説明

打楽器および鍵盤式打楽器

【課題】組み立てやメンテナンスに対する作業性が良く、且つ、発音体の振動を持続させて良い音質の音を出すことができる打楽器を提供する。
【解決手段】発音体30を音高順に並べ、発音体30に設けられている貫通穴に支持紐44を通す。支持紐44は、極細の繊維が絡合した不織布を表面に備えている。発音体30に通された支持紐44において発音体30の貫通穴の外部にある部分は、共鳴箱50の下面において間隔をあけて設けられた複数の留め具40で支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発音体を打撃することにより発音する打楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の鍵、各鍵に対応するハンマアクション、および各ハンマアクションにより打撃される音板(発音体)を備えた鍵盤式音板打楽器が知られている(例えば、特許文献1参照)。この鍵盤式音板打楽器においては、演奏者が鍵を押鍵するとハンマアクションが動作して音板を打撃し、音板が振動して音板固有の音高の楽音が発生する。
【0003】
【特許文献1】実開平05−081895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された鍵盤式音板打楽器においては、各鍵に対応して長さや幅の異なる短冊状の音板が、振動可能となるようにピンで支持されて水平に並べられている。このように音板をピンで支持する構成は古くからあり、音板の振動を持続させて良い音質の音を出すことができる。しかしながら、音板をピンで支持する構成では音板を支持するために音板毎にピンを用意する必要があるため部品数が多くなり、組み立てやメンテナンスの観点からすると作業性が良くない。そこで、組み立てやメンテナンスに対する作業性が良く、且つ、音板の振動を持続させて良い音質の音を出すことができる構成が求められていた。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、その目的は、組み立てやメンテナンスに対する作業性が良く、且つ、発音体の振動を持続させて良い音質の音を出すことができる打楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、互いに向かい合う側面を有する柱体形状であって、一方の側面から該側面に対向するもう一方の側面に貫通する貫通穴を有し、打撃により固有の音高の音を発する複数の発音体と、前記複数の発音体の各貫通穴に通された紐であって、内部に芯糸を有し、繊維が絡合した不織布を表面に有する支持紐と、前記支持紐において前記発音体の貫通穴の外部にある部分を支持する複数の留め具とを有する打楽器を提供する。
【0007】
好ましい態様において、前記支持紐は、繊維が絡合した紐状の不織布が前記芯糸に螺旋状に巻きつけられていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記支持紐は、繊維が絡合した複数の紐状の不織布が前記芯糸を覆って編まれていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記支持紐の長手方向に直行する方向の断面形状が略円形であってもよい。
また、別の好ましい態様において、前記支持紐の直径と、前記貫通穴の内径との比が所定の比であってもよい。
【0008】
また、本発明は、互いに向かい合う側面を有する柱体形状であって、一方の側面から該側面に対向するもう一方の側面に貫通する貫通穴を有し、打撃により固有の音高の音を発する複数の発音体と、前記複数の発音体の各貫通穴に通された紐であって、内部に芯糸を有し、繊維が絡合した不織布を表面に有する支持紐と、前記支持紐において前記発音体の貫通穴の外部にある部分を支持する複数の留め具と、前記複数の発音体毎に発音体に対応して配置された鍵と、複数の前記鍵毎に鍵に対応して配置され、対応する鍵の動きに応じて該鍵に対応する前記発音体を打撃するアクション機構と、前記発音体から生じた音を共鳴させる共鳴箱とを有する鍵盤式打楽器を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、打楽器は、組み立てやメンテナンスに対する作業性が良く、且つ、発音体の振動を持続させて良い音質の音を出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施形態]
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る鍵盤式打楽器について説明する。図1(a)は本発明の実施形態に係る鍵盤式打楽器10の左側面図、図1(b)は鍵盤式打楽器10の正面図、図1(c)は鍵盤式打楽器10の右側面図である。以下の説明においては、鍵盤式打楽器10の演奏者側を前方と称し、演奏者から鍵盤式打楽器10を見て右側を右方向、演奏者から見て左側を左方向と称する。
【0011】
(鍵盤式打楽器10の概要)
まず、この鍵盤式打楽器10の概要について説明する。この鍵盤式打楽器10は金属製の発音体を打撃して発音体を振動させることにより音を発生する楽器であり、図1(b)に示したように、複数の白鍵及び黒鍵を有する鍵盤KBと、演奏者の足で操作されるダンパペダル12とを備えている。演奏者により鍵盤KBの鍵が下方に押されると、各鍵に対応して内部に配置されている発音体が打撃されて音が発生する。また、ダンパペダル12は発音体の振動を制御するためのペダルである。演奏者がダンパペダル12を踏むと、演奏者が鍵から指を離しても発音体の振動が抑えられることがない。このため、ダンパペダルが踏まれると、ダンパペダル12が踏まれていない状態と比較して、発音体が打撃されたときの音の発音時間が長くなる。
【0012】
(鍵盤式打楽器10の内部構成)
次に、鍵盤式打楽器10の内部構成について説明する。図2は鍵盤式打楽器10の上部の概略図、図3は鍵盤式打楽器10の上部の内部を前方から見た図、図4は鍵盤式打楽器10の内部の平面図である。図に示したように、鍵盤式打楽器10内の上部には、鍵盤KBの各鍵に対応して設けられて音を発生する発音体30と、発音体30で発生した音を共鳴させる共鳴箱50とを有する音源ユニットUNTが配置されている。また、鍵盤式打楽器10の内部においては、発音体30を打撃するアクション機構20と、発音体30の振動を制御するダンパ機構Dが音源ユニットUNTより下方に配置されている。
【0013】
(音源ユニットUNTの下方の構成)
まず、音源ユニットUNTの下方にある各部について説明する。図に示したように、鍵盤式打楽器10の両側面を形成する右側板18Rと左側板18Lとの間には、共鳴箱50から下方に出た音が通過する放音用穴14aを有する棚板14が水平に配置されている。棚板14の上には筬15が配置されており、筬15の前方には筬前16が設けられ、筬前16の前部を口棒部17が覆っている。筬15においては、鍵盤KBが有する複数の白鍵27及び黒鍵28の各々に対応して支持部材19が配置されている。支持部材19は白鍵27及び黒鍵28を支持するための部材であり、バランスピン62,63を備えている。鍵盤KBの各鍵は支持部材19により支持され、各鍵の長手方向端部はバランスピン62,63を支点として上下する。
【0014】
また、筬15においては、アクション機構20を支持するアクションブラケット22が、複数の鍵の各々に対応して配置されている。アクション機構20は、グランドピアノにおいて弦を打弦するアクション機構と同様の構成であり、鍵盤KBの鍵の動きに対応して支点P1を中心に時計方向または反時計方向に回動するハンマシャンク23と、ハンマシャンク23の先端に設けられ発音体30を打撃するハンマフェルト24を有している。
【0015】
鍵盤式打楽器10の後方側においては、鍵盤KBの各鍵に対応して棚板14の上方に回動部材64が配置されている。回動部材64には、ダンパフェルト26を備えたダンパワイヤ25が取り付けられており、鍵の動きに対応して図2中の支点P2を中心に時計方向または反時計方向に回動する。
【0016】
また、鍵盤式打楽器10の後方側においては、回動部材64の下方に突き上げ部材65が配置されている。突き上げ部材65はダンパペダル12に連結されているペダル連結棒13に接しており、ペダル連結棒13の上下動に伴って上下する。突き上げ部材65は、各鍵に対応して設けられている回動部材64の全てに接しているため、ペダル連結棒13の上下動に伴って全ての回動部材64を回動させる。
【0017】
この構成の下、鍵盤KBの鍵が演奏者により下方に押されると、鍵の後方側端部が上に移動し、回動部材64が図2においては時計回りに回動する。ダンパペダル12が踏まれておらず鍵盤KBの鍵が押されていない状態においては、ダンパフェルト26は図2に示したように発音体30に接触しているが、回動部材64が時計回りに回動すると回動に伴ってダンパワイヤ25が上方向へ移動してダンパフェルト26が発音体30から離れる。また、鍵が下方に押されると、アクション機構20が動作してハンマシャンク23が反時計回りに回動し、ハンマフェルト24が発音体30を打撃する。ハンマフェルト24が発音体30を打撃する時点では、ダンパフェルト26が発音体30から離れているので発音体30は振動する。
【0018】
次に、演奏者が鍵から指を離すと、鍵の後方側端部が下に移動し、アクション機構20が動作してハンマシャンク23が時計回りに回動してハンマフェルト24が発音体30から離れる方向に移動する。そして、鍵の後方側端部の移動に伴って回動部材64が反時計回りに回動する。回動部材64が反時計回りに回動すると、回動部材64の回動に伴ってダンパワイヤ25が下方向へ移動し、ダンパフェルト26が発音体30に接触して発音体30の振動が抑えられる。
【0019】
なお、ダンパペダル12が踏まれるとペダル連結棒13が上方向に移動し、突き上げ部材65が全ての回動部材64を時計方向に回動させる。回動部材64が支点P2を中心にして時計方向に回動すると、回動に伴ってダンパワイヤ25が移動し、全てのダンパフェルト26が発音体30から離れる。ダンパペダル12が踏まれて回動部材64が時計回りに回動すると、鍵の後方側端部が回動部材64に接触しなくなるため、演奏者が鍵から指を離しても発音体30の振動がダンパフェルト26により抑えられることがない。
【0020】
(音源ユニットUNTの構成)
次に、音源ユニットUNTの構成について説明する。図5は音源ユニットUNTの正面図、図6は図5のA−A線断面図、図7は音源ユニットU1の底面図である。図に示したように、音源ユニットUNTは、鍵盤KBの各鍵に対応して設けられている複数の発音体30と、発音体30を打撃することにより生じた音を共鳴させる共鳴箱50を有している。そして、音源ユニットUNTにおいては、共鳴箱50の両端部の下面が、右側板18Rから鍵盤式打楽器10の内部へ突出した支持部29Rと左側板18Lから鍵盤式打楽器10の内部へ突出した支持部29Lにより支持されている。本実施形態においては、鍵盤KBの鍵が並ぶ方向に沿って音高順に発音体30が共鳴箱50の下方に配置されており、演奏者から見て左端にある発音体30の発する音が一番音高が低く、右端にある発音体30の発する音が一番音高が高くなるように発音体30が配置されている。なお、本実施形態においては、発音体30は上下二段ではなく一段に配置されており、各発音体30を打撃するアクション機構20も鍵盤KBの鍵が並ぶ方向に沿って一段に並べられている。
【0021】
(発音体30の構成)
発音体30は、アルミニウムで形成されている。なお、発音体30の材質は、アルミニウムに限定されるものではなく、例えば、アルミニウム合金、または鋼など他の金属で形成されていてもよい。各鍵に対応して設けられている複数の発音体30は、その長さ、幅および形状が各々異なっており、ハンマフェルト24によって打撃されて振動すると、その振動の態様が各々異なり、各発音体固有の音高の音が生じる。
【0022】
具体的には、複数の発音体30は、図7に示したように高音域に属する発音体群30A、中音域に属する発音体群30B、低音域に属する発音体群30Cに大別される。発音体群30Aに属する発音体30は長手方向(前後方向)の長さが短く、発音体群30B、発音体群30Aとなるにつれて発音体30の長手方向長さが長くなっている。また、発音体群30Cに属する発音体は幅が広く、発音体群30Aに属する発音体30は発音体群30Cに属する発音体と比較してその幅が狭くなっている。なお、同じ音域部に属する発音体はどの発音体30も幅は同じとなっている。
【0023】
図8(a)は発音体群30Cに属する発音体30(低音域に属する発音体)の平面図、図8(b)は図8(a)に示した発音体30の右側面図である。発音体30の下面(ハンマフェルト24により打撃される面)は平坦であり、発音体30の前端部32および後端部33は腹部31(長手方向中央部であって振動の際に腹に相当する部分)より厚くなっている。また、腹部31と前端部32との間は腹部31よりも薄い第1肉薄部34となっており、腹部31と後端部33との間は腹部31よりも薄い第2肉薄部35となっている。発音体30においては、腹部31の中央が振動時の腹の中心に相当する位置(以下、「腹中心31P」と称する)となる。
【0024】
なお、図9(c)は発音体群30Aに属する発音体30、図9(d)は発音体群30Bに属する発音体30、図9(e)は発音体群30Cに属する発音体30の側面図であるが、図に示したように発音体群30Aおよび発音体群30Bに属する発音体30は、前端部32と後端部33に相当する部分の厚さが、発音体群30Cに属する発音体30と比較して薄くなっている。また、発音体群30Aに属する発音体30には、第1肉薄部34と第2肉薄部35に相当する部分が設けられていない。
【0025】
また、図に示したように発音体30においては、長手方向中央部よりも端部よりであって、振動における節となる位置に発音体30を貫通する支持穴36,37が形成されている。なお、本実施形態においては、支持穴36,37の直径は4mmとなっている。発音体30は、支持穴36,37を支持して振動させたときに効率よく発音する。なお、図に示したように支持穴36,37はいずれも発音体30の幅方向に平行ではなく、幅方向に対して斜めに貫通している。
【0026】
(共鳴箱50の構成)
次に共鳴箱50の構成について説明する。共鳴箱50は下面が開口した箱であり、前面となる前側共通壁51、後面となる後側共通壁52、左側面となる側壁59A、右側面となる側壁59B、上面を塞ぐ蓋部材56、蓋部材57、蓋部材58を有し、図5に示したように、低音域部50A、中音域部50B、高音域部50Cに大別される。低音域部50Aは、低音域部50Aの下方に配置される発音体30に対応して発音体30と同数のヘルムホルツ型の共鳴室RM1を有している。また、中音域部50Bは、中音域部50Bの下方に配置される発音体30に対応して発音体30と同数の閉管型の共鳴室RM2を有している。高音域部50Cは一括式共鳴箱となっており、高音域部50Cの下方に配置される複数の発音体30に共通となる一つの共鳴室RM3を有している。
【0027】
前側共通壁51と後側共通壁52は、板状の部材であり、図5に示したように、低音域部50Aに対応する部分と、高音域部50Cに対応する部分は矩形、中音域部50Bに対応する部分は台形形状となっている。そして、各共通壁の低音域部50Aの上下方向の高さは高音域部50Cの高さより高くなっており、また、中音域部50Bに対応する部分においては、低音域部50A側の上下方向の高さが高音域部50C側の高さより高くなっている。また、向かい合わされて配置されている前側共通壁51と後側共通壁52との間隔は、図6に示したように右側(高音域の発音体30が配置される側)が狭く、左側(低音域の発音体30が配置される側)にいくにつれて間隔が広くなっている。
【0028】
また、前側共通壁51と後側共通壁52との間は、低音域部50Aと中音域部50Bにおいては、図6に示したように複数の仕切板53で仕切られている。仕切板53は平板であり、仕切板53同士は前後方向で平行となるように、前側共通壁51と後側共通壁52との間に垂直に固着されている。なお、隣接する仕切板53同士の間隔は、下方に配置される発音体30の2つ分の幅よりやや広くなっている。低音域部50Aにおいては、発音体30の幅が中音域部50Bの下方にある発音体30とは異なることに起因して、仕切板53同士の間隔が中音域部50Bより広くなっている。
【0029】
高音域部50Cにおいては、中音域部50Bと高音域部50Cとを仕切る仕切板53、前側共通壁51、後側共通壁52、高音域部50Cの上部を塞ぐ蓋部材58により、共鳴室RM3が形成されている。蓋部材58は、図4に示したように台形形状の板状の部材である。蓋部材58は、図5に示したように、中音域部50B側から右下方向へ傾斜して前側共通壁51、後側共通壁52、および側壁59Bに固着されている。
【0030】
中音域部50Bにおいては、隣接する仕切板53同士の間の空間が斜め板55によって仕切られている。斜め板55は平板であり、上方から見たときに仕切板53に対しては斜めになるように、仕切板53の前後方向中央部に垂直に固着され、仕切板53同士の間の空間に2つの共鳴室RM2を形成している。そして、中音域部50Bにおいては、仕切板53同士の間の空間毎に、各空間の上部を塞ぐ蓋部材57が、仕切板53の上部、前側共通壁51、後側共通壁52に固着されて空間上部を塞いでいる。
【0031】
図10は、図6に示した中音域部50Bの部分拡大図である。図10においては、仕切板53の間に形成されている2つの共鳴室RM2を区別するために、一方の共鳴室RM2に(1)という符号を付し、もう一方の共鳴室RM2に(2)という符号を付している。共鳴室RM2(1)と共鳴室RM2(2)のうち、前方側が共鳴室RM2(1)、後方側が共鳴室RM2(2)である。また、発音体30においても、共鳴室RM2(1)の下方にある発音体30に(1)、共鳴室RM2(2)の下方にある発音体30に(2)という符号を付している。また、仕切板53においては、共鳴室RM2を形成する2つの仕切板53を区別するために、共鳴室RM2を形成する一方の仕切板53に(1)、共鳴室RM2を形成するもう一方の仕切板53に(2)という符号を付している。
【0032】
図10においては、発音体30を打撃したときのハンマフェルト24の位置が点線で示されている。ハンマフェルト24が発音体30を打撃したとき、ハンマフェルト24の当接面における前後及び左右方向の中心位置は、対応する発音体30の腹中心31Pの位置と一致する。また、全ての発音体30の腹中心31Pは、全ての共鳴室RM1〜RM3の領域を通る仮想の直線L1上に位置し、全ての発音体30の腹中心31Pは前後方向の位置が同じとなっている。そして、発音体30(1)の腹中心31Pは、共鳴室RM2(1)の下方に位置し、発音体30(2)の腹中心31Pは、共鳴室RM2(2)の下方に位置する。このように、一の発音体30の腹中心31Pは、対応する一の共鳴室の開口部の下方に位置するため、ハンマフェルト24で打撃された発音体30(1)の音は、対応する共鳴室RM2(1)で共鳴し、発音体30(2)の音は、対応する共鳴室RM2(2)で共鳴する。
【0033】
本実施形態においては、一つの発音体30に対応する共鳴室の幅は、ほぼ発音体30の2つ分の幅となっており、発音体30に対して広い幅が確保されているため良好な共鳴が実現される。また、このように、一つの発音体30に対しては広い幅を確保しているが、2つの共鳴室を確保するためには2つ分の発音体30の幅しか必要としていないため、共鳴箱50の左右方向の幅を抑えることができ、発音体30を一段に並べることができる。
【0034】
また、低音域部50Aにおいても、隣接する仕切板53同士の間の空間が斜め板54によって仕切られており、中音域部50Bと同様の構成となっている。斜め板54も平板であり、上方から見たときに仕切板53に対しては斜めになるように、仕切板53の前後方向中央部に垂直に固着され、仕切板53同士の間の空間に2つの共鳴室RM1を形成している。なお、低音域部50Aにおいては、仕切板53同士の間隔が中音域部50Bと異なることに起因して、仕切板53に対する斜め板54の角度が、仕切板53に対する斜め板55の角度と異なっている。また、低音域部50Aは、共鳴室RM1の下部において、前側共通壁51側と、後側共通壁52側とにポート形成部材60を有している。ポート形成部材60は平板であり、前側に配置されるポート形成部材60は、前側共通壁51と共鳴室RM1の両脇の仕切板53とに水平に固着され、また、後側に配置されるポート形成部材60は、後側共通壁52と共鳴室RM1の両脇の仕切板53とに水平に固着されている。
【0035】
各共鳴室RM1においては、両脇の仕切板53、斜め板54、およびポート形成部材60によって、開口部にポートが形成される。一般に、ヘルムホルツ型の共鳴箱においては、箱の容量だけでなく、ポートの長さ及び断面積が共鳴する音高に影響する。例えば、同じ容量の共鳴箱であっても、ポートの長さを長くするかあるいは断面積を狭くすると、共鳴する音高が低くなる。本実施形態においても、共鳴室RM1に対応する発音体30の音が良好に共鳴するように、ポート形成部材60の形状を調整して各共鳴室RM1のポートの長さ及び断面積を設定している。
【0036】
(発音体30の配置方法)
次に、発音体30を共鳴箱50の下方に配置する構成について説明する。
図11は支持紐44の外観図である。支持紐44は、芯糸44Aと、芯糸44Aの回りに巻き付けられている紐44Bで構成されている。芯糸44Aはナイロン製であり、糸状の部材である。紐44Bは、表面がスエード調で鹿革と同程度の柔らかさを有する人工皮革であり、極細の繊維が絡合した厚さ約2mmの不織布で構成されている。支持紐44の断面は、略円形であり、その直径は本実施形態においては3.5mmとなっている。紐44Bは芯糸44Aの回りに隙間無く巻き付けられて芯糸44Aを覆っている。
【0037】
複数の発音体30を共鳴箱50の下方に配置する際には、まず、複数の発音体30を支持紐44で一つにまとめる。具体的には、まず発音体30を左右方向に音高順に並べる。ここでは、左端に最も低い音を発する発音体30を並べ、右端に最も高い音を発する発音体30を並べる。
次に、左端に並べられた発音体30の左方から支持紐44を前側の支持穴36に通す。一つの発音体30の支持穴36を通し終えたら、右隣に並べられている発音体30の支持穴36に支持紐44を通す。このように、音高順に並べられた発音体30の各支持穴36に支持紐44を順次通していく。
並べられた発音体30の全ての支持穴36に支持紐44を通し終えたら、次に、右端に並べられた発音体30の右方から支持紐44を後側の支持穴37に通す。一つの発音体30の支持穴37を通し終えたら、左隣に並べられている発音体30の支持穴37に支持紐44を通、音高順に並べられた発音体30の各支持穴37に支持紐44を順次通していく。
並べられた発音体30の全ての支持穴36と支持穴37に支持紐44を通し終えたら、支持紐44の両端を結ぶ。支持紐44の両端を結ぶことにより、複数の発音体30は、音高順にまとめられる。
【0038】
(留め具40)
次に、共鳴箱50の下方で支持紐44を支え持つ複数の留め具40を共鳴箱50に装着する。図9(a)は留め具40の側面図であり、図9(b)は留め具40の部分拡大図である。留め具40は金属で形成されており、支持紐44を支え持つひも受け部43と、支持紐44をひも受け部43に挿入する際に支持紐44が通る溝42と、共鳴箱50に打ち込まれるピン部41を有している。ひも受け部43の形状は、支持紐44の直径とほぼ同じ内径を有する円形となっている。また溝42の幅は、支持紐44の直径よりやや小さくなっている。このため、ひも受け部43に通された支持紐44は、留め具40から容易に脱落することがない。
【0039】
留め具40のピン部41は、共鳴箱50の前側共通壁51および後側共通壁52に打ち込まれる。なお、各留め具40は、前側共通壁51においては、溝42の開口部が前方を向くように打ち込まれ、後側共通壁52においては、溝42の開口部が後方を向くように打ち込まれる。各ピン部41が打ち込まれる位置の間隔は発音体30の幅より広くなっており、例えば、共鳴箱50の中音域部50Bにおいては、図10に示したように、仕切板53の延長線上と、斜め板55と仮想の直線L1との交点において直線L1と前後方向に直角に交わる垂線の延長線上に打ち込まれる。また、共鳴箱50の低音域部50Aにおいても、ピン部41が打ち込まれる位置は中音域部50Bと同様の位置となっている。また、高音域部50Cにおいては、ピン部41は、発音体30の幅よりやや広い間隔を空けて各共通壁に打ち込まれる。
【0040】
複数の留め具40の打ち込みが終了すると、共鳴箱50の下面を上に向け、支持紐44で一つにまとめられた複数の発音体30を共鳴箱50の開口部上に載せる。そして、隣り合う発音体30の間を広げ、発音体30同士の間に見える支持紐44を、溝42に通してひも受け部43に掛ける。この際、隣り合う留め具40の間には一つの発音体30が位置するように支持紐44をひも受け部43に掛けていく。そして、支持紐44を留め具40に掛け終えた後、共鳴箱50の開口部を下方に向ける。
【0041】
図12は、図10のB−B線断面図である。共鳴箱50の開口部を下方に向けると、図12に示したように支持紐44がひも受け部43で共鳴箱50の下方に支持される。そして、支持紐44は各発音体30の支持穴36,37に通されているので、各発音体30は支持紐44により吊り下げられた状態で支持され、共鳴箱50の下方において、開口部に近接して振動可能な状態となる。
【0042】
そして、支持紐44で吊り下げられた発音体30は、ハンマフェルト24によって打撃されると振動する。支持紐44が例えば単一のナイロン糸である場合、発音体30を振動させると振動の減衰が早く、またノイズが発生して良好な音が得られない。
しかし、本実施形態においては、表面がスエード調の支持紐44で発音体30が支持されている。この支持紐44によれば、発音体30が振動したときにノイズが発生せず、また発音体30の振動が妨げられないため発音体30を打撃したときに良好な音を得ることができる。
【0043】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
【0044】
上述した実施形態においては、支持穴36,37の直径が4mmであり、支持紐44の直径が3.5mmとなっているが、各直径は、これらの数値に限定されるものではない。支持穴36,37の直径は4mm以外であってもよい。なお、支持穴36,37の直径を4mm以外とした場合、支持紐44の直径は、発音体30の振動を妨げない直径を実験で求めるようにしてもよい。
【0045】
上述した実施形態においては、支持紐44は、芯糸44Aの紐44が螺旋状に巻き付けられているが、支持紐44は、この構成に限定されるものではない。
例えば、図11(b)に示したように2本の紐44Bを芯糸44Aに螺旋状に隙間無く巻き付けるようにしてもよい。なお、螺旋状に巻き付ける場合、紐44Bの数は3本以上であってもよい。また、図11(c)に示したように複数の紐44Bを編んで芯糸44Aを隙間無く覆うようにしてもよい。
また、芯糸44は、繊維が絡合した不織布で構成された中空円筒状の紐44Bの中空部に芯糸44Aを有する構成であってもよい。
【0046】
上述した実施形態においては芯糸44Aはナイロン製であるが、芯糸44Aの材質はナイロンに限定されるものではない。複数の発音体30を支持できる強度、繰り返しの振動に耐えられる強度を有する材質であれば、他の高分子化合物や金属、天然素材であってもよい。また、芯糸44Aは、1本ではなく2本以上であってもよい。
【0047】
上述した実施形態においては、支持紐44の断面形状は角を有しない形状であれば、円形外の他の形状であってもよい。
【0048】
上述した実施形態においては、2本の支持紐44を用意し、1本の紐を支持穴36に通し、もう1本の支持紐44を支持穴37に通すようにしてもよい。そして、左端にある支持紐44の端部同士を結ぶとともに、右端にある支持紐44の端部同士を結んで複数の発音体30をひとまとめにするようにしてもよい。
【0049】
例えば、グロッケンシュピール、鉄琴、木琴など、打撃により固有の音高の音を発音する発音体を備えた体鳴楽器においても、上述した支持紐44で発音体30を支持する構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る鍵盤式打楽器の左側面図、正面図、右側面図である。
【図2】同鍵盤式打楽器10の内部の上部の概略図である。
【図3】同鍵盤式打楽器10の内部の上部を前方から見た図である。
【図4】同鍵盤式打楽器10の内部の平面図である。
【図5】音源ユニットUNTの正面図である。
【図6】図5のA−A線断面図である。
【図7】音源ユニットUNTの底面図である。
【図8】発音体30の正面図および側面図である。
【図9】留め具40の側面図および部分拡大図、高音域部に属する発音体30の側面図、中音域部に属する発音体30の側面図、および低音域部に属する発音体30の側面図である。
【図10】図6に示した中音域部の部分拡大図である。
【図11】支持紐44の外観図である。
【図12】図10のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0051】
KB・・・鍵盤、UNT・・・音源ユニット、D・・・ダンパ機構、10・・・鍵盤式打楽器、12・・・ダンパペダル、14・・・棚板、14a・・・放音用穴、15・・・筬、16・・・筬前、20・・・アクション機構、23・・・ハンマシャンク、24・・・ハンマフェルト、27・・・白鍵、28・・・黒鍵、30・・・発音体、44・・・支持紐、44A・・・芯糸、44B・・・紐、50・・・共鳴箱、60・・・ポート形成部材、62,63・・・バランスピン、64・・・回動部材、65・・・突き上げ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合う側面を有する柱体形状であって、一方の側面から該側面に対向するもう一方の側面に貫通する貫通穴を有し、打撃により固有の音高の音を発する複数の発音体と、
前記複数の発音体の各貫通穴に通された紐であって、内部に芯糸を有し、繊維が絡合した不織布を表面に有する支持紐と、
前記支持紐において前記発音体の貫通穴の外部にある部分を支持する複数の留め具と
を有する打楽器。
【請求項2】
前記支持紐は、繊維が絡合した紐状の不織布が前記芯糸に螺旋状に巻きつけられていることを特徴とする請求項1に記載の打楽器。
【請求項3】
前記支持紐は、繊維が絡合した複数の紐状の不織布が前記芯糸を覆って編まれていることを特徴とする請求項1に記載の打楽器。
【請求項4】
前記支持紐の長手方向に直行する方向の断面形状が略円形であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の打楽器。
【請求項5】
前記支持紐の直径と、前記貫通穴の内径との比が所定の比であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の打楽器。
【請求項6】
互いに向かい合う側面を有する柱体形状であって、一方の側面から該側面に対向するもう一方の側面に貫通する貫通穴を有し、打撃により固有の音高の音を発する複数の発音体と、
前記複数の発音体の各貫通穴に通された紐であって、内部に芯糸を有し、繊維が絡合した不織布を表面に有する支持紐と、
前記支持紐において前記発音体の貫通穴の外部にある部分を支持する複数の留め具と、
前記複数の発音体毎に発音体に対応して配置された鍵と、
複数の前記鍵毎に鍵に対応して配置され、対応する鍵の動きに応じて該鍵に対応する前記発音体を打撃するアクション機構と、
前記発音体から生じた音を共鳴させる共鳴箱と
を有する鍵盤式打楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−170698(P2008−170698A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3503(P2007−3503)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)