説明

手袋及びその製造方法

【課題】 起毛処理剤を用いて均一な起毛部を形成するとともに、撥水・撥油コート法によって起毛部を硬化させることなく表面にゴム又は樹脂をコーティングできる手袋及びその製造方法を提供せんとする。
【解決手段】 原手を構成する生地の手袋内側となる面をパイル状に編成し、当該内側面に、非シリコーン系の起毛処理剤を用いて起毛部を形成するとともに、反対側の原手表側の面の一部又は全体に、撥水・撥油コート法によりゴム又は樹脂皮膜を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の作業やスポーツ等に好適な手袋に関し、特に、冷凍庫や寒冷地における作業や、自転車、バイクの乗車の際に用いるのに適した手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の手袋として、従来より防水性及び防寒性を備えた様々な手袋が提供されており、例えば、防水性を有する外手袋と、防寒性及び断熱性を有する内手袋とを組み合わせた二重の手袋がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このような二重の手袋は製造が煩雑となり、コスト低減に限界があるといった問題がある。
【0003】
これに対し、一重の手袋で防水性と防寒性を備えさせ、製造上の簡素化、安価化を図ったものも提供されている。代表的なものとしては、原手を構成するメリヤス生地の片面(内面側)がパイル状に編まれ、そのパイル部に対して起毛処理が為されるとともに、原手表側にゴム又は樹脂を直接コーティングしてなるものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
この一重の手袋は、表側の皮膜層が主に防水作用を奏し、内側の起毛層が空気を多く含み、起毛された毛羽の温かい感触と同時に空気の断熱効果によって防寒作用を奏する。このような手袋では、表面をコーティングする際に、コーティング液が内側まで浸透せず、内側の起毛部の柔らかさを維持させることが重要である。
【0005】
一般に、原手の表面付近にのみゴム又は樹脂を付着させるコーティング手法としては、凝固剤法と撥水・撥油コート法が知られている。
凝固剤法は、原手を手型に被せ、そのまま凝固剤液に浸漬、引き上げて適当に乾燥させ、原手表面にプラスイオン層を形成させる。次に、マイナスイオンに電荷したゴム又は樹脂のコーティング液に浸漬した時、ゴム又は樹脂のコーティング液は原手の中まで浸透せず、原手の表面域で凝固して皮膜を形成させる。
【0006】
この凝固剤法は、凝固剤液として硝酸カルシウムをメタノールに溶かしたものが主に用いられるが、上述のように内側に毛羽状の起毛部を有する原手に用いた場合は、凝固剤液に浸漬して引き上げる際に起毛部がメタノール液を大量に吸い上げることから、環境に悪影響を及ぼし、作業環境も悪く、経済的にも無駄が多くなる。
また、そもそも凝固剤法は、原手の表面域でゴム又は樹脂のコーティング液が凝固して皮膜を形成するため、原手と皮膜との密着性が十分でなく、剥離し易く耐久性の点でも問題がある。
【0007】
他方の撥水・撥油コート法は、原手をあらかじめ撥水・撥油処理しておき、その原手を手型に被せ、ゴム又は樹脂のコーティング液を過剰な液圧がかからない方法で塗布・コーティングすることで、該コーティング液が内側に浸透することを防止しつつ表側に確実に付着させる方法である(例えば、特許文献3、4参照。)。
しかしながら、この撥水・撥油コート法を内側に起毛部を形成した上述の原手に適用する場合、コーティング液が十分に撥水又は撥油されずに内側まで浸透し、起毛部を硬化させてしまうといった問題があった。
【0008】
パイル部を起毛の容易なアクリルや羊毛で構成すれば、起毛処理剤を用いることなく起毛させることも可能であるが、均一に起毛させることは困難であるし、より硬い繊維でパイル部を構成した場合は、起毛処理剤の使用を避けることはできない。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−117803号公報
【特許文献2】特開平11−229213号公報
【特許文献3】特公昭54−40264号公報
【特許文献4】特公昭58−42281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、起毛処理剤を用いて均一な起毛部を形成するとともに、撥水・撥油コート法によって起毛部を硬化させることなく表面にゴム又は樹脂をコーティングできる手袋及びその製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前述の課題を解決するにあたり鋭意検討を進めた結果、起毛処理剤として使用されるシリコーン系のものが、その吸着力によって十分に洗浄除去されずに生地内に残存し、これがその後の撥水処理又は撥油処理における撥水・撥油剤の付着を阻害して上記浸透の問題を引き起こしていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、原手を構成する生地の手袋内側面をパイル状に編成し、該内側面を非シリコーン系の起毛処理剤を用いて起毛するとともに、手袋表側面に撥水・撥油コート法によりゴム又は樹脂を被覆してなることを特徴とする手袋を構成した。
【0013】
ここで、前記内側面を、ポリエステル長繊維によりパイル状に編成したものが好ましい。
【0014】
また、本発明は、原手を構成する生地の手袋内側となる片面をパイル状に編成し、該片面に、非シリコーン系の起毛処理剤を用いて起毛部を形成した後、原手における前記片面と反対側となる表側の面の一部又は全体に、撥水・撥油コート法により、ゴム又は樹脂皮膜を形成してなることを特徴とする手袋の製造方法をも提供する。
【0015】
ここで、前記片面に起毛部を形成した後、当該生地を縫製して原手を構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上にしてなる本願発明によれば、起毛処理剤として非シリコーン系の薬剤を用いたので、当該薬剤が生地内に吸着残存することなく十分に洗浄除去され、撥水・撥油剤の生地への付着を何ら阻害せず、コーティング液の浸透及びこれによる起毛部の硬化を防止し、起毛部が本来有する断熱機能や毛羽の温かい感触その他の機能を維持できる。
【0017】
また、原手を構成する生地の手袋内側となる面をポリエステル長繊維によりパイル状に編成したので、ポリエステル長繊維の起毛が形成され、このような手袋は、「フリース」素材の特徴として知られているように軽く、肌に優しく肌触り(風合い)も良く、作業中汗をかいても直ぐ乾くためいつまでもベトベトした不快感が残らず、脱着も容易となる。
【0018】
本発明によれば、内側面に起毛部を有する原手外側面に撥水・撥油コート法によりゴム又は樹脂を直接コーティングしてなる手袋が提供され、生地の内側片面をパイル状に編成して起毛しているので、全体として編成部分が実質的に薄くなり、直接コーティングして皮膜層を形成した後も屈曲性が良く柔軟である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明に係る手袋は、原手を構成する生地の手袋内側となる面をパイル状に編成し、当該内側面に、非シリコーン系の起毛処理剤を用いて起毛部を形成するとともに、反対側の原手表側の面の一部又は全体に、撥水・撥油コート法によりゴム又は樹脂皮膜を形成したものであり、起毛処理剤として非シリコーン系のものを用いたことにより、当該薬剤が生地内に残存することなく十分に洗浄除去され、撥水・撥油剤の付着を阻害せずコーティング液の浸透、起毛部の硬化を防止したものである。
【0021】
非シリコーン系の起毛処理剤としては、たとえば高分子ワックスや高級脂肪酸、特殊ワックス・弱カチオン、パラフィン乳化物・非イオン、特殊高分子・カチオン系柔軟剤、アルキルポリアミン・カチオン系柔軟剤などが好適に使用できる。
【0022】
生地は、前記内側面をポリエステル長繊維によりパイル状に編成したものが好ましく、具体的には、表側を、たとえば綿100%、32番手単糸の表糸でメリヤス編成するとともに、裏側(内側面)を、ウーリーポリエステル(長繊維)100%、100Dの裏糸をパイル状に編成したものが好ましい。表糸には撥水・撥油剤の付着性のよいものであれば、他に綿・ポリエステルの混紡糸やポリエステル100%のスパン糸などを用いても良い。また裏糸はポリエステル長繊維以外にポリエステルスパン糸を用いても良い。
【0023】
次に、本発明に係る手袋の製造手順について説明する。
【0024】
図1に示すように、まず、上記生地に対してシリコーン系以外の起毛処理剤を用いて起毛した後(S1)、起毛処理した生地を用いて、手袋内側に起毛部がくるように原手の縫製を行う(S2)。そして、この縫製原手に対して撥水・撥油処理を行った後(S3)、原手表側にコート樹脂又はゴムを塗布して皮膜層を形成する(S4)。
【0025】
より詳しくは、S1の起毛工程では、生地を、上述の非シリコーン系の起毛処理剤に充分に浸漬処理した後、脱水し、乾燥して生地の裏側に起毛処理機で起毛を施す。
【0026】
次に、S2では、起毛した原反を抜き型で手袋の形に抜取り、原手に縫製する。縫製の形態は特に限定されず、たとえば甲部側と掌側の2枚の生地を重ね合わせて縁部をミシン掛したものや、甲部側と掌側を一枚の生地で構成し、親指覆い生地を掌部側の生地に別途付け縫いするものであってもよい。
【0027】
次に、S3の撥水・撥油処理は、縫製原手に対して精練剤を用いて、精練油抜き・不純物の除去とともに起毛処理剤を除去した後、撥水・撥油剤中に浸漬して取り出し、脱水・乾燥することにより撥水層又は撥油層を形成する。この精錬剤を用いた処理により、上記起毛工程で用いた非シリコーン系の起毛処理剤が生地内に吸着残存することなくほぼ確実に除去されるのである。
撥水・撥油剤は、コーティング処理で用いるコーティング液の種類に応じて適宜選択でき、水性、油性ともにフッ素系のものを用いることが好ましい。
【0028】
そして、S4のコーティング処理では、撥水・撥油処理を施した原手を手型に被せ、原手表側に、コーティング液として例えば水性の合成ゴムであるNBR配合物を過剰な圧力が掛からない状態でコーティングし、過剰分の滴下を行った後に乾燥・熱処理することにより、NBRの皮膜層を形成する。
【0029】
また、上記皮膜層の上に、さらに別途皮膜層を形成してもよく、例えばNBRの層の上に強度を持たせる為、浸漬法により第2のコーティング液として同じNBR配合物を再度コーティングし、乾燥・熱処理することにより第2層を形成することが好ましい。また、その上に更に、手首部より指先側の領域に滑り止め層を付着させるべく、滑り止め粒子を含んだ第3のコーティング液を浸漬法によりコーティングして乾燥・熱処理することにより第3層を形成することもできる。
【0030】
油性のコーティング液をコートする場合も同様であり、撥水・撥油層を形成した原手に、例えば、第1のコーティング液として下記表1の塩化ビニール樹脂ペーストを、過剰な圧力が掛からない状態でコーティングし、過剰分の滴下を行った後に加熱処理を行い、前記塩化ビニール樹脂の皮膜層(第1層)を形成する。
【0031】
【表1】

【0032】
更に、手首部より指先側の領域に滑り止め層を付着させる為、たとえば下記表2の滑り止め粒子を含んだ第2のコーティング液を浸漬法によりコーティングして加熱処理することにより第2層を形成する。
【0033】
【表2】

【0034】
コーティング液は何ら限定されず、従来から用いられている樹脂又はゴムのコーティング液を広く使用することができる。
また、本例の手順では、原手に縫製した後に撥水・撥油処理を行っているが、原手に縫製する前に撥水・撥油処理を行ってもよい。
【実施例】
【0035】
次に、起毛処理剤の違いによる浸透性及び硬さの考察を行った比較試験について説明する。
【0036】
実施例1〜6、比較例1、2は、表側を綿100%、32番手単糸の表糸を用いて編成するとともに裏側(起毛部)をウーリーポリエステル100%、100Dの裏糸を用いてパイル状に編成した生地を用いて、それぞれ下記表3に示す起毛処理剤(それぞれ5.0%o.w.f、浴比15)に上記生地を充分に浸漬処理した後、脱水し、90℃で3分間乾燥し、起毛処理を施した。
【0037】
【表3】

【0038】
次に、起毛した原反から抜き型を使用して手袋の形に抜取り(裁断し)、原手に縫製した。そして、各縫製原手に、精練剤(松本油脂製薬(株)製「SSK−15A、浴比15、2g/L)を使用し、90℃前後の熱水で15分間精練油抜きを行い、不純物とともに起毛処理剤を除去した。これを濯いだ後に脱水し、撥水・発油剤(明成化学工業製「AG−730」1.5%o.w.f、浴比13)中で攪拌等により当該薬剤を付着させ、これを取り出して脱水した後、約110℃・20分間タンブラー乾燥機にて乾燥させ、撥水層を形成した。
【0039】
撥水層を形成した原手を手型に被せ、NBRラテックスの熱架橋性配合物(NBRラテックス;日本ゼオン製「Lx−550」、架橋剤;硫黄、ZnO、架橋促進剤;「ノクセラーBZ」(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、顔料等)を、過剰な圧力が掛からない状態でコーティングし、過剰分の滴下を行った後に乾燥・熱処理を行い前記NBRの皮膜層(第1層)を形成した。
【0040】
さらに強度を持たせる為、浸漬法により第2のコーティング液として同じくNBRラテックスの熱架橋性配合物をコーティングし、乾燥・熱処理することにより第2層を形成し、さらにその上に、手首部より指先側の領域に滑り止め層を付着させる為、滑り止め粒子を含んだ第3のコーティング液(上記NBRラテックス100部にNBRの加硫粒子を50部添加した配合物)を浸漬法によりコーティングして乾燥・熱処理することにより第3層を形成した。
【0041】
以上のように作成した実施例1〜6、比較例1、2について、手袋内側の起毛部へのコーティング液の浸透性を、◎ …全く浸透は見られない、○ …殆ど浸透は見られない、△ …含浸気味、× …浸透が見られる、××…全体的に浸透している、の五段階で評価した結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示すように、非シリコーン系の起毛処理剤を用いた実施例1〜6では、浸透が全く見られないか、殆ど見られなかった。
一方、シリコーン系の起毛処理剤を用いた比較例1、2では、いずれも全体的に浸透が見られた。
【0044】
同じく実施例1〜6、比較例1、2について、起毛部の硬さを、◎ …柔らかい、○ …含浸しているが柔らかい、△ …少し硬め、× …屈伸は出来るが硬い、××…屈伸出来ないほど硬い、の五段階で評価した結果を下記表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示すように、コーティング液の浸透が全く或いは殆ど見られなかった実施例1〜6では、起毛部が柔らかさを維持しているのに対し、コーティング液が浸透した比較例1、2では、起毛部が屈伸出来ないほど硬くなってしまうことが分かる。
【0047】
以上の評価試験は、コーティング液としてNBRラテックスの熱架橋性配合物を用いた実施例、比較例についてのものであるが、コーティング液として表1、表2に示す塩化ビニール樹脂ペーストを塗布した例についても、起毛処理剤の違いにより、浸透性及び硬さについて同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る製造手順を示すフロー図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原手を構成する生地の手袋内側面をパイル状に編成し、該内側面を非シリコーン系の起毛処理剤を用いて起毛するとともに、手袋表側面に撥水・撥油コート法によりゴム又は樹脂を被覆してなることを特徴とする手袋。
【請求項2】
前記内側面を、ポリエステル長繊維によりパイル状に編成してなる請求項1記載の手袋。
【請求項3】
原手を構成する生地の手袋内側となる片面をパイル状に編成し、
該片面に、非シリコーン系の起毛処理剤を用いて起毛部を形成した後、
原手における前記片面と反対側となる表側の面の一部又は全体に、撥水・撥油コート法により、ゴム又は樹脂皮膜を形成してなることを特徴とする手袋の製造方法。
【請求項4】
前記片面に起毛部を形成した後、当該生地を縫製して原手を構成してなる請求項3記載の手袋の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−328576(P2006−328576A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151744(P2005−151744)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】