説明

手袋の製造方法

【課題】多孔質膜を含み、これまでよりも蒸れ感の軽減効果に優れた手袋を製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】ゴムまたは樹脂を含み、起泡された、比重0.35g/ml以上、0.85g/ml以下、平均気泡径100μm以下、粘度100mPa・s以上、600mPa・s以下の浸漬液に、手袋の形状に対応した型を浸漬し、引き上げたのちゴムを加硫させるかまたは樹脂を硬化反応させて多孔質膜を形成する工程を含む手袋の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムまたは樹脂の多孔質膜を含む手袋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭や工場、医療現場、あるいはスポーツといった様々な場面において人の手肌を保護したり、食中毒や感染症等を防止したり、あるいは取り扱う対象物(半導体や精密機器等)を手肌の皮脂等から保護したりするために、各種の手袋が広く用いられている。
特に、全体がゴムまたは樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋は、薄肉で指先の細かい作業等にも適しているため広く利用されている。
【0003】
前記手袋は、いわゆる浸漬法によって製造するのが一般的である。
例えば全体がゴムの皮膜によって一体に形成された手袋を製造する場合は、まずゴムのラテックスに加硫剤等の各種添加剤を配合して未加硫もしくは前加硫状態の浸漬液を調製する。また手袋の立体形状に対応した、例えば陶器製の型を用意して、その表面を凝固剤(主に硝酸カルシウム水溶液)で処理する。
【0004】
次いで、前記型を前記浸漬液に一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、型の表面に浸漬液を付着させる。
そして引き上げた型ごと加熱して浸漬液を乾燥させるとともにゴムを加硫させるか、あるいは一旦乾燥させた後に型ごと加熱してゴムを加硫させたのち脱型することにより、全体がゴムの皮膜によって一体に形成された手袋が製造される。
【0005】
また、全体が樹脂の皮膜によって一体に形成された手袋は、前記ゴムのラテックスを含む浸漬液に代えて、樹脂のエマルションに各種添加剤を配合して調製した浸漬液を用いること以外は前記と同様にして製造することができる。
ところが、前記ゴムや樹脂の連続した皮膜は透湿性や吸湿性を有さないため、前記手袋を長時間装着していると、汗によって手が蒸れたりべたついたりする、いわゆる蒸れ感を生じるという問題がある。
【0006】
手袋を、多孔質膜を含む2層以上の積層構造、特に手と接触する最内層を前記多孔質膜とした積層構造とし、手から発生した湿気を前記多孔質膜によって吸収させることで、前記蒸れ感を軽減する方法がある。
例えば浸漬法では、浸漬液を起泡させると、形成されるゴムまたは樹脂の皮膜が、主に連続気孔構造を有する多孔質膜になることが知られており、それを利用して前記多孔質膜を含む手袋を製造することが検討されている。例えば特許文献1では、ホース等を使用して空気を吹き込むことで起泡させた浸漬液を使用して、浸漬法により多孔質膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−1662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記方法によれば、確かにゴムまたは樹脂からなる多孔質膜を形成することはできる。しかし発明者の検討によると、前記特許文献1等に記載の従来の多孔質膜は、その内部に含まれる気泡の総量(気泡総体積)が総じて小さいため吸湿性が十分でなく、ユーザーが期待する蒸れ感の軽減を十分に満足しうるものではないのが現状である。
本発明の目的は、これまでよりも蒸れ感の軽減効果に優れた手袋を製造するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、発明者は、浸漬法によって多孔質膜を形成するために用いる、起泡させた浸漬液(ゴムのラテックスまたは樹脂のエマルションのフォームであって、以下では「ラテックスフォーム」と総称する場合がある。)の比重、平均気泡径、および粘度と、前記ラテックスフォームを用いて浸漬法によって形成される多孔質膜の気泡総体積、および吸湿性、さらには蒸れ感との関係について鋭意検討した。
【0010】
その結果、前記ラテックスフォームの比重を0.35g/ml以上、0.85g/ml以下、平均気泡径を100μm以下、粘度を100mPa・s以上、600mPa・s以下に規定することにより、主に連続気孔構造を有し、しかも気泡総体積が大きく吸湿性に優れるため手袋の蒸れ感を大幅に軽減できる多孔質膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、ゴムまたは樹脂の多孔質膜を含む手袋を製造するための製造方法であって、前記ゴムまたは樹脂を含み、起泡された、比重0.35g/ml以上、0.85g/ml以下、平均気泡径100μm以下、粘度100mPa・s以上、600mPa・s以下の浸漬液に、手袋の形状に対応した型を浸漬し、引き上げたのちゴムを加硫させるかまたは樹脂を硬化反応させて前記多孔質膜を形成する工程を含むことを特徴とするものである。
【0012】
前記のうち比重は、ラテックスフォーム中に含まれる気泡の総量を規定する指標であって、前記ラテックスフォームの単位体積あたりの重量を測定することによって求められる。
本発明においてラテックスフォームの比重が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
【0013】
すなわち比重が0.35g/ml未満では、ラテックスフォーム中に過剰の気泡が存在することになり、個々の気泡を隔てる浸漬液の膜が薄くなりすぎて、例えば浸漬法によって前記ラテックスフォームを型の表面に付着させたのちゴムを加硫させる間に多数の気泡が破泡することで多孔質膜が破壊されてしまい、厚みが均一な、連続した多孔質膜を形成できないという問題を生じる。
【0014】
一方、比重が0.85g/mlを超える場合には、ラテックスフォーム中に含まれる気泡の量が不十分で、前記ラテックスフォームを用いて形成される多孔質膜の気泡総体積が不足して吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないという問題を生じる。
これに対し、ラテックスフォームの比重を0.35g/ml以上、0.85g/ml以下の範囲内とすれば、多孔質膜の破壊を極力抑制しながら、当該多孔質膜の気泡総体積をできるだけ大きくし、吸湿性を極力向上して、手袋の蒸れ感を大幅に軽減することが可能となる。
【0015】
なお、かかる効果をより一層向上して、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、前記比重は、前記範囲内でも0.75g/ml以下とするのが好ましい。
また、ラテックスフォームの平均気泡径が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち平均気泡径が100μmを超える場合には、同じ気泡量でも個々の気泡内部の表面積が小さくなるため、吸湿性が低下して、湿気を効率的に吸収できないという問題を生じる。
【0016】
これに対し、ラテックスフォームの平均気泡径を100μm以下の範囲内とすれば、気泡内部の表面積を増やすことができるため、吸湿性を向上し、湿気をより効率的に吸収できるようにして、手袋の蒸れ感を大幅に軽減することが可能となる。
なお、かかる効果をより一層向上して、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、前記平均気泡径は、前記範囲内でも50μm以下とするのが好ましい。
【0017】
さらにラテックスフォームの粘度が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち粘度が100mPa・s未満では、例えば浸漬法によって前記ラテックスフォームを型の表面に付着させたのちゴムを加硫させる過程で気泡構造を安定に維持できないため、形成される多孔質膜の気泡総体積が不足して吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないという問題を生じる。
【0018】
一方、粘度が600mPa・sを超える場合には、ラテックスフォームの浸漬加工性が低くなって、当該ラテックスフォームに型を浸漬して引き上げた際に、前記型の表面にほぼ均等にラテックスフォームを付着させることができず、型の指先に他の部分よりも厚くラテックスフォームが溜まるいわゆる指先溜まりや、前記溜まったラテックスフォームが流れ落ちて、加硫後の手袋に流れ落ちた痕跡が残るいわゆる指先フローバック、あるいは指と指の間に膜を生じるいわゆる指股膜等の不良を生じる。
【0019】
これに対し、ラテックスフォームの粘度を100mPa・s以上、600mPa・s以下の範囲内とすれば、当該ラテックスフォームの浸漬加工性を向上して、前記指先溜まりや指先フローバック、指股膜等の不良の発生を極力抑制しながら、多孔質膜の吸湿性を極力向上して、手袋の蒸れ感を大幅に軽減することが可能となる。
なお、かかる効果をより一層向上して、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、前記粘度は、前記範囲内でも400mPa・s以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、これまでよりも蒸れ感の軽減効果に優れた手袋を製造するための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ゴムまたは樹脂の多孔質膜を含む手袋を製造するための製造方法であって、前記ゴムまたは樹脂を含み、起泡された、比重0.35g/ml以上、0.85g/ml以下、平均気泡径100μm以下、粘度100mPa・s以上、600mPa・s以下の浸漬液(ラテックスフォーム)に、手袋の形状に対応した型を浸漬し、引き上げたのちゴムを加硫させるかまたは樹脂を硬化反応させて前記多孔質膜を形成する工程を含むことを特徴とするものである。
【0022】
前記ラテックスフォームの比重が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち比重が0.35g/ml未満では、ラテックスフォーム中に過剰の気泡が存在することになり、個々の気泡を隔てる浸漬液の膜が薄くなりすぎて、例えば浸漬法によって前記ラテックスフォームを型の表面に付着させたのちゴムを加硫させる間に多数の気泡が破裂することで多孔質膜が破壊されてしまい、厚みが均一な、連続した多孔質膜を形成できないという問題を生じる。
【0023】
一方、比重が0.85g/mlを超える場合には、ラテックスフォーム中に含まれる気泡の量が不十分で、前記ラテックスフォームを用いて形成される多孔質膜の気泡総体積が不足して吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないという問題を生じる。
これに対し、ラテックスフォームの比重を0.35g/ml以上、0.85g/ml以下の範囲内とすれば、多孔質膜の破壊を極力抑制しながら、当該多孔質膜の気泡総体積をできるだけ大きくし、吸湿性を極力向上して、手袋の蒸れ感を大幅に軽減することが可能となる。
【0024】
なお、かかる効果をより一層向上して、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、前記比重は、前記範囲内でも0.75g/ml以下とするのが好ましい。
また、ラテックスフォームの平均気泡径が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち平均気泡径が100μmを超える場合には、同じ気泡量でも個々の気泡内部の表面積が小さくなるため、吸湿性が低下して、湿気を効率的に吸収できないという問題を生じる。
【0025】
これに対し、ラテックスフォームの平均気泡径を100μm以下の範囲内とすれば、気泡内部の表面積を増やすことができるため、吸湿性を向上し、湿気をより効率的に吸収できるようにして、手袋の蒸れ感を大幅に軽減することが可能となる。
なお、かかる効果をより一層向上して、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、前記平均気泡径は、前記範囲内でも50μm以下とするのが好ましい。
【0026】
また平均気泡径は、気泡総体積が十分に大きく、吸湿性に優れた多孔質膜を形成することを考慮すると、前記範囲内でも5μm以上、特に10μm以上であるのが好ましい。
さらにラテックスフォームの粘度が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち粘度が100mPa・s未満では、例えば浸漬法によって前記ラテックスフォームを型の表面に付着させたのちゴムを加硫させる過程で気泡構造を安定に維持できないため、形成される多孔質膜の吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないという問題を生じる。
【0027】
一方、粘度が600mPa・sを超える場合には、ラテックスフォームの浸漬加工性が低くなって、当該ラテックスフォームに型を浸漬して引き上げた際に、前記型の表面にほぼ均等にラテックスフォームを付着させることができず、型の指先に他の部分よりも厚くラテックスフォームが溜まるいわゆる指先溜まりや、前記溜まったラテックスフォームが流れ落ちて、加硫後の手袋に流れ落ちた痕跡が残るいわゆる指先フローバック、あるいは指と指の間に膜を生じるいわゆる指股膜等の不良を生じる。
【0028】
これに対し、ラテックスフォームの粘度を100mPa・s以上、600mPa・s以下の範囲内とすれば、当該ラテックスフォームの浸漬加工性を向上して、前記指先溜まりや指先フローバック、指股膜等の不良の発生を極力抑制しながら、多孔質膜の吸湿性を極力向上して、手袋の蒸れ感を大幅に軽減することが可能となる。
なお、かかる効果をより一層向上して、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、前記粘度は、前記範囲内でも400mPa・s以下とするのが好ましい。
【0029】
前記ラテックスフォームは、ゴムのラテックスもしくは樹脂のエマルションを含む浸漬液をかく拌したり、空気を吹き込んだり、あるいはこの両方を併用したりして起泡させることによって調製できる。前記起泡の条件や、ラテックスフォームのもとになる浸漬液の組成等を任意に、かつ個別に設定することで、比重、平均気泡径、および粘度が前記範囲内となるように調整すればよい。
【0030】
前記ラテックスフォームのもとになる、ゴムを含む浸漬液は、従来同様に、ゴムのラテックスに加硫剤等の各種添加剤を配合して調製される。
前記ゴムとしては天然ゴム、および合成ゴムの中からラテックス化が可能な種々のゴムがいずれも使用可能であり、かかるゴムとしては、例えば天然ゴム、脱蛋白天然ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
前記ゴムを加硫させる加硫剤としては硫黄や有機含硫黄化合物等が挙げられる。前記加硫剤の配合割合は、ゴムラテックス中の固形分(ゴム分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
前記ゴムおよび加硫剤を含む浸漬液中には、さらに加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、充填剤、分散剤、安定剤、発泡剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0032】
このうち加硫促進剤としては、例えばPX(N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛)、PZ(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、MZ(2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩)、TT(テトラメチルチウラムジスルフィド)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0033】
前記加硫促進剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華(酸化亜鉛)、および/またはステアリン酸等が挙げられる。前記加硫促進助剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
【0034】
老化防止剤としては、一般に非汚染性のフェノール類が好適に用いられるが、アミン類を使用してもよい。前記老化防止剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
充填剤としては、例えばカオリンクレー、ハードクレー、炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の配合割合は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり10質量部以下であるのが好ましい。
【0035】
分散剤は、前記各種添加剤をゴムラテックス中に良好に分散させるために配合されるものであり、前記分散剤としては、例えば陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の配合割合は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下であるのが好ましい。
安定剤は、前記のように浸漬液を起泡させてラテックスフォームを調製する際に、前記起泡を助けるためのものであり、前記安定剤としては、例えば界面活性剤等の、浸漬液の起泡を助ける機能を有する種々の安定剤が使用可能である。前記安定剤は省略しても良いが、配合する場合は、求められるラテックスフォームの比重、平均気泡径、および粘度に応じて、その配合割合を適宜設定すればよい。
【0036】
ラテックスフォームのもとになる、樹脂を含む浸漬液は、従来同様に、樹脂のエマルションに各種添加剤を配合して調製される。
前記樹脂としては、ウレタン系樹脂、硬化性アクリル系樹脂等の、エマルション化が可能な熱硬化性樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
前記樹脂を含む浸漬液中には、さらに老化防止剤、充填剤、分散剤、安定剤、発泡剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0037】
このうち老化防止剤としては、先に例示した非汚染性のフェノール類やアミン類等の1種または2種以上が挙げられる。前記老化防止剤の配合割合は、樹脂エマルション中の固形分(樹脂分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下であるのが好ましい。
充填剤としては、前記例示の充填剤の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の配合割合は、樹脂エマルション中の樹脂分100質量部あたり10質量部以下であるのが好ましい。
【0038】
分散剤としては、前記例示の陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の配合割合は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下であるのが好ましい。
安定剤としては、前記のように界面活性剤等の、浸漬液の起泡を助ける機能を有する種々の安定剤が使用可能である。前記安定剤は省略しても良いが、配合する場合は、求められるラテックスフォームの比重、平均気泡径、および粘度に応じて、その配合割合を適宜設定すればよい。
【0039】
また浸漬液には、前記ウレタン系樹脂等を硬化反応させるための架橋剤、硬化剤等を、適宜の割合で配合してもよい。
多孔質膜は、前記前記浸漬液を起泡させて調製された、前記比重、平均気泡径、および粘度を有するラテックスフォームを用いること以外は従来同様に形成することができる。
すなわち手袋の立体形状に対応した、例えば陶器製の型を用意し、その表面を凝固剤(主に硝酸カルシウム水溶液)で処理する。
【0040】
次いで前記型を、前記ラテックスフォームに一定時間に亘って浸漬したのち引き上げることで、型の表面に前記ラテックスフォームを付着させる。
そして引き上げた型ごと加熱してラテックスフォームを乾燥させるとともにゴムを加硫、もしくは樹脂を硬化反応させるか、あるいは一旦乾燥させた後に型ごと加熱してゴムを加硫、または樹脂を硬化反応させることによって多孔質膜が形成される。
【0041】
そして本発明によれば、前記工程を経ることで、主に連続気孔構造を有し、しかも従来に比べて気泡総体積が大きく吸湿性に優れるため手袋の蒸れ感を大幅に軽減できる多孔質膜を形成することが可能となる。
前記工程を経る本発明の製造方法によって製造される手袋は、前記多孔質膜のみを有する単層構造であってもよいが、前記手袋に適度な強度や不透水性等を付与するために、他の層との2層以上の積層構造に形成するのが好ましい。
【0042】
積層構造を有する手袋において、多孔質膜の厚みは、前記手袋に適度な強度と良好な吸湿性とを付与しながら、なおかつその全体をできるだけ薄肉化して指先の細かい作業等に適用できるようにすることを考慮すると0.07mm以上、特に0.1mm以上であるのが好ましく、2.0mm以下、中でも1.5mm以下、特に1.0mm以下であるのが好ましい。
【0043】
前記多孔質膜とともに積層構造を有する手袋を構成する他の層は種々の構造、材料によって形成することができるが、特に薄肉で指先の細かい作業等に適した手袋を構成することを考慮すると、例えばポリウレタン、シリコーンゴム、セルロースアセテート、エチルセルロース、およびポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種のポリマ、または前記ポリマと、前記多孔質膜のもとになるゴムまたは樹脂との混合物等からなる薄膜が好ましい。
【0044】
特に、薄膜に良好な不透水性と透湿性とを付与することを考慮すると、前記薄膜はポリウレタン、または前記ポリウレタンと、前記多孔質膜のもとになるゴムまたは樹脂との混合物によって形成するのが好ましい。
前記薄膜は不透水性でかつ透湿性を有しており、当該薄膜を手袋の外側、多孔質膜を手袋の内側に設けることで、外部から手袋内への水の侵入を確実に防止しながら、多孔質膜で吸湿した湿気を効果的に手袋外へ逃がすことができ、手袋の蒸れ感をより一層大幅に軽減することができる。
【0045】
前記薄膜の厚みは5μm以上、特に10μm以上であるのが好ましく、200μm以下、中でも100μm以下、特に50μm以下であるのが好ましい。
厚みが前記範囲未満では、多孔質膜の片面に、良好な不透水性を有する連続した薄膜を形成できないため、外部から水が侵入するのを確実に防止できないおそれがある。
一方、厚みが前記範囲を超える場合には、薄膜に十分な透湿性を付与できないため、手袋を長時間装着した際に汗によって手が蒸れたりべたついたりしやすくなるおそれがある。
【0046】
さらに前記薄膜は、良好な不透水性を確保するために、非多孔質膜であるのが好ましい。
前記薄膜は、そのもとになる、前記ポリマ等を含む塗布液を調製し、前記塗布液を、例えば浸漬法、スプレー法等の任意の塗布方法によって、先に形成した多孔質膜の表面に塗布したのち乾燥させることによって形成できる。
【0047】
また、前記ポリマがポリウレタンやシリコーンゴム等の架橋性のポリマである場合、前記浸漬液中には、当該ポリマの架橋剤、硬化剤等を、適宜の割合で配合しておき、前記乾燥と同時に、あるいは乾燥後に加熱する等してポリマを架橋反応させればよい。
また前記薄膜は、例えば浸漬法によって、多孔質膜と一体に形成することもできる。
例えば、凝固剤で処理したのちラテックスフォームに浸漬する前の型を、前記薄膜のもとになるポリマ等を含む浸漬液に、一定時間に亘って浸漬したのち引き上げて、型の表面に前記浸漬液を付着させ、次いでラテックスフォームに一定時間に亘って浸漬したのち引き上げて、ラテックスフォームを付着させる。
【0048】
そして乾燥させるとともにゴムを加硫、もしくは樹脂を硬化反応させるか、あるいは一旦乾燥させた後に型ごと加熱してゴムを加硫、または樹脂を硬化反応させることによって、多孔質膜と薄膜とを一体に形成することができる。なお浸漬の順序は逆であってもよい。
【実施例】
【0049】
〈ラテックスフォームの特性〉
後述する実施例、比較例で調製したラテックスフォームの特性は、下記の方法によって求めた。なお測定は、いずれも23±1℃の環境下で実施した。
(比重)
調製したラテックスフォームを、メスシリンダで体積が100mlになるように計量し、その質量を測定して比重(g/ml)を求めた。
【0050】
(平均気泡径)
調製したラテックスフォームをシャーレ上に数滴滴下し、デジタルマイクロスコープを用いて顕微鏡写真を撮影した。そして撮影した顕微鏡写真から任意で50個の気泡を選び、それぞれの気泡の直径を2点間距離測定モードによって測定して、その平均値を平均気泡径として算出した。
【0051】
(粘度)
調製したラテックスフォームの粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
〈実施例1〉
(ラテックスフォームの調製)
NBRラテックス〔日本ゼオン(株)製のNIPOL(登録商標)LX552〕に、当該NBRラテックス中のゴム分(乾燥ベース)100質量部あたり、加硫剤としての硫黄1質量部、加硫促進剤BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)1質量部、および加硫促進助剤としての亜鉛華2質量部を配合したのちかく拌しながら30℃で48時間前加硫させて起泡前の浸漬液を作製した。
【0052】
次いで前記浸漬液を、かく拌機を用いて高速かく拌することで起泡させて、比重0.67g/ml、平均気泡径15μm、粘度350mPa・sのラテックスフォームを調製した。
(薄膜用の浸漬液の調製)
ポリウレタン系の水性コート剤〔DIC(株)製のハイドラン(登録商標)WLS−208〕に、当該水性コート剤中のポリウレタン100質量部あたり4質量部の架橋剤〔DIC(株)製のハイドラン アシスタCS−7〕を配合して透湿性ポリウレタンエマルションを作製した。
【0053】
次いで前記透湿性ポリウレタンエマルションと、前記起泡前のNBRラテックス系の浸漬液とを質量比で1:1となるように配合して薄膜用の塗布液を調製した。
(手袋の製造)
型としては、陶器製で手袋の立体形状に対応するものを用意した。
前記型を、まず25%硝酸カルシウム水溶液に浸漬し、引き上げたのち乾燥させることで、前記型の表面を凝固剤としての硝酸カルシウムによって処理した。
【0054】
次いで前記型を、液温を25℃に保持した先の薄膜用の浸漬液に一定の速度で浸漬し、10秒間保持したのち一定の速度で引き上げることで、前記型の表面に浸漬液を付着させ、引き続いてラテックスフォームに一定の速度で浸漬し、5秒間保持したのち一定の速度で引き上げることで、さらにラテックスフォームを付着させた。
そして引き上げた型を、まず指先を上にして10秒間、次いで指先を下にして10秒間保持した後、指先を上にした状態で型ごと100℃に加熱したオーブン中に入れて30分間加熱して乾燥させるとともにNBRを加硫させ、かつポリウレタンを架橋反応させ、次いで脱型して、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0055】
〈実施例2〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.7g/ml、平均気泡径19μm、粘度480mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0056】
〈実施例3〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.69g/ml、平均気泡径85μm、粘度350mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0057】
〈実施例4〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.81g/ml、平均気泡径14μm、粘度290mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0058】
〈比較例1〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.88g/ml、平均気泡径14μm、粘度210mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0059】
〈比較例2〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.7g/ml、平均気泡径120μm、粘度380mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0060】
〈比較例3〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.7g/ml、平均気泡径14μm、粘度93mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0061】
〈比較例4〉
浸漬液の起泡条件を調整して、比重0.7g/ml、平均気泡径11μm、粘度640mPa・sのラテックスフォームを調製した。
そして前記ラテックスフォームを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜と薄膜の2層構造を有する手袋を製造した。
【0062】
〈手袋の特性評価〉
以下の試験を、いずれも23±1℃の環境下で実施した。
(ラテックスフォームの浸漬加工性)
実施例1〜4、比較例1〜5の手袋を製造する途中の、型をラテックスフォームから引き上げてから、加熱して乾燥させるとともにNBRを加硫させ、かつポリウレタンを架橋反応させるまでの間の段階における、ラテックスフォームの状態を観察した。
【0063】
そして、指先から凝固していないラテックスフォームが流れ落ちて、加硫後もその痕跡がはっきり残ったものを指先フローバック不良、隣り合う2本の指の間にラテックスフォームが溜まって加硫後に指股膜を生じたものを指股膜不良と規定し、手袋を連続的に製造した際の、それぞれの不良の発生率を記録して、ラテックスフォームの浸漬加工性を評価した。
【0064】
(多孔質膜の気泡含有率)
実施例1〜4、比較例1〜4で製造した手袋から所定の面積の試験片を切り取り、デジタルマイクロスコープを用いて断面の顕微鏡写真を撮影した。そして撮影した顕微鏡写真から多孔質膜、および薄膜の厚みを測定し、前記厚みと試験片の面積とから、前記多孔質膜、および薄膜の体積を求めた。
【0065】
また前記薄膜の体積と、当該薄膜を形成する材料の真比重とから薄膜の質量を求めた。
次に、電子天秤を用いて試験片の質量を測定し、前記質量から先に求めた薄膜の質量を差し引いて、多孔質膜の質量を求めた。
そして前記体積と質量とから、多孔質膜の見かけの比重を算出し、当該見かけの比重と、多孔質膜を形成する材料の真比重とから、前記多孔質膜の気泡総体積の指標としての気泡含有率(%)を算出した。
【0066】
(平均気泡径)
実施例1〜4、比較例1〜4で製造した手袋から試験片を切り取り、デジタルマイクロスコープを用いて断面の顕微鏡写真を撮影した。そして撮影した顕微鏡写真から任意で50個の気泡を選び、それぞれの気泡の直径を2点間距離測定モードによって測定して、その平均値を平均気泡径として算出した。
【0067】
(官能試験)
実施例1〜4、比較例1〜4で製造した手袋を10名の被験者に装着してもらい、装着10分後の装着感を下記の5段階で評価してもらった。
A:蒸れは全く感じられなかった。非常に快適。
【0068】
B:蒸れは殆ど感じられなかった。快適。
C:蒸れが僅かに感じられたものの、実用レベル。
D:蒸れが感じられた。不快。
E:蒸れが強く感じられた。非常に不快。
以上の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1の比較例1の結果より、ラテックスフォームの比重が0.85g/mlを超える場合には、形成される多孔質膜の気泡含有率が小さいことや、官能試験の結果が良好でないことから、気泡総体積が不足して吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないことが判った。
また比較例2の結果より、ラテックスフォームの平均気泡径が100μmを超える場合には、形成される多孔質膜の気泡含有率は実施例と変らないものの、官能試験の結果が良好でないことから、個々の気泡内部の表面積が小さくなって吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないことが判った。
【0071】
また比較例3の結果より、ラテックスフォームの粘度が100mPa・s未満では、形成される多孔質膜の気泡含有率が小さいことや、官能試験の結果が良好でないことから、気泡総体積が不足して吸湿性が不十分となり、手袋の蒸れ感を軽減する効果が得られないことが判った。
さらに比較例4の結果より、ラテックスフォームの粘度が600mPa・sを超える場合には、ラテックスフォームに型を浸漬して引き上げた際に生じる指先フローバック不良や指股膜不良の発生率が高いことから、前記ラテックスフォームの浸漬加工性が低く、型の表面にほぼ均等にラテックスフォームを付着できないことが判った。
【0072】
これに対し実施例1〜4の結果より、ラテックスフォームの比重、平均気泡径、および粘度を、それぞれ規定した範囲内とすることにより、主に連続気孔構造を有し、しかも気泡総体積が大きく吸湿性に優れるため手袋の蒸れ感を大幅に軽減できる多孔質膜を形成できることが判った。
また実施例1〜4の結果より、手袋の蒸れ感をさらに軽減することを考慮すると、ラテックスフォームの比重は0.75g/ml以下、平均気泡径は50μm以下、粘度は400mPa・s以下であるのが好ましいことが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムまたは樹脂の多孔質膜を含む手袋を製造するための製造方法であって、前記ゴムまたは樹脂を含み、起泡された、比重0.35g/ml以上、0.85g/ml以下、平均気泡径100μm以下、粘度100mPa・s以上、600mPa・s以下の浸漬液に、手袋の形状に対応した型を浸漬し、引き上げたのちゴムを加硫させるかまたは樹脂を硬化反応させて前記多孔質膜を形成する工程を含むことを特徴とする手袋の製造方法。
【請求項2】
前記起泡された浸漬液の比重は0.75g/ml以下である請求項1に記載の手袋の製造方法。
【請求項3】
前記起泡された浸漬液の平均気泡径は50μm以下である請求項1または2に記載の手袋の製造方法。
【請求項4】
前記起泡された浸漬液の粘度は400mPa・s以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の手袋の製造方法。

【公開番号】特開2013−100630(P2013−100630A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142166(P2012−142166)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】