手術室用分離板
【課題】手術室内を清潔野と不潔野とに分離する分離板に設けられる開口の位置を、手術室内の患者や機器類の配置などに応じて適宜変更できるようにするとともに、その分離板の滅菌処理なども容易に行うことができるようにする。
【解決手段】清潔野と不潔野とに分離する分離板1は、互いに着脱可能に連結される複数枚の板状のセル4を有している。隣接するセル4,4は、可撓性の連結部材によって互いに連結されており、分離板1全体を折り畳んでコンパクトに纏めることができる。分離板1を構成するセル4の少なくとも1枚には、所定径の開口5が複数形成されている。1又は2以上の任意の開口5には、その開口5を介して貫通させたチューブ9を保持するためのチューブホルダ30が装着される。あるいは、分離板1の両面側からのチューブの相互接続を可能にするコネクタが装着される。必要のない開口5は、蓋70で塞がれる。
【解決手段】清潔野と不潔野とに分離する分離板1は、互いに着脱可能に連結される複数枚の板状のセル4を有している。隣接するセル4,4は、可撓性の連結部材によって互いに連結されており、分離板1全体を折り畳んでコンパクトに纏めることができる。分離板1を構成するセル4の少なくとも1枚には、所定径の開口5が複数形成されている。1又は2以上の任意の開口5には、その開口5を介して貫通させたチューブ9を保持するためのチューブホルダ30が装着される。あるいは、分離板1の両面側からのチューブの相互接続を可能にするコネクタが装着される。必要のない開口5は、蓋70で塞がれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離板に関するもので、特に、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させることが求められるような場合に用いるのに適した手術室用分離板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば心臓切開手術の際には体外循環が行われる。その場合には、手術室内に、人工心肺装置としてのポンプのほか、薬液供給用あるいは血液吸引用などの各種ポンプや、人工肺、熱交換器など、種々の機器類が設置される。そのような機器類は、完全滅菌は不可能であるので、手術室内の機器類設置領域は不潔野として残されることになる。かたや、同じ手術室内の患者側領域、すなわち手術が行われる領域(以下、「術野」と言う。)側は完全滅菌されて清潔野とされる。したがって、その清潔野にいる手術者らが不潔野側の機器類等に触れることのないようにしなければならない。ところが、体外循環において、人工心肺装置と患者とを結ぶ血液回路は、その血液充填量をできる限り低減させるために、必要最小限の長さに設定する。そのために、清潔野と不潔野とが接近することになり、清潔野の維持が困難となる。このようなことから、体外循環装置などの機器類を使用する手術時には、手術室内を清潔野と不潔野とに分離することが必要となっている。
そのように手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離手段としては、一般に、PVC(塩化ビニル樹脂)などの透明樹脂シートが用いられている。そのシートは、カーテン状に吊り下げた状態で使用される。
【0003】
ところで、体外循環時には、患者と機器類とを体外循環回路等の回路によって接続し、その間で血液や薬液を流通させるようにする必要がある。すなわち、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させることが求められる。そのような場合、手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離手段として単純な1枚のシートが用いられていると、そのシートによって患者と機器類との間が遮られることになるので、血液や薬液はそのシートを迂回するようにして流通させることが必要となる。例えば体外循環を行うためには、患者と機器類とを接続する回路を、シートの周縁外部を通るように配置することが必要となる。そのために、その回路が長いものとなってしまう。一方、前述したように、最近では、体外循環使用手術の際、初期に充填される血液や薬液のプライミング量を低減させるために、体外循環回路を極力短くすることが求められるようになってきている。
【0004】
このようなことから、体外循環使用手術が行われる手術室内を清潔野と不潔野とに分離する分離手段として、あらかじめ所定の位置に開口を設けたシートを用い、その開口を通して体外循環回路がシートを貫通するようにすることにより、清潔野と不潔野との間にまたがる体外循環回路の短縮化を図るようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−321390号公報
【特許文献2】特開2003−19168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載されているような手術室用分離手段では、その分離手段を構成するシートを貫通するようにして体外循環回路を形成する場合、その体外循環回路のシート貫通位置は、シートにあらかじめ設けられている開口の位置に限られることになる。そのために、患者と体外循環装置を構成する各機器類との位置関係によっては、体外循環回路を必要以上に長くすることが必要となり、術野に対するシートの位置関係の自由度がなくなるという問題がある。
また、そのような手術室用分離手段は滅菌処理する必要があるが、上記特許文献に記載されているようなシートは大面積のものとなるので、その滅菌処理が難しい。折り畳んでコンパクトにまとめることができればよいのであるが、樹脂製のシートは、折り畳むと接触面が互いに密着して付着するので、滅菌処理ができなくなってしまうばかりでなく、折り癖などにより使用時に拡げることも困難となり、場合によっては周囲の機器に触れて不潔になってしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、手術室内を清潔野と不潔野とに分離する分離手段に設けられて、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるための開口の位置を、手術室内の患者や機器類の配置などに応じて適宜変更することができるようにするとともに、その分離手段の滅菌処理なども容易に行うことができるようにすることである。
また、本発明の他の目的は、病院ごとに異なる分離手段の形状や開口の位置に容易に対応でき、しかも、大面積の1枚のシートで製作するのに比べて製作が容易な手術室用分離手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明では、その手術室用分離手段を、複数枚の比較的小面積のセルからなる分離板として構成するようにしている。すなわち、請求項1に係る本発明の手術室用分離板は、手術室内を清潔野と不潔野に分離するための分離板であって、薄板からなるセルを複数枚、互いに着脱可能に連結して、前記セルよりも大面積の1枚の板状に形成することにより構成されており、前記複数枚のセルの少なくとも1枚には開口が形成されていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記複数枚のセルが折り畳み可能に互いに連結されていることを特徴としている。
【0009】
更に、請求項3に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記セルの開口には、その開口を介してセルの両面間を貫通するチューブを保持するチューブホルダが設けられていることを特徴としている。
【0010】
そして、請求項4に係る本発明は、上記請求項3に係る発明において、そのチューブホルダが、チューブの任意の位置を着脱自在に保持するクリップを備えていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記セルの開口には、清潔野側のチューブと不潔野側のチューブとをその開口を介して接続させるためのコネクタが設けられていることを特徴としている。
【0012】
更に、請求項6に係る本発明は、上記請求項5に係る発明において、そのコネクタが、チューブを接続するための接続部材と、その接続部材を回転自在に保持するための保持部材と、を有していることを特徴としている。
【0013】
そして、請求項7に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記開口を開閉し得る蓋を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
上記請求項1に係る本発明によれば、手術室用分離板を構成する複数枚のセルが、互いに着脱可能に連結されるので、そのセルのうちの開口が形成されているセルの配設位置を変更することが可能となる。そして、その開口を通して血液や薬液を流通させることができる。したがって、手術室を清潔野と不潔野とに分離する分離板に設けられて清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるための開口の位置を、手術室における患者や機器類の配置などに応じて適切に設定することができる。
しかも、各セルは、分離板全体に比べればはるかに小面積のものとなるので、その滅菌処理や搬送時の取り扱い、更にはその製作なども容易となる。
【0015】
また、上記請求項2に係る本発明によれば、分離板は折り畳み可能に構成されるので、不要なときには分離板をコンパクトに纏めることができ、必要なときだけ展開して手術室を区画することができる。したがって、手術の前後において機器類の移動などを行う場合であっても、分離板が作業を妨げることはない。
【0016】
更に、上記請求項3に係る本発明によれば、セルの開口に、その開口を介してセルの両面間を貫通するチューブを保持するチューブホルダが設けられるので、例えば体外循環時、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるためのチューブを、任意の開口位置において安定して支持させることができる。したがって、体外循環回路の配置が容易となる。
【0017】
そして、上記請求項4に係る本発明によれば、そのチューブホルダが、チューブを着脱自在に保持するクリップとして構成されるので、そのクリップを、チューブの任意の位置に直接被せて固定することができる。したがって、チューブに装着する際に、チューブの端から所定位置までスライドさせるといった煩雑な作業が不要となり、また、取り外す際にも同様のスライド作業が不要となる。その結果、作業開始時や終了時において、チューブホルダの着脱を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0018】
また、上記請求項5に係る本発明によれば、セルの開口には、分離板の両面側(清潔野側及び不潔野側)にあるチューブを互いに接続させるコネクタが設けられるので、体外循環の使用時、そのコネクタに清潔野側及び不潔野側からそれぞれチューブを装着することにより、清潔野と不潔野とを結ぶ体外循環回路を形成することができる。そして、その体外循環回路は分離板に固定されることになるので、体外循環回路を構成するチューブの清潔野と不潔野との間での移動による清潔野の汚染も防止することができる。
【0019】
更に、上記請求項6に係る本発明によれば、コネクタは、チューブを接続させる接続部材を回転自在に保持することになる。これにより、分離板の両面側から接続されたチューブは、相互接続された状態であっても自在に回転するようになるので、体外循環装置と患者側との間でチューブに捩れが生ずるのを防止することが可能となる。
【0020】
そして、上記請求項6に係る本発明によれば、開口が蓋によって開閉可能とされるので、使用されない開口を通して清潔野が汚染されることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図は本発明による手術室用分離板の実施例を示すもので、図1はその分離板の使用状態を示す縦断側面図であり、図2はその分離板を清潔野側から見た正面図である。
【0022】
この実施例の分離板1は、体外循環を使用する手術の際に手術室内を清潔野と不潔野とに分離するために用いられるものである。手術室内は、一方の側(図1で左側)が、複数個のローラポンプや人工肺、熱交換器などを組み込んだ体外循環装置2が設置される不潔野とされ、他方の側(図1で右側)が、手術が行われる術野としての清潔野とされている。
【0023】
図1及び図2から明らかなように、分離板1は、複数枚の板状のセル4,4,…を、互いに着脱可能に、かつ面状に連結することによって形成されている。セル4は、分離板1を構成する基本単位であり、PVCあるいはポリエチレン等の軟質樹脂からなる透明の方形状の薄板から構成されている。セル4を連結した状態では、分離板1は、各セル4よりも大面積の1枚の板状となる。
【0024】
本発明の分離板1は、手術室の寸法、形状、体外循環装置2の配置などに応じて、必要枚数のセル4を縦方向及び横方向に連結することによって構成される。図1及び図2では、一例として、分離板1を、20枚(5行×4列)のセル4,4,…で構成しており、最上段のセル4,4,…をガイドレール11に対し摺動自在に吊り下げている。
【0025】
図示するように、複数枚のセル4,4,…には、所定径の開口5が複数形成されたセルと、そのような開口を有しないセルとが含まれる。本発明の分離板1には、このような開口5が形成されたセルが少なくとも1枚含まれる。セル4の開口5の一又は二以上には、体外循環回路のチューブ9を貫通させる。その場合、好ましくは、後述するチューブホルダ(図7参照)に該チューブを保持させたものが装着される。あるいは、後述するチューブ接続用のコネクタ(図12参照)が装着され、分離板1の両面側からのチューブの相互接続を可能にするようになっている。このようなチューブホルダもコネクタも装着する必要のない開口5は、後述する蓋(図14参照)で塞がれるようになっている。
【0026】
なお、セル4,4,…の配置は図示する態様に限定されず、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、所望の位置に開口5が位置するように配置される。その際、隣接するセル4,4は着脱自在に互いに連結されているので、必要に応じて並べ替えて、その配置を適宜変更する。
【0027】
次に、図3及び図4に基づいて、分離板1を構成するセル4,4,…の連結構造について説明する。
図3(a)は隣接するセル4,4を連結する連結部材を示す拡大縦断側面図であり、図3(b)は連結状態にあるセル4,4を折り重ねた状態を示す拡大縦断側面図である。図4は、図2に示す分離板1の上面図であり、ガイドレール11に沿って摺動させて折り畳む様子を示している。
【0028】
図3(a)に示すように、隣接するセル4,4は、着脱自在の連結部材21によって互いに連結されている。連結部材21は、セル4の縁部を着脱自在に挟持する両端の挟持部22,22と、それらの挟持部22,22を互いに連結する板状の連結部23とで構成されている。連結部23は可撓性材料で形成されており、図3(b)に示すようにその連結部23を湾曲させることにより、連結状態のセル4,4を折り重ねることができる。したがって、例えば図2に示す分離板1の場合には、カーテンのように吊り下げた状態のまま、図4に示すように、分離板全体を折り畳んでコンパクトに纏めることも可能である。
【0029】
なお、隣接するセル4,4を折り畳み可能に連結するための連結部材は、図3に示すものに限定されず、例えば、図5(a)に示すようなOリング26であってもよく、また、図5(b)に示すようなS字状のフック27であってもよく、あるいは、図5(c)に示すような可撓性のシート状部材28であってもよい。また、上述した連結部材に代えて、セル4自身に、図5(d)に示すようなフック状の連結構造29を一体的に具備させてもよい。
【0030】
このように、上述した手術室用分離板1によれば、複数枚のセル4,4,…が、互いに着脱可能に連結されるので、それらのセル4,4,…のうち開口5が形成されているセル4の配設位置を変更することが可能となる。そして、その開口5を通して血液や薬液を流通させることができる。したがって、手術室を清潔野と不潔野とに分離する分離板1に設けられて清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるための開口5の位置を、手術室における患者や機器類の配置などに応じて適切に設定することができる。
しかも、各セル4は、分離板1全体に比べればはるかに小面積のものとなるので、その滅菌処理や搬送時の取り扱いなども容易となる。そして、各セル4自体は、それぞれ同形のものとすることができるので、その製作も容易であり、安価に得ることができる。
【0031】
また、分離板1は折り畳み可能に構成されているので、不要なときには分離板1をコンパクトに纏めることができ、必要なときだけ展開して手術室を区画することができる。したがって、手術の前後において機器類の移動などを行う場合であっても、分離板1が作業を妨げることはない。
【0032】
次に、図6ないし図8に基づいて、セル4の開口5に設けられるチューブホルダについて説明する。
図6(a)はチューブホルダの正面図であり、図6(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。また、図7(a)は図6のチューブホルダをセル4の開口5に装着した状態の正面図であり、図7(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。そして、図8(a)はチューブホルダの使用例を示す縦断側面図であり、図8(b)は別の使用例を示す縦断側面図である。
【0033】
チューブホルダ30は、セル4の開口5を貫通するチューブを保持するために用いられ、その開口5に対して着脱自在に装着される。このチューブホルダ30は、図6に示すように、チューブをその内側で保持する保持管32と、その保持管32をセル4に対して固定する固定部33とを有している。上記構成のチューブホルダ30は、弾性変形可能な樹脂によって形成され、一体成型されている。
【0034】
保持管32の内径は、体外循環回路等で用いるチューブの外径よりやや小さく形成されている。したがって、チューブホルダ30は、チューブが相対的に動かないように内接状態でチューブを保持することができる。
固定部33は、保持管32の外周端部において、等角度間隔で3つ設けられている。各固定部33は、アーム34とラッチ35とから構成されている。アーム34は、図6(a)に示すように、保持管32の外周端部から径方向に張り出している。ラッチ35は、図6(b)に示すように、アーム34の基端と先端との中間に立設されており、保持管32に対して平行に、かつ離反する方向に延出している。ラッチ35の先端には、セル4の開口5の周縁と係合し得る係合爪36が設けられている。アーム34の先端側と係合爪36との間には凹部37が形成され、その凹部37に開口5の周縁が嵌合できるようになっている。
【0035】
チューブホルダ30をセル4の開口5に装着する場合には、係合爪36のテーパ面を、開口5の周縁に押し当て、保持管32を押し込む。すると、押し込みに伴って、すべての固定部33が求心方向に弾性変形する。更に押し込んで、係合爪36が開口5を超えてセル4の反対側に突き出ると、固定部33が原形に復帰するとともに、凹部37に開口5の周縁が嵌合して、図7に示す状態に至る。この状態で、固定部33の係合爪36が、セル4の開口5の周縁と係合する。
【0036】
チューブホルダ30の装着が完了すると、保持管32は、図7(a)に示すように、開口5を臨む位置に固定される。そして、図7(b)に示すように、開口5の周縁が、アーム34と係合爪36との間の凹部37に嵌合するため、開口5からの脱落が確実に防止される。
【0037】
なお、固定部33の凹部37の幅をセル4の厚みより広くとって、チューブホルダ30がセル4に対し相対回転できるようにしてもよい。そのようにすれば、チューブ接続時や手術時においてチューブに捩れが生じても、自動的にその捩れを解消することができる。
【0038】
上述したチューブホルダ30の具体的使用例を図8(a)に示す。
チューブホルダ30の使用に際しては、始めに、手術者側(清潔野側)のチューブ8を、チューブホルダ30の保持管32内に嵌合挿通させ、任意の位置でチューブ8を保持管32に移動不能に保持させる。次いで、チューブ連結用のコネクタ13を用意し、図示するように、その一端を、保持されたチューブ8の先端開口部に押し込んで接続する。続いて、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、チューブ8を通すのに最も適した位置の開口5を決定する。そして、その開口5に、図示するようにコネクタ13を清潔野側から通すとともに、チューブホルダ30を清潔野側から開口5に装着してセル4に固定する。続けて、セル4の不潔野側に抜け出たコネクタ13の他端に対し、体外循環装置2からのチューブ9を接続する。
なお、上述した使用例では、清潔野側からチューブホルダ30を装着する場合について説明したが、チューブホルダ30を逆方向とすることにより、不潔野側から装着することも可能である。
【0039】
チューブホルダ30をセル4の開口5に装着した状態では、チューブ8は保持管32によって移動不能に保持される。したがって、手術者などによって清潔野側のチューブ8が引っ張られても、不潔野側のチューブ9が清潔野側に移動することはないので、清潔野側が汚染されるおそれはない。
【0040】
開口5からチューブホルダ30を取り外す際には、始めに不潔野側のチューブ9をコネクタ13から取り外す。次いで、アーム34の付け根付近において保持管32を押圧して弾性変形させ、係合爪36が開口5の周縁から離れるようにする。同時に、チューブホルダ30を清潔野側から引っ張ることによって、開口5から引き抜くことができる。
【0041】
チューブホルダ30の別の使用例を図8(b)に示す。
同図に示すチューブホルダ30の使用例では、始めに、手術者側(清潔野側)のチューブ8を、チューブホルダ30の保持管32内に嵌通させ、その保持管32にチューブ8を保持させる。次いで、図示するように、チューブ8を清潔野側から開口5に通すとともに、チューブホルダ30を清潔野から開口5に装着してセル4に固定する。続いて、この状態で、セル4の反対側(不潔野側)から抜け出たチューブ8に対し、コネクタ13を介して体外循環装置2からのチューブ9を接続する。
【0042】
上述したように、本実施例によれば、開口5を介してセル4の両面間を貫通するチューブ8を保持するチューブホルダ30が設けられるので、例えば体外循環時、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるためのチューブ8,9を、任意の開口位置において安定して支持させることができる。したがって、体外循環回路の配置が容易となる。
【0043】
次に、チューブホルダの変形例について説明する。
本発明の一部を構成するチューブホルダは、上述した形態のものに限定されず、例えば、後述する変形例を採用することもできる。図9(a)は第1の変形例に係るチューブホルダを示す正面図であり、図9(b)は(a)のC−C線に沿う断面図である。
【0044】
第1の変形例に係るチューブホルダ31は、チューブを保持する保持管38の構成が、図6に示す保持管32と異なる。保持管(クリップ)38は、固定部33を一体に備え、弾性変形可能な樹脂から形成されている。この保持管38は、断面Cリング状の管からなり、軸方向に沿って間隙39が形成されている。保持管38の内径は、保持するチューブの外径よりもやや小さくなるように設計されている。このような構成の保持管38は、全体として、チューブを保持するクリップ(グリップパイプ)として機能する。
【0045】
保持管38にチューブを保持させる際には、チューブを、間隙39に沿って保持管38の外周に押し当てる。そして、保持管38の弾性力に抗してチューブを押し込むと、その保持管38が弾性変形して間隙39が押し広げられる。続けてチューブを押し込むと、チューブが間隙39を越えて、保持管38の内側にチューブを納めることができる。保持管38内にチューブを納めた状態では、保持管38の内径よりもチューブの外径の方が大きいために、保持管38の内周全面からチューブに対してグリップ力(弾性変形に伴う復帰力)が作用する。その結果、保持管38はチューブに対して強固に固定されるので、間隙39を介して保持管38がチューブから脱落することはなく、また、不潔野側のチューブが清潔野側に進入することもない。なお、必要であれば、チューブに被せた状態の保持管38を締結バンドなどで緊締することも可能である。
【0046】
上述した特徴を有するチューブホルダ31によれば、保持管38が着脱自在のクリップとして機能するようになっているので、チューブホルダ31を、チューブの任意の位置に直接被せて固定することができる。したがって、チューブに装着する際に、チューブの端から所定位置までスライドさせるといった煩雑な作業が不要となり、また、取り外す際にも同様のスライド作業が不要となる。その結果、作業開始時や終了時において、チューブホルダの着脱を簡単かつ迅速に行うことができる。しかも、保持管38が弾性変形可能な着脱自在のクリップとして構成されることにより、保持可能なチューブサイズの範囲が広がるので、チューブホルダ31の利便性を高めることができる。
【0047】
次に、チューブホルダの第2の変形例について説明する。
図10(a)は第2の変形例に係るチューブホルダを示す正面図であり、図10(b)は(a)のD−D線に沿う断面図である。
【0048】
第2の変形例に係るチューブホルダ40は、固定部43の構成が、図6に示す固定部33と異なる。固定部43は、保持管32の一端に設けられたフランジ44と、そのフランジ44に対して一体的に設けられたラッチ45とから構成されている。フランジ44は、セル4の開口5の径を超える寸法の外径を有している。ラッチ45は、フランジ44上に立設され、保持管32に対して平行に、かつ離反する方向に延出している。ラッチ45の先端には、開口5の周縁と係合し得る係合爪46が設けられている。
【0049】
チューブホルダ40を開口5に装着した状態では、保持管32の周囲において開口5がフランジ44によって遮蔽される。すなわち、開口5に装着した状態において、フランジ44は蓋としても機能する。したがって、開口5は、チューブを保持する保持管32とフランジ44とによって全体的に遮蔽されることになり、保持管32の周囲を介して清潔野が汚染されることを防止することができる。
【0050】
次に、チューブホルダの第3の変形例について説明する。
図11(a)は第3の変形例に係るチューブホルダを示す正面図であり、図11(b)は(a)のE−E線に沿う断面図である。
【0051】
第3の変形例に係るチューブホルダ41は、チューブを保持する保持管38及びフランジ47の点において、図10に示す第2の変形例と異なる。
保持管(クリップ)38は、固定部43を一体に備え、弾性変形可能な樹脂から形成されている。この保持管38は、断面Cリング状の管からなり、軸方向に沿って間隙39が形成されている。保持管38の内径は、保持するチューブの外径よりもやや小さくなるように設計されている。保持管38の端部には、図10に示す第2の変形例と同様に、フランジ47が設けられている。このフランジ47には、間隙39に通ずる扇状の切欠き部48が形成されている。
【0052】
上述した特徴を有するチューブホルダ41によれば、図9に示す第1の変形例と同様に、保持管38が着脱自在のクリップとして機能するようになっているので、チューブの任意の位置に直接被せて固定することができる。したがって、作業開始時や終了時において、チューブホルダの着脱を簡単かつ迅速に行うことができるといった効果が達成される。
【0053】
次に、図12に基づいて、セル4の開口5に設けられるコネクタについて説明する。
図12はコネクタの縦断側面図である。
【0054】
コネクタ50は、清潔野側のチューブ8と不潔野側のチューブ9とを相互接続するために用いられ、セル4の開口5に対して着脱自在に装着される。このコネクタ50は樹脂によって形成され、チューブを接続するための接続部材51と、その接続部材51を回転自在に保持するための保持部材54と、を有している。
【0055】
接続部材51は略円筒状に形成され、その両端には、それぞれ清潔野側及び不潔野側からチューブ8,9が接続される。接続部材51の両端の外周面には、それぞれ、接続されたチューブ8,9の抜け止めのための環状の段部52,53が複数段形成されている。接続部材51の両端にチューブ8,9が接続された状態では、その接続部材51を介して血液や薬液を流通させることが可能である。
【0056】
保持部材54は、図6に示すチューブホルダ30と同様の形状を有しており、接続部材51を支持する支持管55と、その支持管55をセル4に対して固定する固定部56とを有している。支持管55の内径は、接続部材51の両端の段部52,53間に設けられる直管状部の外径よりやや大きく形成されている。したがって、支持管55は、接続部材51を回転自在に支持することができる。固定部56は、支持管55の端部の外周面に設けられており、図6に示すチューブホルダ30の固定部33と同様に、アーム57とラッチ58とから構成されている。
【0057】
上述したコネクタ50の使用に際しては、始めに、手術者側(清潔野側)のチューブ8を、接続部材51の一端に接続する。次いで、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、チューブの相互接続に最も適した位置にある開口5を決定する。続いて、接続部材51の他端側を清潔野側から所定の開口5に通すとともに、コネクタ50を清潔野側からその開口5に装着してセル4に固定する。この状態で、セル4の不潔野側から突き出た接続部材51の他端に対し、体外循環装置2側のチューブ9を接続する。以上の手順を経て、コネクタ50の装着とチューブ8,9の相互接続とが完了する。
【0058】
なお、支持管55の両端部には、接続部材51の段部52,53が当接するようになっているので、接続部材51が支持管55から抜け落ちることはない。また、接続部材51に接続されたチューブ8,9は、段部52,53によって強固に保持される。したがって、手術者などによってチューブ8が引っ張られても、不潔野側のチューブ9が開口5を超えて清潔野側に移動することはなく、不潔野側のチューブ9によって清潔野側が汚染されることはない。
【0059】
セル4の開口5からコネクタ50を取り外す際には、始めに不潔野側のチューブ9を接続部材51から取り外す。次いで、アーム57の付け根付近において支持管55を押圧して弾性変形させ、ラッチ58が開口5の周縁から離れるようにする。同時に、コネクタ50を清潔野側から引っ張ることによって、開口5から引き抜くことができる。
【0060】
なお、開口5に装着するコネクタの形態は上述したものに限定されず、例えば図13に示すように、接続部材51と固定部56とを一体成型した形態を採用することも可能である。また、固定部56の形態は図示するものに限定されず、例えば図10のチューブホルダ40のように、固定部56をフランジとラッチとにより構成することもできる。
更に、支持管55の形態も図示するものに限定されず、図9の保持管38のように間隙39を形成して、断面Cリング状の支持管として構成することもできる。それにより、接続部材51に対して保持部材54を後付けすることが可能となるので、既存の接続部材を有効活用することができる。
【0061】
このように、本実施例によれば、清潔野側のチューブ8と不潔野側のチューブ9とを相互接続するためのコネクタ50がセル4の開口5に設けられるので、清潔野と不潔野とを結ぶ体外循環回路を形成することができる。そして、そのコネクタ50は分離板1に固定されることになるので、体外循環回路を構成するチューブの清潔野と不潔野との間での移動による清潔野の汚染も防止することができる。
【0062】
次に、図14に基づいて、セル4の開口5を塞ぐための蓋について説明する。
図14は、セル4の開口5を開閉し得る蓋を示す縦断側面図である。
【0063】
本発明の分離板1は複数の開口5,5,…を有しており、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、適切な位置にある開口5に上述したチューブホルダやコネクタが装着され、血液や薬液の流通に供されるが、その他の開口5,5,…は用いられることがない。しかしながら、そのような必要のない開口5,5,…を、手術中においてそのまま放置しておくと、それらの開口5,5,…を介して清潔野側が汚染されるおそれがある。そこで、必要のないセル4の開口5には、図14に示すような蓋が装着される。
【0064】
図14(a)に示す蓋70は、開口5より大面積に形成された遮蔽板71と、開口5を塞ぐ栓72と、遮蔽板71の中央部正面側に設けられた摘み73と、を有している。蓋70は、栓72を開口5に押し込むことによって、図1に示すようにセル4に装着することができ、また、摘み73を掴んで引っ張ることによって取り外すことができる。
【0065】
蓋の形態は上述したものに限定されず、例えば、図14(b)に示すように、遮蔽板71と摘み73とラッチ74とから構成するようにしてもよい。また、図14(c)に示すように、開口5を開閉し得る可撓性のシート状部材75を、セル4に接着することによって構成したものであってもよい。
【0066】
以上、本発明の好適実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の設計変更が可能である。例えば、分離板1を構成するセル4,4,…は、透明なものに限らず、半透明あるいは不透明なものとすることもできる。また、1枚のセル4に形成する開口5の数は、図示するものに限定されず、セル4のサイズなどに応じて適宜増減することができる。更に、セル4の開口5の形状は円形に限らず、楕円形、矩形などを採用することもできる。また、開口5に装着されるチューブホルダ、コネクタ、蓋の各構成は、開口5の形状や寸法などに合わせて種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明による分離板の一実施例の使用状態を示す縦断側面図である。
【図2】図1に示す分離板を清潔野側から見た正面図である。
【図3】(a)は隣接するセルを連結する連結部材を示す拡大縦断側面図であり、(b)は連結状態にあるセルを折り重ねた状態を示す拡大縦断側面図である。
【図4】図2に示す分離板の上面図であり、ガイドレールに沿って折り畳む様子を示している。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ、図3に示す連結部材の変形例を示す縦断側面図であり、(d)はセルが有する連結構造を示す縦断側面図である。
【図6】(a)はチューブホルダの正面図であり、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図7】(a)は図6のチューブホルダをセルの開口に装着した状態を示す正面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図8】(a)は図6のチューブホルダの使用例を示す縦断側面図であり、(b)は別の使用例を示す縦断側面図である。
【図9】(a)はチューブホルダの第1の変形例を示す正面図であり、(b)は(a)のC−C線に沿う断面図である。
【図10】(a)はチューブホルダの第2の変形例を示す正面図であり、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図である。
【図11】(a)はチューブホルダの第3の変形例を示す正面図であり、(b)は(a)のE−E線に沿う断面図である。
【図12】コネクタを示す縦断側面図である。
【図13】コネクタの変形例を示す縦断側面図である。
【図14】(a),(b),(c)はそれぞれ、セルの開口を開閉し得る蓋を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 分離板
2 体外循環装置
4 セル
5 開口
8 清潔野側のチューブ
9 不潔野側のチューブ
21 連結部材
26 Oリング(連結部材)
27 S字状のフック(連結部材)
28 シート状部材(連結部材)
30,31,40,41 チューブホルダ
38 保持管(クリップ)
50 コネクタ
70 蓋
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離板に関するもので、特に、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させることが求められるような場合に用いるのに適した手術室用分離板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば心臓切開手術の際には体外循環が行われる。その場合には、手術室内に、人工心肺装置としてのポンプのほか、薬液供給用あるいは血液吸引用などの各種ポンプや、人工肺、熱交換器など、種々の機器類が設置される。そのような機器類は、完全滅菌は不可能であるので、手術室内の機器類設置領域は不潔野として残されることになる。かたや、同じ手術室内の患者側領域、すなわち手術が行われる領域(以下、「術野」と言う。)側は完全滅菌されて清潔野とされる。したがって、その清潔野にいる手術者らが不潔野側の機器類等に触れることのないようにしなければならない。ところが、体外循環において、人工心肺装置と患者とを結ぶ血液回路は、その血液充填量をできる限り低減させるために、必要最小限の長さに設定する。そのために、清潔野と不潔野とが接近することになり、清潔野の維持が困難となる。このようなことから、体外循環装置などの機器類を使用する手術時には、手術室内を清潔野と不潔野とに分離することが必要となっている。
そのように手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離手段としては、一般に、PVC(塩化ビニル樹脂)などの透明樹脂シートが用いられている。そのシートは、カーテン状に吊り下げた状態で使用される。
【0003】
ところで、体外循環時には、患者と機器類とを体外循環回路等の回路によって接続し、その間で血液や薬液を流通させるようにする必要がある。すなわち、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させることが求められる。そのような場合、手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離手段として単純な1枚のシートが用いられていると、そのシートによって患者と機器類との間が遮られることになるので、血液や薬液はそのシートを迂回するようにして流通させることが必要となる。例えば体外循環を行うためには、患者と機器類とを接続する回路を、シートの周縁外部を通るように配置することが必要となる。そのために、その回路が長いものとなってしまう。一方、前述したように、最近では、体外循環使用手術の際、初期に充填される血液や薬液のプライミング量を低減させるために、体外循環回路を極力短くすることが求められるようになってきている。
【0004】
このようなことから、体外循環使用手術が行われる手術室内を清潔野と不潔野とに分離する分離手段として、あらかじめ所定の位置に開口を設けたシートを用い、その開口を通して体外循環回路がシートを貫通するようにすることにより、清潔野と不潔野との間にまたがる体外循環回路の短縮化を図るようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−321390号公報
【特許文献2】特開2003−19168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載されているような手術室用分離手段では、その分離手段を構成するシートを貫通するようにして体外循環回路を形成する場合、その体外循環回路のシート貫通位置は、シートにあらかじめ設けられている開口の位置に限られることになる。そのために、患者と体外循環装置を構成する各機器類との位置関係によっては、体外循環回路を必要以上に長くすることが必要となり、術野に対するシートの位置関係の自由度がなくなるという問題がある。
また、そのような手術室用分離手段は滅菌処理する必要があるが、上記特許文献に記載されているようなシートは大面積のものとなるので、その滅菌処理が難しい。折り畳んでコンパクトにまとめることができればよいのであるが、樹脂製のシートは、折り畳むと接触面が互いに密着して付着するので、滅菌処理ができなくなってしまうばかりでなく、折り癖などにより使用時に拡げることも困難となり、場合によっては周囲の機器に触れて不潔になってしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、手術室内を清潔野と不潔野とに分離する分離手段に設けられて、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるための開口の位置を、手術室内の患者や機器類の配置などに応じて適宜変更することができるようにするとともに、その分離手段の滅菌処理なども容易に行うことができるようにすることである。
また、本発明の他の目的は、病院ごとに異なる分離手段の形状や開口の位置に容易に対応でき、しかも、大面積の1枚のシートで製作するのに比べて製作が容易な手術室用分離手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明では、その手術室用分離手段を、複数枚の比較的小面積のセルからなる分離板として構成するようにしている。すなわち、請求項1に係る本発明の手術室用分離板は、手術室内を清潔野と不潔野に分離するための分離板であって、薄板からなるセルを複数枚、互いに着脱可能に連結して、前記セルよりも大面積の1枚の板状に形成することにより構成されており、前記複数枚のセルの少なくとも1枚には開口が形成されていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記複数枚のセルが折り畳み可能に互いに連結されていることを特徴としている。
【0009】
更に、請求項3に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記セルの開口には、その開口を介してセルの両面間を貫通するチューブを保持するチューブホルダが設けられていることを特徴としている。
【0010】
そして、請求項4に係る本発明は、上記請求項3に係る発明において、そのチューブホルダが、チューブの任意の位置を着脱自在に保持するクリップを備えていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記セルの開口には、清潔野側のチューブと不潔野側のチューブとをその開口を介して接続させるためのコネクタが設けられていることを特徴としている。
【0012】
更に、請求項6に係る本発明は、上記請求項5に係る発明において、そのコネクタが、チューブを接続するための接続部材と、その接続部材を回転自在に保持するための保持部材と、を有していることを特徴としている。
【0013】
そして、請求項7に係る本発明は、上記請求項1に係る発明において、前記開口を開閉し得る蓋を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
上記請求項1に係る本発明によれば、手術室用分離板を構成する複数枚のセルが、互いに着脱可能に連結されるので、そのセルのうちの開口が形成されているセルの配設位置を変更することが可能となる。そして、その開口を通して血液や薬液を流通させることができる。したがって、手術室を清潔野と不潔野とに分離する分離板に設けられて清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるための開口の位置を、手術室における患者や機器類の配置などに応じて適切に設定することができる。
しかも、各セルは、分離板全体に比べればはるかに小面積のものとなるので、その滅菌処理や搬送時の取り扱い、更にはその製作なども容易となる。
【0015】
また、上記請求項2に係る本発明によれば、分離板は折り畳み可能に構成されるので、不要なときには分離板をコンパクトに纏めることができ、必要なときだけ展開して手術室を区画することができる。したがって、手術の前後において機器類の移動などを行う場合であっても、分離板が作業を妨げることはない。
【0016】
更に、上記請求項3に係る本発明によれば、セルの開口に、その開口を介してセルの両面間を貫通するチューブを保持するチューブホルダが設けられるので、例えば体外循環時、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるためのチューブを、任意の開口位置において安定して支持させることができる。したがって、体外循環回路の配置が容易となる。
【0017】
そして、上記請求項4に係る本発明によれば、そのチューブホルダが、チューブを着脱自在に保持するクリップとして構成されるので、そのクリップを、チューブの任意の位置に直接被せて固定することができる。したがって、チューブに装着する際に、チューブの端から所定位置までスライドさせるといった煩雑な作業が不要となり、また、取り外す際にも同様のスライド作業が不要となる。その結果、作業開始時や終了時において、チューブホルダの着脱を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0018】
また、上記請求項5に係る本発明によれば、セルの開口には、分離板の両面側(清潔野側及び不潔野側)にあるチューブを互いに接続させるコネクタが設けられるので、体外循環の使用時、そのコネクタに清潔野側及び不潔野側からそれぞれチューブを装着することにより、清潔野と不潔野とを結ぶ体外循環回路を形成することができる。そして、その体外循環回路は分離板に固定されることになるので、体外循環回路を構成するチューブの清潔野と不潔野との間での移動による清潔野の汚染も防止することができる。
【0019】
更に、上記請求項6に係る本発明によれば、コネクタは、チューブを接続させる接続部材を回転自在に保持することになる。これにより、分離板の両面側から接続されたチューブは、相互接続された状態であっても自在に回転するようになるので、体外循環装置と患者側との間でチューブに捩れが生ずるのを防止することが可能となる。
【0020】
そして、上記請求項6に係る本発明によれば、開口が蓋によって開閉可能とされるので、使用されない開口を通して清潔野が汚染されることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図は本発明による手術室用分離板の実施例を示すもので、図1はその分離板の使用状態を示す縦断側面図であり、図2はその分離板を清潔野側から見た正面図である。
【0022】
この実施例の分離板1は、体外循環を使用する手術の際に手術室内を清潔野と不潔野とに分離するために用いられるものである。手術室内は、一方の側(図1で左側)が、複数個のローラポンプや人工肺、熱交換器などを組み込んだ体外循環装置2が設置される不潔野とされ、他方の側(図1で右側)が、手術が行われる術野としての清潔野とされている。
【0023】
図1及び図2から明らかなように、分離板1は、複数枚の板状のセル4,4,…を、互いに着脱可能に、かつ面状に連結することによって形成されている。セル4は、分離板1を構成する基本単位であり、PVCあるいはポリエチレン等の軟質樹脂からなる透明の方形状の薄板から構成されている。セル4を連結した状態では、分離板1は、各セル4よりも大面積の1枚の板状となる。
【0024】
本発明の分離板1は、手術室の寸法、形状、体外循環装置2の配置などに応じて、必要枚数のセル4を縦方向及び横方向に連結することによって構成される。図1及び図2では、一例として、分離板1を、20枚(5行×4列)のセル4,4,…で構成しており、最上段のセル4,4,…をガイドレール11に対し摺動自在に吊り下げている。
【0025】
図示するように、複数枚のセル4,4,…には、所定径の開口5が複数形成されたセルと、そのような開口を有しないセルとが含まれる。本発明の分離板1には、このような開口5が形成されたセルが少なくとも1枚含まれる。セル4の開口5の一又は二以上には、体外循環回路のチューブ9を貫通させる。その場合、好ましくは、後述するチューブホルダ(図7参照)に該チューブを保持させたものが装着される。あるいは、後述するチューブ接続用のコネクタ(図12参照)が装着され、分離板1の両面側からのチューブの相互接続を可能にするようになっている。このようなチューブホルダもコネクタも装着する必要のない開口5は、後述する蓋(図14参照)で塞がれるようになっている。
【0026】
なお、セル4,4,…の配置は図示する態様に限定されず、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、所望の位置に開口5が位置するように配置される。その際、隣接するセル4,4は着脱自在に互いに連結されているので、必要に応じて並べ替えて、その配置を適宜変更する。
【0027】
次に、図3及び図4に基づいて、分離板1を構成するセル4,4,…の連結構造について説明する。
図3(a)は隣接するセル4,4を連結する連結部材を示す拡大縦断側面図であり、図3(b)は連結状態にあるセル4,4を折り重ねた状態を示す拡大縦断側面図である。図4は、図2に示す分離板1の上面図であり、ガイドレール11に沿って摺動させて折り畳む様子を示している。
【0028】
図3(a)に示すように、隣接するセル4,4は、着脱自在の連結部材21によって互いに連結されている。連結部材21は、セル4の縁部を着脱自在に挟持する両端の挟持部22,22と、それらの挟持部22,22を互いに連結する板状の連結部23とで構成されている。連結部23は可撓性材料で形成されており、図3(b)に示すようにその連結部23を湾曲させることにより、連結状態のセル4,4を折り重ねることができる。したがって、例えば図2に示す分離板1の場合には、カーテンのように吊り下げた状態のまま、図4に示すように、分離板全体を折り畳んでコンパクトに纏めることも可能である。
【0029】
なお、隣接するセル4,4を折り畳み可能に連結するための連結部材は、図3に示すものに限定されず、例えば、図5(a)に示すようなOリング26であってもよく、また、図5(b)に示すようなS字状のフック27であってもよく、あるいは、図5(c)に示すような可撓性のシート状部材28であってもよい。また、上述した連結部材に代えて、セル4自身に、図5(d)に示すようなフック状の連結構造29を一体的に具備させてもよい。
【0030】
このように、上述した手術室用分離板1によれば、複数枚のセル4,4,…が、互いに着脱可能に連結されるので、それらのセル4,4,…のうち開口5が形成されているセル4の配設位置を変更することが可能となる。そして、その開口5を通して血液や薬液を流通させることができる。したがって、手術室を清潔野と不潔野とに分離する分離板1に設けられて清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるための開口5の位置を、手術室における患者や機器類の配置などに応じて適切に設定することができる。
しかも、各セル4は、分離板1全体に比べればはるかに小面積のものとなるので、その滅菌処理や搬送時の取り扱いなども容易となる。そして、各セル4自体は、それぞれ同形のものとすることができるので、その製作も容易であり、安価に得ることができる。
【0031】
また、分離板1は折り畳み可能に構成されているので、不要なときには分離板1をコンパクトに纏めることができ、必要なときだけ展開して手術室を区画することができる。したがって、手術の前後において機器類の移動などを行う場合であっても、分離板1が作業を妨げることはない。
【0032】
次に、図6ないし図8に基づいて、セル4の開口5に設けられるチューブホルダについて説明する。
図6(a)はチューブホルダの正面図であり、図6(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。また、図7(a)は図6のチューブホルダをセル4の開口5に装着した状態の正面図であり、図7(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。そして、図8(a)はチューブホルダの使用例を示す縦断側面図であり、図8(b)は別の使用例を示す縦断側面図である。
【0033】
チューブホルダ30は、セル4の開口5を貫通するチューブを保持するために用いられ、その開口5に対して着脱自在に装着される。このチューブホルダ30は、図6に示すように、チューブをその内側で保持する保持管32と、その保持管32をセル4に対して固定する固定部33とを有している。上記構成のチューブホルダ30は、弾性変形可能な樹脂によって形成され、一体成型されている。
【0034】
保持管32の内径は、体外循環回路等で用いるチューブの外径よりやや小さく形成されている。したがって、チューブホルダ30は、チューブが相対的に動かないように内接状態でチューブを保持することができる。
固定部33は、保持管32の外周端部において、等角度間隔で3つ設けられている。各固定部33は、アーム34とラッチ35とから構成されている。アーム34は、図6(a)に示すように、保持管32の外周端部から径方向に張り出している。ラッチ35は、図6(b)に示すように、アーム34の基端と先端との中間に立設されており、保持管32に対して平行に、かつ離反する方向に延出している。ラッチ35の先端には、セル4の開口5の周縁と係合し得る係合爪36が設けられている。アーム34の先端側と係合爪36との間には凹部37が形成され、その凹部37に開口5の周縁が嵌合できるようになっている。
【0035】
チューブホルダ30をセル4の開口5に装着する場合には、係合爪36のテーパ面を、開口5の周縁に押し当て、保持管32を押し込む。すると、押し込みに伴って、すべての固定部33が求心方向に弾性変形する。更に押し込んで、係合爪36が開口5を超えてセル4の反対側に突き出ると、固定部33が原形に復帰するとともに、凹部37に開口5の周縁が嵌合して、図7に示す状態に至る。この状態で、固定部33の係合爪36が、セル4の開口5の周縁と係合する。
【0036】
チューブホルダ30の装着が完了すると、保持管32は、図7(a)に示すように、開口5を臨む位置に固定される。そして、図7(b)に示すように、開口5の周縁が、アーム34と係合爪36との間の凹部37に嵌合するため、開口5からの脱落が確実に防止される。
【0037】
なお、固定部33の凹部37の幅をセル4の厚みより広くとって、チューブホルダ30がセル4に対し相対回転できるようにしてもよい。そのようにすれば、チューブ接続時や手術時においてチューブに捩れが生じても、自動的にその捩れを解消することができる。
【0038】
上述したチューブホルダ30の具体的使用例を図8(a)に示す。
チューブホルダ30の使用に際しては、始めに、手術者側(清潔野側)のチューブ8を、チューブホルダ30の保持管32内に嵌合挿通させ、任意の位置でチューブ8を保持管32に移動不能に保持させる。次いで、チューブ連結用のコネクタ13を用意し、図示するように、その一端を、保持されたチューブ8の先端開口部に押し込んで接続する。続いて、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、チューブ8を通すのに最も適した位置の開口5を決定する。そして、その開口5に、図示するようにコネクタ13を清潔野側から通すとともに、チューブホルダ30を清潔野側から開口5に装着してセル4に固定する。続けて、セル4の不潔野側に抜け出たコネクタ13の他端に対し、体外循環装置2からのチューブ9を接続する。
なお、上述した使用例では、清潔野側からチューブホルダ30を装着する場合について説明したが、チューブホルダ30を逆方向とすることにより、不潔野側から装着することも可能である。
【0039】
チューブホルダ30をセル4の開口5に装着した状態では、チューブ8は保持管32によって移動不能に保持される。したがって、手術者などによって清潔野側のチューブ8が引っ張られても、不潔野側のチューブ9が清潔野側に移動することはないので、清潔野側が汚染されるおそれはない。
【0040】
開口5からチューブホルダ30を取り外す際には、始めに不潔野側のチューブ9をコネクタ13から取り外す。次いで、アーム34の付け根付近において保持管32を押圧して弾性変形させ、係合爪36が開口5の周縁から離れるようにする。同時に、チューブホルダ30を清潔野側から引っ張ることによって、開口5から引き抜くことができる。
【0041】
チューブホルダ30の別の使用例を図8(b)に示す。
同図に示すチューブホルダ30の使用例では、始めに、手術者側(清潔野側)のチューブ8を、チューブホルダ30の保持管32内に嵌通させ、その保持管32にチューブ8を保持させる。次いで、図示するように、チューブ8を清潔野側から開口5に通すとともに、チューブホルダ30を清潔野から開口5に装着してセル4に固定する。続いて、この状態で、セル4の反対側(不潔野側)から抜け出たチューブ8に対し、コネクタ13を介して体外循環装置2からのチューブ9を接続する。
【0042】
上述したように、本実施例によれば、開口5を介してセル4の両面間を貫通するチューブ8を保持するチューブホルダ30が設けられるので、例えば体外循環時、清潔野と不潔野との間で血液や薬液を流通させるためのチューブ8,9を、任意の開口位置において安定して支持させることができる。したがって、体外循環回路の配置が容易となる。
【0043】
次に、チューブホルダの変形例について説明する。
本発明の一部を構成するチューブホルダは、上述した形態のものに限定されず、例えば、後述する変形例を採用することもできる。図9(a)は第1の変形例に係るチューブホルダを示す正面図であり、図9(b)は(a)のC−C線に沿う断面図である。
【0044】
第1の変形例に係るチューブホルダ31は、チューブを保持する保持管38の構成が、図6に示す保持管32と異なる。保持管(クリップ)38は、固定部33を一体に備え、弾性変形可能な樹脂から形成されている。この保持管38は、断面Cリング状の管からなり、軸方向に沿って間隙39が形成されている。保持管38の内径は、保持するチューブの外径よりもやや小さくなるように設計されている。このような構成の保持管38は、全体として、チューブを保持するクリップ(グリップパイプ)として機能する。
【0045】
保持管38にチューブを保持させる際には、チューブを、間隙39に沿って保持管38の外周に押し当てる。そして、保持管38の弾性力に抗してチューブを押し込むと、その保持管38が弾性変形して間隙39が押し広げられる。続けてチューブを押し込むと、チューブが間隙39を越えて、保持管38の内側にチューブを納めることができる。保持管38内にチューブを納めた状態では、保持管38の内径よりもチューブの外径の方が大きいために、保持管38の内周全面からチューブに対してグリップ力(弾性変形に伴う復帰力)が作用する。その結果、保持管38はチューブに対して強固に固定されるので、間隙39を介して保持管38がチューブから脱落することはなく、また、不潔野側のチューブが清潔野側に進入することもない。なお、必要であれば、チューブに被せた状態の保持管38を締結バンドなどで緊締することも可能である。
【0046】
上述した特徴を有するチューブホルダ31によれば、保持管38が着脱自在のクリップとして機能するようになっているので、チューブホルダ31を、チューブの任意の位置に直接被せて固定することができる。したがって、チューブに装着する際に、チューブの端から所定位置までスライドさせるといった煩雑な作業が不要となり、また、取り外す際にも同様のスライド作業が不要となる。その結果、作業開始時や終了時において、チューブホルダの着脱を簡単かつ迅速に行うことができる。しかも、保持管38が弾性変形可能な着脱自在のクリップとして構成されることにより、保持可能なチューブサイズの範囲が広がるので、チューブホルダ31の利便性を高めることができる。
【0047】
次に、チューブホルダの第2の変形例について説明する。
図10(a)は第2の変形例に係るチューブホルダを示す正面図であり、図10(b)は(a)のD−D線に沿う断面図である。
【0048】
第2の変形例に係るチューブホルダ40は、固定部43の構成が、図6に示す固定部33と異なる。固定部43は、保持管32の一端に設けられたフランジ44と、そのフランジ44に対して一体的に設けられたラッチ45とから構成されている。フランジ44は、セル4の開口5の径を超える寸法の外径を有している。ラッチ45は、フランジ44上に立設され、保持管32に対して平行に、かつ離反する方向に延出している。ラッチ45の先端には、開口5の周縁と係合し得る係合爪46が設けられている。
【0049】
チューブホルダ40を開口5に装着した状態では、保持管32の周囲において開口5がフランジ44によって遮蔽される。すなわち、開口5に装着した状態において、フランジ44は蓋としても機能する。したがって、開口5は、チューブを保持する保持管32とフランジ44とによって全体的に遮蔽されることになり、保持管32の周囲を介して清潔野が汚染されることを防止することができる。
【0050】
次に、チューブホルダの第3の変形例について説明する。
図11(a)は第3の変形例に係るチューブホルダを示す正面図であり、図11(b)は(a)のE−E線に沿う断面図である。
【0051】
第3の変形例に係るチューブホルダ41は、チューブを保持する保持管38及びフランジ47の点において、図10に示す第2の変形例と異なる。
保持管(クリップ)38は、固定部43を一体に備え、弾性変形可能な樹脂から形成されている。この保持管38は、断面Cリング状の管からなり、軸方向に沿って間隙39が形成されている。保持管38の内径は、保持するチューブの外径よりもやや小さくなるように設計されている。保持管38の端部には、図10に示す第2の変形例と同様に、フランジ47が設けられている。このフランジ47には、間隙39に通ずる扇状の切欠き部48が形成されている。
【0052】
上述した特徴を有するチューブホルダ41によれば、図9に示す第1の変形例と同様に、保持管38が着脱自在のクリップとして機能するようになっているので、チューブの任意の位置に直接被せて固定することができる。したがって、作業開始時や終了時において、チューブホルダの着脱を簡単かつ迅速に行うことができるといった効果が達成される。
【0053】
次に、図12に基づいて、セル4の開口5に設けられるコネクタについて説明する。
図12はコネクタの縦断側面図である。
【0054】
コネクタ50は、清潔野側のチューブ8と不潔野側のチューブ9とを相互接続するために用いられ、セル4の開口5に対して着脱自在に装着される。このコネクタ50は樹脂によって形成され、チューブを接続するための接続部材51と、その接続部材51を回転自在に保持するための保持部材54と、を有している。
【0055】
接続部材51は略円筒状に形成され、その両端には、それぞれ清潔野側及び不潔野側からチューブ8,9が接続される。接続部材51の両端の外周面には、それぞれ、接続されたチューブ8,9の抜け止めのための環状の段部52,53が複数段形成されている。接続部材51の両端にチューブ8,9が接続された状態では、その接続部材51を介して血液や薬液を流通させることが可能である。
【0056】
保持部材54は、図6に示すチューブホルダ30と同様の形状を有しており、接続部材51を支持する支持管55と、その支持管55をセル4に対して固定する固定部56とを有している。支持管55の内径は、接続部材51の両端の段部52,53間に設けられる直管状部の外径よりやや大きく形成されている。したがって、支持管55は、接続部材51を回転自在に支持することができる。固定部56は、支持管55の端部の外周面に設けられており、図6に示すチューブホルダ30の固定部33と同様に、アーム57とラッチ58とから構成されている。
【0057】
上述したコネクタ50の使用に際しては、始めに、手術者側(清潔野側)のチューブ8を、接続部材51の一端に接続する。次いで、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、チューブの相互接続に最も適した位置にある開口5を決定する。続いて、接続部材51の他端側を清潔野側から所定の開口5に通すとともに、コネクタ50を清潔野側からその開口5に装着してセル4に固定する。この状態で、セル4の不潔野側から突き出た接続部材51の他端に対し、体外循環装置2側のチューブ9を接続する。以上の手順を経て、コネクタ50の装着とチューブ8,9の相互接続とが完了する。
【0058】
なお、支持管55の両端部には、接続部材51の段部52,53が当接するようになっているので、接続部材51が支持管55から抜け落ちることはない。また、接続部材51に接続されたチューブ8,9は、段部52,53によって強固に保持される。したがって、手術者などによってチューブ8が引っ張られても、不潔野側のチューブ9が開口5を超えて清潔野側に移動することはなく、不潔野側のチューブ9によって清潔野側が汚染されることはない。
【0059】
セル4の開口5からコネクタ50を取り外す際には、始めに不潔野側のチューブ9を接続部材51から取り外す。次いで、アーム57の付け根付近において支持管55を押圧して弾性変形させ、ラッチ58が開口5の周縁から離れるようにする。同時に、コネクタ50を清潔野側から引っ張ることによって、開口5から引き抜くことができる。
【0060】
なお、開口5に装着するコネクタの形態は上述したものに限定されず、例えば図13に示すように、接続部材51と固定部56とを一体成型した形態を採用することも可能である。また、固定部56の形態は図示するものに限定されず、例えば図10のチューブホルダ40のように、固定部56をフランジとラッチとにより構成することもできる。
更に、支持管55の形態も図示するものに限定されず、図9の保持管38のように間隙39を形成して、断面Cリング状の支持管として構成することもできる。それにより、接続部材51に対して保持部材54を後付けすることが可能となるので、既存の接続部材を有効活用することができる。
【0061】
このように、本実施例によれば、清潔野側のチューブ8と不潔野側のチューブ9とを相互接続するためのコネクタ50がセル4の開口5に設けられるので、清潔野と不潔野とを結ぶ体外循環回路を形成することができる。そして、そのコネクタ50は分離板1に固定されることになるので、体外循環回路を構成するチューブの清潔野と不潔野との間での移動による清潔野の汚染も防止することができる。
【0062】
次に、図14に基づいて、セル4の開口5を塞ぐための蓋について説明する。
図14は、セル4の開口5を開閉し得る蓋を示す縦断側面図である。
【0063】
本発明の分離板1は複数の開口5,5,…を有しており、患者と体外循環装置2との位置関係などを考慮して、適切な位置にある開口5に上述したチューブホルダやコネクタが装着され、血液や薬液の流通に供されるが、その他の開口5,5,…は用いられることがない。しかしながら、そのような必要のない開口5,5,…を、手術中においてそのまま放置しておくと、それらの開口5,5,…を介して清潔野側が汚染されるおそれがある。そこで、必要のないセル4の開口5には、図14に示すような蓋が装着される。
【0064】
図14(a)に示す蓋70は、開口5より大面積に形成された遮蔽板71と、開口5を塞ぐ栓72と、遮蔽板71の中央部正面側に設けられた摘み73と、を有している。蓋70は、栓72を開口5に押し込むことによって、図1に示すようにセル4に装着することができ、また、摘み73を掴んで引っ張ることによって取り外すことができる。
【0065】
蓋の形態は上述したものに限定されず、例えば、図14(b)に示すように、遮蔽板71と摘み73とラッチ74とから構成するようにしてもよい。また、図14(c)に示すように、開口5を開閉し得る可撓性のシート状部材75を、セル4に接着することによって構成したものであってもよい。
【0066】
以上、本発明の好適実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の設計変更が可能である。例えば、分離板1を構成するセル4,4,…は、透明なものに限らず、半透明あるいは不透明なものとすることもできる。また、1枚のセル4に形成する開口5の数は、図示するものに限定されず、セル4のサイズなどに応じて適宜増減することができる。更に、セル4の開口5の形状は円形に限らず、楕円形、矩形などを採用することもできる。また、開口5に装着されるチューブホルダ、コネクタ、蓋の各構成は、開口5の形状や寸法などに合わせて種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明による分離板の一実施例の使用状態を示す縦断側面図である。
【図2】図1に示す分離板を清潔野側から見た正面図である。
【図3】(a)は隣接するセルを連結する連結部材を示す拡大縦断側面図であり、(b)は連結状態にあるセルを折り重ねた状態を示す拡大縦断側面図である。
【図4】図2に示す分離板の上面図であり、ガイドレールに沿って折り畳む様子を示している。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ、図3に示す連結部材の変形例を示す縦断側面図であり、(d)はセルが有する連結構造を示す縦断側面図である。
【図6】(a)はチューブホルダの正面図であり、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図7】(a)は図6のチューブホルダをセルの開口に装着した状態を示す正面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図8】(a)は図6のチューブホルダの使用例を示す縦断側面図であり、(b)は別の使用例を示す縦断側面図である。
【図9】(a)はチューブホルダの第1の変形例を示す正面図であり、(b)は(a)のC−C線に沿う断面図である。
【図10】(a)はチューブホルダの第2の変形例を示す正面図であり、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図である。
【図11】(a)はチューブホルダの第3の変形例を示す正面図であり、(b)は(a)のE−E線に沿う断面図である。
【図12】コネクタを示す縦断側面図である。
【図13】コネクタの変形例を示す縦断側面図である。
【図14】(a),(b),(c)はそれぞれ、セルの開口を開閉し得る蓋を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 分離板
2 体外循環装置
4 セル
5 開口
8 清潔野側のチューブ
9 不潔野側のチューブ
21 連結部材
26 Oリング(連結部材)
27 S字状のフック(連結部材)
28 シート状部材(連結部材)
30,31,40,41 チューブホルダ
38 保持管(クリップ)
50 コネクタ
70 蓋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離板であって、
薄板からなるセルを複数枚、互いに着脱可能に連結して、前記セルよりも大面積の1枚の板状に形成することにより構成されており、前記複数枚のセルの少なくとも1枚には開口が形成されていることを特徴とする、手術室用分離板。
【請求項2】
前記複数枚のセルは折り畳み可能に互いに連結されていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項3】
前記セルの開口には、その開口を介してセルの両面間を貫通するチューブを保持するチューブホルダが設けられていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項4】
前記チューブホルダは、前記チューブの任意の位置を着脱自在に保持するクリップを備えていることを特徴とする、請求項3記載の手術室用分離板。
【請求項5】
前記セルの開口には、清潔野側のチューブと不潔野側のチューブとをその開口を介して接続させるためのコネクタが設けられていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項6】
前記コネクタは、チューブを接続するための接続部材と、その接続部材を回転自在に保持するための保持部材と、を有していることを特徴とする、請求項5記載の手術室用分離板。
【請求項7】
前記開口を開閉し得る蓋を備えていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項1】
手術室内を清潔野と不潔野とに分離するための分離板であって、
薄板からなるセルを複数枚、互いに着脱可能に連結して、前記セルよりも大面積の1枚の板状に形成することにより構成されており、前記複数枚のセルの少なくとも1枚には開口が形成されていることを特徴とする、手術室用分離板。
【請求項2】
前記複数枚のセルは折り畳み可能に互いに連結されていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項3】
前記セルの開口には、その開口を介してセルの両面間を貫通するチューブを保持するチューブホルダが設けられていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項4】
前記チューブホルダは、前記チューブの任意の位置を着脱自在に保持するクリップを備えていることを特徴とする、請求項3記載の手術室用分離板。
【請求項5】
前記セルの開口には、清潔野側のチューブと不潔野側のチューブとをその開口を介して接続させるためのコネクタが設けられていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【請求項6】
前記コネクタは、チューブを接続するための接続部材と、その接続部材を回転自在に保持するための保持部材と、を有していることを特徴とする、請求項5記載の手術室用分離板。
【請求項7】
前記開口を開閉し得る蓋を備えていることを特徴とする、請求項1記載の手術室用分離板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−57757(P2010−57757A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227378(P2008−227378)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
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