説明

手袋

【課題】気泡を含んだ熱可塑性樹脂で被覆して、滑り止め効果、皮膜強度、耐摩耗性とも高い手袋を作成する。
【解決手段】繊維製手袋基材上に熱可塑性樹脂からなる発泡層を熱プレスにより凹凸状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリップ性が要求される分野で使用される手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業用手袋として、綿等の天然繊維やアクリル、ポリエステル等の化学繊維のメリヤス手袋素材を、合成ゴム、天然ゴム、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂で被覆したものは広く使用されている。その中に、空気含有量が約10〜65%の多孔質フォーム層を設けることですべり止めしたものがある(たとえば特許文献1)。手袋素材上に発泡ラテックスをスキージで塗布し熱加硫してゴム引きすることや、手袋素材との間に液体不透過性コーティングを施すことも提案されている(たとえば特許文献2)。
【特許文献1】特開昭63−243310公報
【特許文献2】特開2002−201515公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂に気泡を含有させると、滑り止め効果は向上するものの、皮膜強度や耐摩耗性が低下するという問題がある。
本発明は上記問題を解決するもので、気泡を含んだ熱可塑性樹脂で被覆して、滑り止め効果、皮膜強度、耐摩耗性とも高い手袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の手袋は、繊維製手袋基材上に熱可塑性樹脂からなる発泡層が熱プレスにより凹凸状に形成された構造としたものである。
また、手袋基材と発泡層との間に熱可塑性樹脂からなる液体不透過性の被覆層が設けられた構造としたものである。
【0005】
本発明に使用される繊維製手袋基材は、綿、羊毛、ポリエステル、ナイロン、アラミド、強化ポリエチレン等の天然繊維または化学繊維を材料とした、縫製、編み、不織布製の手袋である。
【0006】
また本発明に使用される熱可塑性樹脂は、天然ゴム、イソプレン、クロロプレン、アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、ブチルゴム、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴムなどのゴム類や、塩化ビニル、酢酸ビニルの単独重合体、あるいは共重合体、あるいは10重量%以下のカルボキシル変性基等をもつ共重合体など、さらにはこれらをブレンドしたものである。
【0007】
ゴム類には、周知の架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、増粘剤等を添加するとともに、起泡剤、整泡剤を添加する。起泡剤としては、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、オレイン酸カリ、ひまし油カリ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダなどを利用できる。整泡剤としては、ステアリン酸アンモニウム、ペプチド、アルキルジプロピオン酸ソーダ等を利用できる。ここでアルキルは、ラウリル、オクチル、ステアリルを意味する。
【0008】
ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルの単独重合体あるいは共重合体には、周知の可塑剤、安定剤、増粘剤等を添加するとともに、トルエンスルホニルヒドラジド、PP’オキシビス(ベンゾスルホニルヒドラジド)、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等の化学発泡剤や、マイクロカプセルと呼ばれている低沸点炭化水素を内包した熱膨張性粒子、シリコーン系の整泡剤を添加する。さらにアクリル、ウレタン、天然ゴム粉、EVA粉、PVC、NBR等の粒子を添加してもよい。化学発泡剤やマイクロカプセル、各種粒子はゴム類にも添加してもよい。
【0009】
本発明において熱プレスとは、発泡した熱可塑性樹脂をわずかに熱セットして半架橋、ゲル化させた状態で、金属製あるいは合成樹脂製の型を利用して表面側からプレス圧:1〜100kgf/cm、熱:60〜300℃程度をかけることを意味する。繊維製手袋基材を手型に被せて少なくとも掌側を樹脂発泡層で被覆し、その樹脂発泡層の所望箇所を熱プレスすることになる。発泡層の熱固化時に表面を軽く押さえることにより、物理的な凹凸をつけて、滑り止め効果を発揮する気泡跡を表面に残しながら、気泡の潰れおよび熱融着を生起して、被膜強度、耐摩耗強度を高めることができる。プレス箇所に形成される凹部の気泡含有量がその周囲の非プレス箇所に形成される凸部の気泡含有量の10%〜90%となるように圧縮させる。耐摩耗強度の観点からは厚みが50%程度になるようにプレスするのが好ましい。
【0010】
凹凸板を型に用いてプレスして表面に凹凸模様を施してもよいし、樹脂発泡層の一部のみ、たとえば手袋の指先に相当する部分のみを平板でプレスしても構わない。凹凸板を用いる場合には、その凸部によって発泡層の表面を軽く押さえて気泡の潰れおよび熱融着を生起できる一方で、凹部によって発泡層の表面を更に軽く押さえて、好ましくは全く押さえずに、気泡跡を表面に多く残すことができる。凹凸板の掘り込みの程度によって発泡層の表面の凸凹を調整できる。熱融着の状態はマイクロスコープによって確認できる。
【0011】
熱可塑性樹脂からなる液体不透過性の被覆層を設ける場合は、熱可塑性樹脂を攪拌脱泡して用いる。発泡層の形成に先立って、手型に被せた繊維製手袋基材を脱泡した熱可塑性樹脂で浸漬法あるいは塗布法にて被覆し、乾燥あるいは熱固化させておく。なお本発明において液体不透過性とは、EUROPEAN STANDARD EN374 の Water leak testで水が浸透しないものをいう。
【0012】
気泡含有量は、コンパウンドの状態で発泡機や家庭用ミキサーで攪拌することによって1%〜300%まで任意に調整できる。気泡含有量は比重で測定することができ、成形後もほぼ同じ気泡含有率となる。化学発泡剤のみを利用するよりは機械的にも発泡させる方が、気泡数が多くなり、発泡層の表面に気泡跡の開口がより多く形成されるし、熱プレス時に気泡の潰れや互いの融着が起こりやすい。手袋表面に気泡跡の開口が多いと、対象物との間に介在する水や油を吸収排除することができ、より滑り止め効果に優れる。なお気泡含有量1%〜300%では、平均径10μm〜400μmの気泡を1cmあたり10個〜130個、内面及び表面に含んでいる。気泡径10μm未満は機械発泡では非常に作り難く、400μmを越えると耐磨耗性が不十分になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の手袋は、表面の発泡層を熱プレスにより凹凸状に形成したことにより、発泡層の持つ滑り止め効果を損なうことなく、被膜強度、耐摩耗強度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を具体的な実施例を挙げて説明する。しかしながら以下の実施例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
以下に示す配合1の熱可塑性樹脂のコンパウンドを家庭用自動ハンドミキサーで攪拌して発泡させて、気泡含有量100%に調整した。気泡含有量は比重測定にて確認した。
【0015】
ナイロン製編み原手を浸漬用手型に被せ、硝酸カルシウム凝固液に浸漬してから、発泡したコンパウンドに掌側のみ浸漬し、75℃、10分間の熱セットの後に離型した。表面の発泡層は厚み0.4mmとし、気泡含有量が発泡コンパウンドと同等であることを確認した。
【0016】
発泡層を有した2枚の手袋をそれぞれ平型に被せ、一方は平板で、もう一方は2mm×3mm長方形かつ深度0.5mmの凹部を10個/cmの密度で形成した凹凸板で、掌部上から1kgf/cmでプレスし、その状態で120℃、20分間の熱セットを行って、発泡層の表面を凹凸状に加工した。
【0017】
【表1】

(実施例2)
以下に示す配合2のコンパウンドを用いて実施例1と同様にして手袋を作成した。
【0018】
【表2】

(実施例3)
以下に示す配合3のコンパウンドを用いて実施例1と同様にして手袋を作成した。
【0019】
ただし、綿製編み原手を手型に被せ、発泡したコンパウンドを浸漬し、190℃、5分間の熱セットの後に離型し、平型に被せて、プレスしながら190℃、5分間の熱セットを行った。
【0020】
【表3】

(比較例1)
発泡層に対する熱プレスを行わないこと以外は実施例1と同様にして手袋を作成した。
(比較例2)
発泡層に対する熱プレスを行わないこと以外は実施例2と同様にして手袋を作成した。
(比較例3)
発泡層に対する熱プレスを行わないこと以外は実施例2と同様にして手袋を作成した。
(評価)
実施例1〜3、比較例1〜3の手袋について、以下の物性試験を行い評価した。評価結果を第1表に示す。なお手袋表面の熱可塑性樹脂(発泡層)の熱プレス前の厚み0.4mmは、上記した熱プレス条件で厚み0.16mm、気泡含有量40%に圧縮されることを、別途に平板で大きい面積をプレスすることによって確認した。
【0021】
耐摩耗性
手袋の掌部から試験片を切り取り、EUROPEAN STANDARD EN388のAbrasion resistance試験に準じて研磨し、原手が見えるまでの回数が多いほど耐摩耗性が強いと評価した。研磨剤の種類による影響はない。
【0022】
グリップ性(滑り止め効果)
手袋を装着して、一定量の切削油(ミヤガワ246)を塗った金属棒を実際に握ることにより、滑り止め効果を調べた。次の4段階で評価した:◎全く滑らない、○滑らない、△わずかに滑る、×滑る。
【0023】
【表4】

実施例1、実施例2、実施例3は、気泡を含んだ熱可塑性樹脂を平板あるいは凹凸板で熱プレスした手袋である。第1表から明らかなように、これらの手袋は対応する比較例1、比較例2、比較例3の手袋に比べて耐摩耗性が約2〜4倍にも向上しており、滑り止め効果も充分に兼ね備えている。
(実施例4)
配合1の熱可塑性樹脂のコンパウンドを用いて、原手と発泡層との間に熱可塑性樹脂からなる液体不透過性の被覆層を設けた手袋を次のようにして作成した。
【0024】
配合1のコンパウンドを実施例1と同様にして気泡含有量100%に調整した。別途に配合1のコンパウンドを約25℃〜30℃の液温に調整し、100rpm以下で12時間攪拌して脱泡した。
【0025】
ナイロン製編み原手を浸漬用手型に被せ、硝酸カルシウム凝固液に浸漬してから、脱泡したコンパウンドに浸漬し、75℃、10分間の乾燥を行い、次いで発泡したコンパウンドに浸漬し、75℃、10分間の熱セットを行って、原手の表面に液体不透過性の被覆層と発泡層とを積層し、その後に離型した。発泡層の表面を実施例1と同様に熱プレスして凹凸状に加工した。
【0026】
この手袋の樹脂被膜について、EUROPEAN STANDARD EN374 の Water leak testに準じて試験し、水が浸透しないことを確認した。
(実施例5)
配合2の熱可塑性樹脂のコンパウンドを用いて、原手と発泡層との間に熱可塑性樹脂からなる液体不透過性の被覆層を設けた手袋を実施例4と同様にして作成した。
【0027】
この手袋の樹脂被膜について、EUROPEAN STANDARD EN374 の Water leak testに準じて試験し、水が浸透しないことを確認した。
(実施例6)
配合3の熱可塑性樹脂のコンパウンドを用いて、原手と発泡層との間に熱可塑性樹脂からなる液体不透過性の被覆層を設けた手袋を実施例4と同様にして作成した。
【0028】
ただし、綿製編み原手を用い、手型に被せた状態で、配合3のコンパウンドをヘンシルミキサーで約10分間真空攪拌脱泡したものを塗布し、190℃、5分間の熱セットを行って、原手の表面に液体不透過性の被覆層を形成した。
【0029】
この手袋の樹脂被膜について、EUROPEAN STANDARD EN374 の Water leak testに準じて試験して、水が浸透しないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の手袋は、滑り止め効果、耐摩耗性とも高いので、作業用手袋として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製手袋基材上に熱可塑性樹脂からなる発泡層が熱プレスにより凹凸状に形成された手袋。
【請求項2】
手袋基材と発泡層との間に熱可塑性樹脂からなる液体不透過性の被覆層が設けられた請求項1記載の手袋。
【請求項3】
発泡層のプレス箇所は非プレス箇所に比べて気泡含有量が10〜90容量%低減されている請求項1または請求項2のいずれかに記載の手袋。

【公開番号】特開2006−169676(P2006−169676A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365175(P2004−365175)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(591161900)ショーワ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】