説明

手術支援装置

【課題】安全に動作させることができ、且つ構成が簡素な手術支援装置を提供すること。
【解決手段】対象物へと駆動力を伝達するために移動される駆動ロッド11と、駆動ロッド11における所定の一箇所の移動量を計測するリニアエンコーダ13と、駆動ロッド11において前記所定の一箇所と異なる他の一ヶ所の移動量を検出するエンコーダ20と、リニアエンコーダ13によって検出された移動量とエンコーダ20によって検出された移動量との差分長さを検出する差分算出部と、前記差分長さに基づいて駆動ロッド11から前記対象物へと伝達される力の大きさを演算する作動力演算部と、リニアエンコーダ13によって検出された移動量とエンコーダ20によって検出された移動量とを用いてリニアエンコーダ13とエンコーダ20との少なくとも何れかの故障を検出する故障検出部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術を支援する装置として、術者が操作するマスタ部と、マスタ部の動作に従って動作して処置対象物に対して処置をするスレーブ部とを備えるマスタスレーブ型の手術支援装置が知られている。
【0003】
このような手術支援装置には、故障時にも安全に動作させることができるようにするための技術が採用されている。例えば特許文献1には、互いに角度が変化する複数の継手の組と、これらの継手の組を動作させる駆動ユニットとを備える架台が記載されている。特許文献1に記載の架台には、駆動ユニットに連結されたインクリメンタル式の角度センサと、各継手の絶対的な角度を検出する他の角度センサとが設けられている。
この架台では、一方の角度センサが故障しても、他方の角度センサによって継手の角度を把握することができる。そのため、角度センサの故障を確実に検出できるとともに、片方の角度センサが故障したままでも安全に架台を退避させるなどの処理をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−253245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手術支援装置を安全に動作させるためには、手術支援装置に対して想定を超える負荷がかかるのを防止して故障を未然に防ぐことが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載の架台では、架台が過負荷状態であるか否かの検出はできなかった。
また、特許文献1に記載の架台に力検出センサを別途取り付けて過負荷を検出することも考えられるが、二重化された角度センサに加えてさらに力検出センサを備える構成では装置が複雑となる。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は安全に動作させることができ、且つ構成が簡素な手術支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の手術支援装置は、対象物へと駆動力を伝達するために移動される駆動部材と、前記駆動部材における所定の一箇所の移動量を計測する第一位置検出手段と、前記駆動部材において前記所定の一箇所と異なる他の一ヶ所の移動量を検出する第二位置検出手段と、前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記第二位置検出手段によって検出された移動量との差分長さを検出する差分算出部と、前記差分長さに基づいて前記駆動部材から前記対象物へと伝達される力の大きさを演算する作動力演算部と、前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記第二位置検出手段によって検出された移動量とを用いて前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかの故障を検出する故障検出部と、を備えることを特徴とする手術支援装置である。
【0008】
また、前記故障検出部は、前記駆動部材を移動させる駆動力発生手段に対して発せられる指示値を取得し、前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第一差分と、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第二差分とを、それぞれ前記指示値に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて決定された閾値と比較し、前記第一差分が前記閾値以上である場合には前記第一位置検出手段が故障しているものと判定し、前記第二差分が前記閾値以上である場合には前記第二位置検出手段が故障しているものと判定してもよい。
【0009】
また、前記差分長さが所定の範囲以上である場合に、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかが故障していると前記故障検出部が判定してもよい。
【0010】
また、前記故障検出部は、前記駆動部材を移動させる量を指示するために前記駆動部材を移動させる駆動力発生手段に出力される指示値を取得し、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくともいずれかが故障していると前記故障検出部が判定したときに、前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第一差分と、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第二差分とを、それぞれ前記指示値に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて決定された閾値と比較し、前記第一差分が前記閾値以上である場合には前記第一位置検出手段が故障しているものと判定し、前記第二差分が前記閾値以上である場合には前記第二位置検出手段が故障しているものと判定してもよい。
【0011】
また、前記故障検出部は、前記駆動部材を移動させる量を指示するために前記駆動部材を移動させる駆動力発生手段に出力される指示値を取得し前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくともいずれかが故障していると前記故障検出部が判定したときに、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分を、前記指示値に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて決定された所定の上限と下限とを有する閾値範囲と比較し、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分が前記閾値範囲の上限以上である場合には前記第二位置検出手段が故障しているものと判定し、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分が前記閾値範囲内である場合には前記第一位置検出手段が故障しているものと判定してもよい。
【0012】
また、本発明の手術支援装置は、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかが故障していると前記故障検出部が検出したときに、前記駆動部材の動作を停止させてもよい。
【0013】
また、本発明の手術支援装置は、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかが故障していると前記故障検出部が検出したときに、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段とのうち故障していない位置検出手段がある場合には、前記故障していない位置検出手段を用いて前記駆動部材の位置を検出しながら前記駆動部材を所定の位置へ移動させ、前記駆動部材が前記所定の位置へ移動した後に前記駆動部材を停止させてもよい。
【0014】
また、本発明の手術支援装置は、前記演算手段によって演算された力の大きさが適正負荷の上限を超えている場合に過負荷状態であると判定する作動力演算部をさらに備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明の手術支援装置は、前記対象物に対して処置を行う術具と、前記術具に対して着脱自在なスレーブアームとを備え、前記駆動部材、前記第一位置検出手段、および前記第二位置検出手段が、前記スレーブアームに設けられていることが好ましい。
また、本発明の手術支援装置は、前記第一位置検出手段によって検出された移動量に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて予め設定された閾値を参照し、前記差分長さが前記閾値以下である場合に、前記術具が故障しているものと判定してもよい。
また、本発明の手術支援装置は、前記手術支援装置を支持する関節ロボットに対して着脱可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の手術支援装置は、安全に動作させることができ、且つ構成が簡素である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の手術支援装置を備える手術支援システムの全体図である。
【図2】手術支援装置の模式図である。
【図3】マニピュレータ制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】マニピュレータ制御部に設けられた過負荷故障検出部の構成を詳細に示すブロック図である。
【図5】手術支援システムの動作時における手術支援装置の動作の一部を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態の手術支援装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】手術支援装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態の手術支援装置を示す模式図である。
【図9】本発明の手術支援装置の他の構成例を示す模式図である。
【図10】本発明の手術支援装置の他の構成例を示す模式図である。
【図11】本発明の手術支援装置の他の構成例を示す模式図である。
【図12】本発明の手術支援装置の他の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の手術支援装置について説明する。図1は、手術支援装置を備える手術支援システムの全体図である。図2は、手術支援装置の模式図である。図3は、マニピュレータ制御部の構成を示すブロック図である。図4は、マニピュレータ制御部に設けられた過負荷故障検出部の構成を詳細に示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の手術支援装置1は、マスタスレーブ方式の手術支援システム100に好適に適用できるものである。手術支援システム100は、マスタ操作入力装置101と、スレーブマニピュレータ104と、マスタ側制御装置106と、スレーブ側制御装置119とを備える。
【0020】
マスタ操作入力装置101は、術者の操作の動きをスレーブマニピュレータ104に伝達するマスタとして機能するものであって、マスタ表示部102と、操作部103とを備える。
【0021】
マスタ表示部102は、図示しないカメラによって撮影される患者の術部及びその近傍の映像を表示するものである。マスタ表示部102としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの公知のディスプレイ装置を適宜選択して採用することができる。
【0022】
操作部103は、術者の操作の動きをスレーブマニピュレータ104に伝達するためのものであり、マスタ側制御装置106と通信可能に接続されている。また操作部103は、術者がマスタ表示部102を見ながら操作できるようにマスタ表示部102の前側に配置されている。術者によって操作部103が操作されると、操作部103は、操作の動きを解析し、スレーブマニピュレータ104を駆動させるための操作信号をマスタ側制御装置106に出力する。
【0023】
スレーブマニピュレータ104は、複数の手術支援装置1と、各手術支援装置1を動作させる関節ロボット105とを備える。なお、スレーブマニピュレータ104に備えられる手術支援装置1が1つだけであっても構わない。
【0024】
各手術支援装置1及び各関節ロボット105は、それぞれスレーブ側制御装置119の制御対象である複数の可動部を有し、スレーブ側制御装置119から出力される制御信号に基づいてそれぞれの動作が制御される。
【0025】
図2に示すように、手術支援装置1は、術具2と、スレーブアーム8と、マスタ側制御装置106内に設けられた過負荷故障検出部110(図3参照)とを備える。
本実施形態では、手術支援装置1は、全体として細長い軸状に設けられ、使用時には一端側が患者へと向けられる。このため、以下では、手術支援装置1の各部材において手術支援装置1の軸方向の相対位置を表す場合に、特に断らない限りは、使用時に患者に向けられるほうを先端側、これと反対のほうを基端側と称する。
【0026】
術具2は、外科手術において体内や術部の近傍で種々の作業に用いる公知の外科用手術具を採用することができ、スレーブアーム8に対して着脱できるようになっている。また、術具2は、可動部を有していてもよいし、可動部を有しないものでもよい。また、術具2に可動部が設けられている場合、当該可動部は、患者や他の術具2に直接触れて作動する作動部でもよいし、単に術部内の可動機構でもよい。
術具2の具体例としては、例えば、持針器、ハサミ、電気メス、超音波処置具等の処置具、鉗子などを挙げることができる。
【0027】
以下では、一例として、術具2が術部や他の術具2を把持する術具2の場合の例で説明する。
なお、術具2は、スレーブアーム8と一体に設けられていてもよい。
術具2は、患者に向けられる先端側から、スレーブアーム8に接続される基端側に向かって、把持部3、駆動リンク5、及び被駆動部6をこの順に備える。駆動リンク5及び被駆動部6は、筒状の術具筐体7の内部に収容されている。
【0028】
把持部3は、例えば、開閉可能に設けられた把持アーム4を有し、把持アーム4が閉じられるときに把持アーム4の間に被把持物を挟んで把持するものである。
駆動リンク5は、把持部3を開閉させるリンク機構である。
【0029】
被駆動部6は、スレーブアーム8に術具2が連結された際に、スレーブアーム8内に設けられた後述する駆動ロッド11から伝達される駆動力によって、駆動リンク5の原節を術具筐体7の軸方向に進退させる棒状部材である。
被駆動部6の一端は駆動リンク5の原節に連結されている。また、被駆動部6の他端には、駆動ロッド11と被駆動部6とを連結するための連結部6aが設けられている。また、被駆動部6は、使用時に、後述する駆動ロッド11から伝達される駆動力によって圧縮や引張りが作用しても座屈することなく、また伸縮量も小さくなるように、例えば金属などの高剛性材料によって形成されている。
【0030】
スレーブアーム8は、術具2を保持する装置本体を構成するもので、筒状のアーム筐体9を備える。アーム筐体9の軸方向の一端側には、術具2の術具筐体7の基端側と嵌合する嵌合部10が設けられている。また、アーム筐体9の外周部は、関節ロボット105の端部に連結されている。このため、関節ロボット105を駆動させることにより、関節ロボット105の自由度に応じて、スレーブアーム8の位置や姿勢を変更することができる。
【0031】
本実施形態では、スレーブアーム8の内部に、駆動ロッド11(駆動部材)、リニアエンコーダ13、直動機構16、モーター19、エンコーダ20が設けられている。
駆動ロッド11は、軸状に形成されており、術具2へと駆動力を伝達するために移動される部材である。駆動ロッド11の先端側の端部である軸方向の一端部には、被駆動部6の連結部6aと着脱可能に連結する連結部12が設けられている。また、駆動ロッド11の基端側の端部である軸方向の他端部は、駆動ロッド11を軸方向に進退させる直動機構16及びモーター19を介してスレーブアーム8の基端側に支持されている。
また、駆動ロッド11の連結部12は、術具2との着脱時においては、嵌合部10の内部に位置付けられる。
【0032】
なお、連結部12の構成は、図2では模式的にかかれており、互いに着脱可能であって被駆動部6と駆動ロッド11とが軸方向のがたつきなく連結できれば、特に限定されない。例えば、凹凸嵌合して軸方向に着脱する構成でもよいし、雌ねじ部と雄ねじ部とで螺合する構成でもよい。
【0033】
また、駆動ロッド11の基端部は、本実施形態では、直動機構16の後述する直動ブロック18に連結されている。連結形態としては、例えば、駆動ブロックが直動ブロック18にねじ込まれて連結される形態や、駆動ブロックが直動ブロック18に圧入される形態、その他、かしめ、溶接、連結金具を用いたねじ止め等の種々の形態を採用することができる。このような連結形態では、駆動ロッド11の基端部は、ある程度の長さにわたり、直動ブロック18等によって拘束される。以下では、駆動ロッド11の基端という場合、直動ブロック18等によって拘束されることなく伸縮できる最も基端側の位置を意味するものとする。たとえば、駆動ロッド11が直動ブロック18から突出した部分において最も基端側の位置を駆動ロッド11の基端と称する。
【0034】
駆動ロッド11の材質は、少なくとも軸方向に弾性変形する材料からなる。さらに、駆動ロッド11は、使用時に被駆動部6からの反作用や直動機構16から受ける駆動力によって圧縮や引張りが作用しても、座屈したり、塑性変形したりすることがない形状とされている。例えば、駆動ロッド11の材質として、ステンレス鋼などの金属材料を好適に採用することができる。
【0035】
駆動ロッド11の軸方向の伸縮量は、リニアエンコーダ13の分解能で伸縮の変化が精度よく測定できる程度になっていればよい。すなわち、リニアエンコーダ13の分解能が高ければ、駆動ロッド11の軸方向の伸縮量は小さくてもよく、駆動ロッド11による駆動力の伝達ロスを低減することができる。
【0036】
また本実施形態では、駆動ロッド11の軸直角断面の形状は、連結部12を除いて均一とされている。このため、駆動ロッド11の軸方向に向く方向へ駆動ロッド11の両端部に力が作用すると、駆動ロッド11は軸方向に沿って均一に弾性変形するようになっている。なお、駆動ロッド11の軸直角断面の形状は特に限定されない。例えば、駆動ロッド11の軸直角断面は、円形や多角形とすることができる。また、駆動ロッド11の軸直角断面は、中実断面であっても中空部を有する断面であってもよい。
このような構成により、駆動ロッド11は、術具2とスレーブアーム8との間で、軸方向に力伝達を行うことができる。
【0037】
リニアエンコーダ13は、駆動ロッド11上で軸方向に離間した二点のうち先端側の点の変位を検出する第一位置検出手段である。リニアエンコーダ13は、変位量を検出するためのパターンが形成されたスケール部14と、スケール部14との間の相対変位量を検出する検出部15とを備える。
リニアエンコーダ13は、増分形でも絶対値形でもよいが、本実施形態では増分形であるとして説明する。
【0038】
また、リニアエンコーダ13の検出方式は、駆動ロッド11の変位を精度よく検出できる分解能を有していれば、特に限定されない。例えば、光学式や磁気式のリニアエンコーダ13を採用することができる。特に、LED光源を用いた光学式リニアエンコーダは、スケール部のパターンピッチを微細化することで高分解能が得られるので、特に好適である。
【0039】
本実施形態のリニアエンコーダ13は、光学式が採用されている。好適な光学式リニアエンコーダの例としては、例えば、マイクロリニアエンコーダML−08/1000GA(商品名:キヤノン株式会社製)を挙げることができる。この製品では、スケール部の格子ピッチを1.6μmとして、分割数を1000とすることで、0.8nmの分解能を得ることができる。
リニアエンコーダ13は、スレーブアーム8のアーム筐体9に対する駆動ロッド11の変位を測定するものである。このため、駆動ロッド11及びアーム筐体9の何れか一方にスケール部14が設けられている場合には、駆動ロッド11及びアーム筐体9の何れか他方に検出部15が設けられている。
【0040】
本実施形態では、スケール部14は、連結部12の基端側の近傍となる駆動ロッド11の側面に固定されている。駆動ロッド11は、被駆動部6が可動範囲を移動した場合に、当該移動と連動して移動するので、スケール部14も駆動ロッド11とともに移動する。
スケール部14の軸方向の長さは、駆動ロッド11が連結される被駆動部6の使用時の最大可動範囲よりも長く設定されている。これにより、被駆動部6の可動範囲のどこに被駆動部6が移動されても、被駆動部6の移動を検出することができる。
【0041】
検出部15は、被駆動部6の可動範囲内で被駆動部6が移動してもスケール部14と常に対向する位置に固定されている。検出部15は、スケール部14に形成されたパターンの移動量を検出する。また、検出部15は、スレーブ側制御装置119と電気的に接続されており、スケール部14の変位に応じたパルス信号をスレーブ側制御装置119に出力できるようになっている。
【0042】
直動機構16は、ボールねじ方式の機構が採用されている。具体的には、直動機構16は、アーム筐体9の軸方向と平行に中心軸線が延びるボールスクリュー17と、ボールスクリュー17と螺合された直動ブロック18とを備える。
ボールスクリュー17の基端側の端部は、モータ回転軸と、回転ジョイントとを介してモーター19に連結されている。したがって、ボールスクリュー17は、モーター19が回転されると、モーター19の回転力によって中心軸線回りに回転動作する。
【0043】
直動ブロック18は、スレーブアーム8の内部に設けられた図示しない直動ガイド部材によって、アーム筐体9の軸方向に沿って移動可能にガイドされる。直動ブロック18には、駆動ロッド11の基端側の端部が連結されている。このため、モーター19を駆動させてボールスクリュー17を回転させると、直動ブロック18がボールスクリュー17に沿って進退される。これにより、直動ブロック18に連結された駆動ロッド11は、直動ブロック18によってボールスクリュー17の中心軸方向へ進退される。
【0044】
モーター19は、直動機構16のボールスクリュー17を回転駆動させるもので、アーム筐体9の基端部の内部に設けられた固定部材(不図示)に固定されている。また、モーター19は、スレーブ側制御装置119に電気的に接続され、スレーブ側制御装置119からの制御信号に応じた回転角の回転を行うことができる。
また、モーター19には、上述のエンコーダ20が接続されており、エンコーダ20によって、回転軸の回転角を検出することができる。本実施形態では、回転軸とボールスクリュー17とは回転ジョイントで直結されている。このため、エンコーダ20が検出する回転角は、ボールスクリュー17の回転角と一致する。
【0045】
エンコーダ20は、スレーブ側制御装置119に電気的に接続されている。エンコーダ20は、検出した回転角の情報をスレーブ側制御装置119に出力する。
スレーブ側制御装置119へ出力される回転角の情報は、スレーブ側制御装置119によってモーター19の回転動作を制御するために使用される。すなわち、モーター19とスレーブ側制御装置119とにより、モーター19に対するサーボ機構が構成されている。
【0046】
エンコーダ20が検出する回転軸の回転角は、例えばボールスクリュー17の送りピッチを用いて直動ブロック18の移動量に換算することができる。つまり、エンコーダ20は、進退駆動の駆動量を検出する駆動量検出器を成している。直動ブロック18の移動量は、直動ブロック18に連結された駆動ロッド11の基端の点の変位を表している。
したがって、エンコーダ20は、駆動ロッド11上で軸方向に離間した二点のうち基端側の点の変位を検出する第二位置検出手段を構成している。
このような構成により、直動ブロック18とモーター19とは、駆動ロッド11の基端部を軸方向に進退させる駆動部を構成している。
【0047】
図3に示すように、マスタ側制御装置106は、マスタ制御部107と、マニピュレータ制御部108とを備える。
マスタ制御部107は、マスタ操作入力装置101(図1参照)から出力される操作信号を受信し、この操作信号に基づいた動作を実現するためのスレーブマニピュレータ104の制御対象となる可動部の駆動量を解析する。さらに、マスタ制御部107は、操作信号に基づいて、制御対象となる可動部を選択する可動部選択信号と、可動部選択信号で選択される可動部への指示値とをマニピュレータ制御部108へ出力する。
【0048】
マニピュレータ制御部108は、マニピュレータ制御入力部109と、過負荷故障検出部110と、マニピュレータ制御出力部117と、アーム動作情報検出部118とを備える。
【0049】
マニピュレータ制御入力部109には、マスタ制御部107から可動部選択信号及び指示値が入力される。また、マニピュレータ制御入力部109は、マスタ操作入力装置101に対して、過負荷故障検出部110から発せられる後述の通知信号を出力するようになっている。
【0050】
図4に示すように、過負荷故障検出部110は、第一基準量算出部111と、第二基準量算出部112と、差分算出部113と、故障検出部114と、作動力演算部115と、記憶部116とを備える。
【0051】
第一基準量算出部111は、リニアエンコーダ13と電気的に接続され、リニアエンコーダ13の出力から駆動ロッド11上で軸方向に離間した二点のうち先端側の点の変位ΔX1(図2参照)を検出する。第一基準量算出部111によって検出された変位ΔX1は、第一基準量算出部111から、故障検出部114及び差分算出部113へ出力される。なお、変位ΔX1の正負は、本実施形態では、基端側から先端側へ向かう方向を正とする。
【0052】
変位ΔX1を検出する際の原点の位置は、手術支援システム100の起動時若しくは術具2に対して負荷がかかっていない状態において決定される。上記原点の設定時には、リニアエンコーダ13によって、検出部15に固有の検出位置に配置されたスケール部14上の点の変位ΔX1を、この点の移動に伴って発生する検出位置での通過パターンを読み取ることで検出する。検出位置は、例えば、検出部15が光学式の場合にはスケール部14に対する検出光の照射位置である。スケール部14は、駆動ロッド11の全長に比べて十分短く且つ変形を起こし難い材質で形成されており、スケール部14の伸縮は無視することができる。従って、リニアエンコーダ13は、スケール部14が検出する変位ΔX1を、スケール部14上の各位置で一定と見なすことができる。
【0053】
第二基準量算出部112は、エンコーダ20と電気的に接続され、エンコーダ20の出力から駆動ロッド11上で軸方向に離間した二点のうち基端側の点の変位ΔX2(図2参照)を故障検出部114及び差分算出部113へ出力するものである。
【0054】
第二基準量算出部112には、エンコーダ20から出力されたボールスクリュー17の回転角の情報が入力される。ボールスクリュー17の回転角と直動ブロック18の移動量との間には、装置ごとに異なる機械的な誤差が存在する。そこで、本実施形態では、このような装置固有の移動誤差を補正するために、ボールスクリュー17の回転角と、上記基端側の点の移動位置との対応関係が予め実測してあり、記憶部116に記憶されている。第二基準量算出部112は、エンコーダ20から出力された値と、記憶部116に記憶された対応関係とを用いて、変位を算出するようになっている。
【0055】
これにより、第二基準量算出部112は、直動ブロック18の変位を算出することができる。直動ブロック18の変位は、直動ブロック18に連結された駆動ロッド11の基端の点の変位ΔX2に等しいので、第二基準量算出部112は、基端の点の変位ΔX2を検出することができる。
なお、第二基準量算出部112は、ボーススクリューのリードの大きさから、ボールスクリュー17の回転角をねじ送り量に換算するようになっていてもよい。
【0056】
差分算出部113は、第一基準量算出部111から出力された点の変位ΔX1と、第二基準量算出部112から出力された点の変位ΔX2とを、それぞれ、スレーブアーム8に連結された術具2の無負荷時の点の位置を基準とする変位に換算する。さらに、差分算出部113は、これらの差分を算出し、記憶部116に記憶させるとともに作動力演算部115へ出力する。
【0057】
故障検出部114は、スレーブアーム8を動作させるためにマスタ制御部107から出力される指示値と、第一基準量算出部111および第二基準量算出部112によって算出された変位ΔX1,ΔX2とをそれぞれ比較する。また、記憶部116には、第一基準量算出部111によって算出された変位ΔX1と上記指示値との差の許容限度を示す閾値と、第二基準量算出部112によって算出された変位ΔX2と上記指示値との差の許容限度を示す閾値とが記憶されている。故障検出部114は、これらの閾値を利用して、エンコーダ20およびリニアエンコーダ13が故障しているか否かを判定するようになっている。
【0058】
すなわち、第一基準量算出部111によって算出された変位ΔX1から指示値を引いた差分が閾値を超えている場合には、リニアエンコーダ13が故障していると判定する。また、第二基準量算出部112によって算出された変位ΔX2から指示値を引いた差分が閾値を超えている場合には、エンコーダ20が故障していると判定する。
【0059】
故障検出部114は、リニアエンコーダ13が故障していることとエンコーダ20が故障していることとを、それぞれマニピュレータ制御出力部117へ出力する。なお、故障検出部114は、リニアエンコーダ13が故障していることとエンコーダ20が故障していることとを、それぞれ通知信号としてマニピュレータ制御入力部109へフィードバックすることができる。
【0060】
作動力演算部115は、差分算出部113から出力された差分から、術具2又は直動ブロック18を介してスレーブアーム8から駆動ロッド11が受ける力の大きさを検出する。作動力演算部115は、適正負荷の上限値以上の力が手術支援装置1にかかっていると判定した場合に、過負荷であると判定する。作動力演算部115において過負荷であると判定した場合には、マニピュレータ制御出力部117からの出力を制限するための制御をマニピュレータ制御出力部117に対して行なう。また、作動力演算部115は、過負荷であることを示す情報を表示するための信号等をマスタ表示部102へ出力し、過負荷であることを操作者に認識させるための画像等をマスタ表示部102に表示させる。
【0061】
記憶部116は、第二基準量算出部112、差分算出部113、作動力算出部と電気的に接続され、過負荷故障検出部110で行う演算処理に必要となるデータを記憶しておくものである。記憶部116に記憶されるデータとしては、上記に説明したように、例えば、エンコーダ20の回転角とボールスクリュー17による点の移動位置との対応関係を表すデータや、手術支援装置1における適正負荷の大きさの上限値などを挙げることができる。
【0062】
過負荷故障検出部110の装置構成は、上記機能を有するハードウェアのみで構成してもよい。また、過負荷故障検出部110の装置構成は、CPU、メモリ、入出力インターフェース、外部記憶装置などからなるコンピュータ及び当該コンピュータ上で動作するプログラムを備えた構成であってもよい。
【0063】
マニピュレータ制御出力部117は、スレーブ側制御装置119と電気的に接続されており、スレーブマニピュレータ104を動作させるための信号をスレーブ側制御装置119へ出力する。
【0064】
アーム動作情報検出部118は、スレーブマニピュレータ104に設けられたスレーブアーム8や関節ロボット105の位置情報を取得するものである。本実施形態では、アーム動作情報検出部118は、リニアエンコーダ13及びエンコーダ20による出力を検出して、過負荷故障検出部110へと出力する。
【0065】
スレーブ側制御装置119は、マスタ側制御装置106およびスレーブマニピュレータ104に電気的に接続されている。スレーブ側制御装置119は、マニピュレータ制御出力部117から出力された信号に基づいて、例えばスレーブアーム8に配されたモーター19を駆動させるための信号を生成してモーター19へと出力する。これにより、スレーブ側制御装置119は、モーター19を用いて術具2を動作させることができる。
【0066】
次に、手術支援装置1の作用について、手術支援システム100の使用時の動作とともに説明する。図5は、手術支援システムの動作時における手術支援装置の動作の一部を示すフローチャートである。
手術支援装置1は、スレーブアーム8に術具2が取り付けられた状態で、スレーブマニピュレータ104にセットされる。術具2とスレーブアーム8とが連結された状態で手術支援システム100が起動されると、手術支援装置1の初期化が行なわれる。このとき、リニアエンコーダ13とエンコーダ20のそれぞれの原点がリセットされ、以降の動作ではこの位置が変位0(ΔX1=0、ΔX2=0)の位置となる。
【0067】
初期化時に術具2が無負荷状態であれば、リセットすることによって決まった原点の位置が、無負荷時の変位の基準となる。なお、初期化時に術具2に負荷がかかっている状態でリセットされた場合には、リセットすることによって決まった原点の位置は、初期化時にかかっていた負荷と同一の負荷がかかっているときの変位の基準となる。本実施形態では、初期化時には、術具2を無負荷状態としておくことが好ましい。
また、関節ロボット105は予め設定された初期化時の位置に移動される。
【0068】
次に、術者は、マスタ操作入力装置101のマスタ表示部102の映像を見ながら、操作部103を操作する。操作部103は術者による操作の動きを解析し、スレーブマニピュレータ104を駆動するための操作信号をマスタ側制御装置106に送出する。
【0069】
マスタ側制御装置106では、操作信号に基づいて、マスタ制御部107からスレーブマニピュレータ104の各可動部の動作を制御する可動部選択信号および指示値がマニピュレータ制御部108に送出される。可動部選択信号および指示値に基づいて、マニピュレータ制御部108からスレーブ側制御装置119へと制御信号が送出される。
【0070】
例えば、手術支援装置1の術具2に設けられた把持部3を開放し、関節ロボット105によって被把持物を把持する位置に把持部3を移動させて、把持部3を閉じて被把持物を把持する、といった動作を行う制御信号が送出される。
これにより、手術支援装置1のモーター19が駆動され、直動ブロック18が先端側に移動し、駆動ロッド11を介して被駆動部6が先端側に移動され、駆動リンク5によって把持部3が開放される。
【0071】
被把持物を把持する際は、モーター19を逆回転させて直動ブロック18を基端側に移動する。
モーター19を動作させたときの術具2の動作は、リニアエンコーダ13あるいはエンコーダ20からの出力によって検出される。
【0072】
このような駆動動作と並行して、過負荷故障検出部110は、リニアエンコーダ13およびエンコーダ20によって取得される駆動ロッド11上の点の変位量に基づいて駆動ロッド11に作用する力を逐次算出し、リニアエンコーダ13やエンコーダ20の故障判定をする。
【0073】
まず、過負荷故障検出部110による力検出(図5に示すステップS1)について説明する。
モーター19が駆動されると、リニアエンコーダ13からの出力Xおよびエンコーダ20からの出力Xが、それぞれ第一基準量算出部111および第二基準量算出部112に逐次入力される。第一基準量算出部111および第二基準量算出部112は、これらの出力信号に基づいて、それぞれの変位ΔX1、ΔX2を差分算出部113に出力する。差分算出部113において算出された差分(X−X)は、作動力演算部115へ出力される。
【0074】
作動力演算部115は、差分算出部113によって算出された差分に基づいて、駆動ロッド11にかかる力の大きさを算出する。さらに、作動力演算部115は、駆動ロッド11にかかる力の大きさと、記憶部116に記憶された適正負荷の上限値(図5に示す閾値tMAX)とを比較する。力の大きさが適正負荷の上限値以上であった場合には、作動力演算部115は、手術支援装置1が過負荷状態で動作していると判定する。過負荷状態であると判定した作動力演算部115は、過負荷である旨の警告をマスタ表示部102に表示するための信号をマスタ表示部102へ出力する。また、マニピュレータ制御出力部117に対して、手術支援装置1を作動させるための駆動力を制限する制御を行なってもよい。これにより、手術支援装置1は、適正負荷の上限未満の範囲内で動作する。
【0075】
ところで、本実施形態の手術支援システム100は、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とがともに設けられていることにより、術具2の動作量を検出するための手段が二重化されている。これにより、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との何れか一方が故障しても、術具2を動作させることができる。本実施形態では、リニアエンコーダ13やエンコーダ20が故障した場合には、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのうち故障している方を特定し、故障していない方を用いて動作を継続することができる。
【0076】
リニアエンコーダ13やエンコーダ20が故障した場合には、リニアエンコーダ13やエンコーダ20からの出力はそれぞれ停止する。
故障検出部114は、エンコーダ20の故障判定(図5に示すステップS2)と、リニアエンコーダの故障判定(図5に示すステップS3)を行なう。
ステップS2では、エンコーダ20が故障している場合には、指示値Xrefからエンコーダ20からの出力Xを引いた差分が故障判定のための閾値tMAXを超えるので、ステップS4へ進む。
また、ステップS3では、リニアエンコーダ13が故障している場合には、指示値Xrefからリニアエンコーダ13からの出力Xを引いた差分は閾値tMAXを超えるので、ステップS6へ進む。
【0077】
このように、上記ステップS2,S3によって、エンコーダ20とリニアエンコーダ13とのそれぞれの故障判定をすることができる。
【0078】
また、故障検出部114は、エンコーダ20が故障していると判定した場合には、エンコーダ20が故障している旨をマスタ表示部102に表示させる(図5に示すステップS4)。さらに、故障検出部114はエンコーダ20の出力を無視し、リニアエンコーダ13の出力値を用いて手術支援装置1の動作を継続させる。すなわち、正常に動作しているリニアエンコーダ13からの出力を用いて位置検出を行って、手術支援装置1を安全に退避させて手術支援装置1を停止させる(図5に示すステップS5)。
【0079】
逆に、リニアエンコーダ13が故障していると故障検出部114が判定した場合には、リニアエンコーダ13が故障している旨をマスタ表示部に表示させる(図5に示すステップS6)。さらに、故障検出部114は、リニアエンコーダ13からの出力を無視することにより、正常に動作しているエンコーダ20からの出力を用いて位置検出を行う。すなわち、正常に動作しているエンコーダ20からの出力を用いて位置検出を行って、手術支援装置1を安全に退避させて手術支援装置1を停止させる(図5に示すステップS7)。
【0080】
このように、本実施形態の手術支援装置1では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのうちどちらが故障しているのかを特定することができる。そして、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との一方が故障した後、正常動作している方からの情報を用いて術具2を動作させることができる。
【0081】
なお、故障した手術支援装置1と同様の術具2が取り付けられた別の手術支援装置1がスレーブマニピュレータ104に存在していれば、代替となる手術支援装置1が設けられている旨をマスタ表示部102に表示させてもよい。
【0082】
また、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との両方が故障したと判定された場合には、モーター19の動作を含むスレーブマニピュレータ104の動作を全て停止させてもよい。その後、操作者による手作業等によってスレーブマニピュレータ104を安全に退避させることもできる。
【0083】
なお、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との何れか一方が故障したと判定された場合にスレーブマニピュレータ104の動作を全て停止させてもよい。このとき、駆動ロッド11の動作も停止されるので、術具2の位置及び姿勢は固定される。
【0084】
以上説明したように、本実施形態の手術支援装置1によれば、変位を検出するリニアエンコーダ13及びエンコーダ20を用いて力検出を行うことができ、モーター19から駆動ロッド11にかかる力の大きさと駆動ロッド11の伸びとの対応関係を用いて、モーター19に対して出力された指示値に対応する駆動ロッド11の伸びが検出されない場合には、リニアエンコーダ13やエンコーダ20が故障していると判定できる。このため、手術支援装置1を安全に動作させることができ、且つ、構成を簡素にすることができる。
【0085】
さらに、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのうち故障している方を特定することができるので、故障していない方を用いて位置検出を継続することができる。このため、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との何れか一方が正常動作していれば、手術支援装置1を、モーター19を動作させることによって安全に退避させることができる。
【0086】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の手術支援装置1について説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態の手術支援装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略する。図6は、本実施形態の手術支援装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【0087】
本実施形態では、故障検出部114による故障検出方法が異なっている。
本実施形態では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とから出力される値を比較することにより、駆動ロッド11の伸縮量を検出するようになっている。すなわち、本実施形態では、モーター19を駆動させるための指示値は、リニアエンコーダ13及びエンコーダ20の故障判定に使用しない。
【0088】
故障検出部114は、第一基準量算出部111によって算出された変位ΔX1と、第二基準量算出部112によって算出された変位ΔX2を比較し、その差分を算出する。さらに、記憶部116には、差分の閾値ΔlMAXが記憶されている。故障検出部114によって算出された差分が記憶部116に記憶された閾値ΔlMAX以上の場合には、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との何れか一方が故障していると故障検出部114が判定する(図6に示すステップS11)。
【0089】
本実施形態では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのいずれかが故障していると判定されたときには、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのうち故障している方を特定することなく、スレーブマニピュレータ104の全ての動作を停止させる(図6に示すステップS12)。
このような故障検出方法であっても、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。
また、本実施形態では、駆動ロッド11の伸縮量のみを用いて故障判定を行なうことができるので、構成をさらに簡素にすることができる。
【0090】
また、一般的に、位置制御を行うマニピュレータにおいては、駆動軸に負荷が生じたり、指令位置の急速な変化が生じたりした際には、一時的に指令位置と検出位置の偏差が増加する場合がある。本実施形態では、第一基準量算出部111によって算出された変位ΔX1と第二基準量算出部112によって算出された変位ΔX2との差によって故障判定を行なっている。これにより、上記偏差の増加による故障の誤検出を低く抑えることができる。
【0091】
(変形例1)
上述の第2実施形態では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのどちらが故障しているかを特定しない例を示したが、故障している方を特定してもよい。
本変形例では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのどちらが故障しているかを特定するために、マスタ制御部107からスレーブアーム8へ出力される指示値Xrefに対応する駆動ロッド11の伸縮量に基づいて予め決定された閾値tMAXを用いる。
【0092】
指示値Xrefからエンコーダ20からの出力Xを引いた差分が閾値tMAX以上の場合には、エンコーダ20が故障していると故障検出部114が判定し、ステップS14へ移行する(図7に示すステップS13)。
また、指示値Xrefからエンコーダ20からの出力Xを引いた差分が閾値tMAXを下回っている場合には、エンコーダ20は故障していないと故障検出部114に判定される(図7に示すステップS13)。上記ステップS11からステップS13へ移行した場合には、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との何れかが故障しているから、この場合、リニアエンコーダ13が故障していることになる。ステップS13においてエンコーダ20は故障していないと故障検出部114に判定された場合には、ステップS16へ移行する。
【0093】
リニアエンコーダ13またはエンコーダ20が故障していると判定されたら、上記第1実施形態と同様に、各エンコーダ13,20の故障をマスタ表示部102に表示させる(図7に示すステップS14,S16)。その後、リニアエンコーダ13またはエンコーダ20のうち正常動作している方の出力値を用いて手術支援装置1を安全に退避させる(図7に示すステップS15,S17)。
【0094】
このように、本変形例では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのどちらが故障しているかを特定することができる。このため、第1実施形態と同様に、リニアエンコーダ13とエンコーダ20とのうち故障していない方を用いて手術支援装置1を安全に退避させることができる。
【0095】
(変形例2)
上述の変形例1では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との少なくとも何れかが故障していると判定されている状態でエンコーダ20の故障判定のみを行なっている。これに対して、本変形例では、リニアエンコーダ13とエンコーダ20との少なくとも何れかが故障していると判定されている状態において、リニアエンコーダ13の故障判定とエンコーダ20の故障判定を両方行なってもよい。本変形例におけるリニアエンコーダ13の故障判定は、エンコーダ20の故障判定と同様の方法にて行なうことができる。
【0096】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の手術支援装置について説明する。図8は、本実施形態の手術支援装置を示す模式図である。
本実施形態の手術支援装置1Aは、手術支援システム100の一部ではなく、操作者が手に持って使用する装置である。
【0097】
図8に示すように、手術支援装置1Aは、術具2と、スレーブアーム8に代えて設けられた操作部30とを備える。
操作部30は、第1実施形態で説明したスレーブアーム8とは形状が異なり、操作者が把持するグリップ31と、上述の過負荷故障検出部110とを備える。
【0098】
グリップ31には、モーター19に対して指示値を出力するためのレバースイッチ32が設けられている。レバースイッチ32を動作させることによって、モーター19の回転方向、回転速度、回転量を指示することができる。
【0099】
また、操作部30には、過負荷故障検出部110と電気的に接続されたステータスモニタ33が設けられている。過負荷故障検出部110は、過負荷状態であることや、リニアエンコーダ13やエンコーダ20が故障したことをステータスモニタ33表示することができるようになっている。
【0100】
本実施形態の手術支援装置1Aも、上述の第1実施形態及び第2実施形態で説明した手術支援装置1と同様の効果を奏する。また、本実施形態の手術支援装置1Aでは、力検出を行うための力センサを備える必要がないので、手術支援装置1Aを軽量にすることができる。操作者が手に持って操作する手術支援装置1Aを軽量にすることができるので、操作者の負担を軽減することができる。
【0101】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の手術支援装置について説明する。本実施形態の手術支援装置の形状は、第1実施形態の手術支援装置1と同様の形状の装置である(図2参照)。
手術支援装置1は、把持アーム4の各把持片を開閉させるために駆動ロッド11が直線移動される。手術支援装置1の基端側への駆動ロッド11の移動量がある規定値を超えると、把持アーム4の各把持片は閉じた状態となる。各把持片が閉じている状態では各把持片はそれ以上閉じる方向へ移動されないので、駆動ロッド11が牽引される力により駆動ロッド11は伸びる。ここで、例えば上記規定値を超えても駆動ロッド11の伸びが検出されない場合には、リニアエンコーダ13よりも先端側に配された術具2において、駆動リンク5や被駆動部6が破断するなど、動力が正しく伝達できなくなる不具合が生じていると判定することができる。
【0102】
したがって、リニアエンコーダ13及びエンコーダ20を用いて検出された駆動ロッド11の移動量に対応する駆動ロッド11の伸縮量に基づいて、正常に動作している場合に構造上発生するはずの駆動ロッド11の伸び量を閾値として予め設定しておくことにより、当該閾値との比較によって容易に術具2の不具合を検出することができる。
【0103】
この例では、リニアエンコーダ13によって検出された移動量とエンコーダ20によって検出された移動量との差分長さが閾値以下である場合に、術具2に故障等の不具合が生じていると判定される。これにより、リニアエンコーダ13やエンコーダ20などスレーブアーム8側の故障だけでなく、術具2側の故障も判定することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
たとえば、上述の実施形態では、第一位置検出手段としてリニアエンコーダ13を駆動ロッド11に対して設け、第二位置検出手段としてエンコーダ20をモータ19に対して設けていたが、第一位置検出手段と第二位置検出手段との配置位置はこれに限られない。
【0105】
図9ないし図12は、本発明の他の構成例を示す模式図である。例を挙げると、図9に示すように、第一位置検出手段40を被駆動部6に設けてもよい。また、図10に示すように、第一位置検出手段40および第二位置検出手段50をともに駆動ロッド11に設けてもよい。また、図11に示すように、第一位置検出手段40を被駆動部6に設け、第二位置検出手段50を駆動ロッド11に設けてもよい。また、図12に示すように、第一位置検出手段40と第二位置検出手段50とをともに被駆動部6に設けてもよい。図9ないし図12には、第一位置検出手段40と第二位置検出手段50とが、第1実施形態で説明したリニアエンコーダー13と同型のリニアエンコーダを備えている例が図示されている。また、第一位置検出手段40及び第二位置検出手段50は、どのような方式で位置を検出するものであってもよい。
また、上述の実施形態では駆動ロッド11と被駆動部6とが着脱可能に連結される例を示したが、駆動ロッドと被駆動部とは一体のものであってもよい。
【0106】
また、上述の第1実施形態では、手術支援システムの初期化時に、術具を無負荷状態としておく例を示したが、手術支援システムの初期化時に術具に負荷をかけておく場合もある。例えば、術具が鉗子を有している場合、初期化時には鉗子を確実に閉じた状態としておきたい場合がある。この場合には、鉗子を構成する一対の鉗子片同士が互いに密着するようにある程度の負荷をかける必要がある。このように初期化時に術具に負荷をかける場合には、術具ごとに、初期化時と無負荷時との駆動状態を定義し、初期化時の原点を基準としたときに無負荷時の変位を実測しておけばよい。
【0107】
また、上述の各実施形態では、2種類のエンコーダを使用して力検出を行う例を示したが、各エンコーダの種類は特に限定されない。例えば、リニアエンコーダを2つ使用してもよいし、リニアエンコーダとロータリーエンコーダとの組み合わせでもよい。
【0108】
また、上述の各実施形態で説明した過負荷や故障の判定方法は、手術支援システムの他の部分に対しても適用することができる。例えば、関節ロボット105の過負荷判定や故障判定にも本発明を好適に適用できる。
【0109】
また、上述の各実施形態及び各変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【符号の説明】
【0110】
1,1A手術支援装置
2 術具
3 把持部
4 把持アーム
5 駆動リンク
6 被駆動部
6a 連結部
7 術具筐体
8 スレーブアーム
9 アーム筐体
10 嵌合部
11 駆動ロッド(駆動部材)
12 連結部
13 リニアエンコーダ(第一位置検出手段)
14 スケール部
15 検出部
16 直動機構
17 ボールスクリュー
18 直動ブロック
19 モーター
20 エンコーダ(第二位置検出手段)
30 操作部
31 グリップ
32 レバースイッチ
33 ステータスモニタ
100 手術支援システム
101 操作入力装置
102 マスタ表示部
103 操作部
104 スレーブマニピュレータ
105 関節ロボット
106 マスタ側制御装置
107 マスタ制御部
108 マニピュレータ制御部
109 マニピュレータ制御入力部
110 過負荷故障検出部
111 第一基準量算出部
112 第二基準量算出部
113 差分算出部
114 故障検出部
115 作動力演算部
116 記憶部
117 マニピュレータ制御出力部
118 アーム動作情報検出部
119 スレーブ側制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物へと駆動力を伝達するために移動される駆動部材と、
前記駆動部材における所定の一箇所の移動量を計測する第一位置検出手段と、
前記駆動部材において前記所定の一箇所と異なる他の一ヶ所の移動量を検出する第二位置検出手段と、
前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記第二位置検出手段によって検出された移動量との差分長さを検出する差分算出部と、
前記差分長さに基づいて前記駆動部材から前記対象物へと伝達される力の大きさを演算する作動力演算部と、
前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記第二位置検出手段によって検出された移動量とを用いて前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかの故障を検出する故障検出部と、
を備えることを特徴とする手術支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の手術支援装置であって、
前記故障検出部は、前記駆動部材を移動させる駆動力発生手段に対して発せられる指示値を取得し、前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第一差分と、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第二差分とを、それぞれ前記指示値に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて決定された閾値と比較し、前記第一差分が前記閾値以上である場合には前記第一位置検出手段が故障しているものと判定し、前記第二差分が前記閾値以上である場合には前記第二位置検出手段が故障しているものと判定する
ことを特徴とする手術支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の手術支援装置であって、
前記差分長さが所定の範囲以上である場合に、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかが故障していると前記故障検出部が判定する
ことを特徴とする手術支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の手術支援装置であって、
前記故障検出部は、前記駆動部材を移動させる量を指示するために前記駆動部材を移動させる駆動力発生手段に出力される指示値を取得し、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくともいずれかが故障していると前記故障検出部が判定したときに、前記第一位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第一差分と、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分である第二差分とを、それぞれ前記指示値に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて決定された閾値と比較し、前記第一差分が前記閾値以上である場合には前記第一位置検出手段が故障しているものと判定し、前記第二差分が前記閾値以上である場合には前記第二位置検出手段が故障しているものと判定する
ことを特徴とする手術支援装置。
【請求項5】
請求項3に記載の手術支援装置であって、
前記故障検出部は、前記駆動部材を移動させる量を指示するために前記駆動部材を移動させる駆動力発生手段に出力される指示値を取得し前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくともいずれかが故障していると前記故障検出部が判定したときに、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分を、前記指示値に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて決定された所定の上限と下限とを有する閾値範囲と比較し、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分が前記閾値範囲の上限以上である場合には前記第二位置検出手段が故障しているものと判定し、前記第二位置検出手段によって検出された移動量と前記指示値との差分が前記閾値範囲内である場合には前記第一位置検出手段が故障しているものと判定する
ことを特徴とする手術支援装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の手術支援装置であって、
前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかが故障していると前記故障検出部が検出したときに、前記駆動部材の動作を停止させることを特徴とする手術支援装置。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の手術支援装置であって、
前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段との少なくとも何れかが故障していると前記故障検出部が検出したときに、前記第一位置検出手段と前記第二位置検出手段とのうち故障していない位置検出手段がある場合には、前記故障していない位置検出手段を用いて前記駆動部材の位置を検出しながら前記駆動部材を所定の位置へ移動させ、前記駆動部材が前記所定の位置へ移動した後に前記駆動部材を停止させることを特徴とする手術支援装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の手術支援装置であって、
前記演算手段によって演算された力の大きさが適正負荷の上限を超えている場合に過負荷状態であると判定する作動力演算部をさらに備えることを特徴とする手術支援装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の手術支援装置であって、
前記対象物に対して処置を行う術具と、
前記術具に対して着脱自在なスレーブアームとを備え、
前記駆動部材、前記第一位置検出手段、および前記第二位置検出手段は、前記スレーブアームに設けられていることを特徴とする手術支援装置。
【請求項10】
請求項9に記載の手術支援装置であって、
前記第一位置検出手段によって検出された移動量に対応する前記駆動部材の伸縮量に基づいて予め設定された閾値を参照し、前記差分長さが前記閾値以下である場合に、前記術具が故障しているものと判定する
ことを特徴とする手術支援装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の手術支援装置であって、
前記手術支援装置を支持する関節ロボットに対して着脱可能であることを特徴とする手術支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−94452(P2013−94452A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240472(P2011−240472)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】