。これら両方の例において、阻害剤複合体中のプロテアーゼは、独自の阻害剤を切断することはできないが、かわりに、その阻害された複合体から異なるプロテアーゼのみを放出することができる。図11は相互活性化スキームを示し、図12は、活性化シグナルが線形経路で伝達される連続活性化スキームを示す。これらのスキームで用いられ得るプロテアーゼ−阻害剤の組み合わせの例は、感受性ループ内のGRAL(配列番号18)配列と複合したプロテアーゼpT1001およびその配列を有する阻害剤、ならびに感受性ループ内のFRAL(配列番号19)配列と複合したプロテアーゼpT2012およびその配列を有する阻害剤である。
【0115】
実験データ:切断可能な阻害剤としてのスブチリシンプロドメインの作製:1980年代初期の、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のスブチリシン遺伝子の配列決定により、一次翻訳産物がプレプロタンパク質であることが明らかになった。30個のアミノ酸のプレ配列は、膜を横切るタンパク質分泌のためのシグナルペプチドとして機能し、シグナルペプチダーゼによって加水分解される。プロドメインと呼ばれる77個のアミノ酸配列は、シグナル配列と275個のアミノ酸の成熟スブチリシン配列の間で発見された。この77個のアミノ酸のプロドメインは活性スブチリシンの競合的阻害剤であり(5.4×10−7MのKi)、プロ配列全体が強い阻害に必要である。
【0116】
スブチリシンとそのプロドメインの間の複合体の高分解能構造が当該技術分野で周知である。この構造は、このプロドメインのC末端部分が基質としてスブチリシン活性部位の中で結合すること、ならびにこのプロドメインの球状部分がスブチリシンに対して広範な相補的な表面を有することを示す。単離されたプロドメインは折り畳まれないが、スブチリシンと複合した4本鎖のアンチパラレルβ−シートおよび2つの3回転αヘリックスを有する小型構造を前提としている。C−末端残基はプロドメインの中心部から伸び、スブチリシンの活性部位の裂け目に沿って基質のような方法で結合する。プロドメインの残基Y77、A76、H75、およびA74は、それぞれ、P1〜P4の基質アミノ酸になる。これらの残基は、スブチリシンの天然配列優先性に準拠している。折り畳まれたプロドメインは、C末端部の基質相互作用およびβ-シートによってもたらされる疎水性界面の両方によって媒介される天然スブチリシンと相補的な形状ならびに高い親和性を有する。
【0117】
スブチリシンの安定なプロドメイン変異体を選択する手順は、当該技術分野で周知である。その手順における安定性の選択は、スブチリシンに結合するプロドメインがプロドメインの折り畳みと熱力学的に関連するという事実に基づく。すなわち、このプロドメインの天然の三次構造は、スブチリシンへの最大結合を必要とする。スブチリシンに直接接触しないプロドメインの領域に変異を導入する場合、それらのスブチリシンへの結合に対する効果は、それらが天然の立体構造を安定化させるか否かと関連する。したがって、このプロドメインの独立した折り畳みを安定化させる変異は、その結合親和性を増加させる。安定化されたプロドメイン変異体は、野生型プロドメインより約100倍高い親和性でスブチリシンに結合する。
【0118】
NMRによる人工プロドメインのスブチリシンへの高親和性結合の性質決定:プロドメイン結合のエネルギー論を理解するために、遊離スブチリシンおよびプロドメインと複合体を形成したスブチリシン内の223個のアミドプロトンの残基特異的交換率を決定した。この研究に用いたスブチリシンプロドメインの人工型を、proR9(SGIK(配列番号20)と置換したA23C、K27E、V37L、Q40C、H72K、H75K、T17、M18、S19、T20、M21)と表す。proR9を、独立して安定になるように作製した。遊離スブチリシンにおいて、アミドプロトンを交換率にしたがって分類分けすることができる:74の速い交換体(速度≧1/時);52の中間交換体(1/時〜1/日の間の速度);31の遅い変換体(1/日〜0.001/日の間の速度)。残りの66個のアミドタンパク質は9カ月を超えて(1年以内のkobs)検出可能な程度に交換せず、コアプロトンを示さなかった。コア残基は、スブチリシンの主要構造要素全体に生じる。プロドメイン結合は、中央のβシート、特に、β鎖S5、S6、およびS7の近く、ならびにそれらの間の連結ループに高い保護係数(100〜1000)をもたらす。
【0119】
X線結晶解析による人工プロドメイン−プロテアーゼ相互作用の性質決定:人工プロドメインとアジド誘発性プロテアーゼSBT189の間の複合体の構造は、分解能が1.8Åであることも当該技術分野で周知である。プロドメインの安定型はpG60と表され、以下の変異:アミノ酸17〜21(TMSTM;配列番号21)のGFKとの置換、ならびに置換A23C、K27E、V37L、Q40C、H72K、A74Y、H75R、およびY77Lを含む。pG60は独立して安定であり、野生型プロドメインより約100倍高い親和性でスブチリシンに結合する。以前に観察されたように、基質骨格はスブチリシンの鎖100〜104および鎖125〜129の間に挿入されると、7つの主鎖の水素結合を含むアンチパラレルβシート配置の中の中心鎖になる。野生型プロドメインはシステインを含まないが、選択を伴う標的化ランダム変異誘発は、秩序だったジスルフィドを形成する2つのシステインの導入をもたらした。この構造は、当該技術分野で詳細に記載されている。
【0120】
プロドメイン内でのプロテアーゼ切断部位の作製:本発明の方法を用いて、スブチリシン変異体SBT189のタンパク質分解切断部位をプロドメイン変異体内に作製した。(pS170と表される)この変異体において、アミノ酸18Mおよび19Sを18Yおよび19Kに置換した。これは、プロドメインのβ1鎖とα−ヘリックス1の間の可動性ループにアミノ酸配列YKTM(配列番号22)を作製する。このYKTM(配列番号22)配列は、10mMアジドの存在下で、遊離SBT189によって容易に切断され得る。プロドメイン変異体pS170は、その無傷型でのSBT189スブチリシンへの結合を改善するための置換変異A74FおよびH73Kも含む。SBT189に対する切断部位を含まないプロドメイン型(pS156と表す)も作製した。このプロドメインは、18位および19位に野生型アミノ酸を含むが、A74FおよびH73K置換を含む。
【0121】
活性化カスケードの証明:この実施例は、プロテアーゼ活性が活性化カスケードにおいて調節され得る方法を示す。これを行うために、SBT189の2つの異なるプロドメイン阻害剤との複合体を形成した。第1の複合体は100μMのSBT189およびプロドメイン変異体pS156を含み、第2の複合体は100μMのSBT189およびプロドメイン変異体pS170を含んでいた。この活性化カスケードを開始するために、10nMの野生型スブチリシンを各複合体に加えた。野生型スブチリシンは、pS156のループ配列MSTM(配列番号23)およびpS170のループ配列YKTM(配列番号27)の両方を切断することができる。消化5分後に、1mMまでEDTAを添加し、55℃まで10分間加熱することにより、野生型スブチリシンを不活性化した。その後、アジドをこの反応に10mMまで添加し、遊離SBT189スブチリシンの活性を時間に応じて測定した。pS156複合体からの遊離SBT189の放出は、約1/日の速度で起こる。これは、SBT189によるループ配列MSTM(配列番号23)の切断が非常に遅いからである。逆に、pS170複合体からのSBT189の完全活性化が10分以内に起こる。SBT189はループ配列YKTL(配列番号24)を容易に切断することができ、SBT189は、自己活性化連鎖反応が野生型スブチリシンによって開始された後に迅速に放出される。したがって、pS170複合体のプロテアーゼシグナルは、10分で約10倍(10nM〜100μM)増加する。
【0122】
本発明の実施において、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、様々な変更および変化が行われ得ることは当該技術者に明らかであろう。本明細書の考慮および本発明の実施から、本発明の他の実施形態が当該技術者に明らかであろう。本明細書および実施例は単なる例証と考えられるべきであり、本発明の真の範囲および趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を作製する方法であって、
選択基質に対する前記酵素の触媒機能に関与する残基に変異を施し、前記基質に対する酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させることを含み、その際、前記基質に対する前記変異酵素の触媒活性は、外来性トリガー分子によって復活させることができ;かつ、
前記酵素に別の変異を施すことを含み、その際、前記他の変異が、外来性トリガー分子の存在下で、事前に選択した基質に対する前記変異酵素の触媒活性および特異性を増加させる、方法。
【請求項2】
前記酵素がプロテアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記選択基質および前記事前に選択した基質が異なる基質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
以下のファージキャッチアンドリリース工程:
ファージ表面上で変異酵素を発現させること;
固体支持体に結合している基質にファージを結合させること;
非結合ファージを除去すること;
前記トリガー分子に酵素−基質複合体を曝露し、前記基質から前記ファージを放出すること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記変異酵素を発現するファージを回収することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ファージキャッチアンドリリース工程がさらに1回または複数回実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記方法のステップのそれぞれがさらに1回または複数回実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
目的の基質に結合し、前記基質が関与する反応を触媒する能力を有する人工酵素を同定し、単離する方法であって、
(a)選択基質に対する前記酵素の触媒機能に関与する残基に変異を施し、前記基質に対する前記酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させることを含み、その際、前記選択基質に対する前記変異酵素の触媒活性は、外来性トリガー分子によって復活させることができ;
(b)前記変異酵素に別の変異を施すことを含み、その際、前記他の変異は、事前に選択した基質に対する前記変異酵素の触媒活性および特異性を増加させ;
(c)ファージの表面上で前記変異酵素を発現させること;
(d)固体支持体に結合している前記事前に選択した基質に前記ファージを結合させること;
(e)前記酵素−基質複合体を前記トリガーに曝露し、前記事前に選択した基質から前記ファージを放出させること;かつ
(f)前記変異酵素を発現する前記ファージを回収すること、
を含む方法。
【請求項10】
1つまたは複数の他の変異を施すために出発配列として前のサイクルのステップ(f)で得られた前記変異酵素の配列を用いて、ステップ(b)〜(f)が1回または複数回繰り返される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)〜(f)が1回または複数回繰り返される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
目的物質の検出に使用するための酵素を作製する方法であって、
選択基質に対する前記酵素の触媒機能に関与する残基に変異を施し、前記基質に対する前記酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させることを含み、その際、前記基質に対する前記変異酵素の触媒活性は、目的物質によって復活させることができ;かつ
前記酵素に別の変異を施すことを含み、その際、前記他の変異が、目的物質の存在下で、事前に選択した基質に対する前記変異酵素の触媒活性および特異性を増加させる、方法。
【請求項13】
前記選択基質および前記事前に選択した基質が異なる基質である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ファージの表面上で変異酵素を発現させること;
固体支持体に結合している事前に選択した基質に前記ファージを結合させること;
酵素−基質複合体を前記トリガーに曝露し、前記事前に選択した基質から前記ファージを放出させること;
前記変異酵素を発現する前記ファージを回収すること、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
外来性トリガー分子の非存在下で基質結合に適するが、基質触媒作用に欠陥がある人工酵素であって、以下の特徴:
前記酵素の触媒活性に関与し、選択基質に対する前記酵素の触媒活性を低下させるか、または消失させる残基における変異を有し、その際、前記変異酵素の触媒活性は外来性トリガー分子によって復活させることができ;かつ
前記変異酵素内に別の変異を有し、その際、前記他の変異は、前記トリガー分子の存在下で前記変異酵素の事前に選択した基質に対する触媒活性および特異性を増加させた、酵素。
【請求項16】
前記選択基質および前記事前に選択した基質が異なる基質である、請求項15に記載の人工酵素。
【請求項17】
前記人工酵素がプロテアーゼである、請求項15に記載の人工酵素。
【請求項18】
前記人工酵素がセリンプロテアーゼである、請求項17に記載の人工酵素。
【請求項19】
請求項15に記載の人工酵素および前記人工酵素の触媒活性に適合する少なくとも1つの他の物質、を含む組成物。
【請求項20】
前記他の物質が前記人工酵素の触媒活性を復活させるトリガー分子である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
請求項15に記載の人工酵素および前記人工酵素の触媒活性を復活させるトリガー分子、を含むキット。
【請求項22】
試料中の目的物質の存在を検出する方法であって、
請求項15に記載の人工酵素および前記酵素に対する基質の間で複合体を形成させること;
前記試料に前記複合体を曝露すること;ならびに
前記試料の存在下で前記酵素の触媒活性の増加を検出することによって、前記試料が目的物質を含むか否かを決定すること、
を含む方法。
【請求項23】
化学兵器、毒の指標となる分子、または有害生物の指標となる生物学的または生化学的な産物の試料中の存在を検出する方法である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的または生化学的な産物が細菌によって産生されるポリペプチド毒素である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記分子が化学兵器または毒の分解産物である荷電分子である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
以下の特徴を有するプロテアーゼ−阻害タンパク質複合体:
前記阻害タンパク質がタンパク質分解切断部位を含み;
前記タンパク質分解切断部位で前記阻害タンパク質の切断が遊離プロテアーゼの放出をもたらし;
遊離プロテアーゼがタンパク質分解切断部位でプロテアーゼ−阻害剤複合体の別の分子を切断することができる、複合体。
【請求項27】
前記プロテアーゼに結合する結合要素をさらに含む、請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
前記プロテアーゼに対する基質をさらに含み、その際、前記基質が前記プロテアーゼによる切断の際に検出できるシグナルを生成する、請求項26に記載の複合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2013−510559(P2013−510559A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531029(P2012−531029)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/049992
【国際公開番号】WO2011/038114
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(512075981)ポトマック アフィニティー プロテインズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】