説明

手術用保持具

【課題】簡便な構造で低コストかつ耐久性に優れ、再使用可能な手術用処置具の手術用保持具を提供すること。
【解決手段】開創器具に固定される固定部材と、該固定部材の上面に略垂直方向に延設された内腔を有する支柱部材とから構成される固定部ユニットと、前記支柱部材の内腔に脱着自在であり、前記支柱部材よりも上方に延びた棒状部を有する脱着部材と、前記脱着部材の上端部に取付けられ、前記脱着部材の略垂直方向に固設した手術用処置具取付部材から構成される取付部ユニットと、からなり、前記手術用処置具取付部材が前記支柱部材を軸として円周方向の少なくとも3つの位置に固定可なことを特徴とする手術用保持具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心筋梗塞等の虚血性心疾患を抱えた患者に対するカテーテルインターベーションが加速度的に普及してきた。代表的なカテーテルインターベーションには、冠動脈血管拡張術や血管内ステント留置があるが、これらの治療は患者に対し低浸襲であり、入院期間が短いという特徴を有する。
一方、カテーテル治療の対象とならない患者には、人工心肺を用いる冠動脈バイパス術(以下CABGと略す)の有効性が広く認知されている。この方法は、虚血の原因である狭窄の起こっている冠動脈の末梢側に剥離した内胸動脈、胃大網動脈等のバイパス用血管の一端を吻合し、虚血の解消を図る方法である。
【0003】
近年、人工心肺を使用しないで、心拍動下でバイパス用グラフトを吻合する方法が試みられ、良好な成績が得られるようになった。この方法は、心拍動下冠状動脈バイパス術と呼ばれている。心拍動下冠状動脈バイパス術の問題点は、心臓が動いているために、完璧な吻合を短時間で実施するには熟練を要することである。吻合が不良であれば吻合部から冠動脈やバイパス用血管内に血の塊が発生して閉塞してしまう原因となる。この問題は、心臓の吻合部を圧迫し、心臓の拍動を緩和させて、吻合部を安定化するような手術用処置具(スタビライザー)を使用することで改善された。さらに、心臓の位置を調整するような手術用処置具(ポジショナー)を使用することにより、心臓の吻合部を正面視することが可能となり、より精度が高い吻合部を作成することが可能となったため、心拍動下冠状動脈バイパス術の成績は飛躍的に向上した。
【0004】
心拍動下冠状動脈バイパス術では、患者を全身麻酔下にて前胸部を縦に切開した後、胸骨を切断し、開創器具を用いて開胸する。この開創器具により開胸された部分が術野となり、術野に露出した心臓に対して術者が手術を実施する。
したがって、上記のような手術用処置具としては、一般的に、開創器具に接続、固定して使用するための固定部材、心臓の吻合部を安定化するための心臓と直接接触する略U字形状のアタッチメント、または心臓を位置調整するために心臓と直接接触する吸引カップ形状のアタッチメント等が用いられている。さらに、保持部として、前記のアタッチメントをある程度、任意の位置に調整した後、保持させるために、複数のセグメントを備える可とう性の多関節式アームと、多関節式アームの各セグメントの内部を貫通して延在するケーブル、ケーブルの張力を制御するための張力制御手段とを有しており、このケーブルを張力制御手段により締め付けて、係合による摩擦を発生させ、アタッチメント及び可とう性アームを開創器具に対して固定、保持させる構造としているものが開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2005−507702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような多関節式アームを具備する手術用保持具は、比較的複雑な構造であるため、コストがかかり、耐久性や故障しやすいという問題点があった。また、再使用することも難しかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便な構造で低コストかつ耐久性に優れ、再使用可能な手術用保持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(5)に記載の本発明により達成される。
(1)開創器具に固定される固定部材と、該固定部材の上面に略垂直方向に延設された内腔を有する支柱部材とから構成される固定部ユニットと、
前記支柱部材の内腔に脱着自在であり、前記支柱部材よりも上方に延びた棒状部を有する脱着部材と、前記脱着部材の上端部に取付けられ、前記脱着部材の略垂直方向に固設した手術用処置具取付部材から構成される取付部ユニットと、からなり、前記手術用処置具取付部材が前記支柱部材を軸として円周方向の少なくとも3つの位置に固定可変なことを特徴とする。
(2)前記脱着部材の断面は三角形以上の角を有する形状である(1)に記載の手術用保持具。
(3)前記支柱部材の断面の内面は前記脱着部材が挿入可能な三角形以上の角を有する形状である(1)又は(2)に記載の手術用保持具
(4)前記手術用処置具取付部材は、手術用処置具を取付ける溝を複数有する(1)に記 載の手術用保持具。
(5)前記手術用保持具は、ステンレス鋼材またはポリフェニルサルフォン材からなる(1)ないし(4)のいずれかに記載の手術用保持具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な構造で低コストかつ耐久性に優れ、再使用可能な手術用保持具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照にしつつ、本発明による手術用保持具について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明による手術用保持具の一実施形態を示す斜視図である。図2は、本発明による手術用保持具の使用時の一実施形態を示す斜視図である。図3は、図1のA−A’断面図であり、支柱部材に脱着部材が挿入されている場合の一実施形態を示すものである。
【0010】
手術用保持具10は、開創器具11に固定される固定部材1と、該固定部材1の上面に略垂直方向に延設された内腔を有する支柱部材2とから構成される固定部ユニット3と、前記支柱部材2の内腔に脱着自在であり、前記支柱部材2よりも上方に延びた棒状部を有する脱着部材4と、前記脱着部材4の上端部に取付けられ、前記脱着部材4の略垂直方向に固設した手術用処置具取付部材5から構成される取付部ユニット6とから構成される。
【0011】
脱着部材4の断面は三角形以上の角を有する形状であることが好ましく、支柱部材2の断面の内面は脱着部材4が挿入かつ嵌合可能とするため、脱着部材4と同じ数となる三角形以上の角を有する形状であることが好ましい。脱着部材4、支柱部材2の断面を三角形以上の角を有することにより、脱着部材4の上端に取付け、固定され、脱着部材4の略垂直方向に固設した手術用処置具取付部材5を、支柱部材2を軸として円周方向の少なくとも3つの位置に調整、固定することが可能となる。多様な角度、位置での処置が可能になることから5〜6角形にすることが好ましい。図3には、本発明の一実施例として6角形にした脱着部材4及び支柱部材2の断面図を示している。このように脱着部材4を脱着するだけの簡便な構造で、手術用処置具取付部材5を支柱部材2を軸として円周方向の最適な位置に調整し、固定することができる。また、こうすることで、製造時の加工性を向上させることができ、さらにコストを低減することが可能となる。
【0012】
また、支柱部材2の断面の内面は、少なくとも一部を三角形以上の角を有する形状とし、それ以外の内面を円形状にすることができる。こうすることで、製造時の加工性を向上させることができ、さらにコストを低減することが可能となる。
【0013】
支柱部材2の長さは、特に限定されないが、例えば20mm以上200mm以下、好ましくは50mm以上100mm以下とすることができる。また、脱着部材4の長さは、例えば50mm以上300mm以下、好ましくは100mm以上200mm以下とすることができる。したがって、脱着部材4を支柱部材2に挿入、嵌合させた状態では、固定部材1から手術用処置具取付部材5までの高さは、50mm以上300mm以下とすることができる。こうすることで、十分な手術作業スペースを確保できるため、例えば、心臓の位置を調整するために心臓を垂直方向に挙上する際の操作性を向上させることができる。さらに、脱着部材4の長さが、例えば、100mmのものと200mmのものとの2水準を予め準備することにより、手術時の手術用処置具取付部材5の高さを調整することもできる。
【0014】
支柱部材2の断面形状は、特に限定されず、円形でも角形でもかまわない。円形の場合の外径は特に限定されないが、例えば5mm以上30mm以下、好ましくは10mm以上20mm以下とすることができる。また、脱着部材4の外径は支柱部材よりひとまわり小さく、例えば、2mm以上25mm以下、好ましくは5mm以上15mm以下とすることができる。こうすることで、十分な作業スペースを確保できるとともに、手術用処置具の保持に必要な強度を確保することができる。
【0015】
手術用処置具取付部材5は、脱着部材4の略垂直方向に手術用処置具を取付ける溝7を複数個有していることが好ましい。この溝7の断面形状は、略U字形状とすることができる。こうすることで、手術用処置具として、例えば、心臓の吻合部を安定化するための心臓14と直接接触する略U字形状のアタッチメント12、または心臓を位置調整するために心臓14と直接接触する吸引カップ形状のアタッチメント13に、例えば、略U字形状の溝7よりひとまわり外径が大きな棒状部材またはひも状部材を具備させるだけで、棒状部材またはひも状部材を手術用処置具取付部材5の略U字形状の溝7に嵌めこみ、摩擦係合的に固定することにより、これらの手術用処置具を保持することができる。また、手術用処置具を手術用処置具取付部材5から取り外す際の操作性を向上させることができる。
【0016】
更に、溝7を複数有するため、手術用処置具を保持する際に、水平方向側に最適な位置調整をすることが可能となり、位置調整時の自由度を向上させることができる。また、溝7を複数有するため、複数の手術用処置具、例えば、心臓14の吻合部を安定化するための心臓と直接接触する略U字形状のアタッチメント12、または心臓14を位置調整するために心臓と直接接触する吸引カップ形状のアタッチメント13を有する手術用処置具を、同時に保持することができる。
【0017】
また、溝7の代わりに、例えば、ワニ口クリップなどのクリップを付設してもよい。こうすることで、手術用処置具の接続時、および取り外し時の操作性を向上させることができる。
【0018】
手術用処置具取付部5の長さは、例えば、50mm以上300mm以下、好ましくは100mm以上、200mm以下とすることができる。また、手術用処置具取付部5の太さは、例えば、2mm以上20mm以下、好ましくは5mm以上10mm以下とすることができる。こうすることで、手術用処置具を保持する際に、水平方向側に最適な位置調整をすることが可能となり、位置調整時の自由度を向上させることができ、また、手術用処置具の保持に必要な強度を確保することができる。
【0019】
開創器具11に固定される固定部材1は、例えば、支柱部材2が接続固定された固定部本体部と、開創器具に対して締め付け方向および締め付けを解除できる方向に水平方向に可動できる固定部可動部と、可動部を可動させるとともに開創器具に対して締め付けた状態を維持し固定させるための固定部操作部と、を含む構造とすることができる。
固定部可動部と固定部操作部は歯車形状的にかみあって接続されており、固定部操作部を回転させることで固定部可動部を水平方向に可動させることができる。また、固定部操作部と固定部本体部の間に、例えば、スプリングワッシャーを付設し、固定部操作部を横方向に倒すことで、固定部操作部と固定部本体部とを互いに締め付け、固定することができ、すなわち、固定部可動部も固定することができる。
【0020】
本発明による手術用保持具10の材質は、例えば、金属材、好ましくはステンレス鋼材とすることができる。こうすることで、手術用保持具を保持するための強度を確保するとともに、耐久性が優れ、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)が可能であるため、再使用可能な手術用保持具とすることができる。また、例えば、耐熱性エンプラ、好ましくはポリフェニルサルフォンを材質とすることもできる。こうすることで、製造時の加工性が優れるため、コストをさらに低減させ、また、軽量化を図れるため、操作性を向上させることができる。
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。これらの実施形態はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による手術用保持具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明による手術用保持具の使用時の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図1のA−A’断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 固定部材
2 支柱部材
3 固定ユニット
4 脱着部材
5 手術用処置具取付部材
6 取付部ユニット
7 溝
10 手術用保持具
11 開創器具
12 心臓の吻合部を安定化するための心臓と直接接触する略U字形状のアタッチメント
13 心臓を位置調整するために心臓と直接接触する吸引カップ形状のアタッチメント
14 心臓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開創器具に固定される固定部材と、該固定部材の上面に略垂直方向に延設された内腔を有する支柱部材とから構成される固定部ユニットと、
前記支柱部材の内腔に脱着自在であり、前記支柱部材よりも上方に延びた棒状部を有する脱着部材と、前記脱着部材の上端部に取付けられ、前記脱着部材の略垂直方向に固設した手術用処置具取付部材から構成される取付部ユニットと、
からなり、
前記手術用処置具取付部材と脱着部材とが、前記支柱部材を軸として円周方向の少なくとも3つの位置に固定可変なことを特徴とする手術用保持具。
【請求項2】
前記脱着部材の断面は三角形以上の角を有する形状である請求項1に記載の手術用保持具。
【請求項3】
前記支柱部材の断面の内面は前記脱着部材が挿入可能な三角形以上の角を有する形状である請求項1又は2に記載の手術用保持具
【請求項4】
前記手術用処置具取付部材は、手術用処置具を取付ける溝を複数有する請求項1に記載の手術用保持具。
【請求項5】
前記手術用保持具は、ステンレス鋼材またはポリフェニルサルフォン材からなる請求項1ないし4のいずれかに記載の手術用保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−289679(P2008−289679A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138541(P2007−138541)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】