説明

手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法

【課題】動静脈の血管治療の術前シミュレーションに用いる動静脈に発症した瘤・狭窄の形状を軟質ポリマー製モデルによって再現し、これを用いて血管治療の訓練・並びに術前のシミュレーションを行うことができる立体的血管モデルを提供することを目的とするものである。
【解決手段】実際の患者のCT/MRIより得られる画像データを元に、動静脈に発症する瘤・狭窄を再現し、血管治療の訓練・並びに術前のシミュレーションを行うことができる三次元モデルを軟質ポリマー薄膜で精密積層造形機によって作製するに当たって、精密積層造形機内での三次元モデル作製中の形状を支持するためにサポート物質とともに患部を有する血管モデルを積層造形し、積層造形後サポート物質を除去する手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動静脈の血管治療を行う前に、患部付近の血管の立体的位置関係を把握し、手術の方法を事前に決定するとともに、手術の処置の結果が血管に与える形状変化を予測して、最適の処置を可能にする手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法に関する。特に、脳動脈瘤の血管治療をクリップ及びコイル、若しくはステントによって行う場合に有用な手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法の発明である。
【背景技術】
【0002】
動静脈の血管治療は、主として動脈瘤の処置、血管のバイパス、切断、吻合等がある。
この治療の中の動脈瘤は、未破裂動脈瘤が存在していても症状はないが、動脈瘤が破裂すると内出血を起こし、生命にかかわる重篤な結果にいたることがある。
例えば、脳動脈瘤の場合、破裂の危険性がある動脈瘤を発見した場合は、外側から動脈瘤の根元をクリップすることにより、瘤内への血液の流入を遮断したり、動脈瘤内部へのコイルの留置又は瘤の根元の血管内部への各種ステントの留置により、動脈瘤内への血流の流入を回避する治療が広く用いられている。
動脈瘤は、山型形状に血管の外部に膨脹するものであるが、例えば、クリップは山型形状の麓に近いほど動脈瘤の破裂防止の観点からは好ましいが、クリップの位置が動脈瘤の山型形状の麓に近すぎると、クリップ後のクリップ位置の近傍の血管膜に狭窄若しくは歪み又は屈曲に基づく動脈瘤近傍の血管の立体形状の変化が発生又は起こりやすくなり、血流の形状が不安定となり、血流の円滑な流れを阻害することになる。同様に、コイル又はステントの寸法又は留置位置によって、手術後の血流の形状が不安定となる。
また、未破裂動脈瘤の手術において、手術箇所の切開状態若しくはクリップ、コイル又はステントのためのカテーテルの挿入状態で、その状態で処置したときに血流の形状及び流れに異常がないことを確認しても、手術箇所の切開状態を吻合しカテーテルを抜き取った手術後では、軟弱で細い血管に係る張力が変化するので、手術後の血管形状の安定性を手術中に確認することができない。このような場合、円滑な血管の流れの阻害が発見された場合は、再手術してクリップ等の動脈瘤処置を最初からやり直すことになる。
この場合、実際の患者の血管形状のモデルを製造して、クリップ種類、及び数量並びに位置又コイル等の留置位置や方法を試験して、処置後の血管の立体形状に血流を阻害する形状にならない事を確認するという術前シミュレーションができると、手術の際に最適のクリップ又はコイル若しくはステント処置を迅速に処置できるので、患者・術者双方に非常に大きなメリットとなる。
手術シミュレーション用モデルとして、本出願人は、既に、手術シミュレーション用人骨モデルを薄膜状に展開して粉末材料を各薄膜ごとにレーザで焼結する積層造形方法によって製造する方法を提案している(特許文献1)。
しかし、この製造方法は、人骨と同程度の硬さと削り易さの材質で形成した人骨モデルであり、この製造方法では本発明の血管のような柔軟性のある血管形状のモデルを製造することはできない。
このような硬いモデルの製造方法によって血管形状を作成した場合には、患部と血管の立体的位置関係を把握して、手術の処置の方向、例えば、クリップをどちらから入れるかを検討するには適しているが、手術の処置が、手術後の血管形状にどのように影響を与えるかまで、確認することができない。また、内部に、コイル若しくはステントを挿入してシミュレーションすることはできない。
今までに、血管のような柔軟性のある手術対象部位の中空形状のモデルを提供する文献は知られていない。
【特許文献1】特許第3927487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
動静脈の血管治療の術前シミュレーションに用いる動静脈に発症した瘤・狭窄の形状を軟質ポリマー製モデルによって再現し、これを用いて血管治療の訓練・並びに術前のシミュレーションを行うことができる立体的血管モデルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明において、軟質の血管を薄膜単位で積層造形するには、製造途中において、軟質の血管膜の立体的位置を固定することが必要であり、この形状維持のためには、サポート材を血管形成の軟質材料と同時に精密積層造形機によって積層造形し、血管製造後にサポート材を除去する手法を発見して、これに基いて、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)所定の動静脈の対象部位の血流の造影された断層画像データより、血流の立体的形状を作成し、該血流の立体的形状の表面形状に膜厚さを付加した血管膜の立体的形状データを得て、該対象部位の血管膜の立体的形状データを所定の寸法の対象部位を含むように空間領域で切り取り、該空間領域内に対象部位の血管膜立体的形状が宙に浮かぶ三次元データを作成し、該三次元データを、軟性ポリマーを粒径50μm以下の微細液滴状で噴射するジェットノズル及びサポート物質を粒径50μm以下の微細液滴状で噴射するジェットノズルを備えた精密積層造形機のコンピュータに入力し、該コンピュータに入力された三次元データに基づき、三次元データの底面に平行な水平面により、三次元データを厚さ0.1mm以下の所定の薄層単位毎に輪切りして得た、血管膜部分領域及び空間部分領域からなる薄層平面データを出力し、該薄層平面データの血管膜部分領域のデータを出力して、軟性ポリマーの噴射によって薄層単位厚さの血管膜部分を形成すると共に、薄層データの空間部分にサポート物質の液滴を噴射するジェットノズル噴射信号として出力して薄層単位厚さのサポート物質層を形成することにより、三次元データの厚さ0.1mm以下の薄層単位毎のサポート物質層に囲まれた血管膜形成操作を行い、該操作を三次元データの下端から上端までの薄層単位毎に順次反復することによって、三次元データに対応する外面形状のサポート物質マトリックスの内部に軟性ポリマー製の立体的血管形状を有する軟質血管モデルが浮遊している塊状マトリックスを得て、該塊状マトリックスから、血管モデルの外側に付着しているサポート物質を除去して塊状マトリックス内部に埋没していた軟質血管モデルを取り出して、次に、取り出された軟質血管モデルの内部に存在するサポート物質を、血管モデルの開口部から取り出すことを特徴とする手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法、及び
(2)対象部位が、動脈瘤が存在する血管部位である(1)項記載の手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって製造された軟質血管モデルは、これに実際の血管に予定している処置を実施して、血管膜に起る形状の変化、シワ、歪み等の有無及び形状を確認でき、最適の処置を探索できるので、動静脈の血管治療において、特に、未破裂動脈瘤の手術時間の短縮並びに医療事故の未然の予防処置に有用である。
さらに、本発明のサポート物質を用いる製造方法によって、軟質の血管の立体的形状を正確に形成できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の製造方法は、第1ステップとしては、造影剤を注入して、所定の動静脈の対象部位の血流の造影された断層画像データを撮影する。
所定の動静脈の対象部位の血流の造影された断層画像データより、血流の立体的形状を抽出して、該血流の立体的形状の表面形状に血管の膜厚を付加して、該膜厚を有する血管膜の立体的形状データを得る。血管の膜厚は、対象部位の平均的血管膜の厚さを入力することができる。
該対象部位の血管膜の立体的形状データを所定の寸法の対象部位を含むように空間領域で切り取り、該空間領域内に対象部位の血管膜の立体的形状が宙に浮かぶ三次元データを作成する。該空間領域に底面を形成することによって、製造中の軟質血管の位置を安定させることができる。
本発明の軟質血管モデルの製造には、インクジェット方式で、材質を薄膜ごとに積層を重ねて固定する精密積層造形機を用いることができる。これはあたかも、薄い印刷層を何度も重ね印刷するようにして、多数の血管膜断面の積層を積み重ねて血管の立体的形状を積層形成する装置である。血管の複雑な立体的形状を積層形成しても、その形状を固定しないと、次の積層印刷をすることはできない。そのため血管膜の位置を固定するために、空間領域にサポート材を設ける必要が生じる。
本発明の軟質血管モデルの製造においては、三次元データの薄膜単位の積層は、厚さが狭く細長い面積の血管膜断面領域を、広い面積の空間領域が取り囲む断面図形によって区分されている。血管膜断面領域に、軟質ポリマーをインクジェット方式で噴射して、薄膜積層単位を形成し、同時に空間領域に、インクジェット方式で、サポート材をインクとして、ベタ擦り印刷の重ね印刷層によって、厚さが狭く、細長い面積の血管膜断面領域を広い面積からなるサポート材断面で取り囲むように薄膜単位の積層を形成する。この薄膜単位の積層形成を、前記空間の三次元データの全体について実行すると、サポート材の中に、対象部位の血管膜立体的形状が宙に浮かぶサポート材の塊が得られる。この塊からサポート材を剥離又は水などの溶剤で溶解して除去すると、サポート材を内部に含んだままの立体的血管膜が立体的形状を維持したままで表れる。この中のサポート材を、溶解又は掻出して血管膜の開口部から取り出して除去すると、目的の軟質の血管膜が得られる。
【0007】
本発明に用いるインクジェット方式の積層造形機としては、例えば、既に市販されているObjet社製、積層造形機「Eden500V」を用いることができる。
この装置は、薄膜積層単位のインクジェット方式の積層造形機であり、印刷に例えれば、2色印刷方式である。
すなわち、三次元データの薄膜積層単位ごとに、該積層単位の面積を血管断面区分と空間区分に分けて、血管断面部分を形成する軟質ポリマーからなる血管材料を血管断面区分に噴射積層し、空間区分に、形状維持のためのサポート材を噴射形成して、薄膜積層単位を形成して、これを次々と積み重ねて、軟質ポリマー製立体的血管膜とサポート物質による空間部分を形成する。
前述の底面を有する空間領域内に、対象部位の血管膜立体的形状が宙に浮かぶ三次元データを、軟性ポリマー(プレポリマー)を粒径50μm以下の微細液滴状で噴射するジェットノズル及びサポート物質を粒径50μm以下の微細液滴状で噴射するジェットノズルを備えた精密積層造形機のコンピュータに入力し、該コンピュータに入力された三次元データに基づき、三次元データの底面に平行な水平面により、三次元データを厚さ0.1mm以下の所定の薄層単位毎に輪切りにして得た、血管膜部分領域及び空間部分領域からなる薄層平面データを出力し、該薄層平面データの血管膜部分領域のデータを軟性ポリマーを噴射するジェットノズル噴射信号として出力して該軟性ポリマーの噴射によって薄層単位厚さの血管膜部分を形成すると共に、薄層平面データの空間部分のデータをサポート物質の液滴を噴射するジェットノズル噴射信号として出力して、該サポート物質の噴射によって薄層単位厚さのサポート物質層を形成する。このとき形成される薄膜は、その下層の血管膜部分及びサポート部分と密着して、一体化されて、1層分の積層がそれぞれのそれまで積み重ねた積層分に増加する。1層分の積層の厚さは0.1mm、好ましくは0.05mmにすることができる。この厚さは、血管作製の高さ方向の噴射ピッチとなり、厚さが薄いほど血管の垂直断面の形状が正確になり、クリップ等との処置をした場合の形状の歪の状態が正確に再現できる。
【0008】
三次元データの厚さ0.1mm以下の薄層単位毎の血管膜形成操作及びこれに密着する空間部のサポート領域の積層を、三次元データの底面から上先端までの薄層単位毎に順次反復することによって、三次元データに対応する空間領域の外面形状のサポート物質マトリックスの内部に軟性ポリマー製の立体的血管形状を有する軟質血管モデルが浮遊している塊状マトリックスが得られる。該塊状マトリックスから、軟質血管モデルの外側に付着しているサポート物質を除去して塊状マトリックス内部に埋没していた軟質血管モデルを、サポート物質を剥ぎ取り又は溶解することによって、内部にサポート物質を充填した軟質血管モデルを取り出して、次に、取り出された軟質血管モデルの内部に存在するサポート物質を、血管モデルの開口部から、掻出し又は溶解によって取り出すことができる。サポート物質を内部から取り出すことによって、実物と同様の立体的形状の中空血管膜を得ることができる。
軟質血管モデルが動脈瘤を有するものであるときは、動脈瘤を種々の形状及びサイズのクリップを1個又は2個以上用いたり、いろいろな位置でクリップして、クリップの方法によって生じる血管モデルの歪みの状態の関係から最適のクリップ方法を実際の手術前に確認することができる。また、動脈瘤付き血管モデルの形状によって、コイル又はステントの留置を最適手段として選択した場合は、血管モデルの内部に、種々の寸法のコイル又はステントを挿入して、挿入後の血流に異常がない血管の形状を手術前に確認することができる。
本発明の軟質血管の材料の材質を噴射するインクジェットノズルから噴射するインク物質は、軟質のゴム状ポリマー物質であって、薄膜形成能があり、インクジェットノズルから、微細液滴として噴射して、噴射後直ちに固化して、積層を形成し、既に積層されている下層のゴム状ポリマー物質と一体化して血管膜を形成するものであれば特に制限なく用いることができる。
好ましい軟質血管の材料のインク物質としては、ゴム状ポリマーのプレポリマーであって、溶剤なし、光硬化性の液状プレポリマー物質をインクジェットノズルに繋がるカートリッジに供給され、液状プレポリマーをジェット噴射で微粒子化して、血管膜領域に噴射する。そして、血管膜に付着したのちに、紫外線によって、軟質ポリマーとなって、インクジェットノズルから紫外線照射中を微細粒子が飛びながら血管膜領域に付着する。
このようプレポリマーとしては、Objet社製「FULLCURE930 TANGOPLUS」を使用することができる。
「FULLCURE930 TANGOPLUS」は、exo-1,7,7-trimethylbicyclo[2,2,1]hept-2-ylacrilate、ウレタンアクリレートオリゴマー及び少量のウレタン樹脂及び光重合開示剤を含む液体組成物である。
このインクは、微粒子液滴となって、インクジェットノズルの先端から噴射され、血管膜領域に付着したとき、前に印刷されて付着している液滴に一体化すると同時に、噴射中に照射されている紫外線によって、溶解している光重合開示剤によって重合が起り、プレポリマーが瞬間的に軟質ポリマーに変化して、軟質血管を形成する軟質ポリマー物質となる。
【0009】
また、本発明のサポート材の材質を噴射するインクジェットノズルから噴射するインク物質は、インクジェットノズルから、微細液滴として噴射して、噴射後直ちに固化して積層を形成するものであればよく、血管形成材料との境界面が簡単に剥がれる物質又は水若しくはアルコール等の溶剤によって、血管形成材料の軟質ポリマーから分離又は溶解除去できるものであれば特に制限なく使用することができる。
例えば、血管膜のような軽量の製品の製造工程中の形状を維持するのに必要な形状維持能力がある軟質の固体となり、これに力を付加すると寒天のように粉々に粉砕できる物質が特に望ましい。軟質の固体であるために、サポート物質材を除去するときに、軟質ポリマー製血管膜を破損する恐れが少ない。
本発明では、精密積層造形機に、軟質血管の材料の材質を噴射するインクジェットノズル及びサポート材の材質を噴射するインクジェットノズルの貯液タンク(カートリッジ)に、軟質のゴム状物質インク及びサポート材物質インクを充填して、0.01〜0.10mm単位の薄膜を形成するように噴射する。噴射領域は、三次元データの各薄膜単位の血管膜領域と空間領域を噴射して薄膜単位の積層を形成する。
血管領域と空間領域を区別して噴射する図形の正確度は、噴射のピッチ間隔によって決まる。本発明に用いる精密積層造形機は、平面XY軸方向に、高さのピッチと同様に、0.1mm以下、好ましくは、0.05mm以下の噴射ピッチにすることができる。
噴射される軟性ポリマーの粒径は、粒径50μm以下の微細液滴状であり、粒径が50μmを超えると微細血管の場合の形状が不正確になる。
【実施例】
【0010】
未破裂の脳動脈瘤が存在する軟質ポリマー製血管モデルをObjet社製の精密積層造形機「Eden500V」(造形寸法490mm×390mm×200mm、機械寸法1320mm×990mm×1200mm、積層ピッチ0.016〜0.030mm)を用いて作製した。精密積層造形機「Eden500V」は、2種類のインクを噴射可能な8本のインクジェットノズルを有しており、各インクジェットノズルの先端には、微細液滴噴射孔96個を備えている。この多数の微細液滴噴射孔を有する8本のインクジェットノズルによって、単位積層面積を迅速にかつ均一に噴射して、印刷積層できる機能を有している。
8本のインクジェットノズル群には、それぞれ、第1インクのカートリッジ及び第2インクのカートリッジから、インクが供給される。
本実施例では、高さ方向の設定積層ピッチ0.03mmで行い、水平方向の噴射ピッチは両軸(XY方向)ともに、0.05mmピッチで積層造形した。このピッチを0.1mm以上にすると正確な血管膜の手術処置の影響の正確な再現は困難となる。高さ方向の設定積層ピッチ0.03mmは、断層薄膜の厚さと同一である。
Objet社製積層造形機の造形物用のインクとしては、光開示剤を含むObjet社製のインク「FULLCURE930 TANGOPLUS」を選択して用いた。このインクを光重合した場合のポリマーの物性、すなわち、血管モデルの材質の物性は、切断抗張力1455MPa、20%弾性率0.146MPa、50%弾性率0.263MPa、伸度218%、ショアー硬度27、耐抗張力3.47kg/cm、ガラス転移温度−9.6℃である。
第2のサポート材インクとしては、Objet社製の積層造形機専用のサポート用軟質樹脂インクの中から剥離可能で、粉砕容易な水溶性ポリエチレングリコール製インク「FULLCURE705」を選択して使用した。
担当医が指定する患者の未破裂動脈瘤が存在する血管領域について、造影剤を用いて、3DCTAによるCT撮影を行って三次元の立体的血流の形状データを得た(CT撮影の代わりに、造影剤入り血流撮影のMRIによって三次元の立体的血流の形状データを得ることも可能である)。
三次元の立体的血流の形状データの表面に、厚さ0.3mmの血管膜をデータ処理によって付加して、三次元の立体的血管膜モデルの形状データを得た。
撮影した三次元の立体的血管膜の形状データを厚さ0.03mmの断層データとして出力できるように、コンピュータに準備する。
Objet社製積層造形機の造形空間のスペースは、490mm×390mm×200mm保有している。
この造形空間に、用意した断層データセットの三次元データの35mm×30mm×28mmの積層作業の対象領域造形寸法を10個分コピーして、10個分の断層データセットを精密積層造形機に入力した。
積層造型機の積層造形のフォーマットから、断層データを出力して、各断層に区分された血管領域及び空間領域(サポート材域)にそれぞれのインクを噴射して、これを繰り返して、所要時間2時間で、サポート材で包まれた立体的形状の血管膜を作製した。
目的の手術対象領域の立体的血管膜を含む造形寸法35mm×30mm×28mmのサポート材の塊が10個、積層造型機の造形空間に、それぞれ分離した島の状態で形成された。これらの10個の塊の表面からサポート材を指で剥ぎ取って、図1の立体的形状の血管モデルを取り出した。このモデルの内部には、水溶性の軟質固体サポート材が充満していて、軟質サポート材が血管の形状を保持しているので、取り出されたサポート材内臓の血管モデルは、実際の動脈瘤が存在している患部と同一形状を維持している。これを観察することによって、これから手術する患部近辺の血管と動脈瘤との立体的位置関係を把握することができる。
次に、内部のサポート材を開口部から血管膜を破損しないように慎重に取り出す。
このとき、血管モデルの開口部付近から揉みほぐして、開口部付近の軟質サポート材を取り出して、順次、奥の方から順送りに開口部に送り出して取り出すことができる。最後に、水で洗い出して、血管膜内部の水溶性サポート材を完全に除去した。
得られた動脈瘤付き血管モデルは、動脈瘤の種々の位置に、種々のクリップ又は留置するコイル若しくはステントを挿入して、動脈瘤近傍の血管膜の形状の歪の発生を調べて、患部の血管形状に対して、最適のクリップの種類及び数量の選択及びクリップ位置の最適条件又はコイル若しくはステントの寸法形状を選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の医療用血管モデルによって、動静脈手術前に、手術施工後の血管の状態を確認できるので、動静脈手術を正確にかつ迅速に実行できる利点があり、クリップ、ステント及びコイル等の血管治療に用いる医療機器産業において広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例によって製造した医療用血管モデルの斜視図である。
【符号の説明】
【0013】
1 動脈瘤
2 動脈瘤が存在する付近の血管
3 三次元画像の境界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の動静脈の対象部位の血流の造影された断層画像データより、血流の立体的形状を作成し、該血流の立体的形状の表面形状に膜厚さを付加した血管膜の立体的形状データを得て、該対象部位の血管膜の立体的形状データを所定の寸法の対象部位を含むように空間領域で切り取り、該空間領域内に対象部位の血管膜立体的形状が宙に浮かぶ三次元データを作成し、該三次元データを、軟性ポリマーを粒径50μm以下の微細液滴状で噴射するジェットノズル及びサポート物質を粒径50μm以下の微細液滴状で噴射するジェットノズルを備えた精密積層造形機のコンピュータに入力し、該コンピュータに入力された三次元データに基づき、三次元データの底面に平行な水平面により、三次元データを厚さ0.1mm以下の所定の薄層単位毎に輪切りして得た、血管膜部分領域及び空間部分領域からなる薄層平面データを出力し、該薄層平面データの血管膜部分領域のデータを出力して、軟性ポリマーの噴射によって薄層単位厚さの血管膜部分を形成すると共に、薄層データの空間部分にサポート物質の液滴を噴射するジェットノズル噴射信号として出力して薄層単位厚さのサポート物質層を形成することにより、三次元データの厚さ0.1mm以下の薄層単位毎のサポート物質層に囲まれた血管膜形成操作を行い、該操作を三次元データの下端から上端までの薄層単位毎に順次反復することによって、三次元データに対応する外面形状のサポート物質マトリックスの内部に軟性ポリマー製の立体的血管形状を有する軟質血管モデルが浮遊している塊状マトリックスを得て、該塊状マトリックスから、血管モデルの外側に付着しているサポート物質を除去して塊状マトリックス内部に埋没していた軟質血管モデルを取り出して、次に、取り出された軟質血管モデルの内部に存在するサポート物質を、血管モデルの開口部から取り出すことを特徴とする手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法。
【請求項2】
対象部位が、動脈瘤が存在する血管部位である請求項1記載の手術シミュレーション用軟質血管モデルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−273508(P2009−273508A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125008(P2008−125008)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(502435513)株式会社大野興業 (5)
【Fターム(参考)】