説明

手動式移動車

【課題】別途、移乗のための装置等を用意する必要がなく、利用者が体の向きを変えずに、ベッドや便座等との間で簡単に移乗でき、構造が簡素で一人でも利用可能で、利用者の背中や腰などに負荷を与えることがなく、長時間使用でき、特に脊椎等に損傷がある場合でも無理なく利用可能で、介護者及び被介護者(利用者)の負担を大幅に軽減でき、従来の車椅子の代わりに使用して移動できる機能性、取扱い性に優れた手動式移動車の提供。
【解決手段】台部と、台部の両側部にそれぞれ立設された側部フレームと、各々の側部フレームの外側に回動自在に配設された駆動輪と、駆動輪に連結された手動駆動部と、各々の側部フレームの延設部の下端部に転向自在に配設された補助輪と、台部に配設された昇降機構部と、利用者が台部の後方から着座する着座部と着座部の前端側に連設された胸当部とを有し昇降機構部により上下動する体幹支持部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足腰の弱った老人や肢体不自由者等のように、介護を必要とする被介護者等の利用者が車椅子代わりに手軽に利用して移動することができ、長時間使用しても、背中や腰などに負荷を与えることがなく、特に利用者の脊椎等に損傷がある場合でも無理なく利用することができ、ベッドや便座などとの間で容易に移乗することができ、取扱い性に優れる手動式移動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下肢の麻痺などのために杖などを使っても歩行が困難な人が、自分の足がわりとして自ら操作しながら移動できる車椅子が一般に広く使用されている。車椅子の標準型としてもっとも普及している型は、(特許文献1)に示すように、椅子に取り付けた前方の小車輪と後方の大車輪とからなり、駆動輪となる大車輪には走行用リング(ハンドリム)が付けられており、自分でこれを回して運転する仕組みになっている。車椅子にはこの他、操作がもっとも簡単で老齢者向きの前方大車輪型、両手が使えない人のための片手駆動型、屋外走行用の手動チェーン型をはじめ、手押し型、腹臥位走行型などの特殊型もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−147767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術は以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)を始めとするこれら従来の車椅子は、いずれも着座部の後方に背もたれがあり、前方から乗り降りしなければならないため、一旦立ち上がって体の向きを変えて腰を下ろすという動作が必要であり、ベッドやトイレの便座などから乗り移る際には、介護者の助けを借りなければならないことが多かった。
特に、寝たきりの人や足腰の弱った老人等のように身体が不自由で、介護を必要とする被介護者をベッドと車椅子などとの間で移乗させる際には、介護者が被介護者を抱きかかえたり、リフターと呼ばれる移乗機器などを使用したりしているが、介護者が被介護者を抱きかかえて体重を支える場合には、介護者への負担が大きく、腰痛などの原因となっていた。また、車椅子への乗降時にバランスを崩すなどして転倒事故が発生することもあり、使用性に欠けるものであった。
(2)さらに、従来の車椅子では背もたれによって背中にも圧迫を受けるが、特に脊椎損傷患者の場合は、脊髄損傷によって感覚を失っていると肉体的苦痛を知覚できず、血流障害などが発生することもあった。また、脊椎損傷患者の車椅子座位姿勢は脊柱を後彎し骨盤を大きく後傾させた姿勢をしており、健常者に比べ狭い範囲に圧力が集中し易い傾向にあるため座位姿勢に特に注意を要する必要があった。
また、使用状態では背もたれによる背中への圧迫があり、特に脊髄損傷者が使用するには不向きであるという課題があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するもので、別途、移乗のための装置等を用意する必要がなく、利用者が体の向きを変えずに、ベッドや便座等との間で簡単に移乗でき、構造が簡素で一人でも利用可能であると共に、利用者の背中や腰などに負荷を与えることがなく、長時間使用することができ、特に脊椎等に損傷がある場合でも無理なく利用することが可能で、介護者及び被介護者(利用者)の負担を大幅に軽減することができ、従来の車椅子の代わりに使用して移動を行うことができる機能性、取扱い性に優れた手動式移動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来の課題を解決するために本発明の手動式移動車は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の手動式移動車は、台部と、前記台部の両側部にそれぞれ立設された垂直支持部と前記垂直支持部の上端部に前記台部の前後方向と平行に配設された手摺部と前記手摺部の後端側から下方に延設された延設部とを有する側部フレームと、各々の前記側部フレームの外側に回動自在に配設された駆動輪と、前記駆動輪に連結され利用者が手動で駆動することにより前記駆動輪を回動させる手動駆動部と、各々の前記側部フレームの前記延設部の下端部に転向自在に配設された補助輪と、前記台部に配設された昇降機構部と、前記利用者が前記台部の後方から着座する着座部と前記着座部の前端側に連設された胸当部とを有し前記昇降機構部により上下動する体幹支持部と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)体幹支持部に背もたれがなく、台部の後方から着座部に着座することができ、移乗に際し、着座部を分解したり、変形させたりする必要がなく、特に利用者が足腰などの弱った被介護者の場合はベッドや便座などに着座した状態から体の向きを変えずにそのまま台部後方より容易に着座部を跨ぐようにして着座することができ、介護者の手を借りることなく一人で移乗することが可能で、介護者及び被介護者(利用者)の負担を大幅に軽減することができ、省力性、使用性に優れる。
(2)体幹支持部が、着座部の前端側に連設された胸当部を有することにより、着座部に着座した状態で、前傾姿勢で胸当部に抱きつくようにして体重を預けることができ、着座部及び胸当部で体重を分散して利用者の体を確実に支持することができるので、昇降機構部によって体幹支持部を昇降させる際に、背もたれがなくても安定した姿勢を保持することができ、体幹支持の安定性、昇降動作時の安全性に優れる。
(3)台部に配設された昇降機構部により、必要に応じて体幹支持部を上下動させることができるので、容易に座位姿勢と立位姿勢を切り換えて、移乗や移動を行うことができ、汎用性、取扱い性に優れる。
(4)体幹支持部の着座部及び胸当部によって利用者の体重を支持することができるので、利用者の背中や腰などへの負担を大幅に軽減でき、長時間の座位姿勢或いは立位姿勢を維持することや移動を行うことが可能で、安全性、連続使用性に優れる。
(5)体幹支持部の着座部及び胸当部が、昇降機構部により一体的に上下動するので、ベッドや便座等の移乗対象物の高さや利用者の体格、姿勢などに応じて、着座部及び胸当部の高さを自在に調整することができ、移乗対象物と着座部を接近させて移乗する際に、胸当部で体重を支えることができるため、一人で簡便に移乗動作を行うことができ、汎用性、移乗動作の安全性に優れる。
(6)昇降機構部により体幹支持部を上下動させることができるので、着座部や胸当部を下方に移動させて利用者が安全かつ簡便に乗り降りできるだけでなく、着座後に着座部及び胸当部を上方に移動させることにより、利用者を所望の姿勢(角度)に保持したり、所望の高さに持ち上げたりすることができ、利用者の楽な姿勢で移動を行うことができ、使用性に優れる。
(7)背もたれがなく、利用者の背面(着座部の後方)が開放された背面開放型であるため、利用者が脊椎や腰椎など背中や腰に損傷がある患者の場合には、そのまま背面(背中)からの診察を容易に行うことができ、ベッドなどへの移動が不要で、利用者の負担を軽減できると共に、診察に要する時間を短縮することができ、診察の作業性、省力性に優れる。
(8)体幹支持部を上方に移動させた場合、立位に近い姿勢で移動(走行)することができるため、従来の車椅子に比べて利用者が広い視界を確保することができ、他人からの視認性も高く、衝突などの事故を回避することができ、安全性に優れると共に、血流の悪化を防ぐことができ、車椅子の代わりに利用して移動を行うことができ、使用性に優れる。
(9)体幹支持部を上方に移動させることができるため、従来の車椅子では届かなかった場所にも手が届き、高所への物の出し入れやドアの開閉、洗面や料理等も行うことが可能で、作業範囲を広げることができ、機能性に優れる。
(10)電動の駆動手段などを用いて昇降機構部を駆動し、体幹支持部を上下動させた場合、利用者の股関節、膝関節、足関節等を運動させることができ、一人でも屈伸運動などによる下半身の関節可動域の拡大や筋力増強、血流の改善等のリハビリテーションを行うことが可能で、下半身の運動機能の低下や浮腫等を防止することができ、機能性、省力性に優れる。
(11)台部の両側部にそれぞれ立設された垂直支持部と垂直支持部の上端部に台部の前後方向と平行に配設された手摺部と手摺部の後端側から下方に延設された延設部とを有する側部フレームを備えているので、側部フレームにより利用者の体を保護できるだけでなく、利用者がベッドや便座などから移乗する際に、側部フレームの手摺部や延設部などを把持して着座部を身体に近づけることができる共に、着座部に着座するまでの間に利用者の体重を側部フレームで確実に支持することができ、操作性、移乗動作の安全性に優れる。
(12)各々の側部フレームの外側に回動自在に配設された駆動輪と、駆動輪に連結され利用者が手動で駆動することにより駆動輪を回動させる手動駆動部を有するので、介護者の手を借りることなく、利用者が一人でも移動することができ、介護者の負担を軽減することができ、使用性に優れる。
(13)各々の側部フレームの延設部の下端部に転向自在に配設された補助輪を有することにより、移乗時などに台部の後方側に利用者の体重などの大きな荷重が加わっても転倒することがなく、移乗時及び移動時に利用者の体重を確実に支えることができ、安全性に優れる。
【0007】
ここで、台部は、任意の形態を選択することができるが、台部の前後左右の寸法は、利用者が移乗や移動をする際にバランスを崩して転倒することがないように形成されることが好ましい。尚、利用者が足を載置する台部上面は凹凸のない平面にすることで移乗の際に足の移動を妨げることがなく、使用性に優れる。
台部や側部フレームの材質としては、アルミニウム,ステンレス,鉄,チタン,マグネシウム等の金属又はそれらの合金、合成樹脂又はカーボン繊維,ガラス繊維等を添加した複合樹脂等を好適に用いることができる。剛性及び強度を有する材質を用いることにより、耐久性、信頼性に優れ、移乗時や移動時に利用者の体重を支えることや衝突時などに利用者の身体を保護することができる。
【0008】
手動駆動部は、利用者が手動で駆動することにより駆動輪を回動できるものであればよいが、従来の車椅子と同様のハンドリムが好適に用いられる。必要に応じて、電動アシスト機構を設けてもよい。長時間或いは長距離の移動が可能となり、可動性に優れるためである。
昇降機構部の駆動は電動でも手動でもよい。電動の昇降機構部を備えた場合、簡便な操作で確実に体幹支持部を所望の位置に移動させることができ、操作性、省力性に優れる。
尚、体幹支持部の着座部と胸当部は一体で上下動するが、利用者の体格などに応じて上下方向や前後方向に位置調整できるものが汎用性に優れ、好ましい。
昇降機構部の機構としては、例えば、4節リンク機構やレージートング等の各種リンク機構を用いたもの、ラックとピニオンを組合せたもの、油圧又はガス圧シリンダ、ボール螺子等、様々なものを用いることができる。尚、リンク機構の駆動部としては、油圧又はガス圧シリンダ等の伸縮手段が好適に用いられる。
【0009】
昇降機構部を電動にする場合、動力源として、バッテリーを台部に装備することができる。バッテリーとしては、充電できる二次電池が好ましく、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池、リチウムイオン二次電池、鉛電池等が使用できる。さらに、バッテリーを脱着自在とした場合、空になったバッテリーを手動式移動車から外して充電している間でも、他の充電済みのバッテリーを搭載して駆動することができ、使用性に優れる。手動式移動車は、台部に予備のバッテリーを装着することもでき、予備バッテリーを装着することで走行距離を長くすることができる。尚、昇降機構部を駆動するための操作部は体幹支持部や側部フレームなどの所望の位置に、適宜、配置することができる。
駆動輪は、任意の形態のものを選定することができるが、発泡ウレタン入りのパンクレスタイヤを使用した場合、パンクの心配やガス圧の調整を行う必要がなく、使用性に優れる。また、各々の駆動輪にサスペンションを配設すれば、快適な乗り心地にすることができる。尚、駆動輪にはブレーキを設けることが好ましい。移乗時に手動式移動車を確実に固定することができ、移乗動作を安全に行うことができるためである。
【0010】
着座部は利用者の臀部を支えるものであり、任意の形状を選択することができるが、先端から中央付近まで緩やかに幅が広がり、そこから後方に行くに従いさらに大きな割合で幅が広がる尖頭型(サドル形状)に形成した場合、移乗の際に邪魔にならず、かつ着座部を上昇させて立位姿勢をとる際に大腿部の稼動を妨げることがなく、使用性に優れる。
移乗の際に、臀部を着座部の表面で滑り易くして移動を容易にするために、着座部の表面を摩擦係数の低い皮革やポリウレタン繊維、アラミド繊維等の材質で被覆したり、表面に多数のローラーを設けたりしても良い。尚、着座部の金属製や合成樹脂製の基部と表皮の間にウレタンなどの高分子化学物質で作った発泡材を入れた場合、振動および衝撃の吸収の他、坐骨下などの高圧点の圧力を分散させることができ、神経の圧迫や血行等を改善し、臀部の痛みを軽減することができる。さらに、臀部の蒸れを防止する目的で着座部に通気孔を設けることや、表皮をメッシュ構造の生地で形成することも可能である。
【0011】
胸当部は、任意の形状を選択することができるが、利用者の胸部に部分的な圧迫や違和感を与えないような面積、形状、硬度を選択することが好ましい。金属製や合成樹脂製の基部と表皮の間にウレタンなどの高分子化学物質で作った発泡材(クッション)を入れたものが望ましい。また、胸部の蒸れを防止する目的で、着座部と同様に、胸当部に通気孔を設けたり、表皮をメッシュ構造の生地で形成したりしてもよい。
胸当部の両側部に把持部を設けた場合、移動時に把持部に掴まって身体を保持することができ、姿勢の安定性、安全性に優れる。また、胸当部の両側部に肘掛部を設けた場合、体幹支持部の昇降時に利用者の両脇を支持することや利用者が肘を掛けて休憩することなどができ、使用性に優れる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の手動式移動車であって、前記昇降機構部により前記体幹支持部を上下動させる際の前記体幹支持部の移動方向が前記台部の後方低位置から前方高位置に向かって傾斜している構成を有している。
この構成により、請求項1の作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)昇降機構部により体幹支持部を上下動させる際の体幹支持部の移動方向が台部の後方低位置から前方高位置に向かって傾斜していることにより、一度の動作で速やかに着座部及び胸当部を移乗や乗り降り、移動(走行)に最適な位置に移動させることができ、省力性、使用性に優れる。
(2)体幹支持部を台部の後方低位置から前方高位置に移動させることにより、利用者がバランスを崩すことなく、安全にスムーズな体重移動を行うことができ、落下や転倒のおそれがなく、誰でも安心して手軽に利用することができ、動作の安定性、信頼性に優れる。
【0013】
ここで、昇降機構部によって体幹支持部が移動する際の軌跡は直線状でも円弧状でもよい。昇降機構部の機構として、前述したラックとピニオンの組合せ、レージートング等のリンク機構、油圧又はガス圧シリンダ、ボール螺子等を用いる場合は、これらを台部の後方低位置から前方高位置にかけて斜めに配置することにより、体幹支持部を台部の後方低位置から前方高位置に向かって直線状の軌跡で移動させることができる。また、昇降機構部の機構として、前述した4節リンク機構などを用いた場合は、体幹支持部を揺動させるようにして台部の後方低位置から前方高位置に向かって円弧状の軌跡に沿って移動させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の手動式移動車であって、前記体幹支持部の前記着座部の上面が前記側部フレームの前記手摺部の上端より下方にある時、前記体幹支持部の前記着座部の後端が前記側部フレームの前記手摺部の後端よりも後方に位置している構成を有している。
この構成により、請求項2の作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)体幹支持部の着座部の上面が側部フレームの手摺部の上端より下方にある時、体幹支持部の着座部の後端が側部フレームの手摺部の後端よりも後方に位置していることにより、着座部をベッドや便座などの移乗対象物に近接させて容易に移乗を行うことができ、移乗対象物の下部に台部の挿入スペースがない場合でも利用可能で、汎用性、使用性に優れる。
【0015】
ここで、着座部は、ベッドや便座などの移乗対象と同じ高さに移動させた際に、着座部の後端が側部フレームの手摺部の後端よりも後方に突出するように配置することで、着座部と移乗対象を接近させることができ、移乗対象と着座部との間に隙間が発生し難く、移乗作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の手動式移動車によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)側部フレームにより利用者の体を保護できるだけでなく、利用者がベッドや便座などから移乗する際に、側部フレームの手摺部や延設部などを把持して着座部を身体に近づけることができる共に、着座部に着座するまでの間に利用者の体重を側部フレームで確実に支持することができ、介護者の手を借りることなく、利用者が一人でも移乗及び移動を行うことができ、介護者及び利用者の負担を大幅に軽減することができる操作性、移乗動作の簡便性、安全性に優れに優れた背面開放型の手動式移動車を提供することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)一度の動作で速やかに着座部及び胸当部を移乗や乗り降り、移動(走行)に最適な位置に移動させることができる省力性、使用性に優れた手動式移動車を提供することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)着座部をベッドや便座などの移乗対象物に近接させて容易に移乗を行うことができ、移乗対象物の下部に台部の挿入スペースがない場合でも利用可能な汎用性、使用性に優れた手動式移動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を上昇させた状態を示す背面側模式斜視図
【図2】実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を上昇させた状態を示す正面側模式斜視図
【図3】実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を下降させた状態を示す背面側模式斜視図
【図4】実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を下降させた状態を示す模式側面図
【図5】実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を下降させた状態を示す模式背面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本考案の実施の形態における手動式移動車について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を上昇させた状態を示す背面側模式斜視図であり、図2は実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を上昇させた状態を示す正面側模式斜視図である。
図1及び図2中、1は本発明の実施の形態1の手動式移動車、1aは地面と略平行に配置された手動式移動車1の台部、2は台部1aの両側部に配設された手動式移動車1の側部フレーム、3a,3b,3cは台部1aの両側部にそれぞれ3本ずつ立設された側部フレーム2の垂直支持部、3dは垂直支持部3a,3b,3cの各下部を水平方向に連結する側部フレーム2の水平補強部、4は垂直支持部3a,3b,3cの上端部に台部1aの前後方向と平行に配設された側部フレーム2の手摺部、4aは手摺部4の後端側に円弧状に形成された手摺部4の把手部、5は手摺部4の後端側の把手部4aから下方に延設された側部フレーム2の延設部、6は各々の側部フレーム2の外側に回動自在に配設された手動式移動車1の駆動輪、7は駆動輪6に連結され利用者が手動で駆動することにより駆動輪6を回動させるハンドリムを用いた手動式移動車1の手動駆動部、8は各々の側部フレーム2の垂直支持部3cに配設され必要に応じて駆動輪6を固定するための手動式移動車1のブレーキ、8aはブレーキ8を操作するためのブレーキレバー、9は各々の側部フレーム2の延設部5の下端部に転向自在に配設された手動式移動車1の補助輪、10は台部1aに配設され電動式の駆動部によって駆動されるリンク機構を用いた手動式移動車1の昇降機構部、10aは台部1aの前方に配設された昇降機構部10の回動軸、11は昇降機構部10により上下動する手動式移動車1の体幹支持部、12は利用者が台部1aの後方から着座する体幹支持部11の着座部、13は着座部12の前端側に立設された体幹支持部11の支柱部、14は支柱部13を介して着座部12に連設された体幹支持部11の胸当部、14aは胸当部14の両側部に配設された体幹支持部11の把持部、15は支柱部13に着脱自在に配設され昇降機構部10の駆動を操作するための手動式移動車1の操作部である。
【0021】
側部フレーム2の形状は本実施の形態に限定されるものではなく、垂直支持部3a,3b,3cや水平補強部3dの数や配置などは適宜、選択することができる。また、棒材で垂直支持部3a,3b,3cを形成する代わりに、板材を用いてもよい。
側部フレーム2の手摺部4の後端側に円弧状の把手部4aを形成されているので、ベッドや便座などの移乗対象物に着座した利用者が把手部4aを握って容易に手動式移動車1を身体に引き寄せることができ、操作性に優れる。
昇降機構部10はリンク機構の回動軸10aを中心として体幹支持部11を回動(揺動)させることにより、上下動と同時に前後動を行うことができる。このリンク機構として4節リンク機構が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、従来公知のレージートング等の各種リンク機構、ラックとピニオンの組合せ、油圧又はガス圧シリンダ、ボール螺子等、様々なものを用いることができる。尚、リンク機構の駆動部として、油圧シリンダやガス圧シリンダ等を用いることにより、コンパクトで重量物を動かすことができ、制御が容易で騒音がなくスムーズに動作させることができる。
体幹支持部11は、着座部12及び胸当部14を備えていればよく、本実施の形態に限定されることなく、利用者の体格などに応じて、面積、形状、硬度などを適宜、選択することができる。尚、胸当部14は、利用者の胸部に部分的な圧迫や違和感を与えないように柔軟性、弾力性を有する材質で形成することが好ましい。
また、把持部14aの形状や配置も適宜、選択することができる。尚、支柱部13や胸当部14の両側部に連設して肘掛け部を配置してもよい。
本実施の形態では、支柱部13に操作部15を配設したが、操作部15の取付位置はこれに限定されることなく、側部フレーム2の手摺部4や胸当部14などの所望の位置を適宜、選択することができる。
【0022】
以上のように構成された実施の形態1の手動式移動車の使用方法について説明する。
図3は実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を下降させた状態を示す背面側模式斜視図であり、図4は実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を下降させた状態を示す模式側面図であり、図5は実施の形態1における手動式移動車の体幹支持部を下降させた状態を示す模式背面図である。
まず、図3乃至図5に示すように、体幹支持部11を下降させた状態(着座部12の上面が側部フレーム2の手摺部4の上端より下方にある状態)で、ベッドや便座などの移乗対象物に着座した利用者が把手部4aを握って手動式移動車1を身体に引き寄せる。そして、着座部12を所望の位置や高さに位置合わせした後、ブレーキレバー8aを操作して駆動輪6を固定し、移乗を行う。このとき、着座部12の後端が側部フレーム2の手摺部4の後端(把手部4a)よりも後方に突出しているので、着座部12を移乗対象物に近接させることができ、着座部12への移乗を容易に行うことができる。尚、予め着座部12の高さを利用者が座っているベッドや便座等の高さと同じ程度の高さに下降させおく(前回の使用後の状態に保持しておく)ことにより、着座部12への移乗をスムーズに行うことができる。また、移乗を行う時には、手摺部4や把手部4aを掴むことによって側部フレーム2で体重を支えることができ、スムーズに体重を移動させて着座部12に着座することができる。その後、操作部15を操作し、昇降機構部10を駆動して所望の位置まで体幹支持部11を上昇させる。体幹支持部11の上昇が止まったら、利用者はブレーキレバー8aを操作して駆動輪6の固定を解除し、手動駆動部7により駆動輪6を駆動して移動を行う。
移動時には胸当部14に抱きつくように体重を預け、把持部14aを把持することにより、前後方向及び左右方向への体の傾き(ぶれ)を抑制する。また、支柱部13や胸当部14の両側部に配置した肘掛け部によって利用者の体の両側部を保護することができ、手動式移動車1が左右方向に傾いた場合でも安全性に優れる。
尚、手動式移動車1からベッドや便座等の移乗対象に移乗する場合は、上述した手順とほぼ逆の順序で動作を行えば良い。
【0023】
以上のように実施の形態1における手動式移動車は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)体幹支持部に背もたれがなく、台部の後方から着座部に着座することができ、移乗に際し、着座部を分解したり、変形させたりする必要がなく、特に利用者が足腰などの弱った被介護者の場合はベッドや便座などに着座した状態から体の向きを変えずにそのまま台部後方より容易に着座部を跨ぐようにして着座することができ、介護者の手を借りることなく一人で移乗することが可能で、介護者及び被介護者(利用者)の負担を大幅に軽減することができ、省力性、使用性に優れる。
(2)体幹支持部が、着座部の前端側に連設された胸当部を有することにより、着座部に着座した状態で、前傾姿勢で胸当部に抱きつくようにして体重を預けることができ、着座部及び胸当部で体重を分散して利用者の体を確実に支持することができるので、昇降機構部によって体幹支持部を昇降させる際に、背もたれがなくても安定した姿勢を保持することができ、体幹支持の安定性、昇降動作時の安全性に優れる。
(3)台部に配設された昇降機構部により、必要に応じて体幹支持部を上下動させることができるので、容易に座位姿勢と立位姿勢を切り換えて、移乗や移動を行うことができ、汎用性、取扱い性に優れる。
(4)体幹支持部の着座部及び胸当部によって利用者の体重を支持することができるので、利用者の背中や腰などへの負担を大幅に軽減でき、長時間の座位姿勢或いは立位姿勢を維持することや移動を行うことが可能で、安全性、連続使用性に優れる。
(5)体幹支持部の着座部及び胸当部が、昇降機構部により一体的に上下動するので、ベッドや便座等の移乗対象物の高さや利用者の体格、姿勢などに応じて、着座部及び胸当部の高さを自在に調整することができ、移乗対象物と着座部を接近させて移乗する際に、胸当部で体重を支えることができるため、一人で簡便に移乗動作を行うことができ、汎用性、移乗動作の安全性に優れる。
(6)昇降機構部により体幹支持部を上下動させることができるので、着座部や胸当部を下方に移動させて利用者が安全かつ簡便に乗り降りできるだけでなく、着座後に着座部及び胸当部を上方に移動させることにより、利用者を所望の姿勢(角度)に保持したり、所望の高さに持ち上げたりすることができ、利用者の楽な姿勢で移動を行うことができ、使用性に優れる。
(7)背もたれがなく、利用者の背面(着座部の後方)が開放された背面開放型であるため、利用者が脊椎や腰椎など背中や腰に損傷がある患者の場合には、そのまま背面(背中)からの診察を容易に行うことができ、ベッドなどへの移動が不要で、利用者の負担を軽減できると共に、診察に要する時間を短縮することができ、診察の作業性、省力性に優れる。
(8)体幹支持部を上方に移動させた場合、立位に近い姿勢で移動(走行)することができるため、従来の車椅子に比べて利用者が広い視界を確保することができ、他人からの視認性も高く、衝突などの事故を回避することができ、安全性に優れると共に、血流の悪化を防ぐことができ、車椅子の代わりに利用して移動を行うことができ、使用性に優れる。
(9)体幹支持部を上方に移動させることができるため、従来の車椅子では届かなかった場所にも手が届き、高所への物の出し入れやドアの開閉、洗面や料理等も行うことが可能で、作業範囲を広げることができ、機能性に優れる。
(10)電動の駆動手段などを用いて昇降機構部を駆動し、体幹支持部を上下動させた場合、利用者の股関節、膝関節、足関節等を運動させることができ、一人でも屈伸運動などによる下半身の関節可動域の拡大や筋力増強、血流の改善等のリハビリテーションを行うことが可能で、下半身の運動機能の低下や浮腫等を防止することができ、機能性、省力性に優れる。
(11)台部の両側部にそれぞれ立設された垂直支持部と垂直支持部の上端部に台部の前後方向と平行に配設された手摺部と手摺部の後端側から下方に延設された延設部とを有する側部フレームを備えているので、側部フレームにより利用者の体を保護できるだけでなく、利用者がベッドや便座などから移乗する際に、側部フレームの手摺部や延設部などを把持して着座部を身体に近づけることができる共に、着座部に着座するまでの間に利用者の体重を側部フレームで確実に支持することができ、操作性、移乗動作の安全性に優れる。
(12)各々の側部フレームの外側に回動自在に配設された駆動輪と、駆動輪に連結され利用者が手動で駆動することにより駆動輪を回動させる手動駆動部を有するので、介護者の手を借りることなく、利用者が一人でも移動することができ、介護者の負担を軽減することができ、使用性に優れる。
(13)各々の側部フレームの延設部の下端部に転向自在に配設された補助輪を有することにより、移乗時などに台部の後方側に利用者の体重などの大きな荷重が加わっても転倒することがなく、移乗時及び移動時に利用者の体重を確実に支えることができ、安全性に優れる。
(14)昇降機構部により体幹支持部を上下動させる際の体幹支持部の移動方向が台部の後方低位置から前方高位置に向かって傾斜していることにより、一度の動作で速やかに着座部及び胸当部を移乗や乗り降り、移動(走行)に最適な位置に移動させることができ、省力性、使用性に優れる。
(15)体幹支持部を台部の後方低位置から前方高位置に移動させることにより、利用者がバランスを崩すことなく、安全にスムーズな体重移動を行うことができ、落下や転倒のおそれがなく、誰でも安心して手軽に利用することができ、動作の安定性、信頼性に優れる。
(16)体幹支持部の着座部の上面が側部フレームの手摺部の上端より下方にある時、体幹支持部の着座部の後端が側部フレームの手摺部の後端よりも後方に突出していることにより、着座部をベッドや便座などの移乗対象物に近接させて容易に移乗を行うことができ、移乗対象物の下部に台部の挿入スペースがない場合でも利用可能で、汎用性、使用性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、別途、移乗のための装置等を用意する必要がなく、利用者が体の向きを変えずに、ベッドや便座等との間で簡単に移乗でき、構造が簡素で一人でも利用可能であると共に、利用者の背中や腰などに負荷を与えることがなく、長時間使用することができ、特に脊椎等に損傷がある場合でも無理なく利用することが可能で、介護者及び被介護者(利用者)の負担を大幅に軽減することができ、従来の車椅子の代わりに使用して移動を行うことができる機能性、取扱い性に優れた手動式移動車の提供を行うもので、1台の手動式移動車を移乗・移動用やリハビリ用などの様々な用途に使い分けることを可能として、被介護者(利用者)だけでなく、介護者や医師などの負担を大幅に軽減することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 手動式移動車
1a 台部
2 側部フレーム
3a,3b,3c 垂直支持部
3d 水平補強部
4 手摺部
4a 把手部
5 延設部
6 駆動輪
7 手動駆動部
8 ブレーキ
8a ブレーキレバー
9 補助輪
10 昇降機構部
11 体幹支持部
12 着座部
13 支柱部
14 胸当部
14a 把持部
15 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台部と、前記台部の両側部にそれぞれ立設された垂直支持部と前記垂直支持部の上端部に前記台部の前後方向と平行に配設された手摺部と前記手摺部の後端側から下方に延設された延設部とを有する側部フレームと、各々の前記側部フレームの外側に回動自在に配設された駆動輪と、前記駆動輪に連結され利用者が手動で駆動することにより前記駆動輪を回動させる手動駆動部と、各々の前記側部フレームの前記延設部の下端部に転向自在に配設された補助輪と、前記台部に配設された昇降機構部と、前記利用者が前記台部の後方から着座する着座部と前記着座部の前端側に連設された胸当部とを有し前記昇降機構部により上下動する体幹支持部と、を備えたことを特徴とする手動式移動車。
【請求項2】
前記昇降機構部により前記体幹支持部を上下動させる際の前記体幹支持部の移動方向が前記台部の後方低位置から前方高位置に向かって傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の手動式移動車。
【請求項3】
前記体幹支持部の前記着座部の上面が前記側部フレームの前記手摺部の上端より下方にある時、前記体幹支持部の前記着座部の後端が前記側部フレームの前記手摺部の後端よりも後方に位置していることを特徴とする請求項2に記載の手動式移動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78445(P2013−78445A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219557(P2011−219557)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(500539561)株式会社テムザック (19)