説明

打刻装置、カセット部材及び打刻パターンの形成方法

【課題】被打刻物の破損を防止しつつ、被打刻物の表面に刻印されるドット径の大きさの制御が容易に行える打刻装置、カセット部材及び打刻パターンの形成方法を提供する。
【解決手段】打刻ピン33を用いて被打刻物100を打刻する打刻ヘッド30を有し、打刻ヘッド30により順次打刻した複数の打刻部によって打刻パターンを形成する打刻装置である。打刻装置には、フィルムテープ41を収容する収容部42と、フィルムテープ41を張力が付与された状態で連続的に送給させる送給機構43と、を有するカセット部材40が着脱自在に取り付けられている。打刻ピン33の先端部と被打刻物100との間にて、張力が付与されながら送給させるフィルムテープ41を介して被打刻物100の表面を打刻するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打刻装置、カセット部材及び打刻パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の管理やトレーサビリィティの向上を実現するため、工業製品などの被打刻物の表面を打刻ヘッドに配設された複数の打刻ピンを用いて直接打刻する打刻装置が注目されている(例えば、特許文献1を参照)。この打刻装置では、円錐形状かつ鋭利に加工された打刻ピンの先端部を被打刻物に押し当てて複数のドットを刻印(形成)することで、例えば、QRコード(登録商標)やデータマトリックスなどに代表される二次元コードや、各種の文字を被打刻物の表面に直接描画又は刻印している。
【0003】
図5に示すように、この種の打刻装置において、打刻ピン33は、打刻ヘッド130内の所定位置に下端が接触した復帰ばね(コイルばね)113により上方(+Z方向)に付勢されると共に、打刻ピン33は、その+Z側端部が打刻ピン駆動レバー114に当接し、上方への移動が規制されている。打刻ピン駆動レバー114の下面には可動ヨーク116が固定されており、電磁ソレノイド143に電圧を印加してヨークケース117を励磁することで、可動ヨーク116がヨークケース117に引きつけられる。そして可動ヨーク116が打刻ヘッド130内のヨークケース117の引きつけ面117bに設けられた、SUSや樹脂等からなる度当たり部117aに当接することで、下方への移動が規制される。可動ヨーク116がヨークケース117に引きつけられるのに伴い、打刻ピン駆動レバー114はヨークケース117と打刻ピン駆動レバー114との当接部を支点として−Z方向に揺動する。これにより、打刻ピン駆動レバー114が打刻ピン33を押圧し、打刻ピン33は下方(−Z方向)へと移動する。なお、打刻ピン駆動レバー114は電磁ソレノイド143に電圧が印加されていない状態では、打刻ヘッド130内の上方位置に配設された規制部119に当接することで、+Z方向の移動が規制されている。
【0004】
このようにして打刻ピン33が下方に移動した結果、打刻ピン33の−Z側端部(先端部)が被打刻物100に当接し、被打刻物100の表面にドットが刻印される。さらに、電磁ソレノイド143に印加する電圧を変化させ、打刻ピン駆動レバー114を介して、打刻ピン33による被打刻物100への押圧力を変化させることにより、多様な材質からなる被打刻物100の表面に刻印される打刻部としてのドットの直径(以下、「ドット径」という。)の大きさが均一になるように制御することができる。
【0005】
電磁ソレノイド143に印加する電圧を大きくする程、可動ヨーク116がヨークケース117に引きつけられる力が大きくなるとともに、打刻ピン33への押圧力が大きくなる。一方、電磁ソレノイド143に印加する電圧を小さくする程、可動ヨーク116がヨークケース117に引きつけられる力が小さくなるとともに、打刻ピン33への押圧力は小さくなる。
【0006】
打刻ピン駆動レバー114が打刻ピン33を押圧する力が大きくなる程、打刻ピン33が被打刻物100に更に大きな力で当接する。打刻ピン33の先端部は鋭利に加工されているので、打刻ピン33が被打刻物に当接すると、その先端部は打刻ピン33が押圧される力に応じた深さで被打刻物100に食い込む。具体的には、打刻ピン駆動レバー114が打刻ピン33を押圧する力が大きい程、打刻ピン33の先端部が被打刻物100に食い込む量は大きくなる。このようにして、被打刻物100の表面にドットが形成される。
【0007】
打刻ピン33の先端部は円錐形状とされているので、被打刻物100に食い込む深さに応じてドットの直径が変化する。すなわち打刻ピン33の先端部が被打刻物100に深く食い込むに従いドットの直径が大きくなる。
【0008】
このような打刻装置において、被打刻物100として金属などの硬質なものを対象としている場合は、打刻ピン駆動レバー114が打刻ピン33に付与する押圧力は、そのような対象物に十分刻印が可能な範囲に設定されている。このような打刻装置で、被打刻物100が樹脂などの軟質なものや厚さの薄いものであると、打刻ピン駆動レバー114が打刻ピン33に付与する押圧力が過大となり、打刻ピン33が被打刻物33を貫通するなどして被打刻物100が破損することがある。
【0009】
そこで、そのような柔軟な被打刻物100などにドットを刻印する場合では、打刻ピン駆動レバー114が打刻ピン33に付与する押圧力を柔軟な被打刻物100が破損しない範囲内で調整する必要性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平08−276607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
打刻ピン駆動レバー114による打刻ピン33への押圧力を、被打刻物100が破損しない程度に調整する場合には、ヨークケース117の励磁時の印加電圧を小さく設定すればよい。このように印加電圧を小さくすると可動ヨーク116がヨークケース117に引きつけられる力が弱くなるとともに、打刻ピン33への押圧力が小さくなる。ところが、ヨークケース117の励磁時の印加電圧を小さくし、ある電圧範囲を下回ると、打刻ピン33が正常に動作しなくなる場合がある。この理由を以下に説明する。
【0012】
この打刻ヘッド130のように、ヨークケース117を励磁することで、可動ヨーク116をヨークケース117に引きつける場合には、例えば可動ヨーク116の−Z側端面116aとヨークケース117の引きつけ面117bとの間隔La(mm)が、組み立て誤差や各部品の加工誤差等により異なる場合には、可動ヨーク116を引きつけるために印加する電圧が異なる。即ち、間隔Laが狭い場合では印加電圧を小さくし、広い場合では、印加電圧を大きくする必要がある。また、打刻ピン33とヨークケース117との摺動面における摺動抵抗も穴径やピン径などの部品精度等により打刻ヘッド130毎に異なる。
【0013】
このため打刻ピン33を動作させる際には、摺動抵抗等に抗して可動ヨーク116を引きつけるために十分な電圧を印加しなければならない。このときの電圧値を打刻ピン33の最低動作電圧とすると、打刻ピン駆動レバー114による打刻ピン33への押圧力を制御する場合には、最低動作電圧以上の範囲において電圧を制御することになる。この場合の印加電圧の範囲を、以下、「大きな電圧の範囲」とよぶ。
【0014】
一方、ヨークケース117を励磁する際に、最低動作電圧に満たない電圧を印加して、可動ヨーク116を引きつける力を弱くしてしまうと、可動ヨーク116が動作しない場合があったり、動作しても、押圧力が打刻ヘッド130毎に異なるなど、動作が不安定となる場合がある。
【0015】
このように、電磁ソレノイド143に印加する電圧を変化させることにより、打刻ピン33への押圧力(打刻ピン駆動レバー114によって打刻ピン33に付与される押圧力)を調整する場合では、打刻ピン駆動レバー114により打刻ピン33を介して小さな押圧力で被打刻物100にドットを刻印しようとすると、ドットの刻印動作が不安定となり(ドット径の大きさの制御が困難となり)、打刻品質の悪化、例えば、二次元コードでは読み取り精度の低下を招いたり、打刻ヘッド33を動作させることができなくなる場合がある。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、被打刻物の破損を防止しつつ、ドットの刻印動作の制御が容易に行える打刻装置、カセット部材、及び、打刻パターンの形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る打刻装置は、
打刻ピンを用いて被打刻物を打刻する打刻ヘッドを有し、前記打刻ヘッドにより前記被打刻物の表面に順次打刻した複数の打刻部が打刻パターンを形成する打刻装置であって、
帯状物を収容する収容部と、前記帯状物を張力が付与された状態で連続的に送給させる送給機構と、を備え、
前記打刻ヘッドは、前記打刻ピンが、張力を付与されながら送給される前記帯状物を介して前記被打刻物を打刻するように構成した、
ことを特徴とする。
【0018】
前記帯状物は、無端状に形成されるとともに、前記帯状物の途中の定位置には、マークが付されていることが好ましい。
【0019】
前記帯状物は、厚さが0.1(mm)〜0.3(mm)のポリエチレンテレフタレート製のフィルムテープから形成されていることが好ましい。
【0020】
前記収容部は、前記打刻装置に着脱自在に取り付けられるカセット部材に設けられていることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の観点に係るカセット部材は、
打刻ピンの先端部で被打刻物を打刻する打刻ヘッドを有し、前記打刻ヘッドにより前記被打刻物の表面に順次打刻した複数の打刻部が打刻パターンを形成する打刻装置に着脱自在に取り付けられるカセット部材であって、
帯状物を収容する収容部と、前記帯状物を張力が付与された状態で連続的に送給させる送給機構と、を有し、
前記打刻ピンの先端部と被打刻物との間にて、張力を付与されながら送給される前記帯状物を介して前記被打刻物の表面を打刻するように構成した、
ことを特徴とする。
【0022】
本発明の第3の観点に係る打刻パターンの形成方法は、
打刻ピンを用いて被打刻物の表面を順次打刻し、複数の打刻部によって打刻パターンを形成する方法であって、
前記打刻ピンの先端部と前記被打刻物との間に、帯状物を張力を付与しながら連続的に送給し、
前記打刻ピンによって、前記帯状物を介して前記被打刻物の表面を打刻する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被打刻物の破損を防止しつつ、被打刻物の表面に刻印されるドット径の大きさの制御が容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係る打刻装置(カセット部材を除く)を示す平面図であり、(b)は、打刻ヘッドにおいて、打刻ピンの先端部の状態を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るカセット部材及び打刻装置を示す正面図(図1(a)の+Y側から見た状態に相当する図)である。
【図3】(a)は、本発明の実施形態に係るカセット部材の一部破断図であり、(b)は、そのカセット部材の打刻装置への取り付け状態を示す側面図(図1(a)の−Z側から見た状態に相当する図)である。
【図4】(a)は、打刻ピンの先端部でフィルムを介して被打刻物を打刻している状態を示す拡大図であり、(b)は、送給されるフィルムテープの表面の状態を示す平面図である。
【図5】打刻ヘッドの構造及び動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る打刻装置を図面を参照して説明する。
【0026】
図1(a)に示す本実施形態に係る打刻装置20は、被打刻物(図1(a)では図示せず)の表面に複数のドットから構成される二次元コードや各種の文字などを形成するものである。
【0027】
図1(a)に示すように、打刻装置20では、先端(−Z側端部)が円錐形状かつ鋭利に加工された打刻ピン33を内蔵する打刻ヘッド30を、U字状のホルダ25によってX移動体24に取り付け、X移動体24をX軸方向及びY軸方向に移動させながら打刻ヘッド30の先端部30aから打刻ピン33を突出させ、被打刻物に複数のドットを刻印し、多様な打刻パターンを形成している。また、この打刻装置20では、背景技術で説明した打刻装置と同様に、打刻ヘッド30は図5に示すような構造を有しており、電磁ソレノイド143に印加する電圧を変化させることにより、打刻ピン33への押圧力、即ち、打刻ピン33の先端部による被打刻物の表面への衝撃力(インパクト力)が調整可能となっている。なお、印加電圧を一定にして、電流を印加する時間を制御することで衝撃力を調整するようにしてもよい。
【0028】
即ち、図1(a)において、X移動体24は、X軸方向に延びるXガイド51A,51Bによって、Y軸方向に移動する断面U字状のY移動体23に取り付けられ、Y移動体23に対してX軸方向に移動可能に支持されている。ここで、Y移動体23は、Y軸方向に延びるYガイド52A,52Bによって、断面L字状のベース部材21に取り付けられ、ベース部材21に対してY軸方向に移動可能に支持されている。
【0029】
そしてこの状態で、X移動体24は、送りネジ60XがXモータ50Xによって回転することで、X軸方向に移動し、送りネジ60YがYモータ50Yによって回転することで、Y移動体23とともにY軸方向に移動する。
【0030】
また、この打刻ヘッド30には、図1(b)に示すように、9本の打刻ピン33が配設されており、各打刻ピン33の先端部は、打刻ヘッド30の先端部30aにおいて、Y軸方向に一直線状に整列している。そして、打刻ヘッド30のX軸及びY軸の少なくとも一方に沿う移動に伴い、打刻ピン33のいずれか1本のみ又は同時に複数本が打刻ヘッド30の先端部30aから突出することによって、被打刻物100の表面にドットを順次刻印し、多様な打刻パターンからなる二次元コードや、各種の文字を形成している。なお、各打刻ピン33の先端部は、円錐形状に形成されている。ここで、被打刻物100としては、厚さが薄い、プラチック製の板状体を使用している。なお、打刻ピン33は上述のように一直線上に整列しているもののみならず、千鳥状、円状あるいは楕円状に整列しているものであってもよい。
【0031】
図2に示すように、本実施形態の打刻装置20は、フィルムテープ41を収容するカセット部材40を具備している。
【0032】
打刻装置20は、打刻ピン33の先端部と被打刻物100との間にて、張力を付与されながら連続的に送給されるフィルムテープ41を介して被打刻物100の表面を打刻するように構成したことを特徴としている。
【0033】
図3(a)に示すように、カセット部材40は、プラスチック製の本体40aを備えており、本体40aは、フィルムテープ41(帯状物)を収容する略直方体状の空間である収容部42と、フィルムテープ41を、打刻装置20に配設された図示しない駆動機構の駆動力によって、張力が付与された状態で連続的に送給させる送給機構43と、を備えている。
【0034】
また、図3(b)に示すように、このカセット部材40は、打刻装置20のY移動体23の+Y側の端面に図示しないスナップフィット機構によって着脱自在に取り付けられる。
【0035】
送給機構43は、カセット部材40の収容部42内に配置され、図示しない駆動モータからギア機構を介して駆動回転力を伝達されて回転する駆動ローラ44、及び、駆動ローラ44に従動する従動ローラ45から構成される。
【0036】
本体40aのX方向の両端部には、−Z方向(下方)に向けて突出する第1突出部46及び第2突出部47が突出形成されている。第1突出部46及び第2突出部47の内部には、それぞれ細長い空洞46b及び空洞47bが形成されている。第1突出部46及び第2突出部47の下端部には、各空洞46b,47bと連通する開口46c,47cが形成されている。また、第1突出部46及び第2突出部46の内部の空洞46b,47bは、開口46c,47cの反対側で、それぞれ収容部42と連通している。
【0037】
フィルムテープ41は、ポリエチレンテレフタレート(PET;PolyEthylene Terephthalate)やナイロン(商標)などのプラスチック材料を用い、厚さが0.1(mm)〜0.3(mm)の厚さの均一なテープ状に形成されている。フィルムテープ41は、厚さが0.1(mm)未満であると、強度が不足して打刻ピン33の先端部の衝撃により、破れが発生する場合があり、0.3(mm)を超えると、強度が過大となって打刻ピン33による被打刻物100の表面におけるドットの形成が妨げられる場合がある。
【0038】
図3(a)に示すように、フィルムテープ41は、無端状(エンドレス)に形成され、カセット部材40の収容部42内につづら折り状態で収容されている。詳しくは、フィルムテープ41は、第1突出部46及び第2突出部47の空洞46b,47b及び開口46c,47cを通過するようにカセット部材40の収容部42内に収容されている。このようにフィルムテープ41をつづら折り状態とすることで、巻回状態とした場合と比較して、フィルムテープ41の全長を長くすることができるとともに、カセット部材40の使用時間(耐用時間)を長くすることが可能となる。
【0039】
フィルムテープ41は、その途中部位が駆動ローラ44と従動ローラ45によって挟み込まれている。そして、フィルムテープ41は、駆動ローラ44の(左方向の)回転に伴って、従動ローラ45が(右方向へ)回転することで、X軸に沿って、+X側から−X側に向けて送給(搬送)される。詳しくは、カセット部材40の収容部42の+X側の領域につづら折り状態で収容されたフィルムテープ41は、駆動ローラ44の回転に伴って+X側から−X側に向けて送給され、カセット部材40の収容部42の−X側の領域に同じくつづら折り状態で収容されるようになる。
【0040】
フィルムテープ41は、駆動ローラ44の回転に伴って、収容部42の+X側の領域から徐々に搬出され、第1突出部46の空洞46b及び開口46cを通過し、第2突出部47に向けて搬送される。ここで、フィルムテープ41は、第1突出部46において開口46cの内側に形成された角部46aに当接した状態となる。そして、フィルムテープ41は、打刻ピン33の先端部(打刻ヘッド30の先端部30a)と被打刻物100との間を通過した後、第2突出部47の空洞47b及び開口47cを通過し、収容部42の−X側の領域に収容される。ここで、フィルムテープ41は、第2突出部47において開口47cの内側に形成された角部47aに当接した状態となる。
【0041】
フィルムテープ41は、このような経路を通過して搬送されるので、第1突出部46の角部46aと、第2突出部47の角部47aによって張力が付与された状態となる。
【0042】
なお、図2に示すように、カセット部材40の本体40aは、打刻装置20のY移動体23の−Y側端面に図示しないスナップフィット機構によって取り付けられる。この場合には、フィルムテープ41を打刻ヘッド30の先端部30a(打刻ヘッド30の先端部30a)と、被打刻物100との間に介在させる。ここで、フィルムテープ41の長手方向は、9本の打刻ピン33の整列方向(直線方向)と直交した状態となる(図1、図3(a)及び図3(b)参照)。
【0043】
また、図3(a)及び図3(b)に示すように、フィルムテープ41の途中の定位置には、テープを用いてマーク41mが付されている。これにより、使用開始のときにそのマーク41mが打刻ヘッド30の近傍に位置するように配置しておき、使用に伴ってフィルムテープ41が循環し、マーク41mが再度出現したときに、カセット部材40を交換することで、既に打痕41b(図4(b)参照)が形成されている領域が再度使用されることが回避されるようになっている。なお、マーク41mがカセット内部を循環する際には折り曲げられた状態となることがあるが、マーク41mを構成するテープは、薄く柔軟な樹脂材料などから形成されているので、フィルムテープ41の循環時に障害となることはない。
【0044】
本実施形態の打刻装置20は、以上のように構成されており、以下その使用方法について図2、図4(a)及び図4(b)を参照しながら説明する。
【0045】
まず、図2に示すように、カセット部材40を、フィルムテープ41が打刻ヘッド30の先端部30a(打刻ヘッド30の先端部30a)と、被打刻物100との間に介在するように、打刻装置20のY移動体23の−Y側端面に図示しないスナップフィット機構によって取り付ける。
【0046】
その状態で、打刻装置20の電源をオンとし、カセット部材40の送給機構43によって、フィルムテープ41を一定した送給速度Vf(mm/sec)で送給させながら、打刻ヘッド30内の電磁ソレノイド143(図5参照)に電圧を印加する。すると、打刻ピン33の先端部は、図4(a)に破線で示す退避状態から、図4(a)に実線で示すように、打刻ヘッド30の先端部30aから突出し、送給速度Vf(mm/sec)で搬送されるフィルムテープ41を介して、被打刻物100の表面にドット41aが形成される。
【0047】
ここでは、図4(b)に示すように、打刻ヘッド30のX軸に沿う移動に伴い、9本の打刻ピン33のいずれか1本のみ又は同時に複数本が打刻ヘッド30の先端部30aから突出するので、図4(b)に示すように、フィルムテープ41の表面には、その送給速度Vf(mm/sec)×打刻ピン33の打刻周期(sec)で示される間隔L(mm)を隔てた複数の線上に、複数の打痕41bが残存するようになる。
【0048】
そして、フィルムテープ41をカセット部材40の本体40aで循環させながら打痕41bを形成させ、マーク41m(図3(a)及び図3(b)参照)が再度出現したときに、カセット部材40を新しいものに交換する。これによって、既に打痕41bが形成されている領域(使用済みの領域)が再度使用されることが回避できる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の打刻装置20によれば、打刻ピン33の先端部と被打刻物100との間に、フィルムテープ41を張力を付与しながら連続的に送給することで、打刻ピン33がフィルムテープ41を介して被打刻物100の表面を打刻するようにしたので、打刻ピン33による被打刻物100の表面への打刻の衝撃が緩和されるようになる。
【0050】
この結果、本実施形態の打刻装置20によれば、被打刻物100がプラスチックなどの柔軟なものや厚みの薄いものであっても、その破損を防止しつつ、打刻ピン33で被打刻物100を強く打刻することが可能となる。このため、電磁ソレノイド143に印加する電圧を、大きな電圧の範囲で変化させることができるようになる。これにより、打刻ピン33への押圧力を微妙に調整することが可能となり、被打刻物100に刻印されるドット径の大きさの制御が容易に行えるようになる。また、フィルムテープ41は、張力が付与されながら連続的に送給され、しかも厚さが均一であるので、フィルムテープ41に打痕41bが形成された位置を打刻ピン33が再度打刻することがなく、打刻ピン33による、フィルムテープ41を介した被打刻物100の表面への衝撃力が常に一定したものとなる。
【0051】
また、本実施形態の打刻装置20によれば、フィルムテープ41の材質や厚さを適宜変更することによって、電磁ソレノイド143に印加する電圧を変化させることなく(打刻ヘッド30の駆動条件が一定のままで)、打刻ピン33への押圧力を調整することが可能となり、被打刻物100の種類に応じた最適な打刻が可能となる。なお、フィルムテープ41の材質や厚さの変更は、現在のカセット部材40を、それとは異なる材質や厚さのフィルムテープ41を収容したカセット部材40に交換することによって容易に行える。
【0052】
また、本実施形態の打刻装置20によれば、フィルムテープ41に付されたマーク41m(図3参照)が再度出現したときに、カセット部材40を新しいものに交換するように促されている。このため、フィルムテープ41の打痕41bが形成されている領域を再度使用し、フィルムテープ41の定位置を繰り返し打刻してフィルムテープ41を損傷させることが防止できる。
【0053】
なお、本実施形態では、フィルムテープ41を、無端状に形成するとともに、カセット部材40の収容部42内につづら折り状態で収容したが、これに限られず、フィルムテープ41は、カセット部材40の収容部42内に巻回状態で収容することも可能である。
【0054】
また、本実施形態では、マーク41mをフィルムテープ41に付したテープから構成したが、これに限られず、マーク41mは、フィルムテープ41に目立つように描画したマーキング線であってもよい。
【0055】
なお、本実施形態では、フィルムテープ41は連続的に送給されていたが、被打刻物100によってはフィルムテープ41を停止した状態で繰り返し打刻しても被打刻物100が損傷しない場合も考えられる。そのような場合には、被打刻物100が損傷しない範囲でフィルムテープ41を停止させた状態で打刻を行ってもよい。即ち、このような場合では、フィルムテープ41は間欠的に送給されるものであってもよい。
【0056】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0057】
20 打刻装置
30 打刻ヘッド
33 打刻ピン
40 カセット部材
41 フィルムテープ(帯状物)
43 送給機構
100 被打刻物
113 復帰ばね(コイルばね)
114 打刻ピン駆動レバー
143 電磁ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打刻ピンを用いて被打刻物を打刻する打刻ヘッドを有し、前記打刻ヘッドにより前記被打刻物の表面に順次打刻した複数の打刻部が打刻パターンを形成する打刻装置であって、
帯状物を収容する収容部と、前記帯状物を張力が付与された状態で連続的に送給させる送給機構と、を備え、
前記打刻ヘッドは、前記打刻ピンが、張力を付与されながら送給される前記帯状物を介して前記被打刻物を打刻するように構成したことを特徴とする打刻装置。
【請求項2】
前記帯状物は、無端状に形成されるとともに、前記帯状物の途中の定位置には、マークが付されていることを特徴とする請求項1に記載の打刻装置。
【請求項3】
前記帯状物は、厚さが0.1(mm)〜0.3(mm)のポリエチレンテレフタレート製のフィルムテープから形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の打刻装置。
【請求項4】
前記収容部は、前記打刻装置に着脱自在に取り付けられるカセット部材に設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の打刻装置。
【請求項5】
打刻ピンの先端部で被打刻物を打刻する打刻ヘッドを有し、前記打刻ヘッドにより前記被打刻物の表面に順次打刻した複数の打刻部が打刻パターンを形成する打刻装置に着脱自在に取り付けられるカセット部材であって、
帯状物を収容する収容部と、前記帯状物を張力が付与された状態で連続的に送給させる送給機構と、を有し、
前記打刻ピンの先端部と被打刻物との間にて、張力を付与されながら送給される前記帯状物を介して前記被打刻物の表面を打刻するように構成したことを特徴とするカセット部材。
【請求項6】
打刻ピンを用いて被打刻物の表面を順次打刻し、複数の打刻部によって打刻パターンを形成する方法であって、
前記打刻ピンの先端部と前記被打刻物との間に、帯状物を張力を付与しながら連続的に送給し、
前記打刻ピンによって、前記帯状物を介して前記被打刻物の表面を打刻することを特徴とする打刻パターンの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−126245(P2011−126245A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289326(P2009−289326)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】